説明

無段変速機

【課題】部品点数の低減とコンパクト化を実現可能な無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機は、車両に搭載される無段変速機であって、回転力が入力されるプライマリシャフト210と、プライマリシャフト210に取り付けられたプライマリプーリ230と、回転力を減速して出力可能なセカンダリシャフト220と、セカンダリシャフト220に取り付けられたセカンダリプーリ240と、プライマリプーリ220およびセカンダリプーリ240に巻き掛けられたベルト250と、セカンダリシャフト220から出力された回転力が伝達されるディファレンシャル機構700と、車両の後進時のみベルト250の内周側からベルト250と係合し、ベルト250に伝達される回転力の方向を反転させる噛合部材830とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、車両に搭載される無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式の無段変速機が従来から知られている。たとえば、特開平2−283958号公報(特許文献1)には、トルクコンバータとプライマリプーリとの間に設けられたプラネタリギヤによって前後進を切換える無段変速機が示されている。
【0003】
また、特開2007−327554号公報(特許文献2)には、前進時にはベルトによる伝動を行ない、後進時にはベルトを介さずに伝動を行なう無段変速機が記載されている。
【0004】
また、実開昭61−61360号公報(特許文献3)には、ベルトの内周側に歯車が設けられ、歯車がベルトの内側に係合することでベルトのスリップを抑えるようにしたベルト伝動装置が記載されている。
【0005】
また、実開平3−69738号公報(特許文献4)には、ベルトの内側にベアリングが設けられ、ベルトの内側に係合することで動力を遮断するようにしたベルト式変速システムが記載されている。
【特許文献1】特開平2−283958号公報
【特許文献2】特開2007−327554号公報
【特許文献3】実開昭61−61360号公報
【特許文献4】実開平3−69738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の無段変速機では、使用頻度の低い後進時にのみ使用するために、トルクコンバータとプライマリプーリとの間にプラネタリギヤおよび係合要素を設けており、スペース効率が悪いという問題がある。
【0007】
他方、特許文献2に記載の無段変速機では、トルクコンバータとプライマリプーリとの間のプラネタリギヤおよび係合要素を省略可能となるものの、後進時に可動シーブを大きく動かす必要があり、機構が複雑になる。
【0008】
また、特許文献3,4に記載の発明では、ベルトの内側に係合する部材を設けているものの、これらは後進時の回転力を伝達するものではない。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、部品点数の低減とコンパクト化を実現可能な無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る無段変速機は、車両に搭載される無段変速機であって、回転力が入力されるプライマリシャフトと、プライマリシャフトに取り付けられたプライマリプーリと、回転力を減速して出力可能なセカンダリシャフトと、セカンダリシャフトに取り付けられたセカンダリプーリと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられた巻掛部材と、セカンダリシャフトから出力された回転力が伝達されるディファレンシャル機構と、車両の後進時のみ巻掛部材の内周側から該巻掛部材と係合し、該巻掛部材に伝達される回転力の方向を反転させる噛合部材とを備える。
【0011】
上記構成によれば、車両の後進時のみ巻掛部材の内周側から該巻掛部材と係合し、該巻掛部材に伝達される回転力の方向を反転させる噛合部材を設けることにより、簡単な機構でトルクコンバータとプライマリプーリとの間のプラネタリギヤおよび係合要素を省略することができる。したがって、無段変速機の部品点数を低減するとともに、無段変速機をコンパクト化することができる。
【0012】
好ましくは、上記無段変速機において、プライマリプーリおよびセカンダリプーリは、車両の後進時において、車両の前進時における最減速比時の状態よりもさらに減速した状態を実現する。
【0013】
このようにすることで、プライマリプーリ上において巻掛部材を内周側にシフトさせ、プライマリプーリの内周上において巻掛部材と噛合部材とを係合させることができる。この結果、巻掛部材に伝達される回転力を反転させることができる。
【0014】
より具体的な一例として、上記無段変速機は、無段変速機の動力伝達経路において、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに対してディファレンシャル機構側に設けられるクラッチ機構をさらに備える。
【0015】
なお、本願明細書において、「車両の前進時」または「車両の後進時」とは、無段変速機が車両を前進可能または後進可能な状態に設定されていることを意味し、実際に車両が前進または後進していることを意味するものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無段変速機において、部品点数の低減とコンパクト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0018】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0019】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る無段変速機の構成を示す図である。図1を参照して、ベルト式の無段変速機は、車両に搭載される。無段変速機は、基本的な構成として、トルクコンバータ100と、変速機構部200と、クラッチ300と、ギヤ400,500と、デフピニオンギヤ600と、ディファレンシャル機構700と、プラネタリギヤ800とを含む。
【0020】
トルクコンバータ100は、内燃機関からの回転力を変速機構部200に伝達する。変速機構部200は、内燃機関から回転力が入力される駆動側のプライマリシャフト210と、回転力を出力する従動側のセカンダリシャフト220と、プライマリシャフト210に設けられたプライマリプーリ230と、セカンダリシャフト220に設けられたセカンダリプーリ240と、ベルト250とを含む。プライマリシャフト210とセカンダリシャフト220とは、互いに間隔を隔てて平行に配置されている。変速機構部200は、プライマリシャフト210の回転数とセカンダリシャフト220の回転数との比率、すなわち変速比を無段階に(連続的に)変化させる。
【0021】
ディファレンシャル機構700は、変速機構部200に対して相互に動力伝達可能に設けられている。変速機構部200からの動力伝達を受けたディファレンシャル機構700は、車両旋回時の左右車輪の回転速度を変えながら、両輪に均等な駆動力を伝達する。
【0022】
ディファレンシャル機構700は、デフピニオンギヤ600、ギヤ500,400およびクラッチ300を介してセカンダリシャフト220に連結されている。
【0023】
プラネタリギヤ800は、サンギヤ810と、ピニオンギヤ820と、噛合部材830とを含む。サンギヤ810は、プライマリシャフト210に取り付けられている。ピニオンギヤ820は、サンギヤ810と係合する。噛合部材830は、内周側にピニオンギヤ820と係合するリングギヤを有し、外周側にスプロケットを有する。噛合部材830の外周側に設けられたスプロケットは、車両の後進時にベルト250の内周面に設けられた凹凸(図示せず)と係合する。これにより、プライマリシャフト210の回転力が反転された状態でベルト250に伝達される。
【0024】
次に、図2,図3を用いて、変速機構部200による変速作用について説明する、図2は、無段変速機の最減速比時の状態を示し、図3は、無段変速機の最増速比時の状態を示す。図2および図3を参照して、プライマリプーリ230は、プライマリシャフト210とともに、仮想軸であるプライマリシャフト210の中心軸を中心に回転する。プライマリプーリ230は、固定シーブ231と、可動シーブ232と、可動シーブ232を固定シーブ231に対して進退可能に駆動する油圧アクチュエータ233とを含む。
【0025】
セカンダリプーリ240は、セカンダリシャフト220とともに、仮想軸であるセカンダリシャフト220の中心軸を中心に回転する。セカンダリプーリ240は、固定シーブ241と、可動シーブ242と、可動シーブ242を固定シーブ241に対して進退可能に駆動する油圧アクチュエータ243とを含む。
【0026】
固定シーブ231,241は、それぞれ、プライマリシャフト210およびセカンダリシャフト220に固定されており、プライマリシャフト210,220に対して周方向および軸方向に移動しないように固定されている。固定シーブ231,241と可動シーブ232,242との間には、V字状のプーリ溝234,244が形成されている。油圧アクチュエータ233,243は、可動シーブ232,242を固定シーブ231,241に対して近接させたり、離間させたりすることで、プーリ溝234,244の溝幅を変化させる。これにより、プライマリプーリ230およびセカンダリプーリ240に対するベルト250の巻き掛け半径(有効係り径)が大小に変化し、変速が実行される。
【0027】
図4は、比較例に係る無段変速機の構成を示す図である。図4を参照して、比較例に係る無段変速機は、基本的な構成として、トルクコンバータ100Aと、変速機構部200Aと、クラッチ300Aと、ギヤ400A,500Aと、デフピニオンギヤ600Aと、ディファレンシャル機構700Aとを含む点で、本実施の形態に係る無段変速機と共通している。また、本比較例に係る無段変速機は、変速機構部200Aの構成部品として、プライマリシャフト210A、セカンダリシャフト220A、プライマリプーリ230A、セカンダリプーリ240Aおよびベルト250Aを含み、変速機構部200Aが変速比を無段階に変化させる点でも、本実施の形態に係る無段変速機と共通している。
【0028】
図4に示す比較例では、上記以外の構成として、トルクコンバータ100Aとプライマリプーリ230Aとの間に、ブレーキ300Bおよびプラネタリギヤ300Cを設けている。車両の前進時には、クラッチ300Aを係合、ブレーキ300Bを開放とする。他方、車両の後進時には、クラッチ300Aを開放、ブレーキ300Bを係合とする。これにより、前進/後進の切換えを行なうことができる。
【0029】
しかしながら、図4のような無段変速機では、トルクコンバータ100Aとプライマリプーリ230Aとの間に、クラッチ300A、ブレーキ300Bおよびプラネタリギヤ300Cを設けることが必須であるため、この部分のスペースの利用が制約される。
【0030】
これに対し、本実施の形態に係る無段変速機では、図1に示すように、車両の後進時にのみベルト250の内周側からベルト250と係合するプラネタリギヤ800を設けている。すなわち、本実施の形態に係る無段変速機では、車両の後進時に、車両の前進時における最減速比時の状態(図2の状態)よりもさらに減速した状態とする。これにより、プライマリプーリ230上においてベルト250がさらに内周側にシフトし、ベルト250の内周面と噛合部材830とが係合する。これにより、プライマリシャフト210の回転力が反転された状態でベルト250に伝達される。ベルト250に伝達された回転力は、車両の前進時と同様に、セカンダリシャフト220、クラッチ300、ギヤ400,500およびデフピニオンギヤ600を介して、前進時とは逆向きの回転力として、ディファレンシャル機構700に伝達される。なお、本実施の形態に係る無段変速機において、クラッチ300は、停車時に前進/後進を切換えるために設けられたものである。
【0031】
上記のようにすることで、トルクコンバータ100とプライマリプーリ230との間に位置するブレーキ300B(図4参照)を省略するとともに、クラッチ300をセカンダリプーリ240よりもディファレンシャル機構700側に設けることができる。このように、本実施の形態に係る無段変速機によれば、車両の後進時にのみベルト250の内周側からベルト250と係合し、ベルト250に伝達される回転力を反転させるプラネタリギヤ800を設けることにより、図4の比較例においてトルクコンバータ100Aとプライマリプーリ230Aとの間に設けられるクラッチ300A、ブレーキ300Bおよびプラネタリギヤ300Cを省略または他の部分へ移動させることができる。したがって、無段変速機の部品点数を低減するとともに、無段変速機をコンパクト化することができる。
【0032】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る無段変速機は、車両に搭載される無段変速機であって、回転力が入力されるプライマリシャフト210と、プライマリシャフト210に取り付けられたプライマリプーリ230と、回転力を減速して出力可能なセカンダリシャフト220と、セカンダリシャフト220に取り付けられたセカンダリプーリ240と、プライマリプーリ220およびセカンダリプーリ240に巻き掛けられた「巻掛部材」としてのベルト250と、セカンダリシャフト220から出力された回転力が伝達されるディファレンシャル機構700と、車両の後進時のみベルト250の内周側からベルト250と係合し、ベルト250に伝達される回転力の方向を反転させる噛合部材830とを備える。
【0033】
より具体的には、プライマリプーリ230およびセカンダリプーリ240は、車両の後進時において、車両の前進時における最減速比時の状態よりもさらに減速した状態を実現する。そして、プライマリプーリ230上においてベルト250を内周側にシフトさせ、プライマリプーリ230の内周上においてベルト250と噛合部材830とを係合させることができる。この結果、ベルト250に伝達される回転力を反転させることができる。
【0034】
なお、無段変速機は、無段変速機の動力伝達経路において、プライマリプーリ230およびセカンダリプーリ240に対してディファレンシャル機構700側に設けられたクラッチ300をさらに備えている。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係る車両の無段変速機の構成を示す図である。
【図2】図1に示す無段変速機の最減速比時の状態を示す図である。
【図3】図1に示す無段変速機の最増速比時の状態を示す図である。
【図4】比較例に係る車両の無段変速機の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 無段変速機、100,100A トルクコンバータ、200,200A 変速機構部、210,210A プライマリシャフト、220,220A セカンダリシャフト、230,230A プライマリプーリ、231 固定シーブ、232 可動シーブ、233 油圧アクチュエータ、234 プーリ溝、240,240A セカンダリプーリ、241 固定シーブ、242 可動シーブ、243 油圧アクチュエータ、244 プーリ溝、250,250A ベルト、300,300A クラッチ、300B ブレーキ機構、300C プラネタリギヤ、400,400A,500,500A ギヤ、600,600A デフピニオンギヤ、700,700A ディファレンシャル機構、800 プラネタリギヤ、810 サンギヤ、820 ピニオンギヤ、830 噛合部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される無段変速機であって、
回転力が入力されるプライマリシャフトと、
前記プライマリシャフトに取り付けられたプライマリプーリと、
前記回転力を減速して出力可能なセカンダリシャフトと、
前記セカンダリシャフトに取り付けられたセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに巻き掛けられた巻掛部材と、
前記セカンダリシャフトから出力された回転力が伝達されるディファレンシャル機構と、
前記車両の後進時のみ前記巻掛部材の内周側から該巻掛部材と係合し、該巻掛部材に伝達される回転力の方向を反転させる噛合部材とを備えた、無段変速機。
【請求項2】
前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリは、前記車両の後進時において、前記車両の前進時における最減速比時の状態よりもさらに減速した状態を実現する、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記無段変速機の動力伝達経路において、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに対して前記ディファレンシャル機構側に設けられるクラッチ機構をさらに備えた、請求項1または請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記噛合部材は、前記プライマリプーリの内周上において前記巻掛部材と係合する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−1998(P2010−1998A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162018(P2008−162018)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】