説明

無水アルキルホスホン酸類を用いた、アルコール類から水の脱離によるアルケン類の製造方法

本発明は、a)一級アルコール類(RCHCH‐OH)またはb)二級アルコール類(RCHCHR‐OH)またはc)三級アルコール類(RCH‐CROH)と環状無水アルキルホスホン酸類との−100〜+120℃の範囲内の温度における反応による、式(II)のアルケン類の製造方法に関し、ここでRおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRはH、直鎖または分岐C‐C12アルキル基、C‐C10シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基またはヘテロアリール基を表わす。好ましくは、式(I)の2,4,6‐置換1,3,5,2,4,6‐トリオキサトリホスフィナン 2,4,6‐トリオキシドが環状無水ホスホン酸として用いられ、ここでR′は(互いに独立して)アリル、アリールまたは開鎖もしくは分岐C‐C12アルキル基を表わす。場合により反応は三級アミン塩基NRの存在下で行われる。
C=CR (II)


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アルケン類は有機合成において重要な極めて用途の広い中間体である。この化合物種は、多くの付加反応を行える、C,C二重結合の高反応性を示す。現代有機合成における意義は、これら化合物種の入手可能性の限界により制限されるのみである。アルケン類の標準製造方法は、対応官能基保有アルカン類の脱離である。ハロゲン化水素およびハロゲンの脱離、エステル、アンモニア、ホスホニウム、スルホニウムおよびイオウ化合物の熱分解、および水素の脱離のような多くの方法が用いられている。蒸気相または液相で脂肪族ヒドロキシル化合物を脱水させることも可能である。
【0002】
現代有機合成において、化学‐、位置‐および立体選択的試薬の意義は飛躍的に増している。例えば、多くの官能基を有する複雑な分子で特定のアルコール官能基をアルケンへ変換することが目的である場合、上記のうち多くの方法が選択性の理由から除外される。
【0003】
アルコール類をアルケン類に脱離する選択的な好ましい方法は、液相中の反応である。主にアルコール類からオレフィン類への変換に用いられる試薬は、アルカリ性および酸性脱水試薬に分類される。加えて、厳密にはこれらグループの1つに属さない他の試薬も、個別のケースに用いられている。
【0004】
現在まで、上記変換の問題には高度に選択的な解決法が欠如していた。公知の試薬で望ましい変換を行えるが、他の部分もそれと同時に同様の影響をうけてしまうことが多い。多くの場合に、必要とされる激烈な条件が、遠くに離れた立体中心のエピマー化すら招いてしまう。
【発明の開示】
【0005】
したがって、非常に穏やかな条件下で水の脱離によりアルコール類を対応アルケン類へ変換させられ、用いられる出発物質から形成された変換生成物の除去が簡単に行える、経済的に実施可能なプロセスを提供することが、本発明の目的である。
【0006】
従来既に知られていたアルケン類の製造方法はすべて重大な欠点を有している。例えば、水を脱離するために硫酸が用いられた場合には、生成物の炭化およびそこへの二酸化イオウの混入リスクと共に、エーテル類の形成のリスクもある。リン酸が脱水に用いられた場合には、220℃に達する温度が通常必要である。ホウ酸のみが時折有用である。一級アルコール類の使用の場合には、300℃に達する温度すら必要とされる。したがって、これは二重結合の位置が一定でないオレフィン混合物を生じてしまう。
【0007】
意外にも、環状2,4,6‐置換1,3,5,2,4,6‐トリオキサトリホスフィナン 2,4,6‐トリオキシド類の使用がこれら問題のすべてを解決することがわかった。この脱離法は対応アルケン類へのアルコール類の高度選択的変換を行え、同時にエピマー化からの望ましい解放と最大の位置‐および立体選択性の観察、同時に事実上定量的な収率を生じる。
【0008】
このように、本発明は:
a)一級アルコール類(RCHCH‐OH)または
b)二級アルコール類(RCHCHR‐OH)または
c)三級アルコール類(RCH‐CROH)
を環状無水アルキルホスホン酸類および場合によりアミン塩基NRと−100〜+120℃の範囲内の温度で反応させることによる、下記式(II)のアルケン類:
C=CR (II)
を製造するための高度選択的方法に関し、ここで上記式中Rおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRはH、直鎖または分岐、置換または非置換C‐C12アルキル基、C‐C10シクロアルキル基、アルケニル基またはアリールもしくはヘテロアリール基である。
【0009】
好ましい発明態様において、環状無水アルキルホスホン酸は下記式(I)の2,4,6‐置換1,3,5,2,4,6‐トリオキサトリホスフィナン 2,4,6‐トリオキシドである:
【化1】

上記式中R′は独立してアリル、アリールまたは開鎖もしくは分岐C‐C12アルキル基、特にC‐Cアルキル基である。
【0010】
R′がメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、2‐ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、特にエチル、プロピルおよび/またはブチル基である、式(I)の無水ホスホン酸類が特に好ましい。
【0011】
アルケン類(II)の脱離は通常−100〜+120℃の範囲内の温度で行われる;−30〜+30℃の範囲内の温度が好ましく、低温ほど高度選択性と通常相関している。反応時間は用いられる温度に依存し、通常1〜12時間、特に3〜6時間である。
【0012】
アミン類の添加は通常不要であるが、個別のケースでは有利なこともある。用いられるアミン類は、通常下記式(III)のアミン類である:
NR (III)
上記式中RはH、アリル、アリールまたは開鎖、環状もしくは分岐C‐C12アルキル基、アリールオキシ、アリルオキシまたは開鎖、環状もしくは分岐C‐C12アルキル基を有するアルコキシ、または上記置換基の組合せである。
【0013】
がH、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、2‐ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、フェニル、特にH、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、2‐ブチル、イソブチルまたはフェニル、または上記置換基の組合せである、式(III)のアミン類が特に好ましい。
【0014】
環状無水ホスホン酸は、溶融物としてまたは溶媒に溶解された液体混合物として、反応媒体に加えられる。適切な溶媒は無水ホスホン酸といかなる副反応も生じないものである;これらはすべて非プロトン性有機溶媒、例えばリグロイン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2‐ジクロロエタン、1,1,2,2‐テトラクロロエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert‐ブチルメチルエーテル、THF、ジオキサン、アセトニトリルまたはそれらの混合物である;ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、ジイソプロピルエーテル、tert‐ブチルメチルエーテル、THF、ジオキサン、アセトニトリルまたはそれらの混合物が特に好ましい;ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルアセトアミド、tert‐ブチルメチルエーテル、THF、ジオキサン、アセトニトリルまたはそれらの混合物が非常に特に好ましい;THF、酢酸エチルまたは酢酸ブチルが特に好ましい。
【0015】
無水ホスホン酸は出発化合物に対して化学量論量の少なくとも1/3で通常加えられるが、超化学量論量、例えば1出発化合物:1.2T3P(環状無水プロパンホスホン酸)の比率で加えてもよい。反応は好ましくは、対応出発化合物が反応温度で適切な溶媒中T3Pへ加えられるように行われる。
【0016】
無水ホスホン酸類の変換生成物は通常非常に水溶性であるため、反応生成物は好ましくは加水分解および簡単な相分離により単離される。単離される生成物の性質に応じて、後抽出が必要なこともある。形成された無水ホスホン酸変換生成物は後の反応を妨げないことが多く、そのため得られた反応溶液の直接使用でも多くの場合に非常に良い結果をもたらす。上記すべての操作は非常に良い収率(典型的には90〜100%、特に>95%)であり、同時に副反応およびエピマー化が存在しない。本発明反応の選択率は97〜100%、特に99〜100%の範囲内である。
【実施例】
【0017】
本発明による方法は下記例で詳細に説明されるが、本発明をそれに限定するものではない:
【0018】
例1:スチレンへの1‐フェニルエタノールの脱離
酢酸エチル中T3P1モル(50%w/w)を0℃に冷却する。1‐フェニルエタノールをこの溶液へ滴下し、混合液をこの反応で3時間攪拌する。このとき、反応GCは100%の変換率を示した。室温へ加温後、水180mlを加え、各相を分離した。溶媒が凝縮された後、スチレンが97%の収率、HPLC純度99%(a/a)で残留した。
【0019】
例2:1‐オクテンへの1‐オクタノールの脱離
酢酸エチル中T3P1モル(50%w/w)を0℃に冷却する。1‐オクタノールをこの溶液へ滴下し、混合液をこの温度で3時間攪拌する。このとき、反応GCは100%の変換率を示した。室温へ加温後、水180mlを加え、各相を分離した。溶媒が凝縮された後、1‐オクテンが97%の収率、GC純度99%(a/a)で残留した。
【0020】
例3:アリリデンシクロペンタンへの1‐シクロペンチルプロピ‐2‐エン‐1‐オールの脱離
酢酸エチル中T3P1モル(50%w/w)を0℃に冷却する。1‐シクロペンチルプロピ‐2‐エン‐1‐オールをこの溶液へ滴下し、混合液をこの温度で3時間攪拌する。このとき、反応GCは100%の変換率を示した。室温へ加温後、水180mlを加え、各相を分離した。溶媒が凝縮された後、アリリデンシクロペンタンが97%の収率、GC純度99%(a/a)で残留した。
【0021】
例4:2,5‐ジヒドロピロール‐1,2‐(2S)‐ジカルボン酸1‐tert‐ブチルエステル 2‐メチルエステルへの(4R)‐1‐(tert‐ブトキシカルボニル)‐4‐ヒドロキシ‐L‐プロリンメチルエステルの脱離
酢酸エチル中T3P1モル(50%w/w)を0℃に冷却する。(4R)‐1‐(tert‐ブトキシカルボニル)‐4‐ヒドロキシ‐L‐プロリンメチルエステルをこの溶液へ滴下し、混合液をこの温度で3時間攪拌する。このとき、反応GCは100%の変換率を示した。室温へ加温後、水180mlを加え、各相を分離した。溶媒が凝縮された後、2,5‐ジヒドロピロール‐1,2‐(2S)‐ジカルボン酸1‐tert‐ブチルエステル 2‐メチルエステルが97%の収率、GC純度99%(a/a)で残留した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一級アルコール類(RCHCH‐OH)または
b)二級アルコール類(RCHCHR‐OH)または
c)三級アルコール類(RCH‐CROH)
(上記式中Rおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRおよび/またはRはH、直鎖または分岐C‐C12アルキル基、C‐C10シクロアルキル基、アルケニル基またはアリールもしくはヘテロアリール基である)を環状無水アルキルホスホン酸類と−100〜+120℃の範囲内の温度で反応させることによる、下記式(II)のアルケン類:
C=CR (II)
の製造方法。
【請求項2】
環状無水アルキルホスホン酸が下記式(I)の2,4,6‐置換1,3,5,2,4,6‐トリオキサトリホスフィナン 2,4,6‐トリオキシドである:
【化1】

(上記式中R′は独立してアリル、アリールまたは開鎖もしくは分岐C‐C12アルキル基である)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R′がメチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、2‐ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、特にエチル、プロピルおよび/またはブチル基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応が、下記式(III)のアミン塩基:
NR (III)
(上記式中RはH、アリル、アリールまたは開鎖、環状もしくは分岐C‐C12アルキル基、アリールオキシ、アリルオキシまたは開鎖、環状もしくは分岐C‐C12アルキル基を有するアルコキシ、または上記置換基の組合せである)の存在下で行われる、請求項1〜3の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項5】
環状無水ホスホン酸が、溶融物としてまたは溶媒に溶解されて、反応溶液に加えられる、請求項1〜4の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項6】
環状無水ホスホン酸が非プロトン性溶媒中で加えられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
無水アルキルホスホン酸が加えられる前に、反応溶液が反応温度に加熱される、請求項1〜6の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
無水アルキルホスホン酸が、出発化合物に対して、超化学量論量以下で化学量論量の1/3で用いられる、請求項1〜7の少なくとも一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−503453(P2008−503453A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515818(P2007−515818)
【出願日】平成17年6月4日(2005.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006016
【国際公開番号】WO2005/123632
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(506315284)アルキミカ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (8)
【氏名又は名称原語表記】ARCHIMICA GMBH
【Fターム(参考)】