説明

無添加リンゴ果汁及びその搾汁方法

【課題】高濃度ペクチン及び果皮色素に応じた色調のリンゴ果汁を提供する。
【解決手段】果皮付きリンゴを用いて、これに80℃乃至100℃で、5分乃至15分の予備加熱を施して、そのリンゴ果皮並びにその周辺部の組織を破壊し、該果皮及び周辺部に多量に含有するペクチン及び色素の溶出状態で搾汁を行う。非加熱の果皮付きリンゴを搾汁したものに対して、予備加熱によってペクチン含量を2倍乃至7倍に高濃度化した果汁を得ることができ、また、ジョナゴールド種のリンゴを用いると、果皮の色素に応じて淡ピンク乃至赤色系の色調を呈する果汁を得ることができる。無添加のリンゴ果汁として、飲料用、他の食品添加用として使用することができる。破砕した果皮付きリンゴを用いるときは、破砕直後に予備加熱を行うことで褐変を防止して、同様に果汁を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジュースとして飲用に供し又は各種飲食物の原材料として使用可能な無添加リンゴ果汁に関し、またその搾汁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のリンゴ果汁として、下記非特許文献が知られており、これによると、レッドデリシャス種の赤色品種系リンゴを破砕し、そのマッシュの酵素による褐変を防止するために二亜硫酸ナトリウム75ppm乃至100ppm添加して混合してピューレを作成し、該ピューレをステンレス製チューブによって90℃、20秒乃至31.4秒加熱し、その後30℃に冷却して、ペクチナーゼを0.02%(v/w)添加してペクチンを分解して遠心分離を行ない、その上清に1%(w/v)ベントナイト液を0.01%(v/v)添加し、1℃で16時間乃至18時間処理後、遠心分離して清澄のリンゴ果汁を得るものとしており、このとき、該リンゴ果汁は、清澄でピンク色をしており、これは、加熱処理により果皮からアントシアニンが抽出されたからであるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】BEVERIDGE,T. et al, Clarified natural apple juice: Production and storage stability of juice and concentrate(天然の清澄化りんご果汁:果汁および濃縮液の生産と貯蔵中の安定性), J Food Sci, 1986 Vol.51 Page.411−414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献にあっては、色調をピンク乃至赤色系としたリンゴ果汁を得ることができるとしても、そのリンゴ果汁を得る工程が複雑であり、工場での生産を想定すると、該生産に適したものとはなし難い上、二亜硫酸ナトリウム、即ち、褐変防止のための酸化防止剤を使用していること、ぺクチナーゼ、即ち、ペクチン分解酵素を添加していることから、該リンゴ果汁は、添加物を使用し且つリンゴに豊富に含まれるペクチンを積極的に分解したものとされている。このため、食物繊維としてのペクチン摂取を目的とするように飲用に供するリンゴ果汁としては、必ずしも適当であるとはいえない。
【0005】
即ち、リンゴ果汁は、酵素の褐変による混濁した茶系の色調を呈することなく、リンゴ特有の色調を呈するものとして、飲用に供する場合には好ましい色調の外観を呈するものとなし得るも、ペクチンは水溶性の代表的な食物繊維であり、整腸作用の他、ヒトの体内における有用な各種作用を呈するものであるところ、清澄化の前提として、これを分解することによって、該有用な作用を期待し得ないものとすることによって、その用途も限定されることになる。添加物を嫌う風潮が強まる中で、添加物を使用し、更にペクチンを分解してまで、リンゴ果汁を清澄化しても、その意味は少ないというべきである。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その解決課題とするところは、添加物を使用せずに高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の双方を有する無添加リンゴ果汁を提供するにあり、また、該無添加リンゴ果汁の搾汁方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に沿って鋭意検討したところ、本発明者らは、リンゴを搾汁して果汁とするに際して、該リンゴは、これを果皮付きのものとし、事前に予備加熱を施すことによって、リンゴ果皮並びにその周辺部の成分のペクチンや色素を有効に抽出して搾汁した果汁に移行し得ること、このとき、ペクチンは非加熱のものに対して2倍乃至7倍程度の高濃度化したものとなし得ること、搾汁した果汁は、該リンゴ果皮の色素に応じた色調のものとし得ること、また、搾汁した果汁の風味はリンゴ生果のものにしてペクチン高濃度化によるとろみを感じさせるものとし得ること、予備加熱によってリンゴを酵素失活のものとするから、搾汁に際して酸化防止のための添加剤を添加しなくても、その褐変を可及的有効に抑制し得ること、従って上記予備加熱した果皮付きリンゴを搾汁対象とすることによって、添加物を使用せずに高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の双方を有する無添加リンゴ果汁とし得るとの知見を得た。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、即ち、請求項1に記載の発明を、予備加熱した果皮付きリンゴの搾汁果汁であって、高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調を有してなることを特徴とする無添加リンゴ果汁としたものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、そのペクチンの含有量を好ましいものとするように、これを、上記高濃度ペクチンを、非加熱の果皮付きリンゴの搾汁果汁に対して少なくとも2倍含有することを特徴とする請求項1に記載の無添加リンゴ果汁としたものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、上記に加えて、上記色調をリンゴの品種によるその果皮の色素に応じた色調を呈するものとするように、これを、上記果皮付きリンゴを、赤色品種系リンゴとして、上記リンゴ果皮の色素に応じた色調をリンゴ果皮の色素による淡ピンク乃至赤色系としてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の無添加リンゴ果汁としたものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、上記高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁の工場生産に適した搾汁方法を提供するように、これを、果皮付きリンゴを予備加熱してリンゴ果皮並びにその周辺部の組織破壊によるペクチン及び色素溶出状態で搾汁することによって、該ペクチン及び果皮の色素を抽出移行した色調の果汁とすることを特徴とする無添加リンゴ果汁の搾汁方法としたものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、上記に加えて、予備加熱の加熱温度は、これを80℃乃至100℃とするのが、上記高濃度化ペクチン及び果皮の色素を抽出移行して上記リンゴ果皮の色素に応じた色調とする上で好ましいことから、これを、上記予備加熱を、80℃乃至100℃の高温によって行なうことを特徴とする請求項4に記載の無添加リンゴ果汁の搾汁方法としたものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、上記に加えて、予備加熱の前工程として果皮付きリンゴを分割乃至破砕するものとしたとき、その褐変を可及的に防止してリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁とし得るように、これを、上記果皮付きリンゴを、分割乃至破砕したリンゴとし且つ分割乃至破砕直後に上記予備加熱を行うとともに該予備加熱開始1分以内に80℃乃至100℃に昇温することを特徴とする請求項4又は5に記載の無添加リンゴ果汁の搾汁方法としたものである。
【0014】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として、上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のとおりとしたから、請求項1に記載の発明は、上記予備加熱した果皮付きリンゴを搾汁対象とすることによって、添加物を使用せずに高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の双方を有するとともに風味をリンゴ生果のものにしてペクチン高濃度化によるとろみを感じさせるようにした無添加リンゴ果汁を提供することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、その高濃度化したペクチンの含有量を好ましいものとすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、上記に加えて、上記色調をリンゴの品種によるその果皮の色調を呈するものとすることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、上記高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁の工場生産に適した搾汁方法を提供することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、上記に加えて、予備加熱の加熱温度を80℃乃至100℃とすることによって、上記高濃度化ペクチン及び果皮の色素を抽出移行して上記リンゴ果皮の色素に応じた色調とすることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、上記に加えて、予備加熱の前工程として果皮付きリンゴを分割乃至破砕するものとしたとき、その褐変を可及的に防止して上記リンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】予備加熱の加熱温度及び加熱時間の相違による果汁中のペクチン含量の変化を示した棒グラフである。
【図2】予備加熱の加熱温度及び加熱時間の相違による果汁中のシアニジン含量の変化を示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を更に具体的に説明すれば、本発明におけるリンゴ果汁は、予備加熱した果皮付きリンゴの搾汁果汁であって、高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調を有した無添加のものとしてあり、このとき、上記高濃度ペクチンは、これを、非加熱の果皮付きリンゴの搾汁果汁に対して少なくとも2倍以上含有するものとし、また、上記果皮付きリンゴを、赤色品種系リンゴとして、上記リンゴ果皮の色素に応じた色調をリンゴ果皮の色素による淡ピンク乃至赤色系としたものとしてある。
【0023】
該リンゴ果汁は、リンゴ果肉のものに加えて、リンゴ果皮並びにその周辺部のペクチン並びに色素を抽出移行することによって上記ペクチンを高濃度化し且つリンゴ果皮の色素に応じた色調を反映した果汁としてあり、これによって、ヒトの飲用に供し、また、これを用いた組成物とし、他の飲食物に添加することによって、整腸作用の他、ヒトの体内における有用なペクチンの各種作用を呈するものとしてある。このとき、該リンゴ果汁は、褐変を防止するための酸化防止剤を含めて、添加物を添加することなく搾汁した無添加の果汁として、乳幼児を含めて飲食物として、添加物を嫌う消費者ニーズに適合したものとしてある。
【0024】
このようにペクチンの高濃度化とリンゴ果皮の色素に応じた色調を有するリンゴ果汁を、その搾汁方法によって説明すれば、果皮付きリンゴを予備加熱してリンゴ果皮並びにその周辺部の組織破壊によるペクチン及び色素溶出状態で搾汁することによって、該ペクチン及び果皮の色素を抽出移行した色調の果汁とするものとしてある。
【0025】
即ち、上記予備加熱した果皮付きリンゴを搾汁することによって、ペクチンの高濃度化とリンゴ果皮の色素の抽出移行を行うのは、果皮付きリンゴを予備加熱することによって、リンゴ果皮乃至その周辺部の組織が破壊し、該リンゴ果皮や周辺部の細胞壁が可溶化する一方、果皮乃至その周辺部に多量に含まれるペクチンや色素が、該可溶化状態の搾汁によりリンゴ果汁中に溶出するからであると認められる。従って、リンゴ果汁におけるペクチンの高濃度化及び果皮色素に応じた色調は、果皮付きリンゴを用いること、これを搾汁の前工程として予備加熱することに起因するものである。
【0026】
果皮付きリンゴは、例えば、ふじ、つがる、紅玉、ジョナゴールド等の赤色品種系のものを、常法に従って洗浄した後、これをそのまま、即ち、まるごとのまま又は芯の除去及び/又は分割乃至破砕を施して、果皮を除去することなく、該果皮付きのまま、上記予備加熱を施すものとしてある。
【0027】
予備加熱は、例えば熱水シャワー、熱水浸漬、蒸気接触、雰囲気加熱、マイクロ波による直接加熱等の適宜な加熱手段を用いて、果皮付きリンゴをこれらの加熱装置を経由した後に搾汁を施すようにすればよい。このとき該予備加熱は、果皮付きリンゴの果皮及び果肉の品温を、可及的に加熱温度と同一乃至同等に昇温するようにこれを行うことによって、上記高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁を得ることが可能となる。
【0028】
上記予備加熱は、これを、80℃乃至100℃の高温によって行なうものとしてあり、このとき、予備加熱の時間は、一般に、これを5分以上、好ましくは5分乃至15分として高温を継続付与するように行うものとしてある。
【0029】
即ち、予備加熱の加熱温度を、上記80℃乃至100℃とするのは、加熱温度が80℃を下回ると、果皮付きリンゴの上記リンゴ果皮や周辺部における組織破壊が不足し、該リンゴ果皮や周辺部のペクチン及び色素のリンゴ果汁中への抽出移行が不足し易くなるからである。このとき、該加熱温度が85℃を下回ると、該抽出移行の不足の傾向が生じる可能性があるから、該予備加熱における下限温度は、これを85℃とすることが好ましい。また、100℃を上回ることは、これを妨げないが、一般に工場の生産設備における昇温は100℃である上、100℃とすることによって上記ペクチンの高濃度化と果皮の色素に応じた色調の果汁を充分に得られるから、該予備加熱における上限は、これを100℃とすれば足り、敢えてこれを超える必要はない。
【0030】
また、予備加熱の時間は、これを上記5分以上とするのは、リンゴ果皮の色素の抽出移行とこれによる該色素に応じた色調の果汁は、1分程度の予備加熱でなし得る上、1分以上の予備加熱によって、該色素の分解を招く可能性がある一方で、ペクチンの抽出移行による高濃度化は、該1分程度では不充分であり、これに5分以上、好ましくは5分乃至15分とすることが必要であり、従って、ペクチンの高濃度化とリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁とする上で、該ペクチンの抽出移行を基準として、予備加熱の時間を設定することが必要となるからである。
【0031】
これらを、ジョナゴールド種の果皮付きリンゴを使用品種として、予備加熱の条件、即ち、加熱温度及び加熱時間を変化して予備加熱し、その後に搾汁した果汁を得て、該果汁についてそれぞれペクチン含量、色素、即ち、シアニジン含量を測定した下記実験例1に基づいて検討すれば、先ずペクチン含量は、表1及び図1に示すように、果皮付きリンゴを非加熱で搾汁した場合0.025%であるのに対して、加熱温度を80℃としたとき、予備加熱1分の場合は、0.045%、5分の場合は0.064%、15分の場合は0.055%、加熱温度を90℃としたとき、予備加熱1分の場合は、0.047%、5分の場合は0.075%、15分の場合は0.089%、加熱温度100℃としたとき、予備加熱1分の場合は、0.051%、5分の場合は0.124%、15分の場合は0.172%であった。従って、予備加熱とペクチン含量の関係は、非加熱の搾汁に対して、加熱温度80℃の予備加熱によって2倍程度、90℃の予備加熱によって2倍から3倍強、100℃の予備加熱によって同じく2倍から7倍程度に増加し、その高濃度化がなされること、このとき、予備加熱の加熱時間が長い程、ペクチン含量が増加すること、加熱時間は、これを5分とすることによって、非加熱のものに対してペクチン含量を3倍弱から5倍程度となること、加熱温度100℃の予備加熱を行うに際して、5分、15分とすることによって、非加熱のものに対してペクチン含量を5倍から7倍程度に顕著に増加すること、該加熱温度100℃の場合、加熱時間を1分としても、80℃で5分乃至15分と略同等のペクチン含量となることが判明する。この結果から見ると、加熱温度は80℃以上とするも、これを超える温度の上記85℃以上とすることが好ましく、更に90℃、100℃と高温にすればするほどペクチン含量を有効に増加し得ること、加熱時間は短時間の1分でも相当程度のペクチン含量増加をなし得るが、より長く5分、15分とすることによって更にペクチン含量を増加することができ、特に15分程度とすることによってペクチン含量を有効に増加することができる。
【0032】
次いで、シアニジン含量は、図2に示すように、非加熱の場合0.194mg/100gであるのに対して、加熱温度80℃、90℃、100℃、時間1分乃至15分の予備加熱を行ったものは、0.549〜0.649mg/100gであり、従って、予備加熱を行うことによって果汁中のシアニジンは約3倍に増加すること、これによって該果汁の色調が淡ピンク色乃至赤色のものとなること、この場合、予備加熱の加熱時間を1分とするとシアニジン含量が最大となり、加熱時間を5分、15分とすると、シアニジン含量が幾分減少する傾向が見られること、該シアニジン含量の減少は、高温加熱によるシアニジンの分解によるものと認められるが、その含量減少は比較的少なく、従って、上記ペクチン含量の増加との関係で、ペクチンの高濃度化のために、高温加熱を、上記5分乃至15分としても、該時間延長によるシアニジンの分解現象は、これを比較的軽微に止め得ることが判明した。
【0033】
果皮付きリンゴは、上記の如くに、該リンゴをまるごとのまま又は芯の除去及び/又は分割乃至破砕を施して、上記予備加熱条件による予備加熱を行うことができるが、該果皮付きリンゴを分割乃至破砕したリンゴとするとき、該分割乃至破砕直後に上記予備加熱を行うとともに該予備加熱開始1分以内に80℃乃至100℃に昇温することが好ましく、このように予備加熱を行うことによって、果皮付きリンゴの分割乃至破砕によって生じる褐変を有効に防止することができる。
【0034】
即ち、上記分割乃至粉砕直後の予備加熱は、下記実験例2に示すように、該分割乃至破砕した品温に応じて、品温が5〜15℃のとき5分以内、好ましくは4分以内、20℃のとき3分以内、好ましくは2分以内とするのが、予備加熱による酵素失活を行って褐変を有効に防止でき、このとき、使用する果皮付きリンゴの品温によって幾分異なるが、最大でも5分以内、好ましくは2分乃至4分以内に上記予備加熱を行うようにすることが、褐変を防止してリンゴ果皮の色素に応じた色調を確保する上で必要である。
【0035】
以上のリンゴ果汁は、リンゴ生果の風味を有するとともに高濃度ぺクチンを上記2倍乃至7倍含有することによって、これに応じたとろみを感じさせる美味の果汁とすることができ、更に上記色素、本例にあってはシアニジンによる淡ピンク乃至赤色系にして美麗な色調を呈するものとすることができ、上記飲用に供することはもとより、そのまま又は適宜に加工して組成物とし、他の飲食物に添加使用することができる。
【0036】
以上、果皮付きリンゴの品種をジョナゴールド種とした場合について説明したが、その余の、ふじ、つがる、紅玉等の赤色品種系のものを用いて同様に高濃度ペクチンを2乃至7倍含有する美味の果汁とすることができ、また、上記果皮付きリンゴを、例えば王林、グラニースミス等の黄緑色乃至緑色品種系リンゴとして、上記リンゴ果皮の色素に応じた色調をリンゴ果皮の色素による淡黄緑色乃至淡緑色系の、美麗なものとすることもできる。
【0037】
更に、上記高濃度ペクチンを、例えば非加熱のものに対して、例えば3倍、4倍或いは5倍乃至それ以上とする如くに、顕著に高濃度化した特徴的な濃度の無添加リンゴ果汁とすること、リンゴ果汁を、単一種に限らず、複数種の果皮付きリンゴを用いたものとすること、リンゴ果汁乃至これを用いた組成物乃至飲食物を、例えば飲料、菓子、栄養食品、サプリメント、惣菜等、適宜のものとして市場供給することを含めて、本発明の実施に当って、果皮付きリンゴ、その無添加リンゴ果汁、高濃度ペクチン、色調、予備加熱、搾汁方法等の各具体的品種、濃度、条件、用途等は、上記発明の要旨に反しない限り様々な形態のものとすることができる。
【実験例1】
【0038】
ジョナゴールド種の果皮付きリンゴを使用し、該リンゴを包丁で1乃至2cm角程度にカットし、市販のフードプロセッサー(パナソニック MK−K80P)で破砕し、その直後に市販の電子レンジで、品温がそれぞれ80、90、100℃に達温するように加熱した後、レンジより取り出し、ウォーターバスを用いて各温度に保持したガラスビーカー中で、1分、5分、15分保持した。その後、市販のジューサー(ナショナルジューサー MJ−M10)でピューレ状にまで加工し、さらに200メッシュのナイロンメッシュでろ過し、ろ液を85℃で達温殺菌した。比較対照は、加熱せずに非加熱のままジューサーで処理を行い、ろ過、殺菌し、合計12サンプルのリンゴ果汁を作成した。各サンプルを遠心分離し(8,000×g、10分、4℃)、上清中のペクチン含量およびシアニジン含量を測定した。ペクチン含量の測定は、上清の果汁を約5gはかり取り、20mLのエタノール(99.5%)を混合後、遠心分離(2,000×g、室温、15分)し、上清を除去し、沈殿物に20mLの70%エタノールを混合後、遠心分離(2,000×g、室温、15分)し、上清を除去し、同様の操作を計4回繰り返し、最終的に得られた沈殿物を減圧下で乾固し、乾燥物を得た。得られた乾燥物に蒸留水20mLを添加して懸濁し、懸濁液中のペクチン量をm−ヒドロキシジフェニル法により測定することによって行った。また、果汁中のシアニジン含量の測定は、上清の果汁に4倍のメタノールを添加し、室温で攪拌及びソニケーション後、遠心分離し、上清を回収し、この操作を2回繰返し、得られた上清をまとめて減圧濃縮し、濃縮液よりシアニジンを固相抽出し、分析検体とし、シアニジン‐3‐O‐グリコシド(C3G)当量として、液体クロマトグラフィーを用いて定量することによって行った。
【0039】
表1に、予備加熱の各温度、各時間における各果汁中のペクチン量および予備加熱を行なっていない場合の果汁中のペクチン濃度(重量%)を示し、また、図1に、90℃、1分の予備加熱を基準として、非加熱、80℃及び100℃のペクチン含量の相対値を示す。予備加熱を行なった場合のペクチン濃度は0.045乃至0.172%であり、予備加熱を行なわない場合のペクチン濃度は0.025%であり、果汁中のペクチン量は予備加熱を行なうことで2倍以上に増加した。また、加熱温度が高いほど、加熱時間が長いほどペクチン量は増加した。90℃、1分の場合と比較すると、予備加熱を5分以上と長くすることで、136%〜366%のペクチンを果汁へ抽出移行することができることが判明した。
【0040】
【表1】

【0041】
予備加熱の各温度、各時間における各果汁中のペクチン量および予備加熱を行なっていない場合の果汁中のペクチン濃度(重量%)を図2に示す。予備加熱を行った場合のシアニジン濃度は0.549mg/100g乃至0.694mg/100gであり、非加熱の場合のシアニジン濃度は0.194mg/100gであり、果汁中のペクチン量は予備加熱を行なうことで約3倍に増加し、予備加熱を行った果汁では特徴的に淡ピンク乃至赤色系にして美麗な色調を呈した。なお、予備加熱時間を長くすることによるシアニジンの大きな分解減少も見られなかった。
【実験例2】
【0042】
ジョナゴールド種のリンゴを使用し、褐変度合いを評価しやすくするために該リンゴの果皮および芯部分を除去したものを、包丁で1〜2cm角程度にカットし、市販のフードプロセッサー(パナソニック MK−K80P)で破砕し、破砕後品温5℃、10℃、15℃または20℃で、それぞれ30秒、2分、4分、6分、8分及び10分間保持し、保持後、直ちに市販の電子レンジで90℃まで加熱し、果肉中に含まれるポリフェノールオキシダーゼを失活させ、加熱後、ホモジナイザー(ニッセイ AM−7)でピューレ状にし、10℃以下に冷却してサンプルとした。ピューレ状のリンゴ果汁の褐変度合いを6人で評価し、4段階(1点かなり褐変している、2点褐変している、3点やや褐変している、4点褐変していない)で点数付けを行い、果実破砕から予備加熱までの温度、時間と果汁の褐変との関係を官能評価した。
【0043】
表2に官能評価の評価結果を示す。平均点が3点以上のリンゴ果汁であれば、商業的価値があるものと認められ、従って、破砕後の品温が15℃以下であれば4分以内に加熱失活させ、15℃以上20℃以下であれば2分以内に加熱失活させることで、商業的価値のあるリンゴ果皮の色素に応じた色調の果汁を製造可能であることが判明した。
【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備加熱した果皮付きリンゴの搾汁果汁であって、高濃度ペクチンとリンゴ果皮の色素に応じた色調を有してなることを特徴とする無添加リンゴ果汁。
【請求項2】
上記高濃度ペクチンを、非加熱の果皮付きリンゴの搾汁果汁に対して少なくとも2倍含有することを特徴とする請求項1に記載の無添加リンゴ果汁。
【請求項3】
上記果皮付きリンゴを、赤色品種系リンゴとして、上記リンゴ果皮の色素に応じた色調をリンゴ果皮の色素による淡ピンク乃至赤色系としてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の無添加リンゴ果汁。
【請求項4】
果皮付きリンゴを予備加熱してリンゴ果皮並びにその周辺部の組織破壊によるペクチン及び色素溶出状態で搾汁することによって、該ペクチン及び果皮の色素を抽出移行した色調の果汁とすることを特徴とする無添加リンゴ果汁の搾汁方法。
【請求項5】
上記予備加熱を、80℃乃至100℃の高温によって行なうことを特徴とする請求項4に記載の無添加リンゴ果汁の搾汁方法。
【請求項6】
上記果皮付きリンゴを、分割乃至破砕したリンゴとし且つ分割乃至破砕直後に上記予備加熱を行うとともに該予備加熱開始1分以内に80℃乃至100℃に昇温することを特徴とする請求項4又は5に記載の無添加リンゴ果汁の搾汁方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179034(P2012−179034A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46092(P2011−46092)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(390001270)グリコ乳業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】