説明

無溶剤一液型湿気硬化性組成物、この組成物からなるシール材及びこのシール材を用いた太陽電池モジュール

【課題】長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有する無溶剤一成分型湿気硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の無溶剤一成分型湿気硬化性組成物は、(A)珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる架橋性珪素基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体100重量部と、(B)前記架橋性珪素基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体0.1〜30重量部と、(C)無機充填剤1〜300重量部とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤一液型湿気硬化性組成物に関する。特に、分子中に架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と、この架橋性珪素基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とを含有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、分子中に架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体は広く知られている。例えば、有機重合体鎖の両末端にメチルジメトキシシリル基等の架橋性珪素基を有する次のような重合体が挙げられる。
CH(CHO)Si〜〜〜(有機重合体鎖)〜〜〜Si(OCHCH
【0003】
この重合体は通常液状であるので、基材に塗布することができ、また、隙間や型に充填することができる。上記重合体において、珪素原子は、加水分解性基であるメトキシ基に結合していることから、塗布や充填の後、放置しておけば空気中の湿気により加水分解反応及びシラノール縮合反応を経て、重合体同士がシロキサン結合により架橋し、ゴム状の硬化物を生成する。また、上記重合体は、耐熱性、耐水性、湿気遮断性、耐候性にも優れる。そのため、上記重合体は、接着剤やシーリング材に利用されており、特に建築用シーリング材として利用されている。
【0004】
上記重合体の例として、架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と、架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とを含有する硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。特許文献1〜4に記載の発明によれば、架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を使用せず、架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体だけを使用した場合に比較して粘度が低いため、塗膜特性が改善され、引張特性、接着強度、耐候性、耐熱性にも優れた硬化性組成物を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−168764号公報
【特許文献2】特開2001−11319号公報
【特許文献3】特開平8−48748号公報
【特許文献4】国際公開第2005/012426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に、硬化性組成物を一液型にすることが求められている。一液型でないと、複数種類の原材料の計量、混合を現場で行わなければならず、作業性に劣るだけでなく、得られる組成物の品質にばらつきが生じ得るという課題がある。また、一定の混合比で原材料を混合しなければならないため、少なくとも一方の原材料が余ってしまい、原材料の無駄が生じるという課題もある。また、複数種類の原材料を混合してからその混合物が硬化するまでの時間(ポットライフ)を考慮すると、原材料の混合は少量ずつ行わなければならないという課題もある。また、作業終了後において、原材料を混合した容器を洗浄したり、複数種類の原材料が入っていた空き缶を各々廃棄したりしなければならず、混合後の容器の洗浄等、作業面での煩わしさを伴うという課題もある。
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載の硬化性組成物は、二液型であり、一液型ではない。また、特許文献1に記載の硬化性組成物は、アクリル酸エステル系重合体の合成時に使用した有機溶剤(キシレン)をそのまま飽和炭化水素系重合体とのブレンドの際に使用するものであるが、労働作業環境対策や溶剤規制への対応から、有機溶剤系硬化性組成物の無溶剤化が求められている。特許文献1の記載から溶剤を除き、さらに一液型にしようとすると、2種の重合体が相分離するという問題が生じる。特許文献2に記載の硬化性組成物は、溶剤を含まないものではあるが、二液型ではなく、一液型にしようとすると、2種の重合体が相分離するという問題が生じることに変わりはない。2種の重合体が相分離すると、硬化性組成物の保存性、接着性を損なうことになるため、特許文献1及び2に記載の硬化性組成物を無溶剤一液型にすることはできない。
【0008】
相分離の問題を解消するため、2種の重合体を相溶化する相溶化剤を用いることも考えられるが、現在のところ適切な相溶化剤は知られていない。また、いったん相分離した硬化性組成物を、実際に使用する直前に再度混合し、2種の重合体を均質化することも考えられるが、通常の一液型硬化性組成物では行うことのない工程を経る必要があり、好ましくない。
【0009】
一方で、特許文献3は、(A)上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体と、(B)上記飽和炭化水素系重合体と、(C)エポキシ樹脂とを含有してなる硬化性組成物において、エポキシ樹脂の硬化剤としてケチミン類を使用することにより、一液型の配合物を作成できることを開示する(段落[0068])。しかし、この記載は、ケチミン類を使用することにより、配合物の保存中にエポキシ樹脂が硬化しないため、配合物を一液型にすることができることを示唆するにとどまり、接着性を低下させずに一液型組成物として保存できることを示唆するものではない。
【0010】
また、特許文献4は、(A)架橋性シリル基含有ポリイソブチレン系重合体に例示される架橋性シリル基含有有機重合体と、(B)架橋性シリル基含有(メタ)アクリル系重合体とを含有する硬化性組成物において(請求項13)、炭酸カルシウムをはじめとした充填剤を添加することで硬化物を補強できることを開示する(段落[0128])。また、特許文献4は、硬化性組成物が一液型であることが好適であることを開示する(段落[0195])。しかし、段落[0128]の記載は、炭酸カルシウムを用いることで硬化物を補強できることを示唆するにとどまり、相分離の問題を解決できることを示唆するものではない。実際、(A)成分と(B)成分との配合割合は、(A)成分1重量部に対して(B)成分0.01〜100重量部であり(段落[0118])、実施例では(A)成分150重量部に対して(B)成分100重量部である(段落[0160])。そのため、(A)架橋性シリル基含有ポリイソブチレン系重合体と、(B)架橋性シリル基含有(メタ)アクリル系重合体とに炭酸カルシウムを加えて一液型の湿気硬化性組成物を提供したとしても、相分離の問題は依然として残る。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(A)架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と、(B)前記架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(C)無機充填剤とを含有し、これら3種の割合を調整することで、長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物を提供できるという特異的な効果を見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明は、(A)珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる架橋性珪素基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体100重量部と、(B)前記架橋性珪素基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体0.1〜30重量部と、(C)無機充填剤1〜300重量部とを含有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物である。
【0013】
(2)また、本発明は、前記架橋性珪素基が下記一般式(I)で表される、(1)に記載の組成物である。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基又はRSiO−(Rは前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。nは0〜19の整数を示す。aは0〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示すが、aとbとの和は1以上である。なお、上記一般式(I)を構成する一般式(II)
【化2】

における全てのbが同一である必要はない。)
【0014】
(3)また、本発明は、前記Xがアルコキシ基である、(2)に記載の組成物である。
【0015】
(4)また、本発明は、前記Xがメトキシ基である、(3)に記載の組成物である。
【0016】
(5)また、本発明は、前記飽和炭化水素系重合体がイソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体である、(1)から(4)のいずれかに記載の組成物である。
【0017】
(6)また、本発明は、前記飽和炭化水素系重合体が前記架橋性珪素基を重合体分子鎖の末端に有する、(1)から(5)のいずれかに記載の組成物である。
【0018】
(7)また、本発明は、前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体が(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体である、(1)から(6)のいずれかに記載の組成物である。
【0019】
(8)また、本発明は、前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体がメタクリル酸アルキルエステル系重合体である、(7)に記載の組成物である。
【0020】
(9)また、本発明は、前記無機充填剤が炭酸カルシウムである、(1)から(8)のいずれかに記載の組成物である。
【0021】
(10)また、本発明は、前記炭酸カルシウムが、表面処理された炭酸カルシウムである、(9)に記載の組成物である。
【0022】
(11)また、本発明は、前記炭酸カルシウムがアクリル酸及び/又はポリアクリル酸あるいはこれらの誘導体で表面処理された炭酸カルシウムである、(10)に記載の組成物である。
【0023】
(12)また、本発明は、(1)から(11)のいずれかに記載の組成物からなるシール材である。
【0024】
(13)また、本発明は、(12)に記載のシール材を介して太陽電池パネルの端部と固定部材とが接着された太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0027】
<無溶剤一液型湿気硬化性組成物>
本発明の無溶剤一液型湿気硬化性組成物は、飽和炭化水素系重合体と、(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、無機充填剤とを必須成分とする。また、必須成分のほか、架橋性珪素基を有する他の有機重合体や各種添加剤を必要に応じて併用できる。以下、これらの構成要素について説明する。
【0028】
[(A)飽和炭化水素系重合体]
まず、(A)成分として、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる架橋性珪素基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体について説明する。架橋性珪素基の代表例としては、式(I)で表わされる基があげられる。
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基又はRSiO−(Rは前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2又は3を、bは0、1又は2を、それぞれ示す。またn個の式(II):
【化4】

における全てのbが同一である必要はない。nは0〜19の整数を示す。但し、a+(bの和)≧1を満足するものとする。)
【0029】
該加水分解性基や水酸基は1個の珪素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、a+(bの和)は1〜5の範囲が好ましい。加水分解性基や水酸基が架橋性珪素基中に2個以上結合する場合には、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
架橋性珪素基を形成する珪素原子は、1個以上20個以下である。
なお、式(III):
【化5】

(式中、R,X,aは前記と同じ)で表わされる架橋性珪素基が、入手が容易である点から好ましい。
【0031】
上記Rの具体例としては、例えばメチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基や、RSiO−で示されるトリオルガノシロキシ基等があげられる。これらの中では、実用的な反応速度を有している点で、メチル基が好ましい。
【0032】
上記Xで示される加水分解性基としては、特に限定されず、従来公知の加水分解性基であればよい。具体的には、例えば水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等があげられる。これらの中では、実用的な反応速度、貯蔵安定性が得られるという観点から、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基及びアルケニルオキシ基が好ましく、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基がさらに好ましい。加水分解性が穏やかで取扱やすいという観点からアルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基の中では炭素数の少ないものが高い反応性有し、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなるほどに反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが通常メトキシ基やエトキシ基が使用される。
【0033】
式(III)で示される架橋性珪素基の場合、硬化性を考慮するとaは2以上が好ましい。通常、aが3の場合、aが2の場合に比較し、硬化速度が大きくなる。
【0034】
架橋性珪素基の具体的な例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、−Si(OR、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等のジアルコキシシリル基、−SiR(OR、があげられる。
【0035】
ここでRはアルキル基であり、炭素数10以下のアルキル基が好ましく、メチル基やエチル基がさらに好ましい。これらの中で、メチルジメトキシシリル基は穏やかな反応性を有し、工業的に製造されている飽和炭化水素系重合体の架橋性珪素基としても使用されている。架橋性珪素基として大きい反応性を有するトリメトキシシリル基が知られており、本発明の飽和炭化水素系重合体の架橋性珪素基として使用してもよい。
【0036】
架橋性珪素基は1種で使用しても良く、2種以上併用してもかまわない。架橋性珪素基は、主鎖又は側鎖あるいはいずれにも存在しうる。硬化物の引張特性等の硬化物物性が優れる点で架橋性珪素基が分子鎖末端に存在するのが好ましい。
【0037】
架橋性珪素基は(A)成分の重合体1分子中に少なくとも1個、好ましくは1.1〜5個存在するのがよい。分子中に含まれる架橋性珪素基の数が1個未満になると、硬化性が不充分になり、また多すぎると網目構造があまりに密となるため良好な機械特性を示さなくなる。
【0038】
架橋性珪素基は飽和炭化水素系重合体分子鎖の末端に存在してもよく、内部に存在してもよく、両方に存在してもよい。とくに架橋性珪素基が分子鎖末端に存在する場合には、最終的に形成される硬化物に含まれる飽和炭化水素系重合体成分の有効網目鎖量が多くなるため、高強度で高伸びのゴム状硬化物か得られやすくなる等の点から好ましい。また、これら架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0039】
本発明に用いる架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体の骨格をなす重合体は、
(1)エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のような炭素数1〜6のオレフィン系化合物を主モノマーとして重合させる
(2)ブタジエン、イソプレン等のようなジエン系化合物を単独重合させたり、上記オレフィン系化合物とジエン系化合物とを共重合させたりしたのち水素添加する
等の方法によりうることができるが、末端に官能基を導入しやすい、分子量を制御しやすい、末端官能基の数を多くすることができる等の点から、イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体であるのが好ましい。
【0040】
なお、本明細書にいう飽和炭化水素系重合体とは、芳香環以外の炭素−炭素不飽和結合を実質的に含有しない重合体を意味する概念である。
【0041】
前記イソブチレン系重合体は、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されていてもよく、イソブチレンと共重合性を有する単量体単位をイソブチレン系重合体中の好ましくは50%(重量%、以下同様)以下、さらに好ましくは30%以下、とくに好ましくは10%以下の範囲で含有してもよい。
【0042】
このような単量体成分としては、例えば炭素数4〜l2のオレフィン、ビニルエーテル、芳香族ビニル化合物、ビニルシラン類、アリルシラン類等があげられる。このような共重合体成分の具体例としては、例えば1−ブテン、2ーブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、β−ビネン、インデン、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリメチルシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン等があげられる。
【0043】
なお、前記イソブチレンと共重合性を有する単量体としてビニルシラン類やアリルシラン類を使用すると珪素含量が増加し、シランカップリング剤として作用しうる基が多くなり、得られる組成物の接着性が向上する。
【0044】
前記水添ポリブタジエン系重合体や他の飽和炭化水素系重合体においても、上記イソブチレン系重合体の場合と同様に、主成分となる単量体単位の他に他の単量体単位を含有させてもよい。
【0045】
また本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には、本発明の目的が達成される範囲でブタジエン、イソプレンのようなポリエン化合物のごとき重合後2重結合の残るような単量体単位を少量、好ましくは10%以下、さらには5%以下、とくには1%以下の範囲で含有させてもよい。
【0046】
前記飽和炭化水素系重合体、好ましくはイソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体の数平均分子量は、500〜30,000であることが好ましく、とくに1,000〜15,000であることが取扱いやすい等の点から好ましい。数平均分子量が500未満であると、硬化物の伸び特性が低下するため、好ましくない。数平均分子量が30,000を超えると、重合体が流動性を損ない、取扱いの利便性を欠く点で好ましくない。飽和炭化水素系重合体(A)は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0047】
前記架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体のうち、分子鎖末端に架橋性珪素基を有するインブチレン系重合体は、イニファ一法と呼ばれる重合法(イニファーと呼ばれる開始剤と連鎖移動剤を兼用する特定の化合物を用いるカチオン重合法)で得られた末端官能型、好ましくは全末端官能型イソブチレン系重合体を用いて製造することができる。このような製造法は、例えば特開昭63−006041号公報、特開昭63−006003号公報、特開昭63−254149号公報、特開平01−038407号公報等に記載されている。
【0048】
また分子鎖内部に架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体は、イソブチレンを主体とするモノマー中に架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等を添加し、共重合せしめることにより製造される。
【0049】
さらに分子鎖末端に架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体を製造する際の重合に際して、主成分であるイソブチレンモノマー以外に架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等を共重合せしめたのち末端に架橋性珪素基を導入することにより、末端及び分子鎖内部に架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体が製造される。
【0050】
前記架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等の具体例としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルジメチルメトキシシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等があげられる。
【0051】
架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体は株式会社カネカよりエピオンの商標名で製造販売されている。
【0052】
前記水添ポリブタジエン系重合体は、例えばまず末端ヒドロキシ水添ポリブタジエン系重合体の水酸基を−ONaや−OK等のオキシメタル基にしたのち式(IV):
【化6】

(式中、Yは塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、Rは−R−、
【化7】

(式中、Yは塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、Rは−R−、
(Rは炭素数1〜20の2価の炭化水素基で、好ましい具体例としてはアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基があげられる)で示される2価の有機基で、―CH―、
【化8】

(R″は炭素数1〜10の炭化水素基)より選ばれた2価の基がとくに好ましい)で示される有機ハロゲン化合物を反応させることにより、末端オレフィン基を有する水添ポリブタジエン系重合体(以下、末端オレフィン水添ポリブタジエン系重合体ともいう)が製造される。
【0053】
末端ヒドロキシ水添ポリブタジエン系重合体の末端水酸基をオキシメタル基にする方法としては、Na、Kのごときアルカリ金属;NaHのごとき金属水素化物;NaOCHのごとき金属アルコキシド;苛性ソーダ、苛性カリのごとき苛性アルカリ等と反応させる方法があげられる。
【0054】
前記方法では、出発原料として使用した末端ヒドロキシ水添ポリブタジエン系重合体とほぼ同じ分子量をもつ末端オレフィン水添ポリブタジエン系重合体が得られるが、より高分子量の重合体を得たい場合には、式(4)の有機ハロゲン化合物を反応させる前に、塩化メチレン、ビス(クロロメチル)ベンゼン、ビス(クロロメチル)エーテル等のごとき、1分子中にハロゲン原子を2個以上含む多価有機ハロゲン化合物と反応させれば分子量を増大させることができ、そののち式(4)で示される有機ハロゲン化合物と反応させれば、より高分子量でかつ末端にオレフィン基を有する水添ポリブタジエン系重合体をうることができる。
【0055】
前記式(4)で示される有機ハロゲン化合物の具体例としては、例えばアリルクロライド、アリルブロマイド、ビニル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(ブロモメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)エーテル、アリル(クロロメトキシ)ベンゼン、1−ブテニル(クロロメチル)エーテル、l−へキセニル(クロロメトキシ)ベンゼン、アリルオキシ(クロロメチル)ベンゼン等があげられるが、それらに限定されるものではない。これらのうちでは安価で、かつ容易に反応することからアリルクロライドが好ましい。
【0056】
前記末端オレフィン水添ポリブタジエン系重合体への架橋性珪素基の導入は、分子鎖末端に架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体の場合と同様、例えば式(I)で表わされる基に水素原子が結合したヒドロシラン化合物、好ましくは式:
【化9】

【0057】
(式中、R、X、aは前記に同じ)で示される化合物を白金系触媒を用いて付加反応をさせることにより製造される。
【0058】
前記式(I)で表わされる基に水素原子が結合したヒドロシラン化合物の具体例としては、例えばトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、フェニルジクロロシランのごときハロゲン化シラン類;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシランのごときアルコキシシラン類;メチルジアセトキシシラン、フェニルジアセトキシシランのごときアシロキシシラン類;ビス(ジメチルケトキシメート)メチルシラン、ビス(シクロヘキシルケトキシメート)メチルシランのごときケトキシメートシラン類等があげられるがこれらに限定されるものではない。これらのうちでは、反応性が高いことからハロゲン化シラン類、アルコキシシラン類が好ましく、反応性だけでなく安全性も高いことからアルコキシシラン類がより好ましい。
【0059】
[(B)(メタ)アクリル酸エステル系重合体]
本発明においては前記(A)成分とともに、(A)成分の硬化物の特徴である耐候性、耐熱性、耐水性等を良好に保持しながら、組成物の粘度を低下させて施工性を改善する、硬化性をよくする、接着性を高める等のために、(B)成分である架橋性珪素基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体が使用される。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)に含有される架橋性珪素基は、前述の飽和炭化水素系重合体(A)に含有される架橋性珪素基と同様の基である。
【0061】
架橋性珪素基は飽和炭化水素系重合体(A)の場合と同様、(メタ)アクリル酸エステル系重合体1分子中に少なくとも1個、好ましくは1.1〜5個存在し、(メタ)アクリル酸エステル系重合体分子鎖の末端に存在してもよく、内部に存在してもよく、両方に存在してもよい。(メタ)アクリル酸エステル系重合体1分子中の架橋性珪素基の数が1個未満であると、十分な接着性を得られない可能性がある点で好ましくない。架橋性珪素基の数が5個を超えると、組成物の粘度が高くなりすぎる可能性がある点で好ましくない。また、これら架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0062】
本発明に用いる(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の骨格をなす重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と要すれば(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合性を有するその他の単量体単位とからなり、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有率が50%以上であるのが好ましく、さらに70%以上が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が50%未満になると、ガラス転位温度(Tg)が下がり、耐熱性及び弾性率の低下がおこる等の傾向が生じる。
【0063】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、式(VIII):
【化10】

(式中、Rは1価の炭素数1〜30の置換又は非置換の炭化水素基、Rは水素原子又はメチル基を示す)で表わされる単位である。
【0064】
前記式(VIII)中のRである1価の炭素数1〜30の置換又は非置換の炭化水素基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルぺンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、イソオクチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、アリル基等の分岐状又は非分岐状の炭素数1〜30のアルキル基やアルキレン基、ベンジル基等の炭素数1〜30の置換アルキル基、フェニル基、クロルフェニル基等の炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基等があげられる。
【0065】
これらのうちではアルキル基が入手が容易である等の点から好ましく、とくにメチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基のような炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。
【0066】
前記要すれば使用される(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合性を有する単量体の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸系単量体;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,3−ブチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等のアミド基、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を含む単量体;その他γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、無水マレイン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イミノールメタクリレート、ジアリルフタレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、プロビオン酸ビニル、エチレン、プロビレン、イソブチレン等の単量体や、イソブチレンと共重合性を有するものとしてすでに記載している炭素数4〜12のオレフィン、共役ジエン、ビニルエーテル、ビニルシラン類、アリルシラン類等があげられる。
【0067】
前記架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製法は、特開昭60−31556号公報、同61−34067号公報、同57−36109号公報、同57−55954号公報、同61−225205号公報等に開示されているが、該重合体のうち、分子鎖末端に架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、例えば下記の方法にて製造することができる。
【0068】
すなわち、
(i)架橋性珪素基を含有するラジカル重合開始剤を使用して(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合性を有する単量体を要すれば含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合させる、
(ii)架橋性珪素基を含有するラジカル重合連鎖移動剤を使用して(i)の(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合させる、
(iii)(i)及び(ii)で用いたラジカル重合開始剤及びラジカル重合連鎖移動剤を併用して(i)の(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合させる、
(iv)カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、エポキシ基等の官能基(以下、Z基という)を含むラジカル重合開始剤及び(又は)ラジカル重合連鎖移動剤を使用して(i)の(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合させることにより、重合体分子末端にZ基を有する重合体を製造するか、さらにZ基とトリイソシアネートのような多官能性化合物とを反応させて重合体分子末端に官能基(以下、Z’基という)を有する重合体を製造するかして、該Z基又はZ’基と反応しうるイソシアネート基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、アクリル基等の官能基を有し、かつ架橋性珪素基を有するシリコン化合物を、重合体末端のZ基又はZ’基と反応させる
等の方法である。
【0069】
前記架橋性珪素基を有するラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば特開昭60−31558号公報に開示されている
【化11】

【化12】

【化13】

等のアゾ系のラジカル重合開始剤や、
【化14】

【化15】

等の過酸化物系のラジカル重合開始剤等があげられる。
前記架橋性珪素基を有するラジカル重合連鎖移動剤としては、
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

等があげられる。
【0070】
また、分子鎖内部に架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を主体とするモノマー中に架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等を添加し、共重合せしめることにより製造される。
【0071】
さらに分子鎖末端及び内部に架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、前記分子末端に架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸系重合体を製造する際に、さらに架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等を添加して共重合せしめることにより製造される。
【0072】
なお、架橋性珪素基を有するビニルシラン類やアリルシラン類等の具体例としては、前述した分子鎖内部に架橋性珪素基を有するイソブチレン系重合体を製造する際に用いられるものと同様のものがあげられる。
【0073】
特開2001−040037号公報、特開2003−048923号公報及び特開2003−048924号公報には架橋性珪素基を有するメルカプタン及びメタロセン化合物を使用して得られる架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。また、特開2005−082681号公報合成例には高温連続重合による架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。本発明の(B)成分としてこのような重合体を使用することができる。
【0074】
また、特開2000−086999号公報等にあるように、架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体であって架橋性珪素基が分子鎖末端に高い割合で導入された重合体も知られている。このような重合体はリビングラジカル重合によって製造されているため、高い割合で架橋性珪素基を分子鎖末端に導入することができる。本発明の(B)成分としてこのような重合体を使用することができる。
【0075】
本発明では以上に述べたような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体を使用することができる。このなかで、組成物の作業性が良好である点で、架橋性珪素基を有するメルカプタン及びメタロセン化合物を使用して得られる架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が好ましい。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の数平均分子量は500〜100,000のものが取扱いの容易さ等の点から好ましく、1,000〜75,000がさらに好ましい。数平均分子量が500未満であると、硬化物の伸び特性が良くないため、好ましくない。数平均分子量が100,000を超えると、粘度が高く、組成物の粘度が高くなり作業性が低下するため、好ましくない。
【0077】
飽和炭化水素系重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)との使用割合は、組成物の用途、作業性、要求される硬化物や組成物の特性、コスト等により任意の割合で用いればよいが、通常(A)成分100部(重量部、以下同様)に対して(B)成分1〜30部の範囲で用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系重合体の量が1重量部未満であると、十分な接着性が得られないため、好ましくない。(メタ)アクリル酸エステル系重合体の量が30重量部を超えると、粘度が高く、組成物の粘度が高くなり作業性が低下するため、好ましくない。
【0078】
[(C)無機充填剤]
本発明では(C)成分として無機充填剤を使用する。無機充填剤を使用することにより(A)成分の重合体及び(B)成分の重合体を含有する一液型湿気硬化性組成物が保存中に接着性が低下することを防止する。無機充填剤としては、ヒュームシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸及びカーボンブラック、微細炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムあるいはこれらの表面処理物等の炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミ、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華、ガラスバルーン、シラスバルーン及び無機繊維等の如き充填剤が使用できる。
【0079】
これら充填剤は1種類のみで使用してもよいし、2種類以上混合使用してもよい。これらの中では炭酸カルシウムやアルミナが好ましい。特に、安価である点で炭酸カルシウムが好ましい。炭酸カルシウムは平均粒径が1ミクロン以下の膠質炭酸カルシウムであっても、平均粒径が1ミクロンを超える重質炭酸カルシウムであってもよい。
【0080】
また、これらの炭酸カルシウムは表面処理されていなくても、されていてもよい。表面処理された炭酸カルシウムとして、高級脂肪酸あるいはこの金属塩、エステル等の誘導体により表面処理された炭酸カルシウムがよく知られている。本発明においては高級脂肪酸あるいはこの誘導体により表面処理された炭酸カルシウムを使用することができるが、やや特殊な表面処理炭酸カルシウムであるアクリル酸及び/又はポリアクリル酸、あるいはこれらの金属塩、エステル等の誘導体により表面処理された炭酸カルシウムを使用することが好ましい。アクリル酸及び/又はポリアクリル酸あるいはこれらの誘導体で表面処理された炭酸カルシウムを使用すると、詳細な理由は不明であるが、無処理のものや高級脂肪酸誘導体で処理された炭酸カルシウムを使用する場合に比較し硬化性組成物の深部硬化性が優れた組成物を得ることができる。特に、ポリアクリル酸、あるいはこの金属塩、エステル等の誘導体により表面処理された炭酸カルシウムが好ましい。
【0081】
無機充填剤の使用量は(A)成分の重合体100部に対して(C)成分の無機充填剤を1〜300部、好ましくは50〜300部、さらに好ましくは100〜200部の範囲で用いられる。特に無機充填剤を100部以上使用した場合に、組成物の保存後に接着性が低下しない効果が顕著である。1重量部未満であると、無溶剤一液型で長期保存した場合、適切な接着性が得られない点で好ましくない。また、300重量部を超えると、組成物の粘度が高くなり作業性が低下するため、好ましくない。
【0082】
[他の有機重合体]
本発明の一液型湿分硬化性組成物には架橋性珪素基を有する他の有機重合体を併用してもよい。このような重合体として、アジピン酸、テレフタル酸、琥珀酸等の多塩基酸とビスフェノールA、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールとの縮合重合体やラクトン類の開環重合体等のポリエステル系重合体;ε−カプロラクタムの開環重合によるナイロン6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合によるナイロン6・6、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の縮重合によるナイロン6・10、ε−アミノウンデカン酸の縮重合によるナイロン11、ε−アミノラウロラクタムの開環重合によるナイロン12、上記のナイロンのうち2成分以上の成分を有する共重合ナイロン等のポリアミド系重合体;ポリサルファイド系重合体;例えばビスフェノールAと塩化カルボニルより縮重合して製造されるポリカーボネート系重合体、ジアリルフタレート系重合体等が例示される。
【0083】
架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体や架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体以外の重合体を併用する場合、架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体の合計量が架橋性珪素基を有する有機重合体全量の50重量%以上、さらには70重量%以上、特には80重量%以上が好ましい。
【0084】
[硬化触媒]
本発明の一液型湿分硬化性組成物には必要に応じて硬化触媒(シラノール縮合触媒)、可塑剤、接着性付与剤、希釈剤、粘着付与剤等の各種添加剤を併用することができる。
硬化触媒としてはテトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンテトラアセチルアセトナート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジネオデカネート(ジオクチル錫ジバーサテート)、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価錫化合物、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫、ジネオデカン酸錫(バーサチック酸錫)等の2価錫化合物等の有機錫化合物類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類;ビスマス−トリス(2−エチルヘキソエート)、ビスマス−トリス(ネオデカノエート)等のビスマス塩と有機カルボン酸又は有機アミンとの反応物等;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類;オクチル酸鉛等の有機鉛化合物;ナフテン酸鉄等の有機鉄化合物;有機バナジウム化合物;ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等のアミン系化合物あるいはそれらのカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物;酸性リン酸エステル化合物等が例示される。
【0085】
これらの硬化触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらの硬化触媒のうち、有機金属化合物類、又は有機金属化合物類とアミン系化合物の併用系が硬化性の点から好ましい。さらには、硬化速度が速い点からジブチル錫マレエート、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジオクチル錫ジネオデカネートが好ましい。また、環境問題の点からジオクチル錫化合物が好ましい。硬化触媒は架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体100重量部に対して0.5〜10重量部用いるのが好ましい。0.5重量部未満であると、十分な硬化速度が得られない点で好ましくない。10重量部を超えると、0.5〜10重量部である場合に比べて硬化速度が速くなるとはいえず、無駄な硬化触媒が生じるという点で好ましくない。
【0086】
[可塑剤]
可塑剤としては、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソウンデシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート等の如きフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、セバシン酸ジブチル等の如き脂肪族二塩基酸エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル等の如きグリコールエステル類;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチルの如き脂肪族エステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシステアリン酸ベンジル等の如きエポキシ可塑剤類;2塩基酸と2価アルコールとのポリエステル類等のポリエステル系可塑剤;ポリプロピレングリコールやその誘導体等のポリエーテル類;ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル可塑剤;ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン等のポリスチレン類;ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリイソブテン、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン−ナフテン系混合炭化水素、塩素化パラフィン類等の可塑剤が単独又は2種類以上の混合物の形で使用できる。
【0087】
とくに、耐候性の点から重合体主鎖内に不飽和結合を含有しないポリプロピレングリコールやその誘導体等のポリエーテル系可塑剤、ポリ(メタ)アクリル酸エステル可塑剤、ポリイソブテン、パラフィン等が好ましい。特に、高分子可塑剤である、ポリプロピレングリコールやその誘導体等のポリエーテル系可塑剤やポリ(メタ)アクリル酸エステル可塑剤が好ましい。また、アジピン酸ジメチルのような、多塩基酸と炭素数1〜3のアルコールとのエステル、特に多塩基酸とメタノールとのエステルを使用すると組成物の硬化時に深部硬化性が改善されるという効果がある。可塑剤を使用する場合、架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体100重量部に対して1〜200重量部、さらには5〜150重量部添加することが好ましい。
【0088】
[接着性付与剤]
接着性付与剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ジアミノイソプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル型不飽和基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等の塩素原子含有シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート含有シラン類;メチルジメトキシシラン、トリメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等のハイドロシラン類等が具体的に例示されうるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
接着性付与剤は、あまりに多く添加すると、硬化物のモジュラスが高くなり、少なすぎると接着性が低下することから、架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体100重量部に対して0.1〜15重量部添加することが好ましく、さらには0.5〜10重量部添加することが好ましい。
【0090】
[粘着付与剤]
被着体へのぬれ性の改善や、はく離強度を高めるため粘着付与剤を添加してもよい。石油樹脂系、ロジン・ロジンエステル系、アクリル樹脂系、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂やそのフェノール樹脂共重合体、フェノール・フェノールノボラック樹脂系等の粘着付与樹脂が例示されうる。
【0091】
[その他の添加剤]
その他の添加剤としては、例えば、水添ヒマシ油、有機ベントナイト、ステアリン酸カルシウム等のタレ防止剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。さらに、必要に応じてエポキシ樹脂等の他の樹脂、エポキシ樹脂硬化剤等の硬化剤、物性調整剤、保存安定性改良剤(脱水剤)、滑剤、発泡剤等の添加剤も適宜添加することが可能である。
【0092】
[用途]
本発明の一液型湿気硬化性組成物は前述のごとく保存性や作業性が良好であり、室温で空気中の水分等により硬化し、耐候性、耐水性、耐熱性、強度、伸び特性、塗装性、接着性等の良好なゴム状弾性体や硬化物を与える。それゆえ弾性を有する塗膜を与える塗料、防水剤、ポッティング材、接着剤、シール材等として好適に使用することができる。とりわけポッティング材、接着剤、シール材として有用である。
【0093】
<シール材>
本発明の一液型湿気硬化性組成物は、特にシール材として好適である。
従来は、主として、ホットメルト型ブチルゴム系シール材が用いられていた。しかし、このシール材は、耐湿性はよいものの、架橋を伴わないため、直射日光が当たると温度が上昇しシールが変形するという課題があった。
この課題を解決するため、架橋性ポリイソブチレン系のシール材も提案されていたが、深部硬化が遅く、ガラス、アルミ等の被着体に対する接着性が低いという課題があった。
本発明に係る一液型湿気硬化性組成物をシール材として用いると、架橋性ポリイソブチレン系であるため、直射日光の当たる場所に設置してもシールが変形することを防止できるとともに、深部硬化性があり、ガラス、アルミ等の被着体に対する接着性も十分であるという格別の効果を奏する。
【0094】
<太陽電池モジュール>
上記シール材は、太陽電池モジュールに対して用いること、具体的には、太陽電池パネルの端部と固定部材とを固定する用途で用いることが好適である。太陽電池パネルは、直射日光の当たる場所に設置されるため、シール変形の防止が求められる。太陽電池パネルのシール材は、深部硬化性も求められる。この点で、上記シール材は、太陽電池モジュールに対して用いることが好適である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
【表1】

【0097】
<合成例>
メチルメタクリレート78重量部と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−503」,信越化学工業社製)22重量部と、金属触媒としてのルテノセンジクロライド0.1重量部とを、溶剤である酢酸エチル40重量部とともにフラスコに入れ、窒素ガスを導入しながら80℃に加熱した。次いで、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−803」,信越化学工業社製)8重量部をフラスコ内に添加し、80℃で6時間加熱した。室温に冷却後、ベンゾキノン溶液(95%THF溶液)を20重量部添加して重合を停止した。溶剤及び未反応物を留去し、トリメトキシシリル基を有するアクリル酸エステル系重合体を得た。この重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、約6000であった。
【0098】
<実施例1>
(A)架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体としてメチルジメトキシシリル基末端ポリイソブチレン(商品名「エピオンEP303S」,プロセスオイルを23重量%含有するメチルジメトキシシリル基末端ポリイソブチレン,カネカ社製)100重量部と、(B)架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体として上記合成例で得たトリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレート10重量部と、(C)無機充填剤として脂肪酸で表面処理された微細炭酸カルシウム(商品名「白艶化CCR」,脂肪酸で表面処理された平均粒径が0.08μmの炭酸カルシウム,白石工業社製)50重量部とを容器に仕込み、加熱減圧混合撹拌を行い、配合物質の脱水を行った。その後、接着付与剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名「KBM−603」,信越化学工業社製)3重量部と、硬化触媒として有機錫化合物(商品名「ネオスタンU−700ES」,日東化成社製)3重量部とを添加し、撹拌配合して実施例1の無溶剤一液型湿気硬化性組成物を得た。
【0099】
<比較例1>
(C)無機充填剤を加えなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例1の組成物を得た。
【0100】
<比較例2>
(B)トリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレートを加えなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例2の組成物を得た。
【0101】
<比較例3>
(B)トリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレート及び(C)無機充填剤を加えなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例3の組成物を得た。
【0102】
<貯蔵条件>
各実施例・比較例の組成物を室温で7日間貯蔵した。
【0103】
<相分離の評価>
実施例1及び比較例1の組成物は、2種類の重合体の混合物である。そこで、実施例1及び比較例1の組成物について、貯蔵期間中に相分離が生じているか否かを評価した。相分離の有無は、目視で確認した。2種類の重合体が上下に分離し、界面が生じていることを目視で明確に確認できる場合を「相分離あり」とし、そうでない場合を「相分離なし」とした。
【0104】
<ダンベル物性の評価>
各実施例・比較例の組成物について、ダンベル物性を評価した。貯蔵安定性の評価で用いた貯蔵条件と同じ条件で貯蔵した硬化性組成物を、JIS K6251法に準拠して23℃、50%RHの条件下に7日間放置した後、厚さ2.0mmのダンベル状試験片(ダンベル状3号形)に切り出し、引張速度200mm/minで、引張強さ(単位:MPa)を測定した。結果を表2に示す。
【0105】
<透湿度の評価>
各実施例・比較例の組成物について、透湿度を評価した。透湿度の評価は、JIS Z0208法に準拠して行った。
【0106】
<接着性の評価>
各実施例・比較例の組成物について、接着性を評価した。接着性の評価は、手剥離による簡易接着試験によって行った。簡易接着性試験は、日本建築学会建築工事標準仕様書JASS8に準拠した。
【0107】
被着体として、縦50mm、横50mm、厚さ2.0mmのアルミニウムを用いた。この被着体に、各実施例・比較例の組成物を、ビート塗布して試験体を得た。ビートの形状は、幅10mm、厚さ2mm、長さ50mmであった。ビート塗布後、試験体を23℃、50%RHで1週間養生させた。その後、硬化物を180℃方向に手で引っ張り、接着性を確認した。結果を表2に示す。凝集破壊が確認される場合を“○”とし、凝集破壊が確認されない場合を“×”とした。
【0108】
【表2】

【0109】
(A)分子中に架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体100重量部と、(B)前記架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体0.1〜30重量部と、(C)無機充填剤1〜300重量部とを含有することで、長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物を提供できることが確認された(実施例1)。
【0110】
一方、(A)飽和炭化水素系重合体と、(B)(メタ)アクリル酸エステル系重合体10質量部とからなり、(C)無機充填剤を含まない組成物は、重合体を混合してから3日以内に相分離を生じ、十分な接着性を有しなかった。そのため、上記組成物は、無溶剤一液型としては適さないことが確認された(比較例1)。また、(B)(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含まない組成物は、無溶剤一液型として7日間放置すると、(C)無機充填剤の有無にかかわらず、十分な接着性を有しないことが確認された。そのため、この組成物もまた、無溶剤一液型としては適さないことが確認された(比較例2、3)。
【0111】
【表3】

【0112】
<実施例2>
(A)上記メチルジメトキシシリル基末端ポリイソブチレン100重量部と、(B)上記合成例で得たトリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレート10重量部と、(C)無機充填剤として脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウム(商品名「シーレッツ200」,ステアリン酸で表面処理された平均粒径が0.05μmの炭酸カルシウム,丸尾カルシウム社製)100重量部とを容器に仕込み、加熱減圧混合撹拌を行い、配合物質の脱水を行った。その後、接着付与剤として上記N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン3重量部と、硬化触媒として上記有機錫化合物3重量部とを添加し、撹拌配合して実施例2の無溶剤一液型湿気硬化性組成物を得た。
【0113】
<実施例3>
(C)成分として上記脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムに代えてポリアクリル酸で表面処理された膠質炭酸カルシウム(商品名「エーマックス」,ポリアクリル酸で表面処理された平均粒径が0.1μmの炭酸カルシウム,丸尾カルシウム社製)を100重量部用いたこと以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例3の組成物を得た。
【0114】
<実施例4>
上記ポリアクリル酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムの量が50重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例4の組成物を得た。
【0115】
<実施例5>
(C)成分として上記脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムに代えてポリアクリル酸で表面処理された重質炭酸カルシウム(商品名「ルミナスD2」,ポリアクリル酸で表面処理された平均粒径が5μmの炭酸カルシウム,丸尾カルシウム社製)を100重量部用いたこと以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例5の組成物を得た。
【0116】
<実施例6>
上記ポリアクリル酸で表面処理された重質炭酸カルシウムの量が50重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例6の組成物を得た。
【0117】
<実施例7>
上記ポリアクリル酸で表面処理された重質炭酸カルシウムの量が300重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例7の組成物を得た。
【0118】
<実施例8>
(C)成分として上記脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムに代えて表面処理されていない重質炭酸カルシウム(商品名「ホワイトンSB」,表面処理されていない平均粒径が1.5μmの炭酸カルシウム,備北粉化社製)を100重量部用いたこと以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例8の組成物を得た。
【0119】
<実施例9>
(C)成分として上記脂肪酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムに代えてアルミナ(商品名「ハイジライトH32」,昭和電工社製)を100重量部用いたこと以外は、実施例2と同様の方法にて、実施例9の組成物を得た。
【0120】
<比較例4>
上記トリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレートの量が67重量部であり、上記ポリアクリル酸で表面処理された膠質炭酸カルシウムの量が50重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、比較例4の組成物を得た。
【0121】
<比較例5>
上記トリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレートの量が67重量部であり、上記ポリアクリル酸で表面処理された重質炭酸カルシウムの量が50重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、比較例5の組成物を得た。
【0122】
<比較例6>
上記トリメトキシシリル基含有ポリメチルメタクリレートの量が67重量部であり、上記ポリアクリル酸で表面処理された重質炭酸カルシウムの量が100重量部であること以外は、実施例2と同様の方法にて、比較例6の組成物を得た。
【0123】
上記組成物について、相分離、ダンベル物性、透湿度、接着性を評価した。また、いくつかの実施例については次の方法にて深部硬化性も評価し、いくつかの実施例及び比較例については次の方法にて作業性も評価した。結果を表4に示す。
【0124】
<深部硬化性の評価>
深部硬化性の評価は、次の方法にて行った。貯蔵安定性の評価で用いた貯蔵条件と同じ条件で貯蔵した硬化性組成物を、直径40mm、深さ20mmのポリエチレン製容器に充填し、表面を平滑にならした後、23℃、50%RHの環境下に24時間置いた。24時間経過後、硬化した部分を取り出し、表面からの厚さをマイクロゲージで測定した。
【0125】
<作業性の評価>
作業性の評価は、次の方法にて行った。BS型回転粘度計(ローターNo.7)を用いて23℃、50%RHでの粘度を測定することによって行った。結果を表2に示す。粘度が1200Pa・s以下であるものを“○”とし、1200Pa・sを超えるものを“×”とした。
【0126】
【表4】

相分離の項目は、相分離がないときを“○”とし、あるときを“×”とした。
【0127】
無機充填剤が炭酸カルシウムである場合、(A)分子中に架橋性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体100重量部と、(B)前記架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体0.1〜30重量部と、(C)炭酸カルシウム1〜300重量部とを含有する組成物であれば、炭酸カルシウムの表面処理の仕方にかかわらず、また、炭酸カルシウムの粒径にかかわらず、長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有することが確認された(実施例2〜8)。
【0128】
また、上記組成物において、(C)成分である無機充填剤がアルミナであっても長期に保存でき、かつ、実際に使用する直前に攪拌しなくても優れた接着性を有することが確認された(実施例9)。
【0129】
なお、実施例4、6及び7ではダンベル物性、透湿度、接着性及び深部硬化性の評価を行っていないが、(C)成分である無機充填剤の量は50重量部で足りることは実施例1の結果から明らかであり、実施例4、6及び7においても良好なダンベル物性、透湿度、接着性及び深部硬化性を有するといえる。
【0130】
また、実施例2、3、5、8及び9では作業性(粘度)の評価を行っていないが、(C)成分である無機充填剤の量が300重量部であっても良好な粘度を示し(実施例7)、実施例2、3、5、8及び9は、いずれも無機充填剤の量が300重量部よりも少ないから、実施例2、3、5、8及び9においても良好な作業性を有するといえる。
【0131】
一方、(B)成分の量が30重量部を超えると、重合体を混合した後に相分離が生じ、実際に使用する直前に攪拌しなければならない可能性があるため、無溶剤一液型としては適さない可能性があることが確認された(比較例5)。また、重合体を混合した後に相分離が生じなかったとしても、組成物の粘度が極めて高く、カートリッジからの押し出し作業性に適さないことが確認された(比較例4及び6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる架橋性珪素基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体100重量部と、(B)前記架橋性珪素基を少なくとも1個有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体0.1〜30重量部と、(C)無機充填剤1〜300重量部とを含有する無溶剤一液型湿気硬化性組成物。
【請求項2】
前記架橋性珪素基は、下記一般式(I)で表される、請求項1に記載の組成物。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基又はRSiO−(Rは前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。nは0〜19の整数を示す。aは0〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示すが、aとbとの和は1以上である。なお、上記一般式(I)を構成する一般式(II)
【化2】

における全てのbが同一である必要はない。)
【請求項3】
前記Xは、アルコキシ基である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記Xは、メトキシ基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記飽和炭化水素系重合体は、イソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体である、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記飽和炭化水素系重合体は、前記架橋性珪素基を重合体分子鎖の末端に有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、メタクリル酸アルキルエステル系重合体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記無機充填剤は、炭酸カルシウムである、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記炭酸カルシウムは、表面処理された炭酸カルシウムである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記炭酸カルシウムは、アクリル酸及び/又はポリアクリル酸あるいはこれらの誘導体で表面処理された炭酸カルシウムである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の組成物からなるシール材。
【請求項13】
請求項12に記載のシール材を介して太陽電池パネルの端部と固定部材とが接着された太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2013−95861(P2013−95861A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240275(P2011−240275)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000108111)セメダイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】