説明

無端金属ベルトの製造方法

【課題】洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに加工油を除去することができる無端金属ベルトの製造方法を提供することにより、窒化処理を阻害する要因を排除し、無端金属ベルトの強度を確保するとともに、無端金属ベルトの歩留まりを改善する。
【解決手段】(f)圧延工程の後に行われ、(f)圧延工程において使用されベルト状部材5に付着した加工油6を除去する(g)加工油除去工程をさらに備え、(f)圧延工程において、加工油6は、無機系物質を含まないものを使用して、(g)加工油除去工程において、ベルト状部材5を加熱してベルト状部材5に付着した加工油6を蒸発させることによって、加工油6を除去した後に、(h)二次溶体化処理工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端金属ベルトの製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(所謂、CVT:Continuously Variable Transmission)等の動力伝達ベルトとして使用される無端金属ベルトには、高い靭性や疲労強度等が要求されるため、素材鋼として、代表的な高張力鋼であるマルエージング鋼が広く採用されている。マルエージング鋼は、ごく低炭素のマルテンサイト鋼を溶体化処理した後、さらに時効処理することによって強靭化させた鋼であり、靭性−強度のバランスが動力伝達ベルトの用途に使用する素材鋼として適している。
【0003】
素材鋼をマルエージング鋼とした無端金属ベルトは、従来広く採用されている。
従来の無端金属ベルトの製造方法では、素材鋼板としてのマルエージング鋼の鋼板ロールをまず所用大きさの鋼板に切断し、次に切断した鋼板を筒状に湾曲させた状態で、その端部を溶接して筒状のドラム部材に形成する。その後、ドラム部材に対して、溶接した部位の合金組成を均質化するために一次溶体化処理が施され、次に前記ドラム部材を所定幅で切断して、複数のリング状部材を形成する。その後、リング状部材を圧延して、ベルト状部材を形成する。
このようにして形成されたベルト状部材は、圧延等による加工応力を除去するために二次溶体化処理が施され、その後、より強度を向上させるために時効処理や窒化処理が施され、所定の靭性および強度を有する無端金属ベルトが製造される。
【0004】
また、従来の無端金属ベルトの製造方法を改善して、窒化処理が確実に施されるようにした無端金属ベルトの製造方法が、以下に示す特許文献1に開示されており公知となっている。
特許文献1に示される無端金属ベルトの製造方法では、窒化処理が確実に施されるようにするために、リング状部材に対して、一次溶体化処理を施した後に、例えば、バレル研磨をすることによって、リング状部材の表面を0.5〜3μm程度の厚さで除去し、一次溶体化処理時に形成された元素濃化層および酸化物層を機械的に除去している。これにより、窒化処理時に、ベルト状部材の表裏面に窒化処理を阻害する窒素化合物が生成することを防止して、無端金属ベルトの強度を確保する構成としている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示された無端金属ベルトの製造方法によって、一次溶体化処理時に形成された元素濃化層および酸化物層を除去したとしても、その他の原因によって窒化処理が阻害される場合があった。
窒化処理が阻害されるその他の原因としては、被処理物(ベルト状部材)の表面に付着したCaやK等の無機系物質によるものが挙げられ、無機系物質が付着した部位では部分的に窒化処理が阻害されることが判明してきた。
【0006】
窒化処理を阻害する原因となる無機系物質は、その多くは無端金属ベルトの製造工程のうち洗浄工程において使用される洗浄剤に含まれているものであり、その他にも、圧延工程において使用される加工油に含まれている場合がある。そして、洗浄剤や加工油に含まれている無機系物質は、洗浄工程を行っても完全に洗い落とすことが困難であるため、ベルト状部材の表裏面に残留してしまうことも判明してきた。
【0007】
洗浄工程は、圧延工程で使用される加工油を除去するための工程であり、従来、圧延工程の後で、二次溶体化処理工程の前に行われていた。
加工油の除去が不十分であると、残された加工油は二次溶体化処理時に蒸発(気化)して浸炭性のガスとなる。無端金属ベルトは、二次溶体化処理の際に浸炭性のガスに触れると、その表裏面には軽度の浸炭処理が施されてしまうが、浸炭処理が施された部位では、窒化処理が阻害されてしまう。つまり、二次溶体化処理の前には、加工油を完全に除去しておくことが必要であり、このため、洗浄工程は無端金属ベルトの製造方法において不可欠な工程となっていた。
【0008】
このように特許文献1に開示された従来技術やその他の従来技術では、洗浄工程において、洗浄剤を使用して加工油を除去しようとする構成であるため、窒化処理を阻害する要因となる無機系物質を完全に排除することができず、無端金属ベルトの強度を確保することが困難となっていた。
さらに特許文献1に開示された従来技術やその他の従来技術では、製造した無端金属ベルトの中には、窒化不良による強度不足のために不良品と判断されるものが相当数含まれており、無端金属ベルトの歩留まりに改善の余地が残されていた。
【特許文献1】特開2006−124757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、係る現状を鑑みてなされたものであり、洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに加工油を除去することができる無端金属ベルトの製造方法を提供することにより、窒化処理を阻害する要因を排除し、無端金属ベルトの強度を確保するとともに、無端金属ベルトの歩留まりを改善することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、金属製のリング状部材を圧延することによって、無端のベルト状部材を成形する圧延工程と、前記圧延工程の後に行われ、前記ベルト状部材を溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理工程の後に行われ、前記ベルト状部材を窒化処理する窒化処理工程と、を備える無端金属ベルトの製造方法であって、前記圧延工程の後に行われ、前記圧延工程において使用され前記ベルト状部材に付着した加工油を除去する加工油除去工程をさらに備え、前記圧延工程において、前記加工油は、無機系物質を含まないものを使用して、前記加工油除去工程において、前記ベルト状部材を加熱して前記ベルト状部材に付着した前記加工油を蒸発させることによって、前記加工油を除去した後に、前記溶体化処理工程を行うものである。
【0012】
請求項2においては、前記加工油除去工程は、メッシュベルト炉を用いて行われ、前記メッシュベルト炉は、前記加工油除去工程が行われる加工油除去ゾーンと、前記溶体化処理工程が行われる溶体化処理ゾーンと、を備えるものである。
【0013】
請求項3においては、前記メッシュベルト炉は、前記加工油除去ゾーンと、前記溶体化処理ゾーンと、の境界部に、不活性ガスまたは還元ガスによるガス層を形成するガスカーテンを備えるものである。
【0014】
請求項4においては、前記加工油除去ゾーンは、前記加工油の沸点以上の温度に保持されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに、ベルト状部材に付着した加工油を除去することができる。また、これにより、溶体化処理工程において、ベルト状部材に対して浸炭処理が施されることを確実に防止でき、かつ、窒化処理工程において、無機系物質によって、ベルト状部材に対する窒化処理が阻害されることを確実に防止できる。さらに、無端金属ベルトの歩留まりを改善することができる。
【0017】
請求項2においては、洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに、容易に加工油を除去することができる。
【0018】
請求項3においては、溶体化処理ゾーンに、加工油除去ゾーンで発生した浸炭性のガスが流入することを防止できる。これにより、溶体化処理工程において、ベルト状部材に対して浸炭処理が施されることを確実に防止できる。
【0019】
請求項4においては、加工油を蒸発させることによって、ベルト状部材に付着した加工油を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法について、図1を用いて説明をする。図1は本発明の一実施例に係る無端金属ベルトの製造工程の流れを示す模式図である。
本実施例において製造される無端金属ベルト7の素材鋼は、マルエージング鋼であり、その組成が、Ni:17〜19%、Co:7〜13%、Mo:3.5〜4.5%、Ti:0.3〜1%、Al:0.05〜0.15%、C:0.03%以下、Fe:残り全部、となるものを使用している。
【0021】
図1に示す如く、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、(a)鋼板ロール切断工程、(b)溶接工程、(c)一次溶体化処理工程、(d)リング状部材切断工程、(e)バレル研磨工程、(f)圧延工程、(g)加工油除去工程、(h)二次溶体化処理工程、(j)周長調整工程、(k)時効処理工程、(m)窒化処理工程の各工程を経て無端金属ベルト7が製造される。
【0022】
本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、まず始めに、(a)鋼板ロール切断工程が行われる。
(a)鋼板ロール切断工程では、前述した組成を有するマルエージング鋼の鋼板ロール1から、所用大きさの鋼板2が切り出される。切り出された鋼板2は、端部同士を付き合わせるようにして、円筒状に湾曲される。
【0023】
(a)鋼板ロール切断工程の次には、(b)溶接工程が行われる。
(b)溶接工程では、円筒状に湾曲された鋼板2aの端部同士を付き合わせた部位を溶接して、筒状のドラム3が形成される。
【0024】
(b)溶接工程の次には、(c)一次溶体化処理工程が行われる。
(c)一次溶体化処理工程では、筒状に形成されたドラム3に対して、溶接部3aの合金組成を均質化させるための一次溶体化処理が施される。この一次溶体化処理の過程では、ドラム3の表裏面には、TiやAl等の酸化物層および元素濃化層が形成される。
【0025】
(c)一次溶体化処理工程の次には、(d)リング状部材切断工程が行われる。
(d)リング状部材切断工程では、ドラム3が所定幅に切断されて、複数のリング状部材4・4・・・が生成される。
【0026】
(d)リング状部材切断工程の次には、(e)バレル研磨工程が行われる。
(e)バレル研磨工程では、リング状部材4・4・・・がバレル研磨されて、(c)一次溶体化処理工程において形成された酸化物層および元素濃化層が機械的に除去される。
【0027】
(e)バレル研磨工程の次には、(f)圧延工程が行われる。
(f)圧延工程では、(e)バレル研磨工程によって表層(即ち、酸化物層および元素濃化層)が除去されたリング状部材4を圧延し、ベルト状部材5を形成する。
圧延が行われる際には、冷却や摩擦低減等の目的で加工油6を使用するが、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、鉱物油にエステル系化合物を添加したものであって、無機系物質を含んでいない加工油で沸点が220℃のものを使用するようにしている。さらに、圧延後には圧延機(図示せず)内でエアブローを行って、加工油6の持ち出し量を少なくするようにしている。
尚、本実施例では、加工油として、鉱物油にエステル系化合物を添加したものを使用した場合を例示しているが、本発明に係る無端金属ベルトの製造方法において使用する加工油を限定するものではなく、無機系物質を含まない加工油であれば、他の原料からなる加工油を使用することも可能である。
【0028】
(f)圧延工程の次には、(g)加工油除去工程が行われる。
(g)加工油除去工程では、(f)圧延工程においてベルト状部材5に付着した加工油6が除去される。
従来の無端金属ベルトの製造方法では、ここで(g)加工油除去工程ではなく、洗浄工程を設けて、洗浄剤を使用してベルト状部材5を洗浄することによって、加工油を除去していたが、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、洗浄工程は設けず、洗浄剤を使用せずに加工油6を除去する構成としている。
【0029】
(g)加工油除去工程の次には、(h)二次溶体化処理工程が行われる。
(h)二次溶体化処理工程では、ベルト状部材5に対して、圧延時に生じた加工応力等を除去するための二次溶体化処理が施される。二次溶体化処理では、ベルト状部材5が、該ベルト状部材5を組成する合金が固溶体に溶解される温度(後述する温度T)まで加熱され、その温度Tで十分な時間保持される。そして、ベルト状部材5を、その温度Tから常温まで冷却することにより、二次溶体化処理を完了する。
【0030】
さらに、(h)二次溶体化処理工程の次には、ベルト状部材5の周長を調整する(j)周長調整工程が行われ、次に、従来と同じように(k)時効処理工程および(m)窒化処理工程が行われて、無端金属ベルト7が製造される。このようにして、本発明の一実施例にかかる無端金属ベルト7の製造方法による一連の製造工程が完了する。
【0031】
次に、図1で示した(g)加工油除去工程および(h)二次溶体化処理工程について、図2を用いてさらに詳述する。図2は本発明の一実施例に係る無端金属ベルトの製造工程に用いられるメッシュベルト炉と、各工程におけるワーク温度の経時的変化を示す模式図である。
図2に示す如く、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、(g)加工油除去工程および(h)二次溶体化処理工程においてメッシュベルト炉8を使用して、圧延工程においてベルト状部材5に付着した加工油6を除去する構成としている。
【0032】
本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法で使用するメッシュベルト炉8では、メッシュベルト炉8の上流側端部と下流側端部に設けたガスカーテン9・10によって、炉内8a・8b・8cの雰囲気を外気から遮断しており、外気遮断ゾーンAを形成している。そして、本実施例では、ガスカーテン9・10から窒素ガスを放出することにより炉内8aの上流側端部と炉内8cの下流側端部にカーテン状の窒素ガス層9a・10aを形成して、炉内8a・8b・8cに外気が流入することを防止するとともに、炉内8a・8b・8cを窒素ガス雰囲気に保持する構成としている。
【0033】
また、メッシュベルト炉8の炉内8a・8bには、メッシュベルト8dによる搬送上流側から順に加工油除去ゾーンBと二次溶体化処理ゾーンCを設ける構成としており、メッシュベルト炉8に供給されたベルト状部材5が加工油除去ゾーンBを通過する間に(g)加工油除去工程が行われ、続けてベルト状部材5が二次溶体化処理ゾーンCを通過する間に(h)二次溶体化処理工程が行われる。つまり、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法で使用するメッシュベルト炉8では、(g)加工油除去工程と(h)二次溶体化処理工程を連続的に行うことができる。
【0034】
また、メッシュベルト炉8では、加工油除去ゾーンBと二次溶体化処理ゾーンCの境界部分にガスカーテン11を設けている。そして本実施例では、ガスカーテン11からも窒素ガスを放出することによって、加工油除去ゾーンBと二次溶体化処理ゾーンCの境界部分にカーテン状の窒素ガス層11aを形成して、加工油除去ゾーンB(炉内8a)の雰囲気と二次溶体化処理ゾーンC(炉内8b)の雰囲気を隔絶する構成としている。
尚、本実施例では、メッシュベルト炉8の炉内8a・8b・8cを窒素ガス(不活性ガス)雰囲気に保持して二次溶体化処理を行う例を示しているが、例えば、炉内8a・8b・8cを水素ガス(還元ガス)雰囲気に保持して、二次溶体化処理を行う構成とすることも可能である。
【0035】
((g)加工油除去工程)
加工油除去ゾーンBでは、炉内8aの温度を300〜400℃に保持する構成としている。本実施例では、加工油除去ゾーンBにおいて、ベルト状部材5の温度を300℃まで昇温する。すると、本実施例で使用している加工油6の沸点は220℃であるため、ベルト状部材5に付着している加工油6を蒸発(気化)させることができる。ベルト状部材5が加工油除去ゾーンBを通過する時間tや、炉内8aの温度を調整することによって、ベルト状部材5に付着している加工油6をほぼ完全に除去することが可能となる。
【0036】
尚、本実施例では、(f)圧延工程において、沸点が220℃である加工油を使用する例を示しているが、本発明に係る無端金属ベルトの製造方法において使用する加工油を沸点が220℃のものに限定するものではなく、加工油の沸点が加工油除去ゾーンBの設定温度以下のものであれば、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法において使用することが可能である。
【0037】
即ち、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法においては、加工油除去ゾーンとなる炉内8aは、加工油6の沸点(220℃)以上の温度(300〜400℃)に保持されるものである。
このような構成により、加工油6を蒸発させることによって、ベルト状部材5に付着した加工油6を除去することが可能となる。
【0038】
また、蒸発した加工油6は浸炭性のガスであるため、加工油除去ゾーンBでは、ベルト状部材5に対して浸炭処理が施されてしまうことが懸念されるが、炉内8aの温度を300〜400℃に保持しているため、ベルト状部材5に対して浸炭処理が施されてしまうことはない。即ち、加工油除去ゾーンBは、使用する加工油6の沸点以上の温度であって、ベルト状部材5に対する浸炭処理が進展する温度未満の温度で保持する必要がある。ベルト状部材5に対する浸炭処理が進展する温度に明確な基準はないが、概ね400℃以下の温度であれば、浸炭処理は進展しないため、加工油除去ゾーンBは、400℃以下に保持することが望ましい。
【0039】
蒸発した加工油6(浸炭性のガス)を放置すると、炉内8a等でタール状の堆積物となって残留してしまうため、蒸発した加工油6は、加工油除去ゾーンBに接続された排気管12から排気され、さらに、排気管12の途中に設けられたバーナー13で燃焼させることによって、炉内8aに蒸発した加工油6の堆積物が残留することを防止する構成としている。
【0040】
このようにして、洗浄工程を行うことなく、加工油6が除去されたベルト状部材5は、メッシュベルト8dによって、さらに下流側に搬送され、二次溶体化処理ゾーンCに供給される。
【0041】
即ち、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法においては、(g)加工油除去工程は、メッシュベルト炉8を用いて行われ、メッシュベルト炉8は、(g)加工油除去工程が行われる加工油除去ゾーンBと、(h)二次溶体化処理工程が行われる二次溶体化処理ゾーンCと、を備える構成としている。
このような構成により、洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに、容易に加工油6を除去することが可能となる。
【0042】
((h)二次溶体化処理工程)
二次溶体化処理ゾーンCは、さらに溶体化処理ゾーンCと冷却ゾーンCに分かれており、溶体化処理ゾーンCでは、炉内8bの温度を780〜850℃に保持する構成としている。ベルト状部材5は、メッシュベルト8dによって搬送され、溶体化処理ゾーンCを通過する間に、ベルト状部材5を組成する合金が固溶体に溶解される温度Tまで加熱され、その温度Tで十分な時間保持される。本実施例では、温度T=800℃としており、その温度が780〜850℃に保持されている溶体化処理ゾーンCにおいて、ベルト状部材5の温度を800℃まで昇温させて、かつ、ベルト状部材5を、時間tc1を掛けて溶体化処理ゾーンCを通過させる構成としている。また、時間tc1は、十分な保持時間を確保できる期間としている。
【0043】
また、溶体化処理ゾーンCでは、炉内8bの温度を780〜850℃に保持しているため、仮に溶体化処理ゾーンCに加工油除去ゾーンBで蒸発した加工油6が流入すると、浸炭処理が進展する温度条件で、ベルト状部材5を浸炭性のガスを含む雰囲気に曝してしまうことになる。そこで、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、ガスカーテン11によって、加工油除去ゾーンB(炉内8a)と二次溶体化処理ゾーンC(詳しくは、溶体化処理ゾーンC(炉内8b))の雰囲気を隔絶する構成としており、これにより、加工油除去ゾーンBで蒸発した加工油6を二次溶体化処理ゾーンCに流入させないようにして、ベルト状部材5に対して浸炭処理が施されてしまうことを防止している。
【0044】
即ち、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法においては、メッシュベルト炉8は、加工油除去ゾーンBと、二次溶体化処理ゾーンCと、の境界部に、不活性ガスたる窒素ガス(または還元ガス)による窒素ガス層11aを形成するガスカーテン11を備える構成としている。
このような構成により、二次溶体化処理ゾーンCに、加工油除去ゾーンBで蒸発した加工油6(浸炭性のガス)が流入することが防止でき、これにより、(h)二次溶体化処理工程において、ベルト状部材5に浸炭処理が施されることを確実に防止することが可能となる。
【0045】
冷却ゾーンCは、炉内8cの温度を常温に保持する構成としている。本実施例では、冷却ゾーンCにおいて、時間tc2の間にベルト状部材5が冷却ゾーンCを通過させて、ベルト状部材5の温度を780〜850℃から常温まで冷却することにより、(h)二次溶体化処理工程を完了する。
【0046】
このように、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法では、(f)圧延工程で使用する加工油6に無機系物質が含まれておらず、さらに、洗浄工程も行わないため、無機系物質がベルト状部材5に付着する可能性を排除している。
このため、二次溶体化処理ゾーンCに、無機系物質が付着したベルト状部材5が供給されることがなく、無機系物質が付着したまま(h)二次溶体化処理工程が行われることに起因して、窒化処理が阻害されることがなくなる。
【0047】
即ち、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法は、金属製のリング状部材4を圧延することによって、リング状部材4を無端のベルト状部材5に成形する(f)圧延工程と、(f)圧延工程の後に行われ、ベルト状部材5を二次溶体化処理する(h)二次溶体化処理工程と、(h)二次溶体化処理工程の後に行われ、ベルト状部材5を窒化処理する(m)窒化処理工程と、を備えるものであって、(f)圧延工程の後に行われ、(f)圧延工程において使用されベルト状部材5に付着した加工油6を除去する(g)加工油除去工程をさらに備え、(f)圧延工程において、加工油6は、無機系物質を含まないものを使用して、(g)加工油除去工程において、ベルト状部材5を加熱してベルト状部材5に付着した加工油6を蒸発させることによって、加工油6を除去した後に、(h)二次溶体化処理工程を行う構成としている。
このような構成により、洗浄剤を使用した洗浄工程を行わずに、ベルト状部材5に付着した加工油6を除去することが可能となる。また、これにより、(h)二次溶体化処理工程において、ベルト状部材5に浸炭処理が施されることを確実に防止でき、かつ、(m)窒化処理工程において、無機系物質によって、ベルト状部材5に対する窒化処理が阻害されることを確実に防止することが可能となる。
そして、本発明の一実施例に係る無端金属ベルト7の製造方法によれば、(m)窒化処理工程において、ベルト状部材5に対して窒化処理が確実に行われるようになることから、無端金属ベルト7の歩留まりが改善される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例に係る無端金属ベルトの製造工程の流れを示す模式図。
【図2】本発明の一実施例に係る無端金属ベルトの製造工程に用いられるメッシュベルト炉と、各工程におけるワーク温度の経時的変化を示す模式図。
【符号の説明】
【0049】
4 リング状部材
5 ベルト状部材
6 加工油
7 無端金属ベルト
8 メッシュベルト炉
11 ガスカーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のリング状部材を圧延することによって、
無端のベルト状部材を成形する圧延工程と、
前記圧延工程の後に行われ、
前記ベルト状部材を溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程の後に行われ、
前記ベルト状部材を窒化処理する窒化処理工程と、
を備える無端金属ベルトの製造方法であって、
前記圧延工程の後に行われ、
前記圧延工程において使用され前記ベルト状部材に付着した加工油を除去する加工油除去工程をさらに備え、
前記圧延工程において、
前記加工油は、無機系物質を含まないものを使用して、
前記加工油除去工程において、
前記ベルト状部材を加熱して前記ベルト状部材に付着した前記加工油を蒸発させることによって、前記加工油を除去した後に、
前記溶体化処理工程を行う、
ことを特徴とする無端金属ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記加工油除去工程は、
メッシュベルト炉を用いて行われ、
前記メッシュベルト炉は、
前記加工油除去工程が行われる加工油除去ゾーンと、
前記溶体化処理工程が行われる溶体化処理ゾーンと、
を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の無端金属ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記メッシュベルト炉は、
前記加工油除去ゾーンと、
前記溶体化処理ゾーンと、の境界部に、
不活性ガスまたは還元ガスによるガス層を形成するガスカーテンを備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の無端金属ベルトの製造方法。
【請求項4】
前記加工油除去ゾーンは、
前記加工油の沸点以上の温度に保持される、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無端金属ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70834(P2010−70834A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242902(P2008−242902)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】