説明

無線中継システム、中継局装置、および、無線中継方法

【課題】ネットワークコーディング技術を適用した無線中継において情報フレームの送受信を効率よく行ない、システムスループットを増大する。
【解決手段】時刻T1において、端局1−1の指向性アンテナ10は情報フレームF1を、端局1−2の指向性アンテナ10は情報フレームF2を中継局2へ同時に送信する。中継局2は、情報フレームF1を端局1−1に対向した指向性アンテナ20−1により受信して復調し、情報フレームF2を端局1−2に対向した指向性アンテナ20−2により受信して復調すると、復調した情報フレームF1、F2をネットワーク符号化して符号化情報フレームXを生成する。時刻T2において中継局2は、符号化情報フレームXを、指向性アンテナ20−1により端局1−1へ、指向性アンテナ20−1により端局1−2に同報送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークコーディングを用いた無線中継システム、中継局装置、および、無線中継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチホップ通信のスループットの向上を目的とした、ネットワークコーディング(NC)技術が注目されている。ネットワークコーディング技術は、マルチホップ中継を行うネットワーク上の中継局において複数の情報系列を線形符号化することによって複数のマルチキャスト通信やユニキャスト通信を多重化した上で宛先ノードとなる複数の端局に送信し、各端局において復号操作を行う。これにより、ネットワークコーディングを用いない場合に比べてスループットの向上を図ることができる。
【0003】
ネットワークコーディングを用いたマルチホップ無線ネットワークでは、無線通信の同報性とネットワークコーディングを活用することにより、スループットの向上を実現する。中継局の役割を果たすノードは、複数の端局ノードから受信した情報フレームを線形符号によって符号化し、目的の端局に中継する。線形符号によって符号化された情報フレームを中継局ノードから受信した端局は、他のノードから受信した情報フレームあるいは自身が保持している情報フレームを用いて、符号化された情報フレームを同様の線形符号によって復号し、元の情報を得ることができる。
【0004】
以下では具体例として、ネットワークコーディング技術が適用できる代表的なマルチホップ無線トポロジである、Alice & Bobトポロジを挙げて、従来の無線によるネットワークコーディング技術を説明する。以下、ある情報フレームに対し、ネットワークコーディングの符号化を施すことをNC符号化と記載し、ネットワークコーディングにより符号化された情報フレームを復号することをNC復号と記載する。NC符号化及びNC復号には、情報フレーム同士のビット毎の排他的論理和(XOR)を用いるものとする。また、ネットワーク符号化された情報フレームを符号化情報フレームと記載し、符号化情報フレームと符号化されていない情報フレームとを明確に区別するために、NC符号化されていない情報フレームをネイティブ情報フレームと記載する。
【0005】
図6は、Alice & Bobトポロジの構成を示す図である。同図に示す無線マルチホップトポロジにおいて、両端の端局であるノードA(node-A)とノードB(node-B)が、互いに中継局であるノードR(node-R)を介して情報のやり取りを行う場合について考える。本トポロジの目的は、ノードAおよびノードBが、自身の保持する情報を情報フレームとして無線チャネルを用いて送信するとともに、相手方としての端局から情報フレームを受信することである。なお、全てのノードで単一の周波数チャネルを共有するとともに、各ノードはそれぞれ変復調回路を1つ、オムニアンテナを1本具備する。即ち、あるノードが情報フレームの送信を行っている間、他の全てのノードは同時刻に情報フレームを送信しない。
【0006】
図7は、ネットワークコーディング技術を用いない場合のAlice & Bobトポロジにおける通信手順を示す。ネットワークコーディング技術を用いない場合の通信手順は、以下のようになる。
【0007】
(1)時刻T1において、ノードAがネイティブ情報フレームである情報フレームAをノードRに送信する。ノードRは情報フレームAを受信する。
(2)時刻T2において、ノードRが情報フレームAをノードBに送信する。ノードBは情報フレームAを受信する。
(3)時刻T3において、ノードBがネイティブ情報フレームである情報フレームBをノードRに送信する。ノードRは情報フレームBを受信する。
(4)時刻T4において、ノードRが情報フレームBをノードAに送信する。ノードAは情報フレームBを受信する。
【0008】
上述のような手順が必要であるため、ノードAとノードBが互いに情報をやり取りするためには4つのタイムスロットが必要となる。
【0009】
一方、図8は、ネットワークコーディング技術を用いた場合のAlice & Bobトポロジにおける通信手順を示す。ネットワークコーディング技術を用いた場合の通信手順は、以下のようになる。
【0010】
(1)時刻T1において、ノードAがネイティブ情報フレームである情報フレームAをノードRに送信する。ノードRは情報フレームAを受信する。
(2)時刻T2において、ノードBがネイティブ情報フレームである情報フレームBをノードRに送信する。ノードRは情報フレームBを受信する。
【0011】
(3)時刻T3において、ノードRが情報フレームAと情報フレームBに対してNC符号化を行い、符号化情報フレームXを生成する。ノードRは、生成した符号化情報フレームXをノードAおよびノードBに対して同報送信する。ノードAは、自身が時刻T1において送信した情報フレームAと時刻T3において受信した符号化情報フレームXとを用いてNC復号を行うことにより、情報フレームBを取得する。同様に、ノードBにおいても、自身が時刻T2において送信した情報フレームBと時刻T3において受信した符号化情報フレームXとを用いてNC復号を行うことにより、情報フレームAを取得する。
【0012】
上記の手順を行なうことにより、必要となるタイムスロット数が3となる。ネットワークコーディング技術を用いない場合と用いた場合を比較すると、ネットワークコーディング技術を適用することにより、ノードAとノードBが情報のやり取りを行うために消費するタイムスロット数が3/4になる。すなわち、ネットワークコーディング技術の適用によるスループット増大効果(これを「NC利得」と呼ぶ。)はその逆数の4/3となる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−206778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ネットワークコーディング技術を適用したマルチホップ無線システムでは、複数の端局が変調フレーム、すなわち、変調された情報フレームを同時に中継局に送信することにより、必要となるタイムスロット数をさらに削減することが可能である。しかしながら従来技術では、全てのノードがオムニアンテナを具備していることを想定しており、中継局が複数の端局から変調フレームを同時に受信した場合、互いの変調フレームが干渉してしまうため復調することは不可能だった。
【0015】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ネットワークコーディング技術を適用した無線中継において情報フレームの送受信を効率よく行ない、システムスループットを増大することができる無線中継システム、中継局装置、および、無線中継方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、本発明は、中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムであって、前記中継局装置は、前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられ、対向する前記端局装置の端局指向性アンテナから無線により情報フレームを受信するとともに、複数の情報フレームをネットワーク符号化した符号化情報フレームを対向する前記端局装置の前記端局指向性アンテナへ無線により送信する複数の指向性アンテナと、前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられ、対応する前記指向性アンテナが前記端局装置から受信した情報フレームを復調する複数の復調部と、前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化部と、前記ネットワーク符号化部が生成した符号化情報フレームを変調する変調部と、前記変調部が変調した符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配部とを備え、前記端局装置は、前記中継局装置の自局に対向する前記指向性アンテナから送信された符号化情報フレームを受信する端局指向性アンテナと、符号化情報フレームの復号に用いる鍵情報フレームを格納する鍵記憶部と、前記端局指向性アンテナが受信した符号化情報フレームを復調する端局復調部と、前記端局復調部が復調した前記符号化情報フレームを、前記鍵記憶部から読み出した鍵情報フレームにより復号するネットワーク符号化復号部とを備える、ことを特徴とする無線中継システムである。
【0017】
また、本発明は、中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムにおける前記中継局装置であって、前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられ、対向する前記端局装置の端局指向性アンテナから無線により情報フレームを受信するとともに、複数の情報フレームをネットワーク符号化した符号化情報フレームを対向する前記端局装置の前記端局指向性アンテナへ無線により送信する複数の指向性アンテナと、前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられ、対応する前記指向性アンテナが前記端局装置から受信した情報フレームを復調する複数の復調部と、前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化部と、前記ネットワーク符号化部が生成した符号化情報フレームを変調する変調部と、前記変調部が変調した符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配部と、を備えることを特徴とする中継局装置である。
【0018】
また、本発明は、上述した中継局装置であって、前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームのうち、ネットワーク符号化対象の情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するよう前記ネットワーク符号化部へ指示するとともに、前記ネットワーク符号化対象の情報フレームの宛先である前記端局装置の前記端局指向性アンテナに対向した前記複数の指向性アンテナへ前記変調部が変調した符号化情報フレームを出力するよう前記分配部に指示する制御部をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上述した中継局装置であって、前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームの誤り検出を行なう誤り検出部と、前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームのうち、前記誤り検出部において誤りが検出されなかった複数の情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するよう前記ネットワーク符号化部へ指示するとともに、誤りが検出されなかった前記複数の情報フレームの宛先である前記端局装置の前記端局指向性アンテナに対向した前記複数の指向性アンテナへ前記変調部が変調した符号化情報フレームを出力するよう前記分配部に指示する制御部と、をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムにおける前記中継局装置の無線中継方法であって、前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられた複数の指向性アンテナが、前記端局装置から無線送信された情報フレームを受信する受信過程と、前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられた復調部が、前記受信過程において該復調部に対応した前記指向性アンテナにより前記端局装置から受信した情報フレームを復調する復調過程と、前記復調過程において前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化過程と、前記ネットワーク符号化過程において生成された符号化情報フレームを変調する変調過程と、前記変調過程において変調された符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配過程と、前記複数の指向性アンテナが、前記分配過程において出力された前記符号化情報フレームを、対向する前記複数の端局装置の端末指向性アンテナへ無線送信する送信過程と、を有することを特徴とする無線中継方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ネットワークコーディング技術を適用した無線中継システムにおいて、中継局は複数の端局から変調フレームを同時に受信し、復調することが簡易に可能となり、複数の端局の送信タイミングを時間で棲み分ける必要がなくなるため、システムスループットの増大が可能となる。
また、本発明により、無線中継システムがCSMA/CA(carrier sense multiple access / collision avoidance)で動作するマルチホップ無線システムであった場合に発生する端局同士の隠れ端末問題が容易に解決可能となる。つまり、端局は、通信路が空きと判断したときに中継局に情報フレームを送信するが、他の端局が相互に信号の到達範囲外である場合は、他の端局が中継局に情報フレームを送信していることを認識できずに情報フレームを送信してしまう場合がある。本発明の中継局は、このような状況が発生しても、正常に複数の端局から同時に受信した情報フレームを受信することが可能であり、これら受信した情報フレームをNC符号化した符号化情報フレームを生成して端局へ送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態による無線中継システムの通信手順を示す図である。
【図2】同実施形態による中継局の機能ブロック図である。
【図3】同実施形態による端局の機能ブロック図である。
【図4】第2の実施形態による中継局の機能ブロック図である。
【図5】同実施形態による端局の機能ブロック図である。
【図6】Alice & Bobトポロジの構成を示す図である。
【図7】従来技術によるネットワークコーディング技術を用いない場合のAlice & Bobトポロジにおける通信手順を示す。
【図8】従来技術によるネットワークコーディング技術を用いた場合のAlice & Bobトポロジにおける通信手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態による無線中継システムにおける通信手順を示す図である。本実施形態の無線中継システムは、複数台の端局1と、1台の中継局2とからなる。以下、N台(Nは2以上の整数)の端局1をそれぞれ、端局1−1、1−2、…、1−nと記載する。同図は、本実施形態の無線中継システムを、ネットワークコーディング(以下、「NC」とも記載)技術を用いた2ホップ無線中継システムであるAlice & Bobトポロジに適用した場合について示しており、端局1−1、1−2の2台の端局1が記載されている。
【0025】
同図に示す無線中継システムにおいて、受信局装置と送信局装置を兼ねた端局装置である端局1−1、1−2は、中継局装置である中継局2を介して双方向の通信を行う。各端局1及び中継局2はタイムスロット同期が取れているものとし、端局1−1、1−2はそれぞれ、中継局2に向けた指向性アンテナ10を1本備え、中継局2は端局1−1、1−2の指向性アンテナ10それぞれに向けた指向性アンテナ20−1、20−2を備えている。
【0026】
以下、システム全体におけるm番目の送信タイミングを時刻Tmと表す。また、ネットワークコーディングの符号化を施すことを「NC符号化」と記載し、ネットワークコーディングにより符号化された情報フレームを復号することを「NC復号」と記載する。そして、NC符号化されていない情報フレームを「ネイティブ情報フレーム」、NC符号化された情報フレームを「符号化情報フレーム」、符号化情報フレームをNC復号するために必要となる情報フレームを「鍵情報フレーム」と記載する。
【0027】
(1)時刻T1において、端局1−1がネイティブ情報フレームである情報フレームF1を変調して中継局2へ、端局1−2がネイティブ情報フレームである情報フレームF2を変調して中継局2へ同時に送信する。中継局2は、変調された情報フレームF1を指向性アンテナ20−1により、変調された情報フレームF2を指向性アンテナ20−2により同時に受信する。中継局2は、端局1−1、1−2それぞれから受信した変調フレームを復調して得た情報フレームF1、F2をNC符号化して符号化情報フレームXを生成する。NC符号化には、例えば、情報フレーム同士のビット毎の排他的論理和(XOR)を用いる。
【0028】
(2)時刻T2において、中継局2は、時刻T1において生成した符号化情報フレームXを変調して指向性アンテナ20−1、20−2により端局1−1、1−2それぞれに同報送信する。端局1−1は、指向性アンテナ10により受信した変調フレームを復調し、自身が時刻T1において送信した情報フレームF1を鍵情報フレームとして用い、復調により得られた符号化情報フレームXのNC復号を行って情報フレームF2を取得する。同様に、端局1−2においても、指向性アンテナ10により受信した変調フレームを復調し、自身が時刻T1において送信した情報フレームF2を鍵情報フレームとして用い、復調により得られた符号化情報フレームXのNC復号を行って情報フレームF1を取得する。NC復号には、NC符号化同様、情報フレーム同士の排他的論理和が用いられる。
【0029】
上記のように、複数の端局1が同時に情報フレームを中継局2へ送信することができるため、端局1間で情報をやり取りするために必要なタイムスロット数を削減することが可能となる。
【0030】
図2は、本実施形態による中継局2の構成を示すブロック図である。中継局2は、指向性アンテナ20−1〜20−n、送受信切替回路21−1〜21−nからなる送受信切替回路群21、復調回路22−1〜22−nからなる復調回路群22、ネットワーク符号化回路(以下、「NC回路」と記載)23、記憶回路24、変調回路25、及び、N分配回路26を含んで構成される(nは2以上の整数)。
【0031】
N本の指向性アンテナ20−1〜20−nはそれぞれ1台の端局1の指向性アンテナ10と対向しており、入力された変調フレームを空中線としての空間に出力することにより無線送信を行なうとともに、端局1から無線送信された変調フレームを受信する。送受信切替回路21−1〜21−nは、予めスケジューリングされた信号の送受信タイミングに従って切り替えを行なう。各送受信切替回路21−i(i=1〜n)は、信号受信時には指向性アンテナ20−iにより受信した変調フレームを復調回路22−iに出力し、信号送信時には、N分配回路26によりN分配された変調フレームを指向性アンテナ20−iに出力する。なお、送受信切替回路21−1〜21−nは、サーキュレータ回路を用いて、指向性アンテナ20−1〜20−nからの入力を復調回路22−1〜22−nへ出力し、N分配回路26からの入力を指向性アンテナ20−1〜20−nへ出力してもよい。
【0032】
各復調回路22−i(i=1〜n)は、指向性アンテナ20−iが受信し、送受信切替回路21−iから出力された変調フレームを復調し、復調により得られたネイティブ情報フレームをNC回路23へ出力する。NC回路23は、復調回路22−1〜22−nから出力されたネイティブ情報フレームをNC符号化して符号化情報フレームを生成し、記憶回路24へ出力する。記憶回路24は、NC回路23により生成された符号化情報フレームを記憶する。変調回路25は、記憶回路24から出力された符号化情報フレームを変調し、変調フレームを生成する。N分配回路26は、変調回路25により生成された変調フレームを指向性アンテナ20−1〜20−nに分配する。
【0033】
次に、本実施形態の無線中継システムの動作について説明する。ここでは、簡単のため、指向性アンテナ20−i(i=1〜n)は、端局1−iの指向性アンテナ10に対向しているものとする。
【0034】
(1)時刻T1において、端局1−i(i=1〜n)は、ネイティブ情報フレームである情報フレームFiを変調した変調フレームを同時に送信する。中継局2の指向性アンテナ20−i(i=1〜n)は、端局1−iから同時に、かつ、互いの干渉なく、無線により送信された情報フレームFiの変調フレームを受信する。中継局2の送受信切替回路21−i(i=1〜n)は、指向性アンテナ20−iの出力先を復調回路22−iに切り替える。送受信切替回路21−i(i=1〜n)は、指向性アンテナ20−iが受信した変調フレームを復調回路22−iに出力し、復調回路22−iは、指向性アンテナ20−iが受信した変調フレームを復調して情報フレームFiを取得する。同時受信した情報フレームF1〜Fnの変調フレームは互いの干渉がないため、同時に復調可能である。復調回路22−i(i=1〜n)は、復調により得られた情報フレームFiをNC回路23に出力する。NC回路23は、情報フレームF1〜FnをNC符号化して符号化情報フレームXを生成し、記憶回路24に書き込む。
【0035】
(2)時刻T2において、中継局2の記憶回路24は、記憶していた符号化情報フレームXを変調回路25へ出力する。変調回路25は、記憶回路24から出力された符号化情報フレームXを変調し、N分配回路26へ出力する。N分配回路26は、符号化情報フレームXの変調フレームを送受信切替回路21−1〜21−nへ分配する。送受信切替回路21−i(i=1〜n)は、N分配回路26により分配された符号化情報フレームXの変調フレームを指向性アンテナ20−iに出力し、指向性アンテナ20−iは、符号化情報フレームXの変調フレームを対向する端局1−iに同報送信する。
端局1−i(i=1〜n)は、中継局2から送信された変調フレームを指向性アンテナ10により受信すると、受信した変調フレームを復調し、復調により得られた符号化情報フレームXを鍵情報フレームによりNC復号し、所望の情報フレームを得る。
【0036】
以降、無線中継システムは、上述した(1)〜(2)を繰り返し実行する。
【0037】
図1に示すAlice & Bobトポロジの2ホップ無線中継システムを例にして、端局1が2台の場合について説明する。
【0038】
図3は、本実施形態をAlice & Bobトポロジに適用した場合の端局1の構成を示すブロック図である。端局1は、オムニアンテナに代えて指向性アンテナを備える点以外は、従来の端局と同様の構成である。端局1は、指向性アンテナ10、変調回路11、記憶回路12、送受信切替回路14、復調回路15、及び、ネットワーク符号化復号回路(以下、「NC復号回路」と記載)16を含んで構成される。
【0039】
変調回路11は、上位層等から入力されたネイティブ情報フレームを変調する。記憶回路12は、変調回路11へ入力されたネイティブ情報フレーム等の鍵情報フレームを記憶する。送受信切替回路14は、予めスケジューリングされた信号の送受信タイミングに従って切り替えを行なう。送受信切替回路14は、信号送信時には、変調回路11から出力された変調フレームを指向性アンテナ10に出力し、信号受信時には、指向性アンテナ10が受信した変調フレームを復調回路15に出力する。なお、送受信切替回路14は、サーキュレータ回路を用いて、変調回路11からの入力を指向性アンテナ10へ出力し、指向性アンテナ10からの入力を復調回路15へ出力してもよい。指向性アンテナ10は、送受信切替回路14を介して入力された変調フレームを空中線としての空間に出力することにより無線送信を行なうとともに、中継局2から無線送信された変調フレームを受信する。復調回路15は、指向性アンテナ10が受信し、送受信切替回路14が出力した変調フレームを復調する。NC復号回路16は、記憶回路12から読み出した鍵情報フレームを用い、復調回路15により復調された符号化情報フレームをNC復号する。
【0040】
Alice & Bobトポロジを適用した本実施形態の無線中継システムは、以下のように動作する。
(1)時刻T1において、端局1−1は、情報フレームF1の変調フレームを指向性アンテナ10により送信する。同時に、端局1−2は、情報フレームF2の変調フレームを指向性アンテナ10により送信する。具体的には、端局1−i(i=1、2)の変調回路11は、上位層等から入力された情報フレームFiを変調し、記憶回路12は、情報フレームFiを記憶する。端局1−iの変調回路11が変調した情報フレームFiは、送受信切替回路14を介して指向性アンテナ10へ出力され、無線送信される。
【0041】
中継局2の復調回路22−1が、指向性アンテナ20−1の受信した変調フレームを復調して情報フレームF1を取得すると同時に、復調回路22−2は、指向性アンテナ20−2の受信した変調フレームを復調して情報フレームF2を取得する。NC回路23は、復調回路22−1が復調した情報フレームF1と、復調回路22−2が復調した情報フレームF2をNC符号化して符号化情報フレームXを生成し、記憶回路24に書き込む。
【0042】
(2)時刻T2において、中継局2の変調回路25は、記憶回路24から出力された符号化情報フレームXを変調し、N分配回路26は、符号化情報フレームXの変調フレームを送受信切替回路21−1、21−2へ分配する。指向性アンテナ20−1は、送受信切替回路21−1を介して入力された変調フレームを端局1−1に、指向性アンテナ20−2は、送受信切替回路21−2を介して入力された変調フレームを端局1−2に同報送信する。
【0043】
端局1−1、2は、中継局2から送信された変調フレームを指向性アンテナ10により受信し、受信した変調フレームは送受信切替回路14を介して復調回路15に入力され、復調される。端局1−1のNC復号回路16は、復調回路15により復調された符号化情報フレームXを記憶回路12から読み出した情報フレームF1を用いてNC復号して情報フレームF2を得、端局1−2のNC復号回路16は、復調回路15により復調された符号化情報フレームXを記憶回路12から読み出した情報フレームF2を用いてNC復号して情報フレームF1を得る。
【0044】
なお、端局1が3台以上の場合、各端局1は、指向性アンテナ10に加えて、鍵情報フレームとして用いられるネイティブ情報フレームを送信する端局1に対向した指向性アンテナを備える。そして、全端局1が、変調したネイティブ情報フレームを同時に中継局2へ送信したときに、各端局1は、自局が送信したネイティブ情報フレームを記憶するとともに、鍵情報フレームとして用いられるネイティブ情報フレームを送信する他の端局1から変調フレームを受信し、復調により得られたネイティブ情報フレームを記憶する。各端局1は、中継局2から受信した変調フレームを復調して符号化情報フレームを得ると、記憶していたネイティブ情報フレームを鍵情報フレームとして用い、NC復号を行なう。
【0045】
[第2の実施形態]
続いて、本発明の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態においては、中継局2は、受信タイミングにおいて、N台の端局1から送信されたネイティブ情報フレームを同時に受信、復調した後、復調により得られたN個のネイティブ情報フレームをNC符号化して符号化情報フレームを生成している。しかし、中継局2が復調したネイティブ情報フレームの中に誤りのあるネイティブ情報フレームが含まれていた場合、端局1において符号化情報フレームを正常にNC復号できなくなってしまうおそれがある。そこで、第2の実施形態では、中継局は、正常に受信できたネイティブ情報フレームのみを用いてNC符号化を行ない、符号化情報フレームを生成する。そのため、端局1は、誤り検出符号化が施されたネイティブ情報フレームを中継局2に送信し、中継局2において、受信したネイティブ情報フレームの復調結果に対するビット誤りの検出を可能とする。以下、第1の実施形態との差分を中心に説明する。
【0046】
図4は、本実施形態による中継局2aの構成を示すブロック図である。同図において、図2に示す第1の実施形態による中継局2と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。図4に示す中継局2aが、第1の実施形態の中継局2と異なる点は、記憶回路31−1〜31−nからなる記憶回路群31、誤り検出回路32、制御部33が設けられている点、NC回路23に代えてNC回路23aが設けられている点、N分配回路26に代えてN分配回路26aが設けられている点である。
【0047】
記憶回路31−i(i=1〜n)は、復調回路22−iにより復調されたネイティブ情報フレームを記憶する。誤り検出回路32は、復調回路22−iが復調したネイティブ情報フレームを記憶回路31−iから読み出して誤り検出を行い、その結果を制御部33に出力する。制御部33は、誤り検出回路32から復調回路22−1〜22−nが復調したネイティブ情報フレームの誤り検出結果を受信し、正常に復調されたネイティブ情報フレームのみを用いて符号化情報フレームを生成するようNC回路23aに指示するとともに、N分配回路26aに、正常に復調されたネイティブ情報フレームの宛先である端局1aと対向する指向性アンテナ20−1〜20−nに、変調回路25により変調された符号化情報フレームを分配するよう指示する。NC回路23aは、制御部33に指示されたネイティブ情報フレームを用いてNC符号化を行い、符号化情報フレームを生成する。N分配回路26aは、制御部33に指示された指向性アンテナ20−1〜20−nに、変調回路25から出力された変調フレームを分配する。
【0048】
次に本実施形態の無線中継システムの動作について説明する。
(1)時刻T1において、第1の実施形態と同様に、端局1a−i(i=1〜n)は、情報フレームFiの変調フレームを同時に無線送信する。但し、情報フレームFiには、誤り検出符号化が施されており、変調フレームには、該情報フレームFiを特定するフレーム識別情報が含まれている。誤り検出符号化には、例えば、CRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)符号等を用いることができる。中継局2aは、第1の実施形態と同様に端局1a−i(i=1〜n)から受信した変調フレームを復調すると、復調により得られた情報フレームFiと、情報フレームFiのフレーム識別情報を記憶回路31−iに記憶させる。
【0049】
(2)時刻T2において、中継局2aの記憶回路31−i(i=1〜n)は、復調回路22−iにより復調された情報フレームFiと、情報フレームFiのフレーム識別情報を出力する。誤り検出回路32は、記憶回路31−i(i=1〜n)から出力された情報フレームFiの誤り検出を行い、誤り検出結果を制御部33に出力する。制御部33は、誤り検出結果から正常に復調された情報フレームFk(kは1以上n以下の整数)を認識すると、正常に復調された情報フレームFkを用いてNC符号化を行なうようNC回路23aに出力するとともに、正常に復調された情報フレームFkの宛先となる端局1a−k’(k’は1以上n以下の整数)に対向した指向性アンテナ20−k’に変調フレームを分配するようN分配回路26aに指示する。宛先となる端局1aは、ネイティブ情報フレームの送信元の端局1aに対応して予め決められていてもよく、ネイティブ情報フレームに設定されている宛先情報から取得してもよい。
【0050】
NC回路23aは、制御部33からの指示に従って、記憶回路31−1〜31−nから出力された情報フレームF1〜Fnのうち、正常に復調された情報フレームFkのみを用いて符号化情報フレームXを生成すると、符号化情報フレームXと、情報フレームFkのフレーム識別情報を出力する。変調回路25は、NC回路23aから出力された符号化情報フレームXを変調し、N分配回路26へ出力する。変調回路25により生成された符号化情報フレームXの変調フレームには、NC符号化された情報フレームである旨を示すNC符号化情報と、情報フレームFkのフレーム識別情報が含まれる。N分配回路26aは、制御部33からの指示に従って、符号化情報フレームXの変調フレームを指向性アンテナ20−k’に分配する。指向性アンテナ20−k’は、送受信切替回路21−k’を介して入力された変調フレームを、対向する端局1a−k’に同報送信する。
【0051】
端局1a−k’は、中継局2aから送信された変調フレームを指向性アンテナ10により受信し、受信した変調フレームを復調する。端局1a−k’は、復調された情報フレームにNC符号化情報が付加されているため、該符号化情報フレームに付加されている情報フレームFkのフレーム識別情報に基づいて鍵情報フレームを選択し、選択した鍵情報フレームを用いて符号化情報フレームをNC復号し、所望の情報フレームを得る。
【0052】
なお、上記の(2)において、正常に復調された情報フレームFkが1つのみであった場合、以下の(2’)の処理を行なう。
【0053】
(2’)中継局2aの制御部33は、誤り検出結果から正常に復調された情報フレームFkが1つのみであると判断した場合、NC回路23aにNC符号化を行なわず、情報フレームFkをそのまま変調回路25へ出力するよう指示するとともに、情報フレームFkの宛先となる端局1a−k’に対応した指向性アンテナ20−k’に変調フレームを分配するようN分配回路26aに指示する。NC回路23aは、情報フレームFkを変調回路25に出力し、N分配回路26aは、変調回路25により変調された情報フレームFkを指向性アンテナ20−2に出力する。変調された情報フレームFkは、指向性アンテナ20−k’から無線により送信される。
端局1a−k’は、中継局2aから受信した変調フレームを復調する。復調により得られた情報フレームにNC符号化情報が付加されていないため、NC復号は行わない。
【0054】
図1に示すAlice & Bobトポロジの2ホップ無線中継システムを例にして、端局1を本実施形態の端局1aに、中継局2を本実施形態の中継局2aに置き代えた場合について説明する。
【0055】
図5は、本実施形態による端局1aの構成を示すブロック図である。同図において、図3に示す第1の実施形態による端局1と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。図5に示す端局1aが、第1の実施形態の端局1と異なる点は、制御部17が設けられている点、変調回路11に代えて変調回路11aが設けられている点、NC復号回路16に代えてNC復号回路16aが設けられている点である
【0056】
変調回路11aは、ネイティブ情報フレームの誤り検出符号化と変調を行なう。制御部17は、受信した情報フレームがNC符号化されている場合、記憶回路12から鍵情報フレームを出力するよう指示するとともに、NC復号回路16aにNC復号を行なうよう指示し、受信した情報フレームがNC符号化されていない場合、記憶回路12に鍵情報フレームを出力しないよう指示するとともに、NC復号回路16aにNC復号を行なわないよう指示する。NC復号回路16aは、制御部17からの指示に従って、復調回路15により復調された符号化情報フレームを記憶回路12から出力された鍵情報フレームを用いてNC復号し、得られたネイティブ情報フレームを上位層等に出力したり、復調されたネイティブ情報フレームをそのまま上位層等に出力したりする。
【0057】
Alice & Bobトポロジを適用した本実施形態の無線中継システムは、以下のように動作する。
(1)時刻T1において、端局1a−1は、情報フレームF1を記憶回路12に記憶し、変調回路11aから出力された情報フレームF1の変調フレームを指向性アンテナ10により送信する。同時に、端局1a−2は、情報フレームF2を記憶回路12に記憶し、変調回路11aから出力された情報フレームF2の変調フレームを指向性アンテナ10により送信する。第1の実施形態の中継局2と同様に、中継局2aの復調回路22−1は指向性アンテナ20−1が受信した変調フレームを復調し、復調回路22−2は指向性アンテナ20−2が受信した変調フレームを復調する。変調回路22−1は、復調により得られた情報フレームF1と、情報フレームF1のフレーム識別情報を記憶回路31−1に書き込み、変調回路22−2は、復調により得られた情報フレームF2と、情報フレームF2のフレーム識別情報を記憶回路31−2に書き込む。
【0058】
(2)時刻T2において、中継局2aの誤り検出回路32は、情報フレームF1、F2の誤り検出を行い、誤り検出結果を制御部33に出力する。制御部33は、情報フレームF1、F2とも正常に復調されたと判断した場合、NC回路23aに情報フレームF1、F2を用いてNC符号化を行なうよう指示し、N分配回路26aに、指向性アンテナ20−1、20−2へ変調フレームを分配するよう指示する。NC回路23aは、情報フレームF1、F2を用いて符号化情報フレームXを生成し、情報フレームF1、F2のフレーム識別情報を付加して変調回路25に出力する。変調回路25により生成された符号化情報フレームXの変調フレームは、N分配回路26aにより指向性アンテナ20−1、20−2へ出力され、同報送信される。
【0059】
端局1a−1、1a−2の復調回路15は、指向性アンテナ10が中継局2aから受信した変調フレームを復調し、制御部17は、復調された符号化情報フレームXに、NC符号化情報が付加されているため、NC復号を行なうようNC復号回路16aに指示するとともに、符号化情報フレームXに付加されている情報フレームF1、F2のフレーム識別情報に基づいて鍵情報フレームを判断する。端局1a−1の制御部17は、フレーム識別情報により特定される、自局が送信した情報フレームF1を出力するよう記憶部12に指示し、NC復号回路16aは、情報フレームF1を鍵情報フレームとして用い、復調された符号化情報フレームXをNC復号して情報フレームF2を得る。また、端局1a−2の制御部17は、フレーム識別情報により特定される、自局が送信した情報フレームF2を出力するよう記憶部12に指示し、NC復号回路16aは、情報フレームF2を鍵情報フレームとして用い、復調された符号化情報フレームXをNC復号して情報フレームF1を得る。
【0060】
上記の(2)において、情報フレームF1、F2のうち、一方のみが正常に復調され、他方に符号化誤りが検出された場合、以下の(2’)の処理を行なう。
【0061】
(2’)中継局2aの制御部33は、例えば、誤り検出結果から情報フレームF1は正常に復調され、情報フレームF2には符号化誤りが検出されたことを認識すると、NC回路23aへ情報フレームF1をNC符号化せずに出力するよう指示し、N分配回路26aに、情報フレームF1の宛先である端局1a−2に対応した指向性アンテナ20−2へ変調フレームを出力するよう指示する。これにより、変調された情報フレームF1が指向性アンテナ20−2から無線送信される。端局1a−2の復調回路15は、指向性アンテナ10が中継局2aから受信した変調フレームを復調し、制御部17は、復調された情報フレームに、NC符号化情報が付加されていないため、NC復号を行なわないようNC復号回路16aに指示する。端局1a−2のNC復号回路16aは、復調回路15から出力された情報フレームF1をそのまま上位層等に出力する。
【0062】
なお、本実施形態においては、時刻T1において端局1a−1〜1a−n全てが同時にネイティブ情報フレームを送信していたが、端局1a−1〜1a−nの一部が同時にネイティブ情報フレームを送信してもよく、端局1a−1〜1a−n全てが異なる時刻にネイティブ情報フレームを送信することもできる。中継局2は、端局1−1〜1−nの全てからネイティブ情報フレームを受信した後に送信機会を得る。
【0063】
また、端局1が3台以上の場合、各端局1は、指向性アンテナ10に加えて、鍵情報フレームとして用いられるネイティブ情報フレームを送信する端局1に対向した指向性アンテナを備える。そして、全端局1が、変調したネイティブ情報フレームを同時に中継局2へ送信したときに、各端局1は、自局が送信したネイティブ情報フレームとそのフレーム識別情報を記憶するとともに、鍵情報フレームとして用いられるネイティブ情報フレームを送信する他の端局1から変調フレームを受信し、復調により得られたネイティブ情報フレームとそのフレーム識別情報を記憶する。各端局1は、中継局2から受信した変調フレームを復調して符号化情報フレームを得ると、付加されているフレーム識別情報に基づいて、記憶しているネイティブ情報フレームの中から鍵情報フレームを選択し、NC復号を行なう。
【0064】
[第3の実施形態]
第2の実施形態では、予めスケジューリングされた中継局からの送信タイミングにおいて、全ての端局から受信した情報フレームをNC符号化の対象としているが、本実施形態では、予めスケジューリングされた中継局からの各送信タイミングにおいて、一部のネイティブ情報フレームのみをNC符号化の対象とする。例えば、中継局のある送信タイミングでは、端局1a−1、1a−2から受信した情報フレームから符号化情報フレームを生成し、中継局の次の送信タイミングでは、端局1a−3、1a−4から受信した情報フレームから符号化情報フレームを生成するようスケジューリングされる。以下、第2の実施形態との差分を説明する。
【0065】
本実施形態の中継局の構成は、図4に示す第2の実施形態の中継局2aと同様である。本実施形態の無線中継システムは、以下のように動作する。
【0066】
(1)時刻T1において、中継局2aは、第2の実施形態と同様に端局1a−i(i=1〜n)から送信された情報フレームFiを記憶回路31−iに記憶している。なお、少なくとも次の中継局2aの送信タイミングにおいてネットワーク符号化対象となっている情報フレームを受信していれば、全ての端局1aから情報フレームを受信していなくともよい。
【0067】
(2)時刻T2において、中継局2aの制御部33は、NC符号化対象の情報フレームFj(jは1以上n以下の整数)を記憶している記憶回路31−jに対して情報フレームの出力を指示する。各送信タイミングにおけるNC符号化対象の情報フレームは、予め制御部33に記憶されている。誤り検出回路32は、記憶回路31−jから出力された情報フレームFjの誤り検出を行い、その誤り検出結果を制御部33に出力する。制御部33は、誤り検出結果から、情報フレームFjのうち、正常に復調された情報フレームFk(kは1以上n以下の整数)を認識すると、正常に復調された情報フレームFkを用いてNC符号化を行なうようNC回路23aに出力するとともに、正常に復調された情報フレームFkの宛先となる端局1a−k’に対応した指向性アンテナ20−k’に変調フレームを分配するようN分配回路26aに指示する。
以降の中継局2aの動作は、第2の実施形態と同様である。また、正常に復調された情報フレームFkが1つのみであった場合の動作についても、第2の実施形態と同様である。
【0068】
例えば、3台以上の端局1aを含む無線中継システムにおいて、端局1a−1から端局1a−2宛の情報フレームF1が、端局1a−2から端局1a−1宛の情報フレームF2が送信されたとする。端局1a−1、1a−2からの情報フレームの送信は、同時であっても、異なる時刻あってもよい。中継局2aの送信タイミングにおいて、制御部33が、この送信タイミングにおいては端局1a−1、1a−2から受信したネイティブ情報フレームがNC符号化対象であると判断した場合、誤り検出回路32から情報フレームF1、F2の誤り検出結果を受信する。情報フレームF1、F2ともに誤りがなかった場合、制御部33は、これらの情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するようNC回路23aに指示するとともに、指向性アンテナ20−1、20−2に変調された符号化情報フレームを分配するようN分配回路26aに指示する。NC回路23aにより生成され、変調回路25により変調された符号化情報フレームXは、指向性アンテナ20−1により端局1a−1へ、指向性アンテナ20a−2により端局1a−2へ同時に送信される。
【0069】
また、例えば、無線中継システムが、端局1a−3から端局1a−2宛の情報フレームが、端局1a−4から端局1a−1宛のパケットが送信されるXトポロジの場合、端局1a−1は、端局1a−3から中継局2aに送信された端局1a−2宛の情報フレームF3を指向性アンテナ10とは異なるアンテナにより受信して鍵情報フレームとして記憶回路12に記憶し、端局1a−2は、端局1a−4から中継局2aに送信された端局1a−1宛の情報フレームF4を指向性アンテナ10とは異なるアンテナにより受信して鍵情報フレームとして記憶回路12に記憶する。中継局2aの送信タイミングにおいて、制御部33が、この送信タイミングでは端局1a−3、1a−4から受信したネイティブ情報フレームがNC符号化対象であると判断した場合、記憶回路31−3から出力された情報フレームF3、記憶回路31−4から出力された情報フレームF4の誤り検出結果を誤り検出回路32より受信する。情報フレームF3、F4ともに誤りがなかった場合、制御部33は、これらの情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するようNC回路23aに指示するとともに、情報フレームF4の宛先である端局1a−1に対向した指向性アンテナ20−1と、情報フレームF3の宛先である端局1a−2に対向した指向性アンテナ20−2に変調された符号化情報フレームを分配するようN分配回路26aに指示する。情報フレームF3、F4をNC符号化して生成された符号化情報フレームXは、変調回路25により変調された後、指向性アンテナ20−1により端局1a−1へ、指向性アンテナ20−2により端局1a−2へ同時に送信される。端局1a−1は、符号化情報フレームXを情報フレームF3により復号して情報フレームF4を取得し、端局1a−2は、符号化情報フレームXを情報フレームF4により復号して情報フレームF3を取得する。
【0070】
以上説明した本発明の実施形態によれば、ネットワークコーディング技術を適用した無線中継において、中継局は、複数の端局の指向性アンテナそれぞれに対向する指向性アンテナによって、同時に互いの干渉なく該複数の端局からネイティブ情報フレームを受信し、各指向性アンテナに対応して設けられているそれぞれの復調回路において復調し、復調したネイティブ情報フレーム同士をNC符号化する。NC符号化により生成された符号化情報フレームは、中継局の送信タイミングにおいて変調回路により変調され、複数の端局それぞれに対向する指向性アンテナを通じて同報送信される。従って、複数の端局の送信タイミングを時間で棲み分ける必要がなくなるため、システムスループットの増大が可能となる。
また、第2、第3の実施形態によれば、中継局は、NC符号化を行う前のネイティブ情報フレームを、各復調回路に対応した記憶回路に記憶しておくため、ネイティブ情報フレームの受信誤りの状況や、端局における保有情報フレームの状況に合わせた柔軟なNC符号化が可能となる。
【0071】
また、本実施形態により、システムがCSMA/CA(carrier sense multiple access / collision avoidance)で動作するマルチホップ無線システムであった場合に発生する端局同士の隠れ端末問題が容易に解決可能となる。
CSMA/CAとは、無線LAN(Local Area Network)で採用されている媒体アクセス制御方式である。具体的には、CSMA/CAは、同一のチャネルに複数のユーザーがアクセスする際の競合を回避する方式であり、IEEE 802.11で採用されている。無線LANは送信信号が微弱であるため、同じチャネルを流れる信号の衝突(コリジョン)が発生しても検出することができない。CSMA/CAは、そのような衝突が起こらないように送信状況を常に監視している方式である。各端局は通信路が一定時間以上継続して空いていることを確認し、その後にデータを送信する仕組みをとっている。データが正しく受信されれば、受信側からACK(Acknowledge)と呼ばれる信号が返ってくる。ACK信号が返ってきた際にデータの授受が成立したと判定される。ACK信号が返ってこなかった場合には、コリジョンが発生したと判断され、データを再び送信する。
また、隠れ端末問題とは、例えば、ノードAとノードBという2つのノードが互いに隠れていて(信号の到達範囲外にあって)、双方が同時にデータを送信した場合に、受信ノードCにおいて、ノードAとノードBから同時にデータが届くためにデータの衝突(コリジョン)が発生する問題である。ノードAとノードBは互いに隠れているため、ノードAからすれば、ノードBが今データを送信中であるのかどうかを知るすべはない。同様に、ノードBからすれば、ノードAが今データを送信中であるのかを知るすべはない。よって、ノードAとノードBは、受信ノードCに向けて同時にデータを送信してしまうことがありえる。
【0072】
つまり、端局は、通信路が空きと判断したときに中継局に情報フレームを送信するが、他の端局が相互に信号の到達範囲外である場合は、他の端局が中継局に情報フレームを送信していることを認識できずに情報フレームを送信してしまう場合がある。本実施形態の中継局は、複数の端局から同時に情報フレームを受信できるため、このような状況が発生しても、正常に複数の端局から同時に受信した情報フレームを受信し、受信した情報フレームを用いてNC符号化した符号化情報フレームを生成し、端局へ送信することができる。従って、端局は、中継局から情報フレームが送信されていない場合に送信機会を得、中継局は、いずれの端局からも情報フレームが送信されていない場合に送信機会を得るようにすればよい。
【0073】
なお、上述の端局1、1a、及び、中継局2、2aは、内部にコンピュータシステムを有している。そして、変調回路11、11a、記憶回路12、復調回路15、NC復号回路16、16a、及び、制御部17、ならびに、復調回路群22、NC回路23、23a、記憶回路24、変調回路25、記憶回路群31、誤り検出回路32、及び、制御部33の動作の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータシステムが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでいうコンピュータシステムとは、CPU及び各種メモリやOS、周辺機器等のハードウェアを含むものである。また、変調回路11、復調回路15、復調回路群22、及び、変調回路25は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよい。
【0074】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0075】
1、1−1、1−2…端局(端局装置)
10…指向性アンテナ(端局指向性アンテナ)
11…変調回路
12…記憶回路(鍵記憶部)
13…増幅回路
14…送受信切替回路
15…復調回路(端局復調部)
16…NC復号回路(ネットワーク符号化復号部)
2、2a…中継局(中継局装置)
20−1〜20−n…指向性アンテナ
21…送受信切替回路群
21−1〜21−n…送受信切替回路
22…復調回路群(復調部)
22−1〜22−n…復調回路
23、23a…NC回路(ネットワーク符号化部)
24…記憶回路
25…変調回路(変調部)
26、26a…N分配回路(分配部)
31…記憶回路群
31−1〜31−n…記憶回路
32…誤り検出回路(誤り検出部)
33…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムであって、
前記中継局装置は、
前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられ、対向する前記端局装置の端局指向性アンテナから無線により情報フレームを受信するとともに、複数の情報フレームをネットワーク符号化した符号化情報フレームを対向する前記端局装置の前記端局指向性アンテナへ無線により送信する複数の指向性アンテナと、
前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられ、対応する前記指向性アンテナが前記端局装置から受信した情報フレームを復調する複数の復調部と、
前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化部と、
前記ネットワーク符号化部が生成した符号化情報フレームを変調する変調部と、
前記変調部が変調した符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配部とを備え、
前記端局装置は、
前記中継局装置の自局に対向する前記指向性アンテナから送信された符号化情報フレームを受信する端局指向性アンテナと、
符号化情報フレームの復号に用いる鍵情報フレームを格納する鍵記憶部と、
前記端局指向性アンテナが受信した符号化情報フレームを復調する端局復調部と、
前記端局復調部が復調した前記符号化情報フレームを、前記鍵記憶部から読み出した鍵情報フレームにより復号するネットワーク符号化復号部とを備える、
ことを特徴とする無線中継システム。
【請求項2】
中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムにおける前記中継局装置であって、
前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられ、対向する前記端局装置の端局指向性アンテナから無線により情報フレームを受信するとともに、複数の情報フレームをネットワーク符号化した符号化情報フレームを対向する前記端局装置の前記端局指向性アンテナへ無線により送信する複数の指向性アンテナと、
前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられ、対応する前記指向性アンテナが前記端局装置から受信した情報フレームを復調する複数の復調部と、
前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化部と、
前記ネットワーク符号化部が生成した符号化情報フレームを変調する変調部と、
前記変調部が変調した符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配部と、
を備えることを特徴とする中継局装置。
【請求項3】
前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームのうち、ネットワーク符号化対象の情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するよう前記ネットワーク符号化部へ指示するとともに、前記ネットワーク符号化対象の情報フレームの宛先である前記端局装置の前記端局指向性アンテナに対向した前記複数の指向性アンテナへ前記変調部が変調した符号化情報フレームを出力するよう前記分配部に指示する制御部をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の中継局装置。
【請求項4】
前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームの誤り検出を行なう誤り検出部と、
前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームのうち、前記誤り検出部において誤りが検出されなかった複数の情報フレームを用いて符号化情報フレームを生成するよう前記ネットワーク符号化部へ指示するとともに、誤りが検出されなかった前記複数の情報フレームの宛先である前記端局装置の前記端局指向性アンテナに対向した前記複数の指向性アンテナへ前記変調部が変調した符号化情報フレームを出力するよう前記分配部に指示する制御部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の中継局装置。
【請求項5】
中継局装置と複数の端局装置とを有する無線中継システムにおける前記中継局装置の無線中継方法であって、
前記複数の端局装置の端局指向性アンテナそれぞれに対向して設けられた複数の指向性アンテナが、前記端局装置から無線送信された情報フレームを受信する受信過程と、
前記複数の指向性アンテナそれぞれに対応して設けられた復調部が、前記受信過程において該復調部に対応した前記指向性アンテナにより前記端局装置から受信した情報フレームを復調する復調過程と、
前記復調過程において前記複数の復調部それぞれが復調した情報フレームをネットワーク符号化して符号化情報フレームを生成するネットワーク符号化過程と、
前記ネットワーク符号化過程において生成された符号化情報フレームを変調する変調過程と、
前記変調過程において変調された符号化情報フレームを前記複数の指向性アンテナに出力する分配過程と、
前記複数の指向性アンテナが、前記分配過程において出力された前記符号化情報フレームを、対向する前記複数の端局装置の端末指向性アンテナへ無線送信する送信過程と、
を有することを特徴とする無線中継方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−250014(P2011−250014A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119500(P2010−119500)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】