説明

無線受信装置および無線受信方法

【課題】伝送路追従の機能を付加する際の演算処理量を削減し、消費電力や回路規模の増大を抑制すること。
【解決手段】マルチキャリア信号を受信する無線受信装置であって、マルチキャリア信号を受信した受信信号から各搬送波の同相成分および直交成分を算出するFFT処理部106と、受信信号の既知信号部分から各搬送波の伝送路特性を算出する伝送路推定部107と、FFT処理部106部の出力(FFT出力)を入力とし、FFT出力が伝送路から受けた振幅変化および位相回転を元に戻す処理を行う伝送路等化部108と、伝送路等化後の出力データが存在する複素平面上の領域を判定する領域判定部114と、領域判定部114の判定結果に基づき、伝送路推定部107が伝送路等化部108に出力する位相回転角の推定値を補正する伝送路変動補正部115を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線受信装置および無線受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を行う際、送信アンテナから受信アンテナに到達する電波には、送信アンテナから直接到達する直接波の他に、周囲の物体に反射してから受信アンテナに到達する反射波などの種々の間接波が存在する。受信機側では、これら直接波および複数の間接波が干渉した信号が検出されるが、干渉の態様は電波の周波数によって異なり、また周囲の物体の移動等によって時間変動する。
【0003】
例えば、互いに直交する複数の搬送波に変調を施して得られる複数のサブキャリアを用いて信号伝送を行う直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplex:OFDM)通信(以下「OFDM通信」と称する)においては、上記直接波および間接波による干渉は、それぞれの搬送波の振幅および位相のずれとなって現れる。これら振幅および位相のずれは、伝送路特性と称されるが、OFDM信号の復調のためには、各搬送波について伝送路特性を推定する必要がある。
【0004】
一方、OFDMパケットの先頭には、通常、既知信号が存在し、受信側では、この既知信号を使用して伝送路推定を行い、パケットの残りのデータ部(既知信号以外の部分)の復調を行う。伝送路に時間変動の要素が存在しない場合は、この処理のみで問題ないが、伝送路に時間変動の要素が存在する場合、実際の伝送路特性はパケット先頭の推定結果から次第にずれてしまい、最終的には復調不可能となってしまう。そのため、長いOFDMパケットを受信する際、あるいは伝送路変動の激しい移動体通信においては、伝送路に追従する処理(伝送路追従処理)が必要となる。
【0005】
伝送路追従処理として有効と考えられる処理は、送信側で送信パケットを作成する際、パケットの途中にも既知信号を挿入するなどして、受信側が伝送路推定できるようにすることである。実際、比較的新しい無線通信規格においては、この種の考慮がなされている。例えば、mobile WiMAX(IEEE802.16e)と呼ばれる無線通信規格では、パケットの途中に伝送路推定用のパイロットサブキャリアを挿入する技術が採用されている。一方、IEEE802.11aのような比較的古い規格では、そのような考慮はなされておらず、既知信号のない状態で伝送路変動に追従するしかない。
【0006】
既知信号のない状態で伝送路追従を行う従来技術としては、復調信号から送信信号のレプリカを求める手法を開示した下記特許文献1などがある。この特許文献1では、受信処理のうち、チャネル等化処理、残留周波数誤差補正処理、サンプリング周波数誤差補正処理を行った後の信号に対し、硬判定もしくは軟判定を行い、送信時の信号点を基準信号として算出すると共に、基準信号を算出した後は、実際の受信信号点と比較して振幅と位相のずれを算出し、各種補正を行っている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1による処理では、基準信号との振幅比の演算処理や、位相差の演算処理に際し、受信成分を振幅と位相の極座標に変換する前処理が必要であり、演算量の増加は不可避である。このため、特許文献1の技術を採用した場合、演算量の増加に起因して消費電力や回路規模が大きくなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−44049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、伝送路追従の機能を付加する際の演算処理量を削減し、消費電力や回路規模の増大を抑制可能な無線受信装置および無線受信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の一態様によれば、マルチキャリア信号を受信する無線受信装置であって、前記マルチキャリア信号を受信した受信信号から各搬送波の同相成分および直交成分を算出するフーリエ変換部と、前記受信信号の既知信号部分から各搬送波の伝送路特性を算出する伝送路推定部と、前記フーリエ変換部の出力を入力とし、このフーリエ変換部の出力が伝送路から受けた振幅変化および位相回転を元に戻す処理を行う伝送路等化部と、伝送路等化後の出力データが存在する複素平面上の領域を判定する領域判定部と、前記領域判定部の判定結果に基づき、前記伝送路推定部が前記伝送路等化部に出力する位相回転角の推定値を補正する伝送路変動補正部と、を備えたことを特徴とする無線受信装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、伝送路追従の機能を付加する際の演算処理量が削減され、消費電力や回路規模の増大が抑制されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、無線受信装置の構成を示すブロック図。
【図2】図2は、BPSK変調方式のデータ点を示す図。
【図3】図3は、QPSK変調方式のデータ点を示す図。
【図4】図4は、16QAM変調方式のデータ点を示す図。
【図5】図5は、64QAM変調方式のデータ点を示す図。
【図6】図6は、16QAM変調方式のデータを受信した際のFFT出力データ点の一例を示す図。
【図7】図7は、伝送路推定部の演算処理を説明する図。
【図8】図8は、16QAM変調方式のデータを受信した際の伝送路等化後データ点の一例を示す図。
【図9】図9は、電力算出部の細部構成を示す図。
【図10】図10は、演算処理を簡略化した電力算出部の細部構成を示す図。
【図11】図11は、領域判定部の判定領域を示す図。
【図12】図12は、判定領域部の動作を説明する図(16QAM受信時)。
【図13】図13は、伝送路変動による位相変動があるときの判定領域部の動作を説明する図(16QAM受信時)。
【図14】図14は、伝送路変動による位相変動があるときの判定領域部の動作を説明する図(BPSK受信時)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態にかかる無線受信装置および無線受信方法を詳細に説明する。なお、以下の内容により本発明が限定されるものではない。
【0014】
<実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態にかかる無線受信装置の構成を示すブロック図であり、一例としてOFDMパケットの受信機能を有する無線受信装置の構成を示している。図1に示すように、本実施の形態にかかる無線受信装置は、受信アンテナ100、高周波回路101、アナログ・デジタル変換器(ADC)102、同期部103、自動周波数制御回路(Auto Frequency Control:AFC)104、ガードインターバル(GI)除去部105、高速フーリエ変換(FFT)処理部106、伝送路推定部107、伝送路等化部108、位相補正部109、サブキャリア復調部110、誤り訂正復号部111および、伝送路追従部112を備えて構成される。また、伝送路追従部112の機能を具現するため、伝送路追従部112は、電力算出部113、領域判定部114、および伝送路変動補正部115を備えている。
【0015】
つぎに、無線受信装置で行われる処理のうち、FFT処理後に実行される補正処理について、補足説明を行う。一般的な受信装置において、FFT処理後の補正処理は、以下の3項目を対象として行われる。
【0016】
(1)伝送路特性
伝送路特性は、送信点から受信点までの距離や地形等によって決まる時間的な要素を含まない振幅および位相の変動特性である。この伝送路特性は、通常、無線フレームの先頭にある既知信号(プリアンブル)を使って推定され、サブキャリアごとに異なった値となる。
【0017】
(2)位相変動
位相変動は、例えば送受信機に搭載される発振器の特性の差異に起因して起こる位相の変動である。なお、この位相変動は、位相の時間的な変動を伴うものの、全てのサブキャリアに対して同じような位相ずれ(同一の位相ずれ、あるいは規則的な位相ずれ)が生じるので、サブキャリアごとに推定する必要はない。
【0018】
(3)伝送路変動
伝送路変動は、送信アンテナから受信アンテナまでの距離や状況が時間的に変化することによって起こる変動であり、位相と振幅の時間的な変動を伴っている。この伝送路変動は、伝送路特性と同様にサブキャリアごとに異なった値となる。なお、この伝送路変動にも位相変動があるので、特に上記(2)の位相変動と区別する場合には、「伝送路変動による位相変動」という表現を使用する。
【0019】
なお、本実施の形態における無線受信装置は、上記(1)〜(3)項を対象とした補正機能を有するものであるが、本実施の形態の無線受信装置の要旨となる伝送路追従部112は、特に、上記(3)項に対する補正機能を拡充するものである。
【0020】
つぎに、本実施の形態における無線受信装置の動作について説明する。ここではまず、伝送路追従部112以外の動作について説明する。
【0021】
図1において、受信アンテナ100にて検波された無線信号は、高周波回路101にて無線周波数からベースバンド信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号は、AD変換器102にてデジタル信号に変換され、同期部103およびAFC回路104に入力される。
【0022】
同期部103は、OFDMパケット内の各シンボルの境界を検出し、所望のタイミング信号をAFC回路104およびGI除去部105に出力する。AFC回路104は、このタイミング信号に従って、送信側と受信側と間の無線周波数誤差の補正演算を行う。GI除去部105は、このタイミング信号に従って、受信演算に不要なガードインターバル期間のサンプルを破棄する。GI除去部105を通過した信号は、FFT処理部106にて離散フーリエ変換され、各搬送波ごとの同相成分および直交成分が算出される。
【0023】
なお、本実施の形態の無線受信装置では、一次変調方式としてBPSK、QPSK、16QAM、64QAMなどを想定している。例えば、一次変調方式としてBPSKを採用した場合、送信側では各サブキャリアについて、誤り訂正符号をかけたデータビット1bitを受け取ると、図2に示すBPSK変調方式のデータ点(複素平面上におけるBPSK変調方式のデータ点)200または201に割り当て、その成分を有する送信信号を生成して送信する。
【0024】
また、一次変調方式としてQPSKを採用した場合、BPSK時と同様に各サブキャリアについて誤り訂正符号をかけたデータビット2bitを受け取り、図3に示すQPSK変調方式のデータ点300〜303の何れか一つに割り当て、その成分を有する送信信号を生成して送信する。
【0025】
以下、同様に、16QAMの場合には、データ4bitを受け取って図4に示す16QAM変調方式のデータ点400〜415の何れか一つに割り当てる処理を行い、64QAMの場合には、6bitを受け取って図5に示す64QAM変調方式のデータ点500〜563の何れか一つに割り当てる処理を行い、それらの各成分を有する送信信号を生成して送信する。
【0026】
受信機側のFFT処理後の各サブキャリアの成分は、当該サブキャリアの伝送路特性に応じて、振幅および位相がずれた状態で現れる。図4に示す16QAMで変調したOFDMパケットを受信すると、そのFFT出力は、例えば図6のように表現できる。ここで、図6に示す各受信点400a〜415aは、それぞれ図4の各送信点400〜415に対応している。なお、図6にいて、各受信点を破線で示しているのは、受信点の存在位置(範囲)が広がることを意味している。OFDM通信に限らず、無線通信においては、無線信号が伝送され過程で無線信号にノイズが重畳する。その結果、受信側では、受信点の存在範囲がノイズの大きさに応じて広がることになる。
【0027】
ここで、FFT処理部106の出力から、正しいデータビットを取得するためには、上述した振幅および位相のずれを元に戻す作業(伝送路等化)が必要になり、そのためには、まず各サブキャリアについての伝送路特性を推定する必要がある。一方、OFDMパケットの先頭部には、既知信号が割り当てられた既知信号部があり、伝送路特性は、この既知信号を利用して推定することが可能である。
【0028】
図7は、伝送路推定部107の演算処理を説明する図である。図7において、黒丸で示した点700は既知信号の送信したときの送信点を表し、白丸で示した点700aは、受信時のFFT出力点(当該送信点に対応するデータを受信してFFT処理を行ったときの出力点)を表している。送信時と比較し、受信時のFFT出力は、角度φだけ反時計方向に周り、振幅もR’/R倍だけ大きくなっている。伝送路推定部107は、受信点700aから振幅比R’/Rおよび位相回転角φを算出する。ここで算出された、振幅比R’/Rおよび位相回転角φは、伝送路推定値と称される。なお、伝送路追従部112がない構成では、伝送路推定部107が推定した伝送路推定値は、伝送路等化部108に入力される。
【0029】
伝送路等化部108は、伝送路推定部107が推定した伝送路推定値を用いて伝送路等化処理と称される処理を行う。具体的に、伝送路等化部108は、伝送路の変動によって伸縮した振幅に対しR/R’を乗算することで戻し、角度φだけ回った位相に対し“−φ”の回転演算を行うことで元の位相に戻す。
【0030】
図8は、16QAM変調方式における伝送路等化後の受信データ点の一例を示す図である。すなわち、図6に示すFFT出力データ点に対して伝送路等化処理を行った場合を示している。図4(元となる送信データ点)と図8とを比較すると、受信FFT出力の元となる送信データ点の位置と、受信FFT出力に伝送路等化処理を行って戻した受信データ点の位置は、ほぼ同じになっている。一方、これらの位置が完全に一致するわけではない。これらの位置が完全に一致しないのは、送信機側の特性と受信機側の特性とに差異(上述した「位相変動」の説明を参照)があるからである。
【0031】
例えば、送信側のAD変換周波数と受信側(AD変換器102)のAD変換周波数との間にずれがあると、このずれに応じた位相回転が発生する。また、AFC回路104で除去しきれなかった送信側と受信側の残留無線周波数誤差によっても位相回転が生じる。さらに、送信機側と受信機側の位相雑音の差異によっても位相回転が生じる。これら送受信機の特性に起因する位相ずれは、位相補正部109が補正する。OFDMパケットのデータ部には、位相回転推定用の既知信号がところどころに存在するので、位相補正部109は、これらの既知信号を用いて位相ずれを推定し補正する。ただし、これらの既知信号は、伝送路を推定し直すことができるほど密には存在していない。
【0032】
伝送路等化部108と位相補正部109によって受信データ点から送信データ点の近傍位置に戻された各サブキャリア成分は、サブキャリア復調部110にて、元のデータビットに復調される。また、復調されたデータビットは、誤り訂正復号部111にて元のデータに復号される。以上が、伝送路追従部112の処理を除いた受信処理に関する一通りの説明である。
【0033】
伝送路変動が生じると、時間の経過と共に徐々に、パケットの先頭(すなわち既知信号)で推定した伝送路推定値と、実際の伝送路推定値とにずれが生じる。その結果、伝送路等化部108での等化処理および位相補正部109での位相補正処理を行った後の信号点の振幅および位相にずれが生じてくる。この振幅および位相のずれを検出し、伝送路推定値を、その都度補正し、伝送路変動による受信品質の劣化を防ぐのが伝送路追従部112の機能である。なお、比較的短いパケットを伝送する場合や、比較的短期間の伝送路変動は、伝送路推定部107、伝送路等化部108および位相補正部109のみによって補正することが可能であるが、長いパケットを伝送する場合や、時間経過が無視できない伝送路変動は、伝送路追従部112をさらに付加することで実現することが可能となる。
【0034】
つぎに、伝送路追従部112の動作について説明する。なお、伝送路追従部112は、図1に示すように、伝送路推定部107の出力に基づいて伝送路等化部108を制御するフォーワードループと、位相補正部109の出力に基づいて伝送路等化部108を制御するフィードバックループとが形成されるように、伝送路推定部107、伝送路等化部108、および位相補正部109の3者間に挿入されている。
【0035】
伝送路追従部112において、伝送路変動における振幅ずれは、電力算出部113が検知し、伝送路変動における位相ずれは、領域判定部114が検知する。伝送路変動補正部115は、これら電力算出部113および領域判定部114による検知信号を受領し、伝送路推定値を補正する。前述したように、伝送路特性は、各サブキャリアによって異なるので、伝送路追従処理は、サブキャリア毎に行うことが好ましい。
【0036】
つぎに、振幅補正の原理を説明する。理解を容易とするため、全ての振幅値を、送信データ点の平均振幅Rで規格化する(R=1)。このように規格化すると、振幅比R’/R=R’となる(以下このR’を「振幅特性値」と称する)。一方、追従対象の伝送路におけるデータ点の振幅値(すなわち、FFT出力)をDとおく。なお、このDの値は、BPSKおよびQPSKでは、R’にノイズが加わった値となる。また、16QAMおよび64QAMでは、データによってさまざまな振幅の値をとりうるが、全てのデータ点の振幅を電力平均した値はR’になる。よって、Dの値を、データ依存による振幅変動成分およびノイズ成分が充分に抑圧されるほどに平滑化すれば振幅特性値R’となる。よって、FFT出力後のデータを、さらに伝送路等化した後の振幅値は、D/R’となる。
【0037】
いま、伝送路変動によって振幅特性値がR’からR''に変化したとすると、Dの電力で平滑化したときの振幅がR''となるので、次式を用いて表現できる。
R''=√(αD^2+(1−α)R’^2) …(1)
ここで、αは平滑化パラメータであり、定数である。
【0038】
上記(1)式による演算処理を実現する構成部が伝送路追従部112である。なお、伝送路追従部112は、伝送路推定部107、伝送路等化部108、および位相補正部109との間にフォーワード接続およびフィードバック接続されるので、(1)式による演算は次式に基づき、再帰的に実行される。
【0039】
''=R
''=√(αD^2+(1−α)R''^2)
''=√(αD^2+(1−α)R''^2)
……
n+1''=√(αD^2+(1−α)R''^2) …(2)
【0040】
上記(2)式において、R''は、伝送路追従部112から出力される1シンボル目の振幅特性値であり、R''は、伝送路追従部112から出力されるnシンボル目の振幅特性値である。また、R’は、既知信号を用いて推定された伝送路推定値(振幅成分)であり伝送路推定部107によって生成される。なお、最初の1シンボル目は、伝送路追従部112に入力されるフィードバック成分がないので、伝送路推定部107が推定した伝送路推定値R’がそのまま伝送路等化部108に出力されるが、2シンボル目以降は伝送路追従部112が演算した振幅特性値R''が新たな伝送路推定値として伝送路等化部108に出力される。
【0041】
つぎに、位相補正部109の出力に着目する。位相補正部109の出力は、伝送路等化処理および位相補正処理を行った出力であるが、この出力の同相成分と直交成分の各振幅を2乗した値は、nシンボル目のデータが出力された時点では、(D/R'')^2で表すことができる。この2乗値は、nシンボル目のデータの電力に対応するので、いま、これをPとおいて(2)式に代入して整理すれば、次式のように表せる。
【0042】
n+1''=R''[√(1+α(P−1)] …(3)
【0043】
すなわち、上記(3)式は、古い伝送路推定値R''に、電力の要素を含むパラメータ√(1+α(P−1))を乗算することで、新しい伝送路推定値R''を生成することができる、ということを意味している。
【0044】
図9は、電力算出部113の細部構成を示す図である。この電力算出部113では、まず、入力された同相成分および直交成分が乗算器1131,1132にてそれぞれ自乗され、加減算器1133にて加算され上記P(P)の値となる。さらに、定数加算器1134,1136、および定数倍乗算器1135による3つの演算処理が行われた後、平方根演算器1137にて処理され、新しい伝送路推定値と古い伝送路推定値との比であるパラメータ√(1+α(P−1))となる。この値は、電力算出部113から伝送路変動補正部115へ出力される。伝送路変動補正部115では、古い伝送路振幅に、このパラメータの値を乗算し新しい伝送路振幅とすることで、伝送路振幅変動への追従が可能となる。
【0045】
ここで、平滑化パラメータαについて検討する。例えば、一次変調方式としてQAM変調を用いた場合、実用的に平滑化パラメータαは1より充分小さな値に設定することが可能である。また、平滑化パラメータαが1より小さいということは、上記(2)式に着目すれば理解できるように、現在の値(D)よりも過去の値(R'')の方を重視するという考え方であり、補正できない部分の誤差の累積的蓄積を抑止する観点に鑑みても好ましい方向に作用する。したがって、平滑化パラメータαが1より充分小さいという条件を付加すると、上記(3)式は次式のように変形される。
【0046】
n+1''=R''[1+(α/2)(P−1)] …(4)
【0047】
図9に示した電力算出部113の構成を(4)式を用いて簡略化したものが図10である。すなわち、平滑化パラメータαが1より充分小さいという条件を付加することにより、図9の構成から、平方根演算器1137の省略が可能となる。
【0048】
つぎに、領域判定部114の動作について説明する。領域判定部114は、位相補正部109の出力の同相成分および直交成分に基づき、位相補正部109の出力が複素平面上のどの領域に存在するかを判定する。なお、領域判定部114が判定する複素平面上の領域は、図11に示すように8つの領域に区分されている。
【0049】
すなわち、領域判定部114は、位相補正部109の出力を監視し、
(a)同相成分が正、且つ、直交成分が正、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より大きい場合は領域1、
(b)同相成分が正、且つ、直交成分が正、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より小さい場合は領域2、
(c)同相成分が負、且つ、直交成分が正、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より小さい場合は領域3、
(d)同相成分が負、且つ、直交成分が正、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より大きい場合は領域4、
(e)同相成分が負、且つ、直交成分が負、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より大きい場合は領域5、
(f)同相成分が負、且つ、直交成分が負、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より小さい場合は領域6、
(g)同相成分が正、且つ、直交成分が負、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より小さい場合は領域7、
(h)同相成分が正、且つ、直交成分が負、且つ、同相成分の絶対値が直交成分の絶対値より大きい場合は領域8
とそれぞれ判定する。
【0050】
いま、QPSK、16QAM、64QAMを用いるとき、領域1,3,5,7を奇数領域、領域2,4,6,8を偶数領域とする。このとき、伝送路変動による位相ずれが無い場合、受信点の存在範囲は、例えば図12のようになり、受信点が奇数領域に存在する確率と偶数領域に存在する確率とが等しくなる。
【0051】
一方、伝送路変動により位相が正側にずれた場合、受信点の存在範囲は、例えば図13のようになり、受信点が奇数領域に存在する確率が小さくなり、偶数領域に存在する確率が大きくなる。この理由は、点400d,403d,405d,406d,409d,410d,412d,415dのような領域境界近傍に存在している点が左回りに移動し、偶数領域側に寄るからである。逆に、位相が負側にずれた場合、奇数領域に存在する確率が大きくなり、偶数領域に存在する確率が小さくなる。
【0052】
領域判定部114は、この領域判定情報を伝送路変動補正部115へ通知する。伝送路変動補正部115では、受け取った領域情報に基づいて位相回転角を微調整する。例えば、受信点が奇数領域に存在すると判定した場合、伝送路位相が負側にずれている可能性が高いため、領域判定部114は、位相回転角φの値を負の側に所定の微小量(Δφ)だけずらした補正値を生成する。逆に、受信点が偶数領域に存在すると判定した場合、伝送路位相が正側にずれている可能性が高いため、領域判定部114は、位相回転角φの値を正の側に一定の微小量(Δφ)だけずらした補正値を補正する。この補正情報は、伝送路変動補正部115を介して伝送路等化部108に通知され、伝送路等化部108にて位相を戻す処理が行われる。このような一連の処理により、伝送路変動による位相変動に位相回転角を追従させることが可能となる。
【0053】
なお、BPSKについては、領域と位相補正方向の対応関係が異なる。図14は、伝送路変動による位相変動が正側にずれた場合のBPSK変調方式の受信点を示している。BPSKの場合、領域を奇数象限と偶数象限に区分し、奇数象限と判定した場合には伝送路位相を正側に微小補正し、偶数象限と判定した場合には負側に微小補正してやればよい。
【0054】
ところで、位相が正側にずれていてもデータ点自体(例えば、図13のデータ点404d)が奇数領域にある場合、奇数領域と判定され、誤った方向に補正がなされるのではないかという杞憂がある。しかしながら、402d,404d,411d,413dといった完全に奇数領域中にあるデータ点と、401d,407d,414d,408dといった完全に偶数領域中にあるデータ点の個数は同数であり、また通常の無線通信では、各データ点をとる確率が同等になるように規格されているため、位相ずれに関係なく、データ点によって補正された分は確率的に正側と負側とで相殺される。すなわち、領域境界の近傍にないデータ点によって、誤った方向に補正がなされ可能性は極めて低い。
【0055】
ただし、このような領域境界の近傍にないデータ点が増えれば増えるほど、位相ずれによる領域判定の頻度は減少する。例えば、BPSKおよびQPSKは、全データ点が領域境界上に存在しているが、16QAMの場合、領域境界近傍には半数のデータ点しか存在しない。したがって、BPSKおよびQPSKの場合、領域判定によって位相ずれが正しく判定される確率は2分の1である。また、64QAMの場合、正しく判定される確率は4分の1となる。さらに、境界領域近傍のデータ点であっても、ノイズの大きさによっては逆の方向に補正される可能性も否定できない。このため、伝送路変動以外の要因による誤補正を充分に相殺するため、1回の判定での位相補正量は充分に小さいことが好ましい。また、1回の判定での位相補正量は、変調方式の種類や伝送路変動の大小によって変動することになるので、変調方式の多値度の増加に応じて位相補正量を小さくし、伝送路変動の変動率に応じて位相補正量を小さくすることが好ましい。
【0056】
つぎに、本実施の形態にかかる無線受信装置による効果について説明する。効果の説明は、背景技術の項でも触れた特許文献1(特開2002−44049号公報)を比較対象とし、両手法による演算処理量を比較することで行う。なお、伝送路変動への追従には、伝送路変動による位相変動に位相回転角を追従させる処理(以下「位相回転角追従処理」と称する)および、伝送路の振幅変動に振幅特性値を追従させる処理(以下「振幅特性値追従処理」と称する)があるので、これらを区別して比較する。
【0057】
(位相回転角追従処理)
特許文献1の位相回転角追従処理では、まず、同相成分と直交成分を座標にもつ受信点について硬判定を行い、基準信号点を見出す。つぎに、受信点と基準信号点の位相を比較し、位相回転角を補正する。硬判定では、比較演算をデータビットの数だけ行う。つまりBPSKなら1回、QPSKなら2回、16QAMは4回、64QAMは6回である。この後、判定結果を元に基準信号点の位相をデータテーブルから参照すると共に(テーブル参照1回)、受信点の位相を知るため、位相算出演算を行う。この位相算出処理は、直交成分を同相成分で割って位相の正接を求めたのち(除算1回)、逆正接表を参照することによって実現される(テーブル参照1回)。最後に求めた受信点と基準信号点の位相の差を求めた後、伝送路位相補正を行うが、これは加減算2回で実現できる。すなわち、特許文献1の位相回転角追従処理では、変調方式に基づく比較演算が1〜6回、加減算が2回、除算が1回、テーブル参照が2回である。これらのうち、比較演算や加減算は演算処理の規模が小さく、規模の大きな演算の回数は、除算が1回、テーブル参照が2回である。
【0058】
これに対し、本実施の形態の位相回転角追従処理では、まず領域判定を行うが、この判定処理は、比較演算3回で可能である。つぎに、伝送路位相の微小補正を行うが、この補正処理は、加減算1回のみである。このように、本実施の形態の位相回転角追従処理では、乗算、除算やテーブル参照などの規模の大きな演算を要することなく実現できる。
【0059】
(振幅特性値追従処理)
特許文献1の振幅特性値追従処理では、まず、硬判定を行った後の基準信号点について、データテーブルからその振幅の値を読み出す(テーブル参照1回)。つぎに、現在の受信点の振幅を求めるが、この処理は、同相成分および直交成分をそれぞれ自乗して加算し(乗算2回、加算1回)、平方根演算を行うことで達成される(平方根演算1回)。最後に、受信点の振幅と基準点の振幅との比を求め(除算1回)、その値を現在の振幅特性値に乗算する(乗算1回)。その結果、特許文献1の振幅特性値追従処理では、規模の大きな演算の回数は、乗算が3回、除算が1回、平方根演算が1回、テーブル参照が1回である。
【0060】
これに対し、本実施の形態の振幅特性値追従処理では、図10に示す構成(近似式使用)を用いて算出すると、電力算出処理を行う際に、自乗演算2回および加算1回を行い、振幅補正パラメータを算出する際に、加算2回および定数倍演算1回が加わる。ただし、定数倍演算はビットシフト演算などで行うことができるため、演算量は小規模である。最後に、振幅特性値を更新する際に乗算を1回行う。よって、本実施の形態の振幅特性値追従処理では、規模の大きな演算の回数は、乗算が3回のみである。
【0061】
また、位相回転角追従処理および振幅特性値追従処理の双方を行う場合を考えると、特許文献1による追従処理では、乗算が3回、除算が2回、平方根演算が1回、テーブル参照が3回であるのに対して、本実施の形態の追従処理では、乗算が3回のみである。
【0062】
このように、本実施の形態の無線受信装置によれば、伝送路追従機能を付加した場合であっても、規模の大きな演算量を削減することができるので、消費電力や回路規模の増大を抑制することが可能となる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態にかかる無線受信装置について、図1〜図14の図面を参照して詳述してきたが、本発明の構成は、上記に開示した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、図1の構成では、伝送路追従部112として、電力算出部113および領域判定部114の双方を備えるようにしているが、領域判定部114のみを備える構成でも構わない。領域判定部114を備えることで、伝送路変動が存在する状況下において、受信性能に多大な影響を与える位相の値を伝送路変動に追従させることができるので、受信性能の劣化を抑制することが可能となる。なお、電力算出部113を備えるようにすれば、振幅特性値に対する追従処理も可能となるので、受信性能劣化の抑制効果が増大する。
【0065】
また、例えば、図1の構成では、位相補正部109の出力を電力算出部113および領域判定部114の入力としているが、伝送路等化部108の出力を電力算出部113および領域判定部114の入力としてもよい。また、位相補正部109の出力を領域判定部114の入力とし、伝送路等化部108の出力を電力算出部113の入力とする構成でもよいし、これとは逆に位相補正部109の出力を電力算出部113の入力とし、伝送路等化部108の出力を領域判定部114の入力とする構成でもよい。位相補正部109は、本来、送受信機の特性の差異に起因する位相変動を目的として設けられたものである。このため、位相補正部109による位相補正処理は、伝送路追従処理を行う前に実行してもよいし、伝送路追従処理を行った後に実行してもよい。したがって、電力算出部113および領域判定部114に対するフィードバック入力は、位相補正部109の前後何れの出力を用いても構わない。
【0066】
なお、送信機側の特性と受信機側の特性との間に大きな差異がなければ、位相補正部109の構成を省略しても構わない。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態にかかる無線受信装置によれば、マルチキャリア信号を受信した受信信号から各搬送波の同相成分および直交成分を算出し、受信信号の既知信号部分から各搬送波の伝送路特性を算出し、同相成分および直交成分が伝送路から受けた振幅変化および位相回転を元に戻す伝送路等化処理を行い、伝送路等化処理後の出力データが存在する複素平面上の領域を判定し、当該判定された領域情報に基づき、伝送路等化処理を行う際に用いる位相回転角の推定値を補正することとしたので、伝送路追従の機能を付加する際の演算処理量を削減することができ、消費電力や回路規模の増大を抑制することが可能となる。
【0068】
なお、本実施の形態では、複数のサブキャリアを用いて信号伝送を行うOFDM伝送方式に適用される無線受信装置を一例として説明したが、OFDM伝送方式のみに限定されるものではなく、例えば、周波数軸方向に拡散処理を行うマルチキャリアCDMA(MC−CDMA)や、時間軸方向の拡散処理を複数のサブキャリアを用いて行うマルチキャリアCDMA(MC/DS−CDMA)に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 受信アンテナ、101 高周波回路、102 アナログ・デジタル変換器(ADC)、103 同期部、104 自動周波数制御回路(AFC)、105 ガードインターバル(GI)除去部、106 高速フーリエ変換(FFT)処理部、107 伝送路推定部、108 伝送路等化部、109 位相補正部、110 サブキャリア復調部、111 誤り訂正復号部、112 伝送路追従部、113 電力算出部、114 領域判定部、115 伝送路変動補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャリア信号を受信する無線受信装置であって、
前記マルチキャリア信号を受信した受信信号から各搬送波の同相成分および直交成分を算出するフーリエ変換部と、
前記受信信号の既知信号部分から各搬送波の伝送路特性を算出する伝送路推定部と、
前記フーリエ変換部の出力を入力とし、このフーリエ変換部の出力が伝送路から受けた振幅変化および位相回転を元に戻す処理を行う伝送路等化部と、
伝送路等化後の出力データが存在する複素平面上の領域を判定する領域判定部と、
前記領域判定部の判定結果に基づき、前記伝送路推定部が前記伝送路等化部に出力する位相回転角の推定値を補正する伝送路変動補正部と、
を備えたことを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
伝送路等化後の同相成分および直交成分を入力として前記受信信号の電力成分を求める電力算出部をさらに備え、
前記伝送路変動補正部は、前記電力算出部の算出結果に基づき、前記伝送路推定部が前記伝送路等化部に出力する振幅変動の推定値を補正することを特徴とする請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
伝送路等化後の出力を入力とし、送受信機の特性に起因する位相変動を補正する位相補正部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の無線受信装置。
【請求項4】
前記伝送路変動補正部が前記位相回転角の推定値に対して行う位相補正量は、変調方式の多値度の増加に応じて小さく設定されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の無線受信装置。
【請求項5】
マルチキャリア信号を受信する無線受信方法であって、
前記マルチキャリア信号を受信した受信信号から各搬送波の同相成分および直交成分を算出し、前記受信信号の既知信号部分から各搬送波の伝送路特性を算出し、前記同相成分および直交成分が伝送路から受けた振幅変化および位相回転を元に戻す伝送路等化処理を行い、伝送路等化処理後の出力データが存在する複素平面上の領域を判定し、当該判定された領域情報に基づき、前記伝送路等化処理を行う際に用いる位相回転角の推定値を補正することを特徴とする無線受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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