説明

無線機およびコンピュータプログラム

【課題】デジタル方式の音声通信を採用した無線機において、通信可能なレピータのコールサインを、ユーザに負担をかけることなく自動的に取得する。
【解決手段】無線機の不揮発性メモリには、複数箇所に設置されたレピータの位置情報D2、コールサインD3およびアップリンクおよびダウンリンクの周波数D4〜D6のデータを含むテーブルTが格納されている。無線機のコントローラは、交信に先立ち、位置情報取得装置から入手した無線機の現在位置を示す情報を、テーブルTに含まれるレピータの位置情報D2と比較して、距離の近いレピータをテーブルTから選択し、そのレピータのコールサインD3を送り元のレピータのコールサインとして送信部に通知する。コントローラは更に、アップリンクの周波数(D4、D5およびD6から算出)を送信部に通知し、ダウンリンクの周波数D4を受信部に通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル方式の音声通信を採用した無線機、およびその無線機の機能を実現するコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばアマチュア無線の世界において、より高速の通信を実現し、またクリアな音声での交信を楽しむために、音声通信のデジタル化とネットワーク化が普及しつつある(例えば、特許文献1参照)。アマチュア無線のデジタル音声通信においては、音声信号は符号化されてデジタル信号に変換され、パケット化された後に送信される。
【0003】
以下、図6を参照して、デジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムについて簡単に説明する。
【0004】
図6に示すアマチュア無線システム100では、複数の無線機1(1a〜1e)をカバーするエリア2(2a、2b)毎にレピータ3(3a、3b)が設置されている。図6の例では、レピータ3aがカバーするエリア2aに無線機1a、1b、1cが存在し、レピータ3bがカバーするエリア2b内に無線機1d、1eが存在する。
【0005】
隣接するレピータ3a、3b間は、マイクロ波を使用して音声およびデータが多重化された状態で送信される。レピータ3a、3bで結ばれたサービスエリアをゾーン5という。複数のゾーン5(5a、5b、5c)の間は、ゲートウェイ4を介してインターネット6で結ばれている。
【0006】
上述のアマチュア無線システム100においては、音声信号がパケット化され、かつパケットのヘッダ部に送信先、送信元のコールサイン等を示すデータが付加されたことに伴い、アナログ音声通信ではできなかった多くの機能を実現できるようになった。
【0007】
例えば、図6のアマチュア無線システム100を用いることで、以下に示すような様々な形態の交信を実現できる。
(1)各エリア2内での無線機1同士の直接の交信
(2)各エリア2内での無線機1同士のレピータ3を介した交信
(3)同一ゾーン5内の異なるエリア2の無線機1同士のレピータ3を介した交信
(4)異なるゾーン5の無線機1同士のゲートウェイ4とインターネット6を介した交信
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−186816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のデジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムでは、交信を始める際に、送信先および送信元のコールサインと共に、送り先および送り元のレピータのコールサインを指定する必要がある。
【0010】
従って、無線機を自動車等の移動体に搭載した場合、移動に伴って属するエリアが変わるため、交信の都度、送り元のレピータのコールサインを変更する必要がある。日常的に移動するエリアについては、どのレピータが通信可能かは経験上わかっており、交信の際に通信可能なレピータを選択し、コールサインを設定することは容易である。
【0011】
しかし、旅行や出張などで初めて訪れた場所で交信する場合、その場所でどのレピータが通信可能なのかを簡単に知ることは困難である。そのため、住所とエリアのコールサインとの対照表を持参するか、インターネットの検索ツール等を用いて、予めその場所のレピータのコールサインを調べておく必要があり、ユーザの負担が大きい。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、ユーザに負担をかけることなく、通信可能なレピータのコールサインを自動的に取得できる無線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明にかかる無線機は、アナログ音声信号をA/D変換および符号化してデジタル音声信号に変換した後、このデジタル音声信号を含むパケットを生成し、このパケットを無線信号に変換して送信する無線機であって、
前記パケットとして、ヘッダ部に送信先および送信元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータが含まれ、データ部に前記デジタル音声信号のデータが含まれるパケットを生成する送信部と、
前記各識別子のデータを前記送信部に通知するコントローラと、
複数箇所に設置された前記レピータの位置情報および識別子のデータを含むテーブルが格納されたメモリと、
前記送信元の無線機の位置を示す情報を取得する位置情報取得装置と、を備え、
前記コントローラは交信に先立ち、
前記位置情報取得装置から入手した前記送り元の無線機の現在位置を示す情報を、前記テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較して、距離の近いレピータを前記テーブルから選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる無線機は、受信した前記無線信号を復調して前記パケットを取り出す受信部を更に備え、また前記テーブルは、前記レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータを更に含み、
前記コントローラは、前記テーブルから、前記選択したレピータのアップリンクの周波数を取り出して前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を取り出して前記受信部に通知することが好ましい。
【0015】
また前記コントローラは、
前記テーブルから前記送り元の無線機の現在位置に近い複数のレピータのデータを抽出して、そのレピータの位置情報、アップリンクおよびダウンリンクの周波数、ならびに識別子のデータを含むリストを作成すると共に、前記無線機の位置情報および前記レピータの位置情報に基づいて前記無線機と前記レピータの距離を算出し、
前記リストから前記送り元の無線機に距離が最も近いレピータを選択し、その選択したレピータの識別子とアップリンクの周波数を前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を前記受信部に通知することが好ましい。
【0016】
更に、前記位置情報取得装置としてGPSレシーバを用いることが、もしくは前記テーブルを格納するメモリとして不揮発性メモリを用いることが好ましい。
【0017】
また本発明にかかるコンピュータプログラムは、コンピュータを、A/D変換され符号化された音声信号を含むパケットのヘッダ部から、送り先および送り元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータを取り出し、その内容を解析するコントローラとして機能させるコンピュータプログラムであって、
前記コントローラは、
位置情報取得装置から入手した送り元の無線機の現在位置を示す情報を、メモリに格納された、複数箇所に設置された前記レピータの位置情報および識別子のデータを含むテーブルの位置情報と比較して、距離の近いレピータを前記テーブルから選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の無線機では、予めメモリにレピータの位置情報とコールサインを含むテーブルを格納しておき、位置情報取得装置で取得した無線機の現在位置をメモリに格納されたレピータの位置情報と比較することで、無線機が属するエリアのレピータのコールサインを選択している。結果として、ユーザが煩雑な操作を行うことなく、通信できる可能性の高いレピータのコールサインを自動的に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態にかかる無線機の構成を示すブロック図である。
【図2】無線機によって送信されるパケットの構成を示す図である。
【図3】メモリに格納されたレピータの位置情報およびコールサインを含むテーブルの一例を示す図である。
【図4】表示部の画面に表示された受信機の位置情報を示す図である。
【図5】メモリに格納されたテーブルから無線機が属するエリアのレピータを選択する際の手順を説明するフローチャートである。
【図6】デジタル方式の音声通信を採用したアマチュア無線システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態にかかる無線機について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
<無線機の構成>
図1に、デジタル音声通信を採用した本実施の形態にかかる無線機の構成を示す。無線機1は、マイク11、スピーカ12、AF増幅器13、音声コーデック14、送信部15、送受切替部16、アンテナ17、受信部18、インターフェース部19、コントローラ21、操作部26および表示部28で構成されている。図中、太線の矢印は音声信号やデータの流れを示し、細線の矢印は制御系統の信号の流れを示している
【0022】
マイク11は、送信用の音声を入力としてアナログ音声信号を生成し、その音声信号をAF増幅器13に出力する。一方、スピーカ12は、AF増幅器13から出力されたアナログ音声信号を音声に変換する。
【0023】
AF(Audio Frequency)増幅器13は、マイク11から入力されたアナログ音声信号を増幅して音声コーデック14に供給する。また、音声コーデック14から供給された受信音声のアナログ音声信号を増幅してスピーカ12に出力する。
【0024】
音声コーデック14は、AF増幅器13から供給されたアナログ音声信号をA/D(アナログ/デジタル)変換および符号化して送信部15に出力する。音声コーデック14はまた、受信部18から供給されたデジタル音声信号を復号化し、更にD/A(デジタル/アナログ)変換した後、AF増幅器13に出力する。
【0025】
送信部15は、音声コーデック14から供給されたデジタル音声信号に無線通信用のヘッダを付すと共に、後述するPTTスイッチ27の出力に基づいて分割し、図2に示す送信用のパケットを生成する。パケットの構成については、後に図2を用いて詳述する。送信部15は更に、パケットを構成するデジタルデータで搬送波を変調し、必要に応じて周波数変換を行い、送受切替部16を介してアンテナ17から送信する。
【0026】
送受切替部16は、PTTスイッチ27が押されてオンになると送信部15からの送信信号をアンテナ17に導き、PTTスイッチ27が放されてオフになるとアンテナ17の受信信号を受信部18に導く。
【0027】
受信部18は、コントローラ21からの指示信号に従って受信周波数を切り替え、受信周波数に同調して受信信号を増幅し、更に復調してパケットを再生する。そして再生したパケットからヘッダ部を取り除き、音声データについては音声コーデック14に供給し、その他のデータ(例えば、イーサネット[登録商標]に準拠したパケット)についてはインターフェース部19に供給する。
【0028】
インターフェース部19は外部接続端子20を介してGPS(Global Positioning System)レシーバ29に接続され、GPSレシーバ29から供給されるパケットをコントローラ21に供給する。またインターフェース部19は、受信部18から供給されたイーサネット[登録商標]準拠のパケットを、外部接続端子20を介して外部機器(例えばパソコン)に供給する。
【0029】
なお、本実施の形態では、位置情報の取得装置として外付けのGPSレシーバ29を用いているが、無線機1にGPSユニットを内蔵させ、そのGPSユニットから位置情報を取得するようにしてもよい。また、インターネットに接続されたパソコンを用いて、Googleマップのリンク情報から位置情報を取得するようにしてもよい。更には、操作部26から位置情報を手動で入力し、RAM24に記憶するようにしてもよい。この場合、外部機器を接続する必要がなくなる。
【0030】
コントローラ21は無線機1の動作を制御する。コントローラ21は、CPU(Central Processing Unit)22、CPU22の動作を規定するプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)23、CPU22のワークメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)24、およびレピータのコールサイン等のデータを格納する不揮発性メモリ25を備えている。
【0031】
操作部26は、種々の入力やユーザの指示をコントローラ21に伝達する。操作部26にはPTT(Pres To Talk)スイッチ27が含まれている。PTTスイッチ27は、押す(オンにする)と送受切替部16が送信側に切り替わってアンテナ17から送信が行われ、放す(オフにする)と、送受切替部16が受信側に切り替わって受信した音声信号の再生が行われる。
【0032】
表示部28は液晶ディスプレイ等で構成され、種々のデータを表示するのに用いられる。表示部28の画面には、無線機1がアマチュア無線信号を受信したこと(呼び出しがあったこと)や、送信元(自局)や送信先(相手局)のコールサイン、ニックネーム等が表示される。
【0033】
<パケットの構成>
次に、図2を参照して、送信部15で生成されるパケットの構成を説明する。パケットの構成は、デジタル方式の音声通信の一連のデータを、どのような順番でどのようにまとめて送信するかを示したものである。
【0034】
パケットPaはヘッダ部Phとデータ部Pdとで構成されている。ヘッダ部Phには、同期信号h1、フラグh2、送り先レピータのコールサインh3、送り元レピータのコールサインh4、送信先コールサインh5、送信元コールサインh6が含まれている。
【0035】
ヘッダ部Phのうち同期信号h1は、入力信号の同期をとり、またこれより信号であることを表す信号である。フラグh2は、レピータ経由通信、直接通信、レピータ制御信号等を表すデータであり、複数ビットのデータで構成されている。
【0036】
送り先レピータのコールサインh3は、例えば送信先の無線機が属するエリア内のレピータのコールサイン、送り元レピータのコールサインh4は送信元の無線機が属するエリア内のレピータのコールサインである。また送信先コールサインh5は、送信する相手局の無線機のコールサイン、送信元コールサインh6は、自局の無線機のコールサインである。これらのコールサイン(h3〜h6)は、送信先および送信元の無線機、更には無線信号を中継するレピータを識別するための識別子としての役割を果たす。なお送信先コールサインh5については、不特定局を呼び出すCQとしてもよい。
【0037】
データ部Pdは、デジタル化された音声フレームd1と、小さな静止画やメモ等のデータを含むデータフレームd2が交互に配置され、最後にパケットの終わりを示す終話フレームd3が付加されている。
【0038】
<アマチュア無線の交信動作>
次に、図1、図2および前述の図6を参照して、アマチュア無線の交信動作を説明する。以下、代表的なケースとして、任意のエリア内の無線機1aの局が異なるエリア内の無線機1dの局を呼び出す場合について説明する。
【0039】
ユーザは交信に先立ち、無線機1aの操作部26を操作して、交信に必要な情報、例えば送信元(自局)コールサインや送り元レピータのコールサインを、不揮発性メモリ25に格納しておく。
【0040】
交信の際、ユーザは無線機1aの操作部26を操作し、送信先の無線機1dに予め割り当てられたコールサインおよび送り先レピータのコールサインを指定して、呼び出しを指示する。
【0041】
操作部26から入力された情報は、コントローラ21によって送信部15に通知され、コントローラ21の指示に従って送信部15でパケットが生成される。図2に示したようにパケットPaのヘッダ部Phには、送り先レピータ3bのコールサインh3、送り元レピータ3aのコールサインh4、送信先(相手局)である無線機1dのコールサインh5、および送信元(自局)である無線機1aのコールサインh6の各情報が含まれる。
【0042】
送信部15で生成され無線信号に変換されたパケットPaは、送受切替部16およびアンテナ17を介して送信される。無線機1aから送信されたパケットPaは、指定された経路にあるレピータ3a、3bによって中継され、無線機1dに到達する。
【0043】
無線機1dで受信した無線信号は、アンテナ17および送受切替部16を介して受信部18に供給され、受信部18で復調されてパケットPaが再生される。更に、受信部18で再生されたパケットPaからヘッダ部Phが取り除かれ、データ部の内容に応じて音声コーデック14またはインターフェース部19に供給される。
【0044】
音声コーデック14に供給された音声データは復号化され、さらにアナログの音声信号に変換されてAF増幅器13に供給される。AF増幅器13で増幅された音声信号はスピーカ12から出力され、送信元のユーザの声が再生される。
【0045】
また受信部18で再生されたパケットPaはコントローラ21に供給される。コントローラ21のCPU22は、ECC(Error Check Code)チェックなどにより、受信したパケットPaが有効なパケットであるか否かを判別する。
【0046】
CPU22は、有効と判別されたパケットPaのヘッダ部PhのデータをRAM24に格納すると共に、ヘッダ部Phの情報を解析する。CPU22は、解析結果に基づいて、受信したパケットPaの送信先コールサインや送信元コールサインを表示部28に表示する。
【0047】
<レピータのコールサイン取得方法>
次に、図3および図4を参照して、無線機が属するエリア内のレピータのコールサインを取得する方法について説明する。
【0048】
前述したように、無線機を自動車等の移動体に搭載して移動する場合のように、無線機のユーザが現在属しているエリア2内のレピータ3のコールサインを知らない場合、ユーザは、GPSレシーバ29で取得した位置情報と、コントローラ21の不揮発性メモリ25に格納されたテーブルのデータを用いて、レピータ3のコールサインのデータを取得する。
【0049】
図3にテーブルTの一例を示す。リスト形式のテーブルTには6種類のデータD1〜D6が含まれている。データD1はレピータ3が設置されている場所の住所を示す名称である。データD2はレピータ3の位置情報であり、緯度を示すデータLATと経度を示すデータLONを含んでいる。例えば、A町に設置されたレピータの位置情報は(LAT1、LON1)で表される。
【0050】
データD3はレピータ毎に付与されたコールサインである。またデータD4、D5およびD6は、レピータ3と無線機1との間で通信を行う際の周波数に関するデータであり、D4はダウンリンクの周波数、すなわちレピータ3から無線機1への送信周波数を示す。
【0051】
一方、アップリンクの周波数、すなわち無線機1からレピータ3への送信周波数は、データD4、D5およびD6を用いて算出される。データD6はダウンリンクの周波数D4とアップリンクの周波数の差分(オフセット)を示し、データD5はその差分をシフトする方向を示す。データD5が+の場合、データD6の値をデータD4の値に加えることにより、またデータD5が−の場合、データD6の値をデータD4の値から引くことにより、アップリンクの周波数が得られる。
【0052】
図3に示すように、レピータ3の送受信の周波数は、隣接するレピータ間で混信が生じないようにずらして設定されている。例えば、テーブルTの1段目に示すA町のレピータのダウンリンクの周波数はfd1MHzであり、アップリンクの周波数は(fd1+Δd)MHzである。
【0053】
一方、GPSレシーバ29から出力されるGPSセンテンスには緯度と経度を示す情報が含まれている。図4は、GPSレシーバ29で取得した無線機1の現在位置を示す情報DPを表示部28に表示した例である。図中、「MY POSITION」は、送り元の無線機1aの位置情報であることを示し、「34°37′000″N」は緯度を、「135°36′000″E」は経度を示している。
【0054】
コントローラ21のCPU22は、図4に示す無線機1aの現在位置の情報DPと図3に示すレピータの設置位置の情報D2を用いてレピータのリストを作成する。
【0055】
具体的には、CPU22は、無線機1aの位置情報DPとテーブルTのレピータ3の位置情報D2の緯度と経度を比較し、テーブルTから無線機1aに近接する複数のレピータ(例えば5箇所)のデータを抽出してリスト(図示せず)を作成する。そして位置情報DPおよびD2に基づいて無線機1aとレピータ3との距離を算出し、レピータ3のデータを距離の短いもの順に並び替える。このリストはRAM24に一時的に格納される。
【0056】
リストに掲載されたレピータ3のうち無線機1aとの距離が一番短いレピータは、無線機1aの属するエリア内のレピータである可能性が高く、従って無線機1aと通信できる可能性が最も高いと判断できる。CPU22は、RAM24に格納されたリストから無線機1aと距離が一番近いレピータを選択し、そのコールサインを送信部15に通知する。送信部15はヘッダ部Phの送り元のレピータのコールサインにCPU22から伝達されたコールサインを設定してパケットを作成する。
【0057】
同時にCPU22は、レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータ(図3のD4、D5およびD6)をリストから読み出し、アップリンクの周波数は送信部15に通知し、ダウンリンクの周波数は受信部18に通知する。送信部15は送信周波数を通知された周波数に設定し、受信部18は受信周波数を通知された周波数に設定する。
【0058】
<テーブルから無線機の属するエリア内のレピータを選択する際の手順>
無線機1aのユーザは、交信に先立ち、不揮発性メモリ25から無線機1aの属するエリア2a内のレピータ3aのコールサインおよび通信周波数を読み出す処理を行う。図5のフローチャートを参照して、不揮発性メモリ25に格納されたテーブルTから無線機1aの属するエリア内のレピータ3を選択する際の手順を説明する。
【0059】
ユーザは、操作部26を操作し、コントローラ21に対してレピータ3のコールサインのデータ取得を指示する。コントローラ21はユーザの指示に従い、無線機1aに接続されたGPSレシーバ29から、前述の図4に示した無線機1aの現在位置を示す情報(LAT、LON)を取得する(ステップS1)。具体的には、コントローラ21は操作部26からの指示信号に従い、インターフェース部19を介してGPSレシーバ29から送信された位置情報を含むパケットを取り込み、そのパケットから位置情報DPを取り出してRAM24(図1参照)に一時的に格納する。
【0060】
次にコントローラ21は、不揮発性メモリ25に格納されたテーブルTからレピータ3のリストをRAM24に読み出し、レピータ3の位置情報をGPSレシーバ29から取得した位置情報と比較し、緯度LATおよび経度LONに基づいて近接する複数のレピータ3のデータを抽出し、リスト(図示せず)を作成する(ステップS2)。
【0061】
続いてコントローラ21は、リストに挙げられたレピータ3の位置情報(図3のD2)と無線機1aの位置情報(図4のDP)を用いて無線機1aとレピータ3との間の距離を算出し、レピータ3を距離の短いもの順に並べ替える(ステップS3)。
【0062】
リストに掲載された全てのレピータについて距離の算出と並び替えが完了した場合(ステップS4においてYes)はステップS5の処理に進み、そうでない場合(ステップS4においてNo)はステップS3の処理に戻る。
【0063】
コントローラ21は並び替えが終了したリストの先頭のレピータ3すなわち無線機1aとの間の距離が最も短いレピータを選択し、そのレピータのコールサインを送信部15に通知する(ステップS5)。更にコントローラ21は、選択されたレピータの周波数のデータをリストから読み出し、アップリンクの周波数を送信部15に通知し、ダウンリンクの周波数を受信部18に通知する(ステップS5)。
【0064】
続いて送信部15は、転送されたコールサインを送り元レピータのコールサインとしてパケットに設定し、また送信周波数を通知されたアップリンクの周波数に切り替える(ステップS6)。一方、受信部18は、受信周波数を通知されたダウンリンクの周波数に切り替える(ステップS7)。
【0065】
このようにして交信の準備を終えた後、無線機1のユーザは、PTTスイッチ27を操作して他局との交信を開始する(ステップS8)。
【0066】
以上説明したように本発明の無線機は、予めメモリにレピータの位置情報とコールサインを含むテーブルを格納しておき、位置情報取得装置で取得した無線機の現在位置を、メモリに格納されたレピータの位置情報と比較することで、無線機が属するエリアのレピータのコールサインを選択している。結果として、ユーザが煩雑な操作を行うことなく、通信可能性の高いレピータのコールサインを自動的に取得できる。
【0067】
またテーブルにはレピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータが含まれているため、その周波数を読み出して送信部および受信部に通知することで、送信周波数および受信周波数をレピータに対応した値に自動的に切り替えることができる。
【0068】
なお、本実施の形態では、リストに掲載されたレピータのうち先頭のレピータ、すなわち無線機との距離が一番近いレピータのコールサインを送信部に通知したが、障害物等の関係で、先頭のレピータとの間で通信できない場合がある。このような場合には、リストの次の行に掲載されたレピータのコールサインを送信部に通知すれば、レピータ3との間の通信を確実に確保できる。更に、リストに掲載されたレピータの選択をコントローラに任せず、ユーザが行うようにしてもよい。
【0069】
また本実施の形態では、無線機を移動体に搭載する場合について説明したが、本発明は、半固定局や固定局の無線機についても適用できる。この場合、無線機を設置する際に、GPSレシーバを接続して無線機の位置情報を獲得し、その後無線機からGPSレシーバを外すようにすれば、GPSレシーバを常時接続しておく必要はない。
【0070】
また本実施の形態では、無線機の電源がオフの場合にデータが消滅しないように、テーブルTに含まれるデータを不揮発性メモリに格納したが、バッテリでバックアップされたRAMに格納するようにしてもよい。
【0071】
また、本実施の形態のコントローラの機能をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録媒体(例えばCD−ROM)に記録して配布したり、ネットワークで配信したりしてもよい。このコンピュータプログラムは、コンピュータの記録媒体に記録されインストールされる。
【符号の説明】
【0072】
1 無線機
2、2a、2b エリア
3、3a,3b レピータ
4 ゲートウェイ
5、5a,5b,5c ゾーン
6 インターネット
11 マイク
12 スピーカ
13 AF増幅器
14 音声コーデック
15 送信部
16 送受切替部
17 アンテナ
18 受信部
19 インターフェース部
21 コントローラ
25 不揮発性メモリ
26 操作部
27 PTTスイッチ
28 表示部
100 アマチュア無線システム
Pa パケット
Ph ヘッド部
Pd データ部
T テーブル
D1〜D6 データ
DP 位置情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ音声信号をA/D変換および符号化してデジタル音声信号に変換した後、このデジタル音声信号を含むパケットを生成し、このパケットを無線信号に変換して送信する無線機であって、
前記パケットとして、ヘッダ部に送信先および送信元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータが含まれ、データ部に前記デジタル音声信号のデータが含まれるパケットを生成する送信部と、
前記各識別子のデータを前記送信部に通知するコントローラと、
複数箇所に設置された前記レピータの位置情報および識別子のデータを含むテーブルが格納されたメモリと、
前記送信元の無線機の位置を示す情報を取得する位置情報取得装置と、を備え、
前記コントローラは交信に先立ち、
前記位置情報取得装置から入手した前記送り元の無線機の現在位置を示す情報を、前記テーブルに含まれるレピータの位置情報と比較して、距離の近いレピータを前記テーブルから選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とする無線機。
【請求項2】
受信した前記無線信号を復調して前記パケットを取り出す受信部を更に備え、
また前記テーブルは、前記レピータのアップリンクおよびダウンリンクの周波数のデータを更に含み、
前記コントローラは、前記テーブルから、前記選択したレピータのアップリンクの周波数を取り出して前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を取り出して前記受信部に通知することを特徴とする、請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記テーブルから前記送り元の無線機の現在位置に近い複数のレピータのデータを抽出して、そのレピータの位置情報、アップリンクおよびダウンリンクの周波数、ならびに識別子のデータを含むリストを作成すると共に、前記無線機の位置情報および前記レピータの位置情報に基づいて前記無線機と前記レピータの距離を算出し、
前記リストから前記送り元の無線機に距離が最も近いレピータを選択し、その選択したレピータの識別子とアップリンクの周波数を前記送信部に通知し、ダウンリンクの周波数を前記受信部に通知することを特徴とする、請求項2に記載の無線機。
【請求項4】
前記位置情報取得装置としてGPSレシーバを用いることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の無線機。
【請求項5】
前記テーブルを格納するメモリとして不揮発性メモリを用いることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の無線機。
【請求項6】
コンピュータを、
A/D変換され符号化された音声信号を含むパケットのヘッダ部から、送り先および送り元の無線機を識別する識別子、ならびにこれらの無線機が属するエリアのレピータを識別する識別子のデータを取り出し、その内容を解析するコントローラとして機能させるコンピュータプログラムであって、
前記コントローラは、
位置情報取得装置から入手した送り元の無線機の現在位置を示す情報を、メモリに格納された、複数箇所に設置された前記レピータの位置情報および識別子のデータを含むテーブルの位置情報と比較して、距離の近いレピータを前記テーブルから選択し、
その選択したレピータの識別子を送り元のレピータの識別子として前記送信部に通知することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−31086(P2013−31086A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166971(P2011−166971)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】