説明

無線装置

【課題】ユーザの手の影響による内蔵アンテナの特性劣化が生じ難い無線装置を提供する。
【解決手段】筐体2と、無線通信を行うための内蔵アンテナ20と、を備え、前記内蔵アンテナ20は、開放端側22aが給電点側22bよりも筐体2におけるユーザの手で覆われ難い上方位置(例えば、筐体2の上側の角部2aに近い位置)に配置されたアンテナ素子22(エレメントA)を有し、アンテナ素子22の開放端側22aは、例えばメアンダ形状(蛇行した形状)とされて、給電点側22bに比べて電流経路が密とされた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内蔵アンテナを備えた無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯端末などの無線装置の内蔵アンテナは、ユーザの手などの人体の影響によってアンテナの特性が大きく劣化してしまうという問題があった。そこで特許文献1のように、アンテナ素子の一部をユーザの手などで覆われ難い位置に配置することが考えられる。この特許文献1では、折りたたみ型無線端末において、折りたたみ構造により手で触れることが出来ない位置にアンテナ素子の開放端側を配置して特性劣化を防いでいる。また特許文献2では、最大面積を有する筐体の主面に対して人体等が接近した場合(例えば、ユーザが携帯端末を胸ポケットに入れた場合)の特性劣化を防ぐために、前記主面に対してその電界方向が垂直になるようにアンテナを筐体の側面(前記主面に直交する面)に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−007310号公報
【特許文献2】特開2000−315905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単にアンテナ素子の一部をユーザの手などで覆われ難い位置に配置するだけでは、人体の影響によるアンテナの特性劣化の問題を十分改善することができない。また、特許文献1の構成では、折りたたみ構造の無い位置にアンテナを配置した場合には特性劣化を防ぐことが出来ないという問題がある。また、特許文献2の構成では、アンテナを配置した側面に人体等が接近した場合(例えば、携帯端末を保持するユーザの手が筐体の側面を覆った場合)、アンテナの特性劣化が生じてしまうという問題がある。
そこで本発明は、手で保持した際に手の影響による内蔵アンテナの特性劣化が生じ難い無線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、手で保持できる筐体と、この筐体内に配置されて無線通信を行うためのアンテナと、を備え、
前記アンテナは、アンテナ素子として、少なくともエレメントAを有し、
前記エレメントAの開放端側は、前記筐体を手で保持した使用状態において、前記エレメントAの給電点側に比べて上方となる位置に配置され、
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、電流経路が密な構造とされていることを特徴とする無線装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の無線装置は、手で保持した際に手の影響による内蔵アンテナの特性劣化が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は実施形態である携帯電話機の外観斜視図であり、(b)は携帯電話機のアンテナ(グラウンド導体含む)を示す図である。
【図2】携帯電話機の概念的な内部ブロック図である。
【図3】携帯電話機を保持する手の位置を示す図であり、(a)はアンテナが手に25%覆われる位置、(b)はアンテナが手に50%覆われる位置、をそれぞれ示す。
【図4】携帯電話機を保持する手の位置を示す図であり、(a)はアンテナが手に75%覆われる位置、(b)はアンテナが手に100%覆われる位置、をそれぞれ示す。
【図5】(a)は比較例としてのアンテナを示す図、(b)は放射効率の改善を示すグラフである。
【図6】(a)及び(b)は他の実施形態のアンテナを示す図である。
【図7】(a)及び(b)は他の実施形態のアンテナを示す図である。
【図8】アンテナを配置する位置及び携帯電話機を保持する手の一般的な状態を示す図である。
【図9】(a)及び(b)は他の実施形態のアンテナを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を、携帯電話機への適用を例にして、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本実施形態に係る携帯電話機1の外観図である。この図において、携帯電話機1は、筐体2の主面(表面であって主たる操作対象となる面のこと)にタッチパネル3を設けるとともに、そのタッチパネル3の背面に液晶ディスプレイやELパネルなどの二次元表示デバイスからなる表示部4を設け、また、そのタッチパネル3の上辺近くに受話器としてのスピーカ5を設け、さらに、そのタッチパネル3の下辺近くに送話器としてのマイク6を設けている。ここで、「近く」とは、少なくとも筐体2の主面の端からタッチパネル3の端までの間のいわゆる額縁内の任意の位置のことをいう。
【0009】
筐体2は、回路基板等の内蔵部品を収納して携帯電話機1の表面を構成するフレームであり、手持ちに適した形状、この場合、薄い箱形となっている。即ち、筐体2の外形は薄い直方体又は直方体に近い形となっており、前記主面を含む各面の形状が長方形又は長方形に近い形となっている。また、筐体2の前記主面を正面から見たとき、筐体2の上下左右の4カ所の位置には、角部2a,2b,2c,2dが存在する。そして、筐体2の前記主面に直交する方向の外径寸法(即ち、厚さ)は、筐体2の前記主面の長辺及び短辺の長さに比較して、格段に薄くなっている。図1(a)に示すように、前記主面に直交する筐体2の厚さ方向の座標をX座標とし、前記主面の短辺に沿った方向の座標をY座標とし、前記主面の長辺に沿った方向の座標をZ座標と定義する。また、筐体2の6個ある各面のうち、前記主面に直交する幅の狭い面を側面、上面又は下面と称する。当然に側面は左右両側に二つある。そして、一つの側面を含み当該側面に近い領域(筐体2の左右何れかの縁部)を側縁と称し、前記上面又は下面を含む筐体2の縁部をそれぞれ上縁又は下縁と称する。
【0010】
携帯電話機1は、図8に示すように、筐体2の長辺方向(Z座標の方向)を上下方向とし、スピーカ5が設けられた側の筐体2の短辺が上縁となる縦長の向きで保持された状態で使用されるのが基本であり、この状態を縦状態と定義する。また、この縦状態から筐体2を例えば時計回りに90度回転させて、筐体2の長辺が上縁となり、スピーカ5が設けられた側の筐体2の短辺が右側の側縁となる横長の向きで保持された状態を横状態と定義する。本例の携帯電話機1は、この横状態でも使用できるモードや機能、或いはこの横状態で使用すべきモードや機能を有してもよい。例えば、TV放送表示機能によってTV放送を見る際には、表示部4が横長になる前記横状態が好ましい。
なお、筐体2の任意部分に、電源ボタンやバッテリ充電用端子などが設けられているが、図では省略している。
【0011】
図1(b)は、携帯電話機1に内蔵されたアンテナ20(グラウンド導体21含む)を模式的に示す図である。グラウンド導体21は、筐体2内に設けられ、グラウンド電位とされて擬似的なアースとして機能する導体である。グラウンド導体21は、例えば、携帯電話機1内の回路部品等を覆ってシールドする金属製のシールドケースである。
【0012】
アンテナ20は、無線通信(音声やデータ等の通信に限られず、電力伝送であってもよい)のための送信用アンテナ又は受信用アンテナの何れかであるか、或いは送信用アンテナと受信用アンテナを兼ねるものである。アンテナ20は、本実施形態の場合、接地(アースへの接続)を必要とするモノポールアンテナである。アンテナ20は、アンテナ素子22(エレメントA)と給電点23とを有する。ここで、アンテナ素子22はエレメントAに相当し、アンテナ20はこのエレメントAのみを有するタイプである。なお周知のとおり、モノポールアンテナは、給電点の両側にアンテナ素子があるダイポールアンテナにおいて、一方のアンテナ素子を設ける代わりにグラウンド導体(イメージアンテナ)に接続したものである。この意味では、グラウンド導体21もアンテナ20を構成する要素である。
【0013】
アンテナ素子22は、図1(a)に示すように、筐体2の長辺側の側縁に配置され、全体としてZ座標の方向に平行に配置されている。即ち、この種の電話機であると、前記縦状態において前記主面を正面として見た場合、図8に示す4カ所の位置41(下縁),位置42(上縁),位置43(左の側縁),位置44(右の側縁)のいずれかにアンテナを配置することが考えられるが、本実施形態のアンテナ素子22は、前記縦状態において右の側縁となる位置44に配置されている。
【0014】
一方、給電点23は、アンテナ素子22のZ座標が小さい側の端と、グラウンド導体21との間に設けられている。なお、給電点は給電線とアンテナとを接続する箇所であり、この給電点において、給電線の一方の導体がアンテナ素子に接続され、給電線の他方の導体がグラウンド導体に接続される。そして電磁波の送信時には、この給電線及び給電点を介してアンテナに送信電力(高周波電力)が供給される。
【0015】
なお本実施形態では、アンテナ素子22において、Z座標が大きい側が開放端側22aであり、その反対のZ座標が小さい側が給電点側22bである。そして、アンテナ素子22の開放端側22aは、アンテナ素子22の給電点側22bに比べて、なるべく上方位置、この場合には、筐体2の角部2a(前記縦状態において右上側となる角部)の近傍位置に配置されている。また、給電点23は、筐体2の側縁における上下方向の中央又はその近傍に配置されている。この結果、アンテナ素子22の給電点側22bは、アンテナ素子22の開放端側22aに比べて、筐体2の側縁における上下方向の中央に近い位置に配置されている。また、アンテナ素子22の開放端側22aは、アンテナ素子22の給電点側22bに比べて、電流経路が密な構造とされている。
【0016】
この場合具体的には、図1(b)に示すように、開放端側22aがメアンダ形状(蛇行した形状)とされ、給電点側22bが直線状とされている。なお、アンテナ素子22は、例えば、線状(棒状)の導電性部材の一部をメアンダ形状に曲げ加工して制作することができる。但し、アンテナ素子22は、このような線状の部材からなるものに限られず、実際には板状の導電性部材を加工してなる板状のもの、或いは回路基板上に薄膜形成技術によって形成した導体パターンからなるものであってもよい。その意味で、図1(b)は単に模式的にアンテナ20を表現したものである。即ち、図1(b)は、開放端側22aの電流経路が給電点側22bよりも密になっている(この場合、メアンダ形状になっている)という特徴を除いて、アンテナ素子22の構造を限定するものではない。
【0017】
なお、「電流経路が密な構造」とは、アンテナ素子の外形的な長さに対して電流経路の長さがより長いことを意味する。例えば、図1(b)に示すアンテナ素子22は、開放端側22aがメアンダ形状とされることによって、この開放端側22aにおいて電流経路が蛇行しており、その分だけ開放端側22aでは外形的な上下方向の長さよりも電流経路の方が格段に長い。これに対して、アンテナ素子22の給電点側22bは、直線状であるため、外形的な長さと電流経路の長さが等しい。したがって、開放端側22aの方が、給電点側22bに比べて、電流経路が格段に密な構造となっている。
【0018】
また、開放端側22aの電流経路が給電点側22bよりも密になっている構成としては、図1(b)のような態様に限られず、開放端側22aがヘリカル形状(螺旋状の形状)であってもよい。また、図1(b)のようにアンテナ素子22の途中の1カ所においてのみ電流経路の粗密が変化する態様に限られず、給電点23から開放端に向かって連続的又は段階的に電流経路が密になってゆく態様でもよい(具体例は後述する)。なお、このようにメアンダ形状又はヘリカル形状とされて電流経路が密な構造とされると、対応する電波の波長が同じでもアンテナ素子の全長をその分短くしてコンパクトにすることができる。
【0019】
図2は、携帯電話機1の概念的な内部ブロック図である。この図において、携帯電話機1は、無線通信部8、音声入出力部9、操作部7、中央制御部10、表示部4、タッチパネル3、電源部11を備える。
【0020】
無線通信部8は、アンテナ8aを介して最寄りの基地局(図示略)との間で無線によるデジタルデータの送受信を行う。デジタルデータには、電話の着呼や発呼の情報および音声通話の情報が含まれる。この無線通信部8は、中央制御部10からの制御に従って、上記のデジタルデータの送信や受信を行う。ここで、アンテナ8aは、公知のダイバーシティ(Diversity)やMIMO(Multiple input output)などのマルチアンテナ技術に対応する場合には、複数設けられる。この場合、前述したアンテナ20は、複数あるアンテナ8aのうちの一つに相当する。
【0021】
音声入出力部9は、中央制御部10からの制御により、マイク6で拾った音声信号をデジタルデータに変換して中央制御部10に出力したり、中央制御部10から出力されたデジタルの音声信号をアナログ信号に変換してスピーカ5から拡声したりする。マイク6やスピーカ5は電話の送受話用であるが、スピーカ5は、さらに電話の着信音鼓動等にも用いられる。
【0022】
表示部4は、先にも説明したとおり、その前面に、人体の一部の接触を検知できるタッチパネル3を併設している。タッチパネル3は、たとえば、静電容量方式のものであってもよい。電源部11は、一次電池または充電可能な二次電池からなるバッテリを含み、このバッテリの電力から携帯電話機1の動作に必要な各種電源電圧を発生して各部に供給する。操作部7は、前述した電源ボタンなどの操作の入力処理を行う。なお、タッチパネル3は、ダイヤル入力、文字入力、コマンド入力などを入力するもので、中央制御部1は、操作部7とこのタッチパネル3からの入力操作信号に応じた処理を実行する。
【0023】
中央制御部10は、マイクロコンピュータ(以下、CPU)10a、読み出し専用半導体メモリ(以下、ROM)10b、高速半導体メモリ(以下、RAM)10cおよび書き換え可能な不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリやPROMなど。以下、PROM)10dならびに不図示の周辺回路を含むプログラム制御方式の制御要素であり、あらかじめROM10bやPROM10dに格納されている制御プログラムをRAM10cにロードしてCPU10aで実行することにより、各種の処理を逐次に実行して、この携帯電話機1の全体動作を統括制御する。
【0024】
なお、携帯電話機1には、カメラ(インカメラ、アウトカメラ)が設けられてカメラ機能が備えられていてもよいし、音声データを送受信して通話する音声通話機能のほか、TV(テレビ)電話機能が備えられていてもよい。更に、携帯電話機1には、電子メール機能、インターネット接続機能、TV放送表示機能などが備えられていてもよいことは、いうまでもない。
【0025】
次に、本発明の背景や原理とともに本実施形態の作用効果について説明する。
携帯電話機1のような無線装置は、例えば基本の縦状態で使用する場合、図8に示すような形でユーザの手50に保持されることが多い。即ち、この種の無線装置は、手で保持される際に筐体の上縁や下縁が手で把持される可能性は低く、筐体の左右両側の側縁において例えば図8のように把持される可能性や頻度が極めて高い。このため、位置43や位置44(即ち、筐体の側縁)にアンテナを配置した場合、保持するユーザの手50によってアンテナの少なくとも一部が覆われ易く、それにより放射効率が低下する特性劣化が生じ易いという課題があった。携帯電話機1を保持する手の位置は、図8に示すような位置に限らず、さまざまな位置となりうるが、基本的に位置43又は位置44のなかでもZ座標の小さい下方位置ほど手に覆われる可能性が高いといえる。この種の無線装置を手で保持する場合、図8のように筐体の比較的下側の側縁を把持するのが安定的であり表示も見易く自然だからである。
【0026】
このため、本実施形態のように、筐体2を手で保持した基本の使用状態(この場合、前述の縦状態)において開放端側22aが給電点側22bに比べて上方となる位置に配置され、かつ給電点側22bに比べて開放端側22aの電流経路が密な構造とされているアンテナ素子22(エレメントA)を備える本発明の構成であると、次のような作用効果が得られる。即ち、アンテナ素子22に送信電力が供給されることによってアンテナ素子22から発生する電界は、アンテナ素子22の開放端側22aの位置、即ち、人の手で覆われ難いより上方位置に偏って集中する。これにより、アンテナ素子22(エレメントA)によって放射効率の高い電波の送信、或いは逆に効率の良い電波の受信ができるようになり、保持した手によるアンテナの特性を改善できる。
【0027】
特に本実施形態の場合には、図1に示すように、アンテナ素子22は筐体2の側縁(この場合、右側の位置44)に配置され、アンテナ素子22の給電点側22bは開放端側22aに比べて筐体2の側縁の上下方向における中央に近い位置に配置され、またアンテナ素子22の開放端側22aは給電点側22bに比べて筐体2の側縁の上端に位置する角部2aに近い位置に配置されている。いいかえると、アンテナ素子22は、その全体が筐体2の側縁の上下方向における中央付近よりも上側に配置され、電流経路が密な構造の開放端側22aは筐体2の上縁近くの手に覆われ難い位置に配置されている(図1参照)。特に図1に示す態様では、アンテナ素子22の開放端側22aは、筐体2の上側の角部2aの近傍に配置されている。この結果、例えば図8に示すような一般的な位置でユーザの手に保持された場合、アンテナ素子22の全長のうちで手に覆われる部分は給電点側22bの短い僅かな部分のみとなる。このため、保持した手で覆われ易い筐体の側縁にアンテナ素子を配置しているにもかかわらず、保持した手の影響によるアンテナの特性劣化の問題は格段に改善される。
【0028】
図5は、アンテナ素子の開放端側を給電点側よりも密な構造とすることによる作用効果を、比較例によって説明するための図である。図5のうち、図5(a)は比較例のアンテナ30を示す図である。また図5(b)は、本実施形態のアンテナ20と比較例のアンテナ30の放射効率の違いを示すグラフである。ここで、アンテナ30は、対応する電波の波長とZ座標方向の全長がアンテナ20と同じであり、全体が一様なメアンダ形状(メアンダ形状とするための折り曲げを素子全体に均等に設けた形状)とされたアンテナ素子32を有するものである。アンテナ素子全体の位置を含めてアンテナ30の他の構成は、アンテナ20と同じである。
【0029】
そして、図5(b)のグラフは、保持する手の位置に応じてアンテナ素子(アンテナエレメント)の側面が手に覆われる割合を横軸にとり、縦軸を放射効率としたものである。アンテナ素子が手に覆われる割合は、ゼロ%(手なし)と、25%(図3(a)に示す保持位置の場合)と、50%(図3(b)に示す保持位置の場合)と、75%(図4(a)に示す保持位置の場合)と、100%(図4(b)に示す保持位置の場合)を設定した。また、図5(b)のグラフでは、実施形態であるアンテナ20に対応するデータを黒塗りの三角印で表し、比較例であるアンテナ30に対応するデータを白抜きの丸印で表している。
【0030】
発明者の研究では、図5(b)に示す通り、アンテナ素子が手で覆われる割合が増加することにより放射効率はいずれのアンテナも劣化するが、アンテナ20のように開放端側に折り曲げを集中して設けた場合の方が、アンテナ30のように均等に折り曲げを設けた場合と比較して、放射効率の低下を小さく出来ることが分かっている。
以上説明したように、本実施形態によれば、アンテナ20の開放端側22aの電流経路を密にしているから、手で保持された際の手の影響によるアンテナの放射効率の低下を、単にアンテナ素子を手で覆われ難い位置に配置したというだけの構成(例えば、上記比較例であるアンテナ30)の場合よりも、さらに小さくすることができる。
【0031】
なお、前述したように、図8に示す側縁の位置(位置43,44)は、上縁や下縁の位置(位置41,42)に比較して手で覆われ易い。図8では、下縁の位置41も、手50に覆われているように見えるが、手のひらと筐体2の間に隙間が出来ることから位置43や位置44に比べればアンテナへの影響は小さい。そのため従来、この種の無線装置では、アンテナは位置41又は位置42に配置されることが一般的であった。
【0032】
しかし近年、携帯電話機のような無線装置は、対応する無線システムが増加し、またダイバーシティやMIMOなどのマルチアンテナ技術への対応が必要になってきており、この結果、アンテナの数が増大してきている。また、特にカメラやセンサなどを有する多機能な携帯電話機などにアンテナを内蔵する場合、図8に示す四つの位置41〜42が有り得るとしても、各位置において他の部品との干渉を避けて極めて限られたスペースにアンテナを配置しなければならない。このため、多数のアンテナのうち、いくつかは位置41,42のどこかに配置できたとしても、残りのアンテナは手で覆われ易い側縁の位置43,44のどこかに配置せざるを得ない状況となっている。ところが本発明を適用すれば、既述したように筐体の側縁にアンテナを配置しても特性劣化し難い。したがって、本発明はこの種の無線装置の現状において実用上重要な効果を奏するものである。
【0033】
(他の実施形態)
次に本発明の他の実施形態について説明する。
まず、本発明の他の実施形態として、アンテナは1つに限らず複数設けても良い。例えば、既述したマルチアンテナ技術に対応させるべく、図7(a)に示すように、第1実施形態のアンテナ20に加えて、アンテナ60を備えた構成としてもよい。図7(a)に示すアンテナ60は、前述した図8の位置42に配置したもので、アンテナ20と同様のアンテナ素子62及び給電点63を有する。そして、アンテナ素子62は、アンテナ素子22と同様の開放端側62aと給電点側62bを有する。この図7(a)に示す態様であると、前述したマルチアンテナ技術に対応できるとともに、前述した横状態での使用時に保持する手の影響でアンテナ60の特性が劣化するのを同様の作用で抑制できる。
【0034】
このように、アンテナの位置は位置43や位置44に限らず、端末を横向きに保持する場合(例えば、前述した横状態での使用)などを考慮して、位置41や位置42としてもよく、手に覆われにくい側にアンテナ素子の開放端を配置して開放端側をメアンダ形状とすればよい。ここで、アンテナ素子のメアンダ部の折り曲げは、直角である必要は無く、例えば曲線を用いても良い。また、アンテナ素子の密集部の形状は、メアンダ状に限らずヘリカル状などでもよく、アンテナ素子の開放端側における電流経路をより密にすることが出来ればよい。また、アンテナ素子の給電点側も、直線状に限らず、メアンダ状やヘリカル状としてもよい。この場合、例えば図6(a)に示すように開放端側ほど素子が密になるアンテナ素子72を有するアンテナ70とすればよい。
【0035】
また、無線装置の構造(筐体の構成)は、図1に示したような形状のみでなく、二つの筐体を備えた折りたたみ構造やスライド構造であってもよい。例えば、2つの筐体(操作部筐体、表示部筐体)が開閉可能(折り畳み可能)に取り付けられたもので、この2つの筐体を開いた状態(オープンスタイル)において、操作部筐体の表面側にはテンキーなどの操作部が配設され、表示部筐体の表面側には表示部が配設される、いわゆる折り畳み式の携帯電話機等であってもよい。
【0036】
また、アンテナの形式はモノポール型に限らず、例えば、アンテナ素子が開放端と給電点の間で略直角に折れ曲がった逆L型としてもよいし、逆L型に改良を加えた逆F型としてもよい。逆F型は、例えば図7(b)に示すように、アンテナ素子82の給電点側82bに略直角に折れ曲がった折れ曲がり部82cが形成され、かつアンテナ素子82をグラウンド導体21に接続する短絡部83を有する。このような逆L型や逆F型のアンテナであると、折れ曲がり部があることにより、アンテナの小型化、低姿勢化が実現できる。また逆F型は、短絡部を有するために、アンテナのいわゆるインピーダンス整合が容易になる。なお、図7(b)に示したアンテナ80の場合でも、アンテナ素子82の開放端側82bの電流経路を密にして、アンテナ素子82を第1実施形態のアンテナ素子22と同様に配置することによって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0037】
また、本発明の他の実施例として、複共振(一つのアンテナを複数の周波数で使用する技術)に対応した形態があり得る。図6(b)は、その実施形態例であるアンテナ90(複共振アンテナ)を示す。このアンテナ90は、第1実施形態と同じアンテナ素子22(エレメントA)に加えて、図6(b)に示すようなアンテナ素子92(エレメントB)を有する。アンテナ素子92は、アンテナ素子22とは、共振周波数が異なる(即ち、対応する電波の波長が異なる)。また、アンテナ素子92は、メアンダ形状(又はヘリカル形状)とされた電流経路の密集部92aを有し、この密集部92aは、アンテナ素子22の開放端よりも給電点23の側に離れた位置に配置されている。
【0038】
即ち、アンテナ素子22(エレメントA)は密集部をZ座標の大きい側(即ち開放端側22a)に集中させ、アンテナ素子92(エレメントB)はZ座標の小さい側に密集部92aを配置している。いいかえると、アンテナ素子92の密集部92aは、アンテナ素子22の密集部(開放端側22a)よりも、給電点側に位置をずらして配置されている。このため、複共振アンテナをコンパクトに実現できる効果が得られる。
【0039】
なお、上述したアンテナ90を備える態様の場合、アンテナ素子22はよりアンテナ性能への要求の高い通信に用いられる周波数に合わせ、アンテナ素子92はよりアンテナ性能の要求の低い通信に用いられる周波数に合わせるようにするとよい。例えば、一般的にMIMO用アンテナはダイバーシティ用アンテナよりも高い性能が要求されるので、アンテナ素子22はMIMOに用いられる周波数、アンテナ素子92はダイバーシティに用いられる周波数に合わせることが考えられる。このようにすれば、前述の作用で、アンテナ性能への要求の高い通信に用いられるアンテナ素子22が手による影響を受け難くなり、実用上有利となる。
【0040】
また、本発明の他の実施例として、誘電体で覆うことによってアンテナ素子の電流経路を密にする態様があり得る。図9(a)は、その実施形態例であるアンテナ100を示す。このアンテナ100は、アンテナ素子102(エレメントA)を有する。アンテナ素子102の開放端側102aは、アンテナ素子102の給電点側102bに比べて、高い誘電率の誘電体102cで覆われている。これにより、アンテナ素子102の開放端側102aの電気長が給電点側102bに比べて長くなり、開放端側102aの電流経路が密な構造となる。図9(a)の場合、アンテナ素子102の給電点側102bは空気に覆われている。誘電体102cは、この空気よりも誘電率の高い材料(例えば、紙、樹脂、セラミックスなど)よりなり、開放端側102aを覆うように設けられている。
【0041】
次に図9(b)は、図9(a)に示した実施形態例の変形であるアンテナ110を示す。このアンテナ110は、アンテナ素子112(エレメントA)を有する。アンテナ素子112の開放端側112aは、アンテナ素子112の給電点側112bに比べて、厚い誘電体112cで覆われている。これにより、アンテナ素子112の開放端側112aの電気長が給電点側112bに比べて長くなり、開放端側112aの電流経路が密な構造となる。図9(b)の場合、アンテナ素子112の給電点側112bは、開放端側112aの誘電体112cに比べて、薄い誘電体112dに覆われている。誘電体112cと誘電体112dは、例えば同じ誘電率の材料よりなるものである。或いは、開放端側112aの誘電体112cの方が、給電点側112bの誘電体112dよりも、誘電率の高い材料よりなる構成でもよい。この場合、開放端側112aの電流経路がより密な構造となる。
【0042】
なお、図9(a)や図9(b)に示す構成において、アンテナ素子の開放端側をメアンダ状又はヘリカル状として、さらに電流経路を密なものとすることもできる。すなわち、メアンダ状又はヘリカル状とされた開放端側を高い誘電率の誘電体又は厚い誘電体で覆う構成でもよい。また、アンテナ素子の給電点側から開放端側に向かって連続的又は段階的に厚さが増加する誘電体でアンテナ素子全体を覆う態様でもよい。
【0043】
また、以上説明した実施形態では携帯電話機を例に挙げて説明したが、本発明は携帯電話機以外の無線装置、例えば、PDA(携帯情報端末)、パーソナルコンピュータ(例えば、ノートPC、タブレットPC)、データ通信カード、無線LANルータ、音楽プレイヤ、ゲーム機等、無線通信のためのアンテナを搭載した各種の電子機器等に適用可能である。表示画面上のタッチパネルによるタッチ入力機能の無い携帯端末などでもよい。
【0044】
以下、本発明の特徴を付記する。
前記の各実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
(付記1)
図1は、付記1の構成図に相当する。
この図に示すように付記1に記載の発明は、
手で保持できる筐体2と、この筐体2内に配置されて無線通信を行うためのアンテナ20と、を備え、
前記アンテナ20は、アンテナ素子として、少なくともエレメントA(アンテナ素子22)を有し、
前記エレメントAの開放端側22aは、前記筐体を手で保持した使用状態において、前記エレメントAの給電点側22bに比べて上方となる位置に配置され、
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、電流経路が密な構造とされていることを特徴とする無線装置。
付記1によれば、電界が集中する開放端側22aが手に覆われ難い位置となるので、手で保持した際に手の影響による内蔵アンテナ20の特性劣化が生じ難い。
【0045】
(付記2)
前記エレメントAは、前記筐体の側縁に配置され、
前記エレメントAの給電点側は、前記エレメントAの開放端側に比べて、前記筐体の側縁における上下方向の中央に近い位置に配置され、
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、前記筐体の側縁の上端に位置する角部2aに近い位置に配置されていることを特徴とする付記1に記載の無線装置。
【0046】
(付記3)
前記エレメントAは、給電点側が直線状であり、開放端側がメアンダ形状又はヘリカル形状であることを特徴とする付記1または付記2に記載の無線装置。
【0047】
(付記4)
前記エレメントAは、給電点側が粗く開放端側が密なメアンダ形状又はヘリカル形状であることを特徴とする付記1または付記2に記載の無線装置。
【0048】
(付記5)
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、高い誘電率の誘電体又は厚い誘電体に覆われていることを特徴とする付記1ないし付記4のいずれかに記載の無線装置。
【0049】
(付記6)
前記アンテナは、アンテナ素子が開放端と給電点の間で折れ曲り、かつアンテナ素子をグラウンドに接続する短絡部を有する逆F型アンテナ(アンテナ80;図7(b))であることを特徴とする付記1ないし付記5のいずれかに記載の無線装置。
【0050】
(付記7)
前記アンテナは、アンテナ素子として、前記エレメントAとは共振周波数が異なるエレメントB(アンテナ素子92;図6(b))をさらに有する複共振アンテナ90であり、
前記エレメントBは、メアンダ形状又はヘリカル形状とされた電流経路の密集部92aを有し、このエレメントBの密集部は、前記エレメントAの開放端よりも給電点側に離れた位置に配置されていることを特徴とする付記1ないし付記6のいずれかに記載の無線装置。
【0051】
(付記8)
前記アンテナは、前記筐体の異なる二つ以上の縁部(例えば図8に示す位置41,42,43,44のうちの二つ以上)にそれぞれ設けられている(図7(a))ことを特徴とする付記1ないし付記7のいずれかに記載の無線装置。
【符号の説明】
【0052】
1 携帯電話機(無線装置)
2 筐体
20,60,70,80,90,100,110 アンテナ(内蔵アンテナ)
21 グラウンド導体
22,62,72,82,102,112 アンテナ素子(エレメントA)
22a,62a,82a,102a,112a 開放端側
22b,62b,82b,102b,112b 給電点側
23,63 給電点
82c 折れ曲がり部
83 短絡部
92 アンテナ素子(エレメントB)
92a 密集部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
手で保持できる筐体と、この筐体内に配置されて無線通信を行うためのアンテナと、を備え、
前記アンテナは、アンテナ素子として、少なくともエレメントAを有し、
前記エレメントAの開放端側は、前記筐体を手で保持した使用状態において、前記エレメントAの給電点側に比べて上方となる位置に配置され、
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、電流経路が密な構造とされていることを特徴とする無線装置。
【請求項2】
前記エレメントAは、前記筐体の側縁に配置され、
前記エレメントAの給電点側は、前記エレメントAの開放端側に比べて、前記筐体の側縁における上下方向の中央に近い位置に配置され、
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、前記筐体の側縁の上端に位置する角部に近い位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の無線装置。
【請求項3】
前記エレメントAは、給電点側が直線状であり、開放端側がメアンダ形状又はヘリカル形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線装置。
【請求項4】
前記エレメントAは、給電点側が粗く開放端側が密なメアンダ形状又はヘリカル形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線装置。
【請求項5】
前記エレメントAの開放端側は、前記エレメントAの給電点側に比べて、高い誘電率の誘電体又は厚い誘電体に覆われていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の無線装置。
【請求項6】
前記アンテナは、アンテナ素子が開放端と給電点の間で折れ曲り、かつアンテナ素子をグラウンドに接続する短絡部を有する逆F型アンテナであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線装置。
【請求項7】
前記アンテナは、アンテナ素子として、前記エレメントAとは共振周波数が異なるエレメントBをさらに有する複共振アンテナであり、
前記エレメントBは、メアンダ形状又はヘリカル形状とされた電流経路の密集部を有し、このエレメントBの密集部は、前記エレメントAの開放端よりも給電点側に離れた位置に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の無線装置。
【請求項8】
前記アンテナは、前記筐体の異なる二つ以上の縁部にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−227750(P2012−227750A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93865(P2011−93865)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】