説明

無線送信機

【課題】マイクロ波を取り扱う無線送信機においても、負荷の変動、製作精度のバラツキ、温度変化などに左右されず、正確にスプリアス周波数を低減させる安価な無線送信機を提供する。
【解決手段】無線送信機をバンドパスフィルタ1と、中間周波数増幅器2と、局部発振器11と、2つの周波数の信号を混合するミキサ3と、バンドパスフィルタ4と、マイクロ波の信号を増幅する高周波増幅器5と、特定の周波数の信号のみ減衰させるトラップ回路6と、高周波増幅器7と、バンドパスフィルタ8と、高周波電力増幅器9と、バンドリジェクトフィルタ10と、狭帯域バンドパスフィルタ12と、中間周波数増幅器13と、検波回路14と、制御回路15とで構成する。そして、IF信号に対応して特定の周波数の信号(スプリアス信号など)をトラップ回路6で減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信機の特性改善に関するものであり、特に、実際の通信周波数とは異なる周波数の信号、例えばスプリアス信号を低減する回路構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を用いる衛星通信用の送信機は、例えば、13.75GHz(ギガヘルツ)〜14.5GHz(ギガヘルツ)の高周波信号を送信するため、950MHz(メガヘルツ)〜1700MHz(メガヘルツ)のIF信号(入力信号)と、12.8GHzのローカル信号とをミキサで混合して周波数変換することにより、送信する周波数の送信信号を得るようになっている。
【0003】
そして、送信機で発生する送信周波数以外の信号のうち、例えばイメージ周波数帯である11.1GHz〜11.85GHzの信号や12.8GHzのローカル信号は、その周波数が送信する周波数とかけ離れているため、高周波増幅回路のバンドパスフィルタやバンドリジェクトフィルタなどで容易に除去することができる。
【0004】
ところが、ミキサ内では、ローカル信号とIF信号の高調波信号とによるスプリアス信号が発生する。例えば、IF周波数が0.95GHzの信号の場合、この周波数の2倍に、前述した12.8GHzのローカル周波数を加算した周波数の信号、つまり、14.7GHzのスプリアス信号が発生する。この信号は送信周波数の上限である14.5GHzより0.2GHzだけ高い周波数であり、また、送信周波数に極めて近い周波数であるため、高周波増幅回路のバンドパスフィルタだけでは抑圧することが難しい。
【0005】
一般的にこのような高い周波数のバンドパスフィルタは、高周波用の基板などの上にマイクロストリップラインで形成されているが、負荷の変動、製作精度のバラツキ、温度による誘電率の変化に伴う周波数帯域のずれなどを考慮し、規定の周波数帯域より広い通過帯域に設計してあり、前述したスプリアス信号が通過帯域内に入って通過し、結果的に不要な信号を除去しきれない場合がある。
【0006】
このような不具合を改善する目的で、入力する送信信号の周波数に対応して最適なバンドパスフィルタを選択して用いる技術が開示されている。以下に携帯電話(無線通信機)用の送信機を例としてバンドパスフィルタを切り換える構成を説明する。
【0007】
図7は無線通信機の送信機側の構成を示す回路ブロック図であり、図7において、100は無線送信機で、これは、入力信号S1を受けて、その電圧に比例した周波数の信号S11を発生する電圧制御型発振器87と、ローカル信号S12を生成する局部発振器86と、信号S11と信号S12とを混合して周波数変換するミキサ85と、ミキサ85の出力信号S13を増幅する電力増幅器84と、電力増幅器84の出力信号S14から送信すべきでない不要な周波数の信号成分を除去する不要信号除去回路100aと、同不要信号除去回路100aにより不要な周波数の信号成分が除去された信号S17を外部に向けて送信するアンテナ81と、不要信号除去回路100aとアンテナ81との間で、送信機側と受信機側とに信号経路を切り換えるスイッチ82とから構成されている。
【0008】
また、不要信号除去回路部100aにおいて、83a〜83nは互いに異なる通過帯域を有する複数の帯域通過フィルタ、88は送信用電力増幅器84と複数の帯域通過フィルタ83a〜83nとの間の信号経路を切り換えるスイッチ、89は送信用電力増幅器84から出力された出力信号S14から実際に通信を行う周波数を検出する周波数検出回路、90は周波数検出回路89の出力信号S15によりスイッチ回路88のスイッチングを制御する信号S16を生成する信号生成回路である。
【0009】
図8は上記周波数検出回路89の構成を示す回路図であり、この周波数検出回路89は、送信用電力増幅器84からの出力信号S14を受けるNOT回路91と、送信用電力増幅器84からの出力信号S14とNOT回路91の出力信号S31が入力されるAND回路92と、AND回路92の出力S32と接地間に挿入されたコンデンサ93と、コンデンサ93に対して並列に接続された抵抗94とから構成されている。
【0010】
図9は図8の信号S14,S31,S32の波形図であり、図9に示すように、信号S14と信号S31の位相のずれに対応して、信号S32のパルス幅が決定される。ここで、信号S14には、この通信機の実際の通信を行う周波数の信号の他に、電力増幅器84の後段で発生した,使用周波数帯内の信号ではあるが、実際の通信を行う周波数とは異なる周波数の微弱な(振幅レベルが小さい)信号が含まれるが、この信号はNOT回路91を通過する間に殆ど無くなり、AND回路92から出力される信号S32は実際の通信を行う周波数の信号のみで構成されることになる。なお、信号S32は図7における信号S15と同じ信号である。
【0011】
図7の信号生成回路90では、この信号S15を入力し、入力信号S15の電圧に対応したデジタル信号を発生させ、そして、このデジタル信号をデコードしてスイッチ回路88のスイッチングを制御する信号S16を生成し、この信号S16がスイッチ回路88の信号経路を切り換える。
【0012】
次に、動作について説明する。入力信号S1は電圧制御型発振器87に入力され、その電圧に比例した周波数の信号S11となる。一方、局部発振器86では信号S11と合成され、信号S11を送信すべき周波数の信号に変換するためのローカル信号S12を発生する。そして、ミキサ85にて信号S11とローカル信号S12が混合され、周波数変換が行なわれる。
【0013】
該ミキサ85にて合成された信号S13は、電力増幅器84により増幅され信号S14となる。そして、この信号S14はスイッチ回路88へ送られると同時に、周波数検出回路89に入力され、周波数検出回路89は信号S14から実際に通信を行う周波数を検出する。
【0014】
周波数検出回路89はこの検出した周波数に応じた電圧信号S15を生成し、信号生成回路90はこの信号S15の電圧に応じてスイッチ回路88のスイッチングを行う信号S16を生成する。
【0015】
そして、このスイッチング制御信号S16がスイッチ回路88に入力されると、スイッチ回路88の一つの信号経路が選択され、信号S14は上記検出した実際に通信を行う周波数をその通過帯域としているフィルタ(例えば、図7ではフィルタ83b)に導かれてこのフィルタ(フィルタ83b)を通過し、このフィルタ(フィルタ83b)を通過した信号S17が、スイッチ82を通過してアンテナ81より送信されるように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0016】
しかしながら、周波数検出回路89が、NOT回路91とAND回路92とからなる信号のエッジ検出回路、及び抵抗とコンデンサからなる時定数回路で構成されているため、温度変化による検出周波数の誤差が大きかった。特に本願のように10GHz以上の周波数を取り扱う場合は誤差が大きく、正確にスプリアス周波数の信号を低減させることができない場合があった。また、高周波である送信信号を用いてこのような回路を構成することは非常に困難であった。
【0017】
【特許文献1】特開平7−22971号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は以上述べた問題点を解決し、マイクロ波を取り扱う無線送信機においても、負荷の変動、製作精度のバラツキ、温度変化などに左右されず、正確にスプリアス周波数の信号を低減させる無線送信機を提供することを目的とする。また、非常に周波数が高い高周波である送信信号でなく、比較的周波数の低いIF信号を用いて送信信号の周波数検出を行なうことにより、簡単な回路構成で安価な無線送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上述の課題を解決するため、所定周波数のローカル信号を発生する局部発振器と、前記ローカル信号と入力されたIF信号とを混合し高周波信号へ変換するミキサを備えた無線送信機において、
前記ミキサより後段に設けられ、所定周波数の不要信号を減衰させるトラップ回路と、前記IF信号の周波数を検出する周波数検出回路と、同周波数検出回路の検出結果に対応して前記トラップ回路を制御する制御回路とを備えた不要信号除去回路を設ける。
【0020】
また、前記不要信号除去回路の周波数検出回路は、前記IF信号を基準周波数とするPLL(Phase Locked Loop )回路で構成され、前記制御回路は、前記PLL回路内に含まれる電圧制御発振器の発振周波数を制御する誤差電圧を入力し、同誤差電圧に対応して前記トラップ回路へ制御電圧を印加する構成にする。
【0021】
さらに、前記トラップ回路は、同トラップ回路の入力と出力とを結ぶ線路に一端を接続する一方、他端を接地し、共振周波数を入力電圧で可変できる容量可変素子を備えた直列共振回路からなり、前記容量可変素子に前記制御回路を介して前記制御電圧を印加してなる構成にする。
【発明の効果】
【0022】
以上の手段を用いることにより、本発明による無線送信機によれば、
請求項1に係わる発明は、ミキサより後段に設けられ、所定周波数の不要信号を減衰させるトラップ回路と、IF信号の周波数を検出する周波数検出回路と、同周波数検出回路の検出結果に対応して前記トラップ回路を制御する制御回路とを備えた不要信号除去回路を設けることにより、
比較的低い周波数を取り扱う中間周波数増幅段の信号を用いて送信信号の周波数を検出し、この検出結果で比較的高い周波数を取り扱う高周波増幅段のトラップ回路を制御するため、マイクロ波などの高い周波数を取り扱う無線送信機においても、周波数の検出を比較的低い周波数で行なうことができ、高精度の周波数検出を行なう検出回路を安価に構成することができる。
【0023】
請求項2に係わる発明は、不要信号除去回路の周波数検出回路は、IF信号を基準周波数とするPLL( Phase Locked Loop)回路で構成され、制御回路は、PLL回路内に含まれる電圧制御発振器の発振周波数を制御する誤差電圧を入力し、同誤差電圧に対応してトラップ回路へ制御電圧を印加してなるようにすることにより、
IF信号の周波数を検出するためにPLL回路を用いているため正確な周波数検出が可能であり、結果的にスプリアス信号を正確に低減することができる。
【0024】
請求項3に係わる発明は、トラップ回路は、同トラップ回路の入力と出力とを結ぶ線路に一端を接続する一方、他端を接地し、共振周波数を入力電圧で可変できる容量可変素子を備えた直列共振回路からなり、容量可変素子に制御回路を介して制御電圧を印加してなることにより、
制御回路を誤差電圧から容量可変素子への制御信号へ電圧変換するだけの回路で構成することができるため、制御回路を安価で簡単な回路にすることができる。また、異なるスプリアス信号に対応するため、複数のフィルタ回路を設けて切り換えなくても、IF信号の周波数に対応して、無段階に変化するスプリアス信号低減フィルタ回路を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいた実施例として詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明による無線送信機の実施例を示す回路ブロック図である。この無線送信機は、マイクロ波を用いる衛星通信に使用され、13.75GHz〜14.5GHzの高周波信号を送信するため、950MHz〜1700MHzのIF信号(入力信号)と、12.8GHzのローカル信号とをミキサで混合することにより送信信号(RF信号)に変換するようになっている。
【0027】
この無線送信機は、IF帯のバンドパスフィルタ1と、入力されたIF信号を増幅する中間周波数増幅器2と、12.8GHzのローカル信号を発振する局部発振器11と、IF信号とローカル信号とを混合し、13.75GHz〜14.5GHzの送信用高周波信号に変換するミキサ3と、RF帯のバンドパスフィルタ4と、送信用高周波信号を増幅する高周波増幅器5と、特定の周波数の信号のみ減衰させるトラップ回路6と、高周波増幅器7と、RF帯のバンドパスフィルタ8と、高周波電力増幅器9と、バンドリジェクトフィルタ10と、IF帯の狭帯域バンドパスフィルタ12と、中間周波数増幅器13と、検波回路14と、制御回路15とから構成されている。
【0028】
なお、狭帯域バンドパスフィルタ12と、中間周波数増幅器13と、検波回路14とで周波数検出回路17を構成し、さらに、この周波数検出回路17と、トラップ回路6と、制御回路15とで不要信号除去回路16を形成しており、入力信号に対応して特定の周波数の信号(スプリアス信号など)をトラップ回路6で減衰させるようになっている。
また、信号の流れにおいて、ミキサ3より前、つまり、IF信号を取り扱う部分を前段と呼称し、さらに、ミキサ3より後、つまり、送信用高周波信号を取り扱う部分や電力増幅された送信用高周波信号を取り扱う部分を後段と呼称する。
【0029】
次にこの回路の動作を図1を用いて説明する。まず、入力されたIF信号は入力されたIF信号の中から所要のIF周波数範囲(例えば0.95MHz〜1.7GHz)だけ通過させるバンドパスフィルタ1で不要な信号を除去し、中間周波数増幅器2で増幅される。そして、局部発振器11で発振された12.8GHzのローカル信号と増幅されたIF信号とがミキサ3で混合される。
【0030】
2つの信号が混合された結果、例えばIF信号が0.95MHzとすると、12.8GHz±0.95GHzの周波数の信号、つまり、13.75GHzと11.85GHzとの信号が生成される。ところが、バンドパスフィルタ4は13.75GHz〜14.5GHzの信号のみを通過させるため、この生成された信号のうち、13.75GHzの信号のみが高周波増幅器5で増幅される。
【0031】
そして、増幅された信号はトラップ回路6を通過し、再度、高周波増幅器7で増幅される。そして、13.75GHz〜14.5GHzの信号のみを通過させるバンドパスフィルタ8で不要な信号を除去する。なお、このトラップ回路6の動作については、後で詳細に説明する。
【0032】
次に、不要な信号が除去された信号は高周波電力増幅器9で所定の電力に増幅され、RF帯のバンドリジェクトフィルタ10で、さらに送信帯域外の不要な信号を除去して出力され、図示しないアンテナで電波として送信される。
【0033】
一方、バンドパスフィルタ1を通過したIF信号の一部は、狭帯域バンドパスフィルタ12に入力されており、特定の周波数、例えば0.95GHz近傍の周波数帯の信号のみをピックアップするようになっている。ここで、狭帯域バンドパスフィルタ12は、例えば0.95GHz〜1.1GHzの信号のみを通過させるものとする。このピックアップされた信号は中間周波数増幅器13で増幅され、検波回路14で検波されて制御回路15へ入力される。
【0034】
制御回路15では検波された信号、例えば、0.95GHzの周波数の信号が検出されると、特定の周波数の信号を減衰させるトラップの機能を動作させる制御信号をトラップ回路6へ出力する。なお、制御信号は所定の電圧であり、入力されたIF信号の周波数が狭帯域バンドパスフィルタ12を通過できない帯域の周波数で、検波回路14の出力がない場合、制御信号は所定の電圧値とはならず、トラップ回路6は動作しない。逆に、入力されたIF信号の周波数が狭帯域バンドパスフィルタ12を通過できる帯域の周波数で、検波回路14の出力がある場合、制御信号は所定の電圧値となり、トラップ回路6は動作する。
【0035】
なお、特定の周波数の信号を減衰させるトラップの機能とは、例えば前述したスプリアス信号を減衰させることを示している。前述の通り本実施例では、入力された信号のIF周波数が0.95GHzの場合は14.7GHzの信号がスプリアス信号として発生する。従ってトラップ回路6はこのスプリアス信号を減衰させる機能を備えている。
【0036】
このように、比較的低い周波数を取り扱う中間周波数増幅段のIF信号を用いて、送信信号の周波数を検出し、この検出結果で比較的高い周波数を取り扱う高周波増幅段のトラップ回路を制御するため、マイクロ波などの高い周波数を取り扱う無線送信機においても、周波数の検出を比較的低い周波数で行なうことができ、高精度の周波数検出を行なう検出回路を安価に構成することができる。また、入力信号の周波数に対応して、トラップ回路6を制御するため、例えば負荷の変動、製作精度のバラツキ、温度変化などでバンドパスフィルタの帯域特性がずれたとしても、トラップ回路6を用いて正確にスプリアス周波数を低減させることができる。
【0037】
次に図5と図6とを用いてIF周波数とスプリアス周波数の関係、及びトラップ回路の効果を詳細に説明する。図5は、IF周波数に対するスプリアス周波数の関係を示すグラフである。また、図6は送信信号周波数と、これに対応する送信信号レベルを表すグラフであり、図6(A)はトラップ回路非動作時を、図6(B)はトラップ回路動作時をそれぞれ表している。
【0038】
IF周波数とスプリアス周波数の関係は前述したように一定の関係があり、例えば図5に示すような比例関係になっている。しかも、最低のIF周波数である0.95GHzが入力されても、そのスプリアス周波数は14.7GHzであり、送信周波数帯である13.75GHz〜14.5GHzの周波数帯の外である。
【0039】
しかしながら、実際の送信信号レベル特性はバンドパスフィルタの特性で決定され、スプリアス信号の周波数が送信周波数帯に近い場合、例えば図6(A)に示すように、14.7GHzのスプリアス信号を通過帯域内に含む場合がある。この場合、トラップ回路が非動作状態であると、入力されたIF周波数0.95GHzに対応して、意図する送信周波数である13.75GHzは所定の送信信号レベルで送信されるが、同時にIF周波数0.95GHzに対応して発生した14.7GHzのスプリアス信号も増幅され、スプリアス許容レベルをオーバーして送信されることになる。
【0040】
一方、図6(B)のようにトラップ回路が動作状態であると、入力されたIF周波数0.95GHzに対応して、意図する送信周波数である13.75GHzは所定の送信信号レベルで送信され、同時にIF周波数0.95GHzに対応して発生した14.7GHzのスプリアス信号はトラップ回路で減衰されて許容レベル以下に抑制される。
このとき、図6(B)のようにトラップ回路による通過特性への影響が送信信号の周波数帯域(本実施例では13.75GHz〜14.5GHz)に現れる場合があるが、送信信号の周波数(13.75GHz)とトラップ回路による減衰領域が離れるようにトラップ回路の特性を設定することにより、送信信号に影響を与えることはない。
【0041】
次に図2の説明図を用いてトラップ回路6の動作を説明する。図2は本発明による無線送信機に使用するトラップ回路やバンドパスフィルタの切換動作を説明する説明図であり、図2(A)〜図2(D)の4種類の具体的な回路を示しており、実際にはこの中の任意の1種類を用いる。
【0042】
図2(A)は2つのSPDT(Single Pole Double Through)スイッチ30、31を用いて、入力から出力へスルーで抜ける経路と、入力から出力へ減衰させたい信号(例えば14.7GHzのスプリアス)の波長λに対するλ/4長のオープンスタブ32を介して抜ける経路とを制御信号の電圧で切り換える構成になっている。
【0043】
λ/4長のオープンスタブ32は14.7GHzの信号に対してインピーダンスがゼロとなる。つまり、14.7GHz以外の信号に対してλ/4長のオープンスタブ32は高インピーダンスとなるため、入力から出力へスルーで抜けるが、14.7GHzの信号は減衰する。従って、無線送信機へ入力されたIF周波数が0.95GHzの場合は、制御信号によりλ/4長のオープンスタブ32の経路へ切り換えられ、結果的に0.95GHzのIF周波数に対応する13.75GHzの送信信号は減衰なしで入力から出力へ抜け、14.7GHzのスプリアス信号はこのλ/4長のオープンスタブ32によって減衰されて出力される。
【0044】
図2(B)の回路は入力から出力がスルーで接続されており、この入力/出力の間に、スタブ35を介して接続された制御信号のライン、及びアノードが接続され、カソードにλ/4長のオープンスタブ37が接続されたPINダイオード36が配置されている。このPINダイオード36のカソードはスタブ38を介して抵抗で接地(GND)されており、制御信号に電圧を印加するとPINダイオード36が導通し、λ/4長のオープンスタブ37が入出力間に接続される構成となっている。このλ/4長のオープンスタブ37も前述のように所定のスプリアス信号のみを減衰させる構成となっている。
【0045】
なお、スタブ35はマイクロストリップラインなどの高周波回路基板で用いられる分布定数線路で構成したバイアス( 本実施例では制御信号) 供給回路である。通過させたい高周波信号(波長λ)に対して、特性インピーダンスの高い(線路幅の細い)λ/4線路と先端を開放した特性インピーダンスの低い(線路幅の太い)λ/4線路を、図2(B)のように入力/出力間の線路に接続する。このような構成によると、通過させたい高周波信号に対しては、入力/出力間の線路からスタブ35を見たときの入力インピーダンスが無限大となり、バイアス供給回路側への高周波信号の流れ出しを防ぐことができる。
【0046】
また、スタブ38の作用もスタブ35と同様で、PINダイオード36のカソードとオープンスタブ37の接続点からスタブ38を見た入力インピーダンスが通過させたい高周波信号に対して無限大となるため、PINダイオード36の制御信号は抵抗39を介して接地(GND)へと流れるが、入力/出力間の線路に流れる高周波信号が入力インピーダンスの高いスタブ38のラインに流れ出すことはない。
【0047】
図2(C)は2つのSPDTスイッチ40、41を用いて、入力と出力間で、2つのバンドパスフィルタ42と43とを制御信号で切り換える構成になっている。例えばバンドパスフィルタ42を13.75GHz〜14.5GHz通過の特性にし、バンドパスフィルタ43を13.75GHz〜14.0GHzを通過する特性にしておく。
【0048】
そして、無線送信機の入力周波数が0.95GHzの場合は、制御信号によりバンドパスフィルタ43を選択するように切り換える。つまり、正規の信号である13.75GHzは通過させるが、14.7GHzのスプリアス信号はこのバンドパスフィルタ43によって減衰される。
【0049】
図2(D)の回路は入力から出力がスルーで接続されており、この中間にコイル45、及びコンデンサ46が直列に接続されている。コイル45に接続されている側のコンデンサ46の他端にはコイル48を介して制御信号が入力されるようになっており、また、コンデンサ46の他端には、入力電圧で容量を可変できる容量可変素子、例えばバラクタダイオード47のカソードが接続され、バラクタダイオード47のアノードは接地されている。
【0050】
コイル45とコンデンサ46とバラクタダイオード47とは直列の共振回路を構成しており、制御信号の電圧が印加されると、スプリアス信号の周波数に共振するように各素子の値が決定されている。従って制御信号の電圧が印加されると、バラクタダイオード47の静電容量が変化してスプリアス信号の周波数に共振し、スプリアス信号にのみトラップとして動作するように構成されている。制御信号の電圧が印加されない場合は、13.75GHz〜14.5GHz以外の周波数に共振しており、無線送信機の性能に影響がでないようにしている。
【0051】
なお、図2に示す4つのトラップ回路は、ミキサ3以降のRF(高周波増幅)段で使用する例を説明してきたが、ミキサ3以前のIF(中間周波数増幅)段で使用してもよい。例えば、無線送信機に入力された0.95GHzのIF信号は、前述のようにスプリアス信号のもとになる2倍のIF周波数、つまり、1.9GHzの信号が弱いながらも存在している。
【0052】
従って、この1.9GHzの信号を予めIF段で減衰させておくことにより、RF段のスプリアス信号である14.7GHzの信号を低減させることができる。このように、高周波電力増幅器9の前段でIF信号の高調波を抑圧することで、高周波電力増幅器9によるスプリアスの発生(増幅)を低減させることができる。
【0053】
具体的には、IF段の中間周波数増幅器2とミキサ3との間に4つのフィルタ回路の内、任意のトラップ回路を挿入する構成になる。なお、この場合、制御信号入力は常に電圧を印加した状態、つまりフィルタを動作するようにしておく。なお、異なる複数のスプリアス信号に対応させるには、不要信号除去回路16を複数設けてもよい。また、この場合、トラップ回路6の挿入場所は一カ所に限定しなくてもよい。
また、図2のコイル、コンデンサ、スタブは周波数や部品の特性に合わせて分布定数でも集中定数でも構成することができる。
【実施例2】
【0054】
図3は無線送信機の他の実施例を示す回路ブロック図である。なお、図1の回路と異なる部分は、無線送信機に入力されたIF信号の検出方法とトラップ回路6への制御信号の生成方法であるため、同じ回路については同じ番号を付与し、詳細な説明を省略する。従って、ここでは図1の不要信号除去回路16と対応する不要信号除去回路27について説明する。
【0055】
図3の不要信号除去回路27は、無線送信機のIF信号の一部を取り出し、このIF信号の変調成分を除去する変調成分除去回路20と、1/N分周器21と、位相比較器22と、ループフィルタ23と、電圧制御発振器24と、1/M分周器25とからなる周波数検出回路28と、制御回路26と、トラップ回路6とで構成されている。
【0056】
なお、位相比較器22と、ループフィルタ23と、電圧制御発振器24と、1/M分周器25とでPLL回路の一種である周波数シンセサイザを構成している。また、トラップ回路6は前述した図2の回路の中で任意の回路を用いる。
【0057】
なお、分周回路の具体的な値として、1/N分周器21と1/M分周器25との分周比N,Mをそれぞれ95としている。つまり、無線送信機のIF信号が950MHzの場合に、10MHzの周波数で位相の同期処理が行なわれることになる。なお、本願では電圧制御発振器24の発振周波数は問題ではないため、分周回路の値はこれに限るものでなく、無線送信機のIF信号よりも十分に低い周波数で、高調波の影響が少ない周波数に分周できる値であればよい。
【0058】
次に、図3の不要信号除去回路27の動作について説明する。バンドパスフィルタ1を通過する入力信号の一部は、変調成分除去回路20に入力されており、ここで変調成分を除去して純粋なキャリア周波数の信号のみを抽出する。次に、このキャリア周波数の信号を1/N分周器21で95分周し、この分周された信号を基準周波数の信号として位相比較器22に出力する。
【0059】
位相比較器22には1/M分周器25から出力される比較周波数の信号が入力されており、この比較周波数の信号と基準周波数の信号との位相差信号が位相比較器22からループフィルタ23へ出力される。ループフィルタ23では、入力した位相差信号の交流成分が除去され、位相の進み/遅れに対応した誤差電圧が出力される。
【0060】
この誤差電圧は電圧制御発振器24に入力されているため誤差電圧に対応して、自走発振している電圧制御発振器24の発振周波数が変化する。この電圧制御発振器24の発振周波数の信号は1/M分周器25で95分周され、位相比較器22に入力される。つまり、常に基準周波数と同じ周波数になるように電圧制御発振器24の発振周波数がフィードバックされており、無線送信機のIF信号の周波数に対応する誤差電圧がループフィルタ23から出力されることになる。
【0061】
このIF信号の周波数とループフィルタ23からの誤差電圧との関係を示したものが図4のグラフである。入力信号の入力周波数に対してリニアに誤差電圧が変化していることが読み取れる。従ってこの誤差電圧を図3の制御回路26へ出力し、制御回路26ではこの誤差電圧によりIF信号の周波数が識別できるため、この周波数に対応するスプリアス信号を低減させるトラップ回路を制御する制御信号をトラップ回路6へ出力する。
【0062】
また、図3の回路において、トラップ回路6を図2(D)の回路で構成すると、制御回路26を誤差電圧からバラクタダイオード47への制御信号へ電圧変換するだけの回路で構成することができるため、制御回路26を安価で簡単な回路にすることができる。また、異なるスプリアス信号に対応するため、複数のフィルタ回路を設けて切り換えなくても、IF信号の周波数に対応して、無段階に変化するスプリアス信号低減フィルタ回路を構成できる。また、このようにIF信号の周波数を検出するためにPLL回路を用いているため正確な周波数検出が可能であり、結果的にスプリアス信号を正確に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による無線送信機の実施例を示す回路ブロック図である。
【図2】本発明による無線送信機に使用するトラップ回路やバンドパスフィルタの切換動作を説明する説明図である。
【図3】本発明による無線送信機の他の実施例を示す回路ブロック図である。
【図4】本発明によるPLL回路の出力電圧特性を示すグラフである。
【図5】IF周波数に対するスプリアス周波数の関係を示すグラフである。
【図6】送信信号周波数と、これに対応する送信信号レベルを表すグラフであり、(A)はトラップ回路非動作時を、(B)はトラップ回路動作時をそれぞれ表している。
【図7】従来の無線送信機を示す回路ブロック図である。
【図8】従来の無線送信機に使用する周波数検出回路を示す回路図である。
【図9】従来の無線送信機に使用する周波数検出回路の回路動作を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 バンドパスフィルタ
2 中間周波数増幅器
3 ミキサ
4 バンドパスフィルタ
5 高周波増幅器
6 トラップ回路
7 高周波増幅器
8 バンドパスフィルタ
9 高周波電力増幅器
10 バンドリジェクトフィルタ
11 局部発振器
12 狭帯域バンドパスフィルタ
13 中間周波数増幅器
14 検波回路
15 制御回路
16 不要信号除去回路
17 周波数検出回路
20 変調成分除去回路
21 1/N分周器
22 位相比較器
23 ループフィルタ
24 電圧制御発振器
25 1/M分周器
26 制御回路
27 不要信号除去回路
28 周波数検出回路
30、31 SPDTスイッチ
32 λ/4長オープンスタブ
35 スタブ
36 PINダイオード
37 λ/4長オープンスタブ
38 スタブ
39 抵抗
40、41 SPDTスイッチ
42 バンドパスフィルタ
43 バンドパスフィルタ
45 コイル
46 コンデンサ
47 バラクタダイオード(容量可変素子)
48 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数のローカル信号を発生する局部発振器と、前記ローカル信号と入力されたIF信号とを混合し高周波信号へ変換するミキサを備えた無線送信機において、
前記ミキサより後段に設けられ、所定周波数の不要信号を減衰させるトラップ回路と、前記IF信号の周波数を検出する周波数検出回路と、同周波数検出回路の検出結果に対応して前記トラップ回路を制御する制御回路とを備えた不要信号除去回路を設けてなることを特徴とする無線送信機。
【請求項2】
前記不要信号除去回路の周波数検出回路は、前記IF信号を基準周波数とするPLL(Phase Locked Loop )回路で構成され、前記制御回路は、前記PLL回路内に含まれる電圧制御発振器の発振周波数を制御する誤差電圧を入力し、同誤差電圧に対応して前記トラップ回路へ制御電圧を印加してなることを特徴とする請求項1記載の無線送信機。
【請求項3】
前記トラップ回路は、同トラップ回路の入力と出力とを結ぶ線路に一端を接続する一方、他端を接地し、共振周波数を入力電圧で可変できる容量可変素子を備えた直列共振回路からなり、前記容量可変素子に前記制御回路を介して前記制御電圧を印加してなることを特徴とする請求項2記載の無線送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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