説明

無線通信システム、無線通信方法、制御局装置、及び、プログラム

【課題】移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることが可能な無線通信システムを提供すること。
【解決手段】無線通信システム100は、移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含むシステムである。更に、この無線通信システム100は、上記移動局装置が受信する無線信号の通信品質が、予め設定された所要品質を満足するように、上記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定部101を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この種の無線通信システムが消費する電力(消費電力)を低減するためには、無線信号の送信電力を必要最小限の大きさに設定することが好適であると考えられる。
【0003】
ところで、この種の無線通信システムにおいては、比較的広い領域に亘って分布する基地局装置間は、バックホールリンクにより接続され、移動局装置(例えば、端末装置)と基地局装置との間は、アクセスリンクにより接続されている。
【0004】
アクセスリンクは、複数の移動局装置と基地局装置とを無線により接続している。また、バックホールリンクは、無線、又は、光ファイバ等の有線により構成されることが可能である。バックホールリンクを無線により構成することは、通信回線網の敷設等の設備投資が不要となることから、インフラを構築する上でメリットがあると言える。
【0005】
また、無線通信システムは、サービスエリア(以下、セルとも呼ぶ)を有する基地局装置を複数備えることにより、比較的広いサービスエリアを確保している。各基地局装置が存在するセルにおいては、他の基地局装置により送信された電波は、干渉波となる。
【0006】
この種の無線通信システムの一つとして、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式に従った無線通信システムが知られている。この無線通信システムは、ソフトハンドオーバーと呼ばれる機能を有する。
【0007】
図7は、この無線通信システムがソフトハンドオーバーを行っている状態を示している。この状態においては、アクティブセットと呼ばれる複数の基地局装置が同時に移動局装置と通信する。更に、この状態において、移動局装置は、複数の基地局装置のそれぞれへ、同一の送信電力制御指示(TPC(Transmission Power Control)コマンド)を送信する。各基地局装置は、受信した送信電力制御指示に従って、無線信号の送信電力を制御する。従って、アクティブセットを構成するすべての基地局装置の送信電力は等しい。
【0008】
例えば、図7に示したように、移動局装置MP2と同時に通信を行っている複数の基地局装置BP1,BP2のそれぞれは、同一の送信電力P2にて無線信号を移動局装置MP2へ送信する。同様に、移動局装置MP4と同時に通信を行っている複数の基地局装置BP2,BP3のそれぞれは、同一の送信電力P4にて無線信号を移動局装置MP4へ送信する。
【0009】
また、この種の無線通信システムの他の一つとして、LTE(Long Term Evolution)方式に従った無線通信システムが知られている。この無線通信システムにおいては、基地局装置が移動局装置へ送信する無線信号の送信電力は、すべてが等しい。
【0010】
また、この無線通信システムは、W−CDMA方式におけるソフトハンドオーバーと同様のCOMP(Coordinated Multi−Point Transmission and Reception)と呼ばれる機能を有する。図8に示したように、COMPを構成する複数の基地局装置BP1,BP2が移動局装置MP2へ送信する無線信号の送信電力Pは、同一である。同様に、他のCOMPを構成する複数の基地局装置BP2,BP3が移動局装置MP4へ送信する無線信号の送信電力Pも、同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−219460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、移動局装置と基地局装置との間での電波の伝搬状態に応じて、移動局装置が受信する無線信号の品質(通信品質)は変動する。更に、通信品質は、周辺のセルを構成する基地局装置から送信された電波(干渉波)等によっても変動する。従って、ある移動局装置へ、複数の基地局装置のそれぞれが同時に無線信号を送信している場合において、当該移動局装置が受信する無線信号の品質(通信品質)が所要品質(所要通信品質)を満足するために必要な最小の送信電力は、基地局装置毎に異なる。
【0013】
しかしながら、上述した無線通信システムにおいては、ある移動局装置と同時に通信を行う複数の基地局装置が当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力は、同一であった。このため、無線通信システムの消費電力が無駄に大きくなってしまうという問題があった。
【0014】
このため、本発明の目的は、上述した課題である「消費電力が無駄に大きくなってしまう場合が生じること」を解決することが可能な無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するため本発明の一形態である無線通信システムは、移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含むシステムである。
【0016】
更に、この無線通信システムは、
上記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、上記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える。
【0017】
また、本発明の他の形態である無線通信方法は、
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムに適用され、
上記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、上記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する方法である。
【0018】
また、本発明の他の形態である制御局装置は、
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える。
【0019】
また、本発明の他の形態であるプログラムは、
制御局装置に、
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上のように構成されることにより、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る無線通信システムの概略構成を表す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る基地局装置の機能の概略を表すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る無線通信システムの作動の概略を示したシーケンス図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る無線通信システムの概略構成を表す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る無線通信システムの作動の概略を示したシーケンス図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る無線通信システムの機能の概略を表すブロック図である。
【図7】W−CDMA方式に従った無線通信システムがソフトハンドオーバーを行っている状態を示した概念図である。
【図8】LTE方式に従った無線通信システムがCOMPによる通信を行っている状態を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る、無線通信システム、無線通信方法、制御局装置、及び、プログラム、の各実施形態について図1〜図6を参照しながら説明する。
【0023】
<第1実施形態>
次に本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示したように、第1実施形態に係る無線通信システム1は、複数(本例では、6つ)の移動局装置M1〜M6と、複数(本例では、3つ)の基地局装置B1〜B3と、を含む。無線通信システム1は、移動通信システムとも呼ばれる。本例では、各移動局装置M1〜M6は、携帯電話機(携帯電話端末)である。なお、移動局装置は、通話機能を有しないデータ端末等であってもよい。
【0024】
複数の基地局装置B1〜B3は、通信回線としてのバックホールネットワークBNを介して、互いに通信可能に接続されている。
各移動局装置M1〜M6と、各基地局装置B1〜B3と、は、互いに無線通信可能に構成されている。移動局装置と基地局装置との間の接続は、アクセスリンクとも呼ばれる。
【0025】
本例では、移動局装置M1は、基地局装置B1、基地局装置B2、及び、基地局装置B3のそれぞれと同時に無線通信を行っている。また、移動局装置M2は、基地局装置B1のみと無線通信を行っている。このように、無線通信システム1において、各移動局装置M1〜M6の状態は、複数の基地局装置と同時に無線通信を行う状態と、自装置が属するセル内の基地局装置(即ち、1つの基地局装置)のみと無線通信を行う状態と、のいずれかである。
【0026】
本例では、基地局装置B1は、制御局装置を構成する。なお、本明細書において、制御局装置としての基地局装置B1は、アンカーポイントとも呼ばれる。
【0027】
基地局装置B1の機能は、図2に示したように、送信電力制御部(送信電力制御手段)11と、送信電力比決定部(送信電力比決定手段)12と、目標送信電力送信部(目標送信電力送信手段)13と、を含む。なお、基地局装置B2及び基地局装置B3のそれぞれの機能は、基地局装置B1の機能から送信電力比決定部12及び目標送信電力送信部13の機能を除いた機能である。
【0028】
送信電力制御部11は、基地局装置B1が各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を制御する。なお、送信電力制御部11については後述する。
【0029】
次に、送信電力比決定部12について説明する。
ところで、基地局装置B1は、上位レイヤ(例えば、上位レイヤを構成する上位装置)から、各移動局装置M1〜M6に対して予め設定されたターゲットSINR(Signal to Noise Interference Ratio)を取得する。ターゲットSINRは、信号対干渉雑音比の目標値(目標信号対干渉雑音比)である。即ち、ターゲットSINRは、移動局装置が受信する無線信号の通信品質が満足すべき通信品質(所要品質、所要通信品質)を表す。
【0030】
また、各移動局装置M1〜M6は、受信した無線信号の受信電力を表すCQI(Channel Quality Indicator)情報を、基地局装置B2又は基地局装置B3を介して、或いは、直接に、基地局装置B1へ送信する。
【0031】
基地局装置B1は、各移動局装置M1〜M6からCQI情報を受信し、当該受信したCQI情報に基づいてジオメトリを推定する。これによれば、ジオメトリを高い精度にて推定することができる。本例では、基地局装置B1は、予め設定された期間において受信されたCQI情報を平均した値に基づいてジオメトリを推定する。
【0032】
ジオメトリは、基地局装置と移動局装置との間の電波の伝搬状態を表す値である。ジオメトリは、基地局装置と移動局装置との間のチャネルの電力利得であるチャネル電力利得が大きくなるほど大きくなる値を有する。なお、基地局装置B1は、ジオメトリを上位装置から取得するように構成されていてもよい。
【0033】
これらの値をベクトル及び行列を用いて以下のように定義する。
今、k番目の移動局装置(ユーザ)のターゲットSINRを数式1のようにおく。
【数1】

【0034】
更に、数式2のように、ターゲットSINRベクトルγを定義する。
【数2】

【0035】
本例では、説明の便宜上、ターゲットSINRの例として数式3に示した値を用いる。
なお、この値、及び、移動局装置(ユーザ)の数は、本例で示した値及び数に限定されることはない。
【数3】

【0036】
ここで、ユーザ2(2番目の移動局装置のユーザ)、及び、ユーザ4(4番目の移動局装置のユーザ)に対するターゲットSINRが相対的に大きな値となっている。これは、ユーザ2、及び、ユーザ4がヘビーユーザであることを想定しているためである。ここでは、ユーザ2に対して、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)に相当する高次変調を用いている場合を想定し、ユーザ4に対して、64QAMに相当する高次変調を用いている場合を想定し、その他のユーザに対して、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)における指数近似を行った場合を想定している。
【0037】
また、i番目の基地局装置(基地局装置i)と、j番目の移動局装置(移動局装置j)と、の間の電波の伝搬状態を表すジオメトリの平方根を取った値をhijとおき、数式4に示した行列Hを定義する。また、本例では、説明の便宜上、値hijの例として数式4に示した値を用いる。
【数4】

【0038】
更に、数式3に示したベクトルγを用いて、数式5に示したように、ベクトルaを定義する。
【数5】

【0039】
数式5におけるベクトルvは、数式6に示したように、k番目の移動局装置(ユーザk)に対して、k番目の要素のみが「1」であり、それ以外の要素が「0」であるベクトルである。
【数6】

【0040】
数式5におけるベクトルuは、k番目のユーザ(ユーザk)に対する電力配分ベクトルである。電力配分ベクトルuの各要素uikは、数式8に示したように、基地局装置iから移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比の平方根を取った値である。各基地局装置から、k番目の移動局装置(即ち、ユーザk)へ送信する無線信号の送信電力の目標値である目標送信電力の平方根を取った値は、ベクトルuを用いて、数式7により表される。
【数7】

【0041】
ここで、pは、移動局装置k(ユーザk)へ無線信号を送信する基地局装置のすべての送信電力の総和(合計)である。
【数8】

【0042】
従って、送信電力制御による受信信号レベルyは、すべての基地局装置から送信される、すべての移動局装置(ユーザ)への無線信号を考慮に入れると、数式9のように求められる。
【数9】

【0043】
ここで、xは、ユーザkへ送信される無線信号である。ここで、ジオメトリに基づいて算出された行列Hは、位相を表す情報を含んでいない。しかしながら、行列Hは、後述する数式において位相が相殺された状態にて用いられる。従って、問題は生じない。本例では、基地局装置が3つであり、移動局装置が6つである場合を想定しているので、数式9は、数式10のようになる。
【数10】

【0044】
ところで、無線通信システム1は、複数の基地局装置と複数の移動局装置とを含む。従って、他の基地局装置により送信された無線信号が干渉波となることにより、通信品質は劣化する。
【0045】
CDMA(Code Division Multiple Access)等の拡散利得を用いる場合、干渉波の影響を低減することができる。この場合、干渉低減率ρを用いて、ユーザkの干渉成分を考慮したSINRγは、数式11のように求められる。干渉低減率ρは、干渉波を低減する程度を表す値である。
【数11】

【0046】
ここで、nは白色雑音成分を表す。拡散利得がない場合、ρ=1となる。
次に、最適化を行うために、数式12に示したように、行列Fを定義する。
【数12】

【0047】
また、各基地局装置から各移動局装置へ送信される無線信号の送信電力の比の平方根を取った値を表す(即ち、電力配分ベクトルuを要素とする行列)電力配分行列Uを、数式13に示したように定義する。
【数13】

【0048】
ここで、Kはユーザ(移動局装置)の数(本例では、6)である。これにより、行列F及びベクトルaは、行列Uの関数として表すことができる。
また、各移動局装置(ユーザ)に対する送信電力の総和を要素とするベクトル(送信電力ベクトル)Pを、数式14に示したように定義する。各移動局装置(ユーザ)に対する送信電力の総和は、各基地局装置から当該移動局装置へ送信される無線信号の送信電力(即ち、本例において制御対象となる送信電力)の和である。なお、数式14は、移動局装置が6つである場合におけるベクトルPを表す。
【数14】

【0049】
以上に示した数式に基づいて、各移動局装置(ユーザ)が受信する無線信号の通信品質を表すSINRが、予め設定されたターゲットSINRよりも高くなるという条件を表す数式は、数式15に示したように導出される。
【数15】

【0050】
数式15による系が安定であるか否かを、行列F(U)の固有値に基づいて判定することができる。具体的には、行列F(U)の最大固有値(固有値の最大値、ペロン根とも呼ばれる)λmaxが1未満である場合、系は安定である。一方、行列F(U)の最大固有値λmaxが1以上である場合、系は不安定である(即ち、発散する)。
【0051】
なお、本明細書において、行列F(U)の最大固有値λmaxが1未満であるという条件は、安定条件とも呼ばれる。安定条件は、ジオメトリと、目標信号対干渉雑音比と、各ユーザに対する各基地局装置の送信電力比と、によって構成される行列F(U)の固有値に基づく条件である、と言うことができる。
【0052】
数式15に基づいて、基地局装置B1〜B3から移動局装置M1〜M6へ送信される無線信号の送信電力の総和を最小とする比(送信電力比)に対応する行列Uを、数式16に示したように求めることができる。
【0053】
即ち、送信電力比決定部12は、系が安定である(即ち、安定条件が成立する)範囲において、基地局装置B1〜B3から移動局装置M1〜M6へ送信される無線信号の送信電力の総和を最小とする比(送信電力比)に対応する行列Uを算出(決定)する。具体的には、送信電力比決定部12は、勾配法、又は、内点法等を用いることにより、行列Uを算出する。即ち、送信電力比決定部12は、勾配法、又は、内点法等を用いることにより送信電力比を決定するように構成されている、と言うことができる。
【数16】

【0054】
なお、送信電力比決定部12は、系が安定である範囲において、行列Uを算出することができない場合、ターゲットSINRベクトルγを変更することが好適である。これにより、送信電力比決定部12は、系が安定である範囲において、行列Uを算出することができる。
【0055】
このようにして、送信電力比決定部12は、移動局装置M1〜M6が受信する無線信号の通信品質が、予め設定された所要品質を満足する(移動局装置M1〜M6が受信する無線信号の通信品質を予め設定された閾値品質よりも高くする)ように、複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれが当該移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定している、と言うことができる。更に、送信電力比決定部12は、目標信号対干渉雑音比とジオメトリとに基づいて送信電力比を決定している、と言うこともできる。これによれば、送信電力比を適切に決定することができる。
【0056】
目標送信電力送信部13は、送信電力比決定部12により決定された行列U(即ち、送信電力比)に従った目標送信電力を、複数の基地局装置のそれぞれに対して算出(決定)する。目標送信電力送信部13は、決定した目標送信電力を表す無線信号を、基地局装置B2,B3のそれぞれへ送信する。
【0057】
送信電力制御部11は、各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力送信部13により決定された目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する。
【0058】
次に、図3に示したシーケンス図を参照しながら、無線通信システム1の作動について説明する。
【0059】
先ず、基地局装置B1は、数式16に基づいて、安定条件が成立する範囲において、複数の基地局装置のそれぞれが移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように送信電力比を決定する(ステップS101)。具体的には、基地局装置B1は、行列Uを算出する。
【0060】
次いで、基地局装置B1は、算出した行列Uと、数式17と、に基づいて送信電力ベクトルPを算出する。
【数17】

【0061】
は、各基地局装置から移動局装置(ユーザ)kへ送信される無線信号の送信電力の和である。そして、基地局装置B1は、算出された送信電力ベクトルPと、数式18と、に基づいて、決定した送信電力比に従った目標送信電力の平方根を取った値を決定する(ステップS102)。
【数18】

【0062】
そして、基地局装置B1は、目標送信電力の平方根を取った値を二乗することにより、目標送信電力を算出する。次いで、基地局装置B1は、移動局装置毎に算出した目標送信電力を、各基地局装置B2,B3へ送信する(ステップS103)。具体的には、基地局装置B1は、基地局装置B2へ、移動局装置kに対する目標送信電力(u2k・pを送信する。また、基地局装置B1は、基地局装置B3へ、移動局装置kに対する目標送信電力(u3k・pを送信する。
【0063】
各基地局装置B1〜B3の送信電力制御部11は、各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を、基地局装置B1により決定された目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する(ステップS104a〜S104c)。
【0064】
具体的には、基地局装置B1の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u1k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。同様に、基地局装置B2の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u2k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。同様に、基地局装置B3の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u3k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。
【0065】
このようにして、第1実施形態に係る無線通信システム1は、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
次に、この無線通信システム1に係る基地局装置が消費する電力の総和を、他の無線通信システムと比較して示す。
【0066】
第1の比較例は、LTE(Long Term Evolution)方式に従った無線通信システムにおけるCOMP(Coordinated Multi−Point Transmission and Reception)である。第2の比較例は、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式に従った無線通信システムにおけるソフトハンドオーバーである。シミュレーションに用いたパラメータは、上述した値である。シミュレーションによって算出された、すべての基地局装置が消費する送信電力の和(全基地局装置の総送信電力)を表1に示す。
【表1】

【0067】
このように、第1実施形態に係る無線通信システム1に係る、全基地局装置の総送信電力は、第1の比較例、及び、第2の比較例に係る無線通信システムよりも小さい。即ち、第1実施形態に係る無線通信システム1は、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
【0068】
更に、第1実施形態に係る無線通信システム1によれば、複数の基地局装置B1〜B3の送信電力の総和を、移動局装置M1〜M6が受信する無線信号の品質が所要品質を満足する範囲において可能な限り小さくすることができる。この結果、無線通信システム1の消費電力を小さくすることができる。
【0069】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る無線通信システムについて説明する。第2実施形態に係る無線通信システムは、上記第1実施形態に係る無線通信システムに対して、複数の基地局装置のそれぞれが移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように送信電力比を決定する点において相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0070】
第2実施形態に係る複数の基地局装置B1〜B3は、図4に示したように、バックホールリンクBLを介して、互いに無線通信可能に接続されている。各基地局装置B1〜B3は、他の基地局装置へ、移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の基となるデータ(共有データ)を表す無線信号を送信する。
【0071】
無線通信システム1は、基地局装置間の通信に係る送信電力制御として、長区間の集中制御を行うとともに、基地局装置と移動局装置との間の通信に係る送信電力制御として、短区間の分散制御を行う。
【0072】
第2実施形態に係る送信電力比決定部12は、数式16に代えて、数式19を用いることにより、基地局装置B1〜B3から移動局装置M1〜M6へ送信される無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータ(共有データ)を当該複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する(本例では、各基地局装置B1〜B3が他の基地局装置へ送信する)無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とする比(送信電力比)に対応する行列Uを求めることができる。
【0073】
即ち、送信電力比決定部12は、系が安定である範囲において、基地局装置B1〜B3から移動局装置M1〜M6へ送信される無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とする比(送信電力比)に対応する行列Uを算出(決定)する。具体的には、送信電力比決定部12は、勾配法、又は、内点法等を用いることにより、行列Uを算出する。
【数19】

【0074】
ここで、P(U)は、複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信される、共有データを表す無線信号の送信電力を要素とするベクトル(バックホール送信電力ベクトル)である。送信電力比決定部12は、バックホール送信電力ベクトルP(U)を、下記のように算出する。
【0075】
ところで、基地局装置間で送受信される共有データのシンボルあたりのビット数を要素とする供給ビット数ベクトルBは、数式20のように表される。
【数20】

【0076】
ここで、行列Tは、接続行列と呼ばれる。接続行列Tの要素であるt(a,b)は、移動局装置kへ送信される無線信号の基となる共有データを、基地局装置aから基地局装置bへ送信するための接続が有効(アクティブ)である場合に「1」に設定され、当該接続が無効(インアクティブ)である場合に「0」に設定される。
また、ベクトルbは、各移動局装置に対する共有データのシンボルあたりのビット数を要素とするベクトルである。
【0077】
従って、供給ビット数ベクトルBは、数式21のように求められる。ここで、供給ビット数ベクトルBの1番目の要素は、基地局装置B1から基地局装置B2へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。同様に、供給ビット数ベクトルBの2番目の要素は、基地局装置B1から基地局装置B3へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。
【0078】
また、供給ビット数ベクトルBの3番目の要素は、基地局装置B2から基地局装置B3へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。同様に、供給ビット数ベクトルBの4番目の要素は、基地局装置B2から基地局装置B1へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。
【0079】
また、供給ビット数ベクトルBの5番目の要素は、基地局装置B3から基地局装置B1へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。同様に、供給ビット数ベクトルBの6番目の要素は、基地局装置B3から基地局装置B2へ送信される共有データのシンボルあたりのビット数である。
【数21】

【0080】
送信電力比決定部12は、共有データを複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力と、当該共有データのシンボルあたりのビット数と、の関係を指数関数により近似することにより、バックホール送信電力ベクトルP(U)を算出する。これによれば、送信電力比を適切に決定することができる。
【0081】
本例では、送信電力比決定部12は、共有データのシンボルあたりのビット数が2だけ増える毎に、送信電力が4倍されるように、数式22に示したように、バックホール送信電力ベクトルP(U)を算出する。ここで、dは、送信電力の基本値としての基本送信電力である。
【数22】

【0082】
従って、複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信される、共有データを表す無線信号の送信電力の総和である、バックホール総送信電力Pballは、数式23のように求められる。
【数23】

【0083】
本例では、バックホール総送信電力Pballは、数式24に示したように算出される。
【数24】

【0084】
なお、無線通信システム1は、共有データを蓄積する送信バッファに蓄積されたデータ量に応じて、自律的に変調多値数を変更することにより、共有データを複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力を制御するように構成されていてもよい。この場合、送信電力を変更するための指示、又は、変調多値数を変更するための指示は不要である。
【0085】
また、無線通信システム1は、共有データを複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力、又は、当該無線信号におけるシンボルあたりのビット数を、共有データを蓄積する送信バッファに蓄積されたデータ量に応じて制御するように構成されることが好適である。
【0086】
目標送信電力送信部13は、送信電力比決定部12により決定された行列U(即ち、送信電力比)に従った目標送信電力を、複数の基地局装置のそれぞれに対して算出(決定)する。目標送信電力送信部13は、決定した目標送信電力を表す無線信号を、基地局装置B2,B3のそれぞれへ送信する。
【0087】
送信電力制御部11は、各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力送信部13により決定された目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する。
【0088】
次に、図5に示したシーケンス図を参照しながら、無線通信システム1の作動について説明する。
【0089】
先ず、基地局装置B1は、数式19に基づいて、安定条件が成立する範囲において、複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれが移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となる共有データを当該複数の基地局装置B1〜B3のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように送信電力比を決定する(ステップS201)。具体的には、基地局装置B1は、行列Uを算出する。
【0090】
次いで、基地局装置B1は、算出した行列Uと、数式17と、に基づいて送信電力ベクトルPを算出する。そして、基地局装置B1は、算出された送信電力ベクトルPと、数式18と、に基づいて、決定した送信電力比に従った目標送信電力の平方根を取った値を決定する(ステップS202)。
【0091】
そして、基地局装置B1は、目標送信電力の平方根を取った値を二乗することにより、目標送信電力を算出する。次いで、基地局装置B1は、移動局装置毎に算出した目標送信電力を、各基地局装置B2,B3へ送信する(ステップS203)。具体的には、基地局装置B1は、基地局装置B2へ、移動局装置kに対する目標送信電力(u2k・pを送信する。また、基地局装置B1は、基地局装置B3へ、移動局装置kに対する目標送信電力(u3k・pを送信する。
【0092】
各基地局装置B1〜B3の送信電力制御部11は、各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を、基地局装置B1により決定された目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する(ステップS204a〜S204c)。
【0093】
具体的には、基地局装置B1の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u1k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。同様に、基地局装置B2の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u2k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。同様に、基地局装置B3の送信電力制御部11は、移動局装置kへ送信する無線信号の送信電力を、目標送信電力(u3k・pに一致させるように、当該送信電力を制御する。
【0094】
このようにして、第2実施形態に係る無線通信システム1は、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
次に、この無線通信システム1が消費する電力の総和を、他の無線通信システムと比較して示す。
【0095】
比較例は、複数の基地局装置のそれぞれが移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように送信電力比を決定する無線通信システムである。シミュレーションによって算出された、全基地局装置の総送信電力、及び、システムの総送信電力を表2に示す。
【表2】

【0096】
ここで、全基地局装置の総送信電力は、すべての基地局装置が移動局装置へ無線信号を送信するために消費する送信電力の和である。また、システムの総送信電力は、すべての基地局装置が移動局装置へ無線信号を送信するために消費する送信電力の和と、すべての基地局装置が他の基地局装置へ無線信号を送信するために消費する送信電力の和と、の和である。
【0097】
このように、第2実施形態に係る無線通信システム1に係る全基地局装置の総送信電力は、比較例に係る無線通信システムよりも大きい。しかしながら、第2実施形態に係る無線通信システム1に係るシステムの総送信電力は、比較例に係る無線通信システムよりも小さい。即ち、第2実施形態に係る無線通信システム1は、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力をより一層小さくすることができる。
【0098】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る無線通信システムについて説明する。第3実施形態に係る無線通信システムは、上記第1実施形態又は上記第2実施形態に係る無線通信システムに対して、各基地局装置が、移動局装置へ送信する無線信号の送信電力を目標送信電力へ徐々に近づけるように、当該送信電力を制御する逐次送信電力制御を行う点において相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0099】
上述したように、安定条件が成立している場合、数式25が成立する。
【数25】

【0100】
この場合、数式26に示した関係が成立する。
【数26】

【0101】
更に、数式26に基づいて数式27が導出される。
【数27】

【0102】
ここで、送信電力ベクトルP(U)は、送信電力を最小とする最適値である。即ち、無線通信システム1は、時刻iに対して、数式28に示したように、逐次的な送信電力制御(逐次送信電力制御)を行うことによって、各基地局装置の送信電力を最適値に近づけることができる。
【数28】

【0103】
数式28におけるk行目の要素に基づいて数式29が導出される。
【数29】

【0104】
送信電力制御部11は、数式29に基づいて、各移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を制御する。具体的には、送信電力制御部11は、SINRγ(i)がターゲットSINRγよりも小さい場合、送信電力を増加させ、一方、SINRγ(i)がターゲットSINRγよりも大きい場合、送信電力を減少させる。即ち、数式29に基づく制御は、TPC(Transmission Power Control)コマンドによる制御に対応している。
【0105】
また、送信電力制御部11は、数式29に代えて、数式30を用いることにより、送信電力を制御するように構成されていてもよい。なお、下記の数式30〜32は、デシベル(dB)にて表記されている。
【数30】

【0106】
ここで、PTPC1(i)は、移動局装置M1〜M6から受信したTPCコマンドに基づく制御量である。本例では、数式31に示したように、PTPC1(i)は、TPCコマンドが表す値TPC(i)が「1」である場合に、+ΔTPC1に設定され、TPCコマンドが表す値TPC(i)が「0」である場合に、−ΔTPC1に設定される。ここで、ΔTPC1は、PTPC1に対して予め設定されたステップ値(ステップサイズ)である。
【数31】

【0107】
また、PTPC2(i)は、送信電力比決定部12により決定された送信電力比に基づく制御量である。本例では、PTPC2(i)は、数式32に示したように、求められる。
【数32】

【0108】
ここで、Prefは、リファレンス電力である。送信電力制御部11は、リファレンス電力Prefとして、目標送信電力送信部13により決定された目標送信電力を用いる。また、ΔTPC2は、PTPC2に対して予め設定されたステップ値(ステップサイズ)である。また、Pmaxは,PTPC2(i)の大きさ(絶対値)の上限として予め設定された値である。更に、sign{X}は、変数Xが正の値である場合に「+1」を戻り値とし、変数Xが負の値である場合に「−1」を戻り値とする関数である。
【0109】
送信電力制御部11が数式29又は数式30に基づいて送信電力を制御することにより、各基地局装置B1〜B3が移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力は、目標送信電力送信部13により決定された目標送信電力へ徐々に近づく。そして、十分に長い時間が経過した後、各基地局装置B1〜B3が移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力は、目標送信電力送信部13により決定された目標送信電力に一致(収束)する。
【0110】
このように、送信電力制御部11は、移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力を目標送信電力Prefへ徐々に近づけるように、当該送信電力を制御する逐次送信電力制御を行う、と言うことができる。更に、送信電力制御部11は、移動局装置M1〜M6へ送信する無線信号の送信電力P(i)と目標送信電力Prefとの差と、予め設定されたステップ値ΔTPC2と、に基づいて当該送信電力の変更量PTPC1(i)+PTPC2(i)を決定し、当該決定した変更量だけ当該送信電力を変更する、と言うことができる。
【0111】
なお、送信電力制御部11は、目標送信電力に基づいてステップ値ΔTPC2を変更するように構成されていてもよい。これによれば、送信電力が目標送信電力に十分に近づくまでに要する時間を短くすることができる。
【0112】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る無線通信システムについて図6を参照しながら説明する。
第4実施形態に係る無線通信システム100は、移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含むシステムである。
【0113】
更に、この無線通信システム100は、上記移動局装置が受信する無線信号の通信品質が、予め設定された所要品質を満足するように、上記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定部(送信電力比決定手段)101を備える。
【0114】
これによれば、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
【0115】
この場合、上記送信電力比決定手段は、上記複数の基地局装置のそれぞれが上記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように上記送信電力比を決定することが好適である。
【0116】
これによれば、複数の基地局装置の送信電力の総和を、移動局装置が受信する無線信号の品質が所要品質を満足する範囲において可能な限り小さくすることができる。この結果、無線通信システムの消費電力を小さくすることができる。
【0117】
以上、上記実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成及び詳細に、本願発明の範囲内において当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。例えば、上記各実施形態の変形例に係る無線通信システムは、基地局装置以外の装置(例えば、上位装置)を制御局装置として含んでいてもよい。
【0118】
なお、上記各実施形態において、基地局装置B1〜B3の各機能は、回路等のハードウェアにより実現されていた。ところで、各基地局装置B1〜B3は、処理装置と、プログラム(ソフトウェア)を記憶する記憶装置と、を備えるとともに、処理装置がそのプログラムを実行することにより、各機能を実現するように構成されていてもよい。この場合、プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。例えば、記録媒体は、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、及び、半導体メモリ等の可搬性を有する媒体である。
【0119】
また、上記実施形態の他の変形例として、上述した実施形態及び変形例の任意の組み合わせが採用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む移動通信システム等に適用可能である。
【0121】
<付記>
(付記1)
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムであって、
前記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、前記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える無線通信システム。
【0122】
これによれば、移動局装置が受信する無線信号の品質の低下を防止しながら、消費電力を小さくすることができる。
【0123】
(付記2)
付記1に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように前記送信電力比を決定する無線通信システム。
【0124】
これによれば、複数の基地局装置の送信電力の総和を、移動局装置が受信する無線信号の品質が所要品質を満足する範囲において可能な限り小さくすることができる。この結果、無線通信システムの消費電力を小さくすることができる。
【0125】
(付記3)
付記1に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように前記送信電力比を決定する無線通信システム。
【0126】
ところで、複数の基地局装置のそれぞれが同時に移動局装置へ無線信号を送信する場合、当該無線信号の基となるデータを複数の基地局装置のそれぞれへ送信する必要がある。従って、このデータが無線信号により送信される場合には、この無線信号を送信するための送信電力が消費される。そこで、上記のように無線通信システムを構成することにより、無線通信システムの消費電力をより一層小さくすることができる。
【0127】
(付記4)
付記1乃至付記3のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記複数の基地局装置のそれぞれは、前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力を、前記決定された送信電力比に従った目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する送信電力制御手段を備える無線通信システム。
【0128】
(付記5)
付記1乃至付記4のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記通信品質は、信号対干渉雑音比であり、
前記所要品質は、信号対干渉雑音比の目標値である目標信号対干渉雑音比であり、
前記送信電力比決定手段は、前記目標信号対干渉雑音比と、前記基地局装置と前記移動局装置との間のチャネルの電力利得であるチャネル電力利得が大きくなるほど大きくなる値を有するジオメトリと、に基づいて前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【0129】
ところで、信号対干渉雑音比(SINR;Signal to Noise Interference Ratio)は、通信品質をよく表す。また、SINRとジオメトリとは、強い相関を有する。従って、上記構成によれば、送信電力比を適切に決定することができる。
【0130】
(付記6)
付記1乃至付記5のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、予め設定された安定条件が成立する範囲において、前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【0131】
(付記7)
付記6に記載の無線通信システムであって、
前記安定条件は、前記ジオメトリと、前記目標信号対干渉雑音比と、各ユーザに対する各基地局装置の送信電力比と、によって構成される行列の固有値に基づく条件である無線通信システム。
【0132】
(付記8)
付記1乃至付記7のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記移動局装置が受信した無線信号の受信電力を表すCQI(Channel Quality Indicator)情報を当該移動局装置から受信し、当該受信したCQI情報に基づいて前記ジオメトリを推定するように構成された無線通信システム。
【0133】
ところで、CQI情報と、ジオメトリと、は強い相関を有する。従って、上記構成によれば、ジオメトリを高い精度にて推定することができる。
【0134】
(付記9)
付記4乃至付記8のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力制御手段は、前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力を前記目標送信電力へ徐々に近づけるように、当該送信電力を制御する逐次送信電力制御を行う無線通信システム。
【0135】
(付記10)
付記9に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力制御手段は、前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力と前記目標送信電力との差と、予め設定されたステップ値と、に基づいて当該送信電力の変更量を決定し、当該決定した変更量だけ当該送信電力を変更するように構成された無線通信システム。
【0136】
(付記11)
付記1乃至付記10のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記複数の基地局装置のそれぞれに対して、前記決定された送信電力比に従った目標送信電力を決定し、当該決定した目標送信電力を表す無線信号を当該基地局装置へ送信する目標送信電力送信手段を備える無線通信システム。
【0137】
(付記12)
付記11に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段及び前記目標送信電力送信手段を備える制御局装置を含む無線通信システム。
【0138】
(付記13)
付記12に記載の無線通信システムであって、
前記制御局装置は、基地局装置である無線通信システム。
【0139】
(付記14)
付記3乃至付記13のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記基地局装置が前記移動局装置へ送信する無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力と、当該無線信号における送信シンボル当たりの送信ビット数と、の関係を指数関数により近似することにより、前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【0140】
ところで、基地局装置が移動局装置へ送信する無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力と、当該無線信号における送信シンボル当たりの送信ビット数と、の関係は、指数関数によりよく表される。従って、上記構成によれば、送信電力比を適切に決定することができる。
【0141】
(付記15)
付記3乃至付記14のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記基地局装置が前記移動局装置へ送信する無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力、又は、当該無線信号におけるシンボルあたりのビット数を、当該データを蓄積する送信バッファに蓄積されたデータ量に応じて制御するように構成された無線通信システム。
【0142】
(付記16)
付記1乃至付記15のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、勾配法、又は、内点法を用いることにより前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【0143】
(付記17)
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムに適用され、
前記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、前記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する、無線通信方法。
【0144】
(付記18)
付記17に記載の無線通信方法であって、
前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように前記送信電力比を決定する、無線通信方法。
【0145】
(付記19)
付記17に記載の無線通信方法であって、
前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように前記送信電力比を決定する、無線通信方法。
【0146】
(付記20)
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える制御局装置。
【0147】
(付記21)
付記20に記載の制御局装置であって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように前記送信電力比を決定する制御局装置。
【0148】
(付記22)
付記20に記載の制御局装置であって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように前記送信電力比を決定する制御局装置。
【0149】
(付記23)
制御局装置に、
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を実現させるためのプログラム。
【0150】
(付記24)
付記23に記載のプログラムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように前記送信電力比を決定するプログラム。
【0151】
(付記25)
付記23に記載のプログラムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように前記送信電力比を決定するプログラム。
【符号の説明】
【0152】
1 無線通信システム
11 送信電力制御部
12 送信電力比決定部
13 目標送信電力送信部
100 無線通信システム
101 送信電力比決定部
B1〜B3 基地局装置
M1〜M6 移動局装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムであって、
前記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、前記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和を最小とするように前記送信電力比を決定する無線通信システム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、前記複数の基地局装置のそれぞれが前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の総和と、当該無線信号の基となるデータを当該複数の基地局装置のそれぞれへ送信する無線信号の送信電力の総和と、の和を最小とするように前記送信電力比を決定する無線通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記複数の基地局装置のそれぞれは、前記移動局装置へ送信する無線信号の送信電力を、前記決定された送信電力比に従った目標送信電力に一致させるように、当該送信電力を制御する送信電力制御手段を備える無線通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記通信品質は、信号対干渉雑音比であり、
前記所要品質は、信号対干渉雑音比の目標値である目標信号対干渉雑音比であり、
前記送信電力比決定手段は、前記目標信号対干渉雑音比と、前記基地局装置と前記移動局装置との間のチャネルの電力利得であるチャネル電力利得が大きくなるほど大きくなる値を有するジオメトリと、に基づいて前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記送信電力比決定手段は、予め設定された安定条件が成立する範囲において、前記送信電力比を決定するように構成された無線通信システム。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信システムであって、
前記安定条件は、前記ジオメトリと、前記目標信号対干渉雑音比と、各ユーザに対する各基地局装置の送信電力比と、によって構成される行列の固有値に基づく条件である無線通信システム。
【請求項8】
移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置を含む無線通信システムに適用され、
前記移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、前記複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する、無線通信方法。
【請求項9】
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を備える制御局装置。
【請求項10】
制御局装置に、
移動局装置が受信する無線信号の通信品質を、予め設定された所要品質を満足するように、当該移動局装置と同時に無線通信を行う複数の基地局装置のそれぞれが当該移動局装置へ送信する無線信号の送信電力の比である送信電力比を決定する送信電力比決定手段を実現させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−135313(P2011−135313A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292773(P2009−292773)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】