無線通信方法及び無線通信装置
【課題】無線通信における実効スループットを向上させること。
【解決手段】複数のアンテナを備えた無線通信装置が、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信し、測定用信号に基づいて端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得し、取得された伝搬チャネル特性に基づいて端末局との通信におけるアンテナのビームチルト角を算出し、端末局との通信において前記ビームチルト角を設定する。
【解決手段】複数のアンテナを備えた無線通信装置が、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信し、測定用信号に基づいて端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得し、取得された伝搬チャネル特性に基づいて端末局との通信におけるアンテナのビームチルト角を算出し、端末局との通信において前記ビームチルト角を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信方式として、IEEE802.11による無線LAN規格が知られている。一例として、IEEE802.11におけるIEEE802.11nでは、キャリア変調としてOFDMを採用するとともに1チャネルあたりの周波数帯域は20MHzである。
そのうえで、IEEE802.11nでは、MIMO(Multiple Input Multiple Output)によるマルチストリーミングやチャネルボンディングなどの技術を採用することで、伝送速度の高速化を図っている。これらの技術により実現される公称の最大伝送速度は600Mbpsである(非特許文献1参照)。
【0003】
なお、MIMOでは、送信側と受信側とでそれぞれ複数のアンテナが備えられる。そして、送信側は複数のアンテナで同時に異なるデータを送信し、受信側はこれらのデータを複数のアンテナで受信して合成する。これにより伝送速度を増加させるものである。
また、チャネルボンディングは、複数のチャネルを結合することにより帯域を拡大する技術である。具体的に、IEEE802.11nにおける1チャネルあたりの帯域は20MHzであるが、チャネルボンディングにより2つのチャネルを結合することで、通信のための帯域は40MHzとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】守倉正博、久保田周治、「改訂三版802.11高速無線LAN教科書」、インプレスR&D、2008年3月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状においては、上記IEEE802.11nの技術により実効スループットを十分に増加させることが難しい。これは以下のような理由による。現状において、基地局(例えば、無線LANルータ)についてはMIMOに対応した製品として複数のアンテナを備えたものが普及してきている。しかし、端末局側については、MIMOに対応したアンテナ数の増加が進んでいない場合が多い。端末局は、具体的にはノート型パーソナルコンピュータやタブレット端末などをはじめ携帯型のものが多くを占める。したがって、端末局については、小型化、低消費電力化やコストダウンなどが優先して考慮され、このためにアンテナ数を増加することが困難であるというのがその主たる理由の1つである。
【0006】
MIMOの方式では、送信側と受信側のアンテナ数が増加するのに応じて実効スループットは増加する。そのうえで、送信側と受信側のアンテナ数が異なる場合、MIMOにより拡大される帯域は少ない側のアンテナ数に応じて決まってしまう。このために、現実の環境において端末局のアンテナ数が少なければ、MIMOによる実効スループットの増加を期待することはできない。
【0007】
また、チャネルボンディングについては、予め割り当てられた有限数のチャネルから複数のチャネルを利用するので、近接の通信セルと同じチャネルを利用する可能性が高くなる。このように互いに近接する通信セル同士が同じチャネルを利用している場合には、結果的に複数の通信セルが共通のチャネルを共有することになるので、チャネルボンディングによる実効スループットの増加も期待できないことになる。このように、現状における無線LAN規格における技術では、実効スループットを有効に向上させることが難しい。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、無線通信における実効スループットを向上させる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、複数のアンテナを備えた無線通信装置が、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信ステップと、前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得ステップと、取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出ステップと、前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定ステップと、を有する無線通信方法である。
【0010】
本発明の一態様は、上記の無線通信方法であって、前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記伝搬チャネル特性に基づいてスループット若しくは受信電力が増加若しくは減少するように前記ビームチルト角を算出する。
【0011】
本発明の一態様は、上記の無線通信方法であって、前記無線通信装置が備える無線部の数が前記アンテナの数よりも少なく、前記測定用信号送信ステップにおいて、前記無線部と前記アンテナとの接続を切り替えながら、前記測定用信号を前記端末局に送信し、前記測定用信号送信ステップと前記伝搬チャネル特性取得ステップとを繰り返し実行することによって全ての前記複数のアンテナにおける前記伝搬チャネル特性を取得するステップと、前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記取得した複数の伝搬チャネル特性を統合して一つの伝搬チャネル特性を取得する。
【0012】
本発明の一態様は、複数のアンテナと、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信部と、前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得部と、取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出部と、前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定部と、を備える無線通信装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、無線通信における実効スループットを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態における通信システムの構成例を示す図である。
【図2】第1の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図3】第1の実施形態における端末局の構成例を示す図である。
【図4】第1の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図5】第1の実施形態における基地局と端末局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図7】第2の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における基地局と端末局がデータ送受信のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図9】第3の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図10】第3の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図11】第4の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図12】第4の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図13】第4の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図14】第5の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図15】第5の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図16】第5の実施形態における基地局と端末局がデータ送受信のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図17】第6の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図18】第6の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図19】第6の実施形態における基地局と端末局が実行するビームチルト角算出とデータ送受信のための処理手順例を示すフローチャートである。
【図20】第6の実施形態における端末局が送信予告信号の受信に応じて実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図21】第7の実施形態における通信システムの構成例を示す図である。
【図22】第7の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図23】第8の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図24】第8の実施形態における第1基地局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図25】第9の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図26】第9の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図27】第9の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図28】第9の実施形態における第1基地局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図29】第9の実施形態における第2基地局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
[無線通信システムの構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に対応する無線通信システムの構成例を示している。この図に示す無線通信システムは、基地局100、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3の各無線通信装置を備える。なお、以降において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3について特に区別しない場合には、端末局200と記載する。
【0016】
基地局100は、通信セル10内に位置する端末局200と無線による通信を行う。通信セル10は、基地局100から出力される電波が到達可能な範囲である。
また、基地局100は、ネットワーク20と接続される。ネットワーク20は、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)である。なお、基地局100とネットワーク20との接続は有線であっても無線であってもよい。このようにネットワーク20と接続されることで、基地局100は、ネットワーク20と端末局200との間の通信を中継することができる。
【0017】
端末局200は、自己が位置する通信セル10を形成している基地局100と無線により通信を行う装置である。基地局100と端末局200は、それぞれ、データを格納するパケットを所定構造のフレームに変換して送受信を行う。
なお、基地局100の具体例としては無線LANアクセスポイントを想定することができる。また、端末局200の具体例としては、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末装置、携帯電話、スマートフォンなどの無線LAN通信に対応した各種装置を想定することができる。
【0018】
[基地局の構成]
図2は、第1の実施形態における基地局100の構成例を示している。この図に示す基地局100は、アンテナ101−1〜101−N、位相変換部102−1〜102−N、無線部103−1〜103−N、ネットワークインターフェース104、測定用信号送信部105、伝搬チャネル特性取得部106、記憶部107、ビームチルト角算出部108およびビームチルト角設定部109を備える。
【0019】
N個のアンテナ101−1〜101−Nは、送信信号を電波として送出するとともに、電波を受信して受信信号を出力する部位である。また、本実施形態において、アンテナ101−1〜101−Nにより形成されるビームチルト角は後述するように変更可能とされている。
【0020】
位相変換部102−1〜102−Nは、それぞれ、対応の無線部103−1〜103−Nから出力された送信信号の位相を変換し、対応のアンテナ101−1〜101−Nに供給する。また、位相変換部102−1〜102−Nは、それぞれ、対応のアンテナ101−1〜101−Nから出力される受信信号の位相を変換し、対応の無線部103−1〜103−Nに出力する。なお、位相変換部102−1〜102−Nは、ビームチルト角設定部109の制御に応じて変換すべき位相を設定する。
【0021】
無線部103−1〜103−Nは、それぞれ、送信すべきデータ、信号を入力してフレーム化や所定の変調処理などを施して送信信号を生成し、対応の位相変換部102−1〜102−Nに対して出力する。上記送信信号の生成元となるデータや信号として、主たるものは、ネットワークインターフェース104から出力されるパケットのデータである。また、本実施形態においては、測定用信号送信部105から出力される測定用信号も送信信号の生成元となる。
【0022】
また、無線部103−1〜103−Nは、それぞれ、対応の位相変換部102−1〜102−Nからの受信信号を入力して所定の復調処理などを実行する。受信信号がネットワーク20と接続される他の端末を宛先とするパケットである場合、無線部103−1〜103−Nは、このパケットをネットワークインターフェース104に出力する。また、受信信号が当該基地局100宛のデータや信号である場合には、これらのデータや信号が無線部103−1〜103−Nからしかるべき部位に対して入力される。一例として、受信信号が伝搬チャネル特性を基地局100に通知するための特性通知信号である場合、この特性通知信号は、無線部103−1〜103−Nから伝搬チャネル特性取得部106に入力される。
【0023】
ネットワークインターフェース104は、ネットワーク20(図2においては図示せず)と接続して通信を実行する部位である。ネットワークインターフェース104は、ネットワーク20経由で受信した、端末局200のいずれかを宛先とするデータ(パケット)を、無線部103−1〜103−Nに出力する。
【0024】
また、端末局200からの送信信号は、アンテナ101−1〜101−Nにて受信され、それぞれ、受信信号として位相変換部102−1〜102−Nを介して無線部103−1〜103−Nに入力される。この受信信号が、ネットワーク20と接続された端末を宛先とするパケットである場合、ネットワークインターフェース104は、このパケットを入力してネットワーク20経由で宛先の端末に送信する。
【0025】
測定用信号送信部105は、当該基地局100との間の伝搬チャネル特性(電波伝搬路特性)を測定するための測定用信号を端末局200に送信する。このために、測定用信号送信部105は測定用信号を生成し、生成した測定用信号を無線部103−1〜103−Nに出力する。無線部103−1〜103−Nは入力した測定用信号を、送信信号として位相変換部102−1〜102−Nに出力する。
なお、伝搬チャネル特性は、一般には、伝搬損失、遅延時間、到来方向などとなる。なお、測定用信号としては、例えば、これまでに知られている伝搬チャネル特性測定のための信号を利用すればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
伝搬チャネル特性取得部106は、端末局200が上記測定用信号を利用して測定した伝搬チャネル特性を当該端末局200から取得する。つまり、上記測定用信号を受信した端末局200は、この受信した測定用信号を伝搬チャネル特性の測定を行い、測定した伝搬チャネル特性を通知する特性通知信号を基地局100に送信する。基地局100の伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から伝搬チャネル特性を取得する。
記憶部107は、上記のように取得された伝搬チャネル特性を記憶する。なお、記憶部107の実際としては、RAM(Random Access Memory)などを想定することができる。
【0027】
ビームチルト角算出部108は、取得された伝搬チャネル特性(すなわち、記憶部107に記憶された伝搬チャネル特性)に基づいて、当該伝搬チャネル特性を送信した端末局200との通信の際に設定すべきビームチルト角を算出する。第1の実施形態において、ビームチルト角算出部108は、基地局100と端末局200との間の電波の伝搬状態が最良となるビームチルト角を算出する。ここでは、上記ビームチルト角を算出するための手法として以下の2例を挙げる。
【0028】
まず、第1のビームチルト角算出手法は、SNR(信号対雑音電力比)に基づくものとなる。この第1のビームチルト角算出手法では、基地局100と端末局200との間の伝搬チャネル特性を行例H11として生成する。この行列H11は、送信側アンテナと受信アンテナとのすべての組合せの伝搬チャネル特性を要素とするもので、下記の式(1)のように表される。なお、ここでの送信アンテナは、基地局100のアンテナ101−1〜101−Nを想定し、受信アンテナは端末局200のアンテナを想定する。また、ここでは、説明を簡単にするために端末局200のアンテナが1つである場合を想定する。
【数1】
【0029】
次に、ビームチルト角を制御する行列Tは下記の式(2)により表される。なお、下記の式(2)において、dは送信側のアンテナの素子間隔であり、λは真空中における波長であり、θはビームチルト角である。
【数2】
【0030】
そして、上記行列H11と行列Tに基づいて下記の式(3)によりSNR(信号対電力雑音比)を算出する。下記の式において、「|| ||F」はフロベニウスノルムを示す。
【数3】
【0031】
ビームチルト角算出部108は、取得された伝搬チャネル特性を利用して行例H11を生成する。また、ビームチルト角算出部108は、異なるビームチルト角ごとの行例Tを生成する。そのうえで、ビームチルト角算出部108は、これらの行列を用いて、式(3)により異なるビームチルト角ごとのSNRを算出する。そして、ビームチルト角算出部108は、このように算出されたSNRのうちの最大値を求めるのに使用したビームチルト角θを算出結果として出力する。
【0032】
また、第2のビームチルト角算出手法は、伝送容量に基づくものとなる。この第2のビームチルト角算出手法においても、ビームチルト角算出部108は、先の式(1)により表される伝搬チャネル特性の行列H11を生成する。また、式(2)により表される行列Tを生成する。
そのうえで、ビームチルト角算出部108は、下記の式(4)によりビームチルト角θごとの伝送容量Cを算出する。
【数4】
【0033】
そして、ビームチルト角算出部108は、上記式(4)により算出される伝送容量Cが最大となるビームチルト角θを算出結果として出力する。
ビームチルト角設定部109は、上記第1または第2の手法によって算出されたビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。このために、ビームチルト角設定部109は、算出されたビームチルト角とするための位相を、位相変換部102−1〜102−Nの各々に対して指示する。位相変換部102−1〜102−Nは、入出力信号が指示された位相となるように位相をシフトする。これにより、アンテナ101−1〜101−Nから成るアンテナ群に対して、ビームチルト角算出部108により算出されたビームチルト角が設定される。
【0034】
[端末局の構成]
図3は、端末局200の構成例を示している。端末局200は、アンテナ201、無線部202、伝搬チャネル特性測定部203、記憶部204および伝搬チャネル特性通知部205を備える。なお、この図においては、端末局200における基地局100のビームチルト角設定に対応した機能のみを抜き出して示している。
【0035】
アンテナ201は、送信信号を電波として送出するとともに、電波を受信して受信信号を出力する部位である。なお、ここでは、最も簡単な例として、端末局200のアンテナが1つである場合を示しているが、複数であってもよい。
無線部202は、送信すべきデータ、信号を入力してフレーム化や所定の変調処理などを施して送信信号を生成し、対応の位相変換部102−1〜102−Nに対して出力する。また、無線部202は、受信信号を入力して所定の復調処理などを実行する。
【0036】
前述のように基地局100から測定用信号が送信された場合、端末局200は、この測定用信号を受信することになる。伝搬チャネル特性測定部203は、このように受信された伝搬チャネル特性を無線部202から入力し、伝搬チャネル特性を測定する。そして、測定した伝搬チャネル特性を記憶部204に記憶する。記憶部204は、上記のように測定された伝搬チャネル特性のデータを記憶する部位である。
【0037】
伝搬チャネル特性通知部205は、測定された伝搬チャネル特性を基地局100に通知する。このために、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204から伝搬チャネル特性を読み出す。次に、伝搬チャネル特性通知部205は、この読み出した伝搬チャネル特性を基地局100に通知するための特性通知信号を生成する。そして、伝搬チャネル特性通知部205は、この特性通知信号を無線部202により送信させる。
【0038】
[基地局と端末局の通信手順例]
図4のタイミングチャートは、基地局100と1つの端末局200との間での通信手順例を示している。なお、この図の説明にあたり、アクセス制御方式についてはCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)が採用されていることを前提とする。
【0039】
基地局100において、端末局200に対して送信すべきパケットのデータ(送信対象データ)が発生したとする。具体的には、例えば送信対象データが無線部103−1〜103−Nのバッファ(図示せず)に入力されるのに応じて、送信対象データが発生したものとみなされる。これに応じて、基地局100は、ランダムな時間間隔によりキャリアセンス(CS)を実行する。キャリアセンスにより、通信周波数帯域が使用されていないアイドル状態と、通信周波数帯域が使用されているビジー状態のいずれであるのかが判定される。
【0040】
なお、このキャリアセンス実行時と測定用信号送信時において、ビームチルト角はリセットされ、例えば無指向性となる。これにより、通信セル10において均等なキャリアセンスの感度を得ることができる。また、通信セル10において均等に測定用信号を伝搬させることができる。
【0041】
例えば、図4の時刻t0において実行したキャリアセンスにより、通信周波数帯域が使用されていないアイドル状態であることが検出されたとする。これに応じて、基地局100は、例えば時刻t0から或る時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。この際、基地局100は、上記送信対象データの宛先の端末局200を認識する。そして、これと同じ端末局200を宛先として指定して、ユニキャストにより測定用信号を送信する。
上記測定用信号の受信に応じて、端末局200は、同じ時刻t1からt2の期間内において伝搬チャネル特性を測定する。そして、端末局200は、時刻t2から或る時間を経過した時刻t3からt4の期間において特性通知信号を送信する。
【0042】
基地局100は、時刻t3以降において特性通知信号を受信するのに応じて、ビームチルト角を算出する。次に、基地局100は、算出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに対して設定する。
基地局100は、上記のようにビームチルト角を設定した後、時刻t4からt5の期間において、送信対象データを送信する。なお、時刻t4からt5の期間において送信されるデータは、例えば無線通信に適合したフレームに変換されている。また、フレームアグリゲーションが適用されている場合、時刻t4からt5の期間において送信されるデータは、所定数のフレームが連結されたデータユニットとなる。
【0043】
そして、時刻t5に対応してデータの受信が終了するのに応答して、端末局200は、時刻t5から或る時間を経過した時刻t6からt7の期間においてAck(Acknowledge)を送信する。基地局100は、このAckを受信するとともに、当該Ackの受信に応じた所定の処理を実行する。具体的に、基地局100は、例えばAckの受信によりデータが正常に受信側で受信されたものと判断し、次のデータ送受信のための処理に遷移する。また、Ackが受信されることなくタイムアウトした場合には、送信対象データを再送するなどの処理を実行する。また、送信データがフレームアグリゲーションにより複数フレームを連結したものである場合にはフレームAckが返送される。この場合、基地局100は、フレームAckが示すフレームの受信結果に基づいて、受信エラーとなったフレームを再送する。第1の実施形態では、送信対象データが発生するごとに、上記時刻t0からt7までの手順により基地局100と端末局200との間でデータの送受信を行う。
【0044】
上記時刻t4からt5の期間においてデータが送受信される際、基地局100におけるアンテナのビームチルト角は、端末局200との間のSNRが最大となるように設定されている。これにより、基地局100と端末局200との電波伝搬性能が向上し、実効スループットが向上する。
【0045】
[処理手順例]
図5のフローチャートは、上記図4に示した基地局100と端末局200の通信手順を実現するための処理手順例を示している。この図に示す基地局100の処理は、図2に示した機能部のいずれかが適宜実行するものとしてみることができる。また、この図に示す端末局200の処理は、図3に示した機能部のいずれかが適宜実行するものとしてみることができる。
【0046】
基地局100において、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データが発生するのを待機している(ステップS101−NO)。そして、送信対象データが発生するのに応じて(ステップS101−YES)、無線部103−1〜103−Nはキャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS102−NO)。そして、アイドル状態であることを検出すると(ステップS102−YES)、測定用信号送信部105は測定用信号を生成する。そして、この測定用信号を、上記送信対象データと同じ端末局200を宛先として指定し、ユニキャストにより無線部103−1〜103−Nに送信させる(ステップS103)。
【0047】
上記測定用信号の送信に応じて、前述のように端末局200から特性通知信号が送信される。伝搬チャネル特性取得部106は、基地局100にて受信された特性通知信号を無線部103−1〜103−Nから出力される特性通知信号を入力することにより伝搬チャネル特性を取得する(ステップS104)。伝搬チャネル特性取得部106は、取得した伝搬チャネル特性の情報を記憶部107に記憶させる。
【0048】
次にビームチルト角算出部108は、記憶部107に記憶された伝搬チャネル特性を利用して、前述のようにSNRが最大となるビームチルト角を算出する(ステップS105)。そして、ビームチルト角設定部109は、前述のように位相変換部102−1〜102−Nを制御して、算出されたビームチルト角を設定する(ステップS106)。
【0049】
上記のようにビームチルト角が設定された後、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データを送信する(ステップS107)。次に、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データの送信終了に応じて端末局200から送信されるAckの受信に対応した所定の処理を実行する(ステップS108)。
【0050】
また、端末局200において、伝搬チャネル特性測定部203は、先のステップS102により送信された測定用信号が受信されるのを待機している(ステップS201−NO)。そして、測定用信号が受信されるのに応じて(ステップS201−YES)、伝搬チャネル特性測定部203は伝搬チャネル特性を測定する(ステップS202)。伝搬チャネル特性測定部203は、測定結果としての伝搬チャネル特性を記憶部204に記憶させる。
【0051】
次に、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204に記憶された伝搬チャネル特性を通知するための特性通知信号を生成し、基地局100に送信する(ステップS203)。次に、無線部103−1〜103−Nは、ステップS106により送信されるデータを受信する(ステップS204)。そして、このデータの受信を終了すると、基地局100に対してAckを送信する(ステップS205)。
【0052】
<第2の実施形態>
[基地局と端末局の通信手順例]
続いて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態における通信システム、基地局100および端末局200の構成は、それぞれ、図1、図2および図3と同様となる。ただし、第2の実施形態の基地局100におけるビームチルト角算出部107には、算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶させる機能が付加される。なお、ビームチルト角の算出手法は第1の実施形態と同様でよい。
【0053】
図6のタイミングチャートは、第2の実施形態における基地局100と端末局200の間での通信手順例を示している。第2の実施形態では、まず、所定のタイミングによって基地局100が端末局200ごとのビームチルト角を予め算出し、これを記憶部107に記憶させておくようにする。この後において、基地局100は、送信対象データが発生するごとに、宛先の端末局200のビームチルト角を記憶部107から読み出して設定し、データ送信を行う。このように、第2の実施形態においては、ビームチルト角を算出して記憶するための動作とデータ送受信とはそれぞれ個別の機会で行われる。
【0054】
まず、基地局100は、ビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、測定用信号送信のためのキャリアセンスをランダムな時間間隔により実行する。なお、ビームチルト角を算出すべきタイミングとしては以下のようなものを想定できる。例えば1つには、基地局100が起動したときの初期設定として、そのときに接続が確立されている端末局200の各々に対応したビームチルト角の算出と記憶を順次行うというものである。また、1つには基地局100の起動後において最初にデータ送受信を行うこととなった場合に、その通信相手である端末局200のビームチルト角の算出と記憶を行うというものを考えることもできる。
【0055】
図6では、時刻t0において実行したキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたものとしている。これに応じて、時刻t0から一定時間を経過した時刻t1からt2までの期間において、基地局100は測定用信号を生成して送信する。この際、基地局100は、ビームチルト角算出の対象として選択した端末局200を宛先として、ユニキャストで測定信号を送信する。
【0056】
上記測定用信号の受信に応じて、端末局200は、同じ時刻t1からt2の期間内において伝搬チャネル特性を測定する。そして、端末局200は、時刻t2から或る時間を経過した時刻t3からt4の期間において特性通知信号を送信する。
基地局100は、同じ時刻t3からt4の期間において受信した上記特性通知信号を利用してビームチルト角を算出し、この算出したビームチルト角を記憶部107に記憶させる。なお、ビームチルト角を記憶部107に記憶させる際には、ビームチルト角と、測定用信号の宛先として指定した端末局200のアドレス(MACアドレス)とを対応付ける。
【0057】
そして、上記のようにビームチルト角を算出して記憶させた後の或るタイミングで、このビームチルト角に対応する端末局200を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、基地局100はキャリアセンスを実行する。ここでは、図6の時刻t5として示すタイミングで実行したキャリアセンスによりアイドル状態であることが検出されている。これに応じて、基地局100は、データ送信開始タイミングである時刻t7に至る前の時刻t6のタイミングで、送信対象データの宛先の端末局200に対応するビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0058】
次に、基地局100は、アイドル状態が検出された時刻t5から或る時間を経過した時刻t7のタイミングにおいて、端末局200に対する送信対象データの送信を開始する。
これに応じて、端末局200は時刻t7からデータの受信を開始する。なお、このときには、時刻t7より前の時刻t6のタイミングで、宛先の端末局200とのSNRまたは伝送容量が最大となる最適なビームチルト角が設定された状態にある。したがって、時刻t7以降のデータ送信における実効スループットが向上することになる。
【0059】
上記時刻t7から開始されたデータ送受信は時刻t8において終了する。これに応じて、時刻t8から或る一定時間を経過した時点t9からt10の期間において、端末局200はAckを送信し、基地局100は当該Ackを受信する。
【0060】
また、ここでは、送信対象データとして複数のフレーム(パケット)が発生した場合を想定している。これに応じて、図6では、上記時刻t7からt10までのデータとAckの送受信の後において、順次、フレーム単位のデータとAckの送受信が実行されている状態を示している。時刻t11からt14の期間は、最後のデータとAckの送受信を示している。
【0061】
[処理手順例]
図7のフローチャートは、第2の実施形態におけるビームチルト角の算出に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。なお、この図に示す処理は、1つの端末局200に対応してビームチルト角の算出を行うためのものとなる。したがって、図7に示す処理は、通信セル10内において基地局100と接続が確立されているすべての端末局200ごとに行われることになる。
【0062】
基地局100は、1つの端末局200に対応するビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、ステップS301からS304の処理を実行する。なお、ステップS301からS304の処理は、図5におけるステップS102からS105と同様となる。
【0063】
上記ステップS301からS304の処理の後、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶させる(ステップS305)。この際、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角に、今回のビームチルト角算出のために測定用信号を送信した端末局200のアドレスと対応付けて記憶させる。
【0064】
また、端末局200は、基地局100からの測定用信号の送信に応じて、ステップS401からS403の処理を実行する。なお、ステップS401からS403の処理は、図5におけるステップS201からS203と同様となる。
【0065】
図8のフローチャートは、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100において、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データが発生するのを待機している(ステップS501−NO)。そして、送信対象データが発生すると(ステップS501−YES)、無線部103−1〜103−Nは、キャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS502−NO)。そして、アイドル状態であることが検出されると(ステップS502−YES)、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの宛先である端末局200のアドレスに対応付けられているビームチルト角を記憶部107から読み出す(ステップS503)。次に、ビームチルト角設定部109は、読み出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する(ステップS504)。このために、ビームチルト角設定部109は、位相変換部102−1〜102−Nの各々においてしかるべき位相シフト量が設定されるように制御する。
【0066】
次に、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データを端末局200に対してフレーム単位で送信し(ステップS505)、この後に、端末局200から送信されるAckの受信に対応した所定の処理を実行する(ステップS506)。
無線部103−1〜103−Nは、上記データ送信(ステップS505)とAck受信対応処理(ステップS506)を終了すると、すべての送信対象データ(フレーム)の送信を終了したか否かについて判定する(ステップS507)。ここで、送信していない送信対象データが未だ残っている場合には(ステップS507−NO)、上記ステップS505に戻ることにより、データ送信を再度実行する。そして、送信対象データをすべて送信すると(ステップS507−YES)、ステップS102に戻る。
【0067】
また、端末局200において、無線部202は、ステップS505により基地局100から送信されたデータを受信する(ステップS601)。そして、このデータの受信が終了するのに応じて基地局100にAckを送信する(ステップS602)。
このように第2実施形態では、端末局200ごとに対応するビームチルト角を算出して記憶することとしている。そして、以降において基地局100から端末局200にデータを送信する際には、記憶されたビームチルト角を読み出してアンテナ101−1〜101−Nに設定する。したがって、第2実施形態においては、送信対象データが発生するたびに測定用信号の送信からビームチルト角算出までの一連の手順を実行する必要がない。これにより、実効スループットのさらなる向上が期待される。
【0068】
<第3実施形態>
[基地局と端末局の通信手順例]
続いて、第3実施形態について説明する。なお、第3の実施形態における通信システム、基地局100および端末局200の構成は、それぞれ、図1、図2および図3と同様となる。
【0069】
図9のタイミングチャートは、第3の実施形態における基地局100と端末局200の間での通信手順例を示している。なお、第3の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、ビームチルト角を算出して記憶するための動作とデータ送受信とはそれぞれ個別の機会で行われる。そのうえで、第3実施形態においては、端末局200ごとにビームチルト角を算出するのではなく、通信セル10における端末局200に共通のビームチルト角を算出し、これを記憶する。
【0070】
基地局100は、ビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、測定用信号送信のためのキャリアセンスをランダムな時間間隔により実行する。そして、時刻t0において実行したキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたものとする。
これに応じて、基地局100は、時刻t0から一定時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。第3実施形態において、基地局100は、測定用信号を送信するに際して、通信セル10内のすべての端末局200に対してマルチキャストによる送信を行う。
【0071】
これにより、測定用信号は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3のそれぞれにて受信される。これに応じて、同じ時刻t1からt2までの期間において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、受信した測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0072】
そして、伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、例えば第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。第2端末局200−2は、時刻t4から或る時間を経過した時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。第3端末局200−3は、時刻t6から或る時間を経過した時刻t7からt8の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。
【0073】
基地局100は、上記時刻t3からt8の期間において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3から送信された特性通知信号を受信する。そして、基地局100のビームチルト角算出部108は、このように受信した特性通知信号から取得された伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。
【0074】
第3の実施形態において、ビームチルト角算出部108は以下のようにビームチルト角を算出する。ビームチルト角算出部108は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3ごとに、ビームチルト角ごとのSNRまたは伝送容量を算出する。そして、第1端末局200−1と第2端末局200−2と第3端末局200−3との間で共通にSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角θを算出結果とするものである。ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶する。
【0075】
ここで、上記のようにビームチルト角を算出して記憶させた後の或るタイミングで、第1端末局200−1を宛先とする送信対象データが発生したものとする。これに応じて、基地局100はキャリアセンスを実行する。そして、図9の時刻t9として示すタイミングで実行したキャリアセンスによりアイドル状態であることが検出されたとする。これに応じて、基地局100は、データ送信開始タイミングである時刻t11に至る前の時刻t10のタイミングで、記憶部107に記憶されているビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0076】
次に、基地局100は、上記時刻t11のタイミングにおいて端末局200−1に対する送信対象データの送信を開始する。これに応じて、端末局200は同じ時刻t11からデータの受信を開始する。このときには、時刻t11より前の時刻t10のタイミングで、最適とされるビームチルト角が設定された状態にある。したがって、時刻t11以降のデータ送信における実効スループットが向上する。
上記時刻t11から開始されたデータ送受信は時刻t12において終了する。これに応じて、時刻t12から或る一定時間を経過した時点t13からt14の期間において、端末局200はAckを送信し、基地局100は当該Ackを受信する。
【0077】
また、ここでは、時刻t14から或る時間を経過したタイミングで、第2端末局200−2を宛先とする送信対象データが発生した場合が示されている。これに応じて、基地局100と第2端末局200−2は、時刻t15から時刻t20までの期間において示すように、基地局100と第2端末局200−2との間でのデータとAckの送受信が行われる。なお、第3の実施形態において、時刻t16からt17の期間において設定されるビームチルト角は、先の時刻t10からt11の期間と同じとなるものである。
【0078】
[処理手順例]
図10のフローチャートは、第3の実施形態におけるビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100は、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、ステップS701からS705の処理を実行する。このステップS701からS705の処理は、図7におけるステップS301からS305の処理と同様となる。
【0079】
ただし、ステップS702における測定用信号送信部105は、前述のように、通信セル10内において基地局100と接続が確立されているすべての端末局200を宛先として、マルチキャストで測定用信号を送信する。
【0080】
また、ステップS704におけるビームチルト角算出部108は、前述のように、基地局100と接続が確立されているすべての端末局200の間で共通にSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する。
また、端末局200が実行するステップS801からS803の処理は、図7のステップS401からS403の処理と同様となる。
なお、第3の実施形態において、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例としては、先の図8と同様でよいことから説明を省略する。
【0081】
<第4の実施形態>
[基地局の構成]
続いて第4の実施形態について説明する。第4の実施形態における通信システムと端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様である。しかし、第4の実施形態の基地局100の構成は以下のようになる。
【0082】
図11は第4の実施形態における基地局100の構成例を示している。なお、この図11において、図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。この図に示す基地局100において、無線部103は、N個のアンテナ101−1〜101−Nおよび位相変換部102−1〜102−Nに対して共通となる1つのみを備える。
【0083】
なお、アンテナ101−1〜101−Nについて、各々を区別する必要がない場合にはアンテナ101と記載する。また、位相変換部102−1〜102−Nについて、各々を区別する必要がない場合には位相変換部102と記載する。
【0084】
また、図11における基地局100においては、スイッチ110−1〜110−Nとアンテナ選択部111がさらに備えられる。スイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103との間の信号経路に挿入されるように備えられる。スイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103との間の信号経路の接続(オン)、遮断(オフ)を切り替える。なお、以降の説明においてスイッチ110−1〜110−Nの各々を区別する必要がない場合には、スイッチ110と記載する。
【0085】
アンテナ選択部111は、各スイッチ110−1〜110−Nのオンオフを個別に制御する。なお、スイッチ110をオンに切り替えるということは、そのスイッチ110に対応するアンテナ101が有効化されることを意味する。これに対して、スイッチ110をオフに切り替えるということは、そのスイッチ110に対応するアンテナ101が無効化されることを意味する。
【0086】
[基地局と端末局の通信手順例]
上記図11に示した構成では、N個のアンテナ101−1〜101−Nに対して無線部103は1つで共通とされている。この場合、これまでの実施形態のように、アンテナ101−1〜101−Nの各々による受信信号は無線部103により合成される。このために、上記各実施形態と同じように、アンテナ101−1〜101−Nごとに対応する伝搬チャネル特性(先の式(1)における行列H11の各要素)の情報を同時に取得することができない。この場合、ビームチルト角も算出できないことになる。そこで、第4の実施形態においては、以下のように、アンテナ101−1〜101−Nごとに対応する伝搬チャネル特性を取得することで、ビームチルト角算出を可能とする。
【0087】
図12のタイミングチャートは、基地局100と1つの端末局200との間での、ビームチルト角算出と記憶のための通信手順例を示している。基地局100は、或る1つの端末局200との間のビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、キャリアセンスを実行する。そして、時刻t0におけるキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたとする。
【0088】
これに応じて、基地局100は、アンテナ101−1〜101−Nのうち、アンテナ101−1のみを選択して有効化する。この状態のもと、基地局100は、時刻t0から一定時間経過した時刻t1からt2の期間において第1アンテナ対応測定用信号を送信する。第1アンテナ対応測定用信号とは、アンテナ101−1〜101−Nのうちアンテナ101−1のみを有効化して送信した測定用信号のことである。端末局200は、この時刻t1からt2の期間において受信した第1測定用信号を利用して、伝搬チャネル特性を測定する。このように測定された伝搬チャネル特性は、アンテナ101−1のみに対応して特性を示すものとなる。
【0089】
次に、端末局200は、時刻t3からt5の期間において、上記のように測定した伝搬チャネル特性を通知するための第1アンテナ対応特性通知信号を生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、同じ時刻t3からt5の期間において第1アンテナ対応特性通知信号を受信し、第1アンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。
【0090】
次に、基地局100は、時刻t5からt6の期間においてアンテナ101−2のみを選択して有効化した状態で第2アンテナ対応測定用信号を送信する。端末局200は、この時刻t5からt6の期間において受信される第2アンテナ対応測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0091】
次に、端末局200は、時刻t7からt8の期間において、上記のように測定した伝搬チャネル特性を通知するための第2アンテナ対応特性通知信号を生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、同じ時刻t7からt8の期間において第2アンテナ対応特性通知信号を受信し、第2アンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。
【0092】
以降、同様に、基地局100は、アンテナ101−3〜101−Nごとに対応する第3〜第Nアンテナ対応測定用信号を順次送信する。端末局200は、この第3〜第Nアンテナ対応測定用信号を受信するごとに伝搬チャネル特性を測定し、第3〜第Nアンテナ対応特性通知信号を逐次生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、第3〜第Nアンテナ対応特性通知信号を逐次受信し、第3〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。なお、最後のアンテナ101−Nに対応する第Nアンテナ対応測定用信号の送信から第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性取得までの動作は、時刻t9からt12の期間において示されている。
【0093】
そして、基地局100におけるビームチルト角算出部108は、時刻t13からt14の期間において、上記のように記憶部107に記憶された第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。このように算出されるビームチルト角は、第2の実施形態と同様に1つの端末局200に対応するものとなる。通信セル10におけるすべての端末局200のビームチルト角を記憶するには、上記図12に示す通信手順を、通信セル10における端末局200ごとに実行することになる。
【0094】
[処理手順例]
図13のフローチャートは、第4の実施形態におけるビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。なお、図13の説明にあたり、N個のアンテナの各々については、第1アンテナ101−1〜第Nアンテナ101−Nのように符号に対応する番号を付した表記とする。
【0095】
基地局100において無線部103は、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じてキャリアセンスを実行し、アイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS901−NO)。
【0096】
アイドル状態が検出されるのに応じて(ステップS901−YES)、アンテナ選択部111は、アンテナ101−1〜101−Nの番号に対応する変数nに1を代入する(ステップS902)。次に、アンテナ選択部111は、第nアンテナ101−nのみを選択して有効化する(ステップS903)。つまり、アンテナ選択部111は、第nアンテナ101−nに対応するスイッチ110−nのみをオンとし、これ以外はオフとするようにスイッチ110−1〜110−Nに対する制御を実行する。
【0097】
上記の状態のもとで、測定用信号送信部105は、ビームチルト角算出対象の端末局200を宛先として、ユニキャストにより第nアンテナ対応測定用信号を送信する(ステップS904)。次に、伝搬チャネル特性取得部106は、上記第nアンテナ対応測定用信号の送信に応じて受信された第nアンテナ対応特性通知信号から第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS905)。
【0098】
次に、測定用信号送信部105は、変数nについてアンテナ101の数に対応するN以上であるか否かについて判定する(ステップS906)。ここで、変数nがN未満である場合には(ステップS906−NO)、変数nをインクリメントして(ステップS907)、ステップS903に戻る。これにより、次のアンテナに対応する伝搬チャネル特性を取得するための処理が実行される。
【0099】
そして、アンテナ101−1〜101−Nのすべてに対応する第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を取得し終えたことにより、変数nがN以上となる(ステップS906−YES)。これに応じて、ビームチルト角算出部108は、記憶部107に記憶される第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出する(ステップS908)。そして、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角の情報を端末局200のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS909)。
【0100】
また、端末局200において、伝搬チャネル特性測定部203は、先のステップS904により送信された第nアンテナ対応測定用信号が受信されるのを待機している(ステップS1001−NO)。そして、第nアンテナ対応測定用信号が受信されるのに応じて(ステップS1001−YES)、伝搬チャネル特性測定部203は、第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を測定する(ステップS1002)。
【0101】
次に、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204に記憶された第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を通知するための第nアンテナ対応特性通知信号を生成し、基地局100に送信する(ステップS1003)。
なお、第4の実施形態において、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する動作および処理手順例としては、先の図6や図8と同様でよいことから説明を省略する。
【0102】
<第5の実施形態>
[基地局の構成]
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態における通信システムおよび端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様となる。これに対して、第5の実施形態における基地局100の構成は、図14に示すものとなる。なお、図14において図2および図11と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0103】
図14に示す基地局100におけるスイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103−1〜103−Nとの間に挿入されるように備えられる。
【0104】
また、第5の実施形態におけるビームチルト角算出部108は、アンテナ101−1〜101−Nのうちから2以上を選択して成るアンテナ組合せパターンごとにSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する。そして、これらのビームチルト角のうちから、さらにSNRまたは伝送容量が最大となるアンテナ組合せとこれに対応するビームチルト角を算出結果とする。そして、ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角とアンテナ組合せを示す情報をアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報として生成する。そして、このアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報を、対応の端末局200のアドレスに対応付けて記憶部107に記憶させる。
【0105】
また、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの発生に応じて、宛先の端末局200に対応付けられたアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報に基づいて、アンテナ組合とビームチルト角の設定を行う。
【0106】
つまり、ビームチルト角設定部109は、アンテナ組合せ対応ビームチルト角情報が示すアンテナ組合せとなるように、スイッチ110−1〜110−Nを個別にオンオフ制御する。このオンオフ制御によりオンとされたスイッチ110に対応して有効化されたアンテナ101により上記のアンテナ組合せが形成される。次に、ビームチルト角設定部109は、アンテナ組合せ対応ビームチルト角情報が示すビームチルト角となるように、有効化されたアンテナ101ごとに対応する位相変換部102の位相を指定する。
このように、第5実施形態においては、アンテナ組合せを併用してビームチルト角が設定される。これにより、さらなる実効スループットの向上を図ることが可能となる。
【0107】
なお、第3の実施形態におけるビームチルト角を算出して記憶するための基地局100と端末局200の通信手順と、データ送受信に対応する基地局100と端末局200の通信手順は、図6と同様でよい。
【0108】
[処理手順例]
図15のフローチャートは、ビームチルト角を算出と記憶のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100が実行するステップS1101からS1103の処理は、図7におけるステップS301からS303の処理と同様となる。
【0109】
次に、基地局100におけるビームチルト角算出部108は、前述のように、アンテナ組合せごとに、SNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する(ステップS1104)。次に、ビームチルト角算出部108は、これらのアンテナ組合せごとに算出されたビームチルト角のSNRまたは伝送容量を比較する。ビームチルト角算出部108は、この比較結果から、上記SNRまたは伝送容量が最大となるアンテナ組合せと、当該アンテナ組合せに対応するビームチルト角から成るアンテナ組合せ対応ビームチルト角を決定する(ステップS1105)。そして、ビームチルト角算出部108は、このように決定されたアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報を、端末局200のアドレスに対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS1106)。
また、端末局200は、基地局100からの測定用信号の送信に応じて、ステップS1201からS1203の処理を実行する。なお、ステップS1201からS1203の処理は、図7におけるステップS401からS403と同様となる。
【0110】
図16のフローチャートは、第5の実施形態においてデータ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100が実行するステップS1301およびステップS1302の処理は、図8のステップS501とS502と同様となる。
【0111】
そして、アイドル状態であることが検出されるのに応じて(ステップS1302−YES)、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの宛先である端末局200のアドレスに対応付けられているアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報を記憶部107から読み出す(ステップS1303)。
【0112】
次に、ビームチルト角設定部109は、読み出したアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報が示すアンテナ組合せパターンが形成されるように、スイッチ110−1〜110−Nの各々をオンまたはオフに設定する(ステップS1304)。次に、ビームチルト角設定部109は、形成されたアンテナ組合せパターンのもとで、読み出したアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報が示すビームチルト角を設定する(ステップS1305)。このために、ビームチルト角設定部109は、スイッチ110−1〜110−Nに対するオンオフ制御により有効化されたアンテナ101に対応する位相変換部102の各々に対してしかるべき位相シフト量を設定する。
【0113】
また、上記ステップS1305に続くステップS1306からS1308の処理は、図8のステップS505からS507と同様となる。また、端末局200が実行するステップS1401およびS1402の処理は、図8のステップS601およびS602と同様となる。
【0114】
<第6の実施形態>
[基地局の構成]
次に、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態における通信システムおよび端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様となる。ただし、基地局100の構成は、図17に示すものとなる。なお、図17において図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0115】
図17に示す基地局100は、図2の構成に対して送信予告信号送信部113をさらに備えて構成される。送信予告信号送信部113は、通信セル10における端末局200に対してブロードキャストで送信予告信号を送信する。送信予告信号は、基地局100がこれよりデータ送信を開始することを、宛先の端末局200の識別子(例えばアドレス)とともに通知するための信号である。
【0116】
なお、第6の実施形態におけるビームチルト角算出と記憶のために基地局100と端末局200が実行する通信手順は、図6の時刻t0からt4における手順と同様でよい。また、そのための処理手順も図7と同様でよい。
【0117】
[基地局と端末局の通信手順例]
図18のタイミングチャートは、第6の実施形態における基地局100と端末局200の間で実行されるデータ送受信のための通信手順例を示している。
【0118】
基地局100は、第1端末局200−2を宛先とする送信対象データの発生に応じてキャリアセンスを実行する。そして、時刻t0においてアイドル状態が検出されたとする。これに応じて基地局100は、時刻t0から一定時間経過した時刻t1からt2の期間により、送信予告信号をブロードキャストで送信する。この送信予告信号は、これより第1端末局200−2を宛先とするデータ送信を開始することを通知するものとなる。
【0119】
この送信予告信号は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3の各々が受信する。これらのうち、送信予告信号により自己が宛先として通知されていない第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、送信予告信号を受信した時刻t1から送信待機の状態を設定する。送信待機の状態は、データ送信を実行すること無く待機する状態である。
【0120】
このように第2端末局200−2および第3端末局200−3において送信が待機されている状態のもと、基地局100は、時刻t3において第1端末局200−1に対応して記憶部107に記憶されているビームチルト角を読み出す。そして、基地局100は、この読み出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0121】
次に、基地局100は、時刻t4から時刻t5の期間において送信対象データを送信する。第1端末局200−1は、同じ時刻t4から時刻t5におけるデータの受信を終了すると、時刻t6から時刻t7の期間によりAckを送信する。このように送信されたAckは、同じ時刻t6からt7の期間において、基地局100により受信される。
【0122】
上記時刻t4からt7までの基地局100と第1端末局200−1との間のデータとAckの送受信が行われているとき、残る第2端末局200−2および第3端末局200−3は送信待機の状態にある。これにより、時刻t4からt7におけるコリジョンは確実に回避され、さらなる実効スループットの向上を図ることが可能になる。
【0123】
この図18では、上記時刻t0からt7までの期間によるデータ送信に続き、さらに同様の通信手順を繰り返して基地局100から第1端末局200−1へのデータ送信を実行している。また、図18において、時刻t8から時刻t15の期間において実行される、時刻t0からt7の期間と同様の通信手順は、上記のように基地局100から第1端末局200−1へのデータ送信が繰り返し実行されていることを示している。
【0124】
なお、第6の実施形態においては、キャリアセンス実行時とともに送信予告信号の送信時においてもビームチルト角が初期状態にリセットされる。これにより、送信予告信号は通信セル10においてほぼ均等に伝搬されることになる。
【0125】
図19のフローチャートは、第6の実施形態においてデータ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。この図において、基地局100が実行するステップS1501およびS1502は、図8のステップS501およびS502と同様である。
【0126】
そして、アイドル状態であることが検出されるのに応じて(ステップS1502−YES)、基地局100における送信予告信号送信部113は、以下の処理を実行する。つまり、送信予告信号送信部113は、送信対象データの宛先となる端末局200のアドレスを含む送信予告信号を生成し、これをブロードキャストにより送信する(ステップS1503)。続く、ステップS1505からS1508の処理は、図8のステップS504からS507と同様となる。
また、端末局200がデータ送信に応じて実行するステップS1601およびS1602の処理は、図8のステップS601およびS602と同様となる。
【0127】
図20のフローチャートは、端末局200がステップS1503(図19)による送信予告信号の送信に応じて実行する処理手順例である。端末局200における無線部202は、基地局100から送信された送信予告信号が受信されるのを待機している(ステップS1605−NO)。
【0128】
そして、送信予告信号が受信されると(ステップS1605−YES)、無線部202は、送信予告信号において示される宛先が自己のものであるか否かについて判定する(ステップS1606)。宛先が自己のものでない場合(ステップS1606−NO)、無線部202は、送信待機の状態を設定する(ステップS1607)。これに対して、宛先が自己のものである場合(ステップS1606−YES)、無線部202は、これまで送信待機の状態が設定されていた場合にはこれを解除する(ステップS1608)。
【0129】
<第7の実施形態>
[通信システムの構成]
図21は、第7の実施形態に対応する通信システムの構成例を示している。この図21において、まず、図1に示した通信セル10については、通信セル10−1として示している。また、図21において、図1に示した基地局100については第1基地局100−1として示している。また、図21において、図1に示した端末局200−1、200−2、200−3については、それぞれ、第1端末局200−1、第2端末局200−2、第3端末局200−3として示している。
【0130】
そのうえで、第7の実施形態においては、もう1つの通信セル10−2が形成された状態が示されている。通信セル10−2は、第2基地局100−2の通信可能範囲である。そして、通信セル10−2には第4端末局200−4が存在する。この第4端末局200−4は第2基地局100−2と接続が確立されている。
【0131】
通信セル10−2は、通信セル10−1と一部が重複するように、通信セル10−1に近接して形成されている。これに伴って、図21においては、第1端末局200−1と第4端末局200−4が、通信セル10−1と10−2の重複領域に存在することとなった状態が示されている。
【0132】
上記図1に示す状態では、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信時において実効スループットが低下する可能性がある。例えば、第1基地局100−1と第1端末局200−1が通信を実行しているときに、第2基地局100−2と第4端末局200−4も通信を実行していたとする。このとき、第1端末局200−1と第4端末局200−4がともに通信セル10−1と10−2の重複領域に位置していることで、電波の干渉などによる障害が発生しやすくなる。これが実効スループットを低下させる原因となる。
【0133】
そこで、第6の実施形態においては、第1基地局100−1と第1端末局200−1と通信を実行するにあたり、第4端末局200−4による通信の影響をできるだけ排除して実効スループットが向上されるように、以下の構成を採る。
【0134】
[基地局と端末局の通信手順例]
図22のタイミングチャートは、第6の実施形態における第1基地局100−1、第1端末局200−1および第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。第1基地局100−1において、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を算出すべきタイミングに至ったとする。
【0135】
これに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行し、時刻t0においてアイドル状態を検出する。次に、第1基地局100−1は、時刻t1からt2の期間において測定用信号を送信する。第6の実施形態において、この測定用信号は、第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。
【0136】
第4端末局200−4は、上記時刻t1からt2の期間において受信した測定用信号を利用して測定を行う。次に、第4端末局200−4は、時刻t3からt4の期間において、特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第1基地局100−1におけるビームチルト角算出部108は、同じ時刻t3からt4の期間において受信される特性通知信号から取得した伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、これを記憶部107に記憶する。
【0137】
これまでの実施形態におけるビームチルト角算出部108は、SNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出していた。これに対して、第6の実施形態のビームチルト角算出部108は、第4端末局200−4から取得した伝搬チャネル特性に基づいて、SNRまたは伝送容量が最小となるビームチルト角を算出する。そして、ビームチルト角算出部108は、このように求めたビームチルト角を、第1端末局200−1のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶する。このように、第6の実施形態において上記のように求められたビームチルト角は、第1端末局200−1に対応するものとして扱われる。
【0138】
そして、上記のように第1端末局200−1に対応するビームチルト角が記憶部107に記憶された後の或るタイミングで、第1基地局100−1において、第1基地局100−1を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第1基地局100−1は、時刻t5からt8として示すようにキャリアセンスを実行してアイドル状態を検出する。続いて第1基地局100−1は、時刻t6においてビームチルト角を設定したうえで、時刻t7からt8の期間において第1端末局200−1にデータを送信する。第1端末局200−1は、送信されたデータを受信し終えると、時刻t9からt10の期間においてAckを送信する。このときには、第4端末局200−4のSNRまたは伝送容量が最小となるビームチルト角が設定されている。これにより、時刻t6からt10までの期間において第4端末局200−4が通信を実行していたとしても、これによる干渉などが抑制されることになり、実効スループットの向上が図られる。
【0139】
以降、第1基地局100−1と第1端末局200−1は、送信対象データとして残るデータ(フレーム)とAckの送受信を繰り返し実行する。例えば図における時刻t11からt15は、送信対象データにおける最後のデータの送受信とAckの送受信のための手順である。
【0140】
なお、第7の実施形態において、第1基地局100−1の構成は、図2と同様でよい。また、第1端末局200−1と第4端末局200−4の構成は、図3と同様でよい。ただし、前述のようにビームチルト角算出部108は、SNRまたは伝送容量が最小のビームチルト角を算出する。また、第7の実施形態において、ビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順は、図7と同様でよい。また、第7の実施形態においてデータ送受信のために基地局100、第1端末局200−1および第4端末局200−4が実行する処理手順は図8と同様でよい。
【0141】
<第8の実施形態>
[基地局と端末局との通信手順]
次に、第8の実施形態について説明する。第8の実施形態において、通信システムの構成は、図21と同様である場合を想定する。
【0142】
図23のタイミングチャートは、第8の実施形態における第1基地局100−1と、第1端末局200−1と、第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。第1基地局100−1において、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を算出すべきタイミングに至ったとする。
【0143】
これに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行し、時刻t0においてアイドル状態を検出する。次に、第1基地局100−1は、時刻t1からt2の期間において測定用信号を送信する。第8の実施形態において、この測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4をそれぞれ宛先として指定して、ユニキャストにより送信される。
【0144】
これにより、測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれにて受信される。時刻t1からt2までの期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、受信した測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0145】
そして、伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1と第4端末局200−4は、コリジョンが生じないようにそれぞれが異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第4端末局200−4は、時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。
【0146】
基地局100は、上記時刻t3からt6の期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信された特性通知信号を受信する。そして、基地局100のビームチルト角算出部108は、このように受信した特性通知信号から取得した伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。
【0147】
第8の実施形態において、ビームチルト角算出部108は以下のようにビームチルト角を算出する。ビームチルト角算出部108は、まず、第4端末局200−4から取得した伝搬チャネル特性を利用して、SNRまたは伝送容量が予め定めた一定値以下となるビームチルト角を算出する。これらのビームチルト角は、最終的に決定されるビームチルト角の候補となるので、ビームチルト角候補と称する。
【0148】
次に、ビームチルト角算出部108は、第1端末局200−1から取得した伝搬チャネル特性を利用して、上記ビームチルト角候補ごとのSNRまたは伝送容量を求める。そして、ビームチルト角算出部108は、上記のように求められたビームチルト角候補ごとのSNRまたは伝送容量のうちで最大値に対応するビームチルト角を算出結果として決定する。
【0149】
上記のように算出されるビームチルト角は、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信に関しては良好な性能を提供し、一方、第4端末局200−1の通信による通信セル10−2からの影響を有効に排除する性質を有する。これにより、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信における実効スループットの向上が図られる。
【0150】
[処理手順例]
図24のフローチャートは、第8の実施形態において第1基地局100−1がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示している。なお、第8の実施形態における第1基地局100−1は、図2と同様の構成である場合を想定する。
【0151】
第1基地局100−1は、第1端末局200−1に対応するビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、キャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS1701−NO)。そして、アイドル状態が検出されると(ステップS1701−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先として指定してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1702)。
【0152】
次に、伝搬チャネル特性取得部106は、上記測定用信号の送信に応答して第1端末局200−1と第4端末局200−4が送信してきた特性通知信号から、それぞれ、伝搬チャネル特性を取得する(ステップS1703)。
【0153】
次に、ビームチルト角算出部108は、前述のようにビームチルト角候補を算出し(ステップS1704)、記憶部107に記憶させる(ステップS1705)。次に、ビームチルト角算出部108は、記憶されたビームチルト角候補から、前述のように、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を決定し、これを算出結果とする(ステップS1706)。ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角の情報を第1端末局200−1のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS1707)。
【0154】
なお、測定用信号の送信に応答した第1端末局200−1と第4端末局200−4の処理手順例は、図7のステップS401からS403と同様でよい。また、データ送受信のために第1基地局100−1と第1端末局200−1が実行する処理手順例は図8と同様でよい。
【0155】
<第9の実施形態>
続いて第9の実施形態について説明する。第9の実施形態において、通信システムの構成は、図21と同様である場合を想定する。
図25は、第9の実施形態における基地局100(第1基地局100−1と第2基地局100−2)の構成例を示している。第9の実施形態において、第1基地局100−1と第2基地局100−2は、同図に示す構成を共通に有するものとする。なお、この図において図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0156】
図25の基地局100においては、図2に示した構成に対して、通知信号転送部114とビームチルト角送受信部115がさらに備えられる。通知信号転送部114は、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信されてくる特性通知信号を、第1基地局100−1に対して転送させる。
【0157】
つまり、通知信号転送部114は、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する際に動作する部位となる。一方、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する場合、ビームチルト角算出と設定に関する機能部は動作させる必要がない。つまり、伝搬チャネル特性取得部106、記憶部107、ビームチルト角算出部108およびビームチルト角設定部109は省略されてよい。
【0158】
第9の実施形態において、ビームチルト角算出部108は、第1基地局100−1に対応する第1ビームチルト角と、第2基地局100−2に対応する第2ビームチルト角を算出する。同図に示す基地局100が第1基地局100−1として機能する場合、ビームチルト角送受信部115は、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に送信する。また、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する場合、ビームチルト角送受信部115は、第2ビームチルト角を受信して記憶部107に記憶させる。
【0159】
図26と図27は、第9の実施形態における第1基地局100−1と、第1端末局200−1と、第2基地局100−2と、第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。なお、図26と図27の通信手順は時間的に連続しているが、図26と図27の時間的つながりを明確にするために、図26と図27とで時刻t14からt15の期間を重複して示している。
【0160】
ここで、ビームチルト角を算出して記憶するためのタイミングに至るのに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行する。そして、このキャリアセンスにより時刻t0においてアイドル状態であることが検出されたものとする。これに応じて、第1基地局100−1は、例えば時刻t0から或る時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。この測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。
【0161】
上記測定用信号の受信に応じて、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、同じ時刻t1からt2の期間において伝搬チャネル特性を測定する。この伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第4端末局200−4は、時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。
第1基地局100−1は、上記時刻t3からt6において受信した特性通知信号の各々から伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶しておくようにする。
【0162】
次に、上記測定通知信号の送受信が終了した後の時刻t7からt8の期間において、第2基地局100−2は測定用信号を生成して送信する。この測定用信号も、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。なお、この第2基地局100−2は、例えば同じ通信セル10−2の第4端末局200−4が第1基地局100−1を宛先として送信した特性通知信号の検知に応じて、この測定用信号を送信すべきタイミングであるか否かを判断することができる。
【0163】
上記時刻t7からt8の期間における測定用信号の受信に応じて、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、同じ時刻t7からt8の期間において伝搬チャネル特性を測定する。そして、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を生成して送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t9からt10の期間において特性通知信号を生成して第2基地局100−2に送信する。第4端末局200−4は、時刻t11からt12の期間において特性通知信号を生成して第2基地局100−2に送信する。
【0164】
第2基地局100−2は、上記時刻t9からt12の期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信された特性通知信号を受信する。そして、時刻t12から或る時間を経過した時刻t13からt14の期間において、第2基地局100−2は、受信したこれら特性通知信号を第1基地局100−1に転送する。第1基地局100−1は、同じ時刻t13からt14の期間において、これらの特性通知信号を受信し、伝搬チャネル特性として取得する。
【0165】
時刻t14に至った段階の第1基地局100−1は、以下の4つの電波伝搬路の伝搬チャネル特性を取得していることになる。つまり、第1基地局100−1と第1端末局200−1間の電波伝搬路、第1基地局100−1と第4端末局200−4間の電波伝搬路、第2基地局100−2と第1端末局200−1間の電波伝搬路、および、第2基地局100−2と第4端末局200−4間の電波伝搬路の各伝搬チャネル特性を取得している。
【0166】
そこで、第8の実施形態におけるビームチルト角算出部108は、時刻t14から時刻t15の期間において、以下のようにビームチルト角を算出する。つまり、ビームチルト角算出部108は、下記の式(5)を適用して、通信セル10−1と10−2の総合伝送容量Ctotalを算出する。
【0167】
【数5】
【0168】
上記式(5)において、C1は通信セル10−1の伝送容量を示す。C2は通信セル10−2の伝送容量を示す。T1は第1基地局100−1におけるビームチルト角の制御を行うための行列である。T2は、第2基地局100−2におけるビームチルト角の制御を行うための行列である。
【0169】
ビームチルト角算出部108は、上記式(5)を利用して、第1基地局100−1と第2基地局100−2の各々のビームチルト角の組合せごとの総合伝送容量Ctotalを算出する。そして、このように算出した総合伝送容量Ctotalにおける最大値を求めるのに使用した、第1基地局100−1の第1ビームチルト角と第2基地局100−2の第2ビームチルト角の組合せを算出結果とするものである。なお、ビームチルト角算出部108は、上記第1ビームチルト角と第2ビームチルト角のうち、第1ビームチルト角のみを記憶部107に記憶させればよい。
【0170】
そして、第1基地局100−1は、図26に示すように、上記第1、第2ビームチルト角が算出された直後の時刻t15からt16の期間において、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に送信する。同じ時刻t15からt16の期間において、第2基地局100−2は、送信された第2ビームチルト角を受信し、これを記憶部107に記憶させる。
【0171】
そして、上記のように第1基地局100−1と第2基地局100−2により第1、第2ビームチルト角の各々が記憶された後の或るタイミングで、第1基地局100−1において、第1端末局200−1を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第1基地局100−1と第1端末局200−1は、時刻t17からt22の期間において示すように、データ送受信に応じた通信を実行する。この際、第1基地局100−1は、時刻t18からt19の期間において、第1ビームチルト角を設定する。
【0172】
一方、第2基地局100−2においても、第4端末局200−4を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第2基地局100−2と第4端末局200−4は、時刻t23からt28の期間において示すように、データ送受信に応じた通信を実行する。この際、第2基地局100−2は、時刻t24からt25の期間において、第2ビームチルト角を設定する。
【0173】
ここで、上記時刻t17からt22の期間と、上記時刻t23からt28の期間には互いに重複する期間が存在する。これは、第1基地局100−1と第1端末局200−1の間でのデータ送受信と、第2基地局100−2と第4端末局200−4の間でのデータ送受信とが同時に実行されている期間が存在することを示している。
このように互いのデータ送受信が同時に行われているとしても、このときには、通信セル10−1において第1ビームチルト角が設定され、通信セル10−2において第2ビームチルト角が設定されている。これにより、通信セル10−1と通信セル10−2が近接しているのに係わらず、両者における通信状態が良好となるように維持される。これにより、通信セル10−1と通信セル10−2における通信の実効スループットの向上が図られる。
【0174】
[処理手順例]
図28のフローチャートは、第1基地局100−1がビームチルト角の算出と記憶に対応して実行する処理手順例を示している。第1基地局100−1において無線部103−1〜103−Nは、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じてキャリアセンスを実行し、アイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS1801−NO)。
【0175】
アイドル状態が検出されるのに応じて(ステップS1801−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1802)。第1端末局200−1と第4端末局200−4は、上記測定用信号の送信に応じて伝搬チャネル特性を測定し、特性通知信号を送信する。これらの特性通知信号は第1端末局200−1の無線部103−1〜103−Nにて受信される。そこで、伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対応する伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS1803)。
【0176】
また、第2基地局100−2は、図26の時刻t13からt14として示すように、第1端末局200−1と第4端末局200−4の特性通知信号を第1基地局100−1に送信する。これらの特性通知信号は第1端末局200−1の無線部103−1〜103−Nにて受信される。そこで、伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対応する伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS1804)。
【0177】
上記ステップS1804までの処理により、伝搬チャネル特性取得部106は、前述の4つの電波伝搬路の伝搬チャネル特性を取得したことになる。そこで、ビームチルト角算出部108は、これらの伝搬チャネル特性を利用して、前述のように、第1ビームチルト角と第2ビームチルト角を算出する(ステップS1805)。また、ビームチルト角算出部108は、第1のビームチルト角を記憶部107に記憶させる(ステップS1806)。また、ビームチルト角送受信部115は、算出された第2ビームチルト角を、第2基地局100−2に対して送信する(ステップS1807)。
【0178】
図29のフローチャートは、第2基地局100−2がビームチルト角の算出と記憶に対応して実行する処理手順例を示している。第2基地局100−1において無線部103−1〜103−Nは、自己の測定用信号の送信タイミング(図26の時刻t7)となるのを待機している(ステップS1901−NO)。例えば、第4端末局200−4による第1基地局100−1への特性通知信号の送信終了から一定時間を経過すると上記測定用信号の送信タイミングに至ったとして判定される。
【0179】
測定用信号の送信タイミングに至るのに応じて(ステップS1901−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1902)。第1端末局200−1と第4端末局200−4は、上記測定用信号の送信に応じて伝搬チャネル特性を測定し、特性通知信号を送信する。これらの特性通知信号は第2基地局100−2の無線部103−1〜103−Nにて受信される。
【0180】
第2基地局100−2において、通知信号転送部114は、上記のように受信された特性通知信号を無線部103−1〜103−Nにより第1基地局100−1に転送させる(ステップS1903)。
【0181】
上記のように特性通知信号を転送した後、第1基地局100−1は、第1、第2ビームチルト角を算出したうえで、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に対して送信してくる(図27の時刻t15からt16)。無線部103−1〜103−Nは、このように送信される第2ビームチルト角を受信し(ステップS1904)、記憶部107に記憶させる(ステップS1905)。
【0182】
なお、第1端末局200−1と第4端末局200−4における測定用信号の受信に応答した処理は、図7のステップS401からS403と同様でよい。また、第1基地局100−1と第2基地局100−2と第1端末局200−1と第4端末局200−4におけるデータ送受信のための処理は、図8と同様でよい。
【0183】
なお、図2、図3、図11、図14、図17および図25などにおける各部機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、本実施形態におけるビームチルト角の算出やデータ送受信を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0184】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0185】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0186】
10…通信セル, 20…ネットワーク, 100…基地局, 200…端末局, 101…アンテナ, 102…位相変換部, 103…無線部, 104…ネットワークインターフェース, 105…測定用信号送信部, 106…伝搬チャネル特性取得部, 107…記憶部, 108…ビームチルト角算出部, 109…ビームチルト角設定部, 110…スイッチ, 111…アンテナ選択部, 113…送信予告信号送信部, 114…通知信号転送部, 115…ビームチルト角送受信部, 200…端末局, 201…アンテナ, 202…無線部, 203…伝搬チャネル特性測定部, 204…記憶部, 205…伝搬チャネル特性通知部
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信方式として、IEEE802.11による無線LAN規格が知られている。一例として、IEEE802.11におけるIEEE802.11nでは、キャリア変調としてOFDMを採用するとともに1チャネルあたりの周波数帯域は20MHzである。
そのうえで、IEEE802.11nでは、MIMO(Multiple Input Multiple Output)によるマルチストリーミングやチャネルボンディングなどの技術を採用することで、伝送速度の高速化を図っている。これらの技術により実現される公称の最大伝送速度は600Mbpsである(非特許文献1参照)。
【0003】
なお、MIMOでは、送信側と受信側とでそれぞれ複数のアンテナが備えられる。そして、送信側は複数のアンテナで同時に異なるデータを送信し、受信側はこれらのデータを複数のアンテナで受信して合成する。これにより伝送速度を増加させるものである。
また、チャネルボンディングは、複数のチャネルを結合することにより帯域を拡大する技術である。具体的に、IEEE802.11nにおける1チャネルあたりの帯域は20MHzであるが、チャネルボンディングにより2つのチャネルを結合することで、通信のための帯域は40MHzとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】守倉正博、久保田周治、「改訂三版802.11高速無線LAN教科書」、インプレスR&D、2008年3月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状においては、上記IEEE802.11nの技術により実効スループットを十分に増加させることが難しい。これは以下のような理由による。現状において、基地局(例えば、無線LANルータ)についてはMIMOに対応した製品として複数のアンテナを備えたものが普及してきている。しかし、端末局側については、MIMOに対応したアンテナ数の増加が進んでいない場合が多い。端末局は、具体的にはノート型パーソナルコンピュータやタブレット端末などをはじめ携帯型のものが多くを占める。したがって、端末局については、小型化、低消費電力化やコストダウンなどが優先して考慮され、このためにアンテナ数を増加することが困難であるというのがその主たる理由の1つである。
【0006】
MIMOの方式では、送信側と受信側のアンテナ数が増加するのに応じて実効スループットは増加する。そのうえで、送信側と受信側のアンテナ数が異なる場合、MIMOにより拡大される帯域は少ない側のアンテナ数に応じて決まってしまう。このために、現実の環境において端末局のアンテナ数が少なければ、MIMOによる実効スループットの増加を期待することはできない。
【0007】
また、チャネルボンディングについては、予め割り当てられた有限数のチャネルから複数のチャネルを利用するので、近接の通信セルと同じチャネルを利用する可能性が高くなる。このように互いに近接する通信セル同士が同じチャネルを利用している場合には、結果的に複数の通信セルが共通のチャネルを共有することになるので、チャネルボンディングによる実効スループットの増加も期待できないことになる。このように、現状における無線LAN規格における技術では、実効スループットを有効に向上させることが難しい。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、無線通信における実効スループットを向上させる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、複数のアンテナを備えた無線通信装置が、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信ステップと、前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得ステップと、取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出ステップと、前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定ステップと、を有する無線通信方法である。
【0010】
本発明の一態様は、上記の無線通信方法であって、前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記伝搬チャネル特性に基づいてスループット若しくは受信電力が増加若しくは減少するように前記ビームチルト角を算出する。
【0011】
本発明の一態様は、上記の無線通信方法であって、前記無線通信装置が備える無線部の数が前記アンテナの数よりも少なく、前記測定用信号送信ステップにおいて、前記無線部と前記アンテナとの接続を切り替えながら、前記測定用信号を前記端末局に送信し、前記測定用信号送信ステップと前記伝搬チャネル特性取得ステップとを繰り返し実行することによって全ての前記複数のアンテナにおける前記伝搬チャネル特性を取得するステップと、前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記取得した複数の伝搬チャネル特性を統合して一つの伝搬チャネル特性を取得する。
【0012】
本発明の一態様は、複数のアンテナと、伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信部と、前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得部と、取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出部と、前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定部と、を備える無線通信装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、無線通信における実効スループットを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態における通信システムの構成例を示す図である。
【図2】第1の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図3】第1の実施形態における端末局の構成例を示す図である。
【図4】第1の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図5】第1の実施形態における基地局と端末局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図7】第2の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における基地局と端末局がデータ送受信のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図9】第3の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図10】第3の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図11】第4の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図12】第4の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図13】第4の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図14】第5の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図15】第5の実施形態における基地局と端末局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図16】第5の実施形態における基地局と端末局がデータ送受信のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図17】第6の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図18】第6の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図19】第6の実施形態における基地局と端末局が実行するビームチルト角算出とデータ送受信のための処理手順例を示すフローチャートである。
【図20】第6の実施形態における端末局が送信予告信号の受信に応じて実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図21】第7の実施形態における通信システムの構成例を示す図である。
【図22】第7の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図23】第8の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図24】第8の実施形態における第1基地局がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図25】第9の実施形態における基地局の構成例を示す図である。
【図26】第9の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図27】第9の実施形態における基地局と端末局の通信手順例を示すタイミングチャートである。
【図28】第9の実施形態における第1基地局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【図29】第9の実施形態における第2基地局が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
[無線通信システムの構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に対応する無線通信システムの構成例を示している。この図に示す無線通信システムは、基地局100、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3の各無線通信装置を備える。なお、以降において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3について特に区別しない場合には、端末局200と記載する。
【0016】
基地局100は、通信セル10内に位置する端末局200と無線による通信を行う。通信セル10は、基地局100から出力される電波が到達可能な範囲である。
また、基地局100は、ネットワーク20と接続される。ネットワーク20は、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)である。なお、基地局100とネットワーク20との接続は有線であっても無線であってもよい。このようにネットワーク20と接続されることで、基地局100は、ネットワーク20と端末局200との間の通信を中継することができる。
【0017】
端末局200は、自己が位置する通信セル10を形成している基地局100と無線により通信を行う装置である。基地局100と端末局200は、それぞれ、データを格納するパケットを所定構造のフレームに変換して送受信を行う。
なお、基地局100の具体例としては無線LANアクセスポイントを想定することができる。また、端末局200の具体例としては、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末装置、携帯電話、スマートフォンなどの無線LAN通信に対応した各種装置を想定することができる。
【0018】
[基地局の構成]
図2は、第1の実施形態における基地局100の構成例を示している。この図に示す基地局100は、アンテナ101−1〜101−N、位相変換部102−1〜102−N、無線部103−1〜103−N、ネットワークインターフェース104、測定用信号送信部105、伝搬チャネル特性取得部106、記憶部107、ビームチルト角算出部108およびビームチルト角設定部109を備える。
【0019】
N個のアンテナ101−1〜101−Nは、送信信号を電波として送出するとともに、電波を受信して受信信号を出力する部位である。また、本実施形態において、アンテナ101−1〜101−Nにより形成されるビームチルト角は後述するように変更可能とされている。
【0020】
位相変換部102−1〜102−Nは、それぞれ、対応の無線部103−1〜103−Nから出力された送信信号の位相を変換し、対応のアンテナ101−1〜101−Nに供給する。また、位相変換部102−1〜102−Nは、それぞれ、対応のアンテナ101−1〜101−Nから出力される受信信号の位相を変換し、対応の無線部103−1〜103−Nに出力する。なお、位相変換部102−1〜102−Nは、ビームチルト角設定部109の制御に応じて変換すべき位相を設定する。
【0021】
無線部103−1〜103−Nは、それぞれ、送信すべきデータ、信号を入力してフレーム化や所定の変調処理などを施して送信信号を生成し、対応の位相変換部102−1〜102−Nに対して出力する。上記送信信号の生成元となるデータや信号として、主たるものは、ネットワークインターフェース104から出力されるパケットのデータである。また、本実施形態においては、測定用信号送信部105から出力される測定用信号も送信信号の生成元となる。
【0022】
また、無線部103−1〜103−Nは、それぞれ、対応の位相変換部102−1〜102−Nからの受信信号を入力して所定の復調処理などを実行する。受信信号がネットワーク20と接続される他の端末を宛先とするパケットである場合、無線部103−1〜103−Nは、このパケットをネットワークインターフェース104に出力する。また、受信信号が当該基地局100宛のデータや信号である場合には、これらのデータや信号が無線部103−1〜103−Nからしかるべき部位に対して入力される。一例として、受信信号が伝搬チャネル特性を基地局100に通知するための特性通知信号である場合、この特性通知信号は、無線部103−1〜103−Nから伝搬チャネル特性取得部106に入力される。
【0023】
ネットワークインターフェース104は、ネットワーク20(図2においては図示せず)と接続して通信を実行する部位である。ネットワークインターフェース104は、ネットワーク20経由で受信した、端末局200のいずれかを宛先とするデータ(パケット)を、無線部103−1〜103−Nに出力する。
【0024】
また、端末局200からの送信信号は、アンテナ101−1〜101−Nにて受信され、それぞれ、受信信号として位相変換部102−1〜102−Nを介して無線部103−1〜103−Nに入力される。この受信信号が、ネットワーク20と接続された端末を宛先とするパケットである場合、ネットワークインターフェース104は、このパケットを入力してネットワーク20経由で宛先の端末に送信する。
【0025】
測定用信号送信部105は、当該基地局100との間の伝搬チャネル特性(電波伝搬路特性)を測定するための測定用信号を端末局200に送信する。このために、測定用信号送信部105は測定用信号を生成し、生成した測定用信号を無線部103−1〜103−Nに出力する。無線部103−1〜103−Nは入力した測定用信号を、送信信号として位相変換部102−1〜102−Nに出力する。
なお、伝搬チャネル特性は、一般には、伝搬損失、遅延時間、到来方向などとなる。なお、測定用信号としては、例えば、これまでに知られている伝搬チャネル特性測定のための信号を利用すればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
伝搬チャネル特性取得部106は、端末局200が上記測定用信号を利用して測定した伝搬チャネル特性を当該端末局200から取得する。つまり、上記測定用信号を受信した端末局200は、この受信した測定用信号を伝搬チャネル特性の測定を行い、測定した伝搬チャネル特性を通知する特性通知信号を基地局100に送信する。基地局100の伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から伝搬チャネル特性を取得する。
記憶部107は、上記のように取得された伝搬チャネル特性を記憶する。なお、記憶部107の実際としては、RAM(Random Access Memory)などを想定することができる。
【0027】
ビームチルト角算出部108は、取得された伝搬チャネル特性(すなわち、記憶部107に記憶された伝搬チャネル特性)に基づいて、当該伝搬チャネル特性を送信した端末局200との通信の際に設定すべきビームチルト角を算出する。第1の実施形態において、ビームチルト角算出部108は、基地局100と端末局200との間の電波の伝搬状態が最良となるビームチルト角を算出する。ここでは、上記ビームチルト角を算出するための手法として以下の2例を挙げる。
【0028】
まず、第1のビームチルト角算出手法は、SNR(信号対雑音電力比)に基づくものとなる。この第1のビームチルト角算出手法では、基地局100と端末局200との間の伝搬チャネル特性を行例H11として生成する。この行列H11は、送信側アンテナと受信アンテナとのすべての組合せの伝搬チャネル特性を要素とするもので、下記の式(1)のように表される。なお、ここでの送信アンテナは、基地局100のアンテナ101−1〜101−Nを想定し、受信アンテナは端末局200のアンテナを想定する。また、ここでは、説明を簡単にするために端末局200のアンテナが1つである場合を想定する。
【数1】
【0029】
次に、ビームチルト角を制御する行列Tは下記の式(2)により表される。なお、下記の式(2)において、dは送信側のアンテナの素子間隔であり、λは真空中における波長であり、θはビームチルト角である。
【数2】
【0030】
そして、上記行列H11と行列Tに基づいて下記の式(3)によりSNR(信号対電力雑音比)を算出する。下記の式において、「|| ||F」はフロベニウスノルムを示す。
【数3】
【0031】
ビームチルト角算出部108は、取得された伝搬チャネル特性を利用して行例H11を生成する。また、ビームチルト角算出部108は、異なるビームチルト角ごとの行例Tを生成する。そのうえで、ビームチルト角算出部108は、これらの行列を用いて、式(3)により異なるビームチルト角ごとのSNRを算出する。そして、ビームチルト角算出部108は、このように算出されたSNRのうちの最大値を求めるのに使用したビームチルト角θを算出結果として出力する。
【0032】
また、第2のビームチルト角算出手法は、伝送容量に基づくものとなる。この第2のビームチルト角算出手法においても、ビームチルト角算出部108は、先の式(1)により表される伝搬チャネル特性の行列H11を生成する。また、式(2)により表される行列Tを生成する。
そのうえで、ビームチルト角算出部108は、下記の式(4)によりビームチルト角θごとの伝送容量Cを算出する。
【数4】
【0033】
そして、ビームチルト角算出部108は、上記式(4)により算出される伝送容量Cが最大となるビームチルト角θを算出結果として出力する。
ビームチルト角設定部109は、上記第1または第2の手法によって算出されたビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。このために、ビームチルト角設定部109は、算出されたビームチルト角とするための位相を、位相変換部102−1〜102−Nの各々に対して指示する。位相変換部102−1〜102−Nは、入出力信号が指示された位相となるように位相をシフトする。これにより、アンテナ101−1〜101−Nから成るアンテナ群に対して、ビームチルト角算出部108により算出されたビームチルト角が設定される。
【0034】
[端末局の構成]
図3は、端末局200の構成例を示している。端末局200は、アンテナ201、無線部202、伝搬チャネル特性測定部203、記憶部204および伝搬チャネル特性通知部205を備える。なお、この図においては、端末局200における基地局100のビームチルト角設定に対応した機能のみを抜き出して示している。
【0035】
アンテナ201は、送信信号を電波として送出するとともに、電波を受信して受信信号を出力する部位である。なお、ここでは、最も簡単な例として、端末局200のアンテナが1つである場合を示しているが、複数であってもよい。
無線部202は、送信すべきデータ、信号を入力してフレーム化や所定の変調処理などを施して送信信号を生成し、対応の位相変換部102−1〜102−Nに対して出力する。また、無線部202は、受信信号を入力して所定の復調処理などを実行する。
【0036】
前述のように基地局100から測定用信号が送信された場合、端末局200は、この測定用信号を受信することになる。伝搬チャネル特性測定部203は、このように受信された伝搬チャネル特性を無線部202から入力し、伝搬チャネル特性を測定する。そして、測定した伝搬チャネル特性を記憶部204に記憶する。記憶部204は、上記のように測定された伝搬チャネル特性のデータを記憶する部位である。
【0037】
伝搬チャネル特性通知部205は、測定された伝搬チャネル特性を基地局100に通知する。このために、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204から伝搬チャネル特性を読み出す。次に、伝搬チャネル特性通知部205は、この読み出した伝搬チャネル特性を基地局100に通知するための特性通知信号を生成する。そして、伝搬チャネル特性通知部205は、この特性通知信号を無線部202により送信させる。
【0038】
[基地局と端末局の通信手順例]
図4のタイミングチャートは、基地局100と1つの端末局200との間での通信手順例を示している。なお、この図の説明にあたり、アクセス制御方式についてはCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)が採用されていることを前提とする。
【0039】
基地局100において、端末局200に対して送信すべきパケットのデータ(送信対象データ)が発生したとする。具体的には、例えば送信対象データが無線部103−1〜103−Nのバッファ(図示せず)に入力されるのに応じて、送信対象データが発生したものとみなされる。これに応じて、基地局100は、ランダムな時間間隔によりキャリアセンス(CS)を実行する。キャリアセンスにより、通信周波数帯域が使用されていないアイドル状態と、通信周波数帯域が使用されているビジー状態のいずれであるのかが判定される。
【0040】
なお、このキャリアセンス実行時と測定用信号送信時において、ビームチルト角はリセットされ、例えば無指向性となる。これにより、通信セル10において均等なキャリアセンスの感度を得ることができる。また、通信セル10において均等に測定用信号を伝搬させることができる。
【0041】
例えば、図4の時刻t0において実行したキャリアセンスにより、通信周波数帯域が使用されていないアイドル状態であることが検出されたとする。これに応じて、基地局100は、例えば時刻t0から或る時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。この際、基地局100は、上記送信対象データの宛先の端末局200を認識する。そして、これと同じ端末局200を宛先として指定して、ユニキャストにより測定用信号を送信する。
上記測定用信号の受信に応じて、端末局200は、同じ時刻t1からt2の期間内において伝搬チャネル特性を測定する。そして、端末局200は、時刻t2から或る時間を経過した時刻t3からt4の期間において特性通知信号を送信する。
【0042】
基地局100は、時刻t3以降において特性通知信号を受信するのに応じて、ビームチルト角を算出する。次に、基地局100は、算出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに対して設定する。
基地局100は、上記のようにビームチルト角を設定した後、時刻t4からt5の期間において、送信対象データを送信する。なお、時刻t4からt5の期間において送信されるデータは、例えば無線通信に適合したフレームに変換されている。また、フレームアグリゲーションが適用されている場合、時刻t4からt5の期間において送信されるデータは、所定数のフレームが連結されたデータユニットとなる。
【0043】
そして、時刻t5に対応してデータの受信が終了するのに応答して、端末局200は、時刻t5から或る時間を経過した時刻t6からt7の期間においてAck(Acknowledge)を送信する。基地局100は、このAckを受信するとともに、当該Ackの受信に応じた所定の処理を実行する。具体的に、基地局100は、例えばAckの受信によりデータが正常に受信側で受信されたものと判断し、次のデータ送受信のための処理に遷移する。また、Ackが受信されることなくタイムアウトした場合には、送信対象データを再送するなどの処理を実行する。また、送信データがフレームアグリゲーションにより複数フレームを連結したものである場合にはフレームAckが返送される。この場合、基地局100は、フレームAckが示すフレームの受信結果に基づいて、受信エラーとなったフレームを再送する。第1の実施形態では、送信対象データが発生するごとに、上記時刻t0からt7までの手順により基地局100と端末局200との間でデータの送受信を行う。
【0044】
上記時刻t4からt5の期間においてデータが送受信される際、基地局100におけるアンテナのビームチルト角は、端末局200との間のSNRが最大となるように設定されている。これにより、基地局100と端末局200との電波伝搬性能が向上し、実効スループットが向上する。
【0045】
[処理手順例]
図5のフローチャートは、上記図4に示した基地局100と端末局200の通信手順を実現するための処理手順例を示している。この図に示す基地局100の処理は、図2に示した機能部のいずれかが適宜実行するものとしてみることができる。また、この図に示す端末局200の処理は、図3に示した機能部のいずれかが適宜実行するものとしてみることができる。
【0046】
基地局100において、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データが発生するのを待機している(ステップS101−NO)。そして、送信対象データが発生するのに応じて(ステップS101−YES)、無線部103−1〜103−Nはキャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS102−NO)。そして、アイドル状態であることを検出すると(ステップS102−YES)、測定用信号送信部105は測定用信号を生成する。そして、この測定用信号を、上記送信対象データと同じ端末局200を宛先として指定し、ユニキャストにより無線部103−1〜103−Nに送信させる(ステップS103)。
【0047】
上記測定用信号の送信に応じて、前述のように端末局200から特性通知信号が送信される。伝搬チャネル特性取得部106は、基地局100にて受信された特性通知信号を無線部103−1〜103−Nから出力される特性通知信号を入力することにより伝搬チャネル特性を取得する(ステップS104)。伝搬チャネル特性取得部106は、取得した伝搬チャネル特性の情報を記憶部107に記憶させる。
【0048】
次にビームチルト角算出部108は、記憶部107に記憶された伝搬チャネル特性を利用して、前述のようにSNRが最大となるビームチルト角を算出する(ステップS105)。そして、ビームチルト角設定部109は、前述のように位相変換部102−1〜102−Nを制御して、算出されたビームチルト角を設定する(ステップS106)。
【0049】
上記のようにビームチルト角が設定された後、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データを送信する(ステップS107)。次に、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データの送信終了に応じて端末局200から送信されるAckの受信に対応した所定の処理を実行する(ステップS108)。
【0050】
また、端末局200において、伝搬チャネル特性測定部203は、先のステップS102により送信された測定用信号が受信されるのを待機している(ステップS201−NO)。そして、測定用信号が受信されるのに応じて(ステップS201−YES)、伝搬チャネル特性測定部203は伝搬チャネル特性を測定する(ステップS202)。伝搬チャネル特性測定部203は、測定結果としての伝搬チャネル特性を記憶部204に記憶させる。
【0051】
次に、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204に記憶された伝搬チャネル特性を通知するための特性通知信号を生成し、基地局100に送信する(ステップS203)。次に、無線部103−1〜103−Nは、ステップS106により送信されるデータを受信する(ステップS204)。そして、このデータの受信を終了すると、基地局100に対してAckを送信する(ステップS205)。
【0052】
<第2の実施形態>
[基地局と端末局の通信手順例]
続いて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態における通信システム、基地局100および端末局200の構成は、それぞれ、図1、図2および図3と同様となる。ただし、第2の実施形態の基地局100におけるビームチルト角算出部107には、算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶させる機能が付加される。なお、ビームチルト角の算出手法は第1の実施形態と同様でよい。
【0053】
図6のタイミングチャートは、第2の実施形態における基地局100と端末局200の間での通信手順例を示している。第2の実施形態では、まず、所定のタイミングによって基地局100が端末局200ごとのビームチルト角を予め算出し、これを記憶部107に記憶させておくようにする。この後において、基地局100は、送信対象データが発生するごとに、宛先の端末局200のビームチルト角を記憶部107から読み出して設定し、データ送信を行う。このように、第2の実施形態においては、ビームチルト角を算出して記憶するための動作とデータ送受信とはそれぞれ個別の機会で行われる。
【0054】
まず、基地局100は、ビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、測定用信号送信のためのキャリアセンスをランダムな時間間隔により実行する。なお、ビームチルト角を算出すべきタイミングとしては以下のようなものを想定できる。例えば1つには、基地局100が起動したときの初期設定として、そのときに接続が確立されている端末局200の各々に対応したビームチルト角の算出と記憶を順次行うというものである。また、1つには基地局100の起動後において最初にデータ送受信を行うこととなった場合に、その通信相手である端末局200のビームチルト角の算出と記憶を行うというものを考えることもできる。
【0055】
図6では、時刻t0において実行したキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたものとしている。これに応じて、時刻t0から一定時間を経過した時刻t1からt2までの期間において、基地局100は測定用信号を生成して送信する。この際、基地局100は、ビームチルト角算出の対象として選択した端末局200を宛先として、ユニキャストで測定信号を送信する。
【0056】
上記測定用信号の受信に応じて、端末局200は、同じ時刻t1からt2の期間内において伝搬チャネル特性を測定する。そして、端末局200は、時刻t2から或る時間を経過した時刻t3からt4の期間において特性通知信号を送信する。
基地局100は、同じ時刻t3からt4の期間において受信した上記特性通知信号を利用してビームチルト角を算出し、この算出したビームチルト角を記憶部107に記憶させる。なお、ビームチルト角を記憶部107に記憶させる際には、ビームチルト角と、測定用信号の宛先として指定した端末局200のアドレス(MACアドレス)とを対応付ける。
【0057】
そして、上記のようにビームチルト角を算出して記憶させた後の或るタイミングで、このビームチルト角に対応する端末局200を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、基地局100はキャリアセンスを実行する。ここでは、図6の時刻t5として示すタイミングで実行したキャリアセンスによりアイドル状態であることが検出されている。これに応じて、基地局100は、データ送信開始タイミングである時刻t7に至る前の時刻t6のタイミングで、送信対象データの宛先の端末局200に対応するビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0058】
次に、基地局100は、アイドル状態が検出された時刻t5から或る時間を経過した時刻t7のタイミングにおいて、端末局200に対する送信対象データの送信を開始する。
これに応じて、端末局200は時刻t7からデータの受信を開始する。なお、このときには、時刻t7より前の時刻t6のタイミングで、宛先の端末局200とのSNRまたは伝送容量が最大となる最適なビームチルト角が設定された状態にある。したがって、時刻t7以降のデータ送信における実効スループットが向上することになる。
【0059】
上記時刻t7から開始されたデータ送受信は時刻t8において終了する。これに応じて、時刻t8から或る一定時間を経過した時点t9からt10の期間において、端末局200はAckを送信し、基地局100は当該Ackを受信する。
【0060】
また、ここでは、送信対象データとして複数のフレーム(パケット)が発生した場合を想定している。これに応じて、図6では、上記時刻t7からt10までのデータとAckの送受信の後において、順次、フレーム単位のデータとAckの送受信が実行されている状態を示している。時刻t11からt14の期間は、最後のデータとAckの送受信を示している。
【0061】
[処理手順例]
図7のフローチャートは、第2の実施形態におけるビームチルト角の算出に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。なお、この図に示す処理は、1つの端末局200に対応してビームチルト角の算出を行うためのものとなる。したがって、図7に示す処理は、通信セル10内において基地局100と接続が確立されているすべての端末局200ごとに行われることになる。
【0062】
基地局100は、1つの端末局200に対応するビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、ステップS301からS304の処理を実行する。なお、ステップS301からS304の処理は、図5におけるステップS102からS105と同様となる。
【0063】
上記ステップS301からS304の処理の後、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶させる(ステップS305)。この際、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角に、今回のビームチルト角算出のために測定用信号を送信した端末局200のアドレスと対応付けて記憶させる。
【0064】
また、端末局200は、基地局100からの測定用信号の送信に応じて、ステップS401からS403の処理を実行する。なお、ステップS401からS403の処理は、図5におけるステップS201からS203と同様となる。
【0065】
図8のフローチャートは、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100において、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データが発生するのを待機している(ステップS501−NO)。そして、送信対象データが発生すると(ステップS501−YES)、無線部103−1〜103−Nは、キャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS502−NO)。そして、アイドル状態であることが検出されると(ステップS502−YES)、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの宛先である端末局200のアドレスに対応付けられているビームチルト角を記憶部107から読み出す(ステップS503)。次に、ビームチルト角設定部109は、読み出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する(ステップS504)。このために、ビームチルト角設定部109は、位相変換部102−1〜102−Nの各々においてしかるべき位相シフト量が設定されるように制御する。
【0066】
次に、無線部103−1〜103−Nは、送信対象データを端末局200に対してフレーム単位で送信し(ステップS505)、この後に、端末局200から送信されるAckの受信に対応した所定の処理を実行する(ステップS506)。
無線部103−1〜103−Nは、上記データ送信(ステップS505)とAck受信対応処理(ステップS506)を終了すると、すべての送信対象データ(フレーム)の送信を終了したか否かについて判定する(ステップS507)。ここで、送信していない送信対象データが未だ残っている場合には(ステップS507−NO)、上記ステップS505に戻ることにより、データ送信を再度実行する。そして、送信対象データをすべて送信すると(ステップS507−YES)、ステップS102に戻る。
【0067】
また、端末局200において、無線部202は、ステップS505により基地局100から送信されたデータを受信する(ステップS601)。そして、このデータの受信が終了するのに応じて基地局100にAckを送信する(ステップS602)。
このように第2実施形態では、端末局200ごとに対応するビームチルト角を算出して記憶することとしている。そして、以降において基地局100から端末局200にデータを送信する際には、記憶されたビームチルト角を読み出してアンテナ101−1〜101−Nに設定する。したがって、第2実施形態においては、送信対象データが発生するたびに測定用信号の送信からビームチルト角算出までの一連の手順を実行する必要がない。これにより、実効スループットのさらなる向上が期待される。
【0068】
<第3実施形態>
[基地局と端末局の通信手順例]
続いて、第3実施形態について説明する。なお、第3の実施形態における通信システム、基地局100および端末局200の構成は、それぞれ、図1、図2および図3と同様となる。
【0069】
図9のタイミングチャートは、第3の実施形態における基地局100と端末局200の間での通信手順例を示している。なお、第3の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、ビームチルト角を算出して記憶するための動作とデータ送受信とはそれぞれ個別の機会で行われる。そのうえで、第3実施形態においては、端末局200ごとにビームチルト角を算出するのではなく、通信セル10における端末局200に共通のビームチルト角を算出し、これを記憶する。
【0070】
基地局100は、ビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、測定用信号送信のためのキャリアセンスをランダムな時間間隔により実行する。そして、時刻t0において実行したキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたものとする。
これに応じて、基地局100は、時刻t0から一定時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。第3実施形態において、基地局100は、測定用信号を送信するに際して、通信セル10内のすべての端末局200に対してマルチキャストによる送信を行う。
【0071】
これにより、測定用信号は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3のそれぞれにて受信される。これに応じて、同じ時刻t1からt2までの期間において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、受信した測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0072】
そして、伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、例えば第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。第2端末局200−2は、時刻t4から或る時間を経過した時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。第3端末局200−3は、時刻t6から或る時間を経過した時刻t7からt8の期間において特性通知信号を生成して基地局100に送信する。
【0073】
基地局100は、上記時刻t3からt8の期間において、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3から送信された特性通知信号を受信する。そして、基地局100のビームチルト角算出部108は、このように受信した特性通知信号から取得された伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。
【0074】
第3の実施形態において、ビームチルト角算出部108は以下のようにビームチルト角を算出する。ビームチルト角算出部108は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3ごとに、ビームチルト角ごとのSNRまたは伝送容量を算出する。そして、第1端末局200−1と第2端末局200−2と第3端末局200−3との間で共通にSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角θを算出結果とするものである。ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角の情報を記憶部107に記憶する。
【0075】
ここで、上記のようにビームチルト角を算出して記憶させた後の或るタイミングで、第1端末局200−1を宛先とする送信対象データが発生したものとする。これに応じて、基地局100はキャリアセンスを実行する。そして、図9の時刻t9として示すタイミングで実行したキャリアセンスによりアイドル状態であることが検出されたとする。これに応じて、基地局100は、データ送信開始タイミングである時刻t11に至る前の時刻t10のタイミングで、記憶部107に記憶されているビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0076】
次に、基地局100は、上記時刻t11のタイミングにおいて端末局200−1に対する送信対象データの送信を開始する。これに応じて、端末局200は同じ時刻t11からデータの受信を開始する。このときには、時刻t11より前の時刻t10のタイミングで、最適とされるビームチルト角が設定された状態にある。したがって、時刻t11以降のデータ送信における実効スループットが向上する。
上記時刻t11から開始されたデータ送受信は時刻t12において終了する。これに応じて、時刻t12から或る一定時間を経過した時点t13からt14の期間において、端末局200はAckを送信し、基地局100は当該Ackを受信する。
【0077】
また、ここでは、時刻t14から或る時間を経過したタイミングで、第2端末局200−2を宛先とする送信対象データが発生した場合が示されている。これに応じて、基地局100と第2端末局200−2は、時刻t15から時刻t20までの期間において示すように、基地局100と第2端末局200−2との間でのデータとAckの送受信が行われる。なお、第3の実施形態において、時刻t16からt17の期間において設定されるビームチルト角は、先の時刻t10からt11の期間と同じとなるものである。
【0078】
[処理手順例]
図10のフローチャートは、第3の実施形態におけるビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100は、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、ステップS701からS705の処理を実行する。このステップS701からS705の処理は、図7におけるステップS301からS305の処理と同様となる。
【0079】
ただし、ステップS702における測定用信号送信部105は、前述のように、通信セル10内において基地局100と接続が確立されているすべての端末局200を宛先として、マルチキャストで測定用信号を送信する。
【0080】
また、ステップS704におけるビームチルト角算出部108は、前述のように、基地局100と接続が確立されているすべての端末局200の間で共通にSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する。
また、端末局200が実行するステップS801からS803の処理は、図7のステップS401からS403の処理と同様となる。
なお、第3の実施形態において、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例としては、先の図8と同様でよいことから説明を省略する。
【0081】
<第4の実施形態>
[基地局の構成]
続いて第4の実施形態について説明する。第4の実施形態における通信システムと端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様である。しかし、第4の実施形態の基地局100の構成は以下のようになる。
【0082】
図11は第4の実施形態における基地局100の構成例を示している。なお、この図11において、図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。この図に示す基地局100において、無線部103は、N個のアンテナ101−1〜101−Nおよび位相変換部102−1〜102−Nに対して共通となる1つのみを備える。
【0083】
なお、アンテナ101−1〜101−Nについて、各々を区別する必要がない場合にはアンテナ101と記載する。また、位相変換部102−1〜102−Nについて、各々を区別する必要がない場合には位相変換部102と記載する。
【0084】
また、図11における基地局100においては、スイッチ110−1〜110−Nとアンテナ選択部111がさらに備えられる。スイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103との間の信号経路に挿入されるように備えられる。スイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103との間の信号経路の接続(オン)、遮断(オフ)を切り替える。なお、以降の説明においてスイッチ110−1〜110−Nの各々を区別する必要がない場合には、スイッチ110と記載する。
【0085】
アンテナ選択部111は、各スイッチ110−1〜110−Nのオンオフを個別に制御する。なお、スイッチ110をオンに切り替えるということは、そのスイッチ110に対応するアンテナ101が有効化されることを意味する。これに対して、スイッチ110をオフに切り替えるということは、そのスイッチ110に対応するアンテナ101が無効化されることを意味する。
【0086】
[基地局と端末局の通信手順例]
上記図11に示した構成では、N個のアンテナ101−1〜101−Nに対して無線部103は1つで共通とされている。この場合、これまでの実施形態のように、アンテナ101−1〜101−Nの各々による受信信号は無線部103により合成される。このために、上記各実施形態と同じように、アンテナ101−1〜101−Nごとに対応する伝搬チャネル特性(先の式(1)における行列H11の各要素)の情報を同時に取得することができない。この場合、ビームチルト角も算出できないことになる。そこで、第4の実施形態においては、以下のように、アンテナ101−1〜101−Nごとに対応する伝搬チャネル特性を取得することで、ビームチルト角算出を可能とする。
【0087】
図12のタイミングチャートは、基地局100と1つの端末局200との間での、ビームチルト角算出と記憶のための通信手順例を示している。基地局100は、或る1つの端末局200との間のビームチルト角を算出すべきタイミングに至ると、キャリアセンスを実行する。そして、時刻t0におけるキャリアセンスによりアイドル状態が検出されたとする。
【0088】
これに応じて、基地局100は、アンテナ101−1〜101−Nのうち、アンテナ101−1のみを選択して有効化する。この状態のもと、基地局100は、時刻t0から一定時間経過した時刻t1からt2の期間において第1アンテナ対応測定用信号を送信する。第1アンテナ対応測定用信号とは、アンテナ101−1〜101−Nのうちアンテナ101−1のみを有効化して送信した測定用信号のことである。端末局200は、この時刻t1からt2の期間において受信した第1測定用信号を利用して、伝搬チャネル特性を測定する。このように測定された伝搬チャネル特性は、アンテナ101−1のみに対応して特性を示すものとなる。
【0089】
次に、端末局200は、時刻t3からt5の期間において、上記のように測定した伝搬チャネル特性を通知するための第1アンテナ対応特性通知信号を生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、同じ時刻t3からt5の期間において第1アンテナ対応特性通知信号を受信し、第1アンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。
【0090】
次に、基地局100は、時刻t5からt6の期間においてアンテナ101−2のみを選択して有効化した状態で第2アンテナ対応測定用信号を送信する。端末局200は、この時刻t5からt6の期間において受信される第2アンテナ対応測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0091】
次に、端末局200は、時刻t7からt8の期間において、上記のように測定した伝搬チャネル特性を通知するための第2アンテナ対応特性通知信号を生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、同じ時刻t7からt8の期間において第2アンテナ対応特性通知信号を受信し、第2アンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。
【0092】
以降、同様に、基地局100は、アンテナ101−3〜101−Nごとに対応する第3〜第Nアンテナ対応測定用信号を順次送信する。端末局200は、この第3〜第Nアンテナ対応測定用信号を受信するごとに伝搬チャネル特性を測定し、第3〜第Nアンテナ対応特性通知信号を逐次生成して基地局100に対して送信する。基地局100は、第3〜第Nアンテナ対応特性通知信号を逐次受信し、第3〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性として記憶部107に記憶させる。なお、最後のアンテナ101−Nに対応する第Nアンテナ対応測定用信号の送信から第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性取得までの動作は、時刻t9からt12の期間において示されている。
【0093】
そして、基地局100におけるビームチルト角算出部108は、時刻t13からt14の期間において、上記のように記憶部107に記憶された第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。このように算出されるビームチルト角は、第2の実施形態と同様に1つの端末局200に対応するものとなる。通信セル10におけるすべての端末局200のビームチルト角を記憶するには、上記図12に示す通信手順を、通信セル10における端末局200ごとに実行することになる。
【0094】
[処理手順例]
図13のフローチャートは、第4の実施形態におけるビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。なお、図13の説明にあたり、N個のアンテナの各々については、第1アンテナ101−1〜第Nアンテナ101−Nのように符号に対応する番号を付した表記とする。
【0095】
基地局100において無線部103は、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じてキャリアセンスを実行し、アイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS901−NO)。
【0096】
アイドル状態が検出されるのに応じて(ステップS901−YES)、アンテナ選択部111は、アンテナ101−1〜101−Nの番号に対応する変数nに1を代入する(ステップS902)。次に、アンテナ選択部111は、第nアンテナ101−nのみを選択して有効化する(ステップS903)。つまり、アンテナ選択部111は、第nアンテナ101−nに対応するスイッチ110−nのみをオンとし、これ以外はオフとするようにスイッチ110−1〜110−Nに対する制御を実行する。
【0097】
上記の状態のもとで、測定用信号送信部105は、ビームチルト角算出対象の端末局200を宛先として、ユニキャストにより第nアンテナ対応測定用信号を送信する(ステップS904)。次に、伝搬チャネル特性取得部106は、上記第nアンテナ対応測定用信号の送信に応じて受信された第nアンテナ対応特性通知信号から第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS905)。
【0098】
次に、測定用信号送信部105は、変数nについてアンテナ101の数に対応するN以上であるか否かについて判定する(ステップS906)。ここで、変数nがN未満である場合には(ステップS906−NO)、変数nをインクリメントして(ステップS907)、ステップS903に戻る。これにより、次のアンテナに対応する伝搬チャネル特性を取得するための処理が実行される。
【0099】
そして、アンテナ101−1〜101−Nのすべてに対応する第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を取得し終えたことにより、変数nがN以上となる(ステップS906−YES)。これに応じて、ビームチルト角算出部108は、記憶部107に記憶される第1〜第Nアンテナ対応伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出する(ステップS908)。そして、ビームチルト角算出部108は、算出したビームチルト角の情報を端末局200のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS909)。
【0100】
また、端末局200において、伝搬チャネル特性測定部203は、先のステップS904により送信された第nアンテナ対応測定用信号が受信されるのを待機している(ステップS1001−NO)。そして、第nアンテナ対応測定用信号が受信されるのに応じて(ステップS1001−YES)、伝搬チャネル特性測定部203は、第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を測定する(ステップS1002)。
【0101】
次に、伝搬チャネル特性通知部205は、記憶部204に記憶された第nアンテナ対応伝搬チャネル特性を通知するための第nアンテナ対応特性通知信号を生成し、基地局100に送信する(ステップS1003)。
なお、第4の実施形態において、データ送受信のために基地局100と端末局200が実行する動作および処理手順例としては、先の図6や図8と同様でよいことから説明を省略する。
【0102】
<第5の実施形態>
[基地局の構成]
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態における通信システムおよび端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様となる。これに対して、第5の実施形態における基地局100の構成は、図14に示すものとなる。なお、図14において図2および図11と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0103】
図14に示す基地局100におけるスイッチ110−1〜110−Nは、それぞれ、位相変換部102−1〜102−Nと無線部103−1〜103−Nとの間に挿入されるように備えられる。
【0104】
また、第5の実施形態におけるビームチルト角算出部108は、アンテナ101−1〜101−Nのうちから2以上を選択して成るアンテナ組合せパターンごとにSNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する。そして、これらのビームチルト角のうちから、さらにSNRまたは伝送容量が最大となるアンテナ組合せとこれに対応するビームチルト角を算出結果とする。そして、ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角とアンテナ組合せを示す情報をアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報として生成する。そして、このアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報を、対応の端末局200のアドレスに対応付けて記憶部107に記憶させる。
【0105】
また、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの発生に応じて、宛先の端末局200に対応付けられたアンテナ組合せ対応ビームチルト角情報に基づいて、アンテナ組合とビームチルト角の設定を行う。
【0106】
つまり、ビームチルト角設定部109は、アンテナ組合せ対応ビームチルト角情報が示すアンテナ組合せとなるように、スイッチ110−1〜110−Nを個別にオンオフ制御する。このオンオフ制御によりオンとされたスイッチ110に対応して有効化されたアンテナ101により上記のアンテナ組合せが形成される。次に、ビームチルト角設定部109は、アンテナ組合せ対応ビームチルト角情報が示すビームチルト角となるように、有効化されたアンテナ101ごとに対応する位相変換部102の位相を指定する。
このように、第5実施形態においては、アンテナ組合せを併用してビームチルト角が設定される。これにより、さらなる実効スループットの向上を図ることが可能となる。
【0107】
なお、第3の実施形態におけるビームチルト角を算出して記憶するための基地局100と端末局200の通信手順と、データ送受信に対応する基地局100と端末局200の通信手順は、図6と同様でよい。
【0108】
[処理手順例]
図15のフローチャートは、ビームチルト角を算出と記憶のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100が実行するステップS1101からS1103の処理は、図7におけるステップS301からS303の処理と同様となる。
【0109】
次に、基地局100におけるビームチルト角算出部108は、前述のように、アンテナ組合せごとに、SNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出する(ステップS1104)。次に、ビームチルト角算出部108は、これらのアンテナ組合せごとに算出されたビームチルト角のSNRまたは伝送容量を比較する。ビームチルト角算出部108は、この比較結果から、上記SNRまたは伝送容量が最大となるアンテナ組合せと、当該アンテナ組合せに対応するビームチルト角から成るアンテナ組合せ対応ビームチルト角を決定する(ステップS1105)。そして、ビームチルト角算出部108は、このように決定されたアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報を、端末局200のアドレスに対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS1106)。
また、端末局200は、基地局100からの測定用信号の送信に応じて、ステップS1201からS1203の処理を実行する。なお、ステップS1201からS1203の処理は、図7におけるステップS401からS403と同様となる。
【0110】
図16のフローチャートは、第5の実施形態においてデータ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。基地局100が実行するステップS1301およびステップS1302の処理は、図8のステップS501とS502と同様となる。
【0111】
そして、アイドル状態であることが検出されるのに応じて(ステップS1302−YES)、ビームチルト角設定部109は、送信対象データの宛先である端末局200のアドレスに対応付けられているアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報を記憶部107から読み出す(ステップS1303)。
【0112】
次に、ビームチルト角設定部109は、読み出したアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報が示すアンテナ組合せパターンが形成されるように、スイッチ110−1〜110−Nの各々をオンまたはオフに設定する(ステップS1304)。次に、ビームチルト角設定部109は、形成されたアンテナ組合せパターンのもとで、読み出したアンテナ組合せ対応ビームチルト角の情報が示すビームチルト角を設定する(ステップS1305)。このために、ビームチルト角設定部109は、スイッチ110−1〜110−Nに対するオンオフ制御により有効化されたアンテナ101に対応する位相変換部102の各々に対してしかるべき位相シフト量を設定する。
【0113】
また、上記ステップS1305に続くステップS1306からS1308の処理は、図8のステップS505からS507と同様となる。また、端末局200が実行するステップS1401およびS1402の処理は、図8のステップS601およびS602と同様となる。
【0114】
<第6の実施形態>
[基地局の構成]
次に、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態における通信システムおよび端末局200の構成は、それぞれ、図1および図3と同様となる。ただし、基地局100の構成は、図17に示すものとなる。なお、図17において図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0115】
図17に示す基地局100は、図2の構成に対して送信予告信号送信部113をさらに備えて構成される。送信予告信号送信部113は、通信セル10における端末局200に対してブロードキャストで送信予告信号を送信する。送信予告信号は、基地局100がこれよりデータ送信を開始することを、宛先の端末局200の識別子(例えばアドレス)とともに通知するための信号である。
【0116】
なお、第6の実施形態におけるビームチルト角算出と記憶のために基地局100と端末局200が実行する通信手順は、図6の時刻t0からt4における手順と同様でよい。また、そのための処理手順も図7と同様でよい。
【0117】
[基地局と端末局の通信手順例]
図18のタイミングチャートは、第6の実施形態における基地局100と端末局200の間で実行されるデータ送受信のための通信手順例を示している。
【0118】
基地局100は、第1端末局200−2を宛先とする送信対象データの発生に応じてキャリアセンスを実行する。そして、時刻t0においてアイドル状態が検出されたとする。これに応じて基地局100は、時刻t0から一定時間経過した時刻t1からt2の期間により、送信予告信号をブロードキャストで送信する。この送信予告信号は、これより第1端末局200−2を宛先とするデータ送信を開始することを通知するものとなる。
【0119】
この送信予告信号は、第1端末局200−1、第2端末局200−2および第3端末局200−3の各々が受信する。これらのうち、送信予告信号により自己が宛先として通知されていない第2端末局200−2および第3端末局200−3は、それぞれ、送信予告信号を受信した時刻t1から送信待機の状態を設定する。送信待機の状態は、データ送信を実行すること無く待機する状態である。
【0120】
このように第2端末局200−2および第3端末局200−3において送信が待機されている状態のもと、基地局100は、時刻t3において第1端末局200−1に対応して記憶部107に記憶されているビームチルト角を読み出す。そして、基地局100は、この読み出したビームチルト角をアンテナ101−1〜101−Nに設定する。
【0121】
次に、基地局100は、時刻t4から時刻t5の期間において送信対象データを送信する。第1端末局200−1は、同じ時刻t4から時刻t5におけるデータの受信を終了すると、時刻t6から時刻t7の期間によりAckを送信する。このように送信されたAckは、同じ時刻t6からt7の期間において、基地局100により受信される。
【0122】
上記時刻t4からt7までの基地局100と第1端末局200−1との間のデータとAckの送受信が行われているとき、残る第2端末局200−2および第3端末局200−3は送信待機の状態にある。これにより、時刻t4からt7におけるコリジョンは確実に回避され、さらなる実効スループットの向上を図ることが可能になる。
【0123】
この図18では、上記時刻t0からt7までの期間によるデータ送信に続き、さらに同様の通信手順を繰り返して基地局100から第1端末局200−1へのデータ送信を実行している。また、図18において、時刻t8から時刻t15の期間において実行される、時刻t0からt7の期間と同様の通信手順は、上記のように基地局100から第1端末局200−1へのデータ送信が繰り返し実行されていることを示している。
【0124】
なお、第6の実施形態においては、キャリアセンス実行時とともに送信予告信号の送信時においてもビームチルト角が初期状態にリセットされる。これにより、送信予告信号は通信セル10においてほぼ均等に伝搬されることになる。
【0125】
図19のフローチャートは、第6の実施形態においてデータ送受信のために基地局100と端末局200が実行する処理手順例を示している。この図において、基地局100が実行するステップS1501およびS1502は、図8のステップS501およびS502と同様である。
【0126】
そして、アイドル状態であることが検出されるのに応じて(ステップS1502−YES)、基地局100における送信予告信号送信部113は、以下の処理を実行する。つまり、送信予告信号送信部113は、送信対象データの宛先となる端末局200のアドレスを含む送信予告信号を生成し、これをブロードキャストにより送信する(ステップS1503)。続く、ステップS1505からS1508の処理は、図8のステップS504からS507と同様となる。
また、端末局200がデータ送信に応じて実行するステップS1601およびS1602の処理は、図8のステップS601およびS602と同様となる。
【0127】
図20のフローチャートは、端末局200がステップS1503(図19)による送信予告信号の送信に応じて実行する処理手順例である。端末局200における無線部202は、基地局100から送信された送信予告信号が受信されるのを待機している(ステップS1605−NO)。
【0128】
そして、送信予告信号が受信されると(ステップS1605−YES)、無線部202は、送信予告信号において示される宛先が自己のものであるか否かについて判定する(ステップS1606)。宛先が自己のものでない場合(ステップS1606−NO)、無線部202は、送信待機の状態を設定する(ステップS1607)。これに対して、宛先が自己のものである場合(ステップS1606−YES)、無線部202は、これまで送信待機の状態が設定されていた場合にはこれを解除する(ステップS1608)。
【0129】
<第7の実施形態>
[通信システムの構成]
図21は、第7の実施形態に対応する通信システムの構成例を示している。この図21において、まず、図1に示した通信セル10については、通信セル10−1として示している。また、図21において、図1に示した基地局100については第1基地局100−1として示している。また、図21において、図1に示した端末局200−1、200−2、200−3については、それぞれ、第1端末局200−1、第2端末局200−2、第3端末局200−3として示している。
【0130】
そのうえで、第7の実施形態においては、もう1つの通信セル10−2が形成された状態が示されている。通信セル10−2は、第2基地局100−2の通信可能範囲である。そして、通信セル10−2には第4端末局200−4が存在する。この第4端末局200−4は第2基地局100−2と接続が確立されている。
【0131】
通信セル10−2は、通信セル10−1と一部が重複するように、通信セル10−1に近接して形成されている。これに伴って、図21においては、第1端末局200−1と第4端末局200−4が、通信セル10−1と10−2の重複領域に存在することとなった状態が示されている。
【0132】
上記図1に示す状態では、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信時において実効スループットが低下する可能性がある。例えば、第1基地局100−1と第1端末局200−1が通信を実行しているときに、第2基地局100−2と第4端末局200−4も通信を実行していたとする。このとき、第1端末局200−1と第4端末局200−4がともに通信セル10−1と10−2の重複領域に位置していることで、電波の干渉などによる障害が発生しやすくなる。これが実効スループットを低下させる原因となる。
【0133】
そこで、第6の実施形態においては、第1基地局100−1と第1端末局200−1と通信を実行するにあたり、第4端末局200−4による通信の影響をできるだけ排除して実効スループットが向上されるように、以下の構成を採る。
【0134】
[基地局と端末局の通信手順例]
図22のタイミングチャートは、第6の実施形態における第1基地局100−1、第1端末局200−1および第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。第1基地局100−1において、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を算出すべきタイミングに至ったとする。
【0135】
これに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行し、時刻t0においてアイドル状態を検出する。次に、第1基地局100−1は、時刻t1からt2の期間において測定用信号を送信する。第6の実施形態において、この測定用信号は、第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。
【0136】
第4端末局200−4は、上記時刻t1からt2の期間において受信した測定用信号を利用して測定を行う。次に、第4端末局200−4は、時刻t3からt4の期間において、特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第1基地局100−1におけるビームチルト角算出部108は、同じ時刻t3からt4の期間において受信される特性通知信号から取得した伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、これを記憶部107に記憶する。
【0137】
これまでの実施形態におけるビームチルト角算出部108は、SNRまたは伝送容量が最大となるビームチルト角を算出していた。これに対して、第6の実施形態のビームチルト角算出部108は、第4端末局200−4から取得した伝搬チャネル特性に基づいて、SNRまたは伝送容量が最小となるビームチルト角を算出する。そして、ビームチルト角算出部108は、このように求めたビームチルト角を、第1端末局200−1のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶する。このように、第6の実施形態において上記のように求められたビームチルト角は、第1端末局200−1に対応するものとして扱われる。
【0138】
そして、上記のように第1端末局200−1に対応するビームチルト角が記憶部107に記憶された後の或るタイミングで、第1基地局100−1において、第1基地局100−1を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第1基地局100−1は、時刻t5からt8として示すようにキャリアセンスを実行してアイドル状態を検出する。続いて第1基地局100−1は、時刻t6においてビームチルト角を設定したうえで、時刻t7からt8の期間において第1端末局200−1にデータを送信する。第1端末局200−1は、送信されたデータを受信し終えると、時刻t9からt10の期間においてAckを送信する。このときには、第4端末局200−4のSNRまたは伝送容量が最小となるビームチルト角が設定されている。これにより、時刻t6からt10までの期間において第4端末局200−4が通信を実行していたとしても、これによる干渉などが抑制されることになり、実効スループットの向上が図られる。
【0139】
以降、第1基地局100−1と第1端末局200−1は、送信対象データとして残るデータ(フレーム)とAckの送受信を繰り返し実行する。例えば図における時刻t11からt15は、送信対象データにおける最後のデータの送受信とAckの送受信のための手順である。
【0140】
なお、第7の実施形態において、第1基地局100−1の構成は、図2と同様でよい。また、第1端末局200−1と第4端末局200−4の構成は、図3と同様でよい。ただし、前述のようにビームチルト角算出部108は、SNRまたは伝送容量が最小のビームチルト角を算出する。また、第7の実施形態において、ビームチルト角の算出と記憶に対応して基地局100と端末局200が実行する処理手順は、図7と同様でよい。また、第7の実施形態においてデータ送受信のために基地局100、第1端末局200−1および第4端末局200−4が実行する処理手順は図8と同様でよい。
【0141】
<第8の実施形態>
[基地局と端末局との通信手順]
次に、第8の実施形態について説明する。第8の実施形態において、通信システムの構成は、図21と同様である場合を想定する。
【0142】
図23のタイミングチャートは、第8の実施形態における第1基地局100−1と、第1端末局200−1と、第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。第1基地局100−1において、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を算出すべきタイミングに至ったとする。
【0143】
これに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行し、時刻t0においてアイドル状態を検出する。次に、第1基地局100−1は、時刻t1からt2の期間において測定用信号を送信する。第8の実施形態において、この測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4をそれぞれ宛先として指定して、ユニキャストにより送信される。
【0144】
これにより、測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれにて受信される。時刻t1からt2までの期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、受信した測定用信号を利用して伝搬チャネル特性を測定する。
【0145】
そして、伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1と第4端末局200−4は、コリジョンが生じないようにそれぞれが異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第4端末局200−4は、時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。
【0146】
基地局100は、上記時刻t3からt6の期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信された特性通知信号を受信する。そして、基地局100のビームチルト角算出部108は、このように受信した特性通知信号から取得した伝搬チャネル特性を利用してビームチルト角を算出し、記憶部107に記憶させる。
【0147】
第8の実施形態において、ビームチルト角算出部108は以下のようにビームチルト角を算出する。ビームチルト角算出部108は、まず、第4端末局200−4から取得した伝搬チャネル特性を利用して、SNRまたは伝送容量が予め定めた一定値以下となるビームチルト角を算出する。これらのビームチルト角は、最終的に決定されるビームチルト角の候補となるので、ビームチルト角候補と称する。
【0148】
次に、ビームチルト角算出部108は、第1端末局200−1から取得した伝搬チャネル特性を利用して、上記ビームチルト角候補ごとのSNRまたは伝送容量を求める。そして、ビームチルト角算出部108は、上記のように求められたビームチルト角候補ごとのSNRまたは伝送容量のうちで最大値に対応するビームチルト角を算出結果として決定する。
【0149】
上記のように算出されるビームチルト角は、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信に関しては良好な性能を提供し、一方、第4端末局200−1の通信による通信セル10−2からの影響を有効に排除する性質を有する。これにより、第1基地局100−1と第1端末局200−1との通信における実効スループットの向上が図られる。
【0150】
[処理手順例]
図24のフローチャートは、第8の実施形態において第1基地局100−1がビームチルト角算出のために実行する処理手順例を示している。なお、第8の実施形態における第1基地局100−1は、図2と同様の構成である場合を想定する。
【0151】
第1基地局100−1は、第1端末局200−1に対応するビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じて、キャリアセンスを実行してアイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS1701−NO)。そして、アイドル状態が検出されると(ステップS1701−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先として指定してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1702)。
【0152】
次に、伝搬チャネル特性取得部106は、上記測定用信号の送信に応答して第1端末局200−1と第4端末局200−4が送信してきた特性通知信号から、それぞれ、伝搬チャネル特性を取得する(ステップS1703)。
【0153】
次に、ビームチルト角算出部108は、前述のようにビームチルト角候補を算出し(ステップS1704)、記憶部107に記憶させる(ステップS1705)。次に、ビームチルト角算出部108は、記憶されたビームチルト角候補から、前述のように、第1端末局200−1に対応するビームチルト角を決定し、これを算出結果とする(ステップS1706)。ビームチルト角算出部108は、このように算出したビームチルト角の情報を第1端末局200−1のアドレスと対応付けて記憶部107に記憶させる(ステップS1707)。
【0154】
なお、測定用信号の送信に応答した第1端末局200−1と第4端末局200−4の処理手順例は、図7のステップS401からS403と同様でよい。また、データ送受信のために第1基地局100−1と第1端末局200−1が実行する処理手順例は図8と同様でよい。
【0155】
<第9の実施形態>
続いて第9の実施形態について説明する。第9の実施形態において、通信システムの構成は、図21と同様である場合を想定する。
図25は、第9の実施形態における基地局100(第1基地局100−1と第2基地局100−2)の構成例を示している。第9の実施形態において、第1基地局100−1と第2基地局100−2は、同図に示す構成を共通に有するものとする。なお、この図において図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0156】
図25の基地局100においては、図2に示した構成に対して、通知信号転送部114とビームチルト角送受信部115がさらに備えられる。通知信号転送部114は、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信されてくる特性通知信号を、第1基地局100−1に対して転送させる。
【0157】
つまり、通知信号転送部114は、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する際に動作する部位となる。一方、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する場合、ビームチルト角算出と設定に関する機能部は動作させる必要がない。つまり、伝搬チャネル特性取得部106、記憶部107、ビームチルト角算出部108およびビームチルト角設定部109は省略されてよい。
【0158】
第9の実施形態において、ビームチルト角算出部108は、第1基地局100−1に対応する第1ビームチルト角と、第2基地局100−2に対応する第2ビームチルト角を算出する。同図に示す基地局100が第1基地局100−1として機能する場合、ビームチルト角送受信部115は、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に送信する。また、同図に示す基地局100が第2基地局100−2として機能する場合、ビームチルト角送受信部115は、第2ビームチルト角を受信して記憶部107に記憶させる。
【0159】
図26と図27は、第9の実施形態における第1基地局100−1と、第1端末局200−1と、第2基地局100−2と、第4端末局200−4の間での通信手順例を示している。なお、図26と図27の通信手順は時間的に連続しているが、図26と図27の時間的つながりを明確にするために、図26と図27とで時刻t14からt15の期間を重複して示している。
【0160】
ここで、ビームチルト角を算出して記憶するためのタイミングに至るのに応じて、第1基地局100−1はキャリアセンスを実行する。そして、このキャリアセンスにより時刻t0においてアイドル状態であることが検出されたものとする。これに応じて、第1基地局100−1は、例えば時刻t0から或る時間を経過した時刻t1からt2までの期間において測定用信号を生成して送信する。この測定用信号は、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。
【0161】
上記測定用信号の受信に応じて、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、同じ時刻t1からt2の期間において伝搬チャネル特性を測定する。この伝搬チャネル特性の測定を終えた第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t3からt4の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。第4端末局200−4は、時刻t5からt6の期間において特性通知信号を生成して第1基地局100−1に送信する。
第1基地局100−1は、上記時刻t3からt6において受信した特性通知信号の各々から伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶しておくようにする。
【0162】
次に、上記測定通知信号の送受信が終了した後の時刻t7からt8の期間において、第2基地局100−2は測定用信号を生成して送信する。この測定用信号も、第1端末局200−1と第4端末局200−4を宛先としてユニキャストにより送信される。なお、この第2基地局100−2は、例えば同じ通信セル10−2の第4端末局200−4が第1基地局100−1を宛先として送信した特性通知信号の検知に応じて、この測定用信号を送信すべきタイミングであるか否かを判断することができる。
【0163】
上記時刻t7からt8の期間における測定用信号の受信に応じて、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、同じ時刻t7からt8の期間において伝搬チャネル特性を測定する。そして、第1端末局200−1と第4端末局200−4は、それぞれ、コリジョンが生じないように異なるタイミングで特性通知信号を生成して送信する。つまり、第1端末局200−1は、時刻t9からt10の期間において特性通知信号を生成して第2基地局100−2に送信する。第4端末局200−4は、時刻t11からt12の期間において特性通知信号を生成して第2基地局100−2に送信する。
【0164】
第2基地局100−2は、上記時刻t9からt12の期間において、第1端末局200−1と第4端末局200−4から送信された特性通知信号を受信する。そして、時刻t12から或る時間を経過した時刻t13からt14の期間において、第2基地局100−2は、受信したこれら特性通知信号を第1基地局100−1に転送する。第1基地局100−1は、同じ時刻t13からt14の期間において、これらの特性通知信号を受信し、伝搬チャネル特性として取得する。
【0165】
時刻t14に至った段階の第1基地局100−1は、以下の4つの電波伝搬路の伝搬チャネル特性を取得していることになる。つまり、第1基地局100−1と第1端末局200−1間の電波伝搬路、第1基地局100−1と第4端末局200−4間の電波伝搬路、第2基地局100−2と第1端末局200−1間の電波伝搬路、および、第2基地局100−2と第4端末局200−4間の電波伝搬路の各伝搬チャネル特性を取得している。
【0166】
そこで、第8の実施形態におけるビームチルト角算出部108は、時刻t14から時刻t15の期間において、以下のようにビームチルト角を算出する。つまり、ビームチルト角算出部108は、下記の式(5)を適用して、通信セル10−1と10−2の総合伝送容量Ctotalを算出する。
【0167】
【数5】
【0168】
上記式(5)において、C1は通信セル10−1の伝送容量を示す。C2は通信セル10−2の伝送容量を示す。T1は第1基地局100−1におけるビームチルト角の制御を行うための行列である。T2は、第2基地局100−2におけるビームチルト角の制御を行うための行列である。
【0169】
ビームチルト角算出部108は、上記式(5)を利用して、第1基地局100−1と第2基地局100−2の各々のビームチルト角の組合せごとの総合伝送容量Ctotalを算出する。そして、このように算出した総合伝送容量Ctotalにおける最大値を求めるのに使用した、第1基地局100−1の第1ビームチルト角と第2基地局100−2の第2ビームチルト角の組合せを算出結果とするものである。なお、ビームチルト角算出部108は、上記第1ビームチルト角と第2ビームチルト角のうち、第1ビームチルト角のみを記憶部107に記憶させればよい。
【0170】
そして、第1基地局100−1は、図26に示すように、上記第1、第2ビームチルト角が算出された直後の時刻t15からt16の期間において、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に送信する。同じ時刻t15からt16の期間において、第2基地局100−2は、送信された第2ビームチルト角を受信し、これを記憶部107に記憶させる。
【0171】
そして、上記のように第1基地局100−1と第2基地局100−2により第1、第2ビームチルト角の各々が記憶された後の或るタイミングで、第1基地局100−1において、第1端末局200−1を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第1基地局100−1と第1端末局200−1は、時刻t17からt22の期間において示すように、データ送受信に応じた通信を実行する。この際、第1基地局100−1は、時刻t18からt19の期間において、第1ビームチルト角を設定する。
【0172】
一方、第2基地局100−2においても、第4端末局200−4を宛先とする送信対象データが発生したとする。これに応じて、第2基地局100−2と第4端末局200−4は、時刻t23からt28の期間において示すように、データ送受信に応じた通信を実行する。この際、第2基地局100−2は、時刻t24からt25の期間において、第2ビームチルト角を設定する。
【0173】
ここで、上記時刻t17からt22の期間と、上記時刻t23からt28の期間には互いに重複する期間が存在する。これは、第1基地局100−1と第1端末局200−1の間でのデータ送受信と、第2基地局100−2と第4端末局200−4の間でのデータ送受信とが同時に実行されている期間が存在することを示している。
このように互いのデータ送受信が同時に行われているとしても、このときには、通信セル10−1において第1ビームチルト角が設定され、通信セル10−2において第2ビームチルト角が設定されている。これにより、通信セル10−1と通信セル10−2が近接しているのに係わらず、両者における通信状態が良好となるように維持される。これにより、通信セル10−1と通信セル10−2における通信の実効スループットの向上が図られる。
【0174】
[処理手順例]
図28のフローチャートは、第1基地局100−1がビームチルト角の算出と記憶に対応して実行する処理手順例を示している。第1基地局100−1において無線部103−1〜103−Nは、ビームチルト角の算出と記憶を実行すべきタイミングとなるのに応じてキャリアセンスを実行し、アイドル状態が検出されるのを待機する(ステップS1801−NO)。
【0175】
アイドル状態が検出されるのに応じて(ステップS1801−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1802)。第1端末局200−1と第4端末局200−4は、上記測定用信号の送信に応じて伝搬チャネル特性を測定し、特性通知信号を送信する。これらの特性通知信号は第1端末局200−1の無線部103−1〜103−Nにて受信される。そこで、伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対応する伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS1803)。
【0176】
また、第2基地局100−2は、図26の時刻t13からt14として示すように、第1端末局200−1と第4端末局200−4の特性通知信号を第1基地局100−1に送信する。これらの特性通知信号は第1端末局200−1の無線部103−1〜103−Nにて受信される。そこで、伝搬チャネル特性取得部106は、受信された特性通知信号から第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対応する伝搬チャネル特性を取得し、記憶部107に記憶させる(ステップS1804)。
【0177】
上記ステップS1804までの処理により、伝搬チャネル特性取得部106は、前述の4つの電波伝搬路の伝搬チャネル特性を取得したことになる。そこで、ビームチルト角算出部108は、これらの伝搬チャネル特性を利用して、前述のように、第1ビームチルト角と第2ビームチルト角を算出する(ステップS1805)。また、ビームチルト角算出部108は、第1のビームチルト角を記憶部107に記憶させる(ステップS1806)。また、ビームチルト角送受信部115は、算出された第2ビームチルト角を、第2基地局100−2に対して送信する(ステップS1807)。
【0178】
図29のフローチャートは、第2基地局100−2がビームチルト角の算出と記憶に対応して実行する処理手順例を示している。第2基地局100−1において無線部103−1〜103−Nは、自己の測定用信号の送信タイミング(図26の時刻t7)となるのを待機している(ステップS1901−NO)。例えば、第4端末局200−4による第1基地局100−1への特性通知信号の送信終了から一定時間を経過すると上記測定用信号の送信タイミングに至ったとして判定される。
【0179】
測定用信号の送信タイミングに至るのに応じて(ステップS1901−YES)、測定用信号送信部105は、第1端末局200−1と第4端末局200−4のそれぞれに対してユニキャストにより測定用信号を送信する(ステップS1902)。第1端末局200−1と第4端末局200−4は、上記測定用信号の送信に応じて伝搬チャネル特性を測定し、特性通知信号を送信する。これらの特性通知信号は第2基地局100−2の無線部103−1〜103−Nにて受信される。
【0180】
第2基地局100−2において、通知信号転送部114は、上記のように受信された特性通知信号を無線部103−1〜103−Nにより第1基地局100−1に転送させる(ステップS1903)。
【0181】
上記のように特性通知信号を転送した後、第1基地局100−1は、第1、第2ビームチルト角を算出したうえで、第2ビームチルト角を第2基地局100−2に対して送信してくる(図27の時刻t15からt16)。無線部103−1〜103−Nは、このように送信される第2ビームチルト角を受信し(ステップS1904)、記憶部107に記憶させる(ステップS1905)。
【0182】
なお、第1端末局200−1と第4端末局200−4における測定用信号の受信に応答した処理は、図7のステップS401からS403と同様でよい。また、第1基地局100−1と第2基地局100−2と第1端末局200−1と第4端末局200−4におけるデータ送受信のための処理は、図8と同様でよい。
【0183】
なお、図2、図3、図11、図14、図17および図25などにおける各部機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、本実施形態におけるビームチルト角の算出やデータ送受信を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0184】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0185】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0186】
10…通信セル, 20…ネットワーク, 100…基地局, 200…端末局, 101…アンテナ, 102…位相変換部, 103…無線部, 104…ネットワークインターフェース, 105…測定用信号送信部, 106…伝搬チャネル特性取得部, 107…記憶部, 108…ビームチルト角算出部, 109…ビームチルト角設定部, 110…スイッチ, 111…アンテナ選択部, 113…送信予告信号送信部, 114…通知信号転送部, 115…ビームチルト角送受信部, 200…端末局, 201…アンテナ, 202…無線部, 203…伝搬チャネル特性測定部, 204…記憶部, 205…伝搬チャネル特性通知部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを備えた無線通信装置が、
伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信ステップと、
前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得ステップと、
取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出ステップと、
前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定ステップと、
を有する無線通信方法。
【請求項2】
前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記伝搬チャネル特性に基づいてスループット若しくは受信電力が増加若しくは減少するように前記ビームチルト角を算出する、請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項3】
前記無線通信装置が備える無線部の数が前記アンテナの数よりも少なく、
前記測定用信号送信ステップにおいて、前記無線部と前記アンテナとの接続を切り替えながら、前記測定用信号を前記端末局に送信し、
前記測定用信号送信ステップと前記伝搬チャネル特性取得ステップとを繰り返し実行することによって全ての前記複数のアンテナにおける前記伝搬チャネル特性を取得するステップと、
前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記取得した複数の伝搬チャネル特性を統合して一つの伝搬チャネル特性を取得する、請求項1又は2に記載の無線通信方法。
【請求項4】
複数のアンテナと、
伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信部と、
前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得部と、
取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出部と、
前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定部と、
を備える無線通信装置。
【請求項1】
複数のアンテナを備えた無線通信装置が、
伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信ステップと、
前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得ステップと、
取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出ステップと、
前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定ステップと、
を有する無線通信方法。
【請求項2】
前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記伝搬チャネル特性に基づいてスループット若しくは受信電力が増加若しくは減少するように前記ビームチルト角を算出する、請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項3】
前記無線通信装置が備える無線部の数が前記アンテナの数よりも少なく、
前記測定用信号送信ステップにおいて、前記無線部と前記アンテナとの接続を切り替えながら、前記測定用信号を前記端末局に送信し、
前記測定用信号送信ステップと前記伝搬チャネル特性取得ステップとを繰り返し実行することによって全ての前記複数のアンテナにおける前記伝搬チャネル特性を取得するステップと、
前記ビームチルト角算出ステップにおいて、前記取得した複数の伝搬チャネル特性を統合して一つの伝搬チャネル特性を取得する、請求項1又は2に記載の無線通信方法。
【請求項4】
複数のアンテナと、
伝搬チャネル特性を測定するための測定用信号を端末局に送信する測定用信号送信部と、
前記測定用信号に基づいて前記端末局により測定された伝搬チャネル特性を取得する伝搬チャネル特性取得部と、
取得された前記伝搬チャネル特性に基づいて前記端末局との通信における前記アンテナのビームチルト角を算出するビームチルト角算出部と、
前記端末局との通信において、前記ビームチルト角を設定するビームチルト角設定部と、
を備える無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−102272(P2013−102272A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243604(P2011−243604)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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