説明

無線通信装置および通信制御方法

【課題】最大ドップラー周波数の推定精度の高さに応じて外挿係数および線形予測係数を適宜使い分けることにより、送信伝搬路の算出精度を向上させる。
【解決手段】本発明の無線通信装置100は、複数のアンテナ1−1,1−2で受信した信号から受信伝搬路を算出する受信伝搬路算出部3と、前記複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持する外挿係数保持部10と、最大ドップラー周波数算出部5が前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて算出した最大ドップラー周波数に基づいて、前記複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持する線形予測係数保持部11と、外挿係数および線形予測係数の何れか一方と、受信伝搬路算出部3において算出された受信伝搬路とに基づいて、送信伝搬路を算出する送信伝搬路算出部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを備えた無線通信装置、および、複数のアンテナを備えた無線通信装置と対向無線通信装置との間の通信を制御する通信制御方法に関するものであり、特に、時分割複信方式において下りリンク信号の送信制御に使用する送信ウェイトを得るために必要な下りリンク伝搬路の予測制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時分割複信(Time Division Duplex;TDD)方式の無線通信システムにおいて、無線通信装置(無線基地局;以下、基地局ともいう)から対向無線装置(無線端末;以下、端末ともいう)へ向かう方向の下りリンク伝搬路(送信伝搬路)と、端末から基地局へ向かう方向の上りリンク伝搬路(受信伝搬路)との間には可逆性がある。そのため、基地局は、上りリンク信号から推定した上りリンク伝搬路情報を下りリンク信号の送信に直接利用することが可能である。さらに、基地局が複数のアンテナ(送受信アンテナ)を備えている場合には、この伝搬路情報に基づいた送信ダイバーシティやアダプティブアレーアンテナによる送信指向性制御を行うことにより、伝送品質を高めることができる。
【0003】
無線通信を行っている端末が移動している場合はフェージングが発生し、端末の移動速度が高速になるほど無線伝搬路の振幅および位相が時間的に高速に変動する。このフェージングによって、例えば図3に示すように、下りリンク送信時の伝搬路は上りリンク信号から推定した上りリンク伝搬路とは異なるものになるため、上りリンク伝搬路情報を使用した送信ダイバーシティや送信指向性制御による伝送品質の改善効果は低減されることになる。
【0004】
この問題を回避するためには、上りリンク信号から上りリンク伝搬路を何点か推定し、それら上りリンク伝搬路情報を使用して下りリンク信号送信時刻での外挿値を求め、その外挿値に基づいて送信ダイバーシティや送信指向性制御を行うことによりフェージングによる無線伝搬路の時間変動へ追従させる方法(例えば、特許文献1参照)がある。この方法では、外挿による送信時の下りリンク伝搬路の推定において、推定したドップラー周波数に応じて無線伝搬路の時間変動に追従するように外挿パラメータを変更することにより、アダプティブアレイ無線基地局の送信指向性制御による伝送品質改善効果を維持することができる。
【0005】
また、最小2乗誤差(Minimum Mean Square Error;MMSE)法による下りリンク伝搬路の線形予測が考えられている。これは、下りリンク送信時刻の実際の下りリンク伝搬路と推定した複数の相異なる時刻の上りリンク伝搬路の線形結合との間の平均2乗予測誤差を最小にするため、最大ドップラー周波数が高い場合も高精度な予測を行うことができる。MMSE法の予測精度は、例えば非特許文献1に開示されている。このMMSE法による線形予測における線形予測係数は、推定した上りリンク伝搬路の相関行列の逆行列と、予測時刻の下りリンク伝搬路と、推定した上りリンク伝搬路の相関ベクトルとの積であり、推定する相異なる時刻の上りリンク伝搬路の数が少ない場合には、解析的に容易に求めることができる。ここで、推定した上りリンク伝搬路と予測時刻の未知の下りリンク伝搬路との相関値が必要になるが、レイリーフェージング環境下では、ある時刻の伝搬路と別の時刻の伝搬路との間の時間差および最大ドップラー周波数が既知ならば、前記2点の間の相関値は第1種0次ベッセル関数によって求めることができる。そのため、推定する複数の相異なる時刻の上りリンク伝搬路の間の時間差および、これら上りリンク伝搬路と予測時刻の下りリンク伝搬路との時間差をシステム設計段階で決定してから最大ドップラー周波数を推定することにより、容易に線形予測係数を得ることができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3423274号公報
【非特許文献1】「A.Duel-Hallen, S.Hu, H.Hallen, ”Long Range Prediction of Fading Signals: Enabling Adaptive Transmission for Mobile Radio Channels,” IEEE Signal Processing Magazine, May 2000」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
端末の移動速度が高速になると、無線伝搬路の時間変動が激しくなるため、外挿による下りリンク伝搬路の予測値と実際の下りリンク伝搬路との間の誤差は大きくなる。そのため、外挿による下りリンク伝搬路の予測値に基づいた送信ダイバーシティや送信指向性制御を行っても伝送品質の改善効果は得られなくなる。一方、MMSE法による下りリンク伝搬路の線形予測では、端末の移動速度が高速であっても高精度な予測値が得られるが、そのためには推定する最大ドップラー周波数にも一定以上の高い精度が要求される。最大ドップラー周波数を高精度に推定するためには数フレーム時間に渡る上りリンク信号が必要になるが、ある程度のフレーム数の上りリンク信号を受信するまでの間は、少ないフレームから推定した低精度の最大ドップラー周波数によって得た、予測誤差の大きい線形予測値を利用しなければならず、結果的に送信ダイバーシティや送信指向性制御による伝送品質の改善効果は得られなくなる。
【0008】
上述した問題から、推定した最大ドップラー周波数の精度が低い可能性がある通信開始当初は、MMSE法による下りリンク伝搬路の線形予測を行うよりも外挿による下りリンク伝搬路の予測を行った方が送信ダイバーシティや送信指向性制御による伝送品質の改善効果は大きくなると考えられる。
【0009】
本発明は、最大ドップラー周波数の推定精度の高さに応じて外挿係数および線形予測係数を適宜使い分けることにより、送信伝搬路の算出精度を向上させる技術(無線通信装置および通信制御方法)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1の無線通信装置は、複数のアンテナを備えた無線通信装置であって、前記複数のアンテナで受信した信号から受信伝搬路を算出する受信伝搬路算出部と、前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて最大ドップラー周波数を算出する最大ドップラー周波数算出部と、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持する外挿係数保持部と、前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数に基づいて、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持する線形予測係数保持部と、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数と、前記受信伝搬路算出部において算出された受信伝搬路と、に基づいて、送信伝搬路を算出する送信伝搬路算出部と、前記送信伝搬路算出部において算出された送信伝搬路に基づいて送信ウェイトを算出する送信ウェイト算出部と、送信データおよび前記送信ウェイト算出部において算出された送信ウェイトに基づいて前記複数のアンテナから送信する信号を生成する送信信号生成部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2の無線通信装置は、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部をさらに備え、前記係数制御部は、前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数の前回値を保持する最大ドップラー周波数保持部と、前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数と、前記最大ドップラー周波数保持部に保持された最大ドップラー周波数の前回値との誤差を算出する最大ドップラー周波数誤差算出部と、前記係数制御部において何れか一方の係数を選択的に出力するための閾値を保持する閾値保持部と、前記最大ドップラー周波数誤差算出部において算出された最大ドップラー周波数誤差と前記閾値保持部に保持された閾値との比較結果に基づいて、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力する係数切換部と、から成ることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3の無線通信装置は、前記係数制御部は、前記誤差が前記閾値より大きい場合は前記外挿係数保持部に保持された外挿係数を出力し、前記誤差が前記閾値より小さい場合は前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数を出力することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4の無線通信装置は、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部をさらに備え、前記係数制御部は、通信開始から現在までの総通信フレーム数を保持する総通信フレーム数保持部と、前記係数制御部において何れか一方の係数を選択的に出力するための閾値を保持する閾値保持部と、前記総通信フレーム数保持部に保持された総通信フレーム数と前記閾値保持部に保持された閾値との比較結果に基づいて、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力する係数切換部と、から成ることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5の無線通信装置は、前記係数制御部は、前記総通信フレーム数が前記閾値より小さい場合は前記外挿係数保持部に保持された外挿係数を出力し、前記総通信フレーム数が前記閾値より大きい場合は前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数を出力することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6の無線通信装置は、前記外挿係数保持手段は、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路および送信時刻の送信伝搬路の間の時間差により算出される外挿係数を保持することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7の無線通信装置は、前記線形予測係数保持部は、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路および送信時刻の送信伝搬路の間の時間差ならびに前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数に基づいて算出される、各々の最大ドップラー周波数に対応する線形予測係数に関する情報を保持することを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の請求項8の通信制御方法は、複数のアンテナを備えた無線通信装置と対向無線通信装置との間の通信を制御する通信制御方法であって、前記複数のアンテナで受信した信号から受信伝搬路を算出する受信伝搬路算出ステップと、前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて最大ドップラー周波数を算出する最大ドップラー周波数算出ステップと、前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持する外挿係数保持ステップと、前記最大ドップラー周波数算出ステップにおいて算出された最大ドップラー周波数に基づいて、前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持する線形予測係数保持ステップと、前記外挿係数保持ステップにおいて保持された外挿係数および前記線形予測係数保持ステップにおいて保持された線形予測係数の何れか一方の係数と、前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された受信伝搬路と、に基づいて、送信伝搬路を算出する送信伝搬路算出ステップと、前記送信伝搬路算出ステップにおいて算出された送信伝搬路に基づいて送信ウェイトを算出する送信ウェイト算出ステップと、送信データおよび前記送信ウェイト算出ステップにおいて算出された送信ウェイトに基づいて前記複数のアンテナから送信する信号を生成する送信信号生成ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外挿係数および線形予測係数の何れか一方の係数と、算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路とに基づいて、送信伝搬路を算出するから、最大ドップラー周波数の推定精度の高さに応じて外挿係数および線形予測係数を適宜使い分けることが可能になる。したがって、送信伝搬路の算出精度を向上させる技術(無線通信装置および通信制御方法)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は本発明の通信制御方法を適用する第1実施形態の無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の無線通信装置(無線基地局;以下、基地局ともいう)100は、送受信アンテナ1−1、1−2と、送受信切換部(送受信切換スイッチ)2−1,2−2と、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3と、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4と、最大ドップラー周波数算出部5と、最大ドップラー周波数保持部6と、最大ドップラー周波数誤差算出部7と、閾値保持部8と、係数切換部9と、外挿係数保持部10と、線形予測係数保持部11と、下りリンク伝搬路算出部(送信伝搬路算出部)12と、送信ウェイト算出部13と、送信下りリンク信号算出部14とを備えて成る。上記において、最大ドップラー周波数保持部6、最大ドップラー周波数誤差算出部7、閾値保持部8および係数切換部9は、外挿係数保持部10に保持された外挿係数および線形予測係数保持部11に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部を構成している。なお、本実施形態の無線通信装置(基地局)100および対向無線装置(端末)を含むシステムは、時分割複信(Time Division Duplex;TDD)方式の無線通信システムを用いているが、これに限定されるものではなく、他の無線通信システムにも適用することができる。
【0021】
送受信切換部(送受信切換スイッチ)2−1,2−2は、送受信アンテナ1−1、1−2経由で図示しない対向無線通信装置(無線端末;以下、端末ともいう)との間でやり取りする無線信号の送信/受信を切り換えるものである。
上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3は、送受信アンテナ1−1、1−2で受信した信号から上りリンク伝搬路(受信伝搬路)を算出(推定)するものである。
最大ドップラー周波数算出用データ保持部4は、最大ドップラー周波数算出部5において最大ドップラー周波数を算出する際に用いるデータ(送受信アンテナ1−1、1−2で受信した信号)を保持するものである。
最大ドップラー周波数算出部5は、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4に保持されている最大ドップラー周波数算出用データに基づいて最大ドップラー周波数を算出するものである。
【0022】
最大ドップラー周波数保持部6は、最大ドップラー周波数算出部5において算出された最大ドップラー周波数の前回値(1フレーム前の値)を保持するものである。
最大ドップラー周波数誤差算出部7は、最大ドップラー周波数算出部5において算出された最大ドップラー周波数(現在値)と、最大ドップラー周波数保持部6に保持された最大ドップラー周波数の前回値との誤差(最大ドップラー周波数誤差)を算出するものである。
閾値保持部8は、前記係数制御部において何れか一方の係数を選択的に出力するための最大ドップラー周波数の閾値を保持するものである。
係数切換部9は、最大ドップラー周波数誤差算出部7において算出された誤差と閾値保持部8に保持された最大ドップラー周波数の閾値との比較結果に基づいて、外挿係数保持部10に保持された外挿係数および線形予測係数保持部11に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するものであり、具体的には、誤差が最大ドップラー周波数の閾値より大きい場合は外挿係数保持部10に保持された外挿係数を出力し、誤差が最大ドップラー周波数の閾値より小さい場合は線形予測係数保持部11に保持された線形予測係数を出力する。
【0023】
外挿係数保持部10は、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3において算出された複数の相異なる時刻の上りリンク伝搬路(受信伝搬路)の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持するものである。
線形予測係数保持部11は、最大ドップラー周波数算出部5において算出された最大ドップラー周波数に基づいて、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3において算出された複数の相異なる時刻の上りリンク伝搬路(受信伝搬路)の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持するものである。
下りリンク伝搬路算出部(送信伝搬路算出部)12は、外挿係数保持部10に保持された外挿係数および線形予測係数保持部11に保持された線形予測係数の何れか一方の係数と、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3において算出された上りリンク伝搬路(受信伝搬路)と、に基づいて、下りリンク伝搬路(送信伝搬路)を算出するものである。
送信ウェイト算出部13は、送信伝搬路算出部12において算出された下りリンク伝搬路(送信伝搬路)に基づいて送信ウェイトを算出するものである。
送信信号生成部14は、送信データおよび送信ウェイト算出部13において算出された送信ウェイトに基づいて送受信アンテナ1−1、1−2から送信する信号を生成するものである。
【0024】
次に、本実施形態の動作を、無線通信装置100が基地局であって、対向無線装置である端末との間で通信を行う場合を例に挙げて説明する。まず上りリンク信号(受信信号)を受信するタイミングで送受信切換部2−1および送受信切換部2−2を受信側に切換えて、端末から送信され上りリンク伝搬路を経た上りリンク信号を送受信アンテナ1−1、1−2で受信する。受信した上りリンク信号は、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3および最大ドップラー周波数算出用データ保持部4に入力され、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4を経て最大ドップラー周波数算出部5にも入力される。
【0025】
上りリンク伝搬路算出部3は、入力された上りリンク信号の複数N個の点の相異なる時刻T,T,…,Tにおいて送受信アンテナ1−1に対する上りリンク伝搬路he(T),he(T),…,he(TN)および送受信アンテナ1−2に対する上りリンク伝搬路he(T),he(T),…,he(TN)を算出(推定)する。ここで、he(T)、he(T)等は、括弧内の時刻における上りリンク伝搬路(受信伝搬路)の算出値(推定値)を表し、また、算出(推定)された上りリンク伝搬路(受信伝搬路)をベクトルh=[he(T),he(T),…,he(TN)]T、ベクトルh=[he(T),he(T),…,he(TN)]Tと表す。算出(推定)したベクトルhおよびベクトルhは、外挿係数保持部10、線形予測係数保持部11および下りリンク伝搬路算出部12に出力される。
【0026】
最大ドップラー周波数算出用データ保持部4は、端末との通信開始から現在までに受信した上りリンク信号に含まれる最大ドップラー周波数算出用データである送受信アンテナ1−1、1−2で受信した信号を保持しており、最大ドップラー周波数算出部5で最大ドップラー周波数を算出する際に最大ドップラー周波数算出用データを最大ドップラー周波数算出部5に出力する。
【0027】
最大ドップラー周波数算出部5は、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4から出力される、端末との通信開始から現在までに受信した上りリンク信号に含まれる最大ドップラー周波数算出用データに基づいて最大ドップラー周波数を算出(推定)し、算出した最大ドップラー周波数を最大ドップラー周波数保持部6、最大ドップラー周波数誤差算出部7および線形予測係数保持部11に出力する。
【0028】
最大ドップラー周波数保持部6は、最大ドップラー周波数算出部5で算出(推定)した最大ドップラー周波数(現在値)を保持し、それと同時に、既に保持されている1フレーム時間前の最大ドップラー周波数(前回値)を最大ドップラー周波数誤差算出部7に出力する。
【0029】
最大ドップラー周波数誤差算出部7は、最大ドップラー周波数算出部5において算出(推定)された最大ドップラー周波数(現在値)と最大ドップラー周波数保持部6に保持された1フレーム時間前の最大ドップラー周波数(前回値)との誤差の絶対値を算出し、算出結果を係数切換部9に出力する。
【0030】
閾値保持部8は、係数切換部9によって、下りリンク伝搬路算出部12で使用する係数(下りリンク伝搬路予測係数)として、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数および線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための最大ドップラー周波数誤差の閾値ethを保持しており、この閾値を係数切換部9に出力する。
【0031】
係数切換部9は、最大ドップラー周波数誤差算出部7から出力された最大ドップラー周波数誤差eと、閾値保持部8から出力された最大ドップラー周波数誤差の閾値ethとの間の大小関係を比較する。この比較において、誤差が最大ドップラー周波数の閾値よりも大きい場合には、最大ドップラー周波数算出部5で算出(推定)された最大ドップラー周波数の精度が低いと判断して、下りリンク伝搬路予測係数として外挿係数を用いるために、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力し、誤差が最大ドップラー周波数の閾値よりも小さい場合には、最大ドップラー周波数算出部5で算出(推定)された最大ドップラー周波数の精度が高いと判断して、下りリンク伝搬路予測係数として線形予測係数を用いるために、線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
【0032】
以上の処理を図2のフローチャートに基づいて説明する。
まず、図2のステップS11では、nフレーム目における最大ドップラー周波数f(n)を算出し、次のステップS12では、最大ドップラー周波数f(n)と最大ドップラー周波数の前回値f(n-1)との誤差の絶対値eを、次式
e=|f(n)−f(n-1)| (1)
により算出する。
次のステップS13では、最大ドップラー周波数誤差eと最大ドップラー周波数の閾値ethとの間の大小比較を行い、誤差eが最大ドップラー周波数の閾値ethよりも小さいYesの場合には、ステップS14において、線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。一方、誤差eが最大ドップラー周波数の閾値ethよりも大きいNoの場合には、ステップS15において、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
【0033】
外挿係数保持部10は、上りリンク伝搬路(受信伝搬路)の下りリンク信号送信時刻TN+1の外挿値he(TN+1),he(TN+1)の外挿係数k,k,…,kを保持しているため、上記ステップS13において係数切換部9によって外挿係数保持部10が選択された場合、ステップS15で外挿係数k,k,…,kを下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
【0034】
例えばN=2のとき、下りリンク信号送信時刻T(図3参照)の上りリンク伝搬路ベクトルh=[he(T),he(T)]T による直線外挿値he(T)およびh=[he(T),he(T)]T による直線外挿値he(T)は、次式で表される。
he(T)=−(T−T)/(T−T)*he(T)+(T−T)/(T−T)*he(T) (2)
he(T)=−(T−T)/(T−T)*he(T)+(T−T)/(T−T)*he(T) (3)
(2)式、(3)式より、he(T)に対する外挿係数kは、k=−(T−T)/(T−T)であり、he(T)に対する外挿係数kは、k=−(T−T)/(T−T)になる。上りリンク伝搬路算出部3において上りリンク伝搬路を推定する時刻T、T(図3参照)および下りリンク信号送信時刻Tが決まっていれば、外挿係数k、kも一定の値になる。
【0035】
ステップS13において係数切換部9によって線形予測係数保持部11が選択された場合、線形予測係数保持部11は上りリンク伝搬路の下りリンク信号送信時刻TN+1のMMSE法による線形予測値he(TN+1)、he(TN+1)の線形予測係数K,K,…,Kを保持しているため、ステップS14で最大ドップラー周波数算出部5より入力された最大ドップラー周波数に応じた線形予測係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
【0036】
ここで、MMSE法による線形予測における線形予測係数について説明する。下りリンク信号送信時刻TN+1の実際の下りリンク伝搬路h(TN+1)と、算出(推定)した複数の相異なる時刻の上りリンク伝搬路h=[he(T),he(T),…,he(TN)]Tの線形結合K*he(T)+K*he(T)+…+K*he(TN)との間の平均2乗予測誤差E[|h(TN+1)−(K*he(T)+K*he(T)+…+K*he(TN))|]を最小にするMMSE法による線形予測係数K,K,…,Kは、次式より算出される。
[K,K,…,K]=(E[hhH])−1E[h(TN+1)h] (4)
ここで、E[hhH]は算出(推定)された上りリンク伝搬路のN行N列の相関行列であり、hHはhのエルミート(複素共役)転置であり、(E[hhH])−1はE[hhH]の逆行列であり、E[]は平均値を表し、E[h(TN+1)h]は算出(推定)した上りリンク伝搬路と下りリンク信号送信時刻の実際の下りリンク伝搬路との相関ベクトルであり、[h(TN+1)]はh(TN+1)の複素共役である。移動通信において、厳しい電波伝搬環境であるレイリーフェージング環境下では、E[hhH]のi行j列の成分(E[hhH])ijは、第1種0次ベッセル関数J(x)(x≧0)と最大ドップラー周波数fとを用いて、(E[hhH])ij=E[he(T)*he(T)]=J(2πf|T−T|)と表され、また、E[h(TN+1)h]は、E[h(TN+1)h]=[J(2πf|TN+1−T|),J(2πf|TN+1−T|),…,J(2πf|TN+1−T|)]と表される。T,T,…,T,TN+1が決まった値ならば、K,K,…,Kは最大ドップラー周波数fのみの関数になる。
【0037】
線形予測係数保持部11に保持される線形予測係数K,K,…,Kは、端末の移動速度として考慮され得る範囲に対する最大ドップラー周波数fにおいて、予め[K,K,…,K]=(E[hhH])−1E[h(TN+1)h]、(E[hhH])ij=E[he(T)*he(T)]=J(2πf|T−T|)、E[h(TN+1)h]=[J(2πf|TN+1−T|),J(2πf|TN+1−T|),…,J(2πf|TN+1−T|)]により算出されて、最大ドップラー周波数fに対する数表として保持されている。
【0038】
例えばN=2のときのK,Kおよび線形予測値he(T)、he(T)は、次式で表される。
K=[J(2πf|T−T|)−J(2πf|T−T|)*J(2πf|T−T|)]/[1−{J(2πf|T−T|)}] (5)
K=[J(2πf|T−T|)−J(2πf|T−T|)*J(2πf|T−T|)]/[1−{J(2πf|T−T|)}] (6)
he(T)=K*he(T)+K*he(T)、he(T)=K*he(T)+K*he(T) (7)
このとき、T−T=478[μs]、T−T=1645[μs]、T−T=1167[μs]における、最大ドップラー周波数fの0Hzから400Hzに対するK,Kの数表は、図4に例示するようになる。この数表は、線形予測係数保持部11に保持されている。
【0039】
下りリンク伝搬路算出部12は、係数切換部9の選択により外挿係数保持部10から出力される外挿係数k,k,…,kまたは線形予測係数保持部11から出力される線形予測係数K,K,…,Kと、上りリンク伝搬路算出部3により算出(推定)された上りリンク伝搬路ベクトルh,hより、下りリンク信号送信時刻TN+1の下りリンク伝搬路h(TN+1)、h(TN+1)の予測値he(TN+1)、he(TN+1)を算出する。このとき、外挿係数を使用する場合には、he(TN+1)=k*he(T)+k*he(T)+…+k**he(T)と、he(TN+1)=k*he(T)+k*he(T)+…+k**he(T)とが算出され、線形予測係数を使用する場合には、he(TN+1)=K*he(T)+K*he(T)+…+K**he(T)と、he(TN+1)=K*he(T)+K*he(T)+…+K**he(T)とを算出される。算出された下りリンク伝搬路の予測値he(TN+1)、he(TN+1)は送信ウェイト算出部13に入力される。
【0040】
送信ウェイト算出部13は、入力された下りリンク伝搬路の予測値he(TN+1)、he(TN+1)から送信下りリンク信号算出のために必要な送信ウェイトw、wを算出し、送信下りリンク信号算出部14に入力する。送信ウェイトとしては、例えば最大比合成送信ダイバーシティ用ウェイトやアダプティブアレーアンテナによる送信指向性制御用MMSEウェイトなどを用いることができる。
【0041】
送信下りリンク信号算出部14は、端末へ下りリンク信号送信時刻TN+1に送信するデータd(TN+1)と、送信ウェイトw、wとをそれぞれ乗算することによって、送受信アンテナ1−1から送信する下りリンク信号s(TN+1)=w*d(TN+1)と、送受信アンテナ1−2から送信する下りリンク信号s(TN+1)=w*d(TN+1)とを算出する。そして、下りリンク信号送信時刻TN+1になったら、送受信切換部2−1,2−2を送信側に切り換えて、送受信アンテナ1−1からs(TN+1)を送信し、送受信アンテナ1−2からs(TN+1)を送信する。
【0042】
次に、第1実施形態における送信伝搬路の算出について説明する。
MMSE法による線形予測は、最大ドップラー周波数の推定精度(最大ドップラー周波数誤差e)に依存し、eが大きくなるにつれて予測精度が劣化して端末平均受信電力を減少させる。一方、外挿による予測は、最大ドップラー周波数の推定精度に依存しないので、MMSE法および外挿における端末の受信電力が等しくなるときのeの閾値をethとすると、本実施形態では、最大ドップラー周波数fが高い範囲では、図5に示すように、e<ethのときは、端末平均受信電力は線形予測を用いた方が大きくなるので、線形予測を選択し、e>ethのときは、端末平均受信電力は外挿による予測を用いた方が大きくなるので、外挿による予測を選択することにより、線形予測および外挿による予測の内で、常に端末平均受信電力が大きくなる方を選択するようにしている。
【0043】
ただし、最大ドップラー周波数fが低い範囲では、最大ドップラー周波数の推定精度が十分高い場合に限り線形予測および外挿による予測は同等の端末平均受信電力になるが、最大ドップラー周波数の推定精度が低くなると(eが大きくなると)、図6に示すように線形予測の端末平均受信電力は劣化していくため、最大ドップラー周波数の推定精度が高い場合(eが大きい場合、Nが小さい場合)に線形予測の端末平均受信電力が外挿による予測の端末平均受信電力を上回るように、最大ドップラー周波数の推定精度が高い範囲でeの閾値ethを図5に示すように決定する必要がある。
【0044】
以上説明したように、第1実施形態によれば、最大ドップラー周波数の推定精度が高い場合(e<ethのとき)は線形予測係数を選択することにより、端末の移動速度が高速の場合も予測精度が高いMMSE法による線形予測を行うことによって伝送品質を改善し、通信開始当初のような最大ドップラー周波数の推定精度が低い場合(e>ethのとき)は外挿による予測を行うことによって線形予測の予測精度が劣化することによる伝送品質改善効果の低減を抑制するから、最大ドップラー周波数の推定精度の高低に応じて外挿係数および線形予測係数を適宜使い分けることが可能になる。したがって、送信伝搬路の算出精度を向上させる技術(無線通信装置および通信制御方法)を提供することができる。
【0045】
[第2実施形態]
図7は本発明の通信制御方法を適用する第2実施形態の無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の無線通信装置(無線基地局;以下、基地局ともいう)200は、上記第1実施形態の無線通信装置100に対し、総通信フレーム数保持部15を追加して最大ドップラー周波数保持部6および最大ドップラー周波数誤差算出部7を削除する変更を加えたものであり、それ以外の部分は同一であるので、同一符号を付けて説明を省略する。上記において、総通信フレーム数保持部15、閾値保持部8および係数切換部9は、外挿係数保持部10に保持された外挿係数および線形予測係数保持部11に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部を構成している。なお、本実施形態の無線通信装置(基地局)200および対向無線装置(端末)を含むシステムは、時分割複信(Time Division Duplex;TDD)方式の無線通信システムを用いているが、これに限定されるものではなく、他の無線通信システムにも適用することができる。
【0046】
次に、本実施形態の動作を、無線通信装置200が基地局であって、対向無線装置である端末との間で通信を行う場合を例に挙げて説明する。まず上りリンク信号(受信信号)を受信するタイミングで送受信切換部2−1および送受信切換部2−2を受信側に切換えて、端末から送信され上りリンク伝搬路を経た上りリンク信号を送受信アンテナ1−1、1−2で受信する。受信した上りリンク信号は、上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)3、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4および総通信フレーム数保持部15に入力され、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4を経て最大ドップラー周波数算出部5にも入力される。
【0047】
上りリンク伝搬路算出部3は、入力された上りリンク信号の複数N個の点の相異なる時刻T,T,…,Tにおいて送受信アンテナ1−1に対する上りリンク伝搬路he(T),he(T),…,he(TN)および送受信アンテナ1−2に対する上りリンク伝搬路he(T),he(T),…,he(TN)を算出(推定)する。ここで、he(T)、he(T)等は、括弧内の時刻における上りリンク伝搬路(受信伝搬路)の算出値(推定値)を表し、また、算出(推定)された上りリンク伝搬路(受信伝搬路)をベクトルh=[he(T),he(T),…,he(TN)]T、ベクトルh=[he(T),he(T),…,he(TN)]Tと表す。算出(推定)したベクトルhおよびベクトルhは、外挿係数保持部10、線形予測係数保持部11および下りリンク伝搬路算出部12に出力される。
【0048】
最大ドップラー周波数算出用データ保持部4は、端末との通信開始から現在までに受信した上りリンク信号に含まれる最大ドップラー周波数算出用データである送受信アンテナ1−1、1−2で受信した信号を保持しており、最大ドップラー周波数算出部5で最大ドップラー周波数を算出する際に最大ドップラー周波数算出用データを最大ドップラー周波数算出部5に出力する。
【0049】
最大ドップラー周波数算出部5は、最大ドップラー周波数算出用データ保持部4から出力される、端末との通信開始から現在までに受信した上りリンク信号に含まれる最大ドップラー周波数算出用データに基づいて最大ドップラー周波数を算出(推定)し、算出した最大ドップラー周波数を線形予測係数保持部11に出力する。
【0050】
総通信フレーム数保持部15は、送受信アンテナ1−1,1−2で受信した上りリンク信号が入力されたときに、現在保持している総通信フレーム数に1を加えて総通信フレーム数を更新し、更新後の総通信フレーム数を保持する。そして、総通信フレーム数保持部15は、保持している総通信フレーム数を係数切換部9に出力する。
【0051】
閾値保持部8は、係数切換部9によって、下りリンク伝搬路算出部12で使用する係数(下りリンク伝搬路予測係数)として、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数および線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための総通信フレーム数の閾値Nthを保持しており、この総通信フレーム数の閾値を係数切換部9に出力する。
【0052】
係数切換部9は、総通信フレーム数保持部15から出力された総通信フレーム数Nと、閾値保持部8から出力された総通信フレーム数の閾値Nthとの間の大小関係を比較する。この比較において、総通信フレーム数が総通信フレーム数の閾値よりも小さい場合には、最大ドップラー周波数算出部5で算出(推定)された最大ドップラー周波数の精度が低いと判断して、下りリンク伝搬路予測係数として外挿係数を用いるために、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力し、総通信フレーム数が総通信フレーム数の閾値よりも大きい場合には、最大ドップラー周波数算出部5で算出(推定)された最大ドップラー周波数の精度が高いと判断して、下りリンク伝搬路予測係数として線形予測係数を用いるために、線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
【0053】
以上の処理を図8のフローチャートに基づいて説明する。
まず、図8のステップS21では、通信開始から現在までの総通信フレーム数Nを保持する。次のステップS22では、総通信フレーム数Nと総通信フレーム数の閾値Nthとの間の大小比較を行い、総通信フレーム数Nが総通信フレーム数の閾値Nthよりも大きいYesの場合には、ステップS23において、線形予測係数保持部11に保持されている線形予測係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。一方、総通信フレーム数Nが総通信フレーム数の閾値Nthよりも小さいNoの場合には、ステップS24において、外挿係数保持部10に保持されている外挿係数を下りリンク伝搬路算出部12に出力する。
下りリンク伝搬路算出部12以後における動作は、上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
次に、第2実施形態における送信伝搬路の算出について説明する。
MMSE法による線形予測は、最大ドップラー周波数の推定精度(総通信フレーム数N)に依存し、Nが小さくなるにつれて予測精度が劣化して端末平均受信電力を減少させる。一方、外挿による予測は、最大ドップラー周波数の推定精度に依存しないので、MMSE法および外挿における端末の受信電力が等しくなるときのNの閾値をNthとすると、本実施形態では、最大ドップラー周波数fが高い範囲では、図9に示すように、N>Nthのときは、端末平均受信電力は線形予測を用いた方が大きくなるので、線形予測を選択し、N<Nthのときは、端末平均受信電力は外挿による予測を用いた方が大きくなるので、外挿による予測を選択することにより、線形予測および外挿による予測の内で、常に端末平均受信電力が大きくなる方を選択するようにしている。
【0055】
ただし、最大ドップラー周波数fが低い範囲では、最大ドップラー周波数の推定精度が十分高い場合に限り線形予測および外挿による予測は同等の端末平均受信電力になるが、最大ドップラー周波数の推定精度が低くなると(Nが小さくなると)、図10に示すように線形予測の端末平均受信電力は劣化していくため、最大ドップラー周波数の推定精度が高い場合(Nが小さい場合)に線形予測の端末平均受信電力が外挿による予測の端末平均受信電力を上回るように、最大ドップラー周波数の推定精度が高い範囲でNの閾値Nthを図9に示すように決定する必要がある。
【0056】
以上説明したように、第2実施形態によれば、最大ドップラー周波数の推定精度が高い場合(N>Nthのとき)は線形予測係数を選択することにより、端末の移動速度が高速の場合も予測精度が高いMMSE法による線形予測を行うことによって伝送品質を改善し、通信開始当初のような最大ドップラー周波数の推定精度が低い場合(N<Nthのとき)は外挿による予測を行うことによって線形予測の予測精度が劣化することによる伝送品質改善効果の低減を抑制するから、最大ドップラー周波数の推定精度の高低に応じて外挿係数および線形予測係数を適宜使い分けることが可能になる。したがって、送信伝搬路の算出精度を向上させる技術(無線通信装置および通信制御方法)を提供することができる。また、第2実施形態によれば、第1実施形態に比べてシステム構成が簡略化されるため、搭載メモリ容量などの点で第1実施形態よりも有利になる。
【0057】
なお、上記第1実施形態および第2実施形態では、MMSE法による線形予測法を用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の線形予測法を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の通信制御方法を適用する第1実施形態の無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の無線通信装置における下りリンク伝搬路の予測に用いる係数の選択を説明するためのフローチャートである。
【図3】TDD無線通信システムにおけるフレーム構成および上りリンク伝搬路による下りリンク伝搬路予測の一例を示す図である。
【図4】第1実施形態および第2実施形態の無線通信装置における線形予測係数保持部が保持する最大ドップラー周波数に対する線形予測係数の数表を例示する図である。
【図5】第1実施形態の無線通信装置において、最大ドップラー周波数が高い範囲で線形予測を用いた場合および外挿を用いた場合の最大ドップラー周波数誤差に対する端末平均電力の関係および閾値を例示する図である。
【図6】第1実施形態の無線通信装置において、最大ドップラー周波数が低い範囲で線形予測を用いた場合および外挿を用いた場合の最大ドップラー周波数誤差に対する端末平均電力の関係および最大ドップラー周波数の閾値を例示する図である。
【図7】本発明の通信制御方法を適用する第2実施形態の無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図8】第2実施形態の無線通信装置における下りリンク伝搬路の予測に用いる係数の選択を説明するためのフローチャートである。
【図9】第2実施形態の無線通信装置において、最大ドップラー周波数が高い範囲で線形予測を用いた場合および外挿を用いた場合の最大ドップラー周波数誤差に対する端末平均電力の関係および総通信フレーム数の閾値を例示する図である。
【図10】第2実施形態の無線通信装置において、最大ドップラー周波数が低い範囲で線形予測を用いた場合および外挿を用いた場合の最大ドップラー周波数誤差に対する端末平均電力の関係および最大ドップラー周波数の閾値を例示する図である。
【符号の説明】
【0059】
1−1,1−2 送受信アンテナ
2−1,2−2 送受信切換部(送受信切換スイッチ)
3 上りリンク伝搬路算出部(受信伝搬路算出部)
4 最大ドップラー周波数算出用データ保持部
5 最大ドップラー周波数算出部
6 最大ドップラー周波数保持部
7 最大ドップラー周波数誤差算出部
8 閾値保持部
9 係数切換部
10 外挿係数保持部
11 線形予測係数保持部
12 下りリンク伝搬路算出部(送信伝搬路算出部)
13 送信ウェイト算出部
14 送信下りリンク信号算出部
15 総通信フレーム数保持部
100,200 無線通信装置(基地局)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを備えた無線通信装置であって、
前記複数のアンテナで受信した信号から受信伝搬路を算出する受信伝搬路算出部と、
前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて最大ドップラー周波数を算出する最大ドップラー周波数算出部と、
前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持する外挿係数保持部と、
前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数に基づいて、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持する線形予測係数保持部と、
前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数と、前記受信伝搬路算出部において算出された受信伝搬路と、に基づいて、送信伝搬路を算出する送信伝搬路算出部と、
前記送信伝搬路算出部において算出された送信伝搬路に基づいて送信ウェイトを算出する送信ウェイト算出部と、
送信データおよび前記送信ウェイト算出部において算出された送信ウェイトに基づいて前記複数のアンテナから送信する信号を生成する送信信号生成部と、を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部をさらに備え、
前記係数制御部は、
前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数の前回値を保持する最大ドップラー周波数保持部と、
前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数と、前記最大ドップラー周波数保持部に保持された最大ドップラー周波数の前回値との誤差を算出する最大ドップラー周波数誤差算出部と、
前記係数制御部において何れか一方の係数を選択的に出力するための閾値を保持する閾値保持部と、
前記最大ドップラー周波数誤差算出部において算出された最大ドップラー周波数誤差と前記閾値保持部に保持された閾値との比較結果に基づいて、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力する係数切換部と、から成ることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記係数制御部は、前記誤差が前記閾値より大きい場合は前記外挿係数保持部に保持された外挿係数を出力し、前記誤差が前記閾値より小さい場合は前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数を出力することを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力するための係数制御部をさらに備え、
前記係数制御部は、
通信開始から現在までの総通信フレーム数を保持する総通信フレーム数保持部と、
前記係数制御部において何れか一方の係数を選択的に出力するための閾値を保持する閾値保持部と、
前記総通信フレーム数保持部に保持された総通信フレーム数と前記閾値保持部に保持された閾値との比較結果に基づいて、前記外挿係数保持部に保持された外挿係数および前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数の何れか一方の係数を選択的に出力する係数切換部と、から成ることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記係数制御部は、前記総通信フレーム数が前記閾値より小さい場合は前記外挿係数保持部に保持された外挿係数を出力し、前記総通信フレーム数が前記閾値より大きい場合は前記線形予測係数保持部に保持された線形予測係数を出力することを特徴とする請求項4に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記外挿係数保持手段は、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路および送信時刻の送信伝搬路の間の時間差により算出される外挿係数を保持することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記線形予測係数保持部は、前記受信伝搬路算出部において算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路および送信時刻の送信伝搬路の間の時間差ならびに前記最大ドップラー周波数算出部において算出された最大ドップラー周波数に基づいて算出される、最大ドップラー周波数に対応する線形予測係数に関する情報を保持することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の無線通信装置。
【請求項8】
複数のアンテナを備えた無線通信装置と対向無線通信装置との間の通信を制御する通信制御方法であって、
前記複数のアンテナで受信した信号から受信伝搬路を算出する受信伝搬路算出ステップと、
前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて最大ドップラー周波数を算出する最大ドップラー周波数算出ステップと、
前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の外挿値における外挿係数を保持する外挿係数保持ステップと、
前記最大ドップラー周波数算出ステップにおいて算出された最大ドップラー周波数に基づいて、前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された複数の相異なる時刻の受信伝搬路の線形結合で表される、送信時の線形予測値の線形予測係数を保持する線形予測係数保持ステップと、
前記外挿係数保持ステップにおいて保持された外挿係数および前記線形予測係数保持ステップにおいて保持された線形予測係数の何れか一方の係数と、前記受信伝搬路算出ステップにおいて算出された受信伝搬路と、に基づいて、送信伝搬路を算出する送信伝搬路算出ステップと、
前記送信伝搬路算出ステップにおいて算出された送信伝搬路に基づいて送信ウェイトを算出する送信ウェイト算出ステップと、
送信データおよび前記送信ウェイト算出ステップにおいて算出された送信ウェイトに基づいて前記複数のアンテナから送信する信号を生成する送信信号生成ステップと、を含むことを特徴とする通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−182503(P2009−182503A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18278(P2008−18278)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】