説明

無線通信装置及び通信ルート選定方法

【課題】マルチホップ通信を行う無線通信装置及びその通信ルート選定方法に関し、混雑している無線通信装置を避けて通信ルートを選定し、かつ周辺の無線環境の変化に対応して最適な通信ルートに変更可能にする。
【解決手段】データ送信の要求が発生すると(1−1)、各アンテナの受信電界強度を測定し(1−2)、各受信電界強度から各アンテナの指向方向の無線空間の空間利用率を計算し(1−3)該空間利用率を基に、空間利用率の低い指向方向を通信ルート探索方向として選定する(1−4)。該探索方向に向けてルーティング信号を送信し、通信ルートの探索を開始し(1−5)、マルチホップ通信の通信ルートを決定し(1−6)、データ送信を開始する(1−7)。通信中も受信電界強度を監視し、該受信電界強度を基に各指向方向別の空間利用率を算出し(1−8)、空間利用率の低い指向方向を通信ルート探索方向として選定する(1−4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に及び通信ルート選定方法に関する。本発明は、例えば、マルチホップ通信を行う無線通信装置、及びマルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティングを行う際の通信ルート選定方法に好適に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、マルチホップ通信を行うときは、各無線通信装置で、マルチホップ通信の通信ルートを決定した後、該通信ルートを介してマルチホップ通信を行う。マルチホップ通信の通信ルートを決定する際に、送信元の無線通信装置から宛先の無線通信装置までのルートとして、中継装置の数が最少のルートを選択する、或いは、受信電界強度(RSSI:Received Signal Strength Indication)から各中継装置間の通信距離を求め、該通信距離の総計が最短のルートを選択する、等のルート選定基準により通信ルートを決定していた。
【0003】
例えば、図15のように無線通信装置15−1〜15−11が配置され、無線通信装置15−1が無線通信装置15−2に対して通信する場合、従来のルート選定基準である中継装置数を最少にするという基準で通信ルートを決定する場合、図16のように、無線通信装置15−3、無線通信装置15−4を経由するルートが選定される。
【0004】
また、無線通信装置に指向性アンテナを備え、複数の指向方向の受信品質を測定し、該受信品質を基に周辺の無線環境の状況を判定して、マルチホップ無線通信のルーティングを行う方式は、例えば下記の特許文献1等により知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−258811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来のルート選定手法は、中継装置数の最少化、或いは通信距離の総計の最短化等の点で適切なルート選定であったとしても、特定の無線通信装置に複数の通信ルートの中継が集中する場合が発生し、輻輳の発生、スループットの低下という点で、必ずしも最適なルートとはならない場合があった。
【0007】
例えば、図16の配置例で、無線通信装置15−8と無線通信装置15−11との通信を、無線通信装置15−3と無線通信装置15−4とで中継しているとき、無線通信装置15−1と無線通信装置15−2との通信を、無線通信装置15−3と無線通信装置15−4とで中継することになると、輻輳の問題が発生する。
【0008】
そのため、図17のように、無線通信装置15−1と無線通信装置15−2との通信は、無線通信装置15−5と無線通信装置15−6と無線通信装置15−7を経由するルートを選定した方が、中継装置数は多くなるが、輻輳による伝送速度の低下が抑えられることとなる。
【0009】
また、周辺の無線環境の状況を判定して、マルチホップ無線通信のルーティングを行う従来の手法は、一度通信ルートを決定してしまうと、周辺の無線環境の状況が変わって、より最適な通信ルートが新たに発生したとしても、その変化に追従して通信ルートを変更するものではなかった。
【0010】
本発明は、既に多数の通信を中継する等により通信が混雑している無線通信装置を避けて通信ルートを選定し、また、周辺の無線環境の状況変化に対応して即座に最適な通信ルートに変更することができる無線通信装置及び通信ルート選定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する一形態の無線通信装置は、マルチホップ通信機能を有し、送受信波の指向方向が異なる複数のアンテナを備えた無線通信装置において、前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間又はサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、前記各指向方向別の各空間利用率を所定の利用率閾値と比較し、該利用率閾値以下の空間利用率の指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、マルチホップ通信の開始後、前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、を備えたものである。
【0012】
また、他の形態としての無線通信装置は、前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間又はサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、前記各指向方向別の各空間利用率を、各空間利用率間で相互に比較し、より空間利用率の低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、マルチホップ通信の開始後、前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、を備えたものである。
【0013】
また、上記課題を解決する通信ルート選定方法は、マルチホップ通信を行う無線通信装置の通信ルートを決定する際の通信ルート選定方法であって、前記無線通信装置に備えた指向方向が異なる複数のアンテナで受信される各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間又はサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出ステップと、前記空間利用率が所定の利用率閾値より低い指向方向、又は前記指向方向別の空間利用率が相対的により低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定ステップと、前記探索方向選定ステップで選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信するステップと、マルチホップ通信の開始後、前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させるステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
空間利用率の高い方向を避けてマルチホップ通信のルーティングを行うことができ、特定の無線通信装置や無線空間に通信が集中することを避けることが可能となる。そのため、他の多くの通信を中継し、頻繁に信号が飛び交っている無線中継装置や無線空間を回避して通信ルートを選定することができ、輻輳によるスループットの低下や伝送速度の低下を防ぐことが可能となる。
【0015】
また、通信ルートを決定し通信を開始した後も、周辺の無線環境の状況を監視し、周辺の無線環境の状況の変化に対して、混雑のより少ない通信ルートを探索し、最適な通信ルートに即座に変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】無線通信装置の動作フロー例を示す図である。
【図2】各アンテナの指向方向の一例を示す図である。
【図3】各指向方向別の受信電界強度の時間的変化の一例を示す図である。
【図4】空間利用率を算出するための具体的手法の説明図である。
【図5】ルーティング信号のパケットの構成例を示す図である。
【図6】第1の実施例の無線通信装置の構成例を示す図である。
【図7】利用率閾値を変更してルート探索を行う動作フロー例を示す図である。
【図8】強度閾値を変更してルート探索を行う動作フロー例を示す図である。
【図9】閾値を変更せずにルート探索を行う動作フロー例を示す図である。
【図10】通信ルートの探索の失敗に対する動作フロー例を示す図である。
【図11】第2の実施例の無線通信装置の構成例を示す図である。
【図12】空間利用率を相互に比較してルート探索方向を選定する動作フロー例を示す図である。
【図13】ルーティング信号を送信したアンテナを識別するパケットの構成例を示す図である。
【図14】ルーティングに用いるアンテナとは別に通信用アンテナを設けた構成例を示す図である。
【図15】無線通信装置の配置例を示す図である。
【図16】中継装置数最少のルート選定基準による通信ルートの例を示す図である。
【図17】輻輳が発生しにくい通信ルートの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
開示の無線通信装置は、指向性を有する複数のアンテナを備え、各指向方向の受信電界強度を測定する。そして、受信電界強度が閾値を超えた時間的な割合から、各指向方向の混雑状況を示す指標となる空間利用率を求める。そして、該空間利用率が低い方向に対して、ルーティング信号を送信し、通信ルートを決定する。
【0018】
さらに、一度決定した通信ルートで通信を開始した後も、各アンテナの受信電界強度を基に空間利用率を算出し、空間利用率が下がった指向方向にルーティング信号を送信し、新たに探索された通信ルートと既に通信を行っている通信ルートとを比較し、より空間利用率の低いルートを選択する。
【0019】
空間利用率の高い指向方向に存在する無線中継装置は、他の多くの通信を中継しており、該無線中継装置を介した場合、スループットが低下する。又は、空間利用率の高い指向方向は頻繁に無線信号が飛び交っているため輻輳が発生しやすい。そこで、空間利用率の高い指向方向を避けてルーティングを行うことにより、特定の無線通信装置や無線空間に通信が集中することを避けることができる。
【0020】
図1に開示の無線通信装置の動作フロー例を示す。該無線通信装置において、データ送信の要求が発生すると(1−1)、各アンテナで受信される無線信号の受信電界強度を測定する(1−2)。そして、各アンテナの受信電界強度から、各アンテナの指向方向の無線空間の空間利用率を計算する(1−3)。
【0021】
上記空間利用率を基に、空間利用率の絶対値又は相対値が低い指向方向を、マルチホップ通信の通信ルート探索方向として選定する(1−4)。そして、該探索方向に向けてマルチホップ通信のルーティングを行うためのルーティング信号を送信し、通信ルートの探索を開始し(1−5)、マルチホップ通信の通信ルートを決定する(1−6)。
【0022】
決定した通信ルートでマルチホップ通信のデータ送信を開始し(1−7)、該マルチホップ通信の通信中でも、無線通信装置は、各アンテナの受信電界強度を監視し、該受信電界強度を基に各指向方向別の空間利用率を算出する(1−8)。そして、該空間利用率に変動が有った場合に、空間利用率の低い指向方向を、通信ルート探索方向として選定し(1−4)、以下同様の処理により、ルーティング信号を再度送信して通信ルートを探索し(1−5)、マルチホップ通信の通信ルートを変更する(1−6)。
【0023】
通信ルートを決定する際、又は通信ルートを変更する際に、複数のルート探索方向へルーティング信号を送信したことによって、複数の通信ルートが発見された場合、発見された各通信ルートの空間利用率を相互に比較し、より空間利用率の低い通信ルートを選択する。
【実施例1】
【0024】
この無線通信装置の実施例における各アンテナの指向方向の一例を図2に示す。図2の(a)は、指向性アンテナの指向性パターンの一例を示している。この実施例の無線通信装置100は、図2(a)のような指向性パターンを有する指向性アンテナを4基備え、該4基の指向性アンテナは、図2(b)のようにそれぞれ異なる第1〜第4の指向方向2−1,2−2,2−3,2−4に向くように配置されているものとする。
【0025】
無線通信装置100に到来する無線信号は、各指向性アンテナで受信され、無線通信装置100は、各指向性アンテナの受信電界強度を測定し、各アンテナの指向方向別の受信電界強度を基に、無線空間の空間利用率を算出する。無線通信装置100は、該空間利用率を基に、無線空間の混雑状況を判定する。
【0026】
図3は、各アンテナの指向方向別の受信電界強度の時間的変化の一例を示し、(a)は第1の指向方向、(b)は第2の指向方向、(c)は第3の指向方向、(d)は第4の指向方向の受信電界強度(RSSI)の例を示している。図3の例では、破線で示す強度閾値より高い受信電界強度が観測される時間割合(即ち、空間利用率)が、第1の指向方向で最も大きく、第1の指向方向の無線空間が最も混雑していると判定される。
【0027】
空間利用率を算出するための具体的手法について図4を参照して説明する。図4の(a)は、所定の強度閾値以上の受信電界強度が観測される時間の比率を基に空間利用率を算出する例を示す。即ち、所定の観測期間Tを予め定め、該所定の観測期間T内に、強度閾値以上の受信電界強度が観測される観測時間t1,t2,t3を測定し、該観測期間Tに対する、強度閾値以上の受信電界強度の観測時間t1,t2,t3の合計時間の比率を空間利用率として算出する。例えば、所定の観測期間Tを20秒間として受信電界強度を観測し、強度閾値を上回った観測時間t1,t2,t3の合計が15秒であった場合、空間利用率を75%(=15÷20)と算出する。
【0028】
図4の(b)は、所定の強度閾値以上の受信電界強度が観測されるサンプリング測定回数の比率を基に空間利用率を算出する例を示す。即ち、受信電界強度を測定する所定数のサンプリング測定回数を予め定め、強度閾値以上の受信電界強度が観測されるサンプリング測定回数の、該所定数の全サンプリング測定回数に対する比率を、空間利用率として算出する。例えば20回の全サンプリング測定回数のうち、強度閾値を上回ったサンプリング測定回数が14回あった場合、空間利用率を70%(=14÷20)と算出する。
【0029】
図4の(c)は、所定の観測期間T内に強度閾値以上の受信電界強度が観測されるサンプリング測定回数の比率を基に空間利用率を算出する例を示す。即ち、所定の観測期間Tを予め定め、該所定の観測期間T内に強度閾値以上の受信電界強度が観測されるサンプリング測定回数の、該観測期間T内の全サンプリング測定回数に対する比率を、空間利用率として算出する。例えば、所定の観測期間Tが20秒間で、その間の全サンプリング測定回数が13回であるとし、該観測期間T内に、受信電界強度が強度閾値を上回ったサンプリング測定回数が9回であった場合、空間利用率を69%(=9÷13)と算出する。
【0030】
上述の何れかの手法により、各アンテナの指向方向の受信電界強度を基に各指向方向の空間利用率を算出し、各指向方向別の空間利用率を基に、ルーティング信号を送信する指向方向を選定し、該指向方向のアンテナからルーティング信号を送信する。ルーティング信号は、例えば図5に示すようなパケット構造を有し、プリアンブル5−1、同期ワード5−2、パケット長5−3、送信元アドレス5−4、宛先アドレス5−5、ホップ数5−6、データ部5−7を含んでいる。
【0031】
通信ルートは、例えばAODV(Ad hoc On-Demand Distance Vector)プロトコルを用いて決定する。ルーティング信号を受信した無線通信装置は、自装置のアドレスがルーティング信号内の宛先アドレスと一致するか否かをチェックし、一致した場合、ルート決定信号を送信元に送り返す。
【0032】
宛先アドレスと異なる場合、装置内に保持している経路表を参照し、経路表内に記録されている宛先アドレスとルーティング信号内の宛先アドレスが一致するか否かをチェックし、一致した場合、ルート決定信号を送信元に送り返す。ルート決定信号は、それまでの経路を逆にたどって送信元まで送られる。経路表内に宛先アドレスが存在しなかった場合は、ルーティング信号を他の無線通信装置へ送信する。経路表には、宛先に対応した次に送信する相手が記されている。
【0033】
ルーティング信号が永久に中継されることを防ぐために、パケット内にホップ数が記録され、ルーティング信号が中継されるごとに該ホップ数を1ずつ増加させ、定められた値を該ホップ数が超えた場合、それ以上ルーティング信号が中継されないよう、ルーティング信号の中継を停止する。
【0034】
送信元通信装置では、宛先までの経路を知ることはできないが、経路表に基づき、中継する通信装置を相手として通信する。中継装置となる通信装置でも同様の動作が繰り返し行われ、最終的に宛先の通信装置にルーティング信号が到達する。
【0035】
図6に第1の実施例の無線通信装置の構成例を示す。無線通信装置100は、指向性を有する各アンテナ120対応に、受信電界強度測定部101、強度判定部102、空間利用率算出部103をそれぞれ備える。また、無線通信装置100は、空間利用率記録部104、送信方向判定部105、ルーティング信号送信アンテナ制御部106、ルーティング信号作成部107、利用率閾値設定部108、強度閾値設定部109、使用アンテナ判定部110、アンテナ制御部111、通信部112を備える。
【0036】
受信電界強度測定部101は、各アンテナ120の受信電界強度を測定し、その測定値を強度判定部102に送出する。強度判定部102は、測定された受信電界強度の値を、強度閾値設定部109に設定された強度閾値と比較し、受信電界強度が強度閾値を上回る場合、その無線空間が他の無線通信装置により利用されていると判定し、該判定結果を空間利用率算出部103に送出する。
【0037】
空間利用率算出部103は、強度判定部102から送出される、所定の観測期間又は所定のサンプリング測定回数分の判定結果をまとめて空間利用率を算出し、該空間利用率を空間利用率記録部104に送出する。空間利用率記録部104は、各空間利用率算出部103で算出された空間利用率を、各アンテナの指向方向別に蓄える。
【0038】
送信方向判定部105は、空間利用率記録部104に蓄えられた各指向方向別の空間利用率を、利用率閾値設定部108に設定された利用率閾値と比較し、各空間利用率が利用率閾値を下回るか否かを判定する。送信方向判定部105は、該判定結果に基づいて、空間利用率が利用率閾値を下回る指向方向のアンテナを選定する。
【0039】
送信方向判定部105は、選定したアンテナの識別情報をルーティング信号送信アンテナ制御部106に通知する。ルーティング信号送信アンテナ制御部106は、ルーティング信号生成部107により生成されたルーティング信号を、送信方向判定部105により選定されたアンテナの指向方向に送信するよう制御する。
【0040】
なお、各指向方向別の空間利用率と利用率閾値とを比較し、利用率閾値以下の指向方向を選定する手法では、全ての指向方向の空間利用率が利用率閾値を上回った場合、ルーティング信号を送信する指向方向を選定することができない。
【0041】
そのような場合に対して、送信方向判定部105は、利用率閾値設定部108に設定された利用率閾値をより高い値に変更させ、各指向方向別の空間利用率をそれぞれ変更後の利用率閾値と比較し、各空間利用率が該利用率閾値を下回るか否かを判定する。該判定結果に基づいて、空間利用率が該変更後の利用率閾値を下回る指向方向のアンテナを選定し直す構成とすることができる。
【0042】
上述の利用率閾値を変更してルート探索を行う動作フロー例を図7に示す。図7の動作フロー例において、動作1−1〜1−3及び1−5〜1−8は、図1における動作フローと同様であるので重複した説明は省略する。図7の動作フロー例では、動作フロー1−3による各アンテナの指向方向別の空間利用率の算出の次に、各指向方向別の空間利用率を利用率閾値と比較し、該利用率閾値を下回った空間利用率のアンテナの指向方向を、ルート探索方向として選定する(7−1)。
【0043】
上記の動作7−1を実施した後に、ルート探索方向が1以上選定されたか否かを判定する(7−2)。ルート探索方向が1以上選択された場合、図1の動作フローと同様に、ルート探索を開始し(1−5)、以降、図1の動作フローと同様の動作フローを実施する。一方、ルート探索方向が全く選定されなかった場合、利用率閾値をより高い値に変更し(7−3)、再度、動作フロー7−1に戻って、各指向方向別の空間利用率を変更後の利用率閾値と比較し、該利用率閾値を下回る空間利用率の指向方向のアンテナを選定し直す。
【0044】
また、上述の利用率閾値を高い値に変更する構成に代えて、無線空間の利用判定に用いる受信電界強度に対する強度閾値を高く変更する構成とすることができる。このような構成とする場合、送信方向判定部105は、強度閾値設定部109に設定された強度閾値をより高い値に変更させる。
【0045】
すると、強度判定部102は、測定された受信電界強度の値を、高く変更された強度閾値と比較し、受信電界強度が該強度閾値を上回る場合に、その無線空間が他の無線通信装置により利用されていると判定するため、空間利用率算出部103では、強度閾値が低い場合に比べて、空間利用率がより低い値に算出される。その結果、全ての指向方向の空間利用率が利用率閾値を上回ってしまう確率を減少させることができる。
【0046】
上述の強度閾値を高く変更する構成の動作フロー例を図8に示す。この動作フロー例は、図7の動作フローにおける動作フロー7−3(利用率閾値をより高い値に変更する動作)に代えて、無線空間が利用されているか否かを判定する受信電界強度に対する強度閾値をより高い値に変更する動作(8−1)に変更したものである。強度閾値をより高い値に変更(8−1)した後、各アンテナの受信電界強度から、各アンテナの指向方向の無線空間の空間利用率を計算する動作(1−3)を実施し、以降、図1等を参照して説明した動作と同様の動作を実施する。
【0047】
更に他の変形例として、図9に示す動作フロー例のように、ルート探索方向が1以上選定されたか否かの判定(7−2)の結果、空間利用率が所定の利用率以下となる指向方向が1つも無く、ルート探索方向が全く選定されなかった場合、単に各アンテナで受信電界強度を測定する動作(1−2)を再度行い、ルート探索方向の選定動作をやり直す構成とすることができる。これは、無線空間における空間利用状況は一定ではなく、各アンテナの受信電界強度が変動する可能性があるため、各アンテナの受信電界強度を測定し直すことにより、ルート探索方向が1以上選定される可能性があるためである。
【0048】
また、空間利用率の低い方向をルート探索方向として選定し、該ルート探索方向にルーティング信号を送信しても、該ルート探索方向に中継装置となる無線通信装置が存在しないなどにより、ルート探索に失敗する場合がある。
【0049】
そのような場合に対する対応策として、例えば図10に示す動作フローのように、通信ルートが発見されたか否かを判定し(10−1)、通信ルートが発見されなかった場合、利用率閾値を高い値に変更し(10−2)、再度、ルート探索方向を選定する(7−1)。こうすることにより、ルート探索方向を増やし、中継装置となる無線通信装置が存在するルートが選定される確率を高め、ルート探索の成功率を高めることができる。
【実施例2】
【0050】
前述の図6に示した実施例1の構成例における送信方向判定部105に代えて、図11に示すように、送信方向比較部113を備えた構成とすることができる。送信方向判定部105では、各指向方向別の空間利用率をそれぞれ所定の利用率閾値と比較して、空間利用率の絶対値が利用率閾値より低い指向方向を選定したのに対して、送信方向比較部113は、各指向方向別の空間利用率を、各空間利用率間で相互に比較し、相対的により空間利用率の低い指向方向を、通信ルートの探索方向として選定する。
【0051】
空間利用率を相互に比較してルート探索方向を選定する実施例の動作フロー例を図12に示す。この実施例において、データ送信の要求が発生すると(1−1)、各アンテナで受信される無線信号の受信電界強度を測定する(1−2)。そして、各アンテナの受信電界強度から、各アンテナの指向方向の無線空間の空間利用率を計算する(1−3)。
【0052】
上記空間利用率を基に、各指向方向別の空間利用率を、各空間利用率間で相互に比較し、相対的により空間利用率の低い指向方向を、通信ルートの探索方向として選定する(12−1)。そして、該探索方向に向けてマルチホップ通信のルーティングを行うためのルーティング信号を送信し、通信ルートの探索を開始し(1−5)、マルチホップ通信の通信ルートを決定する(1−6)。
【0053】
決定した通信ルートでマルチホップ通信のデータ送信を開始する(1−7)。該マルチホップ通信の通信中でも、無線通信装置は、各アンテナの受信電界強度を監視し、該受信電界強度を基に各指向方向別の空間利用率を算出する(1−8)。そして、該空間利用率に変動が有った場合に、空間利用率のより低い指向方向を、通信ルート探索方向として選定し(12−1)、以下同様の処理により、ルーティング信号を再度送信して通信ルートを探索し(1−5)、マルチホップ通信の通信ルートを変更する(1−6)。
【0054】
なお、相対的に空間利用率の低い指向方向をルート探索方向として選定する際に、空間利用率の低いものから順に予め設定した数の指向方向を、ルート探索方向として選択する構成、又は、空間利用率の高いものから順に予め設定した数の指向方向を混雑方向と判断し、その指向方向以外の指向方向をルート探索方向として選択する構成するとすることができる。
【0055】
上述の実施例1又は実施例2において、通信ルートが決定された後、該通信ルートの探索に用いた指向性アンテナ120を用いてマルチホップ通信を行う構成とすることができる。このような構成とする場合、マルチホップ通信に用いる指向性アンテナ120の選択方法として、ルーティングにより決定したルート上の直接の通信相手装置(隣接する中継装置)が発した無線信号の受信電界強度が最も高い指向性アンテナを、使用アンテナ判定部110により判定する。
【0056】
そして、該受信電界強度が最も高い指向性アンテナを、マルチホップ通信に用いるアンテナとしてアンテナ制御部111により選択し、通信部112によるマルチホップ通信を、該選択した指向性アンテナ120を用いて行う構成とすることができる。
【0057】
また、ルーティング信号のパケットに、図13に示すように、送信アンテナ記録部13−1の格納領域を設ける。そして、ルート探索方向の指向性アンテナからルーティング信号を送信するときに、該ルーティング信号の送信アンテナ記録部13−1に、送信する指向性アンテナ毎に異なるアンテナ識別情報を格納して送信する。
【0058】
このアンテナ識別情報を格納したルーティング信号を受け取った宛先アドレスの無線通信装置は、通信ルートを決定すると、このアンテナ識別情報を含むルート確認情報を送信元アドレスの無線通信装置に返信する。こうすることにより、通信ルートを決定する要因となったルーティング信号を送信した指向性アンテナを、送信元アドレスの無線通信装置で認識し、該送信元アドレスの無線通信装置は、該ルーティング信号を送信した指向性アンテナを、マルチホップ通信用のアンテナとして選択する構成とすることができる。
【0059】
また、マルチホップ通信に用いるアンテナとして、図14に示すように、ルーティングに用いた指向性アンテナ120ではなく、別の通信用アンテナ130を別途用意し、通信部112によるマルチホップ通信を、別に設けた通信用アンテナ130を用いて行う構成とすることができる。
【0060】
こうすることにより、通信用アンテナ130によるマルチホップ通信中でも、常時、各指向性アンテナ120の受信電界強度を基に空間利用率を算出し、空間利用率が下がった指向方向にルーティング信号を送信する制御動作が容易になり、周辺の無線環境の状況が変わったとき、その変化に追従してより最適な通信ルートに変更する制御動作を容易化することができる。
【符号の説明】
【0061】
100 無線通信装置
120 指向性を有する各アンテナ
101 受信電界強度測定部
102 強度判定部
103 空間利用率算出部
104 空間利用率記録部
105 送信方向判定部
106 ルーティング信号送信アンテナ制御部
107 ルーティング信号作成部
108 利用率閾値設定部
109 強度閾値設定部
110 使用アンテナ判定部
111 アンテナ制御部
112 通信部
113 送信方向比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチホップ通信機能を有し、複数のそれぞれの指向方向が異なる送受信用のアンテナを備えた無線通信装置において、
前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、
前記各指向方向別の各空間利用率を所定の利用率閾値と比較し、該利用率閾値以下の空間利用率の指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、
前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
マルチホップ通信機能を有し、複数のそれぞれの指向方向が異なる送受信用のアンテナを備えた無線通信装置において、
前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度のサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、
前記各指向方向別の各空間利用率を所定の利用率閾値と比較し、該利用率閾値以下の空間利用率の指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、
前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
マルチホップ通信機能を有し、複数のそれぞれの指向方向が異なる送受信用のアンテナを備えた無線通信装置において、
前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、
前記各指向方向別の各空間利用率を、各空間利用率間で相互に比較し、より空間利用率の低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、
前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
マルチホップ通信機能を有し、複数のそれぞれの指向方向が異なる送受信用のアンテナを備えた無線通信装置において、
前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度のサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出手段と、
前記各指向方向別の各空間利用率を、各空間利用率間で相互に比較し、より空間利用率の低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定手段と、
前記探索方向選定手段で選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信する手段と、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させる手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
前記探索方向選定手段において、前記利用率閾値以下となる空間利用率の指向方向が1つも発見されなかったとき、前記利用率閾値をより高い値に設定させ、前記各指向方向別の各空間利用率をより高い利用率閾値と比較し、より高い利用率閾値以下の空間利用率の指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定し直すことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記探索方向選定手段において、前記利用率閾値以下となる空間利用率の指向方向が1つも発見されなかったとき、前記強度閾値をより高い値に設定させ、前記空間利用率算出手段において、該より高い強度閾値と受信電界強度を比較して、無線空間における各指向方向別の空間利用率を算出し、前記探索方向選定手段において、該空間利用率を用いて、前記利用率閾値以下の指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定し直すことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項7】
マルチホップ通信を行う無線通信装置の通信ルートを決定する際の通信ルート選定方法であって、
前記無線通信装置に備えた指向方向が異なる複数のアンテナで受信される各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度の観測時間の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出ステップと、
前記空間利用率が所定の利用率閾値より低い指向方向、又は前記指向方向別の空間利用率が相対的により低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定ステップと、
前記探索方向選定ステップで選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信するステップと、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させるステップと、
を含むことを特徴とする通信ルート選定方法。
【請求項8】
マルチホップ通信を行う無線通信装置の通信ルートを決定する際の通信ルート選定方法であって、
前記無線通信装置に備えた指向方向が異なる複数のアンテナで受信される各指向方向別の各受信電界強度を測定して所定の強度閾値と比較し、該強度閾値を越えた受信電界強度のサンプリング回数の比率を、無線空間における各指向方向別の空間利用率として算出する空間利用率算出ステップと、
前記空間利用率が所定の利用率閾値より低い指向方向、又は前記指向方向別の空間利用率が相対的により低い指向方向を、前記通信ルートの探索方向として選定する探索方向選定ステップと、
前記探索方向選定ステップで選定した指向方向に、マルチホップ通信の通信ルートを決定するルーティング信号を前記アンテナから送信するステップと、
マルチホップ通信の開始後、必要に応じて前記各指向方向別の各受信電界強度を測定して各空間利用率を算出し、該空間利用率を基に、前記探索方向選定手段による通信ルートの探索方向の選定動作を実施させるステップと、
を含むことを特徴とする通信ルート選定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−21419(P2013−21419A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151385(P2011−151385)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】