説明

無線通信装置

【課題】可変移相器を比較的簡素な構造で実現でき、またアンテナの素子数が増大した場合も安価に回路全体を構築できる無線通信装置を提供する。
【解決手段】第1正弦波信号及びこの第1正弦波信号と位相が異なる第2正弦波信号を発生させる第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43と、この正弦波発生手段で発生した第1及び第2正弦波信号それぞれの振幅を制御する可変減衰器85,86と、この振幅制御された第1正弦波信号及び第2正弦波信号を合成し、無線通信用の合成正弦波信号を生成する加算器87とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変移相機能を備えた無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信システム一般において、例えば、アンテナからの送信波送信時に受信系に混入干渉する不要波を相殺(補償)するための相殺波(補償信号)を作成し、不要波と合成するキャンセル制御の手法が知られている。この制御では、送信系から分波した信号を可変移相器及び可変減衰器で位相及び振幅を調整して相殺波を作成し、これを合波器で受信系に合成することにより不要波を相殺している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
同様に送信回路又は受信回路に可変移相器を用いる無線通信システムの他の例として、複数のアンテナ素子を介し無線通信を高感度に行うため、複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させるいわゆるフェイズドアレイ制御や、複数のアンテナ素子による指向性を前記無線タグ回路素子に対する受信感度が最適となるよう変化させるいわゆるアダプティブアレイ制御等も知られている。
【0004】
なお、その他、受信機との相対位置関係が激しく変動する場合にも受信レベルを安定させるために可変移相器を用いる無線通信システムも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−122429号公報(段落番号0030〜0046、図1及び図4)
【特許文献2】特開平5−206919号公報(段落番号0010〜0029、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術は、可変移相器をどのようにして構成するか、及び、アンテナ素子の数が増大した場合に回路全体をどのようにしてなるべく簡素に構成しコスト低減を図るか、ということについて特に配慮されたものではなかった。
【0007】
本発明の目的は、可変移相器を比較的簡素な構造で実現でき、またアンテナの素子数が増大した場合も安価に回路全体を構築できる無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、第1正弦波信号及びこの第1正弦波信号と位相が異なる第2正弦波信号を発生させる正弦波発生手段と、この正弦波発生手段で発生した前記第1及び第2正弦波信号それぞれの振幅を制御する振幅制御手段と、この振幅制御手段で振幅制御された前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号を合成し、無線通信用の合成正弦波信号を生成する正弦波合成手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本願第1発明においては、正弦波発生手段で発生させた互いに位相が異なる第1正弦波信号及び第2正弦波信号のそれぞれを、振幅制御手段で振幅制御した後、正弦波合成手段で合成することで合成正弦波信号を生成する。ここで、第2正弦波信号を第1正弦波信号と位相が90°異なる直交成分と、同相の成分である同相成分に分けて考え、同相成分は第1正弦波信号に加えられ全体としてsin信号となり、直交成分はcos信号成分となる。このように振幅の異なるsin信号とcos信号との組み合わせで所望の正弦波信号を合成することにより、比較的簡素な構造で位相可変機能を実現することができる。
【0010】
また、送信用に複数のアンテナ素子を用いる場合には、正弦波発生手段については全アンテナ素子に共通とし、この共通の正弦波発生手段で発生した第1及び第2正弦波信号を、各アンテナ素子ごとに設けた振幅制御手段及び正弦波合成手段で振幅制御及び合成すれば足りる。したがって、アンテナの素子数が増大した場合でも、比較的安価に回路全体を構築することができる。
【0011】
第2の発明は、上記第1発明において、前記正弦波発生手段は、互いに略90°位相が異なる前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号を発生し、前記正弦波合成手段は、前記第1及び第2正弦波信号とは振幅及び位相の異なる前記合成正弦波信号を生成することを特徴とする。
【0012】
正弦波合成手段で合成を行い合成正弦波信号を生成する際、第1正弦波信号と第2正弦波信号の位相とが90°異なると、それぞれそのままでsin信号とcos信号となり、これを組み合わせて所望の正弦波信号を合成することができるので、振幅制御が容易となる。
【0013】
第3の発明は、上記第2発明において、前記正弦波発生手段は、前記第1正弦波信号として通信対象へアクセスするための搬送波を発生する搬送波出力手段を備え、この搬送波出力手段から出力された前記搬送波を前記通信対象へ送信可能な送信手段と、この送信手段からの送信信号に応じて前記通信対象からの送信信号を受信可能な受信手段とを設け、前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記受信手段での信号受信時に、前記送信手段からの送信信号に基づき生じうる不要波と略同振幅で位相が逆になるような相殺波を発生することを特徴とする。
【0014】
受信手段での信号受信時に、送信手段からの送信信号に基づき生じうる不要波(いわゆる回り込み)を、正弦波合成手段で発生した相殺波で相殺することにより、受信感度の向上を図ることができる。
【0015】
第4の発明は、上記第3発明において、前記正弦波発生手段は、正弦波のサンプリング列を前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号とする第1デジタル−アナログ変換器及び第2デジタル−アナログ変換器であることを特徴とする。
【0016】
正弦波のサンプリング列を第1及び第2デジタル−アナログ変換器でそれぞれ変換し、第1及び第2正弦波信号を生成することができる。
【0017】
第5の発明は、上記第3発明において、前記受信手段で受信した受信信号と前記正弦波合成手段からの相殺波とを合成して補正受信信号を生成する合波手段と、この合波手段で生成した前記補正受信信号をデジタル変換するアナログ−デジタル変換器とを有し、1デジタル−アナログ変換器に入力されるクロック信号と、前記アナログ−デジタル変換器に入力されるクロック信号は、共通の信号であるか、若しくは共通の発振手段から生成された信号であることを特徴とする。
【0018】
クロック信号として、互いに共通のクロック信号又は共通の発振手段で生成されたクロック信号を用いることにより、正弦波のサンプリング列を第1正弦波信号とする第1デジタル−アナログ変換器と、合波手段で生成した補正受信信号をデジタル変換するアナログ−デジタル変換器とを同期させて作動させることができる。
【0019】
第6の発明は、上記第5発明において、前記正弦波合成手段より出力された前記合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段と、前記合波手段で生成した前記補正受信信号の周波数を下降変換するダウンコンバータ手段とを有することを特徴とする。
【0020】
合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段を設けることにより、正弦波合成手段は上昇変換する前の比較的低周波数において合成を行うようにすることができるので、コストを低減することができる。また合波手段で生成した補正受信信号の周波数を下降変換するダウンコンバータ手段を設けることにより、補正受信信号をその後A/D変換する際には比較的低周波数において変換を行うようにすることができ、コストを低減することができる。
【0021】
第7の発明は、上記第5又は第6発明において、前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記相殺波に加え、前記補正受信信号の搬送波成分と略同振幅で位相が逆になるような2次相殺波をさらに生成することを特徴とする。
【0022】
これにより、補正受信信号に対し2次相殺波を合波させてその搬送波成分を2次相殺することができるので、さらに確実に受信感度の向上を図ることができる。
【0023】
第8の発明は、上記第1又は第2発明において、通信対象と非接触で情報通信を行う複数のアンテナ素子を有し、前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を制御しつつ前記通信対象へ送信するための各アンテナ素子に対して位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする。
【0024】
これにより、正弦波合成手段で発生した信号を用いて、複数のアンテナ素子による指向性を制御しつつ通信対象へ送信することができる。
【0025】
第9の発明は、上記第8発明において、正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させつつ前記通信対象へ送信するよう少なくとも位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする。
【0026】
これにより、複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させるいわゆるフェイズドアレイ制御を行い、通信感度を向上することができる。
【0027】
第10の発明は、上記第8発明において、前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を通信対象からの受信感度が最適となるよう前記通信対象へ送信するための振幅と位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする。
【0028】
これにより、複数のアンテナ素子による指向性を通信対象からの受信感度が最適となるように変化させるいわゆるアダプティブアレイ制御を行い、通信感度を向上することができる。
【0029】
第11の発明は、上記第8乃至第10発明のいずれか1つにおいて、前記正弦波発生手段は、正弦波のサンプリング列を正弦波信号とするデジタル−アナログ変換器であることを特徴とする。
【0030】
正弦波のサンプリング列をデジタル−アナログ変換器で変換することで、第1及び第2正弦波信号を生成することができる。
【0031】
第12の発明は、上記第8乃至第10発明のいずれか1つにおいて、前記正弦波合成手段より出力された前記合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段を有することを特徴とする。
【0032】
合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段を設けることにより、正弦波合成手段は上昇変換する前の比較的低周波数において合成を行うようにすることができるので、無線通信装置のコストを低減することができる。
【0033】
第13の発明は、上記第1乃至第12発明のいずれか1つにおいて、前記振幅制御手段は、前記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御する可変減衰器又は可変ゲイン増幅器と、その極性の反転・非反転を切換可能な反転手段とを備えることを特徴とする。
【0034】
可変減衰器又は可変ゲイン増幅器で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御し、反転手段でその極性の反転・非反転を切り替えることで、合成前の第1及び第2正弦波信号(sin信号とcos信号)の振幅及び極性を自在に設定することができるので、正弦波合成手段で所望の位相の合成正弦波信号を生成することができる。
【0035】
第14の発明は、上記第13発明において、前記振幅制御手段は、制御信号を生成しシリアル信号として出力する論理回路と、この論理回路からの前記シリアル信号をパラレル信号に変換し、その一部の値を用いて前記第1及び第2正弦波信号の振幅と極性を制御する制御信号を生成し、前記可変減衰器又は可変ゲイン増幅器、及び前記反転手段にそれぞれ出力するレジスタ手段とを有することを特徴とする。
【0036】
論理回路から出力されパラレル信号に変換された後の振幅制御信号を可変減衰器又は可変ゲイン増幅器に出力することで、第1及び第2正弦波信号の振幅をその制御信号に基づき制御することができ、また、極性制御信号を反転手段に出力することで、第1及び第2正弦波信号の極性をその制御信号に基づき制御することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、可変移相器を比較的簡素な構造で実現でき、またアンテナの素子数が増大した場合も安価に回路全体を構築できる無線通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1は、本実施形態の適用対象である無線タグ通信システムの全体概略を表すシステム構成図である。
【0040】
図1において、この無線タグ通信システムSは、本実施形態の無線通信装置としての質問器1(1つのみ図示しているが、複数あってもよい)と、これに対応する応答器としての無線タグTとから構成されるいわゆるRFID(Radio Frequency Identification)通信システムである。
【0041】
無線タグTは、アンテナ151とIC回路部150とを備えた無線タグ回路素子Toを有している。
【0042】
質問器1は、無線タグ回路素子Toの上記アンテナ151との間で無線通信により信号の送信・受信を行うこの例では1つの(送受信兼用)アンテナ2と、このアンテナ2を介し上記無線タグ回路素子Toに対する情報の読み取り及び書き込みの少なくとも一方を実行するために、送信信号(質問波Fc)をデジタル信号として出力したり、上記無線タグ回路素子Toからの返信信号(反射波Fr)を復調する等のデジタル信号処理を実行するDSP(Digital
Signal Processor)100と、このDSP100により出力された送信信号をアナログ信号に変換してアンテナ2を介し上記質問波Fcとして送信したり、上記無線タグ回路素子Toからの反射波Frを受信してデジタル変換し上記DSP100に供給する等の処理を実行する送受信回路200とから構成されている。
【0043】
上記質問器1より送信信号である質問波Fcが送信されると、その質問波Fcを受信した上記無線タグTの無線タグ回路素子Toにおいて所定の情報信号に基づいてその質問波Fcが変調されて返信信号である反射波Frとして返信され、上記質問器1によりその反射波Frが受信されて復調されることによって情報の送受が行われる。
【0044】
図2は、上記無線タグTに備えられた無線タグ回路素子Toの機能的構成の一例を表すブロック図である。
【0045】
図2において、無線タグ回路素子Toは、上記質問器1側の上記アンテナ2とUHF帯等の高周波を用いて非接触で上記質問波Fcの受信及び上記反射波Frの送信を行う上記アンテナ151と、このアンテナ151に接続されデジタル信号処理を行う上記IC回路部150とを有している。
【0046】
IC回路部150は、アンテナ151により受信された搬送波を整流する整流部152と、この整流部152により整流された搬送波のエネルギを蓄積し駆動電源とするための電源部153と、上記アンテナ151により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部157に供給するクロック抽出部154と、所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部155と、上記アンテナ151に接続された変復調部156と、上記電源部153からの電源に基づき上記整流部152、クロック抽出部154、及び変復調部156等を介して上記無線タグ回路素子Toの作動を制御するための制御部157とを備えている。
【0047】
変復調部156は、アンテナ151により受信された上記質問器1のアンテナ2からの通信信号の復調を行うと共に、上記制御部157からの返信信号に基づき、アンテナ2から受信された搬送波を反射変調する。
【0048】
制御部157は、上記変復調部156により復調された受信信号を解釈し、上記メモリ部155において記憶された情報信号に基づいて返信信号を生成し、上記変復調部156により返信する制御等の基本的な制御を実行する。
【0049】
なお、上記は副搬送波を用いないタイプの無線タグ回路素子Toを例にとって説明したが、これに限られず、副搬送波発振部及び副搬送波変調部(いずれも図示せず)を備え、その副搬送波発振部により発生させられた副搬送波を、上記制御部157を介して入力される所定の情報信号に基づき副搬送波変調部で変調し、アンテナ151より返信するようにしてもよい。
【0050】
図3は、上記質問器1の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【0051】
図3において、前述したように、質問器1は、DSP100と、送受信回路200と、アンテナ2とから構成されている。
【0052】
DSP100は、CPU、ROM、及びRAM等から構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータシステムである。
【0053】
このDSP100は、所定サンプリング点において各位相に対応するサンプリング値が予め記憶された関数テーブル40と、この関数テーブル40のサンプリング値をもとに無線タグ回路素子Toへの送信信号(搬送波)を形成するためにデジタル信号(正弦波をサンプリングした信号)を出力する送信デジタル信号出力部20と、関数テーブル40のサンプリング値をもとに例えば後述するように送信ディジタル信号出力部20とは1サンプルだけ遅延したディジタル信号(正弦波をサンプリングした信号)を出力することにより、この送信デジタル信号出力部20から出力される送信デジタル信号の位相とは90°位相が異なる送信デジタル信号を出力する90°移相(位相変換)部41と、上記搬送波を所定のコマンド信号に基づいて変調しアクセス情報とするための変調信号を出力する変調部22と、上記無線タグ回路素子Toへのアンテナ2からの送信信号に基づき生じる不要波を一次的に相殺するための第1キャンセル信号(第1相殺信号)の生成を制御する信号を出力する第1キャンセル制御信号出力部24と、第1キャンセル信号が備えるべき振幅及び位相に応じてこの第1キャンセル制御信号出力部24から出力される制御信号を制御する第1キャンセル信号制御部26と、上記不要波を二次的に相殺するための第2キャンセル信号(第2相殺信号)の生成を制御する信号を出力する第2キャンセル制御信号出力部28と、第2キャンセル信号が備えるべき振幅及び位相に応じてこの第2キャンセル制御信号出力部28から出力される制御信号を制御する第2キャンセル信号制御部30と、アンテナ2により受信された受信信号を復調するための復調部32と、この復調部32から出力される復調信号の直流成分(DC成分)を検出する直流成分検出部34と、上記受信信号の振幅を検出する受信信号振幅検出部36と、後述する第1信号合成部58から出力される第1合成信号の振幅を検出する第1合成信号振幅検出部38とを備えている。
【0054】
送受信回路200は、送信デジタル信号出力部20から出力される送信デジタル信号をアナログ信号に変換し第1正弦波信号を生成する高速の第1送信信号D/A変換器42と、90°移相部41から出力される送信デジタル信号をアナログ信号に変換し上記第1正弦波信号と位相が90°異なる第2正弦波信号を生成する高速の第2送信信号D/A変換器43と、所定の局部発振信号を出力する局部発振信号出力部44と、上記D/A変換器42によりアナログ信号に変換された送信信号の周波数をその局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ高くする第1アップコンバータ46と、この第1アップコンバータ46から出力される送信信号を増幅してその振幅を変更する第1増幅部48と、この第1増幅部48から出力される送信信号を送受信分離器50を介してアンテナ2に供給すると共に、このアンテナ2により受信された上記無線タグ回路素子Toからの返信信号(送信側からの回り込み信号を含む受信信号)を第1信号合成部58(後述)及び第2ダウンコンバータ74に供給する送受信分離器50と、上記第1キャンセル制御信号出力部24から出力される第1キャンセル制御信号を振幅信号に変換する低速の第1キャンセル制御信号D/A変換器53,54と、上記第1及び第2送信信号D/A変換器42,43からの第1及び第2正弦波信号を入力し、第1キャンセル制御信号D/A変換器53,54からの振幅信号及び第1キャンセル制御信号出力部24からの極性信号に基づき、それら第1及び第2正弦波信号それぞれの振幅を制御しつつそれらを合成して上記第1及び第2正弦波信号と振幅及び位相の異なる無線通信用(この場合は一次キャンセル用)の合成正弦波信号(第1キャンセル信号)を生成する第1合成正弦波信号生成回路80と、第1合成正弦波信号生成回路80から出力された上記第1キャンセル信号の周波数を上記局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ高くする第2アップコンバータ56と、この第2アップコンバータ56から出力される第1キャンセル信号及び送受信分離器50を介してアンテナ2から供給される上記受信信号を合成する第1信号合成部(合波器)58と、この第1信号合成部58から出力される第1合成信号を増幅してその振幅を変更する第2増幅部60と、その第2増幅部60から出力される第1合成信号の周波数を上記局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ低くする第1ダウンコンバータ62と、上記第2キャンセル制御信号出力部28から出力される第2キャンセル制御信号を振幅信号に変換する低速の第2キャンセル制御信号D/A変換器63,64と、上記第1及び第2送信信号D/A変換器42,43からの第1及び第2正弦波信号を入力し、第2キャンセル制御信号D/A変換器63,64からの振幅信号及び第2キャンセル制御信号出力部28からの極性信号に基づき、上記第1及び第2正弦波信号それぞれの振幅を制御しつつそれらを合成して上記第1及び第2正弦波信号と振幅及び位相の異なる無線通信用(この場合2次キャンセル用)の合成正弦波信号(第2キャンセル信号)を生成する第2合成正弦波信号生成回路90と、第2合成正弦波信号生成回路90から出力された上記第2キャンセル信号及び第1ダウンコンバータ62から出力される第1合成信号を合成する(必要に応じて増幅も行う)第2信号合成部66と、上記第1ダウンコンバータ62から出力される第1合成信号を増幅してその振幅を変更する第3増幅部68と、その第3増幅部68から出力される第1合成信号をデジタル変換して上記第1合成信号振幅検出部38に供給する第1合成信号A/D変換器70と、上記第2信号合成部66から出力される第2合成信号をデジタル変換して上記復調部32に供給する第2合成信号A/D変換器72と、上記送受信分離器50を介して供給される受信信号の周波数を上記局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ低くする第2ダウンコンバータ74と、その第2ダウンコンバータ74から出力される受信信号をデジタル変換して上記受信信号振幅検出部36に供給する受信信号A/D変換器76と、所定のクロック信号を出力するクロック信号出力部78とを備えている。
【0055】
クロック信号出力部(発振手段)78は、上記送信信号D/A変換器42,43にクロック信号を供給すると共に、上記第1合成信号A/D変換器70、第2合成信号A/D変換器72、及び受信信号A/D変換器76に上記送信信号D/A変換器42,43と共通のクロック信号を供給する。
【0056】
また、上記受信信号A/D変換器76には、上記第1合成信号A/D変換器70等に用いられる変換器よりもビット数の少ない変換器が好適に用いられる。そのような変換器によれば、上記無線タグ回路素子Toによる変調に関する成分を無視できるという利点がある。なお、上記局部発振信号出力部44としては、900MHz近傍や2.4GHz近傍の周波数を発振する発振器が好適に用いられる。また、上記送受信分離器50としては、サーキュレータ若しくは方向性結合器等が一般的に用いられる。
【0057】
上記構成の無線タグ通信システムSの基本動作を、以下、(a)〜(d)により説明する。
【0058】
(a)無線タグへの信号送信
上記構成の無線タグ通信システムSにおいて、質問器1のDSP100の関数テーブル40に基づき、送信デジタル信号出力部20によりデジタル信号である送信信号が出力され、この送信デジタル信号が送信信号D/A変換器42によりアナログ信号(正弦波信号)に変換される。
【0059】
この送信信号D/A変換器42によりアナログ信号に変換された送信信号の周波数が第1アップコンバータ46により局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ高められ、さらにこの信号の振幅が第1増幅部48において増加させられるとともに、変調部22からの変調信号によって変調される。第1増幅部48で変調され出力された送信信号は送受信分離器50を介してアンテナ2に供給され、アンテナ2から質問波Fcとして無線タグ回路素子Toに向けて送信される。
【0060】
(b)無線タグからの信号受信
アンテナ22からの質問波Fcが無線タグ回路素子Toのアンテナ151により受信されると、その質問波Fcが変復調部156に供給されて復調される。また、質問波Fcの一部は整流部152により整流され、電源部153にてエネルギ源(電源)とされる。この電源によって制御部157がメモリ部155の情報信号に基づき返信信号を生成し、この返信信号に基づき変復調部156が上記質問波Fcを変調し、アンテナ151から反射波Frとして質問器100に向けて返信される。
【0061】
無線タグ回路素子Toからの反射波Frが質問器1のアンテナ2により受信されると、送受信分離器50を介してその反射波Frが受信信号として第1信号合成部58及び第2ダウンコンバータ74に供給される。このとき、送受信分離器50を介して受信側に回り込んだ送信信号も受信信号と同時に第1信号合成部58及び第2ダウンコンバータ74に供給される。
【0062】
第2ダウンコンバータ74に供給された受信信号は、その周波数が局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ低下させられ、受信信号A/D変換器76によりデジタル変換された後に受信信号振幅検出部36に供給され、検出された受信信号の振幅が第1キャンセル信号制御部26に供給される。
【0063】
(c)一次キャンセル
第1キャンセル信号制御部26は、上記受信信号振幅検出部36から入力した受信信号の振幅及び上記第1合成信号振幅検出部38から入力した一次キャンセル後の受信信号の振幅に基づき、一次キャンセルを行うための第1キャンセル信号の位相及び振幅を決定する(詳細は後述)。決定された位相及び振幅は、第1キャンセル制御信号出力部24に入力される。第1キャンセル制御信号出力部24は上記決定した位相及び振幅の第1キャンセル信号を生成するためのデジタル信号である第1キャンセル制御信号を出力する。
【0064】
一方、上記送信デジタル信号出力部20へ入力される関数テーブルからのサンプリング値に基づき90°移相部41からデジタル信号である送信信号が出力され、この送信デジタル信号が送信信号D/A変換器43によりアナログ信号(正弦波信号)に変換される。この送信信号D/A変換器43の上記第2正弦波信号と上記送信信号D/A変換器42の上記第1正弦波信号とは、上記第1合成正弦波信号生成回路80及び第2合成正弦波信号生成回路90にそれぞれ供給される。
【0065】
第1合成正弦波信号生成回路80では、上記第1キャンセル制御信号出力部24からの(又はさらに第1キャンセル制御信号D/A変換器53,54を介した)上記第1キャンセル制御信号(極性切替用の極性信号Vswc1,Vsws1及び振幅制御用の制御電圧である振幅信号Vatc1,Vats1)に基づき、上記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御しつつそれらを合成して1次キャンセル用の合成正弦波信号(第1キャンセル信号)を生成する(詳細は後述)。
【0066】
第1合成正弦波信号生成回路80から出力された第1キャンセル信号は、その周波数が第2アップコンバータ56により局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ高められる。この第2アップコンバータ56から出力された第1キャンセル信号と送受信分離器50を介し供給された上記受信信号は第1信号合成部58により合成され、その受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号が除去(又は低減)される。
【0067】
第1信号合成部58から出力された第1合成信号は、第2増幅部60において所定の利得にてその振幅が変更される。このとき、前述したように第1キャンセル信号の振幅及び位相が好適に決定されると、その信号強度が相対的に低下して第1ダウンコンバータ62への入力信号が小さくなるため、第2増幅部60の利得が適宜増加させられる。
【0068】
第2増幅部60から出力された第1合成信号の周波数は第1ダウンコンバータ62により局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ低下させられ、第2信号合成部66及び第3増幅部68に供給される。なお、第3増幅部68の利得は予め定められた初期値とされる。なお、上記クロック信号出力部78から出力されるクロック信号の周波数は、好適には、このダウンコンバートされた第1合成信号(中間周波数信号)の周波数の4倍乃至はその整数倍とされる。
【0069】
第3増幅部68に供給された第1合成信号は、その第3増幅部68において上記所定の利得にてその振幅が変更される。第1ダウンコンバータ62から出力される第1合成信号は、第1信号合成部58における送信側からの回り込み信号の除去(低減)が進行するのに従って小さくなるので、好適には、第3増幅部68における利得はそれに伴い順次増加させられる。
【0070】
第3増幅部68から出力された第1合成信号は第1合成信号A/D変換器70によりデジタル変換された後に第1合成信号振幅検出部38に供給されてその振幅が検出され、その検出された振幅が上記第1キャンセル信号制御部26及び第2キャンセル信号制御部30に供給される。前述の第1キャンセル信号制御部26における位相及び振幅の決定は、上記受信信号振幅検出部36での検出結果、上記第1合成信号振幅検出部38での検出結果に応じ、第1信号合成部58に入力される受信信号の振幅と第1合成正弦波信号生成回路80から出力されアップコンバートされた上記第1キャンセル信号の振幅とが等しくなる(かつ位相が逆位相となる)ように決定される。すなわち、受信信号振幅検出部36での検出結果から第1キャンセル信号の振幅を決定できる。さらに、この振幅において、第1合成信号振幅検出部38での検出結果からその出力が最小となるよう第1キャンセル信号の位相を決定できる。
【0071】
(d)二次キャンセル
一方、第1合成信号振幅検出部38での振幅検出値を入力した第2キャンセル信号制御部30は、その検出値(一次キャンセル後の受信信号の振幅)及び第2合成信号A/D変換器72からの第2合成信号に基づき、二次キャンセルを行うための第2キャンセル信号の位相及び振幅を決定する(詳細は後述)。決定された位相及び振幅は、第2キャンセル制御信号出力部28に入力される。第2キャンセル制御信号出力部28は上記決定した位相及び振幅の第2キャンセル信号を生成するためのデジタル信号である第2キャンセル制御信号を出力する。
【0072】
ここで、上記第2合成正弦波信号生成回路90では、上記第1合成正弦波信号生成回路80と同様、第2キャンセル制御信号出力部28からの(又はさらに第2キャンセル制御信号D/A変換器63,64を介した)上記第2キャンセル制御信号(極性切替用の制御信号である極性信号Vswc2,Vsws2及び振幅制御用の制御電圧である振幅信号Vatc2,Vats2;後述も参照)に基づき、上記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御しつつそれらを合成して2次キャンセル用の合成正弦波信号(第2キャンセル信号)を生成する(詳細は後述)。
【0073】
第2合成正弦波信号生成回路90から出力された第2キャンセル信号は、上記第1ダウンコンバータ62から供給されたダウンコンバートされた第1合成信号と第2信号合成部66にて合成され、これによって第1合成信号に含まれる送信側からの回り込み信号が除去(低減)される。
【0074】
第2信号合成部66から出力された第2合成信号は、第2合成信号A/D変換器72においてデジタル変換された後、復調部32に供給され、復調部32により第2合成信号が復調されて無線タグ回路素子Toの情報信号が読み出される。また復調部32で復調された第2合成信号は、直流成分検出部34に入力されてその復調信号の直流成分が検出され、その検出結果が第2キャンセル信号制御部30に供給される。前述の第2キャンセル信号制御部30における位相及び振幅の決定は、送信側からの回り込み信号に対応する上記直流成分検出部34で検出した上記直流成分の振幅及び上記第1合成信号振幅検出部38での検出結果に基づき、第2信号合成部66に入力されるダウンコンバートされた第1合成信号の振幅と、第2合成正弦波信号生成回路90からの第2キャンセル信号の振幅とが等しくなる(かつ位相が逆位相となる)ように決定される。すなわち、上記第1合成信号振幅検出部38での検出結果に基づき第2キャンセル信号の振幅が決定でき、直流成分検出部34で検出した上記直流成分の振幅が最小となるよう第2キャンセル信号の位相を決定できる。
【0075】
以上(a)〜(d)で説明した基本通信動作により、本実施形態による無線タグ通信システムSは、アンテナ2からの受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号が好適に除去(低減)され、高感度の通信を実現することができる。
【0076】
上記のような基本構成及び動作の無線タグ通信システムSにおいて、本実施形態の要部は、第1及び第2合成正弦波信号生成回路80,90で、振幅の異なるcos信号(第1正弦波信号)とこれと位相が90°ずれたsin信号(第2正弦波信号)とを組み合わせ、所望の正弦波信号を合成することにより、比較的簡素な構造で位相可変機能を実現することにある。
【0077】
図4は、この本発明の原理を説明するためのベクトル表示による説明図である。図4(a)において、例えば位相θと振幅Aをもつ合成正弦波信号を生成したい場合には、第1正弦波信号(言い換えれば余弦波信号)の振幅をAcosθとする一方、これと位相が90°ずれた第2正弦波信号の振幅をAsinθとし、これら2つの信号を合成する(=ベクトル和をとる)ようにすればよい。このようにすれば、第1正弦波信号及び第2正弦波信号の振幅を制御するのみで、図4(b)〜図4(d)に示すように、どのような位相や振幅の正弦波信号も所望に合成し出力することができる。なお、図4(b)〜図4(d)では後述するように共通の関数テーブルが利用可能な位相が90°異なる2つの信号を用いたが、この位相差90°に限定されるわけではなく、図4(e)に示すように位相が異なる2つの信号A1,A2を用いれば同様に任意の振幅と位相を有する正弦波信号を合成することができる。
【0078】
図3に示した上記DSP100の関数テーブル40は、前述したように所定サンプリング点において各位相に対応するサンプリング値が予め記憶された正弦波テーブルである。本実施形態では、この関数テーブル40に基づき、送信デジタル信号出力部20及び90°移相部41が上記第1正弦波信号及び第2正弦波信号を生成する。図5(a)〜(d)は、関数テーブル40に格納された上記正弦波テーブル(IFテーブル)の例を示している。
【0079】
図5(a)〜(d)はいずれも、発振周波数をサンプリング周波数の1/4とすることで制御を簡単化した場合の例である。
【0080】
図5(a)の例では、初期位相「φ」に対して「cosφ」の値が予め記憶されており、「φ=0,(1/2)π,1,(3/2)π,…」に対して「1,0,-1,0,…」の離散的に連続する値が読み出され、上記送信デジタル信号出力部20がそれら連続する値をそのまま第1送信信号D/A変換器42に出力することにより、これを入力した第1送信信号D/A変換器42で上記第1正弦波信号(=余弦波信号)が生成される。この場合、90°移相部41は送信デジタル信号出力部20からの出力を受け取り1サンプルだけ遅延させて出力させたり、上記「φ=0,(1/2)π,1,(3/2)π,…」に対する読み取り位置をひとつずらし「0,1,0,-1,…」と読み出し第2送信信号D/A変換器43に出力することにより、これを入力した第2送信信号D/A変換器43によって、上記第1正弦波信号と位相が90°ずれた第2正弦波信号が生成される。
【0081】
図5(b)の例では、上記第1正弦波信号用の「cosφ」と上記第2正弦波信号用の「sinφ」の値がそれぞれ個別に記憶されている。そして、「φ=0,(1/2)π,1,(3/2)π,…」に対してそれぞれ「1,0,-1,0,…」「0,1,0,-1,…」の離散的に連続する値が読み出され、上記送信デジタル信号出力部20は「1,0,-1,0,…」の連続値を出力し第1送信信号D/A変換器42が上記第1正弦波信号を生成する一方、上記90°移相部41は「0,1,0,-1,…」の連続値を出力し第2送信信号D/A変換器43が上記第2正弦波信号を生成する。
【0082】
なお、図5(a)及び図5(b)の例に代えて、図5(c)及び図5(d)に示すように初期位相φについて別の任意の値とし(この例ではφ=(1/4)π,(3/4)π, (5/4)π,(7/4)π,…」、これに対応する離散的連続値(この例では「0.7071,-0.7071,-0.7071,0.7071,…」又は「0.7071,0.7071,-0.7071,-0.7071,…」)を読み出すようにしてもよい。
【0083】
以上図5(a)〜図5(d)に例示したようにして読み出した離散値に基づき第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43で互いに位相が90°ずれた第1正弦波信号及び第2正弦波信号が生成され、第1及び第2合成正弦波信号生成回路80,90へと入力する。
【0084】
なお、上述したように、関数テーブル40の正弦波テーブルを用いて正弦波を生成するとき、その正弦波信号の位相を変化させるためにはテーブルにおける読み取り位置を変更すればよく、振幅を変化させるためには読み出された正弦波信号に所定の制御値を乗算すればよい。
【0085】
図6は、第1合成正弦波信号生成回路80の詳細構成を表す回路図である。
図6において、第1合成正弦波信号生成回路80は、上記第1キャンセル制御信号D/A変換器53からの振幅制御用の制御電圧(振幅信号:以下同様)Vatc1に応じて動作し、第1送信信号D/A変換器42からの上記第1正弦波信号(cosωt)の振幅を制御する振幅制御手段としての可変減衰器85と、この第1正弦波信号の極性を反転させるためにゲインを−1としたアンプ81と、第1キャンセル制御信号出力部24からの上記極性切替用の制御信号(極性信号:以下同様)Vswc1に応じて動作し、上記第1正弦波信号の反転・非反転を切り替えるスイッチ83と、上記第1キャンセル制御信号D/A変換器54からの振幅制御用の制御電圧Vats1に応じて動作し、第2送信信号D/A変換器43からの上記第2正弦波信号(sinωt)の振幅を制御する振幅制御手段としての可変減衰器86と、この第2正弦波信号の極性を反転させるためにゲインを−1としたアンプ82と、第1キャンセル制御信号出力部24からの上記極性切替用の制御信号Vsws1に応じて動作し、上記第2正弦波信号の反転・非反転を切り替えるスイッチ84と、可変減衰器85,86からの出力を合成し、合成正弦波信号を生成する正弦波合成手段としての加算器87とを有する。
【0086】
上記のような構成により、D/A変換器53,54からの制御電圧Vatc1,Vats1に応じて可変減衰器85,86で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御し、第1キャンセル制御信号出力部24からの制御信号Vswc1,Vsws1に応じて反転手段としてのアンプ81,82及びスイッチ83,84でそれら第1及び第2正弦波信号の極性の反転・非反転を切り替えることで、合成前の第1及び第2正弦波信号(sinωtとcosωt)の振幅及びプラスマイナスを自在に設定することができ、所望の位相の合成正弦波信号を加算器87で生成し第2アップコンバータ56へ出力するようになっている。
【0087】
なお、第2合成正弦波信号生成回路90についても上記同様の構成であり、詳細な図示は省略するが、D/A変換器63,64からの制御電圧Vatc2,Vats2に応じて可変減衰器85,86で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御し、第2キャンセル制御信号出力部28からの制御信号Vswc2,Vsws2に応じて反転手段としてのアンプ81,82及びスイッチ83,84でそれら第1及び第2正弦波信号の極性の反転・非反転を切り替えることで、合成前の第1及び第2正弦波信号(sinωtとcosωt)の振幅及びプラスマイナスを自在に設定し、所望の位相の合成正弦波信号を加算器87で生成し第2信号合成部66へ出力するようになっている。
【0088】
なお、合成正弦波信号生成回路の構成は上記には限られず、他の構成でも良い。
【0089】
図7は、合成正弦波信号生成回路の変形例を表す回路図である。図7において、この合成正弦波信号生成回路80′は、図6に示した合成正弦波信号生成回路80の可変減衰器85,86に代えて、振幅制御手段として電圧制御可変ゲイン増幅器85′,86′を用いた場合である。可変増幅器85′は、上記可変減衰器85と同様、上記第1キャンセル制御信号D/A変換器53からの振幅制御用の制御電圧Vatc1に応じて動作し、第1送信信号D/A変換器42からの上記第1正弦波信号(cosωt)の振幅を制御する。可変増幅器86′は、上記可変減衰器86と同様、上記第1キャンセル制御信号D/A変換器54からの振幅制御用の制御電圧Vatc1に応じて動作し、第2送信信号D/A変換器43からの上記第1正弦波信号(cosωt)の振幅を制御する。その他の構成及び動作は合成正弦波信号生成回路80と同様である。なお、合成正弦波信号生成回路90についても同様の構成とすることができる。
【0090】
図8は、合成正弦波信号生成回路の他の変形例を表す回路図である。図6又は図7と同等の機能には同一の符号を付し、適宜説明を簡略化又は省略する。
【0091】
図8において、この例では、第1正弦波信号に係る構成、第2正弦波信号に係る構成ともに、絶対値回路AVC1,AV2をそれぞれ設けている。各絶対値回路AVC1,AVC2は、この例では2つのコンパレータC、2つのダイオードD、5つの抵抗Rを組み合わせた公知の構成である。
【0092】
絶対値回路AVC1は、上記制御電圧Vatc(Vatc1,Vatc2の総称、以下同様)に対応する制御電圧(但し極性も併せ持つ)Vatc′を入力してその絶対値|Vatc′|を可変減衰器85へ出力する。またVatc′自体を、一方側が接地されたコンパレータ88の他方側に供給し、極性(プラス又はマイナス)のみを取り出してスイッチ83へ供給し、スイッチ83において前述のようにアンプ81を用いた極性切換を行う。
【0093】
絶対値回路AVC2は、上記制御電圧Vats(Vats1,Vats2の総称、以下同様)に対応する制御電圧(但し極性も併せ持つ)Vats′を入力してその絶対値|Vats′|を可変減衰器86へ出力する。またVats′自体を、一方側が接地されたコンパレータ89の他方側に供給し、極性(プラス又はマイナス)のみを取り出してスイッチ84へ供給し、スイッチ84において前述のようにアンプ82を用いた極性切換を行う。
【0094】
なお、この変形例では前述した第1キャンセル制御信号出力部24からの制御信号Vswc1,Vsws1は不要となり、D/A変換器53,54から前述したように極性を併せ持つ制御電圧Vatc1′,Vats1′が出力され、絶対値回路AVC1,AVC2を介し出力されるそれら制御電圧Vatc1′,Vats1′の絶対値|Vatc1′|及び|Vats1′|に応じ、可変減衰器85,86で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御する。そして、反転手段としてのアンプ81,82及びスイッチ83,84で、上記コンパレータ88,89からの極性制御信号に応じて上記第1及び第2正弦波信号の極性の反転・非反転を切り替えることで、合成前の第1及び第2正弦波信号(sinωtとcosωt)の振幅及びプラスマイナスを自在に設定する。これにより、所望の位相の合成正弦波信号を加算器87で生成し第2アップコンバータ56へ出力する。
【0095】
また、第2合成正弦波信号生成回路90についても上記同様の構成とすることができる。前述した第2キャンセル制御信号出力部28からの制御信号Vswc2,Vsws2は不要となり、D/A変換器63,64から上記同様、極性を併せ持つ制御電圧Vatc2′,Vats2′が出力され、絶対値回路AVC1,AVC2を介し出力されるそれら制御電圧Vatc2′,Vats2′の絶対値|Vatc2′|及び|Vats2′|に応じ、可変減衰器85,86で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御する。そしてアンプ81,82及びスイッチ83,84で、上記コンパレータ88,89からの極性制御信号に応じて極性の反転・非反転を切り替え第1及び第2正弦波信号の振幅及びプラスマイナスを自在に設定し、これによって所望の位相の合成正弦波信号を生成し第2信号合成部66へ出力する。
【0096】
本変形例によれば、上述したように、第1キャンセル制御信号出力部24からの制御信号Vswc1,Vsws1(又は第2キャンセル制御信号出力部28からの制御信号Vswc2,Vsws2)が不要となることから、制御信号線の数を低減できるので、回路構成をより簡単とすることができる。
【0097】
以上において、第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43が、各請求項記載の、正弦波発生手段を構成するとともに、第1正弦波信号として通信対象へアクセスするための搬送波を発生する搬送波出力手段をも構成する。またアンテナ2が、この搬送波出力手段から出力された搬送波を通信対象へ送信可能な送信手段を構成するとともに、この送信手段からの送信信号に応じて通信対象からの送信信号を受信可能な受信手段をも構成する。また、第1信号合成部58が、受信手段で受信した受信信号と正弦波合成手段からの相殺波とを合成して補正受信信号を生成する合波手段を構成し、第2合成信号A/D変換器72が、この合波手段で生成した補正受信信号をデジタル変換するアナログ−デジタル変換器を構成する。
【0098】
さらに、第1送信信号D/A変換器42が、正弦波のサンプリング列を第1正弦波信号とする第1デジタル−アナログ変換器を構成し、第2送信信号D/A変換器43が、正弦波のサンプリング列を第2正弦波信号とする第2デジタル−アナログ変換器を構成する。また第2アップコンバータ56が、正弦波合成手段より出力された合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段を構成するとともに、第1ダウンコンバータ62が、合波手段で生成した補正受信信号の周波数を下降変換するダウンコンバータ手段を構成する。
【0099】
以上のように構成した本実施形態の無線タグ通信装置Sにおいては、第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43で発生させた互いに位相が90°異なる第1正弦波信号及び第2正弦波信号を、合成正弦波信号生成回路80,90においてそれぞれ振幅制御した後合成することで合成正弦波信号を生成する。このように振幅の異なるsin信号とcos信号との組み合わせで所望の正弦波信号を合成することにより、比較的簡素な構造で位相可変機能を実現することができる。また、任意の位相の正弦波信号を合成できるので、通常の移相器のように位相可変範囲が制限されることも無い。
【0100】
またこのとき、第1送信信号D/A変換器42に入力されるクロック信号と、第2合成信号A/D変換器72に入力されるクロック信号は、共通の発振手段であるクロック信号出力部78から生成された信号である(あるいは信号そのものを共通としても良い)ことにより、正弦波のサンプリング列を第1正弦波信号とする第1送信信号D/A変換器42と、1次キャンセル及び2次キャンセルを行った補正受信信号をデジタル変換する第2合成信号A/D変換器72とを同期させて作動させることができる。これにより、送信と受信の周波数ずれが発生せず、安定した復調処理を行うことができる。
【0101】
また、合成正弦波信号の周波数を上昇変換する第2アップコンバータ56を設けることにより、合成正弦波信号生成回路80,90は上昇変換する前の比較的低周波数において合成を行うようにすることができるので、コストを低減することができる。また第1信号合成部58で生成した補正受信信号の周波数を下降変換する第1ダウンコンバータ62を設けることにより、補正受信信号をその後第2合成信号A/D変換器72でA/D変換する際には比較的低周波数において変換を行うようにすることができ、コストを低減することができる。
【0102】
なお、本発明は、上記の形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で、種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0103】
(1)アレイアンテナに適用した場合
図9は、本変形例による質問器の機能的構成を表す機能ブロック図であり、上記実施形態の図3にほぼ相当する図である。図3と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0104】
図9において、本変形例では、上記実施形態ではアンテナ2を1つの送受信アンテナ2で構成していたのに代え、複数(この例では3つ)の送受信アンテナ(アンテナ素子)2−1,2−2,2−3で構成している。そして、それぞれに対応して、DSP100′内に、キャンセル処理部301−1、キャンセル処理部301−2、キャンセル処理部301−3を設けている。これらキャンセル処理部301−1〜301−3は、同一の回路構成であるので、適宜、アンテナ2−1に関わるキャンセル処理部301−1を代表させて説明する。以降、受信アンテナ2−1,2−2,2−3に関わる構成には、上記実施形態における符号に「−1」「−2」「−3」を符号にそれぞれ添えて表し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0105】
また、上記実施形態と同様、関数テーブル40、送信デジタル信号出力部20、90°移相部41、変調部22、第1送信信号D/A変換器42、第2送信信号D/A変換器43、局部発振信号出力部44が備えられ、さらに、本変形例固有の構成都として、フェイズドアレイ(PAA)処理部302、アダプティブアレイ(AAA)処理部303等が備えられている。アダプティブアレイ処理部303では、詳細な説明を省略するが、各アンテナ2−1,2−2,2−3での受信信号に基づき、公知の手法により、アンテナ2−1,2−2,2−3による指向性を、通信対象(無線タグT)からの受信感度が最適となるように制御する。フェイズドアレイ処理部302では、アンテナ2−1,2−2,2−3による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させつつ通信対象(無線タグT)へ送信するよう制御を行う(詳細は後述)。すなわち、良く知られているように、アンテナ間隔と各アンテナに供給される送信信号の位相差から指向性の方向が決定される。従って、各アンテナに供給する送信信号の位相を所望の指向性方向に応じて制御することが必要となる。
また、送受信アンテナ2−1に関わる構成として、DSP100′内に、上記キャンセル処理部301−1のほかに第1キャンセル制御信号出力部24−1と、第2キャンセル制御信号出力部28−1と、アンテナ2−1,2−2,2−3による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させつつ無線タグTへ送信するための制御信号を生成し出力するフェイズドアレイ制御信号出力部305−1が設けられている。キャンセル処理部301−1には、第1キャンセル信号制御部26−1、第2キャンセル信号制御部30−1、復調部32−1、直流成分検出部34−1、受信信号振幅検出部36−1、第1合成信号振幅検出部38−1を備えている。
【0106】
このような構成の本変形例において、上記実施形態で説明したのと同様、関数テーブル40に基づき送信デジタル信号出力部20により出力された送信デジタル信号は、高速のD/A変換器42によりアナログ信号(正弦波信号)に変換される。一方、上記実施形態と同様、上記送信デジタル信号出力部20からの信号に基づき90°移相部41から送信信号が出力され、この信号が高速の送信信号D/A変換器43によりアナログ信号(正弦波信号)に変換される。これら送信信号D/A変換器43の上記第2正弦波信号と上記送信信号D/A変換器42の上記第1正弦波信号とは、第1合成正弦波信号生成回路80−1及び第2合成正弦波信号生成回路90−1にそれぞれ供給されるとともに、さらに第3合成正弦波信号生成回路304−1(詳細は後述)にも供給される。
【0107】
第3合成正弦波信号生成回路304−1では、上記フェイズドアレイ処理部302からのフェイズドアレイ用制御信号に基づき、上記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御しつつそれらを合成して、各アンテナ2−1,2−2,2−3に対し位相が制御された合成正弦波信号を生成する(詳細は後述)。第3合成正弦波信号生成回路304−1から出力された上記合成正弦波信号は、その周波数が第1アップコンバータ46−1により局部発振信号出力部44からの局部発振信号の周波数だけ高められ、さらに振幅が第1増幅部48−1において増加されかつ上記変調部22からの変調信号で変調される。第1増幅部48−1から出力された送信信号は送受信分離器50−1を介してアンテナ2−1に供給され質問波Fcとして無線タグ回路素子Toに向けて送信される。
【0108】
無線タグ回路素子Toからの反射波Frがアンテナ2−1により受信され送受信分離器50−1を介したその反射波Frは受信信号として第1信号合成部58−1に供給される。なお、図示を省略しているが、上記実施形態と同様の第2ダウンコンバータ74−1、受信信号A/D変換器76−1、受信信号振幅検出部36、第1合成信号振幅検出部38等が設けられており、同様の機能を果たす。
上記第1信号合成部58−1では上記実施形態と同様の一次キャンセルが行われる。すなわち、第1キャンセル信号制御部26−1は、上記受信信号振幅検出部36−1から入力した振幅及び上記第1合成信号振幅検出部38−1から入力した振幅に基づき第1キャンセル信号の位相及び振幅を決定する。決定された位相及び振幅は第1キャンセル制御信号出力部24−1に入力され、第1キャンセル制御信号が出力される。
【0109】
第1合成正弦波信号生成回路80−1では、上記第1キャンセル制御信号出力部24−1からの(又はさらに低速の第1キャンセル制御信号D/A変換器53−1,54−1を介した)上記第1キャンセル制御信号に基づき、上記実施形態と同様、上記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御しつつそれらを合成して1次キャンセル用の合成正弦波信号(第1キャンセル信号)を生成する。第1合成正弦波信号生成回路80−1から出力された第1キャンセル信号は、その周波数が第2アップコンバータ56−1により局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ高められ、この信号と送受信分離器50−1を介し供給された上記受信信号が第1信号合成部58−1により合成され、その受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号が除去(又は低減)される。
【0110】
第1信号合成部58−1から出力された第1合成信号は、第2増幅部60−1において所定の利得にてその振幅が変更された後、その周波数は第1ダウンコンバータ62−1により局部発振信号出力部44から出力される局部発振信号の周波数だけ低下させられ、第2信号合成部66−1に供給される(なお図示しない第3増幅部68−1にも供給される)。第3増幅部68−1に供給された第1合成信号はその振幅が変更された後、第1合成信号A/D変換器70−1によりさらにデジタル変換された後に第1合成信号振幅検出部38−1に供給されてその振幅が検出され、その検出された振幅が上記第1キャンセル信号制御部26−1及び第2キャンセル信号制御部30−1に供給される。
【0111】
一方、第1合成信号振幅検出部38−1での振幅検出値を入力した第2キャンセル信号制御部30−1は、その検出値(一次キャンセル後の受信信号の振幅)及び第2合成信号A/D変換器72からの第2合成信号に基づき第2キャンセル信号の位相及び振幅を決定する。第2キャンセル制御信号出力部28−1は、上記決定された位相及び振幅の第2キャンセル信号を生成するための第2キャンセル制御信号を出力する。第2合成正弦波信号生成回路90−1は、上記第2キャンセル制御信号出力部28−1からの(又はさらに低速の第2キャンセル制御信号D/A変換器63−1,64−1を介した)上記第2キャンセル制御信号に基づき、上記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御しつつそれらを合成して第2キャンセル信号を生成する。
【0112】
第2合成正弦波信号生成回路90−1から出力された第2キャンセル信号は、上記第1ダウンコンバータ62−1から供給されたダウンコンバートされた第1合成信号と第2信号合成部66−1にて合成され、これによって第1合成信号に含まれる送信側からの回り込み信号が除去(低減)される。
【0113】
第2信号合成部66−1から出力された第2合成信号は、第2合成信号A/D変換器72−1においてデジタル変換された後、上記復調部32−1及びアダプティブアレイ処理部303に供給される。上記アダプティブ処理部303で前述のように不要信号が除去(低減)された第2合成信号はアダプティブ処理され、信号対雑音比が高くエラー率の小さな最適な受信指向性に基づいて合成され復調され無線タグ回路素子Toの情報信号が読み出される。また復調部32−1で復調された第2合成信号は、直流成分検出部34−1に入力されてその復調信号の直流成分が検出され、その検出結果が第2キャンセル信号制御部30−1に供給される。無線タグ回路素子Toの情報はアダプティブ処理部303で読み出されるので、復調部32−1では第2キャンセル信号制御部30−1に供給されるべき直流成分の大きさを検出するための復調のみが行われる。
【0114】
図10は、第3合成正弦波信号生成回路304−1の詳細構成を表す回路図である。図10において、第3合成正弦波信号生成回路304−1は、前述の第1合成正弦波信号生成回路80及び第2合成正弦波信号生成回路90と類似した構成であり、上記フェイズドアレイ制御信号出力部305−1からのデジタル信号をD/A変換した低速のD/A変換器306−1からの振幅制御用の制御電圧(振幅信号:以下同様)に応じて動作し、高速の第1送信信号D/A変換器42からの上記第1正弦波信号(cosωt)の振幅を制御する上記可変減衰器85と、この第1正弦波信号の極性を反転させるための上記アンプ81と、上記フェイズドアレイ制御信号出力部305−1からの極性切替用の制御信号(極性信号:以下同様)に応じて動作し、上記第1正弦波信号の反転・非反転を切り替える上記スイッチ83と、上記フェイズドアレイ制御信号出力部305−1からのデジタル信号をD/A変換した低速のD/A変換器307−1からの振幅制御用の制御電圧に応じて動作し、高速の第2送信信号D/A変換器43からの上記第2正弦波信号(sinωt)の振幅を制御する上記可変減衰器86と、この第2正弦波信号の極性を反転させるための上記アンプ82と、上記フェイズドアレイ制御信号出力部305−1からの上記極性切替用の制御信号に応じて動作し、上記第2正弦波信号の反転・非反転を切り替える上記スイッチ84と、上記可変減衰器85,86からの出力を合成し、合成正弦波信号を生成する上記加算器87とを有する。
【0115】
上記のような構成により、D/A変換器306−1及びD/A変換器307−1からの制御電圧に応じて可変減衰器85,86で第1及び第2正弦波信号の振幅を制御し、フェイズドアレイ制御信号出力部305−1からの制御信号に応じてアンプ81,82及びスイッチ83,84でそれら第1及び第2正弦波信号の極性の反転・非反転を切り替えることで、合成前の第1及び第2正弦波信号(sinωtとcosωt)の振幅及びプラスマイナスを自在に設定することができ、所望の位相の合成正弦波信号を加算器87で生成し第2アップコンバータ46−1へ出力するようになっている。
【0116】
なお、以上アンテナ2−1に関して説明した構成及び動作は、他のアンテナ2−2,2−3についても同様であるため、それぞれの詳細な説明は省略する。
【0117】
上記構成及び動作の本変形例によれば、上記実施形態と同様、アンテナ2−1,2−2,2−3からの受信信号に含まれる送信側からの回り込み信号が好適に除去(低減)され、高感度の通信を実現することができる。
【0118】
また、以上に加え、以下のような効果もある。すなわち、本変形例のように質問器1側にデジタル発振器を用い、さらに複数の素子2−1〜2−3からなるアレイアンテナを送信に用いる場合などは、通常は、各アンテナ素子ごとに高速なDA変換器が必要となるため、結果として多数のDA変換器が必要となってコストアップになる。これに対し、本実施形態においては、正弦波発生手段である第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43については全アンテナ(アンテナ素子)2−1,2−2,2−3に共通とし、この共通の正弦波発生手段で発生した第1及び第2正弦波信号を、各アンテナ2−1〜2−3ごとに設けた第1合成正弦波信号生成回路80−1〜80−3、第2合成正弦波信号生成回路90−1〜90−3、第3合成正弦波信号生成回路304−1〜304−3で振幅制御及び合成すれば足りる。すなわち、アンテナ素子数が多くても、比較的安価に回路全体を構築することができる。
【0119】
すなわち、一般に、第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43は例えば10.7MHz等の高速な処理ができる高価なD/A変換器を用いる必要がある。送信信号に加えて、第1キャンセル信号及び第2キャンセル信号を全て関数テーブルを利用した高価な高速D/A変換器を用いて発生させると、一つのアンテナに対して3組の高速D/A変換器を用いる必要があり、さらにこれがアンテナの数だけ必要となるので、複数のアンテナでアレイアンテナを構成した質問器1では、非常に多くの高速D/A変換器が必要となり、非常に複雑で高価なものとなる。本発明はこれに対して、第1送信信号D/A変換器42及び第2送信信号D/A変換器43のみ高速な処理ができる高価なD/A変換器を用いる。この2つの正弦波信号に対して、振幅信号を発生させる低速のアナログ信号を制御信号として用いることにより、安価な低速のD/A変換器を第1キャンセル制御信号D/A53,54及び第2キャンセル制御信号D/A63,64及びフェーズドアレイ制御信号D/A306、307の発生に用いることができ、振幅、位相が制御された送信信号やキャンセル信号発生を安価に実現することができる。送信信号の周波数に対して、振幅、位相の制御に必要な周波数ははるかに低いので、質問器1の構成が簡単となり、著しく安価なものにできる。
【0120】
なお、上記変形例のアダプティブアレイ処理は、フェイズドアレイ処理とは独立して受信のみで行われたが、DSP100′のアダプティブアレイ処理部303において受信アダプティブ処理で決定された重みづけを送信側でも用いることでアダプティブアレイ処理を実行してもよい。すなわち、フェイズドアレイ制御信号出力部305と同様のアダプティブアレイ制御信号出力部及びこれからの制御信号で動作する合成正弦波信号生成回路を設け、合成正弦波信号として、アンテナ(アンテナ素子2−1〜2−3)による指向性を無線タグTからの受信感度が最適となるよう無線タグTへ送信するための振幅と位相が制御された合成正弦波信号を発生するようにしてもよい。
【0121】
(2)合成正弦波信号生成回路への制御信号を簡素化した場合
以上は、合成正弦波信号生成回路80,90,304を、図6、図7、及び図8に示したように複数の制御信号を入力して動作するように構成したが、これら回路の構成は必ずしもこれに限られるものではなく、入力する制御信号を簡素化することも可能である。
【0122】
図11は、そのような変形例で用いる合成正弦波信号生成回路180,190の詳細構成を表す回路図である。上記図6と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0123】
図11において、合成正弦波信号生成回路180は、入力されたシリアル信号から振幅制御手段として、制御信号を生成して出力する論理回路170と、この論理回路170が抽出したシリアルデータ信号を用いて第1及び第2正弦波信号の振幅制御用の制御信号及び極性制御用の制御信号を出力するレジスタ手段としてのシフトレジスタ171及びレジスタ172と、上記振幅制御用の制御信号をD/A変換する低速のD/A変換器150,160とを備えている。
【0124】
上記構成において、第1キャンセル回路24から、制御信号線の情報とD/A変換器150,151に入力するデータをシリアルデータとして論理回路170へ伝送する。シフトレジスタ171は、論理回路170からのシリアルデータ信号を入力してパラレル信号に変換する。このときシリアルデータの前に挿入されているスタートビットでクロック信号出力部78からのクロックが有効とされ、シフトレジスタ171に所定ビット入力されると、シフトレジスタ171のパラレル信号がレジスタ172に入力される。所定クロック経過後にクロックが無効にされ、レジスタ172内のデータがラッチされ、各ビットの値が(シフトレジスタ171のパラレル信号のうち少なくとも一部が)、上記の振幅制御信号としてD/A変換器150,160を介し可変減衰器85,86へ供給されるとともに、上記の極性制御信号としてスイッチ83,84にそれぞれ出力される。
【0125】
この構成では、論理回路170から出力されパラレル信号に変換された後の信号を用いて生成した振幅制御信号及び極性制御信号で第1及び第2正弦波信号の振幅及び極性を制御するので、第1キャンセル制御信号出力部24(又は第2キャンセル回路28、フェーズドアレイ制御信号出力部305)から一本の信号線のみで制御できる。
【0126】
図12は、前述の図9に示した上記(1)の変形例の回路構成における第1合成正弦波信号生成回路80−1〜80−3、第2合成正弦波信号生成回路90−1〜90−3、第3合成正弦波信号生成回路304−1〜304−3に、上記図11の合成正弦波信号生成回路180の構成を適用した場合の回路図である。
【0127】
図示のように、上記図11の構成の合成正弦波信号生成回路180を用いることにより、回路全体の信号線の数が大幅に減り、構成を簡素化することができる。
【0128】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施形態の適用対象である無線タグ通信システムの全体概略を表すシステム構成図である。
【図2】図1に示した無線タグに備えられた無線タグ回路素子の機能的構成の一例を表すブロック図である。
【図3】図1に示した質問器の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【図4】本発明の原理を説明するためのベクトル表示による説明図である。
【図5】関数テーブルに格納された正弦波テーブルの例を示す図である。
【図6】第1合成正弦波信号生成回路の詳細構成を表す回路図である。
【図7】合成正弦波信号生成回路の変形例を表す回路図である。
【図8】合成正弦波信号生成回路の他の変形例を表す回路図である。
【図9】アレイアンテナに適用した変形例による質問器の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【図10】第3合成正弦波信号生成回路の詳細構成を表す回路図である。
【図11】合成正弦波信号生成回路への制御信号を簡素化した変形例で用いる合成正弦波信号生成回路の詳細構成を表す回路図である。
【図12】図9に示した回路構成における合成正弦波信号生成回路に、図11の合成正弦波信号生成回路の構成を適用した場合の回路図である。
【符号の説明】
【0130】
1 質問器(無線通信装置)
2 アンテナ(送信手段;受信手段)
42 第1送信信号D/A変換器(第1デジタル−アナログ変換器、
搬送波出力手段、正弦波発生手段)
43 第2送信信号D/A変換器(第2デジタル−アナログ変換器、
搬送波出力手段、正弦波発生手段)
56 第2アップコンバータ(アップコンバータ手段)
58 第1信号合成部(合波手段)
62 第1ダウンコンバータ(ダウンコンバータ手段)
72 第2合成信号A/D変換器(アナログ−デジタル変換器)
78 クロック信号出力部(発振手段)
85,86 可変減衰器(振幅制御手段)
87 加算器(正弦波合成手段)
S 無線タグ通信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1正弦波信号及びこの第1正弦波信号と位相が異なる第2正弦波信号を発生させる正弦波発生手段と、
この正弦波発生手段で発生した前記第1及び第2正弦波信号それぞれの振幅を制御する振幅制御手段と、
この振幅制御手段で振幅制御された前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号を合成し、無線通信用の合成正弦波信号を生成する正弦波合成手段とを有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
請求項1記載の無線通信装置において、
前記正弦波発生手段は、互いに略90°位相が異なる前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号を発生し、
前記正弦波合成手段は、前記第1及び第2正弦波信号とは振幅及び位相の異なる前記合成正弦波信号を生成することを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
請求項2記載の無線通信装置において、
前記正弦波発生手段は、前記第1正弦波信号として通信対象へアクセスするための搬送波を発生する搬送波出力手段を備え、
この搬送波出力手段から出力された前記搬送波を前記通信対象へ送信可能な送信手段と、この送信手段からの送信信号に応じて前記通信対象からの送信信号を受信可能な受信手段とを設け、
前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記受信手段での信号受信時に、前記送信手段からの送信信号に基づき生じうる不要波と略同振幅で位相が逆になるような相殺波を発生することを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
請求項3記載の無線通信装置において、
前記正弦波発生手段は、正弦波のサンプリング列を前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号とする第1デジタル−アナログ変換器及び第2デジタル−アナログ変換器であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
請求項3記載の無線通信装置において、
前記受信手段で受信した受信信号と前記正弦波合成手段からの相殺波とを合成して補正受信信号を生成する合波手段と、
この合波手段で生成した前記補正受信信号をデジタル変換するアナログ−デジタル変換器とを有し、
前記第1デジタル−アナログ変換器に入力されるクロック信号と、前記アナログ−デジタル変換器に入力されるクロック信号は、共通の信号であるか、若しくは共通の発振手段から生成された信号であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
請求項5記載の無線通信装置において、
前記正弦波合成手段より出力された前記合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段と、
前記合波手段で生成した前記補正受信信号の周波数を下降変換するダウンコンバータ手段とを有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項7】
請求項5又は6記載の無線通信装置において、
前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記相殺波に加え、前記補正受信信号の搬送波成分と略同振幅で位相が逆になるような2次相殺波をさらに生成することを特徴とする無線通信装置。
【請求項8】
請求項1又は2記載の無線通信装置において、
通信対象と非接触で情報通信を行う複数のアンテナ素子を有し、
前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を制御しつつ前記通信対象へ送信するための各アンテナ素子に対して位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
請求項8記載の無線通信装置において、
前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しその方向を順次変化させつつ前記通信対象へ送信するよう少なくとも位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする無線通信装置。
【請求項10】
請求項8記載の無線通信装置において、
前記正弦波合成手段は、前記合成正弦波信号として、前記複数のアンテナ素子による指向性を通信対象からの受信感度が最適となるよう前記通信対象へ送信するための振幅と位相が制御された合成正弦波信号を発生することを特徴とする無線通信装置。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記正弦波発生手段は、正弦波のサンプリング列を正弦波信号とするデジタル−アナログ変換器であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項12】
請求項8乃至10のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記正弦波合成手段より出力された前記合成正弦波信号の周波数を上昇変換するアップコンバータ手段を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項記載の無線通信装置において、
前記振幅制御手段は、前記第1及び第2正弦波信号の振幅を制御する可変減衰器又は可変ゲイン増幅器と、その極性の反転・非反転を切換可能な反転手段とを備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項14】
請求項13記載の無線通信装置において、
前記振幅制御手段は、制御信号を生成しシリアル信号として出力する論理回路と、この論理回路からの前記シリアル信号をパラレル信号に変換し、その一部の値を用いて前記第1及び第2正弦波信号の振幅と極性を制御する制御信号を生成し、前記可変減衰器又は可変ゲイン増幅器、及び前記反転手段にそれぞれ出力するレジスタ手段とを有することを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−74127(P2006−74127A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251854(P2004−251854)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】