説明

無線通信装置

【課題】無線リンクが切断された場合における通信性能の低下を抑制することの可能な無線通信装置を提供する。
【解決手段】通信相手との無線通信を実現する通信部と、前記通信相手との間の無線リンクの状態を検出する検出部と、前記通信相手へのデータ送信中に、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出された場合、前記通信部を制御して送信中のデータを再送する制御部とによって無線通信装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線通信システムにおける再送制御方式の1つとして、自動再送要求(ARQ:Automatic Repeat reQuest)が広く利用されている。例えば、Stop-and-Wait方式のARQでは、送信側は1パケットを受信側へ送信する度に、受信側からの受信確認信号(ACK:Acknowledgement)の返送を待ち、ACKパケットの返送があれば次パケットの送信を行う一方、ACKパケットの返送がないままACKタイムアウト時間が満了した場合には同一パケットを受信側へ再送する。
【0003】
以下、図4を用いて詳細に説明する。図4に示すように、送信側にて発生した送信すべきパケットP1乃至パケットP5は、パケットP1から順次受信側へ送信される。受信側で受信された場合には受信側はACKパケットを送信側へ返送する。パケットP1、パケットP2、パケットP3までは受信側で正常に受信されるため、受信側は送信側へACKパケットを返送する。しかし、パケットP4は受信側へ到達せず、若しくは正常に受信できないため、受信側はACKパケットを返送しない。この時、送信側はACKタイムアウト時間だけACKパケットが返送されるのを待ち、その後、送信側はパケットP4の送信に失敗したと判断してパケットP4を再送する。
【0004】
このACKタイムアウト時間は、送信側と受信側との間でパケットの送受信にかかる時間(RTT:Round Trip Time)を基に設定される。従って、送信側と受信側とが離れた位置にあり、RTTが増大する場合(つまりACKタイムアウト時間が増大する場合)、送信側がACKパケットを受信するまで待機する時間が長くなり、結果として通信性能が低下する虞がある。
【0005】
上記のようなARQにおけるACKタイムアウト時間の増大は、上位レイヤにてTCP(Transmission Control Protocol)を用いるような通信システムの通信性能を著しく低下させる要因となる。すなわち、レイヤ2におけるARQにより送信できなかったパケットを再送するために、ACKタイムアウト時間が満了するまで送信側は待機することになるが、この時、上位レイヤにおけるTCPは通信路に輻輳が発生したものと判断して送信データ量を低下させてしまう。さらに、その場合、レイヤ2にて再送が成功して通信が可能となっても、TCPは送信データ量を少しずつしか増加させていかないため、通信性能が低下した状態がしばらく継続することになる。
【0006】
このような課題に対し、例えば下記特許文献1(特開2005−244897号公報)には、送信側ではパケットデータを送信する際に、使用可能な帯域の範囲内でパケットデータを冗長化して送信し、受信側では冗長化分を破棄してパケットデータを受け取ることにより、パケットデータが喪失する可能性を低くし、再送が生じにくくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−244897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の技術では、例えば、無線通信路がミリ波のような非常に指向性が強いものであって、その無線通信路が鳥などの障害物によって遮断されて無線リンクが切断された場合、冗長化されたパケットデータ全てが喪失してしまう可能性がある。その場合には再送が発生するため、送信側はACKタイムアウト時間が満了するまで、受信側からのACKパケットの返送を待つことになり、また、ACKタイムアウト時間内に無線リンクが回復したとしても、パケットの再送はACKタイムアウト時間の満了後となる。すなわち、上記特許文献1の技術を採用したとしても、無線リンクが切断された場合には、TCPを用いる通信システムの通信性能が著しく低下する虞がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、無線リンクが切断された場合における通信性能の低下を抑制することの可能な無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る無線通信装置は、通信相手との無線通信を実現する通信部と、前記通信相手との間の無線リンクの状態を検出する検出部と、前記通信相手へのデータ送信中に、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出された場合、前記通信部を制御して送信中のデータを再送する制御部とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る無線通信装置は、前記通信相手へのデータ送信開始からタイムアウト時間の計時を開始する計時部を備え、前記制御部は、前記計時部から前記タイムアウト時間の満了を通知された場合、前記通信部を制御して送信中のデータを再送する一方、前記計時部から前記タイムアウト時間の満了を通知される前であっても、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出された場合には、前記通信部を制御して送信中のデータを再送することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る無線通信装置において、前記制御部は、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出されてから所定時間経過後に、前記通信部を制御して送信中のデータを再送することを特徴とする。
また、本発明に係る無線通信装置において、前記制御部は、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出されてから所定時間経過する前に、前記検出部によって前記無線リンクの切断が検出された場合には、前記データの再送を行わないことを特徴とする。
また、本発明に係る無線通信装置において、前記検出部は、前記通信相手から受信した無線信号の強度に基づいて前記無線リンクの状態を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無線通信装置によれば、通信相手へのデータ送信中に無線リンクが切断された場合でも、無線リンクの回復が検出されれば、送信中のデータの再送を行うため、従来のようにACKタイムアウト時間が満了するまで待機する必要はなく、通信性能の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における無線通信システムの構成概略図である。
【図2】本実施形態における基地局B及び移動局Tのブロック構成図である。
【図3】本実施形態における基地局B及び移動局Tの通信動作を示すシーケンスチャートである。
【図4】従来におけるStop-and-Wait方式ARQの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における無線通信システムの構成概略図である。この図1において、符号B1〜B3はセル方式に従って各地に設置された基地局であり、符号T1〜T9は移動局(例えば、ユーザが所有する携帯電話機など)であり、符号Nは無線通信事業者が独自に構築した無線ネットワークである。
なお、図1においては、図示を簡略化するため、基地局を3台、移動局を9台ずつ図示しているが、実際には、基地局は全国各地に必要な数だけ設置されており、また、移動局は所有するユーザの数だけ存在するものである。
また、本実施形態における無線通信システムは、再送制御方式としてStop-and-Wait方式のARQを採用しているものと想定する。
【0016】
基地局B1は、自身の担当する通信エリアW1内に存在する移動局T1、T2及びT3と無線通信を行う無線通信装置である。また、この基地局B1は、無線ネットワークNを介して、他の基地局B2及びB3や不図示のサーバ等と、上記移動局T1〜T3との間の通信を中継する中継機として機能する。また、勿論、基地局B1は、移動局T1、T2、T3間の通信を中継する中継機としても機能する。
【0017】
基地局B2は、自身の担当する通信エリアW2内に存在する移動局T4、T5及びT6と無線通信を行う無線通信装置である。また、この基地局B2は、無線ネットワークNを介して、他の基地局B1及びB3や不図示のサーバ等と、上記移動局T4〜T6との間の通信を中継する中継機として機能する。また、勿論、基地局B2は、移動局T4、T5、T6間の通信を中継する中継機としても機能する。
【0018】
基地局B3は、自身の担当する通信エリアW3内に存在する移動局T7、T8及びT9と無線通信を行う無線通信装置である。また、この基地局B3は、無線ネットワークNを介して、他の基地局B1及びB2や不図示のサーバ等と、上記移動局T7〜T9との間の通信を中継する中継機として機能する。また、勿論、基地局B3は、移動局T7、T8、T9間の通信を中継する中継機としても機能する。
なお、以下では、各基地局B1〜B3を区別する必要がない場合には「基地局B」と総称し、また、各移動局T1〜T9を区別する必要がない場合には「移動局T」と総称する。
【0019】
図2は、上述した基地局B及び移動局Tのブロック構成図である。この図2に示すように、基地局Bは、基地局無線装置1及び基地局制御装置2から構成されている。基地局無線装置1(通信部)は、基地局制御装置2による制御の下、自身の通信エリア内に存在する移動局Tとの間で無線信号の送受信を行うことで、通信相手である移動局Tとの無線通信を実現するものである。
【0020】
具体的には、この基地局無線装置1は、基地局制御装置2から入力されるパケットデータ(以下、単にパケットと称す)の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して移動局Tへ送信する。また、この基地局無線装置1は、アンテナを介して移動局Tから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことで無線信号に含まれるパケットを抽出し、当該抽出したパケットを基地局制御装置2に出力する。
【0021】
さらに、この基地局無線装置1は、内部にリンク状態検出部1aを備えている。このリンク状態検出部1a(検出部)は、通信相手である移動局Tから受信した無線信号の強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)に基づいて、移動局Tとの間の無線リンクの状態を検出し、その検出結果を示す信号を基地局制御装置2に出力するものである。具体的には、このリンク状態検出部1aは、移動局Tから受信した無線信号のRSSIが所定値を越えた場合に、移動局Tとの間の無線リンクが回復したことを示すリンクアップ検出信号を基地局制御装置2に出力する。
【0022】
基地局制御装置2は、基地局Bの全体動作を統括制御するものであり、送信データバッファ2a、タイマ部2b(計時部)及び通信制御部2c(制御部)を備えている。送信データバッファ2aは、無線ネットワークNから送信されるデータ(パケット)を、ユーザ毎に(送信先の移動局毎に)グループ化してバッファリングする記憶装置である。タイマ部2bは、通信制御部2cからの指示に応じて計時動作の開始及び終了を行うものであり、具体的には、移動局Tへのパケット送信開始からACKタイムアウト時間の計時を開始し、当該ACKタイムアウト時間が満了した場合にはその旨を通信制御部2cに通知する。
【0023】
通信制御部2cは、送信データバッファ2aから送信すべきパケットを取り出し、基地局無線装置1を制御して取り出したパケットを移動局Tに送信する機能(パケットスケジューリング機能)を有している。なお、通信制御部2cは、送信データバッファ2aから送信すべきパケットを取り出したタイミングをパケット送信開始タイミングとし、そのタイミングでタイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時開始を指示する。
【0024】
また、この通信制御部2cは、1パケットを移動局Tへ送信する度に、移動局Tからの受信確認信号(ACKパケット)の返送を待ち、ACKパケットの返送があれば(基地局無線装置1からACKパケットが入力されれば)、基地局無線装置1を制御して次パケットの送信を行う一方、ACKパケットの返送がないまま、タイマ部2bからACKタイムアウト時間の満了を通知された場合には、基地局無線装置1を制御して送信中のデータ(つまり同一パケット)を再送する機能(Stop-and-Wait方式のARQ機能)を有している。なお、通信制御部2cは、基地局無線装置1からACKパケットを入力されたタイミングで、タイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時終了を指示する。
【0025】
さらに、通信制御部2cは、本実施形態における特徴的な機能として、タイマ部2bからACKタイムアウト時間の満了を通知される前であっても、リンク状態検出部1aによって無線リンクの回復が検出された場合、つまり、リンク状態検出部1aからリンクアップ検出信号が入力された場合には、基地局無線装置1を制御して同一パケットを再送する機能を有している。
【0026】
一方、移動局Tは、移動局無線装置3、操作キー4、表示装置5、マイク6、スピーカ7、メモリ8及び移動局制御装置9から構成されている。移動局無線装置3は、移動局制御装置9による制御の下、基地局Bとの間で無線信号の送受信を行うことで、通信相手である基地局Bとの無線通信を実現するものである。
【0027】
具体的には、この移動局無線装置3は、移動局制御装置9から入力されるパケットの変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して基地局Bへ送信する。また、この移動局無線装置3は、アンテナを介して基地局Bから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことで無線信号に含まれるパケットを抽出し、当該抽出したパケットを移動局制御装置9に出力する。
【0028】
操作キー4は、テンキーやファンクションキー、通話キー、終話キー、多方向キーなどの各種操作キーから構成されており、ユーザによる各種操作キーの操作入力に応じた操作信号を移動局制御装置9に出力する。表示装置5は、例えば液晶表示装置であり、移動局制御装置9から入力される画像データに応じた画像を表示する。
【0029】
マイク6は、外部入力される音声を電気信号である音声入力信号に変換し、当該音声入力信号を移動局制御装置9に出力する。スピーカ7は、移動局制御装置9から入力される音声出力信号に応じた音声を外部に出力する。メモリ8は、移動局Tの各種機能を実現するための端末制御プログラムや各種設定データを予め記憶していると共に、移動局制御装置9による制御に応じて、電話番号やメールアドレス、画像データなどの各種情報を記憶する不揮発性メモリ(例えばフラッシュメモリ)である。
【0030】
移動局制御装置9は、メモリ8に記憶されている端末制御プログラムに従って、移動局Tの全体動作を統括制御するものである。具体的には、例えば、この移動局制御装置9は、ユーザによる操作キー4の操作に応じて、移動局無線装置3を制御することによって通話又は通信を実現する。また、この移動局制御装置9は、移動局無線装置3から入力されるパケットの巡回冗長検査(CRC:Cyclic Redundancy Check)を行うことで、基地局Bからパケットを正常に受信できたか否かを判断し、正常に受信できている場合には、移動局無線装置3を制御してACKパケットを基地局Bへ送信する機能を有している。
【0031】
次に、上記のように構成された基地局Bと移動局Tの通信動作について、図3のシーケンスチャートを参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、基地局Bから移動局Tへパケット送信を行う場合(ダウンリンク)を例示して説明する。また、基地局Bと移動局Tとの間で、既に無線リンクが確立されており、無線通信を開始する準備ができていると想定する。
【0032】
図3に示すように、まず、基地局Bにおいて、基地局制御装置2の通信制御部2cは、送信データバッファ2aから最初に送信すべきパケットP1を取り出して基地局無線装置1に出力すると共に、タイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時開始を指示する(ステップS1)。
そして、基地局無線装置1は、通信制御部2cの制御に応じて、パケットP1の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して移動局Tへ送信する(ステップS2)。ここで、パケットP1を含む無線信号は正常に移動局Tにて受信されたものと想定する。
【0033】
移動局Tにおいて、移動局無線装置3は、アンテナを介して基地局Bから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことでパケットP1を抽出し、当該抽出したパケットP1を移動局制御装置9に出力する(ステップS3)。
そして、移動局制御装置9は、移動局無線装置3から入力されるパケットP1の巡回冗長検査を行い、基地局BからパケットP1を正常に受信できたと判断すると、パケットP1に対応するACKパケットAP1を移動局無線装置3に出力する(ステップS4)。
移動局無線装置3は、ACKパケットAP1の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して基地局Bへ送信する(ステップS5)。ここで、ACKパケットAP1を含む無線信号は、ACKタイムアウト時間が満了する前に、正常に基地局Bにて受信されたものと想定する。
【0034】
基地局Bにおいて、基地局無線装置1は、アンテナを介して移動局Tから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことでACKパケットAP1を抽出し、当該抽出したACKパケットAP1を基地局制御装置2の通信制御部2cに出力する(ステップS6)。
そして、通信制御部2cは、基地局無線装置1からACKパケットAP1が入力されると、タイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時を終了するように指示した後、送信データバッファ2aから次に送信すべきパケットP2を取り出して基地局無線装置1に出力すると共に、タイマ部2bに対して、再度、ACKタイムアウト時間の計時開始を指示する(ステップS7)。
そして、基地局無線装置1は、通信制御部2cの制御に応じて、パケットP2の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して移動局Tへ送信する(ステップS8)。ここで、パケットP2を含む無線信号は正常に移動局Tにて受信されたものと想定する。
【0035】
移動局Tにおいて、移動局無線装置3は、アンテナを介して基地局Bから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことでパケットP2を抽出し、当該抽出したパケットP2を移動局制御装置9に出力する(ステップS9)。
そして、移動局制御装置9は、移動局無線装置3から入力されるパケットP2の巡回冗長検査を行い、基地局BからパケットP2を正常に受信できたと判断すると、パケットP2に対応するACKパケットAP2を移動局無線装置3に出力する(ステップS10)。
移動局無線装置3は、ACKパケットAP2の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して基地局Bへ送信する(ステップS11)。ここで、ACKパケットAP2を含む無線信号は、ACKタイムアウト時間が満了する前に、正常に基地局Bにて受信されたものと想定する。
【0036】
基地局Bにおいて、基地局無線装置1は、アンテナを介して移動局Tから受信した無線信号の周波数変換(ダウンコンバート)及び復調を行うことでACKパケットAP2を抽出し、当該抽出したACKパケットAP2を基地局制御装置2の通信制御部2cに出力する(ステップS12)。
そして、通信制御部2cは、基地局無線装置1からACKパケットAP2が入力されると、タイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時を終了するように指示した後、送信データバッファ2aから次に送信すべきパケットP3を取り出して基地局無線装置1に出力すると共に、タイマ部2bに対して、再度、ACKタイムアウト時間の計時開始を指示する(ステップS13)。
そして、基地局無線装置1は、通信制御部2cの制御に応じて、パケットP3の変調及び周波数変換(アップコンバート)を行うことで無線信号を生成し、当該無線信号をアンテナを介して移動局Tへ送信する(ステップS14)。
【0037】
ここで、パケットP3を含む無線信号の送信中に、無線通信路が障害物によって遮断されて無線リンクが切断された状態(リンクダウン)になったと想定する。この場合、移動局TにはパケットP3を含む無線信号が到達しないため、移動局Tから基地局BへパケットP3に対応するACKパケットAP3は送信されない。このような状況下で従来技術を採用した場合、ACKタイムアウト時間が満了するまでパケットP3の再送を行うことはできず、通信性能の低下を招くことになる。
【0038】
一方、上述したように、本実施形態における基地局Bの通信制御部2cは、タイマ部2bからACKタイムアウト時間の満了を通知される前であっても、リンク状態検出部1aからリンクアップ検出信号が入力された場合には、基地局無線装置1を制御して同一パケットを再送する機能を有している。
つまり、例えば、図3に示すように、パケットP3を含む無線信号の送信中において、障害物が移動、或いは移動局Tが移動するなどして無線リンクが回復し(リンクアップ)、基地局無線装置1のリンク状態検出部1aから通信制御部2cへリンクアップ検出信号が出力されたと想定すると、通信制御部2cは、タイマ部2bに対してACKタイムアウト時間の計時を終了するように指示した後、送信データバッファ2aから再送すべきパケットP3を取り出して基地局無線装置1に出力すると共に、タイマ部2bに対して、再度、ACKタイムアウト時間の計時開始を指示する(ステップS15)。
【0039】
この時、図3に示すように、再送待ち時間t(前回のパケットP3の送信時におけるACKタイムアウト時間の計時開始タイミングから、パケットP3の再送時におけるACKタイムアウト時間の計時開始タイミングまでの間の時間)は、ACKタイムアウト時間tACKより短くなり、ACKタイムアウト時間tACKの満了前にパケットP3の再送を行うことができることがわかる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、ACKタイムアウト時間内における無線リンクの瞬断に対して、RTT(Round Trip Time)に関係なく、リンクアップしたのとほぼ同時に再送パケットを送信することができるため、効率の良い再送制御が可能なり、その結果、無線通信システムにおける通信性能の低下を抑制することができる。
また、上位レイヤにおいてTCPのような輻輳制御機能を有するプロトコルを採用している無線通信システムにおいて、再送待ちのために失われる時間が少ないために、輻輳制御におけるスループットの低下を最小限に抑えることが可能となる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態では、通信相手である移動局Tから受信した無線信号の強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)に基づいて、移動局Tとの間の無線リンクの状態を検出する機能をリンク状態検出部1aに持たせた場合を例示して説明したが、無線リンクの状態を検出する手法はこれに限定されず、他の手法、例えば、信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)に基づいて無線リンクの状態を検出する手法などを用いても良い。
【0042】
(2)上記実施形態では、リンク状態検出部1aから通信制御部2cへリンクアップ検出信号が出力された場合に、直ちに再送パケットの送信を行う場合を例示したが、例えば、リンク状態検出部1aによって無線リンクの回復が検出されてから、つまりリンク状態検出部1aからリンクアップ信号が出力されてから、所定時間経過後に再送パケットを送信する機能を通信制御部2cに設けても良い。また、この場合、上記の所定時間が経過する前に、リンク状態検出部1aによって無線リンクの切断が検出された場合、つまりRSSIが所定値以下となり、リンク状態検出部1aからリンクダウン信号が出力された場合には、再送パケットの送信を行わないことが好ましい。
これにより、無線リンクが回復してから、直ぐに再び無線リンクが切断(瞬断)されるような場合には、無駄な再送を行うことがなくなり、より効率的な再送制御が可能となる。
【0043】
(3)上記実施形態では、再送制御方式としてStop-and-Wait方式のARQを採用した場合を例示して説明したが、本発明は、Go-Back-N方式やSelective-Repeat方式のARQを採用した場合にも適用することが可能である。これらGo-Back-N方式やSelective-Repeat方式のARQを採用する場合、連続してパケットを送信するためACKタイムアウト時間の満了待ち時間の無駄が大きく、本発明を適用することでその無駄な待ち時間を低減することができる。また、無線通信システムで用いられているような、HARQ(Hybrid-ARQ)を採用した場合にも本発明を適用可能である。
【0044】
(4)上記実施形態では、基地局Bから移動局Tへパケット送信する場合(ダウンリンク)を例示して説明したが、移動局Tから基地局Bへパケット送信する場合(アップリンク)についても同様に本発明を適用することが可能である。
また、上記実施形態では、送信側(基地局B)から送信したパケットが無線リンクの切断により喪失し、受信側(移動局T)へ到達しない場合を例示して説明したが、受信側から送信側へ送信すべきACKパケットが喪失した場合についても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
B(B1〜B3)…基地局(無線通信装置)、T(T1〜T9)…移動局、1…基地局無線装置(通信部)、1a…リンク状態検出部(検出部)、2…基地局制御装置、2a…送信データバッファ、2b…タイマ部(計時部)、2c…通信制御部(制御部)、3…移動局無線装置、4…操作キー、5…表示装置、6…マイク、7…スピーカ、8…メモリ、9…移動局制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信相手との無線通信を実現する通信部と、
前記通信相手との間の無線リンクの状態を検出する検出部と、
前記通信相手へのデータ送信中に、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出された場合、前記通信部を制御して送信中のデータを再送する制御部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記通信相手へのデータ送信開始からタイムアウト時間の計時を開始する計時部を備え、
前記制御部は、前記計時部から前記タイムアウト時間の満了を通知された場合、前記通信部を制御して送信中のデータを再送する一方、前記計時部から前記タイムアウト時間の満了を通知される前であっても、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出された場合には、前記通信部を制御して送信中のデータを再送することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出されてから所定時間経過後に、前記通信部を制御して送信中のデータを再送することを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出部によって前記無線リンクの回復が検出されてから所定時間経過する前に、前記検出部によって前記無線リンクの切断が検出された場合には、前記データの再送を行わないことを特徴とする請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記通信相手から受信した無線信号の強度に基づいて前記無線リンクの状態を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−71782(P2011−71782A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221757(P2009−221757)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】