説明

無電解めっき方法及び白金めっき品並びに還元剤

【解決課題】白金化合物の種類によらず緻密な白金皮膜を安定的に形成できる無電解めっき方法を提示する。
【解決手段】本発明は、白金化合物を基材表面で還元処理して白金を析出させる白金の無電解めっき方法において、前記還元処理を、少なくとも1種以上のアルカリ土類金属化合物を含む溶液中で行なうことを特徴とする無電解めっき方法である。本発明により製造される白金めっき品は、アルカリ土類金属含有量が0.01〜5重量%となっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき法によりイオン交換膜、プラスチック等の基材に白金をめっきするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき法による白金膜形成は、白金塩、白金錯体等からなる白金化合物溶液と、基材とを接触させ、基材表面上で白金化合物を還元し析出させるものが一般的である。この薄膜形成法は、基材の形状によらず均一な皮膜を形成可能であり、更に、プラスチックやガラス等の絶縁物(非導電性材料)への皮膜形成が可能であることから、種々の分野で応用されている。例えば、燃料電池で使用される電極には、イオン交換膜の表面に白金皮膜が形成されたものがあるが、この白金皮膜形成に無電解めっき法が有用である。また、この他非導電性粒子を担体とし、これに触媒金属として白金皮膜を形成する場合においても無電解めっき法は有用である。
【0003】
ここで、めっきにより形成される白金皮膜に求められる特性は、その用途に応じていくつかあるが、皮膜の緻密さは頻繁に問われる特性である。皮膜の緻密さは、それが良好である程、クラック等の欠陥を減少させることができる。また、クラック等の欠陥のない緻密な皮膜は、電気抵抗値も低減されているため、電極に用いられる皮膜にとって好ましいものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの白金の無電解めっき法による検討・改良は、主に白金化合物の種類の最適化がほとんどである(例えば、特許文献1,2)。白金化合物は、白金皮膜の直接的な原料というべきものであり、皮膜の性状、めっき効率・安定性を左右する上で重要であることから、白金化合物の改良は、最も有用であることは否定できない。しかしながら、皮膜の緻密さは、白金化合物の改善のみでは、必ずしも満足するものが得られないと考える。また、本発明者等によれば、同一の白金化合物を用いて無電解めっきを行なっても、皮膜の緻密さが常に良好となるものではない。
【特許文献1】特開平5-222543号公報
【特許文献2】特開2002−173780号公報
【0005】
そこで、本発明は、白金化合物の種類によらず緻密な白金皮膜を安定的に形成できる無電解めっき方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、無電解めっき工程における白金析出時の環境の改善を図ることで、緻密な白金粒子を均一に析出させることとした。そして、この環境改善として、還元時の環境中にアルカリ土類金属を共存させることを見出し本発明に想到した。
【0007】
即ち、本発明は、白金化合物を基材表面で還元処理して白金を析出させる白金の無電解めっき方法において、前記還元処理を、少なくとも1種以上のアルカリ土類金属化合物を含む溶液中で行なうことを特徴とする無電解めっき方法である。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では、白金を析出させる際の溶液中のアルカリ土類金属化合物の含有量を0.1mg/L(アルカリ土類金属重量基準)とすることが好ましい。0.1mg/L未満であると緻密な白金粒子を安定的に析出させることができないからである。一方、アルカリ土類金属化合物の含有量の上限は、溶媒に対する溶解度である。但し、上限値のより好ましい範囲は、10g/L以下である。析出した白金中のアルカリ土類金属濃度が高くなるおそれがあるからである。また、アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩を添加するのが好ましい。また、本発明においては、アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのいずれか1つ以上を添加するのが好ましいが、特に好ましいアルカリ土類金属はマグネシウムである。
【0009】
本発明では、白金が析出する際(還元処理時)の基材表面に白金化合物とアルカリ土類金属化合物とが共存することを要するものであるが、めっき工程において白金化合物とアルカリ土類金属化合物の添加順序に制限はない。即ち、予め、白金化合物、アルカリ土類金属、及び、適宜の添加剤が配合された無電解めっき液を製造し、これに基材を浸漬し還元処理して白金を析出しても良い。また、まず、白金化合物と基材とを接触させ基材表面に白金化合物を吸着させ、この基材をアルカリ土類金属を含む溶液に浸漬しこれを還元処理しても良い。前者は作業性において利点があり、後者の方法は、より高純度の白金を析出できる点に利点がある。
【0010】
本発明において、白金皮膜を形成させる基材は特に限定されるものではなく、プラスチック、金属の他、酸化物、炭化物、窒化物等の化合物、イオン交換膜等に適用可能である。但し、本発明は、イオン交換膜を基材とする場合に特に有用である。イオン交換膜を基材とする場合、めっき工程は、上記した、基材表面に白金化合物を吸着させた後に、基材を還元処理する方法が好適である。そのイオン交換作用により白金化合物の吸着が容易となるからである。尚、基材の形状についても制限は全くなく、板状体、線状体、粒状体いずれの形状のものでもめっき可能である。
【0011】
また、白金皮膜の原料となる白金化合物は、従来からの無電解めっきに適用される白金塩、白金錯体が使用できる。具体的には、白金ジクロライド、テトラアンミン白金ジクロライド、テトラアンミン白金水酸塩が適用できる。
【0012】
また、白金化合物の還元処理は、還元剤によるものが好ましい。還元剤による還元処理とは、白金化合物及び還元剤を含むめっき液に基材を浸漬する場合の他、白金化合物を含む溶液に基材を浸漬した後に還元剤を添加する場合を含む。後者の場合、還元剤の添加はアルカリ土類金属化合物の添加と同時に行っても良い。後述の還元剤とアルカリ土類金属化合物とを混合したものを還元剤として添加しても良い。また、基材表面に白金化合物を吸着させ、これに還元剤を接触させても良い。この場合、アルカリ土類金属を含む溶液に基材を浸漬した後に還元剤を添加しても良いし、アルカリ土類金属と還元剤とを含む溶液を製造しこれに基材を浸漬しても良い。
【0013】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アルコールが好ましい。これらは還元力が強く、白金の析出を効率的なものとする。還元処理の条件としては、白金化合物、還元剤の種類にもよるがこれらに応じた従来の条件と同様のものとすれば良い。一般的には、液温10〜80℃とし、還元時間は5分間〜3時間とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、白金化合物の種類によらず、品質良好な白金皮膜を安定的に製造することができる。この白金皮膜は、微細な白金粒子からなる緻密な皮膜である。そして、クラック等の欠陥の発生も抑制され、電気抵抗が低く良好な導電性を有する。尚、この皮膜は、析出時にアルカリ土類金属が共存する環境下で形成されていることから、10重量%以下の少量のアルカリ土類金属を含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。
【0016】
第1実施形態:白金化合物として5%テトラアンミン白金ジクロライド溶液に、基材として陽イオン交換膜(名称:NafionR、寸法:100×100mm)を浸漬し、イオン交換により白金化合物を吸着させた。一方、1g/L水素化ホウ素ナトリウム溶液に炭酸マグネシウムを濃度1mg/Lとなるように添加して還元剤溶液を作製した。そして、白金化合物を吸着させた陽イオン交換膜を、50℃に保持した還元剤溶液に1時間浸漬して白金を還元して白金皮膜を製造した。
【0017】
第2実施形態:第1実施形態において、水素化ホウ素ナトリウム溶液に溶解させるアルカリ土類金属化合物を硫酸マグネシウムに替え(10mg/L)、還元剤溶液を作製した。そして、この還元剤溶液を30℃に保持し、第1実施形態と同様にして白金化合物を吸着させた陽イオン交換膜を1時間浸漬し、白金皮膜を製造した。
【0018】
第3実施形態:ここでは、白金化合物、還元剤、アルカリ土類金属化合物を同時に溶解しためっき液を製造し、これに基材を浸漬して白金皮膜を製造した。塩化白金酸、水素化ホウ素ナトリウム、炭酸カルシウムを、それぞれ、1g/L、1g/L、10mg/Lとなるように溶解させためっき液に、基材としてアルミナ板(寸法:100×100mm)を80℃で1時間浸漬し、白金を還元析出させた。
【0019】
比較例1:第1実施形態において、炭酸マグネシウムを添加することなく還元剤溶液を準備し、これに第1実施形態と同様にして白金化合物を吸着させた陽イオン交換膜を1時間浸漬し、白金皮膜を製造した。
【0020】
比較例2:第3実施形態において、炭酸カルシウムを添加することなくめっきを製造し、これに第3実施形態と同じアルミニウム板を浸漬し、白金皮膜を製造した。
【0021】
各実施形態及び比較例で製造した白金皮膜について、その膜厚、白金粒子の径、表面抵抗を測定した。表1はその結果を示す。また、第1実施形態及び比較例1で製造した白金皮膜の外観写真を図1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1及び図1からわかるように、第1〜第3実施形態で製造した白金皮膜は、いずれも白金粒子径が細かく緻密なものとなっている。これに対し、比較例では粒子径も大きく所々にクラックがみられる。そして、このような相違により皮膜の抵抗値は大きく異なり、各実施形態において著しく改善されたことが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態及び比較例1で製造した白金皮膜の外観写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金化合物を基材表面で還元処理して白金を析出させる白金の無電解めっき方法において、
前記還元処理を、少なくとも1種以上のアルカリ土類金属化合物を含む溶液中で行なうことを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項2】
溶液中のアルカリ土類金属化合物の含有量を0.1mg/L以上(アルカリ土類金属重量基準)とする請求項1記載の無電解めっき方法。
【請求項3】
アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩である請求項1又は請求項2記載の無電解めっき方法。
【請求項4】
アルカリ土類金属化合物は、マグネシウム化合物である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
還元処理前に基材表面に白金化合物を吸着させ、その後に還元処理を行う請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の無電解めっき方法。
【請求項6】
還元処理は、還元剤によるものである請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の無電解めっき方法。
【請求項7】
還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アルコールの少なくともいずれかよりなる請求項6記載の無電解めっき方法。
【請求項8】
基材はイオン交換膜からなる請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の無電解めっき方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8記載のいずれか1項記載の無電解めっき方法により製造される白金めっき品であって、アルカリ土類金属含有量が0.01〜5重量%である白金めっき品。
【請求項10】
水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アルコールの少なくともいずれかと、アルカリ土類金属化合物とからなる無電解めっき用の還元剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−107021(P2007−107021A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296108(P2005−296108)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】