説明

焦電体材料およびそれを用いた焦電型赤外線センサ

【課題】 キュリー点Tcを高くしてリフロー炉の高温による圧電特性の劣化が無く、耐ノイズ特性の良好な表面実装対応の焦電型赤外線センサ用の焦電体材料を提供する。
【解決手段】 組成式が(Pb(1−x)Ca(1−a)(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3)O(ただし0.12≦x≦0.23、0.040≦y≦0.100、−0.020≦a≦0.020)で表される焦電体材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電体材料に関し、特に、表面実装対応の焦電型赤外線センサに用いて好適な焦電体材料およびそれを用いた焦電型赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の動きを感知することができる焦電型赤外線センサは、防犯機器、家電製品等のさまざまな分野で広く用いられてきた。特に、昨今では世界的に環境問題に対する意識が高まっており、省エネの観点から焦電型赤外線センサによる人体検知は不可欠な技術となっている。
【0003】
人の動きを感知する焦電型赤外線センサは、蛍光灯の自動点灯や消灯、洗面所の自動洗浄などに使われている。さらに、家電製品の制御やパーソナルコンピュータのモニタの電源制御など、省エネに対する用途は広がっている。
【0004】
このような背景の中、家電製品等に使われる焦電型赤外線センサは、小型化、高感度化が求められ、焦電型赤外線センサの特性を左右する焦電体材料は、更なる特性改善が求められている。
【0005】
また、焦電型赤外線センサは、他の電子部品と組み合わせて用いることが多いため、表面実装技術によりプリント基板上に他の電子部品と同時に実装させて用いられる。更に、焦電型赤外線センサに用いられる焦電素子は、実装時にリフロー炉内を通るため、最低でも約220℃の高温にさらされることになる。なお、近年は鉛フリーのはんだを用いることが多くなって来ており、鉛含有のはんだよりも融点が20℃ほど高くなるため、リフロー炉の温度はさらに高温で用いる必要がある。よって、リフロー炉の設定温度やリフロー炉内の局所的な温度ばらつきも考慮すると、焦電素子には約260℃の熱処理を行っても特性が劣化しないことが求められる。
【0006】
特許文献1では、PbのCa置換量を調整し、かつMn、Ni、Nbを添加することで焦電型赤外線センサの検出感度が高い、良好な特性の焦電型赤外線検出素子に用いる材料組成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60―191054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の焦電型赤外線センサ用の焦電素子用の材料は、自発分極が存在する上限の温度であるキュリー点Tcが200℃台であるのが一般的であり、プリント基板に表面実装する際にリフロー炉で熱が加えられると、分極処理による圧電特性が劣化する場合があるという問題があった。
【0009】
さらに、焦電型赤外線センサの検出感度は、焦電体材料の比誘電率εが小さいほど高くなるため、チタン酸ジルコン酸鉛のような大きな電気機械結合係数K、比誘電率εを持つ焦電体材料よりも、チタン酸鉛のような比誘電率εが小さい焦電体材料が望ましい。
【0010】
このような背景の中、比誘電率εが低く、リフロー炉の温度が260℃以上の高温でも焦電素子の分極処理による圧電特性が劣化しない焦電体材料の開発が急務となっている。
【0011】
特許文献1の焦電型赤外線検出素子において、検出感度を上げようとしてCa置換量を増やすとキュリー点Tcが下がってしまい、表面実装の際にリフロー炉の熱で分極処理による圧電特性が劣化し、検出特性が低下してしまうため、表面実装対応の焦電型赤外線センサには適していなかった。
【0012】
また、焦電型赤外線センサは、焦電素子から発生する微少な電荷をアンプで増幅し、温度変化を検知するため、ノイズによる検出精度の低下という問題があった。
【0013】
図5は、焦電型赤外線センサの回路図を模式的に示した図である。図5に示すように、焦電型赤外線センサ21は、焦電素子23の電荷を検出する電界効果トランジスタ(以下FETと記載する)22と、それを増幅する増幅器25からなり、出力端子28から検出結果が出力される。FET22のドレインに、電源入力の電源端子26が接続され、FET22のソースは増幅器25に接続されている。グランド端子27は、焦電型赤外線センサのグランドと共通としている。焦電素子23はFET22のゲートに接続されるため、焦電素子23の内部抵抗24の値により回路動作が大きく左右され、焦電型赤外線センサの出力に影響を与える。
【0014】
特に、FET22は、焦電素子23に用いられる焦電体材料の比抵抗が大きいと、焦電素子23の周囲における浮遊容量30や、焦電電荷を検出するFET22のゲートドレイン間容量29によって流れる電流等のノイズを検出してしまい、正確な動作が妨げられる場合があった。
【0015】
一方、焦電素子23の内部抵抗24の比抵抗が小さいと、測定物の熱赤外線により発生した焦電電荷が焦電素子自身の内部抵抗24を介して流れてしまい、センサの検出感度が低くなるという問題があった。
【0016】
これらの背景により、焦電型赤外線センサを設計する上で、焦電体材料の比抵抗は、センサの耐ノイズ特性において非常に重要な項目となっている。
【0017】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたもので、キュリー点Tcが高く、焦電型赤外線センサの検出感度、耐ノイズ特性が良好な焦電体材料およびそれを用いた焦電型赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明は、キュリー点Tcを高くすることにより、リフロー炉の熱によっても分極処理による圧電特性の劣化が起こらないので検出感度の低下が見られず、かつ、焦電体材料の比抵抗を調整することにより耐ノイズ特性を良好にした焦電体材料およびそれを用いた焦電型赤外線センサとするものである。
【0019】
すなわち、本発明によれば、組成式が(Pb(1−x)Ca(1−a)(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3(ただし0.12≦x≦0.23、0.040≦y≦0.100、−0.020≦a≦0.020)で表されることを特徴とする焦電体材料が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、焦電体基板の受光面側に設置された表面電極と前記表面電極に前記焦電体基板を挟んで対向する裏面電極とを備える焦電素子を少なくとも1個有するセンサ素子と、前記センサ素子の出力信号をインピーダンス変換して出力する手段と、前記センサ素子を実装する回路基板と、前記回路基板を保持するホルダーと、前記ホルダーに組み付けられ、前記回路基板と電気的に接続し入出力を行う入出力端子およびグランド用端子と、前記ホルダーの外周面を覆い前記受光面側に開口部を有するシールドケースと、前記シールドケースの前記開口部に装着された赤外線透過部材と、前記シールドケースと前記ホルダーの間隙を埋める封止部材を備える焦電型赤外線センサであって、前記焦電素子を上記の焦電体材料を用いて構成したことを特徴とする焦電型赤外線センサが得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、Bサイト(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3)のTiに対する(Mn1/3Sb2/3)の置換量yを調節することでキュリー点Tcを高くすることが可能となり、焦電係数Tpおよび材料評価指数Fvが高く検出特性が良好な焦電体材料を得、さらに、Aサイト(Pb(1−x)Ca)の調整量aを調整することで比抵抗ρの値を最適化し、焦電型赤外線センサの耐ノイズ特性の良好な焦電体材料を得ることが可能となる。材料評価指数Fv(C・cm/J)は、焦電型赤外線センサに搭載した際のセンサ検出感度の指標で、Fv=Tp/(c・ε)で求められる。ここで、cは体積比熱(J/cm・K)を表す。
【0022】
本発明は、リフロー炉の熱によっても検出感度が低下せずに、焦電型赤外線センサの耐ノイズ特性を良好にすることが可能となる焦電体材料およびそれを用いた焦電型赤外線センサを提供できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】Caの置換量xと材料評価指数Fv、キュリー点Tcの関係を表した図。
【図2】(Mn1/3Sb2/3)の置換量yと材料評価指数Fv、キュリー点Tcの関係を表した図。
【図3】Aサイトの調整量aと材料評価指数Fv、比抵抗ρの関係を表した図。
【図4】本発明に係る焦電型赤外線センサの分解斜視図。
【図5】焦電型赤外線センサの回路図を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0025】
本発明の焦電体材料は、組成式が(Pb(1−x)Ca(1−a)(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3)O(ただし0.12≦x≦0.23、0.040≦y≦0.100、−0.020≦a≦0.020)で表されることを特徴とする。xの値はPbに対するCaの置換量であり、Caの置換量を増やすことにより、比誘電率を小さくすることが可能となる。yの値は、Tiに対する(Mn1/3Sb2/3)の置換量であり、(Mn1/3Sb2/3)の置換量を増やすことによりキュリー点Tcを高くすることが可能となる。また、Aサイト(Pb(1−x)Ca)の量を調整することで、比抵抗ρの値を最適化し、焦電型赤外線センサの耐ノイズ特性を調整して良好な焦電体材料が可能となる。
【0026】
本発明の焦電体材料の作製方法について、説明する。主成分の原料として、PbO、TiO、Ca、MnCO、Sbを、本発明の焦電体材料の組成になるように秤量する。この原料粉末を、ジルコニアボールとともにナイロンポットの中に入れ、ボールミルにて46時間湿式混合する。この混合粉末を脱水乾燥後、アルミ匣鉢中で850〜950℃、2時間の予焼を行い、この予焼粉末をナイロンポッドの中で、ジルコニアボールにて1〜20時間湿式粉砕する。次に、脱水乾燥し、得られた予焼粉砕粉末にバインダを混合して加圧し、用途形状に合せて成型する。この成型体を1000〜1250℃で焼結し、外周刃切断機で製品形状に加工する。更に、両面に銀ペーストを塗布し、450〜550℃で焼き付けて電極を形成し、製品とする。このようにして得られた製品に対して、シリコンオイル中で100〜180℃、4〜8kV/mm、15分で分極処理を行う。
【0027】
本発明の焦電型赤外線センサについて、説明する。図4は、本発明に係る焦電型赤外線センサの分解斜視図である。本発明の焦電体材料を用いた焦電型赤外線センサ1は、焦電素子7と、焦電素子7の出力信号をインピーダンス変換して出力する手段として用いられるFET9と、焦電素子7とFET9を実装する回路基板8と、回路基板8を保持するホルダー6と、ホルダー6に組み付けられ、回路基板8と電気的に接続し入出力を行う入出力用端子5およびグランド用端子4と、ホルダー6の外周面を覆い受光面側に開口部2aを有するシールドケース2とシールドケース2の開口部2aに装着される赤外線透過部材3とシールドケース2とホルダー6の間隙を埋める封止部材を備える。
【0028】
焦電素子7は、焦電体基板7aの受光面側に設置された表面電極7bと、表面電極7bに焦電体基板7aを挟んで対向する裏面電極(図示せず)を形成した焦電素子7を備える。焦電素子7は、用途により、焦電体基板7aに表面電極7bと裏面電極を複数組形成し、複数個としても良い。焦電体基板7aの材質としては、請求項1に記載されている組成式の焦電体材料を用いることができる。
【0029】
焦電素子7は、裏面電極で回路基板8のセンサ素子実装用ランド8aと接続される。接続には導電性接着剤、またははんだが用いられる。回路基板8を保持するホルダー6には、入出力用端子5およびグランド用端子4が組み付けられる。組み付けは、端子の圧入により行うが、ホルダー6と入出力用端子5およびグランド用端子4の一体成型(インサート成型)によって行っても良い。ホルダー6は高耐熱樹脂を用いるのが好ましく、熱可塑性の液晶ポリマーが使用できる。これにより、はんだリフロー炉による表面実装部品への対応が可能となる。
【0030】
入出力用端子5およびグランド用端子4と回路基板8は、回路基板側面に配置されているサイドスルーホール8bで接続される。この接続には、導電性接着剤またははんだが、用いられる。入出力用端子5およびグランド用端子4の材質は、金属または合金が用いられるが、端子としての機能を満足するような導電性、回路基板の接続にはんだを使用する場合ははんだぬれ性が必要であり、リン青銅やステンレス鋼等の合金が好ましい。
【0031】
シールドケース2は、焦電素子7に対して周囲環境から電磁ノイズが影響を与えないように、焦電素子7を周囲から保護する目的でホルダー6に設置される。電磁ノイズからの保護という目的から、材質は銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛、錫等の金属または合金、これら金属のメッキを施した樹脂または金属が好ましい。本電磁シールド性に加え、加工性とはんだぬれ性、耐食性を考慮して、銅と亜鉛の合金である黄銅にニッケルメッキを施したものが特に好ましい。
【0032】
シールドケース2は開口部2aを有し、開口部2aには赤外線透過部材3が組み付けられる。赤外線透過部材3は焦電型赤外線センサ内部へ所定範囲の波長を持つ赤外線をセンサ内部に透過させる目的で設置され、本実施の形態では赤外線フィルタを使用する。また、赤外線フィルタの組み付けにはエポキシ系接着剤を使用しても良い。赤外線透過部材3として、赤外線集光レンズを用いることも可能である。
【0033】
本発明の焦電体材料を焦電型赤外線センサに用いることにより、検出感度、耐ノイズ特性が良好な焦電型赤外線センサとなる。
【実施例】
【0034】
本発明の焦電体材料について、実施例を用いて、詳細に説明する。
【0035】
試料は、組成によって最適となる条件にて作製した。主成分の原料として、PbO、TiO、Ca、MnCO、Sbを、実施例1〜17、比較例1〜6として、表1の組成になるように秤量した。この原料粉末を、ジルコニアボールとともにナイロンポットの中に入れ、ボールミルにて46時間湿式混合した。この混合粉末を脱水乾燥後、アルミ匣鉢中で組成に合せて850〜950℃、2時間の予焼を行った。この予焼粉末をナイロンポッドの中で、ジルコニアボールにて組成に合せて1〜20時間湿式粉砕した。次に、脱水乾燥し、得られた予焼粉砕粉末にバインダを混合して加圧し、φ20×10mmに成型した。この成型体を組成に合せて1000〜1250℃で焼結し、外周刃切断機で1mmの厚さの円板に加工した。更に、加工した円板の両面に銀ペーストを塗布し、組成に合せて450〜550℃で焼き付けて電極を形成し、試料とした。このようにして得られた試料に対して、シリコンオイル中で組成に合せて100〜180℃、4〜8kV/mm、15分で分極処理を行った。分極処理した焦電素子を、リフロー炉を想定して260℃、10分の熱処理を加え、その後、室温25℃の環境に12時間以上放置した。
【0036】
表面実装タイプの焦電型赤外線センサにおいて焦電素子は、リフロー炉の温度に耐えうるだけの高いキュリー点Tcを有している必要がある。一般的にリフロー炉の温度としてはピーク温度で約240℃であるが、設計上のばらつきも考慮するとキュリー点Tcは、約260℃以上を確保する必要がある。
【0037】
焦電体材料の測定項目について、説明する。比誘電率εは、インピーダンス/ゲイン・フェーズアナライザ4194A(アジレント・テクノロジー製)を用いて、試料の容量を、測定周波数1kHz、測定電圧500mVで測定することにより、算出した。キュリー点Tcは、試料を恒温槽へ投入し、20℃から400℃まで温度を変化させて、インピーダンス/ゲイン・フェーズアナライザ4194A(アジレント・テクノロジー製)を用いて、測定周波数1kHz、測定電圧500mVで容量のピーク値を測定することにより、算出した。比抵抗ρは、絶縁抵抗計DSM−8103(TOA製)を用いて、絶縁抵抗を測定することにより算出した。
【0038】
その後、作製された各々の試料を恒温槽に入れ、室温25℃から70℃の範囲で温度を上昇させ、微少電流計R8340(アドバンテスト製)で、焦電電流Ipを測定した。そして、下記の式から各試料の焦電係数Tpを算出した。
Tp=Ip/(S・ΔT)
ここで、Sは試料の電極面積(cm)であり、ΔT(K)は温度変化の量をあらわす。
さらに、ここで得られた焦電係数Tp(C/cm・K)を用いて、材料評価指数Fv(C・cm/J)を求めた。
【0039】
表1に、焦電体材料の組成式が(Pb(1−x)Ca(1−a)(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3)Oで表されたときに、0.01≦x≦0.23、0.020≦y≦0.100、−0.020≦a≦0.020における焦電体材料の比誘電率ε、焦電係数Tp、材料評価指数Fv、キュリー点Tc、比抵抗ρの測定結果を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に、各測定結果について示す。次に、各測定結果について、詳細に説明する。
【0042】
図1は、Caの置換量xと材料評価指数Fv、キュリー点Tcの関係を表した図である。図1に、y=0.060、a=0.007において、Caの置換量xを0.08から0.26まで変化させたときの材料評価指数Fvとキュリー点Tcのグラフを示す。Caの置換量xを0.08から増やしていくと、材料評価指数Fvが大きくなる。しかし、Ca置換量xが0.22付近から材料評価指数Fvは、低下する。これは、リフロー炉使用を想定し260℃、10分の熱処理を施しているからであり、270℃付近から材料評価指数Fvが、低下している。したがって、表面実装タイプの焦電型赤外線センサの焦電素子では、さらに安定性、安全性を加味して280℃以上のキュリー点Tcが求められている。焦電型赤外線センサの実使用上、焦電素子に人の動きを検出する人感センサとしての機能を求めるためには、材料評価指数Fvが、4.70以上求められている。比較例1〜4では、材料評価指数Fvが4.70より低くなり、条件を満足しなかった。したがって、実施例1〜7より、キュリー点Tcと材料評価指数Fvを同時に満足する、Caの置換量xの範囲を0.12≦x≦0.23と規定した。
【0043】
また、焦電係数Tpを大きくするために、Tiに対する(Mn1/3Sb2/3)の置換量yを変化させることも有効である。図2は、(Mn1/3Sb2/3)の置換量yと材料評価指数Fv、キュリー点Tcの関係を表した図である。図2に、x=0.20、a=0.007において、(Mn1/3Sb2/3)の置換量yを0.025から0.125まで変化させた時の材料評価指数Fvと、キュリー点Tcのグラフを示す。材料評価指数Fvは、(Mn1/3Sb2/3)の置換量yが0.060〜0.070付近にピークが現れる。また、キュリー点Tcは、(Mn1/3Sb2/3)の置換量yを増やすにしたがって低下する傾向にある。比較例5、6では、材料評価指数Fvが4.70より低くなり、また比較例6では、キュリー点Tcが265℃と、条件を満足しなかった。実施例8〜10と図2より、焦電型赤外線センサとして焦電素子に求められる材料評価指数Fvを4.70以上で、キュリー点Tcが280℃以上となるように、(Mn1/3Sb2/3)の置換量yの範囲を0.040≦y≦0.100と規定した。
【0044】
焦電型赤外線センサの設計において、耐ノイズ性は非常に重要である。図5に示すように、耐ノイズ性は、焦電素子23の内部抵抗24の値に大きく依存し、内部抵抗24の値が大きいと焦電素子周辺の浮遊容量30を介して電流を拾い、増幅器25から不要な出力電圧を発生させてしまう。一方で、焦電素子23の内部抵抗24の値が小さすぎると焦電電荷が焦電素子23自身の内部抵抗24を通して流れてしまい、結果としてセンサの検出感度が低くなる。本発明では、この調整を焦電体材料の比抵抗ρを調整することで所望の値に設計することが可能な材料を、提案する。
【0045】
図3は、Aサイトの調整量aと材料評価指数Fv、比抵抗ρの関係を表した図である。図3に、x=0.20、y=0.060における、Aサイト(Pb(1−x)Ca)の調整量aを−0.020から0.020まで変化させたときの材料評価指数Fvと比抵抗ρのグラフを示す。Aサイト(Pb(1−x)Ca)の調整量aを−0.020から0.020の間で変化させても材料評価指数Fvはさほど変化しないが、比抵抗ρは大きく変化する。この特性を利用して、Aサイトの調整量aを調整することにより焦電型赤外線センサの耐ノイズ特性に対し有効な焦電素子の内部抵抗の値を決めることができる。しかし、Aサイト(Pb(1−x)Ca)の調整量を大きくし過ぎると、材料評価指数Fvが下がってしまう。したがって、実施例11〜17より、材料評価指数Fvを4.70以上を満足する、aの範囲は−0.020≦a≦0.020と規定した。
【0046】
よって、PbをCaで置換し、かつBサイトのTiに対する(Mn1/3Sb2/3)の置換量yを最適化し、Aサイト(Pb(1−x)Ca)の調整量aも調節することで、キュリー点Tcを高くしてリフロー炉の高温による圧電特性の劣化が無く、耐ノイズ特性の良い、表面実装に対応できる焦電型赤外線センサ用の焦電体材料が得られた。
【0047】
以上、実施例を用いて、この発明を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1、21 焦電型赤外線センサ
2 シールドケース
2a 開口部
3 赤外線透過部材
4 グランド用端子
5 入出力用端子
6 ホルダー
7、23 焦電素子
7a 焦電体基板
7b 表面電極
8 回路基板
8a センサ素子実装用ランド
8b サイドスルーホール
9、22 FET
24 内部抵抗
25 増幅器
26 電源端子
27 グランド端子
28 出力端子
29 ゲートドレイン間容量
30 浮遊容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式が(Pb(1−x)Ca(1−a)(Ti(1−y)(Mn1/3Sb2/3)O(ただし0.12≦x≦0.23、0.040≦y≦0.100、−0.020≦a≦0.020)で表されることを特徴とする焦電体材料。
【請求項2】
焦電体基板の受光面側に設置された表面電極と前記表面電極に前記焦電体基板を挟んで対向する裏面電極とを備える焦電素子を少なくとも1個有するセンサ素子と、前記センサ素子の出力信号をインピーダンス変換して出力する手段と、前記センサ素子を実装する回路基板と、前記回路基板を保持するホルダーと、前記ホルダーに組み付けられ、前記回路基板と電気的に接続し入出力を行う入出力端子およびグランド用端子と、前記ホルダーの外周面を覆い前記受光面側に開口部を有するシールドケースと、前記シールドケースの前記開口部に装着された赤外線透過部材と、前記シールドケースと前記ホルダーの間隙を埋める封止部材を備える焦電型赤外線センサであって、前記焦電素子を請求項1に記載の焦電体材料を用いて構成したことを特徴とする焦電型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35704(P2013−35704A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171716(P2011−171716)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】