説明

焼入装置

【課題】焼入処理するワークの種類が頻繁に変更される場合であったとしても、迅速に処理を開始することができ、作業効率を高める。
【解決手段】焼入装置は、焼入油2を貯留する油槽1と、この油槽1内の焼入油2に浸漬したワークWの外周面9に対向するように当該ワークWを中心として配置されている噴出口7を有し当該噴出口7から当該外周面9に対して焼入油2を噴射する複数の噴射手段3とを備えている。さらに、噴出口7をワークWに対して接近及び離反させる位置調整機構4と、この位置調整機構4を制御することによりワークWに対する噴出口7の位置を設定する位置制御部5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを焼入油に浸漬して焼入処理する焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱したワークを焼入油に浸漬して焼入処理する焼入装置として、焼入油を貯留する油槽と、この油槽内に設けられ焼入油をワークに対して噴射する噴射ノズルとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この焼入装置では、ワークの外周面に対向するように噴射ノズルの噴出口が配置されており、所定時間加熱したワークを油槽内の焼入油に浸漬し、噴射ノズルの噴出口からワークに対して焼入油を噴射し、焼入処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−172364号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の焼入装置が備えている噴射ノズルは、焼入装置の本体に固定された構造であるため、大きさが異なるワーク(例えば直径が異なる環状のワーク)を、この焼入装置で焼入処理する場合、作業者が工具を用いて、当該ワークの大きさに応じた長さを有する噴射ノズルに交換するか個々の噴射ノズルについてワークと噴射ノズルの噴出口との距離を調整する必要がある。
このため、焼入処理するワークの種類が頻繁に変更される場合、その都度、作業者が工具を用いて、噴射ノズルを交換若しくは個々の噴射ノズルについて噴出口の位置を調整する必要があり、処理の開始までに時間を要し、作業効率が悪いという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、焼入処理するワークの種類が頻繁に変更される場合であったとしても、迅速に処理を開始することができ、作業効率を高めることのできる焼入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の焼入装置は、焼入油を貯留する油槽と、前記油槽内の前記焼入油に浸漬したワークの外周面に対向するように当該ワークを中心として配置されている噴出口を有し当該噴出口から当該外周面に対して焼入油を噴射する複数の噴射手段と、前記噴出口を前記ワークに対して接近及び離反させる位置調整機構と、前記位置調整機構を制御することにより前記ワークに対する前記噴出口の位置を設定する位置制御部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、位置調整機構は、噴出口をワークに対して接近及び離反させる構成であり、位置制御部は、この位置調整機構を制御することによりワークに対する噴出口の位置を設定するため、ワークの大きさに応じて噴出口の位置が位置制御部によって調整され、ワークの種類が頻繁に変更される場合であっても、その都度、噴出口の位置を簡単に設定することができる。このため、迅速に処理を開始することができ、作業効率を高めることが可能となる。
【0008】
また、複数の前記噴射手段それぞれは、前記噴出口を前記ワークに対して接近及び離反させる方向に延びているラック部を有し、前記位置調整機構は、前記ラック部毎に設けられ当該ラック部と噛合するピニオンと、前記ピニオン同士をトルク伝達可能として連結している連結シャフトと、前記連結シャフトを回転させて各ピニオンを回転駆動するモータとを有しているのが好ましい。
この場合、モータによって、複数の噴射手段のラック部を連動して移動させることができ、複数の噴射手段の噴出口を、一斉に、ワークに対して接近及び離反させることができる。
【0009】
そして、この場合において、前記噴射手段は、前記噴出口に焼入油を供給するパイプを有し、前記ラック部は、前記パイプに形成されているのが好ましく、この場合、パイプを、ラック部を形成するための部材として兼用することができ、構造が簡単となる。
【0010】
また、前記焼入装置は、更に、前記噴出口から噴射する焼入油の流量を測定する測定部と、前記測定部による測定結果に基づいて前記噴出口から噴射する焼入油の流量を制御する制御部とを備えているのが好ましい。
この場合、噴出口から噴射する焼入油の流量の調整が容易となる。なお、測定部が測定した流量から流速を演算によって求めることができるので、測定部が測定した流量に基づいて流速を求め、その流速に基づいて噴出口から噴射する焼入油を制御してもよい。
【0011】
また、前記焼入装置は、更に、前記油槽内の前記焼入油に浸漬したワークを載せると共に鉛直方向の回転中心線回りに回転可能なテーブルと、前記テーブルを前記回転中心線回りに回転駆動するテーブル駆動手段とを備えているのが好ましい。
この場合、ワークの種類に応じて、テーブルを回転させてワークを焼入処理することができ、品質を均一化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワークの種類に応じて噴出口の位置を調整することができ、ワークの種類が頻繁に変更される場合であっても、その都度、噴出口の位置を簡単に設定することができる。このため、迅速に処理を開始することができ、作業効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の焼入装置を側方から見た断面図である。
【図2】本発明の焼入装置の平面図である。
【図3】位置調整機構を説明する平面図である。
【図4】位置調整機構の一部を示している側面図である。
【図5】テーブル及びテーブル駆動部15の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の焼入装置を側方から見た断面図であり、図2は、その平面図である。この焼入装置は、加熱したワークWを焼入油に浸漬して焼入処理する装置であり、焼入油2を貯留する油槽1と、ワークWの外周面9に対して焼入油2を噴射する噴出口7を有した噴射手段3とを備えている。本実施形態では、図2に示しているように、ワークWの周囲に配置されている8台の噴射手段3を備えており、これら噴射手段3は、円柱状である油槽1の周壁31に沿って等間隔に配置されている。
【0015】
さらに、この焼入装置は、前記噴出口7をワークWに対して接近及び離反させる位置調整機構4と、この位置調整機構4を制御する位置制御部5(図1参照)とを備えている。位置制御部5は、位置調整機構4を制御することによりワークWに対する噴出口7の位置を設定する機能を有している。位置調整機構4及び位置制御部5の機能については、後に説明する。
【0016】
焼入装置は制御装置8を備えており、この制御装置8は、処理装置(CPU)及び記憶装置を有するコンピュータによって構成されており、記憶装置には、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムが前記処理装置によって実行されることで、前記位置制御部5は機能する。また、制御装置8における機能部として、この位置制御部5の他に、後に説明するが、流量制御部12、及びテーブル制御部16がある。
【0017】
また、焼入装置は、油槽1内の焼入油2に浸漬したワークWを載せるテーブル6を備えている。ここで、本実施形態のワークWは、リング形状の鋼製部材であり、その中心線が油槽1の中心線Cと一致するようにしてテーブル6上に載置される。油槽1の中心線Cは、鉛直方向の直線である。
テーブル6は、中央に孔が形成された円環状であり、本体部32と、この本体部32上に設けられワークWが載る載置部33とを有している。載置部33は、上下方向に開口している構成でありながらワークWを支持するものであり、本実施形態では、複数本の棒状の部材が並べて構成されている。これにより、ワークWの下面にも焼入油2を十分に接触させることができる。
【0018】
前記油槽1は、上方に開口しているタンクからなり、油槽1の上方には、ワークWを上下させると共に隣りの装置(図示せず)へと搬送する搬送装置(図示せず)が設けられている。
油槽1には、テーブル6を油槽1内で昇降させる昇降装置34が設けられている。昇降装置34によって、ワークWを載せたテーブル6を油槽1の下部に降下させることで、ワークWは焼入油2に浸漬した状態となる(図1)。また、昇降装置34によって、テーブル6を油槽1の上部に位置させることで、ワークWを焼入油2から脱した状態とすることができ、前記搬送装置によってワークWを搬送することが可能となる。本実施形態の昇降装置34は、テーブル6を吊り下げている吊り下げ部材と、この吊り下げ部材を引き上げる駆動部とを有している。なお、この駆動部は、例えばエアシリンダを有する構成とすることができ、この場合、駆動部は、さらに、エアシリンダの往復直線運動を回転運動に変換する変換機構部を有し、変換された回転運動によって前記吊り下げ部材を引き上げることができる。
【0019】
そして、前記噴射手段3は、図1に示しているように、油槽1の周壁31の上部に設けられている上部パイプ21と、この上部パイプ21にL型継手26を介して接続され油槽1の内部へ下方に延びている下部パイプ22とを有しており、この下部パイプ22に、前記噴出口7が設けられている。つまり、これらパイプ21,22は、噴出口7に焼入油を供給するためのものである。
噴出口7は、油槽1内の焼入油2に浸漬したワークWの外周面9に対向するように当該ワークWを中心として放射状に配置されており、この外周面9に対して焼入油2を噴射することができる。本実施形態では、下部パイプ22には高さ方向に並んだ複数個の噴出口7が設けられている。上部パイプ21は、水平方向に長く、油槽1の半径方向の直線に沿って配置されている。
【0020】
油槽1の外側には、焼入油2が流れる共通パイプ23が環状となって設けられている。前記のとおり噴射手段3は複数(8台)設けられており、各噴射手段3の上部パイプ21が、この共通パイプ23と連結パイプ24を介して接続されている。連結パイプ24は弾性素材及び/又は蛇腹形状であり、可撓性を有する構成である。
共通パイプ23には、ポンプPによって焼入油2が圧送されることから、ポンプPが駆動することによって、共通パイプ23内の焼入油2は、各連結パイプ24を介して上部パイプ21及び下部パイプ22へと流れ、全ての噴射手段3の噴出口7から焼入油2が噴出される。ポンプPの駆動は、前記制御装置8によって制御される。
【0021】
図3は、位置調整機構4を説明する平面図である。位置調整機構4は、前記のとおり、噴出口7をワークWに対して接近及び離反させる機能を有している。このために、本実施形態の位置調整機構4は、前記上部パイプ21を、油槽1中のワークWに対して噴出口7が接近及び離反する方向に移動可能に支持している支持部27と、前記上部パイプ21を同方向に移動させる駆動部25とを有している。なお、この「油槽1中のワークWに対して噴出口7が接近及び離反する方向」は、本実施形態では、油槽1の半径方向である。
また、上部パイプ21は、噴出口7が形成されている下部パイプ22と一体構造であるため、上部パイプ21が移動すれば下部パイプ22も同じ方向に移動することができる。なお、以下において、上部パイプ21と下部パイプ22とを総称してパイプ20と呼ぶこともある。
【0022】
図4は、位置調整機構4の一部を示している側面図である。前記支持部27は、油槽1の周壁31の上部に取り付けられており、第一支持部28と第二支持部29とを有している。第一支持部28は、上部パイプ21の先部側をスライド可能として支持するリング状の部材である。第二支持部29は、周壁31の外周側に放射状に延びるようにして取り付けられたガイド部材であり、上部パイプ21を油槽1の半径方向に移動可能として誘導することができる。つまり、上部パイプ21の基部側には被ガイド部材30が固定されており、第二支持部材29はこの被ガイド部材30を油槽1の半径方向に摺動させるガイド部29aを有している。
【0023】
この支持部27により、油槽1に対してパイプ20は当該油槽1の半径方向に移動可能となる。なお、上部パイプ21の基部側と連結されている前記連結パイプ24は、可撓性を有しているため、上部パイプ21の移動に追従することができ、上部パイプ21の移動を妨げない。
【0024】
第二支持部材29には、前記駆動部25が有しているピニオン35が設けられており、上部パイプ21の外周面には、このピニオン35に噛合するラック部36が直接設けられている。つまり、上部パイプ21の管壁の一部がラック部36となっている。ラック部36は、パイプ20の移動方向に(放射状に)延びて形成されており、ピニオン35が回転することによって、パイプ20は支持部27に支持された状態で、油槽1の半径方向に前進又は後退移動することができる。なお、本実施形態では、前進とは油槽1の中心へ向かう方向(ワークWに接近する方向)であり、後退とは油槽1の径方向外側へ向かう方向(ワークWから離れる方向)である。このように、複数の(八つの)パイプ20毎に設けられているラック部36及びピニオン35によれば、ピニオン35の回転動作を、パイプ20(噴出口7)を前進又は後退させる動作に変換することができる。
【0025】
そして、図3において、前記駆動部25では、前記ピニオン35を回転させる。このために、駆動部25は、モータ37と、このモータ37の動力をピニオン35に伝達する動力伝達部39とを有している。本実施形態では、単一のモータ37によって、全ての噴射手段3のパイプ20を移動させる構成である。すなわち、動力伝達部39は、隣り合う噴射手段3のパイプ20に対して設けられているピニオン35同士を、自在継手45を介して連結しトルクを伝達する連結シャフト46を有している。そして、モータ37の設置位置近傍にある一つの連結シャフト46を、当該モータ37によって回転させると、当該モータ37の両側に配置されている駆動ピニオン35,35が回転し、当該駆動ピニオン35,35と噛合するラック部が形成されたパイプ20,20を移動させる。そして、駆動ピニオン35,35それぞれに連結された他の連結シャフト46,46によって、さらに隣りにある従動ピニオン35,35を回転させ、当該従動ピニオン35,35が噛合するラック部が形成されたパイプ20,20を移動させることができ、残りのピニオン35についても同様であり、全ての噴射手段3におけるパイプ20が連動し、同期して前進又は後退することができる。そして、前記位置制御部5は駆動部25のモータ37を制御する機能を有し、この駆動部25によってパイプ20を所定の位置に移動させる制御を行う。
【0026】
位置制御部5の機能について説明する。
前記ピニオン35の回転数を制御するために前記駆動部25は、ロータリーエンコーダ38(図2参照)を有している。ロータリーエンコーダ38は、前記動力伝達部39の一部に取り付けられており、ピニオン35の回転数に関する信号を取得する。ロータリーエンコーダ38から出力される信号は、制御装置8(図1参照)に入力され、位置制御部5による制御に用いられる。
【0027】
制御装置8には、作業者が操作する操作部40が設けられている。この操作部40には、複数の押しボタン等の入力部が設けられている。また、制御装置8の記憶装置には、処理するワークWの大きさ(直径)と、この大きさに対応した前記噴出口7の位置(又はパイプ20の位置)との関係についての情報が記憶されている。
前記操作部40の入力部に対して、作業者はワークWの大きさ(直径)に関する情報を入力することができ、この操作に応じて、位置制御部5は、動作指令信号を前記駆動部25(モータ37)に送信し、電動でパイプ20を移動させる。そして、位置制御部5は、記憶装置に記憶されている前記情報、及びロータリーエンコーダ38からの信号に基づいて、ワークWに対して適した位置まで噴出口7(又はパイプ20)を自動的に移動させる制御を実行する。この位置制御部5によれば、作業者が、ワークWの大きさを入力すれば、パイプ20(噴出口7)が自動的に移動し、ワークWの大きさに応じた適切な位置に設定される。
【0028】
また、焼入装置は、更に、噴出口7から噴射する焼入油2の流量を測定する測定部(流量計)11を備えている(図1参照)。流量測定部11は、連結パイプ24等、ポンプPから噴出口7までの間のパイプに設置されている。流量測定部11の測定結果は、制御装置8に入力され、制御装置8の機能部である流量制御部12による制御に用いられる。
流量制御部12は、流量測定部11の測定結果に応じて、ポンプPへ与える動作指令信号を生成する。ポンプPはインバータ制御のモータを有しており、流量制御部12によって動作(出力)が制御される。
【0029】
この流量制御部12によれば、流量測定部11による測定結果に基づいて噴出口7から噴射する焼入油2の流量を制御することができ、ワークWに応じて、所定の流量の焼入油2を噴出口7から噴出させることが可能となり、また、その流量調整が容易となる。
【0030】
また、本実施形態の焼入装置では、前記テーブル6の本体部32は、ベース部32aと、このベース部32aに回転可能として取り付けられている回転部32bとを有している。なお、前記昇降装置34の吊り下げ部材は、ベース部32aを吊り下げている。そして、回転部32bに前記載置部33が設けられており、回転部32bは、油槽1の中心線Cを回転中心線として回転することができる。
【0031】
焼入装置は、このテーブル6の回転部32bを、前記回転中心線回りに回転駆動するテーブル駆動手段15(図2参照)を備えている。
図5は、テーブル6が回転する構成を説明する説明図である。テーブル駆動手段15は、油槽1の周壁31に設けられたモータ17と、このモータ17の回転動力を伝動しテーブル6の回転部32bを回転させる動力伝達部18とを有している。本実施形態では、前記のとおり、テーブル6は前記昇降装置34(図1参照)によって上下移動することから、動力伝達部18は、モータ17の回転によって回転する軸部材(スプライン軸)19aと、この軸部材19aに対して相対回転不能でかつ軸方向に移動可能な歯車19bとを有している。軸部材19aは油槽1に回転可能として取り付けられており、歯車19bはテーブル6の一部(ベース部32a)に回転可能として取り付けられている。そして、歯車19bは、前記回転部32bの外周に設けられている歯部と噛合しており、モータ17が回転すると軸部材19aが歯車19bと共に回転し、これにより、ワークWを載せた回転部32bが回転することができる。
【0032】
そして、前記モータ17は、制御装置8のテーブル制御部16によって制御(インバータ制御)される。制御装置8の記憶装置には、焼入処理するワークWの種類(例えば、直径等の大きさ)と、当該種類に対応したテーブル6の回転速度との関係についての情報が記憶されている。
制御装置8の操作部40の入力部に対して、作業者はワークWの種類に関する情報を入力することができ、この操作に応じて、テーブル制御部16は、動作指令信号を前記モータ17に送信し、電動でテーブル6を回転させる。そして、テーブル制御部16は、記憶装置に記憶されている前記情報、及びモータ17からの信号に基づいて、ワークWの種類に応じた回転速度でテーブル6を回転させる制御を実行する。この構成によれば、作業者が、ワークWの種類を入力すれば、ワークWを載せたテーブル6の回転部32bが自動的に適切な回転速度で回転する。
これにより、ワークWの種類に応じて回転部32bを所定の回転速度で回転させて当該ワークWを焼入処理することができ、品質を均一化させることが可能となる。
【0033】
また、図1において、本実施形態では、ワークWがリング形状であることから、焼入装置は、ワークWの内周面に対して焼入油2を噴射する内側の噴射手段41を、更に備えている。この内側の噴射手段41は、油槽1の中央部に設置されており、柱状のパイプを有している。そして、このパイプに、焼入油2をワークWの内周面に対して噴出する第二の噴出口42が形成されている。
ワークWの外周面9に対して焼入油2を噴出する前記噴出口(第一の噴出口)7用と同じポンプPによって、焼入油2が圧送されることにより、この第二の噴出口42から焼入油2を噴出させる構成であってもよいが、異なるポンプ(図示せず)を設置し、当該ポンプによって、第二噴出口42から焼入油2を噴出する構成であってもよい。
【0034】
以上の本実施形態の焼入装置によれば、位置調整機構4は、噴出口7を油槽1の半径方向に移動させる構成を備えており、位置制御部5が、ワークWの大きさに応じて位置調整機構4を制御することにより当該ワークWに対する噴出口7の位置を設定することができる。このように、ワークWの大きさに応じて噴出口7の位置を自動的に調整することができることから、ワークWの種類が頻繁に変更される場合であっても(小ロット生産の場合であっても)、その都度、噴出口7の位置を簡単に設定することができる。このため、この焼入装置による処理を迅速に開始することができ、作業効率を高めることが可能となる。
【0035】
また、ワークWに対する噴出口7の位置を適切に設定することができると共に、ワークWに応じて焼入油2の流量を制御して噴出口7から焼入油2を噴射させ、また、ワークWに応じてテーブル6を回転させることで、焼入油2中にあるワークWの冷却速度を均一化させ、温度のばらつき(冷却ムラ)を低減することができる。この結果、焼入処理後のワークWの歪みを、従来よりも低減することが可能となる。
そして、焼入処理後のワークWに対して仕上げ加工を行うが、その工程を減らすことができる。すなわち、仕上げ加工として研削を行う場合、一回で行うことができる研削しろの最大値は制限されていることから、ワークWの歪みが大きいと、複数回の工程に分けて研削を行う必要がある。しかし、本実施形態の焼入装置によれば、焼入処理後のワークWの歪みを小さくすることができるため、仕上げ加工の工程を減らすことが可能となる。
【0036】
歪みの減少について説明すると、例えば、外径が550ミリ〜1100ミリ、高さが120ミリ〜400ミリの環状である鋼製ワークWの場合、従来の焼入装置では、処理後の歪みの目標値は0.4mm程度であったが、本実施形態の焼入装置によれば、歪みの目標値を0.2mm以下に低減することが可能となる。
【0037】
なお、前記実施形態では、位置調整機構4を、噴射手段3のパイプ20を全体として油槽1の半径方向に移動させる構成として説明したが、これ以外であってもよく、図示しないが、例えば、位置調整機構4を、噴射手段3のパイプに連結された伸縮パイプと、この伸縮パイプを伸縮させる駆動部とによって構成してもよい。この場合、伸縮パイプを、例えば、相対的に位置変化可能な外側パイプと内側パイプとによる二重管構造とし、この伸縮パイプを油槽1の半径方向に伸縮させることで、ワークに対する噴出口の位置を変化させてもよい。
【0038】
また、本発明は、上記で例示した形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。前記噴射手段の数は限定されるものではなく、例えば少なくとも三つ設けられている。
また、前記実施形態(図2参照)では、単一のモータ37が、二つの噴射手段(パイプ20)に対応して設けられているピニオン35,35に対して直接的に回転力を与えている(直接駆動している)場合を説明した。
しかし、モータ37の配置によっては、一つのピニオン35に対して直接的に回転力を与えることとなる。つまり、ロータリーエンコーダ38が設けられている位置にモータ37を設置し、その他の噴射手段(パイプ20)に対して設けられたピニオン35を連結シャフト46で連結してもよい。
さらに、図2では、上部パイプ21の長手方向及びその移動方向を、ワークWを中心とした放射状の方向(半径方向)と一致させた場合を説明したが、これ以外として、図示しないが、移動方向は、ワークWを中心とした放射状の方向(半径方向)と一致させるが、上部パイプ21の長手方向については、放射状の方向(半径方向)に対して水平面上で傾斜した方向であってもよい。また、噴出口7からの噴射方向も、半径方向と一致していてもよいが、傾斜していてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1:油槽、 2:焼入油、 3:噴射手段、 4:位置調整機構、 5:位置制御部、 6:テーブル、 7:噴出口、 8:制御装置、 9:外周面、 11:流量測定部(測定部)、 12:流量制御部(制御部)、 15:テーブル駆動部、 20:パイプ、 35:ピニオン、 36:ラック部、 37:モータ、 46:連結シャフト、 C:油槽の中心線(回転中心線)、 W:ワーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入油を貯留する油槽と、
前記油槽内の前記焼入油に浸漬したワークの外周面に対向するように当該ワークを中心として配置されている噴出口を有し当該噴出口から当該外周面に対して焼入油を噴射する複数の噴射手段と、
前記噴出口を前記ワークに対して接近及び離反させる位置調整機構と、
前記位置調整機構を制御することにより前記ワークに対する前記噴出口の位置を設定する位置制御部と、
を備えたことを特徴とする焼入装置。
【請求項2】
複数の前記噴射手段それぞれは、前記噴出口を前記ワークに対して接近及び離反させる方向に延びているラック部を有し、
前記位置調整機構は、前記ラック部毎に設けられ当該ラック部と噛合するピニオンと、前記ピニオン同士をトルク伝達可能として連結している連結シャフトと、前記連結シャフトを回転させて各ピニオンを回転駆動するモータと、を有している請求項1に記載の焼入装置。
【請求項3】
前記噴射手段は、前記噴出口に焼入油を供給するパイプを有し、前記ラック部は、前記パイプに形成されている請求項2に記載の焼入装置。
【請求項4】
前記噴出口から噴射する焼入油の流量を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果に基づいて前記噴出口から噴射する焼入油の流量を制御する制御部と、を備えた請求項1から3のいずれか一項に記載の焼入装置。
【請求項5】
前記油槽内の前記焼入油に浸漬したワークを載せると共に鉛直方向の回転中心線回りに回転可能なテーブルと、
前記テーブルを前記回転中心線回りに回転駆動するテーブル駆動手段と、
を備えた請求項1から4のいずれか一項に記載の焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214037(P2011−214037A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81172(P2010−81172)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】