説明

焼成セッター及びその製造方法

【課題】高い精度で被焼成体を焼成することが可能な焼成セッターを製造し、提供する。
【解決手段】被焼成体に接触して使用される焼成セッターであって、焼結工程を経て製造され、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない焼成面であり、該搭載面の表面に、基材と一体化された凹凸部が形成されていることを特徴とする焼成セッター、及びその製造方法。
【効果】本発明の焼成セッターは、被焼成体が焼成セッターの表面に付着しにくく、製品を搬送、回収しやすく、特に、焼成変形の小さい高精度のセラミック部品の生産に好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成セッター及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、小型で精密なセラミック部品等のファインセラミック材料を製造するプロセスの焼成工程で好適に使用される、精密加工を施された、従来製品にない特性を付与した新しい焼成セッター及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、AV機器、OA機器、家電製品等に使用さているセラミック電子部品が、電子機器の小型化、軽量化等にともない、急速に小型化、精密化の傾向をたどっている中で、高い寸法精度や、品質のばらつきのない製品を製造するためには、製造工程における工程管理が重要であること、そして、従来使用されていた焼成セッターでは、小型で精密なセラミック電子部品への対応が十分になされていなかったこと、を踏まえて開発されたものであり、本発明は、例えば、セラミック電子部品等のファインセラミック製品の技術分野において、小型で精密なセラミック部品や、高い寸法精度で、良品歩留まりの高いセラミック部品を製造するプロセスで使用するための、新しい高精度焼成セッターを提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、セラミック材料等を焼成するプロセスで用いられる、表面に被焼成体を搭載して、焼成するための焼成セッターとしては、種々の形式のものが知られているが、これらの従来製品では、焼成セッターと被焼成体との反応又は融着が問題となっていた。特に、近年、小型で精密なセラミック電子部品等を焼成により製造する工程において、焼成セッターと被焼成体との反応及び融着の問題を確実に解決することが強く求められている。セラミック電子部品、例えば、セラミックコンデンサー、セラミック圧電材料、マイクロ波誘電体、高周波用フィルター、半導体コンデンサー、サーミスタ、セラミックバリスタ、セラミックセンサー等には、その原料として、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、稀土類酸化物、あるいはこれらの複合物等のセラミック材料がしばしば用いられている。
【0004】
これらのセラミック電子部品は、一般に、原料を調合し、成形した後、焼成用の焼成セッターの被搭載面に搭載し、炉中で高温にて焼成することにより、セラミック焼成体とし、次いで、これに電極を形成する等の加工をした後、最終的に組み立てることにより製造される。各種コンデンサーやセンサー等の電子部品を焼成する工程においては、一般に、アルミナ、ムライト等の安価で軽量の酸化物系の焼成セッターが使用されることが多いが、例えば、コンデンサーの主原料であるチタン酸バリウムのバリウムや、チタン酸鉛の鉛は、アルミナと反応し易く、それによる汚染、電気特性の低下、焼成セッターと被焼成体との反応又は融着等の問題が不可避的に生じていた。
【0005】
また、近年、AV機器、OA機器、家電製品等は、急速に、小型化や軽量化が進み、それにともない、使用されているセラミック電子部品の小型化、精密化が進んでいるが、部品が小型で精密であるがために、被焼成体の汚染、あるいは反応又は融着による不良品の発生等が起きやすく、これらは、小型で精密な部品を製造するにあたり大きな問題となっている。従来は、焼成セッターの上に、被焼成体とは反応しないセラミック粉末を敷粉として敷いて焼成することにより、焼成セッターと被焼成体との反応又は融着を防止する方法が採用されることがあったが、この方法では、被焼成体の表面にセラミック粉末が付着するため、その粉末の除去作業が必要となり、また、焼成温度が高くなると、粉末同士が、凝集、融着するため、敷粉としての再利用が難しく、産業廃棄物として処理する必要がでてくる等の問題があった。
【0006】
一方、焼成セッター自体の形状、構造を変えることによって、上記のような問題を解決する提案がなされている。例えば、多孔質セラミック板の表裏面を貫通する、直径0.2〜5mmの通気孔を多数有するポーラス状の焼成セッター(特許文献1参照)、が提案されているが、焼成セッターの厚みが薄くなるほど強度的に弱くなり、欠け等が発生する問題がある。また、焼成セッターの厚みが0.5〜5mmの範囲にあり、被焼成体との接触面に、独立した陥没が多数形成され、1個の陥没の面積が0.07〜36mmの範囲にある焼成用焼成セッター(特許文献2参照)、が提案されている。
【0007】
また、表面に溝を形成した焼成セッターとしては、例えば、幅0.2〜1.5mm、深さが焼成セッターの厚みの10〜30%からなる溝を形成して、被焼成体の変形、融着等を防止する方法(特許文献3参照)、が提案されている。また、表面に凹凸を形成した焼成セッターとしては、例えば、被焼成体と接するセラミック基体の表面に、高さが200〜1500μmの凹凸構造を、パターンマスクを利用したブラスト処理、コーティング処理等により形成したセラミック焼成用の焼成セッター(特許文献4参照)、また、焼成時に消失する材質で構成された凹凸形状のシートを介在させて、グリーンシートを加圧成形してシート上に凹凸を形成し、凹凸形状を転写する焼成セッターの製造法(特許文献5参照)、更に、セラミック原料のペーストを、パターン形状の穴を有するマスキング板を使用して印刷することにより、0.2〜2.0mmの凸部を形成した板状耐火物からなる焼成セッター(特許文献6参照)、等が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの方法、又は焼成セッターでは、高いアスペクト比をもつ凹凸を広い面積で形成すること、及びその精密な配置、微細な形状の付与を高精度に制御して行うこと等は困難であり、それらを可能とする上記精密部品の焼成に適合した新しい技術の開発が求められていた。また、この種の方法では、成形時に使用した凹凸シートを焼却、除去する必要があること、また、パターン等の特殊な用具が用いられること等から、経済的及び環境負荷低減の観点からもその改善が強く要請されていた。
【0009】
【特許文献1】特開2002−265281号公報
【特許文献2】特開平11−79852号公報
【特許文献3】特開2004−250241号公報
【特許文献4】特開平6−281359号公報
【特許文献5】特開平11−335179号公報
【特許文献6】特開2000−109370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を解決し得ると共に、例えば、小型で精密なファインセラミック材料の製造において、被焼成体の変形が少なく、また、焼成体の汚染がなく、被焼結体との反応又は融着がない焼成セッターを提供することを可能とする新しい技術を開発することを目標として、鋭意研究を積み重ねた結果、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない焼成面であり、該搭載面の表面には、基材と一体化された凹凸部が形成されている焼成セッターにより、上記問題を解決し、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、高い寸法精度で、品質上のばらつきが少ないセラミック焼成体を製造するために好適に使用される焼成セッターを提供することを目的とするものである。また、本発明は、被焼成体との接触面積、及び摩擦係数を小さくすること、被焼成体が、焼成セッターと反応又は融着しないようにすること、変形・そり等が少ない、高精度の焼成体を製造することを可能とすることを実現する焼成セッターを提供することを目的とするものである。また、本発明は、焼成セッターの表面の凹凸部と本体を一体成形することにより、精密な凹凸を、広い面積で規則的に形成することを可能とするとともに、使用時における摩耗等による損耗抵抗性を付与し、良品歩留まりのよい焼成体の製造を可能とする焼成セッターを提供することを目的とするものである。また、本発明は、繰り返して使用しても、汚染がなく、焼成体の回収が容易な焼成セッターを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、高度な寸法精度、電気特性等が要求されている、例えば、小型で精密なセラミック電子部品の製造に好適に使用することが可能な焼成セッターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)被焼成体に接触して使用される焼成セッターにおいて、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない状態の焼成面であり、該搭載面の表面には、基材と一体化された凹凸部が形成されていることを特徴とする焼成セッター。
(2)被搭載面の表面に、形状、配置、大きさにおいて規則性を有する凹凸が形成されている上記(1)に記載の焼成セッター。
(3)凹凸部が、上記表面に形成された、半球状、正四角、正三角、又は正六角状の突起群である上記(1)に記載の焼成セッター。
(4)凹凸部が、格子網目の格子点を形成するように配されている上記(1)に記載の焼成セッター。
(5)被搭載面に形成された凹凸部の大きさが、1mm以下、隣り合う凹凸間の底面の距離が0.5mm以下である上記(1)から(4)のいずれかに記載の焼成セッター。
(6)被搭載面に形成された凹凸部の高さが、0.2mm以上である上記(1)から(5)のいずれかに記載の焼成セッター。
(7)焼成セッターの基材が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、又はそれらの複合材料である上記(1)から(6)のいずれかに記載の焼成セッター。
(8)窒化ケイ素が、反応焼結窒化ケイ素である上記(7)に記載の焼成セッター。
(9)表面の凹凸部の最表層に、固体潤滑材が配されて、一体焼成されている上記(1)から(8)のいずれかに記載の焼成セッター。
(10)固体潤滑材が、窒化ホウ素、雲母、及び/又はモナザイト構造化合物である上記(9)に記載の焼成セッター。
(11)モナザイト構造化合物が、燐酸ランタンである上記(10)に記載の焼成セッター。
(12)原料をスラリー化する工程と、内壁表面に凹凸を有する多孔質からなる型に、前記スラリーを注入する工程と、注入後、多孔質の気孔に、スラリーの水分を吸収させることにより着肉固化させて、型の内壁表面に形成された凹凸を着肉固化部に転写する工程と、成形体を取り出し、乾燥した後、所定の温度にて焼成し、焼結・緻密化せしめる工程からなることを特徴とする焼成セッターの製造方法。
(13)凹凸を着肉固化部に転写する工程の後、固体潤滑材成分を、基材としての成形体の凹凸表面と融合させ、次いで、焼結・緻密化と同時に基材と固体潤滑材成分を一体焼成せしめる工程を有する上記(12)に記載の焼成セッターの製造方法。
【0013】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明の焼成セッターは、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない状態の焼成面であり、該搭載面の表面には、基材と一体化された凹凸部が形成されていること、そして、好適には、その表面に、形状、大きさ、配置、間隔が制御された多数の微細な凹凸が、広い面積で規則的に形成されていることを特徴とするものであり、それにより、被焼成体との摩擦抵抗を低減し、炉内での被焼成体の周囲の熱ガスの流れを調整して均一な温度分布を達成し、その表面に搭載された被焼成体を、高い寸法精度で、汚染されることがなく高純度で、また、温度差による焼きむらを生じさせることなく焼成することを可能とするものである。本発明において、被焼成体とは、焼成セッターに搭載して焼成される対象物を意味し、被搭載面とは、該対象物を搭載するための平面部を意味する。本発明の焼成セッターは、特に、小型で精密なセラミック部品、例えば、精密セラミック電子部品の製造プロセスにおける焼成工程で好適に使用されるものである。
【0014】
本発明の焼成セッターの表面に形成される凹凸、例えば、突起部の大きさや配置は、基本的には、一定形状に制御された突起部が、焼成体の表面に、均一、かつ高精度に形成されていればよく、その形状、配置等については特に限定されない。該凹凸は、例えば、半球状、四角形、三角形、六角形状等の突起状であるのが好適であり、例えば、半球、円柱、円錐、四角柱、四角錐、三角柱、三角錐、六角柱、六角錐等の形状からなる突起から選択することが可能である。中でも、各突起部が、被焼成体と、点接触することが可能である形状の凹凸が好ましく、例えば、半球、四角錐、三角錐等が好適であるが、特に、半球形状の突起は、作製が容易であり、しかも、使用時においての、破損、摩耗等が少ない点で最も好適である。
【0015】
焼成セッターの表面の突起部は、例えば、格子網目の格子点を形成するように規則的に配設するのが好適であり、これにより、被焼成体の底面が、焼成セッターの突起部より均等に支持され、加熱ガスによる加熱が均質化される。突起部の底部の大きさは、1mm以下、好適には、0.4〜0.8mm、突起部の底面間の距離は、0.5mm以下、好適には、0.1〜0.4mmである。また、突起部の高さは、0.2mm以上、好適には、0.4〜1.0mmである。突起部の構成がこの範囲内にあると、被焼成体と焼成セッターの接触面が少なくなり、反応又は融着いてて、配置、間隔をが軽減されること、被焼成体の熱収縮に基づく、変形・そりが生じにくくなること、炉内の雰囲気ガスの流れが制御されて、温度分布が均一になること、また、焼成体が滑りやすくなり、回収が容易になること等の作用効果が得られる。
【0016】
本発明の焼成セッターは、焼成工程を経て製造されたものであり、被焼成体と接触する被搭載面は、機械加工が施されていない状態にある。すなわち、一旦焼成することにより製造された焼成セッターの被搭載面は、機械加工手段による加工、例えば、ブラスト処理、切削加工処理等が施されていない、焼成面からなる。セラミック製の焼成セッターの表面に、機械処理によって、規則的で均一な微細凹凸を設けることは容易ではなく、例えば、ブラスト処理により形成された凹凸は、不規な形状、深さとなり、所望の形状、構造を有する凹凸を形成することは極めて困難であるが、本発明では、このような問題を有しない。
【0017】
また、本発明の焼成セッターは、その基材と突起部とが、一体化されて凹凸部を形成している。すなわち、焼成セッター基材と突起部との間に異質の材料、例えば、接着剤層を介在させて、両者を接合するものではなく、例えば、焼成セッター基材と突起部が、同質の材質からなり、焼結により一体化している。こうして、両者を一体化することにより、摩擦抵抗性、強度、熱分布、熱伝導性等に優れた焼成セッターを製造することが可能となる。基材と突起部を別個に作製し、接着剤等で接合した焼成セッターでは、本発明のような優れた特性を得ることはできない。
【0018】
本発明の焼成セッターは、焼成工程を経て製造されるが、該焼成工程は、焼成セッターが、焼成により、十分な強度、耐摩耗性、潤滑性等を発揮すればよく、その焼成条件は、原料の材質に応じて適宜決定される。また、焼成工程では、反応焼結により焼結体とすることが可能であり、例えば、ケイ素からなる成形体を、窒素雰囲気中で高温に加熱し、ケイ素を窒化ケイ素に変換するとともに焼結し、成形体とすることができるが、焼成温度、時間等は、使用する原料の材質に応じて適宜決定される。
【0019】
本発明の焼成セッターを構成する材質としては、アルミナ、ジルコニア、ムライト、窒化ケイ素、炭化珪素、シリカ、ジルコニア等のセラミック材料、あるいはそれらを主成分とする複合材料が例示されるが、これらの材質に限定されるものではなく、これらと同効のものであれば適宜の材料を使用することができる。
【0020】
本発明の焼成セッターの被搭載面は表面摩擦抵抗が低いので、被焼成体が熱収縮しても、被焼成体は、焼成セッターの被搭載面に拘束されることなく焼成が行われるため、焼成体に、変形・歪みを生じない。このように、本発明では、焼成工程での被焼成体の熱収縮を拘束するものがないので、焼成セッターに搭載したセラミック材料を、例えば、良品歩留まり94%以上を達成して焼成し、製造することができる。本発明では、焼成セッターの表面の凹凸部の最表面に、固体潤滑材を一体に形成することが可能であり、それにより、凹凸部表面の摩擦抵抗を、更に低下させることが可能となる。この場合、固体潤滑材としては、好適には、窒化ホウ素、雲母、モナザイト構造を有する化合物、例えば、燐酸ランタン等が使用される。これらの潤滑材層を設けることにより、良品歩留まりを100%に向上させることができる(図3C参照)。
【0021】
次に、本発明の焼成セッターの製造方法の一例を示すと、本発明の焼成セッターの製造方法は、基本的には、セラミック粉末や助剤等からなる原料粉末を、水と混合し、スラリー化する工程、内壁面に凹凸を有する多孔質からなる型に、スラリーを注入する工程、多孔質の型の気孔内に、スラリーの水分を吸収させることにより、型の内壁面に原料粉末を着肉固化させて、型の内壁面に形成された凹凸を着肉固体部に転写する工程、型内より成形体を取り出し、乾燥した後、所定の温度で焼成し、焼結せしめる工程から構成される。また、上記製造方法において、型内より取り出した成形体の表面に、固体潤滑材成分を、スラリーとして吹き付け、あるいは塗布等により、基材としての成形体の凹凸面と融合させ、乾燥後、所定の温度にて焼成し、焼結・緻密化すると同時に、基材と固体潤滑材成分を一体に焼結せしめることが可能であり、それにより、表面摩擦抵抗を低下させることができる。
【0022】
本発明の焼成セッターを製造するための原料スラリーは、例えば、アルミナ、ジルコニア等のセラミックからなる耐熱性を有する物質の粉末、PVA、アクリル系バインダー等の水溶性結合材、及び所定量の水を混合し、作製される。このとき、原料粉末は、平均粒径を、0.1〜20μmとするのが好適であり、粒度は、焼成後の焼成セッターの表面に形成された凹凸の転写精度、表面の平滑性、焼結性等を考慮して、この範囲内から適宜選択される。
【0023】
本発明の焼成セッターの成形用の型は、多孔質体からなるもの、例えば、石膏型が好適である。この型を使用した成形は、例えば、内壁面に凹凸を設けた多孔質の材質からなる型に、原料スラリーを注入すると、スラリー中に含まれる水分が、多孔質の型壁面から吸収され、原料粉末は、接合材とともに内壁面に付着して、着肉固体となる。このとき、型の内壁面に形成された凹凸形状が、着肉固体部に転写され、所定の凹凸を有する成形体が得られる。型の内壁面に、所定の凹凸を形成する方法に制限はないが、例えば、型の作製時に、任意の形状の物体、例えば、球をその内壁面に押し付けて、内壁に半球状の凹部を形成する方法、型の内面を切削して凹部を形成する方法等が例示される。また、プレス成形、熱成形等により、熱可塑性樹脂シート等の表面に陥没を形成した、シート、テープ類を作製し、これを型の内壁面に設置する方法が例示される。シート類を型内に設置するには、注入するスラリーの圧力によりシート類がずれたり、剥れたりしないようにしなければならない。
【0024】
型から取り出した成形体は、乾燥させた後、焼成する。焼成工程では、使用した原料の特性に応じて焼成条件が決定されるが、例えば、窒化ケイ素粉末を主とする原料では、1800℃での焼成により焼結される。また、ケイ素粉末を主成分とする原料では、窒素気流中、1400℃での反応焼結の後、1800℃で焼結して焼結体を製造する反応焼結法が用いられる。ケイ素を原料とする反応焼結窒化ケイ素の製造方法は、焼結による収縮が無く、成形時の状態をそのまま焼結後も維持できるので、焼成セッターの製造に好適である。このようにして製造された焼結体は、焼成セッターの基体と、凹凸部とが一体に形成されているため、強度及び耐摩耗性に優れていること、また、その表面の摩擦抵抗は低いことから、高い寸法精度で、高品質のセラミック部品等を焼成するための焼成セッターとして好適に使用することができる。
【0025】
本発明では、焼成セッターの表面摩擦抵抗を更に低くすることにより、焼成したセラミック部品の、良品歩留まりを更に向上させることができる。摩擦抵抗を低下させるには、焼成セッターの表面の凹凸部に、例えば、窒化ホウ素、雲母、又はモナザイト構造化合物からなる潤滑材層を形成することにより達成される。潤滑材層は、例えば、潤滑材の粉末を、結合剤等の助剤とスラリーにして、塗布、スプレー等により、凹凸表面に適用し、次いで、潤滑材層が形成された成形体を、焼成又は反応焼成することにより形成される。また、潤滑材層の形成により、良品歩留まりを、更に向上させることができる(図3C参照)。このようにして、例えば、被搭載面の表面に、半球状等の凹凸及び潤滑剤層が形成された焼成セッターが製造される。
【0026】
従来品として、焼成セッターの表面に、例えば、ブラスト処理、コーティング処理、又は印刷処理等により、凹凸を形成したものは種々開発されており、焼成セッターの表面に上述の処理手段により凹凸を形成することは実施されていたが、それらの処理手段の加工精度の限界等から、例えば、一定形状に制御された、半球状の突起を、焼結体の表面に、均一、かつ高精度に形成された焼成セッターを作製することは困難であり、また、これまで、そのような製品はなく、小型化及び精密化したセラミック部品の製造に好適に使用し得る焼成セッターは存在しなかったのが実情である。これに対して、本発明の焼成セッターは、1)被焼成体との接触面積を小さくすることができるために、被焼成体と反応又は融着が生じない、2)焼成セッターの被搭載面が滑りやすいために、被焼成体を焼成する際の収縮に起因する、変形・そりが生じにくい、3)被焼成体との接触面積が小さいこと、固体潤滑層を有することにより、焼成体の搬送、回収が容易である、4)焼成セッターの基材と凹凸部が焼成工程により一体に形成されているため、機械的強度、耐摩耗性に優れる、5)焼成セッターの凹凸の通気部分をガスが流動することにより均一に加熱されるため、雰囲気と温度分布が均質になりやすい、という従来品にはない優れた特性を有するものである。本発明の焼成セッターは、このような特性を有することにより、小型で精密なセラミック電子部品等を高い精度で、高効率に製造することを可能とするものである。
【0027】
更に、本発明は、機械加工を施さないで、被搭載面の表面に、基材と一体化された凹凸部が形成されている上記焼成セッターを製造することを可能とする焼成セッターの生産技術を提供するものである。本発明の方法は、簡便で効率的な方法により、広い面積で、形状、大きさ、配置、間隔が制御された多数の微細な凹凸を均一、かつ高精度に形成することを可能とするものであり、それにより、上述の優れた諸特性を有する焼成セッターを製造することを可能にするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、(1)高い寸法精度で品質上のばらつきが少ない精密セラミック材料の焼成に有用な、焼成セッターを製造し、提供することができる、(2)被焼成体が、焼成セッターに反応又は融着しにくく、焼成にともなう収縮による、被焼成体の変形・そり等がない焼成セッターを提供することができる、(3)焼成セッター表面の凹凸部と基体を一体成形することにより、十分な機械的強度を確保し、使用時における凹凸部の摩耗等による損耗に対する抵抗性を付与した焼成セッターを提供することができる、(4)焼成セッターを僅かに傾斜するだけで、その表面に搭載された焼成製品を搬送し、回収することができる、(5)焼成セッターの規則的凹凸部により、雰囲気温度と、製品温度分布が均質になる、(6)広い面積の搭載面を有する焼成セッターを、廃棄物が少なく、低コストで製造することができる、(7)小型で精密なセラミック電子部品、例えば、セラミックコンデンサー、圧電セラミック、半導体セラミック等の焼成に適した焼成セッターを製造し、提供することができる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
本実施例では、一定形状に制御された、半球状の突起部が、焼結体の表面に、均一、かつ高精度に形成された突起付きプレートを製造した。平均粒径が1ミクロン程度の窒化ケイ素粉末、及びアルミナ、イットリアを、それぞれ90:3:5の重量比となるように秤量し、所定量のPVA、及び粉末総重量に対して140重量%の水を配合し、ボールミルにより混合して、原料スラリーを調製した。一方、表面に、直径が0.8mmの半球状の凸部を形成し、一辺を約60mmとした平板を内壁に持つ石膏型を作製し、この型内に、上述のスラリーを注入した。所定時間が経過した後、型から成形体を取り出し、更に、生強度向上のために静置した。この成形体を乾燥した後、0.93MPaの窒素雰囲気中、最高1800℃で焼成し、緻密化させた。得られた焼結体の表面には、直径D:0.7mm、突起部の底部の距離d:0.5mm、高さh:0.4mmの、一定形状に制御された半球状の突起部が、正四角の格子状に均一、かつ高精度に形成されていることを確認した。図1に、製造した突起付きプレートの状態図を示す。
【実施例2】
【0031】
ケイ素粉末、に対してアクリル系バインダーを1wt%、及び粉末総重量に対して140wt%の水を配合し、ボールミルにより混合した。一方、実施例1と同様のプロセスにより、サイズの異なる石膏型を使って、突起部の直径D:0.8mm、突起部の底部の距離d:0.2mm、高さh:0.5mmの、成形体のプレートを作製した。これらの成形体を乾燥後、窒素雰囲気中にて最高1400℃まで加熱し、窒化し、反応焼結窒化ケイ素からなる焼結体を製造した。焼結過程で、ほとんど寸法収縮及びそりを生ずることはなく、焼結体の表面に、一定形状に制御された半球状の突起部が、均一、かつ高精度に形成された突起付きプレートを製造することができた。
【実施例3】
【0032】
ジルコニア、アルミナ、ムライトを原料粉末として、実施例1と同様に、成形を行った後、大気中で焼成を行って、突起付きプレートを製造した。
【実施例4】
【0033】
炭化ケイ素を原料粉末として、実施例1と同様に、成形を行った後、アルゴン雰囲気中で焼成を行って、突起付きプレートを製造した。
【実施例5】
【0034】
実施例1において成形した成形体の表面に、BNを含有するスラリーを吹きつけ、乾燥した後、一体焼成して、焼成セッターを製造した。焼結体の表面に、BN層が形成されていることを、XRD、観察によって確認した。
【実施例6】
【0035】
実施例2において、成形した成形体の表面に、BNを含有するスラリーを吹きつけ、乾燥した後、一体焼成して、焼成セッターを製造した。焼成体の表面に、BN層が形成されていることを、XRD、観察によって確認した。図2に、基材の表面に形成した突起部の表面に固体潤滑材層を有する焼成セッターを示す。
【実施例7】
【0036】
実施例3において、成形した成形体の表面に、雲母及びモナザイト化合物である燐酸ランタンを含有するスラリーを吹きつけ、乾燥した後、一体焼成した。焼結体の表面には、燐酸ランタン/雲母の混合物からなる層が形成されていることを、XRD、観察によって確認した。
【実施例8】
【0037】
(固体摩擦係数)
本実施例では、本発明の焼成セッターと従来の焼成セッターの特性を比較した。実施例6で製造した焼成セッター、ならびに実施例6と同じ材質で、ショットブラストにより凹凸を設けた焼成セッター(比較例)、に対する窒化ケイ素の摩擦係数を測定した。その結果、本発明の焼成セッターでは摩擦係数は0.2程度であり、比較例(従来例)の摩擦係数0.8と比べて、小さな値を示すことが分かった。これは、表面における焼成体との接触面積が小さい上、一定形状に制御された半球状の突起部が、焼結体の表面に、均一、かつ高精度に形成された最表面の固体潤滑効果によるものと推察された。実施例6で製造した焼成セッターの表面には、直径D:約0.8ミリ、突起部の底部間の距離d:0.2ミリ、高さh:0.4mmの半球状の突起部が、正四角の格子状に形成されていた。また、固体潤滑材を吹き付けない焼成セッターにおいても、摩擦係数は、0.4であり、摩擦係数の低減効果が認められた(3図A参照)。
【実施例9】
【0038】
(搬送性)
本実施例では、5ミリ角の成形体(被焼成体)チップを、多数、焼成セッター上に並べて、本発明及び従来例の焼成セッターを用いて焼成した。使用した成形体は、ケイ素、アルミナ、イットリアをこの順に、85:6:9(重量比)とした造粒粉末を固めたものであり、焼成工程では、まず、1400℃の窒素気流中で反応焼結した後、1850℃で加熱して焼結体とした。成形体は、外径Φ40mm、内径Φ30mm、高さ20mmのパイプであり、焼結後における寸法のばらつきを、0.5%以内に抑える必要がある製品であった。焼成後、焼結体を搭載した焼成セッターを、斜め約45度に傾けて、表面の焼結体を滑らせ搬送させたところ、一定形状に制御された半球状の突起部が、焼結体の表面に、均一、かつ高精度に形成された本発明の焼成セッターでは、滑りがよく、すべて回収できたが、従来例の焼成セッターでは、表面の凹凸の高さや分布が一様でないために、部分的にひっかかりが生じ、焼結体を回収しにくいことが分かった(3図B参照)。
【実施例10】
【0039】
(良品の歩留まり)
実施例9と同様にして、高さ約40mmの複雑形状の成形体を、本発明及び従来例の焼成セッターを用いて焼成した。この成形体は、上記の造粒粉末を固めて成形したものであり、焼成工程で、まず、1400℃の窒素気流中で反応焼結せしめた後、1850℃で加熱して焼結した。成形体は、外径Φ40mm、内径Φ30mm、高さ20mmのパイプであり、焼結後における寸法のばらつきを、0.5%以内に抑える必要がある製品であった。焼成にともなう成形体の収縮のために、従来例の焼成セッターでは、焼成セッターと成形体間のフリクションが大きく、底面で拘束されるため、焼結体には変形・そりが生じた。それに対して、本発明の焼成セッターでは、すべりがよく底面での拘束がないため、均一に収縮し、ほとんど変形やそりが生じることなく、寸法ばらつきは0.5%以内に収まり、歩留まりが向上した(3図C参照)。このことは、一定形状に制御された半球状の突起部が、焼結体の表面に、均一、かつ高精度に形成された本発明の焼成セッターでは、成形体が焼結時に収縮する際に、焼成セッターとの摩擦力が小さく、変形抵抗が小さいことや、規則正しく設けられた凹凸によりガスの流れとそれにともなう温度分布が均質になったためと考えられる。
【実施例11】
【0040】
本実施例では、ムライト原料を用いて焼成セッターを製造した。焼成セッターの表面には、直径D:約0.8mm、突起部の底部間の距離d:0.15mm、高さh:0.5mmの、一定形状に制御された半球状の突起部を、正四角の格子状に、均一、かつ高精度に形成されていることを確認した。同焼成セッター上に、10×10×1mmのチタン酸バリウムの成形体を100枚ならべて、大気中、1350℃で焼成を行った。100枚の焼結体について、その変形度を、従来例の焼成セッターを使用した場合と比較したところ、従来例の焼成セッターを使用した場合の標準偏差が0.36であったのに対して、本発明の焼成セッターを使用した場合の標準偏差が0.12と、1/3に改善されていることが分かった。また、焼成セッターを約45度に傾けると、すべての焼成体はひっかかることなく円滑に搬送、回収することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上詳述したように、本発明は、焼成セッター及びその製造方法に係るものであり、本発明により、被焼成体に接触して使用される焼成セッターにおいて、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない状態の焼成面であり、該搭載面の表面には、基材と一体化された凹凸部が形成されている焼成セッター、及びその製造方法を提供するものである。また、本発明は、高い寸法精度や品質上のばらつきが少ない焼成体を得るために有用な焼成セッターを製造し、提供することを可能とするものである。
【0042】
従来、例えば、AV機器、OA機器、家電製品等に使用される電子部品は、電子機器の小型化、軽量化等にともない、小型化、精密化し、セラミック電子部品においても、高い寸法精度や品質のばらつきのない小型で精密なものが求められている。本発明は、例えば、小型で精密なセラミック電子部品等のファインセラミックの製造技術において使用される焼成セッターにおいて、焼成セッターの表面に、例えば、半球状等の微細な凸部が、広い面積で、均一、かつ規則的に形成されていることを特徴とするものであり、それにより、焼成セッターと被焼成体との接触面積を小さくすること、被焼成体との摩擦係数を小さくすること、被焼成体を焼成セッターに付着しにくくすること、また、焼成にともなう、変形・そり等を少なくすること、を可能とするとともに、使用時における凹凸部の摩耗等による損耗に対する抵抗性を付与した焼成セッターを提供することを可能とするものである。更に、本発明は、高度な寸法精度、電気特性等が要求されているセラミック電子部品、例えば、セラミックコンデンサー、圧電セラミック、半導体セラミック等の素材として有用な精密セラミック材料の焼成に使用することが可能な焼成セッターを提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】鋳込み成形で製造した、本発明の突起付き焼成セッターの構造を示す。
【図2】固体潤滑材を最表面層に配した、本発明の焼成セッターの断面構造を示す。
【図3】本発明ならびに従来の焼成セッターの表面摩擦係数、搬送性、及び良品歩留まりの値を比較して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼成体に接触して使用される焼成セッターにおいて、被焼成体と接触する被搭載面が、機械加工を施していない状態の焼成面であり、該搭載面の表面には、基材と一体化された凹凸部が形成されていることを特徴とする焼成セッター。
【請求項2】
被搭載面の表面に、形状、配置、大きさにおいて規則性を有する凹凸が形成されている請求項1に記載の焼成セッター。
【請求項3】
凹凸部が、上記表面に形成された、半球状、正四角、正三角、又は正六角状の突起群である請求項1に記載の焼成セッター。
【請求項4】
凹凸部が、格子網目の格子点を形成するように配されている請求項1に記載の焼成セッター。
【請求項5】
被搭載面に形成された凹凸部の大きさが、1mm以下、隣り合う凹凸間の底面の距離が0.5mm以下である請求項1から4のいずれかに記載の焼成セッター。
【請求項6】
被搭載面に形成された凹凸部の高さが、0.2mm以上である請求項1から5のいずれかに記載の焼成セッター。
【請求項7】
焼成セッターの基材が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、又はそれらの複合材料である請求項1から6のいずれかに記載の焼成セッター。
【請求項8】
窒化ケイ素が、反応焼結窒化ケイ素である請求項7に記載の焼成セッター。
【請求項9】
表面の凹凸部の最表層に、固体潤滑材が配されて、一体焼成されている請求項1から8のいずれかに記載の焼成セッター。
【請求項10】
固体潤滑材が、窒化ホウ素、雲母、及び/又はモナザイト構造化合物である請求項9に記載の焼成セッター。
【請求項11】
モナザイト構造化合物が、燐酸ランタンである請求項10に記載の焼成セッター。
【請求項12】
原料をスラリー化する工程と、内壁表面に凹凸を有する多孔質からなる型に、前記スラリーを注入する工程と、注入後、多孔質の気孔に、スラリーの水分を吸収させることにより着肉固化させて、型の内壁表面に形成された凹凸を着肉固化部に転写する工程と、成形体を取り出し、乾燥した後、所定の温度にて焼成し、焼結・緻密化せしめる工程からなることを特徴とする焼成セッターの製造方法。
【請求項13】
凹凸を着肉固化部に転写する工程の後、固体潤滑材成分を、基材としての成形体の凹凸表面と融合させ、次いで、焼結・緻密化と同時に基材と固体潤滑材成分を一体焼成せしめる工程を有する請求項12に記載の焼成セッターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225186(P2006−225186A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38606(P2005−38606)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】