説明

焼成食品の製造方法

【課題】 焼成食品、特にシュー皮やパイなどの高温で処理される食品について、焼色を調整し、焼成時の褐色化を抑えることである。また、生地原料の自由度を制限することなく、焼成食品の焼色を調整することである。
【解決手段】 焼色を調整して食用生地を焼成し焼成食品を製造する方法であって、この食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態でこの食用生地を焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼色を調整して食用生地を焼成し焼成食品を製造する焼成食品の製造方法、焼色を調整する焼成食品用の食用生地、この食用生地を用いた焼成食品、及び食用生地用の焼色調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原料を仕込む仕込工程と、この仕込工程により得られた食用生地を焼成する焼成工程と、を経て得られるパン、ケーキ、パイ、シュー皮(シュークリームやエクレアなど)、等の各種食品(以下、焼成工程を経て得られるこれら各食品を総称して「焼成食品」と呼ぶ。)に関しては、一般に、小麦粉を原料とした食用生地を焼成することによって、この生地の表面が褐色化し、そのように褐色化されたものが市場に供給されていた。
【0003】
一般に、このように焼成時に褐色化する現象は、「メイラード反応」によるものと認識されており、原料として糖分とタンパク質(アミノ酸)を含む生地が加熱されることによってこの反応が急速に促進されるもの、と考えられている。
【0004】
例えば、現在広く市場に供給されている表面が白色又は白色系のパン(いわゆる白色パン)では、焼成工程における褐色化を防ぐために、焼成時にメイラード反応を起こす原材料を極力配合せずに生地を作ることが必要とされており、その一方では、焼成時に起きるメイラード反応を抑制又は阻害するような原料や添加物等の研究が行われている。
【0005】
典型的には、メイラード反応による褐色化の大きな要因は砂糖(蔗糖、単糖)の使用にあるとして、この使用量を一定値以下に制限したり(特許文献1参照)、原料に糖アルコール(特許文献2参照)、又は乳糖(特許文献3参照)などを使用して焼成する技術が知られている。
【0006】
したがって、食用生地を焼成して白色系の焼成食品を製造しようとする場合には、焼成時におけるメイラード反応による褐色化を抑止又は抑制するために、原料の選択及び配合が大きく制限される。
【0007】
一方、シュー皮やパイ等の焼成食品は、原料に砂糖などの甘味料を全く又は殆ど使わずに最終的な食用生地を作ることが一般的であるため、白色系の焼成食品を作るという点で、また原料の選択/配合の自由度の点では一見有利とも考えられる。
【0008】
しかしながら、これらの焼成食品、とりわけシュー皮につき、その表面が白色系になるように焼き上げることは、実際には非常に困難である。シュー皮等の焼成食品では、焼成工程で生地の内部に空洞が形成するように焼成し、焼き上がり後にこの空洞内にクリーム等が注入されて、商品として販売されることになる。ここで、食用生地の内部に空洞を形成するには、食用生地の容積を焼成前の2〜3倍程度に膨張させることが必要となり、このためには相当に強い火力が必要となることから、メイラード反応による生地の褐色化を抑制することが困難であり、生地に焼色が付きやすくなる。このような実情から、表面がほぼ白色に近い白色系のシュークリーム等は、未だ市場に供給されるに至っていない。
【0009】
なお、このようなシュー皮の食用生地の原料としては、小麦粉、油脂(バターや生クリームなど)、生卵(全卵)、および水を混合したものが一般的であるが、近年では、小麦粉、小麦粉以外の特定のα−澱粉、及び粉末油脂、粉末卵、カラギニンを混合した最終原料を焼成することで、工業的に同一規格のものを得るようにした技術が開示されている(特許文献4参照)。また、焼成技術について、シュー皮の生地に内部がほぼ半円球形のカップ状耐熱性容器を被せて焼成することで、ボリュームの増大化や食感の良好化等を図ろうとする方法が開示されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平11−137164号公報
【特許文献2】特開2003−102366号公報
【特許文献3】特開2001−314156号公報
【特許文献4】特公昭57−50455号公報
【特許文献5】特許第2787798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
焼成食品について、特に高温で焼成されるシュー皮については、焼色がつきやすく白色系に焼き上げることが難しい。同様に、パイについても、シュー皮のように数倍に膨張させる必要はないが、焼成時には相当に強い火力が必要となることから、生地の褐色化を抑制することが難しい。さらに、焼色を調整して焼成食品を製造する際に、焼成工程における技術的改良は従来なされてなかった。すなわち、焼色を薄く調整した焼成食品の製造技術の分野においては、そもそも焼成工程における技術的改良の必要性の認識が無く、さらには褐色化を抑止又は抑制するための焼成方法を研究する、という発想すらなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的としては、焼成食品、特にシュー皮やパイなどの高温で処理される食品について、焼色を調整し、焼成時の褐色化を抑えることである。また、生地原料の自由度を制限することなく、焼成食品の焼色を調整することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、焼色を薄く調整しほぼ白色系を呈した焼成食品、さらには焼色を薄くして着色剤の発色を高めた着色焼成食品の製造が難しい理由及びこのような焼成食品を製造するための方法等について鋭意研究及び種々の試験を行った結果、以下のような知見を得るに至った。
【0013】
本発明では、焼色を調整した焼成食品を得るために、従来のように焼成前の生地の原料成分及び配合等にのみ着目した場合には、原料の種類及び配合の自由度が大きく制限されることになること、また、メイラード反応については依然として未解明の部分が多く、今後の一層の研究が待たれていることに鑑みて、他の工程の技術的改良についても鋭意研究を重ねた。
【0014】
具体的には、本発明者は、焼色を調整した焼成食品を得るために、その生地の成分や配合等について鋭意研究する一方で、「食用生地の仕込工程のみならず、食用生地完成後の焼成工程の処理にも技術的な工夫の余地が残されているはずであって、焼成工程に新規な処理を施すことにより、メイラード反応を抑止又は抑制する方法があるのではないか」との着想に至り、種々の研究及び試行錯誤の試験を繰り返すことにより、本発明を創出するに至った。
【0015】
なお、焼成工程において、食品の表面を、青、赤、緑、等の各種の鮮やかな色の食品(すなわち着色焼成食品)に焼き上げることも、結局のところ、焼色を薄く調整する焼成食品の技術の延長線上にある。すなわち、焼色を調整すれば、着色剤の発色を鮮やかに維持することができる。
【0016】
このようにして、本発明者は、本発明の目的を達成するため研究を重ねた結果、食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態で焼成を行えば、食用生地が焼成時に褐色化しないとう知見を得て、本発明に至った。すなわち、本発明は、次の内容を要旨とするものである。
【0017】
本発明の焼成食品の製造方法は、請求項1の記載のとおり、焼色を調整して食用生地を焼成し焼成食品を製造する方法であって、この食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態でこの食用生地を焼成することを特徴とする。
【0018】
本発明の食用生地は、請求項22に記載のとおり、表面上に焼色調整剤が付着したことを特徴とする。
【0019】
本発明の焼成食品は、請求項28に記載のとおり、食用生地を焼成して製造することを特徴とする。
【0020】
本発明の食用生地用焼色調整剤は、請求項29に記載のとおり、焼成前に食用生地の表面上に付着させて用いられ澱粉質、酸、糖類、食物繊維、穀物粉、又は塩を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、食用生地に焼色調整剤を付着した状態で食用生地を焼成することにより、生地表面が焼成時に褐色化することを防止し、焼色を抑えることができる。特に、一般的に焼成時に褐色化しやすいシュー皮やパイなどの焼成食品において、より白色を呈する食品又は着色剤の発色を鮮やかに保つ食品を提供することができる。また、生地原料の自由度を制限することなく焼色を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0023】
本発明の焼成食品の製造方法は、食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態で食用生地を焼成することで、焼成食品の焼色を調整することを特徴とする。本発明によれば、食用生地の焼成時の褐色化を抑止又は抑制することができ、焼色を抑えより白色を呈する焼成食品、又は着色剤によってより鮮やかな発色を呈する焼成食品を提供することができる。
【0024】
本発明の方法は、菓子、パン、麺などの各種焼成食品に適用することができ、好適には、シュー皮(シュークリームやエクレア)、パイ、ケーキ、スコーン、マフィン、クッキー、ワッフルなどの各種食用生地を焼成して焼成食品を得るものに適用することができる。特に、シュー皮やパイのような糖類を含まず高温で焼成されるものに対して、好適に適用することができる。
【0025】
本発明の食用生地としては、各種焼成食品の原料を混合し焼成を施していないものであり、主に小麦粉製品として、小麦粉に、卵、水、牛乳、バター、砂糖、塩、着色剤、保存料などの任意の原料を適宜添加して混合し、任意の形状に成形したものである。この食用生地を焼成することで、最終的に焼成食品を得ることができる。なお、食用生地の主原料としては、小麦粉の他、任意の原料を用いることができ、好ましくは穀類を粉状に加工したものであり、例えば上新粉、白玉粉、片栗粉(市販、主成分はジャガイモ澱粉、以下同じ)、アーモンドパウダー、きな粉などが挙げられる。さらに、後述するように食用生地の主原料として澱粉質を用いることができる。
【0026】
本発明において焼成食品の焼色の調整は、食用生地が焼成によって焼色を呈さないように調整するものであり、例えば、食用生地の本来の白色からクリーム色の呈色を焼成後もそのまま維持できるもの、又は通常では呈してしまう焼色を抑えることができるものである。さらに、着色剤を添加した食用生地に適用すれば、焼色にともなう着色剤の呈色の濁りを防いで、鮮やかな発色の焼成食品を提供することができる。
【0027】
本発明の焼色調整剤としては、食用生地に付着させた状態で焼成すると食用生地の焼色を抑止又は抑制して焼成食品を提供することができるものであり、澱粉質、酸、糖類、食物繊維、穀物粉、塩などが挙げられる。これら澱粉質、酸、糖類、食物繊維、穀物粉、塩は広く一般的に使用されているものを本発明の焼色調整剤として用いることが可能であるが、次に好適な一例について説明する。
【0028】
本発明の澱粉質の好適な一例としては、わらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、小麦澱粉、ワキシー澱粉、サゴヤシ澱粉、もち米澱粉、うるち米澱粉、ジャガイモ澱粉、コーンスターチ、片栗粉(片栗由来、片栗由来の澱粉を意味する)、タピオカ澱粉、葛粉などの各種澱粉質の1種、又はこれら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0029】
本発明の酸の好適な一例としては、クエン酸、酒石酸水素カリウム、リンゴ酸などの各種酸の1種、又はこれら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0030】
本発明の糖類としては、オリゴ糖、トレハロース、ラクチトールなどの各種糖類の1種、又はこれら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0031】
本発明の食物繊維の好適な一例としては、イヌリン、アルギン酸、グルコマンナンなどの各種食物繊維の1種、又はこれら2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0032】
本発明の穀物粉の好適な一例としては、もち米粉、うるち米粉、上新粉などの米由来の粉末、小麦粉、その他の穀物粉の1種、又はこれら2種以上の組み合せが挙げられる。ここで、穀物粉としてのもち米粉及びうるち米粉は米粒をそのまま粉砕などして粉状にしたものである。これに対し、上述した澱粉質としてのもち米澱粉及びうるち米澱粉はもち米又はうるち米から澱粉成分を抽出したものである。
【0033】
本発明の塩の好適な一例としては、一般的な食用塩、特に雪塩という微粉末状の塩が好ましい。
【0034】
これらの焼色調整剤は粉末状態として食用生地の表面上に付着させることが望ましい。また、食用生地の全体の焼色を調整する際には、食用生地の表面上に全体的に付着させ、食用生地の部分の焼色を調整する際には、食用生地に部分的に付着させる。
【0035】
なお、これらの焼色調整剤の種類によっては、焼成時に付着させて後に除去した焼色調整剤を再使用することも可能である。
【0036】
本発明の焼色調整剤として用いられる澱粉質としては、食用生地の主原料が小麦粉の場合、小麦粉由来の澱粉質以外を用いることが好ましい。これは、食用生地の原料と澱粉質の成分が小麦粉で同質であると、焼成時の褐色化が他の澱粉質よりも発生しやすいからである。この場合では、小麦澱粉を他の澱粉質と混合させて使用することにより、食用生地表面の褐色化抑制作用が得られ、かつ小麦澱粉自体も褐色化せず、さらに上述した澱粉質の再使用も可能であることが判明した。これより好適例としては、焼成時に付着させる澱粉質として、コーンスターチと、片栗粉(市販)と、タピオカ澱粉と、小麦澱粉との混合物の形態で使用することである。
【0037】
このように食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態でこの食用生地を焼成することにより、食用生地における該当箇所すなわち澱粉質を付着させて焼成した箇所のメイラード反応による褐色化が抑止又は大幅に抑制される効果が得られる。これにより、焼成前の食用生地の該当箇所表面の色調の変色化(劣化)が大幅に抑止又は抑制され、この生地の該当箇所表面の焼成前の色調に応じた、白色系の焼成食品又は着色焼成食品を得ることが可能となる。
【0038】
このような処理を行うことでメイラード反応の抑止又は抑制が発生する要因については、必ずしも明らかでは無いが、焼色調整剤を付着させた生地の部位において、焼成時に保湿作用や熱吸収作用が生じることが認められ、かかる作用が大きな要因になっているものとも推測される。
【0039】
しかして、本発明によれば、焼色調整剤が付着した状態で食用生地を焼成することにより、焼色調整剤付着箇所の生地表面の焼成時における褐色化、例えばメイラード反応によるものを抑止又は大幅に抑制することができる。したがって、従来は焼成時に褐色化してしまう原料成分の生地であっても、食用生地の色(すなわち、白色系の焼成食品の場合にはより白色を呈する色、着色焼成食品の場合には着色剤による食用生地の色)を維持しながら焼き上げることが可能となり、これにより、各種の白色系の焼成食品又は着色焼成食品における原料の配合の自由度が大幅に増す。
【0040】
本発明の焼成食品の製造方法では、食用生地に焼色調整剤を付着した後に、食用生地を個別又は複数個をまとめて覆う被覆部材を上から被せて焼成するようにすると、焼成時の褐色化の抑止又は抑制作用がさらに強化される。
【0041】
ここで用いる被覆部材としては、焼成時の保湿作用や熱吸収作用を保ち、さらに、食用生地の熱や水分の適度な移動を当該焼成空間内で行わせる観点から、内部の熱や水分(湿気)を外部に逃がすことのできる適度な通気性を備え、熱伝導性が低い材質のもので、フタ状の形状を有するものが好ましい。
【0042】
このような被覆部材の材質としては、紙や木を使用することができ、好適な紙の種類としては例えばグラシン紙や和紙が挙げられ、好適な木の種類としては例えばナラ材が挙げられる。すなわち、このような材質の被覆部材によれば、焼成時における内部の熱や水分(湿気)を外部に適度に逃がす作用を奏するので、褐色化の抑止又は抑制作用のさらなる強化に加えて、焼成後において生地表面が柔らかくなり、生地全体がソフトに焼き上がる。
【0043】
これに対し、被覆部材として、鉄やアルミのような金属などの通気性を備えていない材質の容器を被せて焼成した場合には、紙や木の容器と比較すると、生地の熱や水分の適度な移動を当該焼成空間内で行わせる点において劣っているが、食用生地を焼成するオーブンなどの機器や食用生地の種類に応じて適宜使用することが可能である。
【0044】
また、被覆部材自体に通風のための孔や溝を設けることで、被覆部材内の熱を外部に発散させ、食用生地の焼成条件を調整することができる。このような孔や溝付きの被覆部材は金属製の部材においても好適に用いることができる。
【0045】
なお、被覆部材の「フタ状の形状」については、特に限定されるものでは無いが、側面が平坦な構成よりも、いわゆる紙カップ形状であってその外周側面が山/谷の折り曲げ形状となっているもの(例えば食品用のアルミカップや紙カップ)であると、外周縁の折り曲げ形状による溝部分から熱や水分(湿気)を外部に逃がす効果が高くなるため好ましい。また、シュー皮を製造する場合には、被覆部材の形状は、食用生地の膨張後のシュー皮として形成させたい大きさのものよりも、むしろ、形成したい大きさに比べて若干小さめの笠状の形状としたものの方が、良い結果が得られた。さらには、被覆部材の一部又は全体に亘って小穴を開けて、焼成時における内部の熱や水分(湿気)を調整するようにしても良い。
【0046】
次に、本発明では、食用生地に膜状澱粉質を被せ、この膜状澱粉質表面上に粉状の焼色調整剤を載せ、食用生地を焼成することで、焼色が調整されながら、良好な呈味・食感の焼成食品を提供することができる。
【0047】
食用生地がパイ用など油脂成分が多いものの場合、焼成時に生地表面に油脂成分が染み出てくる現象が生じ、これにより付着させた焼色調整剤が油脂成分に溶け出してしまい、焼成後に焼色調整剤を生地から分離させることが困難となり、味覚、食感等の点から好ましくない、という不具合が生じることがある。これに対して本発明者が鋭意研究を行った結果、生地表面上に膜状澱粉質として例えば澱粉質を主原料とするオブラートを当接させ、オブラートの上から粉状の焼色調整剤を振り掛けることにより、上述の不具合を回避することが可能となることを見出した。このときの焼色調整剤としては、オブラートの主原料と同様の澱粉質を用いることが好ましい。
【0048】
すなわち、食用生地の該当箇所に、澱粉質が主原料のオブラートを介して粉状の焼色調整剤を付着させた状態として焼成することにより、焼成時において生地表面に油脂成分が染み出た場合であっても、焼成終了後にオブラートを除去すれば粉状の焼色調整剤も一緒に除去されるので、この粉状の焼色調整剤が生地表面と一体化することなく生地から簡単に分離させることが可能となる。なお、かかる方法、すなわち食用生地の該当箇所に、澱粉質が主原料のオブラートを介して粉状の焼色調整剤を付着させた状態として焼成する方法は、焼成食用生地に油脂成分が多い場合に特に好適ではあるが、これのみならず、他の生地にも同様に適用できることは勿論である。一般にオブラートは比較的低価であるので、上述の方法は、コスト対効果の点でも大変に優れており、以下に説明するように、種々の用途及び観点等から大きなメリットが得られる。
【0049】
詳しくは、食用生地の全体にオブラートを介して焼色調整剤を付着させて焼成する場合には、生地の下側と上側とで合計2枚のオブラートを使用すれば良い。かかる方法を採択することにより、焼成時の生地の褐色化の抑制効果を得る上で、生地の下側と上側とで可及的均一化を図ることができる。
【0050】
また、食用生地がシュー皮用の場合は、焼成後には生地が膨張して生地表面に凹凸ができるが、焼成前ならばこのような凹凸が殆ど無い状態なので、オブラートを生地表面上全体にほぼ均一に当接(又は密着)させることができる。一方、食用生地が練りパイ用などの油脂成分が多い場合でも、焼成時に表出した油はオブラートには殆ど染みこまず、また、生地表面上にオブラートがくっついて一体化してしまうケースも稀である。したがって、焼成後は、オブラートを生地から容易に剥がすことができる。さらには、焼成後のオブラートを剥がす前の段階でも、オブラートの付いた生地全体を振れば、焼色調整剤が容易にオブラートから分離して落下する。なお、生地焼成後には、オブラートは乾燥してパリパリとした食感となり、万一生地から完全に剥離しなかった場合、すなわちオブラート付きの焼成食品となった場合でも、食感的に大きな違和感は生じ無い。
【0051】
また、本発明の焼成食品の製造方法では、食用生地に焼色調整剤を付着させるための好ましい方法として、食用生地の上方から焼色調整剤を振り掛けるものであり、例えば、網目を有する部材の上に焼色調整剤を載せ、この部材を食用生地の上方で(左右方向に)振動させることにより、食用生地に焼色調整剤を振り掛けるようにする。これにより、焼色調整剤が粉状(又は雪状)となって落下して食用生地の表面上に振り掛けられ、表面上に雪が積もったような状態となって付着される。ここで、メイラード反応抑制の十分な効果を得るためには、食用生地の表面が焼色調整剤で見えなくなる程度に、十分な量の焼色調整剤が振り掛かった状態になるようにする。この結果、食用生地の表面上に付着しない焼色調整剤が生じても構わない。
【0052】
ここで、「網目を有する部材」としては、例えば茶コシ、ザル、又は篩のような各種器具を用いることができる。また、これらの部材の大きさ、形状や網目の荒さ等については、生地の大きさや使用する焼色調整剤の種類や状態等に応じて適宜選択すれば良い。
【0053】
また、本発明の焼成食品の製造方法では、食用生地の下方及び上方から、又は食用生地の表面上全体に焼色調整剤を付着させるための好ましい方法として、鉄板や焼き型等の焼成用部材の上に焼色調整剤を、予め略均一に(篩を用いて上方より振り掛ける等により)載置(換言すると十分な量を散布)しておき、かかる状態の焼色調整剤の上に、食用生地を載せ、さらに、この食用生地の上方から焼色調整剤をさらに振り掛けるようにする。ここで、焼成用部材上に載置される(すなわち食用生地の下に敷かれる)焼色調整剤については、焼成用部材の上に直接載せる形態のみならず、パラフィン紙等の所定のシート状(又は台紙状)部材を介して焼成用部材の上に載せる形態としても良い。
【0054】
このように、焼色調整剤を、食用生地の表面上全体に可及的に均一に付着させた状態として焼成することによって、食用生地の表面全体の褐色化が抑止又は抑制され、焼成前の生地の表面全体の色調の変色化が抑止又は抑制された白色系の焼成食品又は着色焼成食品を得ることが可能となる。
【0055】
また、本発明の焼成食品の製造方法では、食用生地表面において部分的に褐色化を防止し、特に所定形状(例えば、円形、楕円形、多角形、星状、三日月状、さらには各種模様、など)の褐色化部分又は白色系等の部分を形成させる場合には、焼色調整剤を、食用生地表面上に部分的に付着させるようにするための所定形状の開口部を有するマスク部材を介して、食用生地に振り掛けるようにする。このマスク部材は、例えば焼色調整剤が予め載せられた焼成用部材の上に載せられ且つ食用生地の下に敷かれる台紙状の部材であったり、食用生地の上方から又は周囲に貼り付けられ又は近接状態とされた後に焼色調整剤が(所定部位に)振り掛けられる構成のものとすることができる。このようなマスク部材を用いることにより、食用生地表面に形成させる形状の輪郭が明瞭になり、各製品間のばらつきが可及的に少なくなる。なお、輪郭の明瞭化の観点からは、通常、食用生地表面とマスク部材との距離を近づけるほど良好な結果が得られる。一方、上述した焼成時の保湿作用や熱吸収作用を保つ観点からは、マスク部材の材質は、適度な通気性を備えた紙製又は木製の材質のものが好ましく、また、焼色調整剤を振り掛けて食用生地表面上に付着させた後は、台紙状の部材以外の形態の場合には、マスク部材を除外して焼成することが好ましい。
【0056】
なお、焼成温度や焼成時間については特に限定されるものではなく、焼色調整剤を付着させた食用生地、被覆部材で覆った食用生地、オブラートを被せた食用生地について、食用生地の種類や焼成機器の仕様などに応じて適宜設定することができる。
【0057】
また、本発明では、食用生地100重量部に対し焼色調整剤を7.5重量部以上、より好適には7.5〜15重量部使用することが好ましい。これは、食用生地の表面全体の褐色化の抑止又は抑制を図ろうとする場合には、焼色調整剤を、食用生地の表面上全体に可及的に均一に付着させた状態として焼成することが好ましいからである。
【0058】
このとき、使用する焼色調整剤が7.5重量部に満たないと、食用生地の表面上全体に量(面積)的に均一に付着させることが困難になり、褐色化する部分が生じやすくなり、表面全体の白色化又は着色化の達成が困難になる。一方、使用する焼色調整剤の上限値については特に制限は無いが、コスト等の観点からは15重量部以下とすることが好ましい。
【0059】
本発明の食用生地としては、一般的な方法で作製されるものを適宜使用することができるが、食用生地そのものをより白色を呈するように作製することで、製品の用途や消費者の要望に応じて、より白色を呈する焼成食品を提供することができる。なお、このように白色系を呈する焼成食品の製造方法では、食用生地に着色剤を添加すれば、着色剤の発色を鮮やかに維持することができる。
【0060】
一般に、食用生地の原料成分及び配合などは焼成食品の種類に応じて大きく異なり、原料成分において全卵、主として黄身成分が多いもの、及び/又は糖分が多いものでは、原料自体の呈色が焼成後も残ったり焼成時に焼色が付いたりしやすく、焼色を調整するために生地原料についての技術的工夫を行うことが好ましい。
【0061】
例えば、食用生地が練りパイ用の場合には、一般に練りパイは表1のように全卵(卵白と黄身を含む、以下同じ)成分及び糖分が比較的少ないので、本発明の方法にしたがって、焼色調整剤を付着した状態で焼成を行うことで、良好に焼色を調整して焼成することができる。
【0062】
【表1】

【0063】
これに対し、例えば、食用生地がシュークリーム用のシュー皮生地の場合には、一般にシュー皮生地の原料は表2のように糖分は比較的少ないものの、全卵成分が多いことから、焼成において焼色を十分に抑えることが比較的難しい。すなわち、一般的な原料成分及び製法のシュー皮生地において、本発明にしたがって焼色調整剤を表面上に付着させ焼成した場合では、焼色を抑えることができるものの、若干の褐色化を防いだり原料成分そのものの呈色を減少させたりすることは難しい。そこで、このように全卵成分が比較的多いものについて焼成食品の焼色を調整するためには、例えば食用生地原料の全卵成分を減らしたり、メイラード反応を防止(阻害)するような成分のものを添加したり、等の食用生地原料についての技術的工夫を行うことが好ましい。
【0064】
【表2】

【0065】
なお、シュー皮生地において黄身成分が減ると焼成時の膨らみが減少する傾向が生じるため、必要に応じて、例えば膨張剤を使用する等の技術的工夫を行うことが好ましい。膨張剤としては、主としてベーキングパウダー(BP)が用いられ、この他にも種々のものを用いることができるが、白色系のものを焼き上げるためには膨張剤もできるだけ白色のものを使用することが好ましい。
【0066】
また、焼成食品の焼色を調整するためには、原料成分において糖分が多いものほど(例えばクッキーなど)、焼色を抑えにくくなるため、食用生地の原料又は製法を適宜調整することが望ましい。また、原料成分において糖分が比較的少ないもの(例えばパイ生地やシュー皮生地など)であっても、着色焼成食品を得るために、着色剤として例えばピューレ等の糖分を含むものを用いる場合などには、同様に調整が望まれる。そこで、食用生地の成分に糖分を含むものについては、例えば、メイラード反応を起こし難い甘味成分の材料が種々開発されており、これらを通常の糖分に変えて代替的又は補充的に用いるような調整をすることによって、焼色を抑えて焼成食品を提供することができる。
【0067】
また、食用生地の原料に油脂が使われる場合には、油脂として例えばバター(一般的にはやや黄色)、ショートニング(一般的には白色)、カカオバター(一般的には黄色)、各種マーガリン、ラード、などの各種のものがあり、これらを単独で又は混合して用いることが一般的であり、本発明においても各種の油脂を使用することができる。これらの油脂のうちショートニングは、最終的に生地の色を可及的に白色に近づけるという観点から望ましく、好適にはショートニングを単独で用いることが好ましい。なお、呈色に加えて食感などのトータルなバランスを図る観点からは、バターを単独で用いること、又はバターとショートニングを混合して用いることが好ましい。
【0068】
焼成食品の焼色を抑えてより白色系又は着色による発色を鮮やかに呈するように、食用生地そのものを白色系に近づけるために、具体的には次のような食用生地の作製方法が本発明で好適に適用することができる。
【0069】
食用生地としてシュークリーム用のシュー皮生地の製造方法の例について説明するが、その他の焼成食品でも適宜調整をして適用することができる。
【0070】
シュー皮生地の製造方法では、原料として、通常、油脂、水、小麦粉(主として薄力粉)、膨張剤、及び全卵を用いる。シュー皮生地を白色化するためには、卵成分として全卵の他卵白を加え全体として卵白成分を多めにするとよい。また、小麦粉成分に代わり、澱粉質(以下、焼成用の澱粉質と区別するために生地用澱粉質とする)を用いるとよい。なお、小麦粉と澱粉質を混合したものとしてもよい。好ましくは、メイラード反応の阻害物質を少量添加するとよい。また、着色した焼成食品を得る場合では、食用生地に適宜着色剤を添加する。
【0071】
ここで、全卵(すなわち白身と黄身を含む)の他に卵白(白身のみで黄身を含まない)を加えているのは、黄身成分が食用生地の黄色化を助長するため、黄身成分の使用量(配合比)を抑える必要があるからである。すなわち、シュー皮生地の製造にあたっては、全卵の他に卵白を加え白身成分の割合を高めることで、食用生地の色をより白色系に呈するように調整する。さらに、このように作製された食用生地は、焼成して焼成食品としても膨らみや食感等が良好である。
【0072】
また、澱粉質は小麦粉に比べ、焼成時の焼色を抑えることができ、さらに食感も良好とすることができため、食用生地をより白色にするために好適に用いることができる。生地用澱粉質としては、例えばコーンスターチ、片栗粉(市販)、タピオカ澱粉、本葛粉などを使用することができる。
【0073】
生地用澱粉質を用いたシュー皮生地は、小麦粉を用いた場合と同様に一般的な方法で作製することができる。好適には、生地用澱粉を用いた場合に特有のボソボソ感やダマの発生などを防止するために、原料のうち油脂と水とを混合したアパレイユと、生地用澱粉質と膨張剤と水とを混合した基本原料とをそれぞれ別に用意して、その後に混合するとよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0075】
(試験例1) シュー皮
食用生地としてのシュー皮生地に焼色調整剤として澱粉質を付着させた状態で焼成し、この焼成食品としての焼成シュー皮の形状、呈色、澱粉質の分離、及び食感について評価した。
【0076】
(シュー皮生地の作製)
試験例1では、シュー皮生地を表3に示す配合原料及び配合比率で作製した。シュー皮生地の仕込み方法は、一般的な方法に従い、バターと水を沸騰させ、その中に小麦粉を添加しよく練り、この中に全卵と卵白にベーキングパウダーをあらかじめ合わせたものを少しずつ加える。そして、約20gのシュー皮生地を1個分として直径5cm、高さ2cmの円板状に成形した。
【0077】
【表3】

【0078】
(シュー皮生地の焼成試験)
シュー皮生地の焼成試験として、(1)1個分(約20g)のシュー皮生地表面上に約1.5〜3gの各種澱粉質を、茶コシを用いて振り掛けてシュー皮生地を焼成する試験、(2)(1)に加えてシュー皮生地に各種フタ(被覆部材)を被せて焼成する試験、及び(3)比較例として澱粉質の振り掛けもフタも用いずにそのまま焼成する試験を行った。
【0079】
各種澱粉質としてわらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、小麦澱粉、ワキシー澱粉、サゴヤシ澱粉、もち米澱粉、うるち米澱粉、混合澱粉A(コーンスターチ:片栗粉(市販):タピオカ澱粉:葛粉=1:1:1:1(重量比))、混合澱粉B(コーンスターチ:片栗粉(市販):タピオカ澱粉:薄力粉=1:1:1:1(重量比))、混合澱粉C(コーンスターチ:片栗粉(市販):タピオカ澱粉:薄力粉=1:1:1:2(重量比))を使用し、各種フタとして紙製、木製、及び鉄製の外周側面が谷/山折りのカップ形状のものを使用した。
【0080】
ここで、各試験における共通の条件を以下に示す。
使用したオーブン :久電舎製セラミック固定オーブンMCX4−2L電気
シュー皮生地1個当たりの重量:約20g
シュー皮生地の形状 :直径5cm、高さ2cm
澱粉質の種類 :わらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、小麦澱粉、ワキシー澱粉、サゴヤシ澱粉、もち米澱粉、うるち米澱粉、混合澱粉A、混合澱粉B、混合澱粉C
澱粉質の振り掛け量 :1個に対し約1.5〜3g
焼成温度 :160℃〜190℃(オーブン設定温度170℃)
焼成時間 :30分
フタの形状 :上面が35mm、開口部が50mm、高さ40mmのカップ形状で、外周側面が谷/山折り形状となっている(食品用のアルミカップや紙カップと同様の形状である)
フタの素材 :紙、木、鉄
【0081】
上述した焼成試験の結果、各焼成シュー皮の表面の形状及び呈色を外観から目視で評価した。また、上述した澱粉質を振り掛けた試験において、焼成後にシュー皮を左右に振り、澱粉質がシュー皮表面から分離するか否かを外観から目視で評価した。また、上述した焼成試験の結果、各焼成シュー皮の食感を官能試験によって評価した。これらの評価結果を表4にまとめて示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示すように、各種澱粉質を振り掛け焼成したシュー皮の形状は、それぞれふくらみがあり内層(空洞)ができ、一般的なシュー皮と同様であり、実用上の問題はないものであった。これらのシュー皮の呈色は、各種澱粉質を振り掛けたもの全てで、白色ないしわずかに色づきを呈する程度であり、比較例の茶色に比べて焼き色を抑えることができた。特に、紙製又は木製のフタを使用したものでは澱粉質の種類に関わらず白色を呈した。また、各種澱粉質のうちサゴヤシ澱粉ではフタの有無及び種類に関わらず白色を呈した。
【0084】
各種澱粉質を振り掛け焼成したシュー皮の澱粉質の分離状況は、各種澱粉質を振り掛けたもの全てで、澱粉質を落とすことができる、ないし表面にわずかに残る程度であり、実用上の問題はないものであった。特に、フタの種類に関わらずフタを使用することで分離状況が良好である傾向があった。また、わらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、サゴヤシ澱粉、混合澱粉Aではフタの有無及び種類に関わらず分離状況が良好であった。また、混合澱粉B及びCは薄力粉を含んでいるが各種澱粉との混合粉として使用することで、分離状況が良好になることがわかった。なお、これらシュー皮の食感は澱粉が良好に分離されるため一般的なシュー皮と同様又はそれ以上となり良好であった。
【0085】
これに対し、澱粉質を振り掛けずフタを用いない比較例では、メイラード反応により焼き上がり表面が茶色になり、一般的な焼き色を呈するシュー皮になった。
【0086】
(試験例2) シュー皮
試験例2では、食用生地としてのシュー皮生地に各種焼色調整剤を付着させた状態で焼成し、この焼成食品としての焼成シュー皮の形状、呈色、澱粉質の分離、及び食感について評価した。用いた焼色調整剤としては、クエン酸、酒石酸水素カリウム、トレハロース、イヌリン(食物繊維)、アルギン酸(食物繊維)、薄力粉、米紛(群馬製粉製)、上新粉(東和食品工業株式会社製)、もち米紛(生粉製粉+糊化製品、山口商店製)、及びうるち米紛(生粉製品+糊化製品、山口商店製)であり、上記した試験例1と同様に、シュー皮生地を作製し、このシュー皮生地を各種焼色調整剤及び各種フタを適宜使用して焼成し、得られた焼成シュー皮について評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
表5に示すように、各種焼色調整剤を振り掛け焼成したシュー皮の形状は、それぞれふくらみがあり内層(空洞)ができ、一般的なシュー皮と同様であった。クエン酸を使用したものではふくらみが多少有ったが実用上は問題がない程度であった。
【0089】
また、シュー皮の呈色は、白色ないし多少の色づきがある程度であり、一般的なシュー皮に比べて焼色を抑えることができることがわかった。なお、イヌリン及びアルギン酸を使用してフタ無しのもの、及び薄力粉を使用したものでは、黄白色系に着色したが、全体としては焼き色を抑える傾向にあった。
【0090】
また、シュー皮の焼色調整剤の分離状況は、クエン酸、トレハロース、薄力粉で表面に多少付着したが実用上の問題はない程度であり、その他は落ちる、ないし表面にわずかに残る程度であった。なお、シュー皮の食感は、焼色調整剤の分離状況によって、クエン酸では苦味を呈し、トレハロースでは甘味を呈したが、実用上の問題はなかった。
【0091】
(試験例3) パイ
食用生地としてのパイ生地に焼色調整剤としての澱粉質を付着させた状態で焼成し、この焼成食品としての焼成パイの呈色、澱粉質の分離、及び食感について評価した。
【0092】
本試験例では、パイ生地を表6に示す配合原料及び配合比率で作製した。パイ生地の仕込み方法は、一般的な方法に従い、篩にかけた小麦粉と、塩と、細かく切ったバターと、を混ぜ合わせ、これらが略均等に混合された状態(略ソボロ状)となったところで、水及び卵を加えてさらに混ぜ合わせて最終的なパイ生地を得た。そして、約7gのパイ生地を1個分として横4cm、縦7cm、高さ3mmの直方体に成形した。
【0093】
【表6】

【0094】
パイ生地の焼成試験として、(1)1個分(約7g)のパイ生地表面上に約0.5gの各種澱粉質を振り掛けてパイ生地を焼成する試験、(2)(1)に加えてパイ生地に各種フタ(被覆部材)を被せて焼成する試験、(3)(1)においてパイ生地に膜状澱粉質としてのオブラートを介して各種澱粉質を振りかける試験、(4)(3)に加えてパイ生地に各種フタを被せて焼成する試験、及び(5)比較例として澱粉質の振り掛けも被覆部材も用いずにそのまま焼成する試験を行った。
【0095】
各種澱粉質としてコーンスターチ、片栗粉(市販)、タピオカ澱粉、及び葛粉を使用し、各種フタとして紙製、木製、及び鉄製の4cm×7cmのほぼ矩形形状のものを使用した。また、オブラートには、原料として澱粉質(馬鈴薯、甘薯、及びコーンスターチ)とレシチンと食品油とを含む一般的なものとして、パイ生地の平面形状よりも若干大きい矩形形状で、厚みが0.015mm程度のもの(国光オブラート株式会社製)を使用した。
【0096】
ここで、各試験における条件を以下に示す。
使用したオーブン :久電舎製セラミック固定オーブンMCX4−2L電気
パイ生地1個当たりの重量:約7g
パイ生地の形状 :4cm×7cmの略矩形形状(厚さ約3mm)
澱粉質の種類 :コーンスターチ、片栗粉(市販)、タピオカ澱粉、葛粉
澱粉質の振り掛け量 :1個に対し約0.5g
焼成温度 :170℃〜190℃(オーブン設定温度180℃)
焼成時間 :13分
フタの形状 :10cm×5cm×5cmの略矩形容器
フタの素材 :紙、木、鉄
オブラートの種類 :国光オブラート株式会社製
オブラートの厚み :0.015mm
オブラートの原料 :澱粉(馬鈴薯、甘藷、コーンスターチ)、レシチン、食品油
【0097】
上述した実施例1と同様の方法で呈色、澱粉の分離、及び食感について評価を行い、結果を表7にまとめて示す。
【0098】
【表7】

【0099】
表7に示すように、本実施例のパイ生地に各種澱粉質を振り掛けて焼成した場合には、いずれも焼き上がりの表面が白色ないしわずかに薄茶色となり、比較例の澱粉質を使用しない場合のキツネ色に比べて白色に近い呈色であり、メイラード反応による褐色化抑制の効果が認められた。
【0100】
オブラートを用いないで澱粉質を付着させて焼成した場合では、わずかに薄茶色を呈し、澱粉質が表面に多少付着し、全体的にサクサク感が少ない食感となったが、実用上問題のない程度であった。
【0101】
これに対し、澱粉質をオブラートを介して付着させて焼成した場合では、いずれの澱粉質を振り掛けた場合でも、十分な褐色化抑制効果が認められ、焼き上がりの生地表面がほぼ白色の焼成パイが得られた。パイ生地にオブラートを介して澱粉質を付着させた状態として焼成した結果は、オブラート無しで澱粉質を付着させて焼成した結果よりも、メイラード反応による褐色化の抑制についてより高い効果を得られることがわかった。さらに、オブラートを介して澱粉質を振り掛けた場合では、フタの有無及び種類に関わらず、ほぼ白色を呈する焼成パイを得ることができ、さらに、フタを用いた場合ではフタの有無及び種類に関わらず澱粉質の分離状況及び食感が良好であった。
【0102】
そして、オブラートを介して各種澱粉質を付着させた状態で焼成した場合には、いずれの焼成パイにおいても、焼成後にオブラートを剥がすことで澱粉質全体を生地から簡単に離脱することができ、これにより、生地表面に澱粉質が付着しないようにすることができた。
【0103】
(試験例4) パイ
食用生地としてのパイ生地に焼色調整剤としての澱粉質を付着させた状態で焼成し、この焼成食品としての焼成パイの呈色、澱粉質の分離、及び食感について評価した。本試験例では、澱粉質としてわらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、ワキシー澱粉、サゴヤシ澱粉、もち米澱粉、及びうるち米澱粉を用いて、上述した試験例3と同様に、パイ生地を作製し、焼成試験を行い、呈色、澱粉質の分離、及び食感の評価を行った。結果を表8にまとめて示す。
【0104】
【表8】

【0105】
表8に示すように、焼成パイの呈色は、各種澱粉質を用いた場合、白色ないしわずかに色づきを呈する程度であり、焼色を抑えることができることがわかった。また、オブラートを用いたものでは、各種澱粉質の分離状況及び食感が良好であった。なお、オブラートを用いないと、各種澱粉が焼成パイに多少付着し、多少サクサク感の少ない食感になったが、実用上は問題がない程度であった。
【0106】
(試験例5) パイ
食用生地としてのパイ生地に各種焼色調整剤を付着させた状態で焼成し、この焼成食品としての焼成パイの呈色、澱粉質の分離、及び食感について評価した。本試験例では、焼色調整剤として雪塩粉末(塩)、トレハロース、オリゴ糖、及びラクチトールを用いた以外は、上述した試験例3と同様にパイ生地を作製し、焼成試験を行い、呈色、焼色調整剤の分離、及び食感の評価を行った。結果を表9にまとめて示す。
【0107】
【表9】

【0108】
表9に示すように、焼成パイの呈色は、各種焼色調整剤を用いた場合で、白色ないしわずかに色づきを呈する程度であり、焼色を抑えることができることがわかった。また、焼色調整剤の分離状況は、雪塩粉末で落としやすい傾向があり、食感も良好であった。なお、トレハロース、オリゴ糖、ラクチトールでは、焼色調整剤が焼成パイの表面に多少付着し、多少サクサク感の少ない食感になったが、実用上は問題がない程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼色を調整して食用生地を焼成し焼成食品を製造する方法であって、前記食用生地の表面上に焼色調整剤を付着させた状態で前記食用生地を焼成することを特徴とする焼成食品の製造方法。
【請求項2】
前記焼色調整剤は澱粉質であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項3】
前記澱粉質は、わらび餅粉、甘藷澱粉、さといも澱粉、小麦澱粉、ワキシー澱粉、サゴヤシ澱粉、もち米澱粉、うるち米澱粉、ジャガイモ澱粉、コーンスターチ、片栗粉(片栗由来)、タピオカ澱粉、葛粉のうちいずれか1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項2に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項4】
前記焼色調整剤が酸であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項5】
前記焼色調整剤が糖類であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項6】
前記焼色調整剤が食物繊維であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項7】
前記焼色調整剤が穀物粉であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項8】
前記焼色調整剤が塩であることを特徴とする請求項1に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項9】
前記焼色調整剤を付着させた前記食用生地を被覆部材で覆い前記食用生地を焼成することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項10】
前記被覆部材は通気性を備え熱伝導率の高い材質からなることを特徴とする請求項9に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項11】
前記被覆部材は紙製又は木製であることを特徴とする請求項9に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項12】
前記被覆部材はフタ形状であることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項13】
前記食用生地に膜状澱粉質を被せ、前記膜状澱粉質の表面上に粉状の焼色調整剤を載せ、前記食用生地を焼成することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項14】
前記食用生地を焼成用部材に載せ、前記食用生地の上方から前記焼色調整剤を振り掛け、前記食用生地を焼成することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項15】
焼成用部材上に前記焼色調整剤を振り掛け、前記食用生地を前記焼成用部材に載せ、前記食用生地の上方から前記焼色調整剤を振り掛け、前記食用生地を焼成することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項16】
所定形状の開口部を備えるマスク部材を介して前記食用生地に前記焼色調整剤を付着させることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項17】
前記食用生地100重量部に対し前記焼色調整剤を7.5重量部以上用いることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項18】
前記食用生地が小麦粉由来の原料を含むことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項19】
前記食用生地が澱粉質由来の原料を含むことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項20】
前記食用生地がシュー皮生地であることを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項21】
前記食用生地がパイ生地であることを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載された焼成食品の製造方法。
【請求項22】
表面上に焼色調整剤が付着したことを特徴とする食用生地。
【請求項23】
表面上に膜状澱粉質を介して前記焼色調整剤が付着したことを特徴とする請求項22に記載された食用生地。
【請求項24】
小麦粉由来の原料を含むことを特徴とする請求項22又は23に記載された食用生地。
【請求項25】
澱粉質由来の原料を含むことを特徴とする請求項22又は23に記載された食用生地。
【請求項26】
シュー皮生地であることを特徴とする請求項22から25のいずれか1項に記載された食用生地。
【請求項27】
パイ生地であることを特徴とする請求項22から25のいずれか1項に記載された食用生地。
【請求項28】
請求項22から27のいずれか1項に記載された食用生地を焼成して製造することを特徴とする焼成食品。
【請求項29】
焼成前に食用生地の表面上に付着させて用いられ澱粉質、酸、糖類、食物繊維、穀物粉、又は塩を含むことを特徴とする食用生地用焼色調整剤。

【公開番号】特開2007−166916(P2007−166916A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364647(P2005−364647)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(505467823)
【Fターム(参考)】