説明

焼結ガラスセラミックおよびその製造方法

【課題】放射線変換媒体として特に有利な特性を有する、特にスペクトルの青およびUV領域における励起放射線の周波数逓降変換に適しているガラスセラミックおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、偶発的な不純物を除いてアルカリを含まず、かつ少なくとも1種のガーネット形成剤と少なくとも1種のランタノイドの酸化物とを含む出発ガラスを溶融する工程と、前記出発ガラスを粉砕してガラスフリットを形成する工程と、前記ガラスフリットをプレスにより成形し、ランタノイドを含む少なくとも1種のガーネット相が形成されるまで焼結する工程とを含む、ガラスセラミックの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結ガラスセラミックと、その製造方法と、そのような焼結ガラスセラミックの有利な利用とに関する。
【背景技術】
【0002】
LEDは、たとえば電気エネルギーを光エネルギーに直接変換できることによる高効率や高度のコンパクトさなどの多くの優れた特質を示すため、最近、発光目的にますます使用されるようになってきた。
しかしながら、数年前までLEDは、「低発光」用途、特に表示目的のみに用いられていた。エネルギー入力カップリングの改良とヒートマネージメントの改良とを達成するために多大な努力がなされた最近になってはじめて、高発光を必要とする用途に応じた高電位LEDが発見された。
【0003】
LEDは非常に狭いスペクトル帯で発光するが、大抵の場合、イルミネ―ション目的には白色光が必要である。市販の白色LEDは、低波長帯において2次波長を発する(ダウンコンバージョン)発光物質を刺激するためにIII―V半導体エミッタを使用する。公知の解決法の一つは、ブロードバンド黄色発光物質であるYAG:Ceを刺激するための青色InGaN/GaN LEDを使用することである。発光物質を用いて変換されたこれらのLEDを使用すると、発光した青色光の一定の割合の部分がLEDチップを覆っている発光層を通過し、その結果、得られた全体のスペクトルは白色光に非常に近い色になる。しかしながら、青/緑帯と赤波長帯とにスペクトル部分が無いため、得られた色は大抵の場合満足できない。
【0004】
下記特許文献1は、変換物質として作用するガラスセラミックボディと光学カップリング剤を介して直接接触している放射線放出半導体ボディ(チップ)を備えたハイブリッドLEDを開示している。ガラスセラミックボディは、発光物質としての、希土類でドープしたガーネット(YAG:CE)、チオガレートまたはクロロシリケートタイプの微結晶(クリスタライト)を含む。そのようなガラスセラミックを製造する出発ガラスは、ケイ酸塩ガラスまたはホウ酸塩ガラスからなる。発光ガラスセラミックは、ガラスフリットと適切な割合の粉末状発光物質とを混合し、この混合物を溶融した後、所望の形状に鋳造、成型することにより、製造される。この方法で、たとえばレンズの形など、目的とする用途に有利な形状のガラスセラミック体を最初から製造することができる。
【0005】
しかしながら、下記特許文献1は、出来るだけ有利な特質を持った、ガーネット相を有するこのような発光ガラスセラミックの製造方法を開示していない。この文献はむしろ、単に一般的方法での製造に使用される溶融技術に関するものである。
下記特許文献2は、好ましくはスペクトルの青およびUV領域における励起放射線の周波数のダウンコンバートに使用されるガラスセラミックを開示している。このガラスセラミックは、次の成分(酸化物をベースにして)からなる。すなわち、5〜50重量%のSiO、5〜50重量%のAl、10〜80重量%のY3、0〜20重量%のB3、0.1〜30重量%の希土類、好ましくは15〜35重量%のSiO、15〜35重量%のAl、25〜60重量%のY3、1〜15重量%のB3、1〜15重量%の希土類である。このガラスセラミックは、希土類イオンが少なくとも部分的に取り込まれている結晶相を含む。成分としてイットリウムイオンを含む結晶相は、この場合、少なくとも部分的に希土類イオンにより置換される。問題の相は、たとえば、YAl12(YAG)、YSiO、YSi、SrAl、BaMgAl1017、Sr、SrAl1425およびYbOであり、これらは希土類イオンを少なくとも部分的に取り込むためのホスト相として作用する。
【0006】
それぞれのガラスは、工学的溶融方法により製造され、その後、セラミック化されてもよい。セラミック化は、850℃〜900℃の核形成温度で数時間、最初の焼き戻しを行ない、次に1050℃〜1150℃の温度で1時間、セラミック化を行なうことにより実施される。この場合に同定された結晶相は、YSi、YSiOおよびYbOであった。
【0007】
しかしながら、このようなガラスセラミックはYSiのような変換できない結晶相を多数含んでいるため、このようなガラスセラミックの変換効果は多くの用途に対してまだ不十分である。
下記特許文献3は、さらに、5〜50重量%のSiO、5〜70重量%のAl、10〜70重量%のYおよび0.1〜30重量%の核形成剤(たとえば、MgO、TiO、ZrOまたはLa)を含むガラスセラミックを開示している。製造工程では、出発材料(酸化物)を有機溶剤およびバインダと混合し、加熱した後、固体反応により成形ガラスを形成する。このように製造されたガラスを次に950℃〜1010℃の温度での焼き入れにより核形成工程を実施し、その後約1100℃の温度でセラミック化する。
【0008】
この製造工程は比較的複雑である。さらに、このガラスセラミックの変換効果は、全ての用途には不十分である。
下記特許文献4から、ガーネット相と、BaAlSiの組成を有するセルシアン結晶相と、AlN、Si、SiC、Al、ZrO、3Al・2SiOまたはMgSiOの組成を有する少なくとも1つの結晶相を含む、ガラスセラミック製品およびその製造方法が公知である。この製造は、700〜1000℃の温度での焼結により実施される。
【0009】
この公知のガラスセラミックは半導体チップを収容するためのハウジング内での絶縁基板としての利用に適している。
下記特許文献5に記載のガラスセラミックは、発光レーザー材料として使用される。このガラスセラミックは、45〜68重量%のSiOと、15〜30重量%のAlと、0〜10重量%のPと、2〜6重量%のLiOと、0〜3重量%のMgOと、0〜8重量%のZnOと、2〜7重量%のZrOと、1〜7重量%のTaと、0〜12重量%のランタノイドと清澄剤とからなる。このガラスセラミックは、出発ガラスを800℃の温度で複数時間にわたり焼き入れすることによりセラミック化される。
【0010】
このようなガラスセラミックは、レーザー材料に特に適しているが、LED放射線の低周波数変換には適さない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0025449号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1642869号明細書
【特許文献3】特開平04−119941号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0094929号明細書
【特許文献5】米国特許第3,843,551号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このことを考慮して、本発明の目的は、放射線変換媒体として特に有利な特性を有する、特にLED放射線の低周波数変換のためのガラスセラミックおよびその製造方法を提供することである。この製造工程は、大規模の工業的生産が可能なように、できるだけ経済的で容易に再生産可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、下記の工程からなるガラスセラミックの製造方法により達成される。すなわち、この方法は、
偶発的な不純物を除いてアルカリを含まず、かつ少なくとも1種のガーネット形成剤と少なくとも1種のランタノイドの酸化物とを含む出発ガラスを溶融する工程と、
前記出発ガラスを粉砕してガラスフリットを形成する工程と、
ランタノイドを含む少なくとも1種のガーネット相が形成されるまで、前記ガラスフリットを焼結する工程と
を含む。
【0013】
本発明は、さらに、偶発的な不純物を除いてアルカリを含まず、かつ少なくとも1種のランタノイド酸化物を含む少なくとも1種のガーネット相を含む、焼結ガラスセラミックにより実現される。
本発明によれば、結晶化のための従来の組成の出発ガラスをセラミック化するプロセスにおいて、冷却されたガラスを、室温から加熱すると、好ましくない変換不可能な結晶相(ケイ酸イットリウム、たとえば、異なるイソタイプのYSiO)が第一工程として形成されること、および、希土類がドープされた所望の結晶相、たとえばYAG(YAlO12)は高温でのみ形成されることが判明した。工業的溶融プロセスによるガラスセラミックの公知の製造時には、第1工程において均一なガラスが溶融され、その後、結晶化を制御するかまたは部分的に結晶化するために、初期には低い核形成温度で、そしてその後は高いセラミック化温度で長時間にわたって焼き入れされる。従来の製造においては、望ましくないケイ酸イットリウムが低温で晶出する時、そのイットリウムの大部分はその時化学的に結合しているので、所望の結晶相のルート結晶化は部分的に抑制されるかまたは全く阻害されることが、本発明によって判明した。光変換に全く適さないケイ酸アルミニウム相(たとえばムライト:3Al・2SiO)は、二次的な相として晶出する。さらに、添加されたセリウムのようなドーピング元素は結晶相において同様に結合されるか、または青色光の効果的な変換に不適切な酸化ステージに変換される。
【0014】
本発明による方法は、適切な出発ガラスを所望のガーネット相が形成されるまで焼結することにより、先行技術の上記のような欠点を防止する。このようにして、望ましくない、変換不可能な結晶相は避けられる。このようにして製造されたガラスセラミックは、非常に良好な変換効率を有する。
焼結工程があるために、これとは別に(YAGのような)表面結晶化のみによって得られる結晶相でさえ、焼結ボディの容積内に晶出させることができる。これによって、変換プロセスをさらに改良できる。
【0015】
本発明によるガラスセラミックは、出発ガラスの微細粉末(通常<100μm)を金型内でプレスした後、この材料を以後の温度処理により焼結すると同時に結晶化することにより、製造される。得られた生成物は、結晶相に加えて、出発材料の粒径および焼結条件に応じて、かなりの割合のガラス状生成物(ガラスセラミック>ガラス相の約5体積%、セラミックとは逆に)を含み、かつ、好ましくは10体積%よりも小さい、さらに好ましくは5体積%よりも小さい、最も好ましくは1体積%よりも小さい、閉鎖気孔率を示す。
【0016】
使用される出発ガラスは、好ましくは、(酸化物を基準として)5〜50重量%のSiOと、5〜50重量%のAlと、10〜80重量%の、Y、Lu、Sc、Gd、およびYbからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物と、0.1〜30重量%の、ランタノイドの酸化物およびBからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物とを含む。
【0017】
このような出発ガラスは、工業的ガラス製造プロセス(ポット溶融またはタンク溶融)により製造されるため、熱力学的に安定している。
本発明によれば、異なる方法により、気孔率の非常に低い材料を得ることができる。
気孔率を低く維持するための異なるアプローチが、先行技術において基本的に公知であった。
A)ガラス粉末を真空下で焼結する。
B)バイモードまたはマルチモード粒径分布のガラス粉末を焼結する。粉末成型に近い、最も緊密な球状パッキングから出発する。パッキング密度>0.73であり、異なる粒径の粒子が混合されて、小さい粒子が緊密にパックされた粒径の大きい粒子の8面体または四面体空隙に正確に嵌まると、このようにより低い気孔率が考えられて、実行可能となる。
C)出発ガラスと、より低い溶融温度を有する「不活性ガラス」とを共に焼結する。低溶融ガラスは、出発ガラスの焼結/セラミック化温度では液体/粘性を有し、空隙内に流入する。
【0018】
本発明によれば、所望の相の最大焼結および最大結晶化と、透明/半透明ガラスセラミックの最小の微結晶の大きさを達成するために、焼結ガラスセラミックの製造のための、粒径分布、焼結温度、加熱速度および焼結温度の保持時間についての最適値が追求される。
A、BおよびCの変形例は、本発明の好ましい実施形態である。本発明によりA、BおよびCの実施形態を組み合わせると、有利で好ましい。
【0019】
変形例Cで添加される不活性ガラスの量は、変位により閉鎖されるべき、粒径の分布および焼結条件を考慮して期待される気孔率によって決まる。粉末状低溶融不活性ガラスの選択は、本発明により次のように進められる。
1)不活性ガラスは、焼結温度Tにおいて低粘度を有するべきである(好ましくは<Va;Va=T(lgη/dPas=4)。好ましくは、出発ガラスの焼結温度Ts(G)は、不活性ガラスの加工温度Va(I)よりも少なくとも200Kだけ高く、すなわち
好ましくは Ts(G)―Va(I)>200Kである。
2)不活性ガラスは、焼結温度において結晶化傾向をほとんど有すべきでなく(この点において、不活性ガラスの失透上限温度OEG(I)は尺度の役割を果たす)、
好ましくは:Ts(G)―OEG(I)>0K
さらに好ましくは:Ts(G)―OEG(I)>25Kである。
3)不活性ガラスは、出発ガラスGの不活性ガラスIによる高度のぬれ性を提供するべきである。これはガラスIとガラスGとの間の化学的類似性により達成される。これらのガラスは共に酸化ガラスであるべきである。
4)出発ガラスGは、溶融不活性ガラスIによる攻撃に対し化学的安定性を有しているべきである。出発ガラスGの結晶化プロセスに対して不活性ガラスIによる(例えば拡散プロセスによる)妨害的な影響が存在すべきではない。
5)好ましくは、不活性ガラスIは、出発ガラスGにおける結晶化の触媒として作用する。
6)不活性ガラスは、励起光およびケイ光に対し高度の光学的透明度を有するべきである。
7)不活性ガラスは、低いアッベ係数ν(I)において高い屈折率n(I)を有すべきであり、好ましくはCe:YAGのような所望のランタノイドがドープされた結晶相に適合させられる。
【0020】
特に、不活性ガラスの屈折率を所望の変換結晶相の屈折率に適合させることは、それらの屈折率がうまく適合すると、青色励起光のYAG結晶へのカップリングインと黄色蛍光の結晶からのカップリングアウトとが、YAG/不活性ガラス相界面での全反射および反射により実質的なロスなしに実行されるため、本発明により有利である。ガラス(I)の低いアッベ係数により、光収差による低い光ロスが達成される。好ましくは、
|n(YAG)―n(I)|≦0.1で、
さらに好ましくは、|n(YAG)―n(I)|≦0.05である。
【0021】
与えられた屈折率n、たとえばn(Ce0.092.91Al12)=1.83に関して、不活性ガラスの屈折率はしたがって
(I)=1.78...1.88 である。
適切な不活性ガラスの第1実施形態は、0.5〜1.5重量%のSiO、28〜34重量%のB、0.1〜0.3重量%のBaO、1.5〜4重量%のZnO、43〜49重量%のLa、7〜11重量%のY、2.5〜4重量%のNb、6〜8重量%のZrOおよび0.3〜1重量%のWOを含む。
【0022】
適切な不活性ガラスの第2実施形態は、4〜6重量%のSiO、19〜23重量%のB、21〜27重量%のZnO、34〜40重量%のLa、6〜8重量%のNb、3〜5重量%のZrOおよび0.5〜1.5重量%のWOを含む。
適切な不活性ガラスの第3実施形態は、4〜7重量%のSiO、18〜21重量%のB、22〜25重量%のZnO、34〜39重量%のLa、7〜9重量%のNb、4〜7重量%のTiOおよび2〜4重量%のZrOを含む。
【0023】
セラミック化の間に、10〜95%、さらに好ましくは20〜80%、最も好ましくは25〜75%の結晶相含有率が残りのガラス相中に得られるように、温度処理が好ましくは制御される。
プロセスを適切に制御することにより、所望の用途に応じて結晶相含有率をこのように調整しかつ最適化することが可能である。
【0024】
上記の少なくとも1つのガーネット相は、A12タイプの相であり、この式において
Aは、歪んだ立方体として、大きいイオンに配位するロケーションであり、
Bは、8面体ロケーションであり、
Cは、4面体ロケーションである。
【0025】
AおよびCが3価の陽イオン(たとえば、Y3+およびAl3+)により占められると、その場合ロケーションBは、Ce3+のような3価のランタノイドの陽イオンにより占められ得る。隣接する酸素原子との間隔が小さいため、四面体ロケーションは、アルミニウムやシリコンのような小さい陽イオンのみを収容することが出来る。八面体のロケーションはどんな場合も3価の陽イオンにより占められねばならない。
【0026】
Aが2価の陽イオン(たとえばBa2+)により占められ、かつCが4価の陽イオン(たとえばSi4+)により占められた場合の形態も同様に考え得るが、これはその用途には好ましくない。
セラミック化プロセス中に製造される少なくとも1種のランタノイドでドープしたガーネット相は、YAl12(YAG)、LuAl12(LuAG)、GdAl12(GdAG)、YbAl12(YbAG)、YScAl12、YScAl12、LuScAl12、GdScAl12、およびYbScAl12のようなガーネット相であってもよい。たとえば、それらはCe0.092.91Al12であってもよい。
【0027】
本発明の他の実施方法によれば、ガーネット相は、セラミック化の間に形成され、ランタノイドであるセリウム、ランタン、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムおよびトリウムからなるグループより選択される少なくとも1種の元素によりドープされている。
Tm、Tb、Dy、Smなどのさらなるランタノイドにより付加的にドープすることにより、色ロケーション、色温度、および色再生指数(CRI)を最適化しかつそれらを特別な変換作用に適合させることが可能である。
【0028】
本発明のさらに他の実施方法によれば、0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは2〜10重量%のランタノイド含有率を有するガラスセラミックが、セラミック化中に形成される。
ガラスセラミック中のランタノイド含有率は、このようにして、可能な最良の変換結果を得るために所望の変換作用に適合させることができる。
【0029】
偶発的な不純物を除いて、使用される出発ガラスは、好ましくはアルカリ酸化物を含まず、さらにPbOを含まず、さらにTiOを含まず、さらにMgOを含まず、好ましくはZrOを含まない。
さらに、使用される出発ガラスは、好ましくは次の成分を含む(単位は酸化物をベースにした重量%)。
【0030】
+Lu+Sc+Gd+Yb 25〜60
SiO 10〜40
Al 10〜40
0〜20
ランタノイド 0.1〜20
下記の成分を有する出発ガラスを用いると、さらに好ましい(単位は酸化物をベースにした重量%)。
【0031】
30〜50
SiO 15〜35
Al 15〜40
0〜10
ランタノイド 1〜20
含有するYは、全体的または部分的にLu、Sc、Gdおよび/またはYbにより置換されてもよい。本発明のさらに他の実施形態によれば、出発ガラスは、清澄剤および偶発的な不純物を除いて、さらなる成分を全く含まないものである。
【0032】
ランタノイドは、好ましくはセリウムまたはユウロピウムの元素の少なくとも1種であってもよいが、同様に他のランタノイドを使用してもよく、さらに、色ロケーション、色温度および色再生指数を最適化するために少量の他のランタノイドを追加ドーピングしてもよい。
焼結温度への加熱は、好ましくは短波長赤外放射線ヒータによる赤外線放射を用いて実施される。この目的に適したKIRヒーティングユニットが、たとえば本願に引用により完全に組み込まれている欧州特許第1 171 392号明細書により公知である。そのようなヒーティングユニットの壁および天井の表面は、焼結石英(quarzal)のような高度のIR反射性を有する材料からなる。
【0033】
そのような加熱方法を用いると、非常に短い処理時間(たとえば焼結温度まで0〜2分、好ましくは10秒〜60秒、さらに好ましくは20秒〜40秒の加熱時間と、その後の冷却工程と、もし必要ならば30秒〜60秒の短時間の焼結温度保持と)と、気孔率が非常に小さく実質的にガーネット相だけを形成する非常に良好な焼結結果が達成される。
この場合、焼結されるべきサンプルは、好ましくは、たとえばAl粉末やSiO粉末からなる粉末状支持体の上に配置される。
【0034】
これによってサンプルの付着が防止できる。
使用される支持体は、また、石英ガラスまたは他の高溶融ガラスからなってもよい。
さらに、支持体は白金または他の高IR吸収性材料からなってもよい。
前記のように、本発明により製造されたガラスセラミックは、第1の放射線を異なるエネルギー量または異なるスペクトル分布を有する放射線に変換するための、好ましくはスペクトルの青およびUV領域における励起放射線線の低周波数変換のための放射線変換ボディとして使用されるのが好ましい。
【0035】
本発明の他の実施形態によれば、放射線変換ボディは、0.01〜0.5mm、好ましくは0.05〜0.2mmの厚さに作られる。
これによって短い長さにわたる変換が可能となる。
本発明のさらに他の実施形態によれば、放射線変換ボディは、0.1〜10mm、好ましくは0.2〜5mm、さらに好ましくは0.5〜2mmの長さに作られる。
【0036】
このような幾何学により、ボディをそれぞれのLEDチップの固体移行(遷移)に良好に適合させることが出来る。
上記に説明された、および下記に説明される本発明の特徴は、示されたそれぞれの組み合わせでだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組み合わせまたは単独ででも使用できることが理解される。
【0037】
本発明のさらに他の特徴および利点は、図面を参照して以下に述べる好ましい実施形態の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明のよるガラスセラミックは、出発ガラスの微細粉末(粒径は通常<100μm)を金型内でプレスした後、この材料を以後の温度処理により焼結すると同時に結晶化することにより、製造される。得られた生成物は、結晶相に加えて、出発材料の粒径および焼結条件に応じて、かなりの割合のガラス状生成物(セラミックとは対照的に、ガラスセラミック>ガラス相の約5体積%)を含み、かつ閉鎖気孔を示す。
実施例
【0039】
【表1】

【0040】
表1に、本発明によるガラスセラミックの製造に使用される出発ガラスの異なる組成物の要約を示す。
使用された出発ガラスは全て、工業的ガラス製造プロセス(ポット溶融またはタンク溶融)により製造されたため、および工業的熱成型プロセスにより成型されたため、全て熱力学的に安定である。
【0041】
出発ガラスG1〜G9(表1参照)は、白金溶融ポット内で約1550〜1600℃の温度で溶融され、均一化された。室温に冷却した後、均一で、クリアで透明なガラスが得られた。得られたガラスは急冷され、粉砕された。
表3は、可能な最低気孔率を達成するために真空下で焼結した変形例Aとして7つの実施例1〜7を示している。この目的のために、示された粒径の粒子フラクション(d50;d90)のそれぞれのガラスG7を、100g、6300barの圧力でアイソスタティックに(等方圧で)コールドプレスして1.5×1×3cmの大きさのサンプルにした。サンプルを予加熱した焼結炉に入れて示された焼結時間の間アイソサーマル(等温的)に焼結し、その後、焼結路のスイッチをオフにして冷却後、サンプルを取り出した。
【0042】
実施例3を除いて、全てのサンプルから主にYAG相を含む透明なガラスセラミックが得られた。実施例3〜7の気孔率は全て5μmより小さく、したがって、ほとんどの用途に充分な低さであった。
異なる粒径分布を有する、同一または異なる出発ガラスを混合すると、上記よりもさらに低い気孔率が得られる。
【0043】
出発ガラスの微細さの異なる粉末を、プレスおよび焼結の前に有利な比率で緊密に混合すると、焼結ガラスセラミックのバイモード粒径分布を有する出発粉末が得られる。
そのような粒子フラクションの有利な混合物は、一方でパッキング密度を大きくし、他方で小さい粒子においてより速く起る表面結晶化効果により共通の焼結を妨げないような比率で混合される。
【0044】
粒径がd50=B1μmである粉末を75重量%と、粒径がd50=B2μmである粉末を25重量%との混合物からなる本発明の出発ガラスは、
B2=f・B1; f=0.1...0.3 であるとき
本発明により特に低い気孔率の焼結ガラスセラミックを提供することが判明した。
係数は、粉末1および2の粒径分布の幅によって決まる。非常にタイトな粒径分布(d90―d50≦d50/5)で球状粒子の場合の係数は、0.26±0.01である。
【0045】
バイモード粒径分布を有するこのような例は、表3の実施例8(真空下のアイソサーマル焼結である以外は実施例1〜7と同じ条件)に見られる。
この場合、検知できる唯一の結晶相は、YAGであった。気孔率は、1体積%より低かった。
前記のように、非常に低い気孔率の達成に適した他の変形例は、不活性ガラスIのガラスフリットと出発ガラスのガラスフリットとの混合であり、この場合、出発ガラスの焼結温度Tsにおいて不活性ガラスはすでに液体であり、したがって粘性を有する流れにより隣接粒子間の空隙内に充填されている。
【0046】
可能な不活性ガラスI1〜I5の組成は、表2に要約されている。
不活性ガラス5を用いて製造されたそのような種の例は、表3の「変形例C」に実施例9(それ以外は実施例1〜8と同じプレスおよび焼結条件)として示されている。
表3から理解されるように、気孔サイズは1体積%より低い。検知された結晶相は主にYAGであった。
【0047】
図1および2は、表1の実施例G7のSEMパターンを示す。気孔は参照符号10により示されている。微結晶12は周縁のYAG相14とムライトのコア16とを含む。
【0048】
【表2】

【0049】
たとえばガラスI4は、588nmにおける屈折率1.8とアッベ係数41.3とを有する。
【0050】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明により製造されたガラスセラミックの走査型電子顕微鏡パターン(SEM)を示す。
【図2】図1の詳細図であり、異なる結晶相を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偶発的な不純物を除いてアルカリを含まず、かつ少なくとも1種のガーネット形成剤と少なくとも1種のランタノイドの酸化物とを含む出発ガラスを溶融する工程と、
前記出発ガラスを粉砕してガラスフリットを形成する工程と、
ランタノイドを含む少なくとも1種のガーネット相が形成されるまで、前記ガラスフリットを焼結する工程とを含む、ガラスセラミックの製造方法。
【請求項2】
酸化物を基準として、5〜50重量%のSiOと、5〜50重量%のAlと、10〜80重量%の、Y、Lu、Sc、GdおよびYbからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物と、0.1〜30重量%の、ランタノイドの酸化物およびBからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物とを含む出発ガラスが溶融される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結が真空下で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
異なる粒子径分布を有する少なくとも1種の出発ガラスの異なるガラスフリットが混合され共に焼結される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種の出発ガラスのガラスフリットと、前記出発ガラスよりも溶融温度の低い不活性ガラスのガラスフリットとを混合し焼結する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記使用される不活性ガラスは、屈折率n(I)を有する光学酸化ガラスで、前記ガーネット相の屈折率n(G)は、式|n(I)―n(G)|≦0.1、好ましくは≦0.05により決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
使用される不活性ガラスは、偶発的な不純物を除いて、0.5〜1.5重量%のSiOと、28〜34重量%のBと、0.1〜0.3重量%のBaOと、1.5〜4重量%のZnOと、43〜49重量%のLaと、7〜11重量%のYと、2.5〜4重量%のNbと、6〜8重量%のZrOと、0.3〜1重量%のWOとを含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
使用される前記不活性ガラスは、偶発的な不純物を除いて、4〜6重量%のSiOと、19〜23重量%のBと、21〜27重量%のZnOと、34〜40重量%のLaと、6〜8重量%のNbと、3〜5重量%のZrOと、0.5〜1.5重量%のWOとを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
使用される前記不活性ガラスは、偶発的な不純物を除いて、4〜7重量%のSiOと、18〜21重量%のBと、22〜25重量%のZnOと、34〜39重量%のLaと、7〜9重量%のNbと、4〜7重量%のTiOと、2〜4重量%のZrOとを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラスフリットが前記焼結プロセスに先立ってコールドプレスまたは等方圧コールドプレスされる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
焼結中に、少なくとも1種のランタノイドでドープしたガーネット相が形成され、前記ガーネット相はYAl12(YAG)、LuAl12(LuAG)、GdAl12(GdAG)、YbAl12(YbAG)、YScAl12、YScAl12、LuScAl12、GdScAl12、およびYbScAl12からなるグループから選択されるものである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
使用される前記出発ガラスは、偶発的な不純物を除いてアルカリ酸化物を含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
使用される前記出発ガラスは、偶発的な不純物を除いてPbOを含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
使用される前記出発ガラスは、偶発的な不純物を除いてTiOを含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
使用される前記出発ガラスは、偶発的な不純物を除いてMgOを含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
使用される前記出発ガラスは、偶発的な不純物を除いてZrOを含まない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
使用される前記出発ガラスが、酸化物を基準とする重量%で、
+Lu+Sc+Gd+Yb 25〜60
SiO 10〜40
Al 10〜40
0〜20
ランタノイド 0.1〜20
の成分を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
使用される前記出発ガラスが、酸化物を基準とする重量%で、
+Lu+Sc+Gd+Yb 30〜50
SiO 15〜35
Al 15〜40
0〜10
ランタノイド 1〜20
の成分を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
900〜1150℃、好ましくは950〜1100℃の焼結温度が用いられる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
5〜100分、好ましくは10〜80分、さらに好ましくは12〜70分の焼結時間が用いられる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記出発ガラスが焼結のために赤外線放射により加熱される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記焼結温度への加熱は、0〜2分、好ましくは10秒〜60秒、さらに好ましくは20秒〜40秒内に実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
粉末形態、好ましくはAl粉末またはSiO粉末の形態の支持体が使用される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
石英ガラスまたは他の高溶融ガラスの支持体が使用される、請求項21ないし23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
Ptまたは他の高IR吸収性材料の支持体が使用される、請求項21ないし23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
偶発的な不純物を除いてアルカリを含まず、かつ少なくとも1種のランタノイドを含む少なくとも1種のガーネット相を含む、先行する請求項のいずれかに従って好ましくは製造された、焼結ガラスセラミック。
【請求項27】
好ましくは10体積%よりも小さい、さらに好ましくは5体積%よりも小さい、最も好ましくは5体積%よりも小さい閉鎖気孔率を有する請求項26に記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項28】
微結晶サイズが10nm〜100μm、好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは100nm〜10μmである、請求項26または27に記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項29】
酸化物を基準として、5〜50重量%のSiOと、5〜50重量%のAlと、10〜80重量%の、Y、Lu、Sc、GdおよびYbからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物と、0.1〜30重量%の、ランタノイドの酸化物およびBからなるグループから選択される少なくとも1種の酸化物とを含む、請求項26ないし28のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項30】
10〜95%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは25〜75%の結晶相部分を含む、請求項26または29のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項31】
ランタノイドでドープした少なくとも1種のガーネット相を含み、前記ガーネット相はYAl12(YAG)、LuAl12(LuAG)、GdAl12(GdAG)、YbAl12(YbAG)、YScAl12、YScAl12、LuScAl12、GdScAl12、およびYbScAl12からなるグループから選択されるものである、請求項26ないし30のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項32】
セリウム、ランタン、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムおよびトリウムからなるランタノイドのグループより選択される少なくとも1種の元素によりドープされたガーネット相を含む、請求項26ないし31のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項33】
0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは2〜10重量%のランタノイドを含む、請求項26ないし32のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項34】
偶発的な不純物を除いてPbOを含まない、請求項26ないし33のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項35】
偶発的な不純物を除いてTiOを含まない、請求項26ないし34のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項36】
偶発的な不純物を除いてMgOを含まない、請求項26ないし35のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項37】
偶発的な不純物を除いてZrOを含まない、請求項26ないし36のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項38】
清澄剤および偶発的な不純物を除いて、さらなる成分を含まない、請求項26ないし37のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項39】
ランタノイドとしてセリウムまたはユーロピウムのうちの少なくとも1種の元素を含む、請求項26ないし38のいずれかに記載の焼結ガラスセラミック。
【請求項40】
第1放射線を異なるエネルギー量または異なるスペクトル分布を有する放射線へ変換するための、好ましくはスペクトルの青およびUV領域における励起放射線の低周波数変換のための、請求項26ないし39のいずれかに記載の焼結ガラスセラミックを用いた放射線変換ボディ。
【請求項41】
0.01〜0.5mm、好ましくは0.05〜0.2mmの厚さを有する、請求項40に記載の放射線変換ボディ。
【請求項42】
0.1〜10mm、好ましくは0.2〜5mm、さらに好ましくは0.5〜2mmの長さを有する、請求項40または41に記載の放射線変換ボディ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−326773(P2007−326773A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−147337(P2007−147337)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】