説明

焼結体の製造装置

【課題】 例えば磁石の磁気特性の向上などの製品機能を改善する際に、蒸発させた元素が効率よく回収されるようにした焼結体の製造装置を提供する。
【解決手段】 焼結体の製造装置1は、真空排気手段11を有する真空チャンバ12と、この真空チャンバ内で、液相焼結で得られた一次焼結体Sを収納する焼結体ケース2と、この焼結体ケースの加熱を可能とする加熱手段3とを備える。そして、加熱手段を作動させて当該一次焼結体を焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少あるいは消滅させることができる。その処理の際に、蒸発させた元素が付着するようにトラップ手段5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体の製造装置に関し、より詳しくは、Nd−Fe−B系(ネオジウム鉄ボロン系)の焼結磁石から希土類元素を優先的に蒸発させて高性能の永久磁石を作製するために用いられる焼結体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系の焼結磁石(所謂、ネオジム磁石)は、鉄と、安価であって資源的に豊富で安定供給が可能なNd、Bの元素の組み合わせからなることで安価に製造できると共に、高磁気特性(最大エネルギー積はフェライト系磁石の10倍程度)を有することから、電子機器など種々の製品に利用され、ハイブリッドカー用のモーターや発電機などにも採用され、使用量が増えている。
【0003】
Nd−Fe−B系の磁石は主に粉末冶金法で生産されており、この方法では、先ず、Nd、Fe、Bを所定の組成比で配合し、溶解、鋳造して合金原料を作製し、例えば水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、例えばジェットミル微粉砕工程により微粉砕して、合金原料粉末を得る。次いで、得られた合金原料粉末を磁界中で配向(磁場配向)させ、磁場を印加した状態で圧縮成形して成形体を得る。そして、この成形体を所定の条件下で焼結させて焼結磁石が作製される(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、Nd−Fe−B系の焼結磁石の磁性を担うR14B相(主相成分)は、平衡状態では液相から直接生成せず、先ず初相としてγ鉄が生成し、液相とその鉄との反応(包晶反応)で生成する(γ鉄は温度低下と共にα鉄に変態する)。この場合、例えば、凝固冷却速度の速い急冷法であるストリップキャスティング法(SC法)により合金原料を溶解、鋳造したとしても、Ndの含有量を28.5%以下にすれば、α鉄の生成の抑制が難しく、合金中にデンドライト状に生成することが知られている。
【0005】
α鉄が合金中にデンドライト状に生成し、立体的に繋がっていると、その後の粉砕工程での合金の粉砕性を著しく害する。つまり、粉砕性が悪いと、水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により微粉砕しようとしても、高磁気特性の焼結磁石を作製することに適した粒形の揃った微細な粉末粒子の粉末を得ることが困難となる。その上、ジェットミル中に粗大粒(デンドライト状に生成したα鉄に起因する)が残留したり、バッグフィルターで回収される微粉の量が増えることによって組成ずれが起こり易く、品質管理が困難であるという問題がある。
【0006】
他方で、Ndの含有量を28.5%より多くすれば、α鉄が生成しないインゴットの製造が可能であるものの、Rリッチ相が増えて、磁性を担うR14B相の体積比が減少するため、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)の大きな超高性能磁石の製造が難しくなるといった問題が生じる。
【0007】
そこで、液相焼結により焼結磁石を得た後、当該焼結磁石を焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い希土類元素を優先的に蒸発させて液相の体積比を減少させることが本出願人により提案されている(特願2007−200845号参照)。
【特許文献1】特開2004−6761号公報(例えば、従来技術の記載参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記方法によれば、希土類元素を効率良く蒸発させてRリッチ相の体積比を減少させることで、磁性を担うR14B相(主相成分)の体積比を増大させることにより、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)を向上することができる。然し、このような焼結磁石には、ディスプロシムやテルビウム等に代表されるような希土類元素であって、資源的に乏しく、安定供給が望めない高価なものが含まれていることが多く、このような場合に、蒸発した元素をそのまま真空排気手段で排気したのでは、貴重な希土類元素が無駄になるばかりか、製造コスト高を招く。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記点に鑑み、例えば磁石の磁気特性の向上などの製品機能を改善する際に、蒸発させた元素が効率よく回収されるようにした焼結体の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1記載の焼結体の製造装置は、真空排気手段を有する真空チャンバと、この真空チャンバ内で、液相焼結で得られた一次焼結体を収納する焼結体ケースと、この焼結体ケースの加熱を可能とする加熱手段とを備え、加熱手段を作動させて当該一次焼結体を焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少あるいは消滅させるように構成した焼結体の製造装置であって、前記蒸発させた元素が付着するようにトラップ手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、焼結促進に寄与する液相成分のうち、蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させることにより(蒸発処理)、液相の体積比を減少または消滅させ、主相本来の特性を発揮させることができる。この場合、本発明の焼結体の製造装置においては、蒸発させた元素が付着するトラップ手段を備えているため、上記蒸発処理中には、蒸発させた元素を当該トラップ手段に順次付着させておき、当該処理後に、公知の剥離方法を用いて当該元素をトラップ手段から剥離するだけで、その回収が可能になる。その結果、ネオジウム鉄ボロン系の焼結磁石から、特にディスプロシム等の高価な希土類元素を蒸発させる場合に、その希土類元素が回収できて良い。
【0012】
本発明においては、前記焼結体ケースは一面を開口した箱状のものであり、前記トラップ手段が、前期焼結体の開口面から所定の間隔を存してかつ当該開口面全体を覆うように配置された板材から構成されるようにすればよい。
【0013】
他方で、前記トラップ手段は、真空チャンバから真空排気手段に通じる排気通路に連通させて設けた収納室と、当該収納室に配置された少なくとも1枚の板材とから構成され、当該板材に駆動手段を連結し、前記板材を排気通路に対し進退自在とした構成を採用すれば、蒸発処理を行う場合にのみ、トラップ手段を排気通路内に侵入させるようにできてよい。
【0014】
この場合、蒸発した元素を効率よく板材に付着させるには、前記板材は、ガス流方向に対し傾斜させて2列でかつ互い違いとなるように配置されていることが好ましい。
【0015】
また、前記トラップ手段は、排気通路のうち粘性流領域となる範囲に進退自在とすることが好ましい。
【0016】
さらに、前記トラップ手段に、冷媒の循環による冷却手段が組み込まれている構成を採用すれば、温度差によって蒸発した元素を効率よくトラップ板に付着させることができてよい。
【0017】
尚、処理後に、公知の剥離方法を用いて当該元素をトラップ手段から剥離するために、前記トラップ手段の少なくとも蒸発させた元素が付着する部位が、当該元素と反応しない材料から形成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1を参照して説明すれば、1は、本発明の焼結体の製造装置たる真空蒸発装置1であり、特に、ネオジウム鉄ボロン系の焼結磁石(一次焼結体)Sを真空雰囲気にて加熱し、当該焼結磁石Sから希土類元素を優先的に蒸発させる処理(真空蒸発処理)を施して、超高性能磁石(永久磁石)を作製することに適したものである。真空蒸発装置1は、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、拡散ポンプなどの真空排気手段11を介して所定圧力(例えば10−5Pa)まで減圧して保持できる真空チャンバ12を有する。真空チャンバ内12には、上面を開口した円筒形状の焼結体ケース2が設置され、この焼結体ケース2で囲まれた空間が処理室20を構成する。焼結体ケース2は、加熱により焼結磁石Sから液相である希土類リッチ相のNd、Prなどの希土類元素Rを優先的に蒸発させたとき、その希土類元素Rと反応しない材料から構成されている。
【0019】
即ち、蒸発させた希土類元素Rが焼結体ケース2の表面に付着してその表面に反応生成物を形成したのでは、希土類元素Rの回収が困難になる場合がある。このため、焼結体ケース2を、表面に付着した希土類元素Rの剥離が容易なMoやSUSから製作するか、またはMo等を他の断熱材の表面に内張膜として成膜したものから構成している。また、処理室20には、焼結体ケース2の底面から上面に向かって相互に所定の間隔を置いて、例えばMo製の皿状の載置部3が複数個配置され、載置部3には、直方体など所定形状に成形した後、焼結してなる焼結磁石Sが並べて載置できる。
【0020】
また、真空チャンバ12には、焼結体ケース2の周囲を囲うように加熱手段4が設けられている。加熱手段4は、焼結体ケース2の周囲を囲うようにその全長に亘って列設した複数本の環状のフィラメントから構成される電気ヒータ(図示せず)であり、各フィラメントは、真空チャンバ12内に設けた支持片(図示せず)で支持されている。この場合、フィラメントもまた、希土類元素Rと反応しないMo等から構成されている。そして、減圧下で、加熱手段4によって焼結体ケース2を加熱することで、焼結体ケース2を介して間接的に処理室20、ひいては、載置部3に載置した焼結磁石Sを略均等に加熱できる。
【0021】
焼結体ケース2の上方には、その開口した上面を覆うようにトラップ板(トラップ手段)5が着脱自在にセットされている。トラップ板5は、上記焼結体ケース2と同様、蒸発させた希土類元素Rと反応せず、かつ、表面に付着したものが剥離し易い材料、例えばMoから構成されている。また、トラップ板5には、図示しないが冷媒の循環による冷却手段が組み込まれており、トラップ板5を所定温度に冷却することで、蒸発させた希土類元素Rが当該トラップ板5に到達したときに、温度差によって希土類元素Rがトラップ板5に効率よく付着して堆積するようにしている。
【0022】
処理室20の容積は、蒸発させた希土類元素Rの平均自由行程を考慮して、蒸発した希土類元素Rが直接または焼結体ケース2の内壁への衝突を繰返して上面開口を通って外側に排出されるように設定され、また、焼結体ケース2の上端からトラップ板5までの間隔は、焼結体ケースの上面開口から排出された希土類元素Rの大部分が一旦トラップ板5に向って導かれるように設定されている。これにより、本実施の形態の蒸発処理装置1においては、蒸発処理中には、蒸発させた元素をトラップ板5に順次付着させることができ、当該処理後に、トラップ板5を脱離した後、公知の剥離方法を用いてトラップ板5から当該元素を剥離するだけで、その元素の回収が可能になる。
【0023】
次に、本発明の蒸発処理装置1の作動について、超高性能永久磁石の作製を例に説明する。先ず、原料合金粉末は次のように作製される。即ち、Fe、Nd、Bが所定の組成比となるように、工業用純鉄、金属ネオジウム、低炭素フェロボロンを配合して真空誘導炉を用いて溶解し、急冷法、例えばストリップキャスト法により0.05mm〜0.5mmの原料合金を先ず作製する。あるいは、遠心鋳造法で5〜10mm程度の厚さの合金原料を作製してもよく、配合の際に、Dy、Tb、Co、Cu、Nb、Zr、Al、Ga等を添加しても良い。この場合、希土類元素の合計含有量を28.5%より多くし、α鉄が生成しないインゴットとする。
【0024】
次いで、作製した原料合金を、公知の水素粉砕工程により粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により窒素ガス雰囲気中で微粉砕し、平均粒径3〜10μmの合金原料粉末を得る。次いで、原料合金粉末を、公知の圧縮成形機を用いて磁界中で所定形状に圧縮成形する。次いで、圧縮成形機から取出した成形体を、図示しない焼結炉内に収納し、真空中で所定温度(例えば、1050℃)で所定時間焼結(焼結工程)し、さらに所定温度(500℃)、一次焼結体Sを得る。
【0025】
次いで、作製した一次焼結体Sを、真空蒸発装置1の載置部3上に載置するとともに、トラップ板5を所定の位置にセットした後(図1に示す状態)、真空排気手段を作動させて、所定圧力(例えば10−5Pa)に到達するまで真空チャンバ12を減圧する。真空チャンバ12内が所定圧力に到達した後、加熱手段4を作動させて処理室20、ひいては焼結磁石Sを加熱し、所定温度に到達した後、この状態で所定時間保持する(真空蒸発処理)。
【0026】
この場合、処理室20、ひいては焼結磁石Sの加熱温度を900℃以上で、焼結温度未満の温度に設定する。900℃より低い温度では、希土類元素Rの蒸発速度が遅く、また、焼結温度を超えると、異常粒成長が起こり、磁気特性が大きく低下する。併せて、真空チャンバ12と真空排気手段11とを連結する排気通路(排気管)11aに開度調整自在な開閉バルブ11bを設け、この開閉バルブ11bの開度を調節して、真空チャンバ11、ひいては処理室20内の圧力を10−3Pa以下の圧力に設定する。10−3Paより高い圧力では、希土類元素Rを効率よく蒸発させることができない。
【0027】
これにより、一定温度下での蒸気圧の相違により(例えば、1000℃において、Ndの蒸気圧は10−3Pa、Feの蒸気圧は10−5Pa、Bの蒸気圧は10−13Pa)、Rリッチ相中の希土類元素Rのみが蒸発する。その際、蒸発した希土類元素Rの大部分は、冷却されたトラップ板5に付着して堆積する。
【0028】
このように蒸発処理を施すと、Ndリッチ相の割合が減少して、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)を向上でき、高性能な永久磁石が得られる。この場合、高性能な永久磁石を得るには、永久磁石の希土類元素Rの含有量を28.5wt%未満、または、希土類元素Rの平均濃度の減少量を0.5重量%以上となるまで加熱処理する。
【0029】
そして、上記真空蒸発処理を実施した後、加熱手段4の作動を一旦停止すると共に、開閉バルブ11bを全開して真空チャンバ12内を排気しつつ冷却し、処理室20内の温度を例えば500℃まで一旦下げる。引き続き、加熱手段4を再度作動させ、処理室20内の温度を550℃〜650℃の範囲に設定し、一層磁気特性を向上させるための熱処理を施す。最後に、略室温まで冷却し、焼結体たる永久磁石を取り出す。他方で、トラップ板5もまた、真空チャンバ12から脱離され、公知の剥離方法を用いてトラップ板5から希土類元素Rを剥離させて回収される。
【0030】
尚、本実施の形態では、焼結体ケース2の上方にトラップ板5を配置したものについて説明したが、これに限定されるものではく、例えば図示しない真空チャンバから真空排気手段に通じる排気通路11aにトラップ手段6を配置してもよい(図2(a)及び図2(b)参照)。トラップ手段6は、ゲートバルブ61を介して排気通路11aに連通する収納室62を有し、収納室62には、断面略矩形の支持枠63が収納され、この支持枠63内には、複数枚のトラップ板64が配置されている。また、支持枠63には、ゲートバルブ61の開位置でこの支持枠63を排気通路11aに対し進退自在とするエアーシリンダ等の駆動手段65が連結されている。
【0031】
トラップ板64は、上記同様、希土類元素Rと反応しないMo、SUS等から構成され、排気通路6のガス流を遮るように、ガス流方向に対し傾斜させて2列でかつ互い違いに配置される。そして、真空チャンバ12内を所定圧力まで減圧し、加熱手段4を作動させて焼結磁石Sを加熱する場合にのみ、トラップ手段6を排気通路11a内に侵入させ、蒸発した希土類元素Rを付着させて回収する。尚、蒸発させた元素を効率よくトラップ手段6に付着させるために、トラップ手段6は、排気通路11bのうち粘性流領域となる範囲に設けられる。
【0032】
ところで、焼結体ケース2の上方にトラップ板5を配置したとしても、蒸発した元素が、真空チャンバの壁面まで回り込んだ付着する場合がある。このため、真空チャンバ12の内壁に、例えばMo製のトラップ板を配置し、当該真空チャンバ12の壁面の汚染を防止するためのシールドと兼用させるようにしてもよい。
【0033】
さらに、本実施の形態では、焼結磁石Sの製造を例として説明したが、焼結体から特定物質を蒸発させて焼結体の機能を向上できるものであれば、本発明の焼結体の製造方法を適用できる。例えば、炭化珪素(SiC)粉末に金属シリコン粉末を焼結助剤として混合し、成形後シリコンの融点以上で液相焼結して得た焼結体の場合が挙げられる。
【実施例1】
【0034】
実施例1では、図1に示す真空蒸発装置1を用い、一次焼結体Sに真空蒸発処理を実施して永久磁石を得た。まず、工業用純鉄、金属ネオジウム、低炭素フェロボロン、電解コバルト、純銅を原料として、配合組成で29Nd−1B−0.1Cu−1Co−Bal Fe(重量%)となるようにして、真空誘導溶解を行い、ストリップキャスティング法で厚さ約0.3mmの薄片状インゴットを得た。次に、水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、例えばジェットミル微粉砕工程により微粉砕して、原料合金粉末を得た。
【0035】
次に、公知の構造を有する横磁場圧縮成形装置を用いて、成形体を得て、次いで真空焼結炉にて1050℃の温度下で2時間焼結させて一次焼結体Sを得た。そして、ワイヤカットにより一次焼結体をφ10×5mmの形状に加工した後、表面粗さが10μm以下となるように仕上げ加工した後、希硝酸によって表面をエッチングした。
【0036】
次に、図1に示す真空蒸発装置1を用い、処理室20内の載置部3に100個の上記一次焼結体Sを配置した後、真空チャンバ12の圧力が10−5Paに到達するまで真空排気した。真空チャンバ12内の圧力が所定位置に達した後、加熱手段4を作動させて処理室20を加熱した。この場合、加熱温度を975℃に設定すると共に、開閉バルブ11bの開度を調節して真空チャンバ12内の圧力を5×10−5Paに設定した。次いで、保磁力を向上するための熱処理を行った。この場合、熱処理温度を530℃、処理時間を60分に設定した。
【0037】
図3は、処理時間を変えて上記真空蒸発処理を実施した時の被処理材のNdの含有量(wt%)の変化量と熱処理後の磁気特性(BHカーブトレーサーにより測定)の平均値との関係を示す表である。これによれば、蒸発処理時間が長くなるに従い、Ndの含有量が減少し、24時間に亘る真空蒸発処理を実施すると、約2wt%減少させることができた。この場合、磁気特性を示す最大エネルギー積は、55.1MG0eであり、残留磁束密度は14.88kGであり、磁気特性を向上できたことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の焼結体の製造装置たる真空蒸発装置の構成を概略的に説明する図。
【図2】他の変形例に係るトラップ手段を説明する図。
【図3】実施例1で作製した焼結磁石材料の希土類元素の含有量の変化量及び磁気特性を示す表。
【符号の説明】
【0039】
1 真空蒸発装置(焼結体の製造装置)
11 真空排気手段
12 真空蒸発装置
2 焼結体ケース
20 処理室
3 載置部
4 加熱手段
5 トラップ板(トラップ手段:板材)
S 一次焼結体(焼結磁石)
R 希土類元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気手段を有する真空チャンバと、この真空チャンバ内で、液相焼結で得られた一次焼結体を収納する焼結体ケースと、この焼結体ケースの加熱を可能とする加熱手段とを備え、加熱手段を作動させて当該一次焼結体を焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少あるいは消滅させるように構成した焼結体の製造装置であって、前記蒸発させた元素が付着するようにトラップ手段を設けたことを特徴とする焼結体の製造装置。
【請求項2】
前記焼結体ケースは一面を開口した箱状のものであり、前記トラップ手段が、前期焼結体の開口面から所定の間隔を存してかつ当該開口面全体を覆うように配置された板材から構成されることを特徴とする請求項1記載の焼結体の製造装置。
【請求項3】
前記トラップ手段は、真空チャンバから真空排気手段に通じる排気通路に連通させて設けた収納室と、当該収納室に配置された少なくとも1枚の板材とから構成され、当該板材に駆動手段を連結し、前記板材を排気通路に対し進退自在としたことを特徴とする請求項1焼結体の製造装置。
【請求項4】
前記板材は、ガス流方向に対し傾斜させて2列でかつ互い違いとなるように配置されていることを特徴とする請求項3記載の焼結体の製造装置。
【請求項5】
前記トラップ手段は、排気通路のうち粘性流領域となる範囲に進退自在であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の焼結体の製造装置。
【請求項6】
前記トラップ手段に、冷媒の循環による冷却手段が組み込まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の焼結体の製造装置。
【請求項7】
前記トラップ手段の少なくとも蒸発させた元素が付着する部位が、当該元素と反応しない材料から形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の焼結体の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84628(P2009−84628A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255164(P2007−255164)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】