説明

焼菓子練り込み用油脂組成物

【課題】生地物性を大幅に変えずに、サクサクした食感で吸湿が抑制された焼菓子が得られ、焼菓子生地をパン等の水分含量の高い生地の上掛け生地として用いた場合に口溶けが良好で水分移行が抑制された複合ベーカリー製品を得られる油脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記(a)〜(f)を満たす焼菓子練込用油脂組成物。(a)油相中のSMS(S:C16〜22飽和脂肪酸、M:C16〜22モノ不飽和脂肪酸)含量が15〜60質量%である。(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換した油脂を含有する。(d)油相中のMSM含量が5質量%未満である。(e)SMS/MSMモル比が3.0以上である。(f)構成脂肪酸組成におけるC20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子生地、特にメロンパンなどの複合ベーカリー製品の上掛け生地に使用する焼菓子練り込み用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
焼菓子の生地は、水分含量の少ない順に大まかにショートペースト及びバッターの2種に分類される。(非特許文献1参照)
ここで、クッキー生地、ガレット生地、練パイ生地、タルト生地等の油脂を多く含有し焼きあがりがサクサクした食感となる焼菓子生地、すなわち、ショートペーストは、水分含量が少なく、常温で流動性がなく、膨張性がほとんどないため、成形した形状そのままの形で焼きあがるので焼型を使用することはほとんどなく、平展板で焼成する。
そして、得られた焼菓子も、水分が少なく、油脂が比較的多いため、硬く、歯切れのよい食感を有する。
【0003】
一方、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、マフィン生地、シュー生地等の水分が多く常温で流動性を有する焼菓子生地、すなわち、バッターは、焼成時にカップ状の型展板や、パウンドケーキ型、スポンジケーキ型等の金属性焼型や、カップケーキ型、マフィンケーキ型等の紙製の焼型を使用する。
そして、得られた焼菓子も、水分が多く、油脂が比較的少ないため、ソフトなしっとりした食感を有する。
【0004】
ここで、ショートペーストから得られた焼菓子は上述のように、焼成当初は、水分含量が少なく、そのため硬い食感であるが、保管中に水分を吸う(吸湿)と、経日的に、バッターから得られた焼菓子のようにソフトでしっとりした食感になってしまう。また、バッターから得られた焼菓子は同様に焼成当初はソフトなしっとりした食感であるが、経日的にべたついた食感になってしまう。
【0005】
また、上記焼菓子生地を上掛け生地、パン生地等の水分含量の高い生地を内生地とした複合生地を焼成した、メロンパンに代表される複合ベーカリー食品の場合は、内生地は元々水分含量が高いうえに火がとおりにくいことから、焼成直後は上掛け生地部分と内生地部分の水分含量に大きな濃度勾配が生じている。そのため、上掛け生地部分は内生地部分からの水分移行により、焼成当初は硬くカリカリした食感であっても経日的にソフトでしっとりした食感となってしまい、甚だしい場合は、上掛け生地部分はべたついてしまうため、包装紙に接着し、包装紙から複合ベーカリー食品を取り出すときに、上掛け生地部分がパンから剥がれて、複合ベーカリー食品の外観が損なわれ、商品価値が著しく低下するという問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するために、α化澱粉を添加したパン用上掛け生地の製造法(例えば特許文献1参照)、あるいは特定の糊料を添加したパン用上掛け生地(例えば特許文献2参照)が開示されている。
【0007】
しかし、これらの公報に記載の副原料(糖質)を使用した方法では、上記副原料を大量に添加することが必要であるため、焼菓子生地がバッターの場合は生地の粘度が著しく高くなって扱いにくくなることに加え、焼菓子が粉っぽい不良な食感になってしまう問題があり、また、焼菓子生地がショートペーストの場合は、生地がぼろついたものとなってしまい極めて扱いにくくなることに加え、焼菓子もぼろついた不良な食感になってしまう問題もあった。
また、ショートペーストを上掛け生地に使用した場合では、上記副原料を添加してもその効果は極めて弱く、その上、生地がぼろついたものとなってしまい極めて扱いにくくなることに加え、焼成後の上掛け生地も、ぼろついた不良な食感になってしまう問題もあった。
さらにメロンパンの上掛け生地と使用した場合の水分移行抑制効果はきわめて弱く、逆に促進してしまうこともあった。
【0008】
次に、上掛け生地に使用する油脂に注目した発明として、融点の高い油脂を練込使用する方法(例えば特許文献3及び4参照)や、焼成後に含浸させる方法(例えば特許文献5参照)が挙げられる。
【0009】
これらの方法は、高融点油脂を使用することで結晶性と結晶化速度を高め、焼菓子生地全体で吸湿抵抗性をあげ、また、硬い食感を得る方法であるが、当然、焼菓子の食感も口溶けの悪いものとなってしまうおそれもあった。
また、練込使用する方法では当然焼菓子生地は硬くなり、生地物性は大きく低下してしまう問題があり、含浸させる方法は焼成後の操作であることから手間がかかる問題に加えショートペーストなど焼菓子内部まで均質に含浸させることが不可能であることに加え、メロンパンの上掛け生地に適用する場合は肝心の内生地との界面にまで含浸させることが困難であるという問題があった。
【0010】
このようにメロンパンの上掛け生地に高融点油脂を使用した場合は、食感の悪化に加え、水分移行抑制効果も高いものではなかった。
そのため、メロンパンの上掛け生地と内生地との界面にチョコレートの層をつくる方法(例えば特許文献6参照)や、界面に高融点油脂を塗布または散布して高融点油脂層を生成させる方法(例えば特許文献7参照)が提案されている。
【0011】
しかし、これらの方法は、複合生地生成時にひと手間かかることに加え、界面に別の食感の油脂層が形成されるため、特に高融点油脂を使用した場合は食感が悪化してしまう。また、特許文献6の方法は別風味が付与されてしまうことに加え、界面も着色されてしまう問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−99878号公報
【特許文献2】特開2005−000124号公報
【特許文献3】特開2006−149220号公報
【特許文献4】特開2007−202540号公報
【特許文献5】特開2008−086211号公報
【特許文献6】特開2006−081448号公報
【特許文献7】特開2009−039076号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】松田兼一著、「製菓理論 基本生地とその応用」、社団法人 日本洋菓子協会連合会、昭和62年11月1日、p14〜17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、焼菓子生地の生地物性を大幅に変えることなく、サクサクした硬い食感であって吸湿が抑制された焼菓子を得ることができ、該焼菓子生地をパン等の水分含量の高い生地の上掛け生地として用いた場合にも口溶けが良好であり且つ水分移行が抑制されたメロンパン等の複合ベーカリー製品を得ることができる焼菓子練り込み用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、上掛け生地に使用する油脂として、いたずらに高融点の油脂を使用するのではなく、また結晶性と結晶化速度を高めるという従来の常識に反し、逆に、結晶性を低下させ、結晶化速度を遅延させ、むしろ固液分離し、油脂結晶が粗大化するような不安定な油脂を使用した場合、意外にも上記問題を解決可能であることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は下記の(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす、焼菓子練り込み用油脂組成物を提供するものである。
(a)油相中のSMS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、M:炭素数16〜22であるモノ不飽和脂肪酸)で表わされるトリアシルグリセロール含量が15〜60質量%である。
(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が下記(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。
(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を含有する。
(d)油相中のMSMで表わされるトリアシルグリセロール含量が5質量%未満である。
(e)SMS/MSM(モル比)が3.0以上である。
(f)構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、焼菓子生地の生地物性を大幅に変えることなく、サクサクした硬い食感であって吸湿が抑制された焼菓子を得ることができる。また、該焼菓子生地をパン等の水分含量の高い生地の上掛け生地として用いた場合には、上掛け生地部分がサクサクした硬い食感でありながら口溶けが良好であり、経日的な水分移行が抑制されたメロンパン等の複合ベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物について詳細に説明する。
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は下記の(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす。(a)(b)(c)(d)(e)(f)のいずれか1項でも範囲外であると本発明の効果が得られない。
(a)油相中のSMS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、M:炭素数16〜22であるモノ不飽和脂肪酸)で表わされるトリアシルグリセロール(以下SMSと記すことがある)含量が15〜60質量%である。
(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が下記(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。
(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を含有する。
(d)油相中のMSMで表わされるトリアシルグリセロール(以下MSMと記すことがある)含量が5質量%未満である。
(e)SMS/MSM(モル比)が3.0以上である。
(f)構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。
【0019】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は、油相中のSMS(対称型トリグリセリド)含量が、15〜60質量%、好ましくは20〜34質量%、より好ましくは20〜30質量%である。油相中の上記対称型トリグリセリドを上記含量とすることで、十分な量と大きさの粗大油脂結晶を得ることが可能となる。上記油相中のSMS含量が15質量%未満では油相中の結晶量が少なく、また、焼菓子中で十分量の油脂粗大結晶を得ることができないため、硬い食感の焼菓子が得られない。60質量%を超えるとクリーミング性が悪化したり、焼菓子表面が白色化しやすいという問題がおこる。
本発明では、焼菓子練り込み用油脂組成物の油相に、上記のようなトリグリセリド組成の範囲でSMSを含有させるために、SMSそのものを配合してもよいが、好ましくはSMSを含有する油脂を配合することが好ましく、より好ましくはSMSを20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上含有する油脂を配合する。
【0020】
このSMSを20質量%以上含有する油脂としては、具体的には、例えばカカオ脂、パーム油、パーム中融点油、シア脂、シアステアリン、マンゴー脂、マンゴーステアリン、サル脂、サルステアリン、コクム脂等を挙げることができる。また、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック紅花油、スーパーオレイン等の2位に炭素数16または18のモノ不飽和脂肪酸を60質量%以上含有する油脂と、炭素数16または18の飽和脂肪酸またはその低級アルコールエステルからなる油脂配合物とを、1、3位選択的なエステル交換反応を行うことにより得られたエステル交換油、若しくは該エステル交換油の中融点部を挙げることができる。
【0021】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物の、油相中のランダムエステル交換油脂含量は下述のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂も含め、25〜75質量%、好ましくは40〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。油相中のランダムエステル交換油脂を上記含量とすることで、SMSの結晶の結晶成長を遅延させ、より大きな油脂結晶とすることができる。油相中のランダムエステル交換油脂が25質量%未満では油脂結晶化遅延効果が見られないため、十分な大きさの粗大結晶を得ることができないので、硬い食感の焼菓子が得られない。75質量%を超えると結晶性が低すぎて、べたついた食感の焼菓子になりやすく、また、メロンパンにした場合の水分移行抑制化効果が大きく低下する。
【0022】
上記のランダムエステル交換油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ハバス油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、ハイエルシン菜種油、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、並びにこれらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/または分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、及び脂肪酸低級アルコールエステルから選択される1種または2種以上を用いて製造したランダムエステル交換油脂を使用することができる。
【0023】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は上記ランダムエステル交換油脂の一部または全部に、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を使用することが必要である。
このエステル交換油脂を使用することで、焼成後の焼菓子を冷却する際に、焼菓子中にSMSの結晶を固液分離状態で発生させることができる。
【0024】
まず、上記油脂配合物について述べる。
上記油脂配合物は、ヨウ素価が52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含有する。該パーム分別軟部油の含有量が70質量%未満であると、良好な結晶化遅延効果が得られず、さらにSMSの結晶を固液分離状態で発生させることができない。
【0025】
上記パーム分別軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価52〜70のものである。本発明に用いられるパーム分別軟部油としては、ヨウ素価が52〜70のパームオレインを使用することが、特に乳化安定性に優れ、良好な結晶化遅延効果が得られることから好ましく、ヨウ素価60以上のパームスーパーオレインを使用することがさらに好ましい。
【0026】
上記油脂配合物に必要に応じ配合する上記パーム分別軟部油以外の油脂は、求める油脂組成物の硬さに応じ、適宜選択することができ、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、さらに、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的または化学的処理の1種または2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、または2種以上を組合せて用いることもできる。
【0027】
ランダムエステル交換の方法は、常法のリパーゼ等の酵素による方法でも、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒による方法でもよく、特に制限されるものではない。
なお、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂の融点は、上記SMSの結晶の結晶化遅延効果を得るためには、38℃以下であることが好ましく、より好ましくは35℃以下のものを使用する。
なお、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物における、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂の、全ランダムエステル交換油中の含有量は、好ましくは35〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは50〜75質量%である。
【0028】
また、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物における、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂の油相中の含有量は、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
なお、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂に必要に応じ加配するその他のランダムエステル交換油脂としては、融点が36℃以下であるエステル交換油脂であることが好ましく、より好ましくは融点が33℃以下であるランダムエステル交換油脂を使用する。
【0029】
上記その他のランダムエステル交換油脂の好ましい例としては、構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物(以下、その他の油脂配合物ともいう。)を、ランダムエステル交換してなるエステル交換油脂が挙げられる。
【0030】
上記その他の油脂配合物は、その構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である。このような油脂配合物は、その構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂、及びその構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂を用いて、それらを上記構成脂肪酸組成となるように配合することにより得ることができる。
【0031】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数14以下の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%である。上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
【0032】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種または2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。本発明の油脂組成物では、好ましくはパーム核油またはヤシ油を使用する。
また、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム油、大豆油、ナタネ油、ラード、牛脂、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種または2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。本発明の油脂組成物では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油、ナタネ硬化油、さらに好ましくは、パーム極度硬化油を使用する。
【0033】
上記その他の油脂配合物において、上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記その他の油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%、好ましくは50〜70質量%となるように配合される。ここで、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30%質量未満であると、融点が高くなり、口溶けも悪くなる。また、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が70質量%より多いと融点降下を起こしやすく、焼菓子練り込み用油脂組成物としては軟らかすぎ、クリーミング性が悪化するおそれがある。
また、上記その他の油脂配合物において、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記その他の油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%、好ましくは20〜35質量%となるように配合される。ここで、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が60質量%より多いと、硬すぎてクリーミング性が悪化することに加え、口溶けも悪くなる。また、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%未満であると、焼菓子練り込み用油脂組成物としては軟らかすぎ、クリーミング性が悪化するおそれがある。
【0034】
上記その他の油脂配合物には、その構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量及び炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が上記の範囲であれば、その他の油脂を加えてもよい。その他の油脂としては、例えば、コーン油、米油、豚脂、カカオバター、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種または2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。
【0035】
そして、上述したその他の油脂配合物に対し、ランダムエステル交換を行なうことにより、本発明の油脂組成物の製造に使用される上記その他のエステル交換油脂が得られる。該ランダムエステル交換の方法は、常法のリパーゼ等の酵素による方法でも、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒による方法でもよく、特に制限されるものではない。
なお、本発明では、上記、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂と、構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂とを併用することが好ましく、その場合、前者:後者(質量比)は20:80〜80:20であることが好ましく、より好ましくは50:50〜80:20とする。
【0036】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は、油相中のMSM(逆対称型トリグリセリド)含量が5質量%未満、好ましくは3.5%質量未満である。油相中の上記逆対称型トリグリセリドを上記含量とすることで、十分な大きさの粗大油脂結晶を得ることが可能となる。油相中のMSM含量が5質量%以上であると、油脂結晶が微細化してしまうため本発明の効果が得られない。
【0037】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物では、油相中のSMS/MSM(モル比)が3.0以上、好ましくは5.0以上、さらに好ましくは7.0以上である。SMS/MSMが3.0未満であると、焼菓子中でコンパウンド結晶が生成し、油脂結晶が微細化してしまうため本発明の効果が得られない。
SMS/MSMの上限については、特に制限はないが、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。
【0038】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物では、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。さらに好ましくは0.5質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満である。構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%以上であると、油脂結晶が微細化してしまうため本発明の効果が得られない。
【0039】
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物では、油相中に、極度硬化油脂を油相基準で1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%含有することが好ましいが、その場合、結晶形がβプライム型である極度硬化油脂を使用しないことが好ましい。結晶形がβプライム型である極度硬化油脂を使用すると、固化速度が速く微細結晶となってしまうことから、本発明の効果が得られにくくなるためである。
【0040】
なお、結晶形がβプライム型である極度硬化油脂の例としては、下記(1)〜(5)の油脂が挙げられる。
(1)「牛脂、豚脂、乳脂等の奇数酸を多く含む動物油脂や、ハイエルシン菜種油、魚油等の長鎖脂肪酸を多く含有する油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(2)「構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種または3種以上の油脂からなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂配合物」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(3)「1種または2種以上の油脂に、該油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸または該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(4)構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種以上の極度硬化油脂をエステル交換した極度硬化油脂。
(5)「1種または2種以上の極度硬化油脂に、該極度硬化油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸または該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物」を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた極度硬化油脂。
【0041】
なお、結晶形がβプライム型でない極度硬化油脂としては、結晶形がβ型である極度硬化油脂が挙げられ、その例としては、大豆油、キャノーラ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、やし油、パーム核油、パーム油、サル脂、マンゴ脂、カカオ脂等の極度硬化油脂を挙げることができる。
【0042】
なお、上記極度硬化油脂は、原料油脂に対しヨウ素価が好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、最も好ましくは1未満となるまで水素添加し、実質的に構成成分である不飽和脂肪酸をほぼ完全に飽和することによって得られる油脂であって、その融点は好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上である。
【0043】
また、上記極度硬化油脂は、上記極度硬化油脂をさらに分別した硬部油、あるいは1種または2種以上の極度硬化油脂をエステル交換したものであってもよく、また、極度硬化油脂と、飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリド等とをエステル交換したものであってもよい。本発明では、これら全てを極度硬化油脂として扱う。
【0044】
本発明で用いる焼菓子練り込み用油脂組成物には、上記SMSを含有する油脂、上記のランダムエステル交換油脂、及び上記極度硬化油脂以外に、(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす範囲において、その他の油脂を配合することも可能である。
【0045】
上記のその他の油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、さらに、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的または化学的処理の1種または2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明で用いる油脂組成物において、これらの油脂は単独で用いることもでき、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
また、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は、油脂結晶が粗大化するような不安定な油脂である方が好ましいため、乳化剤を含有しないことが好ましい。
これは、一般的に乳化剤は油脂結晶を安定化させ、微細化する効果があるためである。
上記の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の合成乳化剤ではない乳化剤を挙げることができる。
【0047】
また、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物は、油脂結晶が粗大化するような不安定な油脂である方が好ましいため、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。トランス酸を含有すると油脂組成物は融点が低い場合であっても硬い物性になり、また、固化速度が速く、さらには油脂結晶が微細化してしまう特徴があるためである。ここでいう「トランス酸を実質的に含有しない」とは、トランス酸含量が、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物に含まれている油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
【0048】
本発明では、上記SMSを含有する油脂、上記ランダムエステル交換油脂及び上記その他の油脂として、それぞれ実質的にトランス酸を含有しない油脂を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも、トランス酸を実質的に含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の焼菓子生地について詳細に説明する。
本発明の焼菓子生地は、上記本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物を練り込んだ焼菓子生地である。
本発明の焼菓子生地はショートペースト生地であっても、バッター生地であってもよいが、常温でペースト状〜流動状であるバッター生地よりも、常温で固体であるショートペースト生地において、より硬くサクサクした良好な食感が得られること、さらには水分含量の高いパン生地との複合生地とした場合であっても、焼成直後の上掛け生地焼成部分の食感が硬くカリカリした良好な食感であり、さらに、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行抑制効果が高いため、本発明の焼菓子生地はショートペースト生地であることが好ましい。
【0050】
本発明の焼菓子生地は、本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物を、焼菓子生地の他の原材料に練り込むことによって製造される。焼菓子生地の他の原材料としては、薄力粉等の小麦粉、砂糖、グラニュー糖、全卵、食塩及び重炭安等の焼菓子生地の通常の原材料を用いることができる。
本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物の使用量は、目的とする焼菓子生地の種類によって異なるが、他の原材料100質量部に対し、好ましくは25〜65質量部、より好ましくは30〜55質量部とする。例えば、焼菓子生地としてショートペースト生地を製造する場合には、他の原材料100質量部に対し、好ましくは35〜65質量部、より好ましくは41〜55質量部とする。また、焼菓子生地としてバッター生地を製造する場合には、他の原材料100質量部に対し、好ましくは25〜55質量部、より好ましくは30〜40質量部とする。
本発明の焼菓子生地における各種他の原料の配合比率は、特に制限なく通常の配合比率とすることができる。
【0051】
なお、上記ショートペースト生地としては、例えば、サブレ生地、ビスケット生地、クッキー生地、ガレット生地、練パイ生地、タルト生地などが挙げられる。
【0052】
また、上記バッター生地としては、例えば、スポンジケーキ生地やバターケーキ生地、チョコレートケーキ生地、マフィン生地などの各種ケーキ生地、ソフトクッキー生地、シュー生地、ドーナッツ生地、ベイクドチーズケーキ生地、ガトーショコラ生地、メレンゲ生地、マカロン生地などが挙げられる。
【0053】
上記のようにして得られた本発明の焼菓子生地は、その物性に応じ、平展板上でそのまま焼成してもよく、型展板や、金属製、樹脂製及び紙製の焼型を使用して型焼きしてもよいが、好ましくは、上掛け、下敷き、包餡、サンド等の方法で、他のベーカリー生地と組合せた複合生地とした後、同時焼成する。中でも本発明の焼菓子生地は、生地物性、特に伸展性が良好であり、成形が容易であること、及び焼成時の流動性が少なく、さらには水分含量の高いパン生地との複合生地とした場合であっても、焼成直後の上掛け生地焼成部分の食感が硬くカリカリした良好な食感であり、さらに、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行抑制効果が高いため、上掛け生地として好ましく使用することができる。
【0054】
なお、本発明の焼菓子生地を複合生地の上掛け生地として使用する場合、その土台となるベーカリー生地(内生地)としては、パン生地、パイ生地、デニッシュ生地、シュー生地、ケーキ生地、クラッカー生地、クッキー生地、ハードビス生地、ワッフル生地等が挙げられるが、特に、水分が多いベーカリー生地での水分移行抑制効果が期待できることから、パン生地、デニッシュ生地、シュー生地、ドーナツ生地、ケーキ生地のうちの一種または2種以上を使用することが好ましく、なかでもパン生地を使用することが特に好ましい。
【0055】
また、上掛けする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、板状に成形した本発明の焼菓子生地を内生地の上に積置する方法、板状に成形した後いったん冷凍した本発明の焼菓子生地を内生地の上に積置する方法、手成形または自動包餡機により本発明の焼菓子生地で内生地を包餡する方法などが挙げられる。本発明の複合ベーカリー製品において、本発明の焼菓子生地の使用量は、上記内生地100質量部に対して好ましくは25〜100質量部とする。
【0056】
上記本発明の焼菓子生地の製造方法は特に制限されるものではなく、上記本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物を練り込み使用する以外は一般的なショートペースト生地やバッター生地の製造法を適用することができる。例えば、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、後粉法、後油法、湯捏法など一般的な生地の製法を適宜選択し、必要により組み合わせて適用することが可能である。
【0057】
次に、本発明の複合ベーカリー製品について説明する。
本発明の複合ベーカリー製品は、上掛け生地として本発明の焼菓子生地を使用し、内生地としてパン生地を使用した、上述の複合生地を焼成することにより、得られるものである。
【0058】
最後に、本発明の複合生地の焼成後の水分移行防止方法について述べる。
本発明の複合生地の焼成後の水分移行防止方法は、焼菓子生地を上掛け生地とし、内生地をパン生地とした複合生地を焼成してなる複合ベーカリー製品を製造する際に、上記焼菓子生地に練りこむ油脂組成物として、下記の(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす焼菓子練り込み用油脂組成物を使用するものである。
(a)油相中のSMS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、M:炭素数16〜22であるモノ不飽和脂肪酸)で表わされるトリアシルグリセロール含量が15〜60質量%である。
(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が下記(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。
(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を含有する。
(d)油相中のMSMで表わされるトリアシルグリセロール含量が5質量%未満である。
(e)SMS/MSM(モル比)が3.0以上である。
(f)構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例と比較例とを共に挙げてさらに本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。尚、下記実施例及び比較例において、脂肪酸含量は、特に断りのない限り、構成脂肪酸組成における脂肪酸含量を示す。また、「%」は「質量%」を意味する。
【0060】
<エステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕
炭素数14(以下、「C14」と表す)以下の飽和脂肪酸含量が68%、炭素数16(以下、「C16」と表す)以上の飽和脂肪酸含量が11%であるパーム核油75%に、C14以下の飽和脂肪酸含量が0%、C16以上の飽和脂肪酸含量が99%であるパーム極度硬化油25%を配合し、C14以下の飽和脂肪酸含量が51%、C16以上の飽和脂肪酸含量が33%である油脂配合物を得た。この油脂配合物100質量部に対し、触媒として0.1質量部のナトリウムメチラートを添加し、80℃で30分間ランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、融点が32℃であるエステル交換油脂Aを得た。
【0061】
〔製造例2〕
ヨウ素価60のパーム軟部油100%からなる油脂配合物100質量部に対し、触媒として0.1質量部のナトリウムメチラートを添加し、80℃で30分間ランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、融点が34℃であるエステル交換油脂Bを得た。
【0062】
<油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
エステル交換油脂A18%、エステル交換油脂B25%、ヨウ素価51のパーム油35%、ヨウ素価35のパーム中融点部20%、及び大豆極度硬化油2%からなる油相を、溶解、混合、急冷可塑化して、油相中のSMS含量は24.1%、ランダムエステル交換油脂含量は43%、油相中のMSM含量は2.9%、SMS/MSMが8.3、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物1を得た。
【0063】
〔実施例2〕
大豆極度硬化油2%を無添加とし、エステル交換油脂Bを25%から27%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は24.2%、ランダムエステル交換油脂含量は45%、油相中のMSM含量は3.0%、SMS/MSMが8.0、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物2を得た。
【0064】
〔実施例3〕
ヨウ素価35のパーム中融点部を無添加とし、パーム油を35%から55%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は16.1%、ランダムエステル交換油脂含量は43%、油相中のMSM含量は3.2%、SMS/MSMが5.1、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物3を得た。
【0065】
〔実施例4〕
ヨウ素価35のパーム中融点部を20%から30%に変更し、パーム油を35%から25%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は28.1%、ランダムエステル交換油脂含量は43%、油相中のMSM含量は2.7%、SMS/MSMが10.3、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物4を得た。
【0066】
〔実施例5〕
エステル交換油脂A18%を13%に、エステル交換油脂B25%を19%に、パーム油を35%から46%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は26.2%、ランダムエステル交換油脂含量は32%、油相中のMSM含量は2.5%、SMS/MSMが10.5、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物5を得た。
【0067】
〔実施例6〕
エステル交換油脂A18%を31%に、エステル交換油脂B25%を44%に、パーム油を35%から3%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は18.0%、ランダムエステル交換油脂含量は75%、油相中のMSM含量は4.1%、SMS/MSMが4.4、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない本発明の焼菓子練り込み用油脂組成物6を得た。
【0068】
〔比較例1〕
エステル交換油脂B25%を60%に、パーム油を35%から無添加に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は17.6%、ランダムエステル交換油脂含量は78%、油相中のMSM含量は5.3%、SMS/MSMが3.5、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物7を得た。
【0069】
〔比較例2〕
エステル交換油脂A18%を40%に、エステル交換油脂B25%を60%に、パーム油、ヨウ素価35のパーム中融点部、大豆極度硬化油2%を無添加に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は5.8%、ランダムエステル交換油脂含量は100%、油相中のMSM含量は5.4%、SMS/MSMが1.1、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物8を得た。
【0070】
〔比較例3〕
大豆極度硬化油2%をハイエルシン菜種極度硬化油2%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は24.1%、ランダムエステル交換油脂含量は43%、油相中のMSM含量は2.9%、SMS/MSMが8.4、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1.1%、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物9を得た。
【0071】
〔比較例4〕
エステル交換油脂A18%を9%に、エステル交換油脂B25%を13%に、パーム油を35%から56%に変更した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は28.1%、ランダムエステル交換油脂含量は22%、油相中のMSM含量は2.1%、SMS/MSMが13.3、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物10を得た。
【0072】
〔比較例5〕
ヨウ素価35のパーム中融点部を20%から10%に変更し、豚脂10%を新たに添加した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は18.0%、ランダムエステル交換油脂含量は43%、油相中のMSM含量は5.0%、SMS/MSMが3.6、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物11を得た。
【0073】
〔比較例6〕
エステル交換油脂A18%を13%に、エステル交換油脂B25%を19%に、パーム油を無添加に、ヨウ素価35のパーム中融点部を20%から18%に変更し、豚脂48%を新たに添加した以外は実施例1と同様にして、油相中のSMS含量は15.2%、ランダムエステル交換油脂含量は32%、油相中のMSM含量は12.3%、SMS/MSMが1.2、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が0.1%未満、トランス脂肪酸含量は1%未満である、乳化剤を含有しない焼菓子練り込み用油脂組成物12を得た。
【0074】
<結晶性比較試験>
上記実施例1〜6、及び比較例1〜6で得られた油脂組成物をそれぞれ60℃に加温して完全溶解後、60℃に調温しておいたスライドガラスに5滴を滴下し、カバーガラスをかけてプレパラートを作成した。これらを72時間かけて60℃から25℃まで、0.6℃/hrの冷却速度で降温した。このプレパラートを光学顕微鏡で観察し、観察された結晶状態を下記評価基準により評価した。結果については表1に示す。
【0075】
(結晶状態評価基準)
◎ :固液分離状態で粗大油脂結晶が生じていた。
○ :固液分離状態でやや粗大な油脂結晶が生じていた。
△ :ざらのある油脂結晶であった
× :ややざらのある結晶であった。
××:微細結晶であった。
【0076】
【表1】

【0077】
<ソフトクッキー(ワイヤーカットクッキー)製造試験>
上記実施例1〜6、及び比較例1〜6で得られた油脂組成物(ショートニング)を用いて、下記の配合、及び製法によりワイヤーカットクッキーをそれぞれ製造した。
得られたワイヤーカットクッキーについて、官能試験を行なった。官能試験においては、20℃に3日間調温したサンプルを用い、食感(サクサク感)を、下記評価基準に従い4段階で評価した。ワイヤーカットクッキーの官能試験による評価結果を表2に示す。
【0078】
(配合)
薄力粉100質量部、砂糖40質量部、全卵15質量部、食塩1質量部、重炭安1質量部、重曹1質量部、水10質量部、油脂組成物55質量部
【0079】
(製法)
卓上ミキサー(ケンウッドミキサー)にショートニング及び砂糖を投入し、軽く混合した後、最高速で7分クリーミングした。次いで、あらかじめ全卵、水、食塩及び重炭安を混合した水相を少しずつ加えて攪拌・混合し、さらに薄力粉及び重曹を加えた後、低速で1分混合してワイヤーカットクッキー生地を得た。得られたワイヤーカットクッキー生地を、厚さ7ミリ、直径4センチの丸型にワイヤーカット成型し、オーブン(フジサワ社製)で180℃にて10分間焼成した後、25℃で40分間冷却し、包装した。
【0080】
(サクサク感評価基準)
◎:硬いサクサクした食感が良好である。
○:サクサクした食感が良好である。
△:しっとりした食感でほとんどサクサク感が感じられない。
×:ねとついた食感で全くサクサク感が感じられない。
【0081】
【表2】

【0082】
<ベーカリー用上掛け生地、及びメロンパンの製造>
上記実施例1〜6、及び比較例1〜6で得られた油脂組成物(ショートニング)を用いて、下記の製法によりベーカリー用上掛け生地1〜12、及びメロンパン1〜12をそれぞれ製造し、下記の評価に供した。
【0083】
(ベーカリー用上掛け生地の製法)
焼菓子練り込み用油脂組成物40質量部、グラニュー糖50質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、ビーターを使用して低速で1分、中速で5分クリーミング後、全卵(正味)25質量部を、低速でミキシングしながら少しづつ添加し、最後に薄力粉100質量部を添加し、低速で1分、中速で1分混合して、クッキー生地である上掛け生地を得た。
【0084】
(メロンパンの製法)
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で2分ミキシングして中種生地を得た。この中種生地を醗酵室で28℃にて2時間中種発酵させた。次いで、この生地に、さらに強力粉30質量部、上白糖15質量部、食塩1.5質量部、全卵(正味)15質量部、及び水10質量部を添加し、低速で4分、中速で4分ミキシングした。ここで、練り込み用マーガリン(使用油脂の融点:32℃)10質量部を投入し、低速で4分、中速で4分ミキシングして菓子パン生地を得た(捏ね上げ温度:28℃)。
一方、上記上掛け生地を50gに分割し、これを麺棒を使用して直径100mm、厚さ5mmの円形になるように圧延成形した。上記菓子パン生地は、フロアタイム30分をとった後に60gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、これを内生地とし、その上面に、上記上掛け生地を積置して複合生地とした。さらに、温度36℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、固定窯で180℃にて17分焼成し、メロンパンを得た。
【0085】
(ベーカリー用上掛け生地の評価)
ベーカリー用上掛け生地1〜12について、その圧延成形時の伸展性を下記評価基準に従って評価を行った。その評価結果を表3に示した。
【0086】
・評価基準
◎:伸展性が極めて良好
○:伸展性が良好
△:伸展性が不良
×:伸展性が極めて不良
【0087】
【表3】

【0088】
(メロンパンの評価1)
実施例1〜6、及び比較例1〜6で得られたメロンパン1〜12をそれぞれ包装した後、28℃の恒温器に保管し、ベーカリー用上掛け生地の食感(カリカリした食感)を、焼成から1時間後、12時間後、24時間後及び48時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価した。その評価結果を表4に示した。
【0089】
・評価基準(カリカリした食感)
◎+:カリカリした食感が極めて良好である。
◎ :カリカリした食感が良好である。
○ :カリカリした食感である。
△ :歯切れが悪くまたはねちゃつき感があり、カリカリした食感に乏しい。
× :べとつき感があり、カリカリした食感が極めて不良である。
【0090】
【表4】

【0091】
(メロンパンの評価2)
実施例1、及び比較例1で得られたメロンパン1及び7を包装した後、28℃の恒温器に保管し、ベーカリー用上掛け生地の水分含量を、焼成から24時間後及び48時間後それぞれにおいて測定し、その結果を表5に示した。
【0092】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす、焼菓子練り込み用油脂組成物。
(a)油相中のSMS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、M:炭素数16〜22であるモノ不飽和脂肪酸)で表わされるトリアシルグリセロール含量が15〜60質量%である。
(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が下記(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。
(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を含有する。
(d)油相中のMSMで表わされるトリアシルグリセロール含量が5質量%未満である。
(e)SMS/MSM(モル比)が3.0以上である。
(f)構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。
【請求項2】
上記(c)のエステル交換油脂の融点が38℃以下である、請求項1記載の焼菓子練り込み用油脂組成物。
【請求項3】
乳化剤を含有しない、請求項1または2記載の焼菓子練り込み用油脂組成物。
【請求項4】
トランス脂肪酸を実質的に含有しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼菓子練り込み用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の焼菓子練り込み用油脂組成物を練りこんだ、焼菓子生地。
【請求項6】
上掛け生地である、請求項5記載の焼菓子生地。
【請求項7】
上掛け生地として請求項6記載の焼菓子生地を使用し、内生地としてパン生地を使用した、複合生地。
【請求項8】
請求項7記載の複合生地を焼成してなる、複合ベーカリー製品。
【請求項9】
焼菓子生地を上掛け生地とし、内生地をパン生地とした複合生地を焼成してなる複合ベーカリー製品を製造する際に、上記焼菓子生地に練りこむ油脂組成物として、下記の(a)(b)(c)(d)(e)(f)の全条件を満たす焼菓子練り込み用油脂組成物を使用する、複合生地の焼成後の水分移行防止方法。
(a)油相中のSMS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、M:炭素数16〜22であるモノ不飽和脂肪酸)で表わされるトリアシルグリセロール含量が15〜60質量%である。
(b)油相中のランダムエステル交換油脂含量が下記(c)のエステル交換油脂も含めて25〜75質量%である。
(c)ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂を含有する。
(d)油相中のMSMで表わされるトリアシルグリセロール含量が5質量%未満である。
(e)SMS/MSM(モル比)が3.0以上である。
(f)構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が1質量%未満である。

【公開番号】特開2012−239462(P2012−239462A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116144(P2011−116144)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】