説明

焼鈍方法及び焼鈍装置

【課題】表面品質を低下させることなく、加工工程を簡略化でき、加工作業を効率的に行うことができる焼鈍方法及び焼鈍装置を提案する。
【解決手段】焼鈍装置1では線材2aにプラズマPを照射することで、線材2aの表面に残存した潤滑油を除去することができると共に、線材2aを焼鈍処理することができ、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材2aを軟化させる焼鈍工程とを線材2aの表面品質を低下させることなく同時に行え、加工工程を簡略化でき、加工作業を効率的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍方法及び焼鈍装置に関し、例えば引抜加工された線材を焼鈍する際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や銅等でなる中実の線材を縮径する加工装置としては、複数のダイスを設け、これらダイスに線材を順次通過させることにより、当該線材を段階的に細くする加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
実際上、図10に示すように、加工装置100には、第1の巻取りローラ102の軸部104aと、第2の巻取りローラ103の軸部104bとが平行に配置されるように第1の巻取りローラ102及び第2の巻取りローラ103が設けられ、第1の巻取りローラ102及び第2の巻取りローラ103間に複数のダイス105a,105b,105c,105dが配置されている。
【0004】
ダイス105a,105b,105c,105dは、軸部104a,104bの長手方向に沿って配置され、軸部104a,104b下方にゆくに従ってダイス孔(後述する)が小さく選定されており、第1の巻取りローラ102から第2の巻取りローラ103へ送られる線材101を順次通過させて伸線する。
【0005】
すなわち、この加工装置100は、第1の巻取りローラ102及び第2の巻取りローラ103の軸部104a,104bを反時計回りに回転させることにより、第1の巻取りローラ102の第1ローラ部106aから線材101を送り出し、先ず始めにダイス105aを通過させた後、第2の巻取りローラ103の第1ローラ107aまで送り出す。これにより線材101はダイス105aを通過する際に伸線されて縮径され得る。
【0006】
次いで、線材101は、第2の巻取りローラ103の第1ローラ107aで折り返し、第1の巻取りローラ102の第2ローラ部106bへ送り出された後、さらに当該第2ローラ部106bで折り返してダイス105bを介し第2の巻取りローラ103の第2ローラ部107bまで送り出される。
【0007】
以後、同様にして線材101は、第2の巻取りローラ103の第2ローラ部107bで折り返して、第1の巻取りローラ102の第3ローラ部106c、ダイス105c、第2の巻取りローラ103の第3ローラ部107c、第1の巻取りローラ102の第4ローラ部106d、ダイス105dを順次介して第2の巻取りローラ103の第4ローラ部107dまで送り出される。
【0008】
かくして、線材101は、搬送下流にゆくに従ってダイス孔が小さく選定された複数のダイス105a,105b,105c,105dを順次通過し、各ダイス105a,105b,105c,105dにより線径が段階的に縮径され、所定の線径に選定され得るようになされている。
【0009】
ここで、図11(A)及び(B)に示すように、例えばダイス105aは、ダイス本体110の厚みを貫通するようにダイス孔111が穿設され、当該ダイス孔111及び線材101の接触部分に生じる焼付きを防止するために潤滑油(図示せず)がダイス孔111の周辺に塗布されている。
【0010】
ダイス孔111は、一面開口部111aの径が他面開口部111bの径よりも拡径されており、径の大きい一面開口部111aから線材101を通して、径の小さい他面開口部111bから引き抜くことにより、当該線材101を長手方向へ伸線させて縮径させ得る。
【0011】
そして、縮径された線材101は、ダイス孔111を通過する際に付着した潤滑油を除去する洗浄処理が行われた後、再結晶温度以上に加熱し、その後徐々に冷却する焼鈍処理が行われることにより軟化され得る。
【0012】
ところで、このような線材101の加工硬化を除去して軟化させる焼鈍処理は、線径が大きく太い線材と、線径が小さく細い線材とでは異なる構成からなる焼鈍装置を用いて行われている。
【0013】
実際上、図12に示すように、線径が大きく太い線材101aを焼鈍する焼鈍装置120は、図示しないダイスにより伸線した後、洗浄手段によって洗浄した線材101aを焼鈍処理するようになされている。
【0014】
この焼鈍装置120は、線材101aを搬送する複数のローラ電極122a,122b,122c,122dをスチーム炉121の外内に有し、電源123a,123bによってローラ電極122a,122b,122c,122dにジュール熱が発生し得るようになされている。
【0015】
これにより、焼鈍装置120は、ローラ電極122a,122b,122c,122dに線材101aを直接接触させて搬送することにより、ローラ電極122a,122b,122c,122dを介して線材101aを加熱し、線材101aを焼鈍処理するようになされている。
【0016】
これに対して、図13に示すように、線径が小さく細い線材101bでは、焼鈍装置として電気炉130a,130b,130cが用いられる。
【0017】
この電気炉130a,130b,130cは、各ダイス105a,105b,105cによって伸線され、表面洗浄部131a,131b,131cによって洗浄された各線材101bを、内部で加熱することにより、当該線材101bを焼鈍処理するようになされている。
【特許文献1】特開平10−5848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、線径が大きい線材101a及び線径が小さい線材101bのいずれにおいても、線材101a,101bの表面に付着した潤滑油を除去する洗浄工程とは別に新たに焼鈍工程を別途設ける必要があることから、その分だけ加工工程が複雑化するという問題があった。
【0019】
また、実際、従来の洗浄工程では、温水や水蒸気中に線材101a,101bを単に通して洗浄していることから、線材101a,101bの表面に付着した潤滑油を十分に除去し難く、残存した潤滑油によって線材101a,101bの表面品質が低下してしまうという問題があった。
【0020】
さらに、図12に示したように、線径が大きい線材101aを焼鈍する焼鈍装置120では、ローラ電極122a,122b,122c,122dの近傍でスパークが生じる虞があることから、当該スパークによって線材101aの表面が損傷し、線材101aの表面品質が低下してしまう虞があり、また、電気抵抗が小さい線材101aに大電流を流さなければならないためエネルギー効率が悪くなり、加工作業を効率的に行い難いという問題があった。
【0021】
一方、図13に示したように、線径が小さい細い線材101bを焼鈍する電気炉130a,130b,130cでは、円筒形状でなる電気炉130a,130b,130cの内部空間に線材101bを通す際、当該線材101bが非常に細いことから、複数の電気炉130a,130b,130cの内部空間にそれぞれ線材101bを通す煩雑な作業が必要となり、加工作業を効率的に行い難いという問題があった。
【0022】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、表面品質を低下させることなく、加工工程を簡略化でき、加工作業を効率的に行うことができる焼鈍方法及び焼鈍装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1の焼鈍方法は、加工によって硬化した被加工材を焼鈍する焼鈍方法において、前記被加工材にプラズマを照射することにより該被加工材を焼鈍することを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の請求項2の焼鈍方法は、所定の反応ガスが供給される処理室に前記被加工材を搬送し、前記処理室内に対向するように配置された電極及び前記被加工材間に所定の電圧を印加して、前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させることを特徴とするものである。
【0025】
さらに、本発明の請求項3の焼鈍方法は、前記電極に誘電体が設けられており、前記誘電体を介在させて前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させることを特徴とするものである。
【0026】
さらに、本発明の請求項4の焼鈍方法は、所定の反応ガスが供給される処理室に前記被加工材を搬送し、前記処理室内に対向するように配置された第1の電極及び第2の電極間に所定の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させることを特徴とするものである。
【0027】
さらに、本発明の請求項5の焼鈍方法は、前記第1の電極及び前記第2の電極に誘電体が設けられており、前記誘電体を介在させて前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させることを特徴とするものである。
【0028】
さらに、本発明の請求項6の焼鈍装置は、加工によって硬化した被加工材を焼鈍する焼鈍装置において、プラズマを発生させ、前記被加工材に対して前記プラズマを照射するプラズマ発生手段を備え、前記プラズマにより前記被加工材を焼鈍することを特徴とするものである。
【0029】
さらに、本発明の請求項7の焼鈍装置は、前記プラズマ発生手段は、所定の反応ガスが供給されると共に、前記被加工材が搬送される処理室と、前記被加工材と対向するように前記処理室内に配置された電極と、前記電極及び前記被加工材間に所定の電圧を印加して、前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させる電源とを備えることを特徴とするものである。
【0030】
さらに、本発明の請求項8の焼鈍装置は、前記被加工材と所定の空間を空けて前記電極に誘電体が設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
さらに、本発明の請求項9の焼鈍装置は、前記プラズマ発生手段は、所定の反応ガスが供給されると共に、前記被加工材が搬送される処理室と、前記処理室内に設けられた第1の電極と、前記処理室内に設けられ、前記第1の電極と対向するように配置された第2の電極と、前記第1の電極及び前記第2の電極間に所定の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させる電源とを備えることを特徴とするものである。
【0032】
さらに、本発明の請求項10の焼鈍装置は、前記被加工材と所定の空間を空けて前記第1の電極及び前記第2の電極に誘電体が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の請求項1の焼鈍方法及び請求項6の焼鈍装置によれば、プラズマを用いることで、簡単で表面品質低下がなく、かつプラズマによる洗浄効果により、焼鈍処理と同時に被加工材の表面の洗浄処理も行えるので、加工工程が簡略化でき、作業の効率化を図ることができる。
【0034】
また、本発明の請求項2及び4の焼鈍方法と、請求項7及び9の焼鈍装置とによれば、被加工材に対して同時に焼鈍処理及び洗浄処理を確実に行うことができる。
【0035】
また、本発明の請求項3及び5の焼鈍方法と、請求項8及び10の焼鈍装置とによれば、誘電体によってプラズマを均一に発生させることができるので、被加工材に対して均一に焼鈍処理及び洗浄処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0037】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として本発明の焼鈍装置を示し、図示しないダイスによって伸線された線材2aを焼鈍処理及び洗浄処理するようになされている。また、この焼鈍装置1は、例えば銅線や金属線等の中実からなり、線径が大きく選定された線材2aに用いられ得る。
【0038】
実際上、焼鈍装置1は、処理室3内にプラズマPを発生させるプラズマ発生部4と、ダイスから受け取った線材2aを所定の搬送速度でプラズマ発生部4へ送り出す送り出し部5と、当該プラズマ発生部4でプラズマPにより焼鈍処理及び洗浄処理した線材2aを巻き取る巻き取り部6と、これらプラズマ発生部4、送り出し部5及び巻き取り部6を統括的に制御する制御部7とから構成されている。
【0039】
プラズマ発生部4は、いわゆる二極放電形であり、アルミナ等からなる板状の誘電体10が、板状の電極11の一面に設けられ、これら誘電体10及び電極11が処理室3内に配設されている。
【0040】
プラズマ発生部4には、線材2aが処理室3内に送り込まれ、当該線材2aが誘電体10を介在させて電極11と対向するように配置され得る。これら電極11と線材2aとには、電源12が電気的に接続されており、所定電圧が印加され得るようになされている。
【0041】
プラズマ発生部4は、HeガスやArガス等の不活性ガスを供給するガス導入管(図示せず)が処理室3の所定位置に設けられ、制御部7によって処理室3内への不活性ガスの流量が調整され得る。また、プラズマ発生部4は、制御部7の制御に基づいて、ガス導入管から反応ガスとしての不活性ガスを処理室3内に供給し、電源12を介して電極11及び線材2a間に所定電圧を印加することにより、電極11及び線材2a間にプラズマPを発生させ得る。
【0042】
因みに、この実施の形態の場合、プラズマ発生部4は、線材2aと所定の空間を空けて電極11の対向面に誘電体10が設けられていることから、当該誘電体10によって電極11及び線材2a間にプラズマPを均一に発生させ得るようになされている。
【0043】
これにより、プラズマ発生部4は、送り出し部5より所定の搬送速度で処理室3内に送り込まれ、当該処理室3内から排出されるまでの間、線材2aにプラズマPを照射し続け、線材2aをプラズマ処理する。
【0044】
このときプラズマ発生部4は、プラズマPによって発生したイオンや電子を線材2aの表面に衝突させることにより、ダイスの通過時に線材2aの表面に付着した潤滑油を除去し得るようになされている。
【0045】
これに加えて、この焼鈍装置1は、処理室3内で加熱等のプラズマ処理された線材2aを処理室3内から送り出すことにより、処理室3の外部において線材2aを徐々に冷却させ、これにより線材2aを再結晶化させて軟化させ得る。巻き取り部6は、このようにして焼鈍処理により軟化した線材2aを巻き取るようになされている。
【0046】
以上の構成において、焼鈍装置1では、処理室3内を通過する線材2aと、電極11との間にプラズマPを発生させ、線材2aに当該プラズマPを照射するようにした。また、焼鈍装置1では、線材2aが処理室3から排出されると、処理室3の外部において線材2aを徐々に冷却するようにした。
【0047】
従って、焼鈍装置1では、ダイスによって加工硬化した線材2aを、プラズマPを照射することにより焼鈍処理し、線材2aを軟化させることができると共に、線材2aにプラズマPを照射することで、線材2aの表面に残存した潤滑油を除去することができる。
【0048】
従って、焼鈍装置1では、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材2aを軟化させる焼鈍工程とを同時に行うことができるので、その分だけ加工工程を簡略化できる。
【0049】
また、焼鈍装置1では、洗浄処理としてプラズマPを用いることで、温水や水蒸気中に線材を単に通させて洗浄を行う従来の洗浄処理に比べて、線材2aの表面に付着した潤滑油を一段と確実に除去でき、かくして線材2aの表面品質を向上できる。
【0050】
さらに、焼鈍装置1では、制御部7によってプラズマ発生部4を制御できることから、プラズマPの照射条件を容易に変えることができるので、線径の大きい線材2aだけでなく、線径の小さい線材をも焼鈍処理及び洗浄処理することができ、かくして従来のような線材の線径に応じてその都度装置を変更していた手間を省くことができる。
【0051】
また、この焼鈍装置1では、線径が小さい線材に対して焼鈍処理及び洗浄処理を行う場合であっても、従来のように細い線材を電気炉内に通す等の煩雑な作業が不要となり、加工作業を効率的に行うことができる。
【0052】
さらに、この焼鈍装置1では、従来のようなローラ電極を用いないことからスパークが生じる虞もないので、当該スパークによる線材2aの表面の損傷を防止でき、線材2aの表面品質が低下することがなく、また加工作業を効率的に行うことができる。
【0053】
また、この焼鈍装置1では、誘電体10によってプラズマPを均一に発生させることができるので、プラズマPが照射される線材2aに対し焼鈍処理及び洗浄処理を均一に行うことができる。
【0054】
以上の構成によれば、線材2aにプラズマPを照射するようにしたことにより、線材2aを焼鈍処理することができると共に、線材2aの表面に残存した潤滑油をも除去することができ、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材2aを軟化させる焼鈍工程とを線材2aの表面品質を低下させることなく同時に行え、加工工程を簡略化でき、加工作業を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0055】
次に実施例について以下説明する。この実施例において、焼鈍装置1は、誘電体10としてアルミナを用い、誘電体10の厚さを4mm、誘電体10及び線材2a間のギャップを5mmとした。また、この焼鈍装置1は、不活性ガスとしてHeを用い、処理室3へのガス流量を5L/min、線材2aの搬送速度を50m/minとし、線材2aとしてφ=0.2mmの銅線を用いた。
【0056】
ここでは、このような焼鈍装置1を用いて、電極11及び線材2a間に印加する電圧を変化させ、各電圧によって発生したプラズマPにより線材2aを焼鈍処理した。
【0057】
そして、これにより得られた線材2aを引っ張り、そのときの各線材2aの伸び率について検証した。その結果、図2に示すような結果が得られた。
【0058】
因みに、この検証試験では、伸び率20%を目標値(すなわち、線材2aが所望の柔らかさになった値)とし、これを目安に焼鈍処理の効果が得られた否かを判断した。その結果、伸び率は、電圧が8kVまでは未処理の線材2aとほぼ変わらなかった。そして、8kVから次第に伸び率が上昇してゆき、9kV以上となったときに伸び率が20%以上となることが確認できた。
【0059】
かくして、電極11及び線材2a間に印加する電圧を9kV以上としてプラズマPを発生させたときに、線材2aが適度に軟化して焼鈍処理の効果が得られることが確認できた。なお、図2のおけるグラフ中の「Ave」は測定値の平均を示すものである。
【0060】
次に、プラズマPによる潤滑油の洗浄効果について検証試験を行った。ここでは、図3(A)及び(B)に示すように、四角柱状の第1のアクリル体20と第2のアクリル体21とを用意した。
【0061】
第1のアクリル体20は、図3(A)に示したように、第1面22aと、当該第1面22aに対向する第2面22bとに油を塗布した後、第1面22aをガス導入側に向けると共に、第2面22bをガス排出側に向けて処理室3内に配置した。
【0062】
また、第2のアクリル体21は、図3(B)に示したように、第1面23aと、当該第1面23aに対向した第2面23bに油を塗布した後、第1面23aを電極11側(プラズマPの上側)に向けると共に、第2面23bを線材2a側(プラズマPの下側)に向けて処理室3内に配置した。
【0063】
そして、このように第1のアクリル体20又は第2のアクリル体21を処理室3内に配置した状態で、合計1分間又は合計4分間プラズマPを照射した後、これら第1のアクリル体20及び第2のアクリル体21の表面に水を滴下し、表面の撥水状態を基に洗浄効果について検証した。
【0064】
プラズマPを照射する前の未処理の第1のアクリル体20及び第2のアクリル体21においては、図4(A)〜(D)に示すように、水を滴下すると、第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとに油が塗布されていることから、当該油によって水滴Wがはじかれていることが確認できた。
【0065】
また、図5(A)〜(D)に示すように、合計1分間プラズマPを照射した第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとにも水滴Wを滴下した。
【0066】
この場合、第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとでは、未処理の状態(図4(A)〜(D))に比べて水滴Wが膨出していないことが確認できた。
【0067】
すなわち、第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bでは、水滴Wがはじかれ難くなっており、塗布した油が除去されていることが確認できた。
【0068】
また、図6(A)〜(D)に示すように、合計4分間プラズマPを照射した第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとにも水滴Wを滴下した。
【0069】
この場合、第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとの水滴Wが、殆んど膨出していないことが確認できた。
【0070】
すなわち、第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bでは、一段と水滴Wがはじかれ難くなっており、塗布した油がさらに除去されていることが確認できた。
【0071】
このように第1のアクリル体20の第1面22a及び第2面22bと、第2のアクリル体21の第1面23a及び第2面23bとに塗布した油は、プラズマPを照射することにより除去できることが確認でき、かくして油の洗浄効果が得られることが確認できた。
【0072】
(2)第2の実施の形態
図1との対応部分に同一符号を付して示す図7において、30は全体として第2の実施の形態による焼鈍装置を示し、第1の実施の形態とは筒状電極31及び筒状誘電体32の構成が異なり、円筒状の筒状電極31の内周面に円筒状の筒状誘電体32が設けられた構成を有する。
【0073】
因みに、この焼鈍装置30は、第1の実施の形態と同様に、例えば銅線や金属線等の中実の線材2aに用いられ、図示しないダイスによって伸線された線径が大きい線材2aを焼鈍処理及び洗浄処理するようになされている。
【0074】
ここで、プラズマ発生部33は、送り出し部5から処理室3内に送り出された線材2aが、筒状誘電体32の内周面と非接触の状態で当該筒状誘電体32の中空部内を通過し得るように構成されている
そして、このプラズマ発生部33は、制御部7の制御に基づいて、ガス導入管から不活性ガスを処理室3内に供給し、電源12を介して筒状電極31及び線材2a間に所定電圧を印加することにより、筒状電極31及び線材2a間にプラズマを発生させ得る。
【0075】
以上の構成において、このプラズマ発生部33では、円筒状の筒状誘電体32の中空部内に線材2aを通し、線材2aの表面を取り囲むように筒状電極31及び筒状誘電体32を配置したことにより、線材2aの表面全体にプラズマPを均一に照射することができる。
【0076】
従って、プラズマ発生部33では、線材2aの表面全体にプラズマPを均一に照射できるので、線材2aの表面に潤滑油が付着した箇所にかかわらず、当該線材2aから潤滑油を確実に除去できる。
【0077】
また、プラズマ発生部33では、線材2aの表面全体にプラズマPを均一に照射できるので、線材2a全体に均一な焼鈍処理を確実に行うことできる。
【0078】
このように、焼鈍装置30では、上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られ、プラズマPによって、線材2aの表面に残存した潤滑油を除去することができると共に、線材2aを焼鈍処理することができ、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材2aを軟化させる焼鈍工程とを同時に行え、その分だけ加工工程を簡略化できる。
【0079】
(3)第3の実施の形態
図1との対応部分に同一符号を付して示す図8において、40は全体として第3の実施の形態による焼鈍装置を示し、第1の実施の形態とはプラズマ発生部41の構成が異なり、第1の実施の形態の線材2aに比べて線径が小さく細い線材2bに対し焼鈍処理及び洗浄処理するようになされている。
【0080】
因みに、この焼鈍装置40においては、上述した第1の実施の形態における線材2aと同じ、例えば銅線や金属線等からなる中実の線材2bが用いられ得る。
【0081】
実際上、このプラズマ発生部41には、板状の第1の電極42に対向させて板状の第2の電極43が処理室3内に配置されており、これら第1の電極42及び第2の電極43の対向内面にそれぞれ板状の誘電体44,45が設けられている。
【0082】
プラズマ発生部41は、送り出し部5から処理室3内に送り出された線材2bが、第1の電極42及び第2の電極43における誘電体44,45の対向内面と非接触の状態で、第1の電極42及び第2の電極43間を通過し得るように構成されている。
【0083】
また、第1の電極42及び第2の電極43には、電源12が電気的に接続されており、当該電源12により所定の電圧が印加され得るようになされている。
【0084】
これによりプラズマ発生部41は、制御部7の制御に基づいて、ガス導入管から不活性ガスを処理室3内に供給し、電源12を介して第1の電極42及び第2の電極43間に所定電圧を印加することにより、第1の電極42及び第2の電極43間にプラズマPを発生させ得る。
【0085】
かくして、プラズマ発生部41は、第1の電極42及び第2の電極43間を通過する線材2bに対して、当該線材2bの周辺からプラズマPを均一に照射し得るようになされている。
【0086】
以上の構成において、このようなプラズマ発生部41でも、上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られ、線材2bにプラズマPを照射することで、線材2bの表面に残存した潤滑油を除去することができると共に、線材2bを焼鈍処理することができ、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材を軟化させる焼鈍工程とを同時に行え、その分だけ加工工程を簡略化できる。
【0087】
(4)第4の実施の形態
図6との対応部分に同一符号を付して示す図9において、50は全体として第4の実施の形態による焼鈍装置を示し、第3の実施の形態とはプラズマ発生部51の構成が異なる。
【0088】
因みに、この焼鈍装置50は、第3の実施の形態と同様に線径が小さく細い線材2bに対し焼鈍処理及び洗浄処理するようになされている。
【0089】
プラズマ発生部51には、板状の第1の電極52に対向させて板状の第2の電極53が処理室3内に配置されており、これら第1の電極52及び第2の電極53の対向面にそれぞれ板状の誘電体54,55が設けられている。
【0090】
第1の電極52及び第2の電極53は、互いに対向する対向面と直交する方向から線材が搬送され、この線材2bが第1の電極52及び第2の電極53間の空間一端部56を通過し得るようになされている。
【0091】
そして、プラズマ発生部51は、処理室3内を所定の真空状態に設定した後、制御部7の制御に基づいて、ガス導入管を介して第1の電極52及び第2の電極53間の空間他端部57側から第1の電極52及び第2の電極53間の空間内に不活性ガスを供給し、電源12を介して第1の電極52及び第2の電極53間に所定電圧を印加することにより、第1の電極52及び第2の電極53間にプラズマPを発生させ得る。
【0092】
プラズマ発生部51は、不活性ガスの排出側である第1の電極52及び第2の電極53間の空間一端部56を通過する線材2bに、第1の電極52及び第2の電極53間で発生したプラズマPを照射し得るようになされている。
【0093】
以上の構成において、このようなプラズマ発生部51でも、上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られ、線材2bにプラズマPを照射することで、線材2bの表面に残存した潤滑油を除去することができると共に、線材2bを焼鈍処理することができ、従来、別々に行われていた潤滑油を除去する洗浄工程と、焼鈍処理により線材を軟化させる焼鈍工程とを同時に行え、その分だけ加工工程を簡略化できる。
【0094】
(5)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である、被加工材としての線材2a,2bに替えて、例えば板材や、帯状部材等の各種形状の被加工材を適用するようにしても良く、また筒状の被加工材でも良い。
【0095】
また、上述した実施の形態においては、プラズマ発生手段として、いわゆる二極放電形のプラズマ発生部を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要はプラズマによって線材2a,2bを焼鈍処理及び洗浄処理することができれば良く、例えば熱電子放電形や、磁場集束形(マグネトロン放電形)、無電極放電形等の各種プラズマ発生手段を適用しても良い。
【0096】
また、上述した実施の形態においては、加工によって硬化した被加工材として、引抜加工によって硬化した線材2a,2bを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、押出加工によって硬化した線材等この他種々の加工方法によって硬化した被加工材を適用しても良い。
【0097】
さらに、上述した実施の形態においては、焼鈍装置1及び30では線径の大きい線材2aを用い、焼鈍装置40及び50では線径の小さい線材2bを用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、制御部7によって電源12等の各種回路を制御してプラズマの発生条件を変更することにより、焼鈍装置1及び30でも線径の小さい線材2bを用いることができ、また焼鈍装置40及び50でも線径の大きい線材2aを用いることができる。
【0098】
さらに、上述した実施の形態においては、反応ガスとしてのHeガスやArガス等の不活性ガスを適用したが、本発明はこれに限らず、プラズマ発生手段においてプラズマを発生できれば種々の反応ガスを適用しても良い。
【0099】
例えば、この焼鈍装置では、焼鈍処理及び洗浄処理に加えて、線材の表面にプラズマによって発生したイオンを積極的に打ち込むこともできるので、このイオンの打ち込みによって線材の表面の耐蝕性を向上できると共に、線材の強度や導電率をも向上でき、その結果、線材の高品質化を図ることができる。
【0100】
この場合、例えばICを接続する金の極細線においては、極細線の表面だけ導電性を向上させることができるので、極細線の中心部については低コストの金属を用いることができ、コスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明における第1の実施の形態による焼鈍装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】プラズマを発生させる電圧と、線材の伸び率との関係を示すグラフである。
【図3】検証試験で用いた第1及び第2のアクリル体の全体構成を示す概略図である。
【図4】プラズマを照射していない未処理時の第1及び第2のアクリル体に、水を滴下したときの水滴の様子を示す写真である。
【図5】合計1分間のプラズマを照射した第1及び第2のアクリル体に、水を滴下したときの水滴の様子を示す写真である。
【図6】合計4分間のプラズマを照射した第1及び第2のアクリル体に、水を滴下したときの水滴の様子を示す写真である。
【図7】本発明における第2の実施の形態による焼鈍装置の全体構成を示す概略図である。
【図8】本発明における第3の実施の形態による焼鈍装置の全体構成を示す概略図である。
【図9】本発明における第4の実施の形態による焼鈍装置の全体構成を示す概略図である。
【図10】従来の伸線加工工程の全体構成を示す概略図である。
【図11】ダイスの詳細を示す概略図である。
【図12】従来の焼鈍装置の全体構成(1)を示す概略図である。
【図13】従来の焼鈍装置の全体構成(2)を示す概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1、30、40、50 焼鈍装置
2a、2b 線材(被加工材)
3 処理室
4、33、41、51 プラズマ発生部(プラズマ発生手段)
11 電極
31 筒状電極(電極)
42、52 第1の電極
43、53 第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工によって硬化した被加工材を焼鈍する焼鈍方法において、
前記被加工材にプラズマを照射することにより該被加工材を焼鈍する
ことを特徴とする焼鈍方法。
【請求項2】
所定の反応ガスが供給される処理室に前記被加工材を搬送し、
前記処理室内に対向するように配置された電極及び前記被加工材間に所定の電圧を印加して、前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させる
ことを特徴とする請求項1記載の焼鈍方法。
【請求項3】
前記電極に誘電体が設けられており、前記誘電体を介在させて前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させる
ことを特徴とする請求項2記載の焼鈍方法。
【請求項4】
所定の反応ガスが供給される処理室に前記被加工材を搬送し、
前記処理室内に対向するように配置された第1の電極及び第2の電極間に所定の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させる
ことを特徴とする請求項1記載の焼鈍方法。
【請求項5】
前記第1の電極及び前記第2の電極に誘電体が設けられており、前記誘電体を介在させて前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させる
ことを特徴とする請求項4記載の焼鈍方法。
【請求項6】
加工によって硬化した被加工材を焼鈍する焼鈍装置において、
プラズマを発生させ、前記被加工材に対して前記プラズマを照射するプラズマ発生手段を備え、
前記プラズマにより前記被加工材を焼鈍する
ことを特徴とする焼鈍装置。
【請求項7】
前記プラズマ発生手段は、
所定の反応ガスが供給されると共に、前記被加工材が搬送される処理室と、
前記被加工材と対向するように前記処理室内に配置された電極と、
前記電極及び前記被加工材間に所定の電圧を印加して、前記電極及び前記被加工材間に前記プラズマを発生させる電源と
を備えることを特徴とする請求項6記載の焼鈍装置。
【請求項8】
前記被加工材と所定の空間を空けて前記電極に誘電体が設けられている
ことを特徴とする請求項7記載の焼鈍装置。
【請求項9】
前記プラズマ発生手段は、
所定の反応ガスが供給されると共に、前記被加工材が搬送される処理室と、
前記処理室内に設けられた第1の電極と、
前記処理室内に設けられ、前記第1の電極と対向するように配置された第2の電極と、
前記第1の電極及び前記第2の電極間に所定の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に前記プラズマを発生させる電源と
を備えることを特徴とする請求項6記載の焼鈍装置。
【請求項10】
前記被加工材と所定の空間を空けて前記第1の電極及び前記第2の電極に誘電体が設けられている
ことを特徴とする請求項9記載の焼鈍装置。

【図2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−68049(P2009−68049A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235950(P2007−235950)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000147464)株式会社サイカワ (7)
【Fターム(参考)】