説明

照明用ガラス及び蛍光ランプ用外套管

【課題】従来と同等の紫外線遮蔽性を有し、電極の加熱と冷却の繰り返しによるサーマルショックが発生しても電極が剥離しないような照明用ガラス及び蛍光ランプ用外套管を提供する。
【解決手段】質量百分率でSiO 55〜75%、Al 0〜10%、B 10〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜15%、NaO 0〜10%、KO 0〜15%、LiO 0〜5%、LiO+NaO+KO 5〜15%、ZrO 0〜5%、TiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を0.1〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が59〜70×10−7/℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明用ガラスに関し、特に液晶表示素子のバックライト光源として使用される蛍光ランプ用外套管を作製するための照明用ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルは、自己発光しないためバックライト等の照明装置が必要である。その照明装置はバックライトユニットと呼称され、光源であるランプ、ランプから後方に放射された光を前面に反射する反射板、光を均質に平均化する拡散板や液晶開口部に光を集中させ、その他を反射するレンズシート等からなる。反射板、拡散板、レンズは樹脂で形成されている。具体的には、蛍光ランプを液晶表示パネルの直下に置き、反射板でパネル側に光を出し、これを拡散板で均質な光とする直下型照明装置と、蛍光ランプを液晶表示パネルの側方に設置して、反射板からの光を導光板に導き、拡散板を通して液晶表示パネル側に光を出すエッジ型照明装置がある。直下型液晶表示装置はTVなどの大型液晶表示パネルに好適であり、エッジ型液晶表示装置は薄型化が可能であるためパーソナルコンピューター(PC)に広く使用されている。
【0003】
光源として使用される蛍光ランプには、冷陰極蛍光ランプが使用されるのが一般的である。冷陰極蛍光ランプは、コバール、モリブデン等の電極と、電極を封着するための封着ビーズと、蛍光体が内面に塗布されたホウケイ酸ガラス製の外套管を用いて作製される。これらのランプの発光原理は、一般の熱陰極ランプと同様で、電極間の放電によって封入された水銀ガス等が励起し、励起したガスから放射される紫外線によって外套管の内壁面に塗られた蛍光体が可視光線を発光するというものである。
【0004】
バックライトユニットの寿命は、当初の光束の半分になった時間で表される。光束劣化原因は、光源の蛍光ランプのみならず、その光を効率良く反射する樹脂製の反射板や、その光を拡散する拡散板の劣化による着色によって、反射率や透過率が劣化することでも引き起こされる。これら樹脂材料の劣化は、ランプ内部で発生する紫外線が管外に漏れることが主たる原因である。特に、TV用途では長期にわたって使用されるため、比較的寿命が短いPC用途では問題にならないような、より長波長側の紫外線(313nm等)の漏洩の影響が無視できなくなっている。
【0005】
そこで、長寿命が要求される蛍光ランプの外套管には、TiOを多量に添加することによって高い紫外線遮蔽性を備えたホウケイ酸ガラスを使用することが検討されている(特許文献1および2)。
【0006】
また、これらのガラスは一般に電極用金属と整合封着するように熱膨張特性が調整されている。コバールはキュリー点があり、450℃付近で急激に膨張が変化する。従来はガラスとコバールの接触面積が広かったため、このキュリー点に、ガラス転移現象の熱膨張の屈曲が合うようにした、整合封着用ガラスが設計されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−315279号公報
【特許文献2】特開2005−320225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、液晶TVの大型化、高精細化、省電力化が進んでいる。大型化に伴い電極に流れる電流が増大して電極が過熱する。さらに、高精細化、省電力化からランプの駆動電流を変化させるため、電極の加熱と冷却が繰り返されるサーマルショックが発生するようになった。このため、従来はコバール電極とコバールガラスは整合封着されていたが、電極が剥離してリークが発生しランプが不点灯となって、信頼性が損なわれることがあった。
【0009】
本発明の目的は、従来のものと同等の紫外線遮蔽性を有し、電極の加熱と冷却の繰り返しによるサーマルショックが発生しても電極が剥離しないような照明用ガラス及び蛍光ランプ用外套管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は種々の検討を行った結果、電極を圧縮封着できれば上記課題を解決できること、及び圧縮封着を行うためには外套管ガラスを封着ビーズよりも高膨張にすればよいことを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0011】
即ち、本発明の照明用ガラスは、質量百分率でSiO 55〜75%、Al 0〜10%、B 10〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜15%、NaO 0〜10%、KO 0〜15%、LiO 0〜5%、LiO+NaO+KO 5〜15%、ZrO 0〜5%、TiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を0.1〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が59〜70×10−7/℃であることを特徴とする。
【0012】
本発明のガラスにおいては、質量百分率でCeOを0.1%以上含有することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、ガラスに紫外線遮蔽性を与えることができる。また不純物着色を起こすTiOを含有する必要性がなくなることから、Sbのような環境上好ましくない成分の使用を最小限にすることも可能となる。
【0014】
本発明のガラスにおいては、質量百分率でSnOを0.1%以上含有することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、ガラスに紫外線遮蔽性を与えることができる。また不純物着色を起こすTiOを含有する必要性がなくなることから、Sbのような環境上好ましくない成分の使用を最小限にすることも可能となる。またCeOと組み合わせれば、CeOの紫外線遮蔽効果を一層向上させることができる。
【0016】
本発明の照明用ガラスは、蛍光ランプの外套管用であることが好ましい。蛍光ランプには、熱陰極型(HCFL)、冷陰極型(CCFL)等がある。本発明においては、特に液晶表示素子のバックライト光源として広く採用されているCCFLであることが好ましい。
【0017】
本発明の蛍光ランプ用外套管は、上記ガラスからなることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、蛍光ランプ内部で生じる紫外線が管外に漏洩することを防止できることから、本発明の効果をより一層享受することができる。
【0019】
本発明の蛍光ランプ用外套管は、封着ビーズを介して電極を封止する蛍光ランプ用外套管であって、質量百分率でSiO 55〜75%、Al 0〜10%、B 10〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜15%、NaO 0〜10%、KO 0〜15%、LiO 0〜5%、LiO+NaO+KO 5〜15%、ZrO 0〜5%、TiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を0.1〜5%含有し、封着ビーズよりも大きい熱膨張係数を有するガラスからなることを特徴とする。
【0020】
本発明の外套管においては、電極が、コバール又はモリブデンからなることが好ましい。
【0021】
本発明の外套管においては、封着ビーズが、30〜380℃において45〜58×10−7/℃であることが好ましい。
【0022】
本発明の外套管は、液晶表示装置のバックライト用蛍光ランプに使用されることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、バックライトユニットの周辺部材である反射板や拡散板の劣化を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の照明用ガラスは、蛍光ランプ用外套管材料として使用すれば、封着ビーズよりも高い膨張係数を有するために外套管がビーズを圧縮し、それが電極用金属を圧縮するため、金属封着の信頼性が向上する。よって電極の加熱と冷却の繰り返しによるサーマルショックが発生しても、電極が剥離してリークが発生することが無く、ランプの信頼性を高めることができる。
【0025】
またTiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を含有しており、紫外線遮蔽性に優れている。よって液晶表示装置のバックライト用蛍光ランプの外套管として使用すれば、バックライトユニットの周辺部材である反射板や拡散板の劣化を効果的に防止することができる。
【0026】
それゆえ液晶表示装置のバックライト用蛍光ランプの外套管を構成する材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
内部に電極を有する蛍光ランプは以下のようにして作製される。まず棒状の電極を管状の封着ビーズに挿入し、封着ビーズを加熱軟化させることにより電極と融着一体化させた電極部材を作製する。このようにして作製した一対の電極部材を、蛍光体が内部に塗布された外套管の両端から挿入し、熱加工して外套管と電極部材を融着し、封止する。
【0028】
ここで封着ビーズは電極材料と適合する熱膨張係数を有しており、外套管は封着ビーズと適合する熱膨張係数を有するガラスで作製される。そこで封着ビーズと外套管は同材質で作製されるのが普通である。
【0029】
ところが外套管は電極と直接接することがないため、電極材料と膨張特性が適合している必要はない。特に電極材料にコバールを選択する場合に、封着ビーズと外套管とを異材質とすれば、外套管ガラスの組成設計上、大きなメリットがある。つまりコバールは温度に対する伸び特性が急激に変化するため、封着ビーズ用ガラスはコバールと同じ膨張変化を有することが必要となる。しかし外套管が封着ビーズと異材質であれば、外套管ガラスをコバールの膨張変化に合わせる必要がなく、封着ビーズ用ガラスの膨張特性のみに適合させればよい。また外套管ガラスの熱膨張係数を封着ビーズ用ガラスより高くすることにより、電極の圧縮封着が可能となる。この際、封着ビーズ用ガラスには圧縮応力が残り、外套管ガラスには引っ張り応力が残ることになる。
【0030】
そこで本発明の照明用ガラスは、熱膨張係数が59〜70×10−7/℃であることが望まれる。さらに60〜68×10−7/℃であることが望ましい。59×10−7/℃以上であれば封着ビーズ用ガラスより高い熱膨張係数とすることが容易になり、封着ビーズを介して電極に好ましい圧縮応力を与えることができる。また60×10−7/℃以上であればさら圧縮応力が高まるために好ましい。また70×10−7/℃以下であれば、ビーズ周辺の残留応力が大きくなりすぎて破損することがなく望ましいが、68×10−7/℃以下であることがさらに望ましい。
【0031】
封着ビーズは、外套管ガラスから適切な半径方向の圧縮応力を受けるように、またコバールやモリブデン等の電極材料と熱膨張係数が適合するように、45〜58×10−7/℃、特に50〜58×10−7/℃の熱膨張係数を有することが望ましい。封着ビーズの熱膨張係数が45×10−7/℃よりも大きいとコバールやモリブデンと適合する膨張となりやすい。一方、58×10−7/℃以下であると外套管ガラスから圧縮応力を受けやすくなる。また電極部の酸化膜に剥離を生じにくいために好ましい。
【0032】
なお外套管ガラスと封着ビーズ用ガラスを異材質としたことに伴い、両者の応力を整合させることが望ましい。その場合、外套管ガラスの徐冷点がビーズ用ガラスよりも高くなるように調整することが望ましい。具体的には外套管ガラスの徐冷点が10℃以上、さらには20℃以上高くなるように調整することが望ましい。また、外套管ガラスの軟化点が封着ビーズ用ガラスより高いと工程での破損が減少するので望ましい。
【0033】
以下、本発明の照明用ガラスの組成を上記のように限定した理由を述べる。なお以下の説明において特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0034】
SiOは、ガラスの骨格を構成するために必要な主成分であり、その含有量は55〜75%、好ましくは55〜70%である。SiOが75%以下であれば、シリカ原料の溶融に長時間を要せず、ガラスの粘度も高くなりすぎない。また、SiOが70%以下でより溶融時間を短縮でき、ガラスの粘度もより低くなる。その結果、例えばガラス管製造において無理なく溶融でき、成形温度も高くなりすぎないことから、容易に製造できる。また消費エネルギーを低く抑えることが可能になる。一方、SiOが55%以上であれば、照明用ガラスとして十分な強度を有し、蛍光ランプ用外套管として使用されるに十分耐えうるようになる。
【0035】
Alは、ホウケイ酸ガラスで容易に起こる分相を起こりにくくする効果がある。この効果により、ガラスの耐候性を向上させ、ガラスからのアルカリの溶出を抑制し、ガラス管の長期にわたる保管や使用を行いやすくする。その一方で、ガラスの粘度を高くする成分であり、ガラス溶融やガラス成形を高温化し、消費エネルギーが増大する。Alの含有量は0〜10%、好ましくは3〜10%である。Alが10%以下であれば工業的にガラスを溶融することが容易になる。また、Alが3%以上であるとガラス管の長期にわたる使用に十分耐える耐候性が得られる。
【0036】
は、溶融性の向上、粘度の調整のために必要な成分であり、その含有量は10〜25%、好ましくは15〜25%、さらに好ましくは18%を超えて25%以下である。Bが25%以下であるとガラス融液からの蒸発が少なく均質なガラスが得られる。また、ホウケイ酸ガラスで起こりうる分相は、ある温度域でガラスの相が分離し、ガラスの均質性を失う現象であり、青白く着色したり、分離したガラス相からの結晶の析出に起因してガラスが白濁したりするものである。Bを25%以下とすれば分相が抑制されガラスが白濁することがない。一方、Bが10%以上であれば高温粘度が低下して溶融性が向上し、溶融に必要なエネルギーを低減できる。また電極金属や封着ビーズとの封着性に影響する低温粘度も低下し、電極金属や封着ビーズとの差が小さくなり封着の信頼性が向上する。Bが15%以上であれば大量生産においても十分な溶融性が得られる。また電極金属や封着ビーズとの低温粘度の差がさらに小さくなり封着の信頼性がさらに向上する。Bが18%を超えると粘度が十分に低くなり、大量生産においても十分な溶融性が得られるだけでなく、寸法精度の良い管ガラスが得られやすくなる。また電極金属や封着ビーズとの低温粘度の差をほぼ無くすことができ、B含有量18%を超える組成範囲において封着の信頼性は最も高くすることができる。
【0037】
MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOは、ガラスの分相を抑制する成分であり、ガラス生産において分相による生産性の低下を抑制する効果がある。一方で、熱膨張係数や粘性を大きく変化させる成分でもある。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの含有量は合量で0〜15%、好ましくは0〜5%、さらに好ましくは0〜1%未満である。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの合量が15%以下であると均質なガラスを得ることが可能となり、脈理などの不均質部分や結晶析出のないガラスを安定して製造することができる。また、ガラスの熱膨張特性への影響も電極金属や封着ビーズとの封着性の信頼性を損ねない程度に収まる。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの合量が5%以下であると大量生産時にも脈理、結晶析出などが発生せず、安定に生産を行うことができる。また、ガラスの熱膨張特性への影響もより小さくなり、電極金属や封着ビーズとの封着性の信頼度が高まる。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの合量が1%未満であると安定生産できると同時にガラスの熱膨張係数や粘性を大きく変えることがないため、電極金属や封着ビーズとの封着性への影響は非常に小さく、封着性の信頼度が非常に高まる。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの含有量は何れも3%以下、好ましくは1%未満である。これらの成分の含有量が3%以下であれば大量生産時にも脈理や結晶析出などが発生することがなく、安定に生産を行うことができ、これらの成分の含有量が1%未満であれば安定に生産を行うことができるだけでなく、ガラスの熱膨張係数や粘性を大きく変えることがないため、電極金属や封着ビーズとの封着性への影響が小さく、封着性の信頼度も高まる。
【0038】
アルカリ金属酸化物(RO)であるLiO、NaO、及びKOは、ガラスの粘度を低下させてガラス溶融を容易にし、均質なガラスを得やすくする成分である。またガラスを低粘性化させられることから、低温操業が可能となり、溶融、ガラス成形におけるエネルギー消費の低減が可能になる。また熱膨張係数や粘性を調節するための成分でもある。その一方で、ガラスの耐候性を悪化させる成分であり、ガラスからのアルカリの溶出を増やし、ガラス表面に析出物などを発生させてしまう。それゆえこれらの成分が多いと長期にわたる保管や使用が行いにくくなる。アルカリ金属酸化物の含有量は合量で5%以上、好ましくは10.5%以上である。また15%以下、好ましくは14%以下である。これらの成分の合量が15%以下であれば実用上十分な耐侯性が得られる。これらの成分の合量が14%以下であればより高い耐候性が得られるだけでなく、電極にコバール、モリブデン等が使用される蛍光ランプの外套管に使用する場合に、コバール、モリブデンと封着するガラスビーズの熱膨張係数と適合させやすくなる。一方、これらの成分の合量が5%以上であればガラスの溶融が容易になり、粘度も高くなりすぎないため、溶融、ガラス成形における消費エネルギーを低減できる。これらの成分の合量が10.5%以上であればガラス成形における消費エネルギーをより低減することができくだけでなく、電極にコバール、モリブデンが使用される蛍光ランプの外套管として使用する場合には、これらの金属と封着される封着ビーズより高膨張とすることが容易になる。
【0039】
NaOは、溶融性、膨張特性、粘度特性等を向上させるために10%まで、好ましくは5%まで含有させることができる。NaOが10%以下であれば、実用上十分な耐候性を確保でき、ガラスの長期にわたる保管にも十分耐えることができ、NaOが5%以下であれば耐候性が得られるだけでなく、コバール、モリブデンと封着するガラスビーズの熱膨張係数と適合させやすくなる。また封着ビーズより高膨張化させるために1%以上、特に2%以上含有することが好ましい。
【0040】
Oは、溶融性、膨張特性、粘度特性等を向上させるために15%まで、好ましくは11%まで含有させることができる。KOが15%以下であれば実用上十分な耐候性を確保でき、ガラスの長期にわたる保管にも十分耐えることができる。KOが11%以下であれば耐候性が確保できるだけでなく、コバール、モリブデンと封着する封着ビーズの熱膨張係数と適合させやすくなる。また封着ビーズより高膨張化させるために5%以上、特に7%以上含有することが好ましい。
【0041】
LiOは5%まで、好ましくは1%まで添加可能な成分である。ただしLiOをホウケイ酸ガラスに添加するとガラスの分相を起こしやすくするため、他のアルカリ成分等の使用によって所定の特性を得ることができるのであれば、必ずしも含有する必要がない。LiOが5%以下であればガラスの分相を伴うことなく大量生産でき、1%以下であればガラスの分相がさらに起こりにくくなり、ガラス管の寸法精度も高まる。
【0042】
ZrOはガラスの耐候性を向上させる成分であるが、同時に難溶性の成分であり、ガラスの均質化を妨げる成分でもある。ZrOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%である。ZrOが5%以下であれば実用上十分な耐候性が得られ、ZrOが3%以下であればガラスの均質化を妨げることなく耐候性が得られる。
【0043】
TiO、CeO、WO、MoO、SnOは、ガラスに紫外線遮蔽性を与える成分であり、本発明ではこれらの成分のうち1種以上を含有する。上記成分の含有量は、合量で0.1〜5%、好ましくは0.1〜3%である。これらの成分の合量が0.1%より少ないと紫外線遮蔽性が不十分になりやすく、5%を超えるとガラスが着色するなどの不具合が生じる。
【0044】
CeOは紫外線遮蔽効果に加えて、短波長の紫外線に晒されることによるガラスの変色を防止する効果(耐短波長紫外線変色性)がある。一方、CeOを多量に含有すると、失透性が強くなるとともにガラスに着色が現れるので好ましくない。CeOの含有量は0.1〜5%、好ましくは2.1を超えて5%以下である。CeOが5%以下であると失透やガラスの着色を生じることなくガラスを製造することが可能となる。一方、0.1%以上含有すると十分な紫外線遮蔽効果が得られ、液晶表示装置で使用される樹脂部材の紫外線による変色を効果的に抑制できる。また、短波長紫外線による変色を防止することが可能となり、液晶表示装置の光源として長時間使用されてもガラスが変色することがない。CeOを2.1%よりも多く含有すると、より長波長側の紫外線を遮蔽することができ、液晶表示装置で使用される樹脂部材の紫外線による変色をより効果的に抑制できる。
【0045】
SnOは単独でも紫外線遮蔽効果があるが、CeOと共存させることにより、CeOの紫外線遮蔽効果を向上させることができる。さらにガラスに耐短波長紫外線変色性を与える成分である。一方、SnOを多量に含有すると、ガラスに着色が現れるので好ましくない。SnOの含有量は0.1〜5%、好ましくは0.6〜5%である。SnOが5%以下であると失透やガラスの着色を生じることなくガラスを製造することが可能となる。一方、SnOを0.1%以上含有すると紫外線遮蔽効果が得られ、液晶表示装置で使用される樹脂部材の紫外線による変色を効果的に抑制できる。また、SnOを0.6%以上含有するとより長波長側の紫外線も遮蔽することができ、液晶表示装置で使用される樹脂部材の紫外線による変色をより効果的に抑制できる。
【0046】
TiOおよびWOは、CeOと同様紫外線遮蔽効果のある成分である。一方で多量にホウケイ酸ガラスに含有されるとガラスの分相を促進する成分である。TiOおよびWOの含有量はともに5%以下であることが望ましい。
【0047】
MoOはCeOによる紫外線遮蔽効果を向上させる成分である。一方で不純物着色を非常に促進する成分である。MoOの含有量は3%以下であることが望ましい。
【0048】
本発明の照明用ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を含有可能である。例えばSb、Cl、Fe、Nb、ZrO、SO、Cr、Eu等を任意成分として、或いは不純物成分として含みうる。
【0049】
SbはTiO等によるガラスの不純物着色を抑制する成分である。一方で多量に含有するとガラスの熱加工時にガラスが黒化してしまう。Sbの含有量は1%以下であることが望ましい。
【0050】
Clは清澄剤として働き、ガラスの泡品位を向上させる成分である。一方で多量に含有すると、熱加工時ガラスに塩化物の結晶が析出し、ガラスを白濁させてしまう。Clの含有量は1%以下であることが望ましい。
【0051】
Feは、原料やリサイクルカレットの不純物として不可避的に混入する成分である。ガラスの着色を著しく促進し、可視光の透過率を低下させる成分であるため含有量を管理すべき成分である。Feの含有量は0.01%以下であることが望ましい。
【0052】
Nbは、CeOによる紫外線遮蔽効果を向上させる成分である。一方で分相や結晶化を非常に促進する成分である。Nbの含有量は3%以下であることが望ましい。
【0053】
SOは、適度な量含有するとガラス溶融時に清澄剤として働きガラスの泡品位を向上させる成分である。一方で多量に含有するとSOガスがガラスから抜け切れず、かえって泡品位を悪くする成分である。SOの含有量は1%以下であることが望ましい。
【0054】
Crは、原料やリサイクルカレットの不純物として不可避的に混入する成分である。ガラスの着色を著しく促進し、可視光の透過率を低下させる成分であるため含有量を管理すべき成分である。Crの含有量は0.01%以下であることが望ましい。
【0055】
Euは、蛍光体の成分であり、蛍光ランプのリサイクルが行われる場合に不純物としてガラスに混入する成分である。ガラスの着色を著しく促進し、可視光の透過率を低下させる成分であるため含有量を管理すべき成分である。Euの含有量は0.1%以下、好ましくは0.01%以下であることが望ましい。
【0056】
本発明の照明用ガラスは、波長400nmにおける分光透過率が、ガラス肉厚4mmで82%以上であることが望ましい。ホウケイ酸ガラスでは通常、CeOを多量に含有させると著しく不純物着色する。Feイオンの透過率の吸収は波長350〜550nmに存在し、この波長領域の透過率の低下がガラスの着色の原因となる。透過率の低下はランプ輝度の低下に繋がることから、ガラスの着色が生じないことが望まれる。不純物着色の程度は、波長400nmの分光透過率で評価することができる。なお波長400nmにおける分光透過率は、SnOの含有量を少なくする、CeOの含有量を少なくする、着色原因となる不純物の混入量を少なくする等の方法によって高めることができる。
【0057】
本発明の照明用ガラスは、波長313nmにおける分光透過率が、ガラス肉厚0.3mmで30%以下であることが望ましい。バックライトユニットの寿命はその光を効率良く反射する樹脂製の反射板や、その光を拡散する拡散板の劣化による着色によって、反射率や透過率が劣化することでも引き起こされる。これらの樹脂材料の劣化は、ランプ内部で発生する紫外線が管外に漏れることによって引き起こされる。このためバックライトに用いられるガラスは紫外線遮蔽性が高いことが望まれる。紫外線遮蔽性は、波長313nmの透過率で評価することができる。なお波長313nmにおける分光透過率は、SnOの含有量を増加させる、CeOの含有量を増加させる等の方法によって低下させることができる。
【0058】
本発明の照明用ガラスは、紫外線照射前後の波長400nmの分光透過率の変化がガラス肉厚0.3mmで5%以下であることが望ましい。紫外線、特に短波長紫外線がホウケイ酸ガラスに照射されると、ガラス自体が変色する。紫外線によるガラスの変色は主として波長300nmから650nmの透過率が低下することにより起こる。透過率の低下はランプ輝度の低下に繋がることから、ガラスの変色が起こらないことが望まれる。耐短波長紫外線変色性は、短波長紫外線照射前後の波長400nmの分光透過率の変化で評価することができる。なお紫外線の照射は、両面を鏡面研磨した厚さ0.3mmの板状ガラスに40Wの石英ガラスの低圧水銀ランプによって主波長253.7nm(その他波長185nm、313nm、365nm)の短波長紫外線を60分間照射(照射距離25mm)の条件で行うことが望ましい。また紫外線照射前後の波長400nmの分光透過率の変化量は、CeOの含有量を増加させる、Nb及びWOを必須成分として添加する等の方法で小さくすることができる。
【0059】
本発明の照明用ガラスは、蛍光ランプ用外套容器材料として使用できる。ここで「外套容器」とは、蛍光ランプの内部空間(放電空間)を形成するための部材であり、管型形状のもの(外套管)が一般には広く普及している。しかし近年では種々の形態の蛍光ランプが検討されており、例えば平面タイプの蛍光ランプでは、箱型形状等の外套容器が使用される。本発明の照明用ガラスは、管型形状のものに限らず、あらゆる形状の外套容器材料として使用可能である。
【0060】
本発明の蛍光ランプ用外套管は、上記照明用ガラスからなる。外套管を構成するガラスの組成や特性は既述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
次に本発明の蛍光ランプ用外套管を作製する方法を説明する。
【0062】
まず上記特徴を有するガラスとなるように原料を調合し、1400〜1650℃で溶融する。次いで溶融ガラスをダンナー法、ダウンドロー法、アップドロー法等の管引き方法により、管状に成形する。続いて管状ガラスを所定の寸法に切断し、必要に応じて後加工することにより、外套管を得る。
【0063】
このようにして得られた蛍光ランプ用外套管は、例えば液晶表示素子のバックライト用蛍光ランプの作製に供される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0065】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜8)と比較例(試料No.9、10)を示している。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
まず、表の組成となるようにガラス原料を調合した後、白金坩堝を用いて1550℃で5時間溶融した。なお原料は、天然鉱物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩等が使用可能であり、原料の分析値を考慮して調合すればよく、原料の種類は限定されない。溶融後、融液を所定の形状に成形、加工して各ガラス試料を作製し、各評価に供した。結果を表3、4に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜8の各試料は、いずれも熱膨張係数が59〜70×10−7/℃の範囲内にあった。また、外套管の残留応力は引っ張り応力となっており、封着性も良好であった。特にNo.4以外の試料は熱膨張係数が60×10−7/℃以上であり、No.4と比較してより良好な封着性が得られた。さらに、400nm透過率が82%以上であり、ガラスの着色が十分に抑制されていた。波長313nmの透過率が全て30%以下となっており、有害紫外線をほとんど透過しなかった。紫外線照射による400nm透過率の低下も0%であり、非常に高い耐紫外線変色性を有していた。
【0072】
一方、比較例であるNo.9およびNo.10の試料はいずれも熱膨張係数が58×10−7/℃以下であり、外套管の残留応力は圧縮応力となっていた。このため、良好な封着性が得られなかった。
【0073】
なお熱膨張係数は、30〜380℃における平均線熱膨張係数を測定した。
【0074】
残留応力は外套管側の軸方向の残留応力を評価した。具体的には、外套管ガラスと封着ビーズ用ガラス試料から30mm×30mmの板状試料を切り出し、厚み4.0mmに研磨し、さらに両面を光学研磨した。加工したそれぞれの試料を重ね合わせ、重ね合わせた状態でアニーラー内に入れて室温から外套容器用ガラスの(軟化点+30℃)程度まで10℃/分の速度で昇温し、その温度で30分間保持した。その後外套容器用ガラスの(歪点−100℃)まで2℃/分の速度で降温し、その温度から室温まで10℃/分の速度で降温した。この手順により重ね合わせたガラス同士が融着し、この融着面を断面方向から偏光顕微鏡で観察することによって外套管側の残留応力が引っ張り応力であるか圧縮応力であるかを評価した。この際、外套管側の断面方向の残留応力が引っ張り応力である場合には軸方向の残留応力は圧縮となり、外套管側の断面方向の残留応力が圧縮応力である場合には軸方向の残留応力は引っ張りとなる。
【0075】
封着性は、上記の外套管側の軸方向の残留応力が引っ張り応力であり、且つ外套管側の断面方向の残留応力の圧縮応力が偏光顕微鏡で観察した際に圧縮応力が均一かかっている場合には◎、残留応力が引っ張り応力であり、且つ外套管側の断面方向の残留応力の圧縮応力が偏光顕微鏡で観察した際に圧縮応力が多少不均一である場合には○とし、圧縮応力である場合には×とした。
【0076】
ガラスの着色は、400nmにおける透過率測定を行い評価した。具体的には、各ガラス試料から25mm×30mmの板状試料を切り出し、厚み4mmになるように研磨し、さらに両面を光学鏡面研磨した。加工した試料をSHIMADZU製 UV−3100PC分光光度計を用い、波長380nmから780nmの可視光領域を含む波長200nmから800nmについて透過率測定した。測定データから波長400nmの値を読み取った。
【0077】
紫外線遮蔽性は、313nmにおける透過率測定を行い評価した。具体的には、各ガラス試料から25mm×30mmの板状試料を切り出し、厚み0.3mmに研磨し、さらに両面を光学研磨した。加工した試料をSHIMADZU製 UV−3100PC分光光度計を用い、波長313nmの値を読み取った。
【0078】
耐紫外線変色性は、400nmにおける紫外線照射前後の透過率測定を行い評価した。具体的には、各ガラス試料から25mm×30mmの板状試料を切り出し、厚み0.3mmに研磨して両面を光学研磨した。加工した試料をSHIMADZU製 UV−3100PC分光光度計を用い、波長400nmの透過率の値を読み取った。次いで、その試料に25Wの低圧水銀ランプによって主波長185nm、254nm、313nm、364nmの紫外線を照射距離25mmで60分間照射した後、再び波長400nmの透過率の値を読み取り、紫外線照射前後での波長400nmの透過率差を計算した。
【0079】
表5に、表1および表2に記載のガラスを用いて実際に金属を封着した際の封着性の評価結果を示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表から明らかなように、表1のNo.1の組成の外套管用ガラスと熱膨張係数が51×10−7/℃の封着ビーズ用ガラスを用いてコバールを封着した場合(実験I)は、外套管の軸方向に引っ張り応力が生じていた。この場合、外套管の径方向には圧縮応力が発生することになるため、コバールは圧縮封着されていることになる。一方、比較例である表2のNo.9の組成の外套管用ガラス、熱膨張係数が51×10−7/℃のビーズガラスを用いてコバールを封着した場合(実験II)は、外套管の軸方向に圧縮応力が生じていた。この場合、外套管の径方向には引っ張り応力が発生することになるため、コバールは圧縮封着されていないことになる。
【0082】
なお、外套管に生じる径方向の応力は外套管とビーズガラスの融着面の残留応力と後述するδから判定した。まず、金属を封着後の外套管とビーズガラスを室温で軸方向から偏光顕微鏡で観察することによって外套容器側の残留応力を評価した。この結果とδを用いて径方向の残留応力を判定した。ここで、δは
δ=(α−α)(Tset−T)
で表され、αとαはそれぞれTset〜T間における金属とガラスの平均線熱膨張係数であい、Tsetはガラスの固着温度、Tは応力を測定するときの外套管の温度である。δ>0の場合、外套管の軸方向に生じる応力は圧縮応力、径方向に生じる応力は引っ張り応力となる。δ<0の場合、外套管の軸方向に生じる応力は引っ張り応力、径方向に生じる応力は圧縮応力となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率でSiO 55〜75%、Al 0〜10%、B 10〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜15%、NaO 0〜10%、KO 0〜15%、LiO 0〜5%、LiO+NaO+KO 5〜15%、ZrO 0〜5%、TiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を0.1〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が59〜70×10−7/℃であることを特徴とする照明用ガラス。
【請求項2】
質量百分率でCeOを0.1%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の照明用ガラス。
【請求項3】
質量百分率でSnOを0.1%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の照明用ガラス。
【請求項4】
蛍光ランプの外套管用であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の照明用ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかのガラスからなることを特徴とする蛍光ランプ用外套管。
【請求項6】
封着ビーズを介して電極を封止する蛍光ランプ用外套管であって、質量百分率でSiO 55〜75%、Al 0〜10%、B 10〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜15%、NaO 0〜10%、KO 0〜15%、LiO 0〜5%、LiO+NaO+KO 5〜15%、ZrO 0〜5%、TiO、CeO、WO、MoO、SnOから選ばれる1種類以上を0.1〜5%含有し、封着ビーズよりも大きい熱膨張係数を有するガラスからなることを特徴とする蛍光ランプ用外套管。
【請求項7】
電極が、コバール又はモリブデンからなることを特徴とする請求項6に記載の蛍光ランプ用外套管。
【請求項8】
封着ビーズが、30〜380℃において45〜58×10−7/℃の熱膨張係数を有するガラスからなることを特徴とする請求項6又は7に記載の蛍光ランプ用外套管。
【請求項9】
液晶表示装置のバックライト用蛍光ランプに使用されることを特徴とする請求項5〜9の何れかに記載の蛍光ランプ用外套管。

【公開番号】特開2011−162420(P2011−162420A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29631(P2010−29631)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】