説明

熱交換器用アルミニウムフィン材

【課題】空調機の室内機等に好適な防臭効果を有する親水性の熱交換器用アルミニウムフィン材を提供する。
【解決手段】熱交換器用フィン材10は、アルミニウムからなる基板1と、基板1表面に化成処理にて形成された下地処理皮膜2と、それぞれ厚さ0.05〜2μmの第1親水性樹脂層3と第2親水性樹脂層4とをこの順に備え、第1親水性樹脂層3は、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、スルホン酸系樹脂から選択される少なくとも一種の親水性樹脂からなり、第2親水性樹脂層4は、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンオキサイド系樹脂を含有する親水性の樹脂バインダ41と、所定量のZn担持TiO2微粒子42とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機の室内機等に使用される熱交換器用アルミニウムフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラー、およびラジエータ等として、様々な分野に利用されている。熱交換器においては、冷房運転時の結露水がフィンの間に溜まると、送風時の抵抗となって熱交換器特性を低下させる。熱交換器のフィンには、一般的に、熱伝導性および加工性が優れることからアルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウムという)が使用されている。このようなアルミニウムからなるフィンは、耐食性に加え、フィン表面で結露水が溜まらないように親水性または撥水性を付与するため、塗膜等の表面処理をフィンの成形前の板材(以下、フィン材という)に対して施されている。すなわち、フィン表面を親水性として結露水の流動性を高くするか、撥水性として結露水の水滴が大きくならないうちに落下させるか、であり、熱交換器の用途等によって選択される。例えばルームエアコン等の空調機の室内機に搭載される熱交換器には、結露水が飛散し易い撥水性とするよりもフィン表面に一様に水が広がる親水性とした方が好適である。
【0003】
アルミニウムからなるフィンは、長期に空調機の熱交換器に使用されたときに、アルミニウムの腐食臭、さらに表面を親水性とした場合には、空調機の運転停止からある程度の時間、表面が濡れた状態であるために黴や雑菌が繁殖して、これら黴や雑菌による悪臭が発生する虞がある。また、親水性樹脂等で塗膜を形成したフィンについては、室内機の熱交換器に使用されて室内の空気を吸入したときに、室内の臭気(環境臭)が塗膜に吸着されて蓄積することになる。環境臭は、例えばタバコ臭であれば、臭気成分として、アセトアルデヒド、アンモニア、酢酸が含有される。フィンにおけるこれらの臭気は、空調機を運転したときに、空気と共に室内に送出されることになる。このようなフィンからの臭気の発生を抑制するために、親水性のフィンにはアルミニウムの耐食性や防黴性等と共に、環境臭を送出させないことが要求される。そのため、親水性樹脂塗料に脱臭、消臭効果を有する材料を混合して皮膜を形成したフィン材が開発されている(例えば特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、吸着性に優れたカーボンブラックを適用したアルミニウムフィン材が開示されている。また、特許文献2には、酸化チタン等の光触媒を適用したアルミニウムフィン材が開示されている。特許文献3には、吸着作用と光触媒作用を併せ持つ材料としてチタンアパタイトを適用したフィンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−214017号公報
【特許文献2】特許第3093953号公報
【特許文献3】特開2005−214469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術の特許文献1,3のように塗膜に臭気成分を吸着させるフィンは、空調機の長期の運転により、フィン表面に臭気成分が蓄積するにしたがい吸着性能が低下し、最終的には吸着飽和となって脱臭効果がなくなり、却って臭気の発生源となる虞がある。また、特許文献2,3のように光触媒を利用したフィンは、消臭性能を発現させるために紫外線等の光照射が必要となるが、室内機に搭載される場合には、導光用の窓を設けても設置場所によっては外光が十分に照射されないことがあり、光源を内蔵する等、室内機の設計上の制約を生じる。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、長期の運転においても防臭効果を保持できる、空調機の室内機等に好適な熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、臭気の吸着を抑制して、さらに消臭効果を有する親水性塗膜とすべく、親水性樹脂の中でも酸、アルカリいずれのガスも吸着し難い比較的中性の樹脂をベースとし、消臭機能を有する触媒を混合するという思想に至った。
【0009】
すなわち本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、この基板表面に形成された化成処理皮膜と、それぞれ厚さ0.05〜2μmの第1の親水性樹脂層と第2の親水性樹脂層とをこの順に備え、前記第1の親水性樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、スルホン酸系樹脂から選択される少なくとも一種の親水性樹脂からなり、前記第2の親水性樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンオキサイド系樹脂を含有する親水性混合樹脂と、亜鉛を担持させたチタン酸化物微粒子とからなり、前記チタン酸化物微粒子の付着量がTiO2に換算して0.1〜100mg/m2であることを特徴とする。
【0010】
このように、最表面に中性のポリビニルアルコール系樹脂と潤滑性を有するポリエチレンオキサイド系樹脂との混合樹脂をベースとする第2の親水性樹脂層を形成することで、酸、アルカリいずれのガスも吸着し難く、また表面に潤滑性が付与されてフィン成形のための加工性が得られ、さらに亜鉛を担持させたチタン酸化物微粒子を混合したことで、酸化反応による消臭効果が得られる。また、基板表面に、化成処理皮膜と、所定の樹脂材料からなる第1の親水性樹脂層とを形成することで、基板(アルミニウム)の耐食性および第2の親水性樹脂層との密着性が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材によれば、フィンに好適に成形され、空調機の室内機等として結露水が溜まらない熱交換器とすることができ、また長期の運転にも消臭効果を保持できる。また、成形前に皮膜を形成したプレコート材とすることができるので、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の構造を説明する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔熱交換器用アルミニウムフィン材〕
以下、本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材(以下、熱交換器用フィン材)を実現するための形態について、図面を参照して説明する。
本発明に係る熱交換器用フィン材10は、フィンに成形する前の板材であり、図1に示すように、基板1と、基板1の片面または両面に形成された下地処理皮膜(化成処理皮膜)2と、下地処理皮膜2の上に形成された第1親水性樹脂層(第1の親水性樹脂層)3と、第1親水性樹脂層3の上に形成されて最表面に積層された第2親水性樹脂層(第2の親水性樹脂層)4と、を備える。下地処理皮膜2および第1、第2親水性樹脂層3,4を形成する基板1の面は片面でも両面でもよく、少なくとも熱交換器に組み立てたときに結露水が接触する虞のある側となる面に形成し、それ以外の面については例えば下地処理皮膜2のみが形成されていてもよい。以下、下地処理皮膜2および第1、第2親水性樹脂層3,4が形成される基板1の面を、単に基板1の表面という。
【0014】
(基板)
基板1は、通常の熱交換器用フィン材に適用されるアルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウムという)で形成され、熱伝導性および加工性の点からJIS H4000規定の1000系のアルミニウムが好適に用いられ、より好ましくは合金番号1070,1050,1200のアルミニウムが用いられる。これらの材料は、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、調質等の公知の方法で所望の厚さの板材に製造される。基板1の厚さは、特に規定するものではなく、製造される熱交換器の仕様等に合わせて、要求される熱伝導性や強度および耐食性等に対応可能な厚さとすればよく、具体的には板厚0.07〜0.25mm程度の板材が好適に使用される。
【0015】
(下地処理皮膜)
下地処理皮膜2は、アルミニウムからなる基板1(熱交換器用フィン材10)に耐食性を付与すると共に、基板1と第1親水性樹脂層3との密着性を向上させるための層であり、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、またはチタン(Ti)を無機物として含有する無機酸化物または有機−無機複合化合物よりなる。下地処理皮膜2は、基板1に耐食性を付与するものであれば成分や膜厚等は特に限定されず、使用目的等に合わせて適宜設定すればよいが、面積あたりの付着量が金属(Cr,Zr,Ti)換算で1〜100mg/m2の範囲となることが好ましく、膜厚では1〜100nmとすることが好ましい。
【0016】
下地処理皮膜2に適用される無機酸化物皮膜は、基板1に、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、あるいはリン酸チタン酸処理のような化成処理を施して表面に形成される。また、有機−無機複合化合物皮膜は、基板1に塗布型クロメート処理または塗布型ジルコニウム処理を行うことにより形成されたもので、アクリル−ジルコニウム複合体等が挙げられる。これらの下地処理皮膜2を形成する前に、基板1の表面をアルカリ性脱脂液にて予め脱脂することが好ましく、これにより化成処理の反応性が向上し、さらに形成された下地処理皮膜2の密着性が向上する。
【0017】
(第1親水性樹脂層)
第1親水性樹脂層3は、下地処理皮膜2と共に熱交換器用フィン材10の耐食性を高め、また第2親水性樹脂層4との密着性を向上させるための層であり、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)、アクリル系樹脂、スルホン酸系樹脂から選択される少なくとも一種の親水性樹脂からなる。これらの樹脂は、造膜性が良好で連続した皮膜を形成し易く、また耐湿性が高いために熱交換器用フィン材10の耐食性を高める効果があり、リン酸クロメート皮膜等からなる下地処理皮膜2への密着性がよく、また第2親水性樹脂層4との密着性にも優れる。また、第2親水性樹脂層4の下地である第1親水性樹脂層3が親水性であることで、第2親水性樹脂層4の親水性を好適に発現させることができる。第2親水性樹脂層4の下地がエポキシ系樹脂やアクリル系撥水樹脂のような疎水性であると、第2親水性樹脂層4の親水性が著しく低下する。
【0018】
第1親水性樹脂層3は、下地処理皮膜2を形成した基板1の表面に、当該第1親水性樹脂層3の樹脂材料(塗料)をロールコート法等の公知の方法で塗布し、焼付け処理を施して形成される。第1親水性樹脂層3の厚さは、均一な塗膜に形成可能で、十分な耐食性を得られる0.05μm以上とし、好ましくは0.3μm以上である。一方、第1親水性樹脂層3が2μmを超えて厚く形成されても、耐食性や密着性のさらなる向上の効果は得られず、コスト高となる上、熱交換器用フィン材10の加工性が低下するため、厚さは2μm以下とし、好ましくは1μm以下である。
【0019】
(第2親水性樹脂層)
第2親水性樹脂層4は、熱交換器用フィン材10の最表面に形成されて、熱交換器用フィン材10の表面を親水性として濡れ性をよくして、また表面に潤滑性を付与して加工性を向上させ、さらに接触する臭気を吸着せずに消臭するための層である。第2親水性樹脂層4は、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)およびポリエチレンオキサイド系樹脂(PEO)を含有する樹脂バインダ(親水性混合樹脂)41をベースとして、Zn担持TiO2微粒子(亜鉛を担持させたチタン酸化物微粒子)42が混合されてなる。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂は、前記した通り造膜性が良好で、また親水性が高いために熱交換器用フィン材10表面を十分な親水性とする。また、ポリビニルアルコール系樹脂は、酸性、アルカリ性のいずれの側にも高い傾向を示さないため、酢酸のような酸性のガス、アンモニアのようなアルカリ性のガスのいずれも、熱交換器用フィン材10表面に接触しても吸着し難い。ポリエチレンオキサイド系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂と同様に、酸性、アルカリ性のいずれの側にも高い傾向を示さないことに加え、潤滑性を付与する効果があり、熱交換器用フィン材10表面の潤滑性を高くして、加工性を向上させる。樹脂バインダ41において、ポリビニルアルコール系樹脂の質量比率が50%超95%以下であることが好ましく、75%以上がさらに好ましい
【0021】
Zn担持TiO2微粒子42は、Ti酸化物(酸化チタン、TiO2)からなる微粒子(TiO2微粒子)に亜鉛(Zn)を担持したもので、接触した臭気成分を酸化反応により分解して消臭し、また抗菌成分であるZnにより、雑菌の繁殖を抑える。担体であるTiO2微粒子の大きさは規定されないが、樹脂バインダ41中に好適に分散させるために平均粒径0.5〜30nm程度の範囲が好ましい。このようなZn担持TiO2微粒子42としては、例えば触媒型消臭剤として市販されている日揮触媒化成社製ATOMY BALL(登録商標)を適用できる。そして、Zn担持TiO2微粒子42は、十分な消臭性能を得るために、熱交換器用フィン材10における付着量がTiO2に換算して0.1mg/m2以上となるように、好ましくは1mg/m2以上となるように、さらに好ましくはZnOに換算して0.1mg/m2以上となるように、第2親水性樹脂層4に含有される。一方、Zn担持TiO2微粒子42が過剰に多いと、第2親水性樹脂層4が硬くなって熱交換器用フィン材10の加工性が低下するため、Zn担持TiO2微粒子42は、熱交換器用フィン材10における付着量がTiO2に換算して100mg/m2以下となるように、好ましくは50mg/m2以下となるように、第2親水性樹脂層4に含有される。Zn担持TiO2微粒子42のZnOに換算した付着量の上限は特に規定しないが、前記TiO2に換算した付着量の上限より、30mg/m2以下となることが好ましい。なお、Zn担持TiO2微粒子42のTiO2に換算した付着量とは、第2親水性樹脂層4の単位面積あたりにおけるTiO2微粒子のみの質量を指す。また、Zn担持TiO2微粒子42のZnOに換算した付着量とは、Zn担持TiO2微粒子42に担持されたZnが酸化物(ZnO)として存在するとみなした、第2親水性樹脂層4の単位面積あたりに含有する当該ZnOの質量を指す。すなわち酸化物を含めたZn化合物や金属Znのすべてを、Zn元素の個数を基準としてZnOに換算した質量を指す。
【0022】
第2親水性樹脂層4は、基板1上に形成された第1親水性樹脂層3の表面に、第1親水性樹脂層3の形成と同様に、当該第2親水性樹脂層4の樹脂材料(塗料)をロールコート法等の公知の方法で塗布し、焼付け処理を施して形成される。この塗料は、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンオキサイド系樹脂のそれぞれの樹脂材料を、焼付け後に所望の質量比になるように配合し、さらにZn担持TiO2微粒子42を混合、分散させて得られる。第2親水性樹脂層4の厚さは、第1親水性樹脂層3と同様に均一な塗膜に形成可能で、また臭気を第1親水性樹脂層3に到達させないような十分な遮蔽効果を得られる0.05μm以上とし、好ましくは0.3μm以上である。一方、第2親水性樹脂層4が2μmを超えて厚く形成されても、遮蔽性のさらなる向上の効果は得られず、コスト高となる上、熱交換器用フィン材10の加工性が低下するため、厚さは2μm以下とし、好ましくは1μm以下である。
【0023】
本発明に係る熱交換器用フィン材10は、その製造においては、コイル状のアルミニウム板材を基板1として、その表面に化成処理にて下地処理皮膜2を形成し、第1、第2親水性樹脂層3,4それぞれの塗料を調整し、塗布および焼付け処理にて第1親水性樹脂層3を形成し、さらに塗布および焼付け処理にて第2親水性樹脂層4を形成して製造される。さらに熱交換器用フィン材10は、所定の寸法に切断してプレス加工にて成形されて熱交換器用フィンに製造される。
【実施例】
【0024】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔試料の作製〕
(基板、下地処理皮膜)
熱交換器用フィン材の試料における基板として、厚さ0.1mmのJIS 1200アルミニウム板を適用した。この基板に、アルカリ性薬剤(サーフクリーナー(登録商標)EC370、日本ペイント社製)で脱脂してから、リン酸クロメート処理を施して下地処理皮膜を形成した。化成処理液は、日本ペイント社製アルサーフ(登録商標)401/45、リン酸、およびクロム酸の混合液を使用した。蛍光X線法で測定した下地処理皮膜のCr換算値は30mg/m2であった。
【0026】
(第1親水性樹脂層)
樹脂材料として、ポリビニルアルコール系樹脂(表1表記はPVA、以下( )内同)、アクリル系樹脂(アクリル)、スルホン酸系樹脂(SA)を適用した。さらに、前記樹脂材料の2種または3種を固形分で以下の配合になるように混合した樹脂混合を適用した。すなわち、ポリビニルアルコール系樹脂:10質量部とアクリル系樹脂:1質量部からなる混合樹脂(PVA+アクリル)、ポリビニルアルコール系樹脂:10質量部とスルホン酸系樹脂:2質量部からなる混合樹脂(PVA+SA)、アクリル系樹脂:10質量部とスルホン酸系樹脂:5質量部からなる混合樹脂(アクリル+SA)、ポリビニルアルコール系樹脂:10質量部とアクリル系樹脂:2質量部とスルホン酸系樹脂:5質量部からなる混合樹脂(PVA+アクリル+SA)を適用した。また、本発明の範囲外の親水性樹脂材料として、ポリエチレングリコール樹脂(PEG)を、非親水性樹脂(撥水性樹脂)材料として、アクリル系樹脂を架橋剤添加にて撥水化させたもの(アクリル撥水)を適用した。これらの樹脂材料で調整した塗料を、基板上の下地処理皮膜の表面に、焼付け後に表1に示す膜厚となるようにバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉にて基板到達温度約200℃で焼付けをして第1親水性樹脂層を形成した。なお、試料No.24については、表1に示すように、後記の第2親水性樹脂層と同様にZn担持TiO2微粒子を混合した。
【0027】
(第2親水性樹脂層)
樹脂材料として、ポリビニルアルコール系樹脂(表1表記はPVA、以下( )内同)およびポリエチレンオキサイド系樹脂(PEO)を、固形分でPVA:10質量部、PEO:3質量部になるように混合して適用した(PVA+PEO)。また、本発明の範囲外の親水性樹脂材料として、セルロース系樹脂(セルロース)を、非親水性樹脂(撥水性樹脂)材料として、ポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)を適用した。これらの樹脂材料に、Zn担持TiO2微粒子(TiO2に対するZnOの質量比10〜20%)を、その配合を変化させて混合して塗料を調整した。調整した塗料を、基板上の第1親水性樹脂層の表面(第1親水性樹脂層を形成しない比較例の試料については下地処理皮膜の表面)に、焼付け後に表1に示す膜厚となるようにバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉にて基板到達温度約200℃で焼付けをして第2親水性樹脂層を形成し、熱交換器用フィン材の試料とした。得られた試料について、蛍光X線法で、表面に形成された皮膜(第2親水性樹脂層)に含有するチタン(Ti)について定量分析し、TiO2に換算して、Zn担持TiO2微粒子(表1表記:TiO2粒子)の付着量として表1に示す。
【0028】
〔評価〕
(密着性)
試料の表面をキムワイプ(登録商標)の乾いたものおよび水で濡らしたもので、各10往復ラビングした後、表面を目視で観察した。合格基準は基板の露出のないこととし、合格を「○」、一部でも第2親水性樹脂層等の塗膜が剥離して基板の露出が見られたものを不合格として「×」で表1に示す。
【0029】
(加工性)
試料に、実機フィンプレスにてドローレス加工を施してカラー成形性を評価した。リフレア部を超えた大きなカラー割れのないものを合格とし、割れ等がまったくないものを優れているとして「○」、リフレア部のみのカラー割れを「△」で、リフレア部を超えたカラー割れを不合格として「×」で表1に示す。
【0030】
(親水性)
試料を流水中に240時間浸漬した後、乾燥させたものに、純水を滴下して接触角をゴニオメータにて測定した。合格基準は接触角が30°以下とし、合格を「○」、不合格を「×」で表1に示す。
【0031】
(耐食性)
耐食性は、JIS Z2371に準じた中性塩水噴霧試験を240時間行った後、試料の腐食の程度によって評価した。噴霧液として5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、噴霧環境温度は35℃、噴霧量は面積80cm2で1時間毎に1.5ミリリットルとした。腐食面積率によって腐食の程度を定量化するレイティングナンバ法に準拠して数値化して、レイティングナンバが9.5以上を合格として「○」、9.5未満のものは不合格として「×」で表1に示す。
【0032】
(臭気成分の脱離性)
臭気成分の難吸着性および分解の程度を評価するため、試料を臭気に曝露した後、試料から発生する臭気成分を測定した。試料を面積0.8m2に切り出して試験片とし、臭気成分としてアンモニアガス100ppmと酢酸ガス20ppmとを注入したデシケータ容器内(25℃)で24時間曝露した。この試験片を容量3リットルの脱臭試験用袋に1リットルの大気と共に封入し、40℃で2時間放置後、脱臭試験用袋内の酢酸ガス濃度を測定した。合格基準はアンモニアガス濃度が40ppm未満、かつ酢酸ガス濃度が10ppm未満とし、それぞれのガス濃度について前記基準を満足するものを「○」、不合格を「×」で表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、第1、第2親水性樹脂層の各構成が本発明の範囲の実施例である試料No.1〜12は、いずれも密着性および加工性が良好で、プレコート板として問題なく、また、十分な親水性および耐食性を有し、さらにアンモニア、酢酸のいずれの臭気成分の脱離性が低く、防臭効果も有する熱交換器用フィン材として十分な特性を示した。
【0035】
これに対して、試料No.15は耐湿性を有する第1親水性樹脂層を設けなかったために、耐食性が劣化した。試料No.16は第1親水性樹脂層の厚さが不足しているために、試料No.14は第1親水性樹脂層が水溶性のポリエチレングリコール樹脂で形成されたために、それぞれ十分な耐湿性が得られず、耐食性が劣化した。試料No.14は、さらにポリエチレングリコール樹脂が水溶性であるために、親水性の試験で第2親水性樹脂層も含めて流失して親水性が消失し、また基板との密着性が低いために密着性が低下した。試料No.13は第1親水性樹脂層が撥水性のアクリル系樹脂で形成されたために、第2親水性樹脂層の親水性が著しく低下した。一方、試料No.17は第1親水性樹脂層の厚さが過剰なために加工性が低下した。
【0036】
試料No.18は第2親水性樹脂層を設けなかったために、防臭効果が得られず、また表面に潤滑性がないために加工性が低下した。試料No.19は、Zn担持TiO2微粒子の付着量は十分であったが、第2親水性樹脂層の厚さが不足しているために酸性の傾向を示すアクリル系樹脂を含有する第1親水性樹脂層に臭気成分が吸着し、防臭効果が不十分となった。一方、試料No.20は第2親水性樹脂層の厚さが過剰なために加工性が低下した。試料No.25は、第2親水性樹脂層がポリビニルアルコール系樹脂のみで形成されてポリエチレンオキサイド系樹脂を含有しないために、加工性が低下した。同様に、試料No.27は、第2親水性樹脂層がセルロース系樹脂で形成されてポリエチレンオキサイド系樹脂を含有しないために、加工性が低下した。反対に、試料No.26は、第2親水性樹脂層がポリエチレンオキサイド系樹脂のみで形成されてポリビニルアルコール系樹脂を含有しないために連続した皮膜を形成せず、露出した第1親水性樹脂層に臭気成分が吸着して防臭効果が不十分となった。試料No.28は、第2親水性樹脂層が非親水性のポリアクリル酸ナトリウムで形成されたために、加工性が低下したことに加え、親水性がなく、さらにアルカリ性の傾向を示すポリアクリル酸ナトリウムに臭気成分が吸着して防臭効果が不十分となった。
【0037】
試料No.21,24は第2親水性樹脂層がZn担持TiO2微粒子を含有しなかったために、また試料No.22はZn担持TiO2微粒子の付着量が不足したために、それぞれ防臭効果が不十分となった。なお、試料No.24は、Zn担持TiO2微粒子が第1親水性樹脂層に含有されているが、最表層に存在しないために効果は得られず、さらに第2親水性樹脂層が親水性を発現せず、また加工性が低下した。反対に、試料No.23はZn担持TiO2微粒子の付着量が過剰なために、第2親水性樹脂層が硬くなって加工性が低下した。
【符号の説明】
【0038】
10 熱交換器用フィン材(熱交換器用アルミニウムフィン材)
1 基板
2 下地処理皮膜(化成処理皮膜)
3 第1親水性樹脂層(第1の親水性樹脂層)
4 第2親水性樹脂層(第2の親水性樹脂層)
41 樹脂バインダ(親水性混合樹脂)
42 Zn担持TiO2微粒子(亜鉛を担持させたチタン酸化物微粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、前記基板表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜上に形成された厚さ0.05〜2μmの第1の親水性樹脂層と、前記第1の親水性樹脂層上に形成された厚さ0.05〜2μmの第2の親水性樹脂層と、を備え、
前記第1の親水性樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、スルホン酸系樹脂から選択される少なくとも一種の親水性樹脂からなり、
前記第2の親水性樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンオキサイド系樹脂を含有する親水性混合樹脂と、亜鉛を担持させたチタン酸化物微粒子とからなり、前記チタン酸化物微粒子の付着量がTiO2に換算して0.1〜100mg/m2であることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−215347(P2012−215347A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81006(P2011−81006)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】