説明

熱交換装置およびこれを搭載するハイブリッド車。

【課題】 移動体の空調用熱交換器と駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とをより適切に配置すると共により効率よく機能させる。
【解決手段】 燃料電池車10の前部に前進方向に対して略垂直な平面に同一面内となるように、且つ、熱交換における作動温度が順に並ぶように上から空調用のコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42を配置して熱交換部32を構成し、熱交換部32の後方にファン34をその中心がコンデンサ62側に偏心した位置となるよう取り付けると共にFC用ラジエータ42を覆う部分に複数のラム圧孔37を形成したファンシェラウド36を取り付ける。車速が小さいときにはファン34の駆動によりコンデンサ62やEV用ラジエータ52に対する通過風量を確保し、車速が大きいときにはラム圧孔37からの冷却風によりFC用ラジエータ42に対する通過風量を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置およびこれを搭載するハイブリッド車に関し、詳しくは、移動体に搭載される熱交換装置およびこれを搭載する移動体としてのハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱交換装置としては、電子部品用冷却水が流通する電子部品用熱交換器と冷凍サイクル用冷媒が流通する冷媒用熱交換器とを同一平面内に配置する複式熱交換器を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、電子部品用熱交換器を上部に冷媒用熱交換器を下部に配置すると共に冷媒用熱交換器内における冷媒の流路を上部から下部に向けてつづら折り状に3段とし、その最下部を凝縮部とすることにより、電子部品用熱交換器から凝縮部への伝熱を小さくして、電子部品用熱交換器と冷媒用熱交換器とに介在させるべき断熱部を廃止している。
【特許文献1】特開2001−174168号公報(図1)
【0003】
また、この種の熱交換装置としては、空調用の熱交換器と駆動源用の熱交換器と電子部品用の熱交換器とが自動車の前部に走行風に対して直列に重なるように配置したものも提案されている。この装置では、電子部品用の熱交換器が最前部に配置され、その後ろに空調用の熱交換器や駆動源用の熱交換器が配置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド自動車などの移動体に搭載される熱交換装置では、乗員室の空気調節に用いられる空調用熱交換器の他に移動体を移動させる駆動源を冷却するために用いられる駆動源用熱交換器、並びに、電子部品を冷却する電子部品用熱交換器も備えるが、これらの熱交換器の搭載位置や移動体の移動状態によっては空調用熱交換器や駆動源用熱交換器、並びに電子部品用熱交換器による冷却が不足する場合が生じる。空調用熱交換器は、移動体の移動速度に拘わらず、室内の熱負荷が一定であれば一定の必要放熱量となる。これに対し、駆動源用熱交換器は駆動源の負荷増大に応じて必要放熱量が多くなるため、移動体の移動速度や加速度よって必要放熱量が変化する。同様に、電子部品用熱交換器は、移動体の移動速度や加速度増大による電子部品の負荷増大に応じて必要放熱量が多くなるため、移動体の移動速度や加速度よって必要放熱量が変化する。このため、空調用熱交換器と駆動源用熱交換器と電子部品用熱交換器の配置や外気の導入を促進するファンの取り付け位置などを考慮する必要がある。
【0005】
なお、自動車の前部に直列に熱交換器を配置した熱交換装置では、直列に配置した熱交換器のうち前に配置した熱交換器が放熱した場合、後ろに配置した熱交換器は、前に配置した熱交換器が放熱した分だけ空気が温度上昇するため、熱交換器内を流れるLLCもしくは冷媒と空気との温度差がとれなくなり、これにより後ろに配置した熱交換器の放熱量が低下してしまう。特に、ある走行条件では、外気温度と駆動源用熱交換器に入るLLCの温度の差が40℃程度しかとれない条件があり、この条件下では、前に配置した熱交換器が放熱することにより、駆動源用熱交換器の放熱量が2割程度低下してしまうという現象も見られる。
【0006】
本発明の熱交換装置は、移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とをより適切に配置することを目的の一つとする。本発明の熱交換装置は、移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とをより効率よく機能
させることを目的の一つとする。さらに、本発明の熱交換装置は、移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とを移動体の移動に応じてより効率よく機能させることを目的の一つとする。本発明のハイブリッド車は、乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とをより適切に配置すると共に効率よく機能させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱交換装置およびこれを搭載するハイブリッド車は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の熱交換装置は、
移動体に搭載される熱交換装置であって、
前記移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と前記移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とを含む複数の熱交換器が前記移動体の前部に該移動体の移動方向に対して略垂直な同一平面内となるよう配置される熱交換部と、
該熱交換部の前記空調用熱交換器の後方に配置されたファンと、
少なくとも該空調用熱交換器を覆うように取り付けられたファンシュラウドと、
少なくとも前記駆動源用熱交換器の後方に取り付けられるラム圧孔が形成されたラム圧孔形成部材と、
を備えることを要旨とする。
【0009】
この本発明の熱交換装置では、移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とを含む複数の熱交換器を移動体の前部に移動体の移動方向に対して略垂直な同一平面内となるよう配置するから、移動体の移動に伴って導入される冷却風を空調用熱交換器にも駆動源用熱交換器にも直接供給することができる。このため、空調用熱交換器と駆動源用熱交換器とをより効率よく機能させることができる。即ち、空調用熱交換器と駆動源用熱交換器とをより適切な配置とすることができるのである。また、熱交換部の空調用熱交換器の後方にファンを配置すると共に空調用熱交換器を覆うようにファンシュラウドを取り付けることにより、移動体の移動速度が小さいときでも空調用熱交換器に冷却風を供給することができる。この結果、空調用熱交換器を効率よく機能させることができる。さらに、駆動源用熱交換器の後方にラム圧孔が形成されたラム圧孔形成部材を取り付けることにより、移動体の移動速度が大きいときに駆動源用熱交換機器に冷却風を多く供給することができる。この結果、駆動源用熱交換機を効率よく機能させることができる。ここで、移動体としてはハイブリッド車を挙げることができる。
【0010】
こうした本発明の熱交換装置において、前記ファンシュラウドは、前記駆動源用熱交換器の一部を覆うように取り付けられてなるものとすることもできる。こうすれば、移動体の移動速度が小さいときでも駆動源用熱交換器の一部に冷却風を供給することができる。この結果、駆動源用熱交換器を効率よく機能させることができる。
【0011】
また、本発明の熱交換装置において、前記ラム圧孔形成部材に形成されたラム圧孔を開閉する開閉部材を備えるものとすることもできる。こうすれば、開閉部材の開閉によりラム圧孔を機能させることができる。
【0012】
さらに、本発明の熱交換装置において、前記複数の熱交換器を水平方向に並べて配置してなるものとすることもできるし、前記複数の熱交換器を垂直方向に並べて配置してなるものとすることもできる。後者の場合、前記空調用熱交換器を最上部に配置してなるものとすることもできる。
【0013】
あるいは、本発明の熱交換装置において、前記複数の熱交換器を作動温度の順に並べて配置してなるものとすることもできる。こうすれば、高温で作動する熱交換器から低温で作動する熱交換器への伝熱を抑制することができる。
【0014】
本発明の熱交換装置において、前記駆動源用熱交換器は、発電を伴う電力源の冷却に用いられる電力源用熱交換器と、前記電力源から供給される電力を用いて駆動する駆動機器の冷却に用いられる機器用熱交換器とを含む複数の熱交換器であるものとすることもできる。この場合、前記機器用熱交換器は、前記駆動機器を駆動するための電子部品の冷却に用いられる熱交換器であるものとすることもできる。また、前記電力源用熱交換器は、前記電力源としての燃料電池の冷却に用いられる熱交換器であるものとすることもできる。
【0015】
こうした電力源用熱交換器と機器用熱交換器とを備える態様の本発明の熱交換装置において、前記空調用熱交換器,前記機器用熱交換器,前記電力源用熱交換器の順に並べて配置してなるものとすることもできる。こうすれば、熱交換装置において比較的高温となる電力源用熱交換器から比較的低温となる空調用熱交換器への伝熱を抑制することができる。この結果、空調用熱交換器や機器用熱交換器,電力源用熱交換器を効率よく機能させることができる。
【0016】
本発明の本発明の熱交換装置において、前記熱交換部は、前記空調用熱交換器の少なくとも一部が前記駆動源用熱交換器の一部に重なるよう該駆動源用熱交換器の前方に配置されてなるものとすることもできる。こうすれば、熱交換部における移動体の移動方向に対して略垂直な同一平面内の寸法を小さくしたり、駆動源用熱交換器の同一平面内の寸法を大きくすると共に前後方向の寸法を小さくすることができる。ここで、電力源用熱交換器と機器用熱交換器とを備える態様としたときには、前記熱交換部は、前記空調用熱交換器の少なくとも一部が前記電力源用熱交換器または前記機器用熱交換器の一方の少なくとも一部に重なるよう対応する熱交換器の前方に配置されてなるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は本発明の一実施例としての熱交換装置31を有する冷却システム30を搭載した燃料電池車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は実施例の熱交換装置31の配置を例示する説明図である。実施例の燃料電池車10は、電力源としての固体高分子型の燃料電池スタックを有する燃料電池装置12やこの燃料電池装置12からの直流電力を三相交流電力に変換するインバータ14,このインバータ14からの三相交流電力により駆動輪21を駆動する走行用モータ16,走行用モータ16に対して燃料電池装置12と並列に接続されたDC/DCコンバータ18,DC/DCコンバータ18により充放電されるバッテリ20などの駆動システム11と、燃料電池装置12の図示しない燃料電池スタックを冷却する燃料電池用冷却系40とインバータ14や走行用モータ16を冷却する駆動機器用冷却系50と乗員室の空調機器の一部としての空調用冷却系60とラジエータの後方に配置されたファン34とからなる冷却システム30と、を搭載する。実施例の熱交換装置31は、燃料電池用冷却系40や駆動機器用冷却系50,空調用冷却系60の熱交換器により構成されているが、詳細については後述する。なお、説明の容易のために、まず、燃料電池用冷却系40,駆動機器用冷却系50,空調用冷却系60について説明し、その後、実施例の熱交換装置31について詳述する。
【0019】
燃料電池用冷却系40は、車両の走行に伴って導入される冷却風との熱交換により冷却媒体としての冷却水を冷却する燃料電池用ラジエータ(以下、FC用ラジエータという)
42と、このFC用ラジエータ42の冷却水流路と燃料電池スタックに形成された冷却水流路とを連絡して循環流路を形成する連絡管44と、循環流路に冷却水を循環させるために連絡管44に設けられたポンプ46と、連絡管44の燃料電池スタックの出口近傍に取り付けられて冷却水温度Twfcを検出する温度センサ48と、温度センサ48により検出された冷却水温度Twfcに基づいてポンプ46を駆動制御すると共に同じく冷却水温度Twfcに基づいてファン34の駆動要求Frq1を設定する燃料電池用電子制御ユニット(以下、FCECUという)49と、を備える。実施例では、ファン34の駆動要求Frq1としては、高(Hi),中(M),低(Lo),停止(S)を選択して設定するものとした。FCECU49は、こうした燃料電池用冷却系40のポンプ46の駆動制御やファン34の駆動要求Frq1の設定を行なうだけでなく、燃料電池装置12の運転制御も行なう。したがって、FCECU49は、燃料電池用冷却系40の制御装置と駆動システム11における燃料電池装置12の制御装置とを兼ねている。
【0020】
駆動機器用冷却系50は、車両の走行に伴って導入される冷却風との熱交換により冷却媒体としての冷却水を冷却するEV用ラジエータ52と、このEV用ラジエータ52の冷却水流路とインバータ14や走行用モータ16に形成された冷却水流路とを連絡して循環流路を形成する連絡管54と、循環流路に冷却水を循環させるために連絡管54に設けられたポンプ56と、連絡管54の走行用モータ16の出口近傍に取り付けられて冷却水温度Twmgを検出する温度センサ58と、温度センサ58により検出された冷却水温度Twmgに基づいてポンプ56を駆動制御すると共に同じく冷却水温度Twmgに基づいてファン34の駆動要求Frq2を設定するEV用電子制御ユニット(以下、EVECUという)58と、を備える。ファン34の駆動要求Frq2としては、前述の駆動要求Frq1と同様に、高(Hi),中(M),低(Lo),停止(S)を選択して設定する。EVECU58は、駆動機器用冷却系50のポンプ56の駆動制御やファン34の駆動要求Frq1の設定を行なうだけでなく、シフトポジションセンサ23により検出されるシフトレバー22のポジションやアクセルペダルポジションセンサ25により検出されるアクセルペダル24の踏み込み量に応じたアクセル開度,ブレーキペダルポジションセンサ27により検出されるブレーキペダル26の踏み込み量としてのブレーキペダルポジション,車速センサ28により検出される車速V,走行用モータ16の回転子の位置を検出する図示しない回転位置検出センサからの回転位置,インバータ14内に取り付けられた図示しない電流センサからの走行用モータ16に印加される相電流などに基づいて駆動輪21に出力すべき駆動トルクを演算すると共にこの演算した駆動トルクが走行用モータ16から出力されるようインバータ14を制御する。したがって、EVECU58は、駆動機器用冷却系50の制御装置と駆動システム11における走行用モータ16の制御装置とを兼ねている。
【0021】
空調用冷却系60は、冷媒が循環する循環流路として構成されており、冷媒を圧縮し高温高圧のガス状にするコンプレッサ61と、圧縮された冷媒を外気を用いて冷却し高圧の液状にするコンデンサ62と、冷却された冷媒を急激に膨張させ低温低圧の霧状にする膨張弁64と、低温低圧の冷媒と乗員室内の空気とを熱交換させることにより冷媒を蒸発させ低温低圧のガス状にするエバポレータ66と、エバポレータ66に取り付けられた冷媒温度センサ68からの冷媒温度に基づいてコンプレッサ61を駆動制御すると共に同じく冷媒温度に基づいてファン34の駆動要求Frq3を設定する空調用電子制御ユニット(以下、エアコンECU)69と、を備える。ファン34の駆動要求Frq3としては、前述の駆動要求Frq1,Frq2と同様に、高(Hi),中(M),低(Lo),停止(S)を選択して設定する。
【0022】
実施例の熱交換装置31は、燃料電池用冷却系40のFC用ラジエータ42と駆動機器用冷却系50のEV用ラジエータ52と空調用冷却系60のコンデンサ62により構成される熱交換部32と、この熱交換部32の後方に配置されたファン34と、このファン3
4を駆動するモータ35と、ラム圧孔37が形成されたファンシェラウド36と、を備える。
【0023】
熱交換部32は、FC用ラジエータ42とEV用ラジエータ52とコンデンサ62とが、図2に例示するように、燃料電池車10の前部に燃料電池車10の前進方向に対して略垂直な平面に同一面内となるように、且つ、熱交換における作動温度が順に並ぶように上から順にコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42となるよう配置されて構成されている。ここで、コンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42の熱交換における作動温度は、実施例では、コンデンサ62が40℃〜60℃,EV用ラジエータ52が50℃〜70℃,FC用ラジエータ42が65℃〜85℃である。このように各冷却系40,50,60の各熱交換器(FC用ラジエータ42,EV用ラジエータ52,コンデンサ62)を同一平面内に配置することにより、車両の走行に伴って導入される冷却風を各熱交換器に直接作用させることができる。また、熱交換における作動温度の順にコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42と並べることにより、作動温度の高いFC用ラジエータ42から作動温度の低いコンデンサ62への伝熱を抑制することができる。
【0024】
ファン34は、その中心が熱交換部32のコンデンサ62側に偏心した位置となるよう取り付けられており、コンデンサ62やEV用ラジエータ52に対するファン34による冷却風の通過風量を多くすることができるようになっている。モータ35は、燃料電池用冷却系40や駆動機器用冷却系50,空調用冷却系60の制御装置として機能するFCECU49やEVECU58,エアコンECU69と通信を行なうハイブリッド用電子制御ユニット79(以下、HVECUという)により各ECU49,59,69からの駆動要求Frq1,Frq2,Frq3に基づいて駆動制御される。
【0025】
ファンシェラウド36は、ファン34の周りをコンデンサ62やEV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42を覆うように熱交換部32に取り付けられている。ファンシェラウド36のFC用ラジエータ42を覆う部分には、複数のラム圧孔37が形成されている。また、ファンシェラウド36のFC用ラジエータ42を覆う部分には、形成された複数のラム圧孔37を風圧によって開閉する板状の開閉部材38が取り付けられている。したがって、開閉部材38は、燃料電池車10の車速が低いときには閉じた状態となり、燃料電池車10の車速が高いときには開いた状態となる。
【0026】
次に、実施例の熱交換装置31の機能について説明する。熱交換装置31の性能、即ち、FC用ラジエータ42やEV用ラジエータ52,コンデンサ62に要求される性能(特に必要放熱性能)は、燃料電池車10の車速や燃料電池装置12,走行用モータ16などの運転状態により異なる。コンデンサ62の必要放熱性能は、乗員室の温度などに左右されるが車速Vに拘わらず一定である。FC用ラジエータ42の必要放熱性能は、燃料電池装置12の負荷(FC負荷)が大きいほど大きくなる。燃料電池装置12の負荷は車速Vが大きいほど大きくなることを考えれば、FC用ラジエータ42の必要放熱性能は、車速Vが大きいほど大きくなる。FC負荷とFC用ラジエータ42およびコンデンサ62の必要放熱性能との関係の一例を図3に示す。EV用ラジエータ52の必要放熱性能は、走行用モータ16から出力するトルクやインバータ14に流れる電流に基づいて考慮されるものであり、車速Vが大きくなるほど大きくなる傾向があるものの、FC用ラジエータ42に要求される必要放熱性能ほどではない。一方、EV用ラジエータ52の必要放熱性能は、発進時など車速Vが小さいときにもある程度の必要放熱性能が要求される。これらのことを考慮すると、FC用ラジエータ42に対しては車速Vに応じた熱交換器の通過風量が要求され、EV用ラジエータ52に対してはある程度車速Vに応じた熱交換器の通過風量が要求されると共に車速Vが小さいときでもある程度の熱交換器の通過風量が要求され、コンデンサ62に対して車速Vに拘わらずある程度の熱交換器の通過風量が要求される。
実施例の熱交換装置31では、FC用ラジエータ42とEV用ラジエータ52とコンデンサ62とを同一平面内に配置した熱交換部32に対してファン34をその中心がコンデンサ62側に偏心した位置となるよう取り付けると共にFC用ラジエータ42を覆う部分に複数のラム圧孔37を形成したファンシェラウド36を取り付けているのである。即ち、車速が小さいときにはファン34の駆動によりコンデンサ62やEV用ラジエータ52に対してある程度の冷却風の通過風量を確保し、車速が大きいときには複数のラム圧孔37からの冷却風によりFC用ラジエータ42に対して大きな冷却風の通過風量を確保しているのである。しかも、車速が小さいときに開閉部材38により複数のラム圧孔37を閉じることによってファン34の駆動によるFC用ラジエータ42に対する冷却風の通過風量の確保も行なっているのである。なお、ファン34は、FC用ラジエータ42の一部にもファン駆動による冷却風の通過風量が得られるように取り付けられているが、その寸法は、車速が小さいときのFC用ラジエータ42の必要放熱性能が確保できる程度に設計すればよい。
【0027】
以上説明した実施例の熱交換装置31によれば、燃料電池用冷却系40のFC用ラジエータ42と駆動機器用冷却系50のEV用ラジエータ52と空調用冷却系60のコンデンサ62とを、燃料電池車10の前部に燃料電池車10の前進方向に対して略垂直な平面に同一面内となるように、且つ、熱交換における作動温度が順に並ぶように上から順にコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42となるように配置することにより、車両の走行に伴って導入される冷却風をコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42に直接供給することができると共に作動温度の高いFC用ラジエータ42から作動温度の低いコンデンサ62への伝熱を抑制することができる。即ち、FC用ラジエータ42とEV用ラジエータ52とコンデンサ62とをより適正な配置とすることができ、FC用ラジエータ42とEV用ラジエータ52とコンデンサ62とをより効率的に機能させることができる。
【0028】
また、実施例の熱交換装置31によれば、熱交換部32に対してファン34をその中心がコンデンサ62側に偏心した位置となるよう取り付けると共にFC用ラジエータ42を覆う部分に複数のラム圧孔37を形成したファンシェラウド36を取り付けることにより、車速が小さいときにはファン34の駆動によりコンデンサ62やEV用ラジエータ52に対してある程度の冷却風の通過風量を確保し、車速が大きいときには複数のラム圧孔37からの冷却風によりFC用ラジエータ42に対して大きな冷却風の通過風量を確保することができる。この結果、車速やFC負荷などに応じたFC用ラジエータ42やEV用ラジエータ52,コンデンサ62の必要放熱性能を確保することができる。しかも、車速に応じて複数のラム圧孔37を開閉する開閉部材38を備えることにより、車速が小さいときにはファン34の駆動によるFC用ラジエータ42に対する冷却風の通過風量を確保することができると共に車速が大きいときには複数のラム圧孔37からの冷却風によりFC用ラジエータ42に対する冷却風の通過風量を確保することができる。
【0029】
実施例の熱交換装置31では、熱交換における作動温度の順となるよう上から順にコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42となるように配置したが、熱交換における作動温度の順になればよいから、上から順にFC用ラジエータ42,EV用ラジエータ52,コンデンサ62となるよう配置してもよい。また、熱交換における作動温度を考慮する必要がないときには、上から順にFC用ラジエータ42,コンデンサ62,EV用ラジエータ52の配置としたり、EV用ラジエータ52,コンデンサ62,FC用ラジエータ42の配置としたり、コンデンサ62,FC用ラジエータ42,EV用ラジエータ52の配置としたり、EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42,コンデンサ62の配置とするものとしても差し支えない。
【0030】
実施例の熱交換装置31では、FC用ラジエータ42,EV用ラジエータ52,コンデ
ンサ62を同一平面内となるように配置したが、コンデンサ62がEV用ラジエータ52やFC用ラジエータ42と重なるように配置するものとしてもかまわない。例えば、図4の変形例の燃料電池車10Bに示すように、FC用ラジエータ42BとEV用ラジエータ52Bとを略垂直な同一平面内にEV用ラジエータ52Bが上となるよう配置し、EV用ラジエータ52Bの前方にコンデンサ62Bを重ねるように配置するものとしてもよいし、図5の変形例の燃料電池車10Cに示すように、FC用ラジエータ42CとEV用ラジエータ52Cとを略垂直な同一平面内にFC用ラジエータ42Cが上になるよう配置し、FC用ラジエータ42Cの一部の前方にコンデンサ62Cを重ねるように配置するものとしてもよい。このように、コンデンサ62B,Cを重ねるように配置することにより、熱交換部32のFC用ラジエータ42BとCEV用ラジエータ52B,Cとを配置する同一平面内の寸法を小さくしたり、FC用ラジエータ42BやCEV用ラジエータ52B,Cの同一平面内の寸法を大きくすることができると共にその前後方向の厚みを小さくすることができる。
【0031】
実施例の熱交換装置31では、垂直方向に上から順にコンデンサ62,EV用ラジエータ52,FC用ラジエータ42となるように配置したが、図6の変形例の燃料電池車10Dに例示するように、水平方向に横にFC用ラジエータ42D,EV用ラジエータ52D,コンデンサ62Dとなるよう配置するものとしてもよい。この場合、ファン34Dは、その中心がコンデンサ62D側に横に偏心した位置となるよう取り付け、ファンシェラウド36DにFC用ラジエータ42Dを覆う部分に複数のラム圧孔37Dを形成すると共に開閉部材38Dを取り付ければよい。なお、水平方向にFC用ラジエータ42D,EV用ラジエータ52D,コンデンサ62Dを配置する場合、その順は、FC用ラジエータ42Dからコンデンサ62Dへの伝熱の抑制を考慮すれば、EV用ラジエータ52Dが中央に位置する配置が好ましく、FC用ラジエータ42Dからコンデンサ62Dへの伝熱の抑制を考慮する必要がないときには如何なる順に配置してもよい。また、水平方向に横にFC用ラジエータ42D,EV用ラジエータ52D,コンデンサ62Dを配置する場合でもコンデンサ62DがEV用ラジエータ52DやFC用ラジエータ42Dと重なるように配置するものとしてもかまわない。
【0032】
実施例の冷却システム30では、電力源として燃料電池装置12を用いたが、内燃機関と発電機からなる発電装置を用いるものとしてもよい。
【0033】
実施例では、熱交換装置31を備える冷却システム30を燃料電池車10に搭載するものとして説明したが、熱交換装置31を備える冷却システム30を車両以外の船舶や航空機などの移動体に搭載するものとしてもよい。
【0034】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例としての熱交換装置31を備える冷却システム30を搭載した燃料電池車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例の熱交換装置31の配置を例示する説明図である。
【図3】FC負荷とFC用ラジエータ42およびコンデンサ62の必要放熱性能との関係の一例を示す説明図である。
【図4】変形例の熱交換装置31Bの配置を例示する説明図である。
【図5】変形例の熱交換装置31Cの配置を例示する説明図である。
【図6】変形例の熱交換装置31Dの配置を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0036】
10,10B〜10D 燃料電池車、11 駆動システム、12 燃料電池装置、14
インバータ、16 走行用モータ、18 DC/DCコンバータ、20 バッテリ、21 駆動輪、22 シフトレバー、23 シフトポジションセンサ、24 アクセルペダル、25 アクセルペダルポジションセンサ、26 ブレーキペダル、27 ブレーキペダルポジションセンサ、28 車速センサ、30 冷却システム、31,31B〜31D 熱交換装置、32 熱交換部、34,34D ファン、35 モータ、36,36D ファンシェラウド、37,37D ラム圧孔、38,38D 開閉部材、40 燃料電池用冷却系、42,42B〜42D FC用ラジエータ、44 連絡管、46 ポンプ、48 温度センサ、49 燃料電池用電子制御ユニット(FCECU)、50 駆動機器用冷却系、52,52B〜52D EV用ラジエータ、54 連絡管、56 ポンプ、58 温度センサ、58 EV用電子制御ユニット(EVECU)、60 空調用冷却系、61 コンプレッサ、62,62B〜62D コンデンサ、64 膨張弁、66 エバポレータ、68 冷媒温度センサ、69 エアコン用電子制御ユニット(エアコンECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される熱交換装置であって、
前記移動体の乗員室内の空気調節系に用いられる空調用熱交換器と前記移動体の駆動源の冷却に用いられる駆動源用熱交換器とを含む複数の熱交換器が前記移動体の前部に該移動体の移動方向に対して略垂直な同一平面内となるよう配置される熱交換部と、
該熱交換部の前記空調用熱交換器の後方に配置されたファンと、
少なくとも該空調用熱交換器を覆うように取り付けられたファンシュラウドと、
少なくとも前記駆動源用熱交換器の後方に取り付けられるラム圧孔が形成されたラム圧孔形成部材と、
を備える熱交換装置。
【請求項2】
前記ファンシュラウドは、前記駆動源用熱交換器の一部を覆うように取り付けられてなる請求項1記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記ラム圧孔形成部材に形成されたラム圧孔を開閉する開閉部材を備える請求項1または2記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記複数の熱交換器を水平方向に並べて配置してなる請求項1ないし3いずれか記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記複数の熱交換器を垂直方向に並べて配置してなる請求項1ないし3いずれか記載の熱交換装置。
【請求項6】
前記空調用熱交換器を最上部に配置してなる請求項5記載の熱交換装置。
【請求項7】
前記複数の熱交換器を作動温度の順に並べて配置してなる請求項1ないし6いずれか記載の熱交換装置。
【請求項8】
前記駆動源用熱交換器は、発電を伴う電力源の冷却に用いられる電力源用熱交換器と、前記電力源から供給される電力を用いて駆動する駆動機器の冷却に用いられる機器用熱交換器とを含む複数の熱交換器である請求項1ないし7いずれか記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記機器用熱交換器は、前記駆動機器を駆動するための電子部品の冷却に用いられる熱交換器である請求項5記載の熱交換装置。
【請求項10】
前記空調用熱交換器,前記機器用熱交換器,前記電力源用熱交換器の順に並べて配置してなる請求項8または9記載の熱交換装置。
【請求項11】
前記電力源用熱交換器は、前記電力源としての燃料電池の冷却に用いられる熱交換器である請求項8ないし10いずれか記載の熱交換装置。
【請求項12】
前記熱交換部は、前記空調用熱交換器の少なくとも一部が前記電力源用熱交換器または前記機器用熱交換器の一方の少なくとも一部に重なるよう対応する熱交換器の前方に配置されてなる請求項8ないし11いずれか記載の熱交換装置。
【請求項13】
前記熱交換部は、前記空調用熱交換器の少なくとも一部が前記駆動源用熱交換器の一部に重なるよう該駆動源用熱交換器の前方に配置されてなる請求項1ないし7いずれか記載の熱交換装置。
【請求項14】
請求項1ないし13いずれか記載の熱交換装置を搭載する前記移動体としてのハイブリッド車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−2631(P2006−2631A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178603(P2004−178603)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】