説明

熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材

【課題】軽量であって、かつ熱伝導性が高い熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と、繊維状炭素材料と、樹脂とを含むことを特徴とする。上記の熱伝導性樹脂組成物は、10質量%以上60質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、20質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことが好ましく、10質量%以上40質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、40質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材に関し、特に、フレーク状金属粉末と、繊維状炭素材料と、樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物およびそれを含む放熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギや環境対応型の製品の開発が進んでいる。たとえば自動車に搭載される照明機器にLED照明が採用されたり、石油エネルギに代替するエネルギ源として太陽電池が採用されたりしている。
【0003】
しかしながら、LED照明ではLEDパッケージから発生する熱によって、LED自体の寿命が極端に短くなってしまうことが問題となっているため、効率的に放熱できるLEDパッケージが求められている。太陽電池においても同様に、デバイスから発生する熱が問題となっており、放熱対策を講じる必要があると言われている。
【0004】
また、半導体デバイス、ICなどの半導体素子では、それ自体を小型化すべく内部回路の高集積化が進んでいる。これに伴って単位体積あたりの発熱量が増大しており、この発熱をいかに効率よく外部に放散するかが課題となっている。ちなみに、半導体素子は、パッケージで包装されることによって外部から保護されている。
【0005】
従来は、半導体素子の放熱性を高めるために、パッケージの材料として放熱性に優れるセラミックスを用いていた。しかし、近年は、材料コストの削減の要請を受け、パッケージの材料をセラミックスからエポキシ樹脂、シリコーン樹脂のような樹脂に代替している。ただし、パッケージの材料を樹脂のみによって構成すると、それ自体の放熱性が極めて低いという問題があるため、実際には樹脂に熱伝導性が高い無機物質を添加したものを用いている。以下において、樹脂に無機物質等の諸成分を添加したものを「樹脂組成物」と記し、特にその中でも熱伝導性を示すものを「熱伝導性樹脂組成物」と記す。
【0006】
上記の無機材料としては、シリカ、アルミナ、窒化硼素(BN)、金属粉末などを用いることができる。これらの無機材料のうちから組成や添加量を適宜選択することによって、樹脂組成物の熱伝導率を調整し、放熱性を高める。ただし、上記の無機材料のうちのアルミナは、成形時に金型を摩耗するという難点があり、BNは、それそのものが高価である。このため、無機材料には、一般的にはシリカが好適に用いられ、特に、熱伝導率が高い結晶シリカがよく用いられている。
【0007】
また、特開平05−086246号公報(以下において「特許文献1」とも記す)には、熱伝導性の高い金属粉末を無機物質として含有した熱伝導性樹脂組成物が開示されている。また、特開2006−321968号公報(以下において「特許文献2」とも記す)には、高熱伝導性を持つカーボンナノチューブを無機物質として含有し、さらにセラミックスを併用した複合材料用組成物が開示されている。かかるカーボンナノチューブは、400W/(m・K)以上1200W/(m・K)以下程度の高い熱伝導率を有するため、熱伝導性の向上を図るための無機物質として優れた性能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−086246号公報
【特許文献2】特開2006−321968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される金属粉末は、その形状が球状であるため、それを樹脂に少量添加しただけでは、熱伝導性を十分に向上させることができない。そして、特許文献1のように熱伝導性を得るために球状の金属粉末を多量に添加すると、樹脂組成物自体の重量が重くなり、半導体素子のパッケージに適さなくなってしまう。
【0010】
また、特許文献1では、グラファイトを添加しているが、これは熱伝導性樹脂組成物の摺動性を向上することを目的として添加しているので、特許文献1の表2の実施例14および比較例6の熱伝導性の値からも明らかな通り、熱伝導性の向上にはなんら効果を及ぼしていない。
【0011】
一方、特許文献2に開示される複合材料用組成物のように、カーボンナノチューブを多量に含むことによって熱伝導率を高めることはできる。しかし、カーボンナノチューブはハンドリング性に乏しいため、これを樹脂中に多量に充填することにより、流動性が悪くなって加工性に乏しくなり、もし仮に加工できたとしても機械的強度が低下する欠点が予想される。しかも、カーボンナノチューブ自体が非常に高価な材料であるため、これを多量に用いることは材料コストの面での問題もある。
【0012】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされてものであり、その目的とするところは、軽量であって、かつ熱伝導性が高い熱伝導性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、金属粉末の特にフレーク状のものが熱伝導性の向上に顕著に寄与するとの知見が得られた。このような知見に基づいて、さらに鋭意検討を重ねたところ、樹脂中にカーボンナノチューブとフレーク状金属粉末とを共存させることにより、カーボンナノチューブの含有量を極端に減らし、かつ樹脂組成物の熱伝導性を顕著に向上し得ることを見出した。さらに、カーボンナノチューブ以外の繊維状炭素材料においても、同様の熱伝導性の向上効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と、繊維状炭素材料と、樹脂とを含むことを特徴とする。上記の熱伝導性樹脂組成物は、10質量%以上60質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、20質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことが好ましく、10質量%以上40質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、40質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことがより好ましい。
【0015】
上記の繊維状炭素材料は、カーボンナノチューブであることが好ましい。また、繊維状炭素材料は、その平均繊維径が3nm以上500nm以下であり、かつその平均繊維長が0.5nm以上20μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記のフレーク状金属粉末は、その平均粒子径が1μm以上100μm以下であり、その平均厚みが0.01μm以上5μm以下であり、そのアスペクト比が5以上1000以下であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。また、本発明は、上記の熱伝導性樹脂組成物を含む放熱材でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、上記のような構成を有することにより、非常に高い熱伝導性を示し、かつ軽量なものになるという優れた効果を示す。しかも、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末とともに繊維状炭素材料が混合されるため、流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の熱伝導性樹脂組成物の断面をSEMで500倍の倍率で観察したときの画像である。
【図2】本発明の熱伝導性樹脂組成物の断面をSEMで2000倍の倍率で観察したときの画像である。
【図3】熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を評価するためのシート状物を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物を説明する。
<熱伝導性樹脂組成物>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と、繊維状炭素材料と、樹脂とを含むことを特徴とする。本発明は、このようにフレーク状金属粉末と繊維状炭素材料とを樹脂に含有せしめることを最大の特徴とする。これにより従来用いていた多量の繊維状炭素材料を大幅に減らし、かつ熱伝導性を顕著に高めることができる。
【0020】
すなわち、フレーク状金属粉末と繊維状炭素材料とを樹脂に混合することにより、繊維状炭素材料を単独で樹脂と混合する場合に比して、繊維状炭素材料の含有量が減少し、もって熱伝導性樹脂組成物の流動性が向上する。
【0021】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、従来のように熱伝導性を示す材料として金属粉末のみを使用した場合、あるいは炭素材料とセラミックスとを併用した場合に比して、非常に高い熱伝導性を示すとともに、金属粉末のみを熱伝導性を示す材料に用いた場合に比して、軽量なものとなる。
【0022】
このように繊維状炭素材料とフレーク状金属粉末とを樹脂中に共存させることによって、熱伝導性が顕著に高められることの原因は定かではないが、おそらくフレーク状金属粉末の樹脂への分散性が高いことにより、フレーク状金属粉末が樹脂の流動方向にほぼ層状に並列に配置されるとともに、その各層間を繋ぐように繊維状炭素材料が分散され、もって熱伝導性樹脂組成物中に熱伝導性ネットワークが形成されることによるものと推察される。
【0023】
かかる推察は、本発明の熱伝導性樹脂組成物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した画像を根拠として導き出される。すなわち、図1および図2はいずれも、本発明の熱伝導性樹脂組成物の断面をSEMで観察した画像であるが(図1は500倍、図2は2000倍の観察画像)、これらの画像から、フレーク状金属粉末が樹脂中に層状に並列して均一に分散すること、および上記のフレーク状金属粉末の層間の距離が、繊維状炭素材料の平均繊維長に比較的近い値であることを確認することができる。なお、図1および図2はいずれも、後述する実施例1の熱伝導性樹脂組成物の断面図である。
【0024】
上記3成分の含有比率は、10質量%以上60質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、20質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことが好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下のフレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の繊維状炭素材料と、40質量%以上88質量%以下の樹脂とを含むことである。このような含有比率とすることによりフレーク状金属粉末を高濃度で添加した場合にも、混練性を低下させることなく、高い熱伝導性を発現することができる。
【0025】
なお、熱伝導性樹脂組成物は、上記3成分に加え、少量の硬化材、硬化促進材、着色材などを添加する場合もある。以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物に含まれる各成分を説明する。
【0026】
<繊維状炭素材料>
本発明に用いられる繊維状炭素材料は、熱伝導性に優れるものであれば特に限定することなく、従来公知のものを使用することができる。このような繊維状炭素材料は、熱伝導性樹脂組成物中に2質量%以上20質量%以下の質量比率で含まれることが好ましく、8質量%以上15質量%以下の質量比率で含まれることがより好ましい。このような割合で繊維状炭素材料を充填することにより、ハンドリング性が良好であるため混練性に優れ、かつ高い熱伝導率を発現することができる。繊維状炭素材料の質量比率が20質量%を超えると、コストパフォーマンスの点で不利となる。
【0027】
また、本発明に用いる繊維状炭素材料としては、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、ピッチ系の炭素繊維、およびPAN(PolyAcryloNitrile)系の炭素繊維からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。中でも、熱伝導性に優れた繊維状炭素材料を用いることが好ましく、特に高熱伝導性を有するカーボンナノチューブを用いることがより好ましい。
【0028】
上記の繊維状炭素材料は、その平均繊維径が3nm以上500nm以下であり、かつ平均繊維長が0.5μm以上20μm以下の繊維状のものを用いることが好ましい。より好ましくは、平均繊維径が10nm以上100nm以下であり、かつ平均繊維長が8μm以上12μm以下の繊維状のものである。上記平均繊維径および平均繊維長の数値範囲を満たす繊維状炭素材料を用いることにより、上述の熱伝導ネットワークを形成しやすくなり、熱伝導率を高めることができるものと考えられる。
【0029】
ここで、上述の繊維状炭素材料の平均繊維径および平均繊維長は、繊維状炭素材料を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察したときに任意に選択した繊維100本の繊維径(直径)と繊維長(長径)の平均値である。
【0030】
上記の繊維状炭素材料として市販のカーボンナノチューブを用いる場合、たとえば昭和電工株式会社のVGCFシリーズ(VGCF:平均繊維径150nmおよび平均繊維長8μm、VGCF−H:平均繊維径150nmおよび平均繊維長6μm、VGCF−S:平均繊維径80nmおよび平均繊維長10μm、VGCF−X:平均繊維径15nmおよび平均繊維長3μm)の他、ハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル社製のMWNT(Multi Wall carbon Nano Tube、平均繊維径10nmおよび平均繊維長1μm前後)、ベルギーナノシール社製のNanocyl 7000 series(平均繊維径9.5nmおよび平均繊維長1.5μm)を用いることができる。
【0031】
<フレーク状金属粉末>
本発明に用いられるフレーク状金属粉末は、10質量%以上60質量%以下の質量比率で含まれることが好ましく、より好ましくは15質量%以上30質量%以下である。このようなフレーク状金属粉末は、金属のみから構成されていてもよいし、金属基合金から構成されていてもよい。上記金属は、熱伝導性を有する金属であれば特に限定することなく用いることができるが、アルミニウム、銅、銀、鉄、ニッケル、珪素、亜鉛、および錫からなる群より選択される1種以上の金属または該金属の合金を用いることが好ましい。中でも、熱伝導性、電気絶縁性、軽量性、コストのバランスの観点から、アルミニウムを用いることが好ましい。これらの金属の純度は、特に限定することなくいかなるものをも用いることができる。
【0032】
また、本発明に用いられるフレーク状金属粉末の平均粒子径は、特に限定するものではないが、1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上30μm以下である。上記範囲内の平均粒子径のものを用いることにより、熱伝導性樹脂組成物の成形性および外観が優れるというメリットがある。ここで、フレーク状金属粒子の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された粒度分布に基づいて体積平均を算出した値を採用するものとする。
【0033】
フレーク状金属粉末の平均厚みは、特に限定されないが、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.03μm以上1μm以下である。このような平均厚みを有するフレーク状金属粉末は、熱伝導性樹脂組成物の成形性および外観を良好にするというメリットがある。一方、0.01μm未満であると、熱伝導性樹脂組成物の成形性が低下する場合があり、5μmを超えると、フレーク状金属粉末が突き出して、外観が悪くなるという問題がある。ここで、フレーク状金属粉末の平均厚み(μm)は、フレーク状金属粉末1g当りの水面拡散面積(WCA)を測定し、下記式から算出される。
式:平均厚み(μm)=0.4(m2・μm・g-1)/WCA(m2・g-1
なお、上記の水面拡散面積(WCA)は、JIS K 5906:1998 塗料用アルミニウム顔料 に記載されている方法によって測定した値を採用するものとする。
【0034】
本発明に用いられるフレーク状金属粉末は、その平均粒子径をその平均厚みで割った形状係数(以下において「アスペクト比」と記す)が5以上1000以下であることが好ましく、50以上500以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10以上200以下である。このようなアスペクト比を有するフレーク状金属粉末を用いることにより、熱伝導性を向上効果がより顕著となる。
【0035】
なお、フレーク状金属粉末は、どのような製造方法によって作製されたものを用いてもよいが、金属粉末を容易にフレーク化することができるという観点から、ボールミルなどを用いた湿式粉砕法によって作製されたものを用いることが好ましい。
【0036】
湿式粉砕法を用いてフレーク化する場合、粉砕に用いられた粉砕助剤がフレーク状金属粉末の表面に付着していても差し支えない。ここで、粉砕助剤としては、特に限定することなく、従来公知のいかなるものをも使用することができるが、たとえばオレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸や、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール、エステル化合物などを好適に用いることができる。
【0037】
<樹脂>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、20質量%以上88質量%以下の樹脂を含むことを特徴とし、好ましくは50質量%以上88質量%以下の樹脂を含むことである。このような割合で樹脂を含むことにより、熱伝導性樹脂組成物の成形流動性が損なわれにくいため、成形体の賦型を容易に行なうことができる。さらに、上記樹脂の含有量は、50質量%以上88質量%以下であることがより好ましい。これにより熱伝導性樹脂組成物の実用的な機械的物性も保持されるというメリットがある。
【0038】
本発明において、樹脂は、熱伝導性樹脂組成物が必要とする諸性能に応じて適宜選択すればよく、特に、放熱材が必要とする性能に合わせて選択することが好ましい。また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、単一の樹脂のみで構成してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。このような樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いてもよいし、熱可塑性樹脂を用いてもよいし、これらを併用してもよい。中でも、熱可塑性樹脂は、射出、中空、押出、真空などの成形方法によって、種々の形態の成形体を熱溶融成形で賦型することができる点、再生利用(リサイクル)を容易に行なうことができる点などのメリットがあるため好ましい。
【0039】
上記の熱硬化性樹脂としては、たとえばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂の他、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、たとえばポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂の他、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂などを用いることができる。
【0040】
上記の熱可塑性樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂は、汎用的に用いられる樹脂であって、かつ耐熱性に優れるという利点があり、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などは、精密成形技術の分野で要求される非晶性ポリマー特有の寸法安定性に優れ、かつ電子部品などに多大な実績を有するため好ましい。
【0041】
<その他の成分>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、本発明の効果に影響を与えない限り、上述の3成分に加え、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、たとえば窒化アルミ、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化アルミなどのような熱伝導性材料の他、滑剤、酸化防止剤、顔料などのような添加剤などを挙げることができる。
【0042】
<熱伝導性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、フレーク状金属粉末と繊維状炭素材料と樹脂とを混練することにより得られるものである。これらの3成分を混練する方法は特に限定されないが、たとえば、単軸式または二軸式混練押出機を用いて混練するか、もしくはニーダ型混練機を用いて混練することが好ましい。
【0043】
ここでの混練に用いる混練装置は、ベント口が設けられた開放式であってもよいし、真空脱気装置などを附帯した密閉式であってもよい。さらに、射出成形機により上記3成分の混練とそれに続く成形とを同時に行なってもよい。この場合、上記3成分の原料を射出成形機にそのまま混合投入してドライブレンドの状態で成形することになる。
【0044】
また、上記の混練時の温度は、用いる樹脂によって最適な温度が異なるため、一義的に数値範囲を規定することは困難であるが、たとえば樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いる場合、180℃以上230℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以上220℃以下である。このような温度範囲内で混練を行なうことにより、混練時のせん断作用などの機械的負荷によってフレーク状金属粉末および繊維状炭素材料が切断されたり破壊されたりするのを抑制することができる。
【0045】
また、ニーダ型混練機を用いて混練する場合の混練時間は、特に限定されないが、3分以上20分以下が好ましく、より好ましくは5分以上15分以下である。このような範囲内で混練を行なうことにより、混練時の機械的負荷によってフレーク状金属粉末および繊維状炭素材料が切断されたり破壊されたりするのを抑制することができるとともに、均一に分散することもできる。
【0046】
なお、混練するにあたって上記の3成分の混合順序は、特に制限されることなく、同時に添加してもよいし、順番に添加してもよいが、樹脂を先に添加して完全に溶融した後に、フレーク状金属粉末および繊維状炭素材料を添加して混練することが好ましい。このような順序で混練することにより、混練時にフレーク状金属粉末および繊維状炭素材料に加わるせん断応力などの機械的負荷を最小限に抑制することができ、これらが切断または破壊されるのを抑制することができる。
【0047】
また、混練する前のフレーク状金属粉末としては、粉末状態のものを用いてもよいし、ミネラルスピリットなどの不揮発性の溶剤によってペースト状態にしたものを用いてもよい。また、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂やポリエチレンワックスなどの各種ワックスなどにフレーク状金属粉末を混合してペレット状にしたマスターバッチを用いてもよい。これらの中でも、取り扱いの簡便さや樹脂への混合のしやすさの観点から、マスターバッチによって、フレーク状金属粉末を導入することが好ましい。
【0048】
混練する前の繊維状炭素材料についても同様であり、粉末状態の繊維状炭素材料を用いてもよいし、有機溶剤によってペースト状態にしたものを用いてもよいし、熱伝導性樹脂組成物に用いる樹脂と同種の樹脂を繊維状炭素材料にあらかじめ混合して、ペレット状態にしたマスターバッチを用いてもよい。これらの中でも、取り扱いの簡便さや樹脂への混合のしやすさの観点から、マスターバッチによって繊維状炭素材料を導入することが好ましい。
【0049】
<放熱材>
本発明の放熱材は、上記の熱伝導性樹脂組成物を含むことを特徴とする。このような放熱材は、目的に応じた成形方法で熱伝導性樹脂組成物を成形することによって作製されるものである。かかる熱伝導性樹脂組成物は、軽量であって、かつ熱伝導性が高いという優れた性質を示すため、これによって形成される放熱材は、半導体デバイス、LED照明のケーシング、太陽電池モジュールなどの電子デバイスの他、電子部品などに好適に用いることができる。
【0050】
ここで、本発明の放熱材を成形する方法としては、たとえばFRP成形、トランスファー成形などの圧縮成形法;キャスト成形、封入注型などの注型法;カレンダ成形などのロール加工法;RIM成形、射出発砲成形などの射出成形法;押出し発砲成形などの発砲技術法;インフレーションフィルム成形、Tダイフィルム成形などの押出し成形法などを挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<実施例1〜10および比較例1〜7>
各実施例および各比較例の熱伝導性樹脂組成物は、以下の(1)〜(5)に示す各成分を以下の表1に示す混合比となるようにして後述する方法により得られたものである。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、繊維状炭素材料を熱伝導性樹脂組成物の構成成分として混合するにあたっては、予め繊維状炭素材料と樹脂を含むマスターバッチを調製した後に他の成分と混合した。具体的には、マスターバッチ中の繊維状炭素材料が20質量%となるように、得ようとする熱伝導性樹脂組成物に混合する成分である下記(2)に示す樹脂と同じ樹脂(PP樹脂であればPP樹脂を使用)と繊維状炭素材料とを混合して得られたマスターバッチである。
【0055】
また、フレーク状アルミニウム粉末を熱伝導性樹脂組成物の構成成分として混合するにあたっては、当該フレーク状アルミニウム粉末を樹脂等と混合することによりマスターバッチとしたものを用いて他の成分と混合した。具体的には、マスターバッチ中のフレーク状アルミニウム粉末が70質量%となるように、ポリエチレン樹脂(PP樹脂)、ポリエチレンワックスおよびフレーク状アルミニウム粉末とを混合して得られたマスターバッチ(製品名:メタックスネオ(東洋アルミニウム株式会社製))を用いた。
(1)繊維状炭素材料
CNT:平均繊維径80nmおよび平均繊維長10μmのカーボンナノチューブ(製品名:VGCF−S(昭和電工株式会社製))
炭素繊維:平均繊維径8μmおよび平均繊維長6mmの炭素繊維(製品名:テナックスHTA−C6−US(東邦テナックス株式会社製))
(2)樹脂
PP樹脂:(製品名:射出成形用グレード 住友ノーブレンZ101A(住友化学株式会社製))
ABS樹脂:(製品名:射出成形グレード セビアン−V660SF(ダイセルポリマー株式会社製))
(3)フレーク状金属粉末
平均粒子径18μm、平均厚み0.4μmのフレーク状アルミニウム粉末
(4)球状金属粉末
平均粒子径20μmのアトマイズ法により得られた球状アルミニウム粉末
(5)セラミックス粉末
Al23(製品名:AS10(昭和電工株式会社製))
そして、これらを密閉式混合機(製品名:ラボプラストミル100C 100型(株式会社東洋精機製作所))を用いて、以下の表2に示す条件で混練りを行なうことにより各実施例および各比較例の熱伝導性樹脂組成物を作製した。次に、これを表3に示す条件でプレス成形をすることにより、シート状物を得た。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
<特性評価>
上記で得られた各実施例および各比較例の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を評価するために、シート状物を切削加工し、5.0mmΦ×厚みが1.0mmtの試験片を準備した(図3参照)。この試験片の密度、比熱、熱拡散率、熱伝導率、および流れ値をそれぞれ、下記の方法によって測定した。その結果を以下の表4に示す。
【0059】
(密度)
室温(20℃)で水中置換法によって測定した。
【0060】
(比熱)
測定方法:示差走査熱量測定法(DSC:Differential scanning calorimetry)
測定装置:入力補償方示差走査熱量測定装置(装置名:Pyris Diamond DSC(株式会社パーキンエルマージャパン製))
昇温速度:20℃/min
試料量:15mg
雰囲気:ヘリウム 20mL/min
(熱拡散率)
測定方法:レーザフラッシュ法
測定装置:熱物性測定装置(製品名:LFA−502(京都電子工業株式会社製))
解析法:カーブフィッティング法
雰囲気:窒素 20mL/min
測定方向:図3に示す形状の試験片に対し、厚さ方向および面内方向の熱拡散率を測定し、それぞれの測定結果を表4に示した。
【0061】
(熱伝導率)
上記で得られた密度、比熱、および熱拡散率の各値をそれぞれ、下記の式に代入することにより熱伝導率を算出した。なお、この熱伝導率の値が高いほど、熱伝導性(すなわち放熱性)に優れることを示す。
【0062】
熱伝導率(W/m・K)=密度(kg/m3)×比熱(kJ/kg・K)×熱拡散率(m2/s)×1000(kJ/J)
(流れ値)
測定方法:JIS K7210:1999附属書Cに準拠
使用試験機:フローテスタ CFT−500形(株式会社島津製作所製)
試験温度:250℃
予熱時間:5分
試料:1.5g
ダイ:1.0Φ×1.0mm
プランジャー面積:1cm2
荷重:0.88kN(90kgf)(流れ値測定)
このような条件で得られる流れ値は、熱伝導性樹脂組成物の流動性を示すものであり、流れ値が高いほど流動性が高いことを示す。
【0063】
【表4】

【0064】
<評価結果および考察>
表4において、たとえば実施例5と比較例2とを対比すると、実施例5の熱伝導性樹脂組成物の面内方向の熱伝導率は、2.85W/m・Kであるのに対し、比較例2のそれは2.5W/m・Kであった。このことから、実施例5の熱伝導性樹脂組成物が比較例2のそれに比して優れた熱伝導性を示すことが明らかとなった。
【0065】
この理由としては、実施例5においては、カーボンナノチューブとフレーク状金属粒子とを併用することによって、熱伝導率を高めたのに対し、比較例2においては、セラミック粉末を多量に配合することによって、熱伝導率を高めたことによるものと考えられる。
【0066】
また、実施例5の熱伝導性樹脂組成物の流れ値は、1.5cm3/sを示すのに対し、比較例2のそれは、0.069cm3/sであった。このことから、実施例5の熱伝導性樹脂組成物が比較例2のそれに比して優れた流動性を示すことが明らかとなった。
【0067】
この理由としては、実施例5においては、フレーク状金属粉末を添加したことに伴ってカーボンナノチューブの量を少なくしたことにより、その流動性を向上したのに対し、比較例2においては、セラミック粉末を多量に配合したことにより、その流動性が著しく低下したことによるものと考えられる。ここで、実施例5において、熱伝導性樹脂組成物の流動性が向上した理由は、実施例5ではフレーク状の金属粉末を用いたため、それが樹脂の流動方向に配向するように分散されることも一因として考えられる。
【0068】
さらに、実施例5の熱伝導性樹脂組成物の密度は、1.07×103kg/m3であったのに対し、比較例2のそれは、2.19×103kg/m3であった。このことから、実施例5の熱伝導性樹脂組成物が比較例2のそれに比して軽量であることが明らかとなった。この理由は、比較例2では、セラミック粉末を多量に配合していることによるものと考えられる。
【0069】
上記のような実施例5と比較例2との関係は、実施例1および2と比較例3との対比でも同様のことが言える。すなわち、実施例1および2では、カーボンナノチューブとフレーク状金属粒子とを併用することによって、熱伝導性を高めるとともに、良好な流動性を示しているが、比較例3では、フレーク状アルミニウム粉末を多量に配合することによって熱伝導性を高めているため、密度が高く、十分な熱伝導性を得ることができておらず、しかも流動性が悪くなっている。
【0070】
上述のような実施例と比較例との対比の結果、各実施例の熱導電性樹脂組成物は、それに対応する比較例に対し、軽量であって、かつ良好な流動性および高い熱伝導性を示す傾向があることが明らかとなった。
【0071】
以上の結果から、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を示す材料として、繊維状炭素材料およびフレーク状金属粉末を併用して含むことにより、金属粉末のみを使用した場合あるいは繊維状炭素材料とセラミックスとを併用した場合に比して、非常に高い熱伝導性を示すことが明らかとなった。また、熱伝導性を示す材料として金属粉末のみを使用した場合に比して、軽量で、かつ高い熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物となることが示された。
【0072】
さらに、フレーク状金属粉末と一緒に繊維状炭素材料を樹脂と混合することにより、繊維状炭素材料を単独で樹脂と混合する場合に比して、熱伝導性樹脂組成物の流動性が良好になることが示された。
【0073】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0074】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状金属粉末と、繊維状炭素材料と、樹脂とを含む、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
10質量%以上60質量%以下の前記フレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の前記繊維状炭素材料と、20質量%以上88質量%以下の前記樹脂とを含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
10質量%以上40質量%以下の前記フレーク状金属粉末と、2質量%以上20質量%以下の前記繊維状炭素材料と、40質量%以上88質量%以下の前記樹脂とを含む、請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維状炭素材料は、カーボンナノチューブである、請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維状炭素材料は、その平均繊維径が3nm以上500nm以下であり、かつ平均繊維長が0.5nm以上20μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記フレーク状金属粉末は、その平均粒子径が1μm以上100μm以下であり、その平均厚みが0.01μm以上5μm以下であり、そのアスペクト比が5以上1000以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記フレーク状金属粉末は、アルミニウムである、請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を含む、放熱材。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72363(P2012−72363A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173873(P2011−173873)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(510234995)三木ポリマー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】