説明

熱伝導性樹脂組成物

【課題】 熱伝導性に優れ、比重が小さく柔軟性を有する熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 マトリックス樹脂と、ピッチ系炭素繊維または気相成長炭素繊維と、発泡剤とを含み、比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。このような熱伝導性樹脂組成物は、上述した高い熱伝導率および小さい比重と、柔軟性とを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高速化・高密度化にともない発生する熱量も増大する傾向にある。そのため、電子部品が発生する熱を金属シャーシや放熱フィンなどの放熱機構に効果的に伝達する目的で、電子部品と放熱機構との間に熱伝導性を有する柔軟樹脂組成物を取り付ける場合がある。
【0003】
熱伝導性を有する樹脂組成物としては、シリコーンゴムや合成ゴムを基材にアルミナ粉末や窒化アルミニウム粉末を配合してなる熱伝導シートや熱伝導性組成物が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
一方、熱伝導性を有する軽量樹脂組成物としては、ポリウレタンフォームからなる基材にアルミナ粉末を配合してなるもの(特許文献3参照)、磁場中での発泡生成時に磁性体粒子を磁力線に沿って配向したもの(特許文献4参照)、熱可塑性樹脂に炭素繊維を添加したもの(特許文献5,6参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−269562号公報
【特許文献2】特開2004−307643号公報
【特許文献3】特許第4113084号公報
【特許文献4】特開2010−69742号公報
【特許文献5】特開2009−144000号公報
【特許文献6】特願2010−195731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2の組成物は、熱伝導の良い金属またはセラミックスフィラーを配合するため、比重が大きくなってしまう。その結果、近年の携帯型電子機器に求められる軽量化を阻害することや、燃費を優先する自動車の重量増を招くという理由等で適切でない。
【0007】
また、特許文献3の組成物は、熱伝導率が0.05W/(m・K)程度であり、空気の熱伝導率0.024W/(m・K)よりも優れるが、汎用的な柔軟材料であるエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)の熱伝導率0.38W/(m・K)よりも小さく、電子部品の放熱に用いるには熱伝導率が不足する。特許文献4の組成物は熱伝導率0.4W/(m・K)であり、EPDMと比較して発泡構造を利用することで軽量化は達成できるが、EPDMと同等の放熱効果しか得られない。EPDMの比重は0.86であるため、熱伝導率0.38W/(m・K)を超え、比重0.86未満である材料は、EPDM以上の軽量性と熱伝導率を有する放熱材料といえる。また、市販の放熱材料で比重が小さい材料は比重1.1で熱伝導率0.7W/(m・K)であるため、これよりも比重が小さく、熱伝導率が大きい材料が求められている。
【0008】
つまり、比重1.1以下で、熱伝導率0.4W/(m・K)を超える放熱材料は特に優れているといえる。
また、特許文献5,6の組成物は、高い熱伝導率を示すものの、炭素繊維が多く含まれることにより、比重が1を上回り、柔軟性に欠けるという問題がある。
【0009】
つまり、上記のような従来技術では、高熱伝導性でありながら比重が小さくかつ柔軟性を図ることが可能な熱伝導性樹脂組成物を得ることが困難であった。
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱伝導性に優れ、比重が小さく柔軟性を有する熱伝導性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、ピッチ系炭素繊維と、発泡剤とを含むものである。ピッチ系炭素繊維は、マトリックス樹脂100重量部に対して20〜85重量部配合されている。そしてこの熱伝導性樹脂組成物は、発泡剤により1.2〜2.7倍に発泡させてなり、比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上であることを特徴とする。
【0011】
上記熱伝導性樹脂組成物において、比重を熱伝導率で除した値は、0.5〜1.0の範囲であることが好ましい。
また、請求項3に記載の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、気相成長炭素繊維と、発泡剤とを含むものである。気相成長炭素繊維は、マトリックス樹脂100重量部に対して20〜50重量部配合されている。そしてこの熱伝導性樹脂組成物は、発泡剤により1.2〜3.6倍に発泡させてなり、比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上であることを特徴とする。
【0012】
上記熱伝導性樹脂組成物において、比重を熱伝導率で除した値は、0.37〜0.94の範囲であることが好ましい。
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物において、上記マトリックス樹脂は、シリコーンゴム、ポリブタジエン、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びフッ素系ゴムからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体を用いることができる。
【0013】
また、マトリックス樹脂として熱可塑性エラストマーを用いても良い。熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性スチレン系エラストマー、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性塩化ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリアミド系エラストマー、有機過酸化物で部分架橋してなるブチルゴム系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体を用いることができる。
【0014】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、発泡剤によって生成される気泡が独立気泡であることが好ましい。
以下、本発明の構成について、さらに詳しく説明する。
【0015】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂に対し、炭素繊維(ピッチ系炭素繊維または気相成長炭素繊維)と、発泡剤との双方を充填した点に特徴がある。また、マトリックス樹脂に対する炭素繊維の配合量と発泡剤による発泡倍率を定め、比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上とした点に特徴がある。
【0016】
発泡剤を配合して発泡倍率を大きくすると、樹脂組成物の比重は小さくなるものの、熱伝導率が顕著に低下することが知られている。これは、一般的な熱伝導性フィラーを用いた場合でも同様である。発泡させた樹脂組成物に所望の熱伝導率を付与するためにはフィラーを大量に配合する必要があり、比重の増大や成形性の低下を引き起こす。
【0017】
これに対し、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーとして上述した炭素繊維を用いることで、発泡時の熱伝導率低下を抑制している。その結果、発泡による比重の低下(1.1以下)と、高い熱伝導率(0.4W/(m・K)以上)と、の両方を達成することができる。
【0018】
熱伝導性フィラーとしてピッチ系炭素繊維または気相成長炭素繊維を用いることによって発泡時の熱伝導率の低下を抑制する理由は次のように考えられる。球形やフレーク形状のフィラーを用いた場合、樹脂組成物を発泡させるとフィラー同士の間隔が離れてしまう。その結果、熱伝導率が低下する。一方、繊維状のフィラーであれば、発泡させてもフィラーが長さを有することからフィラー同士が接近した状態が維持されやすく、熱を伝達するパスが残り、高い熱伝導率を保つためであると考えられる。
【0019】
なお、フィラーとしてピッチ系炭素繊維を用いる場合、マトリックス樹脂100重量部に対して20重量部以上配合することで、高い熱伝導率を得ることができる。但し、85重量部を超えて配合すると、熱伝導率は高くなるが、マトリックス樹脂の比率が不足するために形状を維持できず所望の形状に成形ができ難くなる。
【0020】
また、発泡倍率を1.2倍以上とすることで比重を低減した熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。但し、2.7倍を超える倍率で発泡させると、熱伝導率の低下度合が大きくなる。
【0021】
さらに、比重を熱伝導率で除した値が0.5〜1.0の範囲であるときに、小さい比重と高い熱伝導率とをバランスよく達成することができる。なお、ここで言う熱伝導率の値は、上述したように単位を「W/(m・K)」としたときの値である。
【0022】
また、フィラーとして気相成長炭素繊維を用いる場合、マトリックス樹脂100重量部に対して20重量部以上配合することで、高い熱伝導率を得ることができる。但し、50重量部を超えて配合すると、熱伝導率は高くなるが、マトリックス樹脂の比率が不足するために形状を維持できず、所望の形状に成形ができ難くなる。
【0023】
また、発泡倍率を1.2倍以上とすることで比重を低減した熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。但し、3.6倍を超える倍率で発泡させると、熱伝導率の低下度合が大きくなる。
【0024】
さらに、比重を熱伝導率で除した値が0.37〜0.94の範囲であるときに、小さい比重と高い熱伝導率とをバランスよく達成することができる。なお、ここで言う熱伝導率の値は、上述したように単位を「W/(m・K)」としたときの値である。
【0025】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、発泡剤によって生成される気泡が独立気泡であることが好ましい。独立気泡とすることによって、伝熱効果の高い気泡以外のマトリクス部分が連続するために製造された熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率の変動を小さくでき、常に高い熱伝導率を得ることができる。また、熱伝導性樹脂組成物の耐久性も向上させることができる。
【0026】
なお、独立気泡を生成するための一例として、発泡剤として熱膨張型マイクロカプセルを用いることが考えられる。熱膨張型のマイクロカプセルを用いる場合、発泡させたときに、炭素繊維が膨張したカプセルの外皮を取り囲むような状態となり、マトリクス内の伝熱経路を形成する上で好ましい。
【0027】
なお、上述したピッチ系炭素繊維は、真密度が1.5〜2.3g/cm、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上、繊維径が5〜15μm、繊維長50〜500μmのものを用いるとよい。
【0028】
また、上述した気相成長炭素繊維は、繊維径が0.01〜0.5μm、繊維長が1〜500μmのものを用いるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ピッチ系炭素繊維を含有する熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率と比重との関係を表すグラフ
【図2】気相成長炭素繊維を含有する熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率と比重との関係を表すグラフ
【図3】汎用樹脂部材および熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率と比重との関係を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態について説明する。
1.ピッチ系炭素繊維を含有する熱伝導性樹脂組成物の製造および評価
<熱伝導性樹脂組成物の製造>
[実施例1]
本実施例の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂、ピッチ系炭素繊維、発泡剤、架橋剤からなる。材料の詳細は以下に示すとおりである。
マトリックス樹脂:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 シリコーンゴムXE20−C0510
ピッチ系炭素繊維:平均繊維径 8μm、平均繊維長 200μm
発泡剤:大日精化工業(株)製 熱膨張マイクロカプセル ダイフォームH850D
架橋剤:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 架橋剤TC−8
上記熱伝導性樹脂組成物の製造方法を説明する。まず、所定量計量したシリコーンゴムとピッチ系炭素繊維を二本ロールで混練し、次に発泡剤および架橋剤を加え、二本ロールで均一に混練した。得られた組成物を、厚さが1〜2mmとなるシート用金型で予備成形し、その後、厚さが3mmとなるシート用金型で170℃にて10分間加熱することにより発泡と架橋を行った。このようにして、シート状のシリコーンゴムスポンジを製造した。
【0031】
本実施例では、マトリックス樹脂100重量部に対してピッチ系炭素繊維を20重量部、発泡剤を1重量部配合した。
[実施例2〜14]
実施例1と同様の材料および製造方法により、材料の配合量を変更して熱伝導性樹脂組成物を製造した。実施例1〜14におけるピッチ系炭素繊維および発泡剤の配合量を表1に示す。
【0032】
[比較例1〜9]
実施例1と同様のマトリックス樹脂を用い、材料の配合量を変更して樹脂組成物を製造した。ピッチ系炭素繊維の配合量は、マトリックス樹脂100重量部に対して0〜100重量部の範囲から決定した。また発泡剤の配合量は0または20重量部のいずれかとした。比較例1〜9におけるピッチ系炭素繊維および発泡剤の配合量を表2に示す。
【0033】
<熱伝導性樹脂組成物の評価>
熱伝導率は、迅速熱伝導率計(京都電子工業社製 QTM−500)を用い、求めた。比重は比重計を用いて求めた。発泡倍率は(発泡前比重/発泡後比重)として求めた。
【0034】
実施例1〜14の評価結果を表1に示す。また比較例1〜9の評価結果を表2に示す。
表1,2において、熱伝導率は0.7W/(m・K)以上のものを「◎(非常に良好)」とし、0.4W/(m・K)以上のものを「○(良好)」とし、0.4W/(m・K)未満のものを「×(特に優れてはいない)」とした。また、比重は、0.86以下のものを「◎(非常に良好)」とし、1.1以下のものを「○(良好)」とし、1.1を超えるものを「×(特に優れてはいない)」とした。
【0035】
また、総合評価は、熱伝導率および比重のいずれも「◎」であるものを「◎」とし、いずれか一方が「◎」かつ他方が「○」のものを「○」、いずれか一方でも「×」のあるものを「×」とした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜14全ての熱伝導性樹脂組成物において、0.4W/(m・K)以上の熱伝導率と、1.1以下の比重と、を同時に実現することができた。このとき、ピッチ系炭素繊維はマトリックス樹脂100重量部に対して20〜85重量部配合されており、発泡倍率は、1.2〜2.7倍であった。
【0039】
さらに、実施例1,3〜5,8,9,12〜14においては、0.7W/(m・K)以上の熱伝導率と、0.86以下の比重と、を同時に実現することができた。このときの発泡倍率は1.5〜2.2倍であった。
【0040】
また、実施例1〜14において、比重を熱伝導率で除した値は、0.5〜1.0の範囲となった。
一方、表2から明らかなように、発泡剤を配合しない場合には、樹脂組成物の比重が大きくなった。また、発泡剤を多量に配合し、発泡倍率が2.9倍を超えると、熱伝導率が大きく低下した。
【0041】
また、ピッチ系炭素繊維の配合量がマトリックス樹脂100重量部に対して100重量部を超えると、マトリックス樹脂の比率が不足するために形状を維持できず、所望の形状に成形ができなかった。
【0042】
実施例1〜14および比較例1〜9の熱伝導率と比重との関係を表すグラフを図1に示す。発泡剤を1重量部〜10重量部配合したものは、比重が1.1以下、熱伝導率が0.4以上となる良好な物性を示した(グラフ中、破線で囲まれた領域)。なお比重は小さいほど好ましいが、比重を下げるために多量に発泡剤を配合し発泡倍率を上げると、それに伴って熱伝導率が減少してしまう。そこで、発泡倍率を調整して、比重は0.3以上、より好ましくは0.4以上とすることで、比重を小さくしつつ高い熱伝導率を維持することができる。
【0043】
一方、熱伝導率は大きいほど好ましいが、熱伝導率を上げるために多量にピッチ系炭素繊維を配合すると、それに伴って熱伝導性樹脂組成物の柔軟性が失われたり、所望の形状に成形できなくなってしまう。そこで、ピッチ系炭素繊維は、柔軟性が失われず、成形が可能な程度の配合量(例えば発泡成形時に2.0W/(m・K)以下となる配合量など)にするとよい。
【0044】
2.気相成長炭素繊維を含有する熱伝導性樹脂組成物の製造および評価
<熱伝導性樹脂組成物の製造>
[実施例15]
本実施例の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂、気相成長炭素繊維、発泡剤、架橋剤を含有している。各材料のうち、マトリックス樹脂、発泡剤、架橋剤は実施例1と同様のものを用いた。気相成長炭素繊維の詳細は以下に示すとおりである。
気相成長炭素繊維:昭和電工(株)製 VGCF(登録商標)−H
上記熱伝導性樹脂組成物の製造方法は、材料としてピッチ系炭素繊維と気相成長炭素繊維とを入れ替えた以外は実施例1と同様である。
【0045】
本実施例では、マトリックス樹脂100重量部に対して気相成長炭素繊維を20重量部、発泡剤を1重量部配合した。
[実施例16〜26]
実施例15と同様の材料および製造方法により、材料の配合量を変更して熱伝導性樹脂組成物を製造した。実施例16〜26における気相成長炭素繊維および発泡剤の配合量を表3に示す。
【0046】
[比較例10〜14]
実施例15と同様のマトリックス樹脂を用い、材料の配合量を変更して樹脂組成物を製造した。気相成長炭素繊維の配合量は、マトリックス樹脂100重量部に対して0〜100重量部の範囲から決定した。また発泡剤は配合しなかった。比較例10〜14における気相成長炭素繊維および発泡剤の配合量を表4に示す。
【0047】
<熱伝導性樹脂組成物の評価>
熱伝導率は、迅速熱伝導率計(京都電子工業社製 QTM−500)を用い、求めた。比重は比重計を用いて求めた。発泡倍率は(発泡前比重/発泡後比重)として求めた。
【0048】
実施例15〜26の評価結果を表3に示す。また比較例10〜14の評価結果を表4に示す。表3,4における評価基準は、表1,2と同様である。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
表3から明らかなように、実施例15〜26の全ての熱伝導性樹脂組成物において、0.4W/(m・K)以上の熱伝導率と、1.1以下の比重と、を同時に実現することができた。このとき、気相成長炭素繊維はマトリックス樹脂100重量部に対して20〜50重量部配合されており、発泡倍率は、1.2〜3.6倍であった。
【0052】
さらに、実施例15,18〜20,24〜26においては、0.7W/(m・K)以上の熱伝導率と、0.86以下の比重と、を同時に実現することができた。このときの発泡倍率は1.5〜3.4倍であった。
【0053】
また、実施例15〜26において、比重を熱伝導率で除した値は、0.37〜0.94の範囲となった。
一方、表4から明らかなように、発泡剤を配合しない場合には、樹脂組成物の比重が大きくなった。また、気相成長炭素繊維の配合量がマトリックス樹脂100重量部に対して65重量部を超えると、所望の形状に成形ができなかった。
【0054】
実施例15〜26および比較例10〜14の熱伝導率と比重との関係を表すグラフを図2に示す。上記各実施例では、比重が1.1以下、熱伝導率が0.4以上となる良好な物性を示した(グラフ中、破線で囲まれた領域)。なお比重は小さいほど好ましいが、比重を下げるために多量に発泡剤を配合し発泡倍率を上げると、それに伴って熱伝導率が減少してしまう。そこで、発泡倍率を調整して、比重は0.3以上、より好ましくは0.4以上とすることで、比重を小さくしつつ高い熱伝導率を維持することができる。
【0055】
一方、熱伝導率は大きいほど好ましいが、熱伝導率を上げるために多量に気相成長炭素繊維を配合すると、それに伴って熱伝導性樹脂組成物の柔軟性が失われたり、所望の形状に成形できなくなってしまう。そこで、気相成長炭素繊維は、柔軟性が失われず、成形が可能な程度の配合量(例えば発泡成形時に2.3W/(m・K)以下となる配合量など)にするとよい。
【0056】
3.汎用樹脂部材と熱伝導性樹脂組成物との比較
汎用樹脂部材および本実施例の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率と比重との関係を表すグラフを図3に示す。ここでいう汎用樹脂部材とは、汎用ゴムおよび市販されている一般的な放熱シートである。
【0057】
汎用ゴムは、表5に示すものを用いた。
【0058】
【表5】

【0059】
放熱シートは、表6に示すメーカーの製品を用いた。
【0060】
【表6】

【0061】
図3において、市販の放熱シートは種類によっては高い熱伝導率を示すが、全体的に比重が大きい。また、シリコーンゴムに気相成長炭素繊維あるいはピッチ系炭素繊維を混入したものであって、発泡剤を用いないものも同様に、高い熱伝導率を示すが比重が大きくなる。
【0062】
一方、上記実施例の気相成長炭素繊維あるいはピッチ系炭素繊維および発泡剤を含有する熱伝導性樹脂組成物は、炭素繊維および発泡倍率を適切に設定することによって熱伝導率0.4W/(m・K)以上、かつ、比重1.1以下とすることが可能となる(グラフ中、破線で囲まれた領域)。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、マトリックス樹脂としてシリコーンゴムを用いる例を示したが、ポリブタジエン、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びフッ素系ゴムからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体であっても良い。
【0064】
また、熱可塑性エラストマーを用いてもよい。熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性スチレン系エラストマー、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性塩化ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリアミド系エラストマー、有機過酸化物で部分架橋してなるブチルゴム系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体を用いることが考えられる。
【0065】
また、ピッチ系炭素繊維および気相成長炭素繊維は、実施形態に記載したもの以外であってもよい。また、ピッチ系炭素繊維および気相成長炭素繊維を適宜混合して用いてもよい。
【0066】
また、発泡剤も実施形態に記載したもの以外であってもよい。その際、生成される気泡が独立気泡であることが好ましいが、連続気泡であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と、ピッチ系炭素繊維と、発泡剤とを含み、
前記ピッチ系炭素繊維が、前記マトリックス樹脂100重量部に対して20〜85重量部配合されており、
前記発泡剤により、1.2〜2.7倍に発泡させてなり、
比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上である
ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
比重を熱伝導率で除した値が、0.5〜1.0の範囲である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
マトリックス樹脂と、気相成長炭素繊維と、発泡剤とを含み、
前記気相成長炭素繊維が、前記マトリックス樹脂100重量部に対して20〜50重量部配合されており、
前記発泡剤により、1.2〜3.6倍に発泡させてなり、
比重が1.1以下であり、かつ、熱伝導率が0.4W/(m・K)以上である
ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
比重を熱伝導率で除した値が、0.37〜0.94の範囲である
ことを特徴とする請求項3に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂は、シリコーンゴム、ポリブタジエン、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びフッ素系ゴムからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性エラストマーであり、
前記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性スチレン系エラストマー、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性塩化ビニル系エラストマー、熱可塑性ポリアミド系エラストマー、有機過酸化物で部分架橋してなるブチルゴム系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる1種以上、もしくはこれらの共重合体である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記発泡剤によって生成される気泡は独立気泡である
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102263(P2012−102263A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253003(P2010−253003)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】