説明

熱伝導性防振部材およびモータ固定用マウント

【課題】モータの発生する振動を吸収する防振性を有するとともに、簡単な構造で、駆動後のモータを効率的に冷却することができるモータ固定用マウント、および、このようなモータ固定用マウントに適した熱伝導性防振部材を提供すること。
【解決手段】熱伝導性防振部材13は、ポリオルガノシロキサン100質量部に対し、焼成酸化亜鉛を100〜700質量部配合したシリコーンゴム組成物からなる。マウント1は、モータ2と、モータ2を固定する支持部材3との接合面に介在させるモータ固定用マウントであって、モータ2に固定される第1の連結板11と、支持部材3に固定される第2の連結板12と、第1の連結板11と第2の連結板12との間に配置された熱伝導性防振部材13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性防振部材およびそれを用いたモータ固定用マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフィス等のOA化に伴って、OA機器の振動や騒音が注目されるようになった。その一つの原因は、OA機器に内蔵されたモータが駆動したとき、モータの振動が機器のフレームに伝達することによるものであった。
この振動等の問題を解決するための方法として、モータとこのモータを支持する支持部材との間にモータ固定用マウントを介在させる手法が知られている。
モータ固定用マウントとしては、例えば、中心にモータの出力軸を挿通させる挿通孔を有し、かつ、支持部材およびモータの接合面に固定される2枚の板材と、この2枚の板材の間に、挿通孔に対して同心状に配置されるリング状のゴム板とを備える構造のものが提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1記載の技術によれば、このゴム板が、モータからの振動を吸収するので、モータの振動が機器のフレーム等にほとんど伝達されず、振動等が発生することが少なくなる、すなわち防振の効果が得られる。
【0003】
ところで、モータが駆動される際には、モータから熱が発生する。この熱は、モータ固定用マウントを介して、別の部材へ逃がすか、あるいはモータから直接空気中に放熱する等して、冷却する必要がある。しかしながら、特許文献1記載の技術によるモータ固定用マウントにおいては、通常の防振に用いられるゴム材からなるゴム板は、熱伝導性が高くないので、支持部材への熱伝導による放熱性が低いという問題がある。
そこで、酸化マグネシウムを配合した熱伝導性シリコーンゴム組成物を用いたモータ固定用マウントが知られている(特許文献2参照)。酸化マグネシウムは熱伝導性が高いため、これを配合した熱伝導性シリコーン組成物を防振部材として用いると、熱伝導性に優れたモータ固定用マウントが得られる。
【0004】
【特許文献1】実開平03−60857号公報 (第1頁)
【特許文献2】特開2004−173352号公報 (段落[0010]他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の技術では、酸化マグネシウムの配合量を多くして、熱伝導性を高めようとすると、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎるため、防振部材の成形性が悪化する。さらに、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎると、防振部材の防振性そのものも悪化する。それ故、所定の熱伝導性を得るまで配合量を多くすることが困難である。
【0006】
本発明の目的は、モータの発生する振動を吸収する防振性を有するとともに、簡単な構造で、駆動後のモータを効率的に冷却することができるモータ固定用マウント、および、このようなモータ固定用マウントに適した高性能な熱伝導性防振部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱伝導性防振部材は、ポリオルガノシロキサン100質量部に対し、焼成酸化亜鉛を100〜700質量部配合したシリコーンゴム組成物からなることを特徴とする。
本発明の熱伝導性防振部材は、熱伝導性付与化合物としての焼成酸化亜鉛が所定量配合されたシリコーンゴム組成物から構成されているので、熱伝導性に優れている。すなわち、焼成酸化亜鉛は、少量でも所望の放熱性を得やすいために、大量に配合せずともよい。さらに、大量に配合してもポリオルガノシロキサンの粘度が上がりにくいため、成形時(混練時)の加工性にも優れている。
【0008】
本発明では、ポリオルガノシロキサン100質量部に対し、さらにカーボンブラックを3〜10質量部配合することが好ましい。
この発明によれば、熱伝導性防振部材を構成するシリコーンゴム組成物にカーボンブラックが所定量配合されているので、熱伝導性の向上に加えて電気伝導性も向上するため、アース線が無くてもモータに帯電した静電気を効率的に逃がすことが可能となる。カーボンブラックとしては、粒子径が小さく、少ない配合量でも優れた導電性を付与できるケッチェンブラックが好ましい。
また、このシリコーンゴム組成物には、補強性充填剤、耐熱性向上剤、難燃剤等の各種添加剤を随時付加的に配合してもよい。補強性充填剤としては、煙霧質シリカ、沈澱法シリカ、けいそう土、炭酸カルシウム、酸化チタンなど、耐熱性向上剤としては、ベンガラ、酸化鉄、酸化セリウムなどが例示される。
【0009】
本発明では、前記シリコーンゴム組成物の硬度(JIS K 6249)が85°Hs以下であることが好ましく、30〜70°Hsであることがより好ましい。
この発明によれば、熱伝導性防振部材を構成するシリコーンゴム組成物の硬度が85°Hs以下であるので、高い熱伝導性を有しながら、モータ等の防振部材として防振性に優れる範囲が広い。
このシリコーンゴム組成物の硬度が85°Hsを越えると、モータ等の防振部材に用いた場合、十分な防振性を発揮できなくなる。防振性能の観点からは、シリコーンゴム組成物の硬度は、30〜70°Hsであることがより好ましい。
【0010】
本発明のモータ固定用マウントは、モータと、モータを固定する支持部材との接合面に介在させるモータ固定用マウントであって、前記モータに固定される第1の連結板と、前記支持部材に固定される第2の連結板と、前記第1の連結板と第2の連結板との間に配置された前記熱伝導性防振部材とを備えることを特徴とする。ここで、前記第1の連結板と第2の連結板には、ともに中央にモータの出力軸を挿通させる挿通孔が形成され、前記熱伝導性防振部材は、前記第1の連結板と第2の連結板との間に、前記挿通孔に対して略同心状に配置されることが好ましい。
【0011】
本発明のモータ固定用マウントによれば、防振部材が、モータから発生する振動を吸収するので、モータの振動が支持部材にほとんど伝達されず、振動等が発生することが少なくなる、すなわち防振性を有する。
また、この防振部材は、熱伝導性化合物として焼成酸化亜鉛が所定量配合された、熱伝導性のシリコーンゴム組成物からなることにより、モータが駆動する際に発生する熱は、連結板、防振部材、連結板の順に伝達され、支持部材の方まで移動する。従って、支持部材、さらには、支持部材を介してこれを固定するフレーム等より、モータで発生した熱を放出することができるので、駆動後のモータを効率的に冷却することができる。
さらに、モータ自体を冷却するための冷却ファン等を省くことができるので、簡単な構造でモータを冷却することができる。
従って、モータから発生する振動を吸収する防振性を有するとともに、簡単な構造で、駆動後のモータを効率的に冷却することができるモータ固定用マウントとすることができる。
【0012】
本発明では、前記2枚の連結板の少なくとも一方の端面には前記熱伝導性防振部材と同一の材料からなる皮膜が形成され、前記皮膜は、前記熱伝導性防振部材と連続していることが好ましい。さらには、前記被膜は、良熱伝導性および/または良電気伝導性の金属などからなる支持部材に対して圧着状態で設置されることがより好ましい。
連結板が樹脂や制振鋼板など、熱伝導性の低い材料である場合には、モータ固定用マウント全体としても高い熱伝導性を発揮しにくくなるが、この発明によれば、熱伝導性防振部材と同一の材料からなる被膜が、熱伝導性防振部材を挟む連結板の少なくとも一方の端面に形成され、しかも、この被膜が熱伝導性防振部材と連続しているため、連結板の一方あるいは両方に熱伝導性の低い材料が用いられていても、熱伝導性の高い被膜が連結板の端面に形成されているので、モータ固定用マウント全体として高い熱伝導性を担保できる。なお、この被膜は、連結板の端面全体を覆うことが好ましいが、端面の一部を覆うだけでもよい。
【0013】
ここで、熱伝導性防振部材としては、ケッチェンブラックのようなカーボンブラックが配合されていることが好ましい。
一般に、モータは、内部で回転子が回転するため、静電気を帯びやすい、この静電気を逃がすためにモータに直接アースを設けることも可能であるが煩雑である。一方、モータ固定用マウントに使用される連結板は通常金属製であり、良好な熱伝導性とともに導電性を有するので、熱伝導性防振部材がカーボンブラックを含有しており導電性を有する場合にはモータ固定用マウント全体が導電性となり、実質的にアースの役割を果たす。しかし、連結板の表面に防錆用の被膜(不導体)がある場合などは、モータ固定用マウントは導電性を発揮することはできない。そこで、熱伝導性防振部材にケッチェンブラックのようなカーボンブラックが配合されていると、前記した被膜も導電性であるため、連結板の導電性が低下したり、あるいは、連結板が導電性の期待できない材料であっても、端面を伝わって電気が流れるため、実質的に連結板の導電性を上げたことと同視でき、モータに発生する静電気を効率的に逃がすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の熱伝導性防振部材と、それを用いたモータ固定用マウントについて詳細に説明する。
[熱伝導性防振部材の構成]
本発明の熱伝導性防振部材は、オルガノポリシロキサン100質量部に対し、焼成酸化亜鉛を100〜700質量部配合したシリコーンゴム組成物からなることを特徴としている。
ここで、焼成酸化亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛の中でも、湿式法で造粒した水酸化亜鉛または炭酸亜鉛を600〜1800℃の温度で焼成することで得られる焼成酸化亜鉛、またはアメリカ法又はフランス法で調製した酸化亜鉛を800〜1800℃の温度で焼成した酸化亜鉛であって、平均粒子径が1〜50μm、嵩密度が1.0〜4.0g/ccの焼成酸化亜鉛が好適に使用される。
【0015】
湿式法で造粒した水酸化亜鉛または炭酸亜鉛を焼成する場合、焼成温度は600〜1800℃、好ましくは700〜1800℃、更に好ましくは800〜1800℃である。焼成温度が600℃よりも低いとシリコーンゴム組成物の耐熱性が低下し、1800℃を超えると粒子が固着し凝集体が発生する。また、アメリカ法又はフランス法で調製した酸化亜鉛を焼成する場合、焼成温度は800〜1800℃、好ましくは900〜1800℃、更に好ましくは1000〜1800℃である。焼成温度が800℃よりも低いとシリコーンゴム組成物の耐熱性が低下し、1800℃を超えると粒子が固着し凝集体が発生する。
酸化亜鉛の平均粒子径は1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは平均粒子径3〜20μmである。平均粒子径が1μmより小さいとシリコーンゴム組成物の硬度が上がり過ぎて高充填が困難となり、熱伝導性の高いシリコーンゴム組成物が得られにくくなる。50μmを超えるとシリコーンゴム組成物の強度が著しく低下する。
また、焼成酸化亜鉛の嵩密度は1.0〜4.0g/ccであることが好ましいが、より好ましくは1.2〜3.5g/ccである。嵩密度が1.0g/ccよりも低いと、シリコーンゴム組成物の硬さが高くなり過ぎてしまい、3.5g/ccを超えるものは、製造自体が困難となる。
また、焼成酸化亜鉛のBET比表面積は0.01〜5m2/gの範囲であることが好ましい。BET比表面積が0.01m2/g より小さいものは、粒子径が大きくなりすぎ、2m2/gを超えるものは、ゴムの硬度が高くなり過ぎ、耐熱性も低下する。
【0016】
シリコーンゴム組成物の基材であるオルガノポリシロキサンとしては、その基本骨格(モノマー単位)が下記式(1)で示されるものが好適に使用可能である。
SiO(4−n)/2 (1)
式(1)中のRは、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基、ブタニエル基などのアルケニル基、フェニル基、トリル基などのアリール基またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3 −トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基などから選択される同種又は異種の非置換又は置換1価炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは1〜8のものである。又、nは1.90〜2.05の正数である。このものは、直鎖状の分子構造を有することが好ましいが、分子中に一部分枝鎖状のものを含有していてもよい。また、このものは分子鎖末端がトリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されたものとすればよいが、このトリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、メチルジビニルシリル基、トリビニルシリル基などが例示される。なお、オルガノポリシロキサンの重合度に限定はないが、液状シリコーンゴムとする場合には重合度100〜2000、ミラブル型シリコーンゴムとする場合には重合度2000〜10000が好ましい。
【0017】
最終的にシリコーンゴム組成物とする際には、前記したオルガノポリシロキサンに所定量の焼成酸化亜鉛と硬化剤を配合して混練後、適当な形状に賦形して加熱することにより硬化(架橋等)を行う。その際に、例えば、後述するモータ固定用マウントのような適当な形状の部材内に配置することで、所定の形状を有すると共に部材と一体となった熱伝導性防振部材とすることができる。
なお、混練は、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールなどの従来から一般的に用いられている装置を用いて行なうことができる。混練後は、加圧成形、押出し成形、射出成形、カレンダー成形等の通常の方法によって成形加工し、硬化させてもよい。
【0018】
ここで、硬化剤とは、オルガノポリシロキサンを所定のゴム弾性体とするための反応試薬であって、オルガノポリシロキサンの構造により種々のタイプのものが使用される。例えば、特開平5―239358号に開示されるような種々のタイプの硬化剤が使用可能である。硬化剤として過酸化物を用いる場合は、例えば、ベンゾイルペルオキシド、2,4 −ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミル−t−ブチルペルオキシド、2,5 −ジメチル−2,5 −ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、ジ−t−ブチルペルオキシド等の各種の有機過酸化物が好適に用いられる。
硬化剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対し0.05〜20質量部が好ましく、0.1〜15質量部がより好ましい。硬化剤の使用量が0.1質量部未満では、硬化後のゴムに充分な強度が得られず、また20質量部を超えると得られるゴムが脆くなり、いずれも実用に耐え難い。
【0019】
本発明において、焼成酸化亜鉛の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対し100〜700質量部であり、好ましくは、100〜500質量部、より好ましくは、200〜400質量部である。焼成酸化亜鉛の配合量が100質量部未満では熱伝導性が悪く、700質量部を超えると架橋前のゴム組成物が硬くなり過ぎ、混練が困難となるだけでなく、防振部材成形後の防振性も悪化する。また、焼成酸化亜鉛の配合量が500質量部以下であると、一般的な構成のモータ固定用マウントに用いられる防振材として防振性を維持できる。焼成酸化亜鉛の配合量が200質量部以上であると、一般的な構成のモータ固定用マウントに用いられる防振材として、大きな放熱性が期待でき、400質量部以下であると、防振性を十分発揮できる硬度でありながら大きな放熱性を得ることができる。
【0020】
基本的には、良熱伝導性物質である焼成酸化亜鉛の配合量を増やせばそれだけ、熱伝導性防振部材としても放熱効果により優れるようになるが、400質量部を越えて配合しても、それほど放熱効果は向上しない。むしろポリシロキサンとの混練が困難となり(成形性の悪化)、さらに、架橋後のシリコーンゴム組成物(熱伝導性防振部材)の硬度が上がりすぎて防振性が悪化するおそれがある。結局、焼成酸化亜鉛の配合量は、成形性と防振性のバランス上、200〜400質量部が最も好ましい。
【0021】
また、熱伝導性防振部材には、ポリオルガノシロキサン100質量部に対して、カーボンブラックが3〜10質量部配合されていることが好ましく、5〜10質量部配合されていることがより好ましい。例えば、熱伝導性防振部材が、さらに電気伝導性を要求される場合に好適である。その場合、カーボンブラックの配合量が3質量部未満では、電気伝導性が十分ではなく、また、配合量が10質量部を越えても電気伝導性の向上はそれほど望めず、むしろ分散不良の問題を引きおこすおそれがある。カーボンブラックとしては、粒子径が小さく、少ない充填量でも優れた電気伝導性を付与できる点から、ケッチェンブラックが好ましい。
【0022】
また、シリコーンゴム組成物には、補強性充填剤、耐熱性向上剤、難燃剤等の各種添加剤を随時付加的に配合してもよい。このようなものとしては、通常、煙霧質シリカ、沈澱法シリカ、けいそう土等の補強性充填剤、酸化アルミニウム、マイカ、クレイ、炭酸亜鉛、ガラスビーズ、ポリジメチルシロキサン、アルケニル基含有ポリシロキサン等が例示される。
【0023】
シリコーンゴム組成物の硬度(JIS K 6249)は、最終的に85°Hs以下であることが好ましく、30〜70°Hsであることがより好ましい。
熱伝導性防振部材を構成するシリコーンゴム組成物の硬度が85°Hs以下であると、高い熱伝導性を有しながら、モータ等の防振部材として防振性に優れる範囲が広い。このシリコーンゴム組成物の硬度が85°Hsを越えると、モータ等の防振部材に用いた場合、十分な防振性を発揮できなくなる。また、シリコーンゴム組成物の硬度が30°Hs未満であると、非常に柔らかいため、例えば、モータ固定用マウントのような防振部材として使用する場合に、モータの固定力が弱くなり、回転反力がかかる場合や回転対称から荷重を受ける場合にモータ自身の振れが大きくなりすぎるおそれがある。一方、特に防振性を必要とする小型軽量モータや、ステッピングモータなどに適用する場合には、シリコーンゴム組成物の硬度は、70°Hs以下であることが好ましい。
【0024】
[モータ固定用マウントの構成]
本発明のモータ固定用マウントの一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、モータ2は、モータ固定用マウントであるマウント1を介して支持部材であるブラケット3に支持されている。
【0025】
ここで、モータ2は、円形箱状の本体21と、この本体21の中心から突出する出力軸22とを備えて構成されている。本体21は、出力軸22と同心状にマウント1との接合面から突出する円形の突出係止部21Aを有している。
ブラケット3は、OA機器等に内蔵されたモータ2を固定するためのものであり、金属板の折り曲げ加工によりL字形状に形成されている。つまりOA機器等のフレームに固定される固定部31と、この固定部31に垂直に設けられた取付部32とを備えて構成されている。取付部32には、円形の通孔32Aが形成されている。
【0026】
図2は、マウント1の側面断面図、図3は、マウント1の正面図、図4は、マウント1の斜視図である。
マウント1は、図1、図2、図4に示されるように、モータ2に固定される第1の連結板11(以下、単に「連結板11」ともいう)と、ブラケット3に固定される第2の連結板12(以下、単に「連結板12」ともいう)と、これらの間に配置されるリング状の熱伝導性防振部材13とを備えている。この熱伝導性防振部材13は、オルガノポリシロキサン100質量部に対し、焼成酸化亜鉛を100〜700質量部、カーボンブラックを3〜10質量部配合したシリコーンゴム組成物を、連結板11と連結板12との間に配置して硬化させたものである。
【0027】
連結板11は、モータ2(図1)の接合面に固定され、図2〜図4に示すように中央にモータ2の出力軸22を挿通させる挿通孔11Aを有する板状部材であり、角部をなめらかにした略菱形の形状をしている。連結板11には、モータ2(図1)を固定するためのネジ孔11Bが形成されている。
【0028】
連結板12は、ブラケット3(図1)の接合面に固定され、図2〜図4に示すように、中央にモータ2の出力軸22を挿通させる挿通孔12Aを有する板状部材であり、連結板11と同様に、角部をなめらかにした略菱形の形状をしている。連結板12には、ブラケット3(図1)を固定するためのネジ孔12Bが形成されている。
【0029】
連結板11および連結板12は、図3および図4に示されるように、間に熱伝導性防振部材13を挟んで90度回転した位置で配置される。この熱伝導性防振部材13は、前記したポリオルガノシロキサン組成物をこれら2枚の連結板11、12の間で硬化・賦形したものである。また、対向する2枚の連結板11、12は、互いに90回転しているので、これら2枚の連結板11、12自身によって、ネジ孔11Bおよび12Bが隠されないようになっており、ブラケット3やモータ2へのネジによる締結を容易にしている。
【0030】
また、図2〜図4に示すように、前記した2枚の連結板11、12の端面には熱伝導性防振部材13と同一の材料(シリコーンゴム組成物)からなる導電性の皮膜111A、121Aが形成されている。この皮膜111A、121Aは熱伝導性防振部材13と連続している。さらに、連結板11および連結板12には、互いに対向する面(モータ2と接合しない面およびブラケット3と接合しない面)にも導電性の被膜111B、121Bが形成されている。被膜111Bは、熱伝導性防振部材13および前記した被膜111Aと連続しており、被膜121Bは、熱伝導性防振部材13および前記した被膜121Aと連続している。
【0031】
なお、本実施形態においては、ポリオルガノシロキサンの硬化によって、連結板11、連結板12および防振部材13を一体としたが、接着剤を使用しても良い。接着剤としては、特に制限はないが、熱伝導性を阻害しないものであることが好ましいことはもちろんである。
【0032】
防振部材13は、図2に示されるように、連結板11の挿通孔11Aの内周面に沿って設けられた圧着部13Aを有している。圧着部13Aは、連結板11の接合面と略同一平面上にまで形成されているものである。この圧着部13Aの内径は、突出係止部21Aの外径よりも小さい。
【0033】
上述のようなモータ固定用マウントの実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)熱伝導性防振部材13が、モータ2から発生する振動を吸収するので、モータ2の振動がブラケット3にほとんど伝達されず、振動等が発生することが少なくなる、すなわち防振性を有する。
【0034】
(2)また、この熱伝導防振部材13は、熱伝導性に優れる焼成酸化亜鉛を所定量含んだシリコーンゴム組成物から構成されており、モータ2が駆動する際に発生する熱は、連結板11、防振部材13、連結板12の順に伝達され、ブラケット3の方まで移動する。従って、ブラケット3、さらには、ブラケット3を介してこれを固定するフレーム等より、モータ2で発生した熱を放出することができるので、駆動後のモータ2を効率的に冷却することができる。
さらに、モータ2自体を冷却するための冷却ファンなどを省略することができるので、簡単な構造でモータ2を冷却することができる。
従って、モータ2から発生する振動を吸収する防振性を有するとともに、簡単な構造で、駆動後のモータ2を効率的に冷却することができるマウント1とすることができる。
【0035】
(3)熱伝導性防振部材13がシリコーンゴム組成物から構成されるため、焼成酸化亜鉛の配合量を多くしてもゴム硬度があまり上がらない。すなわち、焼成酸化亜鉛を多く配合でき、熱伝導性と防振性能のバランスに優れる。
【0036】
(4)熱伝導性防振部材13を構成するシリコーンゴム組成物にカーボンブラックが所定量配合されているので、熱伝導性の向上に加えて電気伝導性も向上し、アース線が無くてもモータに帯電した静電気を効率的に逃がすことが可能となる。
【0037】
(5)2枚の連結板11、12の端面には熱伝導性防振部材13を構成するシリコーンゴム組成物と同一の材料からなる皮膜111A、121Aが形成され、かつ、熱伝導性防振部材13と連続している。それ故、連結板11、12の電気伝導性が低下しても、これらの被膜111A、121Aを伝わってモータ2とブラケット3の間に電気が流れるため、実質的に連結板の導電性を上げたことと同視でき、モータに発生する静電気を効率的に逃がすことができる。連結板11、12を構成する金属には、防錆効果を付与するため非導電性の防錆被膜を形成することがあり、そのような場合により好適である。
【0038】
(6)さらに、連結板11、12には、互いに対向する面(モータ2と接合しない面およびブラケット3と接合しない面)にも導電性の被膜111B、121Bが形成されており、被膜111Bは、熱伝導性防振部材13および前記した被膜111Aと連続しており、被膜121Bは、熱伝導性防振部材13および前記した被膜121Aと連続している。従って、前記した連結板11、12の端面に形成された被膜と熱伝導性防振部材13との間の導通を確実に維持することができる。また、この被膜111B、121Bは、連結板11、12に対して防錆効果も発揮する。
【0039】
(7)圧着部13Aの内径が、突出係止部21Aの外径よりも小さいことにより、圧着部13Aが弾性変形し、突出係止部21Aを締め付けるようにして、圧着部13Aと突出係止部21Aとが嵌合するので、連結板11とモータ2との位置決めを高精度に行うことができる。
【0040】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は、本発明に含まれるものである。
例えば、前記した実施形態では、図2 に示されるように、圧着部13Aは、連結板11の接合面と略同一平面上にまで形成されているものであったが、圧着部13Aは、モータ2と連結板11とが接合する面を越えて突出される突出部を有していてもよい。その場合は、モータ2を連結板11に位置決めする際に、ねじ等で締め付けていくと、突出部が押し潰された状態で連結板11とモータ2とが固定されるから、つまり、ねじ等の締め付け度合いによって、押し潰された突出部を支点としてモータ2の姿勢を調整することができるので、モータ2の出力軸22を連結板11の接合面に対して垂直に固定することができる。
【0041】
さらに、ブラケット3側の連結板12には、ブラケット3(図1)の通孔32Aの内周面に当接して連結板12を位置決めするための凸部が形成されていてもよい。そのような凸部を、挿通孔12Aの周縁全周に、ブラケット3の通孔32A側に突出して形成すると、この凸部が、ブラケット3の通孔32Aの内周面に当接して、ブラケット3に対して連結板12を位置決めする。従って、連結板12とブラケット3との位置決めを容易に行うことができる。また、凸部は、挿通孔12Aの周縁全周に、ブラケット3の通孔32A側に突出して形成されずとも、挿通孔12Aの周縁に数カ所、突起部として設けるようにしてもよい。
また、前記した実施形態においては、連結板11、12の材料として、鋼板をプレス成形した板状体が適するが、連結板11、12の形状は板状に限定されるものではなく、モータ2や支持部材3を固定可能であればよい。例えば、ダイカスト成型などにより形成した立体的な組付け部材を、連結板11、12と同様に適用することも可能である。
その他、本発明を実施する際の具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲内で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
[実施例1]
焼成酸化亜鉛を所定量配合したシリコーンゴム組成物により熱伝導性防振部材を製造し、実施形態の図1〜図4に示すようなモータ固定用マウント1を製造して、熱伝導性の評価を行った。具体的な方法および評価結果を以下に示す。なお、配合量の単位は、特に断らない限り、すべて質量部である。
【0043】
(シリコーンゴム組成物の原料)
焼成酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製「焼成亜鉛華」
ポリオルガノシロキサン:ジーイー東芝シリコーン(株)製「TSE2913U」
【0044】
(シリコーンゴム組成物の製造)
ポリオルガノシロキサン100部に対し、焼成酸化亜鉛を、0部、50部、100部、200部、300部、400部配合するとともに、有機過酸化物からなる架橋剤を各々0.4部添加して混練して、シリコーンゴム組成物(未架橋)を製造した。
【0045】
(モータ固定用マウントの製造)
前記の工程で得られたシリコーンゴム組成物(未架橋)を図2〜図4に示す金属製連結部材11、12に挟んで賦形するとともに、約170℃で約10分間架橋成形を行い、図2〜図4に示すような、シリコーンゴム組成物からなる熱伝導性防振部材13を中間に挟むモータ固定用マウント1を製造した。
【0046】
(熱伝導性の評価)
図1に示すように、モータ2をモータ固定用マウント1を介してブラケット3に固定した後、モータを所定時間駆動させながら、モータ表面の温度が一定となったときのモータの温度を測定した。ここで、モータ固定用マウントの防振部材としてアクリロニトリル・ブタジェンゴム(NBR)を用いたものを、同じ条件でモータを所定時間駆動し、モータ表面の温度が一定となったときの温度を基準として、これとの温度差により熱伝導性を評価した。ちなみに、防振部材としてNBRを用いた場合は、モータ表面の温度は、80〜82℃で一定となった。
【0047】
(評価結果)
図5に、焼成酸化亜鉛の配合量を変えたときのモータ表面温度(温度差)を示す。また、焼成酸化亜鉛の配合量と得られたシリコーンゴム組成物の硬度の関係を表1に示す。表1におけるシリコーンゴム組成物の硬度は、前記した条件と同一の条件で別途製造したものを、デュロメータ硬さ試験により求めたタイプA硬度である(JIS K 6249)。
【0048】
【表1】

【0049】
図5より、焼成酸化亜鉛の含有量が0部、50部では、NBRを用いた防振部材よりもむしろ熱伝導性は悪いが、焼成酸化亜鉛を100部以上配合した系では、モータ2の表面温度が顕著に低下しており、本発明の熱伝導性防振部材13は、NBRを用いた従来の防振部材よりも熱伝導性に優れることが認められた。また、表1からわかるように、本発明の熱伝導性防振部材13では、400質量部まで焼成酸化亜鉛を配合しても、硬度はまだ69と適度な値を示している。
なお、NBRに、焼成酸化亜鉛を100部以上含有させると、硬くなりすぎて防振部材としての利用には適さなかった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様にして、ポリオルガノシロキサン100部に、焼成酸化亜鉛を240部配合し、さらに、カーボンブラックとして、ケッチェンブラック(ライオン(株)製ケッチェンブラック EC600JD)を3部、4部、5部、7部および10部配合して、各々モータ固定用マウント1を製造した。
【0051】
(電気伝導性の評価)
四端子四短針法(JIS−K7194準拠)により、モータ固定用マウント1のモータ側連結板11(皮膜111A)とブラケット側連結板12(皮膜121A)との間で電気抵抗を測定した。測定器としては、三菱化学株式会社製ロレスターGPを用いた。
【0052】
(評価結果)
図6に示すように、ケッチェンブラックを3部以上配合した系で良好な導電性を示すことが認められる。特に5部以上配合した系では非常に優れた導電性を示している。それ故、モータ2に発生した静電気をアース線なしにブラケット3に効率的に逃がすことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の熱伝導性防振部材は、モータ固定用マウントなどの防振部材として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態のマウントをモータおよびブラケットに固定した状態を示す図である。
【図2】前記実施形態のマウントの側面断面図である。
【図3】前記実施形態のマウントの正面図である。
【図4】前記実施形態のマウントの斜視図である。
【図5】熱伝導性を評価するためのグラフである。
【図6】導電性を評価するためのグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1・・・マウント(モータ固定用マウント)
2・・・モータ
3・・・ブラケット(支持部材)
11・・・連結板(第1の連結板)
11A・・・挿通孔
12・・・連結板(第2の連結板)
12A・・・挿通孔
13・・・熱伝導性防振部材
22・・・出力軸
31・・・固定部
32・・・取付部
32A・・・通孔
111A、111B、121A、121B・・・皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサン100質量部に対し、焼成酸化亜鉛を100〜700質量部配合したシリコーンゴム組成物からなることを特徴とする熱伝導性防振部材。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導性防振部材において、
ポリオルガノシロキサン100質量部に対し、さらにカーボンブラックを3〜10質量部配合したことを特徴とする熱伝導性防振部材。
【請求項3】
請求項2に記載の熱伝導性防振部材において、
前記カーボンブラックがケッチェンブラックであることを特徴とする熱伝導性防振部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱伝導性防振部材において、
前記シリコーンゴム組成物の硬度(JIS K 6249)が85°Hs以下であることを特徴とする熱伝導性防振部材。
【請求項5】
モータと、モータを固定する支持部材との接合面に介在させるモータ固定用マウントであって、
前記モータに固定される第1の連結板と、
前記支持部材に固定される第2の連結板と、
前記第1の連結板と第2の連結板との間に配置された請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱伝導性防振部材とを備えることを特徴とするモータ固定用マウント。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ固定用マウントであって、
記第1の連結板と第2の連結板には、ともに中央にモータの出力軸を挿通させる挿通孔が形成され、
前記熱伝導性防振部材は、前記第1の連結板と第2の連結板との間に、前記挿通孔に対して略同心状に配置されることを特徴とするモータ固定用マウント。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のモータ固定用マウントにおいて、
前記2枚の連結板の少なくとも一方の端面には、前記熱伝導性防振部材と同一の材料からなる皮膜が形成され、
前記皮膜は、前記熱伝導性防振部材と連続していることを特徴とするモータ固定用マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−297462(P2007−297462A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125233(P2006−125233)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000136354)株式会社フコク (97)
【Fターム(参考)】