説明

熱処理装置

【課題】被処理物を加熱した後、即座に強制冷却することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱処理装置10は、加熱室11と、加熱室11の下方に配置された冷却液槽30とを備える。加熱室11の底部には第1開口部20が形成され、冷却液槽30の上部には第2開口部31が形成される。第1開口部20はシャッター部材22によって開閉される。被処理物Wが保持部材13によって保持され、保持部材13は、第1,第2開口部20,31を通して加熱室11と冷却液槽30との間で昇降機構14によって昇降する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の加熱と強制冷却とを行う熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、加熱したワークを冷却液に浸積することによって強制冷却する焼入れ兼用炉が開示されている。この焼入れ兼用炉は、前室と冷却室とを一体化した前室兼冷却室と、この前室兼冷却室の側方に配設された加熱炉と、前室兼冷却室の下方に設置された焼入れ槽とから構成されている。
この焼入れ兼用炉は、加熱炉でワークを加熱したあと、このワークを前室兼冷却室へ向けて側方に移動し、その後ワークを下降させて焼入れ槽に浸積することにより焼入れを行っている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−33035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体シリコンを製造する際に発生するスクラップシリコンを再利用するため、スクラップシリコンの塊を加熱した後、強制冷却することによって脆くし、スクラップシリコンの破砕を容易にする技術が知られている。
そこで、例えば、スクラップシリコンの加熱と強制冷却とを行うために、特許文献1のような焼入れ兼用炉を利用することが考えられる。しかし、特許文献1の焼入れ兼用炉は、加熱炉と焼入れ槽との間に前室兼冷却室があり、加熱炉から焼入れ槽へスクラップシリコンを移動させるためには、必ず前室兼冷却室を経由しなければならない。そのため、加熱したスクラップシリコンを焼入れ槽に移動させるまでに時間がかかり、その間にスクラップシリコンが自然冷却されてしまい、スクラップシリコンを十分に脆くすることが困難となる。
【0005】
本発明は、被処理物を加熱した後、即座に強制冷却することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱処理炉は、底部に第1開口部を有する加熱室と、上部に第2開口部を有し、前記加熱室の下方に配置された冷却液槽と、前記第1開口部を開閉するシャッター部材と、被処理物を保持する保持部材と、前記第1,第2開口部を通して前記加熱室と前記冷却液槽との間で前記保持部材を昇降させる昇降機構と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱処理装置は、保持部材によって保持された被処理物を加熱室内で加熱し、その後、シャッター部材を開いて第1開口部を開放し、昇降機構によって保持部材を下降させることにより、被処理物を冷却液槽へ移動させ、冷却液槽内で被処理物を強制冷却する。したがって、加熱室と冷却液槽との間で被処理物を直接移動させることができ、この移動に要する時間を短縮することができる。そのため、本発明の熱処理装置は、加熱後に即座に強制冷却を行うことが要求される被処理物の熱処理に非常に有用である。
【0008】
本発明の熱処理装置は、前記昇降機構によって前記保持部材を下降させたときに、前記第1,第2開口部の少なくとも一方を閉鎖する閉鎖部材が前記保持部材の上部に設けられていることが好ましい。
冷却液槽内の冷却液が水である場合、冷却液槽内に被処理物が投入されることによって水蒸気が発生する。しかし、その水蒸気が一度に大量に加熱室内に浸入することは、炉内部材への影響を避けて安定した操業を確保する観点等から極力避ける必要がある。本発明の場合、昇降機構によって保持部材を下降させ、冷却液槽内に被処理物を投入したときに、第1,第2開口部の少なくとも一方が閉鎖部材によって閉鎖されるので、水蒸気が加熱室内に浸入することを適切に防止することができる。
【0009】
前記閉鎖部材は、第1の筒部と、この第1の筒部に対して上下方向に相対移動可能に連結された第2の筒部とを有しており、前記第1の筒部が、前記保持部材を下降させたときに第1開口部の周縁上面に係合する係合部を上部に有し、前記第2の筒部が、前記保持部材を下降させたときに第2開口部を塞ぐ底壁部を有していることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、昇降機構によって保持部材を上昇させたときは、第1の筒部と第2の筒部とを収縮する方向に相対移動させることにより、閉鎖部材の上下方向の寸法を小さくすることができる。したがって、加熱室内に閉鎖部材の配置スペースを広く確保する必要がなくなり、加熱室を可及的に小型化することができる。また、昇降機構によって保持部材を下降させたときは、第1の筒部の係合部を第1開口部の周縁上面に係合させることにより第1の筒部の下降を規制し、第2の筒部をさらに下降させることによって閉鎖部材を伸長させ、第2の筒部の底壁部によって第2開口部を塞ぐことができる。したがって、第1開口部と第2開口部との距離が離れている場合でも、双方の開口部を閉鎖部材によって閉鎖し、水蒸気が加熱室に浸入することを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理物を加熱した後、即座に強制冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る熱処理装置の概略的な正面断面図、図2は、同熱処理装置の概略的な側面断面図である。
本実施の形態の熱処理装置10は、加熱室11と、この加熱室11の下方に配置された冷却室12と、被処理物Wを保持する保持部材13と、加熱室11と冷却室12との間で保持部材13を昇降させる昇降機構14と、を備えたバッチ処理式の熱処理装置である。
【0013】
加熱室11は、断熱材料により形成された外壁部材16と、外壁部材16の内側に設けられたヒータ17と、シロッコファン等よりなる循環送風機18とを備えている。図2に示すように、外壁部材16の前壁と底壁とにはそれぞれ開口部19,20が形成され、これらの開口部19,20は、それぞれ断熱性を有するシャッター部材21,22によって気密に閉鎖されている。
【0014】
外壁部材16の前壁に形成された開口部19は、加熱室11に対して被処理物Wを出し入れするために用いられる。シャッター部材21は、外壁部材16に上下方向に移動可能(スライド可能)に支持されており、油圧シリンダ等の開閉駆動機構23によって昇降移動される。そして、シャッター部材21は、図2に矢印aで示すように、下降することによって開口部19を閉鎖し、上昇することによって開口部19を開放する。
【0015】
外壁部材16の底壁に形成された開口部(第1開口部)20は、加熱室11と冷却室12とを連通している。シャッター部材22は、冷却室12の上部に設けられたガイドレール24によって、前後方向に移動可能(スライド可能)に支持されている。そして、シャッター部材22は、図示しない開閉駆動機構により前後方向に移動し、図2に矢印bで示すように、前方移動することによって開口部20を閉鎖し、後方移動することによって開口部20を開放する。
【0016】
ヒータ17は、加熱室11内を所望の温度(例えば、約200℃〜700℃)に上昇するように構成されている。循環送風機18は、ファン本体25と、モータ26と、ファン本体25とモータ26とを連動連結するベルト伝動機構27とを備え、モータ26の作動によりファン本体25を回転し、加熱室11内の雰囲気を循環させることにより、ヒータ17が発生した熱を急速に伝達せしめて加熱室11内の温度を均一化する。
【0017】
冷却室12は、その外郭を構成するフレーム部材29を備え、このフレーム部材29は上方及び前方が開放している。この冷却室12内には冷却液槽30が配置され、冷却液槽30内には水等の冷却液が収容されている。冷却液槽30の上部には開口部(第2開口部)31が形成され、この開口部31は冷却液槽30に対して被処理物Wを出し入れするために用いられる。
【0018】
図1に示すように、冷却液槽30の下部には走行輪32が設けられており、この走行輪32は、冷却室12の下部に前後方向に設けられたレール33上を走行する。そして、冷却液槽30は、冷却室12内に収容された収容位置と、冷却室12の前方に引き出された引出位置との間で、前後方向に移動可能に構成されている。
冷却液槽30を収容位置に配置すると、開口部31が加熱室11の開口部20の下方に対応するように位置づけられる。また、冷却液槽30を冷却室12の前側に引き出すと、冷却液の交換や冷却液槽30の清掃等を容易に行うことが可能となる。
図2に示すように、冷却液槽30の後部には排気管35が設けられ、この排気管35によって、冷却液槽30内で発生した冷却液の蒸気が外部に排出される。
【0019】
保持部材13は、被処理物Wを載置した状態で下方から支持することができる限り、任意の形態とすることができる。保持部材13の上部には、閉鎖部材37が設けられており、この閉鎖部材37は、保持部材13を冷却室12へ移動させたときに、加熱室11の開口部20と冷却液槽31の開口部31とを閉鎖する機能を有している。この閉鎖部材37の詳細については後述する。
【0020】
昇降機構14は、保持部材13及び閉鎖部材37の上部に連結された昇降フレーム39と、昇降フレーム39をガイドするガイド機構40と、昇降フレーム39を昇降させる昇降駆動体41と、昇降駆動体41と昇降フレーム39とを連結する索状部材42とを備えている。
昇降フレーム39は、閉鎖部材37から上方に延びる2本のガイドロッド43を有し、このガイドロッド43は、加熱室11の上壁を貫通して上方に突出している。2本のガイドロッド43の上端部は、連結部材44によって連結されている。
【0021】
ガイド機構40は、加熱室11上において、ガイドロッド43を両側から挟持しながら転動する複数個のガイドローラ45を備えている。ガイドロッド43は、ガイドローラ45によって上下方向に垂直に移動することができるように案内される。
昇降駆動体41は油圧シリンダ等よりなり、昇降駆動体41のロッド部46は、索状部材42を介して昇降フレーム39に連結されている。索状部材42はチェーン又はワイヤー等からなり、加熱室11の上部に立設された機構フレーム48の上部に取り付けられたアイドラ47に巻き掛けられている。
【0022】
保持部材13は、昇降駆動体41を作動することによって索状部材42及び昇降フレーム39を介して上下に昇降する。そして、保持部材13は、上昇したときに加熱室11内に配置され、下降したときに冷却室12内に配置される。また、保持部材13は、上昇したときに加熱室11の開口部19と正対するように配置され、シャッター部材21を開くことによって、開口部19を通して被処理物Wを出し入れすることが可能となっている。また、保持部材13は、下降したときに開口部20,31を通して冷却液槽30内に投入される。
【0023】
閉鎖部材37は、内側筒部(第1筒部)50と外側筒部(第2筒部)51とによって2重筒構造に形成されている。外側筒部51は、外筒壁53と、この外筒壁53の下端を塞ぐ底壁部52とからなる。内側筒部50は、外筒壁53の内周面に摺動可能に嵌合する内筒壁54と、この内筒壁54の上端から外方に突出する環状の係合部55とを有している。閉鎖部材37は、内筒壁54と外筒壁53とを摺動させることによって上下方向に伸縮可能である。
【0024】
保持部材13が加熱室11内に配置されているとき、内側筒部50が外側筒部51に対して下方に摺動し、閉鎖部材37は収縮した状態となる。また、保持部材13が加熱室11から冷却室12へ向けて下降すると、下降の途中で内側筒部50の係合部55が開口部20の周縁に係合し、内側筒部50の下降が制限される。さらに、保持部材13が冷却液槽30の内部まで下降すると、内側筒部50に対して外側筒部51が下方に摺動し、閉鎖部材37が伸長する。そして、外側筒部51の底壁部52の外周部が冷却液槽30の開口部31の周縁に係合することによって、双方の開口部20,31が閉鎖部材37によって閉鎖される。
【0025】
以下、本実施の形態の熱処理装置10を用いた熱処理工程について説明する。
熱処理動作の開始前、加熱室11の開口部19,20はそれぞれシャッター部材21,22によって閉鎖され、保持部材13は加熱室11に配置されている。そして、加熱室11内に被処理物Wをセットするには、シャッター部材21を開き、ハンドリフタ等の搬送装置によって開口部19を通して加熱室11内に被処理物Wを装入し、保持部材13に被処理物Wを保持させる。
【0026】
ついで、シャッター部材21を閉じるとともにヒータ17及び循環送風機18を作動し、被処理物Wを所定時間加熱する。加熱が終了すると、シャッター部材22を開くことによって開口部20を開放し、その後、即座に昇降機構14を作動して保持部材13を下降させる。保持部材13に保持された被処理物Wは、開口部20,31を通して冷却液槽30内に投入され、冷却液によって強制冷却される。同時に、開口部20,31は閉鎖部材37によって閉鎖される。
【0027】
被処理物Wの強制冷却が終了すると、昇降機構14が作動して被処理物Wが加熱室11まで上昇する。このとき各開口部20,31から閉鎖部材37が離脱し、各開口部20,31が開放される。保持部材13が完全に加熱室11内に収容されるとシャッター部材22によって開口部20が閉鎖される。強制冷却後の被処理物Wを加熱室11に再び戻すことによって、被処理物Wを乾燥させることができる。ついで、シャッター部材21を開くことによって加熱室11を開放し、開口部19を通して加熱室11から被処理物Wを取り出すことで、1バッチ処理が終了する。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態の熱処理装置10は、加熱室11で加熱した被処理物Wを直接冷却室12へ移動させ、冷却液槽30によって強制冷却しているので、被処理物Wの移動に要する時間を短くすることができる。そのため、移動の間に被処理物Wが自然冷却されることが少なくなり、即座に被処理物Wを強制冷却することができる。したがって、本実施の形態の熱処理装置10は、スクラップシリコンのように加熱後に即座に強制冷却することが要求される被処理物Wの熱処理に有効に使用することができる。
【0029】
本実施の形態の熱処理装置10は、被処理物Wを冷却液槽30に投入するときに、閉鎖部材37が加熱室11及び冷却液槽30の開口部20,31を閉鎖するので、加熱室11内に冷却液の蒸気が浸入するのを防止することができる。そのため、加熱室11内に蒸気が浸入することによる不都合を回避することができる。
【0030】
本実施の形態の熱処理装置10は、閉鎖部材37が上下方向に伸縮可能に構成され、保持部材13を上昇させたときに閉鎖部材37が加熱室11内で収縮するので、加熱室11内で閉鎖部材37の上下方向の寸法を小さくすることができ、加熱室11に閉鎖部材37を収容するための広いスペースを確保する必要がない。したがって、加熱室11を可及的に小型化することができる。一方、保持部材13を下降させたとき、閉鎖部材37が伸長することによって双方の開口部20,31が閉鎖されるので、蒸気が加熱室11内に浸入することを確実に防止することができる。
【0031】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、適宜設計変更可能である。
本発明の熱処理装置10は、スクラップシリコンの加熱及び強制冷却だけでなく、金属(貴金属を含む)、石英、ガラス等の他の物質の加熱及び強制冷却のために使用することができる。また、強制冷却のための冷却液としては、水に限らず、有害な蒸気を発生しない不燃性の液体であれば特に限定されることなく採用することができる。
閉鎖部材37は、外側筒部51と内側筒部50との2重筒構造とするに限らず3重以上の筒構造とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱処理装置の概略的な正面断面図である。
【図2】図1に示される熱処理装置の概略的な側面断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 熱処理装置
11 加熱室
12 冷却室
13 保持部材
14 昇降機構
19 開口部
20 開口部(第1開口部)
21 シャッター部材
22 シャッター部材
30 冷却液槽
31 開口部(第2開口部)
37 閉鎖部材
50 内側筒部(第1の筒部)
51 外側筒部(第2の筒部)
52 底壁部
55 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に第1開口部を有する加熱室と、
上部に第2開口部を有し、前記加熱室の下方に配置された冷却液槽と、
前記第1開口部を開閉するシャッター部材と、
被処理物を保持する保持部材と、
前記第1,第2開口部を通して前記加熱室と前記冷却液槽との間で前記保持部材を昇降させる昇降機構と、を備えていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記昇降機構によって前記保持部材を下降させたときに、前記第1,第2開口部の少なくとも一方を閉鎖する閉鎖部材が前記保持部材の上部に設けられている請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記閉鎖部材は、第1の筒部と、この第1の筒部に対して上下方向に相対移動可能に連結された第2の筒部とを有しており、前記第1の筒部が、前記保持部材を下降させたときに前記第1開口部の周縁上面に係合する係合部を上部に有し、前記第2の筒部が、前記保持部材を下降させたときに前記第2開口部を塞ぐ底壁部を有していることを特徴とする請求項2に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−236367(P2009−236367A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81258(P2008−81258)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】