説明

熱加水分解装置及びそれを用いてなる分析システム

【課題】水蒸気の凝結水からなる水滴の試料用ボートへの付着を防止して、安定して試料の熱加水分解反応を行うことができる熱加水分解装置及びそれを用いてなる分析システムを提供する。
【解決手段】内部に熱加水分解される試料を収容する燃焼管23と、前記燃焼管23内に水蒸気を供給する水蒸気供給機構22と、前記燃焼管23の一端部に連結されるとともに前記水蒸気供給機構22が接続されており、その側周壁に1又は複数の貫通孔213が形成されている内管211と、前記内管211を内部に収容して前記内管211と二重管構造を構成し、かつ、ドレイン214が設けられている外管212とからなる水蒸気導入部21と、を具備し、試料中に含まれるハロゲン元素又は700K以下で気化する低温気化元素を水中に抽出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、安定して試料の熱加水分解反応を行うことができる熱加水分解装置及びそれを用いてなる分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無機物中又は有機物中に含まれるハロゲン元素を定量するためには、まず、熱加水分解法(パイロハイドロリシス(pyrohydrolysis))によりハロゲン元素を水中に抽出し、次いで、得られた抽出水を公知の各種分析法により分析することが行われている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−308111号公報
【特許文献2】特開平2−92802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、熱加水分解装置の燃焼管には水蒸気が導入されるが、水蒸気導入部の内部壁面上には、水蒸気が結露して生じた凝結水からなる水滴が生じやすい。
【0005】
試料を載置した試料用ボートを燃焼管内へ挿入する工程は、水蒸気が安定して発生し始めてから行われるが、水蒸気導入部の内部壁面上に生じた水滴が試料用ボートに付着すると、当該水滴が高温の燃焼管内で急速に加熱されて爆発的に蒸気化し、この結果、吹き飛ばされた試料用ボートが衝突することにより燃焼管が破損したり、試料が飛散したりする場合がある。
【0006】
そこで本発明は、水蒸気の凝結水からなる水滴の試料用ボートへの付着を防止して、安定して試料の熱加水分解反応を行うことができる熱加水分解装置及びそれを用いてなる分析システムを提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る熱加水分解装置は、内部に熱加水分解される試料を収容する燃焼管と、前記燃焼管内に水蒸気を供給する水蒸気供給機構と、前記燃焼管の一端部に連結されるとともに前記水蒸気供給機構が接続されており、その側周壁に1又は複数の貫通孔が形成されている内管と、前記内管を内部に収容して前記内管と二重管構造を構成し、かつ、ドレインが設けられている外管とからなる水蒸気導入部と、を具備し、試料中に含まれるハロゲン元素又は700K以下で気化する低温気化元素を水中に抽出することを特徴とする。ここで、700K以下で気化する低温気化元素とは、700K以下の低温で融解する金属元素であり、例えば、Hg、As、Cd、Pb、Sn、Zn等が挙げられる。
【0008】
このようなものであれば、水蒸気導入部が外管と内管とからなる二重管構造を有しているので、外部の空気に直接接触しない内管は外管に比べて外部の気温の影響を受けにくく、また、内管内部は高温の燃焼管内部と連通しているので、内管表面では結露が起こりにくい。また、仮に、内管の内側周面上に結露による水滴が生じても、内管の側周壁に形成された貫通孔から内管と外管との間隙に流出し、外管に設けられたドレインから外部に排出されるので、多量の水が水蒸気導入部内に溜まることはない。従って、試料が載置された試料用ボートを燃焼管内に挿入する際に、水蒸気導入部の内部壁面上に生じた水滴が試料用ボートに付着して、当該水滴が高温の燃焼管内で急速に加熱されて爆発的に蒸気化し、この結果、吹き飛ばされた試料用ボートが燃焼管壁に衝突することにより燃焼管が破損したり、試料が飛散したりする事態を良好に防止することができる。
【0009】
なお、水蒸気が結露してなる水滴は、水蒸気導入部の内部壁面上に広範囲に亘り付着するので、水蒸気導入部が単一の管状体からなる場合であって、当該管状体に単にドレインが設けられているだけでは、水蒸気導入部内に水が溜まるのを充分に防ぐことは困難である。
【0010】
本発明に係る熱加水分解装置に供する試料としては特に限定されず、セラミックス等の無機物であっても、生体試料等の有機物であってもよく、また、固体であっても、液体であってもよい。なお、本発明に係る熱加水分解装置に供する試料が液体である場合は、外部(例えばホットプレート上)で試料用ボートに載せた試料を加熱し、液体を蒸発せしめた残渣を試料とする。また、本発明に係る熱加水分解装置に供する試料が有機物である場合は、熱加水分解装置の燃焼管の中心部と端部とでは温度勾配があるので、試料用ボートに載せた試料を加熱分解に適切な温度の箇所に置いて分解した後、燃焼管の中心部に挿入する。
【0011】
前記水蒸気供給機構と前記水蒸気導入部とは、前記水蒸気供給機構から直接内管内に水蒸気が導入されるように接続されていてもよいが、前記水蒸気供給機構が、前記外管に接続されていてもよい。
【0012】
このようなものであれば、水蒸気供給機構から外管と内管との間隙に供給された水蒸気は、一部が外管の内側周面上で結露しても、他は内管の側周壁に形成された貫通孔から内管内に流入し燃焼管内に至る。そして、外管の内側周面上に生じた水滴は、外管に設けられたドレインから外部に排出される。また、外側周面上に生じた水滴も外管に設けられたドレインから外部に排出される。
【0013】
本発明者らの検討の結果、燃焼管内に供給する水蒸気量を増やすとハロゲン等の目的元素の回収率が向上することが判明した。しかしながら、大量の水蒸気を供給すると燃焼管の高温部に至るまでに凝結水が発生しやすい。このため、大量の水蒸気を供給する場合は、水蒸気供給機構から燃焼管の上流側端部近傍までの間を100℃以上に保温することが好ましい。一方、試料用ボートの挿入口は安全面では100℃以下であることが好ましい。しかし、100℃以下に冷えた水蒸気導入部内に水蒸気が導入されると、その内部壁面上で水蒸気が結露し水滴が生じる。そして、水の溜まった水蒸気導入部側から試料用ボートを燃焼管内に挿入しようとすると、水蒸気導入部内を通過する際に試料用ボートに水が付着しやすい。また、水蒸気導入部側から試料用ボートを燃焼管内に挿入しようとすると、100℃程度の水蒸気の流れが試料用ボートで妨げられるので、この際にも試料用ボートに凝結水が付着しやすい。そして、水が付着した試料用ボートを燃焼管内に挿入すると爆発的な水の気化が起こり、燃焼管や試料用ボートの破損が起こりやすい。このため、水蒸気導入部側から試料用ボートを燃焼管内に挿入する際には、水蒸気導入部内に付着している凝結水を完全に拭いさる作業等が必要となり、時間がかかる。また、燃焼管内の上流側端部近辺で試料用ボートを一旦留め置き、試料用ボートに付着した凝結水を徐々に蒸発させると、試料によっては気化し、水蒸気導入部内に分解生成物が滞留するので、滞留した分解生成物を下流側の冷却管等で回収するのには更に時間がかかる。
【0014】
これに対して、1000℃以上になる燃焼管の中心部を通過した水蒸気が流入する燃焼管の下流側端部付近の温度は、燃焼管の熱伝導効果も手伝って、燃焼管の上流側端部付近より高温である。このため、燃焼管の下流側端部付近では凝結水は発生しにくい。
【0015】
従って、前記燃焼管の前記水蒸気導入部が連結されている側とは反対側の端部に、前記燃焼管内に試料用ボートを挿入するためのボート挿入口が連設されていれば、1000℃以上に加熱された水蒸気の流れの下流側(上述のとおり、この領域では凝結水は発生しにくい。)から試料用ボートを挿入することができ、また、たとえ試料用ボートの表面で一時的に少量の凝結水が発生してもすぐに気化して水蒸気となるので、試料用ボートへの結露の付着を良好に防ぐことができる。また、このように水蒸気導入部が連結されている側とは反対側から燃焼管内に試料用ボートを挿入することができれば、水蒸気導入部内での凝結水の発生を気にせずに、多量の水蒸気を供給することができるので、熱加水分解効率を高めて目的元素の回収率を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る熱加水分解装置に供する試料が有機物である場合、純酸素ガスを用いて試料を燃焼させると、爆発的な燃焼反応が起こり、その結果、吹き飛ばされた試料用ボートが衝突して燃焼管が破損したり試料が飛散したりすることがある。このため、水蒸気のキャリアガス供給源として、酸素ガス供給源とともに窒素ガス供給源も設け、キャリアガスとして酸素ガスと窒素ガスとを併用して、キャリアガス中の酸素ガス濃度を漸次高めるようにすれば、試料の爆発的な燃焼反応を防止することが可能となるので好ましい。
【0017】
本発明において、ハロゲン元素又は前記低温気化元素を抽出する水は、水蒸気であってもよい。
【0018】
このような本発明に係る熱加水分解装置と、得られた抽出水中のハロゲン元素又は前記低温気化元素を検出する検出器と、を備えていることを特徴とする分析システムもまた、本発明の1つである。
【0019】
本発明に係る分析システムで用いる検出器としては特に限定されず、例えば、F、Cl、Br、I等の各種ハロゲンイオンや前記低温気化元素の各種イオンに選択的に反応するイオン電極や、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)、原子吸光分析装置(AAS)等を挙げることができる。なお、イオン電極は、比較電極と一体となった複合形のものであっても、比較電極が別体となっている単極形のものであってもよい。
【0020】
本発明に係る分析システムにおいて、熱加水分解装置と検出器とを流路で繋いでフローインジェクション分析を行う場合であって、前記検出器としてイオン電極を用いる場合には、前記イオン電極が、その電極面を斜め上方に向けた状態で、前記熱加水分解装置に接続された流路を介して前記抽出水がその電極面上に滴下する位置に配置されていることが好ましい。このようなものであれば、イオン電極の電極面の一部分と比較電極の液絡部とを抽出水中に浸漬させて、比較電極の内部液と抽出水との電気的連絡、及び、液絡部と電極面との電気的連絡を確保しつつ、電極面の他の部分は抽出水の水面上に露出させて、電極面上に抽出水を一滴ずつ滴下することが可能であるので、試料が少量であり、得られる抽出水も少量である場合であっても、極めて少量の抽出水ごとにハロゲン元素等の濃度を測定することができ、高い精度の分析が可能となる。
【0021】
また、イオン電極の電極面に滴下してきた目的元素を含む溶液が電極面に帯電している時間は数秒以内であり、常に新しい抽出水が電極面と接する。そして、その電位が抽出水の電位となるので、抽出された目的元素の濃度変化に対し速やかな応答が可能となる。
【0022】
イオン電極の電極面の一部分と比較電極の液絡部とを抽出水中に浸漬させ、かつ、電極面の他の部分を抽出水の水面上に露出させて、その電極面上に抽出水を滴下することを可能とするためには、前記イオン電極の電極面側端部が、その電極面上に滴下された前記抽出水を内部に貯留することが可能な抽出水貯留容器内に収容されており、当該容器が、容器内の抽出水が所定液量を超えると超過した分の抽出水が流出するように形成された排出口を備えていることが好ましい。
【0023】
なお、この場合、前記容器内でイオン電極の電極面の一部分と比較電極の液絡部とが浸漬している抽出水は、目的元素の濃度の測定済みの緩衝液が主体の液であり、イオン電極の電極面と比較電極との導電性を確保するためのものである。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明によれば、水蒸気の凝結水からなる水滴の試料用ボートへの付着を防止して、安定して試料の熱加水分解反応を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る分析システムの全体構成図。
【図2】同実施形態における水蒸気導入部の構造を模式的に示す縦断面図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る分析システムの全体構成図。
【図4】同実施形態における水蒸気導入部の構造を模式的に示す縦断面図。
【図5】本発明の第3実施形態に係る分析システムの全体構成図。
【図6】他の実施形態に係る分析システムの全体構成図。
【図7】他の実施形態に係る分析システムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態に係る分析システム1は、試料中に含まれるハロゲン又は低温気化元素を水中に抽出して、得られた抽出水中に含まれるこれらの元素を検出するフローインジェクション分析を行うためのものであり、図1に示すように、ハロゲン又は低温気化元素を水中に抽出する熱加水分解装置2と、得られた抽出水中のハロゲン又は低温気化元素を検出するイオン電極3と、を備えている。
【0028】
以下に各部を説明する。
熱加水分解装置2は、上流側から、水蒸気供給機構22が接続された水蒸気導入部21と、燃焼管23と、冷却管24とを備えている。
【0029】
水蒸気導入部21は、例えば石英等からなり、図2に示すように、内管211と内管211を内部に収容する外管212とからなる二重管構造を有しており、内管211の側周壁には、例えばφ1mm程度の貫通孔213が上部及び下部にそれぞれ複数個ずつ形成されており、一方、外管212には、その横部に水蒸気供給機構22の水蒸気供給管222が接続されるとともに、その下部にはドレイン214が設けられている。なお、図2においては、水蒸気導入部21の構造の理解が容易となるように、水蒸気供給管222の接続位置と、ドレイン214の設置位置と、貫通孔213の形成位置とが、それぞれ水蒸気導入部21の軸方向において一致するように表されているが、前記軸方向における各位置は必ずしも一致する必要はない。また、水蒸気供給管222は、水蒸気導入部21の外管212の上部に接続されていてもよい。ドレイン214の下流側には、S字管215が連結されており、外管212の内側周面等に接触した水蒸気が結露することにより生じた凝結水は、ドレイン214に流れ込み、S字管215を経由して後述する貯水容器221に戻される。
【0030】
水蒸気導入部21の下流側端部は燃焼管23に連結されており、一方、上流側端部は例えばシリコーン製のキャップ216により閉塞されている。そして、燃焼管23内に試料用ボート232を挿入するには、当該キャップ216をはずして開口された水蒸気導入部21の上流側端部から試料用ボート232を挿入し、図示しない挿入用の棒を用いて燃焼管23内に押し入れる。
【0031】
なお、燃焼管23の上部に開閉可能な試料用ボート232挿入口が形成されていて、当該挿入口から試料用ボート232を燃焼管23内に挿入するように構成してもよい。
【0032】
水蒸気供給機構22は、内部に水を収容した貯水容器221を備えており、当該貯水容器221には、貯水容器221と水蒸気導入部21とを連通する水蒸気供給管222と、貯水容器221を加熱する水蒸気用ヒータ223とが設けられている。なお、貯水容器221としては、例えば、フラスコ等が用いられ、一方、水蒸気用ヒータ223としては、例えば、マントルヒータ等が用いられる。水蒸気供給管222は、水蒸気導入部21の外管212に横方向から接続されており、水蒸気用ヒータ223により貯水容器221の内部に収容された水が加熱されて水蒸気が発生すると、当該水蒸気は、水蒸気供給管222を介して水蒸気導入部21に供給される。なお、貯水容器221内の水量が変化すると、水蒸気発生量も変動し、これに伴い抽出水の生成速度も変化するが、上述のとおり、ドレイン214から排出された凝結水がS字管215を経由して貯水容器221に戻されることにより、貯水容器221内の水量の変化を緩和することができ、ひいては、抽出水の生成速度の変動を抑制することもできる。
【0033】
また、貯水容器221には、例えば酸素ボンベ等からなる酸素ガス供給源224が、酸素供給管225を介して接続されており、当該酸素ガス供給源224から貯水容器221内に収容された水に供給された酸素が水蒸気のキャリアガスとして機能する。酸素供給管225上には圧力計226と流量計227とが設けられており、これらの圧力計226及び流量計227により酸素ガス供給源224から供給される酸素ガス量の調節が行われている。なお、上述のS字管215の下流側端部は酸素供給管225に接続されているが、S字部分に溜まった凝結水が栓として機能するので、酸素ガスがドレイン214内に流入することはない。
【0034】
燃焼管23は、例えばアルミナや石英等からなる管状体であり、その上流側端部は水蒸気導入部21の下流側端部に嵌入され連結されて、燃焼管23内部と水蒸気導入部21の内管211内部とが連通するように構成してあり、一方、下流側端部は後述する冷却器24に連結されている。水蒸気導入部21と燃焼管23との連結体は、水蒸気導入部21の上流側端部を最頂部として燃焼管23の下流側端部に向かって傾斜しており、水蒸気導入部21から導入された水蒸気が燃焼管23に流入しやすいように構成されている。また、水蒸気導入部21と燃焼管23との連結部では、内側周面には段部が形成されており、水蒸気導入部21の内管211の内側周面上に水滴が付着しても、それが燃焼管23内に流れ込みにくいように構成されている。燃焼管23の周囲には、燃焼管23内の温度を所定温度まで上昇させるための、例えば1200℃程度まで昇温可能な電気炉等からなる加熱炉231が設けられており、一方、燃焼管23の内部には、例えばニッケルや白金等からなり、その上に試料を載置するための試料用ボート232が挿入される。加熱炉231には温調器233が設けられており、これにより加熱炉231の温度が調節されている。
【0035】
燃焼管23と冷却管24とは連結管25を介して接続されている。燃焼管23の下流側端部は連結管25の上流側端部に嵌入されており、また、連結管25の下流側端部は冷却管24の上流側端部に嵌入されており、いずれの連結部においても、水が溜まりにくいように構成されている。なお、連結管25にはその外側周面に対向する位置に、側面から風を送って空冷し水蒸気を凝結させるための図示しないファンが設けられている。また、連結管25は、その内側周面に付着した水滴が流れ落ちずに残留することを防ぐために、径が細く形成されている。
【0036】
冷却管24は、熱加水分解された試料から抽出されたハロゲン又は低温気化元素を含有する水蒸気を冷却して、イオン電極3に供する抽出水を得るためのものであり、例えば内部を冷却水が流れるグラハム冷却管等からなる。冷却管24により得られた抽出水は、本実施形態においては、コック付メスシリンダ26により採取され、次いで、その下方に設けられた吸引カップ27に貯留されて、例えばペリスタポンプ等からなるポンプ29が設けられた抽出水供給管28を介してイオン電極3に供給される。また、コック付メスシリンダ26に水面センサを付け、そのセンサの働きで電気的なバルブの開閉を行うこともできる。更に、電子天秤で抽出水の液量の計測を行うことは周知のことである。
【0037】
イオン電極3は、比較電極と一体となった複合形のものであって、その電極面側端部は、電極面31を斜め上方に向けた状態で、抽出水を貯留することが可能な容器33の下部に挿嵌されている。当該抽出水貯留容器33の上部には抽出水供給管28が接続されており、抽出水供給管28から滴下された抽出水は、イオン電極3の電極面31上に落下し、その後、当該容器33内に貯留される。抽出水貯留容器33には、更に、所定の位置(AA´線で表される所定の高さ)に排出口331が形成されており、容器33内の抽出水が所定液量(AA´線で表される所定の高さ)を超えると超過した分の抽出水が排出口331から流出し、イオン電極3の電極面31の一部分と液絡部32とは常に抽出水中に浸漬する一方、電極面31の他の部分は常に抽出水の水面上に露出するように構成してある。なお、電極面31全体が抽出水中に浸漬するように構成してあると、検出対象であるハロゲン元素等が抽出水中で希釈されてしまい、特に試料が少量である場合、抽出水中の微量なハロゲン元素等を検出することが困難になる。また、新しい少量の抽出液が電極面31上に滴下しても、残留している液に含まれるイオン濃度に影響を受ける。抽出水貯留容器33の排出口331から流出した抽出水は、排出口331に接続された排出管34を経由して廃液タンク4に流れ込み、そこに貯留された後、適宜廃棄される。
【0038】
抽出水貯留容器33には、また、抽出水のpHを所定の値に調整するための基準液を添加するために、内部に基準液を収容した基準液供給容器35が、ペリスタポンプ等からなるポンプ37が設けられた基準液供給管36を介して接続されている。当該基準液は、より具体的には、測定対象であるハロゲン元素等のイオンを含む緩衝溶液であり、応答速度を速めるために当該緩衝溶液でイオン電極と比較電極との間の電導度を確保し、抽出液のpHによる感度変化を低減するものである。なお、基準液供給管36に設けられたポンプ37は抽出水供給管28に設けられたポンプ29と同期して動作するように制御されている。
【0039】
イオン電極3には、また、例えばKCl飽和溶液からなる内部液を供給するために、内部に内部液を収容した内部液供給容器38が、内部液供給管39を介して接続されている。当該内部液供給容器38は、鉛直方向において液絡部32より上方に配置されている。このような位置に内部液供給容器38が設けられていることにより、イオン電極3が、通常の使用状態とは逆に、電極面31及び液絡部32が上向きになるように設置されていても、内部液がイオン電極3へ継続的に供給されるので、液絡部32からの内部液の流出が滞らず、内部液と抽出水との液間電位差の変動を良好に抑えることができる。
【0040】
イオン電極3には、更に、イオン計本体5、イオン計本体5で得られた測定データ等を時系列的に記録するデータロガー又はADコンバータ6、及び、データロガー又はADコンバータ6から送信された測定データを演算処理等する情報処理装置7が接続されている。
【0041】
次に、このように構成した分析システム1を用いて、CaFを試料とし、フッ素元素の濃度を測定する手順について説明する。なお、ここで、イオン電極3としては、Fに選択的に反応するフッ化物イオン電極3を用いる。
【0042】
まず、加熱炉231により燃焼管23を1000℃程度に加熱するとともに、水蒸気用ヒータ223により水が収容された貯水容器221を加熱し、水蒸気を発生させて、当該水蒸気を酸素ガスとともに燃焼管23内に供給する。次いで、水蒸気導入部21の上流側端部に嵌合されたキャップ216を外し、そこから所定量のCaFを載置した試料用ボート232を挿入し、燃焼管23内に設置する。
【0043】
試料用ボート232が設置された燃焼管23内では以下のような反応が起こる。
まず、燃焼管23内に供給された水蒸気は熱解離し、これによりHとOHとが生じる。
2HO→2H+2OH
次いで、HとOHとによりCaFの熱加水分解が起こる。
CaF+2H+2OH→Ca+2HF+2OH→Ca(OH)+2HF→
CaO+HO(g)↑+2HF(g)↑
【0044】
HFと混ざり合った水蒸気を冷却管24で冷却することにより、HFが溶解した抽出水を得ることができる。なお、抽出水中において、HFはFとHとに分離している。
【0045】
そして、得られた抽出水中のF濃度がイオン電極3により測定される。更に、測定されたF濃度と、抽出水の総体積と、分析に供した試料の質量のデータを用いて、情報処理装置7により所定の演算処理を行うことによって、試料中のフッ素元素の濃度を求めることができる。
【0046】
したがって、このように構成した本実施形態に係る分析システム1によれば、水蒸気導入部21が外管212と内管211とからなる二重管構造を有しているので、外部の空気に直接接触しない内管211は外管212に比べて外部の気温の影響を受けにくく、また、内管211内部は高温の燃焼管23内部と連通しているので、内管211表面では結露が起こりにくい。このため、水蒸気供給機構22から外管212と内管211との間隙に供給された水蒸気は、一部が外管212の内側周面上で結露しても、他は内管211の側周壁に形成された貫通孔213から内管211内に流入し燃焼管23内に至る。そして、外管212の内側周面上に生じた水滴は、外管212に設けられたドレイン214から外部に排出される。また、仮に、内管211の側周面上に結露による水滴が生じても、外側周面上に生じた水滴は外管に設けられたドレイン214から外部に排出される。一方、内管211の内側周面上に生じた水滴は、内管211の側周壁に形成された貫通孔213から、内管211と外管212との間隙に流出し、同様に外管212に設けられたドレイン214から外部に排出されるので、内管211の内側周面上に結露による水滴が生じても、多量の水が水蒸気導入部21内に溜まることはない。従って、試料が載置された試料用ボート232を燃焼管23内に挿入する際に、水蒸気導入部21の内部壁面上に生じた水滴が試料用ボート232に付着して、当該水滴が高温の燃焼管23内で急速に加熱されて爆発的に蒸気化し、この結果、吹き飛ばされた試料用ボート232が衝突することにより燃焼管23が破損したり、試料が飛散したりする事態を良好に防止することができる。
【0047】
また、イオン電極3は、電極面31を斜め上方に向けた状態で、抽出水供給管28から滴下する抽出水が電極面31上に落下する位置に配置され、かつ、イオン電極3の電極面側端部は、電極面31上に滴下された抽出水を内部に貯留することが可能な抽出水貯留容器33内に収容されており、当該容器33は、容器33内の抽出水が所定液量(AA´線の高さ)を超えると超過した分の抽出水が流出するように形成された排出口331を備えている。このため、イオン電極3の電極面31の一部分と液絡部32とを抽出水中に浸漬させて、比較電極の内部液と抽出水との電気的連絡、及び、液絡部32と電極面31との電気的連絡を確保しつつ、電極面31の他の部分は抽出水の水面上に露出させて、電極面31上に抽出水を一滴ずつ滴下することが可能である。
【0048】
このため、試料が少量であり、得られる抽出水も少量である場合であっても、極めて少量の抽出水ごとにハロゲン元素等の濃度を測定することができ、高い精度の分析が可能となる。また、イオン電極3の電極面31に滴下してきたハロゲン等の目的元素を含む溶液が電極面31に滞在している時間は数秒以内で常に新しい抽出水が電極面31と接する。そして、その電位が抽出水の電位となるので抽出された目的元素の濃度変化に速やかに応答することが可能となる。
【0049】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下においては、第1実施形態とは異なる点を中心に述べ、第1実施形態と同様な点については図中で同一の符号を用いることにより説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る分析システム1では、図3に示すように、水蒸気供給管222が水蒸気導入部21の上流側端部に挿入されたキャップ216を貫通して直接水蒸気導入部21の内管211内に挿入されており、水蒸気が上流側端部から水蒸気導入部21内に導入されるように構成されている。
【0051】
また、水蒸気導入部21の内管211の側周壁には、図4に示すように、その最下部に貫通孔213が形成されている。
【0052】
更に、ドレイン214の下流側には、廃液タンク217が設けられており、内管211の内側周面等に接触した水蒸気が結露することにより生じた凝結水は、貫通孔213から内管211と外管212との間隙に流れ込み、更にドレイン214を経由して廃液タンク217に排出され、そこに貯留された後、適宜廃棄される。
【0053】
このように本実施形態では第1実施形態とは異なり、ドレインから排出された凝結水を貯水容器221には戻さず廃棄しているが、例えば試料中に大量の目的元素が含まれており、当該目的元素が燃焼管23内で急激に気体として発生した場合、目的元素が燃焼管23内全体に拡散し、その一部は凝結水に取り込まれドレイン214から排出される可能性がある。そして、このようにドレイン214から排出された凝結水に目的元素が取り込まれた場合、当該凝結水を貯水容器221に戻すと、目的元素により汚染された水蒸気が燃焼管23内に供給され、試料中に目的元素が含まれていない場合も水蒸気中の目的元素がブランクとして検出され、その値が分析回数に応じ逐次変化すると、分析値の不確かさが増大することなる。従って、大量の水蒸気を供給し目的元素の回収率を向上させる場合は、このようなコンタミを防ぐためにドレイン214からの排出水は再利用しない方が好ましい。
【0054】
また、酸素ガス供給源224から供給された酸素は、貯水容器221の上部空間内に充満した水蒸気内に直接供給される。第1実施形態のように貯水容器221内に収容された水に酸素を供給するのではなく、このように貯水容器221の上部空間内に充満した水蒸気内に直接酸素を供給しても、供給された酸素は水蒸気のキャリアガスとして機能することができる。
【0055】
更に、連結管25は略T字状に形成されており、途中から枝分かれして下方に延伸した分岐管25aが冷却管24の上流側端部に嵌入され、一方、連結管25の下流側端部251は例えばシリコーン製のキャップ252により閉塞されている。当該キャップ252にはOリング254が挿設された貫通孔が設けられており、当該貫通孔には試料用ボート232を燃焼管23内に押し入れるための挿入棒253が挿入されている。そして、燃焼管23内に試料用ボート232を挿入するには、当該キャップ252をはずして開口された連結管25の下流側端部251を試料用ボート232の挿入口とし、ここから試料用ボート232を挿入した後、キャップ252により下流側端部251を封止し、次いで、キャップ252に設けられた挿入棒253を用いて試料用ボート232を燃焼管23内に押し入れる。
【0056】
このように構成した本実施形態に係る分析システム1によれば、第1実施形態のように、外管212と内管211との間隙に供給された水蒸気が内管211の側周壁に設けられた貫通孔213を通して内管211内に導入されるのに比べて、大量の水蒸気を効率的に水蒸気導入部21の内管211内に導入することができるので、熱加水分解効率を高め目的元素の回収率を向上させることができる。
【0057】
また、水蒸気の供給量を増やすと、内管211の内側周面上に結露が発生しやすくなる場合もあるが、内管211の側周壁の最下部に貫通孔213が形成されていれば、仮に、内管211の内側周面上に結露による水滴が生じても、当該水滴は、貫通孔213から内管211と外管212との間隙に流出し、更に外管212に設けられたドレイン214から外部に排出されるので、多量の水が水蒸気導入部21内に溜まることはない。
【0058】
更に、連結管25の下流側端部251から試料用ボート232を燃焼管231内に挿入することにより、燃焼管23内への挿入時に試料用ボート232に水滴が付着することに伴う問題を一挙に解消することができる。これは、1000℃以上に加熱された燃焼管23を通過した水蒸気は連結管25内で多少冷やされても100℃以下にはならないため、連結管25内では水蒸気の凝結が極めて起こりにくいからである。また、このように構成することにより、燃焼管23内に試料用ボート232を挿入する際、水蒸気導入部21の内管211の内側周面等に凝結水が付着していても、これを拭う作業は不要となるので、分析時間の短縮を図ることも可能となる。
【0059】
<第3実施形態>
続いて本発明の第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下においては、第1実施形態及び第2実施形態とは異なる点を中心に述べ、第1実施形態及び第2実施形態と同様な点については図中で同一の符号を用いることにより説明を省略する。
【0060】
本実施形態に係る分析システム1では、図5に示すように、ハロゲン等の目的元素を検出する検出器として、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)8が用いられている。そして、連結管25の途中から枝分かれして上方に延伸した分岐管25bの開口端部が、例えば断面概略椀形状をなすプラズマトーチ81の試料導入管811の開口端部と対向して配置されている。
【0061】
本実施形態では水蒸気中に気化した状態の目的元素を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)8に供給するので、第1実施形態及び第2実施形態とは異なり、抽出水を得るための冷却管4は不要である。
【0062】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0063】
例えば、本発明で用いられる検出器は、イオン電極3や誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)8に限定されず、例えば原子吸光分析装置(AAS)等であってもよい。
【0064】
分析対象である試料が有機物である場合、純酸素ガスを用いて燃焼させると、爆発的な燃焼反応が起こり、試料用ボート232が衝突して燃焼管23が破損したり、試料が飛散したりすることがある。このため、図6に示すように、酸素ガス供給源224とともに窒素ガス供給源228も設け、キャリアガスとして酸素ガスと窒素ガスとを併用して、キャリアガス中の酸素ガス濃度を徐々に高めることにより、試料の爆発的な燃焼反応を防止することが好ましい。
【0065】
水蒸気導入部21には、結露による水滴の発生をより効果的に抑制するために、外管212の周囲に、2重管部分を100℃以上に加温することが可能なヒータが設けられていてもよい。また、水蒸気供給管222の周囲に100℃以上に加温することが可能なヒータが設けられていてもよい。このように水蒸気供給管222及び水蒸気導入部21を100℃以上に保温することは、特に大量の水蒸気を供給する場合に好適である。
【0066】
前記各実施形態では、別体として形成された水蒸気導入部21、燃焼管23、連結管25が連結されて用いられているが、水蒸気導入部21、燃焼管23及び連結管25は予め一体に形成されたものであってもよい。
【0067】
第2実施形態や第3実施形態のように水蒸気流の下流側から燃焼管23内に試料用ボート232を挿入する場合、水蒸気導入部21の内管211の内側周面上に凝結水が生じても、当該凝結水が試料用ボート232に付着して燃焼管23内で爆発的な気化を起こし、燃焼管23や試料用ボート232の破損を引き起こすと言った問題は起こらないので、このような観点から言えば、水蒸気導入部21は二重管構造でなくともよく、図7に示すように、一重管からなるものであってもよい。
【0068】
その他、本発明は前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1・・・分析システム
2・・・熱加水分解装置
21・・・水蒸気導入部
211・・・内管
212・・・外管
213・・・貫通孔
214・・・ドレイン
22・・・水蒸気供給機構
23・・・燃焼管
3・・・イオン電極
8・・・誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に熱加水分解される試料を収容する燃焼管と、
前記燃焼管内に水蒸気を供給する水蒸気供給機構と、
前記燃焼管の一端部に連結されるとともに前記水蒸気供給機構が接続されており、その側周壁に1又は複数の貫通孔が形成されている内管と、前記内管を内部に収容して前記内管と二重管構造を構成し、かつ、ドレインが設けられている外管とからなる水蒸気導入部と、を具備し、
試料中に含まれるハロゲン元素又は700K以下で気化する低温気化元素を水中に抽出することを特徴とする熱加水分解装置。
【請求項2】
前記水蒸気供給機構が、前記外管に接続されている請求項1記載の熱加水分解装置。
【請求項3】
前記燃焼管の前記水蒸気導入部が連結されている側とは反対側の端部に、前記燃焼管内に試料用ボートを挿入するためのボート挿入口が連設されている請求項1又は2記載の熱加水分解装置。
【請求項4】
水蒸気のキャリアガス供給源として、酸素ガス供給源と窒素ガス供給源とを備えている請求項1、2又は3記載の熱加水分解装置。
【請求項5】
ハロゲン元素又は前記低温気化元素を抽出する水が、水蒸気である請求項1、2、3又は4記載の熱加水分解装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の熱加水分解装置と、
得られた抽出水中のハロゲン元素又は前記低温気化元素を検出する検出器と、を備えていることを特徴とする分析システム。
【請求項7】
前記検出器が、イオン電極であり、
前記イオン電極が、その電極面を斜め上方に向けた状態で、前記熱加水分解装置に接続された流路を介して前記抽出水がその電極面上に滴下する位置に配置されている請求項6記載の分析システム。
【請求項8】
前記イオン電極の電極面側端部が、その電極面上に滴下された前記抽出水を内部に貯留することが可能な抽出水貯留容器内に収容されており、当該容器が、容器内の抽出水が所定液量を超えると超過した分の抽出水が流出するように形成された排出口を備えている請求項7記載の分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−257381(P2011−257381A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44879(P2011−44879)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】