説明

熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法

【課題】収縮仕上がり性が好適で、ボトルの胴部等に装着する表示用のラベルにしたときに端部に歪みがなく、また、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】主としてポリエステル樹脂からなるフィルムの製造方法であって、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂からなる空洞含有層の両方の面に、該空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を設けた3層体からなり、フィルムの全光線透過率が40%以下、かつ、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下である熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、特に、飲料用ボトル等の胴部に装着する表示用のラベル(環状のラベルを意味する、以下同じ)にしたときに収縮仕上がり性が好適で、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、ボトルの内容物を紫外線から保護することを目的として収縮ラベルを使用するケースが増えている。従来は、紫外線を遮断することができるポリ塩化ビニル製の収縮フィルムが用いられてきたが、他素材により紫外線を遮断することができる収縮フィルムに対する要求が強まっている。具体的な光線遮断性に対する要求品質は内容物によって異なるが、内容物が食品・飲料等の場合、長波長領域の紫外線である360〜400nmの波長で変質や着色等が起こるため長波長領域、特に380〜400nmにおける光線遮断性が重要視されている。
【0003】
このようなラベルとしては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等からなる熱収縮性フィルムが主として用いられてきたが(特開平11−188817号公報等)、ポリ塩化ビニルについては、近年、廃棄時に焼却する際の塩素系ガス発生が問題となり、またポリスチレンについては印刷が困難である等の問題があり、最近は熱収縮性ポリエステル系フィルムの利用が注目を集めている。しかしながら、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは上記の長波長領域の紫外線を遮断する実用的なフィルムは知られていなかった。
【0004】
また、ペットボトルにおいては、内容物保護のために樹脂に染料や顔料を添加した着色ボトルが用いられていることがある。しかしながら、着色ボトルは回収してリサイクルするときに全回収物に広がって着色するため、再利用に不向きであることからその代替案が検討されて来ている。その1つの方法として無着色ボトルを利用し、熱収縮性の着色ラベルをボトル全体に装着することで、ボトルを着色したのと同じ効果を出すことが検討されてきた。
【0005】
さらに、従来、ボトルに装着する着色ラベルとして熱収縮性フィルムを使用する場合は、通常、ラベルの内側に図柄印刷した後に白色印刷を施しているが、印刷インキの厚みは通常3μm程度であり紫外線を遮断をするには十分でなかった。さらに、白色印刷を2回実施することで紫外線を遮断することを試みているが、品質的な要因(インキ層の厚みによる収縮特性の変化等)のほかにラベル製造工程の複雑さ、納期の長期化等の不利があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの有する問題点を解決し、収縮仕上がり性が好適で、ボトルの胴部等に装着する表示用のラベルにしたときに端部に歪みがなく、また、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】

上記目的を達成するため、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主としてポリエステル樹脂からなるフィルムの製造方法であって、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂からなる空洞含有層の両方の面に、該空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を設けた3層体からなり、フィルムの全光線透過率が40%以下、かつ、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下であることを特徴とする。
【0008】
ここで、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率とは、試料を80℃の温湯中に10秒間浸漬後25℃の水中に10秒浸漬した後の最大収縮方向の温湯収縮率をいい、最大収縮方向とは、主収縮方向とその直交方向のそれぞれの80℃における温湯収縮率のうち、大きい収縮率を示す方の収縮方向をいう。
温湯収縮率=((収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ)×100(%)
【0009】
上記の構成からなる本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、収縮仕上がり性が好適で、ボトル等の胴部に装着する表示用のラベルにしたときに端部に歪みがなく、また、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する。
【0010】
この場合、80℃における最大収縮方向と直交する方向の破断伸度を、30℃、湿度85%RH雰囲気下で28日間保持後5%以上とすることができる。
【0011】
またこの場合、熱収縮性ポリエステル系フィルムを溶剤接着性を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムによれば、収縮仕上がり性が好適で、ボトル等の胴部に装着する表示用のラベルにしたときに端部に歪みがなく、また、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの実施の形態を説明する。
【0014】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの全光線透過率が40%以下、かつ、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下であり、そのことにより上記目標が達成される。
【0015】
また、本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主にポリエステル樹脂からなり、実質的にポリエステル樹脂又は不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂から構成する。上記ポリエステル樹脂としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを構成成分とするポリエステル又はポリエステルとポリエステル系エラストマーとからなるポリエステル組成物を示すことができる。なかでも、ポリエステルとポリエステル系エラストマーとからなるポリエステル組成物を用いるのが好ましい。この場合、ポリエステル組成物において、ポリエステルとポリエステル系エラストマーとの配合割合は、両者合計量に対して、通常、前者が50〜99重量%程度、特に70〜97重量%で、後者が1〜50重量%程度、特に3〜30重量%程度であるのが好適である。
【0016】
上記ポリエステルを製造するのに用いる芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等が挙げられる。また、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価のカルボン酸を必要に応じて併用してもよい。
【0017】
上記ポリエステルを製造するのに用いるグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等のアルキレングリコール等が挙げられる。また、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等を必要に応じて併用してもよい。
【0018】
本発明において用いるポリエステルは、1種類でもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。熱収縮特性の点からは、ガラス転移温度(Tg)の異なる2種以上のポリエステルを混合して使用することが好ましい。ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステル(2種以上の共重合ポリエステルであってもよい)を混合して使用することが好ましいが、共重合ポリエステル同士の組み合わせであってもよい。また、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を組み合わせたり、これらと他の共重合ポリエステルを組み合わせて用いることもできる。本発明において用いるポリエステルの極限粘度は、好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.60以上、特に好ましくは0.65以上である。ポリエステルの極限粘度が0.50未満であると結晶性が高くなり、十分な収縮率が得られなくなり、好ましくない。
【0019】
ポリエステルは常法により溶融重合することによって製造できるが、ジカルボン酸とグリコールとを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステル体とグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法等が挙げられ、任意の製造法を適用することができる。また、その他の重合方法によって得られるポリエステルであってもよい。ポリエステルの重合度は、固有粘度にして0.3〜1.3dL/gのものが好ましい。
【0020】
ポリエステルには、着色やゲル発生等の不都合を起こさないようにするため、酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム、チタン化合物等の重合触媒以外に、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のMg塩、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のCa塩、酢酸マンガン、塩化マンガン等のMn塩、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等のZn塩、塩化コバルト、酢酸コバルト等のCo塩を、ポリエステルに対して、各々金属イオンとして300ppm以下、リン酸又はリン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル等のリン酸エステル誘導体を燐(P)換算で200ppm以下、添加してもよい。
【0021】
また、本発明において用いるポリエステル系エラストマーは、例えば、高融点結晶性ポリエステルセグメントと低融点軟質重合体セグメントとからなるポリエステル系ブロック共重合体である。
【0022】
ここで、ポリエステル系ブロック共重合体の高融点結晶性ポリエステルセグメントとしては、主としてエステル結合又はエステル結合とエーテル結合とからなるポリエステル単位が好ましいものとして挙げられ、少なくとも1種の芳香族核を有する基を主たる繰り返し単位とし、かつ、分子末端に主として水酸基を有するものが用いられる。この高融点結晶性ポリエステルセグメントは、通常、融点が200℃以上のものが好ましく、その好ましい具体例としては、エチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのエステル単位;エチレンオキシベンゾエート、p−フェニレンビスオキシエトキシテレフタレートなどのエステルエーテル単位;主としてテトラメチレンテレフタレート又はエチレンテレフタレートからなり、他にテトラメチレンイソフタレート又はエチレンイソフタレート、テトラメチレンアジペート又はエチレンアジペート、テトラメチレンセバケート又はエチレンセバケート、1,4一シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、テトラメチレン−p−オキシベンゾエート又はエチレン−p−オキシベンゾエートなどの共重合成分を有する共重合エステル単位又は共重合エステルエーテル単位などである。なお、共重合の場合にはテトラメチレンテレフタレート又はエチレンテレフタレート単位が60モル%以上含まれることが好ましい。
【0023】
また、ポリエステル系ブロック共重合体の低融点軟質重合体セグメントは、通常、融点が80℃以下のものが好ましく、分子量は400以上、好ましくは400〜8000であって、その好ましい具体例としては、ポリエーテルグリコール類及びポリラクトン類を挙げることができる。ポリエーテルグリコール類としては、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシ−1,2−プロピレングリコール等を挙げることができ、これらの2種以上を併用することもできる。また、ポリラクトン類としては、ポリカプロラクトン、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン等を挙げることでき、これらの2種以上を併用することもできる。なかでも、ポリ−ε−カプロラクトン等のポリラクトンを低融点軟質重合体セグメントに用いたポリエステル系エラストマーが特に好ましい。
【0024】
上記高融点結晶性ポリエステルセグメントと低融点軟質重合体セグメントとの共重合割合は、適宜変えることができる。一般に、高融点結晶性ポリエステルセグメントの割合が増大すると、得られるポリエステル系エラストマーは硬くなり、機械的特性が向上する。低融点軟質重合体セグメントの割合が増大すると、得られるポリエステル系エラストマーは軟質化し、低温特性が向上する。従って、機械的強度、低温特性などのバランスを考慮しながら、両者の共重合割合を選定することができる。標準的な配合比率としては、重量比で高融点結晶性ポリエステルセグメントと低融点軟質重合体セグメントが97/3〜5/95、より一般的には95/5〜30/70の程度の範囲である。
【0025】
フィルムが全光線透過率40%以下となって、フィルムに光線遮断性を付与するためには、例えば、フィルムを構成するポリエステル樹脂中に、無機微粒子又は有機微粒子等の不活性微粒子をフィルム重量に対して0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%含有させることが好適である。不活性微粒子を0.1重量%以上含有させることが光線遮断性を得るために好ましく、一方、20重量%を超えるとフィルム強度が低下して製膜が困難になる傾向にある。
【0026】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステル樹脂中に不活性微粒子を含有させる場合には、不活性微粒子はポリエステル重合前に添加してもよいが、通常は、ポリエステル重合後に添加する。不活性微粒子としては、例えば、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、テレフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、カーボンブラック等の公知の不活性無機微粒子、ポリエステル樹脂の溶融製膜に際して不溶な高融点有機化合物微粒子、架橋ポリマー微粒子及びポリエステル合成時に使用する金属化合物触媒、例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などによってポリエステル製造時に、ポリマー内部に形成される内部粒子などを挙げることができる。
【0027】
ポリエステル樹脂中に含有させるのに好ましい不活性微粒子の平均粒径は、通常、0.001〜3.5μmの範囲である。ここで、微粒子の平均粒径は、コールターカウンター法により測定したものである。
【0028】
ポリエステル樹脂中に含有させるのに好ましい非相溶性樹脂は、ポリエステルに非相溶性の樹脂であれば特に限定されるものではないが、好ましくは非相溶性の熱可塑性樹脂であって、具体的には、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。特に、全光線透過率を40%以下にするためにフィルムに空洞を形成するには、空洞形成性が優れていることからポリスチレン系樹脂あるいはポリメチルペンテン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。
【0029】
上記非相溶性樹脂としてのポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン構造を基本構成要素として含む熱可塑性樹脂を指し、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アイソタクティックポリスチレン等のホモポリマーのほか、その他の成分をグラフトあるいはブロック共重合した改質樹脂、例えば耐衝撃性ポリスチレン樹脂や変性ポリフェニレンエーテル樹脂等、さらにはこれらのポリスチレン系樹脂と相溶性を有する熱可塑性樹脂、例えばポリフェニレンエーテルとの混合物等を例示することができる。
【0030】
ポリエステル樹脂と非相溶性樹脂を混合調整するにあたっては、例えば、各樹脂のチップを混合し押出機内で溶融混練して押出してもよいし、予め混練機によって両樹脂を混練したものをさらに押出機より溶融押出ししてもよい。また、ポリエステルの重合工程においてポリスチレン系樹脂を添加し、撹拌分散して得たチップを溶融押出ししてもよい。
【0031】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主としてポリエステル樹脂から形成してなる単層又は多層のフィルムであるが、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂からなる空洞含有層を少なくとも1層有する多層フィルムであることが好ましい。
【0032】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは内部に多数の空洞を含有する空洞含有層から構成される単層フィルムであるほか、内部に多数の空洞を含有する空洞含有層の少なくとも一方の面に、上記空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を設けた、多層フィルムとすることができる。多層フィルムの構成にするためには、異なる原料をA、Bそれぞれ異なる押出機に投入、溶融し、T−ダイの前又はダイ内部にて溶融状態で貼り合わせ、冷却ロール上で密着固化させた後、少なくとも1方向に延伸することが好ましい。このとき、原料として空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層には非相溶性樹脂は空洞含有層への配合量より少なくするか、または配合しないことが好ましい。このようにすることにより、得られるフィルム層は空洞が少ないか、または空洞を含有しないため、表面の荒れが少なくなる。空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を表面に位置することにより印刷の美観を損なわない空洞含有フィルムとすることができる。また、フィルム全体としての空洞含有率が低いため、フィルムの腰が弱くならずラベルとしたときに装着性に優れるフィルムとなる。
【0033】
さらに、本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは内部に多数の空洞を含有する空洞含有層を中間層とし、両表層に空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を設けることが特に好ましい。ポリエステル樹脂中に含有させるのに用いる熱可塑性樹脂は、ポリエステルに非相溶性の樹脂であれば特に限定されるものではないが、空洞を発現させるのに好ましい熱可塑性樹脂を添加することで溶融押出時に煙が発生し、工程を汚して操業性悪化を引き起こすことがあり、このような場合、空洞含有層を中間層にすることにより溶融押出時にダイリップに接触して発煙するという問題が解消され、長時間の安定生産が実施可能となる。特に、空洞を発現させるのに好ましい熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いる場合には発煙が問題視されるので、空洞含有層を中間層にすることが推奨される。
【0034】
また、本発明により得られるフィルムは、必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の添加剤を含有するものであってもよい。
【0035】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、JIS−K−7136に準じて測定されたフィルムの全光線透過率が40%以下であることが必要である。全光線透過率が40%を越えると、ラベルとして装着時に内容物が透けて見えたり、紫外線を遮断できずに内容物が劣化したりしていずれも好ましくない。全光線透過率は30%以下であることが、特に好ましい。
【0036】
本発明により得られるフィルムは、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上であり、好ましくは65〜95%である。本発明のフィルムをボトルのラベルとして用いる場合には、フィルムの80℃における最大収縮方向を、環状のラベルの周方向にあわせてラベルとするが、最大収縮方向の温湯収縮率が65%未満であるとペットボトル等の筒状容器の細い口部分で、環状のラベルの収縮不足が発生する。一方、最大収縮方向の温湯収縮率が95%を越えると、収縮率が大きいために、筒状容器に未収縮ラベルを装着して収縮トンネルを通過させる間に大きく収縮して、ラベルの飛び上がりが発生する場合があるので、収縮工程の管理を慎重に行う必要がある。
【0037】
また、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下、好ましくは0〜2%であり、さらに好ましくは0〜1%である。環状のラベルの周方向と直角の方向、言い換えれば、環状のラベルの幅方向にあわせて温湯収縮率が0%未満(収縮率がマイナス)であるとフィルムが伸びることになり許容できるのは約−2%程度までであり、それ以上大きくなると、最大収縮方向に収縮するときに生じたラベルの横シワが消えにくくなる傾向にある。一方、最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%を超えるとラベルの縦収縮が大きくなり、使用するフィルム量が多くなり経済的に問題が生ずるので、好ましくない。
【0038】
本発明により得られるフィルムは、処理温度30℃、処理湿度85%RHにおける雰囲気下で28日間保持した後に、最大収縮方向と直交する方向の破断伸度が5%以上であり、好ましくは10%以上である。破断伸度が5%未満の場合は印刷加工時のフィルム張力で切れが発生し、生産性が悪くなり好ましくない。また、製造直後の熱収縮性ポリエステル系フィルムの、最大収縮方向と直交する方向の破断伸度も、5%以上である。
【0039】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムのガラス転移温度(Tg)は50〜90℃程度、好ましくは55〜85℃、さらに好ましくは55〜80℃の範囲である。ガラス転移温度(Tg)がこの範囲内にあれば、低温収縮性は十分でかつ自然収縮が大きすぎることがなく、ラベルの仕上がりが良好である。
【0040】
本発明により得られるフィルムは、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、フェノール等のフェノール類、テトラヒドロフラン等のフラン類、1,3−ジオキソラン等のオキソラン類等の有機溶剤による溶剤接着性を有することが好ましい。特に、有機溶剤による溶剤接着性としては、1,3−ジオキソランによる溶剤接着性で典型的に示すことができる。1,3−ジオキソランを用いることは、安全性の点からも好ましい。ここで、フィルムを表裏面接着したフィルムの溶剤接着強度が4N/15mm以上であることが好ましい。4N/15mm未満では、ラベルを容器に収縮させる際に接合部が剥がれ、好ましくない。溶剤接着強度が4N/15mm以上である場合には剥離抵抗力があると評価できる。
【0041】
本発明により得られるフィルムの溶剤接着性をさらに向上させるためには、例えば、ポリエステルに、そのガラス転移温度(Tg)を低下させる成分を共重合することが有効である。
【0042】
以上の特性を満足するために、本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムは空洞含有層からなる単一の層でもよいが、好ましい層構成は内部に多数の空洞を含有する空洞含有層(以下、単にB層ということがある)の少なくとも一方の面に、上記空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層(以下、単にA層ということがある)を設けた多層フィルム、即ち、A層/B層又はA層/B層/A層からなる多層フィルムである。A層/B層からなる2層体である場合、A層とB層の厚み比率はA層/B層=50/50から20/80が好ましい。B層の厚み比率が50%未満では、光線遮断性が不足し、内容物が透けて見えたり、紫外線を遮断できずに内容物が劣化したりしていずれも好ましくない。また、A層/B層/A層からなる3層体である場合、A層とB層の厚み比率はA層/B層/A層=25/50/25から10/80/10が好ましい。B層の厚み比率が50%未満では、光線遮断性が不足し、内容物が透けて見えたり、紫外線を遮断できずに内容物が劣化したりしていずれも好ましくない。
【0043】
以下、本発明フィルムの製造方法を具体的に説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するのに用いるポリエステル樹脂は、単独でもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが熱収縮特性を容易に得るためには、ガラス転移温度(Tg)の異なる2種以上のポリエステル樹脂を混合して使用することが好ましく、また、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂、さらに好ましくは不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有しガラス転移温度(Tg)の異なる2種以上のポリエステル樹脂を通常のホッパードライヤー、パドルドライヤー、真空乾燥機等を用いて乾燥した後、200〜320℃の温度で溶融し、押出しを行う。押出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の方法を使用し、単層であるほか同一又は異なる組成の二層、三層で共押出しすることができる。
【0044】
溶融押出し後、急冷して未延伸フィルムを得るが、Tダイ法の場合、急冷時にいわゆる静電印加密着法を用いることにより、厚み斑の少ないフィルムを得ることができる。
【0045】
得られた未延伸フィルムを、最終的に得られるフィルムが本発明の構成要件を満たすように、1軸延伸又は2軸延伸する。延伸方法としては、ロール法で縦1軸のみに延伸したり、テンター法で横1軸にのみ延伸する方法の外、公知の2軸延伸に際し縦又は横のいずれか一方向に強く延伸し、他方を極力小さく延伸することも可能であり、必要に応じて再延伸を施してもよい。
【0046】
上記延伸において、主収縮方向には少なくとも2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上延伸し、必要に応じて主収縮方向と直交する方向に延伸し、次いで熱処理を行い、本発明のフィルムを得ることができる。
【0047】
熱処理は通常、緊張下で実施されるが、同時に20%以下の弛緩又は幅出しを行うことも可能である。熱処理方法としては加熱ロールに接触させる方法やテンター内でクリップに把持して行う方法等の既存の方法を行うことも可能である。
【0048】
前記延伸工程中、延伸前又は延伸後にフィルムの一方の面又は両方の面にコロナ放電処理を施し、フィルムの印刷層及び/又は接着剤層に対する接着剤層等に対する接着性を向上させることも可能である。
【0049】
また、上記延伸工程中、延伸前又は延伸後にフィルムの一方の面又は両方の面に塗布を施し、フィルムの接着性、離型性、帯電防止性、易滑性、遮光性等を向上させることも可能である。
【0050】
得られるフィルムを空洞含有フィルムとする場合、あるいは空洞含有層を一層以上有する多層フィルムとする場合は、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下という本発明フィルムの収縮特性を満足するフィルムを容易に得ることができる。特に、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂からなる空洞含有層をフィルム構成成分を少なくとも一層とする場合は、特に、上記収縮特性を満足するフィルムを容易に得ることができる。
【0051】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムを空洞含有フィルムとする場合、あるいは空洞含有層を一層以上有する多層フィルムとする場合は、最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下という低い値を容易に得ることができる。その理由は明らかではないが、延伸方向の収縮は延伸前に戻ろうとして問題にはならないが、延伸方向と直交する方向は空洞がクッション材となり収縮を阻害するためではないかと推測することができる。
【0052】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは特に限定するものではないが、ラベル用熱収縮性フィルムとして好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは20〜100μmの範囲である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)全光線透過率
日本電飾工業社製NDH−2000Tを用い、JIS−K−7136に準じ測定した。
【0055】
(2)温湯収縮率
試料を主収縮方向及びその直交方向に沿うように10cm×10cmの正方形に裁断し、80℃±0.5℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後、試料の縦(主収縮)方向及び横(直交)方向の長さを測定し、下記式に従って試料の縦(主収縮)方向及び横(直交)方向についてそれぞれ求めた値である。
温湯収縮率=((収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ)×100(%)
試料の主収縮方向及びその直交方向のうち、最も収縮率の大きい方向を最大収縮方向とし、最大収縮方向の温湯収縮率を「80℃における最大収縮方向の温湯収縮率」とした。
【0056】
(3)破断伸度
主収縮方向において15mm幅のフィルムを、東洋ボールドウィン社製のテンシロン(型式:STM−T−50BP)でチャック間距離50mm、引張速度200mm/分で測定した。
【0057】
(4)収縮仕上がり性
Fuji Astec Inc社製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃で500mLの角型ペットボトル(高さ210mm、底部の長径60mm:吉野工業社製でサントリー社の烏龍茶に使用されているボトル)を用いてテストした(測定数=20)。
【0058】
評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
シワ、飛び上がり、収縮不足のいずれもの発生なし :○
シワ、飛び上がり、または収縮不足が発生する :×
【0059】
(5)溶剤接着性
フィルムを230mm幅にスリットし、続いて、センターシールマシンを用いて1,3−ジオキソランで長さ方向に表裏面接着しながら連続してチューブを作り、二つ折り状態で巻き取った。次いで、該チューブ状体を加工時の接合加工方向と直交方向に15mm幅に切断して環状のサンプルを作り、環状のサンプルを切開して東洋精機社製のテンシロン(型式:UTL−4L)を用いてチャック間を20mmにして引っ張り、溶剤接着部分が剥離したときの溶剤接着強度を測定した。測定値が4N/15mm以上であれば、剥離抵抗力あり「○」とし、4N/15mm未満であれば、剥離抵抗力なし「×」として表した。
【0060】
(6)ガラス転移温度(Tg)
セイコー電子工業社製のDSC(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム10mgを、−40℃から120℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0061】
実施例、比較例に用いたポリエステルは以下の通りである。
ポリエステルa:ポリエチレンテレフタレート(IV:0.75)
ポリエステルb:テレフタル酸100モル%と、エチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール30モル%とからなるポリエステル(IV:0.72)
ポリエステルc:ポリブチレンテレフタレート70重量%とε−カプロラクトン30重量%とからなるポリエステルエラストマー(還元粘度(ηsp/c)1.30)
ポリエステルd:ポリブチレンテレフタレート(IV:1.20)
【0062】
(実施例1)
内部に多数の空洞を含有する空洞含有層(B層)の両方の面に、上記空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層(A層)を設けた多層フィルムからなる熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造した。
【0063】
表1に示すように、A層の原料として、ポリエステルaを30重量%、ポリエステルbを67重量%、ポリエステルcを3重量%混合したポリエステル組成物を、B層の原料として、ポリエステルaを10重量%、ポリエステルbを65重量%、ポリエステルcを5重量%と結晶性ポリスチレン樹脂(G797N 日本ポリスチレン社製)10重量%及び二酸化チタン(TA‐300富士チタン社製)10重量%をそれぞれ別々の押出機に投入、混合、溶融したものをフィードブロックで接合し、280℃でTダイから延伸後のA層/B層/A層の厚み比率が10μm/20μm/10μmとなるように積層しながら溶融押出しし、チルロールで急冷して未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、テンターでフィルム温度70℃で横方向に4.0倍延伸し、厚み40μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0064】
(実施例2及び比較例1〜3)
表1に示すように、ポリエステル、ポリスチレン及び二酸化チタン配合割合、製膜条件を変えたこと以外は、実施例1と同様にして厚み40μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0065】
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、実施例1〜2で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、いずれもペットボトルのフルラベル用に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、かつ、良好な光線遮断性を有するものであった。
【0068】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高品質で実用性が高く、特に紫外線で劣化しやすい内容物の包装収縮ラベル用として好適である。
【0069】
一方、比較例1で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、光線遮断性を有するものの溶剤接着性が劣っており、比較例2〜3で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、光線遮断性が劣っていた。このように比較例の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、品質が劣り、実用性の低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムによれば、収縮仕上がり性が好適で、ボトル等の胴部に装着する表示用のラベルにしたときに端部に歪みがなく、また、印刷加工を施さなくとも光線遮断性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてポリエステル樹脂からなるフィルムの製造方法であって、不活性微粒子及び非相溶性樹脂を含有するポリエステル樹脂からなる空洞含有層の両方の面に、該空洞含有層よりも空洞の少ない又は空洞を含有しないフィルム層を設けた3層体からなり、フィルムの全光線透過率が40%以下、かつ、80℃における最大収縮方向の温湯収縮率が65%以上、80℃における最大収縮方向と直交する方向の温湯収縮率が2%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法
【請求項2】
80℃における最大収縮方向と直交する方向の破断伸度が、30℃、湿度85%RH雰囲気下で28日間保持後、5%以上であることを特徴とする請求項1記載の熱収縮ポリエステル系フィルムの製造方法
【請求項3】
溶剤接着性を有することを特徴とする請求項1又は2記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法

【公開番号】特開2008−120099(P2008−120099A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28338(P2008−28338)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【分割の表示】特願2002−280868(P2002−280868)の分割
【原出願日】平成14年9月26日(2002.9.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】