説明

熱収縮性積層フィルム、該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル及び容器

【課題】 優れた耐破断性、剛性及び収縮仕上がり性を有し、かつ自然収縮及び層間剥離を抑えた熱収縮性積層フィルム、成形品、熱収縮性ラベル及び容器の提供。
【解決手段】 ポリエステル樹脂を主成分としてなる表面層(S層)、スチレン系樹脂を主成分としてなる中間層(M層)、接着性樹脂を主成分としてなる接着層(AD層)を有する積層フィルムにおいて、70℃温水中で10秒間浸漬したときの熱収縮率を少なくとも一方において10%以上30%未満とし、80℃温水中10秒浸漬したときの熱収縮率を少なくとも一方向において30%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性積層フィルム、該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品又は熱収縮性ラベルを装着した容器に関する。より詳細は、本発明は、低温収縮性、剛性、及び収縮仕上がり性に優れ、特にシュリンクラベル等の用途に好適な熱収縮性積層フィルム、該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品又は熱収縮性ラベルを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック容器(主にPETボトル)のシュリンクラベル用熱収縮性フィルムとして、主としてポリエステル系及びポリスチレン系熱収縮性フィルムが用いられていた。ポリエステル系熱収縮性フィルムは、自然収縮率が低く、低温収縮性及び剛性が良好である反面、均一な収縮が得られず、収縮ムラや収縮仕上がり不良等を生じるという問題があった。また、ポリエステル系熱収縮性フィルムは、ラベル用途などに用いられた場合、主収縮方向のみならず垂直方向の収縮も生じるため、外観不良を起こすという問題があった。
【0003】
一方、ポリスチレン系熱収縮性フィルムとしては、従来、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)を主材料とするポリスチレン系熱収縮性フィルムが用いられていた。ポリスチレン系熱収縮性フィルムは、収縮仕上がり性は良好であったが、低温収縮性を付与した際に自然収縮率が大きくなるという問題があった。特に最近では、SBSを用いた熱収縮性フィルムにおいて、印刷溶剤により印刷中や製袋中にフィルム自体が劣化し、破断してしまうという問題も顕在化している。さらに、SBSを主な材料とするポリスチレン系熱収縮性フィルムは、ゴム成分であるブタジエンの含有量を増加することにより耐
破断性を向上させることは可能である。しかし、その場合、フィルムの剛性が低下するため、フィルムの剛性と耐破断性の両立が問題となる。
【0004】
上記問題を解決する手段として、これまでにポリスチレン系樹脂で構成される中間層にポリエステル系樹脂で構成される最外層が積層された2種3層の積層フィルムが報告されている(例えば特許文献1参照)。しかし、この2種3層の積層フィルムは、従来のポリエチレン系及びポリスチレン系熱収縮性フィルムと比べると、透明性に劣る上、フィルムを収縮させた場合には、最外層と中間層の間に層間剥離を生じるという欠点があった。この欠点を解決するため、ポリスチレン系樹脂を中間層とし、1,4−シクロヘキサンジメタノールを含有するポリエステル系樹脂を外層に用いた2種3層の積層フィルムも提案されている(例えば特許文献2及び3参照)。しかし、特許文献2に記載のフィルムでは耐破断性が不充分であり、またラベル用途のように溶剤を用いて製袋した場合、層間においてシール部が剥離してしまい、十分な溶剤シール強度は得られなかった。さらに、特許文献3に記載のフィルムは、耐破断性が十分ではなく、さらに収縮仕上がり性も不十分であった。
【特許文献1】特開昭61−41543公報(特許請求の範囲、第8頁左上欄第15行目〜第8頁右上欄第9行目)
【特許文献2】特開平7−137212号公報(請求項1、[0019]〜[0029])
【特許文献3】特開2002−351332公報(請求項1、[0020]〜[0027])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、優れた耐破断性、剛性及び収縮仕上がり性を有し、かつ自然収縮及び層間剥離が抑制された熱収縮性積層フィルムを提供することにある。
【0006】
本発明のもう一つの目的は、上記熱収縮性積層フィルムを用いて、優れた耐破断性、剛性、収縮仕上がり性及び層間剥離強度を有する成形品及び容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来技術の課題を解決するため、延伸フィルムを作製した際に所望の耐破断性、剛性及び収縮仕上がり性が得られる層構成につき鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、以下の熱収縮性積層フィルム、並びに該積層フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル及び該成形品又は熱収縮性ラベルを装着した容器により達成される。
【0008】
(1) 表面層(S層)、中間層(M層)及び接着層(AD層)を有する積層フィルムであって、各層が下記成分を主成分とする樹脂からなるとともに、70℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方において10%以上30%未満であり、かつ80℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方において30%以上70%以下であることを特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(S層):ポリエステル系樹脂
(M層):スチレン系樹脂
(AD層):接着性樹脂
(2) 接着層(AD層)の接着性樹脂が、表面層(S層)と中間層(M層)に含まれる樹脂の混合物である(1)に記載の熱収縮性積層フィルム。
(3) 接着層(AD層)の接着性樹脂が、軟質スチレン系樹脂、変性スチレン系樹脂、及びポリエステル系樹脂と親和性の高い若しくは反応可能な極性基を有し、スチレン系樹脂と相溶可能な樹脂からなる群から選ばれる1種の樹脂、又はこれらの混合物である(1)に記載の熱収縮性積層フィルム。
(4) 中間層(M層)のポリスチレン系樹脂が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体(SIBS)、又はこれらの混合物である(1)乃至(3)のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
(5) 表面層(S層)のポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸残基及びジオール残基からなり、前記ジカルボン酸残基及び前記ジオール残基の少なくとも一方が2種以上の残基で構成され、かつ前記2種以上の残基のうち、最も多く含まれる残基以外の残基の総含有率が前記ジカルボン酸残基の総量(100モル%)と前記ジオール残基の総量(100モル%)との合計(200モル%)に対して10%以上40モル%以下である(1)乃至(4)のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
(6) 23℃50%RHの環境下で引張速度200mm/分で剥離したときのシール強度が3N/15mm幅以上20N/15mm幅以下である(1)乃至(5)のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
(7) (1)乃至(6)のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムを基材としてなる成形品。
(8) (1)乃至(6)のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムを基材としてなる熱収縮性ラベル。
(9) (7)に記載の成形品又は(8)に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱収縮性積層フィルム(以下「本発明のフィルム」という)は、中間層(M層)を構成する樹脂としてスチレン系樹脂を用い、該中間層(M層)の両側の表面層(S層)を構成する樹脂としてポリエステル系樹脂を用い、かつ前記中間層(M層)と表面層(S層)との間に接着性樹脂を主成分とする接着層(AD層)を介在させた積層シートを少なくとも1軸に延伸したフィルムである。この構成により本発明によれば、優れた耐破断性、剛性、透明性及び収縮仕上がり性を有し、かつ自然収縮及び層間剥離が抑制された熱収縮性フィルムを提供できる。
【0010】
また、本発明の成形品及び容器は、本発明のフィルムを基材としているため、優れた耐破断性、剛性、透明性及び収縮仕上がり性を有し、かつ自然収縮及び層間剥離が抑制され、装着物の形状にかかわらず所定の位置で、シワ、アバタの発生、収縮不十分等の異常がなく、美麗な外観を呈した成形品又は装着した容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のフィルム、成形品、熱収縮性フィルム、及び該成形品又は熱収縮性フィルムを装着した容器について詳細に説明する。
【0012】
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含する。また、本明細書において、「主成分とする」とは、各層を構成する樹脂の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、各層の構成成分全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を占める成分である。また、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含する。
【0013】
〔熱収縮性積層フィルム〕
本発明のフィルムは、ポリエステル系樹脂を主成分としてなる表面層(S層)と、スチレン系樹脂を主成分としてなる中間層(M層)とを有し、さらに表面層(S層)と中間層(M層)との間に接着層(AD層)を介在させた熱収縮性積層フィルムである。
【0014】
フィルムの表面層(S層)にポリエステル系樹脂を用いることにより、フィルムに剛性と耐破断性を与えると共に、低温収縮を付与し、自然収縮を抑えることができる。しかしながら、前述のとおりポリエステル系樹脂のみでは均一な収縮が得られず、収縮ムラ等の収縮仕上がり不良の問題や、ラベル用途における主収縮方向及び垂直方向に収縮に由来する外観不良を発生するという問題がある。
【0015】
そこで、本発明のフィルムは、ポリエステル系樹脂を主成分として構成される表面層(S層)の間にポリスチレン系樹脂を主成分として構成される中間層(M層)を介在させることにより、上記課題を解決することができる。すなわち、本発明のフィルムは、ポリエステル系樹脂を主成分として構成される表面層(S層)の間にスチレン系樹脂を主成分として構成される中間層(M層)を介在させることにより、これまでポリエステル樹脂のみで構成されたフィルムでは解決できなかった良好な収縮仕上がり性と、スチレン系樹脂のみで構成されたフィルムでは解決できなかった腰の強さを兼ね備え、さらには主にラベル
用途における主収縮方向と垂直方向への収縮を抑制可能なフィルムが得られる。その結果、本発明のフィルムによれば、剛性、耐破断性、低自然収縮性を兼ね備え、かつ収縮仕上がり性を向上させた熱収縮性積層フィルムを提供できる。
【0016】
ポリエステル系樹脂層とスチレン系樹脂層とからなる積層フィルムは、異種の樹脂を含む層同士を積層させて構成されるため、ラベル用途のように製袋をした場合に、製袋のシール部分において層間剥離が起こり、シール強度の低下が生じる可能性がある。そこで、本発明のフィルムは、かかる欠点を解消すべく、ポリエステル系樹脂層(S層)とスチレン系樹脂層(M層)との間に接着層(AD層)を介在させ、層間剥離強度(シール強度)を向上させる。
【0017】
また、接着層(AD層)として表面層(S層)で用いたポリエステル系樹脂と中間層(M層)で用いたスチレン系樹脂との混合物を用いれば、表面層(S層)と中間層(M層)との層間剥離を抑制でき、かつフィルムの良好な透明性を維持できるほか、製膜工程において廃棄物となる本発明のフィルムのテール部分等を接着層の原料として再利用することができる。これにより、本発明のフィルムは、積層フィルムの層間剥離と透明性の低下とを最小限に抑えられると共に、フィルムのリサイクルも可能である。
【0018】
次に本発明のフィルムを構成する各層について説明する。
<中間層(M層)>
本発明では、フィルムの中間層(M層)の主成分を構成する樹脂としてスチレン系樹脂を用いる。スチレン系樹脂は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合が好適に用いられる。スチレン系炭化水素としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(p−、m−又はo−メチルスチレン)、ポリ(2,4−、2,5−、3,4−又は3,5−ジメチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)等のポリアルキルスチレン;ポリ(o−、m−又はp−クロロスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−ブロモスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−フルオロスチレン)、ポリ(o−メチル−p−フルオロスチレン)等のポリハロゲン化スチレン;ポリ(o−、m−又はp−クロロメチルスチレン)等のポリハロゲン化置換アルキルスチレン;ポリ(p−、m−又はo−メトキシスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−エトキシスチレン)等のポリアルコキシスチレン;ポリ(o−、m−、又はp−カルボキシメチルスチレン)等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリ(p−ビニルベンジルプロピルエーテル)等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリ(p−トリメチルシリルスチレン)等のポリアルキルシリルスチレン;さらにはポリビニルベンジルジメトキシホスファイド等が挙げられる。該スチレン系炭化水素ブロックは、これらの単独重合体、共重合体及び/又はスチレン系炭化水素以外の共重合可能なモノマーをブロック内に含んでいてもよい。
【0019】
共役ジエン系炭化水素の例としては、ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。共役ジエン系炭化水素ブロックは、これらの単独重合体、共重合体及び/又は共役ジエン系炭化水素以外の共重合可能なモノマーをブロック内に含んでいてもよい。
【0020】
中間層(M層)で好ましく用いられるスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合体の1つとしては、スチレン系炭化水素がスチレンであり、共役ジエン系炭化水素がブタジエンである、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体(SBS)が挙げられる。SBSは、スチレン/ブタジエンの質量%比が(95〜60)/(5〜40)程度であることが好ましく、(93〜60)/(7〜40)であることがより好ましく、(90〜60)/(10〜40)程度であることがさらに好ましい。さらに、SBSのメルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)は、2g/
10分以上、好ましくは3g/10分以上であり、かつ15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下、さらに好ましくは8g/10分以下であることが望ましい。
【0021】
本発明で好ましく使用されるスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体の他のものは、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体(SIBS)である。SIBSにおいて、スチレン/イソプレン/ブタジエンの質量%比は、(60〜90)/(5〜40)/(5〜30)であることが好ましく、(60〜85)/(10〜30)/(5〜25)であることがより好ましく、(60〜80)/(10〜25)/(5〜20)であることがさらに好ましい。さらに、SIBSのメルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)は、2g/10分以上、好ましくは3g/10分以上であり、かつ15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下、さらに好ましくは8g/10分以下であることが望ましい。ブタジエン含有量が多くイソプレン含有量が少ないと、押出機内部等で加熱されたブタジエンが架橋反応を起こして、ゲル状物が増す場合がある。一方、ブタジエン含有量が少なくイソプレン含有量が多いと、原料単価が上昇し、製造コストが嵩む場合がある。
【0022】
上記スチレン系樹脂は単体に限られず、2種類以上の混合物であってもよい。例えば、上記スチレン系樹脂がSBSとSIBSの混合物である場合、SBS/SIBSの質量%比は、(90〜10)/(10〜90)程度であることが好ましく、(80〜20)/(20〜80)程度であることがより好ましく、(70〜30)/(30〜70)程度であることがさらに好ましい。
【0023】
中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂の含有率は、中間層(M層)を構成する樹脂総量の50質量%以上であり、65質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。但し、GPPSを含有する場合、GPPSのTg(損失弾性率E’’のピーク温度)が100℃程度と非常に高いため、混合するGPPSの含有率は、中間層(M層)を構成する樹脂総量の20質量%以下、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下とすることが望ましい。
【0024】
中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂は、上述のとおり中間層(M層)を構成する樹脂総量の50質量%以上含まれれば、その他の樹脂を混合することもできる。そのような樹脂を例示すれば、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられ、中でもポリエステル系樹脂が好ましい。
【0025】
中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂がスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合である場合、前記ブロック共重合体のJIS K7142に準拠して測定された屈折率(n1)は、表面層(S層)に含まれるポリエステル系樹脂の屈折率(n2)の±0.02、好ましくは±0.015の範囲内であることが望ましい。このように、中間層(M層)の屈折率と表面層(S層)の屈折率との差を所定の範囲内に調整することにより、フィルムの製造工程で発生するフィルムの切断片等を後述する接着層(AD層)に混練して製膜した場合においても、良好な透明性を有するフィルムが得られる。
【0026】
前記スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素のブロック共重合体は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素の組成比を適宜調整することにより、その屈折率(n1)をほぼ所望の値に調整できる。したがって、表面層(S層)で用いられるポリエステル系樹脂の屈折率(n2)に対応して、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素の組成比を調整することによりn2±0.02の範囲内の屈折率(n1)が得られる。この所定の屈折率は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体単体で調整しても、2種以上の樹脂を混合して調整してもよい。
【0027】
本発明において、中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂の0℃における貯蔵弾性率(E’)は1.00×109Pa以上であることが好ましく、1.50×109Pa以上であることがさらに好ましい。この0℃における貯蔵弾性率(E’)は、フィルムの剛性、つまりフィルムの腰の強さを表す。1.00×109Pa以上の貯蔵弾性率(E’)を有することにより、透明性に加え、剛性を備えたフィルムが得られる。この貯蔵弾性率(E’)は、上述のスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合体の単体、2種以上の該共重合体の混合物、又は透明性を損なわない範囲でその他の樹脂と混合することにより得られる。
【0028】
中間層(M層)の主成分としてスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合体の混合系又は該共重合体と他の樹脂との混合系を用いる場合には、耐破断性を担わせる共重合体又は樹脂と剛性を担わせる共重合体又は樹脂とを適宜選択すると、良好な結果を得ることができる。すなわち、高い耐破断性を有するスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体と、高い剛性を有するスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体とを組み合わせることにより、あるいは高い耐破断性を有するスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体と、高い剛性を有する他の種類の樹脂とを混合することにより、それらのスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素の合計組成、あるいはそれらと他の種類の樹脂との混合物が、所望の屈折率(n1)及び0℃における貯蔵弾性率(E’)を満たすように調整できる。
【0029】
耐破断性を付与可能なスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体として好ましいものは、ピュアブロックSBS及びランダムブロックSBSである。中でも、0℃における貯蔵弾性率(E’)が1.00×108Pa以上1.00×109Pa以下であり、さらに損失弾性率(E’’)のピーク温度の少なくとも一つは−20℃以下にある粘弾性特性を有するものが特に好ましい。0℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であれば、剛性を担う樹脂のブレンド量を増やすことにより腰の強さを付与することができる。一方、損失弾性率(E’’)のピーク温度において、低温側の温度は主に耐破断性を示す。該特性は延伸条件によって変化するものの、延伸前の状態で損失弾性率(E’’)のピーク温度が−20℃以下に存在しない場合、十分なフィルム破断性を積層フィルムに付与することが困難となる場合がある。
【0030】
また、剛性を付与可能な樹脂としては、0℃での貯蔵弾性率(E’)が2.00×109Pa以上のスチレン系炭化水素からなる共重合体、例えばブロック構造を制御したスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合体、ポリスチレン、スチレン系炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体を例示できる。
【0031】
ブロック構造を制御したスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の特性として0℃での貯蔵弾性率(E’)が2.00×109Pa以上であるSBSが挙げられる。これを満たすSBSのスチレン−ブタジエンの組成比は、スチレン/ブタジエン=(95〜80)/(5〜20)程度で調整されることが好ましい。
【0032】
ブロック共重合体の構造及び各ブロック部分の構造としては、ランダムブロック及びテーパードブロックであることが好ましい。より好ましくは、その収縮特性を制御するために、損失弾性率(E’’)のピーク温度が40℃以上にあり、さらに好ましくは、40℃以下には明確な損失弾性率(E’’)のピーク温度がないことである。損失弾性率(E’’)のピーク温度が40℃まで見かけ上存在しない場合、ほぼポリスチレンと同様な貯蔵弾性率特性を示すため、フィルムの剛性を付与することが可能となる。また、40℃以上、好ましくは40℃以上90℃以下の範囲に損失弾性率(E’’)のピーク温度が存在する。このピーク温度は主に収縮率に影響を及ぼす因子であり、この温度が40℃以上90℃以下の範囲であれば、自然収縮及び低温収縮率が極端に低下することもない。
【0033】
上記粘弾性特性を満たすようなスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素共重合体の重合方法を以下に示す。通常にスチレン又はブタジエンの一部を仕込んで重合を完結させた後、スチレンモノマーとブタジエンモノマーの混合物を仕込んで重合反応を続行させる。これにより、重合活性の高いブタジエンの方から優先的に重合し、最後にスチレンの単独モノマーからなるブロックが生じる。例えば、先ずスチレンを単独重合させ、重合完結後、スチレンモノマーとブタジエンモノマーの混合物を仕込んで重合を続行させると、スチレンブロックとブタジエンブロックとの中間にスチレン・ブタジエンモノマー比が次第に変化するスチレン・ブタジエン共重合体部位をもつスチレン−ブタジエンブロック共重合体が得られる。このような部位を持たせることにより、上記粘弾性特性を持つポリマーを得ることができる。この場合には、前述したようなブタジエンブロックとスチレンブロックに起因する2つのピークが明確には確認できず、見かけ上、1つのピークのみが存在するように見える。つまり、ピュアブロックやブタジエンブロックが明確に存在するランダムブロックのSBSのようなブロック構造では、ブタジエンブロックに起因するTgが0℃以下に主に存在してしまうため、0℃での貯蔵弾性率(E’)が所定の値以上にする
ことが難しくなってしまう。また、分子量も関してはメルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)が2g/10分以上15g/10分以下の範囲で調整される。この剛性を付与するスチレン−ブタジエンブロック共重合体の混合量は、その熱収縮性積層フィルムの特性に応じて適宜調整され、中間層(M層)を構成する樹脂総量の20質量%以上80質量%以下、好ましくは40質量%以上70質量%以下の範囲で調整されることが望ましい。樹脂総量の80質量%以下であれば、フィルムの剛性は大幅に向上でき、かつ耐破断性を低下させることを抑えることができる。一方、樹脂総量の20質量%以上であれば、フィルムに十分な剛性を付与できる。
【0034】
中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂の分子量は、重量(質量)平均分子量(Mw)が100,000以上、好ましくは150,000以上であり、かつ500,000以下、好ましくは400,000以下、さらに好ましくは300,000以下であることが望ましい。スチレン系樹脂の重量(質量)平均分子量(Mw)が100,000以上であれば、フィルムの劣化が生じるような欠点もなく好ましい。さらに、スチレン系樹脂の分子量が500,000以下であれば、流動特性を調整する必要なく、押出性が低下するなどの欠点もないため好ましい。
【0035】
スチレン系樹脂としてスチレン系炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を用いる場合、スチレン系炭化水素に共重合させる脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2 −エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。好ましくは、スチレンとブチル(メタ)アクリレートとの共重合体であり、さらに好ましくは、スチレンが70質量%以上90質量%以下の範囲であり、かつTg(損失弾性率E’’のピーク温度)が50℃以上90℃以下、メルトフローレート(MFR )測定値(測定条件:温度200 ℃、荷重49N )が2g/10分以上15g/10分以下のものが用いられる。なお、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0036】
スチレン系炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の中間層(M層)における含有量は、その組成比に応じて適宜決定される。典型的には、中間層(M層)を構成する樹脂総量に対して20質量%以上70質量%以下の範囲で調整される。70質量%以下で混合すれば、フィルムの剛性を大幅に向上でき、かつ良好な耐破断性を維持できる。また、20質量%以上で混合すれば、フィルムに十分な剛性を付与できる。
【0037】
<表面層(S層)>
本発明のフィルムの表面層(S層)の主成分を構成するポリエステル系樹脂は、フィルムに剛性と耐破断性と低温収縮性を付与しつつ、自然収縮を抑えることができる。本発明において好適なポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸残基とジオール残基とから誘導されるポリエステル系樹脂である。ジカルボン酸残基の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸
、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのエステル誘導体から誘導される残基が挙げられる。これらのジカルボン酸残基は、1種を単独で、又は2種以上を含有していてもよい。前記ポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸とエチレング
リコールとからなるポリエステル樹脂が好適に用いられる。
【0038】
本発明において、より好ましくはジカルボン酸残基とジオール残基の少なくとも一方が、2種以上の残基からなる混合物である。本明細書では、前記2種以上の残基において、主残基、すなわち質量(モル%)が最多のものを第1残基とし、該第1残基よりも少量のものを第2残基以下の残基(すなわち、第2残基、第3残基・・・)とする。ジカルボン酸残基とジオール残基とをこのような混合物系にすることにより、得られるポリエステル系樹脂の結晶性を低くできるため、中間層(M層)として用いた場合、中間層(M層)の結晶化の進行を抑えることができるため好ましい。
【0039】
好ましいジオール残基混合物としては、例えば、第1残基として前記エチレングリコール残基、第2残基として1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも一種から誘導される残基、好ましくは1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を用いたものが挙げられる。
【0040】
また、好ましいジカルボン酸残基混合物としては、例えば、第1残基としてテレフタル酸残基、第2残基としてイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸及びアジピン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種から誘導される残基、好ましくはイソフタル酸残基を用いたものが挙げられる。
【0041】
前記第2残基以下のジカルボン酸残基及びジオール残基の総量の含有率は、前記ジカルボン酸残基の総量(100モル%)と前記ジオール残基の総量(100モル%)との合計(200モル%)に対して、10モル%以上、好ましくは20モル%以上であり、40モル%以下、好ましくは35モル%以下である。前記2残基以下の残基の含有率が10モル%以上であれば、得られるポリエステルの結晶化度を低く抑えることができる。一方、前記2残基以下の残基の含有率が40モル%以下であれば、第1残基の長所を活かすことができる。
【0042】
例えば、ジカルボン酸残基がテレフタル酸残基であり、ジオール残基の第1残基がエチレングリコール残基、第2残基が1,4−シクロヘキサンジメタノール残基である場合、第2残基である1,4−シクロヘキサンジメタノール残基の含有率は、ジカルボン酸残基であるテレフタル酸残基の総量(100モル%)と、エチレングリコール残基及び1,4−シクロヘキサンジメタノール残基の総量(100モル%)との合計(200モル%)に対して10モル%以上、好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上であり、かつ40モル%以下、好ましくは38モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下の範囲である。この範囲でジオール残基としてエチレングリコール残基及び1,4−シクロヘキサンジメタノール残基を用いることにより、得られるポリエステルの結晶性がほとんどなくなり、かつ耐破断性も向上できる。
【0043】
さらに前記の例において、ジカルボン酸残基が第1残基としてテレフタル酸残基、第2残基としてイソフタル酸残基からなる場合、ジカルボン酸残基であるイソフタル酸残基とジオール残基である1,4−シクロヘキサンジメタノール残基との含有率は、テレフタル酸残基及びイソフタル酸残基の総量(100モル%)と、エチレングリコール残基及び1,4−シクロヘキサンジメタノール残基との総量(100モル%)の合計(200モル%)に対して10モル%以上、好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上であり、かつ40モル%以下、好ましくは38%モル以下、さらに好ましくは35モル%以下の範囲である。
【0044】
上記ポリエステル系樹脂の屈折率(n2)は、1 .56以上1 .58以下 、好ましくは約1 .57である。この場合、中間層(M層)に含まれるスチレン系炭化水素−共役ジエン系炭化水素ブロック共重合体の屈折率(n1)は、1 .54以上1 .60以下であり、好ましくは1 .55以上1 .59以下であり、さらに好ましくは1 .555以上1 .585以下である。
【0045】
上記ポリエステル系樹脂の固有粘度(IV)は、0.5dl/g以上、好ましくは0.6dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上であり、かつ1.5dl/g以下、好ましくは1.2dl/g以下、さらに好ましくは1.0dl/g以下である。固有粘度(IV)が0.5dl/g以上であれば、フィルム強度特性や耐熱性が低下することを抑えられる。一方、固有粘度が1.5dl/g以下であれば、延伸張力の増大に伴う破断等を防ぐことができる。
【0046】
市販の上記ポリエステル系樹脂の例として、「PETG coplyester6763」(イーストマンケミカル社製)、「PETG SKYGREEN S2008」(SKケミカル社製)などが挙げられる。
【0047】
表面層(S層)に含まれるポリエステル系樹脂は、表面層(S層)の樹脂総量に対して20質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上含有されていれば、ポリエステル系樹脂以外の樹脂を含有させても構わない。そのような樹脂を例示すれば、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂が挙げられ、中でもポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0048】
本発明のフィルムの表面層(S層)で用いられるポリエステル系樹脂としては、前記ジカルボン酸残基とジオール残基とから誘導されるポリエステル系樹脂以外にも、カルボン酸残基とアルコール残基とを1分子中に持つモノマーを重合したポリエステル樹脂を用いることもできる。特に乳酸を縮重合したポリ乳酸は剛性、低温収縮性、低自然収縮性を付与することから好適に用いることができる。
【0049】
<接着層(AD層)>
本発明のフィルムは、前記中間層(M層)と前記表面層(S層)との間に接着層(AD層)を形成する。接着層(AD層)の主成分を構成する樹脂としては、表面層(S層)に含まれるポリエステル系樹脂と、中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂との混合物を用いることが好ましい。かかる混合物を接着層の主成分樹脂として用いることにより、表面層(S層)に含まれるポリエステル系樹脂と接着層(AD層)に含まれるポリエステル系樹脂成分との親和性を増すと共に、中間層(M層)に含まれるポリスチレン系樹脂と接着層(AD層)に含まれるスチレン系樹脂成分との親和性を増すことができ、その結果、両層間の接着強度を向上させることができる。接着層(AD層)に含まれるポリエステル系樹脂とスチレン系樹脂との混合率は、隣接する側の層との接着効果を向上させる観点から、質量%比で(20〜80)/(80〜20)、好ましくは(30〜70)/(70〜30)、さらに好ましくは(40〜60)/(60〜40)であることが望ましい。接着層(AD層)中に両樹脂が20質量%以上含有されることにより対応する層との良好な接着効果が得られる。
【0050】
接着層(AD層)を構成する樹脂として、上記混合樹脂のほか、軟質スチレン系樹脂、変性スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂と親和性の高い若しくは反応可能な極性基を有し、スチレン系樹脂と相溶可能な樹脂(以下「特定接着性樹脂」ともいう)、又はこれらの混合物を用いることもできる。
【0051】
前記軟質スチレン系樹脂とは、スチレン系共重合体10質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上40質量%以下と、エラストマー成分とからなる樹脂を意味する。エラストマー成分として好適に用いられる樹脂としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。
【0052】
軟質スチレン系樹脂を具体的に例示すれば、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体などを、極性基を有する変性剤により変性したエラストマー等が挙げられる。また、ブロック共重合体は、ピュアブロック、ランダムブロック、テーパードブロック等を含み、共重合の形態は特に限定されない。また、そのブロック単位も繰り返し単位がいくつも重なってもよい。具体的にはスチレン−ブタジエンブロック共重合体の場合、ス
チレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレ−ブタジエンブロック共重合体のようにブロック単位がいくつも繰り返されてもよい。
【0053】
また、軟質スチレン系樹脂としては、SBSやSISに水素を添加した樹脂である水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEBS)や水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEPS)を用いることもできる。水素を添加したエラストマーの具体的な商品としては、例えば「タフテックHシリーズ」(旭化成ケミカルズ)等が好適に用いられる。
【0054】
また変性スチレン系樹脂としては、エラストマー成分が多く含まれる変性スチレン系エラストマーが好適に用いられ、中でもSEBS及びSEPSの変性体が好ましく用いられる。具体的には、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが挙げられる。変性スチレン(系エラストマー)は1種類であっても2種以上を組み合わせて用いてもよい。変性スチレン系樹脂の具体的な商品としては、水添スチレン系熱可塑性エラストマーに反応性の高い官能基で変性したポリマー「タフテックM1943」(旭化成ケミカルズ)や「セプトン」(クラレ)、「JSR SIS」(JSR)等が挙げられる。
【0055】
特定接着性樹脂とは、表面層(S層)に含まれるポリエステル系樹脂と高い親和性を有する極性基又は該ポリエステル系樹脂と反応し得る極性基を有すると共に、中間層(M層)に含まれるスチレン系樹脂と相溶し得る部位を有するスチレン系のブロック共重合体又はグラフト共重合体をいう。ポリエステル系樹脂と高い親和性を持つ極性基又は反応可能な官能基の具体例としては、例えば、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、又はオキサゾリン基などの官能基が挙げられ、中でも酸無水物基、カルボン酸基又はカルボン酸エステル基が好ましい。
【0056】
また、スチレン系樹脂との相溶し得る部位とは、スチレン系樹脂と親和性のある連鎖を有することを意味する。より具体的には、スチレン鎖、スチレン系共重合体セグメントなどを主鎖、ブロック鎖又はグラフト鎖として有し、あるいはスチレン系モノマー単位を有するランダム共重合体などが挙げられる。
【0057】
上記特定接着性樹脂の具体的な商品としては、例えば、「タフテックM1943」(旭化成ケミカルズ)や「極性基変性ダイナロン」(JSR)やエポキシ化熱可塑性エラストマー「エポフレンド」(ダイセル化学)、「RESEDA」(東亜合成社製)等が挙げられる。
【0058】
接着層(AD層)で用いられる樹脂は、上記軟質スチレン系樹脂、変性スチレン系樹脂、及び特定接着性樹脂は、これらの単体に限られず、種類以上を混合して用いてもよい。その場合、混合量は用いる樹脂の特性に応じて適宜決定することができる。
【0059】
本発明のフィルムは、上述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、成形加工性、生産性及び熱収縮性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で、各層に可塑剤及び/又は粘着付与樹脂を、各層を構成する樹脂総量に対して1質量%以上、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、かつ10質量%以下、好ましくは8質量%以下、さら好ましくは5質量%以下の範囲で含有させることができる。可塑剤及び/又は粘着付与樹脂の含有率が樹脂総量に対して10質量%以下であれば、溶融粘度の低下や耐熱融着性の低下が小さく、自然収縮も起こりにくい。さらに、本発明のフィルムは、前記可塑剤及び粘着付与樹脂以外にも目的に応じて各種の添加剤、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、無機フィラーなどを各用途に応じて適宜添加することができる。
【0060】
<フィルムの層構成>
本発明のフィルムは、表面層(S層)と中間層(M層)間に接着層(AD層)を有する少なくとも3層構成のものであれば、層構成は特に限定されるものではない。ここで、表面層(S層)は、最外層を構成する表面層(S層)のほか、中間層(M層)に同様の層を有しても構わない。
【0061】
本発明において好適な積層構成は、表面層(S層)/接着層(AD層)/中間層(M層)/接着層(AD層)/表面層(S層)からなる5層構成である。この層構成を採用することにより、本発明の目的であるフィルムの剛性、収縮仕上がり性、耐破断性に優れ、層間剥離が抑制された、収縮包装、収縮結束包装や収縮ラベル等の用途に適した熱収縮性積層フィルムを生産性、経済性よく得ることができる。
【0062】
次に、本発明の好適な実施形態の一つである表面層(S層)と中間層(M層)、接着層(AD層)からなる(S層)/(AD層)/(M層)/(AD層)/(S層)の5層構成のフィルムについて説明する。
【0063】
本発明のフィルムにおいて、表面層(S層)と中間層(M層)との厚さ比は、表面層(S層)を1とした場合、中間層(M層)が2以上、好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、かつ12以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。また、接着層(AD層)の厚さは、表面層(S層)の厚さの10%以上、好ましくは15%以上であり、150%以下、好ましくは100%以下、さらに好ましくは80%以下の厚さであることが望ましい。接着層(AD層)の厚さが表面層(S層)の厚さの10%以上であれば、良好な接着効果が得られ、また150%以下、すなわち表面層(S層)の1.
5倍以下の厚さであれば透明性が大幅に低下することもない。
【0064】
本発明のフィルムの総厚みは特に限定されないが、原料コスト等をできるだけ抑える観点からは薄い方が好ましく、具体的には延伸後の厚さが60μm以下であることが好ましく、55μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、45μm以下であることが最も好ましい。
【0065】
<物理的特性>
本発明のフィルムは、70℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方向において10%以上、30%未満、好ましくは10%以上25%以下、さらに好ましくは10%以上20%以下の範囲である。また、本発明のフィルムは、80℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方向において30%以上、好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上であり、かつ70%以下、好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。
なお、本明細書において「少なくとも一方向」とは、主収縮方向と主収縮方向と直交する方向のいずれか又は両方向を意味し、通常は主収縮方向を指す。ここで、「主収縮方向」とは、縦方向と横方向のうち延伸方向の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向である。
【0066】
70℃及び80℃温水中に10秒間浸漬したときの少なくとも一方向における熱収縮率が上記範囲内であれば、70℃付近の低温域では積層フィルムが、例えば容器に仮止めされる程度の熱収縮性を有し、かつ70℃を超えて80℃付近の高温域では急激に収縮が起こるようになり、その結果、所定の位置で、容器の胴部はもとより胴部と比べて非常に細い首部や天面もおいてもシワやアバタ等の異常が発生せず、かつ均一な収縮が得られ、美麗な収縮仕上がりとなる。
【0067】
70℃付近の主収縮方向における熱収縮率が10%未満であると、熱収縮力が小さいため、例えば積層フィルムを前記の容器用ラベルとして用いた場合に、容器に仮止めできないため、高温になるとフィルムが天面の方向にずれ上がってしまう場合がある。一方、70℃付近で主収縮方向における熱収縮率が30%より大きくなると、低温域で急激に熱収縮が起こるため、所定の位置で熱収縮させることができない場合がある。一方、80℃付近の主収縮方向における熱収縮率が30%未満であると、前記容器の首部や天面において熱収縮が不十分となるため、80℃付近の主収縮方向における熱収縮率は30%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上であることが望ましい。
【0068】
本発明のフィルムがPET製容器用ラベルとして用いられる場合、80℃温水中に10秒間浸漬したときの直交方向の熱収縮率は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。また70℃温水中に10秒間浸漬したときの直交方向の熱収縮率は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。直交方向の収縮率が10%を越えるとラベル用途において収縮後に縦方向の収縮が顕著となり、寸法ずれや外観上不具合を生じる場合がある。
【0069】
本発明のフィルムの自然収縮率は、30℃環境下、30日後において1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましい。自然収縮率が上記条件下で1.5%以下であれば、作製したフィルムを長期保存する場合であっても容器等に安定して装着することができる。
【0070】
本発明のフィルムの透明性はJIS K7105に準拠して測定されたヘーズ値により評価され、ヘーズ値は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下がさらに好ましい。ヘーズ値が10%以下であれば、良好な透明性を得られ、美麗な印刷等が可能となる。
【0071】
また、本発明のフィルムは、表層(S層)と中間層(M層)、好ましくは中間層(M層)にリサイクルされた本発明のフィルムをフィルムの総量に対して40質量%以下、好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下再添加した場合においても、厚み50μmのフィルムのJIS K7105に準拠して測定されるヘーズ値が10%以下、好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。リサイクル製品を再添加後のヘーズ値が10%以下であれば、再生フィルムにおける良好な透明性を維持することができる。
【0072】
本発明のフィルムの耐破断性は引張破断伸びにより評価され、0℃環境下の引張試験において、特にラベル用途ではフィルムの引取り(流れ)方向(MD)で伸び率が100%以上、好ましくは200%以上、さらに好ましくは300%以上ある。
【0073】
本発明のフィルムは、腰強さ(常温での剛性)の点から、フィルム主収縮方向と直交する方向の引張弾性率が1,200MPa以上であることが重要であり、より好ましくは1,300MPa、さらに好ましくは1,400MPa以上である。また、通常使用される熱収縮性フィルムの引張弾性率の上限値は、3,000MPa程度であり、好ましくは2,900MPa程度であり、さらに好ましは2,800MPa程度である。フィルムの主収縮方向と直交する方向の引張弾性率が1,200MPa以上あれば、フィルム全体としての腰(常温での剛性)を高くすることができ、特にフィルムの厚みを薄くした場合にお
いても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの問題点が発生し難く好ましい。上記引張弾性率は、JIS K7127に準じて、23℃の条件で測定することができる。また、フィルム主収縮方向の引張弾性率はフィルムの腰強さが出れば特に制限はないが、1,500MPa以上、好ましくは2,000MPa以上、さらに好ましくは2,500MPa以上であり、上限は6,000MPa以下、好ましくは4,500MPa以下、さらに好ましくは3,500MPa以下であることが好ましい。フィルム主収縮方向の引張弾性率を上記範囲にすることにより、双方向においてフィルムの腰の強さを高めることができるため好ましい。
【0074】
本発明のフィルムの層間剥離強度は、シール強度として表され、後述する実施例で記載された測定方法(23℃50%RH環境下で、T型剥離法にてTD方向に試験速度200mm/分で剥離する方法)を用いて3N/15mm幅以上、好ましくは4N/15mm幅以上、より好ましくは5N/15mm幅以上であり、かつ20N/15mm幅以下であることが望ましい。本発明のフィルムは、層間剥離強度が3N/15mm以上であるため、使用時にシール部分が剥がれてしまう等のトラブルが生じることもない。
【0075】
(熱収縮性積層フィルムの製造方法)
本発明のフィルムは、スチレン系樹脂を主成分としてなる中間層(M層)と、該中間層(M層)の両面側に配設されるポリエステル系樹脂を主成分としてなる表面層(S層)と、表面層(S層)と中間層(M層)との間に形成される接着層(AD層)を同時又は逐次的に積層して積層フィルムを作製し、次いで該積層フィルムを加熱し、少なくとも1軸方向に延伸して得られる。
【0076】
前記積層フィルムは、Tダイ法、チューブラ法など既存の方法により、Tダイを備えた押出機を用いて共押出しすることにより、中間層(M層)、表面層(S層)及び接着層(AD層)を同時に作製することができる。また、前記積層フィルムは、各層を構成する樹脂を別々にシート化した後にプレス法やロールニップ法などを用いて積層して逐次的に作製することもできる。
【0077】
前記積層フィルムは、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラ延伸法、長間隔延伸法などにより、同時もしくは逐次に1軸又は2軸延伸される。2軸延伸では、MDとTD方向の延伸は同時に行われてもよいが、いずれか一方を先に行う逐次2軸延伸が効果的であり、その順序はMD及びTDのどちらが先でもよい。延伸温度は、フィルムを構成する樹脂の軟化温度や熱収縮性積層フィルムに要求される用途によって変える必要があるが、概ね60℃、好ましくは70℃以上であって、130℃以下、好ましくは120℃以下の範囲で制御される。主収縮方向(TD)の延伸倍率は、フィルム構成成分、延伸手段、延伸温度、目的の製品形態に応じて2倍以上、好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上であって、7倍以下、好ましくは6倍以下の範囲で適宜決定される。また、1軸延伸にするか2軸延伸にするかは目的の製品の用途によって決定される。
【0078】
PET製容器用ラベルのように、ほぼ一方向の収縮特性を必要とする用途の場合でもその垂直方向に収縮特性を阻害しない範囲で延伸をすることも効果的となる。その延伸温度は、PET以外の成分にも依存するが、典型的には60℃以上90℃以下の範囲である。さらにその延伸倍率については、サイズが大きくなるほど耐破断性は向上するが、それに伴い熱収縮率が上昇し、良好な収縮仕上がりを得ることが困難となるため、1.03倍以上1.5倍以下であることが特に好ましい。
【0079】
また、本発明のフィルムは、延伸後に延伸フィルムの分子配向が緩和しない時間内に速やかに、当フィルムの冷却を行うことにより、収縮性を付与して保持することができる。
【0080】
〔成形品、熱収縮性ラベル及び容器〕
本発明のフィルムは、成形し、又は必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、容器等の被覆フィルム、結束バンド、外装用フィルムなどの様々な成形品として用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用又は食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用の熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。
【0081】
本発明のフィルムは、優れた低温収縮性、収縮仕上がり性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明のフィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0082】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0083】
以下に本発明のフィルム、熱収縮性ラベル及び該ラベルを装着した容器の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例に示す測定値及び評価は次のように行った。実施例では、積層フィルムの引き取り(流れ)方向を「MD」、それと直交する方向を「TD」と記載する。
【0084】
<測定方法>
(1)熱収縮率
本発明のフィルムをMD100mm、TD100mmの大きさに切り取り、TDの収縮量を70℃又は80℃の温水バスに10秒間浸漬し、測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
(2)自然収縮率
フィルム製作後、23℃50%RHで5時間放置後、MD50mm、TD1000mmの大きさに切り取り、30℃の恒温槽に30日間放置後、TDの収縮率を測定した。結果を表1に示す。
(3)引張破断伸び率
MD50mm、TD15mmで試験片を切り取り、その試験片をチャック間40mmで恒温槽付引張試験機にセットし、これを0℃、100mm/minの試験速度で引張り、下記の計算式より引張破断伸び率を求めた。
引張破断伸び率(%)={(破断したときのチャック間の長さ−40(mm))/
40(mm) }×100
(4)透明性(全ヘ−ズ)
JIS K7105に準拠して厚み50μmのフィルムのヘーズ値を測定した。
(5)引張弾性率
MDについては23℃50%RH、幅3mmのフィルム試験片をチャック間80mmとして引張速度5mm/分で引張試験を行った。また、TDについては23℃50%RH、幅5mmのフィルム試験片をチャック間300mmとして引張速度5mm/分で引張試験を行った。MD及びTDにおける引張応力−歪み曲線の始めの直線部分を用いて、次式によって計算した。
E=σ/ε
但し、上記式において、Eは引張弾性率を表し、σ は直線上の2点間の単位面積(引張試験前のサンプルの平均断面積)当たりの応力の差を表す。
(6)層間剥離強度
層間剥離強度をシール強度として測定した。フィルムのTDの両端より10mmの位置で、THF90質量%、n−ヘキサン10質量%からなる混合溶剤を用いて接着し、筒状ラベルを製造した。シール部分を円周と直角方向に5mm幅に切り取り、それを恒温槽付引張試験機((株)インテスコ製「201X」)を使用し、剥離試験を行った。表裏層と中間層とのシール強度を以下の数値で評価した。
◎:シール強度が4N/15mm幅以上
○:シール強度が2N/15mm幅以上4N/15mm幅未満
×:シール強度が2N/15mm幅未満
(7)収縮仕上がり性
10mm間隔の格子目を印刷したフィルムをMD100mm、TD298mmの大きさに切り取り、TDの両端を10mm重ねて溶剤で接着し、円筒状にした。この円筒状フィルムを、容量500mLのペットボトルに装着し、蒸気加熱方式の長さ3.2m(3ゾーン)の収縮トンネル中を回転させずに、約4秒間で通過させた。各ゾーンでのトンネル内雰囲気温度は蒸気量を蒸気バルブにて調整し、80〜90℃の範囲とした。下記基準にてフィルムを目視評価した。
◎:収縮が十分でシワ、アバタ、格子目の歪みがなく密着性が良好である。
○:収縮は十分だがシワ、アバタ、格子目の歪みが僅かにあるか、もしくは縦方向の収縮率が僅かに目立つが、実用上問題なし。
×:TDの収縮不足又はMDの収縮が目立ち、実用上問題となる。
(8)粘弾性測定(貯蔵弾性率、損失弾性率)
粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、振動周波数10Hz、昇温速度3℃/分、測定温度−120℃から130℃の範囲で測定した。損失弾性率のピーク温度は、損失弾性率の温度依存曲線の傾きがゼロ(一次微分がゼロ)となる温度として求めた。なお、測定フィルムは構成する樹脂を0.2〜1.0mm程度の厚み範囲で作製し、ほぼ無配向の方向を測定した。
(9)リターン後のフィルムのヘーズ値
得られた熱収縮性積層フィルムを粉砕器を用いて粉砕し、再生ペレット化した後、フィルム総量に対して30質量%に相当する量を中間層(M層)にリターンして、各実施例と同様、再生添加フィルムを得た。得られた厚み50μmのフィルムを用いて、JIS K7105に準拠してヘーズ値を測定した。また、下記の基準で評価した結果も併記した。
◎:ヘーズ値が7%未満
○:ヘーズ値が7%以上10%未満
×:ヘーズ値が10%以上
【0085】
(実施例1)
表1 に示すように、50質量%のスチレン系樹脂A(スチレン/ブタジエン=90/10(質量%)、貯蔵弾性率E’:3.15×109Pa、損失弾性率E”のピーク温度:55℃、以下「SBS−A」という。)と50質量%のスチレン系樹脂B(スチレン/ブタジエン/イソプレン=71/14/15(質量%)、貯蔵弾性率E’(0℃):4.03×108Pa、損失弾性率E”のピーク温度:−32℃、以下「SBS−B」という。)との混合樹脂を中間層(M層)として、ポリエステル系樹脂(ジカルボン酸成分がテレフタル酸100モル%、グリコール成分がエチレングリコール70モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノール30モル%よりなる共重合ポリエステル、商品名PETG6763、イーストマンケミカル社製、以下「PETG」という。)を表面層(S層)として、表面層(S層)樹脂50質量%と中間層(M層)樹脂50質量%の混合樹脂を接着層(AD層)として、押出量を中間層(M層):接着層(AD層):表面層(S層)=3:1:1の割合で、210℃〜230℃の範囲で設定された押出機で溶融し、口金で合流させ、3種5層(押出量比=1:1:6:1:1)で押出し、キャストロールで冷却し、厚さ300μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に80℃で1.3倍延伸後、その直角方向(TD)に94℃で4.05倍延伸し、厚さ50μmの熱収縮性積層フィルムを製作した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0086】
(実施例2)
表1に示すように、中間層(M層)としてスチレン系樹脂C(スチレン/ブタジエン=76/24(質量%)、貯蔵弾性率E’(0℃):6.89×108Pa、損失弾性率E”のピーク温度:−74℃、MFR:6.8、商品名DK−11、シェブロンフィリップス社製、以下「SBS−C」という。)を用い、未延伸フィルムを流れ方向(MD)に75℃で1.3倍延伸後、直角方向(TD)に92℃で4.0倍延伸したことを除き、実施例1と同様の方法により積層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例3)
表1に示すように、接着層(AD層)として変性スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂(商品名タフテックM1943、旭化成ケミカルズ、以下「AD」という。)を用い、未延伸フィルムを流れ方向(MD)に75℃で1.3倍延伸後、その直角方向(TD)に92℃で4.0倍延伸したことを除き、実施例1と同様の方法により積層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0088】
(比較例1)
表1に示すように、50質量%のSBS−Aと50質量%のSBS−Bとの混合樹脂を中間層(M層)として、PETGを表面層(S層)として、押出量を中間層:表面層=3:1の割合で、210〜230℃の範囲で設定された押出機で溶融し、口金で合流させ、2種3層(押出量比=1:6:1)で押出し、キャストロールで冷却して厚さ300μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に80℃で1.3倍延伸後、その直角方向(TD)に97℃で4.4倍延伸し、厚さ50μmの積層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1及び2より本発明のフィルム(実施例1〜3)は、接着層を有しない熱収縮性フィルム(比較例1)と比較して、0℃における引張破断伸びが大きく、かつシール強度が大きい。また、本発明のフィルム(実施例1〜3)の引張弾性率、収縮仕上がり及び透明性は、従来のフィルム(比較例1)と同等である。これより本発明のフィルムは、従来のフィルムよりも優れた低温収縮性及び層間剥離強度を示すとともに、従来のフィルムと同等の剛性、収縮仕上がり性及び透明性を有する熱収縮性フィルムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のフィルムは、優れた耐破断性、剛性、収縮仕上がり性及びシール強度を有するため、熱収縮性を必要とする成形品、特にシュリンクラベル等に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層(S層)、中間層(M層)及び接着層(AD層)を有する積層フィルムであって、各層が下記成分を主成分とする樹脂からなるとともに、70℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方において10%以上30%未満であり、かつ80℃温水中に10秒間浸漬したときの熱収縮率が少なくとも一方において30%以上70%以下であることを特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(S層):ポリエステル系樹脂
(M層):スチレン系樹脂
(AD層):接着性樹脂
【請求項2】
接着層(AD層)の接着性樹脂が、表面層(S層)と中間層(M層)に含まれる樹脂の混合物である請求項1に記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項3】
接着層(AD層)の接着性樹脂が、軟質スチレン系樹脂、変性スチレン系樹脂、及びポリエステル系樹脂と親和性の高い若しくは反応可能な極性基を有し、スチレン系樹脂と相
溶可能な樹脂からなる群から選ばれる1種の樹脂、又はこれらの混合物である請求項1に記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項4】
中間層(M層)のスチレン系樹脂が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体(SIBS)、又はこれらの混合物である請求項1乃至3のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項5】
表面層(S層)のポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸残基及びジオール残基からなり、前記ジカルボン酸残基及び前記ジオール残基の少なくとも一方が2種以上の残基で構成され、かつ前記2種以上の残基のうち、最も多く含まれる残基以外の残基の総含有率が前記ジカルボン酸残基の総量(100モル%)と前記ジオール残基の総量(100モル%)との合計(200モル%)に対して10%以上40モル%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項6】
23℃50%RHの環境下で引張速度200mm/分で剥離したときのシール強度が3N/15mm幅以上20N/15mm幅以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムを基材としてなる成形品。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムを基材としてなる熱収縮性ラベル。
【請求項9】
請求項7に記載の成形品又は請求項8に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2006−315416(P2006−315416A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201356(P2006−201356)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【分割の表示】特願2005−161127(P2005−161127)の分割
【原出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】