説明

熱収縮性積層フィルム及びそれからなる包装体

本発明は、ポリカルボン酸系重合体からなる層と多価金属化合物からなる層と熱収縮性支持体フィルムとからなる熱収縮性の積層フィルムを提供することを目的とし、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)からなる層(b)の隣接した層構成を少なくとも一対有し、熱収縮率が3〜90%である熱収縮性積層フィルム、該熱収縮性積層フィルムで被包装物を包装した包装体、及び熱収縮性ラベル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、熱収縮性積層フィルム及びそのフィルムで包装し、熱収縮処理をした包装体に関する。
【背景技術】
従来酸素バリア性を必要とする密閉容器は、容器及び蓋材にバリア性を有する素材を使用している。この密閉容器は、更にストレッチ包装、又はストレッチ・シュリンク包装により密閉容器自体が更にフィルムによって保護されているものがある。また、容器及び蓋材を用いない被包装物の場合には、酸素バリア性、及びストレッチ・シュリンク性のあるフィルムで直接包装することが行われている。バリア性、シュリンク性を有するフィルムとして、特開2001−341201号公報は、脂肪族ポリアミドとキシリレン系ポリアミドからなり、特定条件下で特定の収縮率、及び特定の酸素透過度を有するバリアシュリンクフィルムを記載している。
収縮性とガスバリア性を有するフィルムは、従来から包装用途に用いられ、種々の特徴を有するフィルムが提案されている。
【発明の開示】
本発明の目的は、ポリカルボン酸系重合体からなる層と多価金属化合物からなる層と熱収縮性支持体フィルムとからなる熱収縮性の積層フィルムを提供することである。
本発明者らは、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物からなる層を有するガスバリア性積層フィルム(特願2002−121246号)を検討する過程で、熱収縮性を有する基材フィルムに前記ガスバリア性積層フィルムを形成した積層フィルムがガスバリア性能を損なうことなく熱収縮性を有する積層フィルムになることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)からなる層(b)の隣接した層構成を少なくとも一対有し、熱収縮率が3〜90%である熱収縮性積層フィルムを提供する。また、本発明は、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)と樹脂からなる多価金属化合物含有樹脂層の隣接した層構成を少なくとも一対有し、該基材フィルムの熱収縮率が3〜90%であり、且つ積層フィルムの熱収縮率が90%以下である熱収縮性積層フィルムを提供する。更に前記熱収縮性積層フィルムで被包装物を包装した包装体、及び前記熱収縮性積層フィルムからなる熱収縮性ラベルを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の熱収縮性積層フィルム(以後、積層フィルムと略称することがある)は、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面に、ポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)からなる層(b)の隣接した層構成を少なくとも一対有する積層フィルムであって、通常、熱収縮性積層フィルム全体の収縮は熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)により支配される。
本発明で用いるポリカルボン酸系重合体(A)は、既存のポリカルボン酸系重合体を用いることができる。既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体の総称である。具体的には、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸を用いた単独重合体や共重合体、またα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、さらにアルギン酸、ペクチンなどの分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体(A)は、それぞれ単独で、または少なくとも2種のポリカルボン酸系重合体(A)を混合して用いることができる。ここでα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が代表的なものである。
またそれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレンやプロピレンなどのオレフィン類、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン含有モノマー、スチレン等の芳香族系ビニルモノマー等が代表的なものである。ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、さらにケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
また、ポリカルボン酸系重合体(A)が、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、本発明の積層フィルムのガスバリア性、及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の観点から、その共重合組成は、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%、即ち、ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体であることが好ましい。
さらにポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の場合には、前記の代表例として挙げたα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる単独重合体や共重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。より好ましくは、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸の中から選ばれる少なくとも一種の重合性単量体からなる単独重合体、共重合体、及び/またはそれらの混合物を用いることができる。最も好ましくは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらの混合物を用いることができる。ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合体以外の例えば、酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましく用いることができる。
また、ガスバリア性や熱収縮性などを損なわない範囲で、ポリカルボン酸系重合体(A)は、分子内のカルボキシ基の全部または一部をナトリウムやカリウムのような一価の金属化合物を用いて金属塩としたものを単独で、あるいは他のポリカルボン酸系重合体に混合して使用することができる。あるいは、ポリカルボン酸系重合体に上記一価の金属化合物を混合して用いることもできる。
ポリカルボン酸系重合体(A)の数平均分子量については、特に限定されないが、フィルム形成性の観点で2,000〜100万の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、10,000〜50万、最も好ましくは、30,000〜30万である。数平均分子量が小さすぎると皮膜を形成し難い。また、数平均分子量が大きすぎるとコーティングし難くなる。
本発明で用いる多価金属化合物(B)は、金属イオンの価数が2以上の多価金属単体、及びその化合物である。多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属、アルミニウム等を挙げることができる。多価金属化合物の具体例としては、前記、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩等が挙げられる。無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。それ以外には多価金属のアルキルアルコキシド等を挙げることができる。
これらの多価金属化合物はそれぞれ単独で、また少なくとも2種の多価金属化合物を混合して用いることができる。それらの中でも、本発明で用いる多価金属化合物(B)としては、本発明の積層フィルムのガスバリア性、及び高温水蒸気や熱水に対する耐性、及び製造性の観点で2価の金属化合物が好ましく用いられる。より好ましくは、アルカリ土類金属、及びコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩やコバルト、ニッケル、銅、亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。さらに好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛の各酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び銅もしくは亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。
多価金属化合物(B)の形態は、粒状のものを用いる場合には、積層フィルムの透明性の観点で、その粒径は小さい方が好ましい。また、後述する本発明の積層フィルムを製造するため、より均一なコーティング混合物を得る観点においても多価金属化合物は粒状で、その粒径は小さい方が好ましい。多価金属化合物の平均粒径としては、好ましくは5μm以下、更に好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.1μm以下、最も好ましくは0.05μm以下である。
多価金属化合物の平均粒径が大きすぎると、ガスバリア性が発現し難いことがある。多価金属化合物(B)は、コーティングする際の塗工性、及び被塗工面との接着性の点で、後述する特定樹脂との混合物であることが好ましい。特に、多価金属化合物(B)からなる層(b)が多価金属化合物含有樹脂層である場合に、熱収縮処理したときのガスバリア性の低下があまりなく、かえって向上するので好ましい。多価金属化合物含有樹脂を構成する樹脂の好適な例としては、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの塗料用に用いる樹脂を挙げることができる。これらの中、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂が塗工性、基材フィルムの収縮に対する追従性、可撓性の点で好ましい。
本発明に係わる支持体フィルムとしては、後記の条件を備えたプラスチックフィルムであれば、その種類は特に限定されないが、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系重合体やそれらを構成するモノマーとの共重合体、ポリスチレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系重合体やその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,66共重合体、ナイロン6,12共重合体等のポリアミド系重合体やその共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の酢酸ビニル系共重合体、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系重合体やその共重合体などを用いることができる。それらプラスチック類からなる熱収縮性を有する延伸シート、延伸フィルムを支持体フィルムとして用いることができる。
ここで、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)は、本発明の熱収縮性積層フィルム全体の熱収縮性を支配するフィルムである。その熱収縮性は、熱収縮率が、少なくとも1方向で、好ましくは3〜90%、更には好ましくは5〜90%、最も好ましくは5〜70%である。熱収縮率が90%を超えると本発明のガスバリア性積層構造を持ちながら均一な層厚みに製造することが難しい方向であり、また、熱収縮処理後の積層フィルムのガスバリア性の維持向上も計り難いことがわかった。熱収縮処理後に包装物と密着して、包装物全体のガスバリア性を有するためには、熱収縮率が3%以上であることが望ましい。
また、支持体フィルムは、前記のポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)からなる層(b)より形成されるガスバリア性積層構造により積層フィル全体のガスバリア性が確保される。また、本発明の積層フィルムとしての熱収縮性は、熱収縮率が、少なくとも1方向で、3〜90%、好ましくは5〜90%、更に好ましくは5〜80%、最も好ましくは5〜70%である。少なくとも1方向の熱収縮率が0〜10%である時、それと垂直方向の熱収縮率は少なくとも20%以上が好ましく、30%以上が更に好ましく、40%以上が最も好ましい。その際の上限の熱収縮率は90%以下程度である。
熱収縮のための環境としては、上記温度範囲の熱水、蒸気やスチーム、熱風などが好適である。尚、本発明で定義する熱収縮率とは、特に断りのない限り、90℃の熱水中に、30秒間、積層フィルム、或いは支持体フィルムを浸すことにより測定したものを云う。
次に、本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。熱収縮性支持体フィルム上にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)及び多価金属化合物(B)からなる層(b)を形成するには、コーティング法によって行う。
コーティング法とは、ポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒、または多価金属化合物(B)と溶媒からなるコーティング液を支持体フィルム上にコーティングし、溶媒を蒸発などにより除去させることにより層(a)または層(b)を形成する方法である。コーティングは具体的には、コーターや印刷機などを用いて行うことができる。コーターや印刷機などを用いてのコーティングは、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いることができる。また、ポリカルボン酸系重合体(A)については、その単量体からなる塗工液を支持体フィルム上にコーティングして、紫外線や電子線によって重合し、層(a)を形成する方法や単量体を支持体フィルム上に蒸着すると同時に電子線などを照射して重合させることにより層(a)を形成する方法もコーティング法に含まれる。また多価金属化合物(B)の場合は、支持体フィルム上に蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーディング法などを用いて多価金属化合物(B)からなる層(b)を形成させる方法もコーティング法に含まれる。
ポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒、または多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液を支持体フィルム上にコーティング後、溶媒を蒸発、乾燥させる方法は特に限定されない。自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、前記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライアー、フローティングドライアー、ドラムドライアー、赤外線ドライアーなどを用いることができる。乾燥の条件は、支持体フィルム、及びポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)、及び多価金属化合物(B)からなる層(b)が熱による損傷を受けない範囲で任意に選択できる。
ポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒、または多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液を支持体フィルム上にコーティングする順序は、限定されない。層(a)と層(b)の隣接した層構成を少なくとも1対有することが必要である。層(a)が複数層あっても、層(b)が複数層あっても差しつかえない。また、層(a)或いは層(b)が交互に積層されていても、又互いにサンドウィッチ状になっていても差しつかえない。支持体フィルム上に形成された(a)層と(b)層の厚さの合計は、特に限定されないが、0.002μmから1mmの範囲であることが好ましい、より好ましくは、0.02μm〜100μm、さらに好ましくは、0.1μm〜20μmの範囲である。
尚、(a)層単層の厚さは、好ましくは、0.001μm〜200μm、より好ましくは、0.01μm〜50μm、さらに好ましくは0.05μm〜10μmであり、(b)層単層の厚さは、好ましくは、0.001〜800μm、より好ましくは、0.01μm〜50μm、さらに好ましくは、0.05μm〜10μmである。
隣接した一対の層(a)と層(b)をガスバリア層と呼ぶと、ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比(ガスバリア層の厚さの合計)/(基材フィルムの厚さの合計)は、好ましくは0.001〜0.5、更に好ましくは0.002〜0.3、最も好ましくは0.004〜0.2である。厚さの比が0.001未満であるとガスバリア性が低く、0.5を超えると収縮時にガスバリア層にクラックが入ったり、積層フィルムに皺が見られ、透明性が低下する傾向である。
ポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒からなる塗工液は、ポリカルボン酸系重合体(A)を溶媒に溶解、または分散させることにより調製することができる。ここで用いる溶媒は、ポリカルボン酸系重合体(A)を均一に溶解、または分散できるものであれば特に限定はされない。溶媒の具体例としては、水、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを挙げることができる。ポリカルボン酸系重合体(A)は、水溶液中では、容易に多価金属化合物(B)と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。従って、多価金属化合物(B)からなる層(b)上にポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒からなる塗工液をコーティングするような場合には、溶媒が水であるとコーティング時にポリカルボン酸系重合体(A)が多価金属化合物と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。そこで溶媒は、水以外の非水系溶媒、または非水系溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。
塗工液には、ポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒以外にも、最終的に得られる本発明の積層フィルムのガスバリア性を損なわない範囲で、ポリビニルアルコールなどの他の重合体、グリセリンなどの柔軟剤、安定剤、アンチブロッキング剤、粘着剤やモンモリロナイト等に代表される無機層状化合物等の添加物を適宜用いることができる。その添加量は添加剤の総量として、ポリカルボン酸系重合体(A)含有量の好ましくは、5重量%以下、より好ましくは、3重量%以下、最も好ましくは、1重量%以下である。
また、前記同様、最終的に得られる本発明の積層フィルムのガスバリア性を損なわない範囲で1価の金属化合物を塗工液に添加して用いることができる。また、一価の金属化合物が塗工液に含まれていてもよい。塗工液のポリカルボン酸系重合体(A)のコーティング時の濃度は、好ましくは0.1〜50重量%、更に好ましくは0.5〜30重量%、最も好ましくは1〜10重量%である。ポリカルボン酸系重合体(A)のコーティング濃度が低いと皮膜を形成し難く、濃度が高すぎるとコーティングし難くなる方向である。
多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液は、多価金属化合物(B)を溶媒に溶解、または分散させることにより調製することができる。ここで用いる溶媒は、多価金属化合物(B)を均一に溶解、または分散できるものであれば特に限定はされない。溶媒の具体例としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を用いることができる。前記のように、ポリカルボン系重合体(A)は、水溶液中では、容易に多価金属化合物と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。従って、ポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)上に多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液をコーティングするような場合には、溶媒が水であるとコーティング時にポリカルボン酸系重合体(A)が多価金属化合物と反応し、不均一な沈殿を生成することがある。そこで溶媒は、水以外の非水系溶媒、または非水系溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。
多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液には、多価金属化合物(B)と溶媒以外に、樹脂、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、アンチブロッキング剤、粘着剤等の添加剤を適宜用いることができる。特に多価金属化合物の分散性、塗工性を向上させる目的で、用いた溶媒系に可溶な樹脂を混合して用いることが好ましい。
また、塗工液中の多価金属化合物(B)と樹脂(R)の構成比(B)/(R)(重量比)は、好ましくは0.1〜9、更に好ましくは0.1〜5、最も好ましくは0.2〜5である。この比が大きくなると塗布面への接着性が悪くなり易い。塗工液中の多価金属化合物、樹脂、その他の添加剤の総量は特に限定されないが、塗工適性の観点から、好ましくは、0.1重量%〜50重量%の範囲、より好ましくは、1重量%〜50重量%の範囲である。多価金属化合物(B)からなる層(b)の好ましい態様としては、前記多価金属化合物含有樹脂の塗工液をコーティングしてなる多価金属化合物含有樹脂層である。
支持体フィルム上にポリカルボン酸系重合体(A)と溶媒、または多価金属化合物(B)と溶媒からなる塗工液をコーティングする際には、層(a)、または層(b)と支持体フィルムとの接着性を向上させる目的で、予め接着剤を支持体フィルムにコーティングすることができる。また、層(a)又は層(b)が支持体フィルム以外の他の層に接して配置される場合、或いは支持体フィルム以外の他の層に接することを予定した用途で本発明の積層フィルムを製造する場合は、他の層との接着性を高めるために層(a)又は層(b)の外表面に粘着剤、或いは接着剤を用いてもよい。ここで接着剤の種類は特に限定されないが、具体的な例としては、ドライラミネート用やアンカーコート用、プライマー用として用いられている溶媒に可溶な、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などを例示することができる。
本発明の積層フィルムには、更に、他の層を積層してもよい。他の層は、例えば、支持体フィルム面の積層されていない面、即ち、(他の層/支持体フィルム/層(a)/層(b))、(他の層/支持体フィルム/他の層/層(a)/層(b))、或いは、層(a)又は層(b)の面の積層されていない面、即ち、(支持体フィルム/層(a)/層(b)/他の層)、(支持体フィルム/層(b)/層(a)/他の層)、(支持体フィルム/他の層/層(b)/層(a)/層(b)/他の層)、(他の層/支持体フィルム/層(b)/層(a)/層(b))、(支持体フィルム/層(b)/層(a)/層(b)/他の層)などであるが、他の層の積層位置は、この例により限定されない。他の層の材質は、支持体フィルムとして用いることが可能な構成から選択することができるが、積層フィルム全体としての熱収縮性を損なわない範囲で、熱収縮性であることには拘らない。他の層の材質として、印刷性、耐酷使性、あるいは前記接着剤層、粘着剤層、熱感応型粘着剤層も含める。加える層の機能としては、例えば、積層フィルムやシートへの強度付与、シール性(特にフィルム端部からのガスの侵入防止)及びシール時の易開封性付与、意匠性付与、光遮断性付与、防湿性付与等の目的に併せて、1種以上の層を積層することができる。積層方法は、積層材料をコーティングによって積層する方法やフィルム状、またはシート状の積層材料を接着剤を介して、または介さずして、公知のラミネート法により、積層する方法が挙げられる。具体的なラミネート方法とは、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、押し出しラミネート法が挙げられる。
このようにして得られる本発明の熱収縮性積層フィルムのガスバリア性は、熱収縮性を有しながら、30℃、相対湿度80%のときの酸素透過度が、好ましくは、500cm/(m・day・MPa)以下、より好ましくは、100cm/(m・day・MPa)以下である。また、本発明の積層フィルムは、被包装物を包装し、熱収縮処理した後で30℃、相対湿度80%における酸素透過度が、好ましくは500cm/(m・day・MPa)以下、より好ましくは、100cm/(m・day・MPa)以下である。前記の如く熱収縮処理は、熱水、蒸気やスチーム、熱風などを用いて行うことができる。
熱収縮性支持体フィルム上に層(a)、層(b)をコーティングしてなる積層フィルムは、支持体フィルム(基材フィルム)の熱収縮に追従し、積層フィルムとしての熱収縮性を十分維持できる特徴を有している。本発明の積層フィルムは、熱収縮後の30℃、相対湿度80%における酸素透過度が、熱収縮前の酸素透過度以下であることが好ましく、熱収縮を受けてもガスバリア性能は少なくとも低下することがないことを特徴としている。特に、多価金属化合物(B)からなる層(b)が多価金属化合物含有樹脂層である場合に好適である。
本発明に係わる他の熱収縮性積層フィルムとして、熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)と樹脂からなる多価金属化合物含有樹脂層の隣接した層構成を少なくとも一対有し、該基材フィルムの熱収縮率が3〜90%であり、且つ積層フィルムの熱収縮率が90%以下である熱収縮性積層フィルムがある。この積層フィルムを構成する基材フィルム、ポリカルボン酸系重合体(A)及びそれからなる層(a)、多価金属化合物(B)と樹脂からなる多価金属化合物含有樹脂層は、積層フィルムの熱収縮率が3%未満を含むこと以外は前記したことが適用できる。
本発明の熱収縮性積層フィルムは、袋用、ラベル用、蓋材として、シート或いは容器を構成する材料として、包装袋や包装容器に形成することができる。包装袋の具体的な形状としては、ピロー包装、三方シール、四方シール、ガゼット方式四方シール包装などを挙げることができ、このような包装袋にして用いることができる。包装容器の具体的な形状は、被包装品が充填されたボトル、トレー、カップ、チューブ等を前記の本発明の積層フィルム、或いは、本発明の積層フィルムからなる包装袋を用いて、全体的、或いは部分的に被覆し、熱による収縮処理を行い、前記の積層フィルム、或いは、前記の包装袋を収縮させ、上記容器に密着させて、容器全体としての酸素ガスバリア性を確保するもの等が挙げられる。また、本発明の積層フィルムを他のフィルムとのラミネート等の方法によりトレー、カップなどの容器の蓋材として用いることができる。本発明の範囲を外れない範囲で積層材料構成を任意に選択することにより、易開封性、易引裂性、収縮性、電子レンジ適性、紫外線遮断性、意匠性等を付与して用いることができる。特に、熱収縮性ラベルとして用いる場合には、ボトル(PETボトルなど)又は容器の胴部のみに被覆されることが多く、その場合には、ラベルが包装容器に接する側に熱感応型粘着剤等をコーティングしておき、ラベルの有する酸素ガスバリア性能を有効に発揮できるように被着体となる容器に密着させることが好ましい。例えば、ボトル用のラベルは、包装容器に接するラベルの周縁部、及びラベルのミシン目部分を含めて熱感応型粘着剤を塗布したラベルを用いるとよい。
ここで、熱感応型粘着剤とは、常温では非粘着性であるが、加熱することにより粘着性が発現し、しかも粘着性発現後、加熱源を取り去っても暫くの間粘着性が持続するものを云う。熱感性粘着剤としては、熱可塑性樹脂、固体可塑剤、粘着付与剤からなるディレードタック剤及び熱可塑性樹脂、ワックス、粘着付与剤からなるホットメルト接着剤等が挙げられる。ラベルのパラ落ちなどを考慮すると、冷却後も粘着性の持続するディレードタック剤の方がより好ましい。このディレードタック剤としては、EVA系、アクリル系、ゴム系等が挙げられる。
本発明においてはこの熱感応型粘着剤層中に多価金属化合物を含有させた層も多価金属化合物含有樹脂層の一つの態様である。ガスバリア性を有する熱収縮性ラベルとしてPETボトル等の容器への被覆加工に用いる場合、ラベル状、筒状、袋状等の形態に加工したものを容器に装着し、スチームを吹き付けて熱収縮させるタイプの収縮トンネルや、熱風を吹き付けて熱収縮させるタイプの収縮トンネル等の中を通過させることで熱収縮させ、それと同時に熱感応型粘着剤が粘着性を発現して容器に密着させる方式を用いることができる。
本発明の積層フィルムは、酸素等の影響により、劣化を受けやすい、食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品等の精密金属部品の包装体、包装容器や真空断熱材料として適している。さらに長期にわたり安定したガスバリア性能が必要で、かつボイル、レトルト殺菌等の高温熱水条件下での処理を必要とする物品の包装材料として好適に使用することができる。
食品関連の用途としては、弁当、惣菜、調理麺、鍋焼きうどん等のコンビニエンスストア関連品の包装、プリン・フルーツゼリーの蓋材、中華惣菜、佃煮、漬物、煮豆などの一般総菜関連の包装、レトルト食品、和菓子、洋菓子、水産加工品、畜肉加工品、揚げ物、カマボコ、おでんなどの水練り製品関連品の包装、精肉や鮮魚関連品の包装、生椎茸、舞茸、リンゴ、バナナ、カボチャ、しょうが、みょうがなどの菌茸類・野菜関連品の包装などがある。また、ジュース、牛乳、乳酸飲料などの紙容器入り食品の単体、結束・集積包装がある。PETボトル飲料、ジュース、牛乳、乳酸飲料、カップ麺などのプラスチック容器入り食品の単体、結束・集積包装がある。
情報用紙、感光紙、紙器、バグインボックスなどの紙製品の包装、家電製品、電気製品、機械部品、合板、床材・天井材、雨戸・シャッター、門扉・フェンス、ストッカーなどの建材の包装、家具、事務機、繊維、金属コイル、まな板、食器、アルミホイルなどの雑貨の包装、パイプ、電線、チューブ、ヒモ、バンド、電磁波シールドチューブなどのドーナツ状製品の包装、ノート、アルバム、カレンダーなどの文具の包装、医薬品、エアゾールなどのスプレー、洗剤などの薬品類の包装、毛洋品、石鹸、歯磨、ウェットティッシュ等の化粧品、トイレタリーの包装、CD、カセットテープ、ビデオテープなどの音響機器の包装、陶器の包装、その他、スポーツ用品、釣り具、柱等建材、精密部品、ガソリンタンク、乾電池集積包装などがある。また、前記の包装用の各種ラベルとして用いることができ、特に、ジュース、牛乳、乳酸飲料などの紙容器や、ボトル飲料用PET容器などのラベルとして好適に使用される。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下評価方法及び実施例について説明する。
1.熱収縮性積層フィルムの評価方法及び実施例
1.1 熱収縮率の測定
試料フィルムを縦、横10×10cmに切り取り、90℃の熱水中に30秒間浸した後、試料フィルムの縦、および横方向の収縮前の長さ(L)、収縮後の長さ(L’)としたとき、
熱収縮率(%)={(L−L’)/L}×100
の式に従って、収縮率を算出した。本発明では、このようにして測定した少なくとも1方向の収縮率が3〜90%である。
1.2 外観評価
以下の評価条件および方法にて乾熱または熱水中で横方向に10%収縮した熱収縮性積層フィルムの収縮後の外観を評価した。
1.2.1 乾熱での10%収縮
熱収縮性積層フィルムが横方向に10%収縮した際にスチール缶(外径:53mm、容量250cm)に密着するように、積層フィルムを筒状に成形してスチール缶の外側に被せ、95℃に温度調節したギヤオーブン中で、1分間静置して、熱風にさらし熱収縮させた。
1.2.2 熱水中での10%収縮
熱収縮性積層フィルムが横方向に10%収縮した際にスチール缶(外径:53mm、容量250cm)に密着するように、積層フィルムを筒状に成形してスチール缶の外側に被せ、90℃の熱水中に30秒間浸し、熱収縮させた。このようにして横方向に10%収縮した熱収縮性積層フィルムの収縮後の外観を評価した。
1.2.3 判定基準
収縮後の外観は、以下の判定基準で評価した。
A:積層フィルムにしわやたるみがなく、コーティングされた層には、ひび、割れ、剥がれがなく、透明性が保たれている。
B:積層フィルムにしわやたるみがないが、コーティングされた層の透明性が損なわれている。
C:積層フィルムにしわやたるみがみられる。また、コーティングされた層には、ひび、割れ、剥がれがみられ、透明性が損なわれている。
1.3 収縮前後の酸素透過度
熱収縮性積層フィルムの収縮前後の酸素透過度を測定した。熱収縮条件及び方法は前記の乾熱および熱水中での10%収縮に準じた。
フィルムの酸素透過度は、Modern Control社製、酸素透過試験器OXTRANTM2/20を用いて、温度30℃、相対湿度80%(RH)の条件下で測定した。測定方法は、JIS K−7126、B法(等圧法)、及びASTM D3985−81に準拠し、測定値は、単位cm(STP)/(m・day・MPa)で表記した。ここで(STP)は酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味する。
【実施例1】
熱収縮性ポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製、スペースクリーンS7542、厚さ45μm、酸素透過度600cm(STP)/(m・day・MPa)、縦方向の収縮率5%、横方向の収縮率60%(90℃の熱水に30秒間浸した場合))(以下、「熱収縮性PETフィルム」ということもある)上にバーコーター(RK PRINT−COAT INSTRUMENT社製 K303PROOFER)を用いて、市販のアンカーコート(AC)用接着剤(大日本インキ化学工業(株)製、ディックドライTMLX747、硬化剤KX75、溶剤:酢酸エチル)をコーティングし、乾燥させた。得られたコーティング層の厚さは1.0μmであった。さらに、AC剤をコーティングした層の上に、ポリカルボン酸重合体(東亜合成(株)製、ポリアクリル酸(PAA)アロンA−10H、数平均分子量200,000、25重量%水溶液)(以下、「PAA」ということもある)を蒸留水で希釈し、5重量%水溶液を調製し、前記バーコーターを用いてコーティングし、乾燥した。コーティング厚さは、0.3μmであった。
次いで、乾燥したPAA層の上に微粒子酸化亜鉛含有ポリエステル系樹脂(住友大阪セメント(株)製、ZR133、平均粒径0.02μm、固形分33重量%、酸化亜鉛と樹脂の構成比(重量比)は1.5、分散溶剤(トルエン:MEK=4:1))を同様の方法でコーティングし、乾燥させた。コーティング厚さは、1.0μmであった。こうして熱収縮性PETフィルム(45μm)/AC剤層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(表ではZnOAと略記する。Aは樹脂層を意味する。)(1.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.03であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
【実施例2】
実施例1と同様な方法により、前記熱収縮性PETフィルムの上に、AC剤の代りに実施例1で使用した微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥した。コーティング厚さは、1.0μmであった。その上に実施例1と同様なポリカルボン酸重合体(PAA)、および前記の微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥させて、熱収縮性PETフィルム(45μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.05であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
【実施例3】
アンカーコート用の接着剤をコーティングしなかったこと、および微粒子酸化亜鉛含有樹脂のコーティング厚さを変更したことを除き、実施例1と同様の方法により、熱収縮性PETフィルム上にPAA、および微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥させて熱収縮性PETフィルム(45μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(3.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.07であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
【実施例4】
支持体フィルムとして熱収縮性ポリアミドフィルム((株)興人製、ボニールSC、厚さ15μm、縦方向の収縮率20%、横方向の収縮率20%、横方向の収縮率20%(90℃の熱水中に30秒間浸した場合)、酸素透過度1250cm(STP)/(m・day・MPa))(以下、「熱収縮性ONyフィルム」ということもある)を使用したことを除き、実施例2と同様の方法により、熱収縮性ONyフィルム上に実施例1で使用したのと同じ微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥した。コーティング厚さは、1.0μmであった。その上に実施例1と同様なPAA、および前記の微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥させて、熱収縮性ONyフィルム(15μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.15であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向20%、横方向20%であった。
【実施例5】
実施例1で用いたものと同じ熱収縮性PETフィルム上に実施例1と同様にアンカーコート(AC)用接着剤、PAAをコーティングし、乾燥した。次いで乾燥したPAA層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(固形分10重量%)と酢酸カルシウム水溶液(和光純薬(株)製、酢酸カルシウムを使用、濃度1.0モル/kg)の混合水溶液を同様の方法でコーティングし、乾燥させた。コーティング厚さは、1.0μmであった。さらにその上に耐水性を付与するために、ポリウレタン(PU)樹脂層(東洋インキ製造(株)製、NEWLPスパーRTメジウム、硬化剤VMハードナーXB、溶剤:トルエン、MEK)をコーティングした。こうして熱収縮性PETフィルム(45μm)/AC剤層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/酢酸カルシウム含有PVA層(1.0μm)/PU樹脂層(1.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.03であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
【実施例6】
実施例3と同様、アンカーコート用の接着剤をコーティングせずに、熱収縮性PETフィルム上にPAAをコーティングし、微粒子酸化亜鉛含有樹脂の代わりに微粒子酸化亜鉛(住友大阪セメント(株)製、ZS303、平均粒径0.02μm、固形分(酸化亜鉛)32重量%、分散溶剤(トルエン))をコーティングし、乾燥させた。更にその上に耐水性を付与するために、ポリウレタン(PU)樹脂(東洋インキ製造(株)製、NEWLP スーパーRTメジウム、硬化剤VMハードナーXB、溶剤(トルエン、MEK))をコーティングした。こうして熱収縮性PETフィルム(45μm)/PAA層(0.3μm)/微粒子酸化亜鉛層(表ではZnOBと略記する)(1.0μm)/PU樹脂層(1.0μm)の積層フィルムを形成した。ガスバリア層と基材フィルムの厚さの比は0.03であった。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
(比較例1)
実施例1で用いたものと同じ熱収縮性PETフィルムの表面に、実施例1で用いたものと同じ微粒子酸化亜鉛含有樹脂(ZR133)をコーティングし、乾燥させ、熱収縮性PETフィルム(45μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)の積層フィルムを形成した。この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。
実施例1〜5、及び比較例1で得られた積層フィルムの評価結果を表1に示した。

2.PETボトルにラベルとして用いた場合の評価方法及び実施例
以下の実施例は、内容物の入った包装容器等のガスバリア性能を向上させることを目的としている。包装容器を部分的に熱収縮性積層フィルムで覆う具体例として、本発明の熱収縮性積層フィルムをラベルとして用いて、熱収縮性積層フィルムがPETボトルの胴部を部分的に覆う場合の評価を行った。ガスバリア性維持の観点から熱感応型粘着剤を用いて包装容器と熱収縮性積層フィルムとを一体化させて評価した。
2.1 外観評価
以下の条件で乾熱で横方向に10%収縮させ、PETボトル(容量500cm)と一体化させた熱収縮性積層フィルムの収縮後の外観を評価した。
2.1.1 乾熱での10%収縮
横方向に10%収縮した際にPETボトルに密着するように、積層フィルムを筒状に成形してPETボトルの外側に被せ、95℃に調節したギヤーオーブン中で、1分間静置して、熱風にさらし、熱収縮させた。熱収縮後に積層フィルムで覆われている表面積は、PETボトル全体の表面積の約80%となるようにした。このようにして横方向に10%収縮し、PETボトルと一体化させた熱収縮性積層フィルムの収縮後の外観を評価した。
2.1.2 判定基準
A:積層フィルムにしわやたるみがなく、容器に密着しており、コーティングされた層には、ひび、割れ、剥がれがなく、透明性が保たれている。
B:積層フィルムにしわやたるみがなく、容器に密着しているが、コーティングされた層の透明性が損なわれている。
C:積層フィルムにしわやたるみがみられ、容器に密着していない。コーティングされた層には、ひび、割れ、剥がれがみられ、透明性が損なわれている。
2.2 収縮後の酸素透過度
粘着剤を使用して積層フィルムを一体化したPETボトルの酸素透過度は、二通りの方法により測定した。一つはボトルのまま測定する方法(以下パッケージ法とする)で、もう一つは積層フィルムで覆われた部分を切り取って測定する方法(以下フィルム法とする)である。パッケージ法では、前述の1.3で使用した酸素透過試験器を用いて、温度30℃、相対湿度30%としたチャンバー内にボトルを固定し、ボトル内部には相対湿度80%の窒素を流入させ、ボトル外部(空気雰囲気)からの酸素透過度を測定した。なお、得られた値を5倍することでボトル外部(チャンバー内)を酸素100%としたときの値とした。フィルム法は前述の1.3と同様の方法により測定した。パッケージ法で測定した値の単位はcm(STP)/(bottle・day・MPa)、フィルム法で測定した値の単位はcm(STP)/(m・day・MPa)で表記した。
【実施例7】
熱収縮時に被包装体と密着するように、実施例2の積層フィルムの熱収縮性PETフィルム表面とは反対側のZnO含有樹脂層の表面に熱感応型粘着剤(東洋インキ製造(株)製、ヒートマジックDW4070)をコーティングし、乾燥させた。こうして得た熱収縮性積層フィルム(この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。)を粘着剤が内側になるようにして円筒状に加工した。円筒状とした積層フィルムを、市販のPETボトル500mlの胴部に被せ、95℃に温度調節したギヤオーブン内で、1分間静置して、熱風にさらし、熱収縮させてボトルと一体化させた。
こうして、熱収縮性PETフィルム(45μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/粘着剤(3.0μm)/PETボトル(平均肉厚350μm)なる包装容器を得た。尚、PETボトル表面に一体化した積層フィルムは、PETボトルの表面積の80%を占めていた。また、PETボトル自体の30℃、相対湿度80%での酸素透過度は、2.0cm(STP)/(bottle・day・MPa)であった。
【実施例8】
熱収縮時に被包装体と密着するように、実施例2の積層フィルムの熱収縮性PETフィルム表面に、実施例7で用いたものと同じ熱感応型粘着剤をコーティングし、乾燥させた。こうして得た熱収縮性積層フィルム(この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。)を粘着剤が内側になるようにして円筒状に加工した。円筒状とした積層フィルムを、実施例7と同じ市販のPETボトル500mlの胴部に被せ、95℃に温度調節したギヤオーブン内で、1分間静置して、熱風にさらし、熱収縮させてボトルと一体化させた。こうして、ZnO含有樹脂層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/熱収縮性PETフィルム(45μm)/粘着剤(3.0μm)/PETボトル(平均肉厚350μm)なる包装容器を得た。尚、PETボトル表面に一体化した積層フィルムは、PETボトルの表面積の80%を占めていた。
(比較例2)
実施例1で用いたものと同じ熱収縮性PETフィルムの上に、実施例7で用いたものと同じ熱感応型粘着剤をコーティングし、乾燥させた。こうして得た熱収縮性積層フィルム(この積層フィルムを90℃の熱水中に30秒間浸した後の収縮率は、縦方向5%、横方向60%であった。)を粘着剤が内側になるようにして円筒状に加工した。円筒状とした積層フィルムを、実施例7と同じ市販のPETボトル500mlの胴部に被せ、95℃に温度調節したギヤオーブン内で、1分間静置して、熱風にさらし、熱収縮させてボトルと一体化させた。こうして、熱収縮性PETフィルム(45μm)/粘着剤(3.0μm)/PETボトル(平均肉厚350μm)なる包装容器を得た。尚、PETボトル表面に一体化した熱収縮性PETフィルムは、PETボトルの表面積の80%を占めていた。
実施例7〜8、及び比較例2で得られた積層フィルムの評価結果を表2に示した。

3.被包装物全体を覆った場合の評価方法及び実施例
以下の実施例では、熱収縮性積層フィルムで被包装物を全体的に覆った場合の評価を行った。具体例として、ソーセージを熱収縮性積層フィルムで包装した場合の評価を行った。
【実施例9】
実施例4で得た熱収縮性積層フィルムのZnO含有樹脂層の面にポリウレタン系接着剤(三井武田ケミカル(株)製、タケラックA620、硬化剤:タケネートA65、溶剤:酢酸エチル)を介し、熱収縮性ポリエチレン((株)興人製、ポリセット UM、厚さ35μm、縦方向の収縮率15%、横方向の収縮率18%(90℃の熱水中に30秒間浸した場合))をドライラミネート法により貼り合わせ、熱収縮性ONyフィルム(15μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/PAA層(0.3μm)/ZnO含有樹脂層(1.0μm)/接着剤層(2μm)/熱収縮性ポリエチレン(35μm)の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムで製袋充填包装機(オリヒロ(株)製、ONPACK−6600AII)を用いソーセージを充填包装した。得られた包装体を90℃の熱水中に10分間浸し、熱収縮させると同時に熱殺菌を行った。その結果、熱収縮後のソーセージの形状に実質的な変化は認められず、十分タイトフィットした美麗な外観を有していた。また、フィルムの収縮後の破袋も認められなかった。収縮後のフィルムの酸素透過度は30℃、相対湿度80%で1.0cm(STP)/(m・day・MPa)であった。
(比較例3)
実施例4で用いたものと同じ熱収縮性ONyフィルムの片面に、実施例9で用いたものと同じ接着剤を介して、実施例9で用いたものと同じ熱収縮性ポリエチレンをドライラミネート法により貼り合わせ、熱収縮性ONyフィルム(15μm)/接着剤層(2μm)/熱収縮性ポリエチレン(35μm)の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムで実施例9に記した製袋充填包装機を用いソーセージを充填包装した。ソーセージを充填した包装体を90℃の熱水中に10分間浸し、熱収縮させると同時に熱殺菌を行った。その結果、熱収縮後のソーセージの形状に実質的な変化は認められず、十分タイトフィットした美麗な外観を有していた。また、フィルムの収縮後の破袋も認められなかった。収縮後のフィルムの酸素透過度は30℃、相対湿度80%で1200cm(STP)/(m・day・MPa)であった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、容器及び蓋材を用いないシュリンク包装、或いは、容器全体を包装するシュリンク包装用として、ガスバリア性を付加した包装材料である熱収縮性積層フィルムを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)からなる層(b)の隣接した層構成を少なくとも一対有し、熱収縮率が3〜90%である熱収縮性積層フィルム。
【請求項2】
熱収縮性支持体フィルムの熱収縮率が3〜90%である請求項1記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項3】
熱収縮率が5〜90%である請求項1又は2記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項4】
多価金属化合物(B)からなる層(b)が多価金属化合物(B)と樹脂からなる多価金属化合物含有樹脂層である請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項5】
隣接した一対の層(a)と層(b)のガスバリア層の合計厚さと基材フィルムの合計厚さの比が0.001〜0.5である請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項6】
30℃、相対湿度80%における酸素透過度が500cm/(m・day・MPa)以下である請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項7】
多価金属化合物(B)が2価の金属化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項8】
ポリカルボン酸系重合体(A)が、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸の中から選ばれる少なくとも一種の重合性単量体からなる単独重合体、共重合体、及び/またはそれらの混合物である請求項1〜7のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項9】
他の層を含んでなる請求項1〜8のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項10】
他の層が接着剤を含有する層である請求項9記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項11】
熱収縮後の酸素透過度が、熱収縮前の酸素透過度以下である請求項1〜10のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルム。
【請求項12】
熱収縮性支持体フィルム(基材フィルム)の少なくとも片面にポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物(B)と樹脂からなる多価金属化合物含有樹脂層の隣接した層構成を少なくとも一対有し、該基材フィルムの熱収縮率が3〜90%であり、且つ積層フィルムの熱収縮率が90%以下である熱収縮性積層フィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムを含む構成からなる包装体。
【請求項14】
袋、シート、ラベル、容器又は蓋材である請求項13記載の包装体。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムで被包装物を包装した包装体。
【請求項16】
熱収縮処理した包装体であって、熱収縮処理後の30℃、相対湿度80%における該熱収縮性積層フィルムの酸素透過度が500cm/(m・day・MPa)以下である請求項15記載の包装体。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに記載の熱収縮性積層フィルムからなる熱収縮性ラベル。
【請求項18】
熱感応型粘着剤を塗布した請求項17記載の熱収縮性ラベル。

【国際公開番号】WO2004/096540
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505903(P2005−505903)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005995
【国際出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】