説明

熱可塑性エラストマー成形品の接着方法、これより得られる複合成形品、医療用部材、および輸液セット

【課題】ポリブタジエン成形品などの熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品との接合(接着)力を向上させ、輸液セット等における液洩れを防ぐ。
【解決手段】熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品を、濃度0.1重量%〜20重量%の極性基含有エラストマー溶液を用いて接着させる。熱可塑性エラストマーとして、特定の1−2−ポリブタジエン20〜100重量%とスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体80〜0重量%からなるものを使用し、極性樹脂成型品としてポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の特定の樹脂から選択して使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブタジエン成形品などの熱可塑性エラストマー成形品の接着方法、これより得られる複合成形品、医療用部材および輸液セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可塑剤を使用しないPVC(塩化ビニル系樹脂)代替材料として、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(RB)に代表されるポリブタジエンが注目されており、本発明者らは、RBチューブとRBコネクタを接着した医療用部材(特許文献1:特開2004−321788号公報)などを提案している。
ところで、輸液セットは、チューブとコネクタを溶剤接合(接着)し商品化されている。これまで、上記輸液セットとしては、PVCチューブ/溶剤(極性溶剤)/極性樹脂コネクタで商品化されている。しかしながら、近年、脱PVCの動きが顕著化し、PVCチューブに換え、上記のように、RBの検討が増えている。ところが、RBは極性に乏しく、用途によっては、極性溶剤/極性樹脂での接合が不十分な場合がある。
特に、日本や米国では、輸液セットを用いて、患者に点滴するに際し、ポンプを用いる場合があり、この場合には、輸液セットに圧力がかかるため、例えばチューブとコネクタとの接合部より液洩れを生じる恐れがあり、より強い接着強度が要求されている。
【特許文献1】特開2004−321788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリブタジエン成形品などの熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品との接合(接着)力を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とを、濃度0.1重量%〜20重量%の極性基含有エラストマー溶液を用いて接着することを特徴とする熱可塑性エラストマー成形品の接着方法に関する。
ここで、上記熱可塑性エラストマー成形品としては、(A)1,2−結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン20〜100重量%と(B)その他の熱可塑性エラストマー80〜0重量%〔ただし、(A)+(B)=100重量%〕からなるものが好ましい。
また、上記(B)その他の熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体および/またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が挙げられる。
さらに、極性樹脂成形品としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアルキルアクリレート樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリ塩化ビニリデン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種からなるものが好ましい。
さらに、上記極性基含有エラストマーの、極性基としてはエポキシ基、カルボキシル基、アクリル基、メタアクリル基、アミノ基、無水マレイン酸基、カルボニル基、スルホン酸基および水酸基の群から選ばれた極性基が、また、エラストマーとしては1,2−ポリブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
さらに、極性基含有エラストマー溶液に用いられる有機溶剤としては、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジエチルケトン、酢酸エチル、ジクロロエタン、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、二硫化炭素および酢酸の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
次に、本発明は、上記熱可塑性エラストマー成形品の接着方法により得られる複合成形品に関する。
ここで、上記複合成形品としては、熱可塑性エラストマー成形品がチューブであり、極性樹脂成形品がコネクタである医療用部材が挙げられる。
また、本発明は、上記医療用部材を構成要素とする輸液セットに関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とを、両者に相溶性のある極性基含有エラストマーの溶液を接着剤に用いて接着しているので、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品との接合(接着)力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
熱可塑性エラストマー成形品
本発明のチューブなどの熱可塑性エラストマー成形品を構成する熱可塑性エラストマーとしては、(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン単独で、あるいは、(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンおよび(B)その他の熱可塑性エラストマーとの組成物が好ましく用いられる。この(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、1,2−結合含量が70%以上、好ましくは80%以上、結晶化度が5〜50%、好ましくは10〜40%の結晶性を有するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンであり、その融点(Tm)は、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは60〜140℃の範囲にある。結晶化度・融点がこの範囲にあることにより、引張強度、引裂強度などの力学強度と柔軟性のバランスに優れる結果となる。
【0007】
なお、結晶化度が5〜25%程度までのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(以下「低結晶RB」ともいう)は、柔軟性に優れるので、チューブ本体として用いられる。しかしながら、この低結晶RBは、融点が低いので(融点=約70〜95℃)、耐蒸気滅菌性に劣る。このため、後述するように、電子線照射により、架橋させて耐熱性を付与することが望ましい。
一方、結晶化度が25〜50%程度のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(以下「高結晶RB」ともいう)は、融点が比較的高い(融点=約105〜140℃)が、一方、硬度が高く柔軟性に劣るので、コネクタとして好ましく用いることができる。
【0008】
本発明に用いられる(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、例えば、1,2−結合含有量が70%以上のものであり、例えば、コバルト化合物およびアルミノオキサンを含有する触媒の存在下に、ブタジエンを重合して得られるものであるが、この製造方法に限定されるものではない。
【0009】
本発明に用いられる(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンのブタジエン結合単位における1,2−結合含有量は、通常、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。1,2−結合含有量が70%以上であることにより、当該1,2−ポリブタジエンが良好な熱可塑性エラストマーとしての性質が発揮される。
【0010】
本発明に用いられる(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、ブタジエン以外の共役ジエンが少量共重合していてもよい。ブタジエン以外の共役ジエンとしては、1,3−ペンタジエン、高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体、2−アルキル置換−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。
このうち、高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体としては、1−ペンチル−1,3−ブタジエン、1−ヘキシル−1,3−ブタジエン、1−ヘプチル−1,3−ブタジエン、1−オクチル1,3−ブタジエンなどが挙げられる。
【0011】
ここで、2−アルキル置換−1,3−ブタジエンの代表的なものは、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−プロピル−1,3−ブタジエン、2−イソプロピル−1,3−ブタジエン、2−ブチル−1,3−ブタジエン、2−イソブチル−1,3−ブタジエン、2−アミル−1,3−ブタジエン、2−イソアミル−1,3−ブタジエン、2−ヘキシル−1,3−ブタジエン、2−シクロヘキシル−1,3−ブタジエン、2−イソヘキシル−1,3−ブタジエン、2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、2−イソヘプチル−1,3−ブタジエン、2−オクチル−1,3−ブタジエン、2−イソオクチル−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらの共役ジエンのなかで、ブタジエンと共重合される好ましい共役ジエンとしては、イソプレン、1,3−ペンタジエンが挙げられる。重合に供される単量体成分中のブタジエンの含有量は50モル%以上、特には70モル%以上が好ましい。
【0012】
本発明で用いられる(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、上述したように、例えば、コバルト化合物およびアルミノオキサンを含有する触媒の存在下に、ブタジエンを重合して得られる。上記コバルト化合物としては、好ましくは炭素数4以上のコバルトの有機酸塩を挙げることができる。このコバルトの有機酸塩の具体例として、酪酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプチル酸塩、2−エチルヘキシル酸などのオクチル酸塩、デカン酸塩や、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの高級脂肪酸塩、安息香酸塩、トリル酸塩、キシリル酸塩、エチル安息香酸などのアルキル、アラルキル、アリル置換安息香酸塩やナフトエ酸塩、アルキル、アラルキルもしくはアリル置換ナフトエ酸塩を挙げることができる。これらのうち、2−エチルヘキシル酸のいわゆるオクチル酸塩や、ステアリン酸塩、安息香酸塩が、炭化水素溶媒への優れた溶解性のために好ましい。
【0013】
上記アルミノオキサンとしては、例えば下記一般式(I)または一般式(II)で表されるものを挙げることができる。
【0014】

【化1】

【0015】
この一般式(I)あるいは(II)で表されるアルミノオキサンにおいて、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、mは、2以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10〜100の整数である。アルミノオキサンの具体例としては、メチルアルミノオキサン、エチルアルミノオキサン、プロピルアルミノオキサン、ブチルアルミノオキサンなどを挙げることができ、メチルアルミノオキサンが特に好ましい。
【0016】
重合触媒は、上記コバルト化合物とアルミノオキサン以外に、ホスフィン化合物を含有することが極めて好ましい。ホスフィン化合物は、重合触媒の活性化、ビニル結合構造および結晶性の制御に有効な成分であり、好ましくは下記一般式(III)で表される有機リン化合物を挙げることができる。
【0017】
P(Ar)n(R')3−n……(III)
一般式(III)中、Arは下記で示される基を示す。
【0018】
【化2】

【0019】
(上記基において、R,R,Rは、同一または異なって、水素原子、炭素数が好ましくは1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数が好ましくは1〜6のアルコキシ基または炭素数が好ましくは6〜12のアリール基を表す。)
また、一般式(III)中、R'はシクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基を示し、nは0〜3の整数である。
【0020】
一般式(III)で表されるホスフィン化合物としては、具体的に、トリ−(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3−エチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3,4−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3−イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリ−(3−t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリ−(3−メチル−5−エチルフェニル)ホスフィン)、トリ−(3−フェニルフェニル)ホスフィン、トリ−(3,4,5−トリメチルフェニル)ホスフィン、トリ−(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリ−(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリ−(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニルホスフィン)、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリ(4−メチルフェニルホスフィン)、トリ(4−エチルフェニルホスフィン)などを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいものとしては、トリフェニルホスフィン、トリ−(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリ−(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0021】
また、コバルト化合物として、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
上記一般式(IV)で表される化合物は、塩化コバルトに対し上記一般式(III)においてnが3であるホスフィン化合物を配位子に持つ錯体である。このコバルト化合物の使用に際しては、あらかじめ合成したものを使用してもよいし、あるいは重合系中に塩化コバルトとホスフィン化合物を接触させる方法で使用してもよい。錯体中のホスフィン化合物を種々選択することにより、得られるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの1,2−結合の量、結晶化度の制御を行なうことができる。
【0024】
上記一般式(IV)で表されるコバルト化合物の具体例としては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−エチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−メチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3,4−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−イソプロピルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−t−ブチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−メチル−5−エチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−フェニルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3,4,5−トリメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−ドデシルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−エチルフェニルホスフィン)〕ジクローライドなどを使用することができる。
【0025】
これらのうち、特に好ましいものとしては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクローライドなどが挙げられる。
【0026】
触媒の使用量は、ブタジエン単独重合の場合は、ブタジエン1モル当たり、共重合する場合は、ブタジエンとブタジエン以外の共役ジエンとの合計量1モル当たり、コバルト化合物を、コバルト原子換算で0.001〜1ミリモル、好ましくは0.01〜0.5ミリモル程度使用する。また、ホスフィン化合物の使用量は、コバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)として、通常、0.1〜50、好ましくは0.5〜20、さらに好ましくは1〜20である。さらに、アルミノオキサンの使用量は、コバルト化合物のコバルト原子に対するアルミニウム原子の比(Al/Co)として、通常、4〜10、好ましくは10〜10である。なお、一般式(IV)で表される錯体を用いる場合は、ホスフィン化合物の使用量がコバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)が2であるとし、アルミノオキサンの使用量は、上記の記載に従う。
【0027】
重合溶媒として用いられる不活性有機溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族炭化水素溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ブタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素溶媒およびこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
重合温度は、通常、−50〜120℃で、好ましくは−20〜100℃である。
重合反応は、回分式でも、連続式でもよい。なお、溶媒中の単量体濃度は、通常、5〜50重量%、好ましくは10〜35重量%である。
また、重合体を製造するために、本発明の触媒および重合体を失活させないために、重合系内に酸素、水あるいは炭酸ガスなどの失活作用のある化合物の混入を極力なくすような配慮が必要である。重合反応が所望の段階まで進行したら反応混合物をアルコール、その他の重合停止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを添加し、次いで通常の方法に従って生成重合体を分離、洗浄、乾燥して本発明に用いられるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを得ることができる。
【0029】
本発明に用いられる(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの重量平均分子量は、好ましくは1万〜500万、さらに好ましくは1万〜150万、特に好ましくは5万〜100万である。重量平均分子量が1万未満では流動性が極端に高く、加工が非常に困難となり、また成形品(医療用部材)がべたつくため好ましくなく、一方、500万を超えると流動性が極端に低く、加工が非常に困難となり好ましくない。
【0030】
一方、(B)その他の熱可塑性エラストマーとしては、上記(A)成分以外の熱可塑性エラストマーであり、具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、これらの水素化物(SEBS、SEPS)、上記シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン以外のポリブタジエン(BR)、エチレン−酢酸ビニルコポリマーの群から選ばれた少なくとも1種である。好ましくは、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である。
【0031】
(B)成分の配合量は、(A)〜(B)成分の合計量100重量部中に、80重量部以下、好ましくは40重量部以下である。80重量部を超えると、(A)成分の使用割合が少なくなり、(A)成分本来の成形加工性が失われる。
【0032】
なお、本発明に用いられる組成物において、上記(A)〜(B)成分以外に、必要に応じて、滑剤、フィラーまたは発泡剤などの添加剤を含有してもよい。上記添加剤の具体例としては、パラフィンオイル、シリコンオイル、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミドなどの滑剤のほか、タルク、シリカ、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス、カーボンファイバー、ガラスバルーンなどのフィラー、および、松本油脂社製のマイクロスフェア、ADCA、OBSH、重曹などの発泡剤を挙げることができる。
なお、滑剤の使用量は、樹脂成分、すなわち(A)〜(B)成分の合計100重量部に対して5重量部以下、好ましくは0.01〜3重量部である。5重量部を超えると、滑剤が製品からブリードアウトし、使用薬剤に溶出することがある。
【0033】
また、電子線照射による耐熱性と柔軟性とのバランスを向上させるために、その他の添加剤、例えば、トリメチルプロパントリメタクリレートなどの多官能モノマー、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの光重合開始剤、ベンゾフェノンなどの光増感剤などを、(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン100重量部に対して5重量部以下含有させてもよい。
【0034】
組成物の調製と成形
本発明の熱可塑性エラストマー成形品に用いられる組成物は、上記(A)成分単独、あるいは、(A)〜(B)成分、これらにさらに必要に応じて、上記添加剤などを添加して、加熱軟化させて、混練し成形する。混練と成形は、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの軟化温度ないし溶融温度以上の成形性の良好な温度範囲で行い、均質な成形品(チューブなどの医療用部材)にする。このため、成形温度は、90〜170℃程度が良い。チューブ、コネクタなどの成形品を得るには、プレス成形、押し出し成形、射出成形、ブロー成形、異形押し出し成形、Tダイフィルム成形、インフレーション成形、パウダースラッシュ成形、回転成形などが利用される。
【0035】
電子線照射
なお、本発明の熱可塑性エラストマー成形品のうち、チューブは柔軟性を必要とするため、低結晶RBが用いられるが、融点が低いため、耐蒸気滅菌性を発現させるために、次いで電子線を照射し、架橋することができる。電子線を照射すると、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンのビニル基のラジカル重合により三次元架橋構造となり、成形品(チューブ)の耐熱性を付与させる。電子線は、合成樹脂に対して透過性があり、その透過の程度は、成形品の厚みと、電子線の運動エネルギーに依存する。
その照射厚みに従って厚み方向に均一に透過可能に電子線のエネルギーを調節すると、厚み方向で架橋度を均一にした成形品(チューブ)とすることができる。
なお、コネクタについても、電子線照射してもよい。
また、電子線照射は、チューブとコネクタとの接着前でも、接着後でもよい。
【0036】
ここで、電子線エネルギーは、上記のチューブなどの熱可塑性エラストマー成形品(医療用部材)に対して、電子線加速電圧が、好ましくは50〜3,000kV、さらに好ましくは300〜2,000kVとするが、50kVより小さいと、表層部で捕獲吸収される電子の割合が相対的に多くなって、成形品を透過する電子線が少なくなり、表層部に比して内部の架橋が遅れて、架橋度に差が生じるので、好ましくない。一方、3,000kVより大きいと、架橋度が大きくなり過ぎて、硬質となるとともに弾力性や伸びが小さくなり好ましくない。
【0037】
また、この際の電子線の照射量は、好ましくは1〜100Mrad(SI単位系で、10〜1,000kGyに相当する)、さらに好ましくは1〜50Mradの範囲で照射して架橋硬化させる。1Mradより少ないと、1,2−ポリブタジエンの架橋度が小さく、一方、100Mradを超えると、架橋度が大きくなり過ぎて、硬質となるので、弾力性や伸びが小さいので好ましくない。
【0038】
電子線照射による架橋は、電子線加速電圧と照射量の積で表すことができ、本発明においては、電子線加速電圧(kV)と照射線量(Mrad)の積を、好ましくは2,000〜20,000(kV・Mrad)、さらに好ましくは5,000〜16,000(kV・Mrad)とする。2,000(kV・Mrad)より小さいと、表層部で捕獲吸収される電子の割合が相対的に多くなって、ポリブタジエン成形品(医療用部材)などの熱可塑性エラストマー成形品を透過する電子線が少なくなり、表層部に比して内部の架橋が遅れて、架橋度に差が生じるので、好ましくない。一方、20,000(kV・Mrad)より大きいと、架橋度が大きくなり過ぎて、硬質となるので、弾力性や伸びが小さいので好ましくない。
【0039】
本発明のポリブタジエン成形品(チューブなどの医療用部材)などの熱可塑性エラストマー成形品に、上記のような電子線照射を施すことにより、電子線照射後の医療用部材の50%伸びにおける弾性率(M250)を電子線照射前の50%伸びにおける弾性率(M150)の好ましくは1.1〜2.5倍、さらに好ましくは1.1〜2.0倍とすることができる。M250/M150が1.1未満では、電子線架橋が進んでおらず、耐蒸気滅菌性に劣る、一方、2.5を超えると、架橋されたポリブタジエン成形品(チューブなどの医療用部材)などの熱可塑性エラストマー堰け品が硬くなりすぎ、柔軟性が失われ好ましくない。M250/M150は、上記電子線加速電圧(kV)と照射線量(Mrad)の積を、2,000〜20,000(kV・Mrad)とすることにより、容易に調整することができる。
【0040】
また、このようにして得られる電子線照射後の架橋されたチューブなどの熱可塑性エラストマー成形品(医療用部材)は、耐蒸気滅菌性を有し、例えば、本発明の架橋された輸液チューブを用いて、100〜121℃で10〜20分間程度、蒸気滅菌しても、変形することもない。
ここで、耐蒸気滅菌性とは、具体的には、輸液チューブなどの樹脂成形品(例えば、内径3mmφ、外径4.4mmφ、肉厚0.7mm、チューブ長20cmのチューブ)を高圧蒸気滅菌器に入れ、121℃で20分間、蒸気滅菌した場合、滅菌前の円形が保たれ、変形が観察されないことを意味する。
【0041】
また、電子線照射後の熱可塑性エラストマー成形品(チューブなどの医療用部材)は、トルエン不溶分が、通常、50〜99重量%、好ましくは80〜95重量%である。トルエン不溶分は、当該ポリブタジエン成形品を電子線照射することにより、(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン中の二重結合がどの程度架橋しているかを示すバロメーターである。
ここで、トルエン不溶分は、本発明の熱可塑性エラストマー成形品(ポリブタジエン成形品)(医療用部材)[(a)g]を100mlのトルエンに浸漬させ、30℃で48時間放置後、100メッシュ金網を用いて濾過し、濾過液の一部[(c)ml]を採取後、蒸発乾燥固化させ、得られた残存固形分[トルエン可溶分:(b)g]を秤量し、下式によりトルエン不溶分を算出した。
トルエン不溶分(重量%)=[{a−b×(100/c)}/a]×100
トルエン不溶分が50重量%未満では、電子線照射による架橋が不充分であり、耐熱性が劣り、耐蒸気滅菌性に劣る。一方、99重量%を超えると、電子線照射による架橋が進みすぎて、医療用部材が硬くなりすぎ、柔軟性が失われ好ましくない。
上記トルエン不溶分は、上記電子線加速電圧(kV)と照射線量(Mrad)の積を、2,000〜20,000(kV・Mrad)とすることにより、容易に調整することができる。
【0042】
このようにして電子線照射された熱可塑性エラストマー成形は、柔軟性と硬度に優れ、また耐蒸気滅菌性を有するので、チューブのほか、コネクタにも有用である。
【0043】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー成形品(チューブなどの医療用部材)は、ハロゲン原子の含有量が好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。このハロゲン原子の含有量は、例えば、上記のように、重合溶媒として非ハロゲン系の不活性有機溶媒を用いることにより、得られる1,2−ポリブタジエン中のハロゲン原子の含有量を好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下にすることができる。また、触媒系において、非ハロゲン系の化合物のみを用いることは、熱可塑性エラストマー成形品(医療用部材)中のハロゲン原子の含有量をさらに低減させることができ好ましい。
【0044】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー成形品とは、上記のような1,2−ポリブタジエンからなるチューブ、1,2−ポリブタジエンとスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)とのブレンドからなるチューブ、1,2−ポリブタジエンとスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体とのブレンドからなるチューブ、1,2−ポリブタジエンとゴムとのブレンドからなるチューブなどをさす。この中で、スチレン−イソプレンブロック共重合体との組み合わせについては、水素添加したスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンでもよく、部分水素添加品でもよい。ゴムとの組み合わせについては種々のゴムを使用することができるが、イソプレンゴムおよび天然ゴムが好ましい。
【0045】
極性樹脂成形品
次に、本発明の極性樹脂成形品に用いられる極性樹脂とは、広義には、電気的な分極性とイオン性を持つ樹脂として定義される。この極性樹脂の具体例は、熱可塑性プラスチックとして、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチルなどのポリアクリル酸アルキルエステル、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂などのポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリウレタン樹脂、ポリメタクリロニトリル、アセタール樹脂、ポリオキシメチレン、アイオノマー、塩素化ポリエチレン、クマロン・インデン樹脂、再生セルロース、石油樹脂、セルロース誘導体、アルカリセルロース、セルロースエステル、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースザンテート、セルロースニトレート、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテルエステル、フッ素樹脂、FEP、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6,6、ナイロン4,6などのポリポリアミド樹脂、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリフェニレンテレフタルアミド、メタキシリレンジアミンなどの芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリカーボネート、CR−39、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリケイ皮酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル、ポリメチルビニルエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレートなどを、また熱硬化性プラスチックとして、アミノ樹脂、アニリン樹脂、尿素樹脂、ポリスルホンアミド、メラミン樹脂、アリル樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、レゾルシノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮不飽和ポリエステル、フラン樹脂などが挙げられる。
このうち、好ましい極性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリ塩化ビニリデン樹脂が挙げられる。
【0046】
なお、極性樹脂の溶解度パラメーター(SP値)は、好ましくは9〜16、さらに好ましくは9.5〜14である。
ここで、溶解度パラメーターは、John Wiley&Son社出版「ポリマーハンドブック」1999年、第4版、セクションVII第682〜685頁)に記載のグループ寄与法でSmallのグループパラメーターを用いて算出した値である。例えば、ポリメタクリル酸メチル(繰返単位分子量100g/モル、密度=1.19g/cmとして(以下、単位省略))9.25(cal/cm1/2、ポリアクリル酸ブチル(繰返単位分子量128、密度1.06として)8.97(cal/cm1/2、ポリメタクリル酸ブチル(繰返単位分子量142、密度1.06として)9.47(cal/cm1/2、ポリスチレン(繰返単位分子量104、密度1.05として)9.03(cal/cm1/2、ポリアクリロニトリル(繰返単位分子量53、密度1.18として)12.71(cal/cm1/2である。なお、各重合体の密度は、VCH社出版の「ウルマンズ エンサイクロペディア オブ インダストリアル ケミストリー(ULLMANN’S ENCYCLOPEDIA OF INDUSTRIAL CHEMISTRY)」1992年、第A21巻、第169頁記載の値を用いた。また、共重合体の溶解度パラメーターδcは、重量分率5%未満の場合は主成分の値を用い、重量分率5%以上の場合では重量分率で加成性が成立するとした。すなわち、m種類の単量体からなる共重合体を構成する個々の単量体の単独重合体の溶解度パラメーターδnとその重量分率Wnとから次の式(1)により算出できる。
【0047】
【数1】

【0048】
例えば、スチレン75重量%とアクリロニトリル25重量%からなる共重合体の溶解度パラメーターは、ポリスチレンの溶解度パラメーター 9.03(cal/cm1/2、とポリアクリロニトリルの溶解度パラメーター 12.71(cal/cm1/2を用いて式(1)に代入して9.95(cal/cm1/2の値が得られる。
【0049】
なお、本発明に用いられる極性樹脂成形品としては、上記各種の極性樹脂からなる、コネクタ、輸液セット補助具などが挙げられる。
【0050】
極性基含有エラストマー溶液
本発明では、以上の熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とを、いわば両者の相溶化剤である極性基含有エラストマーの有機溶剤溶液を用いて接着する。
ここで、極性基としては、エポキシ基、カルボキシル基、アクリル基、メタアクリル基、アミノ基、無水マレイン酸基、カルボニル基、スルホン酸基および水酸基の群から選ばれた極性基が挙げられる。
また、極性基含有エラストマーのベースポリマーとしては、1,2−ポリブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
また、極性基含有量は、極性基含有エラストマー1gあたり0.01〜10mmol、好ましくは0.05〜2mmolである。0.01mmol未満または10mmolを超えると、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品の接着強度が劣る。
【0051】
上記極性基含有エラストマーの具体例としては、エポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、アクリル基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、アミノ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、アミノ基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、アクリル基含有1,2−ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0052】
また、極性基含有エラストマー溶液に用いられる有機溶剤としては、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジエチルケトン、酢酸エチル、ジクロロエタン、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、二硫化炭素、酢酸などが挙げられる。
【0053】
極性基含有エラストマー溶液における極性基含有エラストマー濃度は、0.1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%程度である。0.1重量%未満では、極性基含有エラストマー濃度が薄すぎて接着が不充分となる。一方、20重量%を超えると、極性基含有エラストマー溶液の溶液粘度が高くなりすぎて接着作業性が劣る。
【0054】
熱可塑性エラストマー成形品の接着方法
本発明の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法は、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とを、上記極性基含有エラストマー溶液を用いて接着するものである。
この接着方法としては、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品の接着個所を極性基含有エラストマー溶液に浸漬したり、該溶液を吹き付けたり、該溶液を刷毛、端布などで塗布するなどの手段により、実施することができる。
なお、上記の各接着に際しては、上記接着に共通する有機溶剤または個別の有機溶剤を組み合わせて用いて、ポリブタジエン成形品および極性樹脂成形品を、それぞれ、あらかじめ処理することも、好ましい態様である。
接着後の複合成形品の乾燥条件としては、通常、10〜80℃、好ましくは20〜60℃で、1時間〜48時間、好ましくは2時間〜24時間、乾燥すればよい。
【0055】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とのいわば相溶化剤である極性基含有エラストマーを用いて、両者を接着しているので、接着個所が強固に接合された複合成形品が得られる。
【0056】
次に、本発明の複合成形品(医療用部材:チューブおよびチューブ接続部を有するコネクタ)を用いた輸液セットについて、図1を用いてさらに具体的に説明する。
この輸液セット10は、輸液バッグ12内の輸液排出用管14との結合のための接続部材(コネクタ)15と、接続部材15と点滴筒11とを接続する第1のチューブT1と、点滴筒11と穿刺針13とを接続する第2のチューブT2と、輸液速度を調整するためのクレンメ18と、穿刺針13を被包するキャップ16とを有している。なお、符号19は、第2のチューブT2と穿刺針13とを接続するための接合部材である。
【0057】
ここで、穿刺針13としては、先端に穿刺用刃先を有する中空のステンレス鋼などからなる金属針、合成樹脂製針が使用される。また、クレンメ18としては、ローラクレンメが用いられており、このローラクレンメは、移動可能に設けられたローラ17を備え、このローラ17の穿刺針13側への移動により第2のチューブT2の流路が狭くなり、輸液速度の調整が可能である。点滴筒11内には、万一、輸液剤などに異物が含まれていた場合に備えてフィルター(図示せず)が収納されている。なお、穿刺針13としては、従来より使用されているものが用いられる。
また、本発明においては、接合部材15,点滴筒11,接合部材19は、いずれも、「チューブ接続部を有するコネクタ」に該当し、ポリカーボネート、ポリエステル、透明ABS、塩化ビニル樹脂などの極性樹脂が用いられる。
【0058】
また、チューブT1,T2としては、透明性を有する軟質チューブが好適であり、具体的には、従来より使用の、軟質塩化ビニル樹脂、結晶化度が5〜25%程度の低結晶化度のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、さらに、本発明の結晶化度5%以上、好ましくは結晶化度が5〜25%程度の低結晶化度のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが用いられる。
【0059】
ここで、チューブT1,T2の各先端と結合部材15,点滴筒11,接合部材19(いずれも、本発明におけるコネクタに相当)におけるチューブ接続部とは、本発明の極性基含有エラストマー溶液での接着により、密着強固に固定されている。
本発明では、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンからなるチューブが、ポリカーボネートからなるコネクタと、極性基含有エラストマー溶液を用いて接着されているため、両者が密着強固に固定することができ、液漏れがない。
【0060】
なお、本発明において、チューブとチューブ接合部を有するコネクタからなる医療用部材は、上記の輸液セットの構成要素、薬剤投与用カテーテルなどの医療用器具への構成要素としても適用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部および%は特に断らない限り、重量基準であ
【0062】
実施例1
<試験片の作製>
(熱可塑性エラストマー成形品)
1,2−ポリブタジエン(JSR社製、RB810)90部とスチレン−イソプレン−スチレン共重合体(JSR社製、SIS5229P)10部とを、成形温度130〜160℃で単軸押出機(L/D=32)を用いて予め混練りしたものを、成形温度130℃〜160℃で射出成形機を用いて、長さ60mm×幅30mm×厚さ3mmのプレートに成形した。
【0063】
(極性樹脂成形品)
帝人化成社製ポリカーボネート樹脂(パンライト K−1285J)を、成形温度250〜300℃で射出成形機を用いて、長さ60mm×幅30mm×厚さ3mmのプレートに成形した。
【0064】
(接着溶液:極性基含有エラストマー溶液)
エポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ基含有SBS)3%溶液として、ダイセル化学工業社製エポフレンドAT501(オキシシラン酸素濃度1.5%)3gを、シクロヘキサン97gに、40℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
【0065】
(プレート接着試験片)
上記の熱可塑性エラストマー成形品の長さ方向の右端から5mm部分の上面に接着溶液を1cc滴下した後、極性樹脂プレートであるポリカーボネート樹脂成形品を長さ方向の左端から10mm部分を重ね合わせ(接着面積は長さ方向10mm×幅方向30mmとなる)、その後、接着面を面クリップで挟んだ状態にて60℃24時間乾燥処理を行い、さらに室温2時間放置した。
【0066】
<評価方法>
上記の接着試験片を島津製作所製の万能引張試験機AG2000を用いて、10mm/minの速度で引張せん断強度を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例2〜5、比較例1〜6
<試験片の作製>
(熱可塑性エラストマー成形品)
実施例1と同様にして、1,2−ポリブタジエン(JSR社製、RB810)90部とスチレン−イソプレン−スチレン共重合体(JSR社製、SIS5229P)10部とを、成形温度130〜160℃で単軸押出機(L/D=32)を用いて予め混練りしたものを、成形温度130℃〜160℃で射出成形機を用いて、長さ60mm×幅30mm×厚さ3mmのプレートに成形した。
【0068】
(極性樹脂成形品)
実施例1と同様にして、帝人化成社製ポリカーボネート樹脂(パンライト K−1285J)(実施例2〜4、比較例1〜2、比較例4〜6)、またはイーストマン ケミカル社製ポリエステル樹脂(Eastar copolyester DN003)(実施例5、比較例3)を、成形温度250〜300℃で射出成形機を用いて、長さ60mm×幅30mm×厚さ3mmのプレートに成形した。
【0069】
(接着溶液:極性基含有エラストマー溶液)
エポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ基含有SBS)3%溶液は、ダイセル化学工業社製エポフレンドAT501(オキシシラン酸素濃度1.5%)3gを、シクロヘキサン97gに、40℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
エポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ基含有SBS)5%溶液は、ダイセル化学工業社製エポフレンドAT501(オキシシラン酸素濃度1.5%)5gを、シクロヘキサンまたはシクロヘキサン/シクロヘキサノン(容量比)=4/6混合溶剤95gに、40℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
アクリル基含有1,2−ポリブタジエン(アクリル基含有RB)3%溶液は、一カク工業社にて試作されたものであり、シクロヘキサン/メチルエチルケトン(MEK)(容量比)=1/1混合溶剤中においてJSR社製1,2−ポリブタジエン、
RB820をアクリル変性したもの(固形分3%)である。
(接着溶液:ポリマー溶液)
スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)5%溶液は、JSR社製スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、TR2000 5gを、シクロヘキサン95gに、40℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
1,2−ポリブタジエン(RB)3%溶液は、JSR社製1,2−ポリブタジエン、RB820 3gをシクロヘキサン97gに、40℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
ポリカーボネート5%溶液は、帝人化成社製、ポリカーボネート樹脂、パンライト K−1285J 5gを、シクロヘキサノン95gに、60℃のオイルバス中で1時間攪拌しながら溶解させて溶液とした。
【0070】
(プレート接着試験片の作成および評価方法)
表1に示した成形品および接着溶剤または接着溶液を用いる以外は、実施例1と同様にしてプレート接着試験片を作成し、実施例1と同様にして接着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例6
(チューブ成形品)
1,2−ポリブタジエン(JSR社製、RB810)90部とスチレン−イソプレン−スチレン共重合体(JSR社製、SIS5229P)10部を、成形温度130〜160℃で単軸押出機(L/D=32)を用いて予め混練りしたものを、成形温度130℃〜160℃で単軸押出機(L/D=32)を用い異形押出成形にて下図(a)に示したチューブ(内径2.9φ、外径3.7φ)を成形し、50mmに切断した。
【0072】
(コネクタ成形品)
帝人化成社製ポリカーボネート樹脂(パンライト K−1285J)を成形温度250〜300℃で射出成形機を用いて下図(b)に示したコネクタに成形した。
【0073】
(チューブ/コネクタ接着試験片)
チューブ成形品先端(接着部=10mm)をエポキシ基含有スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ基含有SBS)5%溶液に1秒間浸け、各種コネクタに挿入して溶剤接着をした。その後、挿入した状態にて60℃24時間乾燥処理を行いさらに室温2時間放置した。
【0074】
<評価方法>
上記の接着試験片を島津製作所製の万能引張試験機AG2000を用いて、10mm/minの速度で引張せん断強度を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
実施例7、比較例8〜9
実施例6と同様にして得られたチューブ成形品とコネクタ成形品とを、表2記載の所定の接着溶液または溶剤に1秒間浸け、各種コネクタに挿入して溶剤接着をした。その後、挿入した状態にて60℃24時間乾燥処理を行いさらに室温2時間放置した。
上記の接着試験片を、実施例6と同様にして島津製作所製の万能引張試験機AG2000を用いて、10mm/minの速度で引張せん断強度を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
*1)シクロヘキサン溶剤を使用
*2)シクロヘキサン/シクロヘキサノン(容量比=4/6)混合溶剤を使用
【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、医療用途に有用であり、接合部において液洩れがなく、また柔軟性と硬度に優れるとともに、耐蒸気滅菌性に優れ、リサイクル可能であり、さらに塩化ビニル系樹脂を含まないため環境問題にもやさしい、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンなどの熱可塑性エラストマーを主体とする医療用部材とこれを用いた医療用器具を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のポリブタジエン複合成形品(医療用部材)を構成要素とする輸液セットの平面図である。
【図2】(a)はコネクタの概略図で、(b)はチューブの概略図である。
【符号の説明】
【0081】
10 輸液セット
11 点滴筒
12 輸液バッグ
13 穿刺針
14 輸液排出用管
15 接続部材(コネクタ)
16 キャップ
17 ローラ
18 クレンメ
19 接合部材
T1,T2 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー成形品と極性樹脂成形品とを、濃度0.1重量%〜20重量%の極性基含有エラストマー溶液を用いて接着することを特徴とする熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー成形品が、(A)1,2−結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン20〜100重量%と(B)その他の熱可塑性エラストマー80〜0重量%〔ただし、(A)+(B)=100重量%〕からなる請求項1記載の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項3】
(B)その他の熱可塑性エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体および/またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である請求項2記載の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項4】
極性樹脂成形品が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアルキルアクリレート樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリ塩化ビニリデン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1記載の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項5】
極性基含有エラストマーの、極性基がエポキシ基、カルボキシル基、アクリル基、メタアクリル基、アミノ基、無水マレイン酸基、カルボニル基、スルホン酸基および水酸基の群から選ばれた極性基であり、エラストマーが1,2−ポリブタジエン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項6】
極性基含有エラストマー溶液に用いられる有機溶剤が、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジエチルケトン、酢酸エチル、ジクロロエタン、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、二硫化炭素および酢酸の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の成形品の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の熱可塑性エラストマー成形品の接着方法により得られる複合成形品。
【請求項8】
請求項7記載の複合成形品において、熱可塑性エラストマー成形品がチューブであり、極性樹脂成形品がコネクタである医療用部材。
【請求項9】
請求項8記載の医療用部材を構成要素とする輸液セット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−225561(P2006−225561A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42718(P2005−42718)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】