説明

熱可塑性ポリウレタンおよびその組成物

【課題】成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能が高度に改良された、低硬度ないし中硬度の熱可塑性ポリウレタンを提供すること。
【解決手段】高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位であり、前記高分子ポリオール(A)の数平均分子量が500〜6000である熱可塑性ポリウレタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能が高度に改良された熱可塑性ポリウレタン(TPU)およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンは、高弾性であること、耐摩耗性および耐油性に優れること、通常のプラスチック成形加工法が適用できることなどの多くの特長を有するため、ゴムやプラスチックに代替する成形材料として、広範な用途で多量に使用されるようになっている。しかし、特に低硬度の熱可塑性ポリウレタンにおいて、成形性、耐摩耗性、強度などの性能はまだ不充分であり、ゴム等の代替をさらに進めるためには、これらの性能の改良が必須である。
【0003】
本願の出願人は、これまで、射出成形性に優れると共に、強度などの力学的性能、耐加水分解性、耐熱性、耐熱水性、耐カビ性などの諸特性に優れた有用なポリウレタンとして、ジメチルデカン二酸を特定量で含有するポリウレタンを提案している(特許文献1および2)。その中で、ジメチルデカン二酸をジカルボン酸成分とし、1,3−プロパンジオールをジオール成分としたポリエステルジオールを使用する技術も開示している。しかし、2個のメチル基側鎖を有するジカルボン酸単位を含有するポリエステルジオールを使用するこれらの技術では、ポリエステルジオールの結晶化傾向が小さくなり、成形性や強度、耐摩耗性などの面で改善の余地が認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−239442号公報
【特許文献2】特開平8−183831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能が高度に改良された、低硬度ないし中硬度の熱可塑性ポリウレタンおよびその組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、ポリエステルポリオールの結晶化傾向に着目して本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、特定構造の高分子ポリオールを用いて得られる熱可塑性ポリウレタンが、低硬度ないし中硬度でありながら、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位であり、前記高分子ポリオール(A)の数平均分子量が500〜6000であることを特徴とする。
【0008】
本発明の熱可塑性ポリウレタンにおいて、高分子ポリオール(A)が、ポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位である高分子ポリエステルポリオール(A1)を含み、前記高分子ポリエステルポリオール(A1)の含有量が、高分子ポリオール(A)中、94質量%以上であることが好ましい。
【0009】
高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)は、80〜110J/gであることが好ましい。
【0010】
本発明の熱可塑性ポリウレタンにおいて、温度が30℃であり、溶媒がn−ブチルアミンを0.05モル/Lで含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液であり、熱可塑性ポリウレタンの溶液濃度が0.5g/dlである条件下で測定した対数粘度は、0.90dl/g以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリウレタンにおいて、有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量は、熱可塑性ポリウレタン中、2〜6質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の熱可塑性ポリウレタンにおいて、有機ジイソシアネート(B)に含まれるイソシアネート基(−NCO)の量が、高分子ポリオール(A)および鎖伸長剤(C)に含まれるイソシアネート基と反応し得る水素原子(以下「活性水素原子」と略称することがある。)の総量1モルに対して、0.93〜1.3モルであることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記熱可塑性ポリウレタンおよび汚れ防止剤(D)を含む熱可塑性ポリウレタン組成物も提供する。汚れ防止剤(D)は、好ましくは、フェノール系化合物および/またはカルボジイミド系化合物を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能が高度に改良された熱可塑性ポリウレタンおよびその組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)を重合して得られる。以下、各成分を順に説明する。
【0016】
本発明は、特定構造の高分子ポリオール(A)を使用することを特徴の一つとする。高分子ポリオール(A)のポリカルボン酸単位の98モル%以上(好ましくは99モル%以上、より好ましくは100モル%)はセバシン酸単位である。
【0017】
セバシン酸単位以外のポリカルボン酸単位は、ポリエステルの製造で一般的に使用されているポリカルボン酸(以下「他のポリカルボン酸」と略称する)およびそのエステル形成性誘導体から形成することができる。他のポリカルボン酸およびその誘導体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他のポリカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸等の炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3官能以上のポリカルボン酸などを挙げることができる。
【0018】
高分子ポリオール(A)のポリオール単位の98モル%以上(好ましくは99モル%以上、より好ましくは100モル%)は1,3−プロパンジオール単位である。
【0019】
1,3−プロパンジオール単位以外のポリオール単位は、ポリエステルの製造で一般的に使用されているポリオール(以下「他のポリオール」と略称する)から形成することができる。他のポリオールは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族二価アルコールなどの1分子当たり水酸基を2個有するジオールや、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の1分子当たり水酸基を3個以上有するポリオールなどを挙げることができる。
【0020】
高分子ポリオール(A)は、数種の高分子ポリオールの混合物であってもよい。但し、高分子ポリオール(A)が混合物である場合、高分子ポリオール(A)中のセバシン酸単位および1,3−プロパンジオール単位の量は、それぞれ、混合物中のポリカルボン酸単位全体およびポリオール単位全体を基準として定められる。
【0021】
ポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位である高分子ポリエステルポリオール(A1)の含有量は、高分子ポリオール(A)中、好ましくは94質量%以上(より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは100質量%)である。高分子ポリエステルポリオール(A1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。高分子ポリエステルポリオール(A1)以外の高分子ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、水素添加されていてもよい共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどが挙げられる。高分子ポリエステルポリオール(A1)以外の高分子ポリオールは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
高分子ポリオール(A)の数平均分子量は、500以上(好ましくは600以上、より好ましくは800以上)、6000以下(好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下)である。この数平均分子量が500未満であると、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能に優れた低硬度ないし中硬度の熱可塑性ポリウレタンを得ることができない。一方、この数平均分子量が6000を超えると、得られる熱可塑性ポリウレタンの成形性(特に押出成形性)および引張強度が不良となる。なお高分子ポリオール(A)の数平均分子量は、JIS K−1557に準じて測定した水酸基価に基づいて算出することができる。
【0023】
高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)は、好ましくは80J/g以上(より好ましくは90J/g以上)、好ましくは110J/g以下(より好ましくは100J/g以下)である。この結晶化エンタルピーが80J/gよりも低いと、得られる熱可塑性ポリウレタンの成形性、耐摩耗性、強度等の諸性能が不充分となることがある。この結晶化エンタルピーが110J/gよりも大きいと、ソフトセグメントの結晶性が大きくなり過ぎて、熱可塑性ポリウレタンの柔軟性が確保できず、しかも弾性回復性が不良となることがある。この結晶化エンタルピーは、セバシン酸単位および1,3−プロパンジオール単位の含有率を適宜調整することによって、所望の値に設定することができる。この結晶化エンタルピーは、以下の実施例に記載する装置および条件を用いる示差走査熱量測定(DSC)によって、測定することができる。
【0024】
高分子ポリオール(A)の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を採用し得る。例えば、1,3−プロパンジオールおよびセバシン酸、並びに所望により他のモノマー(他のポリオールおよび他のポリカルボン酸)、またはそれらのエステル形成性誘導体を用いて、エステル化またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応によって、高分子ポリオール(A)を製造することができる。高分子ポリオール(A)の製造において、チタン系触媒、スズ系触媒などの重縮合触媒を用いてもよい。
【0025】
有機ジイソシアネート(B)としては、公知の有機ジイソシアネートを使用することができる。有機ジイソシアネート(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。有機ジイソシアネート(B)としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でもMDIが好ましい。MDIを主として含む有機ジイソシアネート(B)を用いれば、溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを製造することができる。MDI含有量は、有機ジイソシアネート(B)中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0026】
鎖伸長剤(C)は、活性水素原子を少なくとも2個有する低分子化合物であり、熱可塑性ポリウレタンの製造において鎖伸長剤として通常使用し得ることが知られている化合物であればよい。鎖伸長剤(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。鎖伸長剤(C)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール等のジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンあるいはその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類などが挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜10の脂肪族ジオール(特に1,4−ブタンジオール)が好ましい。炭素数2〜10の脂肪族ジオールを主として含む、鎖伸長剤(C)を用いれば、溶融成形性および力学的特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを製造することができる。炭素数2〜10の脂肪族ジオール(特に1,4−ブタンジオール)の含有量は、鎖伸長剤(C)中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0027】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、公知のポリウレタンの製造方法に従い、上記高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)を重合することによって製造することができる。重合法としては、実質的に溶媒の不存在下で溶融重合することが好ましく、多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法がより好ましい。連続溶融重合法で得られた熱可塑性ポリウレタンは、一般に、80〜130℃の固相重合で得られた熱可塑性ポリウレタンに比べて、強度の点において優れている。溶融重合温度は特に制限されないが、150℃以上、260℃以下の範囲内が好ましい。150℃以上に保つことによって成形性に優れた高品質の熱可塑性ポリウレタンを得ることができ、また260℃以下に保つことによって、得られる熱可塑性ポリウレタンの耐熱性および成形性が向上する。
【0028】
本発明の熱可塑性ポリウレタンの製造では、高分子ポリオール(A)および鎖伸長剤(C)に含まれる活性水素原子の総量1モルに対して、イソシアネート基の量が、好ましくは0.93モル以上(より好ましくは0.95モル以上)、好ましくは1.3モル以下(より好ましくは1.10モル以下)になるような割合で、有機ジイソシアネート(B)を使用することが推奨される。
【0029】
本発明の熱可塑性ポリウレタンの製造では、ウレタン化反応触媒を用いてもよい。ウレタン化反応触媒には特に限定は無く、熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されているウレタン化反応触媒を使用することができる。ウレタン化反応触媒としては、例えば、有機スズ系化合物、有機亜鉛系化合物、有機ビスマス系化合物、有機チタン系化合物、有機ジルコニウム系化合物、アミン系化合物などを挙げることができる。ウレタン化反応触媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。ウレタン化反応触媒を使用する場合、熱可塑性ポリウレタンの質量に対して、0.1〜100質量ppmとなるように調整することが推奨される。0.1質量ppm以上のウレタン化反応触媒を使用すれば、熱可塑性ポリウレタンを成形した後も、当初の分子量が充分に高い水準で維持され、成形品でも、熱可塑性ポリウレタン本来の物性が効果的に発揮されやすくなる。
【0030】
上記ウレタン化反応触媒の中でも、有機スズ系化合物が好ましい。有機スズ系化合物としては、例えば、オクチル酸スズ、モノメチルスズメルカプト酢酸塩、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩、モノブチルスズマレイン酸ベンジルエステル塩、モノオクチルスズマレイン酸塩、モノオクチルスズチオジプロピオン酸塩、モノオクチルスズトリス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、モノフェニルスズトリアセテート、ジメチルスズマレイン酸エステル塩、ジメチルスズビス(エチレングリコールモノチオグリコレート)、ジメチルスズビス(メルカプト酢酸)塩、ジメチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸)塩、ジメチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジステアレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレイン酸塩、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジブチルスズマレイン酸エステル塩、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸)、ジブチルスズビス(メルカプト酢酸アルキルエステル)塩、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸アルコキシブチルエステル)塩、ジブチルスズビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチルスズ(3−メルカプトプロピオン酸)塩、ジオクチルスズマレイン酸塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、ジオクチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸)塩等のアシレート化合物、メルカプトカルボン酸塩などを挙げることができる。これらの中でも、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート等のジアルキルスズジアシレート;ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩等のジアルキルスズビスメルカプトカルボン酸エステル;などが好ましい。
【0031】
熱可塑性ポリウレタンの製造にウレタン化反応触媒を使用する場合、高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖伸長剤(C)の重合時に該触媒を反応系に添加してもよく(例えば高分子ポリオール(A)と共に反応系に添加)、または高分子ポリオール(A)の製造時に予め該触媒を添加していてもよい。
【0032】
前述した条件下で測定した本発明の熱可塑性ポリウレタンの対数粘度は、好ましくは0.90dl/g以上(より好ましくは0.95dl/g以上、さらに好ましくは1.0dl/g以上)、好ましくは2.0dl/g以下(より好ましくは1.5dl/g以下、さらに好ましくは1.2dl/g以下)である。特に、この対数粘度が0.90dl/g以上である場合、熱可塑性ポリウレタンの力学的性能、耐摩耗性などがより一層良好となる。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリウレタン中の有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量は、好ましくは2質量%以上(より好ましくは2.5質量%以上)、好ましくは6質量%以下(より好ましくは5質量%以下)である。窒素原子の含有量が2質量%未満であると、熱可塑性ポリウレタン中のハードセグメントの含有量が低く、成形性、耐摩耗性、強度等の諸性能が不充分となることがある。また窒素原子の含有量が6質量%を超えると、熱可塑性ポリウレタンの硬度が高く、柔軟性、強度等の諸性能が不充分になることがあり、しかも押出成形時に未溶融物が発生し易くなる。なお、上記の窒素原子の含有量は元素分析測定、NMR測定等の手段により算出することができる。
【0034】
本発明の熱可塑性ポリウレタンから得られる成形品では、時間の経過と共に成形品の表面に白色の汚れが生じて、外観が損なわれることがある。成形品の経時的な外観劣化を防止するために、本発明の熱可塑性ポリウレタンおよび汚れ防止剤(D)を含む熱可塑性ポリウレタン組成物を使用することが好ましい。
【0035】
汚れ防止剤(D)は、好ましくは、フェノール系化合物および/またはカルボジイミド系化合物を含む。汚れ防止剤(D)として、フェノール系化合物やカルボジイミド系化合物を使用することによって、外観劣化をより効果的に防止することができる。フェノール系化合物やカルボジイミド系化合物による外観劣化を防止するメカニズムは定かではないが、本発明者らは、成形時の溶融状態で受けるせん断応力に対する熱可塑性ポリウレタンの安定性を、これらの化合物が向上させることによって、成形品の経時的な外観劣化が防止されると推定している。フェノール系化合物およびカルボジイミド系化合物は、それぞれ、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
フェノール系化合物としては、例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−ブチル−6−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−(t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン等のヒンダードフェノール系化合物;2−ヒドロキシ−4−オクチルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン等のヒドロキシベンゾフェノン系化合物;2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]}等のヒドロキシベンゾトリアゾール系化合物;4−t−ブチルフェニルサリチル酸等のサリチル酸系化合物;4−t−ブチルパラオキシ安息香酸フェニル等のオキシ安息香酸系化合物;3,4−ジヒドロキシ安息香酸オクチル等のカテコール系化合物;3,5−ジヒドロキシ安息香酸オクチル等のレゾルシノール系化合物;4,4’−オクチル−2,2’−ビフェノール等のビフェノール系化合物;2,2’−ビナフトール等のビナフトール系化合物などが挙げられる。
【0037】
フェノール系化合物は市販されており、例えば住友化学株式会社製の「スミライザーGA−80」{3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン}などを使用することができる。
【0038】
フェノール系化合物の使用量は、熱可塑性ポリウレタンの質量に対して、好ましくは1質量ppm以上(より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上)、好ましくは10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)である。フェノール系化合物の使用量が1質量ppm未満であると、成形品の外観不良を充分に抑制できないことがある。一方、フェノール系化合物の使用量が10質量%を超える場合には、成形品の表面状態を損なうことがあり、特にフィルムなどの成形品を製造する際に、熱可塑性ポリウレタン組成物の溶融成形性の低下を招くことがある。
【0039】
汚れ防止剤(D)としてフェノール系化合物を使用する場合、さらにリン系化合物を併用することによって、外観劣化の防止効果が高まる。リン系化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。リン系化合物としては、例えば、亜リン酸、リン酸;メチルホスファイト、エチルホスファイト、イソプロピルホスファイト、ブチルホスファイト、2−エチルヘキシルホスファイト、ラウリルホスファイト、オレイルホスファイト、ステアリルホスファイト、フェニルホスファイト、ジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、ジイソプロピルホスファイト、ジブチルホスファイト、ビス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジラウリルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジステアリルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリス(デシル)ホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリス(オクタデシル)ホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、フェニルジイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト等の亜リン酸エステル;メチルホスフェート、エチルホスフェート、イソプロピルホスフェート、ブチルホスフェート、2−エチルヘキシルホスフェート、ラウリルホスフェート、オレイルホスフェート、ステアリルホスフェート、フェニルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジオレイルホスフェート、ジステアリルホスフェート、ジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(デシル)ホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリス(オクタデシル)ホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート等のリン酸エステル;フェニル亜ホスホン酸ジメチル、フェニル亜ホスホン酸ジエチル、フェニル亜ホスホン酸ジブチル、フェニル亜ホスホン酸ジオクチル、フェニル亜ホスホン酸ジドデシル、フェニル亜ホスホン酸ビス(オクタデシル)、フェニル亜ホスホン酸ジシクロヘキシル、フェニル亜ホスホン酸ジフェニル等の亜ホスホン酸誘導体のジエステル;フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジブチル、フェニルホスホン酸ジオクチル、フェニルホスホン酸ジドデシル、フェニルホスホン酸ビス(オクタデシル)、フェニルホスホン酸ジシクロヘキシル、フェニルホスホン酸ジフェニル、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル等のホスホン酸誘導体のジエステル;ジドデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンジフェノールテトラキス(トリデシル)ジホスファイト等のジホスファイト化合物;ビス(オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスフェート等のジホスフェート化合物;テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイト等のジホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0040】
リン系化合物としては、リン酸エステル、ホスホン酸誘導体のジエステルが好ましく、ラウリルホスフェート、オレイルホスフェート、ステアリルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジオレイルホスフェート、ジステアリルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリトールジホスフェート、フェニルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルなどがより好ましい。
【0041】
リン系化合物の使用量は、高分子ポリオール(A)の質量に対して、好ましくは0.1質量ppm以上(より好ましくは0.2質量ppm以上)、好ましくは1000質量ppm以下(より好ましくは100質量ppm以下)である。
【0042】
カルボジイミド系化合物として、一般に広く使用されているポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等を、汚れ防止剤(D)として使用することができる。ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼンおよび1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられる。モノカルボジイミド化合物としては、例えば、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド、N−t−ブチル−N’−エチルカルボジイミド、N,N’−ジ−t−ブチルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トリルカルボジイミド等が挙げられる。
【0043】
カルボジイミド系化合物は市販されており、例えば、ラインケミー社製「スタバクゾールP−100」{ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼンおよび1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド}などを使用することができる。
【0044】
カルボジイミド系化合物の使用量は、熱可塑性ポリウレタンの質量に対して、好ましくは1質量ppm以上(より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上)、好ましくは5質量%以下(より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下)である。カルボジイミド系化合物の使用量が1質量ppm未満である場合には、成形品の外観不良を充分に抑制できない場合がある。一方、カルボジイミド系化合物の使用量が5質量%を超える場合には、熱可塑性ポリウレタン組成物から得られる成形品の表面状態や透明性を損なうことがあり、特にフィルムなどの成形品を製造する際に、熱可塑性ポリウレタン組成物の溶融成形性の低下を招くことがある。
【0045】
成形品の外観を改善する手段としては、上記の汚れ防止剤(D)を使用すること以外に、成形品の表面に塗装や印刷層を設けることなどが挙げられる。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリウレタン組成物は、他の添加剤(例えば着色剤、滑剤、難燃剤、紫外線吸収剤、耐光性改良剤、防黴剤など)を含有していてもよい。他の添加剤は、熱可塑性ポリウレタンの重合時または重合後に適宜添加することができる。さらに他の添加剤は、熱可塑性ポリウレタンの重合前に、重合原料{例えば高分子ポリオール(A)}に予め添加していてもよい。
【0047】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、比較的低い硬度(例えば、ショアA硬度で約80以下)であっても成形性に優れている。そのため本発明の熱可塑性ポリウレタンおよびその組成物は、射出成形、押出成形、カレンダー成形等の各種成形用途に、好適に使用することができる。本発明の熱可塑性ポリウレタンまたはその組成物から得られる成形品は、熱可塑性ポリウレタンと同様に、比較的低い硬度を有していながら、強度、耐摩耗性などの諸性能に優れている。
【0048】
成形後の成形品を、熱処理することが好ましい。熱処理によって、成形品は、本発明の熱可塑性ポリウレタンに由来する優れた諸性能、とりわけ、低い圧縮永久歪みおよび優れた耐熱性を一層効果的に発揮することができる。成形品の熱処理温度は、好ましくは60℃以上(より好ましくは70℃以上)、好ましくは110℃以下であり、その時間は、通常、1〜24時間の範囲内である。熱処理直後の成形品の性能は経時的に変動することがあるので、熱処理後の成形品を、室温下で1〜10日間、放置しておくことが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
〔測定方法〕
以下の実施例および比較例において、高分子ポリオール(A)の融点および結晶化エンタルピー、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度、対数粘度および流出開始温度、並びに射出成形品の固化性、到達硬度、破断強度、およびテーバー摩耗量を、以下の方法によって測定した。
【0051】
(1)高分子ポリオール(A)
[融点および結晶化エンタルピー]
示差走査熱量計[セイコーインスツル株式会社製、DSC2000]によって、高分子ポリオール(A)の融点および結晶化エンタルピー(ΔH)を測定した。サンプル量は約10mgとし、窒素100ml/分の気流下で、−20℃から200℃まで10℃/分の昇温速度の条件で熱量測定を行った。吸熱ピーク温度から融点を求め、吸熱ピーク面積から結晶化エンタルピー(ΔH)を求めた。
【0052】
(2)熱可塑性ポリウレタンおよびその射出成形品
[対数粘度]
n−ブチルアミンを0.05モル/Lで含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、熱可塑性ポリウレタンを濃度0.5g/dlになるように溶解させ、ウベローデ型粘度計を用いて、前記ポリウレタン溶液の30℃における流下時間を測定し、下式によって対数粘度を求めた。
対数粘度=〔ln(t/t0)〕/c
〔式中、tはポリウレタン溶液の流下時間(秒)、t0はn−ブチルアミンを0.05モル/Lで含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液の流下時間(秒)、cはポリウレタン溶液の濃度(g/dl)を表す。〕
【0053】
[溶融粘度]
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を使用して、80℃で2時間減圧乾燥(10Torr{1.3×103Pa}以下)した熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度を、荷重490.3N(50kgf)、ノズル寸法=直径1mm×長さ10mm、温度200℃の条件下で測定した。
【0054】
[流出開始温度]
熱可塑性ポリウレタンの流出開始温度を、高化式フローテスターを用いて昇温法によって3℃間隔でポリマー流出速度を測定し(ノズル:孔径1mm,孔長10mm;荷重:100kgf;昇温速度:5℃/分)、ポリマー流出速度を1×10-3〜5×10-3ml/秒の範囲で温度に対してプロットし、流出速度が0ml/秒となる温度を外挿法によって求め、それを流出開始温度とした。
【0055】
[固化性および到達硬度]
表面を鏡面仕上げした金型を用いて、射出成形(日精樹脂工業株式会社製FS−80S12ASE、シリンダー温度200〜210℃、金型温度30℃、射出時間5〜8秒、冷却時間30秒)によって円板状の成形品(直径120mm、厚さ2mm)を成形した際、金型開放と同時に該成形品を取り出した時から30秒後のショアA硬度を測定し、これを「固化性」とした。固化性(30秒後のショアA硬度)の値が高いほど、固化が早く、成形性に優れることを示す。
【0056】
また成形品を金型から取り出して、23℃の条件下に1週間放置した後のショアA硬度を測定し、これを「到達硬度」とした。
【0057】
なおショアA硬度は、JIS K−6301に準じて、得られた厚さ2mmの円板状の成形品を3枚重ね合わせたものを用い、ショアA硬度計によって測定した。
【0058】
[破断強度]
上記の固化性の評価と同じ操作を行って、円板状の成形品(直径120mm、厚さ2mm)を製造し、得られた成形品を25℃で3日間放置した後、ダンベル3号形に打ち抜いて試験片を作成し、JIS K−7311に準じて、インストロン社「インストロン5566」を使用して、引張速度300mm/分で破断強度を測定した。
【0059】
[テーバー摩耗量]
上記の固化性の評価と同じ操作を行って、円板状の成形品(直径120mm、厚さ2mm)を製造し、得られた成形品を25℃で3日間放置した後、テーバー摩耗試験機(荷重1kg、摩耗輪H−22)を使用して、JIS K−7311に準じて、テーバー摩耗量を測定した。
【0060】
〔実施例で使用した化合物〕
以下の実施例および比較例で使用した化合物は、以下の通りである。以下の実施例および比較例では、使用した化合物を略号によって表示する。
【0061】
(1)高分子ポリオール(A)
POH−1:1,3−プロパンジオールおよびセバシン酸から得られたポリエステルジオール(数平均分子量1000、融点:49℃、結晶化エンタルピー(ΔH):97J/g)
POH−2:1,3−プロパンジオールおよびセバシン酸から得られたポリエステルジオール(数平均分子量2000、融点:56℃、結晶化エンタルピー(ΔH):87J/g)
POH−3:3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびアジピン酸から得られたポリエステルジオール(数平均分子量3500、融点:−20℃未満、結晶化エンタルピー(ΔH):0J/g)
POH−4:1,4−ブタンジオールおよびアジピン酸から得られたポリエステルジオール(数平均分子量2000、融点:55℃、結晶化エンタルピー(ΔH):85J/g)
POH−5:1,6−ヘキサンジオールおよびセバシン酸から得られたポリエステルジオール(数平均分子量2000、融点:71℃、結晶化エンタルピー(ΔH):131J/g)
【0062】
(2)有機ジイソシアネート(B)
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
【0063】
(3)鎖伸長剤(C)
BD:1,4−ブタンジオール
【0064】
(4)ウレタン化反応触媒
SN:ジブチルスズジアセテート
【0065】
(5)汚れ防止剤(D)
PC−1:3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン(住友化学株式会社製「スミライザーGA−80」)
PC−2:ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼンおよび1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド(ラインケミー社製「スタバクゾールP−100」)
PC−3:ジステアリルホスフェート
【0066】
〔実施例1〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
10質量ppmのウレタン化反応触媒(SN)を含む高分子ポリオール(POH−1)、鎖伸長剤(BD)および有機ジイソシアネート(MDI)を、POH−1:BD:MDI=1.0:0.4:1.4のモル比(有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量2.8質量%)で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃で連続溶融重合させて、ポリウレタン形成反応を行った。得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを60℃で4時間除湿乾燥することによって熱可塑性ポリウレタンを製造した。該ポリウレタンの溶融粘度は800Pa・s、対数粘度は1.05dl/g、流出開始温度は118℃であった。
【0067】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られた熱可塑性ポリウレタンを用いて、固化性の評価等で記載した方法によって射出成形を行い、固化性、到達硬度、破断強度およびテーバー摩耗量を評価した。下記表1に、その結果を示す。
〔実施例2、比較例1〜5〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
10質量ppmのウレタン化反応触媒(SN)を含む各高分子ポリオール(POH−1、POH−3、POH−4およびPOH−5)、鎖伸長剤(BD)および有機ジイソシアネート(MDI)を下記表1に示す割合で使用したこと以外は、実施例1と同様の方法によって熱可塑性ポリウレタンを製造した。なお比較例3では、ポリウレタン形成反応を行なって得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出したが、ストランドの膠着性が非常に強くてペレットを得ることができなかった。また比較例5では、ポリウレタン形成反応を行なって得られた溶融物が白濁してしまい、ストランド状で水中に連続的に押し出すことができなかった。
【0068】
(2)射出成形品の製造
実施例2、並びに比較例1、2および4で、上記(1)で得られた熱可塑性ポリウレタンを用いて、固化性の評価等で記載した方法によって射出成形を行い、固化性、到達硬度、破断強度およびテーバー摩耗量を評価した。下記表1に、その結果を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1および2の熱可塑性ポリウレタンは、比較例1、2および4のものに比べて、流出開始温度が低く、且つ固化性が高く、成形性に優れている。また実施例1および2の射出成形品は、テーバー摩耗量が少なく、耐摩耗性にも優れている。さらに実施例1および2の射出成形品は、比較例1、2および4のものと同等以上の破断強度を示す。
【0071】
〔実施例3〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
ウレタン化反応触媒(SN)を10質量ppm含む高分子ポリオール(POH−2)、鎖伸長剤(BD)および有機ジイソシアネート(MDI)を、POH−2:BD:MDI=1.0:4.3:5.3のモル比(有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量4.0質量%)で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃で連続溶融重合させてポリウレタン形成反応を行った。得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを60℃で4時間除湿乾燥することによって熱可塑性ポリウレタンを製造した。該ポリウレタンの溶融粘度は880Pa・s、対数粘度は1.02dl/g、流出開始温度は180℃であった。
【0072】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られたポリウレタンを用いて、上記した方法で射出成形を行った。射出固化性は82Aであり、良好であった。また得られた成形品の到達硬度(1週間後のショアA硬度)は90、破断強度68MPa、テーバー摩耗量15mgであった。
【0073】
〔実施例4〕
(1)熱可塑性ポリウレタン組成物の製造
10質量ppmのウレタン化反応触媒(SN)を含む高分子ポリオール(POH−1)、鎖伸長剤(BD)および有機ジイソシアネート(MDI)を、POH−1:BD:MDIの=1.0:0.4:1.4のモル比(有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量2.8質量%)で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、200℃で連続溶融重合させてポリウレタン形成反応を行った。
【0074】
次に、上記の二軸スクリュー型押出機の後部に汚れ防止剤(PC−1)を添加(供給量6g/分)し、得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを60℃で4時間除湿乾燥することによって熱可塑性ポリウレタン組成物を製造した。該ポリウレタン組成物の溶融粘度は820Pa・s、対数粘度は1.07dl/g、流出開始温度は114℃であった。
【0075】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られたポリウレタン組成物を用いて、到達硬度(1週間後のショアA硬度)が65である射出成形品を製造した。得られた成形品を室温条件下に放置しても、成形品表面に白色の粉の発生は確認されず、良好な外観状態が維持された。
【0076】
〔実施例5〕
(1)熱可塑性ポリウレタンの製造
1.6質量ppmの汚れ防止剤(PC−3)を含む高分子ポリオール(POH−1)を予め調製した。この高分子ポリオールに10質量ppmのウレタン化反応触媒(SN)を配合し、汚れ防止剤(PC−3)およびウレタン化反応触媒(SN)を含有する高分子ポリオール(POH−1)、鎖伸長剤(BD)並びに有機ジイソシアネート(MDI)を、POH−1:BD:MDI=1.0:0.4:1.4のモル比(有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量2.8質量%)で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、200℃で連続溶融重合させてポリウレタン形成反応を実施した。次に、上記の二軸スクリュー型押出機の後部に汚れ防止剤(PC−1)を添加(供給量3g/分)し、得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断してペレットを得た。得られたペレットを60℃で4時間除湿乾燥することによって熱可塑性ポリウレタン組成物を製造した。該ポリウレタン組成物の溶融粘度は840Pa・s、対数粘度は1.04dl/g、流出開始温度は114℃であった。
【0077】
(2)射出成形品の製造
上記(1)で得られたポリウレタン組成物を用いて、到達硬度(1週間後のショアA硬度)が65である射出成形品を製造した。得られた成形品を室温条件下に放置しても、成形品表面に白色の粉の発生は確認されず、良好な外観状態が維持された。
【0078】
〔実施例6〕
射出成形品の製造
実施例1で得られた熱可塑性ポリウレタン100質量部および汚れ防止剤(PC−2)0.5質量部を配合して熱可塑性ポリウレタン組成物を調製した。該ポリウレタン組成物を用いて、到達硬度(1週間後のショアA硬度)が65である射出成形品を製造した。得られた成形品を室温条件下に放置しても、成形品表面に白色の粉の発生は確認されず、良好な外観状態が維持された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の熱可塑性ポリウレタンおよびその組成物は、シート、フィルム等の成形物、弾性繊維、バインダー、接着剤等の素材として使用することができる。本発明のポリウレタンまたはその組成物から得られる成形品は、ロール(紙送りロール等)、ベルト、スクィージ、複写機用クリーニングブレード、スノープラウ、チェーン、ライニング、スクリーン、ギア、キャスター、ソリッドタイヤ、ホース、チューブ、パッキング材、防振材、制振材、靴底、スポーツ靴、コーキング材、皮革、機械部品、自動車部品などの用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)、および鎖伸長剤(C)を重合して得られる熱可塑性ポリウレタンであって、
前記高分子ポリオール(A)を構成するポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位であり、
前記高分子ポリオール(A)の数平均分子量が500〜6000であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン。
【請求項2】
高分子ポリオール(A)が、ポリカルボン酸単位の98モル%以上がセバシン酸単位であり、且つポリオール単位の98モル%以上が1,3−プロパンジオール単位である高分子ポリエステルポリオール(A1)を含み、
前記高分子ポリエステルポリオール(A1)の含有量が、高分子ポリオール(A)中、94質量%以上である請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項3】
高分子ポリオール(A)の結晶化エンタルピー(ΔH)が、80〜110J/gである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項4】
温度が30℃であり、溶媒がn−ブチルアミンを0.05モル/Lで含有するN,N−ジメチルホルムアミド溶液であり、熱可塑性ポリウレタンの溶液濃度が0.5g/dlである条件下で測定した対数粘度が、0.90dl/g以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項5】
有機ジイソシアネート(B)に由来する窒素原子の含有量が、熱可塑性ポリウレタン中、2〜6質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項6】
有機ジイソシアネート(B)に含まれるイソシアネート基の量が、高分子ポリオール(A)および鎖伸長剤(C)に含まれるイソシアネート基と反応し得る水素原子の総量1モルに対して、0.93〜1.3モルである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン、および汚れ防止剤(D)を含む熱可塑性ポリウレタン組成物。
【請求項8】
汚れ防止剤(D)が、フェノール系化合物および/またはカルボジイミド系化合物を含む請求項7に記載の熱可塑性ポリウレタン組成物。

【公開番号】特開2011−178920(P2011−178920A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45445(P2010−45445)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】