説明

熱可塑性マルチフィラメント及び編織物

【課題】編織物に優れたノンラン性能の付与可能な熱可塑性マルチフィラメントを提供し、またこのマルチフィラメントを含むノンラン性能を有する編織物を提供する。
【解決手段】固有粘度の異なる2種の部分が接合された貼り合わせ構造を有し、熱水処理後の捲縮率が25%以上なる要件を満足する熱可塑性マルチフィラメントであり、また前記の熱可塑性マルチフィラメントにて構成され、カット目からランを開始するときの強さが450kPa以上であるノンラン性能を有する編織物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編織物に優れたノンラン性能を付与することのできる熱可塑性マルチフィラメント及びそのマルチフィラメントを含んでなるノンラン性能を有する編織物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣料用編織物の軽量化、薄地化の傾向が進んでいるが、スポーツ用ニット素材やインナー等の薄地編織物での縫製時或いは着用破断時のカット部からの糸のホツレが問題化されている。カット端からの糸のホツレは、いわゆるカット目からランが開始することによって生ずる。
【0003】
この編織物での糸のホツレの問題を解決するために、例えば、特許文献1においては、融点が215℃以上のポリエステルを芯部に、融点が180℃以上、215℃未満のポリエステルを鞘部に配した芯鞘型複合繊維と、融点が215℃以上のポリエステル繊維を混紡して得られる紡績糸を少なくとも一部に使用した布帛を、芯鞘型複合繊維の鞘部に配したポリエステルのみが溶融する温度で熱処理する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、この方法では、繊維間の接着部が存在し粗硬な風合いになり、着心地を悪くするという問題があった。また、特許文献2では、編機を利用して身頃及び袖を筒状に編成するとともに、身頃及び袖を編成中に一体化して編機から外された状態で完成品に近いセーター等の各種ニット衣類を生産する方法が提案されている。これは、カット工程なしに各種ニット衣類を生産し得るもので、一般的に無縫製ニットと呼ばれている。しかしながら、この方法では、編組織も限られ、風合いの機能性、消費性能に関しては満足できるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−321035号公報
【特許文献2】特開平10−1852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、編織物に優れたノンラン性能を付与することのできる熱可塑性マルチフィラメントを提供し、さらは、かかる熱可塑性マルチフィラメントを含むノンラン性能とともにストレッチ性を併せ有する編織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の要旨は、固有粘度の異なる2種の構成部分が接合された貼り合わせ構造を有し、熱水処理後の捲縮率が25%以上なる要件を満足する熱可塑性マルチフィラメントにある。また、本発明の第2の要旨は、前記の熱可塑性マルチフィラメントにて構成され、カット目からランを開始するときの強さが450kPa以上であるノンラン性能を有する編織物にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、編織物に優れたノンラン性能を付与することのできる熱可塑性マルチフィラメントを提供し得るものであり、さらに、本発明は、この熱可塑性マルチフィラメントにて編織物を構成したときに、優れたノンラン性能を有する編織物を提供し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のマルチフィラメントは、固有粘度の異なる2種の部分が接合された貼り合わせ構造を有する複合繊維からなり、複合繊維の貼り合わせ構造における固有粘度の異なる2種の部分間の固有粘度差は、好ましくは0.17〜1.00、より好ましくは0.20〜1.00である。また、固有粘度の異なる2種の部分は、それぞれ固有粘度の異なるポリマーで構成され、固有粘度の異なる2種のポリマーが質量比20/80〜80/20の複合比で構成されていることが好ましい。固有粘度の異なる2種のポリマーのうち、固有粘度の高いポリマーが、固有粘度の高いポリマーと固有粘度の低いポリマーの質量比20/80より少ないと、高い捲縮率が得られず、また80/20より多いと、繊維強度が劣るものとなり、好ましくは固有粘度の高いポリマーと、固有粘度の低いポリマーの質量比は40/60〜60/40であることが好ましい。
【0010】
本発明のマルチフィラメントは、固有粘度の異なる2種の構成部分が接合された貼り合わせ構造の複合繊維からなるものであり、複合繊維の貼り合わせ構造を構成する各構成部分は、それぞれ熱可塑性ポリマーからなる。熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー等が挙げられ、貼り合わせ構造の2つの構成部分が、ともにポリアミド系ポリマーからなっていても、また一方がポリアミド系ポリマー、他方がポリエステル系ポリマーからなっていてもよいが、マルチフィラメントとしての耐光黄変性、寸法安定性に優れている点から、貼り合わせ構造をなす2つの構成部分が、ともにポリエステル系ポリマーから構成されることが好ましい。
【0011】
ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、さらには、繊維特性を損なわない範囲で、これらのポリエステルに第3成分を共重合させた変性ポリエステル系ポリマーからなる群から選ばれることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、変性ポリブチレンテレフタレートからなる群から選ばれることが好ましが好ましい。
【0012】
共重合させる第3成分としては、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族を含む脂肪族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルグリコール等、或いはカチオン染料可染性を付与するためのナトリウムスルホイソフタル酸等であってもよい。また、必要に応じて制電剤、艶消剤、紫外線吸収剤、染色性改良剤、各種顔料等の添加物を混入させたものでもよい。
【0013】
さらに、貼り合わせ構造においては、高捲縮を発現させるうえから、特に、貼り合わせ構造をなす2種の部分のうちの一方を未変性のポリエチレンテレフタレート或いは未変性のポリブチレンテレフタレートで構成し、他方を第3成分を共重合させた変性ポリエチレンテレフタレート或いは変性ポリブチレンテレフタレートで構成することが好ましい。また、高捲縮を発現させるうえで、ポリマー段階では、固有粘度の低い未変性のポリエチレンテレフタレート或いは未変性のポリブチレンテレフタレートと固有粘度の高い変性ポリエチレンテレフタレート或いは変性ポリブチレンテレフタレートとの組み合わせとすることが好ましい。
【0014】
本発明のマルチフィラメントは、固有粘度の異なる2種の部分が接合された貼り合わせ構造を有する。なお、本発明における貼り合わせ構造にある2種の構成部分のそれぞれの固有粘度の測定は、複合紡糸繊維を紡糸すると同一の条件で、ノズルのみを各部分を構成するそれぞれの単独ポリマーが吐出する孔を有するノズルに取り替えて紡出し、各部分を構成するそれぞれの単独ポリマーの紡出糸をサンプリングしたもので行った。本発明のマルチフィラメントを構成する複合繊維の断面形状は、円形、Y字形、多葉形、楕円形、扁平形等のいずれであってもよく、また中空繊維であってもよい。
【0015】
本発明のマルチフィラメントは、それを構成する複合繊維が貼り合わせ構造を有するとともに、熱水処理後の捲縮率が25%以上なる要件を満足することが必要である。熱水処理後の捲縮率が25%未満の場合には、ノンラン性能が劣り、本発明の目的が十分に達成されない。また、捲縮率が90%を超えると、繊維の製造自体が困難である。かかるノンラン性能及び繊維製造上から、本発明のマルチフィラメントにおける好ましい熱水処理後の捲縮率は、30〜55%の範囲である。
【0016】
本発明のマルチフィラメントの製造方法について説明する。
本発明のマルチフィラメントは、公知の溶融複合紡糸法により製造可能であるが、複合紡糸において、固有粘度の異なる2種のポリマーA、Bを用い、高粘度であるポリマーAと低粘度であるポリマーBを、吐出孔内において各ポリマーの導入孔が紡糸口金の吐出面から2mm未満の位置にある紡糸口金を用い、2種のポリマーA、Bを、紡糸口金の吐出面に達する前の吐出面から2mm未満の位置で、質量比20/80〜80/20の複合比で合流させた後、吐出線速度5.0m/分以上で吐出する。吐出孔より吐出したマルチフィラメントは、公知の方法で未延伸糸として一旦巻き取った後に延伸を行って延伸糸としてもよいし、また吐出後巻き取ることなく延伸して延伸糸としてもよい。また、紡糸速度は1200〜3000m/分、延伸速度は400〜1020m/分、延伸倍率は未延伸糸の最大延伸倍率の0.65〜0.85倍程度とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明のマルチフィラメントは、編織物に対し優れたノンラン性能を付与することができ、本発明のマルチフィラメント繊維を含んで構成された編織物は、ノンラン性能を有する。本発明においては、本発明のマルチフィラメント繊維を含んで構成された編織物は、カット目からランを開始するときの強さが450kPa以上であるノンラン性能を有する。一般に、被服の縫い目強度は、400〜500kPaが要求されており、本発明の編織物は、好ましくはカット目からランを開始するときの強さが500kPa以上であることがより好ましい。カット目からランを開始するときの強さが450kPa未満の場合には、編織物のカット目からの糸のホツレが発生し易くなり、ノンラン性能に劣るものとなる。
【0018】
本発明の編織物は、カット目からランを開始するときの強さが450kPa以上のノンラン性能を有するのであれば、他の繊維のマルチフィラメントを含んでいてもよく、ノンラン性能を確保するためには、本発明のマルチフィラメントが30質量%以上含まれることが望ましい。本発明の編織物の編組織については特に限定はなく、例えば、ハーフトリコット、ラッセル等の経編、天竺、スムース、ゴム、ミラノリブ、ポンチローマ等の丸編及び横編等が挙げられる。ゲージは、経編で14〜40GG、丸編で14〜40GG、横編で3〜22GGが好ましい。また、織組織についても特に限定はなく、例えば、平織、綾織、朱子織等の一重織、平二重、綾二重、緯二重等の重ね組織、パイル組織、からみ織等が挙げられ、織密度も限定されない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明で用いる評価法は、以下のとおりである。
【0020】
(固有粘度[η])
繊維形成前のポリマーの固有粘度の測定は、ポリマーチップ0.25gを粉砕し、フェノール/テトラクロルエタン(50/50)の混合溶媒50mlに溶解させ、25℃に温調した自動粘度計(サン電子工業社製、製品名:AVL−4型)で測定した。なお、計算式は以下のとおりである。
[η]={(1+1.04ηsp)1/2−1}/0.26
また、複合繊維における各部分の固有粘度の測定は、それぞれ単独ポリマーでの紡出糸をサンプリングし、紡出糸を粉砕して測定した。
【0021】
(ポリマーの融点)
示差走査型熱量計(セイコー電子工業社製、製品名:DSC220)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0022】
(繊維の破断強度及び破断伸度)
島津製作所製、オートグラフSD−100−Cを用いて、試長200mm、引張速度200mm/分で応力−伸長曲線を測定し、繊維の破断点での破断強度及び破断伸度を求めた。
【0023】
(捲縮率)
検尺機にて5回かせ取りしたマルチフィラメントを、二重にして1/6000(g/D)の荷重をかけスタンドに吊り30分間放置し、次いでこの状態を維持したまま沸水中に入れ30分間処理する。その後、30分間風乾し、1/500(g/D)の荷重をかけ、長さ(a)を測定する。次に、1/500(g/D)の荷重をはずした後、1/20(g/D)の荷重をかけて、その長さ(b)を測定する。そして、次の式によって捲縮率を求めた。
捲縮率(%)=((b−a)/b)×100
【0024】
(ノンラン性能)
栄光産業社製、筒編機CR−B型、釜径3.5インチの筒編機にて、ゲージ数32の条件で作成した編地を、150℃で乾熱処理し、続いて30分間沸水処理を施した後、風乾し、編地試料の中央に横方向2mmカット目(キズを作る)を入れ、JIS−L−1018(ミューレン法)に準拠して測定し、カット目からランを開始するときの強さ(kPa)を求めた。
【0025】
実施例での複合繊維における複合成分のポリマーは、以下のものであり、その製造方法を特に記さない限りは公知の製造方法によって得たものであり、表1にもまとめて示す。
【0026】
(ポリマー1、2)
それぞれ固有粘度が0.69、0.51、融点が256℃の未変性ポリエチレンテレフタレート(PET)を使用。
(ポリマー3)
固有粘度が0.90、融点が223℃の未変性ポリブチレンテレフタレート(PBT)を使用。
【0027】
(ポリマー4)
PETにイソフタル酸を8mol%共重合した固有粘度が0.69、融点が238℃の変性PETを使用。
(ポリマー5、6)
PETに5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5mol%及びアジピン酸を10mol%共重合した、それぞれ固有粘度が0.61、0.67、融点が231℃の変性PETを使用。
【0028】
(ポリマー7)
ジメチルテレフタレート3.32kg、アジピン酸ジエチロール(ADE)1.00kg、1,4−ブタンジオール2.50kgを、チタンテトラブトキサイド3gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにADEを20mol%共重合した固有粘度が1.05、融点が179℃の変性PBTを使用。
【0029】
(ポリマー8、9)
ジメチルテレフタレート2.97kg、ジメチルイソフタレート(DMI)0.87kg、1,4−ブタンジオール2.24kg、分子量約4000のポリエチレングリコール(PEG)0.63kgを、チタンテトラブトキサイド4.4gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、その後、酸化防止剤として、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート))メタン25gを添加し、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにDMIを22mol%及びPEGを12.5wt%共重合したそれぞれ固有粘度が0.99、1.10、融点が184℃の変性PBTを使用。
【0030】
(ポリマー10)
ジメチルテレフタレート2.61kg、DMI0.66kg、1,4−ブタンジオール1.90kg、分子量約4000のPEG1.25kgをチタンテトラブトキサイド4.7gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、その後、酸化防止剤として、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート))メタン50gを添加し、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにDMIを20mol%及びPEGを25.0wt%共重合した固有粘度が1.11、融点が183℃の変性PBTを使用。
【0031】
(ポリマー11)
ジメチルテレフタレート4.49kg、1,4−ブタンジオール2.42kg、分子量約1000のポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)0.4kgをチタンテトラブトキサイド3.7gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、その後酸化防止剤として、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート))メタン5gを添加し、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにPTMGを8.0wt%共重合した固有粘度が1.00、融点が222℃の変性PBTを使用。
【0032】
(ポリマー12)
ジメチルテレフタレート3.74kg、1,4−ブタンジオール2.234kg及び分子量約1000のPTMG0.75kgを、チタンテトラブトキサイド3gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、その後酸化防止剤として、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート))メタン5gを添加し、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにPTMGを15.0wt%共重合した固有粘度が1.25、融点が215℃の変性PBTを使用。
【0033】
(ポリマー13)
ジメチルテレフタレート3.02kg、1,4−ブタンジオール1.70kg及び分子量約1000のPTMG1.5kgを、チタンテトラブトキサイド3gの存在下、150〜210℃でエステル交換反応を行わせ、その後酸化防止剤として、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート))メタン5gを添加し、次いで徐々に減圧にしながら247℃まで昇温、最終的に0.2kPaの圧力で重合反応を行って得た、PBTにPTMGを27.0wt%共重合した固有粘度が1.25、融点が215℃の変性PBTを使用。
【0034】
【表1】

【0035】
(比較例1)
ポリマー1のチップを、乾燥後、24ホール、口径0.6mmの円形吐出孔を有する口金を設置した紡糸装置を用い、溶融温度285℃、紡糸温度285℃で、紡糸速度1800m/分で紡糸し、得られた未延伸糸を延伸速度600m/分、延伸温度60〜80℃、熱セット温度100〜140℃、最大延伸倍率の0.75倍で延伸し、表3に示す物性を有する75dtex/24フィラメント(f)のポリエステルマルチフィラメントを得た。なお、繊維の固有粘度については、ポリマー1の紡出糸をサンプリングしたもので測定した。
【0036】
(実施例1〜5、比較例2〜4)
ポリマー2〜13のチップを乾燥後、24ホール、口径0.6mmの円形吐出孔を有する複合紡糸口金を設置した紡糸装置を用い、表2に示すポリマーの組み合わせ、溶融温度、紡糸温度で、固有粘度の異なる2種のポリマーを質量比50/50の複合比で接合させ、紡糸速度1800m/分で複合紡糸した。得られた未延伸糸を延伸速度600m/分、延伸温度60〜82℃、熱セット温度、20〜140℃、最大延伸倍率の0.75倍で延伸し、表3に示す物性を有する65〜77dtex/24fのポリエステルマルチフィラメントを得た。実施例3は、実施例2におけるポリマーAの溶融温度を変えて熱履歴によって繊維での該当部分の固有粘度を変えた以外は、実施例と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを得た。なお、繊維におけるそれぞれのポリマからなる部分の固有粘度については、それぞれの単独ポリマーの紡出糸をサンプリングしたもので測定した。また、表3中において、繊維の貼り合せ構造のA部、B部はそれぞれポリマーA、Bから構成されている部分で、複合比(質量比)が50/50であるので2つのポリマーのいずれがポリマーA、Bであってもよく、またAB[η]差はA部とB部との間の固有粘度[η]の差を意味する。
【0037】
(実施例6)
ポリマー2及びポリマー4のチップを乾燥後、12ホール、口径0.6mmの円形吐出孔を有する複合紡糸口金を設置した紡糸装置を用い、表2に示す溶融温度、紡糸温度で、2種のポリマーを質量比50/50の複合比で接合させ、紡糸速度2100m/分で複合紡糸した。得られた未延伸糸を延伸速度600m/分、延伸温度80〜85℃、熱セット温度、110〜150℃、最大延伸倍率の0.75倍で延伸し、表3に示す物性を有する54〜56dtex/12fのポリエステルマルチフィラメントを得た。なお、繊維のそれぞれのポリマからなる部分の固有粘度については、それぞれの単独ポリマーの紡出糸をサンプリングしたもので測定した。
【0038】
(実施例7)
ポリマー2及びポリマー4のチップを乾燥後、24ホール、口径0.6mmの円形吐出孔を有する複合紡糸口金を設置した紡糸装置を用い、表2に示す溶融温度、紡糸温度で、2種のポリマーを質量比50/50の複合比で接合させ、紡糸速度2100m/分で複合紡糸した。得られた未延伸糸を延伸速度600m/分、延伸温度80〜85℃、熱セット温度、125℃、最大延伸倍率の0.75倍で延伸し、表3に示す物性を有する110dtex/24fのポリエステルマルチフィラメントを得た。なお、繊維のそれぞれのポリマからなる部分の固有粘度については、それぞれの単独ポリマーの紡出糸をサンプリングしたもので測定した。
【0039】
(実施例8〜9)
ポリマー2及びポリマー5〜6のチップを乾燥後、12ホール、口径0.6mmの円形吐出孔を有する複合紡糸口金を設置した紡糸装置を用い、表2に示すポリマーの組み合わせ、溶融温度、紡糸温度で、固有粘度の異なる2種のポリマーを質量比50/50の複合比で接合させ、紡糸速度2100m/分で複合紡糸した。得られた未延伸糸を延伸速度600m/分、延伸温度80〜85℃、熱セット温度、110〜150℃、最大延伸倍率の0.75倍で延伸し、表3に示す物性を有する54〜56dtex/12fのポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
(実施例10)
実施例1〜9、比較例1〜4でそれぞれ得たポリエステル系マルチフィラメントを、ノンラン性能の評価法におけると同様に、栄光産業社製、筒編機CR−B型、釜径3.5インチの筒編機にて、ゲージ数32の条件で編地を編成し、精錬を施した編地を150℃で乾熱処理し、続いて沸水処理を30分間施した後、風乾した。得られた編地について、そのノンラン性能を評価するため、カット目からランを開始するときの強さ(kPa)を測定し、その結果を表4に示した。
【0043】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱可塑性マルチフィラメントは、編織物に優れたノンラン性能を付与することのでき、スポーツ用ニット素材やインナー等の衣料用編織物の素材として有用なるものである。また、本発明の熱可塑性マルチフィラメントにて編織物を構成したときには、その編織物は、優れたノンラン性能を有しており、ストレッチ性も示すことから、特に、スポーツ用ニット素材やインナー等の衣料用編織物として好適なるものものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度の異なる2種の部分が接合された貼り合わせ構造を有する複合繊維からなり、熱水処理後の捲縮率が25%以上なる要件を満足する熱可塑性マルチフィラメント。
【請求項2】
固有粘度の異なる2種の部分が、固有粘度の異なる2種のポリマーを質量比20/80〜80/20の複合比で接合して構成されている請求項1に記載の熱可塑性マルチフィラメント。
【請求項3】
固有粘度の異なる2種の部分が、それぞれ固有粘度の異なるポリエステル系ポリマーで構成されている請求項1又は2に記載の熱可塑性マルチフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性マルチフィラメントにて構成され、カット目からランを開始するときの強さが450kPa以上であるノンラン性能を有する編織物。

【公開番号】特開2008−196060(P2008−196060A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29759(P2007−29759)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】