熱可塑性樹脂の表面改質方法
【課題】 改質材料を熱可塑性樹脂に効率良く且つ高濃度で浸透させるための表面改質方法を提供する。
【解決手段】 超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、改質材料を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを容器に導入し、その後、容器内における超臨界流体または高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、流路における超臨界流体または高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法を提供する。
【解決手段】 超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、改質材料を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを容器に導入し、その後、容器内における超臨界流体または高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、流路における超臨界流体または高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の表面改質方法に関し、より詳細には、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超臨界流体を溶媒として利用する研究が盛んに行われている。超臨界流体は、表面張力ゼロであり気体並みの拡散性を有するだけでなく、液体に近い密度を有するため、溶媒としての機能も併せ持つ。このような超臨界流体の物性を利用した技術の一つとして、超臨界染色に代表される熱可塑性樹脂等のポリマーの表面改質プロセスがある。
【0003】
従来、超臨界流体として超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用い、熱可塑性樹脂の成形品表面に機能性有機材料を浸透させる表面改質プロセスが提案されており、例えば、新規なプラスチックの無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマーに接触させることで、ポリマー表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマーに対して加熱や化学還元処理する等によって有機金属錯体を還元することにより金属微粒子を析出させる。これにより、ポリマー表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で、表面粗さが良好な樹脂の無電解メッキプロセスを実現することができると言われている。
【0004】
また、本発明者らは、有機金属錯体等の有機物質を溶解させた超臨界二酸化炭素を用い、射出成形と同時にポリマー表面に有機金属錯体を含浸させ、次いで、有機金属錯体を還元して金属微粒子を触媒核として析出させ、無電解メッキ法により金属膜や金属配線を形成する方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来、超臨界流体以外にも、高圧二酸化炭素を用いた表面改質プロセスも提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、まず、成形品と金型との間に不活性ガスを注入し、次いで、染料又は改質材料の溶解した二酸化炭素ガスを注入することにより、染料又は改質材料の圧力損失に伴う溶解度の低下を抑制しながら成形品の表面を改質する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218062号公報
【特許文献2】特開2005−138574号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、超臨界流体または高圧不活性ガスの性質を生かして、種々の熱可塑性樹脂の表面改質方法が提案されており、その有用性からこの技術への関心が高まっている。そして、さらに、改質材料を熱可塑性樹脂に効率良く且つ高濃度で浸透させるための表面改質方法が要望されている。
【0008】
本発明は、上記要望に応えるためになされたものであり、本発明の目的は、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法において、改質材料を熱可塑性樹脂により効率良く且つ高濃度で浸透させるための表面改質方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法であって、上記超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に上記熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、改質材料を上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、上記改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを上記容器に導入し、その後、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法が提供される。
【0010】
上述した有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスについて、本発明者らがさらに鋭意検討した結果、次のような課題が生じることが判明した。有機金属錯体を溶解した混合流体を各種熱可塑性樹脂に接触させて、有機金属錯体を高濃度に熱可塑性樹脂に浸透させるためには、有機金属錯体が高濃度に溶解した混合流体を熱可塑性樹脂に接触させなければならない。そのため、溶解槽で有機金属錯体を超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素に溶解させる工程において、過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要があった。また、この際に用いられる有機金属錯体には超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素に対して高い溶解性が必要となるが、溶解度の高い有機金属錯体ほど熱的に不安定な(変質しやすい)性質があるので、一度表面改質プロセスに利用した有機金属錯体を回収して繰り返し利用することは困難である。上述の理由から、従来の有機金属錯体を溶解した混合流体を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスでは、材料コストが高くなる恐れがある。また、上記課題は、混合流体を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスを射出成形等のプロセスと組み合わせた製造プロセスを工業化する際の障壁となる恐れがある。
【0011】
本発明の表面改質方法では、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、改質材料が溶解した混合流体に導入し、その後、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を、容器と流通する流路における混合流体中の溶解濃度より高くする。それにより、効率良く改質材料を熱可塑性樹脂に効率良く浸透させることができる。それゆえ、本発明の表面改質方法では、溶解槽等を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる第2工程において、従来のように過飽和に近い多量の改質材料(例えば、有機金属錯体等)を溶解槽に仕込む必要がなくなり、改質材料をより効率良く利用することができ、材料コストを低減することが可能になる。
【0012】
本発明の表面改質方法では、上記容器が超臨界流体または高圧不活性ガスの導入口及び排出口を有しており、第3工程で、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記導入口を介して上記容器と流通する導入側流路及び上記排出口を介して上記容器と流通する排出側流路の少なくとも一方の流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くすることが好ましい。
【0013】
なお、本発明の表面改質方法の第3工程における「上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする」とは、容器内における混合流体中の改質材料の平均溶解濃度を、流路における混合流体中の改質材料の平均溶解濃度より高くすることをいう。後述するが、例えば、第3工程で配管等の流路に滞留している混合流体を高圧不活性ガス等で容器内に押し込んだ場合、容器内の混合流体は加圧されて改質材料の溶解濃度が増大するので、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度より大きくなる。その際、熱可塑性樹脂の表面近傍では、十分改質材料の溶解濃度を大きくすることができるが、容器内にはデッドスペースやその形状により混合流体が拡散し難い領域が存在するため、容器内の混合流体を加圧しても、容器内における改質材料の溶解濃度の分布は空間的に必ずしも一定ではなく、濃度勾配をもっている。それゆえ、そのような容器内の一部の領域における混合流体中の改質材料の溶解濃度は、容器に流通する流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度と同程度あるいはそれ以下となる場合もある。しかしながら、平均溶解濃度で比較すると、容器内の改質材料の平均溶解濃度が流路の平均溶解濃度より高くなる。
【0014】
熱可塑性樹脂が設置された容器内に、混合流体に導入し、その後、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を、容器と流通する流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度より高くする(第3工程)方法としては、以下の方法が望ましい。
【0015】
まず、第1の方法としては、第3工程が、上記改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器から排出させながら、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、上記排出側流路を開放した状態で、上記改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入することとを含むことが好ましい。
【0016】
また、第1の方法では、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入する際の圧力が、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入する際の圧力と同じであることが好ましい。
【0017】
さらに、第1の方法では、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとが同じ圧力を有し、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとの間に挟まれた状態で上記容器内を移動させることが好ましい。
【0018】
本発明の第3工程を実現するための第1の方法では、熱可塑性樹脂が設置されている容器内に予め導入された改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを排出しながら、容器内に所定の溶解濃度で改質材料を溶解した混合流体を導入する。そして、容器の排出側流路を開放した状態で(混合流体を容器内で流動させた状態で)、さらに容器の導入側流路に改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを導入する。この際、容器内の混合流体は第1及び第2超臨界流体または第1及び第2高圧不活性ガスに挟み込まれた状態となるので、混合流体の拡散が抑制される。それゆえ、第1の方法では、混合流体の改質材料の溶解濃度を低下させることなく混合流体を熱可塑性樹脂に接触させることができ、より効率良く高濃度で熱可塑性樹脂に改質材料を浸透させることができる。
【0019】
なお、上記第1の方法のように、混合流体(改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガス)を容器内に導入する前に、該混合流体と同じ圧力の改質材料の溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスで熱可塑性樹脂の表面を高圧雰囲気にした場合、後に容器に導入する混合流体と予め導入された第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスとの圧力差がなくなるので、混合流体を容器内に導入する際に、圧力損失を抑制しながら、混合流体を熱可塑性樹脂の表面に導くことが可能となる。
【0020】
本発明の第3工程を実現するための第2の方法としては、第3工程が、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入して第1の圧力で滞留させることと、上記排出側流路を閉鎖した状態で、第1の圧力より高い圧力を有し且つ上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の少なくとも一方の流路に導入し、上記容器内の上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことが好ましい。
【0021】
第2の方法では、まず、第1の圧力を有する改質材料の溶解した混合流体を熱可塑性樹脂が設置された容器内に滞留させた状態で、第1の圧力よりも高圧となる第2の圧力を有する改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガス(以下、加圧用流体ともいう)を容器に流通する流路(導入側流路及び/又は排出側流路)に導入することにより、流路内に滞留していた混合流体を一気に容器内に押し込み、容器内の混合流体の圧力を急激に上昇させる。その結果、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度も急激に増大する。これに伴い、改質材料が、熱可塑性樹脂の表面からその内部に高濃度で浸透する。すなわち、第2の方法では、容器に初期導入された混合流体中の改質材料の濃度が低くても、後に混合流体を加圧して混合流体中の改質材料の濃度を高めることができので、より効率良く高濃度で熱可塑性樹脂に改質材料を浸透させることができる。
【0022】
なお、上記第2の方法では、容器と流通する導入側流路または排出側流路の一方の流路に加圧用流体を導入して、容器に流通する一方の流路から容器内の混合流体を加圧しても良いし、容器と流通する導入側流路及び排出側流路の両方に加圧用流体を導入して、容器に流通する両方の流路から挟み込むようにして容器内の混合流体を加圧しても良い。
【0023】
上記第2の方法では、上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。熱可塑性樹脂を改質する高圧容器もしくは金型の形態は任意であり、バッチ処理における高圧容器、射出成形における金型等を採用することができる。また、射出成形における加熱溶融シリンダー、押し出し成形における加熱シリンダーやダイ等、溶融状態の樹脂が内包された箇所を容器として用いても良い。
【0024】
また、本発明の第3工程を実現するための第3の方法としては、上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されており、第3工程が、上記金型と上記熱可塑性樹脂との間に隙間を形成することと、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第1の圧力で上記隙間に導入することと、上記隙間を上記金型で圧縮することにより、上記隙間内の上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第2の圧力に加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことが好ましい。
【0025】
本発明のる第3工程を実現するための方法としては、第1及び第2の方法のように加圧用流体で容器内の混合流体を加圧しても良いが、容器に金型を用いた場合には、上記第3の方法のように、金型と熱可塑性樹脂の間に隙間を設け、その隙間に混合流体で導入した後、金型と熱可塑性樹脂間の隙間の容量を小さくして隙間を圧縮する(例えば、可動金型を移動させて隙間を狭くする)ことにより、混合流体を圧縮することもできる。この第3の方法を用いても、第2の方法と同様に、金型内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を増大させて、改質材料を熱可塑性樹脂の表面からその内部により効率的に高濃度で浸透させることができる。
【0026】
本発明の表面改質方法では、第1の圧力が5MPa〜10MPaであることが好ましく、第2の圧力が10MPa〜25MPaであることが好ましい。この理由を以下に説明する。
【0027】
図5に二酸化炭素の圧力に対する有機金属錯体・ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(改質材料)の溶解度の変化を示す。図5から明らかなように、二酸化炭素の圧力を増大させるとヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)の溶解度も増大し、ある臨界点(7.3MPa付近)を境に急激にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)の溶解度が増大する。また、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)は超臨界状態以下の二酸化炭素に対してもある程度の溶解度を有する。それゆえ、上記第1〜3の方法のように、最初に導入する混合流体の圧力が臨界点付近の低圧状態であっても、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)等の有機金属錯体が溶解した二酸化炭素を容器に流通する流路や容器内に滞留させることができる。また、図6に示した二酸化炭素の圧力依存性から明らかなように、圧力が8MPa〜10MPaの間で、急激に二酸化炭素の密度が上昇する。例えば、圧力を8MPaから20MPaに昇圧すると、約3倍近く二酸化炭素の密度が上昇することになる(図6参照)。
【0028】
上記図5及び図6の結果から、有機金属錯体を溶解する媒体として二酸化炭素を用いた場合、例えば、容器内に8MPaの混合流体(比較的密度が疎の状態の混合流体)を初期導入し、その後、加圧用流体または金型により混合流体を20MPaに昇圧すると、混合流体は約1/3に圧縮され混合流体の密度が急激に増大する。その結果、混合流体中の改質材料の溶解度も急激に増大する。さらに、配管距離、容器内のデッドスペース等を調整することにより圧縮された混合流体を所望の位置(例えば、熱可塑性樹脂の表面付近)に集中的に分布させることが可能となる。
【0029】
上述の理由から、本発明の表面改質方法では、容器に初期導入する混合媒体の圧力は臨界点付近(図5の例では8〜10MPa)より低圧であることが望ましい。初期導入時の混合流体の圧力が高すぎると、その後、混合流体を昇圧しても、昇圧後の混合流体の密度と初期導入時の混合流体の密度との差が小さくなるので、混合流体に対して十分な圧縮効果は得られない(改質材料の溶解濃度の上昇度が小さい)。また、初期導入時の混合流体の圧力が臨界点より低すぎると、改質材料の超臨界流体に対する溶解性が低くなるので、改質材料を流路(配管等)に配置するのが困難となり、加圧用流体で流路(配管等)の混合流体を容器内に押し込んで混合流体を加圧しても、あるいは、金型で混合流体を圧縮しても混合流体中の改質材料の溶解濃度はそれほど大きくならない恐れがある。それゆえ、熱可塑性樹脂が設置される容器内に初期導入する混合流体の圧力(第1の圧力)としてはとして、5〜10MPaが好ましい。また、十分な混合流体の圧縮効果を得るためには、第2の圧力は第1の圧力より大きく且つ10MPa〜25MPaであることが好ましい。
【0030】
本発明の表面改質方法では、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスが二酸化炭素であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定するものではない。超臨界流体または高圧不活性ガスとしては、改質材料をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、超臨界流体または高圧不活性ガスとして、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、改質材料を溶解する媒体としては、有機材料に対する溶解度がヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチックに対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、超臨界流体または高圧不活性ガスに対する有機材料の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
【0031】
なお、改質材料を溶解した混合流体の導入の前後に容器に導入する加圧用流体(改質材料を溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガス)としては、改質材料に対して溶解性能に乏しいものを用いることが好ましい。そのよう加圧用流体を用いることにより、混合流体を加圧用流体で加圧する工程(第3工程)で、混合流体から加圧用流体に改質材料が拡散することを抑制することができる。例えば、改質材料をCO2に溶解した場合、溶解性能に乏しいN2、He等の高圧不活性ガスを加圧用流体として用いることにより、CO2に溶解している改質材料が拡散すること抑制することができる。
【0032】
また、本発明の表面改質方法に用いることのできる熱可塑性樹脂は非晶質、結晶性を問わず、その種類は任意である。低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリビニールアルコール、ポリアクリルニトリル等のポリビニル、及び、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド等のポリエーテルが用い得る。また、その他の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ乳酸等の高分子材料を用いることもできる。さらに、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリテレフタルアミド等の芳香族アミド、ポリ4フッ化エチレン等のフッソ系高分子を用いることができる。また、これら樹脂材料に、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有したものを用いても良い。
【0033】
また、本明細書で「改質材料」と称している熱可塑性樹脂に浸透させる物質としては、種々の有機材料(有機物質)はもちろん、有機化合物で修飾された無機材料を用いることもでき、超臨界流体または高圧不活性ガスにある程度溶解するものであれば、任意のものを用いることができる。改質材料は目的・用途に応じて種々の材料を用いることができる。例えば、有機物質のベースとなる無機材料としては、例えば、金属アルコキシド等が挙げられる。本発明の表面改質方法で用い得る改質材料の具体例及びその効果を以下に説明する。
【0034】
改質材料としては、有機金属錯体を用いることができる。例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。改質材料として有機金属錯体を用いた場合には、熱可塑性樹脂に無電解メッキの触媒核を形成することができる。この場合には、改質材料が付加された領域に無電解メッキ法によりメッキ層(金属膜)を形成することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂の基材表面を親水化することを目的とする場合には、改質材料として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキルグリコール等の有機物質を用いることができる。特に、ポリエチレングリコールは、例えば、超臨界二酸化炭素に溶解するので比較的基材に浸透し易く、また親水基(OH)を有するために表面が親水化された基材を得ることができるため好ましい。また、生体適合性に優れたポリエチレングリコールを用いて親水化されたポリマー基材は、バイオチップやμ−TAS(micro total analysis system)等に用いられる基材として好適である。例えば、疎水性材料である基材表面を親水化することにより、核酸やタンパク質の固着を制御する効果や、基材表面における親水化−疎水化の微小領域における区分けにより核酸の疎水化率による分離を行うことが可能となる。
【0036】
改質材料として、例えば、アゾ系等の染料、蛍光染料やフタロシアニン等の有機色素材料を用いても良い。このような材料を用いた場合には、熱可塑性樹脂の基材表面を染色することができる。改質材料として、ベンゾフェノン、クマリン等の疎水性紫外線安定剤を用いても良い。このような材料を用いた場合には、基材の風化後の引っ張り強度を向上させることができる。改質材料として、フッソ化有機銅錯体等のフッソ化合物を用いても良い。このような材料を用いた場合には、基材の摩擦性を向上させたり、撥水機能を持たせることができる。また、改質材料として、シリコンオイルを用いても良い。この場合には、基材上に撥水機能が発現する。
【0037】
また、本発明の表面改質方法では、表面改質処理終了後、容器から熱可塑性樹脂を取り出す際の容器の減圧方法は任意であるが、超臨界流体または高圧不活性ガスと改質材料とが浸透した熱可塑性樹脂は、特に熱可塑性樹脂が非晶質材料の場合、ガラス転移温度が低下し、発泡により表面荒れが生じやすくなる。そのため、容器の温度を処理温度よりも温度を低下させた後、減圧してもよい。
【0038】
本発明の第2の態様に従えば、メッキ膜の形成方法であって、本発明の第1の態様に従う表面改質方法を用いて、上記有機金属錯体が浸透した熱可塑性樹脂を用意することと、無電解メッキ法により上記熱可塑性樹脂の有機金属錯体が浸透した領域にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0039】
本発明の表面改質方法によれば、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、改質材料が溶解した混合流体(超臨界流体または高圧不活性ガス)を導入し、その後、容器内の混合流体の改質材料の溶解濃度を容器と流通する流路における混合流体の溶解濃度より高くして、混合流体を熱可塑性樹脂に接触させる。その際、混合流体の改質材料の溶解濃度を低下させずに、あるいは、改質材料の溶解濃度を増大させて改質材料を接触させるので、溶解槽等で改質材料を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の改質材料を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の改質材料で、より効率的に且つ高濃度で改質材料を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0040】
また、本発明の表面改質方法によれば、例えば、改質材料に熱的に不安定な有機金属錯体を用いても低コストで表面改質をすることができるので、容器として金型を用いることもでき、表面改質プロセスと射出成形プロセスとを同時に行うようなプロセスにも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の表面改質方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、熱可塑性樹脂の表面に有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を接触させて熱可塑性樹脂の表面改質を行い、さらに、表面改質された熱可塑性樹脂の表面上にメッキ膜を形成した例について説明する。この例では、改質材料である有機金属錯体としては、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。また、熱可塑性樹脂としては、直径50mm、厚さ2mmのポリカーボネート製円盤を用いた。
【0043】
[改質装置]
まず、実施例1における表面改質方法を説明する前に、実施例1の表面改質方法に用いる改質装置について、図1を用いて説明する。図1は、この例で用いた改質装置100の概略構成図である。改質装置100は、図1に示すように、主に、液体CO2ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、改質材料(この例では有機金属錯体)を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、熱可塑性樹脂200を収容する高圧容器4と、高圧容器4等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図1に示すように、改質装置100内のガスの流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0044】
なお、この例で用いた高圧容器4は、カートリッジヒーター(不図示)で温調可能な高圧容器であり、冷却回路(不図示)を流動する冷却水によって冷却可能である。また、この例では、高圧容器4内の熱可塑性樹脂200が装着される空間14の容量は1mlとした。
【0045】
[表面改質方法及びメッキ膜の形成方法]
実施例1における熱可塑性樹脂の表面改質方法について図1及び2を用いて説明する。図2は、実施例1の表面改質方法の手順を示した図である。なお、図2では、説明を簡略化するために、図1中の破線Aで囲まれた部分のみを示した。なお、以下では、図1中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0046】
まず、表面改質を施す熱可塑性樹脂200を、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した(第1工程)。次に、改質材料である有機金属錯体を内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、有機金属錯体の仕込み量は100mgとした。
【0047】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が20MPaになるように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を20MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた(第2工程)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0048】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(20MPa)の有機金属錯体の溶解していない超臨界二酸化炭素(図2(a)中の第1超臨界流体301)を高圧容器4内に導入して、高圧容器4内部を20MPaに昇圧した(図2(a)の状態)。この際、導入された第1超臨界流体301は、高圧容器4を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では20MPaが表示された。この例では、図1に示すように、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が20MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、高圧容器4内の空間30の圧力を20MPaに保持した。このように、高圧容器4内の圧力を予め、後に高圧容器4内に導入する有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(図2(a)中の混合流体300)の圧力と同じにすることにより、混合流体300を高圧容器4に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0049】
次に、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(混合流体)300を溶解槽3から高圧容器4に導入した(図2(b)の状態)。具体的には、次のようにして導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の混合流体300を高圧容器4に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、第1超臨界流体301を回収槽5に1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で高圧容器4内部及び高圧容器4に流通する流路(配管等)を混合流体300で置換した(所定量の混合流体300を高圧容器4に導入した)。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0050】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から有機金属錯体が溶解していない超臨界二酸化炭素(図2(c)中の第2超臨界流体302)を高圧容器4に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている混合流体300を高圧容器4に輸送した(図2(c)の状態)。この結果、高圧容器4内の混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度が、流路内の有機金属錯体の溶解濃度より高くなる。また、この際、高圧容器4内の混合流体300は、第2超臨界流体302と初期導入された第1超臨界流体301とで挟み込まれた状態で高圧容器4内を輸送される(第3工程)。それゆえ、混合流体300は第1超臨界流体301と第2超臨界流体302とで挟み込まれた状態であるので、混合流体300の拡散が抑制され、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度を低下させることなく熱可塑性樹脂200の表面に接触させることができる。また、上述のような上記流体の導入操作により、高圧容器4内に装着された熱可塑性樹脂200の表面付近で、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度をより高濃度に分布させることができる。この状態で、6分間圧力を保持した。この工程により、有機金属錯体が超臨界二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂200の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂200の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0051】
上述のように、この例の表面改質方法では、効率的に且つ高濃度に有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体に溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなる。すなわち、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度に有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0052】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。ただし、冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡を招く恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に混合流体300を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。
【0053】
次に、上記方法により表面改質された熱可塑性樹脂(ポリカーボネート円盤)200を、高圧容器4から取り出した後、熱硬化性樹脂200を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例2】
【0054】
実施例2では、実施例1と同様に、有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を熱可塑性樹脂の表面に接触させて有機金属錯体を浸透させることにより表面改質を行い、さらに表面改質された熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。この例では、実施例1とは異なる方法で熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0055】
この例で用いた熱可塑性樹脂及び有機金属錯体の材料は実施例1と同じものを用いた。すなわち、改質材料としてはヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート製の直径50mm、厚さ2mmの円盤を用いた。
【0056】
この例で用いた改質装置は、実施例1で用いた装置(図1の改質装置100)とほぼ同じ構造の装置を用いた。ただし、この例で用いた改質装置では、高圧容器4の超臨界流体の排出側の流路とシリンジポンプ2とが繋がる配管を設け、その配管の途中にニードルバルブ8’を設けた(図3参照)。
【0057】
[表面改質方法及びメッキ膜形成方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の表面改質方法を図1及び3を参照しながら説明する。
【0058】
まず、表面改質を施す熱可塑性樹脂200は、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した(第1工程)。次に、改質材料である有機金属錯体を内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、有機金属錯体の仕込み量は30mgとした。
【0059】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が8MPaになるように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を8MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図3(a)の状態)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0060】
次に、ニードルバルブ7を開き、溶解槽3から有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素(図3(a)中の混合流体300)を高圧容器4内に導入した(図3(b)の状態)。次いで、ニードルバルブ10を開き混合流体300を回収槽5に流動させた。なお、この例では、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が8MPaになるように調節された保圧弁11を設けた。そして、圧力計16が8MPaを表示したら、ニードルバルブ7及び10を閉じて高圧容器4内の圧力を8MPaに保持した(高圧容器4の排出側の流路が閉鎖された状態にした)。この状態では、高圧容器4に流通する配管にも8MPaの混合流体300が滞留している。
【0061】
次いで、ニードルバルブ8及び8’を開き、シリンジポンプ2から逆止弁12を介して圧力20MPaの有機金属錯体が溶解していない超臨界二酸化炭素303を高圧容器4の導入側及び排出側の流路(配管等)に導入し、その配管等に滞留している混合流体300を高圧容器4に押し込んで、高圧容器4内に滞留している混合流体300を20MPaまで加圧した(図3(c)の状態)。すなわち、この例では、高圧容器4の混合流体300の導入側及び排出側の両方から、高圧容器4内に滞留している混合流体300を加圧した。
【0062】
この混合流体300の圧縮効果により、高圧容器4内における混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度が、配管などの流路における混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。すなわち、高圧容器4内に装着された熱可塑性樹脂200の表面付近では、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。次いで、このように有機金属錯体が高濃度に溶解した混合流体300を高圧容器4内に滞留させた状態で、6分間圧力を保持した。この際、有機金属錯体が超臨界二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂200の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂200の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0063】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、導入された混合流体は、その後、加圧用流体により加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、容器に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、容器内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体に溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0064】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。ただし、冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡を招く恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8及び8’を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に混合媒体を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。
【0065】
次に、上記方法で表面改質された熱可塑性樹脂(ポリカーボネート円盤)200を、高圧容器4から取り出した後、熱可塑性樹脂200を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0066】
ここで、実施例2の表面改質方法のように、高圧容器内に混合流体を滞留させた状態で加圧した場合のさらなる利点について説明する。
【0067】
本発明者らは、二酸化炭素に対し高溶解度を示す有機金属錯体・ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(Pd(hfa)2)の溶解度の圧力依存性を2種類の方法で評価比較した。具体的には抽出法及び可視化セルによる実時間観察(以下、可視化法ともいう)により評価した。抽出法では10mlの溶解槽内に有機金属錯体を仕込み、30分間圧力保持した後、一定流量・10ml/minで二酸化炭素を5分間溶解槽に流動させ、その流動量(50ml)とそれに含まれる有機金属錯体の抽出量から溶解度を評価した。また、可視化法では、20mlの可視化容器内に有機金属錯体を仕込み、二酸化炭素を可視化容器に滞留させた状態で30分間圧力保持した後、二酸化炭素に溶けた量から溶解度を評価した。その評価結果を図5示した。
【0068】
図5より明らかなように、溶解槽より一定流量で二酸化炭素を流動させる抽出法では、可視化による評価に比べて溶解度の低下が確認され、特に高圧領域での溶解度の低下が顕著であった。このことから、有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を流動させると、溶解度が低下するおそれがあることが分かった。すなわち、実施例1のように、混合流体(改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素)を熱可塑性樹脂に接触させる際に混合流体をフローする方法では、フローの条件等によっては、所望の改質材料の溶解度より低い溶解度の混合流体となってしまう恐れがある。しかしながら、実施例2のように、混合流体を容器内に滞留させた状態(フローさせない状態)で加圧すると、混合流体の溶解度が低下することはないので、所望の溶解度で熱可塑性樹脂を表面改質することができる。
【0069】
[比較例1]
比較例1では、図1に示す高圧装置を用いて熱可塑性樹脂の表面改質を行った。なお、比較例1では、有機金属錯体を溶解した超臨界流体を高圧容器4へ導入する際に、大気圧の状態の高圧容器4に直接導入した。それ以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂の表面改質を行った。そして、この例では、実施例1と同様にして、表面改質処理後の熱可塑性樹脂に対してNi無電解メッキ処理を行ったが、殆どメッキ膜が形成されなかった。
【0070】
[無電界メッキ特性]
また、上記実施例1及び2並びに比較例1の表面改質方法で、溶解槽に仕込む有機金属錯体の量を変えて表面改質を行い、メッキ膜を熱可塑性樹脂上に形成した。これにより、有機金属錯体の仕込み量と無電界メッキ特性の関係を調べた。
【0071】
無電界メッキ特性は、実施例1及び2並びに比較例1で形成したそれぞれのメッキ膜に対してテープ剥離試験を実施し評価した。具体的には、メッキ膜が形成された熱可塑性樹脂を1mm間隔に100等分の升目を切り、分割された各熱可塑性樹脂に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜が剥離した枚数により無電界メッキ特性を評価をした。なお、テープとしてはニチバン(株)製の粘着テープ(No.405)を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は下記の通りである。
◎:剥離枚数が9枚以下の場合
○:剥離枚数が10枚以上29枚以下の場合
△:剥離枚数が30枚以上59枚以下の場合
×:剥離枚数が60枚以上、もしくはメッキ膜形成されなかった場合
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、比較例1では、有機金属錯体の仕込み量を300mgとした場合にのみメッキ膜が形成されたのに対し、実施例1および2では仕込み量が30mgの場合であってもメッキ膜を形成することができた。さらに、実施例2では仕込み量が30mgの場合でも◎評価の結果が得られた。すなわち、実施例2の表面改質方法では、より少ない有機金属錯体の仕込み量でも、密着強度の良好なメッキ膜が形成されることが分かった。それゆえ、実施例2の表面改質方法を用いることにより、改質材料である有機金属錯体の使用量をより抑えることができ、一層効率良く有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができることが分かった。
【実施例3】
【0074】
実施例3では、射出成形機の金型内でポリマー基体(熱可塑性樹脂)を射出成形した後、その金型内で有機金属錯体(改質材料)を溶解した高圧二酸化炭素を成形品(熱可塑性樹脂)に接触させて、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行った。すなわち、この例では、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行う容器として、射出成形機の金型を用いた。
【0075】
[表面改質に用いた装置]
実施例3の表面改質処理で用いた装置について説明する。その装置の概略構成を図4に示した。この例で用いた装置は、図4に示すように、主に、高圧二酸化炭素を生成及び排出する高圧装置部400と、熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機401(図4中の破線で囲まれた領域)とから構成される。
【0076】
高圧装置部400は、図4に示すように、主に、液体CO2ボンベ1と、高圧ポンプ2と、バッファタンク4と、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、射出成形機401から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管とで構成されている。また、配管には、図4に示すように、高圧二酸化炭素の流動を制御するための自動バルブ21〜26、保圧弁29及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0077】
射出成形機401は、図4に示すように、主に、可動プラテン41と、可動プラテン41に取り付けられた可動金型40aと、固定プラテン42と、固定プラテン42に取り付けられた固定金型40bと、溶融樹脂を射出する加熱シリンダー43とから構成される。両金型間に画成されるキャビティ50の形状は円盤状でありφ50mm、厚み2mmとした。
【0078】
また、可動金型40aには、図4に示すように、可動金型40aと固定金型40bとの間に画成されたキャビティ50に高圧二酸化炭素を導入するための導入口51と、高圧二酸化炭素をキャビティ50から排出するための排出口52とが設けられている。導入口51は及び排出口52は、図4に示すように、それぞれ配管46及び47を介して高圧装置部400に繋がれている。そして、図4に示すように、導入口51は、配管46、溶解槽3等を介してバッファタンク4と流通しており、一方、排出口51は、配管47等を介してバッファタンク4及び回収槽5と流通している。なお、この例における射出成形機401のその他の構造は、従来の射出成形機と同様である。
【0079】
この例で用いた装置では、図4に示すように、バッファタンク4と金型40の高圧二酸化炭素の導入側の流路(配管46)とを逆止弁12及び自動バルブ22を介して繋ぐ配管30を設けるだけでなく、バッファタンク4と、金型40の高圧二酸化炭素の排出側の流路(配管47)とを逆止弁12及び自動バルブ23を介して繋ぐ配管30’も設けた。すなわち、この例の装置では、後述するように、金型40内で有機金属錯体の溶解した高圧二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素(以下、加圧用流体ともいう)で圧縮する際に、金型40の導入側及び排出側の両方の流路から加圧できるような構造にした。従って、この例における混合流体の圧縮方法は、実施例2と同様である。
【0080】
[熱可塑性樹脂の射出成形及び表面改質方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の成形から表面改質までの一連の動作について説明する。
【0081】
まず、加熱シリンダー43のスクリュー44により可塑化溶融された樹脂を固定金型42内のスプール45からキャビティ50内に射出充填して熱可塑性樹脂を成形した。なお、この際、金型40は図示しない温調回路を流れる冷却水により温度制御されており、この例では120℃に設定した。また、加熱シリンダー43は330℃にて温調し、熱可塑性樹脂の材料としては、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製 パンライトL−1225Y 、Tg:145℃)を用いた。
【0082】
次に、溶融樹脂の射出充填後、図示しない電動式型締め機構の位置制御により、キャビティ50を0.5mm開き、成形品(熱可塑性樹脂)と金型40との間に隙間を形成した。なお、この例の射出成形機401では、2mm以内の金型開き量においては25MPa以下の高圧ガスをシールできる金型構造となっている。
【0083】
上記方法にて画成されたキャビティ50内の隙間に、次のようにして有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を金型40の導入口51を介して導入した。まず、内容積50mlの溶解槽3に有機金属錯体を20g仕込んだ。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から高圧ポンプ2に液体二酸化炭素を導入して加圧した。この際、圧力計15が20MPaになるように昇圧した。次いで、カートリッジヒーター(不図示)で50℃に温調されたバッファタンク4に20MPaの高圧二酸化炭素を導入し、さらに、その高圧二酸化炭素を逆止弁12を介して溶解槽3内に導入し、溶解槽3内部を20MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた(混合流体を生成した)。
【0084】
次に、自動バルブ22及び26を同時に開き、有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を配管30及び46を介して金型40内のキャビティ50に導入し、0.2秒後に自動バルブ22及び26を閉じた。この際、キャビティ50内の圧力を7MPaに昇圧した。次に、自動バルブ21及び26を同時に開き、溶解槽3から配管30及び46を介して金型40内のキャビティ50に混合流体を導入して、先に導入した有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を混合流体で置換し、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。この際、キャビティ50の排出側に予め1次側の圧力を8MPaに調節した保圧弁29を設けて、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。そして、1秒後に自動バルブ21及び26を閉じた。次いで、自動バルブ22及び23を開放してバッファタンク4から有機金属錯体の溶解していない圧力20MPaの高圧二酸化炭素(加圧用流体)をキャビティ40の高圧二酸化炭素の導入側の流路(例えば、配管30,46等)及び排出側の流路(例えば、配管30’,47)に導入し、これらの流路に滞留した混合流体を金型40の導入口51及び排出口52の両側から押し込むことにより、金型40のキャビティ50内の圧力を一気に20MPaまで昇圧した。そして、その状態を6分間保持した。この混合流体の圧縮効果により、金型40内の混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が、配管などの流路における混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。この結果、金型40内の熱可塑性樹脂の表面付近に、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度で分布させることができる。そして、有機金属錯体が高圧二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0085】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が成形された金型内に導入された混合流体は、その後、加圧用流体により加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、金型に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、金型内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0086】
上述のようにして熱可塑性樹脂を表面改質した後、金型温調回路の設定を60℃にして金型を冷却した。なお、この際、冷却中キャビティ50内の圧力が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡が生じるおそれがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。次いで、自動バルブ22及び23を閉じた後、自動バルブ24および25を開き、キャビティ50内部を減圧し、その後、金型40を開き熱可塑性樹脂を取り出した。
【0087】
次に、この例においても、金型40から取り出した熱可塑性樹脂を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、実施例2と同様に、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例では、有機金属錯体を20g仕込んで、上記方法で、成形品(熱可塑性樹脂)を200個(200ショット)連続して成形し、各成形品に対してメッキ膜を形成した。その結果、全ての成形品において良好なめっき特性が得られた。
【0088】
また、上記結果から、実施例3のように表面改質プロセスと射出成形プロセスとを同時に行った場合でも、改質材料に熱的に不安定な有機金属錯体を用いても低コストで表面改質をすることができることが分かった。
【実施例4】
【0089】
実施例4では、射出成形機の金型内でポリマー基体(熱可塑性樹脂)を射出成形した後、その金型内で有機金属錯体(改質材料)を溶解した高圧二酸化炭素を成形品(熱可塑性樹脂)に接触させて、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行った。すなわち、この例では、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行う容器として、射出成形機の金型を用いた。ただし、この例では、金型内部に混合流体を滞留させた状態で、実施例3のように加圧用流体(改質材料が溶解していない高圧二酸化炭素)で金型内の混合流体を加圧する代わりに、金型内のキャビティの容量を小さくすることにより、金型内の混合流体を加圧した。
【0090】
[表面改質に用いた装置]
実施例4の表面改質処理で用いた装置について説明する。その装置の概略構成を図7に示した。この例で用いた装置は、実施例3と同様に、図7に示すように、主に、高圧二酸化炭素を生成及び排出する高圧装置部400と、熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機401(図7中の破線で囲まれた領域)とから構成される。高圧装置部400は、実施例3と同様の構成にした。この例では、図4に示すように、射出成形機401の金型の構造を実施例3とは異なる構造にした。それ以外は、実施例3で用いた装置と同様の構成とした。
【0091】
この例の可動金型70aには、図7に示すように、その中央部分にピストン73を設けた。ピストン73のキャビティ側の径はφ25mmとした。また、ピストン73は、キャビティ50側に向かう方向(可動金型70aのキャビティ側の表面に対して垂直方向)に移動可能に可動金型70a内に保持されている。このピストン73の位置制御は電動サーボモーター(不図示)により行われる。また、この例の金型70では、図7に示すように、固定金型70bの側面部に、高圧二酸化炭素をキャビティ導入するための導入口71と、高圧二酸化炭素をキャビティ50から排出するための排出口72とを設けた。導入口71及び排出口72は、図7に示すように、それぞれ配管46及び47を介して高圧装置部400に繋がれている。なお、この例では、両金型間に画成されるキャビティ50の形状は、実施例3と同様に円盤状でありφ50mm、厚み2mmとした。
【0092】
[熱可塑性樹脂の射出成形及び表面改質方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の成形から表面改質までの一連の動作について図8〜11を参照しながら説明する。図8〜11は、図7中の金型70の拡大図である。
【0093】
まず、加熱シリンダー43のスクリュー44により可塑化溶融された樹脂を固定金型72内のスプール45からキャビティ50内に射出充填して熱可塑性樹脂を成形した(図8の状態)。なお、この際、金型70は図示しない温調回路を流れる冷却水により温度制御されており、この例では120℃に設定した。また、加熱シリンダー43は330℃にて温調し、熱可塑性樹脂の材料としては、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製 パンライトL−1225Y 、Tg:145℃)を用いた。
【0094】
次に、溶融樹脂の射出充填後、図示しない電動式型締め機構の位置制御により、キャビティ50を0.5mm開き、成形品200(熱可塑性樹脂)と金型70との間に隙間80を形成した。なお、この例の射出成形機401では、2mm以内の金型開き量においては25MPa以下の高圧ガスをシールできる金型構造となっている。
【0095】
上記方法にて画成されたキャビティ50内の隙間80に、次のようにして有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を金型70の導入口71を介して導入した。まず、内容積50mlの溶解槽3に有機金属錯体を20g仕込んだ。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から高圧ポンプ2に液体二酸化炭素を導入して加圧した。この際、圧力計15が8MPaになるように昇圧した。次いで、カートリッジヒーター(不図示)で50℃に温調されたバッファタンク4に高圧二酸化炭素を導入し、さらに、その高圧二酸化炭素を逆止弁12を介して溶解槽3内に導入し、溶解槽3内部を8MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた(混合流体を生成した)。
【0096】
次に、自動バルブ22及び26を同時に開き、有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を配管30及び46を介して金型70内のキャビティ50の隙間80に導入し、0.2秒後に自動バルブ22及び26を閉じた。この際、キャビティ50内の圧力を7MPaに昇圧した。次に、自動バルブ21及び26を同時に開き、1秒間、溶解槽3から配管30及び46を介して金型70内のキャビティ50内の隙間80に混合流体を導入して、先に導入した有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を混合流体で置換した(図9の状態)。この際、キャビティ50の排出側に予め1次側の圧力を8MPaに調節した保圧弁29を設けて、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。
【0097】
次いで、可動金型70bを閉じると同時に、可動金型70b内のピストン73を2mm後退させた(金型を閉じる方向とは反対側の方向に移動させた)。これにより、固定金型70aと、可動金型70bと、ピストン73との間に画成された空間80’に有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を閉じ込め、熱可塑性樹脂200の表面上に滞留させた(図10の状態)。
【0098】
次に、ピストン73を固定金型70b側に向かって移動させ、熱可塑性樹脂200の表面とピストン73の上面との間隔が0.1mmになるまでピストン73を移動させて、空間80’に滞留している混合流体を圧縮した(図11の状態)。そして、その状態を6分間保持した。この混合流体の圧縮効果により、金型70内の混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が、金型内部と流通する配管などの流路における混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。この結果、金型70内の熱可塑性樹脂の表面付近に、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度で分布させることができる。そして、有機金属錯体が高圧二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0099】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が成形された金型内に導入された混合流体は、その後、可動金型内のピストンにより機械的に加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、金型に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、金型内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0100】
上述のようにして熱可塑性樹脂を表面改質した後、金型温調回路の設定を60℃にして金型を冷却した。なお、冷却中キャビティ50内の圧力が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡が生じるおそれがあるので、冷却中は外圧保持するために自動バルブ22及び23を開いた。次いで、自動バルブ22及び23を閉じた後、自動バルブ24および25を開き、キャビティ50内部を減圧し、その後、金型70を開き熱可塑性樹脂を取り出した。
【0101】
次に、この例においても、金型70から取り出した熱可塑性樹脂を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、実施例2と同様に、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例では、有機金属錯体を20g仕込んで、上記方法で、成形品(熱可塑性樹脂)を200個(200ショット)連続して成形し、各成形品に対してメッキ膜を形成した。その結果、すべての成形品において良好なめっき特性が得られた。
【0102】
上記実施例1及び2では、改質材料を溶解する媒体として超臨界流体を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解する高圧不活性ガスを用いても良い。また、上記実施例3及び4では、改質材料を溶解する媒体として高圧の不活性ガスを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解す超臨界流体を用いても良い。
【0103】
上記実施例1及び2では、改質材料が溶解した超臨界流体を改質材料が溶解していない超臨界流体で加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解していない高圧不活性ガスを用いて、改質材料が溶解した超臨界流体を加圧しても良い。また、上記実施例3では、改質材料が溶解した高圧の不活性ガスを改質材料が溶解していない高圧の不活性ガスで加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解していない超臨界流体を用いて、改質材料が溶解した高圧不活性ガスを加圧しても良い。
【0104】
また、実施例2及び3では、容器(金型)内に滞留した混合流体を、容器のガスの導入側及び排出側の両方の流路から加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。容器(金型)内に滞留した混合流体を、容器のガスの導入側の流路のみから加圧しても良いし、容器のガスの排出側の流路のみから加圧しても良く、いずれの場合にも、上記実施例2及び3と同様の効果が得られる。これらは加圧方法は、容器、高圧装置、射出成形機等の構造により適宜変更し得る。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の表面改質方法では、上述のように、少ない改質材料の仕込み量であっても、より効率的に且つ高濃度で改質材料を熱可塑性樹脂の基材に浸透させることができるので、低コストであり且つ実用性に優れた表面改質方法である。それゆえ、本発明の表面改質方法は、超臨界流体で用いた表面改質方法を利用するあらゆる分野において非常に有効な表面改質方法である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、実施例1の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、実施例1の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、実施例2の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図4】図4は、実施例3の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図5】図5は、二酸化炭素の圧力と有機金属錯体の溶解度との関係を示した図である。
【図6】図6は、二酸化炭素の圧力と密度との関係を示した図である。
【図7】図7は、実施例4の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図8】図8は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図9】図9は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図10】図10は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図11】図11は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
1 液体二酸化炭素ボンベ
2 シリンジポンプ
3 溶解槽
4 高圧容器
5 回収槽
40,70 金型
50 キャビティ
73 ピストン
200 熱可塑性樹脂
300 混合流体
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の表面改質方法に関し、より詳細には、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超臨界流体を溶媒として利用する研究が盛んに行われている。超臨界流体は、表面張力ゼロであり気体並みの拡散性を有するだけでなく、液体に近い密度を有するため、溶媒としての機能も併せ持つ。このような超臨界流体の物性を利用した技術の一つとして、超臨界染色に代表される熱可塑性樹脂等のポリマーの表面改質プロセスがある。
【0003】
従来、超臨界流体として超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用い、熱可塑性樹脂の成形品表面に機能性有機材料を浸透させる表面改質プロセスが提案されており、例えば、新規なプラスチックの無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマーに接触させることで、ポリマー表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマーに対して加熱や化学還元処理する等によって有機金属錯体を還元することにより金属微粒子を析出させる。これにより、ポリマー表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で、表面粗さが良好な樹脂の無電解メッキプロセスを実現することができると言われている。
【0004】
また、本発明者らは、有機金属錯体等の有機物質を溶解させた超臨界二酸化炭素を用い、射出成形と同時にポリマー表面に有機金属錯体を含浸させ、次いで、有機金属錯体を還元して金属微粒子を触媒核として析出させ、無電解メッキ法により金属膜や金属配線を形成する方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来、超臨界流体以外にも、高圧二酸化炭素を用いた表面改質プロセスも提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、まず、成形品と金型との間に不活性ガスを注入し、次いで、染料又は改質材料の溶解した二酸化炭素ガスを注入することにより、染料又は改質材料の圧力損失に伴う溶解度の低下を抑制しながら成形品の表面を改質する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218062号公報
【特許文献2】特開2005−138574号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、超臨界流体または高圧不活性ガスの性質を生かして、種々の熱可塑性樹脂の表面改質方法が提案されており、その有用性からこの技術への関心が高まっている。そして、さらに、改質材料を熱可塑性樹脂に効率良く且つ高濃度で浸透させるための表面改質方法が要望されている。
【0008】
本発明は、上記要望に応えるためになされたものであり、本発明の目的は、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法において、改質材料を熱可塑性樹脂により効率良く且つ高濃度で浸透させるための表面改質方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法であって、上記超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に上記熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、改質材料を上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、上記改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを上記容器に導入し、その後、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法が提供される。
【0010】
上述した有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスについて、本発明者らがさらに鋭意検討した結果、次のような課題が生じることが判明した。有機金属錯体を溶解した混合流体を各種熱可塑性樹脂に接触させて、有機金属錯体を高濃度に熱可塑性樹脂に浸透させるためには、有機金属錯体が高濃度に溶解した混合流体を熱可塑性樹脂に接触させなければならない。そのため、溶解槽で有機金属錯体を超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素に溶解させる工程において、過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要があった。また、この際に用いられる有機金属錯体には超臨界二酸化炭素または高圧二酸化炭素に対して高い溶解性が必要となるが、溶解度の高い有機金属錯体ほど熱的に不安定な(変質しやすい)性質があるので、一度表面改質プロセスに利用した有機金属錯体を回収して繰り返し利用することは困難である。上述の理由から、従来の有機金属錯体を溶解した混合流体を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスでは、材料コストが高くなる恐れがある。また、上記課題は、混合流体を用いた熱可塑性樹脂の表面改質プロセスを射出成形等のプロセスと組み合わせた製造プロセスを工業化する際の障壁となる恐れがある。
【0011】
本発明の表面改質方法では、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、改質材料が溶解した混合流体に導入し、その後、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を、容器と流通する流路における混合流体中の溶解濃度より高くする。それにより、効率良く改質材料を熱可塑性樹脂に効率良く浸透させることができる。それゆえ、本発明の表面改質方法では、溶解槽等を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる第2工程において、従来のように過飽和に近い多量の改質材料(例えば、有機金属錯体等)を溶解槽に仕込む必要がなくなり、改質材料をより効率良く利用することができ、材料コストを低減することが可能になる。
【0012】
本発明の表面改質方法では、上記容器が超臨界流体または高圧不活性ガスの導入口及び排出口を有しており、第3工程で、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記導入口を介して上記容器と流通する導入側流路及び上記排出口を介して上記容器と流通する排出側流路の少なくとも一方の流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くすることが好ましい。
【0013】
なお、本発明の表面改質方法の第3工程における「上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする」とは、容器内における混合流体中の改質材料の平均溶解濃度を、流路における混合流体中の改質材料の平均溶解濃度より高くすることをいう。後述するが、例えば、第3工程で配管等の流路に滞留している混合流体を高圧不活性ガス等で容器内に押し込んだ場合、容器内の混合流体は加圧されて改質材料の溶解濃度が増大するので、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度より大きくなる。その際、熱可塑性樹脂の表面近傍では、十分改質材料の溶解濃度を大きくすることができるが、容器内にはデッドスペースやその形状により混合流体が拡散し難い領域が存在するため、容器内の混合流体を加圧しても、容器内における改質材料の溶解濃度の分布は空間的に必ずしも一定ではなく、濃度勾配をもっている。それゆえ、そのような容器内の一部の領域における混合流体中の改質材料の溶解濃度は、容器に流通する流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度と同程度あるいはそれ以下となる場合もある。しかしながら、平均溶解濃度で比較すると、容器内の改質材料の平均溶解濃度が流路の平均溶解濃度より高くなる。
【0014】
熱可塑性樹脂が設置された容器内に、混合流体に導入し、その後、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を、容器と流通する流路における混合流体中の改質材料の溶解濃度より高くする(第3工程)方法としては、以下の方法が望ましい。
【0015】
まず、第1の方法としては、第3工程が、上記改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器から排出させながら、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、上記排出側流路を開放した状態で、上記改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入することとを含むことが好ましい。
【0016】
また、第1の方法では、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入する際の圧力が、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入する際の圧力と同じであることが好ましい。
【0017】
さらに、第1の方法では、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとが同じ圧力を有し、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとの間に挟まれた状態で上記容器内を移動させることが好ましい。
【0018】
本発明の第3工程を実現するための第1の方法では、熱可塑性樹脂が設置されている容器内に予め導入された改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを排出しながら、容器内に所定の溶解濃度で改質材料を溶解した混合流体を導入する。そして、容器の排出側流路を開放した状態で(混合流体を容器内で流動させた状態で)、さらに容器の導入側流路に改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを導入する。この際、容器内の混合流体は第1及び第2超臨界流体または第1及び第2高圧不活性ガスに挟み込まれた状態となるので、混合流体の拡散が抑制される。それゆえ、第1の方法では、混合流体の改質材料の溶解濃度を低下させることなく混合流体を熱可塑性樹脂に接触させることができ、より効率良く高濃度で熱可塑性樹脂に改質材料を浸透させることができる。
【0019】
なお、上記第1の方法のように、混合流体(改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガス)を容器内に導入する前に、該混合流体と同じ圧力の改質材料の溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスで熱可塑性樹脂の表面を高圧雰囲気にした場合、後に容器に導入する混合流体と予め導入された第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスとの圧力差がなくなるので、混合流体を容器内に導入する際に、圧力損失を抑制しながら、混合流体を熱可塑性樹脂の表面に導くことが可能となる。
【0020】
本発明の第3工程を実現するための第2の方法としては、第3工程が、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入して第1の圧力で滞留させることと、上記排出側流路を閉鎖した状態で、第1の圧力より高い圧力を有し且つ上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の少なくとも一方の流路に導入し、上記容器内の上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことが好ましい。
【0021】
第2の方法では、まず、第1の圧力を有する改質材料の溶解した混合流体を熱可塑性樹脂が設置された容器内に滞留させた状態で、第1の圧力よりも高圧となる第2の圧力を有する改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガス(以下、加圧用流体ともいう)を容器に流通する流路(導入側流路及び/又は排出側流路)に導入することにより、流路内に滞留していた混合流体を一気に容器内に押し込み、容器内の混合流体の圧力を急激に上昇させる。その結果、容器内における混合流体中の改質材料の溶解濃度も急激に増大する。これに伴い、改質材料が、熱可塑性樹脂の表面からその内部に高濃度で浸透する。すなわち、第2の方法では、容器に初期導入された混合流体中の改質材料の濃度が低くても、後に混合流体を加圧して混合流体中の改質材料の濃度を高めることができので、より効率良く高濃度で熱可塑性樹脂に改質材料を浸透させることができる。
【0022】
なお、上記第2の方法では、容器と流通する導入側流路または排出側流路の一方の流路に加圧用流体を導入して、容器に流通する一方の流路から容器内の混合流体を加圧しても良いし、容器と流通する導入側流路及び排出側流路の両方に加圧用流体を導入して、容器に流通する両方の流路から挟み込むようにして容器内の混合流体を加圧しても良い。
【0023】
上記第2の方法では、上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。熱可塑性樹脂を改質する高圧容器もしくは金型の形態は任意であり、バッチ処理における高圧容器、射出成形における金型等を採用することができる。また、射出成形における加熱溶融シリンダー、押し出し成形における加熱シリンダーやダイ等、溶融状態の樹脂が内包された箇所を容器として用いても良い。
【0024】
また、本発明の第3工程を実現するための第3の方法としては、上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されており、第3工程が、上記金型と上記熱可塑性樹脂との間に隙間を形成することと、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第1の圧力で上記隙間に導入することと、上記隙間を上記金型で圧縮することにより、上記隙間内の上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第2の圧力に加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことが好ましい。
【0025】
本発明のる第3工程を実現するための方法としては、第1及び第2の方法のように加圧用流体で容器内の混合流体を加圧しても良いが、容器に金型を用いた場合には、上記第3の方法のように、金型と熱可塑性樹脂の間に隙間を設け、その隙間に混合流体で導入した後、金型と熱可塑性樹脂間の隙間の容量を小さくして隙間を圧縮する(例えば、可動金型を移動させて隙間を狭くする)ことにより、混合流体を圧縮することもできる。この第3の方法を用いても、第2の方法と同様に、金型内における混合流体中の改質材料の溶解濃度を増大させて、改質材料を熱可塑性樹脂の表面からその内部により効率的に高濃度で浸透させることができる。
【0026】
本発明の表面改質方法では、第1の圧力が5MPa〜10MPaであることが好ましく、第2の圧力が10MPa〜25MPaであることが好ましい。この理由を以下に説明する。
【0027】
図5に二酸化炭素の圧力に対する有機金属錯体・ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(改質材料)の溶解度の変化を示す。図5から明らかなように、二酸化炭素の圧力を増大させるとヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)の溶解度も増大し、ある臨界点(7.3MPa付近)を境に急激にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)の溶解度が増大する。また、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)は超臨界状態以下の二酸化炭素に対してもある程度の溶解度を有する。それゆえ、上記第1〜3の方法のように、最初に導入する混合流体の圧力が臨界点付近の低圧状態であっても、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)等の有機金属錯体が溶解した二酸化炭素を容器に流通する流路や容器内に滞留させることができる。また、図6に示した二酸化炭素の圧力依存性から明らかなように、圧力が8MPa〜10MPaの間で、急激に二酸化炭素の密度が上昇する。例えば、圧力を8MPaから20MPaに昇圧すると、約3倍近く二酸化炭素の密度が上昇することになる(図6参照)。
【0028】
上記図5及び図6の結果から、有機金属錯体を溶解する媒体として二酸化炭素を用いた場合、例えば、容器内に8MPaの混合流体(比較的密度が疎の状態の混合流体)を初期導入し、その後、加圧用流体または金型により混合流体を20MPaに昇圧すると、混合流体は約1/3に圧縮され混合流体の密度が急激に増大する。その結果、混合流体中の改質材料の溶解度も急激に増大する。さらに、配管距離、容器内のデッドスペース等を調整することにより圧縮された混合流体を所望の位置(例えば、熱可塑性樹脂の表面付近)に集中的に分布させることが可能となる。
【0029】
上述の理由から、本発明の表面改質方法では、容器に初期導入する混合媒体の圧力は臨界点付近(図5の例では8〜10MPa)より低圧であることが望ましい。初期導入時の混合流体の圧力が高すぎると、その後、混合流体を昇圧しても、昇圧後の混合流体の密度と初期導入時の混合流体の密度との差が小さくなるので、混合流体に対して十分な圧縮効果は得られない(改質材料の溶解濃度の上昇度が小さい)。また、初期導入時の混合流体の圧力が臨界点より低すぎると、改質材料の超臨界流体に対する溶解性が低くなるので、改質材料を流路(配管等)に配置するのが困難となり、加圧用流体で流路(配管等)の混合流体を容器内に押し込んで混合流体を加圧しても、あるいは、金型で混合流体を圧縮しても混合流体中の改質材料の溶解濃度はそれほど大きくならない恐れがある。それゆえ、熱可塑性樹脂が設置される容器内に初期導入する混合流体の圧力(第1の圧力)としてはとして、5〜10MPaが好ましい。また、十分な混合流体の圧縮効果を得るためには、第2の圧力は第1の圧力より大きく且つ10MPa〜25MPaであることが好ましい。
【0030】
本発明の表面改質方法では、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスが二酸化炭素であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定するものではない。超臨界流体または高圧不活性ガスとしては、改質材料をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、超臨界流体または高圧不活性ガスとして、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、改質材料を溶解する媒体としては、有機材料に対する溶解度がヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチックに対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、超臨界流体または高圧不活性ガスに対する有機材料の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
【0031】
なお、改質材料を溶解した混合流体の導入の前後に容器に導入する加圧用流体(改質材料を溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガス)としては、改質材料に対して溶解性能に乏しいものを用いることが好ましい。そのよう加圧用流体を用いることにより、混合流体を加圧用流体で加圧する工程(第3工程)で、混合流体から加圧用流体に改質材料が拡散することを抑制することができる。例えば、改質材料をCO2に溶解した場合、溶解性能に乏しいN2、He等の高圧不活性ガスを加圧用流体として用いることにより、CO2に溶解している改質材料が拡散すること抑制することができる。
【0032】
また、本発明の表面改質方法に用いることのできる熱可塑性樹脂は非晶質、結晶性を問わず、その種類は任意である。低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリビニールアルコール、ポリアクリルニトリル等のポリビニル、及び、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド等のポリエーテルが用い得る。また、その他の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ乳酸等の高分子材料を用いることもできる。さらに、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリテレフタルアミド等の芳香族アミド、ポリ4フッ化エチレン等のフッソ系高分子を用いることができる。また、これら樹脂材料に、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有したものを用いても良い。
【0033】
また、本明細書で「改質材料」と称している熱可塑性樹脂に浸透させる物質としては、種々の有機材料(有機物質)はもちろん、有機化合物で修飾された無機材料を用いることもでき、超臨界流体または高圧不活性ガスにある程度溶解するものであれば、任意のものを用いることができる。改質材料は目的・用途に応じて種々の材料を用いることができる。例えば、有機物質のベースとなる無機材料としては、例えば、金属アルコキシド等が挙げられる。本発明の表面改質方法で用い得る改質材料の具体例及びその効果を以下に説明する。
【0034】
改質材料としては、有機金属錯体を用いることができる。例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。改質材料として有機金属錯体を用いた場合には、熱可塑性樹脂に無電解メッキの触媒核を形成することができる。この場合には、改質材料が付加された領域に無電解メッキ法によりメッキ層(金属膜)を形成することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂の基材表面を親水化することを目的とする場合には、改質材料として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキルグリコール等の有機物質を用いることができる。特に、ポリエチレングリコールは、例えば、超臨界二酸化炭素に溶解するので比較的基材に浸透し易く、また親水基(OH)を有するために表面が親水化された基材を得ることができるため好ましい。また、生体適合性に優れたポリエチレングリコールを用いて親水化されたポリマー基材は、バイオチップやμ−TAS(micro total analysis system)等に用いられる基材として好適である。例えば、疎水性材料である基材表面を親水化することにより、核酸やタンパク質の固着を制御する効果や、基材表面における親水化−疎水化の微小領域における区分けにより核酸の疎水化率による分離を行うことが可能となる。
【0036】
改質材料として、例えば、アゾ系等の染料、蛍光染料やフタロシアニン等の有機色素材料を用いても良い。このような材料を用いた場合には、熱可塑性樹脂の基材表面を染色することができる。改質材料として、ベンゾフェノン、クマリン等の疎水性紫外線安定剤を用いても良い。このような材料を用いた場合には、基材の風化後の引っ張り強度を向上させることができる。改質材料として、フッソ化有機銅錯体等のフッソ化合物を用いても良い。このような材料を用いた場合には、基材の摩擦性を向上させたり、撥水機能を持たせることができる。また、改質材料として、シリコンオイルを用いても良い。この場合には、基材上に撥水機能が発現する。
【0037】
また、本発明の表面改質方法では、表面改質処理終了後、容器から熱可塑性樹脂を取り出す際の容器の減圧方法は任意であるが、超臨界流体または高圧不活性ガスと改質材料とが浸透した熱可塑性樹脂は、特に熱可塑性樹脂が非晶質材料の場合、ガラス転移温度が低下し、発泡により表面荒れが生じやすくなる。そのため、容器の温度を処理温度よりも温度を低下させた後、減圧してもよい。
【0038】
本発明の第2の態様に従えば、メッキ膜の形成方法であって、本発明の第1の態様に従う表面改質方法を用いて、上記有機金属錯体が浸透した熱可塑性樹脂を用意することと、無電解メッキ法により上記熱可塑性樹脂の有機金属錯体が浸透した領域にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0039】
本発明の表面改質方法によれば、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、改質材料が溶解した混合流体(超臨界流体または高圧不活性ガス)を導入し、その後、容器内の混合流体の改質材料の溶解濃度を容器と流通する流路における混合流体の溶解濃度より高くして、混合流体を熱可塑性樹脂に接触させる。その際、混合流体の改質材料の溶解濃度を低下させずに、あるいは、改質材料の溶解濃度を増大させて改質材料を接触させるので、溶解槽等で改質材料を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の改質材料を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の改質材料で、より効率的に且つ高濃度で改質材料を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0040】
また、本発明の表面改質方法によれば、例えば、改質材料に熱的に不安定な有機金属錯体を用いても低コストで表面改質をすることができるので、容器として金型を用いることもでき、表面改質プロセスと射出成形プロセスとを同時に行うようなプロセスにも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の表面改質方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、熱可塑性樹脂の表面に有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を接触させて熱可塑性樹脂の表面改質を行い、さらに、表面改質された熱可塑性樹脂の表面上にメッキ膜を形成した例について説明する。この例では、改質材料である有機金属錯体としては、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。また、熱可塑性樹脂としては、直径50mm、厚さ2mmのポリカーボネート製円盤を用いた。
【0043】
[改質装置]
まず、実施例1における表面改質方法を説明する前に、実施例1の表面改質方法に用いる改質装置について、図1を用いて説明する。図1は、この例で用いた改質装置100の概略構成図である。改質装置100は、図1に示すように、主に、液体CO2ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、改質材料(この例では有機金属錯体)を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、熱可塑性樹脂200を収容する高圧容器4と、高圧容器4等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図1に示すように、改質装置100内のガスの流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0044】
なお、この例で用いた高圧容器4は、カートリッジヒーター(不図示)で温調可能な高圧容器であり、冷却回路(不図示)を流動する冷却水によって冷却可能である。また、この例では、高圧容器4内の熱可塑性樹脂200が装着される空間14の容量は1mlとした。
【0045】
[表面改質方法及びメッキ膜の形成方法]
実施例1における熱可塑性樹脂の表面改質方法について図1及び2を用いて説明する。図2は、実施例1の表面改質方法の手順を示した図である。なお、図2では、説明を簡略化するために、図1中の破線Aで囲まれた部分のみを示した。なお、以下では、図1中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0046】
まず、表面改質を施す熱可塑性樹脂200を、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した(第1工程)。次に、改質材料である有機金属錯体を内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、有機金属錯体の仕込み量は100mgとした。
【0047】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が20MPaになるように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を20MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた(第2工程)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0048】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(20MPa)の有機金属錯体の溶解していない超臨界二酸化炭素(図2(a)中の第1超臨界流体301)を高圧容器4内に導入して、高圧容器4内部を20MPaに昇圧した(図2(a)の状態)。この際、導入された第1超臨界流体301は、高圧容器4を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では20MPaが表示された。この例では、図1に示すように、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が20MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、高圧容器4内の空間30の圧力を20MPaに保持した。このように、高圧容器4内の圧力を予め、後に高圧容器4内に導入する有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(図2(a)中の混合流体300)の圧力と同じにすることにより、混合流体300を高圧容器4に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0049】
次に、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素(混合流体)300を溶解槽3から高圧容器4に導入した(図2(b)の状態)。具体的には、次のようにして導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の混合流体300を高圧容器4に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、第1超臨界流体301を回収槽5に1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で高圧容器4内部及び高圧容器4に流通する流路(配管等)を混合流体300で置換した(所定量の混合流体300を高圧容器4に導入した)。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0050】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から有機金属錯体が溶解していない超臨界二酸化炭素(図2(c)中の第2超臨界流体302)を高圧容器4に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている混合流体300を高圧容器4に輸送した(図2(c)の状態)。この結果、高圧容器4内の混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度が、流路内の有機金属錯体の溶解濃度より高くなる。また、この際、高圧容器4内の混合流体300は、第2超臨界流体302と初期導入された第1超臨界流体301とで挟み込まれた状態で高圧容器4内を輸送される(第3工程)。それゆえ、混合流体300は第1超臨界流体301と第2超臨界流体302とで挟み込まれた状態であるので、混合流体300の拡散が抑制され、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度を低下させることなく熱可塑性樹脂200の表面に接触させることができる。また、上述のような上記流体の導入操作により、高圧容器4内に装着された熱可塑性樹脂200の表面付近で、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度をより高濃度に分布させることができる。この状態で、6分間圧力を保持した。この工程により、有機金属錯体が超臨界二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂200の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂200の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0051】
上述のように、この例の表面改質方法では、効率的に且つ高濃度に有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体に溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなる。すなわち、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度に有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0052】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。ただし、冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡を招く恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に混合流体300を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。
【0053】
次に、上記方法により表面改質された熱可塑性樹脂(ポリカーボネート円盤)200を、高圧容器4から取り出した後、熱硬化性樹脂200を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例2】
【0054】
実施例2では、実施例1と同様に、有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を熱可塑性樹脂の表面に接触させて有機金属錯体を浸透させることにより表面改質を行い、さらに表面改質された熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。この例では、実施例1とは異なる方法で熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0055】
この例で用いた熱可塑性樹脂及び有機金属錯体の材料は実施例1と同じものを用いた。すなわち、改質材料としてはヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート製の直径50mm、厚さ2mmの円盤を用いた。
【0056】
この例で用いた改質装置は、実施例1で用いた装置(図1の改質装置100)とほぼ同じ構造の装置を用いた。ただし、この例で用いた改質装置では、高圧容器4の超臨界流体の排出側の流路とシリンジポンプ2とが繋がる配管を設け、その配管の途中にニードルバルブ8’を設けた(図3参照)。
【0057】
[表面改質方法及びメッキ膜形成方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の表面改質方法を図1及び3を参照しながら説明する。
【0058】
まず、表面改質を施す熱可塑性樹脂200は、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した(第1工程)。次に、改質材料である有機金属錯体を内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、有機金属錯体の仕込み量は30mgとした。
【0059】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が8MPaになるように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を8MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図3(a)の状態)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0060】
次に、ニードルバルブ7を開き、溶解槽3から有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素(図3(a)中の混合流体300)を高圧容器4内に導入した(図3(b)の状態)。次いで、ニードルバルブ10を開き混合流体300を回収槽5に流動させた。なお、この例では、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が8MPaになるように調節された保圧弁11を設けた。そして、圧力計16が8MPaを表示したら、ニードルバルブ7及び10を閉じて高圧容器4内の圧力を8MPaに保持した(高圧容器4の排出側の流路が閉鎖された状態にした)。この状態では、高圧容器4に流通する配管にも8MPaの混合流体300が滞留している。
【0061】
次いで、ニードルバルブ8及び8’を開き、シリンジポンプ2から逆止弁12を介して圧力20MPaの有機金属錯体が溶解していない超臨界二酸化炭素303を高圧容器4の導入側及び排出側の流路(配管等)に導入し、その配管等に滞留している混合流体300を高圧容器4に押し込んで、高圧容器4内に滞留している混合流体300を20MPaまで加圧した(図3(c)の状態)。すなわち、この例では、高圧容器4の混合流体300の導入側及び排出側の両方から、高圧容器4内に滞留している混合流体300を加圧した。
【0062】
この混合流体300の圧縮効果により、高圧容器4内における混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度が、配管などの流路における混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。すなわち、高圧容器4内に装着された熱可塑性樹脂200の表面付近では、混合流体300中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。次いで、このように有機金属錯体が高濃度に溶解した混合流体300を高圧容器4内に滞留させた状態で、6分間圧力を保持した。この際、有機金属錯体が超臨界二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂200の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂200の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0063】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が設置された容器内に、導入された混合流体は、その後、加圧用流体により加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、容器に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、容器内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体に溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0064】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。ただし、冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡を招く恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8及び8’を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に混合媒体を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。
【0065】
次に、上記方法で表面改質された熱可塑性樹脂(ポリカーボネート円盤)200を、高圧容器4から取り出した後、熱可塑性樹脂200を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0066】
ここで、実施例2の表面改質方法のように、高圧容器内に混合流体を滞留させた状態で加圧した場合のさらなる利点について説明する。
【0067】
本発明者らは、二酸化炭素に対し高溶解度を示す有機金属錯体・ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(Pd(hfa)2)の溶解度の圧力依存性を2種類の方法で評価比較した。具体的には抽出法及び可視化セルによる実時間観察(以下、可視化法ともいう)により評価した。抽出法では10mlの溶解槽内に有機金属錯体を仕込み、30分間圧力保持した後、一定流量・10ml/minで二酸化炭素を5分間溶解槽に流動させ、その流動量(50ml)とそれに含まれる有機金属錯体の抽出量から溶解度を評価した。また、可視化法では、20mlの可視化容器内に有機金属錯体を仕込み、二酸化炭素を可視化容器に滞留させた状態で30分間圧力保持した後、二酸化炭素に溶けた量から溶解度を評価した。その評価結果を図5示した。
【0068】
図5より明らかなように、溶解槽より一定流量で二酸化炭素を流動させる抽出法では、可視化による評価に比べて溶解度の低下が確認され、特に高圧領域での溶解度の低下が顕著であった。このことから、有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を流動させると、溶解度が低下するおそれがあることが分かった。すなわち、実施例1のように、混合流体(改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素)を熱可塑性樹脂に接触させる際に混合流体をフローする方法では、フローの条件等によっては、所望の改質材料の溶解度より低い溶解度の混合流体となってしまう恐れがある。しかしながら、実施例2のように、混合流体を容器内に滞留させた状態(フローさせない状態)で加圧すると、混合流体の溶解度が低下することはないので、所望の溶解度で熱可塑性樹脂を表面改質することができる。
【0069】
[比較例1]
比較例1では、図1に示す高圧装置を用いて熱可塑性樹脂の表面改質を行った。なお、比較例1では、有機金属錯体を溶解した超臨界流体を高圧容器4へ導入する際に、大気圧の状態の高圧容器4に直接導入した。それ以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂の表面改質を行った。そして、この例では、実施例1と同様にして、表面改質処理後の熱可塑性樹脂に対してNi無電解メッキ処理を行ったが、殆どメッキ膜が形成されなかった。
【0070】
[無電界メッキ特性]
また、上記実施例1及び2並びに比較例1の表面改質方法で、溶解槽に仕込む有機金属錯体の量を変えて表面改質を行い、メッキ膜を熱可塑性樹脂上に形成した。これにより、有機金属錯体の仕込み量と無電界メッキ特性の関係を調べた。
【0071】
無電界メッキ特性は、実施例1及び2並びに比較例1で形成したそれぞれのメッキ膜に対してテープ剥離試験を実施し評価した。具体的には、メッキ膜が形成された熱可塑性樹脂を1mm間隔に100等分の升目を切り、分割された各熱可塑性樹脂に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜が剥離した枚数により無電界メッキ特性を評価をした。なお、テープとしてはニチバン(株)製の粘着テープ(No.405)を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は下記の通りである。
◎:剥離枚数が9枚以下の場合
○:剥離枚数が10枚以上29枚以下の場合
△:剥離枚数が30枚以上59枚以下の場合
×:剥離枚数が60枚以上、もしくはメッキ膜形成されなかった場合
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、比較例1では、有機金属錯体の仕込み量を300mgとした場合にのみメッキ膜が形成されたのに対し、実施例1および2では仕込み量が30mgの場合であってもメッキ膜を形成することができた。さらに、実施例2では仕込み量が30mgの場合でも◎評価の結果が得られた。すなわち、実施例2の表面改質方法では、より少ない有機金属錯体の仕込み量でも、密着強度の良好なメッキ膜が形成されることが分かった。それゆえ、実施例2の表面改質方法を用いることにより、改質材料である有機金属錯体の使用量をより抑えることができ、一層効率良く有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができることが分かった。
【実施例3】
【0074】
実施例3では、射出成形機の金型内でポリマー基体(熱可塑性樹脂)を射出成形した後、その金型内で有機金属錯体(改質材料)を溶解した高圧二酸化炭素を成形品(熱可塑性樹脂)に接触させて、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行った。すなわち、この例では、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行う容器として、射出成形機の金型を用いた。
【0075】
[表面改質に用いた装置]
実施例3の表面改質処理で用いた装置について説明する。その装置の概略構成を図4に示した。この例で用いた装置は、図4に示すように、主に、高圧二酸化炭素を生成及び排出する高圧装置部400と、熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機401(図4中の破線で囲まれた領域)とから構成される。
【0076】
高圧装置部400は、図4に示すように、主に、液体CO2ボンベ1と、高圧ポンプ2と、バッファタンク4と、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、射出成形機401から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管とで構成されている。また、配管には、図4に示すように、高圧二酸化炭素の流動を制御するための自動バルブ21〜26、保圧弁29及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0077】
射出成形機401は、図4に示すように、主に、可動プラテン41と、可動プラテン41に取り付けられた可動金型40aと、固定プラテン42と、固定プラテン42に取り付けられた固定金型40bと、溶融樹脂を射出する加熱シリンダー43とから構成される。両金型間に画成されるキャビティ50の形状は円盤状でありφ50mm、厚み2mmとした。
【0078】
また、可動金型40aには、図4に示すように、可動金型40aと固定金型40bとの間に画成されたキャビティ50に高圧二酸化炭素を導入するための導入口51と、高圧二酸化炭素をキャビティ50から排出するための排出口52とが設けられている。導入口51は及び排出口52は、図4に示すように、それぞれ配管46及び47を介して高圧装置部400に繋がれている。そして、図4に示すように、導入口51は、配管46、溶解槽3等を介してバッファタンク4と流通しており、一方、排出口51は、配管47等を介してバッファタンク4及び回収槽5と流通している。なお、この例における射出成形機401のその他の構造は、従来の射出成形機と同様である。
【0079】
この例で用いた装置では、図4に示すように、バッファタンク4と金型40の高圧二酸化炭素の導入側の流路(配管46)とを逆止弁12及び自動バルブ22を介して繋ぐ配管30を設けるだけでなく、バッファタンク4と、金型40の高圧二酸化炭素の排出側の流路(配管47)とを逆止弁12及び自動バルブ23を介して繋ぐ配管30’も設けた。すなわち、この例の装置では、後述するように、金型40内で有機金属錯体の溶解した高圧二酸化炭素(以下、混合流体ともいう)を有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素(以下、加圧用流体ともいう)で圧縮する際に、金型40の導入側及び排出側の両方の流路から加圧できるような構造にした。従って、この例における混合流体の圧縮方法は、実施例2と同様である。
【0080】
[熱可塑性樹脂の射出成形及び表面改質方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の成形から表面改質までの一連の動作について説明する。
【0081】
まず、加熱シリンダー43のスクリュー44により可塑化溶融された樹脂を固定金型42内のスプール45からキャビティ50内に射出充填して熱可塑性樹脂を成形した。なお、この際、金型40は図示しない温調回路を流れる冷却水により温度制御されており、この例では120℃に設定した。また、加熱シリンダー43は330℃にて温調し、熱可塑性樹脂の材料としては、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製 パンライトL−1225Y 、Tg:145℃)を用いた。
【0082】
次に、溶融樹脂の射出充填後、図示しない電動式型締め機構の位置制御により、キャビティ50を0.5mm開き、成形品(熱可塑性樹脂)と金型40との間に隙間を形成した。なお、この例の射出成形機401では、2mm以内の金型開き量においては25MPa以下の高圧ガスをシールできる金型構造となっている。
【0083】
上記方法にて画成されたキャビティ50内の隙間に、次のようにして有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を金型40の導入口51を介して導入した。まず、内容積50mlの溶解槽3に有機金属錯体を20g仕込んだ。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から高圧ポンプ2に液体二酸化炭素を導入して加圧した。この際、圧力計15が20MPaになるように昇圧した。次いで、カートリッジヒーター(不図示)で50℃に温調されたバッファタンク4に20MPaの高圧二酸化炭素を導入し、さらに、その高圧二酸化炭素を逆止弁12を介して溶解槽3内に導入し、溶解槽3内部を20MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた(混合流体を生成した)。
【0084】
次に、自動バルブ22及び26を同時に開き、有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を配管30及び46を介して金型40内のキャビティ50に導入し、0.2秒後に自動バルブ22及び26を閉じた。この際、キャビティ50内の圧力を7MPaに昇圧した。次に、自動バルブ21及び26を同時に開き、溶解槽3から配管30及び46を介して金型40内のキャビティ50に混合流体を導入して、先に導入した有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を混合流体で置換し、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。この際、キャビティ50の排出側に予め1次側の圧力を8MPaに調節した保圧弁29を設けて、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。そして、1秒後に自動バルブ21及び26を閉じた。次いで、自動バルブ22及び23を開放してバッファタンク4から有機金属錯体の溶解していない圧力20MPaの高圧二酸化炭素(加圧用流体)をキャビティ40の高圧二酸化炭素の導入側の流路(例えば、配管30,46等)及び排出側の流路(例えば、配管30’,47)に導入し、これらの流路に滞留した混合流体を金型40の導入口51及び排出口52の両側から押し込むことにより、金型40のキャビティ50内の圧力を一気に20MPaまで昇圧した。そして、その状態を6分間保持した。この混合流体の圧縮効果により、金型40内の混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が、配管などの流路における混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。この結果、金型40内の熱可塑性樹脂の表面付近に、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度で分布させることができる。そして、有機金属錯体が高圧二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0085】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が成形された金型内に導入された混合流体は、その後、加圧用流体により加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、金型に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、金型内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0086】
上述のようにして熱可塑性樹脂を表面改質した後、金型温調回路の設定を60℃にして金型を冷却した。なお、この際、冷却中キャビティ50内の圧力が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡が生じるおそれがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。次いで、自動バルブ22及び23を閉じた後、自動バルブ24および25を開き、キャビティ50内部を減圧し、その後、金型40を開き熱可塑性樹脂を取り出した。
【0087】
次に、この例においても、金型40から取り出した熱可塑性樹脂を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、実施例2と同様に、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例では、有機金属錯体を20g仕込んで、上記方法で、成形品(熱可塑性樹脂)を200個(200ショット)連続して成形し、各成形品に対してメッキ膜を形成した。その結果、全ての成形品において良好なめっき特性が得られた。
【0088】
また、上記結果から、実施例3のように表面改質プロセスと射出成形プロセスとを同時に行った場合でも、改質材料に熱的に不安定な有機金属錯体を用いても低コストで表面改質をすることができることが分かった。
【実施例4】
【0089】
実施例4では、射出成形機の金型内でポリマー基体(熱可塑性樹脂)を射出成形した後、その金型内で有機金属錯体(改質材料)を溶解した高圧二酸化炭素を成形品(熱可塑性樹脂)に接触させて、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行った。すなわち、この例では、熱可塑性樹脂の表面改質処理を行う容器として、射出成形機の金型を用いた。ただし、この例では、金型内部に混合流体を滞留させた状態で、実施例3のように加圧用流体(改質材料が溶解していない高圧二酸化炭素)で金型内の混合流体を加圧する代わりに、金型内のキャビティの容量を小さくすることにより、金型内の混合流体を加圧した。
【0090】
[表面改質に用いた装置]
実施例4の表面改質処理で用いた装置について説明する。その装置の概略構成を図7に示した。この例で用いた装置は、実施例3と同様に、図7に示すように、主に、高圧二酸化炭素を生成及び排出する高圧装置部400と、熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機401(図7中の破線で囲まれた領域)とから構成される。高圧装置部400は、実施例3と同様の構成にした。この例では、図4に示すように、射出成形機401の金型の構造を実施例3とは異なる構造にした。それ以外は、実施例3で用いた装置と同様の構成とした。
【0091】
この例の可動金型70aには、図7に示すように、その中央部分にピストン73を設けた。ピストン73のキャビティ側の径はφ25mmとした。また、ピストン73は、キャビティ50側に向かう方向(可動金型70aのキャビティ側の表面に対して垂直方向)に移動可能に可動金型70a内に保持されている。このピストン73の位置制御は電動サーボモーター(不図示)により行われる。また、この例の金型70では、図7に示すように、固定金型70bの側面部に、高圧二酸化炭素をキャビティ導入するための導入口71と、高圧二酸化炭素をキャビティ50から排出するための排出口72とを設けた。導入口71及び排出口72は、図7に示すように、それぞれ配管46及び47を介して高圧装置部400に繋がれている。なお、この例では、両金型間に画成されるキャビティ50の形状は、実施例3と同様に円盤状でありφ50mm、厚み2mmとした。
【0092】
[熱可塑性樹脂の射出成形及び表面改質方法]
次に、この例における熱可塑性樹脂の成形から表面改質までの一連の動作について図8〜11を参照しながら説明する。図8〜11は、図7中の金型70の拡大図である。
【0093】
まず、加熱シリンダー43のスクリュー44により可塑化溶融された樹脂を固定金型72内のスプール45からキャビティ50内に射出充填して熱可塑性樹脂を成形した(図8の状態)。なお、この際、金型70は図示しない温調回路を流れる冷却水により温度制御されており、この例では120℃に設定した。また、加熱シリンダー43は330℃にて温調し、熱可塑性樹脂の材料としては、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製 パンライトL−1225Y 、Tg:145℃)を用いた。
【0094】
次に、溶融樹脂の射出充填後、図示しない電動式型締め機構の位置制御により、キャビティ50を0.5mm開き、成形品200(熱可塑性樹脂)と金型70との間に隙間80を形成した。なお、この例の射出成形機401では、2mm以内の金型開き量においては25MPa以下の高圧ガスをシールできる金型構造となっている。
【0095】
上記方法にて画成されたキャビティ50内の隙間80に、次のようにして有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を金型70の導入口71を介して導入した。まず、内容積50mlの溶解槽3に有機金属錯体を20g仕込んだ。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から高圧ポンプ2に液体二酸化炭素を導入して加圧した。この際、圧力計15が8MPaになるように昇圧した。次いで、カートリッジヒーター(不図示)で50℃に温調されたバッファタンク4に高圧二酸化炭素を導入し、さらに、その高圧二酸化炭素を逆止弁12を介して溶解槽3内に導入し、溶解槽3内部を8MPaに昇圧するとともに、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた(混合流体を生成した)。
【0096】
次に、自動バルブ22及び26を同時に開き、有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を配管30及び46を介して金型70内のキャビティ50の隙間80に導入し、0.2秒後に自動バルブ22及び26を閉じた。この際、キャビティ50内の圧力を7MPaに昇圧した。次に、自動バルブ21及び26を同時に開き、1秒間、溶解槽3から配管30及び46を介して金型70内のキャビティ50内の隙間80に混合流体を導入して、先に導入した有機金属錯体が溶解していない高圧二酸化炭素を混合流体で置換した(図9の状態)。この際、キャビティ50の排出側に予め1次側の圧力を8MPaに調節した保圧弁29を設けて、キャビティ50内の圧力を8MPaに保持した。
【0097】
次いで、可動金型70bを閉じると同時に、可動金型70b内のピストン73を2mm後退させた(金型を閉じる方向とは反対側の方向に移動させた)。これにより、固定金型70aと、可動金型70bと、ピストン73との間に画成された空間80’に有機金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を閉じ込め、熱可塑性樹脂200の表面上に滞留させた(図10の状態)。
【0098】
次に、ピストン73を固定金型70b側に向かって移動させ、熱可塑性樹脂200の表面とピストン73の上面との間隔が0.1mmになるまでピストン73を移動させて、空間80’に滞留している混合流体を圧縮した(図11の状態)。そして、その状態を6分間保持した。この混合流体の圧縮効果により、金型70内の混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が、金型内部と流通する配管などの流路における混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度より大きくなる。この結果、金型70内の熱可塑性樹脂の表面付近に、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度を高濃度で分布させることができる。そして、有機金属錯体が高圧二酸化炭素と共に熱可塑性樹脂の内部に高濃度で浸透し、熱可塑性樹脂の表面を改質することができる。この例では、上記手順により熱可塑性樹脂の表面改質を行った。
【0099】
上述のように、この例の表面改質方法においても、熱可塑性樹脂が成形された金型内に導入された混合流体は、その後、可動金型内のピストンにより機械的に加圧(圧縮)され、混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が増大する。それゆえ、金型に初期導入する混合流体中の有機金属錯体の溶解濃度が低くても、金型内で、有機金属錯体の溶解濃度を増大させることができるので、溶解槽で有機金属錯体を超臨界流体または高圧不活性ガスに溶解させる際に、従来のように過飽和に近い多量の有機金属錯体を溶解槽に仕込む必要がなくなり、より少ない量の有機金属錯体で、より効率的に且つ高濃度で有機金属錯体を熱可塑性樹脂に浸透させることができる。それゆえ、材料コストを低減することが可能になる。
【0100】
上述のようにして熱可塑性樹脂を表面改質した後、金型温調回路の設定を60℃にして金型を冷却した。なお、冷却中キャビティ50内の圧力が低下すると、熱可塑性樹脂の表面および内部に発泡が生じるおそれがあるので、冷却中は外圧保持するために自動バルブ22及び23を開いた。次いで、自動バルブ22及び23を閉じた後、自動バルブ24および25を開き、キャビティ50内部を減圧し、その後、金型70を開き熱可塑性樹脂を取り出した。
【0101】
次に、この例においても、金型70から取り出した熱可塑性樹脂を80℃に温調したNi無電解メッキ液(日進化成(株)製NP−700)内に1分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行い、熱可塑性樹脂上にメッキ膜を形成した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、実施例2と同様に、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例では、有機金属錯体を20g仕込んで、上記方法で、成形品(熱可塑性樹脂)を200個(200ショット)連続して成形し、各成形品に対してメッキ膜を形成した。その結果、すべての成形品において良好なめっき特性が得られた。
【0102】
上記実施例1及び2では、改質材料を溶解する媒体として超臨界流体を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解する高圧不活性ガスを用いても良い。また、上記実施例3及び4では、改質材料を溶解する媒体として高圧の不活性ガスを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解す超臨界流体を用いても良い。
【0103】
上記実施例1及び2では、改質材料が溶解した超臨界流体を改質材料が溶解していない超臨界流体で加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解していない高圧不活性ガスを用いて、改質材料が溶解した超臨界流体を加圧しても良い。また、上記実施例3では、改質材料が溶解した高圧の不活性ガスを改質材料が溶解していない高圧の不活性ガスで加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、改質材料を溶解していない超臨界流体を用いて、改質材料が溶解した高圧不活性ガスを加圧しても良い。
【0104】
また、実施例2及び3では、容器(金型)内に滞留した混合流体を、容器のガスの導入側及び排出側の両方の流路から加圧する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。容器(金型)内に滞留した混合流体を、容器のガスの導入側の流路のみから加圧しても良いし、容器のガスの排出側の流路のみから加圧しても良く、いずれの場合にも、上記実施例2及び3と同様の効果が得られる。これらは加圧方法は、容器、高圧装置、射出成形機等の構造により適宜変更し得る。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の表面改質方法では、上述のように、少ない改質材料の仕込み量であっても、より効率的に且つ高濃度で改質材料を熱可塑性樹脂の基材に浸透させることができるので、低コストであり且つ実用性に優れた表面改質方法である。それゆえ、本発明の表面改質方法は、超臨界流体で用いた表面改質方法を利用するあらゆる分野において非常に有効な表面改質方法である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、実施例1の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、実施例1の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、実施例2の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図4】図4は、実施例3の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図5】図5は、二酸化炭素の圧力と有機金属錯体の溶解度との関係を示した図である。
【図6】図6は、二酸化炭素の圧力と密度との関係を示した図である。
【図7】図7は、実施例4の表面改質方法で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図8】図8は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図9】図9は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図10】図10は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【図11】図11は、実施例4の表面改質方法の手順を説明するための図である。
【符号の説明】
【0107】
1 液体二酸化炭素ボンベ
2 シリンジポンプ
3 溶解槽
4 高圧容器
5 回収槽
40,70 金型
50 キャビティ
73 ピストン
200 熱可塑性樹脂
300 混合流体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法であって、
上記超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に上記熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、
改質材料を上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、
上記改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを上記容器に導入し、その後、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法。
【請求項2】
上記容器が超臨界流体または高圧不活性ガスの導入口及び排出口を有しており、第3工程で、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記導入口を介して上記容器と流通する導入側流路及び上記排出口を介して上記容器と流通する排出側流路の少なくとも一方の流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くすることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
第3工程が、
上記改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、
第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器から排出させながら、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、
上記排出側流路を開放した状態で、上記改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入することとを含むことを特徴とする請求項2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入する際の圧力が、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入する際の圧力と同じであることを特徴とする請求項3に記載の表面改質方法。
【請求項5】
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとが同じ圧力を有し、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとの間に挟まれた状態で上記容器内を移動させることを特徴とする請求項3に記載の表面改質方法。
【請求項6】
第3工程が、
上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入して第1の圧力で滞留させることと、
上記排出側流路を閉鎖した状態で、第1の圧力より高い圧力を有し且つ上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の少なくとも一方の流路に導入し、上記容器内の上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことを特徴とする請求項2に記載の表面改質方法。
【請求項7】
上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の両方に導入することを特徴とする請求項6に記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されており、
第3工程が、
上記金型と上記熱可塑性樹脂との間に隙間を形成することと、
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第1の圧力で上記隙間に導入することと、
上記隙間を上記金型で圧縮することにより、上記隙間内の上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第2の圧力に加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質方法。
【請求項10】
第1の圧力が5MPa〜10MPaであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項11】
第2の圧力が10MPa〜25MPaであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項12】
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項13】
上記改質材料が有機金属錯体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項14】
メッキ膜の形成方法であって、
請求項13に記載の表面改質方法を用いて、上記有機金属錯体が浸透した熱可塑性樹脂を用意することと、
無電解メッキ法により上記熱可塑性樹脂の有機金属錯体が浸透した領域にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜形成方法。
【請求項1】
超臨界流体または高圧不活性ガスを用いた熱可塑性樹脂の表面改質方法であって、
上記超臨界流体または高圧不活性ガスが流れる流路と流通した容器内に上記熱可塑性樹脂を設置する第1工程と、
改質材料を上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスに溶解させる第2工程と、
上記改質材料が溶解した超臨界流体または高圧不活性ガスを上記容器に導入し、その後、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くする第3工程とを含む表面改質方法。
【請求項2】
上記容器が超臨界流体または高圧不活性ガスの導入口及び排出口を有しており、第3工程で、上記容器内における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度を、上記導入口を介して上記容器と流通する導入側流路及び上記排出口を介して上記容器と流通する排出側流路の少なくとも一方の流路における上記超臨界流体または上記高圧不活性ガス中の改質材料の溶解濃度より高くすることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
第3工程が、
上記改質材料が溶解していない第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、
第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスを上記容器から排出させながら、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入することと、
上記排出側流路を開放した状態で、上記改質材料が溶解していない第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入することとを含むことを特徴とする請求項2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
第1超臨界流体または第1高圧不活性ガス、及び、上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入する際の圧力が、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスを上記導入側流路に導入する際の圧力と同じであることを特徴とする請求項3に記載の表面改質方法。
【請求項5】
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスと、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと、第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとが同じ圧力を有し、上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを、第1超臨界流体または第1高圧不活性ガスと第2超臨界流体または第2高圧不活性ガスとの間に挟まれた状態で上記容器内を移動させることを特徴とする請求項3に記載の表面改質方法。
【請求項6】
第3工程が、
上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを上記容器に導入して第1の圧力で滞留させることと、
上記排出側流路を閉鎖した状態で、第1の圧力より高い圧力を有し且つ上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の少なくとも一方の流路に導入し、上記容器内の上記改質材料が溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことを特徴とする請求項2に記載の表面改質方法。
【請求項7】
上記改質材料が溶解していない超臨界流体または高圧不活性ガスを上記導入側流路及び上記排出側流路の両方に導入することを特徴とする請求項6に記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記容器が金型であり、上記熱可塑性樹脂が該金型内で射出成形法により作製されており、
第3工程が、
上記金型と上記熱可塑性樹脂との間に隙間を形成することと、
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第1の圧力で上記隙間に導入することと、
上記隙間を上記金型で圧縮することにより、上記隙間内の上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスを第2の圧力に加圧して当該超臨界流体または高圧不活性ガス中の上記改質材料の溶解濃度を増大させることとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質方法。
【請求項10】
第1の圧力が5MPa〜10MPaであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項11】
第2の圧力が10MPa〜25MPaであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項12】
上記改質材料を溶解した上記超臨界流体または上記高圧不活性ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項13】
上記改質材料が有機金属錯体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項14】
メッキ膜の形成方法であって、
請求項13に記載の表面改質方法を用いて、上記有機金属錯体が浸透した熱可塑性樹脂を用意することと、
無電解メッキ法により上記熱可塑性樹脂の有機金属錯体が浸透した領域にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−131725(P2007−131725A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325778(P2005−325778)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】
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