説明

熱可塑性樹脂シートの加工装置

【課題】微細模様を転写した熱可塑性樹脂シートを経済的、高速で安定して生産できる熱可塑性樹脂シートの加工装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度に制御可能な冷却手段を有する、少なくとも一方が細密加工された表面を持つロールおよびエンドレスベルトの間に、押出機から連続して溶融状態の熱可塑性樹脂を供給して熱可塑性樹脂の表面に微細模様を転写し、転写ロールから剥離後の熱可塑性樹脂シートを外部から冷却可能に設けられた冷却手段により急速冷却することにより、微細模様が転写された熱可塑性樹脂シートを高速で安定的かつ経済的に生産できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートの加工装置に関する。詳しくは、熱可塑性樹脂を成型する際に微細模様を付与する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微細模様シートとしては、シート表面に数百μm〜数十μmまでの微細な加工が要求されるようになってきた。微細加工を施したシートの製造方法として、連続プレス法(特許文献1参照)、ベルト法(特許文献2参照)、ロール法(特許文献2参照)等が挙げられる。
【0003】
連続プレス法は、ベルト上に重ね合わされて連続的に供給される固相のシート材料に対して、加熱または冷却機能を有する複数のプレス手段で微細模様パターン形成用の型を順に押し当てて型をシートに転写させる製造方法である。しかしながら、この方法であると、型を押し当てる工程がバッチ方式で行われるため、金型は、一旦シートをガラス転移温度に上げて、金型で微細模様を反転し、その後冷却するまで、金型を押し付けた状態で金型を冷却し、金型を開放する事でシートに微細模様を形作る。この為、金型が複数面必要で、且つ熱容量の大きな金型を加熱冷却する為、時間がかかり、金型が複雑な構造となる事になる。この為、生産速度が遅く、また、装置が複雑で大型煩雑になるという欠点があった。
【0004】
ベルト法によれば、ベルトを支えるロールが固定されている為、圧力を加える時間を変更することが出来ず、いわゆる生産における応用性に乏しい欠点がある。ベルト法は、微細模様パターンの型を有するベルトと熱可塑性樹脂とを一対のローラ同士で挟んでプレスすることにより型を熱可塑性樹脂に転写させる製造方法である。
【0005】
また、ロール法によれば、外周面に微細模様パターンの型が形成されたロールを使用してその型を熱可塑性樹脂に転写させるために、ロールを一旦ガラス転移温度以上に加熱し、これに加工すべきシートを圧し付けて、従来のバッチ式と異なり生産を連続的に行い、また、型が形成されたベルトが不要なことで耐久性も良好であり、さらに、装置の構造も簡略化でき、装置の小型化も実現できるとされている。
【0006】
しかしながら、ベルト法もロール法も、熱可塑性樹脂の型への充填不足や、ベルトやロールからの剥離不良を防ぐため、転写が行われる部分では、ベルトやロールを一旦高温にし、剥離が行われる部分では熱可塑性樹脂やベルトやロールを冷却して低温にする必要がある。しかしながら、一つのベルトやロール上では、この2動作を極めて短時間に行う必要があり、加工速度はおのずから遅いものとなってしまった。しかも、これらの方法は、熱可塑性樹脂をシート状に加工し、一旦巻き取って冷却した後、さらに、転写させる必要があるので、生産工程が2工程になって不経済である上に、一旦、熱可塑性樹脂シートを再加熱する必要があるので、エネルギーの無駄等による環境負荷が大きくなる等の大きな欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−51320号
【特許文献2】特開昭59−140021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、微細模様を転写した熱可塑性樹脂シートを経済的、高速で安定して生産できる熱可塑性樹脂シートの加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂のガラス転移温度近傍の温度に制御可能な冷却手段を有する、少なくとも一方が細密加工された表面を持つ転写ロールおよびエンドレスベルトの間に、押出機から連続して溶融状態の熱可塑性樹脂を供給して熱可塑性樹脂の表面に微細模様を転写し、転写ロールから剥離後の熱可塑性樹脂シートを外部から冷却可能に設けられた冷却手段により急速冷却することにより、微細模様が転写された熱可塑性樹脂シートを高速で安定的かつ経済的に生産できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
熱可塑性樹脂への転写用の型が形成された転写ロールおよび、熱可塑性樹脂の裏面から加圧するベルト装置を配置し、かつ、前記転写ロールおよび前記ベルト装置が両者に付着した状態の前記熱可塑性樹脂を冷却可能に設けられた冷却手段を有し、さらに、転写ロールから剥離したシートを外側から冷却可能な冷却手段を含んで構成されていることを特徴とする熱可塑性樹脂シートの加工装置(請求項1)、
転写ロールの転写用の型が微細模様に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が鏡面状に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置(請求項2)、
転写ロールの転写用の型が鏡面状に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が微細模様に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置(請求項3)、
転写ロールの転写用の型微細模様に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が微細模様に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置(請求項4)、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細模様が転写された熱可塑性樹脂シートを高速で安定的かつ経済的に生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】転写ロールに微細模様を加工した型を用いる系での熱可塑性樹脂シートの加工装置。
【図2】エンドレスベルトに微細模様を加工した型を用いる系での熱可塑性樹脂シートの加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂のシート加工装置は、熱可塑性樹脂への転写用の型が形成された転写ロールおよび、熱可塑性樹脂の裏面から圧縮するベルト装置を配置し、かつ、前記転写ロールおよび前記ベルト装置が両者に付着した状態の前記熱可塑性樹脂を冷却可能に設けられた冷却手段を有し、さらに、転写ロールから剥離したシートを外側から冷却可能な冷却手段を含んで構成されていることを特徴とする熱可塑性樹脂のシート加工装置である。
【0014】
本発明における転写ロールは、その表面に熱可塑性樹脂への転写用の型が形成された筒体であり、冷却制御可能な冷却手段、詳しくは、その内部に熱媒を導入する機構を有し、転写ロールの表面温度を熱可塑性樹脂のガラス転移温度近傍またはそれ以上の温度に冷却制御することが可能である。
【0015】
本発明における熱可塑性樹脂の裏面から圧縮するベルト装置は、エンドレスベルト、一対のエンドレス支持ロールおよび少なくとも1つのエンドレスベルト張力調整ロールからなるもので、エンドレスベルトの熱可塑性樹脂との接触面には転写用の型が形成されている。また、ベルト装置は、一対のエンドレスベルト支持ロールの内部に熱媒を導入して温度制御することにより、間接的にエンドレスベルトの表面温度を熱可塑性樹脂のガラス転移温度近傍またはそれ以上の温度に冷却制御することが可能である。
【0016】
本発明においては、一対のエンドレス支持ロールと転写ロールとの間隔の調整、およびエンドレス張力調整ロールの位置の調整により、エンドレスベルトの接触面積および張力(加圧される力)を調整することでき、熱可塑性樹脂への転写用の型の転写効率および冷却効率を向上されることができる。詳しくは、エンドレスベルトの押す時間は、内側に設けた一対のエンドレスベルト支持ロールの間隔を広げることにより、転写ロールとシートが接触する面積を大きく(時間を長く)することができる。また、エンドレスベルトの張力は、エンドレスベルト張力調整ロールの位置をエンドレスベルト支持ロールから離すことにより、その張力(加圧される力)を増加させ、シートを転写ロールに強く押し付けることができる。
【0017】
また、本発明のシート加工装置では、転写ロールおよびエンドレスベルトの両面で転写を行ってよい。この際、転写用の型としては、鏡面状や微細模様面状のものが適用され、型を鏡面状とした場合には、シートに光沢面が転写され、微細模様面状とした場合には、シートに微細模様の反転形状が付与されるようになる。なお、本発明の微細模様は、特に限定されない。
【0018】
本発明における転写ロールおよびベルト装置による冷却条件に関しては、熱可塑性樹脂のガラス転移温度近傍、またはそれ以上には保持するものではあるが、転写ロールまたはエンドレスベルトにおいて、微細模様を加工した型を有する側の表面温度を、もう一方の表面温度よりも5℃以上温度を高く制御することが好ましい。また、転写ロールおよびエンドレスベルトの両方が微細模様の型を有する場合、より微細な模様を施した型を有する方の表面温度を5℃以上高く制御することが好ましい。
【0019】
本発明のシート加工装置では、転写ロールから剥離した熱可塑性樹脂シートに対して、外側から冷却可能な冷却手段を含んでいる。その冷却手段としては、冷却エアーを噴出するチャンバー、温度制御された水槽、冷却水を霧状に噴霧するノズル等があげられる。前記冷却手段により、剥離後の熱可塑性樹脂シートを巻き取り可能な温度以下に冷却することにより、巻き取り機によりシートを巻き取っても、微細模様が崩れないシートを得ることができる。
【0020】
なお、本発明においては、溶融状態の熱可塑性樹脂を転写ロールおよびエンドレスベルトの間に供給する前工程として、シート押出用成形機およびそれに接続されたダイスを設置し、ダイスからシート状に押出された溶融状態の樹脂を供給することが好ましい。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂のシート加工装置によれば、従来のように転写ロールまたはエンドレスベルトを一旦加熱することなくとも、シート状にダイスから押出された溶融状態の熱可塑性樹脂は、融点以下ガラス転移温度以上の温度に冷却制御された微細模様に表面加工された転写ロールまたはエンドレスベルトによって冷却されつつ、微細模様が転写され、さらに、別工程で設けた冷却手段によりシートを冷却された後に巻き取り機で巻き取られることにより、巻き取り機で巻き取っても微細模様の崩れのないシートが得られる。この為、高速で安定した生産ができる。
【0022】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートの製造方法は、前述の熱可塑性樹脂シートの加工装置を用いてシートを製造する方法である。
【0023】
以下に、転写ロールの転写用の型に微細模様を加工した場合を例に、図1を用いて説明するが、これに限定されるものではない。
【0024】
具体的には、熱可塑性樹脂はシート押出用成形機10で加熱溶融混練され、すなわち、押出機シリンダーに装備されたヒータで加熱されスクリューで混練され、せん断を受けながら、発熱、均一化され、ダイス11に送られ、ダイス11にて、装備されたヒータにより溶融状態を保ちながら、所定のシート厚みに押出形成される。
【0025】
ダイス11を出た溶融状態の熱可塑性樹脂は、微細模様加工した転写用の型を有する転写ロール20および、シートを裏面から転写ロール20側に加圧するエンドレスベルト40の間に導かれる。なお、転写ロール20およびエンドレスベルト40は、内部に熱媒を導入して冷却されるが、その表面温度をガラス転移温度近傍、またはそれは以上に保持される。この際、転写ロール20は、内部に熱媒を導入して冷却される。また、エンドレスベルト40は、回転に用いる1対のエンドレスベルト支持ロール内に熱媒を導入して冷却される。エンドレスベルト40を転写ロール20に押し付ける一対のエンドレスベルト支持ロール30および33は、微細模様加工を施した転写用の型を有する転写ロール20に相対峙してその間隔を可変することができ、シートを挟んで任意の時間適度に押し付ける役割をはたし、転写ロール20の円周に沿って距離をとることによりエンドレスベルト40がシート15の微細模様転写側とは異なる面を押す面積を増加することができ、熱可塑性樹脂シートへの微細模様の転写効率およびシートの冷却効率が上昇する。エンドレスベルト張力調整ロール31は、可動式になっており、エンドレスベルト支持ロール30および33から距離をとることによりで、エンドレスベルト40の張力を上げ、転写ロール20にシート15を強く押し付けることとなる。また、逆に、エンドレスベルト張力調整ロール31をエンドレスベルト支持ロール30および33から距離を近づけることにより、エンドレスベルト40の張力を下げ、転写ロール20にシート15を弱く押し付けることとなる。
【0026】
更に、転写ロールから剥離された熱可塑性樹脂シートは、冷却されたエアーをシートに噴出すチャンバー70により冷却され、巻き取った際に微細模様が崩れない温度まで冷却されたシート60となり、巻き取り機80で巻き取られる。
【0027】
また、図2には、微細加工を施された転写用の型を、転写用ロールの代わりに、エンドレスベルトに用いた系でのシート加工装置を示す。
【0028】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートは、前述の熱可塑性樹脂シートの加工装置、および熱可塑性樹脂シートの製造方法によって得られるものである。
【0029】
なお、熱可塑性樹脂の具体的樹脂は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の結晶性樹脂、およびポリ塩化ビニール(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(PMMA等)、ポリスチレン(PS)、ポリアリレート樹脂(PAR)、透明アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、透明ポリカーボネート/ポリエステル(PC/PET)等の非晶性樹脂が用いられる。
【符号の説明】
【0030】
10 シート用押出成形機
11 T型ダイス
15 溶融状態の熱可塑性樹脂
20 転写ロール
30 エンドレスベルト支持ロール
31 エンドレスベルト張力調整ロール
32 冷却機
33 エンドレスベルト支持ロール
40 エンドレスベルト
51 温調機
60 シート状樹脂
70 エアチャンバー
80 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂への転写用の型が形成された転写ロールおよび、熱可塑性樹脂の裏面から加圧するベルト装置を配置し、かつ、前記転写ロールおよび前記ベルト装置が両者に付着した状態の前記熱可塑性樹脂を冷却可能に設けられた冷却手段を有し、さらに、転写ロールから剥離したシートを外側から冷却可能な冷却手段を含んで構成されていることを特徴とする熱可塑性樹脂シートの加工装置。
【請求項2】
転写ロールの転写用の型が微細模様に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が鏡面状に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置。
【請求項3】
転写ロールの転写用の型が鏡面状に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が微細模様に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置。
【請求項4】
転写ロールの転写用の型が微細模様に加工されたものであり、ベルト装置の熱可塑性樹脂との接触面が微細模様に加工されたものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの加工装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−260357(P2010−260357A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158894(P2010−158894)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【分割の表示】特願2004−111210(P2004−111210)の分割
【原出願日】平成16年4月5日(2004.4.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】