説明

熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】 高度な耐熱性、無色透明性、光学等方性および加工時のハンドリング性を有する熱可塑性樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】 溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、グルタル酸無水物単位を有する耐熱性共重合体(A)と、ゴム質含有重合体(B)からなるフィルムであり、フィルム厚みが5〜250μm、ヘイズ値が1.0%以下、表面粗さSRaが40nm以下である熱可塑性樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、靭性、ハンドリング性に優れる熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂やポリメタクリル酸メチル樹脂に代表される非晶性透明樹脂は電気・電子分野をはじめ広く利用されている。特にポリカーボネート樹脂はコンパクトディスク等の記録メディア用基材として利用されているが、光弾性係数が大きく、複屈折が大きいという課題を有している。一方、ポリメタクリル酸メチル樹脂は、複屈折が小さく、光学特性に優れるものの、耐熱性が十分ではなく、レーザー追記型光学ディスクのような耐熱性が必要とされる用途に使用するには問題がある。
【0003】
そのため、ポリメタクリル酸メチル樹脂など、アクリル系熱可塑性樹脂の耐熱性改善については、酸無水物やマレイミド化合物との共重合や、グルタルイミド構造の導入など、ポリマー骨格および組成の改良で耐熱性の向上を図る方法(例えば、特許文献1)が開示されている。しかし、マレイミド単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いといった問題があり、近年の光学部品に要求される極めて高い透明性や無欠点性を満たすには困難であった。
【0004】
これらの問題点を解決する方法として、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を押出機で加熱して環化反応させ、グルタル酸無水物含有単位を含有する共重合体を生成することにより耐熱性を付与し、さらに耐衝撃性などの機械特性を改良する方法として、グルタル酸無水物含有単位を含有する共重合体にゴム質含有重合体を添加する方法が開示されている(特許文献2〜4)。しかしながら、これら特許文献に開示された方法においては、耐衝撃性などの機械特性はある程度改良されてはいるものの、透明性を付与したフィルムにはなり得ない。さらに、特許文献5では透明性を付与するため、グラフト共重合体とマトリックスポリマーの屈折率を近似させているが、樹脂組成物を規定しているのみであり、フィルム成形した際のドローレゾナンスに起因する透明性低下やフィルム表面の性状について、何ら記載されていない。
【0005】
特許文献6には、アクリル系熱可塑性樹脂フィルムの耐熱性改善に加え、透明性向上の記載があるが、該特許文献6はポリマー分を溶媒に溶かして製膜する、いわゆる溶液製膜法を用いているため、溶媒除去のための工程、費用を要し、品質・物性面で、溶媒除去時の突沸欠点、残存溶媒による物性低下が生じるといった問題があった。
【0006】
また、アクリル系熱可塑性樹脂フィルムの透明性や無欠点性を高めるためには、ポリマー濾過によりアクリル系熱可塑性樹脂に含まれる異物を除去することが有効であるが、従来の溶融製膜法によるアクリル系熱可塑性樹脂フィルムでは、溶融粘度が高く濾過精度に限界があるため、溶融粘度を下げる手法として、ベースポリマーの分子量を下げるか、あるいは可塑剤を添加するなどポリマー設計を変えるか、もしくは、加工温度を高くするといった手法を行うが、分子量を下げると靭性が低下して製膜時さらには巻出時に切れやすくなり、ハンドリング性が悪くなるといった不具合を生じ、可塑剤を添加すると透明性が低下し、また加工温度を高くすると靭性が低下するだけでなく、ポリマーが着色して無色透明性が悪化するという問題があった。
【非特許文献1】「プラスチックフィルム・シートの現状と将来展望」、株式会社富士キメラ総研(発行人:表良吉)、2004年6月4日、p165−p168
【非特許文献2】「光学用透明樹脂」、株式会社技術情報協会(発行人:高薄一弘)、2001年12月17日、p59
【特許文献1】特開平7−268036号公報
【特許文献2】特開昭60−67557号公報
【特許文献3】特開平4−277546号公報
【特許文献4】特開平5−186659号公報
【特許文献5】特開昭60−120734号公報
【特許文献6】特開2006−206881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、ポリメタクリル酸メチルに匹敵する優れた光学特性を有し、優れた耐熱性、透明性、光学等方性、靭性を有し、ハンドリング性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は以下の特徴を有する。すなわち、本発明は、
(1)溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する耐熱性共重合体(A)と、ゴム質含有重合体(B)とを含み、厚みが5〜250μm、ヘイズ値が1.0%以下、表面粗さSRaが40nm以下、ガラス転移温度が120℃以上である熱可塑性樹脂フィルム。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
(2)耐熱性共重合体(A)が、(i)上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を有する共重合体である、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0011】
(3)耐熱性共重合体(A)が、上記(i)、(ii)の単位に加えて、さらに(iii)不飽和カルボン酸単位、および/または、(iv)ビニル単量体単位を含有する共重合体である、上記(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0012】
(4)波長590nmの光線に対するフィルムの面内の位相差が5nm以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0013】
(5)不飽和カルボン酸単位(iii)の含有量が0〜1重量%である、上記(3)または(4)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0014】
(6)耐熱性共重合体(A)10〜90重量部と、ゴム質含有重合体(B)90〜10重量部とからなる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0015】
(7)耐熱性共重合体(A)とゴム質含有重合体(B)の屈折率差が0.02以下である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0016】
(8)ゴム質含有重合体(B)が、ゴム質重合体(B−1)の層とグラフト成分(B−2)の層とからなる、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0017】
(9)ゴム質重合体(B−1)が、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有し、グラフト成分(B−2)が、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する、上記(8)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0018】
(10)ゴム質含有重合体(B)の重量平均粒子径が0.01〜1μmである、上記(6)〜(9)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0019】
(11)ダイを用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造するに際し、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みとが下記式を満足するようにダイのリップ間隙を調整する、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(ダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm))×1,000≦20.0
(12)ダイの上流に位置する配管内に、配管内を流れる熱可塑性樹脂の壁面近傍部分と中心部分とを分流せしめる分流手段を設けて、中心部分の熱可塑性樹脂をダイから吐出する、上記(11)に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以下説明するように、本発明によれば、高い透明性と良好なハンドリング性を有する熱可塑性樹脂フィルムが得られる。さらに、本発明で得られる熱可塑性樹脂フィルムは、優れた耐熱性と透明性を生かした、光学ディスク、ディスプレイ部材、光学レンズ、液晶バックライト用導光板などの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する耐熱性共重合体(A)と、ゴム質含有重合体(B)とを含むフィルムであり、フィルム厚みが5〜250μm、ヘイズ値が1.0%以下、表面粗さSRaが40nm以下である。
【0022】
【化2】

【0023】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
ここで、上記耐熱性共重合体(A)はさらに(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含んでいることも好ましく、さらに(iii)不飽和カルボン酸単位、および/または、(iv)のビニル単量体単位、を有していることも好ましい。
【0024】
なお、本明細書において単に「アルキル」という場合には直鎖状及び分枝状の両者が包含される。
【0025】
本発明において上記した耐熱性共重合体(A)を製造する方法としては、特に制限はないが、後の加熱工程により上記グルタル酸無水物単位(i)を与える不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、不飽和カルボン酸単量体および/またはビニル単量体を共重合させ、原重合体とした後、かかる原重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には、原重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基が脱水されて、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位(i)が生成される。
【0026】
この際に用いられる不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表される単量体を挙げることができる。
【0027】
【化3】

【0028】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基であり、又は1個以上炭素数以下の数の水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は置換基を有する該炭化水素基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0029】
【化4】

【0030】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
また、不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(5)
【0032】
【化5】

【0033】
(ただし、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると下記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸単位(3)を与える。
【0034】
【化6】

【0035】
さらに、本発明で用いる耐熱性共重合体(A)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニル単量体を用いてもかまわない。ビニル単量体は、共重合すると前記のその他のビニル単量体単位(iv)を与える。ビニル単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができる。透明性、光学等方性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0036】
(ii)(iii)(iv)の単量体を共重合する方法については特に制限はなく、ラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の種々の重合方法を用いることができる。
【0037】
これらの原重合体製造時に用いられる単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は好ましくは30〜95重量%、より好ましくは30〜90重量%、最も好ましくは30〜85重量%、不飽和カルボン酸単量体が7〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは15〜40重量%、ビニル単量体は10重量%以下、すなわち0〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0038】
不飽和カルボン酸単量体量が7重量%未満の場合には、原重合体の加熱による環化反応物生成量が少なくなり、従って共重合体の耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量が70重量%以上の場合には、原重合体の加熱による環化反応後に反応性の高い不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、非熱可逆性の結合が生成することがあるため、成形が困難になる可能性がある。
本発明の熱可塑性樹脂フィルム、耐熱性共重合体(A)における各共重合体成分の定量には、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。H−NMR法では、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、グルタル酸無水物含有単位、メタクリル酸単位、およびメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークはメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0039】
本発明における耐熱性共重合体(A)の製造方法は、特に制限はないが、原共重合体をベント付き押出機に通して加熱脱揮することにより、環化反応を行う方法を好ましく用いることができる。さらに、共重合体の反応性の高い不飽和カルボン酸系単位量を減少させる方法として、2つ以上のベントを有する押出機を用いることが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、“ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができる。
【0040】
また、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましく、例えば、二軸押出機に窒素などの不活性ガスを導入する方法として、ホッパー上部および/または下部より10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0041】
加熱脱揮する温度は、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば、特に限定されないが、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜280℃の範囲である。
【0042】
また、加熱脱揮する時間は、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1〜20分間程度が適当である。なお、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するには、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)を40以上にすることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存し、再度溶融して製膜あるいは成形加工した際に、反応が再度進行し、ダイラインや気泡の発生につながる。
【0043】
原共重合体を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、原重合体100重量部に対し、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を0.01〜1重量部添加することが好ましい。これら酸、アルカリ、塩化合物については特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられ、特に水和物である塩が好ましく用いられる。ただし、各々触媒の色が耐熱性共重合体(A)の着色に悪影響を及ぼさずに、かつ、透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。なかでも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および、酢酸ナトリウムなどが好ましく使用することができる。
【0044】
本発明の耐熱性共重合体(A)は、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが好ましく、特に130℃以上であることが、耐熱性の点で好ましい。共重合体のガラス転移温度を120℃以上にすることは、共重合体中におけるグルタル酸無水物単位(i)の量を約10重量%以上に制御することにより達成できる。なお、ガラス転移点の上限は特に限定されないが、通常、170℃程度である。
【0045】
本発明における耐熱性共重合体(A)100重量%中に含まれるグルタル酸無水物単位(i)は耐熱性共重合体(A)中に好ましくは5〜60重量%、最も好ましくは15〜50重量%である。グルタル酸無水物単位が5重量%未満の場合、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)は好ましくは30〜95重量%、より好ましくは30〜90重量%、最も好ましくは30〜85重量%である。また、不飽和カルボン酸単位(iii)は0〜10重量%、より好ましくは0〜3重量%、特に好ましくは0〜1重量%である。不飽和カルボン酸単位10重量%以上の場合、非熱可逆性の結合が生成することがあるため、成形が困難になる可能性がある。さらに、その他のビニル単量体単位を含む場合、芳香環を含まないビニル単量体単位が好ましく、スチレンなどの芳香族ビニル単量体単位の場合、含有量が高いと、無色透明性、光学等方性、ハンドリング性が低下する傾向があるので、より好ましくは0〜10重量%である。
【0046】
(ただし、上記において各単位(i)(ii)(iii)(iv)の合計は100重量%である。)
本発明の耐熱性共重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有する耐熱性共重合体(A)は、原共重合体の製造時に、重量平均分子量で3万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。
【0047】
原共重合体の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいは、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0048】
アルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0049】
これらアルキルメルカプタンの添加量は、本発明の特定の分子量に制御するものであれば、特に制限はなく、共重合する単量体種によってその添加量は異なるが、通常、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.3〜5.0重量部であり、好ましくは0.9〜4.0重量部、さらに好ましくは1.0〜3.0重量部である。例えば、t−ドデシルメルカプタンを使用する場合には、1.0〜3.0重量部の範囲が特に有効であり、n−ドデシルメルカプタンを使用する場合には、0.6〜2.0重量部の範囲が特に有効である。
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、上記の耐熱性共重合体(A)にゴム質含有重合体(B)を含有せしめることにより、耐熱性共重合体(A)の優れた特性を大きく損なうことなく、優れた靭性、ハンドリング性を付与することができる。
【0050】
ゴム質含有重合体(B)は、ゴム質重合体(B−1)の層とグラフト成分(B−2)の層とで構成されることが好ましい。
【0051】
ゴム質重合体(B−1)の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分、エチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分、および、ブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましい。例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分とジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分とスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分とブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム、さらには、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、および、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム、などが挙げられる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有するゴムが、透明性および機械特性の点で最も好ましい。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位、ブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
【0052】
グラフト成分(B−2)の種類は、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、および、その他のビニル単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。なかでも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれた少なくとも1種が好ましく、特に好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位を含有する重合体である。
【0053】
グラフト成分(B−2)が、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と不飽和カルボン酸単位を含有する重合体である場合、前述した耐熱性共重合体(A)の製造時と同様、加熱することにより分子内環化反応を進行させ、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位が生成することを見出した。従って、グラフト成分(B−2)に、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を有するゴム質含有重合体(B)を耐熱性共重合体(A)に配合し、加熱溶融混練することにより、グラフト成分(B−2)に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するゴム質含有重合体(B)が得られる。これにより、連続相(マトリックス相)となる耐熱性共重合体(A)中に、ゴム質含有重合体(B)が凝集することなく、良好に分散することが可能となり、本発明の熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性向上とともに、高度な透明性を発現し得ることが可能である。
【0054】
本発明のゴム質含有重合体(B)の好ましい例としては、ゴム質重合体(B−1)がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、ゴム質重合体(B−1)がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸共重合体であるもの、ゴム質重合体(B−1)がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル共重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル重合体であるもの、ゴム質重合体(B−1)がブタンジエン/スチレン共重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル重合体であるもの、ゴム質重合体(B−1)がアクリル酸ブチル重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる。ここで、“/”は共重合を示す。さらに、ゴム質重合体(B−1)またはグラフト成分(B−2)のいずれか一つ、もしくは、両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。なかでも、ゴム質重合体(B−1)がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、あるいは、ゴム質重合体(B−1)がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、グラフト成分(B−2)がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)である耐熱性共重合体(A)と屈折率を近似させることができ、かつ、耐熱性共重合体(A)内で良好な分散状態を得ることが可能となり、高い透明性を発現することができる。
【0055】
ここでいう屈折率差とは、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを、耐熱性共重合体(A)が可溶な溶媒に十分に溶解させた後、得られた白濁溶液を遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(耐熱性共重合体(A)を含む溶媒)と不溶部分(ゴム質含有重合体(B))をそれぞれ精製した後、得られた各々の固形分の屈折率(23℃、550nm波長)を測定し、差を求めたものを意味する。
【0056】
耐熱性共重合体(A)とゴム質含有重合体(B)の屈折率差は、好ましくは0.02以下であり、より好ましくは0.01以下である。このような屈折率条件を満たすためには、耐熱性共重合体(A)の各単量体単位組成比を調整し、かつ、それに併せてゴム質含有重合体(B)を構成するゴム質重合体(B−1)およびグラフト成分(B−2)の単量体単位組成比を調整することで達成できる。
【0057】
本発明のゴム質含有重合体(B)の重量平均粒子径は、得られる熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性の点から0.01μm以上、透明性の点から1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上、500μm以下であり、特に好ましくは0.05μm以上、200μm以下である。
【0058】
本発明におけるゴム質含有重合体(B)は、ゴム質重合体10〜80重量%、好ましくは30〜75重量%、より好ましくは50〜70重量%の存在下に、グラフト成分(B−2)を90〜20重量%、好ましくは70〜25重量%、より好ましくは50〜30重量%を共重合することによって得られる。すなわち、グラフト率が40〜100%であることがより好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の重量割合である。ゴム質重合体(B−1)の割合が、上記の範囲未満、または、上記の範囲を超える場合には、ハンドリング性や表面外観性が低下する場合がある。
【0059】
本発明におけるゴム質重合体(B−1)にグラフト成分(B−2)をグラフト重合する製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの公知の重合法により得ることができる。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、溶融製膜法にて製膜することができる。溶融製膜法としては、インフレーション法、ダイ法、カレンダー法、切削法などがあり、特にダイ法を好ましく採用できる。ダイ法はダイの形状によって、ストレートダイ法、クロスヘッドダイ法、フラットダイ法、特殊ダイ法に分類することができ、特にフラットダイ法を好ましく採用できる。
【0061】
溶融製膜法には、単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。そのスクリューのL/Dとしては、25〜120とすることが着色を防ぐために好ましい。溶融押出温度としては、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。溶融剪断速度としては、1,000s−1以上5,000s−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
【0062】
溶融押出装置等により溶融した樹脂は、ギヤポンプで計量された後、ダイに連続して送られる。ダイはその内部での溶融樹脂の滞留が少ない設計であればよく、フラットダイ法では、一般的に用いられるT型マニホールドダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイの何れのタイプでもよい。
【0063】
ダイからシート状に押出された溶融樹脂は、ドラムなどの冷却媒体上で冷却固化させて、フィルムを得ることができる。この時、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、バキュームノズル法、タッチロール法などで、ドラムなどの冷却媒体上への密着を上げることが好ましい。特に厚みムラが少なく、透明なフィルムを得るには、タッチロール法が好ましい。
【0064】
このような密着を上げる方法は、溶融樹脂シート全面に実施してもよく、あるいは、一部に実施してもよい。また、これら密着を上げる方法は、単一で行うか、あるいは、複数を組み合わせてもよい。
【0065】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法としては、例えば、ダイの上流に位置する配管内に、配管内を流れる熱可塑性樹脂の壁面近傍部分と中心部分とを分流せしめる分流手段を設けて、中心部分の熱可塑性樹脂をダイから吐出する方法などを採用することができる。特に、分流手段をダイに樹脂が流れ込む直前に設けることにより、得られた熱可塑性樹脂フィルムは壁面滞留した樹脂が極めて少ない、中心部の滞留の少ない樹脂によって成形された製品となり、本発明の目的の透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0066】
分流した壁面近傍付近の樹脂(壁面滞留した樹脂)は、系外に排出するか、あるいはダイ内で合流する場合にはフィルム両端に集め、巻き取り前の工程で両端部を切断除去するとよい。分流するための分流手段としては、配管内に分流するための障壁を設けることになるが、形状は特に制限はなく、長方形、台形、楕円形、円錐形、三角形などが挙げられる。長方形、台形の障壁を用いる場合、樹脂の滞留を防止するため、障壁の上流側にさらに三角形、半円形、放物線形を組み合わせることがより好ましい。また、管壁近傍を流れる壁面滞留した樹脂と中心部を流れる滞留時間の短い樹脂を明確に分流するため、障壁の内側に隔壁を設けた二重管にすることがより好ましい。
【0067】
配管の管壁近傍を流れる滞留時間の長い壁面滞留した樹脂と中心部を流れる滞留時間の短い樹脂の割合を示す分流量は、特に制限されるものでないが、高い透明性を得るために、かつ生産効率を考慮し、壁面滞留した樹脂/滞留の短い樹脂の割合が10/90重量%〜30/70重量%であることが好ましく、より好ましくは15/85重量%〜25/75重量%である。滞留時間の長い壁面滞留した樹脂の割合が10重量%未満の場合、フィルムの透明性が低下したり、切断除去するフィルム幅が狭く破れが生じ易くなることに繋がる。滞留時間の長い壁面滞留した樹脂の割合が30重量%を超えると、生産効率が低下しコスト高となってしまう。各形状、各寸法は特に制限されるものでないが、樹脂の粘度と流量によって、上記分流割合が得られるように設計する。
【0068】
フラットダイ法による溶融製膜法においては、押出温度、引き取り時の引き取り速度およびダイのリップ間隙などを調整することにより、所定のフィルム厚みを得ることができる。フィルム厚みとして5〜250μmの範囲内であることが好ましい。フィルム厚みは、フィルム特性、ハンドリング性、目標最終厚みなどによって適宜調整されるべきものであるが、フィルム厚みが5μm未満の場合には製膜時に破れが生じ易くなるなど歩留まりを悪化させることがあり、250μmを超える場合には透明性が低下したり、部材としての厚みが大きくなり過ぎる場合がある。熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、10〜150μmの範囲内がより好ましく、20〜100μmの範囲内がさらに好ましい。
【0069】
溶融製膜時の押出温度と引き取り時の引き取り速度を調整する方法としては、押出温度を熱可塑性樹脂フィルムの構成成分である共重合体のガラス転移温度より100℃〜150℃高い温度とし、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比、すなわち、ダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm)×1,000で表される値を20以下にすることが好ましく、より好ましくは15以下となるように引き取ることが好ましい。ダイから押し出し後、ドラムなどの冷却媒体に接するまでの時間は0.05秒以上1秒以下、好ましくは0.15秒以上0.6秒以下であることが好ましい。また、ドラムなどの冷却媒体の表面温度は熱可塑性樹脂フィルムを構成する共重合体のガラス転移温度、好ましくはガラス転移温度より40℃以上低い温度とすることが好ましいが、冷却ロールの温度を15℃以下にすると結露が発生しやすくなり、フィルムの欠点を生じやすくなる場合がある。このような条件で溶融押出することによって、本発明の目的の透明性、ハンドリング性に優れ、かつ、光学的な異方性の生じにくい熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0070】
上記押出温度、上記分流割合および押出滞留時間を調整することにより熱可塑性樹脂フィルムの色調b値を0.5以下にすることができる。押出滞留時間は120分以内が好ましく、より好ましくは90分以内である。
【0071】
上記樹脂組成、上記押出温度、上記分流割合、上記押出滞留時間および上記ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比を調整することにより、熱可塑性樹脂フィルムのヘイズ値を1.0%以下にすることができる。すなわち、例えば、押出温度を低くする、分流割合において壁面滞留した樹脂を10重量%以上分流する、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比、すなわち、ダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm)×1,000で表される値を20以下とすることが有効である。
【0072】
また、上記樹脂組成、上記押出温度、上記分流割合、上記押出滞留時間および上記ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比を調整することにより、熱可塑性樹脂フィルムの表面粗さSRaを40nm以下にすることができ、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下にすることができる。表面粗さを小さくするには、例えば、押出温度を低くする、分流割合において壁面滞留した樹脂を10重量%以上分流する、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みの比、すなわち、ダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm)×1,000で表される値を20以下とすることが有効である。なお、光学特性からは、表面粗さSRaは小さいことが好ましいが、取り扱いの面からはSRaが1nm以上であること、さらには3nm以上であることが好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、波長590nmの光線に対する面内の位相差が5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。波長590nmの光線に対する位相差が5nm以下であると、偏光板や光ディスクの保護フィルムなど光学等方性が要求される用途で好適に用いることができる。このような低位相差のアクリル樹脂フィルムを得るためには、位相差を発現する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることなどが有効である。面内の位相差は小さい方が好ましいが、現実的に下限は0.1nm程度と考えられる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは波長590nmの光線に対する厚み方向位相差(Rth)は−10〜10nmであることが好ましく、好ましくは−8〜8nm、さらに好ましくは−5〜5nmである。厚み方向位相差(Rth)の絶対値が10nm以下であると偏光板や光ディスクの保護フィルムなど光学等方性が要求される用途で好適に用いることができる。厚み方向位相差(Rth)の絶対値は小さい方が好ましいが、現実的に下限は0.1nm程度と考えられる。
【0075】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは耐熱性、透明性、光学特性に優れるが、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに弾性重合体等の衝撃改良剤を添加することで、衝撃強度を飛躍的に向上させることも可能である。衝撃改良剤として、本発明の共重合体との屈折率差が小さいものを選択することにより、透明性を保ったまま、耐衝撃性を高めることが可能である。このような衝撃改良剤を添加する場合、その含有量は各用途に照らして適宜選択でき、何ら限定されないが、通常、樹脂100重量部に対し合計で5重量部〜45重量部程度である。
【0076】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステラアマイドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、燐系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有してもよい。これらの添加剤を添加する場合、その含有量は各用途に照らして有効量を適宜選択できる。
【0077】
本発明の熱可塑性フィルムは使用の目的によって表面にコーティングによって帯電防止層や易接着層を設けたり、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層、三角プリズム層、マイクロレンズアレイ等を設けたり、金属や酸化金属の蒸着層や、スパッタによる透明導電層を設けたり、接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、実施例で採用した各種物性の測定方法を記載する。
【0079】
(1)重量平均分子量(絶対分子量)
耐熱性共重合体(A)を、ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。検量線は標準ポリスチレンを用い、リテンションタイムを3次曲線でフィッティングし使用した。
【0080】
(2)屈折率差
本発明の熱可塑性樹脂フィルム1gに対しアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で4時間環流した後、この溶液を9,000r.p.m.で40分間遠心分離する。遠心分離後、不溶分を濾過することにより、アセトン可溶分(A成分)と不溶分(B成分)に分離した。不溶分(B成分)は60℃で5時間乾燥処理を行い、またアセトン可溶分(A成分)は、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、析出物を60℃で5時間乾燥処理して、それぞれ固形物を得た。各固形物を250℃でプレス成形し、厚さ0.1mmのフィルム状とした後、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR−M2)を用いて、23℃、550nm波長における屈折率を測定した。アセトン可溶分(A成分)の屈折率と不溶分(B成分)の屈折率の差の絶対値を屈折率差とした。
(3)各成分組成
フィルムをアセトンに溶解し、この溶液を9,000rpmで30分間遠心分離して、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位を定量してアクリル樹脂の各成分組成を特定した。
【0081】
各成分単位の定量は、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により行った。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0082】
ゴム質重合体の重量平均粒子径は「Rubber Age, Vol.88, p.484−490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0083】
(4)グラフト率
ゴム質重合体にグラフトした共重合体の所定量(m;約1g)に、アセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8,800r.p.m.(10,000G)で40分間遠心分離後、不溶分を濾過し、この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定する。グラフト率は下記式より算出する。ここで、Lはグラフト共重合する際に仕込んだゴム質重合体の割合(%)である。
グラフト率(重量%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100
(5)ガラス転移温度(Tg)
熱可塑性樹脂フィルムを約5mgとり、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製RDC220型)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で測定した。ガラス転移温度の求め方は、JIS−K−7121(1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0084】
(6)ヘイズ
JIS−K−7105(1981)に準拠し、スガ試験機(株)製ヘイズメーターを用いて、23℃におけるヘイズ値(%)を測定した。ヘーズメーター型式:HZ−1、方式:シングルビーム方式、測定光:C光、光源部:ピンホール方式、受光部:積分球方式。
【0085】
(7)色調
JIS Z 8722(2000)に基づき、分光式色差計(日本電色工業製SE−2000、光源 ハロゲンランプ 12V4A、0°〜−45°後分光方式)を用いて、各フィルムの色調(b値)を透過法により測定した。測定は温度23℃、湿度65%の雰囲気中で行った。フィルムの任意の5ヶ所を選び出して測定を行い、その平均値を採用した。
【0086】
(8)表面粗さ(SRa)
JIS−B−0601(2001)に準拠し、光触針式3次元粗さ計ET−30HK(小坂研究所株式会社製)を用いて、測定長0.5mm、測定本数80本、カットオフ0.25mm、送りピッチ5μm、触針荷重10mg、スピード100μm/秒で測定した。なお、3回測定を行い、その平均値を用いた。
【0087】
(9)面内の位相差および厚み方向の位相差
王子計測(株)社製の楕円偏光測定装置(KOBRA−WPR)と位相差測定装置KOBRA−RE(KOBRA−WR用ソフトウェア)Ver.1.21を用いた。測定は、入射角依存性測定の単独N計算モードにて、低位相差測定法を用い、遅相軸を傾斜中心軸とし、入射角40°(波長590nm)の条件にて行い、面内の位相差および厚み方向位相差(Rth)を得た。なお、入射角0°の時の位相差であるR0値を面内の位相差とした。また、測定はデシケーター中にて24時間保管したサンプルにて行い、N=5回の平均値を面内の位相差および厚み方向位相差(Rth)とした。
【0088】
(10)破断伸度
オリエンテック(株)製のフィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”を用いて、次の条件で測定した。
【0089】
試料サイズ:幅10mm、長さ150mm
チャック間距離:100mm
引張速度:200mm/分
測定環境:23℃、65%RH、大気圧下
破断伸度は、フィルム破断時の長さからチャック間距離を減じたものをチャック間距離で除したものに100を乗じて、伸度の値とした。
【0090】
(11)耐折性MIT(ハンドリング性の指標)
ハンドリング性を示す指標として、耐折強さ試験における回数を用い、以下の基準で評価した。試験はMIT−D(東洋精機社製)を用いて、温度23℃、相対湿度65%で測定した。試験片は幅10mmとし、φ=2.0mm、荷重0.83kg/mmとして、破断までの屈折回数を測定した。
【0091】
ハンドリング性○:屈折回数1,000回以上
ハンドリング性×: 〃 1,000回未満
(12)フィルム欠点
製膜後の熱可塑性樹脂フィルムについて、直径約0.5mm以上の欠点が存在するか目視確認し、以下の基準で評価した。
【0092】
○:欠点が見られない
×:欠点が見られる
<参考例(1)耐熱性共重合体(A)の製造>
(1)グルタル酸無水物単位を含有する耐熱性共重合体(A−1−1)、(A−1−2)の製造
(A−1−1)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、懸濁剤としてアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(重量比20/80、特公昭45−24151号公報実施例1記載)0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質の反応系を攪拌しながら添加し、60℃に昇温し懸濁重合を開始した。
【0093】
メタクリル酸 50重量部
メタクリル酸メチル 50重量部
t−ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤) 0.3重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤) 0.4重量部
15分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、50分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、ビーズ状のビニル系共重合体(原重合体(A−1−0))を得た。ガスクロマトグラフィーにより残存モノマー量を測定の結果、残存モノマーはメタクリル酸0.7重量部、メタクリル酸メチル0.8重量部であった。重量平均分子量は7万であった。
【0094】
このビーズ状ビニル系共重合体(A−1−0)を、スクリュウ径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュウ回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−1−1)を得た。得られた(A−1−1)について、H−NMRスペクトルを測定し、スペクトルの帰属を、0〜0.8ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、0.8〜1.6ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水、3.0ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、11.9ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素とした。スペクトルの積分比から各共重合単位の組成を計算した結果、下記のとおりであった。
【0095】
メタクリル酸単位:2.0重量%
メタクリル酸メチル単位:51.5重量%
グルタル酸無水物単位:46.5重量%
(A−1−2)
(A−1−1)を再度、スクリュウ径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュウ回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル無水物単位を含有する共重合体(A−1−2)を得た。H−NMRスペクトルの積分比より算出した、(A−1−2)の各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0096】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:50.0重量%
グルタル酸無水物単位:49.9重量%
(2)グルタル無水物単位を含有する共重合体(A−2−1)および(A−2−2)の製造
(A−2−1)
(A−1−0)と同様の方法で、モノマー組成をメタクリル酸20重量部、メタクリル酸メチル80重量部に変更してビーズ状のビニル系重合体(A−2−0)を得た。ガスクロマトグラフィーにより残存モノマー量を測定の結果、残存モノマーはメタクリル酸0.2重量部、メタクリル酸メチル0.7重量部であった。重量平均分子量は13万であった。このビニル系共重合体を同様の方法で溶融混練し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−2−1)を得た。H−NMRスペクトルの積分比より算出した、(A−2−1)の各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0097】
メタクリル酸単位:1.3重量%
メタクリル酸メチル単位:81.0重量%
グルタル酸無水物単位:17.7重量%
(A−2−2)
上記の(A−2−1)を再度、スクリュウ径30mm、L/Dが25のベント付き同方向回転2軸押出機(池貝鉄工製 PCM−30)のホッパー口より供給して、樹脂温度250℃、スクリュウ回転数100rpmで溶融押出し、ペレット状のグルタル無水物単位を含有する共重合体(A−2−2)を得た。H−NMRスペクトルの積分比より算出した、(A−2−2)の各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0098】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:79.8重量%
グルタル酸無水物単位:20.1重量%
(3)グルタル無水物単位を含有する共重合体(A−3−1)の製造
(A−3−1)
(A−1−0)と同様の方法で、モノマー組成をメタクリル酸30重量部、メタクリル酸メチル70重量部に変更してビーズ状のビニル系重合体(A−3−0)を得た。ガスクロマトグラフィーにより残存モノマー量を測定の結果、残存モノマーはメタクリル酸0.3重量部、メタクリル酸メチル0.7重量部であった。重量平均分子量は9万であった。このビニル系共重合体を同様の方法で溶融混練し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−3−1)を得た。H−NMRスペクトルの積分比より算出した、(A−3−1)の各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0099】
メタクリル酸単位:0.1重量%
メタクリル酸メチル単位:69.8重量%
グルタル酸無水物単位:30.1重量%
(A−4−1)
(A−1−0)と同様の方法で、モノマー組成をメタクリル酸15重量部、メタクリル酸メチル75重量部、スチレン10重量部、および、重合開始剤をn−ドデシルメルカプタン1.5重量部に変更してビーズ状のビニル系重合体(A−4−0)を得た。ガスクロマトグラフィーにより残存モノマー量を測定の結果、残存モノマーはメタクリル酸0.6重量部、メタクリル酸メチル1.0重量部であった。重量平均分子量は10万であった。このビニル系共重合体を同様の方法で溶融混練し、ペレット状のグルタル酸無水物単位を含有する共重合体(A−4−1)を得た。H−NMRスペクトルの積分比より算出した、(A−4−1)の各共重合単位の組成は下記のとおりであった。
【0100】
メタクリル酸単位:2.0重量%
メタクリル酸メチル単位:73.0重量%
グルタル酸無水物単位:16.0重量%
スチレン単位:9.0重量%
得られた各耐熱性共重合体(A)の各共重合成分組成を表1にまとめる。
【0101】
<参考例(2)ゴム質含有重合体(B)の製造>
(B−1−1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5重量部、過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌後、アクリル酸ブチル53重量部、スチレン17重量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル15.5重量部、メタクリル酸14.5重量部、過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、さらに90分間保持して、グラフト成分を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、ゴム質含有重合体(B−1−1)を得た。このゴム質含有重合体(B−1−1)のグラフト率は41重量%であった。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は0.16μmであった。
【0102】
(B−1−2)
グラフト成分の仕込み混合物組成を、メタクリル酸メチル30重量部、過硫酸カリウム0.005重量部とした以外は、上記(B−1−1)と同様にして、ゴム質含有重合体(B−1−2)を得た。このゴム質含有重合体(B−1−2)のグラフト率は48重量%であった。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は0.25μmであった。
【0103】
(B−1−3)
グラフト成分の仕込み混合物組成を、メタクリル酸メチル21.0重量部、メタクリル酸9.0重量部とした以外は、上記(B−1−1)と同様にして、ゴム質含有重合体(B−1−3)を得た。このゴム質含有重合体(B−1−3)のグラフト率は43重量%であった。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は0.15μmであった。
【0104】
(B−2−1)
ポリブタジエンラテックス(数平均粒子径0.3μm) 50重量部(固形分換算)
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.4重量部
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム 0.1重量部
硫酸第一鉄 0.01重量部
リン酸ナトリウム 0.1重量部
純水 200重量部
以上の物質を重合容器に仕込み、窒素置換後、撹拌しながら65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、メタクリル酸メチル36.0重量部、スチレン11.5重量部、アクリロニトリル2.5重量部およびt−ドデシルメルカプタン0.3重量部からなる混合物を5時間かけて連続滴下した。並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を、5時間で連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを1.5%硫酸で凝固し、次いで苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、パウダー状のゴム質含有重合体(B−2−1)を得た。このゴム質含有重合体(B−2−1)のグラフト率は47重量%であった。
【0105】
(B−3−1)
(B−1−1)のゴム質重合体の仕込み混合物組成を、アクリル酸ブチル28重量部、スチレン42重量部とした以外は、上記(B−1−1)と同様にして、ゴム質含有重合体(B−3−1)を得た。このゴム質含有重合体(B−3−1)のグラフト率は50重量%であった。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は0.15μmであった。
【0106】
<参考例(3)溶融製膜用チップの製造>
上記の参考例(1)で得られた耐熱性重合体(A)および参考例(2)で得られたゴム質含有重合体(B)を表3に示した組成比で配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、溶融製膜用チップを得た。
【0107】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
(4)製膜
(実施例1)
上記溶融製膜用チップ(C−1)を80℃で8時間減圧乾燥後、ベント付φ65mm一軸押出機を使用して260℃で押し出し、ギヤポンプにより吐出量を一定とした後、25μmカットフィルターを用いて濾過し、ダイ直前において分流器を設け、壁面滞留した樹脂と中心部の滞留時間の短い樹脂の分流量の割合を15/85重量%とし、リップ間隙0.6mmのフラットダイ(設定温度260℃)を介してシート状に吐出させた。吐出後、表面仕上げ1Sのステンレス製冷却ロール(130℃)にシート状の溶融樹脂の両面を完全に密着させるようにして冷却した後、壁面滞留した樹脂を含む端部を切断し、厚み100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。溶融樹脂がダイから吐出するまでの滞留時間は80分であった。分流器は二重配管とし、内側隔壁と外壁の間を流れる壁面滞留した樹脂のうち、製品中央部表層に流れ込もうとする壁面滞留した樹脂をシート両端部に流れ込むように、三角形の障壁(内側隔壁と外壁の間)を設けた構成とした。
【0108】
(実施例2〜6)
溶融製膜用チップ、厚み、ドラフト比、分流量の割合を変更した以外は実施例1と同様にして、表4、5に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0109】
(比較例1)
上記溶融製膜用チップ(C−1)を80℃で8時間減圧乾燥後、ベント付φ65mm一軸押出機を使用して260℃で押し出し、ギヤポンプにより吐出量を一定とした後、25μmカットフィルターを用いて濾過し、分流器を用いることなく、リップ間隙0.6mmのフラットダイ(設定温度260℃)から吐出させた。吐出後、表面仕上げ1Sのステンレス製冷却ロール(130℃)にシート状の溶融樹脂の両面を完全に密着させるようにして冷却した後、厚み100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。溶融樹脂がダイから吐出するまでの滞留時間は80分であった。
【0110】
(比較例2〜3、5〜6)
溶融製膜用チップ、厚み、ドラフト比を変更した以外は比較例1と同様にして、表4、5に示す熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0111】
(比較例4)
上記溶融製膜用チップ(C−4)を80℃で8時間減圧乾燥後、メチルエチルケトンに固形分濃度30重量%となるように溶解させ、2μmカットフィルターを用いて濾過を行った。この溶液をギヤポンプを用いてリップ間隙0.5mmのダイを通じてPETフィルム上にキャストし、熱風オーブンにて60℃、110℃、170℃でそれぞれ30分間熱処理を行い、熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0112】
各熱可塑性樹脂フィルムの評価結果を表1〜5に示した。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【0118】
表5の実施例、比較例より以下のことが明らかである。本発明の熱可塑性樹脂フィルムは分流手段を行わないものと比較して透明性および色調が向上している。さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは破断伸度が大きく、また耐折屈折回数も多く、巻出し時などのハンドリング性が良好であることを示している。比較例4では、透明性および色調は向上しているが、残存溶媒を揮発するときに発生する突沸欠点により、品質が損なわれている。比較例5および6では、耐熱性共重合体とゴム質含有重合体の屈折率差が大きいため、透明性が大幅に低下しているのみならず、破断伸度、耐折性も悪化していることがわかる。上記の通り、本発明の高透明熱可塑性樹脂フィルムは透明性、耐熱性およびハンドリング性に優れるので、光学ディスク、ディスプレイ部材、光学レンズ、および液晶バックライト用導光板用の材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融製膜法により得られる熱可塑性樹脂フィルムであって、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する耐熱性共重合体(A)と、ゴム質含有重合体(B)とを含み、厚みが5〜250μm、ヘイズ値が1.0%以下、表面粗さSRaが40nm以下、ガラス転移温度が120℃以上である熱可塑性樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項2】
耐熱性共重合体(A)が、(i)上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を有する共重合体である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
耐熱性共重合体(A)が、上記(i)、(ii)の単位に加えて、さらに(iii)不飽和カルボン酸単位、および/または、(iv)ビニル単量体単位を含有する共重合体である、請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
波長590nmの光線に対するフィルムの面内の位相差が5nm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
不飽和カルボン酸単位(iii)の含有量が0〜1重量%である、請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
耐熱性共重合体(A)10〜90重量部と、ゴム質含有重合体(B)90〜10重量部とからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
耐熱性共重合体(A)とゴム質含有重合体(B)の屈折率差が0.02以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
ゴム質含有重合体(B)が、ゴム質重合体(B−1)の層とグラフト成分(B−2)の層とからなる、請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
ゴム質重合体(B−1)が、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有し、グラフト成分(B−2)が、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を有する、請求項8に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
ゴム質含有重合体(B)の重量平均粒子径が0.01〜1μmである、請求項6〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
ダイを用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造するに際し、ダイのリップ間隙とフィルム平均厚みとが下記式を満足するようにダイのリップ間隙を調整する、請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(ダイのリップ間隙(mm)/フィルム平均厚み(μm))×1,000≦20.0
【請求項12】
ダイの上流に位置する配管内に、配管内を流れる熱可塑性樹脂の壁面近傍部分と中心部分とを分流せしめる分流手段を設けて、中心部分の熱可塑性樹脂をダイから吐出する、請求項11に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−239742(P2008−239742A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80994(P2007−80994)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】