説明

熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】 耐熱性や表面硬度、外観および光学特性に優れ、かつ耐引き裂き性が高く、取り扱い性・加工性にも優れた特に偏光子保護フィルム等の光学用途に好適な熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 少なくともフィルムの幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層とを有する、幅方向に積層された熱可塑性樹脂フィルムであって、幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度が1,000mN/mm以上であり、かつ、幅方向中央部における幅方向の引裂き強度よりも幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度の方が高い熱可塑性樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅方向に積層された構造を有し、耐引き裂き性に優れ、エッジトリミング、延伸、貼り合わせ等のフィルム製造工程および加工工程時の安定性に優れた熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、中央部を形成する層は、光学特性や表面硬度、外観特性に優れ、かつ端部を形成する層により優れた工程安定性を付与した、例えば偏光子保護フィルムなどの光学フィルムに好適な熱可塑性樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学用途やディスプレイにおいては、例えば、液晶テレビの薄型化、高輝度化、高精細化に伴い、表面硬度が高く平滑性に優れ、内部異物が少なく、かつ高い耐熱性や各方向の屈折率を精密に制御可能な高品位で高機能なフィルムを低コストで供給することが求められている。これらに対応するために、従来から広く使用されているトリアセチルセルロース系フィルムに加えて、例えばノルボルネン構造を有する脂環式ポリオレフィン系樹脂フィルム(特許文献1)、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂フィルム(特許文献2、3)、グルタル酸無水物成分を有するアクリル系樹脂フィルム(特許文献4、5)などの各種フィルムが提案されている。
【0003】
しかしながら、トリアセチルセルロース系フィルムでは、吸湿性が高いことや、位相差が環境により変化しやすい問題点があり、また、脂環式ポリオレフィン系樹脂フィルムでは、特に偏光子保護フィルム用として重要な特性である、光学等方性に劣るという問題がある。
【0004】
一方、アクリル系樹脂フィルムについては、光学等方性や透明性など特性面で優れているものの、樹脂が割れやすいという特性を有するため、耐引き裂き性が低いフィルムとなり、製造中に割れたり裂けたりしやすく、生産安定性が低い問題がある。
【0005】
それらを解決するために、例えば延伸を行うことで耐引き裂き性や耐折れ性を付与する方法がとられている(特許文献2、3)。しかしながら、未延伸でのフィルムが脆く、特にフィルムエッジの厚みが厚い部分が脆いため、延伸時にクリップで端部を把持する際に割れを生じたり、エッジが厚いため延伸時のムラやしわの原因となる等の問題がある。また、延伸前にエッジ部を除去する方法を採った場合は、エッジトリミング部分からのフィルムが破れ易く生産安定性に劣る問題がある。
【0006】
その他の方法としては、例えば弾性を有する粒子を含有することで耐引き裂き性を改善する方法が提案されている(特許文献4、5)。しかしながら、弾性粒子が熱による劣化物を生じたり、粒子同士の凝集物が生じたりすることでフィルム欠点の原因となったり、弾性粒子を加えることでフィルムの表面硬度が低下し、ハードコート層を付与した場合でも表面硬度が所定の値に達しないという問題がある。
【特許文献1】特開2006−62109号公報
【特許文献2】特開2007−63541号公報
【特許文献3】特開2008−9378号公報
【特許文献4】特開2005−314534号公報
【特許文献5】特開2006−241197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、耐熱性や表面硬度、外観および光学特性に優れ、かつ耐引き裂き性が高く、取り扱い性・加工性にも優れた特に偏光子保護フィルム等の光学用途に好適な熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した問題に鑑み鋭意検討した結果、幅方向に積層した構造を有する積層構成を有し、その幅方向両端部を形成する層の耐引裂き性を向上することで、製品として重要なフィルム中央部の特性を落とすことなく、優れた取り扱い性・加工性を付与できることを見いだしたものである。
【0009】
具体的には、以下の特徴を有している。
【0010】
(1)少なくともフィルムの幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層とを有する、幅方向に積層された熱可塑性樹脂フィルムであって、幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度が1,000mN/mm以上であり、かつ、幅方向中央部における幅方向の引裂き強度よりも幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度の方が高い熱可塑性樹脂フィルム。
【0011】
(2)幅方向中央部を形成する層について、ヘイズが1.5%以下であり、全光線透過率が90%以上であり、鉛筆硬度が3B以上であり、かつ、光学用フィルムとして用いられる、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0012】
(3)幅方向中央部を形成する層に含まれる熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上のアクリル樹脂である、上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0013】
(4)アクリル樹脂が、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)である、上記(3)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
(5)幅方向両端部を形成する層に含まれる熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂(A)50〜95質量%とアクリル弾性体粒子(B)5〜50質量%とで構成されている、上記(4)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0016】
(6)少なくとも2台の押出機から供給される溶融熱可塑性樹脂を幅方向中央部およびその両端部に幅方向両端部として幅方向に共押出積層し冷却固化した後、その幅方向両端部においてエッジ部を切断して熱可塑性樹脂フィルムを得る、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
(7)冷却固化した後、少なくとも一方向に延伸する、上記(6)に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性や表面硬度、外観特性、光学特性に優れ、かつ耐引き裂き性が高く、取り扱い性・加工性にも優れた特に偏光子保護フィルム等の光学用途に好適な熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフィルムの幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層とを有する、幅方向に積層された構造を有している。ここで、幅方向に積層された構造を有するフィルム例の概略図を図1に示す。1はフィルム幅方向、2はフィルム長手方向であり、また、3がフィルムの幅方向中央部を形成する層、4がフィルムの幅方向両端部を形成する層である。
【0021】
耐熱性があり表面硬度が高く、また、透明性や光学等方性に優れた光学用樹脂としては、例えば脂環式ポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられるが、フィルムの靱性が低い傾向があり、フィルム搬送中やエッジ部のトリミング時、あるいは延伸や貼り合わせなどの後工程においてはフィルム端部からの裂けや割れによる破れが多く発生し、生産性に劣るという問題がある。そこで、光学特性に優れた層と耐引き裂き性、靱性に優れた層とを厚み方向ではなく幅方向について積層し、幅方向中央部は光学特性に優れた層とし、幅方向両端部を靱性に優れた層とすることにより、それぞれの役割にあった樹脂層を幅方向について形成することにより、フィルムとしての優れた特性と生産性を両立させることが可能となる。
【0022】
本発明において、フィルムの幅方向中央部を形成する層は、同一層である必要はなく、必要とされるフィルム特性により幅方向に2層以上に積層されていてもよい。また、フィルムの幅方向両端部を形成する層を構成する樹脂はそれぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。さらに、例えば、フィルム中央部を形成する層の表面側にさらに異なる樹脂層を形成するなど、フィルムの幅方向中央部、幅方向両端部を問わず、厚み方向に積層した層を有していてもよい。
【0023】
本発明において、幅方向に積層した構造を持つフィルムの製造方法は、特には限定されず、例えば、共押出により幅方向に異なる樹脂を積層する方法、フィルムの両端部に溶融押出あるいは溶媒に溶解した樹脂溶液を口金から吐出し積層する方法や、貼り合わせにより積層する方法など、種々の方法を用いることが可能であるが、積層の精度や積層された層間の密着力、製品の巻き姿、製造コストの面から、共押出による積層方法が好ましい手法として挙げられる。
【0024】
共押出法により幅方向の積層フィルムを得る方法としては、例えば幅方向に層D/層C/層Dの3層が積層された構成(以下、単にD/C/Dといった形式で表記することがある)を有する積層フィルムの製造方法の場合、以下のような方法が例示される。
【0025】
フィルム中央部を形成する層Cを構成する樹脂(C)と、フィルム両端部を形成する層Dを構成する樹脂(D)をそれぞれ別の押出機(少なくとも2台使用)にて溶融押出しした後に、フィードブロックや複合口金により、溶融された樹脂(D)が溶融された樹脂(C)の両端に位置するように幅方向に積層し、その後、冷却ドラム上で冷却固化し、フィルムエッジ部分を樹脂層Dの部分においてトリミング(切断)することにより、幅方向にD/C/Dの3層構成を有するフィルムを得ることができる。
【0026】
本発明において幅方向両端部を形成する層の幅は、5〜150mmが好ましく、さらに好ましくは15〜100mmである。幅が5mm未満である場合は、フィルム端部からの裂けや割れにより生産性が悪化する傾向がある。また、幅方向両端部の幅が150mmを超えると、最終製品として使用できる中央部の幅が狭くなり、生産性が落ちる傾向がある。幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層の境界は、通常特性が違う樹脂を幅方向に重ね合わせるため、反射光あるいは透過光、または偏光を利用した透過光検査にて目視により決定することが可能であるが、幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層の境界が目視では不明瞭な場合は、フィルムの幅方向に切り出した超薄膜切片の断面を透過型顕微鏡等で観測することで、その境界を決定することができる。なお、断面を観察する際に、境界面を明瞭化する目的で、サンプルをあらかじめRuO等の染色剤により染色してもよい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、幅方向両端部におけるフィルム幅方向の引き裂き強度は1,000mN/mm以上であり、好ましくは1,500mN/mm以上、さらに好ましくは2,000mN/mm以上である。また幅方向中央部におけるフィルム幅方向の引き裂き強度よりも幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度の方が高いことが重要である。本発明において、幅方向両端部を形成する層は、耐引き裂き性に優れ、フィルム製造工程および後加工の工程でのフィルム端部の割れや裂けにより発生する破れを減少させる役割を担う。幅方向両端部の幅方向引き裂き強度が1,000mN/mm未満である場合には、フィルム搬送中やエッジ部のトリミング時などのフィルム製造工程中、あるいは延伸や貼り合わせなどの後工程においてフィルム端部からの裂けや割れが中央部に伝搬することによる破れが多く発生し、生産性に劣ることがある。引き裂き強度の上限値は特に規定されないが、通常20,000mN/mm程度である。幅方向両端部を形成する層の幅方向引き裂き強度を1,000mN/mm以上とする方法は特には限定されないが、幅方向両端部を形成する熱可塑性樹脂を、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ナイロン樹脂などの耐引き裂き性に優れた樹脂とする方法や、ゴム弾性を有する樹脂および粒子を混合、分散させることで得ることができる。また、積層された層間の密着力を高め、層間剥離を防止するために、幅方向両端部を形成する熱可塑性樹脂の主成分が、幅方向中央部を形成する熱可塑性樹脂の主成分と同じであることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂、特に幅方向中央部において用いられる樹脂は実質的に透明であれば特に種類を問わず使用できるが、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート、塩化ビニル、脂環式ポリオレフィンが好適であり、特に光学等方性からアクリル樹脂が好適に用いられる。
【0029】
脂環式ポリオレフィン樹脂とは、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するポリオレフィン樹脂であり、例えば、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため特に好ましい。
【0030】
アクリル樹脂とは、アクリル酸およびその誘導体を重合して得られる樹脂であり、本発明においては、耐熱性・光学等方性の発現のために、分子中に下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂を用いることが好ましく、また、分子中に下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位および下記一般式(2)で表されるグルタルイミド単位を含有することが好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【0033】
【化3】

【0034】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
ガラス転移温度(Tg)や熱変形温度など、樹脂フィルムの耐熱性は樹脂構造の自由度により決まり、自由度の小さいもの、例えば、剛直なベンゼン環が、剛直なイミド結合で結合された芳香族ポリイミドは400℃を超えるTgを持つ。一方、自由度の大きい柔軟な脂肪族の重合体であるポリメタクリルメチル(PMMA)のTgは100℃に満たない。本発明で用いることができるアクリル樹脂は脂環構造を有し、グルタル酸無水物単位およびグルタルイミド単位を含有することにより、耐熱性を著しく向上することができるため好ましい。
【0035】
また、光学等方用途では位相差が小さいことが要求される。ここでπ電子を多く持つ芳香環を導入すると、耐熱性は脂環構造を導入する以上に向上するが、同時に複屈折が大きくなり、位相差が発現しやすくなる問題がある。このため、光学等方性を保ったまま、耐熱性を向上させるためには脂環構造を含有することが最も好ましい。脂環構造としてはグルタル酸無水物構造、イミド環構造、ラクトン環構造、ノルボルネン構造、シクロペンタン構造などが挙げられる。光学等方と耐熱性については、どの構造を用いても同様の効果が得られるが、ラクトン環構造、ノルボルネン構造、シクロペンタン構造などの導入にはこれら構造を有する高価な原料を使用するか、またはこれら構造の前駆体となる高価な原料を使用し、数段階の反応を経て、目的の構造にする必要があるため、工業的に不利である。一方、グルタル酸無水物単位およびグルタルイミド単位は一般的なアクリル原料から1段階の脱水および/または脱アルコール反応により得られるため工業的に非常に有利であり、特に、グルタル酸無水物単位を有するアクリル樹脂が生産性や製造コストの観点から好ましい。
【0036】
ここで、光学等方用途とは、その素材の内部で光学的等方性が求められる用途で、具体的には偏光板保護フィルム、レンズ、光導波路コアなどが例示できる。液晶テレビにおいて、偏光板は2枚を直交または平行して使用されるが、偏光板保護フィルムが存在しないか、光学等方である場合、偏光板2枚を直交した状態では黒が表示され、偏光板2枚を平行した状態では白が表示される。一方、偏光板保護フィルムが光学等方でない場合、偏光板2枚を直交した状態では黒ではなく例えば濃い紫が表示され、偏光板2枚を平行した状態では白ではなく例えば黄色が表示される。この着色は偏光板保護フィルムの異方性によって異なる。偏光板保護フィルムは光学的には存在しないことが理想であるが、外からの応力および水分から偏光子を保護する目的で必要不可欠である。また、レンズの場合、レンズはその界面で光を屈折することを目的とするが、レンズ内は均一に光が進むことが必要である。レンズ内が光学等方でないと、像が歪むなどの問題がある。光導波路コアの場合、光学等方でないと例えば、横方向の波と、縦方向の波の信号の伝達速度に差が生じるため、ノイズ、混信の問題を起こす原因となる。他の光学等方用途としては、プリズムシート基材、光ディスク基板、フラットパネルディスプレイ基板などが挙げられる。
【0037】
次にグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)の製造方法を詳述する。
【0038】
後の加熱工程により上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸単量体(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体(iii)とを重合させ、共重合体(a)とした後、かかる共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には共重合体(a)を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。
【0039】
この際用いられる不飽和カルボン酸単量体(i)としては、特に限定はなく、他のビニル化合物(iii)と共重合させることが可能な、一般式(i)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0040】
【化4】

【0041】
(ただし、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す)
特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(i)で表される不飽和カルボン酸単量体(i)は共重合すると下記一般式(i-2)で表される構造のカルボン酸単位を与える。
【0042】
【化5】

【0043】
(ただし、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す)
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)としてはメタクリル酸メチルが、得られるフィルムの透明性、耐候性の点から好ましい。さらに他の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体をメタクリル酸メチルと共に1種または2種以上を用いることができる。他の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(ii)で表されるものを挙げることができる。
【0044】
【化6】

【0045】
(ただし、Rは水素または炭素数1〜5の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示し、Rは水素以外の任意の置換基を示す。)
これらのうち、Rとして、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(ii)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(ii-2)で表される構造のカルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0046】
【化7】

【0047】
(ただし、Rは水素または炭素数1〜5の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示し、Rは水素以外の任意の置換基を示す。)
メタクリル酸メチル以外の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。
【0048】
また、本発明で用いるアクリル樹脂(A)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体(iii)を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体(iii)の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0049】
アクリル樹脂(A)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合等の種々の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合、沈殿重合が好ましい。
【0050】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい重合温度は85℃以下であり、特に好ましくは75℃以下である。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能であるが、この場合も昇温する上限温度は95℃以下に制御することが好ましく、重合開始温度も75℃以下の比較的低温で行うことが好ましい。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜180分間の範囲が特に好ましい。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムに使用することが好ましいアクリル樹脂(A)は、質量平均分子量が8万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル樹脂(A)は、共重合体(a)の製造時に、共重合体(a)を所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。質量平均分子量が、15万を超える場合、後工程の加熱脱気時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、5万未満の場合、アクリル樹脂フィルムの機械的強度が低下する傾向が見られる。
【0052】
共重合体(a)の分子量制御方法については、特に制限はなく、種々の技術を適用することができる。例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0053】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルが好ましく用いられる。
【0054】
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、本発明の特定の分子量に制御するものであれば、特に制限はないが、通常、単量体混合物の全量100質量部に対して、0.2〜5.0質量部であり、好ましくは0.3〜4.0質量部、より好ましくは0.4〜3.0質量部である。
【0055】
本発明において、共重合体(a)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法は、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や不活性ガス雰囲気または減圧下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が生産性の観点から好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、“ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。また、これらに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0056】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜300℃の範囲、特に200〜280℃の範囲が好ましい。
【0057】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し気泡の発生が見られたり、成形滞留時に色調が大幅に悪化したり、吸湿による寸法安定性が低下する傾向がある。上限については、押出機の機械的強度等、構造上の観点から110以下が好ましい。
【0058】
さらに本発明では、共重合体(a)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(a)100質量部に対し、0.01〜1質量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0059】
本発明に用いられるアクリル樹脂(A)中の前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の含有量は、3〜30mol%、より好ましくは5〜20mol%である。グルタル酸無水物単位が3mol%未満である場合、ガラス転移温度(Tg)が低下し、耐熱性向上効果が小さくなることがある。また、グルタル酸無水物単位が30mol%を超えると靱性が悪くなることがある。耐熱性向上と靱性向上はトレードオフの関係にあり、グルタル酸無水物単位の含有量で調整可能である。このためグルタル酸無水物単位の含有量は用途に応じて3〜30mol%の範囲内で任意の値を採用することが好ましい。
【0060】
アクリル樹脂(A)に含まれる他の成分としてはメタクリル酸メチル単位および、メタクリル酸単位等が挙げられるが、メタクリル酸メチル単位が含有されることが好ましく、また、メタクリル酸メチル単位の含有量は光学等方性、靱性の観点から55〜95mol%が好ましい。さらに、アクリル樹脂(A)の耐加水分解性および光学等方性の観点からメタルクリル酸メチル単位の含有量とグルタル酸無水物単位の含有量の和が90mol%以上であることが好ましい。メタルクリル酸メチル単位の含有量とグルタル酸無水物単位の含有量の和が90mol%未満である場合は、光学等方性が損なわれたり、耐加水分解性が悪化することがある。
【0061】
グルタル酸無水物単位とメタクリル酸メチル単位以外にグルタル酸無水物単位の前駆体である、メタクリル酸単位が含まれていても構わない。メタクリル酸単位にメタクリル酸単位またはメタクリル酸メチル単位が隣接した場合、製膜や、延伸などの工程での加熱時に脱水または脱アルコール反応が起こり、発泡の原因となることがあるが、グルタル酸無水物単位が隣接していれば、脱水または脱アルコール反応は起こり得ないので、メタクリル酸単位が含まれていても構わない。
【0062】
本発明に用いられるアクリル樹脂(A)における各成分単位の定量には、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0063】
また、本発明に用いられるアクリル樹脂(A)は、アクリル樹脂(A)中に不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0064】
本発明に用いられるアクリル樹脂(A)中に含有される不飽和カルボン酸単位量は10mol%以下、すなわち0〜10mol%であることが好ましく、より好ましくは0〜5mol%、最も好ましくは0〜2mol%である。不飽和カルボン酸単位が10mol%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0065】
また、アクリル樹脂(A)に共重合可能な他のビニル系単量体単位量は5mol%以下、すなわち0〜5mol%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3mol%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0066】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は110℃以上が好ましく、より好ましくは120℃以上である。Tgが110℃未満である場合は、耐熱性が劣るため、例えばフィルム上にハードコート等の加工を施す場合に、平面性不良が発生したり、縮みによるカールが大きくなる等の問題が発生したり、またディスプレイ内部に使用された場合、内部の熱による寸法変化や平面性の悪化等で画像が劣化したりすることがある。また、ガラス転移温度(Tg)の上限については特に規定されないが、樹脂の製造上の問題およびフィルム製造時の溶融押出し性から、通常200℃以下である。ガラス転移温度(Tg)を上記範囲に制御する方法については、特に限定されないが、例えば樹脂の組成・分子量などで適宜調整することが可能である。特にアクリル系樹脂に関しては例えば上述の通り、分子内に導入する環化構造の割合によりガラス転移温度(Tg)の調整が可能である。
【0067】
本発明においては、上記のアクリル樹脂(A)にアクリル弾性体粒子(B)を分散せしめることにより、アクリル樹脂(A)の優れた特性を大きく損なうことなく優れた耐引き裂き性および耐衝撃性を付与することができるため、幅方向両端部を形成する熱可塑性樹脂中に含有せしめることが好ましい。幅方向両端部を形成する熱可塑性樹脂中におけるアクリル弾性体粒子(B)の含有量としては、幅方向両端部を形成する熱可塑性樹脂100質量%に対して、5〜50質量%が好ましく、さらに好ましくは10〜30質量%である。アクリル弾性体粒子(B)が5質量%未満である場合には、十分な耐引き裂き性を付与することができない場合がある。アクリル弾性体粒子(B)が50質量%を超える場合には、耐熱性が不十分となったり、溶融粘度が極端に高くなるため、押出し性に劣る等の問題が発生することがある。
【0068】
また、アクリル弾性体粒子(B)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、これらの各層が隣接し合った構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体(B−M)や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体(B−G)等が好ましく使用できる。
【0069】
本発明に使用されるコアシェル型の多層構造重合体(B−M)としては、これを構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に少なくとも1層以上のゴム層を有する多層構造重合体であることが重要である。
【0070】
本発明の多層構造重合体(B−M)において、ゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましく、例えば、(1)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分から構成されるゴム、(2)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム、(3)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム、および(4)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴムなどが挙げられる。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
【0071】
本発明の多層構造重合体(B−M)において、ゴム層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位およびその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらには不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0072】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられ、靱性および耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0073】
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0074】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0075】
上記不飽和ジカルボン酸無水物系単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0076】
また、上記脂肪族ビニル系単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを、上記芳香族ビニル系単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを、上記シアン化ビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを、上記マレイミド系単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどを、上記不飽和ジカルボン酸系単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などを、上記その他のビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを、それぞれ挙げることができ、これらの単量体は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0077】
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体(B−M)において、最外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位およびその他のビニル系単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体から選ばれた少なくとも1種が好ましく、さらには不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体がより好ましい。
【0078】
さらに、本発明では、上記の多層構造重合体(B−M)における最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明のアクリル樹脂(A)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位が生成することを見出した。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体を有する多層構造重合体(B−M)をアクリル樹脂(A)に配合し、適当な条件で、加熱溶融混練することにより、実質的には、連続相(マトリックス相)となるアクリル樹脂(A)中に、最外層に上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有してなる重合体を有する多層構造重合体(B−M)が分散することにより、凝集することなく、良好な分散状態が可能となり、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0079】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらには(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0080】
また、不飽和カルボン酸系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0081】
本発明において用いられる多層構造重合体(B−M)の構成としては、コア層(内層)がアクリル酸アルキルエステル単位および/または芳香族ビニル単位を含有するゴム弾性体であり、シェル層(外層)がグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂を含む重合体であることが靱性および耐衝撃性の観点から好ましく、具体的には、コア層(内層)がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるもの、コア層(内層)がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層(内層)がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層(内層)がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが例として挙げられる(“/”は共重合を示す)。さらに、ゴム層(内層)または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)であるアクリル樹脂(A)との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、その結果、フィルムの透明性を向上することができるため、特に好ましく使用することができる。
【0082】
本発明において用いられる多層構造重合体(B−M)の質量平均粒子径としては、0.05〜10μmとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。質量平均粒子径が0.05μm未満の場合は耐引き裂き性の向上が十分でないことがあり、10μmを超える場合は透明性が低下することがある。
【0083】
本発明において用いられる多層構造重合体(B−M)において、コアとシェルの重量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体100質量部に対して、コア層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。
【0084】
上記の多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
【0085】
多層構造重合体の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0086】
また、本発明のアクリル弾性体粒子(B)として使用することができるゴム質含有グラフト共重合体(B−G)の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0087】
グラフト共重合体(B−G)に用いられるゴム質重合体には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0088】
本発明におけるグラフト共重合体(B−G)は、グラフト共重合体(B−G)100質量部に対してゴム質重合体10〜80質量部、好ましくは20〜70質量部、より好ましくは30〜60質量部の存在下に、上記の単量体(混合物)20〜90質量部、好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜70質量部を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記の範囲未満、または上記の範囲を超える場合には、耐引き裂き性や透明性が悪化する場合がある。
【0089】
なお、グラフト共重合体(B−G)は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成するグラフトしていない共重合体を含んでいてもよい。ただし、衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の質量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gのものが、耐引き裂き性と押出し成形特性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0090】
本発明におけるビニル系共重合体(B−G)のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、耐引き裂き性と押出し成形特性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0091】
本発明におけるグラフト共重合体(B−G)の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合および乳化重合などの公知の重合法により得ることができる。
【0092】
本発明におけるグラフト共重合体(B−G)の質量平均粒子径としては、0.05〜10μmとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。質量平均粒子径が0.05μm未満の場合は耐引き裂き性の向上が十分でないことがあり、10μmを超える場合は透明性が低下することがある。
【0093】
また、アクリル樹脂(A)およびアクリル弾性体粒子(B)のそれぞれの屈折率が近似している場合、本発明のアクリル樹脂フィルムにおいて透明性を得ることができるため、好ましい。具体的には、屈折率の差が0.010以下であることが好ましく、より好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.003以下である。このような屈折率条件を満たすためには、アクリル樹脂(A)の各単量体単位組成比を調整する方法、および/またはアクリル弾性体粒子(B)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル樹脂フィルムを得ることができる。具体的にはコア層(内層)がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体である。ここで、アクリル樹脂にアクリル弾性体粒子やその他の添加剤を配合する方法としては例えば、アクリル樹脂またはアクリル樹脂とその他の添加成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃にて、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法を用いることができる。
【0094】
溶融混練において、アクリル弾性体粒子に付与したシェル部分などの不飽和カルボン酸単量体単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位の環化反応も同時に行うことができる。
【0095】
尚、ここでいう屈折率差とは、アクリル樹脂(A)が可溶な溶媒に、本発明のアクリル樹脂フィルムを適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル樹脂(A))と不溶部分(アクリル弾性体粒子(B))をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
【0096】
また、実質的なアクリル樹脂フィルム中でのアクリル樹脂(A)とアクリル弾性体粒子(B)の共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作により、各成分を個別に分析可能である。
【0097】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルムの幅方向中央部を形成する層のヘイズ値は1.5%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下である。また、フィルムの幅方向中央部を形成する層の全光線透過率は90%以上であることが好ましく、より好ましくは92%以上である。ヘイズ値および光線透過率が上記範囲を超える場合は、画像がぼやけたり、画面が暗くなるなどの傾向が見られる。ヘイズ値の下限値は特には限定されないが、巻き姿、取り扱い性の観点から通常0.1%程度である。また、全光線透過率の上限値も特には限定されないが、フィルム表面において空気層との屈折率の差異により反射される光の成分があるため、通常95%程度である。フィルムの幅方向中央部を形成する層のヘイズ値および全光線透過率を所望の範囲とする方法は特には限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成としては、樹脂中に大きさ0.01μm以上の粒子を含有しないものを使用する方法や、含有する場合は、上述のように熱可塑性樹脂との屈折率差が0.010以下の粒子に限定する方法が挙げられる。また、フィルム製造方法としては、樹脂の分解や含有する粒子の凝集を防止するために、口金から吐出される溶融樹脂の温度を、その主成分のガラス転移点(Tg)+100〜160℃の範囲とし、かつ溶融樹脂の押出機出口〜口金出口までの平均滞留時間を90分間以下とする方法などが好ましい方法として例示される。
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルムの幅方向中央部を形成する層の鉛筆硬度が3B以上(3Bであるかそれ以上硬い)であることが好ましく、さらに好ましくは2B以上である。表面の鉛筆硬度が3B未満である場合は、例えば最終製品の再外層として使用された場合、表面にキズがつきやすかったり、また表面にハードコート層を付与した場合でも、基材フィルムの表面硬度が低いことにより、フィルム表面とハードコート層の界面での割れや剥離により、所望の表面硬度が得られない等の問題が生じることがある。
【0099】
フィルムの表面硬度は、例えば上述のゴム弾性を有する粒子をフィルムの耐引き裂き性向上等のため混合した場合に低下する傾向が見られる。特にアクリル系樹脂の場合は、耐引き裂き性が弱いため、フィルム製造工程および後工程での破れ防止のためにゴム弾性を有する粒子を使用する事が公知の技術として挙げられるが、表面硬度が低下する問題がある。本発明のような幅方向に積層する構造を有し、例えば、フィルム中央部を形成する層中に含有するゴム弾性を有する粒子量を最小限とすることで表面硬度や透明性を保ちながら、フィルム両端部を形成する層において、ゴム弾性を有する粒子量を耐引き裂き性の付与に十分な量を添加する構成とすることで、表面硬度と生産性を両立することが可能となる。
【0100】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルムの幅方向中央部を形成する層の面内位相差(Δnd)は、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。また、フィルムの幅方向中央部を形成する層の厚み方向位相差(Rth)は、好ましくは−10〜10nmであり、より好ましくは−5〜5nmである。面内位相差(Δnd)や厚み方向位相差(Rth)の絶対値が10nmを超える場合は、光学等方性が悪化するため、偏光子保護フィルムなどの液晶ディスプレイ用途や光ディスク保護フィルムなどに用いた場合、画面にムラが生じたり、データエラー頻度が悪化するなどの問題が発生することがある。光学等方性が要求される用途において、面内位相差(Δnd)および厚み方向位相差(Rth)の絶対値は小さい方が好ましく理想的には0nmである。このような光学等方性の熱可塑性樹脂フィルムを得るためには、上述の通り、樹脂中にグルタル酸無水物構造、ラクトン環構造、ノルボルネン構造、シクロペンタン構造等の脂環構造を含有することが最も好ましく、また、位相差を発現させる添加剤や共重合成分を導入しないようにすること等が有効である。
【0101】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、フィルムの幅方向中央部を形成する層における光弾性係数は−10×10−12/N〜10×10−12/Nであることが好ましい。光弾性係数が−10×10−12/N〜10×10−12/Nであることにより、大画面の液晶テレビに用いたとき、アクリル樹脂フィルムと貼り合わされた他の部材の熱膨張、あるいは残留応力等に起因して、アクリル樹脂フィルムが応力を与えられた場合にも位相差の変化が小さいため好ましい。光弾性係数は小さいほど、応力に対する位相差変化が小さいため好ましく、より好ましくは−5×10−12/N〜5×10−12/Nである。アクリル樹脂フィルムの光弾性係数は一般的に小さいが、耐熱性向上のために、スチレンや、マレイミドを共重合したり、芳香族置換基を導入すると、光弾性係数も大きくなってしまう。上述のアクリル樹脂フィルムは、グルタル酸無水物構造により耐熱性向上と低光弾性係数を両立させることが可能となる。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法には、種々の方法を使用することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、溶液製膜法(流延法)、エマルション法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、T−ダイ法が好ましい。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。溶融剪断速度は1,000S−1以上5,000S−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。押出機により溶融押出しされた樹脂はギアーポンプで計量した後に異物を取り除く目的で、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等のフィルターを用いて濾過することが好ましい。キャスト方法は溶融した樹脂をTダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム上に、それ自体公知の密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させて、未延伸のフィルムを得ることが好ましい。
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよいし、フィルムの靱性を付与したり、屈折率を調整する等の目的で、少なくとも1方向以上に延伸されていてもよい。なお、この延伸は、ドラム上で冷却固化された熱可塑性樹脂のシートのエッジ部をトリミングした後に行ってもよいし、トリミングをする前に行っても構わない。
【0104】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸方法としては、特に限定されるものではなく、種々の方法を適用することが可能である。具体的には、ロール間の周速の差を利用して長手方向に1軸延伸する方法、テンターを用いて幅方向に1軸延伸する方法等の1軸延伸法、固定するクリップの間隔が開かれて長手方向の延伸と同時にガイドレールの広がり角度により幅方向に延伸する同時2軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して長手方向に延伸した後にその両端部をクリップ把持してテンターを用いて幅方向に延伸する逐次2軸延伸法などの2軸延伸法が挙げられる。
【0105】
長手方向に延伸する方法としては、ロール間でのIR加熱方式、オーブンを利用したフロート方式などが挙げられるが、光学的にバラツキが少ないフィルムを得たり、表面のキズ防止のためには、後者のオーブンによるフロート方式が好ましい。また、未延伸フィルムの製造工程とフロート方式での長手方向の延伸を一貫連続で実施する場合、端部に厚いフィルムエッジが存在すると、端部の温度が中央部と比較して上がりにくいことから、端部が延伸されにくい傾向が見られ、フィルム幅方向中央部と端部の延伸バランスが崩れることで、端部のフィルム割れやシワを生じたり、屈折率等の光学的なバラツキが大きくなる傾向があるため、エッジ部のフィルム厚みの厚い部分をトリミングにより除去した後に延伸する方法が好ましい。エッジ部のトリミングについては、耐引き裂き強度の高いフィルム幅方向両端部を形成する層の部分において行う方法が、トリミング時や延伸工程でのフィルム破れ防止の観点で好ましい。長手方向に延伸する際の延伸条件は特には限定されないが、延伸温度としてはフィルム幅方向中央部を形成する樹脂のガラス転移温度をTgcとした場合、Tgc〜Tgc+30℃の範囲が好ましい。また、延伸倍率についても、その目的により適宜調整することが可能であるが、1.1〜5.0倍が好ましい範囲として挙げられる。
【0106】
幅方向に延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。この場合も長手方向の延伸と同様に、延伸条件は特には限定されないが、延伸温度としてはフィルム幅方向中央部を形成する樹脂のガラス転移温度をTgcとした場合、Tgc〜Tgc+30℃の範囲が好ましい。また、延伸倍率についても、その目的により適宜調整することが可能であるが、1.1〜5.0倍が好ましい範囲として挙げられる。
【0107】
本発明における延伸フィルムの製造方法については、未延伸フィルムを得る工程と延伸工程を分離し、一度未延伸フィルムを巻き上げた後に、1軸あるいは必要に応じて2軸方向に延伸するセパレート方式をとってもよいし、未延伸フィルムの製膜から延伸工程までを一貫して実施し延伸フィルムを巻き取る一貫製膜方式としてもよい。また、延伸フィルムを、屈折率を所望の値に調整したり、フィルムに靱性を付与する目的等のため、必要に応じてさらに延伸を行ってもよい。セパレート方式では、各製造工程において条件を最適化することができるため、屈折率を精密に制御できる長所があり、一方、一貫方式では、ロス量を最小化できることで製造コストを低減できる長所があり、目的によって適宜選択される。また、連続一貫方式の場合は、延伸工程により耐引き裂き性が向上するため、最終的にフィルムエッジをトリミングする位置としては、幅方向両端部を形成する層において行う必要は無く、幅方向両端部を形成する層は延伸フィルムの製造工程中における搬送および延伸時の端部割れや裂けの防止層としての役割を終えた後は、トリミングにより除去されてもよい。
【0108】
本発明の熱可塑性樹脂フィルム厚みは特に限定されないが、1〜500μmが好ましく、より好ましくは、10〜250μm、さらに好ましくは20〜150μm、特に好ましくは30〜80μmである。フィルム厚みが薄くなりすぎると強度が不足したり、生産性が劣る問題が発生することがあり、また、フィルム厚みが厚くなりすぎると、製造コストが上昇したり、位相差が悪化したり、生産性が劣るなどの問題が発生することがある。
【0109】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、用途に応じて紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては任意のものを利用できるが、例えばベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、オキシベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、高分子系、無機系が例示できる。また、紫外線吸収剤は溶融樹脂と共に混練押出しされることから、耐熱性が高いことが好ましく、10%熱減量温度が300℃以上のものが好ましい。
【0110】
市販の紫外線吸収剤としては例えば旭電化工業株式会社の“アデカスタブ”、“TINUVIN”(登録商標)、BASF株式会社の“Uvinul”、城北化学工業株式会社の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0111】
芳香族高分子は主鎖の芳香族により紫外線を吸収するため、主鎖が紫外線により切断され、劣化する問題があるが、本発明のアクリル樹脂フィルムは主鎖部分が紫外線を吸収しないため、劣化することが無く、また、添加する紫外線吸収剤の種類と量により、所望の紫外線カット機能を付与できるため好ましい。さらに、添加する紫外線吸収剤は芳香族化合物であっても、高分子体でないためその分子配列がそろいにくく、位相差が発現しにくいため好ましい。
【0112】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、380nmにおける光線透過率が10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5%以下である。例えば偏光子保護フィルムとして使用した場合、380nmにおける光線透過率が10%を超えると、偏光子の紫外線による劣化速度が速くなることがある。
【0113】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満では、380nmにおける光線透過率を10%以下とすることが困難であり、また、5質量%を超えるとフィルムが着色するなどの問題が発生することがある。
【0114】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が製品に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0115】
本発明においてアクリル樹脂(A)にアクリル弾性体粒子(B)あるいはその他の添加剤などの任意成分を配合する方法には、特に制限はなく、アクリル樹脂(A)とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。また、アクリル弾性体粒子(B)を配合する場合には、(A)、(B)両成分を溶解する溶媒の溶液中で混合した後に溶媒を除く方法を用いることができる。
【0116】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに使用するアクリル樹脂の製造方法として、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を共重合して共重合体(a)を得、次いでこの共重合体(a)とアクリル弾性体粒子(B)を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練することにより、前述した(a)成分の環化反応を行うと同時に、(B)成分の配合を行うことができる。また、この際、(B)成分の一部に不飽和カルボン酸単量体単位および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位からなる共重合体を含む場合の環化反応も同時に行うことができる。
【0117】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの表面上にハードコード層を設けてもよい。ハードコート層の形成方法については特に限定されず、種々の方法を用いることができるが、多官能アクリレートを用いる方法などが例示される。多官能アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトレエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコーリジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリイソプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート及びビスフェノールAジメタクリレートの如きジアクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリアクリレート及びトリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレートのようなトリアクリレート類;ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジ‐トリメチロールプロパンテトラアクリレートの如きテトラアクリレート類;並びにペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタアクリレートのようなペンタアクリレート類を挙げることができる。
【0118】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記ハードコート層以外にも、帯電防止層、紫外線吸収層、粘着層、反射防止層などの機能層を設けることができる。これら機能層は両面に設けられてもよく、また異なる機能層が各片面側に設けられたり、また片側表面上に積層された態様で設けられてもよい。
【0119】
かくして得られるフィルムは、その優れた、耐熱性、光学等方性により、光学用途として好適である。ここでの光学用途とはディスプレイ機器用の部材であり、特に液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどフラットパネルディスプレイに用いられる部材を示す。例えば、プラスチック基板、レンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波シールドフィルムや、プリズムシート、プリズムシート基材、フレネルレンズ、光ディスク基板、光ディスク基板保護フィルム、導光板、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導電フィルムが例示でき、特にその光学等方性から偏光板保護フィルムとして有用である。
【実施例】
【0120】
[物性の測定法]
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。もちろん、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、実施例で採用した各種物性の測定方法を記載する。
【0121】
(1)引き裂き強度(エレメンドルフ)
(A)フィルムの幅方向両端部の幅方向引き裂き強度
フィルム幅方向両端部より、長手方向に75mm×幅方向63mmの長方形試験片を長手方向の1辺がフィルムの端部となるように切り出した後に、JIS K7128−2(1998)図3に従い、幅方向中央部から端部に向かって引き裂き試験を行えるように、フィルムの中央側の長手方向の1辺の中心から幅方向に20mmのスリットを入れた。得られた試験片を軽荷重引き裂き試験器((株)東洋精機製)を用いて、JIS K7128−2(1998)エレメンドルフ引き裂き法に従いフィルム幅方向の引き裂き荷重を測定し、以下の計算式により引き裂き強度を算出した。なお、測定はN=5で両端部について行い、その平均値を両端部での引き裂き強度とした。
【0122】
引き裂き強度(mN/mm)=(Nt/T)×(43/L)
ただし、Ntは引き裂き荷重(mN)、Tはフィルム厚み(mm)、Lは引き裂き長さ(mm)である。
【0123】
(B)フィルムの幅方向中央部の幅方向引き裂き強度
フィルム幅方向中央部より、長手方向に75mm×幅方向63mmの長方形試験片の切り出しを行った後に、JIS K7128−2(1998)図3に従い、任意の長手方向の1辺の中心から幅方向に20mmのスリットを入れた。得られた試験片は上記(A)フィルム両端部の幅方向引き裂き強度と同様の方法で測定した。
【0124】
(2)ヘイズ
JIS K7105(1981)6.4ヘーズ(曇価)に基づいて測定した。測定は3回行い平均値をヘイズ値とした。
【0125】
(3)全光線透過率
JIS K7105(1981)5.5.2 測定法Aに基づいて測定した。測定は3回行い平均値を全光線透過率とした。
【0126】
(4)鉛筆硬度
フィルム試験片を平らなガラス板の上に貼り合わせ、JIS K5600−5−4(1999) 引っかき硬度(鉛筆法)に従い鉛筆硬度を測定し、フィルム表面にキズを生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。
【0127】
(5)ガラス転移温度(Tg)
フィルムをデシケーター中にて24時間保管後、試料約10mgを密閉式パン中に封入し、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製 Q100型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度にて測定した。測定は2回の平均値とした。なおガラス転移温度(Tg)としてはJIS K7121(1987)の中間点ガラス転移温度(Tmg)を採用する
(6)各成分組成
フィルムをアセトンに溶解し、この溶液を9,000rpmで30分間遠心分離して、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位を定量してアクリル樹脂の各成分組成を特定した。
【0128】
各成分単位の定量は、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により行った。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0129】
(7)面内位相差(Δnd)、厚み方向位相差(Rth)
王子計測(株)社製の楕円偏光測定装置(KOBRA−WPR)と位相差測定装置KOBRA−RE(KOBRA−WR用ソフトウェア)Ver.1.21を用いた。測定は、入射角依存性測定の単独N計算モードにて、低位相差測定法を用い、遅相軸を傾斜中心軸とし、入射角40°(波長590nm)の条件にて行い、面内位相差(Δnd)および厚み方向位相差(Rth)を得た。なお、入射角0°の時の位相差であるR0値を面内位相差(Δnd)とした。また、測定はデシケーター中にて24時間保管したサンプルにて行い、N=5回の平均値を面内位相差(Δnd)および厚み方向位相差(Rth)とした。
【0130】
(8)質量平均分子量(絶対分子量)
試料をジメチルホルムアミドに溶解して0.3質量%の測定サンプル溶液とした。ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製、流速:0.8ml/分)を用いて、質量平均分子量(絶対分子量)を測定した。
【0131】
(9)外観検査
平面台の上に黒色のゴム製シートを引き、その上にフィルムサンプルをシワがないように広げた。蛍光灯光源を、サンプルへの入射角が45°となるように設置し、その反射光を目視で確認、マーキングした。マーキングされた欠点を実体顕微鏡にて倍率100倍で観察し、長径が10μmを超える異物欠点数をフィルム面積0.1m当たりの数でカウントした。
【0132】
○:観察される欠点個数が1ヶ/0.1m以下
△:観察される欠点個数が1ヶ/mを超えて3ヶ/0.1m以下
×:観察される欠点個数が3ヶ/mを超える
(10)幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層の境界
幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層の境界が、その樹脂組成の差異から、目視により判定可能であったため、目視により境界を決定した。目視での判定が不明瞭な場合は、フィルム幅方向に断面出しができるように超薄切片切り出し、透過型顕微鏡を使用し観測することで、その境界決定することができる。なお、断面を観察する際に、境界面を明瞭化する目的で、サンプルをあらかじめRuO等の染色剤により染色してもよい。
【0133】
(11)平均粒子径
試料の超薄膜切片を切り出し断面出しを行った。得られたサンプルをRuOにて染色処理をした後に、透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA、加速電圧100kV)にて粒子50点の粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0134】
[実施例]
(1)アクリル樹脂の調製
(A)アクリル樹脂(A1)
メタクリル酸メチル20質量部、アクリルアミド80質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、イオン交換水1,500質量部を反応器中に仕込み反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を得た。上記の方法で得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、撹拌しながら、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記原料モノマー混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合中間体(a−1)を得た。この共重合体(a−1)の重合率は98%であり、質量平均分子量は10万であった。
【0135】
メタクリル酸 :15質量部
メタクリル酸メチル :85質量部
t−ドデシルメルカプタン : 1.5質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル: 0.4質量部
これに添加剤(NaOCH)を配合し、2軸押出機(L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素をパージしながら、スクリュー回転数100rpm、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、次に、平均目開き3μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過し、ペレット状のアクリル樹脂(A1)を得た。このアクリル樹脂(A1)中のメタクリル酸メチル単位の組成比は86mol%、メタクリル酸単位の組成比は2mol%、グルタル酸無水物単位の組成比は12mol%であった。
【0136】
(B)アクリル樹脂(A2、A3)
原料モノマー混合物のメタクリル酸、メタクリル酸メチルの混合比、および平均分子量を表1の通りとした以外は、前記(A1)と同様にしてアクリル樹脂(A2〜A4)を得た。得られたアクリル樹脂のグルタル酸無水物単位の組成比は表1に示した通りであった。
【0137】
(2)アクリル弾性体粒子の調製
(A)アクリル弾性体粒子(B1)
イオン水120質量部、炭酸カリウム0.5質量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5質量部、過硫酸カリウム0.005質量部を、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル45質量部、スチレン15質量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)3質量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層(内層)重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル28質量部、メタクリル酸12質量部、過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層(外層)を重合させ、この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造(コアシェル構造)のアクリル弾性体粒子(B)を得た。
【0138】
(B)アクリル弾性体粒子(B2)
原料モノマーの組成を表2の通りとした以外は前期(B1)同様の方法にて、アクリル弾性体粒子B2を得た。
【0139】
[実施例1]
アクリル樹脂、アクリル弾性粒子混合物の調製
上記アクリル樹脂(A1)75質量部およびアクリル弾性体粒子(B1)を25質量部の組成比で配合し、2軸押出機(L/D=44.5)を用いてスクリュー回転数200rpm、シリンダ温度280℃で混練後し、ペレット状のアクリル樹脂中にアクリル弾性粒子が分散した混合物を得た。透過型電子顕微鏡で測定したこのアクリル弾性粒子の平均粒子径は180nmであった。
【0140】
アクリル樹脂フィルムの製造方法
ベント付きの1軸押出機(c)とベント付きの1軸押出機(d)を有する複合製膜装置において、幅方向中央部に位置するC層を形成するため、アクリル樹脂(A1)を、露点−30℃、温度100℃のドライエアーで8時間乾燥した後、押出機(c)側に供給し、ベント圧12kPa、押出し設定温度260℃にて押し出した。次に、ギアポンプを介して樹脂の計量を行った後に、平均目開き5μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過し、Tダイ複合口金(幅1,450mm)に導入した。
【0141】
一方、幅方向両端部に位置するD層を形成するため、上記(1)にて調整したアクリル樹脂(A1)とアクリル弾性粒子(B1)の混合物を、露点−30℃、温度100℃のドライエアーで8時間乾燥した後、押出機(c)側に供給し、ベント圧12kPa、押出し設定温度260℃にて押し出した。次に、ギアポンプを介して樹脂の計量を行った後に、平均目開き5μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過し、Tダイ複合口金(幅1,450mm)に導入した。
【0142】
次いで、該Tダイ複合口金内で、D層がC層の幅方向両端層に積層(幅方向にD/C/D)されるよう合流せしめた後、シート状に共押出して溶融積層シートとし、該溶融積層シートを、表面温度95℃に保たれたドラム上にて冷却固化させて未延伸積層フィルムとした。冷却固化後のエッジ付き積層未延伸フィルムの各層の幅は、D/C/D=175mm/1,000mm/175mmであった。次に両エッジ部をシェアカッターによりトリミング、除去した後、ロール状に巻き取り、厚み60μm、幅1,100mmの未延伸フィルムを得た。得られた積層未延伸フィルムの各層の幅は、D/C/D=50mm/1,000mm/50mmであった。
【0143】
得られたフィルムの表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れ、かつエッジトリミング時の破れ等がなく生産性に非常に優れたものであった。
【0144】
[実施例2]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れ、かつエッジトリミング時の破れ等がなく生産性に非常に優れたものであった。
【0145】
[実施例3]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れていた。生産性については、エッジトリミング時に端部からの破れが発生することがあり、やや悪化したが合格の範囲であった。
【0146】
[実施例4]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性に優れていた。外観特性については、ゴム弾性粒子による欠点が一部見られたが、合格の範囲であった。生産性については、エッジトリミング時の破れ等がほとんどなく生産性に優れたものであった。
【0147】
[実施例5]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れていた。生産性については、エッジトリミング時に端部からの破れが発生することがあり、やや悪化したが合格の範囲であった。
【0148】
[比較例1]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとし、幅方向に単一の構成とした以外は、実施例1と同様にして未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、エッジトリミング時および搬送時に端部からの破れが多発し、生産性が非常に劣るものであった。
【0149】
[比較例2]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、エッジトリミング時に端部からの破れが多発し、生産性が非常に劣るものであった。
【0150】
[比較例3]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとし、幅方向に単一の構成とした以外は、実施例1と同様にして未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、外観特性が劣るものであった。また、透明性や表面硬度についても悪化した。
【0151】
[比較例4]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、エッジトリミング時に端部からの破れが時々発生し、生産性に劣るものであった。
【0152】
[比較例5]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとし、幅方向に単一の構成とした以外は、実施例1と同様にして未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、外観特性が劣るものであったと共に、エッジトリミング時および搬送時に端部からの破れが多発し、生産性が非常に劣るものであった。
【0153】
[実施例6]
実施例2で得た厚み60μm、1,100mm幅の未延伸フィルムを、オーブンを利用したフロート方式を用いて、135℃にて長手方向に1.4倍に延伸した。延伸後のフィルムの全幅は950mmであった。得られた長手方向1軸延伸フィルムを連続してテンターにより135℃にて幅方向に1.7倍延伸し、長手方向および幅方向に延伸された2軸延伸フィルムを得た。次に両エッジ部をシェアカッターによりトリミング、除去した後、ロール状に巻き取り、厚み30μm、幅1,300mmの2軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れていた。生産性については、エッジトリミング時に端部からの破れ等が無く、非常に生産性に優れたものであった。
【0154】
[比較例6]
使用する未延伸フィルムおよび延伸条件を表4の通りとした以外は、実施例6と同様にして、2軸延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、延伸時の端部からの割れやエッジトリミング時に端部からの破れが時々発生し、生産性に劣るものであった。
【0155】
[実施例7]
使用する原料を表5とし、Tダイ複合口金の幅を700mmとした以外は実施例1と同様にして、エッジ付きの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムの両エッジをシェアカッターにて切断、除去した後、ロール間延伸方式にて120℃の予熱ロールにて予熱後、125℃の延伸ロールと温度100℃の冷却ロール間にて、長手方向に1.4倍に延伸し、幅470mmの1軸延伸フィルムを得た。なお、延伸ロールと冷却ロールは同方向に回転し、その間隔を400mmとした。また、延伸ロールと冷却ロールの中間点において、フィルムとの距離が20mmとなるように設置したIRヒーター(3.4kW)にてフィルムを加熱しながら延伸した。得られた1軸延伸フィルムをテンターにて幅方向に1.6倍延伸し、長手方向および幅方向に延伸された2軸延伸フィルムを得た。次に両エッジ部をシェアカッターによりトリミング、除去した後、ロール状に巻き取り、厚み30μm、幅500mmの2軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れ、かつ延伸、エッジトリミング時の破れ等がほとんど無く生産性に優れたものであった。
【0156】
[実施例8]
使用する原料および条件を表5とし、長手方向延伸前に未延伸フィルムの両エッジ部をトリミングせずに2軸延伸したことを除いては、実施例8と同様にして、2軸延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、透明性、光学等方性、表面硬度、外観に優れていた。生産性については、長手方向延伸時の端部シワやエッジ欠けが起こることがあったが、合格の範囲内であった。
【0157】
[比較例7]
使用する原料および条件を表5の通りとし、幅方向に均一な層を有するフィルムとした以外は実施例8と同様にして、2軸延伸アクリルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表6の通りであり、未延伸フィルムの両エッジをトリミングする際に端部からの破れ等が多発し、生産性に非常に劣るものであった。
【0158】
【表1】

【0159】
【表2】

【0160】
【表3】

【0161】
【表4】

【0162】
【表5】

【0163】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明のフィルムは、その優れた、耐熱性、光学等方性により、光学用途として好適である。ここでの光学用途とはディスプレイ機器用の部材であり、特に液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどフラットパネルディスプレイに用いられる部材を示す。例えば、プラスチック基板、レンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波シールドフィルムや、プリズムシート、プリズムシート基材、フレネルレンズ、光ディスク基板、光ディスク基板保護フィルム、導光板、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導電フィルムが例示でき、特に偏光板保護フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の一実施態様に係る幅方向に積層された構造を有するフィルム例の概略図である。
【符号の説明】
【0166】
1 フィルム幅方向
2 フィルム長手方向
3 フィルムの幅方向中央部を形成する層
4 フィルムの幅方向両端部を形成する層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフィルムの幅方向中央部を形成する層と幅方向両端部を形成する層とを有する、幅方向に積層された熱可塑性樹脂フィルムであって、幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度が1,000mN/mm以上であり、かつ、幅方向中央部における幅方向の引裂き強度よりも幅方向両端部の幅方向の引き裂き強度の方が高い熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
幅方向中央部を形成する層について、ヘイズが1.5%以下であり、全光線透過率が90%以上であり、鉛筆硬度が3B以上であり、かつ、光学用フィルムとして用いられる、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
幅方向中央部を形成する層に含まれる熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上のアクリル樹脂である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
アクリル樹脂が、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項5】
幅方向両端部を形成する層に含まれる熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂(A)50〜95質量%とアクリル弾性体粒子(B)5〜50質量%とで構成されている、請求項4に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
少なくとも2台の押出機から供給される溶融熱可塑性樹脂を幅方向中央部およびその両端部に幅方向両端部として幅方向に共押出積層し冷却固化した後、その幅方向両端部においてエッジ部を切断して熱可塑性樹脂フィルムを得る、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
冷却固化した後、少なくとも一方向に延伸する、請求項6に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−227908(P2009−227908A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77722(P2008−77722)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】