説明

熱可塑性樹脂フィルムロールおよび磁気記録テープ

【課題】 磁気記録媒体、特に蒸着磁気記録媒体用ベースとして用いた際の磁気テープ特性や蒸着磁気記録媒体への加工適性が良好なフィルムロールを提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂フィルムを円筒状のコアに巻いてなり、下記式(1)〜(4)を満足する熱可塑性樹脂フィルムロールとする。
(1)0≦ΔH≦500μm
(2)0≦σH≦200μm
(3)400mm≦W≦1,200mm
(4)50mm≦D≦400mm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用に好適な熱可塑性樹脂フィルムロール、特にデジタルビデオカセットテープ用、データストレージテープ用等のデジタルデータを記録する強磁性金属薄膜型磁気記録媒体を高品質に生産性良く製造するために好適な磁気記録媒体用の熱可塑性樹脂フィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、強度、耐熱性、透明性、耐薬品性などの優れた特性を有するため、多方面の用途に使用されているが、さらに機能性を付与することによって、磁気記録媒体用のベースフィルムとして広く使用されている。
【0003】
磁気記録媒体は、ベース上に金属薄膜を蒸着加工して磁性層を設けた蒸着型と塗布加工して磁性層を設けた塗布型に大別される。いずれも、磁性層のさらなる薄膜化による記録密度の向上が検討されている。
【0004】
以上のうち、ポリエステルフィルムの利用が最も進んでいる蒸着型磁気記録媒体について、以下に詳述する。
【0005】
1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープは、厚さ6〜7μmのポリエステルベースフィルム上に磁性層としてコバルト(Co)の強磁性金属薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングして成るものである。デジタルビデオ(DV)ミニカセットを使用したカメラ一体型ビデオの場合には基本仕様(SD仕様)で1時間の録画時間をもつ。
【0006】
このデジタルビデオカセット(DVC)は、家庭用では世界初であり、以下に示したような数多くの長所を有しているため、市場の評価が高い。
【0007】
a.小型ボディながら、膨大な情報が記録できる
b.信号が劣化しないから、何年たっても画質・音質が劣化しない
c.雑音の妨害を受けないから高画質・高音質が楽しめる
d.ダビングを繰り返しても映像が劣化しない
また1998年にはSD仕様で1時間20分の録画時間をもつDVミニカセットテープが実用化され、そのベースフィルムには厚さ4〜5μmのポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが用いられており、このテープも長時間の録画時間を持ち、市場の評価は高い。
【0008】
例えば、民生用DVCテープでは、ベースフィルム片面側に強磁性金属薄膜を蒸着形成させるが、膜厚が100〜300nmと薄く、ベースフィルムの表面特性が磁気テープ特性(電磁変換特性、ドロップアウト等)に大きく影響する。特に近年では、記録密度向上のため蒸着膜厚の薄膜化が進められており、従来にも増してベースフィルム表面平滑性が強く望まれている。その一方、ベースフィルムの製膜および蒸着加工時の搬送性、あるいはフィルムロール製品への巻き取り性という観点からは表面が粗い方が好ましい。
【0009】
このような二律背反する特性を同時に満たすベースフィルムとして、下記(1)〜(5)に示されるポリエステルベースフィルムあるいはポリエステルフィルムロール等が使用されている。
【0010】
(1)円筒形のコアに巻かれてなるポリエステルフィルムのロール状物であって、ロールの両端部の幅方向における0〜30mmの領域におけるロール径の増大量が35μm以下であるポリエステルフィルムロール(例えば特許文献1参照)
(2)少なくとも幅方向における空間周波数10(1/mm)のRelativePower I10TDが、−25〜0dBであるポリエステルフィルムロール(例えば特許文献2参照)
(3)少なくとも幅方向における空間周波数10(1/mm)のRelativePower I10TDが−25〜0dBであり、フィルム長手方向におけるI10TDバラツキが6dB以下であるポリエステルフィルムロール(例えば特許文献3)
(4)熱可塑性樹脂フィルムがロールに巻取られたフィルムのロール状物であって、該フィルムの中心線表面粗さ(RaA)が10nm以下であり、もう一方の表面の中心線表面粗さ(RaB)が20nm以下、該フィルムロールの巻硬度がアスカー硬度で90°以上98°以下であるポリエステルフィルムロール(例えば特許文献4参照)
(5)ポリエステルフィルムがコアに巻かれてなるフィルムロールであり、該ロールの直径をロール幅方向に測定した時の最大値と最小値の差R(m)が2W×10−3以下、かつL×10−7以下(Wはフィルムロールの幅(m)、Lはフィルムロールの巻取り長(m))であるポリエステルフィルムロール(例えば特許文献5参照)
一方近年では、市場の拡大と共にテープ価格が低下し、ベースフィルムへのコストダウン要求が強まっており、テープメーカにおいては蒸着加工工程の速度アップが積極的に図られている。
【0011】
しかしながら上記(1)〜(5)に記載の方法では、15,000mさらには25,000mを超えるような長尺フィルムロール製品であっても高速での蒸着加工工程において蒸着開始から蒸着終わりまで一貫してフィルムのズレやマヨイの無い安定状態を保つことができず、磁気テープを優れた加工適性で生産性良く製造することが困難である。
【特許文献1】特開2003−30815号公報
【特許文献2】特開2004−91753号公報
【特許文献3】特開2004−299057号公報
【特許文献4】特開2000−16644号公報
【特許文献5】国際公開第01/048061号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は上記のような問題点を解決し、特に蒸着磁気記録媒体用ベースフィルムとして用いた際の蒸着磁気記録媒体への加工適性が良好な熱可塑性樹脂フィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
【0014】
1.熱可塑性樹脂フィルムを円筒状のコアに巻いてなり、下記式(1)〜(4)を満足する熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0015】
(1)0≦ΔH≦500μm
(2)0≦σH≦200μm
(3)400mm≦W≦1,200mm
(4)50mm≦D≦400mm
(上記式中、ΔHは熱可塑性樹脂フィルムロール(以下、単にフィルムロールという)のコア軸方向の一端のロール最表面端部の任意点におけるコア径を含む第1のロール径と、この任意点に対応するフィルムロール他端の最表面端部のコア径を含む第2のロール径の差の絶対値を示す。σHは円周方向にロールを任意の点から45°、90°、135°回転させ4箇所のΔHを測定した場合の、その最小値と最大値の差を示す。Wはフィルムロールの軸方向の最大幅を示す。Dはロール両端部における筒状のコア接触部からロール外表面端部までの最短距離を示す。ここでいう任意点とはロール周方向の1点を示す。また端部とはロール端から5mm内側に入った部分を示す。)
2.熱可塑性樹脂フィルムロールの真空脱気後の形状変化が下記式(5)を満足する、上記1に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0016】
(5)0≦λH≦100μm
(上記式中、λHは、ΔHとΔHの差の絶対値を示す。ここにおけるΔHとは真空脱気前のΔH、ΔHとは真空脱気後のΔHを示す。)
3.熱可塑性樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂層A(以下、A層という)と、前記A層に隣接する熱可塑性樹脂層B(以下、B層という)の少なくとも2層からなる積層フィルムであって、A層の中心線平均表面粗さRaが0.7〜7nm、B層の中心平均表面粗さRaが2〜20nmであり、B層が不活性粒子αと不活性粒子βとを含有し、B層中の不活性粒子αの含有量が0.4〜2.0重量%、B層中の不活性粒子βの含有量が0.01〜0.3重量%である、上記1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0017】
4.A層の中心線平均表面粗さRaとB層の中心線平均表面粗さRaとの比Ra/Raが0.05〜0.7であり、B層に含有される不活性粒子αの平均粒子径dαが150nm以上400nm未満であり、不活性粒子βの平均粒子径dβが400nm以上1,200nm未満であり、不活性粒子αとβの平均粒子径dαとdβの差(dβ−dα)が300〜1,000nmであり、B層の表面の不活性粒子βに由来する突起個数Nβが300〜4,000個/mmである、上記3に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0018】
5.不活性粒子αおよび不活性粒子βがともに有機粒子である、上記3または4に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0019】
6.B層の外表面に易滑被覆層Dが設けられ、A層の外表面に粒子を含有する易滑被覆層Cが設けられている、上記3〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0020】
7.熱可塑性樹脂フィルムの厚さが3〜12μmであり、巻長さが15,000m以上50,000m以下である、上記1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0021】
8.熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である、上記1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0022】
9.ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレートである、上記8に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0023】
10.磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる、上記1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0024】
11.デジタル記録方式の磁気テープ用に用いられる、上記10に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【0025】
12.上記1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロールから供給された熱可塑性樹脂フィルムのA層側の外表面上に強磁性金属薄膜が設けられてなる磁気記録テープ。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、以下に説明するとおり、15,000m、さらには25,000mを超えるような長尺フィルムロール製品であっても高速での蒸着加工工程において蒸着開始から蒸着終わりまで一貫してフィルム切れ、シワの無い安定状態を保つことが可能であり、磁気テープを優れた加工適性で生産性良く製造することが可能な熱可塑性樹脂フィルムロールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロール(以下、単にフィルムロールということがある)を構成する熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を含んでいる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を用いることができ、特にポリエステル系樹脂(以下、単にポリエステルという)が含まれていることが好ましい。
【0028】
本発明において、ポリエステル系樹脂とは、ジオールとジカルボン酸とから縮合重合によって得られるポリマーである。さらに、ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等で代表されるものであり、またジオールは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等で代表されるものである。このようなポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)等を使用することができる。
【0029】
もちろん、これらのポリエステル系樹脂は、ホモポリエステルであっても、コポリエステルであってもよく、コポリエステルの共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分を用いることもできる。
【0030】
本発明に用いられるポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートが強度、耐熱性、耐水性および耐薬品性等に優れているため、特に好ましく用いられる。
【0031】
また、上記ポリエステル系樹脂の固有粘度は特に限定されないが、25℃のオルトクロロフェノール中で測定したときに0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0dl/g、さらには0.5〜0.8dl/gの範囲内であるものが、好適に使用できる。
【0032】
また、得られるポリエステルの色調や耐熱性を向上させる目的で、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、スズ化合物等を含有していてもよい。
【0033】
さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、耐光剤、耐候剤、充填剤、核剤、分散剤、カップリング剤等の添加剤を含有しても差支えない。
【0034】
本発明は、上記熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂フィルムを筒状のコアに巻いてなる熱可塑性樹脂フィルムロールに関するものであるが、該熱可塑性樹脂フィルムロールは下記式(1)〜(4)を満足することが重要である。
【0035】
(1)0≦ΔH≦500μm
(2)0≦σH≦200μm
(3)400mm≦W≦1,200mm
(4)50mm≦D≦400mm
(上記式中、ΔHは熱可塑性樹脂フィルムロール(以下、単にフィルムロールという)のコア軸方向の一端のロール最表面端部の任意点におけるコア径を含む第1のロール径と、この任意点に対応するフィルムロール他端の最表面端部のコア径を含む第2のロール径の差の絶対値を示す。σHは円周方向にロールを任意の点から45°、90°、135°回転させ4箇所のΔHを測定した場合の、その最小値と最大値の差を示す。Wはフィルムロールの軸方向の最大幅を示す。Dはロール両端部における筒状のコア接触部からロール外表面端部までの最短距離を示す。ここでいう任意点とはロール周方向の1点を示す。また端部とはロール端から5mm内側に入った部分を示す。)
ロールのΔHが500μmを超えるか、もしくはσHが200μmを超える場合、高速の蒸着工程時に対応しきれず、フィルムのズレやマヨイが発生しやすくなり、それに伴う歩留まりの低下あるいは均一な金属薄膜の形成がしづらくなり出力の低下などが起こりやすい。本発明におけるΔH、σHの好ましい範囲は0≦ΔH≦400μm、0≦σH≦150μm、より好ましくは0≦ΔH≦200μm、0≦σH≦100μmである。
【0036】
さらに本発明においては、ΔH、σHを管理するため、W、Dについて上記式(3)、(4)の範囲内とすることが重要である。Wが1,200mmを超えるか、またはDが400mmを超える場合、ΔH、σHを式(1)、(2)の範囲内とすることが難しくなり、引いては蒸着工程での歩留まりの低下、あるいは均一な金属薄膜の形成がしづらくなり出力低下などが起こりやすい。
【0037】
Wが400mmを下回るか、またはDが50mmを下回る場合、蒸着工程での歩留まりの低下がおこり、結果としてフィルムの製造コストが上がりがちである。
【0038】
W、Dの好ましい範囲は500≦W≦1,000、70mm≦D≦350mm、より好ましくは600≦W≦800、100≦D≦300mmである。
また本発明においては、熱可塑性樹脂フィルムロールは、真空脱気後の形状変化が下記式(5)を満足することが好ましい。
(5)0≦λH≦100μm
(上記式中、λHは、ΔHとΔHの差の絶対値を示す。ここにおけるΔHとは真空脱気前のΔH、ΔHとは真空脱気後のΔHを示す。)
λHが100μmを超える場合、蒸着工程でフィルムにシワが入りやすく安定して蒸着工程を通過しないため、フィルムの破れ、歩留まりの低下、出力の低下を引き起こしやすい。λHのより好ましい範囲は0≦λH≦80μmであり、さらに好ましくは0≦λH≦70μmである。
【0039】
本発明のフィルムロールを形成する熱可塑性樹脂フィルムの長さ(巻長さ)は、磁気テープの生産性、歩留まりから15,000m以上が好ましく、より好ましくは25,000m以上、さらに好ましくは30,000m以上である。フィルムの長さの上限としては、50,000mを超える程に長いと巻姿良く巻くことができにくくなり、磁気テープの生産性、歩留まりも低下しやすくなり、結果としてフィルムの製造コストが上がりがちとなる。巻長さは、15,000〜50,000mであることが好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも2層の層構成を有する積層フィルムであって、一方の層(または面)を構成するA層(熱可塑性樹脂層)の中心線平均表面粗さRaと、このA層に隣接する、他方の層(または面)を構成するB層(熱可塑性樹脂層)の中心線平均表面粗さRaとの比Ra/Raが0.05〜0.7であり、B層が不活性粒子α、βを含有し、この不活性粒子α、βの平均粒子径dα、dβの差(dβ−dα)が300〜1,000nmであり、B層の表面の不活性粒子βに由来する突起個数Nβが300〜4,000個/mmである積層フィルムであることが好ましい。各要件について以下に詳述する。
【0041】
上述の積層フィルムは、少なくとも2層以上の積層構成とし、一方の面を構成するA層の中心線平均表面粗さRaと、他方の面(A層の反対面側)を構成するB層の中心線平均表面粗さRaとの比Ra/Raが0.05〜0.7であることが好ましい。すなわち、一方の面(A層側)を相対的に平滑な磁性層加工面とし、他方の面(B層側)を相対的に粗い走行面とすることは、製膜・加工時のフィルム搬送性、加工後の磁気テープ特性とテープ搬送性を両立せしめるため、好ましい構成である。比Ra/Raが上記範囲外の場合にはフィルムや磁気テープの搬送性、および磁気テープ特性が低下しやすい。また、比Ra/Raのより好ましい範囲は0.1〜0.6であり、さらには0.2〜0.55であることが好ましい。
【0042】
本発明におけるRa、Raの好ましい範囲は各々0.7〜7nm、2〜20nmであって、より好ましくは各々1〜5nm、3〜15nmである。なお、中心線平均表面粗さについて、後述の易滑層がフィルム表面に積層されている場合は、易滑層表面を測定した値を意味する。
【0043】
なお、本発明において2層以上の積層体とする方法としては、溶融製膜中の共押出により複合化する方法、あるいはそれぞれ別々に製膜した後、ラミネートする方法のいずれでもよいが、コストなどの点で前者の方法がより好ましい。
【0044】
A層とB層の厚み比率は、B層を基準として2/1〜30/1が好ましく、より好ましくは3/1〜25/1である。厚み比率がこの範囲から外れた場合には、フィルムや磁気テープの搬送性、磁気テープ特性あるいはコスト低減効果が低下しやすい。
【0045】
積層フィルムの全体厚みは、特に限定されないが、通常3〜12μm、より好ましくは4〜10μm、さらには4〜8μmの範囲にあることが、製膜性、寸法安定性、実用面での取扱性などの点で好ましい。B層の厚みの好ましい範囲は130〜1,400nm、さらには150〜1,200nmがより好ましい。130nm未満の場合、特に不活性粒子βが脱落しやすくなり、脱落粒子がA層側に転写して磁気テープ特性が低下しやすい。一方、1,400nmを超える場合には、B層の表面が粗くなりすぎて、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際に層Bの外側表面形状が磁性層面側に転写、表面うねり状となって磁気テープ特性が低下しやすい。
【0046】
また積層フィルムは、B層が不活性粒子α、βを含有しており、不活性粒子α、βの平均粒子径dα、dβの差(dβ−dα)が300〜1,000nm、B層表面の不活性粒子βに由来する突起個数Nβが300〜4,000個/mmであることが好ましい。なお、dβ>dαである。走行面側をこのような構成とすることにより、フィルムロールに内在するエアを均一に排除することができ、巻姿を良好に保つだけでなく、蒸着加工時の巻出状態の安定性を確保しやすい。(dβ−dα)が300nm未満、Nβが300個/mm未満では、蒸着加工時の巻出状態が不安定になってテープ生産性および磁気テープ特性が低下しやすい。一方、(dβ−dα)が1,000nmより大きく、Nβが4,000個/mmより多い場合には、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際に層Bの外側表面形状が磁性層面側に転写、表面うねり状となって磁気テープ特性が低下しやすい。
【0047】
上記特性の好ましい範囲を順に述べると、dβ−dαは320〜900nm、さらには350〜800nmが好ましく、Nβは400〜3,500個/mm、さらには500〜3,000個/mmが好ましい。
【0048】
本発明においては、不活性粒子βの平均粒子径dβとB層の積層厚みTとの比率dβ/Tが0.5〜3.2であることが好ましく、より好ましくは0.55〜2.5、最も好ましくは0.6〜2.0である。dβ/Tが0.5未満の場合には、蒸着加工時の巻出状態が不安定になってテープ生産性および磁気テープ特性が低下しやすい。一方、dβ/Tが3.2より大きい場合には、不活性粒子βが脱落しやすくなり、脱落粒子がA層側に転写して磁気テープ特性が低下しやすい。
【0049】
また、本発明においては、不活性粒子αの平均粒子径dαとB層の積層厚みTとの比率dα/Tが0.2〜2であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.7、最も好ましくは0.35〜1.3である。dα/Tが0.2未満の場合、フィルムロール製品の巻き形状の安定性、磁気テープ特性が低下しやすい。一方、dα/Tが2より大きい場合には、不活性粒子α、βが脱落しやすくなり、脱落粒子がA層側に転写して磁気テープ特性が低下しやすい。
【0050】
本発明においては、上記の表面粗さおよび突起個数を実現するため、B層に不活性粒子α、βを含有せしめる場合、そのB層中の含有量の好ましい範囲については次の通りである。
【0051】
不活性粒子α:平均粒子径は150nm以上400nm未満が好ましく、より好ましくは180〜380nm、さらに好ましくは200〜350nmである。層B中の含有量は0.4〜2.0重量%が好ましく、より好ましくは0.42〜1.5重量%、さらに好ましく0.42〜1.0重量%である。
【0052】
不活性粒子β:平均粒子径は400nm以上1,200nm未満が好ましく、より好ましくは420〜1,000nm、さらに好ましくは420〜900nmである。層B中の含有量は0.01〜0.3重量%が好ましく、さら好ましくは0.02〜0.2重量%、さらに好ましく0.03〜0.1重量%である。
【0053】
平均粒子径および含有量がいずれも上記範囲の下限未満の場合、B層の外側表面が平滑すぎてロール内エア排除が阻害され、蒸着加工時の巻出状態が不安定になってテープ生産性および磁気テープ特性が低下しやすい。またフィルムやテープ搬送性が低下し、ハンドリング性が低下しやすい。一方、平均粒子径および含有量がいずれも上記範囲の上限を超える場合には、逆に粗くなりすぎて、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際にB層の外側表面形状が磁性層面側に転写、表面うねり状となって磁気テープ特性が低下しやすい。
【0054】
不活性粒子α、βとして使用される粒子の好ましい例としては、無機系ではシリカ、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ−アルミナ複合体など、有機系では、架橋ポリスチレン、ポリアクリル、架橋ジビニルベンゼン、架橋シリコーンの単独重合体もしくは共重合体などを用いることができる。上記のうちでは、磁性層を蒸着加工後にロール状で放置した際の磁性層面側への影響の点で有機系粒子が好ましく、架橋ポリスチレン、架橋ジビニルベンゼン、架橋シリコーンの単独重合体もしくは共重合体が特に好ましいものである。無機系粒子としてはシリカ、アルミナが粒子添加時の調整のし易さの点で好ましく使用できる。なお、アルミナには結晶形によりα形、β形、γ形、θ形の各種が存在するが、いずれを用いてもよい。また、B層中には本発明の目的を阻害しない範囲内で前記不活性粒子より更に細かい別種の粒子を含有せしめてもよい。なお、不活性粒子α、βは同種、異種のいずれであってもよいが、両者とも有機系である場合が特に好ましい。
【0055】
本発明においてはA層/B層の積層フィルムとした場合、B層の外側表面に易滑被覆層Dが1〜10nm、好ましくは2〜8nmの厚みで設けられていることが好ましい。易滑被覆層Dの厚みが1nm未満であると、強磁性金属薄膜の磁性層蒸着加工時に、ベースフィルム材料の熱分解物が析出しやすくなり、この熱分解物が冷却キャンや工程中の搬送ロールに付着し、これが冷却効率の低下を引き起こしたり、蒸着磁性層に転写することによって磁気テープ特性が低下しやすくなる。一方、厚みが10nmを超える場合、製膜・蒸着加工時に冷却キャン、搬送ロールによって易滑被覆層の削れ、剥がれが起こりやすくなり、これが磁性面側に転写して磁気テープ特性が低下しやすくなる。
【0056】
易滑被覆層Dは、冷却キャン、搬送ロールとの間で易滑性であって削られにくく、かつ、フィルムからの分解物を通さない機能を有するものが好ましく、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子を含んでいることが好ましい。特に、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤が加えられてなることが好ましい。易滑被覆層Dに用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、アラビアゴム、カゼイン、あるいはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70モル%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、トリメリット酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールなどが好ましい。セルロース誘導体はポリエステル分解物が析出することを防ぐために寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性を増大させるために寄与する。なお、水溶性ポリエステル共重合体のガラス転移点は40℃以上、さらには50℃以上であることが好ましい。フィルム製膜工程、あるいは磁性層加工工程ともにフィルムは熱を受けるため、ガラス転移点が40℃未満の樹脂を用いた場合には易滑被覆層Dによってフィルムが工程内の搬送ロールに貼り付きやすく、かえってシワ発生などの原因になることがある。
【0057】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリプロピルジメチル[γ−(β−アミノエチルアミノ)]シロキサン、ポリプロピルメチルジメチル{3−[2−(アミノエチル)アミノ]}シロキサン、ポリプロピルメチルジメチルヒドロキシ{3−[2−(アミノエチル)アミノ]}シロキサン、ポリプロピルエチルメチル[N−(アミノプロピル)イミノエチル]シロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより易滑被覆層D表面の易滑性が向上し、冷却キャン、搬送ロールによる耐削れ性が確保され、同時にフィルム搬送性も向上する。またフィルムをロール状に巻き取ったときフィルム間でのブロッキングが防止される。なお、フッ素系化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0058】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が用いられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エピキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンが易滑被覆層Dより遊離することを防ぐために寄与し、さらに、易滑被覆層Dとフィルムとの接着性を向上させるためにも寄与する。
【0059】
易滑被覆層Dの削れ抑止のためには、易滑被覆層D中には微細粒子が実質的に存在しないことが好ましい。ただし、本発明を阻害せず、易滑被覆層Dを強化する目的で易滑被覆層Dの厚み以下の粒子径を有する微細粒子を補強材として用いることは許容される。
【0060】
本発明においては積層フィルムとした場合、不活性粒子の添加は走行面側のB層には必須であるが、磁性層加工面側のA層中には実質的に不活性粒子を含有していないことが好ましく、同時にA層の外側表面に粒子を含有した易滑被覆層Cを設けることが、フィルム間でのブロッキング防止効果と磁気テープ特性とを両立できるため好ましい態様である。該粒子としては、平均粒子径3〜200nmさらには5〜70nmのものを用いることが好ましく、フィルム表面における存在密度としては5×10〜5×10個/mmさらには1×10〜1×10個/mmであることが好ましい。平均粒径が3nmより小さい場合にはブロッキング防止効果が低下したり、あるいは粒子同士の凝集が生じやすくなって、粒子の脱落や必要以上の粗大突起の形成を引き起こすことがあり、200nmより大きい場合には磁気テープ特性が低下しやすい。また、存在密度については5×10個/mm未満では、粒子同士の間隔が広くなりすぎて実質的なブロッキング防止効果が薄れやすく、一方、5×10個/mmより多い場合には、凝集によって粒子の脱落や必要以上の大きさの突起形成を引き起こしやすい。また、易滑被覆層Cの厚みは2〜20nm、さらには4〜15nmであることが好ましい。厚みが2nm未満であると、粒子が脱落しやすくなり、冷却キャンや工程中の搬送ロールに付着し、これが冷却効率の低下を引き起こしたり、蒸着磁性層に転写することによって磁気テープ特性が低下しやすくなる。また、フィルムや磁気テープ搬送性も低下しやすい。一方、厚みが20nmを超える場合、磁性層加工面側である層Aの表面粗さが大きくなり、磁気テープ特性が低下しやすくなる。
【0061】
易滑被覆層C中に使用される粒子としては、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、シリコーン、ポリエポキシ、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン/プロピレン、架橋ジビニルベンゼン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸アミド、アクリル−スチレン、スチレン−ブタジエンなどの単独または共重合体、あるいはこれらの各種変成体などの有機系粒子、炭酸カルシウム、球形シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ等の無機系粒子、あるいは上記無機系粒子を核として、有機高分子で被覆した複合粒子が使用できるが、これらに限定されない。有機系粒子としては末端基がエポキシ、アミン、カルボン酸、水酸基等で変成された自己架橋性のものも好ましい。また、粒子の球形比は1.0〜1.3であることが好ましい。
【0062】
易滑被膜層C中にバインダーとして樹脂を使用する場合、易滑被覆層Cに用いる水溶性高分子及び/又は水分散性高分子を用いることが好ましく、その一例としては、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、カゼイン、ゼラチン、セルロース誘導体、水溶性ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリル−ポリエステル樹脂、イソフタル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等が使用でき、好ましくはこれらいずれかを併用することが好ましい。
【0063】
本発明における、易滑被覆層C、Dの形成方法は、易滑被覆層形成塗液をフィルムに塗布、乾燥して設ける方法が好ましい。易滑被覆層形成塗液の塗布方法としては、例えば、リバース(ロール)コート、グラビアコート、ナイフコート、エアーナイフコート、ロールコート、ブレードコート、ビードコート、回転スクリーンコート、スロットオリフィスコート、ロッドコート、バーコート、ダイコート、スプレーコート、カーテンコート、ダイスロットコート、チャンプレックスコート、ブラシコート、ツーコート、メータリングブレード式のサイズプレスコート、ビルブレードコート、ショートドウェルコート、ゲートロールコート、グラビアリバースコート、エクストルージョンコート、押出コートなどの方法を用いることができる。
【0064】
また、易滑被覆層形成塗液の塗布工程としては、フィルムの製膜工程内で塗布する方法(インラインコート)、製膜後のフィルム上に塗布、乾燥する方法(オフラインコート)のいずれの方法であってもよいが、均一塗布、薄膜塗布および経済性等の点で、インラインコートがより優れた方法である。さらに、インラインコートでは、ポリエステルフィルムを例に挙げれば、ポリエステルフィルムの配向、結晶化が完了する以前に塗布を行うことが好ましく、例えば逐次二軸延伸製膜工程では、縦延伸後のフィルムに塗布し、横延伸、熱固定を経る間に、易滑層とフィルム本体との密着向上を得る方法が一般的である。また、コート前のフィルムには塗布性改良を目的として、予めその表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの前処理を施しておくことも可能である。
【0065】
また、該易滑被覆層形成塗液の液媒体は水系、溶剤系あるいは両者混合系のいずれの液媒体でもよいが、インラインコート法による場合には、取扱性や防爆などの安全性の点で水系または水を主体とした両者混合系の液媒体が好ましく用いられる。また、塗液には、フィルムへの濡れ性を向上させるために界面活性剤(アニオン型、ノニオン型)を添加してもよい。
【0066】
次に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールの製造方法を積層フィルムとした場合の一例によって説明する。なお、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂としてポリエステルを使用した場合の一例により説明する。
【0067】
本発明で用いられるポリエステル原料は、通常用いられる種々のエステル化反応、エステル交換反応およびそれに引き続く重縮合反応により製造することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸またはジメチルテレフタレートとエチレングリコールとを、エステル化またはエステル交換せしめ、しかる後減圧下に重縮合せしめる方法で製造できる。ここで、触媒として、例えば、マンガン、マグネシウム、カルシウム、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、コバルトなどの元素を含む化合物やリン化合物などを使用することができる。また、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤などを使用してもよい。
【0068】
かくして得られたポリエステルを、シートカット法、ストランドカット法などにより粒子状(チップ形状)に成形する。チップの形状は任意でよいが、あまりに小さすぎて微粉末状となったものは熱処理工程やその後の成形工程(特に押出工程)でのトラブルの原因となる。また形状が大きい場合には、環状化合物を減少させる意味では特に問題にはならないが、操作性の点からは問題が生じやすい。これらの観点から、ポリエステルチップの大きさは、等価球直径で1mm〜50mmが好ましく、より好ましくは2mm〜20mmである。なお、ここで等価球直径とは粒子と同じ体積を有する球の直径である。
【0069】
磁性層加工面側のA層形成のため、乾燥したポリエステルのチップを押出機Aに供給し、走行面側のB層形成のためポリエステルのチップと平均粒子径150nm以上400nm未満の不活性粒子α、平均粒子径400nm以上1,200nm未満の不活性粒子βのマスターチップとを、不活性粒子αが0.4〜2.0重量%、不活性粒子βが0.01〜0.3重量%となるように混合したものを押出機Bに供給し、溶融してTダイ複合口金内に導入して口金内でA層/B層の2層に積層されるよう合流せしめた後、シート状に共押出して溶融積層シートとする。A層/B層の厚み比率は2/1〜30/1が好ましい。
【0070】
この溶融積層シートを、表面温度10〜60℃に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸積層フィルムを作製する。該未延伸フィルムを70〜120℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に2〜5倍延伸し、20〜30℃のロール群で冷却する。
【0071】
続いて長手方向に延伸した積層フィルム表面にそのまま、あるいは必要に応じてコロナ放電処理を施した後、易滑被覆層形成塗液を塗布する。このときA層側に易滑被覆層C、B層側に易滑被覆層Dが設けられるように塗布する。この易滑被覆層形成塗液を塗布された積層フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き90〜150℃に加熱した雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に2〜5倍に延伸する。
【0072】
延伸倍率は、縦、横それぞれ2〜5倍とすることが好ましいが、その面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は6〜20倍であることが好ましい。面積倍率が6倍未満であると得られるフィルム強度が不十分となり、逆に面積倍率が20倍を超えると延伸時に破れを生じ易くなる傾向がある。
【0073】
このようにして得られた二軸延伸積層フィルムの結晶配向を完了させて平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて150〜230℃で1〜30秒間の熱処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却して巻き取ることにより、本発明の積層フィルムを得ることができる。なお、上記熱処理工程中では、必要に応じて横方向あるいは縦方向に1〜12%の弛緩処理(リラックス)を施してもよい。また、二軸延伸は上述の逐次延伸の他に同時二軸延伸でもよく、同時二軸延伸の場合のインラインコートは、溶融シートをドラム上に密着冷却固化した未延伸フィルム表面に必要に応じてコロナ放電処理を施した後、易滑層形成塗液を塗布し、延伸すればよい。また二軸延伸後に縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。
【0074】
このようにして得た二軸延伸積層フィルムを中間製品として、スリッターを用いて製品幅にスリットし、フィルムロールを得る。
【0075】
本発明においてΔH、σH、λHを上記した式(1)〜(4)の範囲とするためには中間製品の巻き取り条件またはスリット時の製品巻き取り条件を(I)〜(III)の範囲とすることが好ましい。
【0076】
(I)中間製品の巻き取り条件として、張力は250N/m〜450N/mが好ましく、さらに好ましくは300N/m〜400N/mであり、面圧は150N/m〜300N/mが好ましく、さらに好ましくは200N/m〜250N/mである。ここでいう張力、面圧とはそれぞれ初期張力、初期面圧を指す。
【0077】
(II)スリット時の巻き取り条件として、張力は5N/m〜50N/mが好ましく、さらに好ましくは15N/m〜30N/mであり、面圧は80N/m〜150N/mが好ましく、さらに好ましくは100N/m〜140N/mである。ここでいう張力、面圧とはそれぞれ初期張力、初期面圧を指す。
【0078】
(III)スリット条件のうち最も重要なコンタクトロールの水平度と抱きつけ角は、マイクロメーターをコンタクトロールの両側に設置し微細な調整を可能にしたものを使用し、20μmの精度で水平角を管理する。水平角(以下 θと略す)の管理範囲は0≦θ≦1°が好ましく、さらに好ましくは0≦θ≦0.5°である。抱きつけ角はコンタクトロールと対向している搬送ロールとの高さを変更することにより管理する。抱きつけ角(以下 θと略す)の管理範囲は30°≦θ≦100°が好ましく、更に好ましくは45°≦θ≦80°である。
【0079】
上記のような製造条件によって熱可塑性樹脂フィルムロールのΔH、σH、λHが式(1)〜(4)を満足することにより、現在要求されている巻き長さ15,000m以上、さらには25,000m以上、さらには究極の目標である30,000〜50,000mクラスのフィルムロールを巻姿が良好なだけでなく、高速での蒸着工程において安定した巻出し特性を実現できる。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムロールは、特に蒸着磁気記録媒体としての特性、並びに蒸着磁気記録媒体への加工性が良好であり、該用途のベース基材として好適に使用することができるが、蒸着型だけでなく、塗布型磁気記録媒体用のベース基材としても好適に利用可能である。
具体的に好ましい用途としては、民生用、業務用を問わず、デジタルビデオカセット、データストレージ、DLT、LTO、デジタルAIT、AITターボ等のデジタルデータ記録方式の磁気テープ用ベースフィルムに好適に用いられ、特に、記録層としてコバルト等の強磁性金属薄膜を蒸着形成せしめた、デジタルビデオカセットテープ用のベース基材として最も好ましく用いられる。
【実施例】
【0081】
本発明の実施例で用いた評価方法、評価基準は以下のとおりである。
【0082】
(1)ポリマーの粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0083】
(2)粒子(不活性粒子)の平均粒子径
顕微鏡試験台上に使用する粒子(不活性粒子)を、この粒子ができるだけ重ならないように散在せしめ、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率1万〜10万倍で観察、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値をもって平均粒子径とした。
【0084】
(3)B層、易滑被覆層C、Dの厚み
積層フィルムの小片を樹脂または氷で固定し、ミクロトームを用いてフィルム長手方向に平行に切断した超薄切片を作製した。この超薄切片を、TEMにより厚みに応じて以下の倍率で観察し、B層、易滑被覆層C、Dの厚みの厚みを求めた。なお、両厚みの測定は任意に場所を変えて計10箇所の平均値から求めた。
【0085】
(B層の厚み)
1,000nm以上:5万倍
500nm以上1,000nm未満:10万倍
500nm未満:20万倍
(易滑被覆層C、Dの厚み)
10nm以上:100万倍
5nm以上10nm未満:200万倍
5nm未満:500万倍
(4)易滑被覆層D中の粒子の平均粒子径、存在密度
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてフィルムの易滑被覆層D積層面を任意の箇所について易滑被覆層D中の粒子の平均粒子径に応じて以下の倍率で撮影したSEM写真から、任意に選んだ計100個の微細粒子について粒子ごとに最大径と最小径を測定し、個々の粒子の粒径を最大径と最小径の平均として求めた。さらに、それら測定対象とした粒子の粒径の平均値を算出して平均粒径とした。また、存在密度については易滑被覆層D中の粒子の平均粒子径に応じて以下の倍率で任意の箇所を5枚撮影したSEM写真から、1枚当たりの粒子の個数を数え、写真5枚での平均値から単位面積当たりの粒子数を算出して存在密度とした。
【0086】
(平均粒子径)
25nm以上50nm未満:30万倍
15nm以上25nm未満:50万倍
15nm未満:100万倍
(存在密度)
25nm以上50nm未満:1万倍
15nm以上25nm未満:3万倍
8nm以上15nm未満:5万倍
8nm未満:10万倍
(5)フィルム表面粗さ(中心線平均表面粗さRa)
セイコーインスツルメンツ(株)製卓上プローブ顕微鏡“ナノピクス”(測定ヘッドNPX100[NPX1MAP001]およびコントローラNanopics1000[NPX1EBP001])を用いて測定した。なお、測定面積は、層A(磁性層加工面)側は40μm角、層B(走行面)側は100μm角とした。その他の測定条件は次のとおりである。
【0087】
スキャン速度:380sec/FRAME
スキャン回数:512本
振幅度合い:磁性層加工面側はLLモード、走行面側はHHモード
(6)蒸着加工適性
蒸着加工適性の評価として、中速(150m/分)、高速(300m/分)の速度で下記2つの評価を行った。
【0088】
(6−1) フィルム切れ
蒸着加工中、工程ロール上でのベースフィルム搬送状態を観察し、以下3段階の判定基準で判定した。○を合格とした。
【0089】
蒸着全工程においてフィルム切れが発生しない :○
中速もしくは高速においてフィルム切れが1〜2回発生:△
蒸着全工程においてフィルム切れが3回以上発生 :×
ここで、フィルム切れとは以下の状態を表す。
【0090】
フィルム切れ:ロール径の横方向または斜め方向にフィルムが切れること
(6−2) 搬送シワ
蒸着加工中、工程ロール上でのベースフィルム搬送状態を観察し、以下3段階の判定基準で判定した。○を合格とした。
【0091】
蒸着全工程で搬送シワがない :○
蒸着始め〜途中まで搬送シワが断続的に発生:△
蒸着の全工程で搬送シワが発生 :×
ここで、搬送シワとは以下の状態を表す。
【0092】
搬送シワ:長手方向または斜め方向に入るシワ
(7)ΔH、σH、λHの測定
ロール径の横方向の変位プロファイルを原反形状測定器(キタノ企画社製)を用いて測定した。該測定器に付属の検出器であるリニアゲージ(LGB−100)を製品ロールの表面に接触させ、専用のレール上を速度12.5mm/secで走行させ、製品ロールの両端部より幅方向に通過させた(ここでいう(両)端部とはロール端部より5mm内側に入った箇所を示す)。検出部が検知したロール径の変化は、D/A変換ユニット(LG−DA1)およびリニアゲージカンター(LG−S1)を介して出力させ、チャートレコーダーにチャート速度200mm/minで記録した。得られたチャートから測定開始地点と測定終わりの地点を線で結び、その変化量を読み取りΔHとした。また円周方向にロールを上記の測定位置から45°、90°135°回転させ4点のΔHを測定しその最小値と最大値の差をσHとした。λHは真空脱気前のΔHと真空脱気後のΔHを測定しその差よりもとめた。この時の減圧度は2×10−3Paで評価を行った。
【0093】
[実施例1]
(1)ポリエステル原料の製造
原料としてテレフタル酸ジメチルを100重量部、エチレングリコールを64重量部計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。原料を仕込んだ後、装置内温度を150℃に加熱して内容物を溶解し撹拌した。次いで、撹拌しながら触媒として酢酸マグネシウム四水塩を0.06重量部、三酸化アンチモンを0.03重量部計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。
【0094】
触媒を仕込んだ後、反応内容物の温度を150℃から235℃まで3時間かけて昇温してエステル交換反応を進め、生成するメタノールを反応装置から留出させた。
【0095】
エステル交換反応が終了し、メタノールが留出しなくなった時点でトリメチルリン酸0.023重量部を添加した。
【0096】
粒子スラリー添加10分後にエステル交換反応装置内の反応生成物を重合反応装置へ移行した。
【0097】
重合装置内容物を撹拌しながら、その温度を120分かけて235℃から290℃まで昇温し、同時に120分かけて反応装置内の圧力を常圧から150Pa以下まで減圧した。
【0098】
重合装置の撹拌トルクが所定の値に達した後、重合装置の撹拌を停止し、重合装置内に窒素ガスを送りこんで常圧に戻した。
【0099】
重合装置底部のバルブを開け、装置内を窒素ガスで加圧しながらポリエステル樹脂をストランド状に押し出した。ストランドは水槽で冷却固化させ、カッターに導き、径約5mm長さ約7mmの円柱状のポリエチレンテレフタレート(以降、PETという)のチップを得た。このPETチップの等価球直径は6.4mm、固有粘度は0.63であった。
【0100】
(2)ポリエステルフィルムの製造
A層を形成するため、上記(1)の方法で製造したPETチップを180℃で3時間乾燥した後、押出機Aに供給し、常法により285℃で溶融してTダイ複合口金に導入した。
【0101】
一方、B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を0.80重量%、不活性粒子βとして平均粒径1,000nmのシリカ粒子を0.02重量%含有させたチップ原料を180℃で3時間減圧乾燥した後に、押出機B側に供給し、常法により285℃で溶融して同様にTダイ複合口金に導入した。なお、架橋シリコーン、シリカの製造および添加方法は以下の通りである。
【0102】
(架橋シリコーンの製造方法)
特公平3−30620号公報の実施例を参考に製造した。
【0103】
具体的には、平均組成式
CH=CH(CHSiO[(CHSi0]m・Si(CHCH=CH
(式中m=35)で示されるビニル基を両末端に有するジメチルポリシロキサン100重量部に平均組成式
(CHSiO[(CH)HSiO]0Si(CH
で示されるメチルハイドロジエンポリシロキサン5重量部と、上記ポリシロキサン全量に対して白金として10重量ppmに相当する量の塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液と3−メチル−1−ブチン−3−オール0.1重量部を添加し混合したものをスプレードライヤ中に2流体ノズルを用いて噴霧させ、硬化させて架橋シリコーン粒子を得た。このとき、スプレードライヤの熱風の入り口温度は230℃とした。架橋シリコーンは、サイクロン、およびバックフィルターで捕集し、このうちバックフィルタ捕集物(平均粒子径300nm)を用いた。
【0104】
(シリカの製造方法)
「新実験化学講座」18界面とコロイド(1977年10月20日丸善株式会社発行)の第330〜331頁に記載の技術を参考に製造した。
【0105】
具体的には、ケイ酸ナトリウムの3.5重量%水溶液(SiO換算)をH型イオン交換樹脂で脱塩し、これに1.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9に調整した。この水溶液の一部を分取し、攪拌しながら100℃で10分間加熱後、90℃で保持した。次いで、この水溶液に脱塩してpH=9に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、攪拌しながら徐々に加えて反応を行い、220nmのシリカ粒子を含む水分散液を得た。この水溶液の一部を再度分取し、攪拌しながら100℃で10分間加熱後、90℃で保持した。次いで、この水溶液に脱塩してpH=9に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、攪拌しながら徐々に加えて反応を行い、平均粒子径1,000nmのシリカを含む水分散液を得た。
【0106】
(架橋シリコーン、シリカの添加方法)
得られた架橋シリコーンをエチレングリコール中に分散せしめて10重量%のエチレングリコールスラリーとした。
【0107】
一方、得られたシリカの水溶液にエチレングリコールを添加し、100℃に加熱することで水を留出させ、シリカの1重量%エチレングリコールスラリーとした。
【0108】
(1)のポリエステル原料の製造において、エステル交換反応が終了し、トリメチルリン酸を添加した5分後に、架橋シリコーンを10重量%含有したエチレングリコールスラリーを8重量部、シリカを1重量%含有したエチレングリコールスラリーを2重量部添加した。
【0109】
次いで、該口金内でA層/B層=7/1の厚み比に積層されるよう合流せしめた後、シート状に共押出して溶融積層シートとした。そして、該溶融シートを、表面温度25℃に保たれた冷却ドラム上にB層が該ドラム側に来るよう静電荷法で密着冷却固化させて未延伸積層フィルムを得た。続いて、該未延伸積層フィルムを常法に従い105℃に加熱されたロール群を用いて縦方向(以降、MDという。)に3.0倍延伸し、25℃のロール群で冷却して一軸延伸フィルムとした。さらに続いて該一軸延伸フィルムのB層、A層側表面に下記組成の易滑被覆層C、D形成塗液(水溶液)を各々ウェット塗布厚み5.0μm、2.7μmとなるようメタリングバーを用いたバーコート方式にて塗布した。
【0110】
[易滑被覆層D形成塗液]
水溶性ポリエステル 0.23重量%
メチルセルロース 0.17重量%
シランカップリング剤 0.02重量%
[易滑被覆層C形成塗液]
水溶性ポリエステル 0.31重量%
メチルセルロース 0.10重量%
平均粒子径10nmのコロイダルシリカ 0.02重量%
各組成物の製造方法は以下の通りである。
【0111】
(水溶性ポリエステル)
酸性分:テレフタル酸/イソフタル酸/5−ナトリウムスルホイソフタル酸=34/8/8(モル%)
グリコール成分:エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/ジエチレングリコール=40/7/3(モル%)
上記酸性分とグリコール成分を用い、エステル交換反応によって得た、側鎖にカルボン酸基を有さないポリエステルである。
【0112】
(メチルセルロース)
セルロース(パルプ)を水酸化ナトリウムで処理した後、酸化エチレンと反応させて水溶性セルロースエーテル化したものである(セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基で置換された水酸基の平均個数1.5)。
【0113】
(シランカップリング剤)
(1)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製KBE903)
(2)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM403)
上記(1)/(2)を重量比75/25で混合せしめた混合体である。
【0114】
(平均粒子径10nmのコロイダルシリカ)
「新実験化学講座」18界面とコロイド(1977年10月20日丸善株式会社発行)の第330〜331頁に記載の技術を参考に製造した。
【0115】
具体的には、ケイ酸ナトリウムの3.5重量%水溶液(SiO換算)をH型イオン交換樹脂で脱塩し、これに1.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9に調整し、攪拌しながら90℃で5分間加熱して反応を行い、平均粒子径10nmのコロイダルシリカを含む水分散液を得た。
【0116】
この易滑被覆層C、D形成塗液を塗布された一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の予熱ゾーンに導き105℃で予熱・乾燥後、引き続き連続的に110℃の加熱ゾーンで横方向(以降、TDという)に3.8倍延伸した。さらに引き続いてテンター内の熱処理ゾーンで210℃の熱処理を施して結晶配向を完了させ、均一に徐冷後に巻き取り、積層フィルムの総厚み6.3μm、このうちB層の厚み820nm、易滑被覆層Cの厚み5.9nm、易滑被覆層Dの厚み3nmの構成としたポリエステルフィルムを中間製品の巻き取り条件、張力を350N/m、面圧を220N/mで巻き取り中間製品を得た。さらに、スリッターでW=620mm、D=150mmにスリットし、スリット時の巻き取り条件、張力を22N/m、面圧を120N/mで巻き取り、コンタクトロールをθ=0°θ=60°に調整し30,000m長さのフィルムロールとした。
【0117】
このフィルムロールはΔH=50μm、σH=20μm、λH=50μmであった。このフィルムは真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワによる歩留まりの低下は起こらず良好であった。
【0118】
[実施例2]
実施例1において、中間製品の巻き取り条件の張力を280N/m、面圧を270N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0119】
[実施例3]
中間製品の巻き取り条件の張力を420N/m、面圧を170N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0120】
[実施例4]
実施例1において、スリット時の巻き取り条件の張力を10N/m、面圧を145N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0121】
[実施例5]
スリット時の巻き取り条件の張力を35N/m、面圧を90N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0122】
[実施例6]
実施例1において、スリット中のコンタクトロールの水平度をθ=0.1°に変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0123】
[実施例7]
スリット中のコンタクトロールの水平度をθ=0.7°に変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0124】
[実施例8]
実施例1において、スリット中のコンタクトロールの抱きつけ角をθ=45°に変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0125】
[実施例9]
スリット中のコンタクトロールの抱きつけ角をθ=80°に変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0126】
[実施例10]
実施例1において、W=400mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0127】
[実施例11]
実施例1において、W=1,200mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0128】
[実施例12]
実施例1において、D=50mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。 このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0129】
[実施例13]
実施例1において、D=400mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時、フィルム切れやシワによる歩留まりの低下が起こらず良好であった。
【0130】
[比較例1]
実施例1において、中間製品巻き取り条件の張力を200N/m、面圧を350N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0131】
[比較例2]
実施例1において、中間製品巻き取り条件の張力を500N/m、面圧を100N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0132】
[比較例3]
実施例1において、スリット時の巻き取り条件で張力を2N/m、面圧を170N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0133】
[比較例4]
実施例1において、中間製品巻き取り条件を張力60N/m、面圧を40N/mと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0134】
[比較例5]
実施例1において、スリット中のコンタクトロールの水平度をθ=2°と変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0135】
[比較例6]
実施例1において、スリット中のコンタクトロールの抱きつけ角をθ=120°と変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0136】
[比較例7]
実施例1において、中間製品巻き取り条件の張力を200N/m、面圧を100N/m、中間製品巻き取り条件を張力2N/m、面圧を40N/m、スリット中のコンタクトロールの水平度をθ=2°、抱きつけ角をθ=120°と変更し行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0137】
[比較例8]
実施例1において、中間製品巻き取り条件の張力を500N/m、面圧を350N/m、中間製品巻き取り条件を張力60N/m、面圧を170N/m、スリット中のコンタクトロールの水平度をθ=2°、抱きつけ角をθ=120°と変更し行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0138】
[比較例9]
実施例1において、W=1,300mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0139】
[比較例10]
実施例1において、D=450mmと変更し、その他は実施例1と同様に行った。このフィルムロールは表1,2に示すように蒸着工程時真空蒸着工程時、フィルムの切れやシワが発生し、蒸着不可の状態となり歩留まりが大きく低下した。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
表1、2の結果から明らかなように、中間製品の張力、面圧、スリット後の張力、面圧、コンタクトロールの水平度、抱きつけ角を適性に管理することにより、本発明のフィルムロールを製造することができた。またこのフィルムロールを用いた真空蒸着工程でフィルムの搬送性および歩留まりにおいて良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、磁気記録媒体用積層ポリエステルフィルム、特にデジタルビデオカセットテープ用、データストレージテープ用等のデジタルデータを記録する強磁性金属薄膜型磁気記録媒体を高品質に生産性良く製造するために好適な磁気記録媒体用の熱可塑性樹脂フィルムロールである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを円筒状のコアに巻いてなり、下記式(1)〜(4)を満足する熱可塑性樹脂フィルムロール。
(1)0≦ΔH≦500μm
(2)0≦σH≦200μm
(3)400mm≦W≦1,200mm
(4)50mm≦D≦400mm
(上記式中、ΔHは熱可塑性樹脂フィルムロール(以下、単にフィルムロールという)のコア軸方向の一端のロール最表面端部の任意点におけるコア径を含む第1のロール径と、この任意点に対応するフィルムロール他端の最表面端部のコア径を含む第2のロール径の差の絶対値を示す。σHは円周方向にロールを任意の点から45°、90°、135°回転させ4箇所のΔHを測定した場合の、その最小値と最大値の差を示す。Wはフィルムロールの軸方向の最大幅を示す。Dはロール両端部における筒状のコア接触部からロール外表面端部までの最短距離を示す。ここでいう任意点とはロール周方向の1点を示す。また端部とはロール端から5mm内側に入った部分を示す。)
【請求項2】
熱可塑性樹脂フィルムロールの真空脱気後の形状変化が下記式(5)を満足する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
(5)0≦λH≦100μm
(上記式中、λHは、ΔHとΔHの差の絶対値を示す。ここにおけるΔHとは真空脱気前のΔH、ΔHとは真空脱気後のΔHを示す。)
【請求項3】
熱可塑性樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂層A(以下、A層という)と、前記A層に隣接する熱可塑性樹脂層B(以下、B層という)の少なくとも2層からなる積層フィルムであって、A層の中心線平均表面粗さRaが0.7〜7nm、B層の中心平均表面粗さRaが2〜20nmであり、B層が不活性粒子αと不活性粒子βとを含有し、B層中の不活性粒子αの含有量が0.4〜2.0重量%、B層中の不活性粒子βの含有量が0.01〜0.3重量%である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項4】
A層の中心線平均表面粗さRaとB層の中心線平均表面粗さRaとの比Ra/Raが0.05〜0.7であり、B層に含有される不活性粒子αの平均粒子径dαが150nm以上400nm未満であり、不活性粒子βの平均粒子径dβが400nm以上1,200nm未満であり、不活性粒子αとβの平均粒子径dαとdβの差(dβ−dα)が300〜1,000nmであり、B層の表面の不活性粒子βに由来する突起個数Nβが300〜4,000個/mmである、請求項3に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項5】
不活性粒子αおよび不活性粒子βがともに有機粒子である、請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項6】
B層の外表面に易滑被覆層Dが設けられ、A層の外表面に粒子を含有する易滑被覆層Cが設けられている、請求項3〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項7】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さが3〜12μmであり、巻長さが15,000m以上50,000m以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項8】
熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である、請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項9】
ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレートである、請求項8に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項10】
磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる、請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項11】
デジタル記録方式の磁気テープ用に用いられる、請求項10に記載の熱可塑性樹脂フィルムロール。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムロールから供給された熱可塑性樹脂フィルムのA層側の外表面上に強磁性金属薄膜が設けられてなる磁気記録テープ。

【公開番号】特開2008−243277(P2008−243277A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80987(P2007−80987)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】