説明

熱可塑性樹脂発泡成形体及びその製造方法

【課題】成形体の表面外観品質に優れ、均一性の高い発泡セル径が安定的に得られ、発泡率の高い熱可塑性樹脂発泡成形体と、その製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】キャビティ容積を可変する可動コアを有する金型内に、予め不活性ガスを注入する工程と、化学発泡剤を混練した溶融樹脂に超臨界流体を浸透させてこの溶融樹脂を金型内に充填する工程と、溶融樹脂の金型内充填時に可動コアをキャビティ容積が増大する方向に後退させる工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形法等の成形方法を用いて金型内に熱可塑性樹脂を充填して成形する発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡体の成形方法としては、化学的発泡剤を用いる化学的発泡法の他に金型内に充填する熱可塑性樹脂に二酸化炭素や窒素の超臨界流体を浸透させて、金型内で脱ガス化発泡する物理発泡法が公知である。
また、金型内に二酸化炭素や窒素の不活性ガスを予め、加圧注入しておいて射出充填する際の急激な減圧に寄因する発泡ガスによるスワールマーク等の成形表面欠陥を防止する、いわゆるカウンタープレッシャー法が公知である。
さらには、金型内のキャビティを構成するコアの全面又は一部を可動コア型で形成し、射出成形時に後退させてキャビティ容積を拡大することで発泡率を向上させるコアバック法が公知である。
【0003】
しかし、それぞれの発泡方法には次のような技術的課題があり、それらを総合的に課題解決した発泡体の成形方法は未だ得られていないのが現状であった。
まず、熱可塑性樹脂に超臨界流体を浸透させる物理発泡法はポリスチレン系樹脂等の非結晶性樹脂に対しては、微細で高発泡率を得るだけの比較的に多くの量を浸透させることができるが、ポリオレフィン系樹脂等の結晶性樹脂には充分に超臨界流体を浸透させることができない。
特開2003−206369号公報には、ポリオレフィン系樹脂に熱可塑性エラストマーを加え、更には無機充填材を添加することで超臨界流体の浸透性と発泡性を改善する技術を開示する。
しかし、エラストマーの添加により超臨界流体の浸透性を向上すると逆に金型内で脱ガス化しやすくなり、例えばコアバック法で高発泡率にしようとすると発泡セルが不均一になったり、成形体表面にスワールマークや光沢ムラが発生する問題があった。
また、このことは非結晶性樹脂にも当てはまり、二酸化炭素の超臨界流体は、金型内での成形体表面からの脱ガス化が急激に発生しやすく、成形体に表面欠陥が生じやすかった。
【0004】
特開2004−167777号公報には、金型内に充填される溶融樹脂に対して拡散係数の高い(浸透性の高い)二酸化炭素の超臨界流体をカウンターガスに用いた技術を開示するが、二酸化炭素ガスは樹脂に浸透して可塑剤として作用するので物理発泡剤を成形体表面に誘引する逆作用も生じるため、成形体の外観品質が不安定であった。
【0005】
特開2004−189911号公報には、超臨界流体が浸透しにくいポリプロピレン系樹脂に対して、化学発泡剤を加えることで物理的発泡をサポートする技術を開示するが、適用できるポリプロピレン系樹脂組成物に限定があり、成形体の滑らかな表面品質の維持が難しかった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−206369号公報
【特許文献2】特開2004−167777号公報
【特許文献3】特開2004−189911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記技術的課題に鑑みて、成形体の表面外観品質に優れ、均一性の高い発泡セル径が安定的に得られ、発泡率の高い熱可塑性樹脂発泡成形体と、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の技術的要旨は、キャビティ容積を可変する可動コアを有する金型内に、予め不活性ガスを注入する工程と、化学発泡剤を混練した溶融樹脂に超臨界流体を浸透させてこの溶融樹脂を金型内に充填する工程と、溶融樹脂の金型内充填時に可動コアをキャビティ容積が増大する方向に後退させる工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法にある。
【0009】
本発明は個々の工法に内在する技術的課題の総合的解決を図った点に特徴がある。
即ち、超臨界流体を物理発泡剤として用いることで発泡セル径を微細化しつつ、熱可塑性樹脂の種類によっては超臨界流体の浸透量が少ない場合を化学発泡剤で補うだけでなく、コアバック法により高発泡率化を図る場合に生じやすいセル径の不均一化をこの化学発泡剤の添加により防止したものである。
これにより、ポリスチレン系樹脂のように非結晶性樹脂からポリオレフィン系樹脂のように結晶性樹脂まで総合的な対応が可能になった。
【0010】
超臨界流体の溶融した熱可塑性樹脂に対する浸透量は、化学発泡剤を混練した熱可塑性樹脂組成物に対して0.1〜5重量%の範囲、好ましくは少なくとも約0.5重量%必要であるが、浸透量の少ない場合には化学発泡剤を多く混練すると良い。
使用する化学発泡剤として特に限定はないが好ましいものとしては、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の群から選択されたものである。
また、添加量は先に述べたように成形対象となる樹脂の種類、物理発泡剤の種類及び浸透量を考慮して設定されるが、概ね0.01〜5重量%の範囲が良い。
【0011】
超臨界流体には、二酸化炭素又は窒素等が用いられるが、熱可塑性樹脂に対しては二酸化炭素の方が窒素よりも浸透性が高く、それだけ可塑剤としての作用も強い。
そこで理想的には、物理発泡剤として樹脂に浸透する超臨界流体として二酸化炭素を用い、カウンタープレッシャーガスとして窒素を用いるのが良い。
その理由としては、溶融樹脂が金型内に充填される際にカウンタープレッシャーガスとして二酸化炭素を用いると溶融樹脂の表面からの浸透性が高く、可塑化が進行し内部の物理発泡剤として用いた二酸化炭素の成形体表面からの脱ガス化を誘発し、脱ガス化による表面の凹凸が発生しやすくなるが、カウンタープレッシャーガスとして窒素を用いると窒素は二酸化炭素より樹脂表面の可塑剤作用が小さく、成形体表面に安定したスキン層を形成し、外観が平滑で安定した品質が得られやすいからである。
この場合の窒素ガス圧は、0.01〜10MPaレベルで良い。
また、安定した高発泡率体を得るにはコアの後退速度を制御するのが良く、0.01〜20mm/sの範囲が好ましい。
このように総合的に製造条件を制御することで内部の外観品質に優れた発泡体が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法においては、熱可塑性樹脂の発泡剤として、化学発泡剤と、物理発泡剤としての超臨界流体とを組み合わせるとともにコアバック法を採り入れ、それらの相乗効果により均一な径で独立した微細な発泡セルを有する成形体が得られる。
また、その際にカウンタープレッシャー用のガスとして理想的には窒素を用いることで、成形体表面をより平滑化して外観を更に向上出来る。
このように発泡体の成形条件を総合的に制御することで、非結晶性樹脂から結晶性樹脂まで各種熱可塑性樹脂に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係る熱可塑性樹脂発泡成形体(以下、成形体と称する)を製造する射出成形装置10の実施例の模式図を示し、スクリュータイプの射出装置20とコアバックタイプの成形型30とを備えている。
射出装置20には、超臨界二酸化炭素発生装置(図示省略)で発生させた超臨界状態の二酸化炭素3を射出装置20内に導入するための接続管24を接続している。
射出成形金型30は、第1成形型31と、第2成形型32と、可動コア33を備えて、キャビティ34を形成している。
射出装置20へは、例えばホッパー21より熱可塑性樹脂のペレットを化学発泡剤とともに投入したり、あるいは、予め熱可塑性樹脂に化学発泡剤を含ませてあるペレットを投入してもよく、それらの投入形態は射出装置内で超臨界状態の二酸化炭素と化学発泡剤とを均等に混合して溶融樹脂2を形成出来れば限定されない。
使用する化学発泡剤は、例えば炭酸水素ナトリウム(重曹)、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、の中から選択したものが考えられるが、この他の重曹系、あるいは、アゾ系の発泡剤でも良い。
図1(イ)は、キャビティ34へ射出装置20内の溶融樹脂2を射出する前の状態を示す。
射出装置20内に投入した熱可塑性樹脂と化学発泡剤を、スクリュー25の送り出しによる剪断発熱やヒータ(図示省略)加熱により溶融させ、この溶融した熱可塑性樹脂と化学発泡剤の樹脂組成物に所定量の超臨界状態の二酸化炭素3を注入して含浸させ混練した溶融樹脂2を形成している。
次いで、図1(ロ)に示すようにノズル22からスプール23を通してキャビティ34内に溶融樹脂2を射出する。
成形型30が形成する密閉したキャビティ34内には、高圧の窒素ガス4を供給するボンベ(図示省略)を接続管35で接続し、予め窒素ガス4を0.01〜10MPaの圧力で封止している。
このように溶融樹脂2を射出するキャビティ34内に射出前に予め窒素ガス4を高圧に充填しておくことで、キャビティ34内に射出した溶融樹脂2aの減圧を抑制して溶融樹脂2aの表面における発泡を抑制しつつ、溶融樹脂2aの表面にスキン層を形成する。
また、この溶融樹脂2aをキャビティ34内へ射出開始した直後から、可動コア33を矢印Aのように駆動してキャビティ34の容積を拡大する制御を開始する。
図1はキャビティ34の一面を可動コア33で駆動する例を示しているが、可動コアはキャビティ面の一部のみを駆動してキャビティ容積を拡大するものでも良い。
この可動コア33の駆動制御は、射出した溶融樹脂2aが発泡した後、好ましくは、溶融樹脂2aが図1(ハ)のように所定の形状で固化し、成形体1となるまで行うのが良い。
成形体1は、溶融樹脂状態時にその表面付近の発泡が抑制される一方、全体的には化学発泡剤の残査が核剤として作用することから、分布に偏りのない、均一なセル径の発泡セルを形成する。
また、可動コアを駆動することによりキャビティが拡大し、樹脂内部の圧力分布が平均化されることでもセル径が均一化する。
キャビティ34内に充填していた窒素ガス4は、可動コア33の駆動制御終了前にキャビティ34外へ排気する。
可動コア33の駆動速度とセル径のバラツキの概略特性を図2に示す。
この可動コア33の駆動速度は0.01〜20mm/sで、好ましくは0.3〜0.5mm/sとするのが良く、駆動制御方法はキャビティ34の容量を拡大するものであれば速度変化させても良い。
また、熱可塑性樹脂に化学発泡剤を混入した樹脂組成物へ加える超臨界状態の二酸化炭素量と成形体に形成されるスキン層の厚みの概略特性を図3に示す。
超臨界状態の二酸化炭素は、この樹脂組成物量に対して0.01〜5重量%を加え、好ましくは0.5重量%程度を加えるのが良い。
また、物理発泡剤として用いる超臨界流体と、カウンタープレッシャー用のガスの組合わせについての実験結果を図4に示す。
形成した成形体1の表面外観は、物理発泡剤として二酸化炭素の超臨界流体を用いて、カウンタープレッシャー用のガスとして窒素を用いた場合が最も優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に関する熱可塑性樹脂発泡成形体を製造するための射出成型装置の模式図を示す。
【図2】可動コアの後退速度と発泡セル径のバラツキの概略特性を示す。
【図3】樹脂組成物に加える超臨界状態の二酸化炭素量と発泡体のスキン層厚みの概略特性を示す。
【図4】超臨界流体と、カウンタープレッシャー用のガスの組合わせについての実験結果を示す。
【符号の説明】
【0015】
1 熱可塑性樹脂発泡成形体
2 溶融樹脂
2a キャビティ内に射出した溶融樹脂
3 超臨界状態の二酸化炭素
4 窒素ガス
10 射出成形装置
20 射出装置
21 ホッパー
22 ノズル
23 スプール
24 超臨界状態の二酸化炭素用接続管
25 スクリュー
30 成形型
31 第1成形型
32 第2成形型
33 可動コア
34 キャビティ
35 窒素ガス供給用接続管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ容積を可変する可動コアを有する金型内に予め不活性ガスを注入する工程と、化学発泡剤を混練した溶融樹脂に超臨界流体を浸透させてこの溶融樹脂を金型内に充填する工程と、溶融樹脂の金型内充填時に可動コアをキャビティ容積が増大する方向に後退させる工程とを有することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
超臨界流体は、化学発泡剤を混練した熱可塑性樹脂組成物に対して0.1〜5重量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
金型内に予め注入する不活性ガスが窒素ガスであり、超臨界流体が二酸化炭素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
可動コアの後退速度は0.01〜20mm/sの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
化学発泡剤は、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で製造したことを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−15231(P2007−15231A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199556(P2005−199556)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000132932)株式会社タカギセイコー (29)
【Fターム(参考)】