説明

熱可塑性樹脂系摺動材

【目的】結晶性熱可塑性樹脂への補強材及び結晶核材として使用可能な添加
の混入により材よりも高潤滑性(低摩擦性)で磨耗性が増加しない熱可塑性
樹脂系摺動材を提供する。
【構成】自己潤滑性の結晶性熱可塑性樹脂にそれの補強材及び結晶核材とし
て使用可能な添加材の一種若しくは複数が含まれて、
ジャーナル試験機による測定の摩擦係数が該結晶性熱可塑性樹脂よりも10
%以上小さい摺動面を有して、JISK7171により測定の曲げ強度(MPa)が
原料の結晶性熱可塑性樹脂よりも5%以上大きくされて、原料の結晶性熱可
塑性樹脂よりも高潤滑性(低摩擦性)で磨耗性が増加せず、長時間にわたって
安定・安全・正確な摺動が可能になる熱可塑性樹脂系摺動材にされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、結晶性熱可塑性樹脂からの成形過程及び成形体を補強材
及び結晶核材としての機能を併有の添加材により制御して高潤滑性(
低摩擦性)及び高耐磨耗性にされている熱可塑性樹脂系摺動材に関す
る。
【背景技術】
【0002】
自己潤滑性材料の多くのは、固体潤滑材としての利用が可能で、層状
構造無機化合物(二硫化モリブデン、黒鉛、窒化ホウ素等)、軟質金属
被膜、耐磨耗合金、金属メッキ(金、パラジウム、スズ等のメッキ)、
セラミックス、焼結合金、自己潤滑性の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹
脂等が代表的な固体潤滑材として公知である。
なお、固体潤滑材と接触材料との間で生じる摩擦及び磨耗の挙動を説
明するモデルからは、固体潤滑材の摺動面の具体的挙動の予測は不可
能で、個々の固体潤滑材に関して行う実験によって使用の適否が判断
されているだけである(例えば、非特許文献1等を参照)。
【0003】
固体潤滑材の潤滑方式には、摺動面に固体潤滑材粉末を介在させる摺動
方式(図3の説明図を参照)、摺動面に固体潤滑材粉末を含有の潤滑油を
介在させる摺動方式(図4の説明図を参照)、鋼材等の硬質金属上に設け
る軟質金属等を介在させる摺動方式(図5の説明図を参照)、固体潤滑材
を埋込んだ摺動面を利用する摺動方式(図6の説明図を参照)、摺動部材
に固体潤滑材の摩擦面を設ける摺動方式(図7の説明図を参照)及び自
己潤滑性材料から摺動部材を形成する方式等がある。
自己潤滑性の熱可塑性樹脂としては、ポリテトラフロオロエチレン樹
脂(以下において、PTFE樹脂ということがある)、結晶性オレフィ
ン樹脂、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂等が固体潤滑材になり
得ることが知られている。
ただし、自己潤滑性の熱可塑性樹脂等による樹脂軸受けの磨耗進行試
験では、いずれの磨耗試験機によっても、図8に示す磨耗進行曲線に
なることが良く知られている。
【0004】
【非特許文献1】日本潤滑学会編:「新材料のトライボロジー」(株)養賢堂発行、1991
【0005】
図8は、合成樹脂軸受けの磨耗進行試験の結果を示す説明図であって、
符号Aに示す磨耗は、自己潤滑性樹脂による合成軸受けの一般的な磨耗
進行曲線を表していて、初期磨耗(0−H1)で高めに磨耗が進行し、そ
の後の定常領域(H1−H3)では、一定の緩やかな割合で磨耗が進行する。
符号Bに示す磨耗は、初期磨耗が存在しない磨耗進行曲線で、アブレッ
シブ磨耗及び処女面に良くみられる。符号Cに示す磨耗は、初期領域(0
−H2)に摩擦材の効果が働いて、その後は、相手軸の損傷等により表面
あらさが大きくなって、摺動界面で砥粒の役割をしながら磨耗が進行し
ていく場合によく観察される曲線である。
自己潤滑性の熱可塑性樹脂の軸受け等においても、符号A及びBに示
す磨耗進行曲線になることが一般的に知られていて、充填剤粒子等が存
在する場合には、摺動面にアブレッシブ磨耗が生じ易くなって、図8の
符号Bの磨耗進行を示す傾向を示すことが良く知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自己潤滑性の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン等)の従来の摺動
材に関しては、下記(イ)〜(ニ)等の問題点が存在していた。
(イ)経過的使用によって摺動面が容易に磨耗して摺動が不安定になっ
て、摺動材の寿命が短いとの問題点が存在していた。
(ロ)自己潤滑性の熱可塑性樹脂に無機化合物等の充填材を混入すると、
経過的使用による磨耗量が著しく増加するとの問題点が存在していた。
(ハ)自己潤滑性の熱可塑性樹脂からは、高潤滑性(低摩擦係数)及び
耐磨耗性という摺動材の基本的条件を具備するのが困難(実質的に不可
能)であるとの問題点が存在していた。
(ニ)従来にあっては、熱可塑性樹脂に無機化合物等の充填材と結晶核
材を配合しても磨耗性が図8の符号Bの挙動になることが知られている
(後記比較例を参照)。
【0007】
そこで、本発明者により多く実験を主体とする検討が行われて、
対象樹脂に対して補強材及び結晶核材として機能する添加材であ
って特別の条件を充足する場合(後記の添加材の(イ)・(ロ)の条
件を参照)には、それを自己潤滑性の結晶性熱可塑性樹脂に混入す
ると、原料の熱溶融体からの冷却・固化において高潤滑性(低摩擦
性)及び高耐磨耗性を有する構造体になる事実が本発明で見出され
た。
(A) 本発明は、潤滑性が熱可塑性樹脂より大きい高潤滑性を有して、
かつ、耐磨耗性にも優れる熱可塑性樹脂系摺動材を提供すること、を
目的とする。
(B)本発明は、優れた耐磨耗性と高潤滑性と機械的特性とを併有する熱
可塑性樹脂系摺動材を提供すること、をも目的とする。
(C)本発明は、製造コスト・製造技術からも工業的実施可能性に優れる
熱可塑性樹脂系摺動材を提供すること、をも目的とする。
(D)本発明は、所望形状に成形容易な熱可塑性樹脂系摺動材を提供する
こと、をも目的とする。
(E)本発明は、長時間の使用においても安定・安全・正確な摺動が可能
な熱可塑性樹脂系摺動材を提供すること、をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による熱可塑性樹脂系摺動材は、自己潤滑性の結晶性熱可塑
性樹脂にそれの補強材及び結晶核材として使用可能な添加材の一
種若しくは複数が含まれて、
ジャーナル試験機による測定の摩擦係数が該結晶性熱可塑性樹脂
よりも10%以上小さい摺動面を有して、JISK7171により測定の曲
げ強度(MPa)が該結晶性熱可塑性樹脂よりも5%以上大きいこと、
を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下記(a)〜(e)に代表される種々の効果が得られ
る。
(a)機械的強度に優れて、潤滑性が熱可塑性樹脂よりも向上して、し
かも、磨耗量が経時的に増加しない熱可塑性樹脂系摺動材が提供される。
すなわち、従来の熱可塑性樹脂系摺動材にはない磨耗量が経時的に増加
しないという特性(従来において見出されていない特性)を備える熱可
塑性樹脂系摺動材が提供される。
(b)大幅に潤滑性及び機械的物性が向上する熱可塑性樹脂系摺動材が
提供される。
(c)製造コスト・製造技術からも工業的実施可能性に優れる熱可塑性
樹脂系摺動材が提供される。
(d)高潤滑性及び高耐磨耗性を併有して、所望形状に成形容易な熱可
塑性樹脂系摺動材が提供される。
(e)長時間の使用においても安定・正確・安全な摺動が可能な熱可塑性
樹脂系摺動材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〈本発明の概要〉:
本発明の熱可塑性樹脂系摺動材(以下において、摺動材と略称するこ
とがある)は、補強材及び結晶核材の機能を併有する添加材を混入した
結晶性熱可塑性樹脂(以下において、成形原料ということがある)の
熱溶融化及びそれの冷却・固化に際して結晶核材の機能により潤滑性
及び耐磨耗性が共に優れる構造体を形成させて、しかも、補強材の機
能により構造体に摺動材に適する機械的特性(特に、機械的強度)が
付与されている。すなわち、本発明による摺動材は、添加剤の存在に
かかわらず、図8の符号Aに示す磨耗進行挙動となる高耐磨耗性を備え
ている(後記実施例を参照)。
【0011】
〈結晶性熱可塑性樹脂〉:
結晶性熱可塑性樹脂は、補強材及び結晶核材の機能を併有する添加
材を混入して本発明で定義される構造体を成形可能とする樹脂であ
る。結晶性オレフィン樹脂(ポリエチレン及びポリプロピレンが代
表的である)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66及びナイ
ロン46が代表的である)、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフ
タレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアセタール樹脂等
の使用が可能で、それらの単独若しくは異種の組み合わせ(例えば、
高密度ポリエチレンとポリプロピレンの組み合わせ)によってもよ
い。又、同一種内での複数種の組み合わせ(例えば、高密度ポリエ
チレンと中密度ポリエチレンの組み合わせ)であってもよい。
ただし、本発明の摺動材は、結晶性オレフィン樹脂単独若しくは結晶
性オレフィン樹脂とそれよりも少量のポリアミド樹脂・ポリアセター
ル樹脂等の一種若しくは複数種の組み合わせで使用するのが、高潤滑
性及び高耐磨耗性を有する構造体の摺動材にするのに容易である。
【0012】
〈結晶性オレフィン樹脂〉:
ポリエチレンは、摺動材の構造体になり得る強度を備えていれば、単
独重合体及び共重合体のいずれもが本発明の対象になり得る。ポリエ
チレンは、少量の共重合体を含んでも単独重合体として一般に扱われ
ていて、本発明でも同様である。ポリエチレンは、約0.94g/cm3
度の高密度のものから超低密度のものまで存在するが、本発明の添加
剤を含んで摺動材に形成可能で使用に耐える強度を備えていれば、高
密度、中密度、低密度、直鎖状低密度及び線状低密度のいずれのポリ
エチレンも使用可能である。
高密度ポリエチレンは、例えば、約0.941〜約0.965g/cm3の密度と
広い分子量分布を有して、成形原料の熱溶融化及びそれからの冷却・
固化の過程を通じて、高機械的強度、高潤滑性及び高耐磨耗性(特に、
長時間の摺動での磨耗量の上昇防止)を有する構造体の摺動材にする
のが適している。
ポリエチレン共重合体には、結晶化度の増加により機械的強度が向上
する場合(例えば、共単量体が1−ブテン等)もあるので、摺動材用
構造体としても有益である。ポリエチレン共重合体は、一般的には、
エチレン以外のアルファーオレフィンとの共重合体が強度の点から摺
動材に適している。
ポリエチレンは、結晶核剤が予め添加されたポリエチレンであっても、
本発明の添加材を混入することにより本発明の効果を享受する摺動材
が得られる。ポリエチレン以外の結晶性熱可塑性樹脂についても同様で
ある。
【0013】
ポリプロピレンは、任意の重合法によることが可能であって、単独重
合体若しくは共重合体のいずれもが本発明の対象となる。共重合体の
共単量体としては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、
4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1,4−ヘ
キサジエン、ペンテン、1−オクテン、1−ドデセン、1−ヘキサデ
セン、1−テトラデセン等である。高立体規則性、例えば、アイソタ
クチックペンダント分率(ポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位
におけるアイソタクチック分率)が0.97以上の高立体規則性であ
れば、摺動材用構造体の機械的特性が向上させ得る。
ポリプロピレンは、結晶核剤を添加されているものが一般的ではあるが、
結晶核剤が添加若しくは未添加のいずれであっても本発明の効果を生
じさせることができる。
【0014】
〈ポリアミド樹脂〉:
ポリアミド樹脂は、ラクタム類の開環重合及びジアミンとジカルボン
酸の重縮合のいずれの製造法によるものも使用可能である。摺動材用構
造体の特性の点からは、ナイロン6及びナイロン66等が適している。
【0015】
〈ポリアセタール樹脂〉:
ポリアセタール樹脂は、ホルムアルデヒドの単独重合体及びその共重合
体(例えば、エチレンオキサイドとの共重合体)のいずれもが使用可能
である。
【0016】
〈ポリエステル樹脂〉:
ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテ
レフタレートのいずれもが使用可能であって、摺動材に要求される特性
に適合するものが使用される。
【0017】
〈添加材〉:
添加材は、次の(イ)及び(ロ)の条件(以下において、添加材の
(イ)・(ロ)の条件ということがある)を充足するものが使用される。
(イ)対象となる結晶性熱可塑性樹脂に対して補強材及び結晶核剤の機
能を併有するという条件と、
(ロ)対象となる結晶性熱可塑性樹脂よりも10%以上小さい摩擦係数
の摺動面及び5%以上大きい曲げ強度値(MPa)を構造体(すなわち、
成形体)に与えるという条件である。
添加材についての条件(ロ)の摩擦係数は、結晶性熱可塑性樹脂よりも
10%以上小さければよく、80%以上小さくすることは技術的に困難である。
なお、摩擦係数が結晶性熱可塑性樹脂よりも約20〜70%程度小さいと耐磨
耗性を著しく向上させることが可能である(後記実施例を参照)。
又、添加材の(ロ)の条件の結晶性熱可塑性樹脂よりも5%以上大
きい曲げ強度値(MPa)を構造体(成形体)に与えるという条件は、
上限が結晶性熱可塑性樹脂よりも約350%程度まで可能であるが、そ
れ以上の曲げ強度値(MPa)を可能にする量で添加材を加えると高
潤滑性(低摩擦性)・高耐磨耗性・高機械的物性の均衡保持が困難にな
る。
なお、補強材は、各種物性若しくは性質を改善・向上・コスト低減等の
目的で熱可塑性樹脂に加えられる物質で、結晶核剤は、結晶性熱可塑性
樹脂の結晶の生成及び結晶構造その他に影響を与える目的で加えられ
る物質である。
【0018】
そして、粉末状・繊維状・針状等の多様な形状を有する無機系・有機
系・金属系・金属酸化物系の多くの化合物が、熱可塑性樹脂用の補強
材として公知であり、無機系・有機系・高分子系の多くの化合物が、
熱可塑性樹脂用の結晶核剤として公知である。
しかし、本発明では、それ自体が熱可塑性樹脂の補強材及び結晶核
材としての機能を併用し、かつ、対象となる結晶性熱可塑性樹脂に
対応して添加材の(イ)・(ロ)の条件を充足させる種類・形状等を備え
る化合物が添加材として使用可能である。
【0019】
例えば、アルカリ土類金属の酸化物・炭酸塩・硫酸塩は、熱可塑性樹脂
の補強材及び結晶核剤としての機能を併有するが、本発明では、それら
添加材の(イ)・(ロ)の条件を充足することが必要である。従って、そ
れらの酸化物・炭酸塩・硫酸塩は、添加材の(イ)・(ロ)の条件を充足
するように改変・改質の処理がほどこされて本発明の使用に供される。
アルカリ土類金属の炭酸塩については、長径と短径の比で示されるアス
ペクト比が3〜100のウイスカー状炭酸カルシウムである(後記実施例
を参照)。ウイスカー状炭酸カルシウムは、形状においてウイスカーと
同様若しくは近似であれば本発明の効果を享受可能である。従って、炭
酸カルシウムウイスカー(すなわち、炭酸カルシウムの単結晶の成長物
)であっても、ウイスカーと同様若しくは近似の形状からなる炭酸カル
シウムであってもよい。
なお、ウイスカー状炭酸カルシウム等のアスペクト比3〜100は、走
査型電子顕微鏡により1000倍程度の倍率で容易に視認可能である。
また、例えば、タルク、クレ−、カオリン、アルカリ土類金属以外の
無機酸化物・無機燐酸塩・珪酸塩等、金属塩(例えば、チタン酸カリ
ウム等)も熱可塑性樹脂の補強材及び結晶核剤として機能するので、
添加材の(イ)・(ロ)の条件を充足するものにして使用可能である。
【0020】
なお、結晶核材については、無機系・有機系・高分子系の多くの化合
物結晶核剤が公知であって、有機系のソルビトール系結晶核剤が高性
能であるとの理由で、一般的には、樹脂重量に対して0.5重量%未満
(多い場合でも、1重量%未満)の量で使用されている。又、無機系
の結晶核剤も、一般的には樹脂重量に対して1重量%未満の量で使用
されている。
【0021】
添加材は、一種若しくは二種以上が使用可能であって、結晶性オレフ
ィン樹脂(特に、ポリエチレン及びポリプロピレン)に対しては、ウ
イスカー状炭酸カルシウムを添加材として配合した場合に本発明に
よる効果を最大に享受可能となる(後記実施例を参照)。
添加材の配合量は、補強材としての一般的な配合量よりも少量で、し
かも、結晶核材としての一般的な配合量よりも多量である。添加材の配
合量は、例えば、全体重量を基準として、0.8〜40重量%(好ましくは、
0.8〜30重量%)であることが可能である。
【0022】
〈摺動材用構造体の調製〉:
摺動材用構造体は、添加材と結晶性熱可塑性樹脂と必要に応じて加えら
れる配合剤等との混合成形原料が、混練装置により混練・熱溶融化され
て金型で冷却・固化されて所望形状に成形される。成形原料の混合装置
については制約がなく、任意の混合装置であり得る。 又、混練装置は、
単軸押出機、2軸押出機、多軸押出機いずれによることも可能である。
射出成形装置等についても、特に制約がない。
必要に応じて加えられる配合剤は、例えば、酸化防止剤、光安定剤、
紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防菌及び防かび剤等
である。
【0023】
〈熱可塑性樹脂系摺動材〉:

本発明の熱可塑性樹脂系摺動材は、任意の形態の摺動部材を構成する
ことが可能であって、代表例としては、歯車、軸受、機構部品等である
が、形態等において特に制約がない。摺動部材は、それ自体が独立して
機能するものであってもよく、部品として機能するものであってもよい。

歯車は、例えば、各種歯車、フェ−スギア、ウオ−ムギア、ウオ−ム
ホイ−ル、ハイポイドギア、ラック、はすばラック、インボリュ−トか
さ歯車、インボリュ−ト平歯車、インボリュ−ト円筒歯車、インボリュ
−ト円筒平歯車、ねじ歯車、オクトイドギア、増速歯車、減速歯車、部
分歯車及びねじ歯車等であることが可能である。
【0024】

軸受は、相対運動する部品を滑り運動・転がり運動等する機能と荷重を
支える機能を有するものであって、各種軸受であることが可能である。
【0025】

機構部品は、例えば、キャリヤープレ−ト、ブッシュ、ワイヤガイド、
ワイヤドラム、シ−トベルトアンカ−、サンバイザ−、パイピッグクリ
ップ類、戸車、ドアロックアクチュエ−タギア、ワイパ−モ−タギア及
びそれ以外の機構部品であることが可能である。
なお、本発明においては、本発明の目的に沿うものであって、本発明
の効果を特に害さない限りにおいては、改変あるいは部分的な変更及び
付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。

次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、実施例は例示
であって本発明を拘束するものではない。
【実施例1】
【0026】
結晶性熱可塑性樹脂と添加材と必要に応じて加えられる配合剤とから
なる成形原料から混練下での熱溶融化及び冷却・固化を得てテストピー
スを成形した。次の表1は、実験番号1〜7の成形原料の組成を示してい
る。表1において、HDPEは高密度ポリエチレンを、VHDPEは超
高分子量の高密度ポリエチレンを、PPはポリプロピレンを、PA6は
ナイロン6を、CFは炭素繊維を示している。又、CaCO3 は、添加
材としての長径と短径の比で示されるアスペクト比が20〜80のウイス
カー状炭酸カルシウムを、ホウ酸アルミは、ホウ酸アルミニウムウイス
カーを、MgSO4は、硫酸マグネシウムウイスカーを示している。配合
剤は、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、帯電
防止剤、防菌及び防かび剤等の配合剤を示している。表1中の数字は、
成形原料(熱可塑性樹と添加材と配合剤との合計重量)の重量を基準と
する重量%を表示している。
【0027】
【表1】

【実施例2】
【0028】
次の表2は、表1の実験番号1〜7の成形原料を混練下での熱溶融化
及び冷却・固化の過程を得て成形したテストピースについて摩擦係数を
ジャーナル試験機により測定した結果を示している。なお、図1は、摩
擦係数を測定したジャーナル試験機の概略を示す説明図で、図1のブッ
シュ状軸受材のテストピースの内面に面圧0.5MPaで接して相手軸(ア
ルミニウム軸)を常温・無潤滑で速度6m/分で回転して摩擦係数を測定
した。
表2中の実験番号に対応する樹脂欄の数字は、実験番号に対応する成形
原料中の熱可塑性樹脂(複数の熱可塑性樹脂が存在する場合は、量が最
も多い熱可塑性樹脂)を同じ条件で測定した熱可塑性樹脂の摩擦係数を
示している。表2中の減少率は、熱可塑性樹脂とテストピースの摩擦係
数を対比した場合の摩擦係数の減少比率を示している。例えば、実験番
号1の減少率が60%であることは、実験番号1のテストピースの摩擦係
数が、そのテストピースの量的主体を占める熱可塑性樹脂の摩擦係数よ
りも60%減少したことを意味している。
【0029】
【表2】

【実施例3】
【0030】
表3は、表1の実験番号1〜7の成形原料で成形したテストピースにつ
いて磨耗量(mm)をジャーナル試験機により測定した結果を示して
いる。なお、試験条件は、摩擦係数の測定の場合と同様で50時間経過
後の磨耗量を測定した。
表3中の実験番号に対応する樹脂欄の数字は、実験番号に対応する成
形原料中の熱可塑性樹樹脂(複数の熱可塑性樹脂が存在する場合は、
量が最も多い樹脂)を同じ条件で測定した熱可塑性樹脂の磨耗量を示
している。表3中の変化量は、熱可塑性樹脂とテストピースとの磨耗
量を対比した場合の変化した量を示している。
【0031】
【表3】

【0032】
高密度ポリエチレンに対するウイスカー状炭酸カルシウム含有の補
強効果の実験を行った。図2は、ウイスカー状炭酸カルシウム含有
量とそれを含有の高密度ポリエチレンの曲げ強度(MPa)との関係
を示す線図である。曲げ強度(MPa)はJISK7171に準じて測定
した。ウイスカー状炭酸カルシウム含有の高密度ポリエチレンが、
その高密度ポリエチレンより5%以上大きい曲げ強度(MPa)を有
して、ウイスカー状炭酸カルシウム含有の高密度ポリエチレンが、
その高密度ポリエチレンよりも少なくとも10%以上小さい摩擦係数
である場合には、表3に示すように50時間の摺動でも実質的に磨耗
量が変化しないという事実が見出された。すなわち、充填材粒子等が
存在する場合に見られる図8の符合Bの磨耗進行とは相違することが
見出された。
ウイスカー状炭酸カルシウム以外の物質(例えば、タルクその他の
物質等)でも、添加材の(イ)・(ロ)の条件を充足する場合には、
同様の結果になった。
【0033】
<比較例1>
高密度ポリエチレンに種々の充填材を配合した比較用テストピースを
実施例1と同様の条件で成形した。充填材は、本発明の添加材の(イ)・
(ロ)の条件を充足しない物質で、高密度ポリエチレンに対して実質的
に補強材としての効果を有する物質を選択した。
比較テストピースは、化学製法により得られた沈降性炭酸カルシウム
粉末アルミナ粉末、シリカ粉末、ホウ酸アルミニウムウイスカー、硫
酸マグネシウムウイスカー及び炭素繊維をそれぞれ10〜20重量%を
配合して調製した。
それぞれの比較用テストピースについて、実施例3と同様の方法によ
り50時間経過時の磨耗量を測定した。いずれの比較用テストピースも、
高密度ポリエチレンよりも磨耗量が大幅に増加し、図8の符号Bの状
況を示した。
ホウ酸アルミニウムウイスカー及び炭素繊維は、ウイスカー状炭酸カ
ルシウムと併用する場合に使用可能であって、単独では使用困難であ
った。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、結晶性熱可塑性樹脂が主体の摺動材にして、結晶性
熱可塑性樹脂よりも高潤滑性(低摩擦性)で磨耗性が増加せず、高潤
滑で長時間にわたって安定・安全・正確な摺動が可能になる熱可塑性
樹脂系摺動材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ジャーナル試験機の概略を示す説明図である。
【図2】ウイスカー状炭酸カルシウム含有の高密度ポリエチレンの曲げ強度を示す線図である。
【図3】固体潤滑材粉末が摺動面に介在する摺動方式の説明図である。
【図4】固体潤滑材粉末が含有の潤滑油が摺動面に介在する摺動方式の説明図である。
【図5】軟質金属等が硬質金属上に介在する摺動方式の説明図である。
【図6】固体潤滑材を埋込んだ摺動面を利用する摺動方式の説明図である。
【図7】固体潤滑材の摩擦面を摺動部材に設ける摺動方式の説明図である。
【図8】熱可塑性樹脂の樹脂軸受けの磨耗進行曲線を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己潤滑性の結晶性熱可塑性樹脂にそれの補強材及び結晶核材と
して使用可能な添加材の一種若しくは複数が含まれて、
ジャーナル試験機による測定の摩擦係数が該結晶性熱可塑性樹
脂よりも10%以上小さい摺動面を有して、JISK7171により測定
の曲げ強度(MPa)が該結晶性熱可塑性樹脂よりも5%以上大
きい構造体にされていること、を特徴とする熱可塑性樹脂系摺動材。
【請求項2】
自己潤滑性の結晶性熱可塑性樹脂にそれの補強材及び結晶核材と
して使用可能な添加材の一種若しくは複数が含まれて、
(1) 該添加材が、長径と短径の比で示されるアスペクト比が3〜
100に形成されて、
(2)ジャーナル試験機による測定の摩擦係数が該結晶性熱可塑
性樹脂よりも10%以上小さい摺動面を有して、JISK7171により
測定の曲げ強度(MPa)が該結晶性熱可塑性樹脂よりも5%以
上大きい構造体にされていること、を特徴とする熱可塑性樹脂
系摺動材。
【請求項3】
下記(1)〜(5)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴
とする請求項1若しくは2に記載の熱可塑性樹脂系摺動材。
(1)前記熱可塑性樹脂が、結晶性オレフィン樹脂からなる。
(2)前記熱可塑性樹脂が、結晶性オレフィン樹脂とポリアミド樹脂
との組み合わせからなる。
(2) 前記熱可塑性樹脂が、結晶性オレフィン樹脂とポリアミド樹脂
とポリアセタール樹脂との組み合わせからなる。
(4)前記添加材が、アルカリ土類金属の炭酸塩からなる。
(5)前記添加材が、長径と短径の比で示されるアスペクト比が5〜
80の形状からなる。
【請求項4】
下記(a)〜(d)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴とす
る請求項1若しくは2に記載の熱可塑性樹脂系摺動材。
(a)前記熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレン若しくはポリプロピレン
からなる。
(b)前記熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレンとそれよりも量の比率
が少ないナイロンとの組み合わせからなる。
(c)前記熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレンとそれよりも量の比率
が少ないナイロン及びポリアセタールとの組み合わせからなる。
(d)前記添加材が, 長径と短径の比で示されるアスペクト比が5〜
80で表されるアルカリ土類金属のウイスカー状炭酸塩を含むものからなる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−117891(P2006−117891A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310243(P2004−310243)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】