説明

熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品

【課題】変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れ、便器部品に好適な熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、有機系難燃剤(B)2〜40重量部、および成分(D)0.1〜2重量部、或いは所望によりさらに難燃助剤(C)0.1〜20重量部を、含有する熱可塑性樹脂組成物であって、成分(D)が以下の条件を満足することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、およびそれからなる便器部品など。
条件:成分(D)は、ポリオレフィン系ワックス、アルコール類、カルボン酸類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、融点が100℃以下であり、かつHLB値が5以下である化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品に関し、さらに詳しくは、便器用部品に用いた際に、尿便、洗剤、人が触れた場所等による変色が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れたポリプロピレン系樹脂組成物などの熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品に関する。
本明細書において、「便器部品」とは、便座、便蓋、温水を吐出し局部を洗浄する洗浄ノズル、温水洗浄装置の本体ケース、水タンク等の便器周り一般に用いられる部品を言う。
【背景技術】
【0002】
従来、便器部品用の樹脂としては、一般に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下、ABS樹脂と略す。)が使用されていた。このABS樹脂は、高い剛性、耐衝撃性及び光沢等の優れた物性を有する反面、耐酸性、耐アルカリ性等の耐薬品性、特に耐酸性に劣るという問題点を有していた。
【0003】
つまり、便器周辺の汚れの原因、例えば、尿便の付着による雑菌、カビの繁殖による汚れ、尿垢成分中の尿素、リン酸塩、粗タンパク、また、薬服用中の病人の排泄物、清涼飲料の多飲による過剰ビタミン類の排泄、尿便中の有機物、さらには、水垢、血液、便器洗浄剤、水洗トイレ用清浄剤等を除去するために、近年の洗浄力の向上した洗剤が開発され使用されるに至って、上記ABS樹脂製の便器用部品、特に日々清掃される便蓋、便座においては、機械物性の低下、変色、さらに甚だしい場合は、クラックの発生などの不都合が生じていた。
【0004】
一方、この様な問題点を解決しようとして、熱可塑性樹脂の中でも、耐薬品性の優れたポリプロピレン系樹脂を用いることも知られている。
しかし、一般的なポリプロピレン系樹脂では、ABS樹脂のような剛性や光沢等の物性、手触り肌触り感、耐傷付き特性、尿便や洗剤に起因する変色を抑制する耐変色性等において、充分満足できるものでなく、それらの改良が強く望まれていた。
【0005】
上記のようなポリプロピレン系樹脂の問題点を解決する試みとして、様々な手法が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
例えば、上記特許文献1では、ポリプロピレン樹脂100重量部に、ヒンダードアミン系安定剤0.01〜1重量部および芳香族燐系酸化防止剤0.01〜1重量部を配合することにより、尿便、洗剤等による変色が抑制され、手触り肌触り感に優れ、剛性、耐熱老化性も良好で、且つ耐洗剤性に優れるポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2では、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、ヒドロキシルアミン系化合物0.01〜1重量部およびヒンダードアミン系光安定剤0.05〜1重量部を配合することにより、尿による成形体の変色が無く、加工時の焼けが少ないポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
さらに、特許文献3では、ポリプロピレン樹脂と、極性基を有するシリコーンオイルと、前記極性基を有するシリコーンオイルと前記ポリプロピレン樹脂との相溶性を向上させる相溶化剤と、を含み、前記極性基を有するシリコーンオイルが前記ポリプロピレン樹脂に分散していることを特徴とすることにより、優れた防汚性を有する防汚性ポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献4では、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料0.2〜10重量部、分子量1500以上のヒンダードアミン系化合物0.02〜2重量部を有し、かつフェノール系酸化防止剤0.02重量部以下であることを特徴とすることにより、耐尿変色性、耐熱性及び耐候性に優れ、便座シートや便蓋等の材料に適した耐尿変色性樹脂組成物が開示されている。
さらに、特許文献5では、アイソタクチックペンダット分率が96%以上の高結晶性ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、核剤を0.01〜1重量部配合し、樹脂組成物が特定のメルトフローレート(MFR)とメモリーエフェクト(ME)とを有し、かつ結晶化温度が125〜136℃であることにより、便座部品の反り特性、尿便、洗剤等による変色が十分に抑制され、手触り肌触り感や反り特性及び剛性に優れ、耐熱老化性や耐洗剤性も良好である便座部品用ポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。
【0006】
一方、保温便座が主流となり、それに伴い、便器部品(便座部品)用ポリプロピレン系樹脂組成物にも、難燃性が要求されるようになり、従来から、ポリプロピレン系樹脂に難燃性を付与するために、臭素系難燃剤と難燃助剤としての三酸化アンチモンとを組み合わせて配合することが行われており、そして、このような難燃性ポリプロピレン系樹脂は、汎用難燃性樹脂として難燃性が要求される各種成形品に幅広く用いられている。
ところが、難燃剤の分解ガス等の要因により、シルバーストリーク発生などの成形不良の他、焼けによる成形品表面の外観不良発生などの問題点があり、これらの難燃性ポリプロピレン系樹脂の問題点を解決する試みとして、様々な手法が提案されている(例えば、特許文献6〜9参照。)。
【0007】
例えば、上記特許文献6では、難燃剤を含有するポリプロピレン系樹脂組成物から成形される樹脂成形体であって、該樹脂組成物が特定のメルトフローレート(MFR)とメモリーエフェクト(ME)と密度を有することにより、成形性に優れ、速い充填で成形してもシルバーストリーク発生などの成形不良をもたらすことのない、便座用部品に好適な難燃性のポリプロピレン系樹脂成形体が開示されている。
また、特許文献7では、特定の高結晶性プロピレン系重合体I(A)100重量部に対して、MFRが1〜20g/10分、Q値が7以上、重量平均分子量(Mw)に対するZ平均分子量(Mz)の比(Mz/Mw)が5以上であるプロピレン系重合体II(B)を1〜25重量部、有機系難燃剤(C)を3〜50重量部、アンチモン化合物(D)を1〜40重量部、シリコーンオイル(E)を0.01〜0.5重量部含有することにより、シルバーストリーク、焼け等の発生が抑えられ表面外観に優れた成形品が得られ、便座、便蓋などの用途に好適なポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。
さらに、特許文献8では、特定の結晶性ポリプロピレン(A)100重量部に対して、MFRが0.01〜100g/10分、Q値が3.5〜10.5、分子量(M)が200万以上の成分の比率が0.4重量%以上10重量%未満、昇温溶出分別(TREF)において40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下、アイソタクチックトライアッド分率(mm)が95%以上、伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax)が6.0以上であるプロピレン系重合体(B)を1〜25重量部、有機系難燃剤(C)を3〜50重量部、アンチモン化合物(D)を1〜40重量部含有することにより、シルバーストリーク、焼け等の発生が抑えられ表面外観に優れた成形品が得られ、便座、便蓋などの用途に好適な結晶性ポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
またさらに、特許文献9では、特定の結晶性ポリプロピレン(A)100重量部に対して、25℃でp−キシレンに不溶となる特定の成分(α)と25℃でp−キシレンに溶解する特定の成分(β)とから構成され、且つ、特定の物性を有するプロピレン系重合体(B)を1〜25重量部、有機系難燃剤(C)を3〜50重量部、アンチモン化合物(D)を1〜40重量部含有することにより、シルバーストリーク、焼け等の発生が抑えられ表面外観に優れた成形品が得られ、便座、便蓋などの用途に好適な結晶性ポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
【0008】
さらに、前記したように、一般的なポリプロピレン系樹脂では、ABS樹脂のような光沢・耐傷付き特性を発現することは難しいため、その対策として、エルカ酸アマイドのような脂肪酸アミド系滑剤の配合により、ポリプロピレンの光沢・肌触り感・耐傷付き特性を発現している(例えば、特許文献10参照。)。
しかしながら、これらの従来技術による配合処方では、有機系難燃剤、例えば、ハロゲン系難燃剤を用いた際には、性能的に未だ十分でなく、例えば、エルカ酸アマイドのような脂肪酸アミド系滑剤とハロゲン系(臭素系)難燃剤との併用により、激しく褐色の変色を生じる場合があり、そのため、変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性を付与したポリプロピレン系樹脂組成物などの熱可塑性樹脂組成物が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−287778号公報
【特許文献2】特開2002−226644号公報
【特許文献3】WO2009/072299号公報
【特許文献4】特開2000−1580号公報
【特許文献5】特開平11−181182号公報
【特許文献6】特開2003−105144号公報
【特許文献7】特開2008−074896号公報
【特許文献8】特開2009−275117号公報
【特許文献9】特開2009−275118号公報
【特許文献10】特開2011−144278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、良好な難燃性を保持した上で、変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れ、便器部品に好適なポリプロピレン系樹脂組成物などの熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂に、ハロゲン系難燃剤に代表される有機系難燃剤、および脂肪酸エステルに代表される特定の成分、或いは、所望により、さらに難燃助剤を、特定割合で配合してなる熱可塑性樹脂組成物、特にポリプロピレン系樹脂組成物により、便器用部品に用いた際に、変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、有機系難燃剤(B)2〜40重量部、および成分(D)0.1〜2重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、成分(D)が以下の条件を満足することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
条件:成分(D)は、ポリオレフィン系ワックス、アルコール類、カルボン酸類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、融点が100℃以下であり、かつHLB値が5以下である化合物。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、有機系難燃剤(B)がハロゲン系難燃剤であり、かつ、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、難燃助剤(C)0.1〜20重量部を、さらに含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、有機系難燃剤(B)が臭素系難燃剤であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第2又は3の発明において、難燃助剤(C)がアンチモン化合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1.0〜150g/10分であり、且つプロピレン以外のα−オレフィン含量が1〜30重量%のプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体またはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、成分(D)は、分子量が350〜2000の脂肪酸エステルであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明に係る熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形用熱可塑性樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明に係る射出成型用熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする便器部品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、便器用部品に用いた際に、変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、有機系難燃剤(B)2〜40重量部、および成分(D)0.1〜2重量部を、或いは、所望により、さらに、難燃助剤(C)0.1〜20重量部を、含有する熱可塑性樹脂組成物であって、成分(D)が以下の条件を満足することを特徴とするものである。
条件:成分(D)は、ポリオレフィン系ワックス、アルコール類、カルボン酸類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、融点が100℃以下であり、かつHLB値が5以下である化合物。
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる便器部品について、項目毎に詳細に説明する。
【0019】
I.熱可塑性樹脂組成物
1.熱可塑性樹脂(A)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(A)は、本発明の目的とする効果を奏するものであれば、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂を使用することができるが、オレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましく、中でもプロピレン単独重合体、及び/又はプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとのブロック共重合体またはランダム共重合体(以下、本明細書においては単に、「プロピレン−α−オレフィン共重合体」と称することがある。)が好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
好ましく用いられるプロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンとプロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンをコモノマーとする共重合体、プロピレン含量が70〜99重量%(すなわちコモノマー含量が1〜30重量%)であり、更に好ましくはプロピレン含量が90重量%以上のプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体である。また、α−オレフィンの異なるランダム共重合体またはブロック共重合体の混合物であってもよい。
【0020】
また、プロピレンと共重合させるプロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンであるコモノマーは、1種用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的に、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ペンテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−オクテン−1共重合体のような二元共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセン−1共重合体のような三元共重合体などが挙げられ、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体などが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィン単量体の含有量は、通常は、0.01〜30重量%程度、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%程度含むことができる。
【0021】
プロピレンを除く炭素数2〜8のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。
【0022】
また、成形性の観点から、熱可塑性樹脂(A)である前記ポリプロピレン系樹脂は、融点が100〜170℃であることが好ましく、120〜168℃であることがより好ましく、150〜165℃であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点は、主として、原料として用いられるプロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの種類、共重合比率、MFR等により、適宜制御することができる。なお、本明細書でいう「融点」とは、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)により、測定された融解ピーク温度である。
【0023】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠したメルトフローレート(以下、MFRとも記す。)[測定温度230℃、荷重2.16kg(21.18N)]について、特に制限はないが、ポリプロピレン系樹脂が、プロピレン以外のα−オレフィン含量が1〜30重量%のプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体またはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体である場合は、MFRが1.0〜150g/10分であるのが好ましく、5〜100g/10分がより好ましく、10〜60g/10分がさらに好ましい。MFRが1.0g/10分を下回ると、成形時の負荷が増大し、表面の平滑性が損なわれ、成形品の外観が悪化するおそれがあり、逆に、150g/10分を上回ると、添加剤のポリプロピレン系樹脂への均一分散性が悪化するおそれがある。
【0024】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、その結晶化度を示すアイソタクチックペンタッド分率が96%以上のものが、本発明の便器部品に好適な熱可塑性樹脂組成物に好ましく用いられ、更に好ましくは、アイソタクチックペンタッド分率97%以上である。アイソタクチックペンタッド分率が96%以上であると、耐熱性の点で好ましい。ポリプロピレン系樹脂の結晶化度の制御は、原料の共重合比率や、使用する触媒によって分子量分布を制御することにより調整することができる。
なお、上記アイソタクチックペンタッド分率(mmmm)は、13C−NMR(核磁気共鳴法)を用いて測定される値である。例えば、日本電子社製FT−NMRの270MHzの装置が用いられる。
【0025】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂(A)の代表例であるポリプロピレン系樹脂の製造方法について説明する。
(1)プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法
本発明で用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造は、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。ポリプロピレン系樹脂を得るために用いられる重合プロセスは、特に限定されるものではなく、公知の重合プロセスが使用可能である。例えば、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等が使用できる。また、バッチ重合法や連続重合法のいずれも用いることができ、所望により、二段及び三段等の複数段の連続重合法を用いてもよい。プロピレン−エチレンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部とエチレン・プロピレンランダム共重合体部との反応混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合体部の重合(前段)と、この後に続く、エチレン・プロピレンランダム共重合体部の重合(後段)の製造工程により得られる。
【0026】
上記重合に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、前記したように、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、ポリプロピレンハンドブック(1998年5月15日初版第1刷発行)等に記載)、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022号公報参照。)が使用できる。チーグラー・ナッタ触媒は、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号公報、特開昭58−23806号公報、特開昭63−146906号公報参照。)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号公報、特開昭58−83006号公報、特開昭58−5310号公報、特開昭61−218606号公報参照。)等が含まれる。
【0027】
また、助触媒として使用される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアル
キルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0028】
重合形式としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また、原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、いずれの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、プロピレン単独重合体部をバルク重合で行い、エチレン・プロピレンランダム共重合体部を気相重合で行う方法や、プロピレン単独重合体部をバルク重合、続いて気相重合で行い、エチレン・プロピレンランダム共重合体部は、気相重合で行う方法などが挙げられる。
また、重合形式として、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよい。
さらに、重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
気相重合においては、プロピレン単独重合体部の重合工程は、プロピレン、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に、温度0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレンの分圧0.6〜4.2MPa、好ましくは1.0〜3.5MPa、特に好ましくは1.5〜3.0MPa、滞留時間は0.5〜10時間で行う。プロピレン単独重合体部には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン以外のα−オレフィン、例えばα−オレフィンがエチレンの場合は7重量%以下のエチレンが共重合されていても構わない。
【0029】
本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部のMFRは、通常10〜400g/10分の範囲である。プロピレン−エチレンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部のMFRをこの様な範囲とする為には、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で5×10−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
プロピレン−エチレンブロック共重合体を製造する際は、引き続いて、即ち前段重合工程で製造されたプロピレン単独重合体部の存在下、後段重合工程で、プロピレン、エチレンと水素を供給して、前記触媒(前記プロピレン単独重合体部の製造に使用した当該触媒)の存在下に0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレン及びエチレンの分圧各0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.5MPa、滞留時間は0.5〜10時間の条件で、プロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、エチレン・プロピレンランダム共重合体部を製造し、最終的な生成物として、プロピレン−エチレンブロック共重合体を得る。エチレン・プロピレンランダム共重合体部には、本発明の効果を損なわない範囲でプロピレン、エチレン以外のα−オレフィンが共重合されていても構わない。
【0030】
本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体は、MFRが1.0〜150g/10分のものが好ましく、5〜100g/分が更に好ましく、10〜60g/分がより好ましい。前記のように、プロピレン単独重合体部のMFRは、通常10〜400g/10分の範囲なので、プロピレン−エチレンブロック共重合体のMFRをこの範囲とする為には、エチレン・プロピレンランダム共重合体のMFRは、10−4〜100g/10分とするのが好ましい。エチレン・プロピレンランダム共重合体部のMFRを10−4〜100g/10分にコントロールする場合、触媒の種類にもよるが、水素/(プロピレン+エチレン)モル比を、10−5〜0.8の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。また、エチレン・プロピレンランダム共重合体部(ゴム成分)中のエチレン含量を特定の範囲内に維持するためには、後段のプロピレン濃度に対するエチレン濃度を調整すればよい。さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、エチレン・プロピレンランダム共重合体部の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。具体的には、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5〜3.0モル比の条件で行うことができる。また、このアルコール類の添加量で、プロピレン−エチレンブロック共重合体中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部の割合も、コントロールすることができる。
また、このようなプロピレン−エチレンブロック共重合体は、各社から種々の市販品が上市されているので、これら市販品の物性を測定して、所望のものを用いることもできる。
【0031】
(2)プロピレン単独重合体の製造方法
本発明で用いられるプロピレン単独重合体の製造は、前記のプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造の、プロピレン単独重合体部の製造方法に準じて行えばよい。本発明に用いられるプロピレン単独重合体のMFRは、通常1.0〜400g/10分、好ましくは5〜200g/分、更に好ましくは10〜100g/分、より好ましくは15〜60g/分の範囲である。プロピレン単独重合体のMFRをこの様な範囲とする為には、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で5×10−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0032】
(3)プロピレン−エチレンランダム共重合体の製造方法
本発明で用いられるプロピレン−エチレンランダム共重合体の製造は、前記のプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造の、エチレン・プロピレンランダム共重合体部の製造方法に準じて行えばよい。本発明に用いられるプロピレン−エチレンランダム共重合体は、MFRが1.0〜150g/10分のものが好ましく、5〜100g/分がより好ましく、10〜60g/分がさらに好ましい。プロピレン−エチレンランダム共重合体のMFRをこの様な範囲とする為には、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/(プロピレン+エチレン)モル比を、10−3〜1.5の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0033】
2.有機系難燃剤(B)
本発明で用いられる有機系難燃剤(B)は、特に制限されず、ハロゲン系、リン系、窒素系などの種々の有機系難燃剤を使用することができるが、ハロゲン系難燃剤が難燃性能や入手の容易さの点で好ましく、例えば、ハロゲン化ジフェニル化合物、ハロゲン化ビスフェノール系化合物、ハロゲン化ビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物、ハロゲン化フタルイミド系化合物などの有機ハロゲン化芳香族化合物が好ましく、とりわけハロゲン化ビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物がより好ましい。
【0034】
上記ハロゲン化ジフェニル化合物としては、例えば、ハロゲン化ジフェニルエーテル系化合物、ハロゲン化ジフェニルケトン系化合物、ハロゲン化ジフェニルアルカン系化合物等が挙げられ、なかでもデカブロモジフェニルエタン等のハロゲン化ジフェニルアルカン化合物が好ましい。
【0035】
上記ハロゲン化ビスフェノール系化合物としては、例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン類、ハロゲン化ビスフェニルエーテル類、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル類、ハロゲン化ビスフェニルスルフォン類等が挙げられ、なかでもビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルフォン等のハロゲン化ビスフェニルチオエーテル類が好ましい。
【0036】
上記ハロゲン化ビスフェノールビス(アルキルエーテル)系化合物としては、例えば、(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)メタン、1−(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−2−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エタン、1−(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−3−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)メタン、1−(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−2−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エタン、1−(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−3−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)メタン、1,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エタン、1,3−ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)メタン、1,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エタン、1,3−ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、2−ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパン、(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)ケトン、(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)ケトン、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)ケトン、ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)ケトン、(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エーテル、(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)エーテル、(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)チオエーテル、(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)チオエーテル、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)チオエーテル、ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)チオエーテル、(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−ブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)スルフォン、(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)−(3−クロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)スルフォン、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)スルフォン、ビス(3,5−ジクロロ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)スルフォンが挙げられ、なかでも臭素化ビスフェノールA(臭素化脂肪族エーテル)、臭素化ビスフェノールS(臭素化脂肪族エーテル)、塩素化ビスフェノールA(塩素化脂肪族エーテル)、塩素化ビスフェノールS(塩素化脂肪族エーテル)、とりわけエーテル化テトラブロモビスフェノールA、エーテル化テトラブロモビスフェノールSが好ましい。
【0037】
エーテル化テトラブロモビスフェノールAとして、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)プロパンが例示される。エーテル化テトラブロモビスフェノールSとして、ビス(3,5−ジブロモ−4−2,3−ジブロモプロポキシフェニル)スルフォンが例示される。
これらのハロゲン系難燃剤の中でも、臭素系難燃剤は、難燃効果が高く、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造や成形に際して、熱履歴を受けても分解することが少ないので、好ましい。
これらのハロゲン系難燃剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。例えば、ハロゲン化ジフェニル化合物とハロゲン化ビスフェノール系化合物を併用してもよい。
また、ハロゲン系難燃剤と共に、リン系、窒素系などのハロゲン系難燃剤に該当しない他の有機系難燃剤を使用することもできる。
【0038】
さらに、ハロゲン系難燃剤を用いずに、リン系、窒素系などの他の有機系難燃剤を使用することもできる。
これらの有機リン系難燃剤としては、一般的に熱可塑性樹脂用、中でもポリオレフィン用の難燃剤として用いられるものであれば、いずれも用いることができる。トリメチルフォスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリペンチルフォスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリキシニエルホスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、ジクレジルフェニルフォスフェート、ジメチルエチルホスフェート、トリキシニエルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニールジフェニールホスフェート等の各種置換其で変性した化合物、リン酸塩化合物、リンと窒素を含有するホスファゼン誘導体など化合物または混合物などが挙げられる。
【0039】
また、上記窒素系難燃剤としては、例えば、メラミン、ピペラジン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメランミン等の化合物が挙げられる。市販品としては、旭電化社製・アデカスタブFP2000、FP2100、FP2200、およびポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
ハロゲン系難燃剤とこれらリン系、窒素系などの各種の難燃剤を併用する場合、これらの有機系難燃剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。例えば、ハロゲン化ジフェニル化合物とハロゲン化ビスフェノール系化合物に、有機ハロゲン系難燃剤と有機リン系難燃剤を併用することもできる。特に窒素系難燃剤は、単独では難燃効果が十分に得られない場合がある。しかし、このような場合は、窒素系難燃剤をリン系難燃剤と併用することによって、窒素系難燃剤がリン系難燃剤の難燃助剤のような働きをし、十分な難燃効果が得られるようになることもあるので、これらの有機系難燃剤を併用することも、本発明の効果を得るための有効な手段の一つであるといえる。
また、ハロゲン系難燃剤を用いずに、リン系、窒素系などの他の有機系難燃剤を使用する場合、有機系難燃剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、有機系難燃剤(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、2〜40重量部、好ましくは2〜30重量部、更に好ましくは2〜25重量部である。有機系難燃剤(B)の含有量が2重量部未満では、難燃性改良への効果が少なく、一方、40重量部を超えると、難燃効果が飽和するうえに、特に、熱可塑性樹脂組成物がポリプロピレン系樹脂組成物である場合は、機械的物性や成形時のシルバーストリーク、焼け発生等々の成形性及び経済性に望ましくない影響があるので、特に、上記のような範囲から適宜に選択される。
尚、これらの有機系難燃剤(B)は、種々の製品が多くの会社から市販されており、所望の製品を入手することが可能であるので、それらを購入して使用することができる。
【0041】
3.難燃助剤(C)
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、所望により、用いられる難燃助剤(C)は、特に制限されず、種々の化合物を使用することができるが、中でも、アンチモン化合物が好ましい。アンチモン化合物に代表される難燃助剤(C)は、有機系難燃剤(B)であるハロゲン系難燃剤と共に、熱可塑性樹脂(A)に配合されることにより、難燃効果を増すために用いられる。
具体的なアンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモンなどのハロゲン化アンチモン、三硫化アンチモン、五硫化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、酒石酸アンチモン等が代表的に挙げられる。
なお、本発明において、アンチモン化合物には、金属アンチモンが含まれるものとする。本発明で用いるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモンが好ましい。
また、これらの難燃助剤(C)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、所望により用いられる難燃助剤(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜20重量部、更に好ましくは0.8〜15重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。難燃助剤(C)の含有量が0.1重量部未満では、難燃性改良への効果が少なく、一方、20重量部を超えると、難燃効果が飽和するうえに、熱可塑性樹脂組成物であるポリプロピレン系樹脂組成物の機械的物性や成形時のシルバーストリーク、焼け発生等々の成形性及び経済性に望ましくない影響があるので、上記のような範囲から適宜に選択される。
なお、難燃助剤(C)は、有機系難燃剤(B)であるハロゲン系難燃剤との組み合わせにおいて難燃効果を奏するものであり、有機系難燃剤(B)と難燃助剤(C)の合計重量に対して、好ましくは30〜60重量%の範囲で使用される。
尚、これらの難燃助剤(C)は、種々の製品が多くの会社から市販されており、所望の製品を入手することが可能であるので、それらを購入して使用することができる。
【0043】
4.成分(D)
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、用いられる成分(D)は、(i)ポリオレフィン系ワックス、(ii)アルコール類、(iii)カルボン酸類及び(iv)エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、融点が100℃以下であり、かつHLB値が5以下である化合物である。
成分(D)は、融点が100℃以下であり、好ましくは90℃以下である。また、成分(D)の融点は、通常30℃以上、特に固体で取り扱う場合は、40℃以上が好ましい。
また、成分(D)は、HLB値が5以下のものである。HLB値が低いほど親油性が高く、撥水性に優れるので、耐汚染性が期待できる。そのため、HLB値の下限は、特に無く、実用としては0を超えるものであれば、好ましく使用することができる。
【0044】
上記(i)ポリオレフィン系ワックスとしては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンワックスに代表される種々の製品が挙げられる。
この他にも、所謂ワックス類と呼ばれるものとして、パラフィンワックス、マイクロクリスタンワックス、流動パラフィン、パラフィン系の合成ワックス、及びこれらの混合物等が知られているが、本発明においては、ポリオレフィン系ワックスと同等の効果を奏するものであれば、これらのワックス類も、同様に使用することができる。
【0045】
上記(ii)アルコール類としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、所謂高級アルコールと呼ばれるものや、その混合物を使用することができる。
これらのアルコール類としては、例えば、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ココナットアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
【0046】
上記(iii)カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0047】
上記(iv)エステル類としては、特に制限されないが、脂肪酸エステルが好ましく、例えば、脂肪酸とグリセリンのモノまたはジエステル、脂肪酸とソルビタンのモノ、ジまたはトリエステル、脂肪酸ペンタエリスリトールエステル等を挙げることができる。脂肪酸エステルは、完全または部分エステルでも、適宜用いられる。
脂肪酸エステルの脂肪酸としては、オレイン酸(不飽和C18)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、エルカ酸(不飽和C22)、ベヘン酸(C22)など、分子量として26〜300程度の飽和または不飽和脂肪酸が使用可能であり、好ましくはC12以上の高級脂肪酸である。
また、脂肪酸エステルのアルコールとしては、プロピレングリコール(2価)などのアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール(2価)、グリセリン(3価)、トリメチロールプロパン(3価)、ソルビタン(4価)(またはソルビトール)、ペンタエリスリトール(4価)などが挙げられる。
【0048】
具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノミリスチレート、グリセリルジステアレート、ジグリセリンモノステアレート等のような脂肪酸のグリセリンエステル、ジ(ペンタエリスリトールジステアレート)、ジ(ペンタエリスリトールジラウレート)、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレートのようなペンタエリスリトールエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0049】
本発明で用いられる脂肪酸エステルの分子量としては、通常350〜20000、好ましくは350〜2000のものが用いられる。
また、脂肪酸エステルは、前記したように、HLB値が5以下である。HLB値が低いほど親油性が高く、撥水性に優れるので、耐汚染性が期待できる。そのため、HLB値の下限は、特に無く、実用としては0を超えるものであれば、好ましく使用することができる。脂肪酸エステル系滑剤(D)の分子量やHLB値が上記範囲であると、後述する滑剤機能、耐汚染性、耐変色性や成形体表面へのブリード効果も良好であり、好ましい。すなわち、成分(D)として、特に好ましいのは、分子量が350〜2000の脂肪酸エステルである。
【0050】
好ましい脂肪酸エステルは、例えば、グリセリンモノステアレート(HLB=4.3)、グリセリンモノ・ジステアレート(HLB=3.2)、グリセリンモノパルミテート(HLB=4.3)、グリセリンモノ・ジパルミテート(HLB=3.2)、グリセリンモノベヘネート(HLB=4.2)、グリセリンモノ・ジベヘネート(HLB=2.8)、グリセリンモノオレート(HLB=4.3)、グリセリンモノ・ジオレート(HLB=3.1)、ソルビタントリステアレート(HLB=3.0)、ソルビタンオレート(HLB=4.9)、ソルビタントリオレート(HLB=3.0)、ソルビタントリベヘネート(HLB=2.5)、プロピレングリコールモノラウレート(HLB=4.2)、プロピレングリコールモノパルミテート(HLB=3.8)、プロピレングリコールモノステアレート(HLB=3.7)、プロピレングリコールモノオレート(HLB=3.6)、プロピレングリコールモノベヘネート(HLB=3.4)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート(HLB=1以下)、ペンタエリスリトールテトラステアレート(HLB=1以下)、ステアリルステアレート(HLB=1以下)などが挙げられる。これらの脂肪酸エステルは、種々の製品を、理研ビタミン株式会社等の多くの会社から、市販品として入手可能である。
また、これらの脂肪酸エステルは、単独又は2種以上の混合物として用いることができ、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸エステル以外の一般的に滑剤として使用されているような化合物を、併用することもできる。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、成分(D)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜2重量部、好ましくは0.2〜1.5重量部、更に好ましくは0.2〜1重量部である。成分(D)の含有量が0.1重量部未満では、耐汚れ性や耐傷つき性に効果がなく、一方、2重量部を超えると、表面へのブリードアウトにより触感が損なわれるので好ましくない。
【0052】
本発明において、成分(D)は、熱可塑性樹脂組成物の成形操作において、主として、滑剤としての機能を発揮するものである。そのような滑剤として用いられる化合物としては、その他の多くの化合物が知られている。その代表例としてシリコーン系の化合物が挙げられるが、これらは、本発明の目的の一つである難燃性を低下させる場合があり、好ましくない。
さらに、本発明においては、成分(D)は、かかる滑剤機能に加えて、耐汚染性、耐傷つき性、耐変色性や焼け防止効果にも、大きく寄与しており、むしろ本発明においては、耐汚染性、耐傷つき性、耐変色性や焼け防止効果が一層重要である。即ち、これらの成分は、熱可塑性樹脂組成物の成形品において、徐々に成形品表面にブリードし、該表面に薄い皮膜を形成する。そのため、成形品表面に人が素手等で直接触れることなどを防止し、もって耐汚染性、耐変色性や焼け防止効果においても有効に作用するものである。
これら成分(D)として使用できる化合物は、種々の製品が多くの会社から市販されており、所望の製品を入手することが可能であるので、それらを購入して使用することができる。
【0053】
5.その他の添加剤(E)
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、ポリプロピレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂に、通常、用いられる任意成分である添加剤(E)を、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
添加剤(E)としては、例えば、造核剤、分子量調節剤、発泡剤、顔料、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、中和剤、金属不活性化剤、安定剤、抗菌剤、無機充填剤、ゴム状成分等を挙げることができる。
【0054】
上記造核剤として、具体的には、芳香族アルミニウム塩系造核剤、芳香族ナトリウム塩系造核剤、芳香族リン酸金属塩系造核剤、ソルビトール系造核剤、タルク等が挙げられる。
【0055】
また、上記顔料としては、公知の有機顔料または無機顔料のいずれをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。この様に本発明の熱可塑性樹脂組成物には、各種顔料を任意成分として添加することが可能であるが、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、これらのうちでも酸化チタンを主成分とする淡色顔料系において、より優れた効果を発揮することが可能である。
【0056】
上記抗菌剤としては、有機系抗菌剤、無機系抗菌剤のいずれを用いてもよい。有機系抗菌剤の例としては、塩素系、フェノール系、イミダゾール系またはチアゾール系の化合物や第4級アンモニウム化合物等が挙げられる。無機系抗菌剤の例としては、銀、亜鉛等の金属を保持含有させたゼオライト系、アパタイト系、シリカアルミナ系、セラミック系、リン酸ジルコニウム系、シリカゲル系、ヒドロキシアパタイト系または珪酸カルシウム系の等の抗菌剤が挙げられる。
【0057】
さらに、上記無機充填剤として、具体的には、タルク、硫酸バリウム、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラス繊維、ウイスカー等を挙げることができ、上記ゴム状成分として、具体的には、エチレン・プロピレン系ゴム、エチレン・ブテン−1系ゴム、エチレン・ヘキセン系ゴム、エチレン・オクテン系ゴム及びスチレン・ブタジエン系ゴム等を挙げることができる。
上記無機充填剤及びゴム状成分を単独又は併用して添加することにより、例えば、熱可塑性樹脂100重量部に対して、無機充填剤については1〜250重量部、好ましくは5〜200重量部の範囲で、ゴム状成分については1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部の範囲で添加することにより、得られる便器部品用に好適な熱可塑性樹脂組成物に剛性、重質感及び耐衝撃性を付与することができる。
尚、これらの添加剤(E)は、種々の製品が多くの会社から市販されているので、所望の製品を購入し、使用すればよい。
【0058】
6.熱可塑性樹脂組成物の調製方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物の調製方法としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂(A)のパウダーまたはペレットに、直接、所定量の有機系難燃剤(B)、および成分(D)、所望により難燃助剤(C)、さらに必要に応じて用いる添加剤(E)を加える方法、ポリプロピレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂(A)のパウダー、有機系難燃剤(B)であるハロゲン系難燃剤、難燃助剤(C)および成分(D)、さらに必要に応じて用いる添加剤(E)を含有するマスターバッチをあらかじめ調製しておき、該マスターバッチを、ポリプロピレン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂(A)のペレットに、加える方法等を挙げることができる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、有機系難燃剤(B)、および成分(D)、所望により難燃助剤(C)、さらに必要に応じて用いる添加剤(E)を、混合した後、溶融混練することによって得られる。
混合には、タンブラーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリューブレンダー、リボンブレンダーなどの公知の方法が適用できる。溶融混練は、例えば、溶融押出機、バンバリーミキサーなどを用い、熱可塑性樹脂(A)の融点以上の温度で溶融混練する方法であれば、特に限定されない。
【0060】
II.熱可塑性樹脂成形体
本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形等の種々の成形方法によって、成形することにより、熱可塑性樹脂成形体が得られるが、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形品の変色も少なく、また、その加工性も良好であるという点から、射出成形用熱可塑性樹脂組成物として、好適に用いられる。成形条件としては、例えば、該成形方法が射出成形の場合、熱可塑性樹脂に関する公知の射出成形法に従い、同様に実施することができる。例えば、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂の場合、樹脂温度190〜230℃、金型温度10〜80℃、射出速度0.2〜20秒、射出圧力50〜70MPa、成形サイクル20〜200秒の条件で成形することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる熱可塑性樹脂成形体は、従来製品に比較して、表面外観に優れ、成形時の焼け不良発生による不良率低減が図られ、かつそれ自体充分な難燃性を有しており、また、その成形加工性も良好である。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる射出成形品の用途としては、例えば、炊飯ジャー、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、扇風機、エアコン等の家電部品、化粧台、換気扇、便座、便蓋、及び付属品として使用される機器のハウジング類等の住宅設備用機器部品等が挙げられる。特に好ましい用途分野としては、住宅設備用機器部品の中でも、便座、便蓋又は温水洗浄便座の本体ケース若しくは操作部ハウジング類等の便器部品を挙げることができる。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、特に、便器部品を製造する方法についても、通常のポリプロピレン系樹脂組成物を用いて便器部品を製造する方法と同様の方法を採ることができる。例えば、上記ペレット状の本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形、シート成形等で目的の便器用部品を成形する等の方法である。
なお、前記射出成形には、ガスアシスト射出成形法、二層(2色)射出成形法、サンドイッチ射出成形法等も含まれる。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる便器部品の中でも、特に射出成形により得られる便器部品は、従来品に対し光沢に優れ、剛性も良好で、尿便、洗剤等による汚れ、変色も少なく、手触り肌触り感にも優れる。また、洗剤による劣化等も少なく耐洗剤性に優れ、さらに耐熱老化性にも優れるため、一般用の便器用部品の他、暖房式の便器用部品に用いた際に、より優れた効果が得られる。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、以下に示す実施例は、本発明の実施態様の一例であり、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原材料の各成分の名称、物性等は、以下のとおりである。
【0065】
<使用した原材料>
1.熱可塑性樹脂(A)
A−1:日本ポリプロ社製、ノバテックPP BC03C(エチレン含量4.8重量%のブロック共重合体で、MFR30g/10分、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)0.98)
A−2:日本ポリプロ社製、ノバテックPP MA04(ポロピレン単独重合体で、MFR40g/10分、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)0.98)
A−3:日本ポリプロ社製、ノバテックPP(エチレン含量3.0重量%のブロック共重合体で、MFR120g/10分、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)0.98)
A−4:日本ポリプロ社製、ノバテックPP EC9(エチレン含量5.0重量%のブロック共重合体で、MFR0.5g/10分、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)0.98)
A−5:日本ポリプロ社製、エチレン含量3.0重量%のポロピレン−エチレンランダム共重合体で、MFR7.0g/10分
【0066】
2.有機系難燃剤(B)
B−1:丸菱油化工業社製、ノンネン52{ビス[3、5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル]スルホン}
B−2:アルベマール社製、SAYTEX8010[ビス(ペンタブロモフェニル)エタン]
B−3:ADEKA社製、FP2200(リン酸エステル系難燃剤)
3.難燃助剤(C)
C−1:三酸化アンチモン(鈴祐化学社製、ファイヤーカットAT3)
【0067】
4.成分(D)
(1)脂肪酸エステル系滑剤とその他の滑剤
用いた脂肪酸エステル系滑剤とその他の滑剤を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
5.その他の添加剤(E)
熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂(A)として用いたポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、更に、付加的添加剤として、酸化防止剤(E−1:BASF社製、イルガノックス1010)を0.1重量部、リン系熱安定剤(E−2:BASF社製、イルガホス168)を0.1重量部それぞれ配合した。
【0070】
以下の実施例及び比較例における熱可塑性樹脂組成物の調製は、下記の通りである。
ヘンシェルミキサーに、成分(A)のポリプロピレン系樹脂及び所定量の各成分(B)、(C)、(D)及び任意成分(E)を一括して投入し、3分間、充分に撹拌混合を行った。得られた配合組成物を、押出機(日本製鋼社製、径30mm2軸押出機)を用いて、設定温度200℃、樹脂温度200℃で溶融混練し、ペレット状のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0071】
以下の実施例及び比較例における物性評価方法は、下記の通りである。
(1)試験片の成形
上記で得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(東芝社製IS100)にてシート試験片(120×120×3mmt)及び燃焼試験片(125×15×3mmt)で、樹脂温度200℃、金型冷却温度40℃の条件にて各々成形した。
【0072】
(2)変色試験(成形時の焼け特性)
以下の手順で成形時の焼け特性を評価した。
(i)成形温度が210℃の射出成形機のシリンダ内に30分滞留させる。
(ii)定常成形し、試験片を作製(1サイクル1min)する。
(iii)試験片を目視で確認する。
(判定基準)
○:変色がほとんど認められない。
△:変色がやや認められるが、実用上問題はない。
×:変色が著しく認められる。
【0073】
(3)難燃性(燃焼試験)
UL−94規格に準拠して、難燃性を評価した。
【0074】
(4)防汚性
以下の手順で防汚性を評価した。
(i)蒸留水140mlに汚れ成分として市販のインスタントコーヒーを0.2g溶かし、試験片上に15μl滴下する。
(ii)40℃で60分乾燥させる。
(iii)乾式ロールペーパーで5回擦り、表面状態を観察する。
(判定基準)
○:汚れが全て拭き取れる。
△:汚れが部分的に拭き取れる。
×:汚れが拭き取れない。
【0075】
(5)撥水性
JIS K6768−1999に準じて、以下の手順で撥水性を評価した。
(i)試験片上に2μlの蒸留水を滴下する。
(ii)1分間放置する。
(iii)液面の角度を測定した。
液面の角度が大きい程、撥水性が良好であると、判断される。
【0076】
(6)耐傷付き性
以下の手順で耐傷付き性を評価した。
(i)ROCKWOOD SYSTEMS AND EQUIPMENT,INC製を用いて、5finger傷つき試験を実施した。
(ii)試験荷重0.6N、2N、3N、6N、10Nで実施し、その後の表面観察で白化が認められない最大の荷重について、読み取り評価した。
尚、以下の「ポリプロピレン単独」とは、使用したA−1〜A−5について何も添加することなく、単独で同様に試験片を作製し、評価した結果のことである。
(判定基準)
○:ポリプロピレン単独より最大荷重が大きい。
△:ポリプロピレン単独と同等である。
×:ポリプロピレン単独より最大荷重が小さい。
【0077】
(7)粘着感試験
シート試験片をJIS K7212−Bに準拠するギアオーブンを用い、70℃で168時間加熱処理し、23℃で24時間状態調整した後、手触りでの粘着感を評価した。
(判定基準)
○:粘着感があまり感じられない。
△:やや粘着感が感じられる。
×:べたべたした粘着感が感じられる。
【0078】
(8)成形加工性
シート試験片を作製する際の成形不具合の有無について評価した。
○:成形不具合無し。
×:ショートショットなど成形不具合有り。
【0079】
[実施例1〜18]
ポリプロピレン系樹脂及び各配合成分を表2に示す割合で配合し、溶融混練し、ペレット化し、前記方法にて試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
[比較例1〜9]
ポリプロピレン系樹脂及び各配合成分を表3に示す割合で配合し、溶融混練し、ペレット化し、前記方法にて試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
実施例及び比較例の評価結果の考察
(1)実施例1〜18:
実施例1〜18の評価結果(表2)から、成分(D)として脂肪酸エステルを使用すると、ポリプロピレン単独の場合と比較して、燃焼性(難燃性)・防汚性・撥水性・耐傷付き性で改良効果があることが確認できる。
(2)比較例1〜9:
比較例1〜9の評価結果(表3)から、特に、エルカ酸アマイド(エルカ酸アミド)を用いた比較例3は、燃焼性(難燃性)・防汚性・耐傷付き性・撥水性で改良効果があるが、成形時に変色を生じることが確認できる。これは、エルカ酸アミドのアミド基と難燃剤のハロゲンとの間で、酸化反応が生じ、エルカ酸アミド及び難燃剤が変色したと、考察できる。これに対し、酸化反応を起こし難い脂肪酸エステルでは、成形時の変色を生じることなく、燃焼性(難燃性)・防汚性・耐傷付き性・撥水性で改良効果があることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、便器用部品に用いた際に、変色の不具合を起こさず、尿便、洗剤等による汚れ・劣化が抑制され、手触り肌触り感に優れ、また、耐傷付き特性にも優れる。また、本発明の熱可塑性樹脂成形体は、従来製品に比較して表面外観に優れ、成形時の焼け不良発生による不良率低減が図られ、かつそれ自体充分な難燃性を有しているために、例えば、炊飯ジャー、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、扇風機、エアコン等の家電部品、化粧台、換気扇、便座、便蓋、及び付属品として使用される機器のハウジング類等の住宅設備用機器部品等の用途に、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、有機系難燃剤(B)2〜40重量部、および成分(D)0.1〜2重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
成分(D)が以下の条件を満足することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
条件:成分(D)は、ポリオレフィン系ワックス、アルコール類、カルボン酸類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、融点が100℃以下であり、かつHLB値が5以下である化合物。
【請求項2】
有機系難燃剤(B)がハロゲン系難燃剤であり、かつ、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、難燃助剤(C)0.1〜20重量部を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
有機系難燃剤(B)が臭素系難燃剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
難燃助剤(C)がアンチモン化合物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1.0〜150g/10分であり、且つプロピレン以外のα−オレフィン含量が1〜30重量%のプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体またはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
成分(D)は、分子量が350〜2000の脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の射出成型用熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする便器部品。

【公開番号】特開2013−108070(P2013−108070A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−235373(P2012−235373)
【出願日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】