説明

熱可塑性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体

【課題】ポリ乳酸を使用した樹脂組成物であって、耐衝撃性に優れつつも、寸法安定性に優れ、かつ環境負荷の低い樹脂組成物を提供する。
【解決手段】L体含有量が5〜95モル%であるポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有してなり、ポリ乳酸(A)の含有量が20〜60質量%、非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が40〜80質量%である熱可塑性樹脂組成物。非晶性熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度が、ポリ乳酸(A)のガラス転移温度より高い、上記記載の熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を用いていながら、耐衝撃性と寸法安定性に優れ、石油系製品への依存が低い熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地からポリ乳酸をはじめとするバイオマス原料の樹脂が注目されている。ポリ乳酸は、大量生産が可能なためコストが安く、バイオマス由来の樹脂の中では耐熱性が高いため、様々な分野への使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、自動車部品や機械部品等に使用しようとすると、機械物性、とりわけ衝撃強度が低く、衝撃によって製品が簡単に割れてしまうという欠点があった。また、熱によって変形したり収縮したりするため、寸法安定性が悪いという問題があった。
【0004】
特許文献1〜9では、ポリ乳酸の衝撃強度を向上させるために、ポリカーボネート樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、ABSと略称する。)をはじめとする各種熱可塑性樹脂とのポリマーアロイ樹脂が開示されている。
しかしながら、特許文献1〜9のポリマーアロイ樹脂を用いた成形品は、ポリ乳酸そのものよりも耐衝撃性は改善されるものの、未だ十分な改善とはいえず、また、熱によって変形や収縮が発生する問題も解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−338791号公報
【特許文献2】特開2005−60637号公報
【特許文献3】特開2005−264086号公報
【特許文献4】特開2006−45485号公報
【特許文献5】特開2006−45486号公報
【特許文献6】特開2006−137908号公報
【特許文献7】特開2006−161024号公報
【特許文献8】特開2007−56246号公報
【特許文献9】特開2007−56247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を解決するものであって、ポリ乳酸を使用した樹脂組成物であって、耐衝撃性に優れつつも、寸法安定性に優れ、かつ環境負荷の低い樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) L体含有量が5〜95モル%であるポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有してなり、樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の含有量が20〜60質量%、非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が40〜80質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2) 非晶性熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度が、ポリ乳酸(A)のガラス転移温度より高い、(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3) 非晶性熱可塑性樹脂(B)が、ポリカーボネート樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂である、(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4) さらにアクリル系相溶化剤(C)を含有しており、含有量が、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、1〜20質量部である(1)〜(3)いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5) さらにカルボジイミド化合物(D)を含有しており、含有量が、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部である(1)〜(4)いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6) カルボジイミド化合物(D)が、モノカルボジイミド化合物および多価カルボジイミド化合物から構成され、モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物の含有量の質量比率(モノカルボジイミド化合物/多価カルボジイミド化合物)が10/90〜90/10である(5)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7) (1)〜(6)いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐衝撃性に優れ、寸法安定性が格段に向上した樹脂組成物が提供される。この樹脂組成物は射出成形等により各種成形体とすることができ、上記の特性を生かして、真円度が求められるカメラレンズ部品や、使用環境温度が比較的高く、使用時の寸法変化が問題となる自動車用内装部材、カーオーディオやカーナビシステムの筐体に利用することができる。さらに、天然物由来の生分解性樹脂を利用しており、石油等の枯渇資源の節約に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)を含有するものである。
【0010】
まず、ポリ乳酸(A)について説明する。
本発明のポリ乳酸(A)とは、L−乳酸とD−乳酸の共重合体またはそれらの混合物のことをいう。
【0011】
本発明においては、ポリ乳酸(A)としてL体含有量が特定の範囲を満足するものを使用することを特徴とするものである。このように、L体含有量が特定の範囲を満足するポリ乳酸(A)を用いることによって、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性や寸法安定性が向上する。ポリ乳酸(A)は、L体含有量が5〜95モル%であることが必要であり、中でも8〜92モル%とすることが好ましい。L体含有量が5%未満であっても、95モル%を超えても耐衝撃性や寸法安定性の向上効果が低下するので好ましくない。
【0012】
本発明において、ポリ乳酸(A)のL体含有量とは、ポリ乳酸(A)を構成する総乳酸単位のうち、L乳酸単位が占める割合(モル%)である。
【0013】
ポリ乳酸(A)としては、L体含有量の異なる2種以上のポリ乳酸の混合物を用いてもよい。この場合、L体含有量が本発明で規定する範囲外であるポリ乳酸、例えば、L体含有量が95モル%を超えるポリ乳酸を用いてもよく、このようなポリ乳酸と、本発明で規定するL体含有量を満足するポリ乳酸とを用いて得られるポリ乳酸(A)において、その加重平均のL体含有量が5〜95モル%になればよい。同様に、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリ乳酸樹脂として、L体含有量が5%未満のポリ乳酸樹脂を用いてもよく、組み合わせて得られるポリ乳酸樹脂(A)において、その加重平均のL体含有量が5〜95モル%になればよい。
【0014】
ポリ乳酸(A)として異なるL体含有量を有する2種以上のポリ乳酸が混合されていた場合、寸法安定性等の機械特性は、加重平均して計算される値と同じL体含有量を有するポリ乳酸とほぼ同等になる。たとえ、5〜95モル%の範囲外のポリ乳酸が含まれていたとしても、加重平均して計算された値が5〜95モル%になれば、樹脂組成物全体としての結晶性は低くなり、そのため、寸法安定性等の機械特性が同程度になると考えられる。
【0015】
本発明においては、ポリ乳酸(A)のL体含有量は、後述するように、ポリ乳酸(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0016】
ポリ乳酸(A)の後述の測定方法によるメルトフローレート(以下、MFRと略称する。)は、0.1〜50g/10分が好ましく、0.2〜20g/10分がより好ましく、0.5〜15g/10分がさらに好ましい。MFRが50g/10分を超えると、溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、MFRが0.1g/10分未満であると成形加工時の負荷が高くなり、操業性が低下するので好ましくない。
【0017】
ポリ乳酸のMFRを所定の範囲に調節する方法としては、以下の方法が使用できる。MFRが大きい場合は、前記ポリ乳酸に、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、MFRが小さい場合は、MFRの大きな生分解性ポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸(A)は、市販の各種ポリ乳酸のうち、L体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、L体含有量が5〜95モル%のラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0019】
ポリ乳酸(A)としては、架橋構造が導入されたものを用いてもよい。このようなポリ乳酸を使用することで、溶融混練時の操業性が向上し、樹脂組成物の耐熱性が向上する。架橋の形態としては、ポリ乳酸分子同士が直接架橋したものでも、架橋助剤を介して間接的に架橋したものでも、直接架橋と間接架橋が混在したものでもよい。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない範囲内でグリコール、ジカルボン酸、他のヒドロキシカルボン酸、ラクトン類を共重合してもよい。グリコールとしては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトン類としては、カプロラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ウンデカラクトン等が挙げられる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の含有量は、20〜60質量%とすることが必要であり、中でも25〜50質量%が好ましい。ポリ乳酸(A)の含有量が20質量%未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、環境負荷の低い樹脂組成物とならず、また、ポリ乳酸(A)による耐衝撃性や寸法安定性の向上効果が得られなくなる。一方、ポリ乳酸(A)の含有量が60質量%を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に劣るものとなり好ましくない。
【0022】
次に、非晶性熱可塑性樹脂(B)について説明する。
非晶性熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と寸法安定性を向上させることを目的に配合されるものである。
【0023】
非晶性熱可塑性樹脂(B)とは、後述の測定方法において融点が観測されない熱可塑性樹脂をいう。
【0024】
非晶性熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を向上させるために、ポリ乳酸より高いガラス転移温度を有する非晶性熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。ただし、ポリ乳酸(A)が2種以上のポリ乳酸を併用している場合は、ポリ乳酸の中で、最も高いガラス転移温度をポリ乳酸のガラス転移温度とする。また、非晶性熱可塑性樹脂(B)がガラス転移温度を2つ以上有している場合は、最も高いガラス転移温度を非晶性熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度とする。
【0025】
非晶性熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン樹脂、メチルメタクリレート・スチレン樹脂、ポリカーボネート、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド、スチレン系エラストマ、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、耐衝撃性、相溶性の点から、ゴム強化スチレン系樹脂(B1)、ポリカーボネート(B2)を単独または両者の併用が好ましい。
【0026】
ゴム強化スチレン系樹脂(B1)とは、スチレン系樹脂(B1−1)がゴム系樹脂(B1−2)にグラフト共重合またはランダム共重合されたゴム共重合スチレン系樹脂(B1−3)、スチレン系樹脂(B1−1)がゴム系樹脂(B1−2)または前記ゴム共重合スチレン系樹脂(B1−3)に混合された樹脂(B1−4)をいう。
【0027】
スチレン系樹脂(B1−1)とは、スチレン系モノマーを主体とする樹脂であり、必要に応じて、これらと共重合可能な他のモノマーまたは/およびゴム質樹脂を共重合したものをいう。
【0028】
スチレン系樹脂(B1−1)を構成するスチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体等が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
スチレン系樹脂(B1−1)中のスチレンの含有量は、特に限定されないが、40質量%以上が好ましい。
【0031】
ゴム系樹脂(B1−2)とは、合成ゴムを主体とする伸縮性に優れた樹脂をいう。
ゴム系樹脂(B1−2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエンの共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・イソプレン共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・イソプレン共重合体、ブタジエン・イソプレン共重合体等のジエン系共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体等のエチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン・(メタ)アクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレンと脂肪族カルボン酸ビニルとの共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンとの共重合体、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(以下IPN型ゴムと略称する。)等が挙げられる。これらの共重合体は、ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
【0032】
ゴム強化スチレン系樹脂(B1)としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、ABSと略称する。)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、MBSと略称する。)、スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・ブタジエン・スチレン樹脂、水添スチレン・イソプレン・スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、MABSと略称する。)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン樹脂、スチレン・IPN型ゴム共重合体のゴム強化スチレン樹脂が挙げられる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂(B2)について説明する。
ポリカーボネート樹脂(B2)とは、ビスフェノール類残基とカーボネート残基からなる樹脂をいう。ポリカーボネート樹脂(B2)を用いることによって、得られる樹脂組成物の耐衝撃性や寸法安定性が向上するとともに、耐熱性も向上する。
【0034】
ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと略称する。)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下、ビスフェノールTMCと略称する。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、汎用性の点から、ビスフェノールAとビスフェノールTMCが好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(B2)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ビスフェノール類とホスゲン、または、ビスフェノール類とジフェニルカーボネートを反応させ製造する方法が挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(B2)の極限粘度は0.35〜0.64の範囲にあることが好ましい。(B2)の極限粘度が0.35未満であると、得られる成形品の衝撃強度が不足する場合があり、一方、(B2)の極限粘度が0.64を超えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、混練押出しおよび射出成形が困難になる場合がある。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量は、40〜80質量%とすることが必要であり、中でも50〜70質量%が好ましい。非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が40質量%未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂(B)による耐衝撃性や寸法安定性の向上効果が得られなくなる。一方、非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が80質量%を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の割合が少なくなることから、環境負荷の低い樹脂組成物とならない。
【0038】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系相溶化剤(C)を含有していることが好ましい。アクリル系相溶化剤(C)は、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の相溶性を向上させ、その結果、耐衝撃性や機械強度を高めることができるものである。
【0039】
アクリル系相溶化剤(C)としては、(メタ)アクリル系共重合体、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、ゴム強化アクリル系化合物、コアシェル型アクリル系化合物、アクリル系オレフィン化合物、およびエポキシ基を有するアクリル系化合物等が挙げられる。中でも、エポキシ基を有するアクリル系化合物が、相溶性を格段に向上させ、耐衝撃性や機械強度を向上させることができるので好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル系共重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを単独で重合したもの、または2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のアルキル基(シクロアルキル基を含む)の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、メタクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル系モノマー、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル系モノマー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
スチレン系モノマーと(メタ)アクリルモノマーの共重合体とは、スチレン系モノマーと前記(メタ)アクリル系共重合体を構成するモノマーを共重合したものである。スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンのスチレン誘導体が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレン等が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
ゴム強化アクリル系樹脂とは、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル系モノマーを共重合したもの、または、2種以上のモノマーを共重合したものである。ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・イソプレン・スチレン共重合体、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレート等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム、これら2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられる。中でも、ジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
コアシェル型アクリル系化合物とは、内層にゴム層を有し、外層に(メタ)アクリル系樹脂を有する層からなるものである。コアシェル構造の一例として、コア(内層)は、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)はメタクリル酸メチル重合体等から構成されるものが挙げられる。市販品としては、例えば、三菱レイヨン製メタブレン、鐘淵化学工業製カネエース、呉羽化学工業製パラロイド、ロームアンドハース製アクリロイド、武田薬品工業製スタフィロイドまたはクラレ製パラペットSAが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
アクリル系オレフィン化合物とは、(メタ)アクリル酸エステル重合体がグラフト共重合された変性オレフィン化合物である。市販品としては、例えば、日油社製モディパー等が挙げられる。
【0045】
エポキシ基を有するアクリル系化合物とは、エポキシ基とアクリル基を分子内にそれぞれ1つ以上有する化合物である。例えば、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー同士の共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとスチレンモノマーの共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体がスチレン系共重合体にグラフト共重合された化合物、(メタ)アクリル酸エステル重合体がエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体にグラフト共重合された化合物、または、コア(内層)がアクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)がエポキシ基を有するメタクリル酸メチル共重合体等から構成されるコアシェル構造のもの等が挙げられる。市販品としては、例えば、東亜合成社製ARUFON UG−4000シリーズ、東亞合成社製RESEDA、日油社製モディパーA4200、三菱レイヨン社製メタブレンS−2200等が挙げられる。
【0046】
アクリル系相溶化剤(C)を用いる場合、その含有量は、熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、1〜20質量部であることが好ましく、中でも1〜15質量部とすることが好ましい。アクリル系相溶化剤(C)の含有量がこの範囲にあることで、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の相溶性が向上する。
【0047】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、カルボジイミド化合物(D)を含有することが好ましい。カルボジイミド化合物(D)は、得られる熱可塑性樹脂組成物の湿熱耐久性を向上させることを目的に配合されるものである。
【0048】
カルボジイミド化合物(D)とは、(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を分子内に有する化合物をいう。なお、カルボジイミド基を分子内に1個有する化合物をモノカルボジイミド化合物と表し、カルボジイミド基を分子内に2個以上有する化合物を多価カルボジイミド化合物と表す。
【0049】
カルボジイミド化合物(D)としては、モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物を併用することが好ましい。
【0050】
モノカルボジイミド化合物の含有量と多価カルボジイミド化合物の含有量の質量比率(モノカルボジイミド化合物/多価カルボジイミド化合物)は、10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、30/70〜70/30の範囲がより好ましい。質量比率がこの範囲にあると湿熱耐久性が向上する。
【0051】
モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物を併用することで、それぞれを単独で用いる場合より、湿熱耐久性が向上する。理由は明らかでないが、以下のように推測できる。
【0052】
ポリ乳酸分子の加水分解は、ポリ乳酸のカルボン酸末端基により促進されることが知られている。モノカルボジイミド化合物は、分子量が小さく動きやすいため分散性に優れ、すばやくポリ乳酸分子のカルボン酸末端と反応するため、ポリ乳酸分子の末端を封鎖し加水分解を抑制する。一方、多価カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸が加水分解して新たに発生したカルボン酸末端と反応し、鎖延長させることによって分子量を増大させ、分子量の低下を抑制する。この2つの効果が相まって、湿熱耐久性が飛躍的に向上すると推察される。
【0053】
モノカルボジイミド化合物としては、N,N´−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でも、湿熱耐久性の点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0054】
多価カルボジイミド化合物としては、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミド等が挙げられる。中でも、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが好ましい。
【0055】
カルボジイミド化合物(D)を用いる場合、その含有量は、熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部であることが好ましく、中でも0.5〜3質量部とすることがより好ましい。カルボジイミド化合物(D)の含有量がこの範囲にあることで、得られる熱可塑性樹脂樹脂組成物の湿熱耐久性が向上する。なお、カルボジイミド化合物(D)として2種以上のカルボジイミド化合物を用いる場合、その含有量は、全てのカルボジイミド化合物の合計量とする。
【0056】
カルボジイミド化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により製造する方法が挙げられる。カルボジイミド化合物には、末端にイソシアネート基が残存していてもよい。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、耐候剤、耐光剤、顔料、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核剤等を添加することができる。
【0058】
熱安定剤や酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンE等が挙げられる。
【0059】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が好ましく、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)等が挙げられる。
【0060】
充填材としては、機械的強度や耐熱性の向上を目的に、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の繊維状強化材を用いることが好ましく、中でも、ガラス繊維等を用いることが好ましい。
【0061】
ガラス繊維を用いる場合、その含有量は、熱可塑性樹脂組成物中のポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、1〜50質量部が好ましい。ガラス繊維としては公知のガラス繊維を用いることができ、樹脂との密着性を高めるために、表面処理を施してもよい。添加の方法としては、押出機において、ホッパーから、あるいはサイドフィーダを用いて混練の途中から添加する方法が挙げられる。また、ガラス繊維をマスターバッチ加工して、成形時にベース樹脂で希釈し、使用することもできる。
【0062】
繊維状強化材以外の充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト等の無機充填材、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマー等の有機充填材が挙げられる。
【0063】
本発明では、L体含有量を制御したポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)を併用しているので、結晶性のポリ乳酸と非晶性熱可塑性樹脂(B)を使用した場合より、格段に耐衝撃性と寸法安定性を向上させることができる。その理由は明らかではないが、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の両方の樹脂が非晶性であるために、異方性が低下することによって、衝撃によって応力がかかる方向が分散できるために耐衝撃性が向上し、また、ひずみが生じにくくなるために寸法安定性が向上するものと推察される。
【0064】
そして、本発明の成形体は、上記したような本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体である。中でも、上記したような本発明の熱可塑性樹脂組成物の特性を生かして、耐衝撃性と寸法安定性に優れた成形体を得るには、結晶化を促進させずに成形体を得ることが好ましい。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。特に、射出成形法に適しており、一般的な射出成形のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等に用いることができる。射出成形条件は、熱可塑性樹脂の種類や含有比率によって適宜選択されるが、シリンダ温度は180〜260℃が好ましく、190〜250℃がより好ましい。
そして、上記したように、結晶化を促進させずに成形体を得る際には、金型温度は100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、さらには70〜40℃が好ましい。金型温度が低すぎると成形品にショートショットが発生する等操業性が不安定になる場合がある。
【0066】
本発明の成形体としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、繊維およびシート等が挙げられる。中でも、射出成形品は反り変形問題が生じにくく薄肉成型品に適用可能である。これらの成形品は、電気・電子部品、機械部品、光学機器、建築部材、自動車部品および日用品等各種用途に使用することができる。特に真円度が求められるカメラレンズ部品や、使用環境温度が比較的高く、使用時の寸法変化が問題となる、ドアトリム、ピラーガーニッシュ等の自動車用内装部材、カーオーディオやカーナビシステムの筐体、その他、携帯電話筐体や、携帯電話充電器ホルダー等に好適に使用できる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.評価項目
(1)ポリ乳酸(A)のMFR
JIS規格K−7210(試験条件4)にしたがい、190℃で、荷重を21.2Nかけ測定した。
(2)ポリ乳酸(A)L体含有量
得られた樹脂組成物を0.3g秤量し、1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した。次いで、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させ、サンプルとして5mLを計り取った。このサンプルに純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemを用いてガスクロマトグラフィー測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量(モル%)とした。
(3)ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度、融点
DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製Pyrisl DSC)を用いて、0℃から300℃まで20℃/分で昇温し、次に0℃まで50℃/分で降温し、続いて0℃から300℃まで20℃/分で昇温した。2回目の昇温時に得られた曲線のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求めこれをガラス転移温度とし、融解に由来するピークの頂点を融点温度とした。
【0068】
(4)熱変形温度
ISO規格75−1、2にしたがい、熱変形温度用試験片を用いて荷重0.45MPaで熱変形温度を測定した。実用上、70℃以上が好ましい。
(5)衝撃強度(シャルピー衝撃強度)
ISO規格179−1eAにしたがい、ノッチ(V字型切込み)付き試験片を用いてシャルピー衝撃強度を測定した。実用上、5kJ/m以上が好ましい。
(6)曲げ強度
ISO規格178にしたがい、曲げ強度試験片を用いて、変形速度1mm/分で曲げ強度を測定した。
(7)湿熱耐久性
曲げ強度試験片を温度65℃、湿度90%RHの環境下で500時間処理した後、曲げ強度を測定して、未処理品の値に対する強度保持率を下記の式で計算した。
強度保持率(%)=(処理後の曲げ強度÷未処理品の曲げ強度)×100
(8)寸法安定性
直径100mm、厚み2mmの円板状の試験片を用い、温度80℃で24時間熱処理を実施した後の、熱処理前後の直径の収縮量および、反り量を評価した。反り量は、熱処理後の円板を水平な台の上に置いて中心部の高さを測定し、その測定値から板厚2mmを減じて計算した。例えば、高さが3mmであれば、板厚の2mmを減じて、反り量は1mmと計算される。実用上、収縮量は0.2mm以下、反り量は1mm以下が好ましい。
【0069】
2.原料
<ポリ乳酸(A)>
(1)ポリ乳酸(PLA−1)
NatureWorks社製 6302D、MFR=12、ガラス転移温度=53℃、L体含有量90.5モル%、D体含有量9.5モル%
(2)ポリ乳酸(PLA−2)
NatureWorks社製 3001D、MFR=10、ガラス転移温度=56℃、L体含有量98.6モル%、D体含有量1.4モル%
(3)ポリ乳酸(PLA−3)
光学純度99%以上のL−ラクチドと光学純度99%以上のD−ラクチドを酢酸エチルによって再結晶させ、それぞれを乾燥させた。乾燥したL−ラクチド75質量部とD−ラクチド25質量部をステンレス重合容器に入れ、2−エチルヘキサン酸スズ塩を0.01質量部添加して均一に撹拌した。続いて、120℃の温度条件下において、常圧で6時間、その後、常圧から3時間かけて560mmHgまで減圧し圧力を保持して12時間、さらに3時間かけて200mmHgまで減圧し圧力を保持して12時間、さらに24時間かけて最終圧20mmHgまで減圧し圧力を保持して60時間、合計120時間、固相重合反応をおこなった。最後に、冷却して結晶化させ、得られた重合物をクロロホルムに溶解し、メタノール中へ沈殿させ未反応の単量体を除去し、ポリ乳酸(PLA−3)を得た。
PLA−3は、 MFR=10、ガラス転移温度=53℃、L体含有量75モル%、D体含有量25モル%のものであった。
(4)ポリ乳酸(PLA−4)
L−ラクチドを5質量部、D−ラクチドを95質量部に変更した以外は、PLA−3と同様にしてポリ乳酸(PLA−4)を得た。
PLA−4は、MFR=10、ガラス転移温度=54℃、L体含有量5モル%、D体含有量95モル%のものであった。
(5)ポリ乳酸(PLA−5)
L−ラクチドを4.5質量部、D−ラクチドを95.5質量部に変更した以外は、PLA−3と同様にしてポリ乳酸(PLA−5)を得た。
PLA−5は、MFR=11、ガラス転移温度=56℃、L体含有量4.5モル%、D体含有量95.5モル%のものであった。
【0070】
<非晶性熱可塑性樹脂(B)>
(1)ABS樹脂
ABS−1 テクノポリマー社製 ABS170、ガラス転移温度=95℃
(2)ABS樹脂
ABS−2 旭化成ケミカルズ社製 スタイラック321、ガラス転移温度=95℃
(3)MBS樹脂
MBS 電気化学工業社製 TH21、ガラス転移温度=87℃
(4)MABS樹脂
MABS 電気化学工業社製 TE−10S、ガラス転移温度=92℃
(5)ポリカーボネート樹脂
PC 住友ダウ社製 カリバー200−13、極限粘度〔フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(質量比6/4)を用い、温度20℃で測定した〕=0.48、ガラス転移温度=145℃
【0071】
<結晶性熱可塑性樹脂>
(1)ポロプロピレン樹脂
PP 日本ポリプロ社製 ノバテックPP BC03C、ガラス転移温度=0℃以下
【0072】
<アクリル系相溶化剤(C)>
(1)ポリメチルメタクリレート樹脂
PMMA−1 三菱レイヨン社製 アクリペットVH−001
(2)アクリル系共重合樹脂
PMMA−2 三菱レイヨン社製 アクリペットMD−001
(3)エポキシ基を有するアクリル系化合物
EA−1 三菱レイヨン社製 メタブレンS−2200
(4)エポキシ基を有するアクリル系化合物
EA−2 東亜合成社製 RESEDA GP−301
(5)エポキシ基を有するアクリル系化合物
EA−3 日本油脂社製 モディパーA4200
(6)エポキシ基を有しないアクリル化合物
A−1 三菱レイヨン社製 メタブレンC−223A
【0073】
<カルボジイミド化合物(D)>
(1)モノカルボジイミド化合物
HC−1 ラインケミー社製 スタバクゾールI(N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)
(2)多価カルボジイミド化合物
HC−2 ラインケミー社製 スタバクゾールP(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド)
(3)多価カルボジイミド化合物
C−3 日清紡社製 LA−1、イソシアネート基含有率1〜3%
【0074】
実施例1〜23、比較例1〜13
各原料を表1〜4に示す割合で、二軸押出機(東芝機械社製TEM−37BS)に供給し、表1〜4に示す押出温度で、溶融混練押出しをおこない、吐出された樹脂をペレット状にカッティングし樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械製EC−100)を用いて成形し、各種試験片を得た。このとき、表1〜4に示す射出温度で溶融し、射出圧力100MPa、射出速度30mm/s、射出と保圧の合計時間15秒、保圧60MPaで60℃の金型に充填し、20秒間冷却し、結晶化を促進しない処方で成形体(試験片)を得た。
【0075】
得られた熱可塑性樹脂組成物の樹脂組成、成形体(試験片)の製造条件、得られた熱可塑性樹脂組成物(成形体)の特性値を表1〜4に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
表1〜4から明らかなように、実施例1〜23で得られた熱可塑性樹脂組成物は、石油系製品への依存度が低く、熱変形温度、衝撃強度、寸法安定性(収縮、反り)すべてが良好な樹脂組成物であった。
特に、実施例15〜19、21で得られた熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部のカルボジイミド化合物を含有していたため、他の実施例に比べ、湿熱耐久性が良好であった。中でも、モノカルボジイミド化合物/多価カルボジイミド化合物の含有量の質量比率が1/9〜9/1の範囲にある実施例15の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱耐久性がさらに良好であった。
【0081】
比較例1〜4で得られた熱可塑性樹脂組成物は、樹脂組成物に占めるポリ乳酸の含有量が多く、非晶性熱可塑性樹脂の含有量が少なかったため、耐衝撃性に劣り、熱変形温度が低く、耐熱性にも劣るものであった。比較例6、7で得られた熱可塑性樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂を使用せず、結晶性熱可塑性樹脂を使用していたため、衝撃強度が低く、寸法安定性にも劣るものであった。比較例5、8〜13で得られた熱可塑性樹脂組成物は、用いたポリ乳酸のL体含有量が高かったため、衝撃強度に若干劣るとともに寸法安定性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L体含有量が5〜95モル%であるポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有してなり、樹脂組成物中のポリ乳酸(A)の含有量が20〜60質量%、非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が40〜80質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
非晶性熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度が、ポリ乳酸(A)のガラス転移温度より高い、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
非晶性熱可塑性樹脂(B)が、ポリカーボネート樹脂および/またはゴム強化スチレン系樹脂である、請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
さらにアクリル系相溶化剤(C)を含有しており、含有量が、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、1〜20質量部である請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらにカルボジイミド化合物(D)を含有しており、含有量が、ポリ乳酸(A)と非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部である請求項1〜4いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
カルボジイミド化合物(D)が、モノカルボジイミド化合物および多価カルボジイミド化合物から構成され、モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物の含有量の質量比率(モノカルボジイミド化合物/多価カルボジイミド化合物)が10/90〜90/10である請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。


【公開番号】特開2012−12586(P2012−12586A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120709(P2011−120709)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】