説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(ポリプロピレン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂と酸変性ポリプロピレン系樹脂との併用等)及び植物繊維(ケナフ繊維等)を粉砕してなる粉砕繊維を含有し、合計を100質量%とした場合に、粉砕繊維が50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、植物繊維を所定長さの裁断繊維(好ましくは繊維長が20mm以下)とする裁断工程と、裁断繊維を所定寸法の粉砕繊維(好ましくは平均繊維長が0.5〜6mmであり、且つ平均繊維径が10〜60μm)とする粉砕工程と、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを溶融混練して混合する混合工程と、を備える。粉砕繊維は、ペレット化してから熱可塑性樹脂と混合することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂に多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケナフ等の、成長が早く、且つ二酸化炭素吸収量が多い植物材料は、二酸化炭素排出量削減及び二酸化炭素固定化等の観点から注目され、樹脂と混合した複合材料の用途で期待されている。このケナフ等と樹脂との混合には、ニーダー、スーパーミキサ、ヘンシェルミキサ等の混合機が用いられるが、特に多量の植物材料を樹脂に混合することは困難であり、多量に混合しようとするときは、数度に分けて投入、混合を繰り返す等の手間と時間とを要する。また、ケナフ等が混合された複合材料を用いて射出成形等の方法により成形することは容易ではない。これは、複合材料に、従来の樹脂と同様の装置、条件で成形することができる程度に十分な流動性を付与することが難しいためであると考えられる(例えば、特許文献1、2参照。)。更に、多量の植物材料を熱可塑性樹脂に均一に分散させ、配合させることは容易ではないため、植物材料を予めペレット化し、樹脂との比重差を小さくして、植物材料と樹脂とが相互に均一に分散した複合材料とし、この複合材料を用いて成形体を製造することが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【特許文献2】特開2000−219812号公報
【特許文献3】特開2008−93956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ケナフ繊維をポリ乳酸に含有させた場合に最も精密な射出成形ができるが、ケナフ繊維の含有量が50質量%を超えると、繊維が樹脂に均一に分散せず、成形機内で樹脂組成物が詰まる等の問題が発生すると説明されている。また、特許文献2には、樹脂にロジン及び可塑剤を配合せず、植物繊維のみを配合した場合は、植物繊維が均一に分散され難く、樹脂と植物繊維との間の親和性もよくないため、強度等に劣り、品質が均一でなく、実用性に乏しい成形品になってしまうと説明されている。このように、特許文献1、2には、50質量%を超える多量の植物材料を含有する場合、射出成形等により実用性の観点で問題のない成形品とすることは困難であることが記載されている。更に、特許文献3に記載された製造方法では、植物材料と樹脂とを均一に分散させることができるが、コスト面では不利である。
【0005】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂に多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.熱可塑性樹脂及び植物繊維を粉砕してなる粉砕繊維を含有し、該熱可塑性樹脂と該粉砕繊維との合計を100質量%とした場合に、該粉砕繊維は50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記植物繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする裁断工程と、該裁断繊維を粉砕して所定寸法の前記粉砕繊維とする粉砕工程と、前記熱可塑性樹脂と該粉砕繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
2.前記裁断繊維の繊維長が25mm以下である前記1.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
3.前記粉砕繊維の平均繊維長が0.5〜6mmであり、且つ平均繊維径が10〜60μmである前記2.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
4.前記植物繊維は、ケナフ繊維である前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
5.前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である前記1.乃至4.うちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
6.前記ポリプロピレン系樹脂と前記酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、該酸変性ポリプロピレン系樹脂は1〜30質量%である前記5.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
7.前記粉砕繊維を押し固めてペレット化し、その後、前記熱可塑性樹脂と混合する前記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
8.前記混練、混合に用いる混合装置は、前記混合がなされる混合室及び該混合室内に配設された混合羽根を備え、前記混合室内で、前記混合羽根の回転により昇温して溶融した前記熱可塑性樹脂と、前記粉砕繊維とが混練され、混合される前記1.乃至7.のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、植物繊維が十分に解繊された粉砕繊維を用いており、繊維長及び繊維径ともに小さく、嵩張らないため、50〜95質量%と多量の粉砕繊維を容易に含有させることができ、射出成形等の方法により成形するときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。そのため、優れた曲げ強さ及び曲げ弾性率等を有し、実用性の観点で好ましい熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。
また、裁断繊維の繊維長が25mm以下である場合は、粉砕工程で、十分に解繊され、繊維長、繊維径ともに小さく、嵩張らない粉砕繊維とすることが容易であり、射出成形等の成形時に、より十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。
更に、粉砕繊維の平均繊維長が0.5〜6mmであり、且つ平均繊維径が10〜60μmである場合は、熱可塑性樹脂に多量に含有させることが容易であり、射出成形等の成形時に、特に十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。
また、植物繊維が、ケナフ繊維である場合は、成長速度が極めて大きい一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するケナフを用いることにより、大気中の二酸化炭素量の削減、及び植物資源の有効利用等に貢献することができる。
更に、熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である場合は、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。
また、ポリプロピレン系樹脂と酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、酸変性ポリプロピレン系樹脂が1〜30質量%である場合は、酸変性樹脂を併用することによる作用効果が十分に奏され、特に高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。
更に、粉砕繊維を押し固めてペレット化し、その後、熱可塑性樹脂と混合する場合は、多くの植物繊維を投入することができ、それに比例してより多くの熱可塑性樹脂組成物を生産することができる。
また、混練、混合に用いる混合装置は、混合がなされる混合室及び混合室内に配設された混合羽根を備え、混合室内で、混合羽根の回転により昇温して溶融した熱可塑性樹脂と、粉砕繊維とが混練され、混合される場合は、外部からの加熱を必要とすることなく短時間で効率よく混合することができ、コストを低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】熱可塑性樹脂組成物の製造に用いるシステムの一部であって、裁断装置、粉砕装置及びペレット化装置が配置された場合の模式的な説明図である。
【図2】裁断装置の正面からみた断面の模式的な説明図である。
【図3】裁断装置の側方からみた断面の模式的な説明図である。
【図4】粉砕装置の回転刃及びその周辺を正面からみた模式的な説明図である。
【図5】粉砕装置の固定刃及びその周辺を正面からみた模式的な説明図である。
【図6】混合装置の一例の模式的な断面図である。
【図7】混合装置に配設された混合羽根の一例の模式的な側面図である。
【図8】ローラーディスクダイ式ペレタイザの一例の要部の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。
1.熱可塑性樹脂組成物の製造方法
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び植物繊維を粉砕してなる粉砕繊維を含有し、熱可塑性樹脂と粉砕繊維との合計を100質量%とした場合に、粉砕繊維が50〜95質量%であり、植物繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする裁断工程と、裁断繊維を粉砕して所定寸法の粉砕繊維とする粉砕工程と、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備える方法により製造することができる。
【0010】
[1]材料
(1)熱可塑性樹脂
上記「熱可塑性樹脂」は、混合工程で粉砕繊維と混合される樹脂である。この熱可塑性樹脂は特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール及びABS樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等を用いることもできる。これらのうちでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体がより好ましい。熱可塑性樹脂は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
また、特に熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いる場合、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。酸変性ポリオレフィンを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した熱可塑性樹脂成形体の機械的特性を向上させることができる。酸変性ポリオレフィンのベース樹脂としては、前記の各種のポリオレフィンを用いることができる。更に、熱可塑性樹脂組成物に含有される非変性ポリオレフィンと、酸変性に用いるベース樹脂とは同種の樹脂であることが好ましい。また、同種の樹脂である場合、各々の樹脂の平均分子量、密度等の差が小さいことがより好ましく、共重合体であるときは、各々の単量体単位の割合の差が小さいことがより好ましい。
【0012】
酸変性ポリオレフィンに酸基を導入する方法も特に限定されないが、通常、ポリオレフィンに酸基を有する化合物を反応させて導入する、所謂、グラフト重合により導入することができる。酸基を有する化合物も特に限定されず、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、酸無水物が用いられることが多く、特に無水マレイン酸及び無水イタコン酸が多用される。
【0013】
酸変性ポリオレフィンにおける酸基の導入量は特に限定されないが、酸価が5以上となる導入量であることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価が5以上となる導入量であれば、酸変性ポリオレフィンを多量に配合することなく、熱可塑性樹脂成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。この酸価は、10〜80、特に15〜70、更に20〜60であることがより好ましい。
尚、酸価はJIS K0070により測定することができる。
【0014】
更に、酸変性ポリオレフィンの平均分子量も特に限定されないが、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましい。即ち、比較的低分子量の酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。このような酸変性ポリオレフィンを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性を十分に向上させることができ、且つ優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂成形体を成形することができる。この重量平均分子量は、15000〜150000、特に25000〜120000、更に35000〜100000であることがより好ましい。
尚、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン及び/又はエチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体と、これらを酸変性した樹脂とを併用することがより好ましい。この場合、熱可塑性樹脂全体を100質量%としたときに、酸変性樹脂は1〜30質量%であることが好ましい。この範囲の配合量であれば、熱可塑性樹脂成形体の機械的特性を向上させることができるとともに、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性を飛躍的に向上させることができる。酸変性樹脂の配合量は、1〜25質量%、特に1〜20質量%、更に1.5〜10質量%であることがより好ましい。
【0016】
(2)植物繊維
前記「植物繊維」は、植物に由来する材料である。この植物繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する植物繊維が挙げられる。この植物繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有し、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献することができるケナフが有する繊維が好ましい。また、植物のうちの用いる部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよいし、2箇所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0017】
ケナフは木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。このケナフとしては、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等、並びに通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が挙げられる。植物繊維としてケナフが有する繊維を用いる場合、強靱な繊維を有する靭皮と称される外層部分を用いることができる。
【0018】
植物繊維の繊維長及び繊維径は特に限定されないが、繊維長(L)と繊維径(t)との比(L/t)が5〜20000であることが好ましい。また、植物繊維の繊維長は、通常、1.0〜300mmであり、繊維径は、通常、10〜1000μmである。この繊維長は、JIS L1015における直接法と同様にして1本の植物繊維を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した値である。一方、繊維径は、繊維長を測定した植物繊維について、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値である。
【0019】
更に、植物繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は25mm以下が好ましい。平均繊維長が25mm以下(通常、1.0mm以上)の植物繊維を用いることにより、容易に所定長さの裁断繊維とすることができる。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠する直接法により、単繊維を無作為に1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。また、平均繊維径は100μm以下(通常、10μm以上)が好ましい。植物繊維の平均繊維径が100μm以下であればこの植物繊維を裁断してなる裁断繊維を粉砕することにより、容易に所定寸法(所定長さ及び所定径)の粉砕繊維とすることができる。この平均繊維径は、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物には、非繊維質植物材料を含有させることもできる。例えば、植物繊維としてケナフ繊維を用いる場合、ケナフ全体の60体積%程度を占めるコアと称される芯材部分を非繊維質植物材料として含有させることができる。植物繊維と非繊維質植物材料とを併用する場合、これらの合計を100質量%としたときに、非繊維質植物材料は10質量%以下、特に7質量%以下、更に5質量%以下(含有させる場合は、通常、1質量%以上)であることが好ましい。非繊維質植物材料が10質量%以下であれば、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、併せて熱可塑性樹脂成形体の機械的特性を向上させることもできる。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂及び粉砕繊維を除く他の成分を含有させることができる。この他の成分は特に限定されないが、前記の非繊維質植物材料の他、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は各々1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の成分を配合する工程は特に限定されないが、通常、混合工程において配合し、含有させる。
【0022】
[2]工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、裁断装置30(詳しくは図2、3参照)により植物繊維を裁断して裁断繊維とする裁断工程と、粉砕装置40(詳しくは図4、5参照)により裁断繊維を粉砕して粉砕繊維とする粉砕工程と、この粉砕繊維と熱可塑性樹脂とを、混合装置1(詳しくは図6、7参照)により混練し、混合する混合工程とを備える。また、粉砕繊維は、そのまま熱可塑性樹脂に混合してもよいが、ペレタイザ50(詳しくは要部を記載した図8参照)により所定の形状及び寸法を有する繊維ペレットとし、この繊維ペレットを熱可塑性樹脂に混合してもよい。
【0023】
裁断工程と粉砕工程とは、図1のように、裁断装置30と粉砕装置40とを並べて配置し、連続的に裁断し、粉砕することが好ましい。即ち、裁断装置30と粉砕装置40とを、架台60の所定位置に配置し、裁断装置30により裁断されてなる裁断繊維を、ダクト71内を搬送させてサイクロン81内に投入し、ロータリーバルブ811を開として粉砕装置40に投入し、粉砕して粉砕繊維とする。この粉砕繊維は、そのまま熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよく、ペレット化してから熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよい。ペレット化する場合は、図1のように、粉砕繊維をダクト72内を搬送させてサイクロン82内に投入し、ロータリーバルブ821を開としてペレタイザ50に投入し、ペレット化することができる。このように、ペレット化も、裁断及び粉砕と連続的に実施することが好ましい。
【0024】
(1)裁断工程
前記「裁断工程」は、植物繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする工程である。
前記「裁断繊維」の繊維長は、この裁断繊維を粉砕して所定寸法の粉砕繊維とすることができる所定長さであればよいが、25mm以下であることが好ましく、20mm以下、特に15mm以下、更に10mm以下(通常、1.0mm以上)であることがより好ましい。裁断繊維の繊維長が25mm以下であれば、粉砕工程において、容易に所定寸法の粉砕繊維とすることができる。また、裁断繊維の平均繊維径も特に限定されないが、前記の繊維径を有する植物繊維を裁断することにより、裁断繊維の平均繊維径は、通常、50〜100μm、特に70〜90μmとすることができる。
尚、裁断繊維の繊維長は、前記の植物繊維の繊維長の場合と同じ方法により測定することができる。この繊維長は、用いる裁断装置が備えるスクリーンの開口部の寸法により調整することができる。また、裁断繊維の全量が繊維長25mm以下であることが好ましいが、繊維長が25mmを超える繊維が10%以下、特に5%以下含有されていてもよい。この割合は、前記の植物繊維の平均繊維長の測定方法により200本の繊維について繊維長を測定したときに、繊維長が25mmを超える繊維が200本のうちの10%以下、特に5%以下であることによって確認することができる。更に、裁断繊維の平均繊維径は、前記の植物繊維の繊維長の場合と同じ方法により測定することができる。
【0025】
裁断工程において用いられる装置は特に限定されず、植物繊維を所定長さに効率よく裁断することができればよく、例えば、図2、3に記載された裁断装置を用いることができる。
この裁断装置30は、シャフト31に同芯状に取り付けられ、固定された回転刃32と、この回転刃32に対向して配設された固定刃33とを備え、ホッパー34から投入された植物繊維は、回転刃32により押圧されながら固定刃33まで移動し、ここで回転刃32と固定刃33とが噛み合い、植物繊維が裁断される。回転刃32と固定刃33とは各々の刃先面が長さ方向において、僅かに、例えば、1〜5°、特に2〜4°の角度をなすように固定されている。これにより、植物繊維は、押圧され、粉砕されるのではなく、特に長さ方向に効率よく裁断され、所定長さの裁断繊維とすることができる。また、裁断繊維は、ケーシングの少なくとも下方側に配設されたスクリーンSの網目を通過して下方に落下し、回収される。
【0026】
更に、この裁断装置30では、回転刃32の回転方向において近接する複数の固定刃33が配設されており、先の固定刃33と回転刃32との間で裁断されなかった植物繊維が、後の固定刃33と回転刃32との間で裁断される。そのため、先の固定刃33の位置で裁断されなかった植物繊維がケーシング内に滞留し、再度回転するようなことがなく、繊維長に大差のない、より均質な裁断繊維とすることができる。また、ケーシングの側板35と面一に、シャフト31及び回転刃32とともに回転する回転板36が設けられているため、シャフト31と回転刃32との間に裁断繊維が入り込んで擦り合わされるようなことがない。更に、側板35と回転板36との間に隙間が設けられており、側板35と回転板36との境界周辺の裁断繊維は隙間から外部へ排出されるため、この境界周辺において裁断繊維が擦り合われたり、滞留して劣化したりすることもない。
【0027】
(2)粉砕工程
前記「粉砕工程」は、裁断繊維を粉砕して所定寸法、即ち、所定の平均繊維長及び平均繊維径の粉砕繊維とする工程である。
前記「粉砕繊維」の平均繊維長は、この粉砕繊維と熱可塑性樹脂とを効率よく混合することができ、且つ射出成形等の成形時に十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる所定の平均長であればよいが、0.5〜6mmであることが好ましく、0.5〜4mm、特に0.5〜2mm、更に0.5〜1.5mmであることがより好ましい。また、粉砕繊維の平均繊維径も、前記の作用効果が奏される所定の平均径であればよいが、10〜60μmであることが好ましく、20〜60μm、特に30〜55μmであることがより好ましい。粉砕繊維の平均繊維長が0.5〜6mmであり、且つ平均繊維径が10〜60μmであれば、前記の作用効果が十分に奏される。
尚、粉砕繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、前記の植物繊維の平均繊維長及び平均繊維径の場合と同じ方法により測定することができる。この平均繊維長は、用いる粉砕装置が備えるスクリーンの開口部の寸法により調整することができる。
【0028】
また、粉砕繊維の含有量は、熱可塑性樹脂と粉砕繊維との合計を100質量%とした場合に、50〜95質量%である。この含有量は、通常、組成物の製造時に熱可塑性樹脂に配合する粉砕繊維の配合量と同量である。即ち、熱可塑性樹脂及び粉砕繊維の各々の配合量の合計を100質量%としたときに、粉砕繊維の配合量は50〜95質量%である。この粉砕繊維の含有量(配合量)は50〜90質量%、特に50〜80質量%であることが好ましく、50〜70質量%、特に50〜65質量%、更に50〜60質量%であることがより好ましい。
【0029】
粉砕工程において用いられる装置は特に限定されず、裁断繊維を所定寸法に効率よく粉砕することができればよい。このような装置としては、裁断繊維に衝撃を加え、裁断繊維を長さ方向ばかりでなく径方向にも粉砕することができる粉砕装置を用いることができる。このように、粉砕工程では、裁断繊維を径方向にも粉砕する、即ち、解繊することを特徴としており、このように解繊された粉砕繊維を用いることによって、熱可塑性樹脂との混合がより容易になり、且つ射出成形等において十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0030】
前記のように、径方向の粉砕、即ち、解繊を十分にすることができる粉砕装置としては、例えば、図4、5に記載された固定板と回転板とを有する粉砕装置を用いることができる。
この粉砕装置は、図4のような固定板41と、この固定板41と対向して配設され、周方向に回転する図5のような回転板42とを備える。
固定板41の内面には、外周側に、周方向に離間して複数の外周側突起部411が立設されており(この外周側突起部411は、通常、周方向に等間隔に設けられ、図4の場合、90°の間隔で4個の外周側突起部411が設けられている。)、内周側に、周方向に離間して複数の内周側突起部412が立設されている(この内周側突起部412も、通常、周方向に等間隔に設けられ、図4の場合、90°の間隔で4個の内周側突起部412が設けられている。)。
【0031】
また、外周側突起部411及び内周側突起部412は、通常、周方向に等間隔に設けられているが、外周側突起部411と内周側突起部412も相互に周方向に等間隔に設けられていることが好ましい。図4の固定板41でもそのような構造になっており、各々の外周側突起部411及び内周側突起部412は、それぞれ周方向に45°の間隔で設けられている。更に、複数の外周側突起部411の高さは同じでもよく、異なっていてもよいが、通常、同一の高さであり、複数の内周側突起部412の高さも、同じでもよく、異なっていてもよいが、通常、同一の高さである。また、外周側突起部411と内周側突起部412の高さも、同じでもよく、異なっていてもよく、異なっている場合、いずれが高くてもよいが、通常、図4のように、外周側突起部411が内周側突起部412より高い。
【0032】
一方、回転板42の内面にも、周方向に離間して複数の突起部421が立設されている(この突起部421は、通常、周方向に等間隔に設けられ、図5の場合、16個の突起部421が周方向に等間隔に設けられている。)。また、この突起部421と、固定板41の内面に立設された外周側突起部411及び内周側突起部412との、径方向における位置関係は特に限定されないが、通常、外周側突起部411と内周側突起部412との間に、突起部421が位置するように配置される(図4の固定板41と回転板42の場合も、対向して組み合わされて装置を構成するときには、各々の突起部は前記のような位置関係になる。)。また、粉砕繊維は、ケーシングの少なくとも下方側に配設されたスクリーンSの網目を通過して下方に落下し、回収される
【0033】
外周側突起部411、内周側突起部412及び突起部421の各々の横断面形状は特に限定されず、多角形、円形、楕円形等のいずれでもよいが、粉砕効率の観点で、多角形、特に周方向が長辺となる長方形であることが好ましい。また、粉砕効率をより向上させるため、外周側突起部411、内周側突起部412及び突起部421の側面及び/又は上面に、溝部及び/又は凹部等を設けることもできる。特に、回転板42の内面に設けられた突起部421の外周側面及び内周側面には、図4のように、高さ方向に溝部4211を設けることが好ましく、これによって、粉砕効率、特に解繊効率をより向上させることができる。
【0034】
(3)混合工程
前記「混合工程」は、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを混練し、混合する工程である。
この混合工程では、押出タイプの混練、混合機を除いた混合装置が用いられる。この混合装置は特に限定されないが、熱可塑性樹脂に多量の粉砕繊維を混合させることができればよく、例えば、図6、7に記載された混合装置を用いることができる。この特定の混合装置を用いた場合、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物をより容易に製造することができる。
【0035】
この混合装置[以下、図6(図6は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図1を引用)及び図7(図7は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図2を引用)参照]としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合装置1が好ましい。即ち、混合装置1は、材料供給室13と、材料供給室13に連設された混合室3と、材料供給室13と混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、材料供給室13内の回転軸5に配設され、且つ材料供給室13に供給された熱可塑性樹脂と粉砕繊維との混合材料を混合室3へ搬送するためのスクリュー羽根12と、混合室3内の回転軸5に配設され、且つ混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備える混合装置が好ましい。
【0036】
混合装置1を使用し、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを材料供給室13に投入し、スクリュー羽根12により混合室3へ搬送し、混合羽根10a〜10fを回転させることで、熱可塑性樹脂及び粉砕繊維がともに、混合室3の内壁へ向かって押し付けられ、内壁を打撃し、且つ混合羽根10a〜10fの回転方向に押し進められ、材料同士の衝突により発生する熱により短時間で熱可塑性樹脂が軟化し、溶融して、粉砕繊維と混練され、混合される。このようにして製造される混合物(熱可塑性樹脂組成物)には、例えば、射出成形が可能な優れた流動性が付与される。
【0037】
混合羽根10a〜10fは、回転軸5の周方向に一定の角度で間隔をおいた位置において軸方向に対向するとともに、回転方向において互いの対向間隔が狭くなるような取付角で回転軸5に配設され、少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成される。混合羽根10a〜10fの回転軸5に対する取付角は、回転軸5に取り付けられる混合羽根10a〜10fの根元部から径方向外方の先端部まで同一であることが好ましい。また、混合羽根10a〜10fの平面形状は矩形であることが好ましい。更に、混合室3は、その構成壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより好ましい。このような構成とすることにより、混合室内が過度に昇温することを抑えることができ、熱可塑性樹脂の熱劣化を防止、又は少なくとも抑えることができる。
【0038】
混合工程における各種条件は特に限定されないが、例えば、混合時の温度は、混合室の外壁面の温度を200℃以下、特に150℃以下、更に120℃以下に制御することが好ましく、且つ50℃以上、特に60℃以上、更に80℃以上に制御することがより好ましい。また、この温度に到達させる時間は、10分以内、特に5分以内であることが好ましい。短時間で所定温度に到達させることで、急激に水分を蒸散させるとともに、混合することができ、熱可塑性樹脂の劣化をより効果的に抑えることができる。更に、前記の温度範囲を維持する時間も、15分以内、特に10分以内とすることが好ましい。また、この温度は、混合装置の混合羽根の回転速度により制御することが好ましい。より具体的には、混合羽根の先端の周速度を5〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲の周速度に制御することにより、効率よく熱可塑性樹脂を軟化させ、溶融させつつ、粉砕繊維とより均一に混合することができる。
【0039】
更に、この混合の終点は特に限定されないが、回転軸に負荷されるトルクの変化により決定することができる。即ち、回転軸に負荷されるトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に混合を停止することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを相互に十分に分散させることができる。また、トルクが最大値となった後、低下し始めてから混合を停止させることがより好ましい。更に、最大トルクに対して40%以上、特に50〜80%のトルク範囲となった時点で混合を停止することが特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と粉砕繊維とを相互により十分に分散させることができるとともに、混合室内から混合物(熱可塑性樹脂組成物)を160℃以上の温度で取り出すことができ、混合室内に熱可塑性樹脂組成物が付着して残存されることをより確実に防止することができる。
【0040】
(4)ペレット化工程
(a)熱可塑性樹脂組成物のペレット化
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、裁断工程、粉砕工程及び混合工程を除く他の工程を備えていてもよい。この他の工程としては、混合工程で製造された熱可塑性樹脂組成物をペレット化する工程が挙げられる。これは、本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物は、その後、射出形成等の成形に供することができるが、その際、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されていることにより成形が容易になり好ましいためである。
【0041】
ペレット化の方法は特に限定されないが、例えば、混合装置と、製造された熱可塑性樹脂組成物が除熱される前にペレット化することができるペレット化装置とが並列に配置された装置を用いた場合、混合と連続してペレット化することができるため好ましい。また、ペレット化装置が併設されていない場合は、混合装置から排出される、通常、塊状の熱可塑性樹脂組成物を、例えば、破砕機により破砕して粒状物とし、その後、押出機等により溶融混練し、押し出してペレット化することができる。更に、再加熱せずにペレット化することもできる。
【0042】
混合装置から排出される塊状の熱可塑性樹脂組成物は、加熱せず、押し固めてペレット化することが好ましい。このように、加熱せず、押し固めてペレット化することにより、例えば、塊状の熱可塑性樹脂組成物を破砕機により破砕して粒状物とし、この粒状物を押出機等の通常の方法によりペレット化するときに比べて、熱可塑性樹脂組成物への熱履歴を低減することができ、この熱可塑性樹脂組成物を用いて成形される熱可塑性樹脂成形体の機械的特性をより向上させることができる。
【0043】
この加熱せず押し固めてペレット化する工程では、どのような装置及び手段を用いてもよいが、各種圧縮成形法によるペレット化であることが特に好ましい。この圧縮成形法としては、例えば、ローラー式成形法及びエクストルーダ式成形法等が挙げられる。これらのうち、ローラー式成形法は、ローラー式成形機を用いる方法であり、ダイに接して回転するローラーにより混合物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。ローラー式成形機とてしは、ディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられ、これらはダイの形状が異なる。一方、エクストルーダ式成形法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により混合物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。これらの圧縮成形法のうちでは、圧縮効率が高いローラーディスクダイ式成形法がより好ましい。
【0044】
更に、本方法では下記の特定のローラーディスクダイ式成形機[ペレタイザ50(要部を記載した図8参照)]を用いてペレット化することが特に好ましい。即ち、複数の貫通孔511が穿設されたディスクダイ51と、ディスクダイ51上で転動し、貫通孔511内に非圧縮物(熱可塑性樹脂と粉砕繊維との混合物)を押し込むプレスローラ52と、プレスローラ52を駆動する主回転軸53とを備えるローラーディスクダイ式成形機を用いることが特に好ましい。この成形機では、ディスクダイ51は、貫通孔511と同方向に貫通する主回転軸挿通孔512を有し、主回転軸53は、主回転軸挿通孔512に挿通され、且つ主回転軸53に垂直に設けられたプレスローラ固定軸54を有する。また、プレスローラ52は、プレスローラ固定軸54に回転可能に軸支され、主回転軸53の回転に伴ってディスクダイ51上を転動する。
このローラーディスクダイ式成形機では、上記の構成に加え、プレスローラ52の表面に凹凸521が設けられていることがより好ましい。また、主回転軸53の回転に伴って回転される切断用ブレード55を備えていることがより好ましい。
【0045】
ローラーディスクダイ式成形機では、例えば、図8において、主回転軸53の上方から投入された混合物をプレスローラ52が備える凹凸521が捉えて貫通孔511内に押し込み、ディスクダイ51の裏面側から紐状の混合物が押し出される。この紐状の混合物は、回転する切断用ブレード55により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下して回収される。また、ペレット化された熱可塑性樹脂組成物の形状及び寸法は特に限定されないが、円柱状等の柱状形状であることが好ましい。更に、その最大寸法は1mm以上(通常、20mm以下)であることが好ましく、1〜10mm、特に2〜7mmであることがより好ましい。
【0046】
(b)粉砕繊維のぺレット化
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、粉砕繊維を熱可塑性樹脂と混合する前にペレット化してもよい。この粉砕繊維のペレット化工程に用いるペレット化装置も特に限定されないが、前記の熱可塑性樹脂組成物のペレット化工程と同様に前記のローラーディスクダイ式成形機を用いることができる。このように粉砕繊維のペレット化工程を備えることで、粉砕繊維と熱可塑性樹脂との嵩密度の差を小さくすることができ、作業性が向上し、混合の際の材料の偏在を抑えることもでき、粉砕繊維と熱可塑性樹脂とが相互により均一に分散した熱可塑性樹脂組成物とすることができ、熱可塑性樹脂成形体の機械的強度をより向上させることができる。
【0047】
2.熱可塑性樹脂成形体の製造方法
本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物(ペレット化された熱可塑性樹脂組成物)は、射出成形、押出成形、圧縮成形等の各種の成形方法により、熱可塑性樹脂成形体とすることができる。この熱可塑性樹脂組成物は、多量の植物繊維(粉砕繊維)を含有しているにもかかわらず、優れた流動性を有するため、特に十分な流動性を必要とする射出成形に用いることもできる。この射出成形時、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されておれば、計量時間及び射出時間等を短縮することができ、その結果、成形サイクルが短縮されて成形効率を向上させることができる。また、射出成形等の各種の成形に用いる装置及び成形条件等は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、及び熱可塑性樹脂成形体の形状、用途等により適宜選択し、設定すればよい。
【0048】
熱可塑性樹脂成形体の形状及び寸法等は特に限定されず、その用途も特に限定されない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。これらのうち、自動車用途としては、内装材、インストルメントパネル、外装材等が挙げられ、具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、ダッシュボード、インストルメントパネル、デッキトリム、バンパ、スポイラ及びカウリング等が挙げられる。更に、自動車を除く他の用途としては、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。例えば、建築物のドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥等の各種家具の表装材、構造材等が挙げられる。更に他の例として、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造
実施例1
(1)粉砕繊維の作製
ケナフ繊維(インドネシア産、ロープ状)を裁断装置(有限会社吉工製、型式「RC250」)により裁断し、直径10mmの開口部を有するスクリーンを通過させ、裁断繊維として回収した。この裁断繊維を、連続的に粉砕装置(槇野産業社製、型式「マキノ式DD−2」)に投入して粉砕し、直径2mmの開口部を有するスクリーンを通過させ、粉砕繊維として回収した。この粉砕繊維200本を光学顕微鏡により観察し、各々の繊維の長さと径とを測定し、累積長及び累積径を本数で除して平均繊維長及び平均繊維径を算出した。結果を表1に記載する。
尚、それぞれの繊維の径は長さ方向の中央部の径である。
【0050】
(2)熱可塑性樹脂組成物の製造
前記(1)で作製した粉砕繊維360gと、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックNBC03HR」)225gと、酸変性ポリプロピレン(三菱化学社製、商品名「モディックP908」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)15g(粉砕繊維、ポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンの質量比は表1のようになる。)と、を図6の混合装置1(WO2004−076044号に記載された装置)の材料供給室13に投入し、その後、容量5リットルの混合室3に移送し、混合羽根(図7の10a〜10f)を回転数1750rpmで回転させ、混練し、混合した。そして、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇し、最大値に達して6秒後を終点として混合を停止し、混合物(ペレット化前の熱可塑性樹脂組成物)を混合装置1から排出させた。
【0051】
(3)ペレット化
前記(2)で製造した塊状の熱可塑性樹脂組成物を、破砕機(ホーライ社製、形式「Z10−420」)により5mm程度に破砕し、その後、破砕片を、ローラーディスクダイ式成形機[菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径4.2mm、厚さ25mmのダイを使用]に、フィーダー周波数20Hzで投入し、直径約4mm、且つ長さ約5mmの円柱状のペレットとし、次いで、このペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させ、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0052】
実施例2
開口部の直径が6mmのスクリーンを備える裁断装置を用いた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
実施例3
開口部の直径が2mmのスクリーンを備える裁断装置を用いた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
実施例4
粉砕繊維を、ローラーディスクダイ式成形機[菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径6.2mm、厚さ28mmのダイを使用]に、フィーダー周波数40Hzで投入し、予め、直径約6mm、且つ長さ約10mmの円柱状のペレットとし、その後、熱可塑性樹脂と混練、混合した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
実施例5
粉砕繊維と、ポリプロピレンと、酸変性ポリプロピレンとを、表1に記載の質量比とした他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
【0053】
比較例1
ケナフ繊維を裁断したのみで粉砕せず、この裁断繊維を熱可塑性樹脂と混練し、混合した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
比較例2
裁断繊維と、ポリプロピレンと、酸変性ポリプロピレンとを、表1に記載の質量比とした他は、比較例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
以上、実施例1〜5及び比較例1〜2における粉砕繊維等と熱可塑性樹脂との質量比、スクリーンの開口径、粉砕繊維等のペレット化の有無、及び粉砕繊維(比較例では裁断繊維)の平均繊維長、平均繊維径を表1に記載する。
尚、表1において「PP」はポリプロピレン、「酸変性PP」は酸変性ポリプロピレンの略記である。
【0054】
【表1】

【0055】
[2]熱可塑性樹脂組成物の特性評価
前記[1]で得られた実施例1〜5及び比較例1〜2の熱可塑性樹脂組成物のペレットを、オーブンにて100℃で5時間乾燥させ、その後、射出成形機(住友重機械工業社製、形式「SE100DU」)により、シリンダー温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を作製し、次いで、JIS K7171に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ強さ及び曲げ弾性率を算出した。また、バーフロー金型を用いて同様にして射出成形し、流動長を評価した。これらの結果を表1に併記する。
【0056】
表1の結果によれば、所定寸法のケナフ粉砕繊維と、ポリプロピレンと、酸変性ポリプロピレンとを、それぞれ所定量配合した実施例1〜4では、裁断装置のスクリーンの開口径、及び粉砕繊維のペレット化の有無によらず、十分な曲げ特性を有し、バーフロー長を指標とする流動性も優れていることが分かる。また、粉砕繊維の繊維径が他の実施例より大きい実施例3でも、同様に十分な曲げ特性と流動性とを有していることが分かる。更に、ケナフ粉砕繊維の配合量が他の実施例より少ない実施例5では、曲げ特性が少し低下するが、流動性はより優れており、十分に実用に供し得る熱可塑性樹脂組成物である。一方、ケナフ繊維を裁断したのみで、粉砕していない比較例1は実施例1〜4と比べて、また、比較例2は実施例5と比べて、曲げ特性は十分であるものの、流動性が劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野等の広範な用途おいて利用することができ、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等の技術分野でより有用であり、特に、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等の自動車関連の製品分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1;撹拌機、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、13;材料供給室、30;裁断装置、31;シャフト、32;回転刃、33;固定刃、40;粉砕装置、41;固定板、411;外周側突起部、412;内周側突起部、42;回転板、421;突起部、50;ペレタイザ[ローラーディスクダイ式成形機(ペレット化部)]、51;ディスクダイ、511;貫通孔、512;主回転軸挿通孔、52;プレスローラ、521;凹凸部、53;主回転軸、54;プレスローラ固定軸、55;切断用ブレード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び植物繊維を粉砕してなる粉砕繊維を含有し、該熱可塑性樹脂と該粉砕繊維との合計を100質量%とした場合に、該粉砕繊維は50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記植物繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする裁断工程と、該裁断繊維を粉砕して所定寸法の前記粉砕繊維とする粉砕工程と、前記熱可塑性樹脂と該粉砕繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記裁断繊維の繊維長が25mm以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕繊維の平均繊維長が0.5〜6mmであり、且つ平均繊維径が10〜60μmである請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記植物繊維は、ケナフ繊維である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である請求項1乃至4うちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂と前記酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、該酸変性ポリプロピレン系樹脂は1〜30質量%である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕繊維を押し固めてペレット化し、その後、前記熱可塑性樹脂と混合する請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混練、混合に用いる混合装置は、前記混合がなされる混合室及び該混合室内に配設された混合羽根を備え、
前記混合室内で、前記混合羽根の回転により昇温して溶融した前記熱可塑性樹脂と、前記粉砕繊維とが混練され、混合される請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−241986(P2010−241986A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93441(P2009−93441)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】