説明

熱可塑性樹脂組成物及びその成形体

【課題】熱可塑性樹脂に対するフルオロポリマーの分散性を改良し、光線透過率、殊に近赤外光線透過率、更には難燃性をも改良した熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、フルオロポリマーと、フルオロポリマー分散剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該フルオロポリマー分散剤がポリカルボシラン化合物よりなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。主鎖にケイ素−炭素結合を有するポリカルボシラン化合物は、主鎖に有機成分(有機残基)を含有するため、有機的性質が強く、このため、熱可塑性樹脂へのフルオロポリマーの相溶性、分散性を効果的に改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関するものである。詳しくは、熱可塑性樹脂の溶融特性や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性を改良する目的で、フルオロポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂に対するフルオロポリマーの相溶性、分散性を改良し、光線透過率、殊に近赤外光線透過率、更には難燃性をも改良した熱可塑性樹脂組成物と、この熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の溶融特性を改良する目的や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性を改良する目的で、熱可塑性樹脂にフルオロポリマーを配合する手法が行われてきた。
【0003】
なかでも、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィンポリマーは、熱可塑性樹脂の溶融特性を効果的に改質することが可能であり、特に難燃化された熱可塑性樹脂組成物に配合することによって燃焼時のドリップ防止性を高め、熱可塑性樹脂成形体が燃焼した場合の延焼を防ぐことができるといった優れた配合効果を示す。
【0004】
なお、熱可塑性樹脂に難燃性を付与する場合、一般に、フルオロポリマーのみを添加しても、上述のようなドリップ防止性は向上するものの消炎性は改善されないことから、通常、難燃剤の併用が必要となる(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0005】
一方、近年、自動車、電機・電子、その他精密機器分野において、熱可塑性樹脂成形体を、近赤外領域のレーザーによって溶着する手法(所謂、レーザー溶着)が盛んに試みられている。レーザー溶着法は、非接触で摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少ないため産業上のメリットが非常に大きい。
【0006】
このようなレーザー溶着において使用するレーザーとしては、安全性及びコスト上の理由から、一般に波長800〜1200nmの近赤外領域の光線が好適に用いられる。そのため、レーザー溶着の分野では、近赤外領域の光線透過率が高い熱可塑性樹脂組成物が使用される(例えば、特許文献3〜4参照)。
【0007】
さらに、顔向き検知装置、レインセンサー等の各種自動車用センサー機器や、顔認証装置、指紋認証装置、静脈認証装置等の各種セキュリティー装置、リモコン、赤外線通信機器等の各種情報・通信機器等に代表されるセンサー機器部材において、熱可塑性樹脂組成物が数多く用いられている。このような分野において使用される赤外光の波長は、それぞれの機器、装置によって適宜使い分けられるが、通常800〜1500nmの近赤外領域の光線が使用されている。従って、このような分野においても、近赤外領域の光線透過率が高い熱可塑性樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−181265号公報
【特許文献2】特開2000−239509号公報
【特許文献3】特開2006−199861号公報
【特許文献4】特開2007−131692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フルオロポリマーは、熱可塑性樹脂との相溶性、分散性が著しく低いために、少量配合した場合においても、光線透過率を著しく低下させたり、外観不良を引き起こしたりするという課題があった。
特に、近年の火災に対する安全性向上の要求から、上述のようなレーザー溶着によって製造される電機・電子機器部品や、センサー機器部材において、難燃化された熱可塑性樹脂組成物を使用する傾向が高まっているが、このような分野にフルオロポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物を用いた場合、光線透過率、殊に近赤外領域の光線透過率が著しく低下するため、その使用が制限されるという致命的な欠点を有していた。
【0010】
例えば、レーザー溶着用熱可塑性樹脂組成物の近赤外領域の光線透過率が低下すると、レーザー光の透過率が低いため、薄肉化で対応せざるを得ず、製品肉厚設計のマージンが狭くなり、製品強度の低下等を引き起こしやすくなる。また、レーザー出力を上げると、レーザー入射側の表面での溶融、発煙、接合界面での異常発熱による気泡などの不具合を発生するため、溶着が不可能になる恐れがある;外観不良や強度低下を引き起こす;といった問題がある。
【0011】
同様に、各種センサー機器においても、これを構成する熱可塑性樹脂組成物の近赤外領域の光線透過率が低下すると、センサーの感度が著しく低下する。赤外光の透過率を上げるために薄肉化を図ると、製品強度が低下する上に、使用波長以外の波長の透過率も同時に上がるため、やはりセンサー感度は低下し、誤動作等を招く可能性がある。
【0012】
このようなことから、フルオロポリマーの熱可塑性樹脂に対する相溶性、分散性を向上させて、近赤外領域の光線透過率を向上させる技術が強く望まれていた。
【0013】
従って、本発明は、熱可塑性樹脂の溶融特性や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性を改良する目的で、フルオロポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂に対するフルオロポリマーの分散性を改良し、光線透過率、殊に近赤外光線透過率、更には難燃性や外観不良、強度低下の問題を改善した熱可塑性樹脂組成物と、この熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を鑑み、鋭意検討した結果、フルオロポリマーを含む熱可塑性樹脂組成物にポリカルボシラン化合物を配合することにより、ポリカルボシラン化合物がフルオロポリマー分散剤として効果的に機能し、熱可塑性樹脂に対するフルオロポリマーの相溶性、分散性を高めることで、熱可塑性樹脂組成物の近赤外領域の光線透過率を向上させ、さらには難燃性をも向上させ、また、外観不良や強度低下の問題も改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、フルオロポリマーと、フルオロポリマー分散剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該フルオロポリマー分散剤がポリカルボシラン化合物よりなることを特徴とする(請求項1)。
【0016】
本発明において、ポリカルボシラン化合物が、下記式(1)〜(3)で表される構造単位のうちの少なくとも1種の構造単位と炭化水素残基とからなる主鎖構造を有するものが好ましい(請求項2)。該炭化水素残基は、二価炭化水素基であることが好ましい(請求項3)。
【0017】
【化1】

【0018】
(式(1)〜(3)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、一価炭化水素基、水素原子、又はシリル基を表し、a、b、cは、それぞれ独立に、0又は1を表す。主鎖構造中に含まれる複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。)
【0019】
より具体的には、本発明で用いるポリカルボシラン化合物は、下記式(4)、特に下記式(5)、とりわけ下記式(6)で表される繰り返し単位を有する、数平均分子量100〜20000のポリカルボシラン化合物であることが好ましい(請求項4〜6)。
【0020】
【化2】

【0021】
(式(4)中、R、R、a、b、は前記式(1)におけると同義であり、Aは、炭素数1〜12の二価炭化水素基を表し、p、qは、それぞれ独立に、1〜8の整数を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【0022】
【化3】

【0023】
(式(5)中、R、Rは前記式(4)におけると同義であり、Aは炭素数1〜12のアルキレン基を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【0024】
【化4】

【0025】
本発明においては、熱可塑性樹脂100質量部に対して、フルオロポリマー0.001〜3質量部とフルオロポリマー分散剤0.005〜10質量部とを含有することが好ましい(請求項7)。
【0026】
また、フルオロポリマーとしては、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィンポリマーが好ましい(請求項8)。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに難燃剤を含有していてもよく(請求項9)、この場合、難燃剤は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜30質量部含有することが好ましい(請求項10)。
【0028】
また、この難燃剤としては、金属塩化合物であることが好ましく、有機スルホン酸のアルカリ金属塩であることがより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩であることが最も好ましい(請求項11〜14)。
【0029】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂が好ましい(請求項15)。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、このような本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする(請求項16)。
【発明の効果】
【0031】
ポリカルボシラン化合物は、熱可塑性樹脂に配合されたフルオロポリマーの分散剤として有効に機能し、熱可塑性樹脂組成物中のフルオロポリマーの相溶性、分散性を高めることにより、外観不良、強度低下を防止し、光線透過率、殊に近赤外光線透過率、更には難燃性をも改良することができる。
【0032】
従って、このような本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる熱可塑性樹脂成形体は、フルオロポリマーの配合により、溶融特性や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性が改良されると共に、光線透過率、殊に近赤外光線透過率が高く、更には難燃性にも優れ、自動車、電機・電子、その他精密機器分野における、近赤外レーザー溶着用部材や、顔向き検知装置、レインセンサー等の各種自動車用センサー機器や、顔認証装置、指紋認証装置、静脈認証装置等の各種セキュリティー装置、リモコン、赤外線通信機器等の各種情報・通信機器等に代表されるセンサー機器部材等として工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0034】
[1.概要]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂と、フルオロポリマーと、フルオロポリマー分散剤としてのポリカルボシラン化合物とを含むものである。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、その他の成分を含有していてもよい。
【0035】
ここで、ポリカルボシラン化合物とは、主鎖にケイ素−炭素結合(Si−C結合)を有する繰り返し単位を2以上有するものであり、本発明で用いるポリカルボシラン化合物は、このように主鎖にSi−C結合を有することにより、熱可塑性樹脂に対するフルオロポリマーの相溶性、分散性の向上効果に優れ、従来のフルオロポリマー含有熱可塑性樹脂組成物の光線透過率、殊に近赤外光線透過率低下や外観不良、強度低下の問題を改善することができる。
【0036】
[2.熱可塑性樹脂]
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては特に制限は無いが、例えば次のようなものが挙げられる。
【0037】
芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂(PC樹脂);
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート樹脂(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン共重合体(COC樹脂)等のポリオレフィン樹脂;
【0038】
ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);等
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中には、これらの熱可塑性樹脂の1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0040】
特に、本発明においては、これらの熱可塑性樹脂のうち、透明性等の光学特性、耐熱性、機械的特性、電気的特性等に優れることから、ポリカーボネート樹脂を用いることが好ましく、とりわけ芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることが好ましく、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうちの50量%以上、特に70質量%以上は、ポリカーボネート樹脂、とりわけ芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0041】
ポリカーボネート樹脂は、下記式(7)で表される、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。
【0042】
【化5】

【0043】
式(7)中、Xは一般的には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0044】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0045】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法を用いてもよい。ここで、ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。共重合体の場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0046】
[2−1.ジヒドロキシ化合物]
ポリカーボネート樹脂の原料となるジヒドロキシ化合物のうち、芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、次のようなものが挙げられる。
【0047】
1,2−ジヒドロキシベンゼン、
1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、
1,4−ジヒドロキシベンゼン、
等のジヒドロキシベンゼン類;
【0048】
2,5−ジヒドロキシビフェニル、
2,2’−ジヒドロキシビフェニル、
4,4’−ジヒドロキシビフェニル、
等のジヒドロキシビフェニル類;
【0049】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、
1,2−ジヒドロキシナフタレン、
1,3−ジヒドロキシナフタレン、
2,3−ジヒドロキシナフタレン、
1,6−ジヒドロキシナフタレン、
2,6−ジヒドロキシナフタレン、
1,7−ジヒドロキシナフタレン、
2,7−ジヒドロキシナフタレン、
等のジヒドロキシナフタレン類;
【0050】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、
3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、
1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、
1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、
等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0051】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0052】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0053】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、
等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0054】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、
等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0055】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、
等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0056】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、
等のジヒドロキシジアリールスルホン類:
【0057】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
【0058】
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0059】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となる脂肪族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、次のようなものが挙げられる。
【0060】
エタン−1,2−ジオール、
プロパン−1,2−ジオール、
プロパン−1,3−ジオール、
2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、
2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、
ブタン−1,4−ジオール、
ペンタン−1,5−ジオール、
ヘキサン−1,6−ジオール、
デカン−1,10−ジオール、
等のアルカンジオール類;
【0061】
シクロペンタン−1,2−ジオール、
シクロヘキサン−1,2−ジオール、
シクロヘキサン−1,4−ジオール、
1,4−シクロヘキサンジメタノール、
4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、
2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール、
等のシクロアルカンジオール類;
【0062】
2,2’−オキシジエタノール(即ち、エチレングリコール)、
ジエチレングリコール、
トリエチレングリコール、
プロピレングリコール、
スピログリコール、
等のグリコール類;
【0063】
1,2−ベンゼンジメタノール、
1,3−ベンゼンジメタノール、
1,4−ベンゼンジメタノール、
1,4−ベンゼンジエタノール、
1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、
1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、
2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、
1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、
4,4’−ビフェニルジメタノール、
4,4’−ビフェニルジエタノール、
1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、
ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、
ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、
等のアラルキルジオール類;
【0064】
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、
1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、
1,2−エポキシシクロペンタン、
1,2−エポキシシクロヘキサン、
1,4−エポキシシクロヘキサン、
1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、
2,3−エポキシノルボルナン、
1,3−エポキシプロパン、
等の環状エーテル類;
【0065】
なお、脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0066】
[2−2.カーボネート前駆体]
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。
なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0067】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0068】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0069】
[2−3.ポリカーボネート樹脂の製造方法]
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用することができる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0070】
<界面重合法>
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0071】
用いるジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述の通りである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0072】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0073】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0074】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応系のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ジヒドロキシ化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0075】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0076】
分子量調整剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0077】
分子量調整剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、得られるポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0078】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調整剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
【0079】
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0080】
<溶融エステル交換法>
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0081】
用いるジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
【0082】
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0083】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0084】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0085】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
【0086】
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0087】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0088】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0089】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、中でも、得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0090】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0091】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0092】
[2−4.ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項]
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、通常10000以上、好ましくは16000以上、より好ましくは18000以上であり、また、通常40000以下、好ましくは30000以下である。粘度平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0093】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0094】
【数1】

【0095】
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。末端水酸基濃度がこの上限値以下であることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。末端水酸基濃度がこの下限値以上であることにより、分子量の低下を抑制し、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0096】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量法(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0097】
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量、物性等が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とを組み合わせてアロイ(混合物)として用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマー又はポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0098】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。この場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0099】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。この使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
【0100】
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を上記上限値よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0101】
[3.フルオロポリマー]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の溶融特性(例えば、燃焼時のドリップ防止性)や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性を改良する目的で、フルオロポリマーを含む。
【0102】
本発明で用いるフルオロポリマーとして、なかでもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。
フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
フルオロポリマーとしては、特に、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
【0103】
フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂の市販品としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、ダイキン化学工業社製「ポリフロン(登録商標)F201L」、「ポリフロン(登録商標)F103」などが挙げられる。さらに、フルオロオレフィン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、ダイキン化学工業社製「フルオン(登録商標)D−1」等が挙げられる。
【0104】
フルオロポリマーとしては、さらに、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形体の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる傾向にある。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば、(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0105】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではなく、このような有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0106】
スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;
N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;
グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;
酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;
ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等
【0107】
なお、これらの単量体は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0108】
なかでもフルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂の場合、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0109】
また、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率は、通常30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率を、上述の範囲とすることで、難燃性と成形体外観のバランスに優れる傾向にあるため好ましい。
【0110】
このような有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂の市販品としては、具体的には、三菱レイヨン社製「メタブレン(登録商標)A−3800」、GEスペシャリティケミカル社製「ブレンデックス(登録商標)449」、PIC社製「Poly TS AD001」等が挙げられる。
【0111】
なお、フルオロポリマーは、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0112】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のフルオロポリマーの含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、特に好ましくは0.02質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以下である。フルオロポリマーの含有量が上記範囲の下限値以下の場合は、フルオロポリマーを配合したことによる効果が不十分となる可能性があり、フルオロポリマーの含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、この熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体の外観不良や機械的強度の低下が生じたり、近赤外領域の透過率や、透明性が著しく低下したりする可能性がある。
【0113】
[4.ポリカルボシラン化合物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フルオロポリマー分散剤として、ポリカルボシラン化合物、即ち、主鎖にケイ素−炭素結合を有するケイ素化合物を含有する。本発明では、このポリカルボシラン化合物を含有することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるフルオロポリマーの相溶性、分散性を改善し、光線透過率、殊に近赤外光線透過率、難燃性を向上させると共に、外観不良、強度低下を改善する。
【0114】
これは、主鎖にケイ素−炭素結合を有するポリカルボシラン化合物は、主鎖に有機成分(有機残基)を含有するため、有機的性質が強く、このため、熱可塑性樹脂へのフルオロポリマーの相溶性、分散性を効果的に改善することができることによる。
【0115】
本発明における、ポリカルボシラン化合物は、本発明の目的を損なわない限り、主鎖に、ケイ素原子と炭素以外の原子との結合を含んでいてもよい。このような結合としては、例えば、ケイ素−ケイ素(Si−Si)結合、ケイ素−酸素(Si−O)結合、ケイ素−窒素(Si−N)結合、ケイ素−ホウ素(Si−B)結合、ケイ素−リン(Si−P)結合、ケイ素−チタン(Si−Ti)結合等が挙げられる。このような、結合は、実質的にケイ素−炭素結合のみからなるケイ素化合物を製造する場合に、原料、触媒等の成分より導入される他、非意図的に酸化作用等によって導入される可能性がある。
【0116】
本発明に用いるポリカルボシラン化合物は、主鎖にケイ素−炭素結合(Si−C結合)を有する繰り返し単位を2以上有するものであれば、その化学構造、形態に特に制限はないが、ケイ素又はケイ素−ケイ素結合単位と、炭化水素残基とが交互に連続してなる主鎖構造を有するケイ素化合物、なかでも、下記式(1)〜(3)で表される構造単位のうちの少なくとも1種の構造単位と炭化水素残基とからなる主鎖構造を有するものが好ましい。
【0117】
【化6】

【0118】
(式(1)〜(3)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、一価炭化水素基、水素原子、又はシリル基を表し、a、b、cは、それぞれ独立に、0又は1を表す。主鎖構造中に含まれる複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。)
【0119】
このようなポリカルボシラン化合物としては、例えば、上記式(1)で表される構造単位と炭化水素残基とからなる直鎖状、又は環状ポリカルボシラン化合物、上記式(2)又は(3)で表される構造単位と炭化水素残基とからなる分岐状、又は網目状ポリカルボシラン化合物、上記式(1)〜(3)で表される構造単位の組合せ、例えば式(1)と式(2)、式(1)と式(3)、式(2)と式(3)、式(1)〜(3)、と炭化水素残基とからなるポリカルボシラン化合物等が挙げられる。なかでも、上記式(1)で表される構造単位と二価炭化水素残基とからなる主鎖構造を有する直鎖状ポリカルボシラン化合物が、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂への分散性に優れる傾向にあるため好ましいが、該直鎖状ポリカルボシラン化合物が、分岐、網目状になっていてもよい。
【0120】
上述のような式(1)で表される構造単位と二価炭化水素残基とからなる主鎖構造を有する直鎖状ポリカルボシラン化合物としては、なかでも、下記式(4)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0121】
【化7】

【0122】
(式(4)中、R、R、a、b、は前記式(1)におけると同義であり、Aは、炭素数1〜12の二価炭化水素基を表し、p、qは、それぞれ独立に、1〜8の整数を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【0123】
上記式(4)において、p、qはそれぞれ1〜8の整数を表すが、p、qはそれぞれ、1〜4であることがより好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが好ましい。
【0124】
このような直鎖状ポリカルボシラン化合物としては、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。このような直鎖状構造を有することで、ポリカーボネート樹脂への分散性が向上し、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性や機械物性が向上する傾向にある。
【0125】
【化8】

【0126】
(式(5)中、R、Rは前記式(4)におけると同義であり、Aは炭素数1〜12のアルキレン基を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【0127】
前記式(1)〜(5)において、R、R、及びRで表される基は、一価炭化水素基、水素原子、及びシリル基から選ばれる少なくとも1種を表す。一価炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられるが、なかでもアルキル基、アリール基が好ましく、アルキル基が特に好ましく、メチル基がさらに好ましい。なお、上記R、R、及びRで表される置換基は、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても2以上が異なっていてもよい。
【0128】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられるが、通常炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、なかでもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0129】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜14のシクロアルキル基が挙げられるが、なかでも炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。
【0130】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜8のアルケニル基が挙げられ、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜12のシクロアルケニル基が挙げられる。
【0131】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等の炭素数2〜8のアルキニル基やエチニルベンゼン基等のアリールアルキニル等も挙げられる。
【0132】
アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル(即ち、トリル)基、ジメチルフェニル(即ち、キシリル)基、ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基が挙げられるが、なかでも炭素数6〜10のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
また、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数6〜20のアラルキル基が挙げられるが、なかでも炭素数6〜10のアラルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0133】
シリル基としては、例えば、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基等のケイ素数1〜10のシリル基が挙げられるが、中でもケイ素数1〜6のシリル基が好ましい。前記シリル基である場合は、その水素原子の少なくとも1つがアルキル基、アリール基、アルコキシ基等の官能基で置換されていてもよい。
【0134】
上記式(1)〜(5)における、R、R、及びRで表される置換基としては、それぞれ独立に、なかでも一価炭化水素基、又は水素原子であることがより好ましく、アルキル基、又は水素原子がさらに好ましく、メチル基、又は水素原子であることが特に好ましい。
【0135】
また、上記式(1)〜(4)における、a、b、及びcは、0又は1を表す。a、b、及びcが、0の場合、ポリカルボシラン化合物のケイ素原子が、置換基として、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、又はシリル基を有するか、或いは無置換(水素原子を有する)であることを意味し、a、b、及びcが1の場合は、ポリカルボシラン化合物のケイ素原子が、置換基として、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、シクロアルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、又は水酸基を有することを意味する。ポリカルボシラン化合物の耐熱性の観点からは、a、b、及びcは、0であることが好ましいが、樹脂との親和性を改善する為に意図的に、あるいは酸化作用等によって非意図的に、1となっていてもよい。
【0136】
一方、前述の式(1)〜(3)で表される構造単位と結合してポリカルボシラン化合物の主鎖構造を構成する炭化水素残基としては、特に制限はなく、直鎖であっても分岐鎖、環式構造を有していてもよく、また飽和結合のみならず不飽和結合を含んでいてもよい。また、炭素原子、水素原子以外に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、フッ素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。なかでも二価〜四価の炭化水素基が好ましく、二価炭化水素基が特に好ましい。
【0137】
前記式(1)〜(3)で表される構造単位に結合してポリカルボシラン化合物の主鎖構造を構成する二価炭化水素残基としては、具体的には次のような直鎖又は分岐状の二価炭化水素残基が挙げられる。
【0138】
メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の炭素数1〜12のアルキレン基;
【0139】
エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、sec−ブチリデン基、イソヘキシリデン基等の炭素数2〜12のアルキリデン基;
【0140】
シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロヘキシレン基、トリメチルシクロヘキシレン基、シクロペプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基等の炭素数3〜12のシクロアルキレン基;
【0141】
ビニレン基、プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1,3−ブタジエニレン基、1−メチルプロペニレン基、1−メチル−2−プロペニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1,3−ペンタジエニレン基、1,4−ペンタジエニレン基、1−メチルブテニレン基、1−メチル−1,2−ブタジエニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、3−ヘキセニレン基、1−メチルペンテニレン基、2−メチル−2−ペンテニレン基、1,1−ジメチル−2−プロペニレン基、1−エチル−2−プロペニレン基、1,2−ジメチルプロペニレン基、1−メチル−1−ブテニレン基、1−ヘプテニレン基、1−メチルヘキセニレン基、2−メチル−2−ヘキセニレン基、1,2−ジメチルペンテニレン基、1−オクテニレン基、2−オクテニレン基、3−ノネニレン基、4−デセニレン基等の炭素数2〜12のアルケニレン基;
【0142】
ビニリデン基、プロピニリデン基、アリリデン基等の炭素数2〜12のアルケニリデン基;
【0143】
1−シクロプロペニレン基、2−シクロペンテニレン基、2,4−シクロペンタジエニレン基、1−シクロヘキセニレン基、2−シクロヘキセニレン基、1−シクロヘプテニレン基、2−シクロノネニレン基、3−シクロデセニレン基、2−シクロドデセニレン基等の炭素数3〜12のシクロアルケニレン基;
【0144】
エチニレン基、1,3−(1−プロピニレン)基、3,3−(1−プロピニレン)基、1,4−(1−ブチニレン)基、1,5−(1−ペンチニレン)基、1,6−(1−ヘキシニレン)基、1,12−(1−ドデシニレン)基等の炭素数2〜12のアルキニレン基;
【0145】
o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、p−キシレン−α,α’−ジイル基、ビフェニレン基、ナフチレン基等の炭素数6〜12のアリーレン基;
【0146】
−CH−C−、−CH−C−CH−、−CHCH−C−、−CHCH−C−CH−、−CHCHCH−C−、−CH(CH)CH−C−、−CHCHCHCH−C−、−CHCHCH(CH)−C−等の炭素数6〜12のアラルキレン基;等
【0147】
また、前記式(1)〜(3)で表される構造単位と結合してポリカルボシラン化合物の主鎖構造を構成する三価炭化水素基としては、下記式(15)〜(16)で表されるものが挙げられる。
【0148】
【化9】

【0149】
また、前記式(1)〜(3)で表される構造単位と結合してポリカルボシラン化合物の主鎖構造を構成する四価炭化水素基としては、下記式(17)で表されるものが挙げられる。
【0150】
【化10】

【0151】
炭化水素残基としては、前述の如く、二価炭化水素基であることが好ましく、なかでもアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基が好ましく、アルキレン基、アリーレン基が特に好ましく、アルキレン基が最も好ましい。また、アルキレン基としては、炭素数1〜8のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が特に好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0152】
なお、前記式(4)におけるAは、炭素数1〜12の直鎖又は分岐状の二価炭化水素基を表し、具体的には上述の二価炭化水素残基が挙げられる。また、前記式(5)におけるAは、炭素数1〜12のアルキレン基を表し、具体的には上述の炭素数1〜12のアルキレン基が挙げられる。A,Aのアルキレン基としては、炭素数1〜8のアルキレン基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が特に好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0153】
本発明で用いられるポリカルボシラン化合物の例を挙げると、以下に示す繰り返し単位を有するものが挙げられる。ただし、ポリカルボシラン化合物は以下の例示物に限定されるものではない。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカルボシラン化合物を1種類だけ含有していてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含んでいてもよい。
【0154】
【化11】

【0155】
【化12】

【0156】
【化13】

【0157】
【化14】

【0158】
なかでも、下記式(6)で表される繰り返し単位を有するポリカルボシラン化合物が特に好ましい。このようなポリカルボシラン化合物は、ポリジメチルシランの熱分解によって、容易に得られやすく、収率も高いため、工業的メリットが大きい。
【0159】
【化15】

【0160】
なお、上記例示式において、nは、ポリカルボシラン化合物の重合度を表し、通常2以上、より好ましくは3以上、特に好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であり、また通常20000以下、より好ましくは5000以下、特に好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下である。nを上記範囲の下限値以上とすることで本発明の熱可塑性樹脂組成物のアウトガスの発生や金型汚染を低減することができ、好ましいものとなる。一方、nを上記範囲の上限値以下とすることで、フルオロポリマーの熱可塑性樹脂に対する分散性向上効果に優れたものとなり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械物性も向上する傾向にある。
【0161】
本発明に係るポリカルボシラン化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、数平均分子量[Mn]として、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、特に好ましくは500以上であり、また通常20000以下、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、特に好ましくは3000以下である。数平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることで本発明の熱可塑性樹脂組成物のアウトガスや金型汚染を低減することができ、好ましいものとなる。一方、数平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになるほか、機械物性も向上する傾向にある。なお、数平均分子量の異なる2種類以上のポリカルボシラン化合物を混合して用いてもよく、この場合には、数平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカルボシラン化合物を混合してもよい。
【0162】
なお、ここで数平均分子量[Mn]とは、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、温度40℃の条件で、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(装置:Tosho8020、カラム:Tosoh TSKgel MultiporeHxl−M)にて測定した値である。
【0163】
また、本発明に係るポリカルボシラン化合物の融点は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、特に好ましくは60℃以上であり、また通常500℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、特に好ましくは260℃以下である。融点を上記範囲の下限値以上とすることで本発明の熱可塑性樹脂組成物の金型汚染を低減することができ、好ましいものとなる。一方、融点を上記範囲の上限値以下とすることで、フルオロポリマーの熱可塑性樹脂に対する分散性向上効果に優れたものとなり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械物性も向上する傾向にある。なお、融点の異なる2種類以上のポリカルボシラン化合物を混合して用いてもよく、この場合には、融点が上記の好適な範囲外であるポリカルボシラン化合物を混合してもよい。
【0164】
本発明に係るポリカルボシラン化合物の製造方法は、任意であり、適宜選択して決定すればよいが、なかでも直接合成法、熱分解法等が挙げられる。
直接合成法としては、例えば、アルカリ金属等の触媒下、少なくとも1種のジハロゲンシラン及び少なくとも1種のジハロゲン炭化水素を共縮合する手法が挙げられる。このとき、反応は、一般に、溶媒を用いたアルカリ金属等の触媒の懸濁液中で行われる。該懸濁液に用いられる溶媒としては、例えば好ましくは炭化水素系溶媒が挙げられ、より好ましくはトルエン、キシレン、デカリン等が挙げられる。該触媒懸濁液中にその他の成分(ジハロゲンシラン、ジハロゲン炭化水素)を導入し、反応を行った後、それぞれ適当な方法によって反応混合物から目的物を得ることができる。ポリカルボシラン化合物が、例えば溶媒中で溶解性である場合は、他の不溶解成分は濾過によって分離されることがある。次に、溶媒中に残留するポリカルボシラン化合物は水を用いて洗浄されることによって浄化され、かつ溶媒を除去されることによって粉末に乾燥することができる。一方、合成されたポリカルボシラン化合物が溶媒中で不溶解性である場合には、ポリカルボシラン化合物は適当な溶媒によって抽出され、引続き水を用いた洗浄によって浄化され、かつ溶媒の除去によって粉末状に乾燥することができる。
【0165】
また、熱分解法としては、例えば、テトラメチルシラン等のアルキルシランやポリジメチルシラン(ポリメチルシリレン)等のポリシランを、高温で加熱することにより、熱分解転移反応によってポリカルボシラン化合物を得る手法が挙げられる。なお、この際の加熱温度は、一般に350〜1000℃であり、より好ましくは400〜800℃である。また、反応は常圧下で行っても、高圧下で行ってもよいが、高圧化で行う方が、収率が向上する傾向にあるため好ましい。また、ポリボロジフェニルシロキサン等のホウ素化合物を触媒量添加することも好ましい。前記、ホウ素化合物の添加量は、前記アルキルシランやポリシラン100質量部に対し、通常0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。ホウ素化合物の含有量を上記範囲の下限値以上とすることで、本発明に係るポリカルボシラン化合物の収率が向上する傾向にあり、またホウ素化合物の含有量を上記範囲の上限値以下とすることで、本発明に係るポリカルボシラン化合物の酸素含有量を抑制し、耐熱性の低下やポリカーボネート樹脂への分散性の低下等を抑制できる。
【0166】
本発明に係るポリカルボシラン化合物の製造方法としては、なかでも上記ポリシラン化合物から熱分解法によって得る手法が品質やコストの点から好ましい。なお、製造方法の異なる2種類以上のポリカルボシラン化合物を混合して用いてもよく、この場合には、製造方法が上記の好適な範囲外であるポリカルボシラン化合物を混合してもよい。
【0167】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリカルボシラン化合物の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.02質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上、最も好ましくは0.75質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7.5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、特に好ましくは1.75質量部以下である。ポリカルボシラン化合物の含有量が少なすぎるとフルオロポリマーの熱可塑性樹脂への相溶性、分散性向上効果が不十分となる可能性があり、逆に多すぎても効果が頭打ちになり経済的でないばかりでなく、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度の低下が生ずる可能性がある。
なお、本発明に係るポリカルボシラン化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0168】
[5.難燃剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、更に難燃剤を含んでいてもよく、難燃剤を含むことによりフルオロポリマーとの併用で著しく優れた難燃性を得ることができる。
難燃剤としては、公知のものであれば特に制限されず、適宜選択して用いればよいが、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、硼素系難燃剤、金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃剤等が挙げられる。なかでも、熱可塑性樹脂組成物の光線透過率、殊に近赤外光線透過率の低下や機械物性の低下を招きにくく、環境や人体への影響も少ない金属塩系難燃剤(以後、「金属塩化合物」と称することがある。)を好適に用いることができる。上記金属塩化合物は、本発明に好適に用いることができる熱可塑性樹脂と同時に含有することで、効果的に難燃性を発揮することができる。
【0169】
金属塩化合物が有する金属の種類としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属;並びに、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)等が挙げられるが、なかでもアルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましい。
これは、本発明の熱可塑性樹脂組成物の燃焼時の炭化層形成を促進し、難燃性をより高めることができると共に、ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できるからである。従って、金属塩化合物としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩化合物がより好ましく、なかでもアルカリ金属塩化合物がさらに好ましく、ナトリウム塩化合物、カリウム塩化合物、セシウム塩化合物が特に好ましい。
【0170】
また、金属塩化合物としては、例えば、有機金属塩化合物、無機金属塩化合物などが挙げられるが、熱可塑性樹脂への分散性がよいという点から有機金属塩化合物が好ましい。
【0171】
有機金属塩化合物としては、例えば、有機スルホン酸金属塩、有機スルホンアミドの金属塩、有機カルボン酸金属塩、有機ホウ酸金属塩、有機リン酸金属塩等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂と混合した場合の熱安定性の点から、有機スルホン酸金属塩、有機スルホンアミドの金属塩、有機リン酸金属塩が好ましく、有機スルホン酸金属塩が特に好ましい。
【0172】
有機スルホン酸金属塩の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム(Li)塩、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩、有機スルホン酸ルビジウム(Rb)塩、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩、有機スルホン酸マグネシウム(Mg)塩、有機スルホン酸カルシウム(Ca)塩、有機スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩、有機スルホン酸バリウム(Ba)塩、等が挙げられる。この中でも特に、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0173】
金属塩化合物のうち、好ましいものの例としては、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩、芳香族スルホン酸の金属塩、芳香族スルホンアミドの金属塩が挙げられる。その中でも好ましいものの具体例を挙げると、次の通りである。
【0174】
<<含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩>>
パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロエタンスルホン酸カリウム、パーフルオロプロパンスルホン酸カリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0175】
パーフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;
【0176】
パーフルオロメタンジスルホン酸ジナトリウム、パーフルオロメタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロエタンジスルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロイソプロパンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロブタンジスルホン酸ジナトリウム、パーフルオロブタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロオクタンジスルホン酸ジカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸のアルカリ金属塩;等
【0177】
<<含フッ素脂肪族スルホン酸イミドの金属塩>>
ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム、トリフルオロメタン(ペンタフルオロエタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸イミドのアルカリ金属塩;
【0178】
シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドナトリウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する環状含フッ素脂肪族スルホン酸イミドのアルカリ金属塩;等
【0179】
<<芳香族スルホン酸の金属塩>>
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0180】
パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等
【0181】
<<芳香族スルホン酸アミドの金属塩>>
サッカリンのナトリウム塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドのカリウム塩等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等
【0182】
上述した例示物の中でも、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩が、特に好ましい。
【0183】
また、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩としては分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。
【0184】
芳香族スルホン酸金属塩としては芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム等のジフェニルスルホン−スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム等のパラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩;が特に好ましく、パラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましい。
【0185】
なお、金属塩化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0186】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における難燃剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上であり、好ましくは、30質量部以上、より好ましくは、20質量部以下、更にこのましくは10質量部以下である。
【0187】
また、本発明における本発明の熱可塑性樹脂組成物における難燃剤が上記金属塩化合物の場合は、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.03質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、特に好ましくは1質量部以下である。
【0188】
金属塩化合物の含有量が少なすぎるとこれを配合したことによる熱可塑性樹脂組成物の難燃性の向上効果を十分に得ることができず、逆に多すぎても熱可塑性樹脂組成物の熱安定性の低下、並びに、成形体の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる可能性がある。
【0189】
[6.その他の成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分として、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
【0190】
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、繊維状強化材、光学機能調整材、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0191】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物に好適な樹脂添加剤の例について具体的に説明する。
【0192】
(熱安定剤)
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。
リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など周期表第1族又は第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0193】
これらの中でも、下記式(18)〜(20)で表される有機ホスファイト化合物、下記式(21)で表される有機ホスホナイト化合物、下記式(22)で表される有機ホスフェート化合物が好ましい。
【0194】
【化16】

【0195】
上記式(18)〜(22)において、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28はアルキル基又はアリール基を表す。なかでもR18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、炭素数が通常1以上、好ましくは2以上であり、通常30以下、好ましくは25以下のアルキル基、又は、炭素数が通常6以上であり、通常30以下のアリール基であることがより好ましい。さらに、R18、R19、R20、R22及びR23はアルキル基よりもアリール基が好ましく、R21、R24、R25、R26、R27及びR28は、アリール基よりもアルキル基が好ましい。なお、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0196】
また、式(19)、(21)において、X、Xは、炭素数6〜30のアリール残基を表し、式(22)において、dは、通常0以上、好ましくは1以上であり、また、通常2以下の整数を表す。
【0197】
上記式(18)で表される有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0198】
式(19)で表される有機ホスファイト化合物としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブHP−10」等が挙げられる。
【0199】
式(20)で表される有機ホスファイト化合物としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブPEP−8」、「アデカスタブPEP−24G」、「アデカスタブPEP−36」、城北化学工業社製「JPP−2000」等が挙げられる。
【0200】
式(21)で表される有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト等が挙げられる。このような、有機ホスホナイト化合物としては、具体的には、例えば、Sandoz社製「サンドスタブP−EPQ」等が挙げられる。
【0201】
式(22)で表される有機ホスフェート化合物としては、モノ−ステアリン酸ホスフェート、ジ−ステアリン酸ホスフェート、モノ−2−エチルヘキシル酸ホスフェート、ジ−2−エチルヘキシル酸ホスフェート、モノオレイル酸ホスフェート、ジ−オレイル酸ホスフェート等が挙げられる。このような、有機ホスフェート化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブAX−71」、城北化学工業社製「JP−508」、「JP−518−O」等が挙げられる。
【0202】
なお、熱安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0203】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の熱安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤の含有量が上記範囲の下限値以下の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0204】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0205】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
【0206】
なお、酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0207】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記範囲の下限値以下の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0208】
(離型剤)
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0209】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和又は不飽和の脂肪族一価、二価又は三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価又は二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0210】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和又は不飽和の一価又は多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコール又は脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0211】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0212】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0213】
なお、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルには、脂肪族カルボン酸の有するカルボキシル基のすべてがエステル化されたフルエステルと、その一部がエステル化された部分エステルとがあるが、本発明で用いる脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルは、フルエステルであっても、部分エステルであってもよい。
【0214】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0215】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0216】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0217】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0218】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0219】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の離型剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が上記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0220】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0221】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0222】
このようなベンゾトリアゾール化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0223】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0224】
このようなベンゾフェノン化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
【0225】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられ、このようなサリシレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
【0226】
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられ、このようなシアノアクリレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
【0227】
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられ、このようなオキザリニド化合物の市販品としては、例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
【0228】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。このようなマロン酸エステル化合物の市販品としては、例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0229】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0230】
(染顔料)
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
【0231】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック;カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0232】
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キノリン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0233】
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
【0234】
なお、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0235】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の染顔料の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。染顔料の含有量が多すぎると耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
明細書本文
【0236】
(繊維状強化材)
繊維状強化材としては、熱可塑性樹脂の強化材として用いられているガラス繊維、炭素繊維、各種の金属繊維やウイスカーなどが挙げられるが、ガラス繊維又は炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0237】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に、繊維状強化材を配合することにより、電気、電子機器やOA機器などに要求される高い機械的強度を有する成形品を与える樹脂組成物とすることができる。
【0238】
繊維状強化材の直径は、太いと柔軟性に欠け、また1μm未満の細いものは入手が困難であることから、繊維状強化材の平均直径(平均繊維径)は、通常1〜100μm、好ましくは2〜50μmであり、入手が容易で且つ強化材としての効果も大きい点で、平均直径が3〜30μm、特に5〜20μmの繊維状強化材を用いることが好ましい。
【0239】
繊維状強化材の長さは、補強効果の点から、0.1mm以上であるのが好ましい。繊維状強化材の長さの上限は通常は20mmであり、これより長いものを用いても、通常は溶融混練して樹脂組成物を調製するに際して折損して短くなる。好ましくは平均長さが0.3〜5mmの繊維状強化材を用いる。
【0240】
繊維状強化材は、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランドとして用いる。なお、炭素繊維の配合は樹脂組成物に導電性を付与するので、高抵抗の樹脂組成物を所望する場合にはガラス繊維を用いる。
【0241】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に繊維状強化材を配合する場合、熱可塑性樹脂組成物中の繊維状強化材の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して通常5〜100質量部である。この繊維状強化材の含有量が5質量部未満では補強効果が小さく、逆に100質量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性などの機械的物性が低下するようになる。本発明の熱可塑性樹脂組成物における繊維状強化材の好ましい含有量は熱可塑性樹脂100質量部に対して10〜70質量部、特に15〜50質量部である。
【0242】
(光学機能調整材)
光学機能調整材は、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の遮光性、白度、光線反射特性などの向上に機能するものであり、具体的には酸化チタンが用いられる。
【0243】
本発明に用いられる酸化チタンの製造方法、結晶形態及び平均粒径などは、特に限定されるものではないが、好ましくは以下の通りである。
【0244】
酸化チタンの製造方法には、硫酸法及び塩素法があるが、硫酸法で製造された酸化チタンは、これを添加した組成物の白度が劣る傾向があるため、光学機能調整材の配合目的を効果的に達成するには、塩素法で製造されたものが好適である。
【0245】
また、酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、耐光性の観点からルチル型の結晶形態のものが好適である。
【0246】
酸化チタンの平均粒径は、通常0.1〜0.7μm、好ましくは0.1〜0.4μmである。酸化チタンの平均粒径が0.1μm未満では、得られる成形体の光線遮蔽性に劣り、0.7μmを超える場合は、成形体表面に肌荒れを起こしたり、成形品の機械的強度が低下したりする。ここで、酸化チタンの平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって計測観察された1次粒径の平均値である。
なお、本発明においては平均粒径の異なる酸化チタンを2種類以上混合して使用してもよい。
【0247】
本発明で用いる酸化チタンは表面処理されたものであってもよい。
この場合において用いられる表面処理剤としては、オルガノシロキサン系表面処理剤が挙げられるが、オルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理するに先立ち、アルミナ系表面処理剤、或いはアルミナ系表面処理剤と共に珪酸系表面処理剤で前処理することが好ましい。アルミナ系表面処理剤、更に必要に応じて珪酸系表面処理剤を併用して前処理された酸化チタンは、更にその表面をオルガノシロキサン系表面処理剤で表面処理することによって、熱安定性を大幅に改善することが出来る他、熱可塑性樹脂組成物中での均一分散性及び分散状態の安定性を向上させることができ、好ましい。
【0248】
ここでアルミナ系表面処理剤としてはアルミナ水和物が好適に用いられる。珪酸系表面処理剤としては珪酸水和物が好適に用いられる。前処理の方法は特に限定されるものではなく、任意の方法によることが出来る。アルミナ水和物等のアルミナ系表面処理剤、更に必要に応じて珪酸水和物等の珪酸系表面処理剤による前処理は、酸化チタンに対して1〜15質量%の範囲で行なうのが好ましい。即ち、アルミナ系表面処理剤のみで前処理を行う場合には、酸化チタン系添加剤に対して、アルミナ系表面処理剤を1〜15質量%用いて行うのが好ましく、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤を併用する場合には、これらの合計が酸化チタン系添加剤に対して1〜15質量%となるように用いて行なうのが好ましい。なお、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤を併用する場合、その使用割合は、アルミナ系表面処理剤と珪酸系表面処理剤の和に対して、珪酸系表面処理剤が35〜90質量%程度となるような量とすることが好ましい。
【0249】
一方、オルガノシロキサン系表面処理剤としては、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン化合物が好ましく用いられる。
【0250】
酸化チタンのオルガノシロキサン系表面処理剤による表面処理法には、湿式法と乾式法とがある。
湿式法は、オルガノシロキサン系表面処理剤と溶媒との混合液に、前処理された酸化チタンを加え、撹拌した後に脱溶媒を行い、更にその後100〜300℃で熱処理する方法である。乾式法は、前処理された酸化チタンとオルガノシロキサン系表面処理剤とをヘンシェルミキサーなどで混合する方法、前処理された酸化チタンにオルガノシロキサン系表面処理剤の有機溶媒を噴霧して付着させ、100〜300℃で熱処理する方法などが挙げられる。
【0251】
前処理された酸化チタン系添加剤のオルガノシロキサン系表面処理剤による表面処理の程度は、特に制限されるものではないが、酸化チタンの反射性、得られる樹脂組成物の成形性などを勘案すると、酸化チタンに対しするオルガノシロキサン系表面処理剤量として通常1〜5質量%の範囲である。
【0252】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、光学機能調整材として酸化チタンを用いる場合、その配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、3〜30質量部の範囲である。酸化チタンの配合量が3質量部未満の場合は、得られる成形体の遮光性及び反射特性が不十分となり、30質量部を超える場合は耐衝撃性が不十分となる。酸化チタンの好ましい配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、3〜25質量部、更に好ましくは5〜20質量部である。なお、ここで酸化チタンの質量は、酸化チタンを表面処理したアルミナ系、珪酸系、オルガノシロキサン系の表面処理剤も含めた質量を意味する。
【0253】
[7.熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、熱可塑性樹脂、フルオロポリマー、フルオロポリマー分散剤であるポリカルボシラン化合物、及び必要に応じて配合される難燃剤、その他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0254】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することもできる。
【0255】
また、例えば、一部の成分を予め混合して押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することもできる。
【0256】
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0257】
[8.熱可塑性樹脂成形体]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して熱可塑性樹脂成形体として用いることができる。この成形体の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形体の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0258】
成形体の例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品や、自動車、電機・電子、その他精密機器分野における、近赤外レーザー溶着用部材、顔向き検知装置、レインセンサー等の各種自動車用センサー機器や、顔認証装置、指紋認証装置、静脈認証装置等の各種セキュリティー装置、リモコン、赤外線通信機器等の各種情報・通信機器等に代表されるセンサー機器部材などが挙げられる。
【0259】
成形体の製造方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)法、インサート成形法、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0260】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂本来の優れた性質を損なうことなく、フルオロポリマーの配合で熱可塑性樹脂の溶融特性や、摺動性、耐擦傷性、撥水性、撥油性、耐汚性、耐指紋性等の表面特性、更には難燃性が改良されたものであり、実用的な成形体として幅広い分野に用いることが可能である。
【実施例】
【0261】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0262】
[実施例1〜18、比較例1〜3]
<樹脂ペレットの製造>
後述する表2a,2bに記した各成分を、表3,4に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度290℃の条件で混練した。その後、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0263】
<試験片の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で射出成形し、平板状試験片(90mm×50mm×1mm厚)を成形した。
また、同様に上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.2mmのUL試験用試験片を成形した。
【0264】
<近赤外透過率評価>
上述の平板状試験片(1mm厚)を試験片とし、島津製作所(株)製の分光光線透過率測定装置「UV−3100」を用いて800nm〜1500nmの近赤外領域の光線透過率(近赤外透過率)を測定した。結果を表3,4に示す。
【0265】
<難燃性評価>
上述のUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して難燃性の評価を行なった。
UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表1に示す基準を満たすことが必要となる。
【0266】
【表1】

【0267】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
結果を表3,4に示す。
【0268】
【表2a】

【0269】
【表2b】

【0270】
【表3】

【0271】
【表4】

【0272】
以上の結果より、フルオロポリマー分散剤としてポリカルボシラン化合物を配合することにより、近赤外透過率、及び難燃性を向上させることができることが分かる。
【0273】
[実施例19,20、比較例4,5]
<樹脂ペレットの製造>
前述の表2a,2bに記した各成分を、表5,6に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度290℃の条件で混練した。その後、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0274】
<流動性評価>
・MVR(メルトボリュームレイト)
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、ISO1133に準拠して、測定温度300℃、測定荷重1.2kgf(11.8N)の条件で測定し、結果を表5に示した。
【0275】
・Q値
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、JIS K7210 付属書Cに記載の方法にて高荷式フローテスターを用いて、280℃、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:×10−2cm/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が高いほど、流動性に優れていることを示す。結果を表6に示す。
【0276】
<試験片の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、繊維状強化材を含まない場合はシリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で、繊維状強化材を含む場合はシリンダー温度300℃、金型温度110℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mmで、厚さ1.58mm又は1.2mmのUL試験用試験片を成形した。
また、上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で射出成形し、平板状試験片(90mm×50mm×1−2−3mmの3段厚み)を成形した。
また、同様に上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製のサイキャップM−2、型締め力75Tを用いて、繊維状強化材を含まない場合はシリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル45秒の条件で、繊維状強化材を含む場合はシリンダー温度300℃、金型温度110℃、成形サイクル45秒の条件で射出成形し、ISO多目的試験片(4mm)とISO多目的試験片(3mm)を成形した。
【0277】
<難燃性評価>
上述のUL試験用試験片を用い、実施例1におけると同様にUL試験を行い、同様に評価を行った。
結果を表5,6に示す。
【0278】
<反射率評価>
上述の平板状試験片(1−2−3mmの3段厚み)を試験片とし、厚み3mm部分を用いて反射率を測定した。測定はコニカミノルタ社製分光測色計CM3600dを用い、D65/10度視野、SCI通常測定モードにて行い、波長440nmでの反射率の値で評価した。結果を表6に示す。
【0279】
<耐熱性評価>
ISO多目的試験片(4mm)を用い、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重1.80MPaの条件で荷重たわみ温度を測定した。結果を表5,6に示す。なお、表5,6中、「DTUL」と表記する。
【0280】
<曲げ特性評価>
ISO多目的試験片(4mm)を用い、ISO178に準拠し、23℃の条件で曲げ応力及び曲げ弾性率を測定した。結果を表5,6に示す。
【0281】
<耐衝撃性評価>
ISO多目的試験片(3mm)を用い、ISO179に準拠し、23℃の条件で、ノッチ有りシャルピー耐衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。結果を表5,6に示す。
【0282】
【表5】

【0283】
【表6】

【0284】
表5より、繊維状強化材の配合で曲げ特性が改善されることが分かる。
表6より、酸化チタンの配合で反射率が高められることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0285】
本発明は産業上の幅広い分野に利用することが可能であり、例えば、電気電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器、更には、自動車、電機・電子、その他精密機器分野における、近赤外レーザー溶着用部材、顔向き検知装置、レインセンサー等の各種自動車用センサー機器や、顔認証装置、指紋認証装置、静脈認証装置等の各種セキュリティー装置、リモコン、赤外線通信機器等の各種情報・通信機器等に代表されるセンサー機器部材などの分野に用いて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、フルオロポリマーと、フルオロポリマー分散剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該フルオロポリマー分散剤がポリカルボシラン化合物よりなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカルボシラン化合物が、下記式(1)〜(3)で表される構造単位のうちの少なくとも1種の構造単位と炭化水素残基とからなる主鎖構造を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式(1)〜(3)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、一価炭化水素基、水素原子、又はシリル基を表し、a、b、cは、それぞれ独立に、0又は1を表す。主鎖構造中に含まれる複数のR、R及びRは、それぞれ同一であっても異なるものであってもよい。)
【請求項3】
前記炭化水素残基が、二価炭化水素基であることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカルボシラン化合物が、下記式(4)で表される繰り返し単位を有する、数平均分子量100〜20000のポリカルボシラン化合物であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

(式(4)中、R、R、a、b、は前記式(1)におけると同義であり、Aは、炭素数1〜12の二価炭化水素基を表し、p、qは、それぞれ独立に、1〜8の整数を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記ポリカルボシラン化合物が、下記式(5)で表される繰り返し単位を有する、数平均分子量100〜20000のポリカルボシラン化合物であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化3】

(式(5)中、R、Rは前記式(4)におけると同義であり、Aは炭素数1〜12のアルキレン基を表す。R、R及びAは、それぞれ全ての繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記ポリカルボシラン化合物が、下記式(6)で表される繰り返し単位を有する、数平均分子量100〜20000のポリカルボシラン化合物であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化4】

【請求項7】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、フルオロポリマー0.001〜3質量部とフルオロポリマー分散剤0.005〜10質量部とを含有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記フルオロポリマーが、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィンポリマーであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
さらに難燃剤を含有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記難燃剤を、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜30質量部含有することを特徴とする請求項9に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記難燃剤が、金属塩化合物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
該金属塩化合物が、有機スルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
該有機スルホン酸のアルカリ金属塩が、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、及び芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
該含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩が、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項13に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−270296(P2010−270296A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2166(P2010−2166)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【特許番号】特許第4582257号(P4582257)
【特許公報発行日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】